(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173278
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備
(51)【国際特許分類】
B21B 1/082 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B21B1/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085430
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛人
(72)【発明者】
【氏名】駒城 倫哉
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和範
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AC05
4E002BB01
4E002BC01
4E002BC05
4E002CA08
4E002CA11
4E002CA17
(57)【要約】
【課題】孔型圧延において安定的に継手部を造形することができるハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備を提供すること。
【解決手段】本発明のハット形鋼矢板の製造方法は、ウェブ部、一対のフランジ部、一対の腕部、及び、一対の継手部を有するハット形鋼矢板を、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上げ圧延機の各々における1または複数の孔型での被圧延材への複数回の圧延によって製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、中間圧延機による1または複数の孔型での中間圧延のうち、被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の長さよりも圧延出側でのフランジ相当部の長さを長くする圧延を行う際に、被圧延材の断面における全体の減面率をAとし、被圧延材の断面におけるフランジ相当部の減面率をBとしたとき、B-A>0の関係を満たすように圧延する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部、前記ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部、前記一対のフランジ部の各々の先端に設けられた一対の腕部、及び、前記一対の腕部の各々の先端に設けられた一対の継手部を有するハット形鋼矢板を、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上げ圧延機の各々における1または複数の孔型での被圧延材への複数回の圧延によって製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、
前記中間圧延機による前記1または複数の孔型での中間圧延のうち、前記被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の長さよりも圧延出側での前記フランジ相当部の長さを長くする圧延を行う際に、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における全体の減面率をAとし、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における前記フランジ相当部の減面率をBとしたとき、B-A>0の関係を満たすように圧延することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
前記中間圧延における前記被圧延材の圧延入側でのウェブ相当部の厚みが32[mm]以下であることを特徴とする請求項1に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項3】
前記ハット形鋼矢板の断面サイズに基づいて特定される定数をαとしたとき、前記全体の減面率Aと、前記フランジ相当部の減面率Bとが、0<B-A<αの関係を満たすように圧延することを特徴とする請求項1または2に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項4】
ウェブ部、前記ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部、前記一対のフランジ部の各々の先端に設けられた一対の腕部、及び、前記一対の腕部の各々の先端に設けられた一対の継手部を有するハット形鋼矢板を製造するハット形鋼矢板の製造設備であって、
被圧延材を圧延する、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上げ圧延機を備えており、
前記中間圧延機は、前記被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の長さよりも圧延出側での前記フランジ相当部の長さを長くする圧延を行う際に、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における全体の減面率をAとし、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における前記フランジ相当部の減面率をBとしたとき、B-A>0の関係を満たすように圧延する孔型を有することを特徴とするハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項5】
前記中間圧延機による中間圧延における前記被圧延材の圧延入側でのウェブ相当部の厚みが32[mm]以下であることを特徴とする請求項4に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項6】
前記孔型は、前記ハット形鋼矢板の断面サイズに基づいて特定される定数をαとしたとき、前記全体の減面率Aと、前記フランジ相当部の減面率Bとが、0<B-A<αの関係を満たすように圧延することを特徴とする請求項4または5に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、河川の護岸などに打ち込まれ、土留めとして使用される。鋼矢板には、断面の形状がハット形のハット形鋼矢板などがある。ハット形鋼矢板は、幅方向に延びるウェブ部と、ウェブ部の両端から斜め下方かつ幅方向外側に向けて延びる一対のフランジ部と、各フランジ部の先端から幅方向外側に延びる一対の腕部と、各腕部の先端に設けられた一対の継手部とを備えている。
【0003】
従来、ハット形鋼矢板の製造は、孔型圧延法によって行われている。この孔型圧延法の一般的な工程としては、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した被圧延材を、1または複数の孔型をそれぞれ備えた、粗圧延機、中間圧延機及び仕上げ圧延機によって順に圧延することが知られている。また、粗圧延機、中間圧延機及び仕上げ圧延機による圧延をそれぞれ、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延ともいい、これらの圧延を総称して造形圧延ともいう。孔型圧延法では、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延において、上下一対のロールに複数の孔型を刻設し、例えば、各孔型にて1または複数パスずつ圧延を行うことによって、全長で目標の断面形状に造形してハット形鋼矢板を製造する。
【0004】
孔型圧延において、入側と出側で断面形状が大きく異なると、孔型に材料がうまく噛み込まない場合や、孔型への負荷が過大になる場合がある。そのため、複数回に分けて孔型圧延を実施することによって、素材形状から目標の断面形状へ徐々に造形する。噛み込みや孔型への負荷を鑑みると、粗圧延機の圧延だけでは被圧延材におけるフランジ相当部の長さを目標の寸法にすることは難しく、中間圧延機以降でフランジ相当部を長くする圧延を実施する必要がある。また、粗圧延機のみで目標とするフランジ相当部の寸法を造形しようとすると、孔型が深くなり、ロール径が極端に細くなる。孔型は摩耗により形状が変化するため、ロール表面を研磨して所望の孔型形状を保つように管理している。そのため、ロール径が小さくなると研磨できる回数が少なくなるため、ロールの寿命が短くなる。また、粗圧延機は、リバース圧延(往復圧延)を実施する回数が、形鋼圧延ラインの圧延機の中で最も多いため、中間圧延機及び仕上げ圧延機と比較してロールが早く摩耗する。ロールの寿命を考えると、粗圧延機でのフランジ相当部の伸長はできるだけ小さくし、中間圧延機でフランジ相当部を長くすることが好ましい。
【0005】
また、孔型圧延は、材料が3次元的に変形する複雑な塑性加工であり、様々な問題を抱えている。例えば、ハット形鋼矢板の孔型圧延において、被圧延材におけるウェブ相当部とフランジ相当部と腕相当部との圧下バランスが不適切であった場合に、フランジ相当部のみが高さ方向(圧延方向)に伸長し、フランジ相当部が波打つフランジ波と呼ばれる不良が発生する。また、被圧延材における継手相当部がうまく噛み込まずに、ハット形鋼矢板における継手部が造形できない場合や、フランジ相当部に腕相当部が引き込まれて、ハット形鋼矢板における継手部がなくなる場合もある。また、フランジ相当部を長くする孔型圧延においては、ウェブ相当部とフランジ相当部と腕相当部との圧下率のバランスによっては、フランジ相当部が幅方向に変形できず、腕相当部をフランジ相当部に引き込む引き込み現象が発生する。腕相当部がフランジ相当部に引き込まれた場合には、ハット形鋼矢板における継手部が完全になくなるため製品とすることができなくなる。このような問題に対して、従来、種々の技術開発が行われてきた。例えば、特許文献1には、被圧延材におけるフランジ相当部を長くする圧延の前段階である被圧延材の幅を調整する圧延時に、孔型の継手相当部に相当する箇所に溝を成形しておき、継手相当部を圧延で成形しやすくする方法が開示されている。また、特許文献2には、フランジ波が発生しないように、ロール隙を設定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-144497号公報
【特許文献2】特開2019-038014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、フランジ相当部を長くする圧延を実施する場合に、継手相当部が孔型の溝に噛みこんだとしても、フランジ相当部に腕相当部が引き込まれる場合がある。また、特許文献2に開示された方法においては、フランジ波を解消する方法について提案されているが、腕相当部の引き込み変形を解消する方法については提案されていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、孔型圧延において安定的に継手部を造形することができるハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、ウェブ部、前記ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部、前記一対のフランジ部の各々の先端に設けられた一対の腕部、及び、前記一対の腕部の各々の先端に設けられた一対の継手部を有するハット形鋼矢板を、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上げ圧延機の各々における1または複数の孔型での被圧延材への複数回の圧延によって製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、前記中間圧延機による前記1または複数の孔型での中間圧延のうち、前記被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の長さよりも圧延出側での前記フランジ相当部の長さを長くする圧延を行う際に、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における全体の減面率をAとし、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における前記フランジ相当部の減面率をBとしたとき、B-A>0の関係を満たすように圧延することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、上記の発明において、前記中間圧延における前記被圧延材の圧延入側でのウェブ相当部の厚みが32[mm]以下であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、上記の発明において、前記ハット形鋼矢板の断面サイズに基づいて特定される定数をαとしたとき、前記全体の減面率Aと、前記フランジ相当部の減面率Bとが、0<B-A<αの関係を満たすように圧延することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造設備は、ウェブ部、前記ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部、前記一対のフランジ部の各々の先端に設けられた一対の腕部、及び、前記一対の腕部の各々の先端に設けられた一対の継手部を有するハット形鋼矢板を製造するハット形鋼矢板の製造設備であって、被圧延材を圧延する、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上げ圧延機を備えており、前記中間圧延機は、前記被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の長さよりも圧延出側での前記フランジ相当部の長さを長くする圧延を行う際に、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における全体の減面率をAとし、前記被圧延材の長手方向と直交する方向の断面における前記フランジ相当部の減面率をBとしたとき、B-A>0の関係を満たすように圧延する孔型を有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造設備は、上記の発明において、前記中間圧延機による中間圧延における前記被圧延材の圧延入側でのウェブ相当部の厚みが32[mm]以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造設備は、上記の発明において、前記孔型は、前記ハット形鋼矢板の断面サイズに基づいて特定される定数をαとしたとき、前記全体の減面率Aと、前記フランジ相当部の減面率Bとが、0<B-A<αの関係を満たすように圧延することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備は、孔型圧延において安定的に継手部を造形することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ハット形鋼矢板の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、形鋼圧延ラインの設備構成を示す説明図である。
【
図3】
図3は、中間圧延機に用いられる孔型の一例を示した図である。
【
図4】
図4は、被圧延材における圧延入側での全体の断面積についての説明図である。
【
図5】
図5は、被圧延材における圧延出側での全体の断面積についての説明図である。
【
図6】
図6は、被圧延材における圧延入側でのフランジ相当部の断面積についての説明図である。
【
図7】
図7は、被圧延材における圧延出側でのフランジ相当部の断面積についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法、及び、ハット形鋼矢板の製造設備の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本実施形態においては、被圧延材をウェブ相当部がフランジ相当部よりも上方に位置する姿勢(いわゆる逆U姿勢、あるいは、ハット姿勢)で圧延されるものとして説明するが、当然、本発明の適用範囲はその他の姿勢(例えばU姿勢)での圧延にも及ぶ。
【0018】
図1は、ハット形鋼矢板1の一例を示した図である。本実施形態において製造されるハット形鋼矢板1は、
図1に示すように、長手方向に直交する一様な断面形状がハット形である。ハット形鋼矢板1は、断面形状として、ウェブ部11と、一対のフランジ部12と、一対の腕部13と、一対の継手部14とを有する。ウェブ部11は、一方向(
図1の左右方向であり、以下では、「左右方向」とも称する。)に延在する部位である。一対のフランジ部12は、ウェブ部11の左右方向の両端に接続され、左右方向に対して傾いて延在する部位である。
図1に示す例では、一対のフランジ部12は、ウェブ部11の反対側の端部が上下方向(
図1の上下方向であり、左右方向に直交する方向)の下側となるように傾いて延在する。一対の腕部13は、一対のフランジ部12のウェブ部11が接続されていない側に接続され、左右方向に延在する部位である。一対の継手部14は、一対の腕部13のフランジ部12が接続されていない側に接続される部位であり、上下方向の上側または下側に開いた鉤状の形状を有する。一対の継手部14は、鋼矢板として用いられる際に、他の鋼矢板の継手部に嵌合することで、他の鋼矢板との接続に用いられる部位である。
【0019】
次に、ハット形鋼矢板1に製造に用いる形鋼圧延ラインについて説明する。
図2は、形鋼圧延ライン2の設備構成を示す説明図である。
【0020】
図2に示す形鋼圧延ライン2は、実施形態に係る鋼矢板の製造設備であり、ハット形鋼矢板1を製造する。形鋼圧延ライン2は、搬送テーブル8の上流側から下流側に向けて順に、加熱炉3、粗圧延機4、中間圧延機5、仕上げ圧延機6、及び、複数台のホットソー7を備えている。加熱炉3で加熱されたスラブ等の被圧延材は、複数の孔型を用いて、粗圧延機4、中間圧延機5、仕上げ圧延機6の順に熱間で孔型圧延され、
図1に示すハット形鋼矢板1の製品形状に仕上げられる。なお、本実施形態では、粗圧延機4、中間圧延機5及び仕上げ圧延機6による圧延をそれぞれ、粗圧延、中間圧延、仕上げ圧延ともいう。
【0021】
粗圧延機4は、例えば1台設置され、加熱炉3で加熱された被圧延材を、目標とする断面形状に近づけるように孔型圧延によって造形する。ここで、粗圧延機4には、1または複数の孔型を刻設した上ロール及び下ロールが配設されており、被圧延材を当該孔型で複数回圧延する。なお、被圧延材は、ハット形鋼矢板1を製造する場合に圧延される鋼材を意味し、形鋼圧延ライン2によって製造される製品のハット形鋼矢板1のウェブ部11に相当するウェブ相当部と、フランジ部12に相当するフランジ相当部と、腕部13に相当する腕相当部と、継手部14に相当する継手相当部とを備えている。
【0022】
中間圧延機5は、例えば2台設置され、粗圧延機4によって造形された被圧延材の全体の厚みを薄くするとともに、さらに製品の断面形状に近づけた被圧延材とするように孔型圧延によって造形する。
【0023】
図3は、中間圧延機5に用いられる孔型の一例を示した図である。
図3に示すように、中間圧延機5には、例えば、1つの孔型50が刻設された上ロール51及び下ロール52が配設される。なお、中間圧延機5には、1または複数の孔型を刻設した上ロール及び下ロールを配設され、当該孔型で被圧延材を複数回圧延する。
【0024】
仕上げ圧延機6で、例えば1台設置され、中間圧延機5によって造形された被圧延材を孔型圧延によって目標の断面形状に造形する。仕上げ圧延機6には、1または複数の孔型を刻設した上ロール及び下ロールが配設されており、被圧延材を当該孔型で複数回圧延する。また、仕上げ圧延機6の出側に設置された複数のホットソー7では、仕上げ圧延を終了して目標の断面形状に造形された被圧延材を所望の長さに切断する。これにより、形鋼圧延ライン2によって、製品となるハット形鋼矢板1が製造される。
【0025】
なお、実施形態に係る形鋼圧延ライン2において、粗圧延機4、中間圧延機5、及び、仕上げ圧延機6のそれぞれの台数としては、粗圧延機4を1台、中間圧延機5を2台、仕上げ圧延機を1台としているが、特に限定されるものではない。
【0026】
ここで、本願発明者らは、形鋼圧延ライン2におけるハット形鋼矢板1の孔型圧延において、被圧延材の長手方向と直交する方向の断面の全体の減面率(以下、単に「全体の減面率」と記す)と、被圧延材の長手方向と直交する方向の断面のフランジ相当部の減面率(以下、単に「フランジ相当部の減面率」と記す)とのバランスが、圧延後の断面形状に影響を与えることを見出した。なお、本実施形態において「全体の減面率」とは、圧延入側での全体の断面積と圧延出側での全体の断面積とに基づいて算出される割合である。また、本実施形態において「フランジ相当部の減面率」とは、圧延入側でのフランジ相当部の断面積と圧延出側でのフランジ相当部の断面積とに基づいて算出される割合である。
【0027】
図4は、被圧延材101における圧延入側での全体の断面積についての説明図である。なお、
図4中、Lw
0は圧延入側でのウェブ相当部111の長さであり、tw
0は圧延入側でのウェブ相当部111の厚みであり、Lf
0は圧延入側でのフランジ相当部112の長さ(脚長)であり、tf
0は圧延入側でのフランジ相当部112の厚みであり、La
0は圧延入側での腕相当部113の長さであり、ta
0は圧延入側での腕相当部113の厚みである。
図5は、被圧延材101における圧延出側での全体の断面積についての説明図である。なお、
図5中、Lw
1は圧延出側でのウェブ相当部111の長さであり、tw
1は圧延出側でのウェブ相当部111の厚みであり、Lf
1は圧延出側でのフランジ相当部112の長さ(脚長)であり、tf
1は圧延出側でのフランジ相当部112の厚みであり、La
1は圧延出側での腕相当部113の長さであり、ta
1は圧延出側での腕相当部113の厚みである。
【0028】
図4及び
図5に示すように、被圧延材101における全体の断面積は、被圧延材101の長手方向と直交する方向の断面において、ウェブ相当部111とフランジ相当部112と腕相当部113と継手相当部114とのそれぞれの断面積を合計した総断面積である。そして、
図4に示すように、被圧延材101における圧延入側での全体の断面積をS
0とし、
図5に示すように、被圧延材101における圧延出側での全体の断面積をS
1とすると、被圧延材101における全体の減面率Aは、下記数式(1)によって算出することができる。
【0029】
【0030】
ところで、被圧延材101のフランジ相当部112の高さ方向の長さ(脚長)を伸ばす圧延を行った際、フランジ相当部112は高さ方向だけではなく幅方向にも変形する。このとき、フランジ相当部112の圧下が不足すると、高さ方向への延伸のために不足する肉厚を補うため腕相当部113がフランジ相当部112に引き込まれる。このようなフランジ相当部112に腕相当部113が引き込まれることを抑制するためには、フランジ相当部112の高さ方向の延伸が十分に行われればよいことから、被圧延材101におけるフランジ相当部112の減面率Bを、被圧延材101における全体の減面率Aよりも大きくすればよい。
【0031】
図6は、被圧延材101における圧延入側でのフランジ相当部112の断面積についての説明図である。
図7は、被圧延材101における圧延出側でのフランジ相当部112の断面積についての説明図である。
【0032】
図6及び
図7に示すように、被圧延材101におけるフランジ相当部112の断面積は、被圧延材101の長手方向と直交する方向の断面において、左右2箇所のウェブ相当部111のそれぞれの断面積を合計した総断面積である。そして、
図6に示すように、被圧延材101における圧延入側でのフランジ相当部112の断面積をSf
0、被圧延材101における圧延出側でのフランジ相当部112の断面積をSf
1とすると、フランジ相当部112の減面率Bは、下記数式(2)によって算出することができる。
【0033】
【0034】
そして、上記したように、フランジ相当部112に腕相当部113が引き込まれるような腕相当部113の引き込み変形を抑制するためには、フランジ相当部112の減面率Bを、全体の減面率Aよりも大きくすればよいため、下記数式(3)の関係を満たせばよい。
【0035】
【0036】
さらに、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みtw0が32[mm]より大きくなると、フランジ相当部112の減面率Bよりも全体の減面率Aが大きくなりやすく、腕相当部113の引き込み変形が発生しやすくなる。そのため、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みtw0が、32[mm]以下となるように圧延条件を設定することが好ましい。
【0037】
また、ハット形鋼矢板1の圧延では、「フランジ波」と呼ばれる形状不良が発生することがある。フランジ波は、フランジ部12(の外面側)が平坦とはならずに長手方向で高さが変化し波打ち形状となる形状不良である。そして、本願発明者らは、フランジ波が、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が閾値α以上になると発生することを見出した。そのため、本実施形態においては、下記数式(4)に示すように、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が閾値α未満となるように圧延条件を設定する。
【0038】
【0039】
なお、断面サイズが45H及び50Hのハット形鋼矢板1においては、操業実績から閾値αが0.08であることが分かっている。また、閾値αは、ハット形鋼矢板1の断面サイズに基づいて特定される定数であって、ハット形鋼矢板1の断面サイズによって異なり、例えば、断面サイズが10H及び25Hのハット形鋼矢板1では、操業実績から閾値αが0.07であることが分かっている。さらに、その他の断面サイズのハット形鋼矢板1については、適宜操業によって閾値αを特定することができる。
【実施例0040】
次に、本願発明者らが、上記の形鋼圧延ライン2を用いて、下記の実施例1~4及び比較例1~3のように圧延条件を変更して実施した、ハット形鋼矢板1の圧延における被圧延材101の腕相当部113の引き込み変形及びフランジ波のそれぞれの発生有無の評価試験について説明する。なお、本評価試験でのハット形鋼矢板1の断面サイズは45Hであり、上記数式(4)の閾値αは0.08とする。また、以下において、特に言及しない圧延条件は、実施例1~4及び比較例1~3で同じである。
【0041】
[実施例1]
実施例1は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが28[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、フランジ相当部112の高さ方向の長さである脚長を伸ばすパス(脚長伸ばしパス)が中間圧延の1パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.14、フランジ相当部112の減面率Bが0.16となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.09、フランジ相当部112の減面率Bが0.12となるように設定した。
【0042】
[実施例2]
実施例2は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが28[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目及び2パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.14、フランジ相当部112の減面率Bが0.18となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.09、フランジ相当部112の減面率Bが0.10となるように設定した。
【0043】
[実施例3]
実施例3は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが28[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.14、フランジ相当部112の減面率Bが0.16となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.14、フランジ相当部112の減面率Bが0.25となるように設定した。
【0044】
[実施例4]
実施例4は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが34[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.29、フランジ相当部112の減面率Bが0.30となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.11、フランジ相当部112の減面率Bが0.12となるように設定した。
【0045】
[比較例1]
比較例1は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが28[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.19、フランジ相当部112の減面率Bが0.16となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.07、フランジ相当部112の減面率Bが0.12となるように設定した。
【0046】
[比較例2]
比較例2は、中間圧延における圧延入側でのウェブ相当部111の厚みが28[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目及び2パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.14、フランジ相当部112の減面率Bが0.18となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.12、フランジ相当部112の減面率Bが0.10となるように設定した。
【0047】
[比較例3]
比較例3は、中間圧延における圧延入側でのウェブ厚が34[mm]であり、中間圧延のパス回数が7回、脚長伸ばしパスが中間圧延の1パス目である。中間圧延の1パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.25、フランジ相当部112の減面率Bが0.16となるように設定した。また、中間圧延の2パス目の圧延条件は、全体の減面率Aが0.11、フランジ相当部112の減面率Bが0.12となるように設定した。
【0048】
なお、実施例1~4及び比較例1~3の共通の圧延条件として、中間圧延の1パス目入側では、ウェブ相当部111の幅が330[mm]、フランジ相当部112の幅が200[mm]、腕相当部113の幅が330[mm]、及び、全体幅が860[mm]となるように圧延条件を設定した。同様に、中間圧延の2パス目入側(1パス目出側)では、ウェブ相当部111の幅が335[mm]、フランジ相当部112の幅が205[mm]、腕相当部113の幅が335[mm]、全体幅が875[mm]となるように設定した。また、同様に、中間圧延の3パス目入側(2パス目出側)では、ウェブ相当部111の幅が335[mm]、フランジ相当部112の幅が210[mm]、腕相当部113の幅が335[mm]、全体幅が880[mm]となるように設定した。
【0049】
実施例1~4及び比較例1~3のそれぞれの圧延条件と、腕相当部113の引き込み変形及びフランジ波のそれぞれの発生有無の評価結果とを、表1に示す。
【0050】
【0051】
実施例1では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.02とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしており、腕相当部113の引き込み変形が発生しなかった。また、実施例1では、フランジ波も発生しなかった。
【0052】
実施例2では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.03とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしており、中間圧延での脚長を伸ばす2パス目でもフランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.01とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしており、腕相当部113の引き込み変形が発生しなかった。また、実施例2では、フランジ波も発生しなかった。
【0053】
実施例3では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.02とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしており、腕相当部113の引き込み変形が発生しなかった。一方、実施例3では、中間圧延の2パス目でフランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.10であり、上記数式(4)における閾値αである0.08よりも大きくなっており、フランジ波が発生した。
【0054】
実施例4では、中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚みが34[mm]であり、実施例1~3の中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚み32[mm]よりも厚くなっている。実施例4では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.01とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしており、腕相当部113の引き込み変形が発生しなかった。なお、実施例4において、中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚みが32[mm]よりも厚いにもかかわらず、腕相当部113の引き込み変形が発生しなかった理由としては、中間圧延における圧延入側のフランジ相当部112の厚みを24[mm]とし、他の実施例1~3の中間圧延における圧延入側のフランジ相当部112の厚み20[mm]よりも厚くなるようにしたためであると考えられる。また、実施例4では、フランジ波も発生しなかった。
【0055】
比較例1では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が-0.03とマイナスになっており、上記数式(3)の関係を満たしておらず、腕相当部113の引き込み変形が発生した。なお、比較例1では、フランジ波が発生しなかった。
【0056】
また、比較例2では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が0.03とプラスになって上記数式(3)の関係を満たしているが、中間圧延での脚長を伸ばす2パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が-0.02とマイナスになって上記数式(3)の関係を満たしておらず、腕相当部113の引き込み変形が発生した。なお、比較例2では、フランジ波が発生しなかった。
【0057】
比較例3では、中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚みが34[mm]であり、比較例1及び2の中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚み32[mm]よりも厚くなっている。また、比較例3では、同様に中間圧延における圧延入側のウェブ相当部111の厚みが34[mm]である実施例4とは違い、中間圧延における圧延入側のフランジ相当部112の厚みを他の比較例1及び2と同様に20[mm]としている。比較例3では、中間圧延での脚長を伸ばす1パス目で、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が-0.09とマイナスになって上記数式(3)の関係を満たしておらず、腕相当部113の引き込み変形が発生した。なお、比較例3では、フランジ波が発生しなかった。
【0058】
以上、実施例1~4では、中間圧延での脚長を伸ばすパスにおいて、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差がプラスになって上記数式(3)の関係を満たすため、腕相当部113の引き込み変形の発生を抑制できることがわかる。また、実施例1、2及び4では、中間圧延において、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差が、上記のように閾値αを0.08として上記数式(4)の関係を満たすため、フランジ波の発生を抑制できることがわかる。一方、比較例1~3では、中間圧延での脚長を伸ばすパスにおいて、フランジ相当部112の減面率Bと全体の減面率Aとの差がマイナスになって上記数式(3)の関係を満たさないため、腕相当部113の引き込み変形が発生することがわかる。