(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173298
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】繊維製品
(51)【国際特許分類】
D02G 3/12 20060101AFI20231130BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20231130BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
D02G3/12
D02G3/04
D02G3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085457
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 剛
(72)【発明者】
【氏名】笠原 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】武田 建史郎
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA34
4L036MA39
4L036PA21
4L036RA24
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】タングステン線の断線の発生を抑制する。
【解決手段】繊維製品は、伸び率が5%以上であるタングステン線10と、タングステン線10に組み合わせられた有機繊維20と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸び率が5%以上であるタングステン線と、
前記タングステン線に組み合わせられた有機繊維と、を備える、
繊維製品。
【請求項2】
前記タングステン線の線径は、40μm以下である、
請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記タングステン線は、タングステンと、タングステンとは異なる少なくとも1種類の金属元素との合金からなる合金線である、
請求項1に記載の繊維製品。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の金属元素は、第7族又は第8族に含まれる元素である、
請求項3に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記タングステン線は、その曲率半径が13.6μm以下の所定値になるまで曲げても破断しない、
請求項1に記載の繊維製品。
【請求項6】
前記有機繊維は、合成繊維、天然繊維及び再生繊維からなる群から選択される少なくとも1つの繊維であり、
前記有機繊維がモノフィラメントである場合の前記有機繊維の伸び率は、70%以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維製品。
【請求項7】
前記タングステン線と前記有機繊維とは、撚り糸を構成している、
請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維製品。
【請求項8】
前記撚り糸は、前記有機繊維を芯糸とし、前記タングステン線を鞘糸とするカバーリング糸である、
請求項7に記載の繊維製品。
【請求項9】
前記繊維製品は、織物、編物、組み物、撚り糸及びミシン糸からなる群から選択される1つである、
請求項7に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面が荒らされたタングステン線と、アラミド繊維又はナイロン系繊維とが組み合わされた金属繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タングステン線は、一般的に延性が小さい。このため、タングステン線は、繊維の伸縮に追従できずに断線するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、タングステン線の断線の発生を抑制することができる繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る繊維製品は、伸び率が5%以上であるタングステン線と、前記タングステン線に組み合わせられた有機繊維と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る繊維製品によれば、タングステン線の断線の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る撚り糸の模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る撚り糸が備えるタングステン線の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例に係るタングステン線の伸び率と引張強度との関係を示す散布図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る撚り糸の伸びる前後の状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、有機繊維として利用可能な繊維の種類毎の伸び率の最大値を示す図である。
【
図6】
図6は、線径の異なる複数の有機繊維の各々に対して所定の巻数でタングステン線を巻きつけた場合の撚り糸のLp/Rpの例を示す図である。
【
図7】
図7は、有機繊維の伸び率Tpが0%~40%の範囲において、タングステン線に求められる伸び率Twを表す図である。
【
図8】
図8は、有機繊維の伸び率Tpが0%~100%の範囲において、タングステン線に求められる伸び率Twを表す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る撚り糸を備える繊維製品の模式図である。
【
図10】
図10は、実施の形態に係るタングステン線のコイリング試験の概要を示す図である。
【
図11】
図11は、実施の形態に係るタングステン線及び有機繊維を用いて製織された金属メッシュの断面図である。
【
図12A】
図12Aは、コイリング試験後の実施例16に係るタングステン線の外観を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、コイリング試験後の比較例10に係るタングステン線の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態に係る繊維製品について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0011】
また、本明細書において、要素間の関係性を示す用語、要素の形状を示す用語、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0012】
(実施の形態)
[撚り糸]
まず、本実施の形態に係る撚り糸の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る撚り糸1を示す模式図である。
【0013】
撚り糸1は、繊維製品の一例である。
図1に示されるように、撚り糸1は、タングステン線10と、タングステン線10に組み合わされた有機繊維20と、を備える。タングステン線10と有機繊維20とは、撚り糸1を構成している。
【0014】
本実施の形態では、撚り糸1は、有機繊維20を芯糸とし、タングステン線10を鞘糸とするカバーリング糸である。例えば、有機繊維20を芯糸として延伸させて固定し、有機繊維20の周りにタングステン線10を鞘糸として巻き回す(すなわち、カバーリング加工を行う)ことで、撚り糸1が製造される。
【0015】
タングステン線10は、有機繊維20の外側面に沿って所定のピッチで巻き回されている。
図1に示されるように、タングステン線10は、一巻き毎に間隔が空けられているが、隣り合う一巻きが密着していてもよい。
【0016】
タングステン線10の具体的な構成及び製造方法については、後で説明する。
【0017】
有機繊維20は、合成繊維、天然繊維及び再生繊維からなる群から選択される少なくとも1つの繊維である。有機繊維20は、例えば、合成繊維であり、アラミド繊維又はナイロン系繊維である。アラミド繊維としては、例えば、ケブラー(登録商標)などの芳香族ポリアミド系樹脂材料を用いて製造された繊維を用いることができる。ナイロン系繊維としては、例えば、ダイニーマ(登録商標)などの超高分子量ポリエチレンを用いて製造された繊維を用いることができる。
【0018】
なお、有機繊維20として用いられる化学繊維は、これらに限らず、その他のポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリルなどを用いることができる。あるいは、有機繊維20は、半合成繊維又は再生繊維であってもよい。また、有機繊維20は、植物繊維又は動物繊維などの天然繊維でもよい。例えば、有機繊維20としては、綿、羊毛、絹、麻、レーヨンなどを利用することができる。
【0019】
図1に示される例では、有機繊維20は、モノフィラメントであるが、これに限定されない。有機繊維20は、マルチフィラメント、すなわち、複数のモノフィラメントの集合体であってもよい。有機繊維20がモノフィラメントである場合の有機繊維20の伸び率は、例えば70%以下である。
【0020】
なお、伸び率とは、破断時全伸びに対応しており、伸び計によって計測される。具体的には、有機繊維20の伸び率は、有機繊維20の破断時の全伸びであって、伸び計の弾性伸びと塑性伸びとを合わせたものを、伸び計標点距離に対する百分率で表した値である。簡単に言えば、伸び率は、伸びる前の長さに対する、伸びた後の長さと伸びる前の長さとの差分の割合を示している。伸び率が正の値である場合、線が伸びたことを意味し、伸び率が負の値である場合、線が縮んだことを意味する。タングステン線10の伸び率についても同様である。
【0021】
本実施の形態では、有機繊維20の線径は、タングステン線10の線径より大きく、例えば、100μm以上であるが、これに限らない。なお、有機繊維20の線径は、タングステン線10の線径と等しくてもよく、タングステン線10の線径より小さくてもよい。
【0022】
有機繊維20がモノフィラメントの場合、有機繊維20の線径は、1本のフィラメントの断面(軸方向に直交する断面)の最大幅で表される。有機繊維20がマルチフィラメントの場合、有機繊維20の線径は、マルチフィラメントの断面の最大幅、すなわち、複数のモノフィラメントの集合体の断面(軸方向に直交する断面)の最大幅で表される。
【0023】
なお、撚り糸1は、タングステン線10と有機繊維20とが撚り合わされた合撚糸であってもよい。例えば、タングステン線10と有機繊維20とを並べて撚りを加える(すなわち、合撚加工を行う)ことで、合撚糸が製造される。タングステン線10及び有機繊維20の少なくとも一方は、マルチフィラメントであってもよい。
【0024】
[タングステン線]
次に、タングステン線10の構成について説明する。
【0025】
タングステン線10は、タングステン(W)と、タングステンとは異なる少なくとも1種類の金属元素(以下、合金元素と記載)との合金からなる合金線である。タングステン線10に含まれるタングステンの含有量は、例えば90wt%以上である。ここで、含有量は、タングステン線10の質量に対する金属元素(例えばタングステン)の質量の割合である。タングステンの含有量は、95wt%以上であってもよく、99wt%以上であってもよく、99.9wt%以上であってもよい。
【0026】
少なくとも1種類の合金元素はそれぞれ、周期表の第7族又は第8族に含まれる金属元素である。具体的には、合金元素は、第7族のレニウム(Re)、又は、第8族のルテニウム(Ru)である。例えば、タングステン線10は、タングステンとレニウムとの合金線(以下、レニウムタングステン合金線と記載)である。あるいは、タングステン線10は、タングステンとルテニウムとの合金線(以下、ルテニウムタングステン合金線と記載)である。なお、タングステン線10は、タングステンとレニウムとルテニウムとの合金線のように、タングステンと2種類以上の合金元素との合金線であってもよい。
【0027】
レニウムタングステン合金線の場合、レニウムの含有量は、例えば、0.1wt%以上10wt%以下である。レニウムの含有量は、0.5wt%以上9wt%以下であってもよく、3wt%以上5wt%以下であってもよい。ルテニウムタングステン合金線の場合、ルテニウムの含有量は、例えば、0.05wt%以上0.3wt%以下である。ルテニウムの含有量は、0.1wt%以上0.2wt%以下であってもよい。
【0028】
レニウム及び/又はルテニウムの含有量が多い程、タングステン線10の伸び率及び引張強度が高められる。ただし、引張強度が高くなると、伸び率が高くなりにくいという問題が生じる。また、レニウム及び/又はルテニウムの含有量が多い程、タングステン線10の細径化が難しい。本実施の形態では、本願発明者らの鋭意検討により、合金元素の含有量及び細径化の加工工程を工夫することで、細くて伸び率が高く、かつ、引張強度が高いタングステン線10を実現している。具体的なタングステン線10の製造方法については、後で説明する。
【0029】
タングステン線10の線径は、例えば40μm以下である。タングステン線10の線径は、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。例えば、タングステン線10の線径は、18μm以下であってもよく、15μm以下であってもよく、12μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。タングステン線10の線径は、加工限界(例えば、5μm)まで小さくてもよい。
【0030】
本実施の形態に係るタングステン線10の伸び率は、5%以上である。これにより、タングステン線10を備える撚り糸1の製造時及び使用時において、タングステン線10の断線の発生が抑制される。タングステン線10の伸び率は、7%以上であってもよく、9%以上であってもよく、11%以上であってもよく、13%以上であってもよく、16%以上であってもよい。伸び率が高い程、タングステン線10の断線の発生の抑制効果が高まる。
【0031】
タングステン線10の引張強度は、例えば、1600MPa(=N/mm2)以上2400MPa以下である。これにより、タングステン線10を備える撚り糸1の製造時及び使用時において、タングステン線10の断線の発生が抑制される。タングステン線10の引張強度は、1700MPa以上であってもよく、1800MPa以上であってもよく、2000MPa以上であってもよく、2100MPa以上であってもよい。引張強度が高い程、タングステン線10の断線の発生の抑制効果が高まる。
【0032】
[製造方法]
続いて、本実施の形態に係るタングステン線10の製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係るタングステン線10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0033】
図2に示されるように、まず、金属のインゴットを準備する(S10)。具体的にはまず、タングステン粉末と、合金金属からなる粉末(例えば、レニウム粉末又はルテニウム粉末)とを所定の割合で混合した混合物を準備する。粉末の平均粒径は、例えば3μm以上4μm以下の範囲であるが、これに限らない。準備した混合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステン合金のインゴットを作成する。インゴットは、例えば断面の直径が約15mmの棒状のインゴットである。
【0034】
次に、インゴットに対してスエージング加工を行う(S11)。具体的には、インゴットを周囲から鍛造圧縮して伸展させることで、ワイヤー状のタングステン線に成形する。スエージング加工の代わりに圧延加工でもよい。スエージング加工(S11)は、アニール(S13)とともに繰り返し行われる。
【0035】
具体的には、スエージング加工が繰り返されることで、インゴットの径が13.6mm、10.6mm、8mm、6.5mm、3.3mmと順に小さくなる。インゴットの径がこれらの径の場合に(S12でYes)、アニールを行う(S13)。アニール温度は、例えば2400℃である。径が3.3mmになった後、アニール及びスエージング加工が行われることで、径が3mmになる。
【0036】
次に、スエージング加工後の径が3mmのタングステン線を900℃で加熱する(S14)。具体的には、バーナーなどで直接的にタングステン線を加熱する。タングステン線を加熱することで、以降の加熱線引きで加工中に断線しないようにタングステン線の表面に酸化物層を形成する。
【0037】
次に、加熱線引きを行う(S15)。具体的には、1つ以上の伸線ダイスを用いてタングステン線の線引き、すなわち、タングステン線の伸線(細径化)を加熱しながら行う。加熱温度は、例えば1000℃である。なお、加熱温度が高い程、タングステン線の加工性が高められるので、容易に線引きを行うことができる。加熱線引きは、伸線ダイスを交換しながら繰り返し行われる。1つの伸線ダイスを用いた1回の線引きによるタングステン線の断面減少率は、例えば10%以上40%以下である。加熱線引き工程において、黒鉛を水に分散させた潤滑剤を用いてもよい。
【0038】
次に、線引き後のタングステン線に対して、中間再結晶処理を行う(S16)。具体的には、1200℃以上の温度でタングステン線を加熱することで、タングステン線に含まれる結晶を再結晶させる。線引き工程が最後の1回になるまで(S17でNo)、加熱線引きと中間再結晶処理とが繰り返し行われる。このときの繰り返し回数(すなわち、中間再結晶処理の回数)は、例えば5回以上10回以下である。
【0039】
加熱線引きの繰り返しにおいては、直前の線引きで用いた伸線ダイスよりも孔径が小さい伸線ダイスが用いられる。また、加熱線引きの繰り返しにおいて、直前の線引き時の加熱温度よりも低い加熱温度でタングステン線は加熱される。例えば、最後の線引き工程の直前の線引き工程での加熱温度は、それまでの加熱温度より低く、例えば400℃である。
【0040】
線引き工程が最後の1回になった場合(S17でYes)、最後の線引きとして加熱線引きを行う(S18)。これにより、線径が約40μm未満のタングステン線が得られる。
【0041】
次に、線引き後のタングステン線に対して電解研磨を行う(S19)。電解研磨は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などの電解液に、タングステン線と対向電極とを浸した状態で、タングステン線と対向電極との間に電位差が生じることで電解研磨が行われる。電解研磨によって、タングステン線の線径を微調整することができる。
【0042】
電解研磨の後、タングステン線に対して最終熱処理を行う(S20)。最終熱処理の温度は、例えば、1200℃以上1700℃以下である。
【0043】
以上の工程を経て、本実施の形態に係るタングステン線10が製造される。上記製造工程を経ることで製造直後のタングステン線10の長さは、例えば50km以上の長さであり工業的に利用できる。タングステン線10は、使用される態様に応じて適切な長さに切断され、撚り糸1又は各種繊維製品の製造に利用される。このように、本実施の形態では、タングステン線10の工業的に大量生産が可能であり、主に繊維製品に利用することが可能になる。
【0044】
なお、タングステン線10の製造方法に示される各工程は、例えばインラインで行われる。具体的には、ステップS15などで使用される複数の伸線ダイスは、生産ライン上で孔径が小さくなる順で配置される。また、各伸線ダイス間にはバーナーなどの加熱装置が配置されている。加熱装置は、加熱線引き用及び中間再結晶処理用に配置されている。また、ステップS15で使用される伸線ダイスの下流側(後工程側)に、ステップS18で使用される複数の伸線ダイスが、孔径が小さくなる順で配置され、最も孔径が小さい伸線ダイスの下流側に電解研磨装置と最終熱処理用の加熱装置とが配置される。なお、各工程は、個別に行われてもよい。
【0045】
[実施例]
続いて、上述した製造方法に従って製造されたタングステン線10の実施例と比較例とについて説明する。以下に示す実施例1~15及び比較例1~8に係るタングステン線10は、製造方法における各種パラメータ(具体的には、線径、添加物の種類、添加量、最終熱処理温度及び中間再結晶処理回数)を適宜異ならせたものである。具体的には、以下の表1及び表2に示される通りである。
【0046】
【0047】
【0048】
図3は、実施例及び比較例に係るタングステン線10の伸び率と引張強度との関係を示す散布図である。
図3において、横軸はタングステン線10の伸び率[%]を表し、縦軸はタングステン線10の引張強度[MPa]を表している。
【0049】
実施例1~15に係るタングステン線10はいずれも、線径が40μm未満である。また、
図3に示されるように、各実施例に係るタングステン線10はいずれも、引張強度が1600MPa以上2400MPa以下であり、かつ、伸び率が5%以上16%以下であるという範囲内に含まれている。なお、
図3には、引張強度及び伸び率の上記範囲を破線で表している。これに対して、比較例1~8に係るタングステン線10は、
図3の破線で表される範囲外に位置している。
【0050】
以下では、実施例と比較例との差異の要因と想定されるタングステン線10の製造方法におけるパラメータについての検討結果について説明する。
【0051】
<添加物>
まず、添加物である合金元素の種類と添加量(タングステン線10における含有量)とについて説明する。表1から、合金元素の添加量を増やすと伸び率が増加する傾向があることが分かる。
【0052】
また、表1の実施例5と実施例9とは、線径(35μm)、添加物(Re)、最終熱処理温度(1600℃)、中間再結晶処理回数(6回)であり、Reの添加量以外のパラメータが同じである。実施例5と実施例9とを比較することで、Reの添加量が多い実施例9の方が実施例5に比べて、伸び率が高く、かつ、引張強度が低いことが分かる。
【0053】
このことから、合金元素の添加量を増やした場合には、引張強度が1600MPa以上で確保しながら、伸び率をより高くすることができる。逆に、合金元素の添加量を減らした場合には、伸び率が5%以上で確保しながら、引張強度をより高くすることができる。
【0054】
なお、実施例11のように、添加物としてRuを使用した場合には、Reの場合の添加量よりも約一桁小さい添加量でも伸び率及び引張強度の両方を高く確保することができる。
【0055】
<最終熱処理温度>
次に、最終熱処理温度について説明する。表1から、最終熱処理温度が高くなると伸び率が増加する傾向があることが分かる。
【0056】
また、表1の実施例1と実施例2とは、線径(11μm)、添加物(Re)、添加量(5wt%)、中間再結晶処理回数(8回)であり、最終熱処理温度以外のパラメータが同じである。実施例1と実施例2とを比較することで、最終熱処理温度が高い実施例2の方が実施例1に比べて、伸び率が高く、かつ、引張強度が低いことが分かる。実施例5と実施例6とも、最終熱処理温度以外のパラメータが同じであり、同様の傾向が現れている。実施例7~9、実施例12及び13、並びに、実施例14及び15の各々についても、最終熱処理温度以外のパラメータが同じであり、同様の傾向が現れている。線径が11μmの場合(実施例1及び2)、及び、35μmの場合(実施例5など)のいずれにおいても、同様の傾向が現れている。
【0057】
これらのことから、タングステン線10の線径の大小によらず、最終熱処理温度を高くした場合には、引張強度が1600MPa以上で確保しながら、伸び率をより高くすることができる。逆に、タングステン線10の線径の大小によらず、最終熱処理温度を低くした場合には、伸び率が5%以上で確保しながら、引張強度をより高くすることができる。
【0058】
なお、表2の比較例1及び2は、表1の実施例12及び13と、最終熱処理温度以外のパラメータが同じである。しかしながら、最終熱処理温度が1400℃以下である比較例1及び2は、伸び率が5%未満になっている。このことから、少なくとも線径が35μmで、Reを5wt%添加し、中間再結晶処理を5回行う場合には、最終熱処理温度が1400℃より大きい温度、好ましくは1500℃以上の温度で行うことで、伸び率を5%以上にすることができるといえる。
【0059】
なお、実施例11のように、添加物としてRuを使用した場合には、最終熱処理温度は1200℃でも伸び率及び引張強度の両方を高く確保することができる。
【0060】
<中間再結晶処理回数>
次に、中間再結晶処理回数について説明する。表1から、中間再結晶処理回数が多くなると伸び率が増加する傾向があることが分かる。具体的には、中間再結晶処理回数が5回以上であれば、伸び率を5%以上にすることができる。
【0061】
また、表1の実施例6と実施例10とは、線径(35μm)、添加物(Re)、添加量(3wt%)、最終熱処理温度(1700℃)であり、中間再結晶処理回数以外のパラメータが同じである。実施例6と実施例10とを比較することで、中間再結晶処理回数が多い実施例6の方が実施例10と比べて、伸び率が高く、かつ、引張強度が低いことが分かる。逆に、中間再結晶処理回数を減らした場合には、伸び率を5%以上で確保しながら、引張強度をより高くすることができる。
【0062】
なお、表2の比較例4も、表1の実施例6及び10と、中間再結晶処理回数以外のパラメータが同じである。しかしながら、この場合、中間再結晶処理回数が5回以上である実施例6及び10は、中間再結晶処理回数が3回である比較例4に比べて、伸び率及び引張強度のいずれも高くなっている。この点から、中間再結晶処理回数が3回以下では、伸び率を5%以上にすることができないことが分かる。
【0063】
また、表1からは、線径の差異によって必要となる中間再結晶処理回数が異なることが分かる。具体的には、線径が11μm以上18μm以下の範囲では、中間再結晶処理回数が8回以上である場合に、タングステン線10の伸び率が5%以上になっている。一方で、線径が35μmの場合には、中間再結晶処理回数が5回以上でタングステン線10の伸び率が5%以上になっている。この点から、線径が細いタングステン線10を得るためには、線径が太いタングステン線10を得る場合よりも中間再結晶回数を増やせばよいと判断できる。
【0064】
なお、再結晶処理とは、熱処理によって結晶の再配列を行うことである。再結晶処理によって、Re又はRuなどの固溶元素の分散が促進され、タングステン線10を細径化した場合の伸び率の増大に貢献する。このように、製造工程中に再結晶処理としてタングステン線10に対して熱が加えられることによって、タングステン線10中の合金元素(Re又はRu)の分散性が良くなる。これにより、合金元素が偏在するのを抑制することができるので、細いタングステン線10において、引張強度の向上と伸び率の増大とを両立させることができる。
【0065】
なお、ここでは、タングステン線10の線径が40μm未満で、かつ、引張強度が2400MPa以下の場合を例に説明したが、これに限定されない。タングステン線10の線径は40μm以上であってもよい。また、タングステン線10の引張強度は、2400MPa以上であってもよい。
【0066】
[有機繊維及びタングステン線の伸びの関係]
続いて、有機繊維20の伸びとタングステン線10の伸びとの関係について説明する。
【0067】
一般的に、有機繊維20は、タングステン線10と比較して伸び率が高い。簡単に言えば、有機繊維20は伸びやすく、タングステン線10は伸びにくい。このため、有機繊維20が引っ張り、曲げ又は捻りなどの外部応力によって伸びた場合において、タングステン線10が追従して伸びなければ、タングステン線10の一部が断線するおそれがある。
【0068】
図4は、本実施の形態に係る撚り糸1の伸びる前後の状態を示す模式図である。
図4の(a)及び(b)は、撚り糸1が延びる前の斜視図及び側面の展開図を表しており、(c)及び(d)は、撚り糸1が伸びた後の斜視図及び側面の展開図を表している。
【0069】
図4の(a)では、有機繊維20の線径をRpで表している。また、タングステン線10の巻きのピッチをLpで表している。
図4の(c)に示されるように、有機繊維20が伸びた場合、有機繊維20の線径はRp’になる。有機繊維20が伸びることで、有機繊維20の長さは長くなるが体積は変わらないので、伸びた後の有機繊維20の線径Rp’は、必然的に、伸びる前の有機繊維20の線径Rpよりも小さくなる。
【0070】
有機繊維20の伸びにタングステン線10の伸びが追従した場合、伸びた後のタングステン線10の巻きのピッチはLp’になる。伸びた後のタングステン線10の巻きのピッチLp’は、伸びる前のタングステン線10の巻きのピッチLpよりも大きい。
【0071】
図4の(b)に示されるように、伸びる前のタングステン線10の長さをLwとすると、Lwは、以下の式(1)で表される。なお、πは円周率である。
【0072】
【0073】
図4の(d)に示されるように、伸びた前のタングステン線10の長さをLw’とすると、Lw’は、以下の式(2)で表される。
【0074】
【0075】
有機繊維20の伸び率をTpとし、タングステン線10の伸び率をTwとすると、Tp、Twはそれぞれ、以下の式(3)及び(4)で表される。
【0076】
【0077】
式(1)~(4)を変換することにより、Twは、Rp、Lp及びTpを用いて以下の式(5)で表される。
【0078】
【0079】
上記式(5)で示されるTwの値は、有機繊維20が伸び率Tpで伸びた場合に、タングステン線10が断線せずに追従して伸びるために必要な伸び率Twの値である。したがって、タングステン線10の伸び率Twが上記式(5)の右辺以上である場合、有機繊維20の伸びに対してタングステン線10が追従できることを意味する。
【0080】
ここで、有機繊維20の伸び率Tpの具体例について、
図5を用いて説明する。
【0081】
図5は、有機繊維20として利用可能な繊維の種類毎の伸び率Tpの最大値を示す図である。
図5に示されるように、有機繊維20は、材質によって伸び率Tpの最大値は大きく異なる。最も伸び率Tpが小さい有機繊維20として一般的なものが、麻(亜麻)であり、伸び率Tpの最大値は、1.5%~2.3%である。また、ポリプロピレンは、比較的伸びやすい材料であり、伸び率Tpの最大値は、25%~60%である。その他の材料は、伸び率Tpの最大値が10%~30%の範囲にあるものが一般的である。
【0082】
図5に示される伸び率Tpの最大値は、標準的な環境での概算値である。例えば、湿潤な環境では、有機繊維20は伸びやすくなるため、伸び率Tpの最大値も大きくなる。また、マルチフィラメントの場合も同様に、伸び率Tpの最大値が一般的には大きくなる。このような環境などによる伸び率Tpのばらつきを考慮すると、有機繊維20の伸び率Tpの最大値は、
図5に示される値の1.5倍~2.0倍程度まで取りうると想定される。
【0083】
次に、Lp/Rpの具体的な値について、
図6を用いて説明する。
【0084】
図6は、線径の異なる複数の有機繊維20の各々に対して所定の巻数でタングステン線10を巻きつけた場合の撚り糸1のLp/Rpの例を示す図である。
図6では、カバーリング加工の例として、1インチあたりの巻数が21回及び18回の場合と、1mあたりの巻数が100回及び1000回の場合との4通りを示している。また、有機繊維20の例としては、線径Rpが0.3mm、0.8mm、1.2mmの3通りを示している。
【0085】
これらの組み合わせから算出したLp/Rpの値は、0.83以上33.33以下の範囲に存在している。また、Lp/Rpの値としては、3から5の範囲が一般的である。
【0086】
以上のことを踏まえると、有機繊維20の伸び率Tpとしては、最大でも100%(すなわち、2倍に伸びる)程度、Lp/Rpの値としては、最大でも100程度を想定することができる。以下では、上記式(5)を用いて、有機繊維20の伸び率Tpに対するタングステン線10の伸び率Twを、RpとLpとの比率(Lp/Rp)毎に算出した結果を
図7及び
図8に表す。
【0087】
図7及び
図8はそれぞれ、有機繊維20の伸び率Tpが所定の範囲において、タングステン線10に求められる伸び率Twを表す図である。
図7及び
図8では、行方向にLp/Rpの値を並べ、列方向にTpの値を並べ、行と列との交わるセルにTwの値を記載している。
図7では、Tpの値を0%から40%までの範囲を2%刻みで表しており、
図8では、Tpの値を0%から100%までの範囲を5%刻みで表している。
図7及び
図8ともに、Lp/Rpの値は、1、2、2.5、3、5、10、50及び100の8通りを表している。Lp/Rpの値が小さいほど、タングステン線10は挟ピッチで巻かれており、Lp/Rpの値が大きいほど、タングステン線10は広ピッチで巻かれている。
【0088】
本実施の形態に係るタングステン線10は、上述した製造方法によって、5%以上の伸び率Twを実現している。
図7及び
図8では、タングステン線10の伸び率Twが5%であれば、断線せずに追従できる範囲(すなわち、式(5)を用いて算出されたTwが5%以下の範囲)を斜線の網掛けを付して示している。
【0089】
図7及び
図8に示されるように、有機繊維20の伸び率Tpが5%以下であれば、Lp/Rpの値によらずに、タングステン線10が断線せずに追従できることが分かる。
図5に示したように、有機繊維20として最も伸び率が低い材料である麻の伸び率は、環境などへの依存を考慮し、2倍の値をとりうるとみなしたとしても、最大で4.6(=2.3×2)%である。すなわち、麻を有機繊維20として用いた場合には、タングステン線10をどのようなピッチで巻きつけたとしても、タングステン線10が断線せずに追従できることが分かる。
【0090】
また、Lp/Rpが2の場合は、
図8に示されるように、有機繊維20の伸び率Tpが45%までタングステン線10が追従可能である。このため、
図5を参照すると、麻だけでなく、綿、絹、レーヨン、ポリエステルなどの多くの有機繊維の伸びに対応できることが分かる。Lp/Rpが2.5の場合は、
図7に示されるように、有機繊維20の伸び率Tpが26%までタングステン線10が追従可能である。このため、
図5を参照すると、麻だけでなく、綿の伸びに対応できることが分かる。Lp/Rpが大きくなるにつれて、タングステン線10が追従可能な有機繊維20の伸び率Tpの範囲は狭くなるが、使用環境によってはより多くの種類の有機繊維20に対応することができる。
【0091】
また、上述した実施例13に係るタングステン線10では、16%の伸び率Twを実現している。
図7及び
図8では、タングステン線10の伸び率Twが16%であれば、断線せずに追従できる範囲(すなわち、式(5)を用いて算出されたTwが16%以下の範囲(5%以下の範囲には斜線の網掛け)をドットの網掛けを付して示している。
【0092】
図7に示されるように、有機繊維20の伸び率Tpが16%以下であれば、Lp/Rpの値によらずに、タングステン線10が断線せずに追従できることが分かる。このため、より多くの種類の有機繊維20に対して、タングステン線10が断線せずに追従することができる。
【0093】
図5に示したように、50%を超える伸び率を実現している有機繊維20は、多くない。Lp/Rpが2の場合は、
図8に示されるように、有機繊維20の伸び率Tpが80%までタングステン線10が追従可能である。また、Lp/Rpが2.5の場合は、有機繊維20の伸び率Tpが55%までタングステン線10が追従可能である。すなわち、16%の伸び率Twのタングステン線10の場合、
図5に示した種類の有機繊維20のほぼ全てに対応可能であることが分かる。
【0094】
Lp/Rpが大きくなるにつれて、タングステン線10が追従可能な有機繊維20の伸び率Tpの範囲は狭くなるが、使用環境によってはより多くの種類の有機繊維20に対応することができる。
図7及び
図8に示されるように、16%の伸び率のタングステン線10は、5%の伸び率のタングステン線10に比べて、有機繊維20の伸び率Tpが約3倍大きくなっても対応可能である。
【0095】
Lp/Rpが大きくなることにより、撚り糸1に使用されるタングステン線10の長さを短くすることができる。このため、タングステン線10の使用量を減らすことができるので、撚り糸1の軽量化及び低コスト化などが実現される。
【0096】
[撚り糸を備える繊維製品]
続いて、
図1に示した撚り糸1を備える繊維製品の具体例について説明する。
【0097】
繊維製品は、織物、編物、組み物、撚り糸及びミシン糸からなる群から選択される1つである。以下では、繊維製品の一例として、
図1に示した撚り糸1を備える手袋について、
図9を用いて説明する。
【0098】
図9は、実施の形態に係る撚り糸1を備える繊維製品100の模式図である。
図9に示されるように、繊維製品100は、例えば手袋である。なお、
図9では、親指と人差し指の先端のみに織目を模式的に図示しているが、繊維製品100の全体が織目状となっている。
【0099】
繊維製品100は、例えば、作業用手袋であり、掌部と5本の指部とを有する。繊維製品100は、撚り糸1をタテ糸及びヨコ糸として用いて織り加工を施すことで製造される。繊維製品100の織組織は、例えば、綾織(具体的には、2/2の綾組織を持つ四つ綾)である。具体的には、
図9に示すように、タテ糸を構成する複数の撚り糸1と、ヨコ糸を構成する複数の撚り糸1とが2本ずつ交互に上下を交差することで、繊維製品100は形成されている。
【0100】
なお、繊維製品100の織組織は、これに限定されず、三つ綾、又は、3/1の綾組織を持つ四つ綾などの他の綾織でもよい。あるいは、繊維製品100の織組織は、平織、又は、繻子織でもよい。また、繊維製品100は、撚り糸1を編糸として用いて、所定のゲージ数でメリヤス編みなどの編み加工を施すことで製造されてもよい。
【0101】
図9に示される繊維製品100は、例えば、耐切創用途、又は、バイタルセンシングに利用できる。例えば、繊維製品100は、着用者の体温又は脈拍をバイタルの一例としてセンシングすることができる。具体的には、繊維製品100が備えるタングステン線10は、バイタルのセンシング用の端子として機能する。すなわち、着用者が発する微弱な電流をタングステン線10が検出することができる。
【0102】
あるいは、繊維製品100は、バイタルのセンシング用の端子を別途備えてもよい。この場合、タングステン線10は、当該端子と信号処理回路とを電気的に接続する配線として機能してもよい。
【0103】
また、繊維製品100は、発熱用途に利用されてもよい。具体的には、繊維製品100が含むタングステン線10に電流を流して発熱させることができる。
【0104】
繊維製品は、手袋以外に、衣服、帽子などの被り物、靴下、足袋などの履物などを含む衣料品であってもよい。あるいは、繊維製品は、タオル、手拭い、ハンカチ、毛布、敷布などであってもよい。
【0105】
なお、繊維製品は、撚り糸1を備える必要はなく、タングステン線10と有機繊維20とが組み合わされていればよい。具体的には、繊維製品は、タングステン線10と有機繊維20とをそれぞれ、線材として利用して不織布加工を行うことで製造された不織布であってもよい。また、繊維製品は、撚り糸1を綿状(ワタ状)にまとめたものであってもよい。あるいは、繊維製品は、有機繊維を用いて製造された織物、編物又は組み物などの繊維布帛に対して、タングステン線10を後縫い(刺繍又は縫製)したものであってもよい。
【0106】
[タングステン線の曲げ性]
続いて、タングステン線10の曲げ性について、
図10を用いて説明する。
【0107】
図1に示したように、タングステン線10は、有機繊維20に巻き付けられるので、所定の曲率以上の曲げに耐えうることが求められる。また、
図9に示した繊維製品100などのように、織り加工、編み加工などの様々な加工に耐えうるためにも、所定の曲率以上の曲げに耐えうることが求められる。そこで、本願発明者らは、タングステン線10の曲げ性を確認するためにコイリング試験を行った。以下に、コイリング試験の内容とその結果とを説明する。
【0108】
図10は、実施の形態に係るタングステン線10のコイリング試験の概要を示す図である。コイリング試験では、断面形状が円形で均一な径の棒状の芯材200に対して、タングステン線10を巻き付け、タングステン線10の破断又は表面剥離が生じるか否かを確認した。コイリング試験に用いる芯材200の断面の径R及びタングステン線10の径φは、例えば、タングステン線10と有機繊維20とを用いて製造される繊維製品の仕様に応じて定められる。
【0109】
図11は、本実施の形態に係るタングステン線10及び有機繊維20を用いて製織された繊維製品(金属メッシュ)110を示す断面図である。繊維製品110は、タングステン線10及び有機繊維20をそれぞれ、タテ糸及びヨコ糸として用いて製織された金属メッシュである。ここでは、繊維製品110の一例として、径が12μmのタングステン線10及び有機繊維20を用いて900メッシュの金属メッシュを製造する場合を想定する。なお、ここでのメッシュ(メッシュ数)は、25.4mm(1インチ)間にある線の数を意味する。この場合、隣り合う2本のタングステン線10間の距離であるピッチは、28.2μm(=25.4mm÷900)になる。隣り合う2本のタングステン線10間の距離と、隣り合う2本の有機繊維20間の距離とは同じである場合を想定する。
【0110】
この場合、
図11に示されるように、タングステン線10の曲率半径Rcは、19.6μmになる。なお、曲率半径Rcは、タングステン線10の中心軸線(図中の破線)に基づいて定義される。また、タングステン線10の内側曲率半径Riは、13.6μmになる。内側曲率半径Riは、タングステン線10の曲がりの内側の表面に基づいて定義される。つまり、タングステン線10は、曲率半径Rcが19.6μm以下で、かつ、内側曲率半径Riが13.6μm以下である状態にした場合に、破断せず、表面剥離が発生しなければ、繊維製品110のタテ糸及びヨコ糸として利用可能である。
【0111】
コイリング試験では、金属メッシュとして製織可能な限界を超えた条件で行った。製織可能な限界を超えた条件で行ったコイリング試験の結果、タングステン線10の破断(断線)又は表面剥離が発生しなかった場合に、試験に用いたタングステン線10を用いて繊維製品(金属メッシュ)110を安定して製造することができる。
【0112】
例えば、径が12μmのタングステン線10同士が接触する条件は、1222メッシュの場合である。つまり、1222メッシュ以上のメッシュ数の金属メッシュを製造することはできない。コイリング試験の条件として、12μmのタングステン線10で1324メッシュの繊維製品110を想定する。
【0113】
なお、タングステン線10の断線は、タングステン線10を構成する材料の歪みによって発生するので、線径が異なるタングステン線10を用いて検討可能である。例えば、12μmで1324メッシュの条件を35μmのタングステン線10に換算すると、454メッシュ(=1324メッシュ×12μm÷35μm)となる。この条件では、曲率半径Rcが31μmであり、内側曲率半径Riが13.5μmである。
【0114】
本願発明者らは、コイリング試験において、径R=27μmの芯材200と、径φ=35μmのタングステン線10とを用いた。この芯材200に巻き付けられたタングステン線10は、内側曲率半径Riが13.5μm(=R÷2)になり、かつ、曲率半径Rcが31.0μm(=Ri+φ÷2)になる。したがって、この条件の下でのコイリング試験において、破断又は表面剥離が発生しなかった場合、12μmのタングステン線10を用いて900メッシュの繊維製品(金属メッシュ)110を製造することができることを意味する。
【0115】
以下の表3に、上述した比較例9及び10、並びに、実施例16について、コイリング試験を行った結果を示す。なお、いずれも線径は35μmであり、添加物である合金元素はReであり、添加量は5wt%である。また、いずれも中間再結晶処理回数は6回であった。
【0116】
【0117】
図12Aは、コイリング試験後の実施例16に係るタングステン線の外観を示す図である。
図12Bは、
図12Aの一部を拡大した図である。
図12A及び
図12Bに示されるように、実施例16では、タングステン線の破断もなく、表面剥離も発生しなかった。
【0118】
図13Aは、コイリング試験後の比較例10に係るタングステン線の外観を示す図である。
図13Bは、
図13Aの一部を拡大した図である。
図13A及び
図13Bに示されるように、比較例10では、タングステン線の破断はなかったが、表面剥離が僅かながら発生している。したがって、伸び率が4%の場合でも、繊維製品(金属メッシュ)110の製造は可能であるが、より質の高い繊維製品110の製造には、伸び率が5%以上であることが望ましい。
【0119】
なお、タングステン線10の線径及びメッシュのピッチは、上記例に限定されない。
【0120】
[効果など]
以上のように、繊維製品の一例である撚り糸1は、伸び率が5%以上であるタングステン線10と、タングステン線10に組み合わせられた有機繊維20と、を備える。
【0121】
これにより、タングステン線10が有機繊維20の伸びに追従しやすくなるので、タングステン線10の断線の発生を抑制することができる。
【0122】
また、例えば、タングステン線10の線径は、40μm以下である。
【0123】
これにより、有機繊維20に対する撚り加工を行いやすく、撚り糸1、及び、撚り糸1を用いて製造された繊維製品の生産性を高めることができる。
【0124】
また、例えば、タングステン線10は、タングステンと、タングステンとは異なる少なくとも1種類の金属元素との合金からなる合金線である。また、例えば、少なくとも1種類の金属元素は、第7族又は第8族に含まれる元素である。
【0125】
これにより、合金元素がタングステン線10内で偏りなく分散することにより、引張強度を高く維持しながら伸び率を高めることができる。
【0126】
また、例えば、タングステン線10は、その曲率半径が13.6μm以下の所定値になるまで曲げても破断しない。
【0127】
これにより、上述したような900メッシュ相当の金属メッシュを安定的に製造することができる。
【0128】
また、例えば、有機繊維20は、合成繊維、天然繊維及び再生繊維からなる群から選択される少なくとも1つの繊維である。有機繊維20がモノフィラメントである場合の有機繊維20の伸び率は、70%以下である。
【0129】
これにより、有機繊維20の伸び率が高すぎないので、タングステン線10が断線せずに追従しやすくなる。
【0130】
また、例えば、タングステン線10と有機繊維20とは、撚り糸1を構成している。また、例えば、撚り糸1は、有機繊維20を芯糸とし、タングステン線10を鞘糸とするカバーリング糸である。
【0131】
これにより、タングステン線10を備える撚り糸1を用いて、各種繊維製品を製造することができる。例えば、繊維製品は、織物、編物、組み物、撚り糸及びミシン糸からなる群から選択される1つである。
【0132】
(その他)
以上、本発明に係る繊維製品について、上記の実施の形態などに基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0133】
また、例えば、タングステン線10は、カリウム(K)がドープされたタングステンからなってもよい。ドープされたカリウムは、タングステンの結晶粒界に存在する。タングステン線10におけるタングステン線の含有率は、例えば、99wt%以上である。
【0134】
タングステン線10におけるカリウムの含有率は、0.01wt%以下であるが、これに限らない。例えば、タングステン線10におけるカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下であってもよい。
【0135】
カリウムがドープされたタングステンからなるタングステン線(カリウムドープタングステン線)は、線径が小さくなる程、引張強度が高くなる。カリウムドープタングステン線の線径、弾性率及び引張強度は、上述した実施の形態と同様である。
【0136】
このように、タングステン線が微量のカリウムを含有することで、タングステン線の半径方向の結晶粒の成長が抑制される。つまり、表面結晶粒の幅を小さくすることができるので、引張強度を高めることができる。
【0137】
カリウムドープタングステン線は、タングステン粉末の代わりに、カリウムがドープされたドープタングステン粉末を利用することで、実施の形態と同様の製造方法により製造することができる。
【0138】
また、例えば、タングステン線10の表面には、酸化膜又は窒化膜などが被覆されていてもよい。
【0139】
また、例えば、上記の実施の形態では、1本のタングステン線10と1本の有機繊維20とが組み合わされた撚り糸1について示したが、タングステン線10及び有機繊維20の各々を組み合わせる本数は、これに限らない。例えば、2本以上のタングステン線10と1本の有機繊維20とが組み合わされてもよい。具体的には、撚り糸1は、1本の有機繊維20を芯糸として、2本以上のタングステン線10を合わせて巻回されたカバーリング糸でもよい。撚り糸1は、1本の有機繊維20と2本以上のタングステン線10とを撚り合わせた合撚糸でもよい。
【0140】
あるいは、1本のタングステン線10と2本以上の有機繊維20とが組み合わされてもよい。具体的には、撚り糸1は、2本以上の有機繊維20を合わせて芯糸として、1本のタングステン線10を巻回されたカバーリング糸でもよい。撚り糸1は、2本以上の有機繊維20と1本のタングステン線10とを撚り合わせた合撚糸でもよい。
【0141】
また、2本以上のタングステン線10と2本以上の有機繊維20とが組み合わされてもよい。具体的には、撚り糸1は、2本以上の有機繊維20を合わせて芯糸として、2本以上のタングステン線10を合わせて巻回されたカバーリング糸でもよい。撚り糸1は、2本以上の有機繊維20と2本以上のタングステン線10とを撚り合わせた合撚糸でもよい。
【0142】
また、例えば、複数のタングステン線10の代わりに、タングステン線10と、タングステン線10とは異なる金属線とを用いて撚り糸1が製造されていてもよい。例えば、タングステン線とモリブデン線とを用いてもよい。
【0143】
また、複数の有機繊維20を用いる場合、複数の有機繊維20は、互いに同じ材料を用いて製造されていてもよく、異なる材料を用いて製造されていてもよい。
【0144】
また、例えば、上記の実施の形態では、タングステン線10の線径が有機繊維20の線径より小さい例について示したが、これに限らない。例えば、タングステン線10の線径と有機繊維20の線径とが等しくてもよい。
【0145】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0146】
1 撚り糸(繊維製品)
10 タングステン線
20 有機繊維
100、110 繊維製品