(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173305
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】柱梁架構
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20231130BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
E04B1/26 G
E04B1/58 505L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085465
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(71)【出願人】
【識別番号】519378768
【氏名又は名称】株式会社ホルツストラ一級建築士事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 崇興
(72)【発明者】
【氏名】花井 厚周
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 徹
(72)【発明者】
【氏名】栗原 嵩明
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐季奈
(72)【発明者】
【氏名】梁田 真史
(72)【発明者】
【氏名】久保 和民
(72)【発明者】
【氏名】金澤 和寿美
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】稲山 正弘
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC23
2E125AG21
2E125AG41
2E125BB09
2E125BE06
2E125BF05
2E125CA02
2E125CA03
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で木質柱と木質梁との接合部に剛性を確保できる柱梁架構を提供する。
【解決手段】複数の木質柱30と、隣り合う木質柱30の間に配置され、端面が木質柱30の側面に密着して配置された、または、端面と木質柱30の側面との間に密着部材(楔部材60)が配置された木質梁40と、木質柱30に跨がって配置されると共に、木質柱30に接合され、かつ、木質柱30の両側にある木質梁40に対面して木質梁40に接合された外側部材50と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の木質柱と、
隣り合う前記木質柱の間に配置され、端面が前記木質柱の側面に密着して配置された、または、前記端面と前記木質柱の側面との間に密着部材が配置された木質梁と、
前記木質柱に跨がって配置されると共に、前記木質柱に接合され、かつ、前記木質柱の両側にある前記木質梁に対面して前記木質梁に接合された外側部材と、
を備えた柱梁架構。
【請求項2】
前記木質梁の中央部には、他の部分より梁幅が大きい幅広部が形成され、
前記幅広部の端面に前記外側部材の端面が密着され、または、前記幅広部の端面と前記外側部材の端面との間に密着部材が配置された、
請求項1に記載の柱梁架構。
【請求項3】
前記外側部材の端面同士が密着され、または、前記外側部材の端面同士の間に密着部材が配置された、請求項1に記載の柱梁架構。
【請求項4】
前記木質柱と接する部分において、前記木質梁の上面から前記外側部材の上面に亘って、及び、前記木質梁の下面から前記外側部材の下面に亘って、それぞれ補強板が接合されている、
請求項2又は3に記載の柱梁架構。
【請求項5】
前記木質柱に跨がった状態で前記外側部材の上面から前記木質梁の上面に亘って、及び、前記木質柱に跨がった状態で前記外側部材の下面から前記木質梁の下面に亘って、それぞれ補強板が接合されている、
請求項2又は3に記載の柱梁架構。
【請求項6】
前記密着部材は楔材である、請求項1~3の何れか1項に記載の柱梁架構。
【請求項7】
木質梁と、
前記木質梁と接合された複数の木質柱と、を有し、
前記木質柱はそれぞれ、
前記木質梁の下方に配置され、上端面が前記木質梁の下面に密着して配置された、または、前記上端面と前記木質梁の下面との間に密着部材が配置された下部木質柱と、
前記木質梁の上方に配置され、下端面が前記木質梁の上面に密着して配置された、または、前記下端面と前記木質梁の上面との間に密着部材が配置された上部木質柱と、
前記木質梁に跨がって配置されると共に、前記木質梁に接合され、かつ、前記下部木質柱及び前記上部木質柱に対面して前記下部木質柱及び前記上部木質柱に接合された外側部材と、を備えている、
柱梁架構。
【請求項8】
前記下部木質柱及び前記上部木質柱それぞれの中央部には、他の部分より柱幅が大きい幅広部が形成され、
前記幅広部の端面に前記外側部材の端面が密着され、または、前記幅広部の端面と前記外側部材の端面との間に密着部材が配置された、請求項7に記載の柱梁架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁架構に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、木質の柱梁接合部の剛性及び耐力の向上を図るために、柱及び梁の双方を、複数の木質板材を組み合わせて形成し、柱梁接合部において、これらの木質板材の間に鋼製の補強面材を配置している。柱梁接合部の剛性が向上すれば、梁が曲げモーメントを負担できるので、架構が水平力を負担し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の柱梁接合構造では、柱及び梁の双方を材軸方向に沿う複数の板材に分割し、また、その板材を接合部内において分割し、さらに補強面材を配置するために板材に削り込み加工を施している。すなわち、多くの部材や工数を必要とする。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、簡易な構成で木質柱と木質梁との接合部に剛性を確保できる柱梁架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の柱梁架構は、複数の木質柱と、隣り合う前記木質柱の間に配置され、端面が前記木質柱の側面に密着して配置された、または、前記端面と前記木質柱の側面との間に密着部材が配置された木質梁と、前記木質柱に跨がって配置されると共に、前記木質柱に接合され、かつ、前記木質柱の両側にある前記木質梁に対面して前記木質梁に接合された外側部材と、を備える。
【0007】
請求項1の柱梁架構によると、外側部材が木質柱に跨がって配置され、木質柱に接合されている。この外側部材が木質柱の側面の木質梁に接合されることにより、木質梁と木質柱とが固定される。これにより、木質柱と木質梁との間でせん断力を伝達できる。さらに、この柱梁架構では、柱の側面及び内側木質梁の端面が密着状態とされている。これにより、木質柱と木質梁との間で曲げモーメントを伝達できる。
【0008】
このような架構によれば、木質柱と木質梁との仕口部を、ピン接合より剛性が高い半剛接の接合構造と見做すことができる。これにより、木質梁は曲げモーメントを負担することができる。そして、架構に水平力が作用した場合は、木質柱及び木質梁へ曲げモーメントが分散されるため、架構として負担できる水平力が大きくなる。
【0009】
これに対して、木質柱と木質梁とが、例えば金属プレートとドリフトピンとで接合される一般的なピン接合の接合形式では、木質梁が曲げモーメントを負担することは難しい。このため、このような柱梁架構に水平力が作用しても、各接合部がピン状態のため架構として水平力を負担することは難しい。
【0010】
このように、請求項1の柱梁架構では、木質柱及び木質梁への複雑な加工や特殊な金物等を必要とすることなく、簡易な構成で木質柱と木質梁の接合部に剛性を確保できる。
【0011】
請求項2の柱梁架構は、請求項1に記載の柱梁架構において、前記木質梁の中央部には、他の部分より梁幅が大きい幅広部が形成され、前記幅広部の端面に前記外側部材の端面が密着され、または、前記幅広部の端面と前記外側部材の端面との間に密着部材が配置されている。
【0012】
請求項2の柱梁架構では、柱の側面及び木質梁の端面、並びに、木質梁における幅広部の端面及び外側部材の端面が、それぞれ密着状態とされている。すなわち、木質梁と外側部材との間でも曲げモーメントを伝達できる。これにより、木質柱と木質梁との間で曲げモーメントを伝達し易い。
【0013】
請求項3の柱梁架構は、請求項1に記載の柱梁架構において、前記外側部材の端面同士が密着され、または、前記外側部材の端面同士の間に密着部材が配置されている。
【0014】
請求項3の柱梁架構では、柱の側面及び木質梁の端面、並びに、外側部材の端面同士が、それぞれ密着状態とされている。すなわち、外側部材同士の間でも曲げモーメントを伝達できる。これにより、木質柱と木質梁及び外側部材で形成される梁との間で曲げモーメントを伝達し易い。また、幅広部を備えない同一梁幅の木質梁を使用できるため、木質梁の加工手間を少なくできる。
【0015】
請求項4の柱梁架構は、請求項2又は3に記載の柱梁架構において、前記木質柱と接する部分において、前記木質梁の上面から前記外側部材の上面に亘って、及び、前記木質梁の下面から前記外側部材の下面に亘って、それぞれ補強板が接合されている。
【0016】
請求項4の柱梁架構によると、木質梁から外側部材に亘って補強板が接合されている。これにより、木質梁端部の曲げ耐力が向上し、大きな曲げモーメントを負担できる。
【0017】
請求項5の柱梁架構は、請求項2又は3に記載の柱梁架構において、前記木質柱に跨がった状態で前記外側部材の上面から前記木質梁の上面に亘って、及び、前記木質柱に跨がった状態で前記外側部材の下面から前記木質梁の下面に亘って、それぞれ補強板が接合されている。
【0018】
請求項5の柱梁架構によると、外側部材から木質梁に亘って補強板が接合されている。さらに、この補強板は木質柱に跨がっている。これにより、木質梁端部の曲げ耐力が向上し、大きな曲げモーメントを負担できる。
【0019】
請求項6の柱梁架構は、請求項1~3の何れか1項に記載の柱梁架構において、前記密着部材は楔材である。
【0020】
請求項6の柱梁架構では、密着部材が楔材である。楔材は、例えば内側木質梁の端面と木質柱の側面との間に打ち込むことで、内側木質梁と木質柱との密着度を向上することができる。このため、木質柱と梁との間で曲げモーメントを伝達し易い。
【0021】
請求項7の柱梁架構は、木質梁と、前記木質梁と接合された複数の木質柱と、を有し、前記木質柱はそれぞれ、前記木質梁の下方に配置され、上端面が前記木質梁の下面に密着して配置された、または、前記上端面と前記木質梁の下面との間に密着部材が配置された下部木質柱と、前記木質梁の上方に配置され、下端面が前記木質梁の上面に密着して配置された、または、前記下端面と前記木質梁の上面との間に密着部材が配置された上部木質柱と、前記木質梁に跨がって配置されると共に、前記木質梁に接合され、かつ、前記下部木質柱及び前記上部木質柱に対面して前記下部木質柱及び前記上部木質柱に接合された外側部材と、を備えている。
【0022】
請求項7の柱梁架構によると、外側部材が木質梁に跨がって配置され、木質梁に接合されている。この外側部材が下部木質柱及び上部木質柱に接合されることにより、木質柱と木質梁とが固定される。これにより、木質梁と木質柱との間でせん断力を伝達できる。
さらに、この柱梁架構では、下部木質柱の上端面及び木質梁の下面、上部木質柱の下端面及び木質梁の上面が、それぞれ密着状態とされている。これにより、木質梁と木質柱との間で曲げモーメントを伝達できる。
【0023】
このような架構によれば、木質梁と木質柱との仕口部を、ピン接合より剛性が高い半剛接の接合構造と見做すことができる。これにより、木質梁は曲げモーメントを負担することができる。そして、架構に水平力が作用した場合は、柱及び木質梁へ曲げモーメントが分散されるため、架構として負担できる水平力が大きくなる。
【0024】
このように、請求項6の柱梁架構では、木質柱及び木質梁への複雑な加工や特殊な金物等を必要とすることなく、簡易な構成で木質柱と木質梁の接合部に剛性を確保できる。
【0025】
請求項8の柱梁架構は、請求項7に記載の柱梁架構において、前記下部木質柱及び前記上部木質柱それぞれの中央部には、他の部分より柱幅が大きい幅広部が形成され、前記幅広部の端面に前記外側部材の端面が密着され、または、前記幅広部の端面と前記外側部材の端面との間に密着部材が配置されている。
【0026】
請求項8の柱梁架構では、下部木質柱の上端面及び木質梁の下面、上部木質柱の下端面及び木質梁の上面、並びに、幅広部の端面及び外側部材の端面が、それぞれ密着状態とされている。すなわち、木質柱と外側部材との間でも曲げモーメントを伝達できる。これにより、木質梁と木質柱との間でさらに曲げモーメントを伝達し易い。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、簡易な構成で木質柱と木質梁との接合部に剛性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る柱梁架構を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る柱梁架構を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態の第一変形例に係る柱梁架構を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態の第一変形例に係る柱梁架構を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態の第二変形例に係る柱梁架構を示す斜視図である。
【
図6A】本発明の実施形態の第二変形例に係る柱梁架構を示す分解斜視図である。
【
図6B】第二変形例に係る補強板の展開例を示す分解斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態の第三変形例に係る柱梁架構を示す分解斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る柱梁架構における木質梁の端部構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る柱梁架構において木質梁を二方向へ延設した構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る柱梁架構について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0030】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0031】
各図面において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0032】
<柱梁架構>
図1には、本発明の実施形態に係る柱梁架構の一例が示されている。この架構20は、木軸で形成された柱梁架構であり、例えば中高層建築物である建物の外周部を形成している。
【0033】
この建物の外周部以外の部分には、例えば鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄骨造の架構が配置されている。すなわち、建物は、木造と木造以外の双方の架構を組み合わせて形成されたハイブリッド木造架構の中高層建築物である。なお、本発明に係る架構20は、木造の建物に適用してもよいし、低層建築物に適用してもよい。
【0034】
架構20は、複数の木質柱30、木質梁40、外側部材50及び楔材60を備えて形成されている。架構20において、木質柱30と木質梁40との接合部では、木質柱30が通し材とされ、木質梁40が分断されている。
【0035】
(木質柱)
図2に示すように、木質柱30は、X方向に沿う所定の間隔で複数並べて配置されている。木質柱30は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成され、上柱部32、下柱部34及び仕口部36を備えている。
【0036】
仕口部36は、外側部材50が接着剤によって接合される部分である。仕口部36は、木質柱30をY方向(木質梁40の延設方向と直交する方向)の両側から切削して2つの凹部を形成することにより形成される。仕口部36は、これらの凹部に挟まれた部分である。
【0037】
上柱部32は、仕口部36の上方に形成された部分であり、仕口部36に対してY方向の両側へ突出している。同様に、下柱部34は、仕口部36の下方に形成された部分であり、仕口部36に対してY方向の両側へ突出している。上柱部32、下柱部34及び仕口部36は同部材で一体的に形成されている。
【0038】
なお、上柱部32及び下柱部34は、仕口部36に対してY方向の両側へ突出してなくてもよい。すなわち、上柱部32及び下柱部34は、
図1に二点鎖線N1で示すように形成することもできる。
【0039】
(木質梁)
木質梁40は、隣り合う木質柱30の間において、X方向に沿って配置されている。木質梁40は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成され、
図2に示すように、幅広部42及び幅狭部44を備えている。
【0040】
幅広部42は、木質梁40の中央部に形成され、幅狭部44より梁幅が大きい部分である。幅広部42は、幅狭部44に対してY方向の両側へ突出している。幅狭部44は木質梁40の両端部寄りに形成された部分である。
【0041】
幅狭部44は、X方向の端面が木質柱30における仕口部36の側面と対向して配置されている。換言すると、木質梁40の端面が、木質柱30の側面と対向して配置されている。この端面と側面との間には、楔材60が配置されている。
【0042】
また、幅狭部44には、外側部材50が接合されている。幅狭部44と外側部材50とは、複数の接合部材J1を用いて接合される。接合部材J1としては、ラグスクリュー、ボルト、ドリフトピンや木ねじなどの各種部材を用いることができる。
【0043】
(外側部材)
外側部材50は、X方向に沿って(木質梁40に沿って)、木質柱30における仕口部36に跨がって配置されている。また、外側部材50は、仕口部36のY方向における両側に配置されている。外側部材50は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成されている。
【0044】
外側部材50の中央部は、接着剤J2を用いて仕口部36に接合されている。一方、外側部材50の両端部は、それぞれ木質柱30の両側にある木質梁40(の幅狭部44)に対面して、木質梁40に対して接合部材J1を用いて接合されている。
【0045】
また、外側部材50の端面(X方向の端面)は、木質梁40における幅広部42の端面と対向して配置されている。これら端面の間には、楔材60が配置されている。
【0046】
図1に示すように、外側部材50が木質柱30及び木質梁40に接合された状態で、外側部材50の側面(Y方向の端面)と、木質柱30の側面(Y方向の端面)と、木質梁40における幅広部42の側面(Y方向の端面)とは、面一に形成される。
【0047】
(楔材)
楔材60は、本発明における密着部材の一例であり、木質部材で形成されている。なお、楔材60は鋼製でもよい。楔材60は、上述したように、木質梁40における幅狭部44の端面と、木質柱30における仕口部36の側面との間に配置されている。また、楔材60は、外側部材50の端面と、木質梁40における幅広部42の端面との間に配置されている。さらに、楔材60は、これらの部分において、上下方向の双方に配置されている。
【0048】
楔材60は、挿入方向における後端側から先端側へ幅が漸減する先細り形状とされ、かつ、先端が尖って(すなわち、先端の幅が概ね0となるように)形成されている。楔材60の挿入方向における長さ及び挿入方向における後端側の幅は、配置される部分の隙間の幅に応じて、適宜決定することができる。
【0049】
この楔材60を打ち込むことにより、木質梁40における幅狭部44の端面と木質柱30における仕口部36の側面とが楔材60を介して密着され、また、外側部材50の端面と木質梁40における幅広部42の端面とが楔材60を介して密着される。
【0050】
なお、
図2においては、図示を簡略化するため、2本の木質柱30に挟まれた位置における楔材60のみを描画し、木質柱30の外側における楔材60の描画は省略している。
【0051】
<作用及び効果>
架構20によると、外側部材50が木質柱30に跨がって配置され、木質柱30に接合されている。この外側部材50が木質柱30の側面の木質梁40に接合されることにより、木質梁40と木質柱30とが固定される。これにより、木質柱30と木質梁40との間でせん断力を伝達できる。
【0052】
さらに、この架構20では、木質柱30の側面及び木質梁40の端面が、密着部材としての楔材60を用いることで密着状態とされている。これにより、木質柱30と木質梁40との間で曲げモーメントを伝達できる。
【0053】
このような架構20によれば、木質柱30と木質梁40との仕口部を、ピン接合より剛性が高い半剛接の接合構造と見做すことができる。これにより、木質梁40は曲げモーメントを負担することができる。そして、架構20に水平力が作用した場合は、木質柱30及び木質梁40へ曲げモーメントが分散されるため、架構として負担できる水平力が大きくなる。
【0054】
これに対して、木質柱と木質梁とが、例えば金属プレートとドリフトピンとで接合される一般的なピン接合の接合形式では、木質梁が曲げモーメントを負担することは難しい。このため、柱梁架構に水平力が作用した場合は、基礎部等に固定された木質柱の脚部に曲げモーメントが集中して損傷し易くなるため、架構として負担できる水平力が小さい。
【0055】
このように、本実施形態の架構20では、木質柱30及び木質梁40への複雑な加工や特殊な金物等を必要とすることなく、簡易な構成で木質柱30と木質梁40との接合部に剛性を確保できる。そして、架構20に水平力を負担させることができる。
【0056】
また、架構20によると、木質柱30と木質梁40とは直接接合されておらず、外側部材50を介して接合されている。このため、木質柱30と木質梁40とを組み付けずに分割して工場から出荷できる。このため搬送用のトラックの幅方向寸法に制約を受けずに梁寸法を設計できるので、建物の様々なスパン計画に柔軟に対応できる。
【0057】
また、架構20では、木質柱30の側面及び木質梁40の端面、並びに、木質梁40における幅広部42の端面及び外側部材50の端面が、それぞれ楔材60により密着状態とされている。すなわち、木質梁40と外側部材50との間でも曲げモーメント曲げモーメントを伝達できる。これにより、木質柱30と木質梁40との間で曲げモーメントを伝達し易い。
【0058】
<変形例>
以下、各種変形例について説明する。これらの変形例において上記実施形態と同様の構成及び効果については説明を適宜省略する。
【0059】
(第一変形例)
図3、
図4に示すように、第一変形例に係る架構70では、架構20の木質梁40に代えて木質梁72が用いられ、外側部材50に代えて外側部材74が用いられている。
【0060】
木質梁72は梁幅が一定の梁であり、X方向の端面が木質柱30における仕口部36の側面と対向して配置されている。この端面と側面との間には、楔材60が配置されている。
【0061】
外側部材74の中央部は、接着剤J2を用いて仕口部36に接合されている。また、外側部材74において木質梁72の端部と対向する部分は、木質梁72に対して接合部材J1を用いて接合されている。さらに、外側部材74の端面は、隣り合う木質柱30に接合された外側部材74の端面と対向して配置されている。これら端面の間には、楔材60が配置されている。
【0062】
第一変形例に係る架構70では、木質柱30の側面及び木質梁72の端面、並びに、外側部材74の端面同士が、それぞれ楔材60によって密着状態とされている。すなわち、外側部材74同士の間でも曲げモーメントを伝達できる。これにより、木質柱30と、木質梁72及び外側部材74で形成される梁との間で曲げモーメントを伝達し易い。
【0063】
また、幅広部を備えない同一梁幅の木質梁72を使用できるため、木質梁の加工手間を少なくできる。このため、木質梁の生産性が向上するほか、歩留まりも向上する。
【0064】
なお、架構70においては、外側部材74の端面同士が、それぞれ楔材60によって密着状態とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば外側部材74の端面に間隔を設け、外側部材74同士の間で曲げモーメントを伝達しない構成としてもよい。外側部材74は、木質柱30及び木質梁72に接合されていればよく、その長さは限定されるものではない。
【0065】
(第二変形例)
図5に示すように、第二変形例に係る架構80では、架構20の構成に加えて補強板82を備えている。補強板82は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成されている。また、補強板82は、鋼板等を用いて形成してもよい。補強板82としては、架構80の面内方向における曲げ剛性が、木質梁40及び外側部材50の曲げ剛性以上のものを選定してもよい。
【0066】
図6Aに示すように、木質梁40には、幅狭部44の上下面が斫り取られて、切欠部40Eが形成されている。同様に、外側部材50には、幅狭部44と対向する両端部が斫り取られて、切欠部50Eが形成されている。補強板82は、これらの切欠部40E及び50Eに配置され、接着剤やビス等を用いて、木質梁40及び外側部材50に固定されている。
【0067】
これにより、木質梁40が木質柱30と接する部分において、木質梁40の上面からY方向両側の外側部材50の上面に亘って、及び、木質梁40の下面からY方向両側の外側部材50の下面に亘って、補強板82が配置され、接合される。
【0068】
このような補強板82を設けることで、木質梁40と外側部材50との接合強度が向上する。したがって、木質梁40の端部の曲げ耐力が向上し、大きな曲げモーメントを負担できる。また、木質梁40と外側部材50とを側面から接合する接合部材J1の本数を低減することができる。これにより施工性を向上できる。
【0069】
なお、補強板82は、木質梁40及び外側部材50の上下面の双方に配置されているが、これらの上面のみ又は下面のみに配置してもよい。また、補強板82を配置するための切欠部40E及び50Eは必ずしも必要ない。補強板82は、
図1に示した架構20や
図3に示した架構70に追加して用いることもできる。
【0070】
なお、
図6Aにおいては、図示を簡略化するため、2本の木質柱30に挟まれた位置における楔材60及び補強板82のみを描画し、木質柱30の外側における楔材60及び補強板82の図示は省略している。
【0071】
なお、補強板82に代えて、
図6Bに示す補強板84を用いてもよい。この補強板84は、補強板84A及び84Bを組み合わせて形成される。補強板84A及び84Bは、それぞれ木質梁40の梁幅の半分の幅とされ、木質梁40のY方向における一方側と他方側とにそれぞれ配置されている。
【0072】
補強板84A及び84Bは、外側部材50と同様に、木質柱30における仕口部36に跨がって配置され、外側部材50の上下面をそれぞれ被覆している。すなわち、補強板84A及び84Bは、仕口部36の外側において通し材とされている。
【0073】
また、補強板84A及び84Bは、外側部材50の上面から木質梁40の上面の中央部に亘って配置され、外側部材50及び木質梁40に接合されている。同様に、補強板84A及び84Bは、外側部材50の下面から木質梁40の下面の中央部に亘って配置され、外側部材50及び木質梁40に接合されている。
【0074】
このように、補強板84A及び84Bで木質柱30を囲い込むことにより、木質梁40と外側部材50とのY方向の接合強度だけでなく、X方向の接合強度も向上する。これにより、さらに曲げモーメントを負担し易くできる。
【0075】
なお、この例において、外側部材50の高さ方向の厚みは、幅狭部44の上下方向の厚みと等しい。
図6Bにおいては、外側部材50の上下面において補強板84A及び84Bが配置される部分を2点鎖線で示している。また、図示を簡略化するため、2本の木質柱30に挟まれた位置における楔材60のみを描画し、木質柱30の外側における楔材60の図示は省略している。
【0076】
(第三変形例)
図7に示すように、第三変形例に係る架構90は、木質梁92と、木質梁92と接合された複数の木質柱93と、を有している。架構90において、木質柱93と木質梁92との接合部では、木質梁92が通し材とされ、木質柱93が上下に分断されている。この木質柱93は、下部木質柱94と、上部木質柱96と、外側部材98と、を備えている。
【0077】
下部木質柱94は、木質梁92の下方に配置され、上端面と木質梁92の下面との間に密着部材としての楔材60が配置されている。下部木質柱94は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成され、幅広部94A及び幅狭部94Bを備えている。
【0078】
幅広部94Aは、下部木質柱94の中央部(又は中央部から下端部)に形成され、幅狭部94Bより梁幅が大きい部分である。幅広部94Aは、幅狭部94Bに対してY方向の両側へ突出している。幅狭部94Bは下部木質柱94の両端部(又は上端部)寄りに形成された部分である。
【0079】
上部木質柱96は、木質梁92の上方に配置され、下端面と木質梁92の上面との間に楔材60が配置されている。上部木質柱96は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成され、幅広部96A及び幅狭部96Bを備えている。
【0080】
幅広部96Aは、上部木質柱96の中央部(又は中央部から上端部)に形成され、幅狭部96Bより梁幅が大きい部分である。幅広部96Aは、幅狭部96Bに対してY方向の両側へ突出している。幅狭部96Bは上部木質柱96の両端部(又は下端部)寄りに形成された部分である。
【0081】
外側部材98は、Z方向に沿って(下部木質柱94及び上部木質柱96に沿って)、木質梁92における仕口部92Aに跨がって配置されている。また、外側部材50は、仕口部92AのY方向における両側に配置されている。外側部材98は、無垢の木材又はLVL等を用いて形成されている。
【0082】
外側部材98の中央部は、接着剤J2を用いて仕口部92Aに接合されている。一方、外側部材98の両端部は、それぞれ木質梁92の上下にある上部木質柱96及び下部木質柱94に対面して、上部木質柱96及び下部木質柱94に対して接合部材J1を用いて接合されている。
【0083】
また、外側部材98の上下端面は、それぞれ上部木質柱96における幅広部96A及び下部木質柱94における幅広部94Aの端面と対向して配置されている。これら端面の間には、楔材60が配置されている。
【0084】
架構90によると、外側部材98が木質梁92に跨がって配置され、木質梁92に接合されている。この外側部材98が下部木質柱94及び上部木質柱96に接合されることにより、木質柱93と木質梁92とが固定される。これにより、木質梁92と木質柱93との間でせん断力を伝達できる。
【0085】
さらに、この架構90では、下部木質柱94の上端面及び木質梁92の下面、上部木質柱96の下端面及び木質梁92の上面が、それぞれ密着状態とされている。これにより、木質梁92と木質柱93との間で曲げモーメントを伝達できる。
【0086】
このような架構90によれば、木質梁92と木質柱93との仕口部を、ピン接合より剛性が高い半剛接の接合構造と見做すことができる。これにより、木質梁92は曲げモーメントを負担することができる。そして、架構90に水平力が作用した場合は、木質柱93及び木質梁92へ曲げモーメントが分散されるため、架構90として負担できる水平力が大きくなる。
【0087】
なお、上部木質柱96及び下部木質柱94には、それぞれ幅広部96A及び94Aを設けなくてもよい。すなわち、上部木質柱96及び下部木質柱94は、
図7に二点鎖線N2で示すように形成することもできる。
【0088】
(その他の変形例)
上記各実施形態においては、密着部材として楔材60を用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば楔材60に代えて、モルタルを用いてもよい。
【0089】
例えば
図2において、木質梁40における幅狭部44の端面と、木質柱30における仕口部36の側面との間、及び、楔材60は、外側部材50の端面と、木質梁40における幅広部42の端面との間、の少なくとも何れかに、楔材60に代えてモルタルなどの充填材を充填してもよい。
【0090】
密着部材は、例えば木質梁40と木質柱30とを、当該密着部材を介して密着させるものであればよい。また、木質梁40と木質柱30とが密着可能であれば、必ずしも密着部材を用いなくてもよい。
【0091】
また、上記各実施形態において、外側部材50、74及び98を、それぞれ木質柱30及び木質梁92に接合している接着剤J2は、ラグスクリューやビスに代えてもよい。
【0092】
また、上記各実施形態において木質梁40、72は木質柱30に接合されているが、架構20及び架構70は、木質柱30以外の構造部材に接合された梁を含んでいてもよい。架構90の木質梁92も、木質柱30以外の構造部材に接合することができる。
【0093】
例えば架構20は、
図8に示す木質梁48のように、一方の端部を木質柱30以外の構造部材に接合した梁を備えていてもよい。この図においては、木質梁48の一方の端部が木質柱30に接合され、他方の端部が鉄筋コンクリート製の梁100に接合されている。また、木質梁48において梁100に接合される端部には幅狭部が形成されていない。
【0094】
木質梁48と梁100との接合方法の一例としては、梁100にガセットプレート102を固定しておき、このガセットプレートと木質梁40とをドリフトピンで接合する方法が挙げられる。
【0095】
また、上記の各実施形態においては、木質柱30に一方向のみの木質梁(木質梁40及び72)が連結された例を示しているが、
図9に示すように、木質柱30には、互いに交わる二方向の木質梁を連結してもよい。
【0096】
この場合、木質柱30において高さが異なる位置に、それぞれX方向に沿う木質梁40及びY方向に沿う木質梁40を連結する。外側部材50についても同様である。
【符号の説明】
【0097】
20 架構
30 木質柱
40 木質梁
42 幅広部
48 木質梁
50 外側部材
60 楔材(密着部材)
70 架構
72 木質梁
74 外側部材
80 架構
82 補強板
90 架構
92 木質梁
93 木質柱
94 下部木質柱
94A 幅広部
96 上部木質柱
96A 幅広部
98 外側部材