(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173287
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】石炭貯蔵方法
(51)【国際特許分類】
B65G 3/02 20060101AFI20231130BHJP
C10L 5/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B65G3/02 F
C10L5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085445
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 翔吾
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA10
4H015AB01
4H015BA05
4H015BA07
4H015BA08
4H015BB04
4H015BB10
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】石炭の粘度の上昇を抑え、水道費用および人件費の低減を可能とする石炭貯蔵方法を提供する。
【解決手段】発電設備で発電を行う際に燃料として使用される石炭の貯蔵方法であって、前記石炭を破砕するとともに、破砕後の前記石炭に水を加えることで、泥状炭を生成する第1ステップと、前記石炭が山積みされて形成された石炭パイルの表面に前記泥状炭を塗布する第2ステップと、前記石炭パイルの表面に塗布された前記泥状炭に定期的に散水する第3ステップと、前記泥状炭が塗布された前記石炭パイルの内部温度を測定する第4ステップと、前記石炭パイルの内部温度が所定温度を超えた場合、前記石炭パイルを一度崩してから前記石炭パイルを再度形成し、前記第2ステップに戻る第5ステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備で発電を行う際に燃料として使用される石炭の貯蔵方法であって、
前記石炭を破砕するとともに、破砕後の前記石炭に水を加えることで、泥状炭を生成する第1ステップと、
前記石炭が山積みされて形成された石炭パイルの表面に前記泥状炭を塗布する第2ステップと、
前記石炭パイルの表面に塗布された前記泥状炭に定期的に散水する第3ステップと、
前記泥状炭が塗布された前記石炭パイルの内部温度を測定する第4ステップと、
前記石炭パイルの内部温度が所定温度を超えた場合、前記石炭パイルを一度崩してから前記石炭パイルを再度形成し、前記第2ステップに戻る第5ステップと、
を含む石炭貯蔵方法。
【請求項2】
請求項1に記載の石炭貯蔵方法であって、
前記第4ステップにおいて、前記石炭パイルの表面寄りの内部温度を測定する
石炭貯蔵方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の石炭貯蔵方法であって、
前記第5ステップにおいて、前記石炭パイルの内部温度が所定温度を超えない場合、前記第4ステップに戻る
石炭貯蔵方法。
【請求項4】
発電設備で発電を行う際に燃料として使用される石炭の貯蔵方法であって、
前記石炭を破砕するとともに、破砕後の前記石炭に水を加えることで、泥状炭を生成する第1ステップと、
前記石炭が山積みされて形成された石炭パイルの表面に前記泥状炭を塗布する第2ステップと、
前記石炭パイルの表面に塗布された前記泥状炭に定期的に散水する第3ステップと、
前記石炭パイルが形成されてからの経過時間を計測する第4ステップと、
前記石炭パイルが形成されてからの経過時間が所定時間を超えた場合、前記石炭パイルを一度崩してから前記石炭パイルを再度形成し、前記第2ステップに戻る第5ステップと、
を含む石炭貯蔵方法。
【請求項5】
請求項4に記載の石炭貯蔵方法であって、
前記第5ステップにおいて、前記石炭パイルが形成されてからの経過時間が所定時間を超えない場合、前記第4ステップに戻る
石炭貯蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電設備で発電を行う際に燃料として使用される石炭を貯蔵するのに好適な石炭貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電設備の1つである火力発電所では、定格出力で数日間連続して発電することができるように、発電の際に燃料として使用される多量の石炭を貯蔵および管理している。
【0003】
通常、多量の石炭は、火力発電所内の貯炭場に山積みされ、堆積、貯蔵されることが多い。このように山積みされた石炭(以下、石炭パイルと称する)が長時間放置されると、石炭パイル内部で隣り合う石炭の隙間に空気が流入し、石炭に含まれる炭素や硫黄分等と空気中の酸素とが酸化反応を起こし、その反応熱が熱エネルギーとして石炭パイルの内部に蓄積され、時間の経過とともに石炭パイル内部の温度は上昇する。そして、石炭パイル内部の温度が限界温度を超えると、自然発火現象が生じる。特に、石炭化度が低く揮発分或いは硫黄分が高い石炭は、長時間貯蔵されると発熱しやすく、温度管理を怠ると自然発火を起こしやすい。貯蔵された石炭パイルのこのような発火を伴う発熱は、管理上大きな問題である。
【0004】
そこで、石炭パイルの内部温度の管理対策として、例えば、石炭パイルに数メートルの長さを有する温度計を差し込んで、石炭パイルの中層の温度を常時計測する一方、石炭パイルの中層の温度が上記の限界温度に近づいてきたら、石炭パイルに散水を施すことで、石炭パイルの内部温度を全体的に下げるように対策していた。一方、石炭パイルに散水を施しても、上記の酸化反応が進んで石炭パイルの中層の温度が限界温度に達してしまった場合、重機を用いて石炭パイルを一度崩すことによって石炭の放熱を促し、更に、重機を用いて石炭を転圧することによって上記の酸化反応を抑制し、その後、これらの石炭から石炭パイルを再度形成し、上記と同様の管理対策を行うようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、石炭パイルの中層の温度が限界温度に近づく度に石炭パイルに散水を施すことから、石炭全体の湿度は高くなっており、また、石炭パイルの中層の温度が限界温度に達すると、石炭パイルを崩して重機で転圧することから、石炭が小粒子化して石炭の粘度は上昇している。石炭パイルを崩した場合、上記の湿度および粘度が高い石炭を用いて石炭パイルを再度形成するが、火力発電所で発電を行う際の燃料として、この石炭パイルを形成する石炭を使用することとなった場合、石炭パイルを崩して石炭をボイラーへ搬送する必要がある。しかし、石炭の粘度が上昇していることから、石炭をボイラーへ搬送するときに石炭が搬送設備に付着してしまい、石炭が搬送設備内に目詰まりする虞があった。
【0007】
また、石炭パイルの中層の温度が限界温度に近づく度に石炭パイルに散水を施すことから、多量の水を使用しなければならず、水道費用が高くなる虞があった。
【0008】
また、石炭パイルの中層の温度が限界温度に近づく度に石炭パイルに散水を施し、石炭パイルの中層の温度が限界温度に達すると、重機を用いて石炭パイルを崩すとともに石炭全体を転圧することから、人件費が高くなる虞があった。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、石炭の粘度の上昇を抑え、水道費用および人件費の低減を可能とする石炭貯蔵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段の一つは、発電設備で発電を行う際に燃料として使用される石炭の貯蔵方法であって、前記石炭を破砕するとともに、破砕後の前記石炭に水を加えることで、泥状炭を生成する第1ステップと、前記石炭が山積みされて形成された石炭パイルの表面に前記泥状炭を塗布する第2ステップと、前記石炭パイルの表面に塗布された前記泥状炭に定期的に散水する第3ステップと、前記泥状炭が塗布された前記石炭パイルの内部温度を測定する第4ステップと、前記石炭パイルの内部温度が所定温度を超えた場合、前記石炭パイルを一度崩してから前記石炭パイルを再度形成し、前記第2ステップに戻る第5ステップと、を含む。
【0011】
その他、本願が開示する課題、およびその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、石炭の粘度の上昇を抑え、水道費用および人件費の低減を可能とする石炭貯蔵方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る石炭貯蔵方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本実施形態に係る石炭貯蔵方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図3】本実施形態に係る石炭貯蔵方法のステップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。尚、本実施形態では、発電設備は火力発電所であり、石炭は火力発電所で発電を行う際にボイラーで使用される燃料であることとする。
【0015】
===第1実施形態===
図1は、本実施形態に係る石炭貯蔵方法の一例を示すフローチャートである。
図3は、本実施形態に係る石炭貯蔵方法のステップを説明する図である。ここで、
図3(A)は、火力発電所の屋内貯炭場において、屋内貯炭場の天井1に開口した落下口2から多量の石炭3が落下して山積みされることにより、実質的に円錐形状を呈する石炭山4が形成されたことを示す側面図である。
図3(B)は、
図3(A)の石炭山4を崩した後、重機を用いて実質的に四角推台形状を呈する石炭パイル5が形成されたことを示す側面図である。
図3(C)は、
図3(B)の石炭パイル5を天井1の落下口2側から見た上面図である。
図3(D)は、
図3(B)(C)の石炭パイル5の表面全体に対して、重機を用いて泥状炭6を塗布した状態を示す側面図である。
図3(E)は、
図3(D)の泥状炭6を塗布した石炭パイル5を天井1の落下口2側から見た上面図である。尚、
図3(C)(D)(E)において、石炭パイル5を形成する個々の石炭3の描写は省略している。
【0016】
火力発電所には、例えば石炭3を貯蔵するための屋内貯炭場が用意されている。この屋内貯炭場の天井1には、屋内貯炭場の床に向かって石炭3を落下させるための落下口2が開口している。そして、ベルトコンベアにより運び込まれる多量の石炭3を落下口2から落下させることにより、屋内貯炭場には、最初はおよそ100m径の円錐形状を呈する石炭山4が形成されていることとする。このように山積みされた石炭山4の内部で隣り合う石炭の隙間には空気が流入するため、石炭3に含まれる炭素や硫黄分等と空気中の酸素とが酸化反応を起こし、その反応熱が熱エネルギーとして石炭山4の内部に蓄積され、時間の経過とともに石炭山4の内部の温度は上昇する。そして、石炭山4の内部の温度が限界温度を超えると、自然発火現象が生じることとなる。そこで、石炭3の粘度の上昇を抑え、水道費用および人件費を低減させて、この自然発火現象を起きにくくする石炭貯蔵方法が求められている。
【0017】
図1のフローチャートを実行する前の準備段階として、屋内貯炭場に予め貯炭されていた石炭3を用いて泥状炭6を生成しておく。具体的には、例えば重機を用いて石炭3を破砕して小粒化し、例えばスプリンクラーを用いて破砕後の石炭3に散水を施すことで、泥状化された石炭(泥状炭6)を生成する。そして、泥状炭6を生成した後、
図1のフローチャートを実行する。
【0018】
先ず、ベルトコンベアにより運び込まれる多量の石炭3を落下口2から落下させる。これにより、屋内貯炭場には、多量の石炭3が山積みされ、およそ100m径の円錐形状を呈する石炭山4が形成される。(ステップS110)
【0019】
次に、石炭山4は上記の酸化反応によって自然発火する虞があるので、石炭山4の内部の温度を監視する必要がある。そこで、数mの長さを有する複数の温度計7を用意し、複数の温度計7をそれぞれ石炭山4の異なる場所に差し込み、石炭山4の異なる場所における中層の温度を計測して監視する。ここで、温度計7の長さは数mであるので、石炭山4の中層の温度を計測する場所は、石炭山4の表面寄りの場所であることが分かる。石炭山4の深層に近づくほど、隣り合う石炭3同士にかかる圧力が大きくなるため、隣り合う石炭3の間の隙間が小さくなり、隣り合う石炭3の間に空気が流入しにくくなる。つまり、石炭山4の深層よりも表面に近い中層の方が、空気の流入量が多く温度が高くなる傾向にある。そこで、石炭山4の表面寄りの異なる場所の温度を、複数の温度計7を用いて計測する。尚、複数の温度計7による温度の計測結果を例えばコンピュータに取り込み、集中的に監視できるようにしてもよい。(ステップS120)
【0020】
次に、石炭山4に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果に注目する。その温度計7が示す温度が、自然発火の危険が高まるかどうかを判断する閾値である限界温度(例えば60~70℃)に最も近い温度ではあるものの、その限界温度を超えてはいない場合(ステップS130:NO)、ステップS120に戻り、石炭山4の中層の内部温度を再び監視する。つまり、石炭山4に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果が上記の限定温度を超えない限り、ステップS120およびステップS130のルーティン処理を繰り返す。
【0021】
一方、石炭山4に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果が上記の限定温度を超えた場合(ステップS130:YES)、石炭山4の内部で自然発火を生じる可能性が高くなったことから、石炭山4を一度崩す必要がある。具体的には、重機を用いて石炭山4を一度崩すことで石炭山4の内部にこもっていた熱を放熱し、更に、重機を用いて石炭3を転圧することで石炭山4の内部で生じていた酸化反応を抑制し、その後、重機を用いてこれらの石炭3から石炭山4(以下、ステップS140以降の石炭山を石炭パイル5と称する)を形成する。本実施形態では、この石炭パイル5は、底面の一辺がおよそ100mの長さを有する四角錐台形状を呈していることとする。(ステップS140)
【0022】
次に、重機を用いて、予め生成しておいた泥状炭6をこの石炭パイル5の表面全体に亘って塗布する。石炭パイル5の表面に塗布される泥状炭6の厚みは数十cm程度である。泥状炭6は、石炭パイル5の表面に塗布されると、石炭パイル5の表面から石炭パイル5を形成する石炭3の隙間に入り込み、石炭パイル5への空気の流入を抑制する。これにより、石炭3の酸化反応を抑制することが可能となる。(ステップS150)
【0023】
ステップS150において、石炭パイル5の表面全体に泥状炭6を塗布することで、石炭パイル5への空気の流入を抑制したが、石炭パイル5を形成している石炭3の中で、隣り合う石炭3の間の隙間がなくなった訳ではないので、石炭パイル5の内部で酸化反応が生じる可能性があることを考慮し、石炭パイル5の内部の温度を監視する必要がある。そこで、上記のステップS120と同様に、数mの長さを有する複数の温度計7を用意し、複数の温度計7をそれぞれ石炭パイル5の異なる場所に塗布後の泥状炭6を介して差し込み、石炭パイル5の異なる場所における表面寄りの温度を計測して監視する。(ステップS160)
【0024】
次に、石炭パイル5に塗布した後の泥状炭6が泥状態を維持することができるように、例えばスプリンクラーを用いて、泥状炭6の表面全体に亘って散水を定期的に行う。(ステップS170)
【0025】
次に、石炭パイル5に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果に注目する。その温度計7が示す温度が、自然発火の危険が高まるかどうかを判断する閾値である上記の限界温度に最も近い温度ではあるものの、その限界温度を超えてはいない場合(ステップS180:NO)、ステップS160に戻り、石炭パイル5の内部温度を再び監視する。つまり、石炭パイル5に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果が上記の限定温度を超えない限り、ステップS160~ステップS180のルーティン処理を繰り返す。
【0026】
一方、石炭パイル5に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果が上記の限定温度を超えた場合(ステップS180:YES)、石炭パイル5の内部で自然発火を生じる可能性が高くなったことから、石炭パイル5を一度崩す必要がある。具体的には、ステップS140に戻り、重機を用いて石炭パイル5を塗布後の泥状炭6とともに一度崩すことで石炭パイル5の内部にこもっていた熱を放熱し、更に、重機を用いて石炭3を転圧することで石炭パイル5の内部で生じていた酸化反応を抑制し、その後、重機を用いてこれらの石炭3と泥状炭6とが混ぜ合わさった状態で石炭パイル5を再度形成する。つまり、石炭パイル5に差し込んだ複数の温度計7の計測結果の中で、最も高い温度を示す温度計7の計測結果が上記の限定温度を超えると、ステップS140~ステップS180のルーティン処理を繰り返す。
【0027】
このように、石炭パイル5の内部を温度管理する際に、石炭パイル5の表面全体に泥状炭6を数十cmの厚みで塗布する工程を追加することで、石炭パイル5の内部の酸化反応を抑制することができ、石炭パイル5の内部が温度上昇しにくくなった。これにより、散水はステップS170において石炭パイル5の表面全体に塗布後の泥状炭6に行うだけでよいので、散水の頻度が減り、水道費用を低減することが可能となる。また、石炭パイル5の内部が温度上昇しにくくなることに伴って、石炭パイル5を重機で崩すまでの期間が長くなるので、人件費も低減することが可能となる。また、石炭パイル5を崩して石炭3を重機で転圧するまでの期間も長くなるので、石炭3の粘度が上昇するのを抑えることが可能となる。尚、ステップS140において石炭パイル5を再度形成する際、石炭パイル5を崩したときの石炭3と泥状炭6を混ぜ合わせるが、石炭パイル5を形成する石炭3に対する泥状炭6の割合は僅かであるため、石炭3の粘度は、石炭3を燃料としてボイラーまで搬送する際に支障を与えるほど上昇することはない。
【0028】
===第2実施形態===
図2は、本実施形態に係る石炭貯蔵方法の他の例を示すフローチャートである。第1実施形態では、石炭山4および石炭パイル5の内部における自然発火を防止するために、石炭山4および石炭パイル5の内部の温度を監視している。これに対し、第2実施形態では、石炭山4および石炭パイル5の内部における自然発火を防止するために、石炭山4および石炭パイル5が形成されてからの経過時間を監視している点が、第1実施形態と異なる。
【0029】
図2のフローチャートを実行する前の準備段階として、第1実施形態と同様に、屋内貯炭場に予め貯炭されていた石炭3を用いて泥状炭6を生成しておく。そして、泥状炭6を生成した後、
図2のフローチャートを実行する。
【0030】
先ず、ベルトコンベアにより運び込まれる多量の石炭3を落下口2から落下させる。これにより、屋内貯炭場には、多量の石炭3が山積みされ、およそ100m径の円錐形状を呈する石炭山4が形成される。(ステップS210)
【0031】
次に、石炭山4は上記の酸化反応によって自然発火する虞があるので、石炭山4が形成されてから、石炭山4が自然発火する危険が高まるとされる限界温度(60~70℃)に達するまでの、経過時間を監視する必要がある。そこで、過去に形成された複数の石炭山4を利用して、石炭山4の内部の温度が限界温度に達するまでの、石炭山4を形成してからの経過時間を事前に実験データとして求めておく。具体的には、数mの長さを有する複数の温度計7を用意し、複数の温度計7をそれぞれ石炭山4の異なる場所に差し込み、石炭山4の異なる場所における表面寄りの温度(空気の流入量が多く温度が高くなる傾向にある場所の温度)を計測する。そして、石炭山4が形成されてから、複数の温度計7の計測結果の中で最も高くなっている温度が上記の限界温度に達するまでの経過時間を計測し、この経過時間を実験データとして用意しておく。尚、複数の経過時間のデータの中で、実際に採用する経過時間のデータは、石炭山4が自然発火することがないように、安全を考慮して、例えば最短となる経過時間のデータであることとする。尚、複数の石炭山4は、およそ100mの径を有する円錐形状を呈しており、石炭山4の内部の温度が限界温度に達するまでの石炭山4を形成してからの経過時間を求めるにあたり、複数の石炭山4に求められる条件は、実質的に同一である。そして、石炭山4が形成された後、タイマーを用いて、石炭山4が形成されてからの経過時間を計測する。(ステップS220)
【0032】
次に、石炭山4が形成されてからの経過時間が、実験データから採用された経過時間を超えたかどうかに注目する。石炭山4が形成されてからの経過時間が、実験データから採用された経過時間を超えていない場合(ステップS230:NO)、ステップS220に戻り、石炭山4が形成されてからの経過時間を引き続き計測する。つまり、石炭山4が形成されてからの経過時間が、実験データから採用された経過時間を超えない限り、ステップS220およびステップS230のルーティン処理を繰り返す。
【0033】
一方、石炭山4が形成されてからの経過時間が、実験データから採用された経過時間を超えた場合(ステップS230:YES)、石炭山4の内部で自然発火を生じる可能性が高くなったことから、石炭山4を一度崩す必要がある。具体的には、第1実施形態と同様に、重機を用いて石炭山4を一度崩すことで石炭山4の内部にこもっていた熱を放熱し、更に、重機を用いて石炭3を転圧することで石炭山4の内部で生じていた酸化反応を抑制し、その後、重機を用いてこれらの石炭3から石炭パイル5を形成する。(ステップS240)
【0034】
次に、重機を用いて、予め生成しておいた泥状炭6をこの石炭パイル5の表面全体に亘って数十cmの厚みで塗布する。泥状炭6は、石炭パイル5の表面に塗布されると、石炭パイル5の表面から石炭パイル5を形成する石炭3の隙間に入り込み、石炭パイル5への空気の流入を抑制する。ひいては、石炭3の酸化反応を抑制する。(ステップS250)
【0035】
ステップS250において、石炭パイル5の表面全体に泥状炭6を塗布することで、石炭パイル5への空気の流入を抑制したが、石炭パイル5を形成している石炭3の中で、隣り合う石炭3の間の隙間がなくなった訳ではないので、石炭パイル5の内部で酸化反応が生じる可能性があることを考慮し、石炭パイル5が形成されてからの経過時間を監視する必要がある。そこで、上記のステップS220と同様に、過去に形成された複数の石炭パイル5を利用して、石炭パイル5の内部の温度が限界温度に達するまでの、石炭パイル5を形成してからの経過時間を事前に実験データとして求めておく。具体的には、数mの長さを有する複数の温度計7を用意し、複数の温度計7をそれぞれ石炭パイル5の異なる場所に差し込み、石炭パイル5の異なる場所における表面寄りの温度(空気の流入量が多く温度が高くなる傾向にある場所の温度)を計測する。そして、石炭パイル5が形成されてから、複数の温度計7の計測結果の中で最も高くなっている温度が上記の限界温度に達するまでの経過時間を計測し、この経過時間を実験データとして用意しておく。尚、複数の経過時間のデータの中で、実際に採用する経過時間のデータは、石炭パイル5が自然発火することがないように、安全を考慮して、例えば最短となる経過時間のデータであることとする。尚、複数の石炭パイル5は、およそ100mの径を有する四角推台形状を呈しており、石炭パイル5の内部の温度が限界温度に達するまでの石炭パイル5を形成してからの経過時間を求めるにあたり、複数の石炭パイル5は実質的に同一のものである。そして、石炭パイル5が形成された後、タイマーを用いて、石炭パイル5が形成されてからの経過時間を計測する。(ステップS260)
【0036】
次に、石炭パイル5に塗布した後の泥状炭6が泥状態を維持することができるように、例えばスプリンクラーを用いて、泥状炭6の表面全体に亘って散水を定期的に行う。(ステップS270)
【0037】
次に、石炭パイル5が形成されてからの経過時間が、実際に採用された経過時間を超えていない場合(ステップS280:NO)、ステップS260に戻り、石炭パイル5が形成されてからの経過時間を引き続き計測する。つまり、石炭パイル5が形成されてからの経過時間が、実際に採用された経過時間を超えない限り、ステップS260~ステップS280のルーティン処理を繰り返す。
【0038】
一方、石炭パイル5が形成されてからの経過時間が、実際に採用された経過時間を超えた場合(ステップS280:NO)、石炭パイル5の内部で自然発火を生じる可能性が高くなったことから、石炭パイル5を一度崩す必要がある。具体的には、ステップS240に戻り、重機を用いて石炭パイル5を塗布後の泥状炭6とともに一度崩すことで石炭パイル5の内部にこもっていた熱を放熱し、更に、重機を用いて石炭3を転圧することで石炭パイル5の内部で生じていた酸化反応を抑制し、その後、重機を用いてこれらの石炭3と泥状炭6とが混ぜ合わさった状態で石炭パイル5を再度形成する。つまり、石炭パイル5が形成されてからの経過時間が、実際に採用された経過時間を超えると、ステップS240~ステップS280のルーティン処理を繰り返す。
【0039】
このように、石炭パイル5が形成されてからの経過時間を計測する際に、石炭パイル5の表面全体に泥状炭6を数十cmの厚みで塗布する工程を追加することで、石炭パイル5の内部の酸化反応を抑制することができ、石炭パイル5の内部が温度上昇しにくくなった。これにより、散水はステップS270において石炭パイル5の表面全体に塗布後の泥状炭6に行うだけでよいので、散水の頻度が減り、水道費用を低減することが可能となる。また、石炭パイル5の内部が温度上昇しにくくなることに伴って、石炭パイル5を重機で崩すまでの期間が長くなるので、人件費も低減することが可能となる。また、石炭パイル5を崩して石炭3を重機で転圧するまでの期間も長くなるので、石炭3の粘度が上昇するのを抑えることが可能となる。
【0040】
===まとめ===
以上説明したように、第1実施形態に係る石炭貯蔵方法は、石炭3を破砕するとともに、破砕後の石炭3に水を加えることで、泥状炭6を生成する第1ステップと、石炭3から形成された石炭パイル5の表面に泥状炭6を塗布する第2ステップと、石炭パイル5の表面に塗布された泥状炭6に定期的に散水する第3ステップと、泥状炭6が塗布された石炭パイル5の内部温度を測定する第4ステップと、石炭パイル5の内部温度が限界温度を超えた場合、石炭パイル5を一度崩してから石炭パイル5を再度形成し、第2ステップに戻る第5ステップと、を含んでいる。また、第2実施形態に係る石炭貯蔵方法は、石炭3を破砕するとともに、破砕後の石炭3に水を加えることで、泥状炭6を生成する第1ステップと、石炭3から形成された石炭パイル5の表面に泥状炭6を塗布する第2ステップと、石炭パイル5の表面に塗布された泥状炭6に定期的に散水する第3ステップと、石炭パイル5が形成されてからの経過時間を計測する第4ステップと、石炭パイル5が形成されてからの経過時間が予め定められた時間を超えた場合、石炭パイル5を一度崩してから石炭パイル5を再度形成し、第2ステップに戻る第5ステップと、を含んでいる。従って、泥状炭6が表面に塗布された石炭パイル5の内部温度、または、泥状炭6が表面に塗布された石炭パイル5が形成されてからの経過時間を監視することにより、石炭3を一定の品質で貯蔵するにあたり、石炭の粘度の上昇を抑え、水道費用および人件費を低減する石炭貯蔵方法を提供することが可能となる。
【0041】
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、石炭ガス化炉、ガスタービン、蒸気タービンを組み合わせた複雑なプラントの燃料として石炭を用いる場合の、貯炭場に山積みされる石炭に対して、本発明の石炭貯蔵方法を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 天井
2 落下口
3 石炭
4 石炭山
5 石炭パイル
6 泥状炭
7 温度計