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特開2023-173264LiDAR用の光学的カバー部品、LiDAR装置および光学的カバー部品の製造方法
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  • 特開-LiDAR用の光学的カバー部品、LiDAR装置および光学的カバー部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173264
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】LiDAR用の光学的カバー部品、LiDAR装置および光学的カバー部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20231130BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G02B1/115
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085402
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】持田 光範
(72)【発明者】
【氏名】鷺坂 功一
【テーマコード(参考)】
2K009
5J084
【Fターム(参考)】
2K009AA05
2K009BB24
2K009CC03
2K009DD03
2K009DD04
5J084AA05
5J084AA10
5J084AC02
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA48
5J084BB04
5J084BB26
5J084BB28
5J084BB40
5J084CA03
5J084CA08
5J084EA22
(57)【要約】
【課題】高入射角でも高い透過率を示す、多層反射防止膜を有する光学的カバー部品を提供する。
【解決手段】近赤外線レーザ光を透過する部品であるLiDARのための光学的カバー部品であって、基材(A)上に、高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との少なくとも2層を含む近赤外線用反射防止膜を有する光学的カバー部品において、カバー部品面において、レーザ光入射角θ=45~60°となるいずれかの位置におけるλ(Tmax)が、カバー部品面の中央のθ=0°となる位置におけるλ(Tmax)のk倍となることを特徴とする光学的カバー部品。
[上記のλ(Tmax),kの定義]
λ(Tmax):入射角ゼロである垂直入射光の透過率スペクトルにおいて、近赤外線の800~1600nmの範囲にて極大透過率となる波長
k=1.02~(1+0.13×tanθ)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線レーザ光を透過する部品であるLiDARのための光学的カバー部品であって、
基材(A)上に、高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との少なくとも2層を含む近赤外線用反射防止膜を有する光学的カバー部品において、
カバー部品面において、レーザ光入射角θ=45~60°となるいずれかの位置におけるλ(Tmax)が、カバー部品面の中央のθ=0°となる位置におけるλ(Tmax)のk倍となることを特徴とする光学的カバー部品。
[上記のλ(Tmax),kの定義]
λ(Tmax):入射角ゼロである垂直入射光の透過率スペクトルにおいて、近赤外線の800~1600nmの範囲にて極大透過率となる波長
k=1.02~(1+0.13×tanθ)
【請求項2】
前記近赤外線用反射防止膜が前記高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との2層からなる請求項1に記載の光学的カバー部品。
【請求項3】
前記基材(A)の材料の種類が、ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載の光学的カバー部品。
【請求項4】
前記高屈折率層(B)が酸化ニオブよりなる請求項1に記載の光学的カバー部品。
【請求項5】
前記低屈折率層(C)が酸化ケイ素よりなる請求項1に記載の光学的カバー部品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項の光学的カバー部品を備えたLiDAR装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項の光学的カバー部品を製造する方法であって、
前記カバー部品面において、レーザ光入射角θ=45~60°となるいずれかの位置における反射防止膜の膜厚が、θ=0°となる位置における反射防止膜の膜厚のk倍となるように、膜厚補正板を配置して、前記近赤外線用反射防止膜を形成する光学的カバー部品の製造方法。
【請求項8】
真空蒸着、真空スパッタリング成膜又はRFプラズマCVD法により前記近赤外線用反射防止膜を形成する請求項7の光学的カバー部品の製造方法。
【請求項9】
前記膜厚補正板を、真空蒸着時には蒸着材料を配置する蒸着源と前記基材(A)との間に、真空スパッタリング成膜時にはスパッタリングターゲットと前記基材(A)との間に、RFプラズマCVD時には電極と前記基材(A)との間に配置する請求項8の光学的カバー部品の製造方法。
【請求項10】
前記基材(A)は、長辺と短辺とを有する形状を有しており、
前記膜厚補正板は、細長い板状又は棒状であり、
該膜厚補正板を、該基材(A)の長辺方向の中間付近において前記短辺と平行方向に配置する
請求項9の光学的カバー部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiDAR装置に利用される光学的カバー部品と、この光学的カバー部品を備えたLiDAR装置と、光学的カバー部品の製造方法に関する。
【0002】
LiDAR装置に利用される光学的カバー部品は、「光学窓」、「近赤外線センサーカバー」などと称されることもある。本発明の光学的カバー部品とは、特定の近赤外線波長が十分に透過する機能を有し、大気中に含まれる水蒸気などの気体や埃などの異物から、LiDAR装置内に配置される近赤外線レーザ光の光源や検出器などの精密な光学部品を、保護(カバー)するための部品である。その形状や外観色に特徴をもたせることにより意匠性も備えることもできる。
【背景技術】
【0003】
LiDARについては、様々な文献や書籍において記載されているが、非特許文献1はその一例である。LiDAR(ライダ、ライダー)とは、レーザ光を用いて距離と方向を測定する方式、装置であり、「Light Detection And Ranging」または「Laser Imaging Detection And Ranging」の略称である。
【0004】
LiDARでは、近赤外線半導体レーザ(ダイオードレーザ,LD)などの光源から近赤外線レーザ光を照射し、対象物から戻ってきた反射光や散乱光をフォトダイオード(PD)などの光検出器により検出して距離測定する。
【0005】
距離測定方式としては、パルス状のレーザ光を照射した後に対象物からの反射光を検出するまでの時間差を計測するTOF(Time
of Flight)方式が一般的に用いられる。パルス状レーザ光ではなく、周波数を変えながら連続したレーザ光を照射(送信)し、送信波と反射波の周波数差から距離測定するFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式が用いられることもある。
【0006】
方向を測定するためには照射レーザ光を走査(スキャン)するスキャニング機構が必要である。スキャニング機構としては、ポリゴンミラー型、チルトミラー型、ヘッド回転型、MEMSミラー型、フラッシュ型、プリズム型などがある。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは半導体上に微小な機械要素と電気要素を集積したデバイスである。また、フェーズドアレイ型、導波路回折格子型、多層液晶型、スローライト型なども検討されている。
【0007】
光源レーザ光の波長は、例えば905nm、1310nm、1550nmなどである。
選定には「人体の眼に対する安全性」、「到達可能最大出力(パワー)」、「水(雨など)における光の吸収」、「光検出器における感度」などの違いが考慮される。
【0008】
このLiDARは自動車の高度自動運転に必要な技術方式、装置である。
【0009】
LiDAR装置は、特許文献1に開示されているように、光源である半導体レーザとスキャニング機構であるスキャン部(回転モータと偏向ミラーをも含む部分)と光検出器である受光素子APDアレイを有しており、「光学窓」を介して、レーザ光は偏向ミラーの回転により走査照射される。走査範囲の例として±60°と記載されている。
【0010】
半導体レーザから発したレーザ光は、通常拡がり角を有するためコリメータレンズ(特許文献1においては「発光レンズ」と記載、説明されている。)を通過することにより、拡がりの無い平行光(ビーム)として使用される。
【0011】
特許文献1の図面には、光源とスキャニング機構と光検出器の存在する側の「光学窓」の面が僅かに凹面であることが示されている。
【0012】
特許文献1には、「光学窓」の具体的な光学的要求性能や材質や形状に関する記載は見受けられない。
【0013】
特許文献2の光学的カバー部品(近赤外線センサーカバー)の基材は、近赤外線の透過性を有する透明(無色透明のほか、着色透明、有色透明も含む)な樹脂材料、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等によって形成されている。
【0014】
特許文献2では、光源、光検出器をそれぞれ含むと推測される送信部、受信部の存在するカバー内側面に反射抑制層(ARコート)が形成されている。
【0015】
特許文献2には、この反射抑制層として、「MgF(フッ化マグネシウム)等の誘電体」「TiO(二酸化チタン)、SiO(二酸化ケイ素)等の金属酸化物を積層したもの」が例示されている。
【0016】
特許文献2には、反射抑制層を有する近赤外線センサーカバーを近赤外線光が透過する場合における、近赤外線光の入射角とそれに伴う反射抑制層の効果に関する記載は見受けられない。
【0017】
反射防止膜については、様々な文献や書籍に記載されている。非特許文献2はその一例であり、以下を開示している。
【0018】
反射防止膜は、ガラスやプラスチック基板などの反射率を軽減し、透過率を増加させる。ガラス基板(屈折率n=1.52)の空気中(屈折率n=1)における反射率を低減させるために、単層反射防止膜を形成する場合、フッ化マグネシウムMgF(屈折率n=1.38)を光学膜厚nd=λ/4とすることが一つの方法である。dは物理膜厚であり、λは、反射率を低減しようとする光の波長(設計波長)である。λが可視光域の550nmである場合、d=100nm(=550nm/4/1.38)とすることにより、つまり、ガラス基板上に膜厚100nmのMgF膜を形成することにより、波長550nmの光の反射率が減少する。
【0019】
ガラス基板の表面にアルミナAl(屈折率n=1.62)を光学膜厚n=λ/4となるように形成し、その上に、フッ化マグネシウムMgFを光学膜厚n=λ/4となるように形成した2層反射防止膜(QQ型:Q:quarter)がある。設計波長λが550nmである場合、この2層反射防止膜の波長550nmにおける反射率は、上記単層反射防止膜の反射率よりも低い。しかしながら、このQQ型2層反射防止膜にあっては、波長が550nmから遠ざかるに従って増加する反射率の増加の程度は、単層反射防止膜よりも大きい。そのため、この2層反射防止膜は、反射防止波長の帯域が狭い。
【0020】
ガラス基板の表面にアルミナAlを光学膜厚n=λ/2となるように形成し、その上に、フッ化マグネシウムMgFを光学膜厚n=λ/4となるように形成した2層反射防止膜(HQ型:H:Harf)も知られている。設計波長λ=550nmである場合、この2層反射防止膜の波長550nmにおける反射率は、上記単層反射防止膜と同程度である。このHQ型2層反射防止膜にあっては、波長が550nmから遠ざかるに従い反射率は一度減少してから増加する分光特性(スペクトル)を示すので、QQ型2層反射防止膜よりも、反射防止波長の帯域が広い。
【0021】
以上の内容が非特許文献2に記載されている。多層反射防止膜の材料を変えたり、それぞれの膜厚を調整したり、さらには膜の層数を増やすことなどにより、様々な反射防止特性を得ることが可能であることも知られている。
【0022】
上記のガラス基板は基板の一例であり、フッ化マグネシウムMgFは低屈折率材料の一例であり、アルミナAlは高屈折率材料の一例である。
【0023】
LiDAR装置において、光源から発したレーザ光は、光学的カバー部品を透過し対象物に反射され、再び逆方向に光学的カバー部品を透過し、最終的に光検出器に至るため、光学的カバー部品を2回透過する。LiDAR装置は、遠くの物体を正確に検出するために、光検出器に戻る光量を多くする必要がある。このためLiDAR用光学的カバー部品は、レーザ光の波長の光線透過率が高いことが求められる。
【0024】
上述の通り、光学的カバー部品の光線透過率を高くするために、基材の表面に反射防止(AR)膜を形成することが知られている。
【0025】
光学的カバー部品が平板形状の場合、光源から発したレーザ光が、スキャニング機構により+60°~-60°の方向に走査(走査範囲120°に相当)されると、レーザ光は入射角0~60°のいずれかの角度で入射することになる。
【0026】
無偏光(ランダム光)の場合、入射角が所定値よりも大きくなると(特に45°以上になると)、入射角の増加に伴い、反射率は増加し透過率は減少する。
S偏光の場合、入射角0°の垂直入射における反射率は無偏光と同じであるが、入射角の増加に伴う反射率増加と透過率減少は、無偏向の場合よりも顕著である。特に多層反射防止膜は、入射角が小さい領域での透過率は高いが、入射角が大きい場合、特に45°以上では、入射角増加に伴う透過率の減少が顕著である。
【0027】
P偏光の場合は、入射角0°の垂直入射における反射率は無偏光と同じであるが、入射角の増加に伴い反射率は減少し、透過率は増加する。入射角がある角度(ブリュースター角)になると反射率はゼロとなる。入射角がさらに増加すると、それに伴い反射率は増加し、透過率は減少する。このブリュースター角θは、屈折率nとtanθ=nの関係にある。
【0028】
PC(ポリカーボネート樹脂)の屈折率は約1.58であり、そのブリュースター角は約58°である。PC基板の場合、P偏光の入射角が0°から58°まで増加する場合、入射角の増加に伴って、反射率は減少し透過率が増加する。そのため、スキャニング機構により+60°~-60°の範囲内で走査する場合、透過率は入射角0°の場合が最も低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2020-201151号公報
【特許文献2】特開2021-56313号公報
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】書名:自動運転のためのLiDAR技術の原理と活用法、著者:伊東敏夫、出版:科学情報出版株式会社、2020年4月30日初版発行、ISBN978-4-904774-89-2
【非特許文献2】書名:光学薄膜フィルターデザイン、著者:小槍山光信、出版:株式会社オプトロニクス社、平成18年10月7日第1版第1刷発行、ISBN4-902312-19-0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
特許文献1や特許文献2には、多層反射防止膜を有する光学的カバー部品における入射角増加に伴う透過率低下を防ぐことは記載されていない。
【0032】
本発明は、高入射角でも高い透過率を示す、多層反射防止膜を有する光学的カバー部品と、この光学的カバー部品を備えたLiDAR装置と、この光学的カバー部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記課題を解決するために、本発明は、次を要旨とする。
【0034】
[1] 近赤外線レーザ光を透過する部品であるLiDARのための光学的カバー部品であって、
基材(A)上に、高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との少なくとも2層を含む近赤外線用反射防止膜を有する光学的カバー部品において、
カバー部品面において、レーザ光入射角θ=45~60°となるいずれかの位置におけるλ(Tmax)が、カバー部品面の中央のθ=0°となる位置におけるλ(Tmax)のk倍となることを特徴とする光学的カバー部品。
[上記のλ(Tmax),kの定義]
λ(Tmax):入射角ゼロである垂直入射光の透過率スペクトルにおいて、近赤外線の800~1600nmの範囲にて極大透過率となる波長
k=1.02~(1+0.13×tanθ)
【0035】
[2] 前記近赤外線用反射防止膜が前記高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との2層からなる[1]に記載の光学的カバー部品。
【0036】
[3] 前記基材(A)の材料の種類が、ポリカーボネート樹脂である[1]又は[2]に記載の光学的カバー部品。
【0037】
[4] 前記高屈折率層(B)が酸化ニオブよりなる[1]~[3]のいずれかに記載の光学的カバー部品。
【0038】
[5] 前記低屈折率層(C)が酸化ケイ素よりなる[1]~[4]のいずれかに記載の光学的カバー部品。
【0039】
[6] [1]ないし[5]のいずれかの光学的カバー部品を備えたLiDAR装置。
【0040】
[7] [1]ないし[5]のいずれかの光学的カバー部品を製造する方法であって、
前記カバー部品面において、レーザ光入射角θ=45~60°となるいずれかの位置における反射防止膜の膜厚が、θ=0°となる位置における反射防止膜の膜厚のk倍となるように、膜厚補正板を配置して、前記近赤外線用反射防止膜を形成する光学的カバー部品の製造方法。
【0041】
[8] 真空蒸着、真空スパッタリング成膜又はRFプラズマCVD法により前記近赤外線用反射防止膜を形成する[7]の光学的カバー部品の製造方法。
【0042】
[9] 前記膜厚補正板を、真空蒸着時には蒸着材料を配置する蒸着源と前記基材(A)との間に、真空スパッタリング成膜時にはスパッタリングターゲットと前記基材(A)との間に、RFプラズマCVD時には電極と前記基材(A)との間に配置する[7]又は[8]の光学的カバー部品の製造方法。
【0043】
[10] 前記基材(A)は、長辺と短辺とを有する形状を有しており、
前記膜厚補正板は、細長い板状又は棒状であり、
該膜厚補正板を、該基材(A)の長辺方向の中間付近において前記短辺と平行方向に配置する
[7]~[9]のいずれかの光学的カバー部品の製造方法。
【0044】
本発明における「カバー部品面の中央」とは、レーザ光がスキャニング走査されたときに入射角θ=0°となる位置を意味し、必ずしもカバー部品の外形から見たときの面内の重心点である中心位置と同じであるとは限らない。
【発明の効果】
【0045】
本発明の光学的カバー部品は、基材と、基材上の高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも2層を含む近赤外線用反射防止膜とを有する。本発明では、レーザ光入射角θが45~60°の範囲における反射防止膜の膜厚が(高屈折率層と低屈折率層のそれぞれの光学膜厚が一律に)、θ=0°であるレーザ光垂直入射位置の膜厚(各層の光学膜厚)のk倍となっている。これにより、本発明の光学的カバー部品は、膜厚が均一な反射防止膜を有する従来の光学的カバー部品と比較して、入射角45~60°の範囲における近赤外線レーザ光透過率が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の光学的カバー部品を説明するための模式的な断面図である。
図2】本発明の光学的カバー部品を備えたLiDAR装置の一例を示す模式図である。
図3】本発明の光学的カバー部品を備えたLiDAR装置の一例を示す模式図である。
図4】実施例1及び比較例1の透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
[光学的カバー部品の構成]
本発明のLiDAR装置用光学的カバー部品は、図1のように、少なくとも基材(A)、高屈折率層(B)、低屈折率層(C)を有する。反射防止膜は、高屈折率層(B)と低屈折率層(C)との2層反射防止膜であってもよく、これらを交互に積層して多層化した多層反射防止膜であってもよい。2層反射防止膜の場合、基材(A)の上に高屈折率層(B)、その上に低屈折率層(C)の順とする必要がある。なお、これらに加えて、下地層、接着層、透明導電層、耐候層、ハードコート層、保護層、防汚層などの1または2種以上を含んでもよい。
【0048】
本発明では、光学的カバー部品の内側面(光源側の面)のうち、入射角θ=0°となる位置Pにおける反射防止膜の膜厚をtとした場合、入射角θ=45°とθ=60°との間の高入射角領域における反射防止膜の膜厚をtのk倍とする。
【0049】
θ=0°とθ=45°との間の膜厚は、tと同一でもよく、tとk・tとの間の膜厚であってもよい。位置Pからθ=45°の位置に向って徐々に膜厚が増大してもよい。好ましくは、θ=45°の位置の近傍においては、θ=45°の位置に向って膜厚が徐々に増大し、θ=45°の位置では膜厚がtのk倍となっている。
【0050】
θ=45°の位置とθ=60°の位置との間の高入射角領域では、全体として、反射防止膜厚がtのk倍となっている。この高入射角領域では、反射防止膜厚は均一であってもよく、θ=45°側からθ=60°側に向って徐々に増加してもよい。
【0051】
高屈折率層(B)の膜厚tと、低屈折率層(C)の膜厚tとの比t/tは、反射防止膜全体においてほぼ一定であることが好ましい。3層以上の多層反射防止膜の場合、膜厚tは高屈折率層(B)の総膜厚、膜厚tは低屈折率層(C)の総膜厚を意味する。
【0052】
反射防止膜は、基材(A)のいずれか一方の面にのみ設けられてもよく、双方の面に設けられてもよい。双方の面に反射防止膜を設けた方が、一方の面にのみ反射防止膜を設けた場合よりもレーザ光の透過率を高くすることができる。
【0053】
本発明の光学カバー部品において、基材(A)にPC樹脂基板を用いた場合、垂直入射光の透過率は、反射防止膜無しのPC樹脂基板では約90%であるのに対して、片面のみ反射防止膜形成した場合約95%、両面の場合100%弱とすることができる。
【0054】
[基材(A)]
<基材(A)の材質>
基材(A)の材料としては、樹脂、ガラス、セラミックが挙げられるが、樹脂特に合成樹脂が好ましい。合成樹脂製の基材は、金型を用いた射出成形により、任意の形状や大きさに成形することができる。また、ガラスを用いる場合と比較して密度が小さいために装置の軽量化もできる。樹脂は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂に大別されるが、熱可塑性樹脂が安価に成形できるので望ましい。
【0055】
代表的な熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA,アクリル)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。
【0056】
上記以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルニトリル、芳香族ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体など)も好適である。なお、熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0057】
これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。混合物としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとのブレンド物、ポリフェニレンエーテルとポリアミドとのブレンド物、ポリフェニレンエーテルとポリブチレンテレフタレートとのブレンド物などが挙げられる。
【0058】
ポリカーボネート(PC)としては、ビスフェノールAを主原料とする一般的な芳香族ポリカーボネートに限定されず、例えば、他の原料を主原料とする芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族脂肪族ポリカーボネートを用いることもできる。例えばジオール成分として、イソソルバイトなどのエーテルジオールが主成分であるポリカーボネートなども包含する。
【0059】
熱可塑性樹脂としては、PC、PMMA、ABS、PS、PPが安価であるので望ましく、耐熱性等の点でPCがより望ましい。
【0060】
熱可塑性樹脂として、PMMA、又は鉛筆硬度がF以上の高硬度PCを使用すると、光学的カバー部品表面の耐擦傷性が向上する。
【0061】
熱可塑性樹脂として、耐熱ABS、ポリアリレート、PEI、COP、COCなどを使用すると、光学的カバー部品の耐熱性が向上する。
【0062】
<基材(A)の厚さ>
基材(A)の厚さは、好ましくは0.5~10mm、特に0.7~5mmである。厚さが0.5mm以上であれば、強度・剛性を得ることができ形状が安定し、透過するレーザ光の光路も安定する。厚さが10mm以下であれば、基材におけるレーザ光の吸収を抑制でき、透過率を保つことができる。加えて、基材(A)の重量及び材料コストを低減することができる。
【0063】
<基材(A)の形状>
基材(A)は、平らな板状であってもよく、少なくとも一部が湾曲していてもよい。レーザ光透過走査領域であっても、湾曲していてもよい。後述の図2のLiDAR装置は、平板状の基材を備え、図3のLiDAR装置は、全体として湾曲した基材を備えている。
【0064】
以下、光源、スキャニング機構、光検出器の存在する側の光学的カバー部品の面を内側面、逆側の面の距離測定対象物の存在することになる側の面を外側面と称することとする。本発明では、光学膜厚の内側面が凹面となっていることが好ましい。内側面が凹面である基材は、レーザ光走査時における入射角を小さくできるために、透過率減少が抑制される。
【0065】
基材は、内側面が凹面であり、外側面が平面又は凸面であってもよい。基材は、単調変化する肉厚差が存在してもよい。
【0066】
<基材(A)の透過率>
基材(A)は、少なくともレーザ光透過走査領域において、近赤外線光の高い透過率を有する。この透過率とは、垂直入射透過率である。
【0067】
近赤外線光としては、波長が800~1110nm、1210~1340nm、1510~1570nm、特に880~1100nm、1220~1320nmのレーザ光が好ましい。基材(A)がPC樹脂である場合、これらの波長域の光線吸収が小さく透過率が高いためである。基材(A)の該近赤外線光の垂直入射透過率は80%以上が好ましく、より望ましくは88%以上であり、さらに望ましくは90%以上である。
【0068】
基材(A)の可視光線の透過率は必ずしも高い必要はない。光学的カバー部品の外側から光源、スキャン機構、光検出器を目立たなくするという意匠性の観点と、光検出器への外光からのノイズ光抑制の観点から、基材(A)の可視光線透過率は低いことが好ましい。具体的には、波長λ=390~660nmの範囲において最大透過率は40%以下が好ましく、より望ましくは10%以下であり、さらに望ましくは2%以下である。さらに望ましくは波長λ=390~700nmの範囲において最大透過率が2%以下である。
【0069】
このように可視光透過率が低く、且つ、近赤外線透過率が高い基材を用いた場合には、基材に対し、可視光減衰または遮断のための機能を付与することが不要となる。
【0070】
可視光を遮断して近赤外線のみを透過させるために、基材(A)を構成する合成樹脂に色素を含有させたり、色素含有フィルムを基材に貼り合わせたりしても良い。具体的な色素としては、クアテリレン系染料、アントラキノン系染料、縮合多環系染料、フタロシアニン系染料などが挙げられる。また、これらのうち最大吸収波長が異なる染料を2種以上含有してもよい。
【0071】
基材(A)は、全体が上記の光透過性材料で構成されてもよい。また、基材(A)は、レーザ光透過走査領域が上記の光透過性材料で構成され、それ以外の領域、例えば基材の周縁部は他の材料で構成されてもよい。
【0072】
<基材(A)の色>
基材(A)の色は、意匠性とノイズ光抑制のため点から、黒が好ましいが、他のデザインや意匠性の点から、LiDARとしての性能に悪影響の無い範囲であれば、黒以外の色で着色されていても差支えない。
【0073】
<基材(A)の表面粗さRa>
基材(A)のレーザ光透過走査領域における表面粗さRaは、レーザ光を乱反射させることなく、レーザ光の波長の透過率を減衰させないために、30nm以下であることが望ましく、さらに望ましくは10nm以下である。
【0074】
[高屈折率層(B)]
高屈折率層(B)は、好ましくは、波長λ=500nmにおける屈折率が2.0~2.4程度の誘電体層である。
【0075】
<高屈折率層(B)の材料>
高屈折率層(B)の材料としては、酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)が好ましく、特に酸化ニオブが好ましい。これらの酸化物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
高屈折率層(B)としての光学的機能を有し反射防止膜としての機能を有する範囲において、酸素含有量はストイキオメトリ(化学量論的組成)に合致せずに多少過剰であっても欠損していても差支えない。
【0077】
<高屈折率層(B)の形成方法>
高屈折率層(B)の形成方法としては、真空蒸着、真空スパッタリング成膜などが挙げられる。真空スパッタリング成膜においては、金属ターゲットをDCスパッタ法で少なくとも酸素を含む反応ガスを加えて成膜する方法と、酸化物ターゲットをRFスパッタ法またはDCスパッタ法で成膜する方法が知られている。
【0078】
成膜レートが高く、均質な膜を形成することが可能で、膜厚のコントロールがしやすい点において、導電性のある酸素欠損酸化ニオブターゲットNb5-δを用いたDCスパッタリング成膜が望ましい。
【0079】
[低屈折率層(C)]
低屈折率層(C)は、好ましくは、波長λ=500nmにおける屈折率が1.4~1.5程度の誘電体層である。
【0080】
<低屈折率層(C)の材料>
低屈折率層(C)の材料としては、酸化ケイ素が挙げられる。本発明において、酸化ケイ素とは、二酸化ケイ素(SiO)及び炭素含有酸化ケイ素(SiO:H)のいずれであってもよい。xは好ましくは1.2~2.4特に1.8~2.2、yは好ましくは0~3特に0~2である。いずれも、低屈折率層(C)としての光学的機能を有し反射防止膜としての機能を有する範囲において、酸素含有量や炭素含有量は限定されない。
【0081】
なお、一酸化ケイ素(SiO)は屈折率が1.9~2.0程度と高いために、酸素含有量が少なくなりすぎないように注意が必要である。
【0082】
<低屈折率層(C)の形成方法>
低屈折率層(C)の形成方法としては、真空蒸着、真空スパッタリング成膜、CVD(Chemical Vapor Deposition,化学気相成長)などが挙げられる。
【0083】
中でも、低屈折率層(C)の形成方法としては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)原料ガスを用いたRFプラズマCVD重合成膜が好ましい。成膜パラメータである真空度、HMDSOガス流量、PFパワー、成膜時間(RFパワー印加時間)を一定にすることにより、再現性の良い光学膜厚nd(=屈折率×物理膜厚)を有する低屈折率層(C)が形成される。
【0084】
HMDSOは化学式C18OSiにて表される。HMDSOを用いたRFプラズマCVD重合成膜によると、二酸化ケイ素と屈折率の近い炭素含有酸化ケイ素(SiO:H)層が形成される。
【0085】
原料ガスとしてHMDSOガスのみを用いて形成された膜の表面は疎水性となる。この膜が反射防止膜の最表層を構成すると、反射防止膜の防汚性が良好となる。
【0086】
HMDSOを用いたRFプラズマCVD重合成膜を行う場合、原料ガスのHMDSOガスと同流量程度までの酸素ガスを加えて重合しても構わない。
【0087】
HMDSOガス流量に対する酸素ガス流量比の増加に従い、組成は二酸化ケイ素(SiO)に近い酸化ケイ素となる。酸素ガス流量比が例えばHMDSOガスの3倍以上となると、低屈折率層(C)の表面を親水性(水接触角90°以下)とすることもできる。酸素ガスの増加に従い、HMDSO起因の疎水性を発現させるメチル基(-CH)が分解し生じた炭素(C)が、酸素(O)と結合し、二酸化炭素(CO)となりメチル基が減少し、親水性を示す二酸化ケイ素(SiO)の成分が増加するためと考えられる。
【0088】
この成膜方法は、プラズマを用いるので、プラズマ処理効果による、膜密着性向上の効果も期待される。
【0089】
[高屈折率層(B)と低屈折率層(C)の厚さ]
高屈折率層(B)と低屈折率層(C)のそれぞれの厚さ(膜厚)は、反射率を低減させる波長、つまり透過率向上させる波長またはその波長域と中心波長を鑑み、適切に設計・調整し設定される。一般的に、膜厚が大きいと、成膜時間や費用がかかるだけでなく、密着性に劣ることがある。
【0090】
膜厚は、成膜時間などの成膜条件を制御することにより調整される。
【0091】
<反射防止膜の設計例>
反射防止膜の設計の一例として、2層反射防止膜(HQ型:H:Harf,Q:quarter)、すなわち、基板である基材(A)の直上に高屈折率層(B)の光学膜厚をλ/2とし、その上に低屈折率層(C)の光学膜厚をλ/4とする場合、そして、反射率低減する波長(設計波長)λ=1000nmの近赤外線光とする場合について説明する。
【0092】
高屈折率層(B)を酸化ニオブとし、その屈折率n=2.32とすると、光学膜厚nd=1000nm/2=500nmの設計のため、高屈折率層(B)の物理膜厚d=500nm/2.32=215.5nm程度となる。
【0093】
低屈折率層(C)を二酸化ケイ素とし、その屈折率n=1.46とすると、光学膜厚nd=1000nm/4=250nmの設計のため、低屈折率層(C)の物理膜厚d=250nm/1.46=171.2nm程度となる。
【0094】
厳密には屈折率は波長に依存し、一般的には波長が長いほど屈折率は低い傾向があるが、ここでは便宜上一般的な値を用いて物理膜厚dを計算している。
【0095】
光学特性を決める重要なパラメータは光学膜厚ndであり、屈折率nと物理膜厚dの正確な値が不明であっても、光学膜厚ndが明確であれば、光学膜である反射防止膜の設計や膜厚はじめとする成膜時のパラメータ調整による光学特性の調整が可能となる。
【0096】
<反射防止膜の調整例>
具体的な調整の一例として上記設計条件を踏襲し、以下に説明する。
【0097】
まず、基材(A)としてPC樹脂基板を複数枚用意する。このPC樹脂は、屈折率n=1.46程度であり、高屈折率層(B)の屈折率より低く、低屈折率層(C)の屈折率より高い。
【0098】
次に、少なくとも1枚のPC樹脂基板上に上記高屈折率層(B)の酸化ニオブを膜厚約215.5nmを目指し成膜する。
【0099】
この酸化ニオブが成膜されたPC樹脂基板の反射率スペクトルを測定すると、1000nm付近の波長において最も低反射(極小)となり、この1/2の波長である約500nmが高屈折率層(B)の光学膜厚ndに相当する。
【0100】
同様に、少なくとも1枚のPC樹脂基板上に上記低屈折率層(C)の二酸化ケイ素を膜厚約171.2nmを目指し成膜する。
【0101】
この二酸化ケイ素が成膜されたPC樹脂基板の反射率スペクトルを測定すると、1000nm付近の波長において最も低反射(極小)となり、この1/4の波長である約250nmが低屈折率層(C)の光学膜厚ndに相当する。
【0102】
いずれも厳密には、成膜品の反射率スペクトルから、未成膜PC樹脂基板の反射率スペクトルの反射率を差し引いた場合の差分の反射率スペクトルから、1000nm付近の波長において最も低反射(極小)となる波長を確認する方が正確である。
【0103】
このように、事前に各成膜条件(主に成膜時間など)と光学膜厚の関係を把握しておき、設計した所定の光学膜厚となるように反射防止膜として積層成膜することとなる。
【0104】
成膜時において、成膜時間と物理膜厚dが比例し、屈折率が一定である場合、成膜時間と光学膜厚ndが比例することとなるため、例えば、上記の調整をする場合において成膜時間を半分とすると、1000nm付近の半分の500nm付近の波長において最も低反射となる。
【0105】
このことを利用し、反射率低減する波長(設計波長)λ=500nmとして反射防止膜を設計し、事前に各成膜条件と光学膜厚の関係を把握、適正化した後に、各層の成膜時間を一律2倍とすることにより1000nm用の反射防止膜の成膜条件を導き出すことも可能となる。加えて、一律1.8倍すると900nm用、1.9倍すると950nm用となる。
【0106】
なお、導電性のある酸素欠損酸化ニオブターゲットNb5-δを用いたDCスパッタリング成膜の場合、ならびに、HMDSO原料ガスを用いたRFプラズマCVD重合成膜の場合、成膜時間による膜厚のコントロールが比較的しやすく望ましい。
【0107】
反射率スペクトル測定結果の精度を上げるためにもPC樹脂基板の表面粗さRaは低く鏡面である方が良い。
【0108】
また、無色透明のPC樹脂基板を用いると、反射率スペクトルにおける最も低反射(極小)となる波長から光学膜厚ndを導き出せるだけでなく、透過率スペクトルにおける最も高反射(極大)となる波長から光学膜厚ndを導き出すこともできる。
【0109】
以上、本発明における反射防止膜の設計や調整について、2層反射防止膜(HQ型)を一つの例とした説明であるが、本発明はこの2層反射防止膜(HQ型)に限定されるものではない。
【0110】
<2層反射防止膜の特徴>
一般的に適切な光学膜設計のもとで多層化して層数が増えると広帯域の波長にて反射率を低く(透過率を高く)することが可能であり、例えば高屈折率層と低屈折率層それぞれ2層ずつの4層構成により、可視光域用の反射防止膜の形成に利用される。多層化にはこのような光学特性上の長所はあるものの、高屈折率層の成膜と低屈折率層の成膜を繰り返すことになるために、成膜工程の切替に時間もかかり、総じて成膜工程時間が長くなる弊害があり、成膜の再現性も悪くなる。
【0111】
2層反射防止膜(HQ型)は、高屈折率層と低屈折率層それぞれ1層ずつの計2層のため、成膜工程切替も最低限であり、成膜工程時間を短くできる。LiDARのレーザ光の波長は波長帯域の極めて狭い単一波長である。そのため、本発明では、広帯域の多層反射防止膜とする必要はない。
【0112】
<2層反射防止膜の反射率のシミュレーション>
2層反射防止膜において、レーザ光波長λを最大限に透過するように(反射が最低となるように)、PC樹脂、酸化ニオブ、二酸化ケイ素をそれぞれ基材(A)、高屈折率層(B)、低屈折率層(C)とした2層反射防止膜において、高屈折率層(B)及び低屈折率層(C)の光学膜厚をパラメータとして、反射率スペクトルの光学シミュレーションにより適正化を試みることができる。
【0113】
2層反射防止膜(HQ型)においては、基材(A)表面の高屈折率層(B)の光学膜厚をλ/2とし、その上の低屈折率層(C)の光学膜厚をλ/4としているのに対し、高屈折率層(B)の光学膜厚をλ/2×(6/7)とし、低屈折率層(C)の光学膜厚をλ/4×(5/7)とすると、波長λにおける反射率をより小さくすることが可能であることが示される。
【0114】
このときの想定概算膜厚を設計波長λ=1000nmとして説明する。
【0115】
高屈折率層(B)を屈折率n=2.32の酸化ニオブとすると、光学膜厚nd=1000nm/2×(6/7)=500nm×(6/7)の設計のため、高屈折率層(B)の物理膜厚d=500nm/2.32×(6/7)=215.5nm×(6/7)=184.7nm程度と概算される。
【0116】
低屈折率層(C)を屈折率n=1.46の二酸化ケイ素とすると、光学膜厚nd=1000nm/4×(5/7)=250nm×(5/7)の設計のため、低屈折率層(C)の物理膜厚d=250nm/1.46×(5/7)=171.2nm×(5/7)=122.3nm程度と概算される。
【0117】
さらには、2層反射防止膜(HQ型)の場合の概算膜厚と比較して薄くすることもできる。
【0118】
つまり、単一波長のレーザ光を透過する部品である本発明においては、高屈折率層と低屈折率層の2層の反射防止膜であることが好ましい。
【0119】
この場合、反射防止機能を発現させるための目的の主な層としての2層を意味する。例えば、下地層、接着層、透明導電層、耐候層、ハードコート層、保護層、防汚層などを別の目的のために重ねて形成することは可能ではあるが、この2層の層数には含まないことを意味する。
【0120】
<反射防止膜密着性向上方法>
高屈折率層(B)と低屈折率層(C)により構成される反射防止膜を成膜するに際し、
膜の基材に対する密着性を向上させるためには、真空成膜する前に、予め下地層を形成しておく方法、プラズマ処理をしておく方法、その両方を施しておく方法が挙げられる。
【0121】
中でも、高屈折率層(B)または低屈折率層(C)を真空成膜する直前に、真空中においてプラズマ処理を施す方法は、同じ真空中にて工程を実施できる点で望ましい。プラズマ処理実施に、真空チャンバー内に導入し使用するガスとしてはアルゴン(Ar)ガスが望ましい。さらに望ましくは、アルゴン(Ar)とその流量の数%程度のHMDSOガスとの混合ガスである。
【0122】
このとき、HMDSOの構成元素であるケイ素(Si)と酸素(O)と炭素(C)が含まれる下地層が薄く形成されるために密着性が向上すると考えられるが、詳しいメカニズムは必ずしも明らかではない。密着性向上のための下地層の形成方法は、例えば特開2018-193581号公報、特許第6477221号に記載されている方法が使用できる。
【0123】
<反射防止膜の表面粗さ>
反射防止膜の表面粗さは、レーザ光を乱反射させることなく、レーザ光の波長の透過率を減衰させないためにも、30nm以下であることが望ましく、さらに望ましくは10nm以下である。
【0124】
<反射率・透過率の光学膜厚依存性>
反射防止膜は、レーザ光波長λを最大限に透過するように、つまりその波長における反射率が可能な限り低くなるように、使用する材料を選定した後には、それらの屈折率の値を用いながら、各光学膜厚を最適化することにより設計される。
【0125】
設計に基づき、反射防止膜を形成し、反射率スペクトルを測定するとλ付近の波長において最も低反射(極小)となる。
【0126】
反射率(R)が極小となる波長をλ(Rmin)としたとき、反射防止膜を構成する高屈折率層(B)と低屈折率層(C)の各光学膜厚をk倍にすると、このλ(Rmin)はk倍となる。
【0127】
例えば、目標とすべき波長に合わせ込むために各光学膜厚をk倍とするには、具体的には、物理膜厚をk倍とすればよく、そのためには真空成膜工程における成膜時間をk倍とする方法が単純でわかりやすく望ましい。このとき、屈折率が一定であること、選定した成膜プロセスにおいて成膜レートが一定であることが前提条件である。
【0128】
その他、成膜時間以外の条件である成膜パワー、ガス流量、成膜時の圧力を変更調整することにより膜厚を変更することは可能である。
【0129】
透過率スペクトルを測定すると、λ付近の波長において最も高透過(極大)となる。透過率(T)が極大となる波長をλ(Tmax)としたとき、反射防止膜を構成する高屈折率層と低屈折率層の各光学膜厚をk倍にすると、このλ(Tmax)はk倍となる。
【0130】
基材における光の吸収が無視できる場合、λ(Tmax)とλ(Rmin)は等しい。つまり、これらのλ(Tmax)とλ(Rmin)を例えばレーザ光波長λに合わせるために、k倍の値としたい場合は、各光学膜厚をk倍とすればよく、簡便な具体的な方法としては例えば真空成膜工程における各層の成膜時間を一律k倍とすればよい。
【0131】
<反射率・透過率の入射角依存性>
反射防止膜の有無に関わらず、またレーザ光に限らず、光の入射角が大きくなると、反射率は増加し透過率は減少する。とりわけ、入射角45°まで増加すると、この反射率増加透過率減少の挙動が確認され、入射角60°まで増加するとさらに顕著となる。
【0132】
反射防止膜が存在する場合は、この変化に加え、入射角60°における透過率スペクトルにおける透過率最大(極大)となる波長と入射角60°における反射率スペクトルにおいる反射率最小(極小)となる波長が短くなる。
【0133】
そのため、入射角0°の垂直入射における透過率最大(極大)となる波長λ(Tmax)を、使用する近赤外線レーザ光の波長に合わせている場合、このレーザ光の入射角が例えば60°まで大きくなると、入射角60°の透過率最大(極大)波長が上記λ(Tmax)よりも短くなっている分、さらに透過率は減少してしまう。
【0134】
この現象は、反射防止膜における低反射の波長域が狭いほど、つまり、透過率スペクトルにおいて透過率最大(極大)のピークがシャープであるほど、顕著である。具体的には、2層反射防止膜において、高屈折率層(B)の光学膜厚をλ/2×(6/7)とし、その上に低屈折率層(C)の光学膜厚をλ/4×(5/7)とする構成の場合、顕著である。波長λにおける反射率をより小さくすることが可能である反面、狭波長域となるためである。
【0135】
<高入射角位置を厚膜とした2層反射防止膜の透過率>
入射角が45~60°となる領域における透過率最大(極大)波長が、レーザ光と同じ波長であれば、入射角増加に伴う透過率減少の程度を多少抑制できる。
【0136】
LiDARにおけるレーザ光走査の動きを考慮すると、光学的カバー部品においてレーザ光の入射角が0°である部分と例えば60°である部分は別の位置である。そのため、入射角45~60°の領域における透過率最大(極大)波長が、レーザ光と同じ波長となるように、その位置の反射防止膜を構成する各光学膜厚を調整すればよい。
【0137】
例えば、入射角60°位置における透過率最大(極大)波長のk倍がレーザ光波長(入射角0°の垂直入射におけるλ(Tmax)の波長)の場合、入射角60°位置における反射防止膜の光学膜厚を入射角0°の位置における反射防止膜の光学膜厚のk倍とすればよい。具体的には、物理膜厚をk倍とすればよい。
【0138】
その結果、入射角60°位置において、垂直入射光にて測定した透過率スペクトルの透過率最大(極大)となる波長λ(Tmax)はk倍となる。
【0139】
以上、入射角60°の場合で説明しているが、例えば45°などの角度でも同様であり、入射角が大きいほど適正なkの値は大きくなりその部分の膜厚は厚くするとよい。
【0140】
なお、kの値の一例としておよそ1.1が挙げられる。
【0141】
このような高入射角領域における反射防止膜の厚膜化による透過率減少抑制は、とりわけ入射光が無偏光(ランダム光)の場合、S偏光の場合に効果的である。
【0142】
<高入射角領域の膜厚比>
本発明では、レーザ光入射角θ=45~60°となる領域において、λ(Tmax)が、θ=0°の垂直入射となる位置におけるλ(Tmax)のk倍とする。ここにおいて、kは1.02~(1+0.13×tanθ)であり、望ましくは、kは1.04~(1+0.12×tanθ)である。さらに望ましくは、kは(1+0.074×tanθ)-0.03~(1+0.074×tanθ)+0.03である。
【0143】
<最大透過率が波長域を有する場合>
反射防止膜の高屈折率層と低屈折率層を数層以上に積層することにより、最大透過率を示す波長は、ある単一波長ではなく、例えば数十nm以上の範囲幅の波長域とすることも可能である。
【0144】
このとき透過率最大(極大)波長λ(Tmax)が一つの値に定まらずに幅(波長域)を有することになる。その場合は、透過率最大を示す幅(波長域)の中央の波長をλ(Tmax)としたり、透過率最大値から例えば1%低くなる2つの波長(透過率最大波長域の低波長側と高波長側に1つずつ存在する波長)の平均値をλ(Tmax)として、
同様に適用すればよい。
【0145】
<高入射角領域における反射防止膜の厚膜化の手法>
高入射角領域における反射防止膜の膜厚が大きくなるように反射防止膜を形成する方法の一例では、成膜装置内に膜厚補正板(マスク板、ジャマ板と称される。)を配置して成膜を行う。
【0146】
真空蒸着、特に電子ビーム蒸着の場合、蒸着源(蒸着用ボートに配置された蒸着材料のうち電子ビームにより加熱される部分)と、成膜対象基材との間に、膜厚補正板を設置しておき、真空蒸着を実施する。
【0147】
真空スパッタリング成膜の場合、スパッタリングターゲットと基材との間に、膜厚補正板を設置しておき、真空スパッタリング成膜を実施する。
【0148】
RFプラズマCVDの場合、電極(基材の成膜予定面と向かい合った面に存在する電極)と基材との間に、膜厚補正板を設置しておき、RFプラズマCVDを実施する。
【0149】
基材のうち膜厚補正板に対面する領域では、成膜される膜厚が小さくなる。
【0150】
膜厚補正板の大きさ、形状および基材からの距離は、膜厚分布を調整するためのパラメータである。
【0151】
<膜厚補正板>
膜厚補正板の形状は、その名の通り、板状であることが多いが、丸棒や角棒でもよく、またこれらを複数並べても、適正な膜厚分布とできれば問題はない。
【0152】
形状の異なる膜厚補正板を組み合わせて配置してもよい。
【0153】
膜厚補正板は、メッシュ状のものやパンチ穴が多数並んだ板状であってもよい。円形以外の形状の穴を形成してもよい。膜厚補正板の穴の大きさや数を変化させることにより、膜厚分布を精密に制御することが可能である。
【0154】
膜厚補正板は、成膜中、常時に静止していてもよく、駆動機構により回転運動したり往復運動してもよい。
【0155】
高屈折率層(B)の成膜工程において使用する膜厚補正板と、低屈折率層(C)の成膜工程において使用する膜厚補正板とは、同一であってもよく、異なってもよい。
【0156】
膜厚補正板の材質はSUSやアルミなどの金属が好適であるが、PC樹脂などの耐熱性のある樹脂などを用いてもよい。
【0157】
膜厚補正板の表面が粗いと、特に金属の場合には表面にブラスト処理がされていると、成膜時に膜厚補正板上に堆積した膜が剥がれ落ちて悪影響を及ぼすことを避けることができる。
【0158】
<LiDAR装置>
本発明の一態様のLiDAR装置は、図2,3のように、上記の光学的カバー部品1と、光学的カバー部品1の内面側に配置された光源と、レーザ光を走査するスキャニング機構と、光源及びスキャニング機構を囲むハウジング2とを有する。図2のLiDAR装置にあっては、光源3自体をスキャニング機構(図示略)と一体化することによってレーザ光をスキャニングさせるように構成されている。図3のLiDAR装置では、光源4は固定設置されており、ミラー5によってスキャニングさせるように構成されている。
なお、図2では、光学的カバー部品1は平板状であり、図3では、光学的カバー部品1は内面側が凹となるように湾曲した曲板状であるが、図2の光学的カバー部品1が曲板状であってもよく、図3の光学的カバー部品1が平板状であってもよい。
LiDAR装置は、その機能上、光検出器を有するが図2,3においては図示を省略している。
光源に半導体レーザを用いるLiDAR装置は、光源からのレーザ光を並行光とするためのコリメータレンズが必要であるが、図2,3においては図示を省略している。
【実施例0159】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定させるものでなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の応用が可能である。
【0160】
<光学的カバー部品の設計>
LiDARのための光学的カバー部品として、光源レーザ光の波長を900nm用に、
スキャニング機構(レーザ光スキャン光源)と光学的カバー部品面の中央位置(入射角0°位置)との間の距離cを37.5mmとして設計した。
【0161】
基材(A)として平板形状のPC樹脂基板を用いる。寸法は208×76mm、厚さ1mmtである。
【0162】
基材(A)の面の中央がレーザ光入射角0°位置Pである。
【0163】
レーザ光は±60°の走査範囲であり、その方向は基材(A)の長辺(208mm長)と平行な方向である。
【0164】
反射防止膜は片面(光学的カバー部品の内側面)のみとした。
【0165】
反射防止膜の基本設計は、基材(A)に高屈折率層(B)の光学膜厚をλ/2×(6/7)とし、その上に低屈折率層(C)の光学膜厚をλ/4×(5/7)とする2層反射防止膜とした(λ=900nm)。
【0166】
高屈折率層(B)に酸化ニオブ、低屈折率層(C)に酸化ケイ素を用いることとした。
ここにおいて酸化ケイ素としては、二酸化ケイ素(SiO)と同等の屈折率である炭素含有酸化ケイ素(SiO:H)を用いる。
【0167】
<成膜装置>
反射防止膜の成膜には、RFプラズマCVDとDCスパッタリング成膜が可能な装置を用いた。大気開放することなく、基材(A)にプラズマ処理した後に高屈折率層(B)として酸化ニオブをDCスパッタリング成膜し、続けて、低屈折率層(C)としてHMDSOガスを用いてRFプラズマCVDにより成膜することが可能な装置である。
スパッタリングターゲットの大きさは397×200mmである。ターゲット電極と基材(A)とは平行であり、両者の間隔は約180mmである。基材(A)とターゲット電極との間に膜厚補正板が配置される。
RFプラズマCVD電極の大きさは430×230mm である。電極と基材(A)とは平行であり、両者の間隔は約180mmである。基材(A)と電極との間に膜厚補正板が配置される。
【0168】
<成膜条件の事前確認>
事前確認として、まずは、膜厚補正板を配置しない状態で、2層反射防止膜の基本設計情報を元に、実際に成膜した後に光学特性(透過率スペクトルや反射率スペクトル)を測定評価することを繰り返し、基材(A)の面の中央位置において、900nmの波長の透過率が最大となる成膜条件を見出した。
【0169】
高屈折率層(B)と低屈折率層(C)の光学膜厚を適正化するためであり、調整は主に成膜時間の増減により行った。
【0170】
必要に応じそれぞれの層を単層成膜したときの光学特性をも測定評価し参考にした。
【0171】
<膜厚補正板の事前確認>
続いての事前確認として、膜厚補正板を配置した状態で、同様に実際に成膜した後に光学特性を測定評価することを、各種膜厚補正板を交換配置することを繰り返し、各種膜厚補正板を用いたときの光学特性を把握することにより、膜厚ならびに光学膜厚の増減を示すスペクトルの極値波長の増減の関係を見出した。極値波長とは、透過率スペクトルにおける極大値を示す波長、反射率スペクトルにおける極小値を示す波長である。
【0172】
膜厚補正板としては、長さ200mmの細長い平板状又は丸棒状(円柱棒)の金属板1枚を、基材(A)から約70mmの距離の位置に、基材(A)の短辺(76mm)と膜厚補正板の長手方向が平行となるように静止配置しておく。
【0173】
基材(A)の面の長手方向の中央がレーザ光入射角0°位置Pとなるため、位置Pにおける反射防止膜厚が最も小さくなるように、この中央位置の直上約70mmの高さの位置に膜厚補正板を配置した。
【0174】
<測定および評価項目>
実施例及び比較例に対して行った測定及び評価項目は以下の通りである。
【0175】
<透過率>
透過率ならびに透過率スペクトルは分光光度計を用いて波長λ=200~1200nmの範囲を1nm間隔で測定している。
T(AOI):入射角0°と45°と60°位置におけるそれぞれの入射角の透過率(波長λ=900nmの値)
λ(Tmax):入射角0°と45°と60°位置の垂直入射光透過率スペクトルを測定したときの近赤外線900nmの波長付近で極大となる波長
【0176】
従って、入射角0°位置のλ(Tmax)は約900nmとなる。
【0177】
[実施例1]
基材(A)(前述の通り、平板形状のPC樹脂基板(208×76×1mm))にプラズマ処理を施した後に、高屈折率層(B)、低屈折率層(C)の順に成膜し反射防止膜を形成した。
【0178】
膜厚補正板として、幅15mm、厚さ1mm、長さ200mmのSUS製の細長い平板を用いた。
【0179】
得られた光学的カバー部品の透過率の測定および評価結果を表1及び図4に示す。
【0180】
T(AOI)は、入射角0°と45°と60°位置におけるそれぞれの入射角の透過率(波長λ=900nmの値)である。
【0181】
λ(Tmax)は、入射角0°と45°と60°位置の垂直入射光透過率スペクトルを測定したときの900nmの波長付近で極大透過率となる波長である。
【0182】
kは、入射角0°位置(d=0mm位置,位置P)におけるλ(Tmax)の値により規格化した値(d=0におけるλ(Tmax)で除算した値)である。
【0183】
dは、光学的カバー部品の入射角0°位置(P)と入射角45°位置または入射角60°位置との間の距離である。
【0184】
スキャニング機構(レーザ光スキャン光源)と光学的カバー部品の入射角0°位置Pとの間の距離c=37.5mmであるため、Pと入射角45°位置との距離dは37.5mm、Pと入射角60°位置との距離dは65.0mmである。
【0185】
[実施例2]
膜厚補正板として、幅30mm、厚さ1mm、長さ200mmのアルミ製の細長い平板を用い、基材(A)の面の中央位置において垂直入射光の透過率最大となる波長が900nmとなるように成膜条件(時間)を再調整したこと以外は、実施例1と同様にした。測定および評価結果を表1に示す。
【0186】
[実施例3]
膜厚補正板として、直径5mm、長さ200mmのSUS製の円柱棒を用い、基材(A)の面の中央位置において垂直入射光の透過率最大となる波長が900nmとなるように成膜条件(時間)を再調整したこと以外は、実施例1と同様にした。測定および評価結果を表1に示す。
【0187】
[比較例1]
膜厚補正板を配置せず、基材(A)の面の中央位置において垂直入射光の透過率最大となる波長が900nmとなるように成膜条件(時間)を再調整したこと以外は、実施例1と同様にした。測定および評価結果を表1及び図4に示す。
【0188】
[比較例2]
膜厚補正板として、幅33mm、厚さ1mm、長さ200mmのアルミ製の細長い平板を用い、基材(A)の面の中央位置において垂直入射光の透過率最大となる波長が900nmとなるように成膜条件(時間)を再調整したこと以外は、実施例1と同様にした。測定および評価結果を表1に示す。
【0189】
【表1】
【0190】
[考察]
表1及び図4より、次のことが明らかである。図4は、実施例1及び比較例1における入射角θ=0°及びθ=60°における透過率の波長依存性を示すグラフ(透過率スペクトル)である。
【0191】
図4の通り、θ=0°の場合、実施例1、比較例1のいずれでも、透過率は波長900nmで極大となる(約95%)。
【0192】
θ=60°の場合、比較例1では、透過率は800nmで極大(86.7%)となり、波長の増大とともに透過率は徐々に低下する。波長900nmでは透過率は84.6%である。
【0193】
これに対し、実施例1では、θ=60°の場合、透過率は896nmで極大となり、波長900nmの透過率は86.7%である。
【0194】
実施例1と比較例1との波長900nmの透過率(θ=60°の場合)の差は86.7%-84.6%=2.1%である。図示はしないが、θ=45°~60°の全範囲において同様の透過率スペクトルの関係(実施例1の透過率極大となる波長は、比較例1の透過率極大となる波長より長く、900nmの透過率は実施例1の方が比較例1よりも高いという定性的な傾向において同様な関係)となる。従って、入射角45°~60°の高入射角領域における反射防止膜の膜厚をθ=0°における膜厚よりも大きくすることにより、高入射角領域における透過率が高くなることが認められた。
【0195】
比較例及び実施例における膜厚の考察を以下に示す。
【0196】
比較例1は補正板を配置していないため、膜厚は光学的カバー部品の全領域において均一であると考えられる。少なくとも、レーザ光透過走査領域である、カバー中央からの距離d=-65.0~+65.0mmの範囲、すなわち入射角θ=-60~+60°となるカバー部品の領域において、膜厚は均一であると考えられる。このことは、表1の通り、入射角0°と45°と60°位置のλ(Tmax)がほとんど同じ値であることからも確認できる。入射角が0°→45°→60°と増加するに従い(位置dが0.0mm→37.5mm→65.0mmと増加するに従い)、波長λ=900nmの透過率は95.2%→92.1%→84.6%と減少する。
【0197】
実施例1は、最も適正な膜厚分布となっていると考えられる。入射角0°と45°と60°位置の具体的な膜厚比はkの値の比から推測される。入射角が0°→45°→60°と増加すると、波長λ=900nmの透過率は95.2%→92.9%→86.7%と減少する。減少するがその程度は、均一膜厚の比較例1よりも抑制されている。
【0198】
実施例2,3のように適正化された補正板を配置することにより、同様に膜厚比はkの値から推測される。入射角が0°→45°→60°と増加すると、波長λ=900nmの透過率は減少するが、その程度は、実施例1ほどではないが、均一膜厚の比較例1よりも抑制されている。
【0199】
比較例2のような補正板を配置すると、同様に膜厚比はkの値から推測される。入射角が0°→45°→60°と増加すると、波長λ=900nmの透過率は減少するが、その程度は、均一膜厚の比較例1と同程度であり、補正板を配置する必要がないこととなる。
【0200】
以上の通り、本発明の光学的カバー部品によると、入射角の大きい位置における透過率の減少を抑制できる。
【符号の説明】
【0201】
1 光学的カバー部品
2 ハウジング
3 スキャニング機構を備えた光源
4 固定設置された光源
5 スキャニング機構を備えたミラー
図1
図2
図3
図4