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特開2023-173271テルビウム-スルホキシド錯体を用いたサリチル酸メチルのセンシング方法、サリチル酸メチルセンサー、及び農作物の病原菌感染の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173271
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】テルビウム-スルホキシド錯体を用いたサリチル酸メチルのセンシング方法、サリチル酸メチルセンサー、及び農作物の病原菌感染の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20231130BHJP
   C07C 317/04 20060101ALI20231130BHJP
   C07C 317/14 20060101ALI20231130BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20231130BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20231130BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231130BHJP
   C07C 69/84 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
G01N21/78 C
C07C317/04
C07C317/14
C07F5/00 D
A01N59/00 Z
G01N33/48 N
C07C69/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085419
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】前田 勝美
【テーマコード(参考)】
2G045
2G054
4H006
4H011
4H048
【Fターム(参考)】
2G045AA31
2G045CB20
2G045FB12
2G054AA06
2G054AB01
2G054AB05
2G054CA20
2G054CA30
2G054CD01
2G054CE02
2G054EA03
2G054EB01
2G054FA12
2G054FA33
2G054FA44
2G054GA03
2G054GB02
2G054GE06
2G054JA01
2G054JA02
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB01
4H006AB82
4H006BJ50
4H006BN30
4H006KC30
4H006TA01
4H006TB12
4H011AB04
4H011BB16
4H011DD07
4H011DF06
4H011DG16
4H048AA03
4H048AB01
4H048VA20
4H048VA40
4H048VA70
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】植物が病気感染した際に放出される植物ホルモンであるサリチル酸メチルをセンシングする方法を提供する。
【解決手段】本実施形態の一態様は、所定の式で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いて、サリチル酸メチルを認識するサリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いてサリチル酸メチルを認識する、サリチル酸メチルのセンシング方法;
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)。
【請求項2】
サリチル酸メチルと前記テルビウム-スルホキシド錯体とが反応して形成された錯体の蛍光発光現象を利用する、請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
前記式(1)中、Yは、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す、請求項1または2に記載のセンシング方法。
【請求項4】
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、
i)下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、
ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部と、
を備えているサリチル酸メチルセンサー;
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)。
【請求項5】
前記認識部が、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を含む紙、ガラス、または樹脂を備える、請求項4に記載のサリチル酸メチルセンサー。
【請求項6】
前記式(1)中、Yは、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す、請求項4または5に記載のサリチル酸メチルセンサー。
【請求項7】
前記検出部が光学的な検出素子とコンピュータを含み、該コンピュータに、
i)光学的な検出素子からの信号を受信する段階、
ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに
iii)分析結果を出力する段階
を実行させるプログラムを有する、請求項4または5に記載のサリチル酸メチルセンサー。
【請求項8】
請求項4または5に記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該サリチル酸メチルセンサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が病気に感染した際に放出するサリチル酸メチルのセンシング方法、サリチル酸メチルセンサー、及び植物の病気感染を検出する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、糸状菌等の病原菌の感染を受けたり、害虫等による食害を受けたり、環境の変動によるストレスを受けたりすると、それに対抗して独自の防御機構が働くことが知られている。具体的には、植物は病原菌による感染を受けると感染した場所でシグナル物質であるサリチル酸を合成する。そして、サリチル酸が師管組織を経由して植物体内を移動し、未感染組織に防御機構を誘導することで、結果として病原菌に対して全身で抵抗性を発現する(全身獲得抵抗性)。また、害虫による食害を受けることでエチレンやジャスモン酸を合成し、サリチル酸と同様に植物体内を移動することで全身に防御機構を誘導する(誘導全身抵抗性)。さらに乾燥、低温、塩害などの生育環境の変動に対してはアブシジン酸を植物体内で合成し環境ストレスに適用することが知られている。
【0003】
また、植物は病原菌感染や害虫による食害を受けた際に、被害を受けた植物自身だけでなく、周囲の植物にも知らせるメカニズムが存在することが知られている。具体的には、病原菌に感染した際に合成されるサリチル酸はメチル化されてサリチル酸メチルになり、揮発性シグナル物質として植物から放出されて周囲の植物に病原菌の感染を知らせることで予め防御機構を促す。また、害虫の被害の際に合成されるジャスモン酸もメチル化されてジャスモン酸メチルとなり揮発性シグナルとなり植物から放出されることで、周囲の植物に予め抵抗性を誘導することが知られている。
【0004】
このように植物は病害虫による被害を受けた際にシグナル物質として植物ホルモンを放出することが知られており、そのシグナル物質をいち早くセンシングすることで病害虫被害を早期に検出することが可能となる。
【0005】
害虫被害の際に揮発性シグナルとして放出されるジャスモン酸をセンシングすることで、被害を早期発見する方法が知られている。特許文献1には、栽培している農作物の傍に、発光タンパク質遺伝子を有するモニター植物を一緒に栽培し、農作物が害虫被害を受けた際に放出されたジャスモン酸メチルをモニター植物が感知してモニター植物が発光する現象を利用する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2019/082942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態の一態様は、植物が病原菌に感染した際に放出される植物ホルモンであるサリチル酸メチルをセンシングする方法を提供することを目的とする。また、本実施形態の一態様は、サリチル酸メチルセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の一態様は、下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いてサリチル酸メチルを認識する、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0009】
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本実施形態の一態様によると、植物が病原菌に感染した際に放出される植物ホルモンのサリチル酸メチルを選択的にセンシングできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】例1において蛍光発光を確認した写真である。
図2】例2において測定して得られた蛍光スペクトル曲線を示す図である。
図3】例3において蛍光発光を確認した写真である。
図4】例4において蛍光発光を確認した写真である。
図5】例5おいて蛍光発光を確認した写真である。
図6】本実施形態のサリチル酸メチルセンサーの構成の概要図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面等を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0013】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、植物が病原菌に感染した際に放出する揮発性シグナル物質であるサリチル酸メチルは、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いることで選択的にセンシングできることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、本実施形態について詳述する。
【0014】
本実施形態の一態様は、レセプターに下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体(単に「テルビウム-スルホキシド錯体」、「式(1)で表される錯体」とも記載する)を用いてサリチル酸メチルを認識する、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。本実施形態のセンシング方法によると、サリチル酸メチルとテルビウム-スルホキシド錯体とが反応して形成された錯体からの蛍光発光現象を利用することにより、植物の病原菌による感染を早期にその場で検出することが可能となる。本明細書においては、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとが反応して形成された錯体を「サリチル酸メチル錯体」または「MSA錯体」とも記載する。
【0015】
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)
【0016】
<サリチル酸メチルのレセプター:テルビウム-スルホキシド錯体>
本実施形態において、サリチル酸メチルを認識するためのレセプターに利用できるテルビウム-スルホキシド錯体として、下記式(1)で表される錯体が挙げられる。後述の実施例で示すように、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体は、サリチル酸メチル以外の他の植物ホルモン、例えばジャスモン酸メチルとは反応せず、サリチル酸メチルを選択的に認識する。
【0017】
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)
【0018】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。炭素数1~8の脂肪族炭化水素基は、限定はされないが、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、または炭素数3~8のシクロアルキル基であるのが好ましい。炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基(n-オクチル基等)等が挙げられ、一態様においてn-ブチル基、tert-ブチル基、またはn-オクチル基であるのが好ましい。炭素数2~8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、2-プロペニル基(アリル基)、3-ブテニル基、1-メチルビニル基、2-メチルビニル基、1-メチルプロペニル基、2-メチルプロペニル基等が挙げられ、一態様においてビニル基であるのが好ましい。炭素数3~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。置換もしくは無置換のアリール基としては、フェニル基、メトキシフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、チエニル基、フラニル基、ピリジル基等が挙げられ、一態様においてフェニル基であるのが好ましい。RおよびRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、一態様においては同一であるのが好ましい。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。
【0019】
式(1)において、nは、1~6の整数を表し、1~3の整数であるのが好ましく、一態様においてn=2であるのが好ましい。
【0020】
式(1)において、nが2以上のとき、複数存在するRおよびRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、nが2以上のとき、同一のSに結合しているRとRが互いに結合して環を形成してもよいし、異なるSに結合しているRおよびRのうちの複数(好ましくは2つ)の基が互いに結合して環を形成してもよい。
【0021】
式(1)において、Yは、一価のアニオンであり、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。炭素数1~8のカルボン酸イオンは、カルボン酸のカルボキシ基の水素イオンが脱離したものであり、直鎖状でも分岐鎖を有していてもよい。炭素数1~8のカルボン酸イオンとしては、例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン等の一価のカルボン酸イオンが挙げられる。一態様において、Yは、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンであるのが好ましく、酢酸イオン、ピバル酸イオン、または吉草酸イオンであるのがより好ましい。
【0022】
テルビウム-スルホキシド錯体の具体的な例としては、下記表1の錯体が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
【表1】
【0024】
これらテルビウム-スルホキシド錯体は、テルビウム塩とスルホキシド誘導体を、メタノール、エタノール等の有機溶媒中で加熱反応させることで合成される(反応式(11)参照)。テルビウム塩(TBY)は、塩化テルビウム六水和物とカルボン酸ナトリウムを水中で反応させることで合成できる。
【0025】
【化4】
反応式(11)中のR、R、nおよびYは、それぞれ、式(1)で定義したR、R、nおよびYと同じ意味を表す。
【0026】
例えば、Tb-S1の合成方法として、下記反応式(11-1)で表すように吉草酸テルビウムとジ-n-ブチルスルホキシドを、メタノール中6時間加熱還流させることで吉草酸テルビウムとジ-n-ブチルスルホキシドの錯体が合成される。
【0027】
【化5】
【0028】
これらテルビウム-スルホキシド錯体は、サリチル酸メチルと反応してサリチル酸メチル錯体を形成することで、サリチル酸メチルを選択的に認識することができる。例えば、Tb-S3は下記反応式(12)に示す反応によりサリチル酸メチル錯体を形成する。生成したサリチル酸メチル錯体は、UVで励起するとテルビウム錯体特有の蛍光を発光する。一方、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体のみでは、UV光を照射しても蛍光の発光は観察されない。また、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体は、ジャスモン酸メチル等のその他の植物ホルモンとは反応しない。その現象を利用することで、本実施形態のセンシング方法は、サリチル酸メチルを選択的に認識することができる。
【0029】
【化6】
【0030】
本実施形態の一態様は、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとを反応させてサリチル酸メチル錯体を形成する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法に関する。
【0031】
また、本実施形態の一態様は、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターとして、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いる、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0032】
本実施形態の一態様では、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとの反応は溶液中で行われる。溶液は、例えば、ジメチルスルホキシド溶液、メタノール、エタノール等のアルコール溶液、または水溶液でありうるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態において、式(1)で表される構造を有するテルビウム-スルホキシド錯体の濃度は、限定はされないが、例えば、好ましくは0.00001mol/L~5mol/Lの範囲内、より好ましくは0.00004mol/L~1mol/Lの範囲内の濃度でありうる。
【0033】
本実施形態の一態様において、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとの反応はテルビウム-スルホキシド錯体を含有する固体媒体中で行われる。固体媒体は、例えば、紙またはガラス(例えば、ガラス繊維、多孔質ガラス基板等)、樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド)、水溶性ポリマー(セルロース系、アガロース、でんぷん系、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等)でありうるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
<蛍光発光現象>
式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとの反応により生成した錯体は、新たに蛍光発光を示す。具体的には、テルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルの反応で形成された錯体に、好ましくは波長が300~400nmの励起光をあてることで蛍光発光を示す。一方、テルビウム-スルホキシド錯体のみではほとんど蛍光発光を示さない。これによりサリチル酸メチルを検出することが可能となる。
【0035】
よって、本発明の一部の実施形態は、(i)式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体と、サリチル酸メチルとを反応させてサリチル酸メチル錯体を形成する工程、(ii)サリチル酸メチル錯体に励起光をあてる工程、および(iii)サリチル酸メチル錯体が発する蛍光を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法に関する。一部の実施態様では、励起波長として300~400nmの範囲内の適切な波長が選択される。さらに、一部の実施形態では、検出された蛍光の強度をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程も実施されうる。
【0036】
また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルが、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体と反応して形成されるサリチル酸メチル錯体の蛍光発光現象を利用する、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0037】
一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルのセンシング方法は、農作物の病原菌感染の検出のために用いられうる。
【0038】
<サリチル酸メチルセンサー>
図6に、本実施形態のサリチル酸メチルセンサーの構成の概要図の一例を示す。テルビウム-スルホキシド錯体をレセプターに用いたサリチル酸メチルセンサー1は、少なくとも、サリチル酸メチルの認識部2と、該認識部2にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部3から構成される。認識部2は、少なくともレセプターであるテルビウム-スルホキシド錯体を含む。テルビウム-スルホキシド錯体は、サリチル酸メチル以外の他の植物ホルモン、例えばジャスモン酸メチルとは反応せず認識しないため、サリチル酸メチルを選択的に認識することができる。前記検出部3は、前記サリチル酸メチルの認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的に検出できるように構成されている。例えば、光学的な検出部では、テルビウム-スルホキシド錯体とサリチル酸メチルとが反応して生成した錯体(サリチル酸メチル錯体)の蛍光発光を検出するため、少なくとも励起光源(発光部)と検出素子(蛍光の受光部)から構成され、蛍光強度の変化からサリチル酸メチルを検出し、その濃度を測定する。
【0039】
よって、本発明の一部の実施形態は、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部とを備える、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーに関する。一部の実施形態において、本実施形態のサリチル酸メチルセンサーは、農作物が病原菌に感染した際に放出される植物ホルモンのサリチル酸メチルを検出する。よって、本実施形態のサリチル酸メチルセンサーは、農作物の病原菌感染検出用のセンサーとして用いられうる。
【0040】
一態様において、本実施形態のサリチル酸メチルセンサーは、テルビウム-スルホキシド錯体を用いることにより、他の植物ホルモン、例えばジャスモン酸メチル、3-ヘキセノール等に比べて、サリチル酸メチルを選択的に検出することができる。
【0041】
また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、(i)式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的に検出する検出部を少なくとも備えるサリチル酸メチルセンサーに関する。一部の実施形態において、光学的な検出部は、少なくとも励起光源と検出素子とを含む。一態様において、本実施形態のサリチル酸メチルセンサーは、観測された蛍光強度の変化に基づき、サリチル酸メチルの検出及び/または濃度測定を行うことができる。
【0042】
一部の実施態様では、検出部は、サリチル酸メチルの検出及び/または濃度測定を処理するプログラムを実行するコンピュータを含みうる。そのようなプログラムは、例えば、コンピュータに、光学的な検出素子からの信号を受信する段階、受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに、分析結果を出力する段階を実行させるプログラムでありうる。一部の実施態様において、受信した信号の分析は、例えば、受信した信号をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定することを含みうる。また、一部の実施態様において、分析結果は、例えば、センサーに接続されたディスプレイ装置、またはネットワークを介して接続された他の機器等に出力されうる。
【0043】
よって、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が検出素子とコンピュータを含み、コンピュータに、(i)光学的な検出素子からの信号を受信する段階、(ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに(iii)分析結果を出力する段階を実行させるプログラムを有するサリチル酸メチルセンサーに関する。
【0044】
<農作物の病原菌感染を検出する方法>
本発明のサリチル酸メチルセンサーの用途の一つとして、サリチル酸メチルセンサーを農作物が植えられている傍らに設置し、センサーによりサリチル酸メチルを検出することによって、農作物の病原菌感染を早期に検出することが可能である。
【0045】
よって、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該センサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法に関する。一部の実施態様において、サリチル酸メチルセンサーは、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターであるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を備える。また、一部の実施態様において、サリチル酸メチルセンサーは、(i)式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的に検出する検出部を備える。
【0046】
監視対象となりうる農作物としては、例えば、キュウリ、スイカ、トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、シシトウ、メロン、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、レタス、ネギ、ブロッコリー、タマネギ、ニンニク、ヤマノイモ、アスパラガス、ニンジン、バレイショ、セルリー、タバコ、イネ、イチゴが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0047】
検出されうる病害としては、例えば、輪紋病、白星病、褐色輪紋病、葉かび病、萎凋病、根腐萎凋病、半身萎凋病、褐色根腐病、灰色疫病、根腐病、黒点根腐病、白絹病、苗立枯病、褐斑病、ベと病、うどんこ病、灰色かび病、炭疽病、黒星病、菌核病、つる枯病、斑点病、疫病、モザイク病、黄化えそ病、黄化葉巻病、青枯病、軟腐病、かいよう病、茎えそ細菌病、黒班細菌病、斑点細菌病等が挙げられるが、これらに限定はされず、また、検出されうる病原菌感染としては、上記の病害の原因菌による感染が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0048】
本開示の文脈において、センサーを農作物の近傍に設置すると言った場合、用語「近傍」の例としては、例えば、監視対象の農作物から2m以内、1m以内、75cm以内、50cm以内、40cm以内、30cm以内、20cm以内、10cm以内、または5cm以内の距離が挙げられるが、これらに限定はされず、適切な距離が種々の要因を考慮して適宜選択される。当業者であれば、センサーを設置する位置を様々な条件を考慮した上で適宜設定することが可能であろう。
【0049】
さらに、本発明の一部の実施形態は、農作物の病原菌感染の検出における、サリチル酸メチルセンサーの使用に関する。また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルセンサーの製造における、テルビウム-スルホキシド錯体の使用に関する。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
(合成例1)
[吉草酸テルビウムとジ-n-ブチルスルホキシドの錯体(Tb-S1)]
塩化テルビウム六水和物1gを水10mlに溶解し、そこに吉草酸ナトリウム0.997gを水に溶解したものを加え、室温で攪拌した。析出した吉草酸テルビウムを濾別し、減圧乾燥することで目的物を0.88g得た。次に吉草酸テルビウム0.3gとジ-n-ブチルスルホキシド0.211gをメタノール30mlに溶解し、6時間加熱還流させた。放冷後、エバポレータで濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて、ろ過し、ろ液を濃縮することで目的の吉草酸テルビウムとジ-n-ブチルスルホキシドの錯体Tb-S1を0.50g得た。反応式は下記のとおりである。
【0052】
【化7】
【0053】
(合成例2)
[ピバル酸テルビウムとジ-n-オクチルスルホキシドの錯体(Tb-S2)]
塩化テルビウム六水和物2gを水20mlに溶解し、そこにピバル酸ナトリウム2.284gを水に溶解したものを加え、室温で攪拌した。析出したピバル酸テルビウムを濾別し、減圧乾燥することで目的物を2.094g得た。次にピバル酸テルビウム0.3gとジ-n-オクチルスルホキシド0.356gをメタノール30mlに溶解し、6時間加熱還流させた。放冷後、エバポレータで濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて、ろ過し、ろ液を濃縮することで目的のピバル酸テルビウムとジ-n-オクチルスルホキシドの錯体Tb-S2(構造式は表1を参照)を0.64g得た。
【0054】
(合成例3)
[ピバル酸テルビウムとジフェニルスルホキシドの錯体(Tb-S3)]
ピバル酸テルビウム0.3gとジフェニルスルホキシド0.263gをメタノール30mlに溶解し、6時間加熱還流させた。放冷後、エバポレータで濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて、ろ過し、ろ液を濃縮することで目的のピバル酸テルビウムとジフェニルスルホキシドの錯体Tb-S3(構造式は表1を参照)を0.54g得た。
【0055】
(例1)
合成例1で得た吉草酸テルビウム-ジ-n-ブチルスルホキシド錯体(Tb-S1)のメタノール溶液(濃度50mM)0.2mlを円形ろ紙(40mmΦ)に滴下し乾燥させて、Tb-S1を含むろ紙を3枚得た。得られたろ紙の1枚に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(b)。また、別の1枚には、植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(c)。Tb-S1のみ含む(何も滴下していない)ろ紙(a)、Tb-S1を含むろ紙にMSAを滴下したろ紙(b)、およびTb-S1を含むろ紙にMJAを滴下したろ紙(c)にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図1)。その結果、Tb-S1は単独では蛍光を発しないが(a)、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった(b)。また、ジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示さないことが分かった(c)。以上の結果から、Tb-S1は植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0056】
(例2)
[蛍光スペクトル測定]
吉草酸テルビウムとジ-n-ブチルスルホキシドの錯体(Tb-S1)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(濃度1.7mM)0.9mlとサリチル酸メチル(MSA)のDMSO溶液(濃度1.5mM)0.1mlを混合し、10分後に20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。また、Tb-S1のDMSO溶液(濃度1.7mM)0.9mlとDMSO0.1mlを混合し、さらに20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。同様に、MSAのDMSO溶液(濃度1.5mM)0.1mlとDMSO 0.9mlを混合し、さらに20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトル曲線を図2に示す。実線はTb-S1+MSAの蛍光スペクトル、破線はTb-S1のみの蛍光スペクトル、一点鎖線はMSAみの蛍光スペクトルを表す。この結果から、Tb-S1は、それ自身では蛍光を示さないが、MSAと反応することで480~630nmの範囲で蛍光発光(極大波長546nm)を示すことが分かった。MSA単体でも480~630nmの範囲では蛍光発光を示さず、Tb-S1とサリチル酸メチルが反応することで蛍光発光することが分かった。
【0057】
(例3)
合成例2で得たピバル酸テルビウム-ジ-n-オクチルスルホキシド錯体(Tb-S2)のメタノール溶液(濃度50mM)0.2mlを円形ろ紙(40mmΦ)に滴下し乾燥させて、Tb-S2を含むろ紙を3枚得た。得られたろ紙の1枚に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(b)。また、別の1枚には、植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(c)。Tb-S2のみ含む(何も滴下していない)ろ紙(a)、Tb-S2を含むろ紙にMSAを滴下したろ紙(b)、およびTb-S2を含むろ紙にMJAを滴下したろ紙(c)にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図3)。その結果、Tb-S2は単独では蛍光を発しないが(a)、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった(b)。また、ジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示さないことが分かった(c)。以上の結果から、Tb-S2は植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0058】
(例4)
合成例3で得たピバル酸テルビウム-ジフェニルスルホキシド錯体(Tb-S3)のDMSO溶液(濃度50mM)0.2mlを円形ろ紙(40mmΦ)に滴下し乾燥させて、Tb-S3を含むろ紙を3枚得た。得られたろ紙の1枚に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(b)。また、別の1枚には、植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液(濃度10mM)0.03mlを滴下し乾燥させた(c)。Tb-S3のみ含む(何も滴下していない)ろ紙(a)、Tb-S3を含むろ紙にMSAを滴下したろ紙(b)、およびTb-S3を含むろ紙にMJAを滴下したろ紙(c)にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図4)。その結果、Tb-S3は単独では蛍光を発しないが(a)、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった(b)。また、ジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示さないことが分かった(c)。以上の結果から、Tb-S3は植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0059】
(例5)
合成例2で得たピバル酸テルビウム-ジ-n-オクチルスルホキシド錯体(Tb-S2)のメタノール溶液(濃度50mM)0.2mlを円形ろ紙(40mmΦ)に滴下し乾燥させて、Tb-S2を含むろ紙を得た。得られたろ紙をデシケータ内に静置し、そこに窒素のキャリアガスで濃度400ppbのサリチル酸メチルの気体をデシケータ内に導入した。1時間後にろ紙を取り出し、UVランプ(波長365nm)で励起して蛍光発光を確認した。その結果、図5に示すように、未曝露のろ紙(a)では蛍光発光が見られないが、1時間曝露後のろ紙(b)では、テルビウム錯体特有の黄緑色の蛍光が確認できた。以上の結果から、Tb-S2は気体状態のサリチル酸メチルを検出できることが分かった。
【0060】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
【0061】
(付記1)
下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を用いてサリチル酸メチルを認識する、サリチル酸メチルのセンシング方法;
【0062】
【化8】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)。
【0063】
(付記2)
サリチル酸メチルと前記テルビウム-スルホキシド錯体とが反応して形成された錯体の蛍光発光現象を利用する、付記1に記載のセンシング方法。
【0064】
(付記3)
前記式(1)中、Yは、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す、付記1または2に記載のセンシング方法。
【0065】
(付記4)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、
i)下記式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、
ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部と、
を備えているサリチル酸メチルセンサー;
【0066】
【化9】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または、置換もしくは無置換のアリール基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。Yは、炭素数1~8のカルボン酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す。nは1~6の整数を表す。)。
【0067】
(付記5)
前記認識部が、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を含む紙、ガラス、または樹脂を備える、付記4に記載のサリチル酸メチルセンサー。
【0068】
(付記6)
前記式(1)中、Yは、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ピバル酸イオン、吉草酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンを表す、付記4または5に記載のサリチル酸メチルセンサー。
【0069】
(付記7)
前記検出部が光学的な検出素子とコンピュータを含み、該コンピュータに、
i)光学的な検出素子からの信号を受信する段階、
ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに
iii)分析結果を出力する段階
を実行させるプログラムを有する、付記4~6のいずれかに記載のサリチル酸メチルセンサー。
【0070】
(付記8)
付記4~7のいずれかに記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該サリチル酸メチルセンサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法。
【0071】
(付記9)
サリチル酸メチルセンサーを制御するプログラムであって、該サリチル酸メチルセンサーが、式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が光学的な検出素子とコンピュータを含み、該コンピュータに、
i)光学的な検出素子からの信号を受信する段階、
ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに
iii)分析結果を出力する段階
を実行させるプログラム。
【0072】
(付記10)
(i)式(1)で表されるテルビウム-スルホキシド錯体と、サリチル酸メチルとを反応させてサリチル酸メチル錯体を形成する工程、
(ii)サリチル酸メチル錯体に励起光をあてる工程、及び
(iii)サリチル酸メチル錯体が発する蛍光を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法。
【0073】
(付記11)
励起光の励起波長として300~400nmの範囲内の波長を用いる付記10に記載の検出方法。
【0074】
(付記12)
検出された蛍光の強度をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程をさらに含む、付記10または11に記載の検出方法。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本実施形態の一態様のサリチル酸メチルのセンシング方法は、所定のテルビウム-スルホキシド錯体を用いて、植物が病原菌感染の際に放出する植物ホルモンであるサリチル酸メチルを選択的に検出することを可能とする。テルビウム-スルホキシド錯体は、サリチル酸メチルと反応してサリチル酸メチル錯体を形成し、且つ蛍光発光を発現することから、サリチル酸メチルを選択的に検出することを可能とする。
【0076】
本実施形態の一態様は、テルビウム-スルホキシド錯体を認識部に含むセンサーを用いることで、植物の病気感染を早期に検出することができる。具体的には農作物の病気感染を早期に検出できるセンサーとしてハウス等の施設園芸での農業ICT用の新たなセンサーとして利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6