(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173316
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】リニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20231130BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20231130BHJP
F16F 15/067 20060101ALI20231130BHJP
D06F 37/22 20060101ALI20231130BHJP
D06F 37/24 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H02K41/03 A
F16F15/03 G
F16F15/067
D06F37/22
D06F37/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085480
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中津川 潤之介
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸司
(72)【発明者】
【氏名】菊地 聡
【テーマコード(参考)】
3B165
3J048
5H641
【Fターム(参考)】
3B165AA04
3B165AE01
3B165AE05
3B165AE06
3B165AE13
3B165AE14
3B165BA24
3B165CD08
3B165CD15
3J048AA02
3J048AC08
3J048BC02
3J048CB21
3J048EA07
5H641BB06
5H641GG02
5H641GG06
5H641HH03
5H641HH09
5H641JA09
5H641JA16
(57)【要約】
【課題】設置自由度を向上し、かつシステムの性能を向上するリニアモータを提供する。
【解決手段】鉄心と巻線からなる電機子を有する固定子11と、固定子11に対向する第1の面と第2の面とを具備する永久磁石124a,124bを有し、固定子11に対し相対的に移動する可動子12と、を備え、固定子11と可動子12との間には複数のギャップg1,g2が形成され、可動子12の第1の面に対向する電機子11Aが第2の面に対向する電機子11Bよりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と巻線からなる電機子を有する固定子と、
前記固定子に対向する第1の面と第2の面とを具備する永久磁石を有し、前記固定子に対し相対的に移動する可動子と、を備え、
前記固定子と前記可動子との間に複数のギャップが形成され、
前記可動子の前記第1の面に対向する電機子が前記第2の面に対向する電機子よりも大きいことを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記第2の面に対向する電機子よりも大きいとは、前記可動子の前記第1の面に対向する電機子の前記第1の面に垂直な方向の長さが、前記第2の面に対向する電機子の前記第2の面に垂直な方向の長さよりも長いことを特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記第2の面に対向する電機子よりも大きいとは、前記可動子の前記第1の面に対向する電機子の巻線の巻数が、前記第2の面に対向する電機子の巻線の巻数よりも多いことを特徴とするリニアモータ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記第2の面に対向する電機子よりも大きいとは、前記可動子の前記第1の面に対向する電機子の巻線の線径が、前記第2の面に対向する電機子の巻線の線径よりも太いことを特徴とするリニアモータ。
【請求項5】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記第2の面に対向する電機子よりも大きいとは、前記可動子の前記第1の面に対向する電機子に面するギャップが、前記第2の面に対向する電機子に面するギャップよりも広いことを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記可動子は、前記永久磁石を2つ備え、
一方の前記永久磁石は、前記第1の面がN極、前記第2の面がS極に着磁され、
他方の前記永久磁石は、前記第1の面がS極、前記第2の面がN極に着磁されていることを特徴とするリニアモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のリニアモータにおいて、
前記可動子は、前記永久磁石が取り付けられる非磁性材料によって形成されたフレーム部を備え、
前記フレーム部には、一対のフレーム腕部が形成され、前記フレーム腕部の互いに対向する面には溝部が形成され、
前記永久磁石は、前記溝部に嵌めて挿入されていることを特徴とするリニアモータ。
【請求項8】
固定金具間を繋ぐ対向する一対のシャフトと、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のリニアモータと、
前記シャフトに装着され、前記固定金具の一方と前記固定子の腕とで縮接されている弾性体と、を備え、
前記可動子は前記固定金具間に固定されていることを特徴とする電磁サスペンション。
【請求項9】
請求項8に記載の電磁サスペンションにおいて、
前記弾性体は、金属製の巻バネであり、
前記巻バネの内側の空間に前記シャフトが挿通されていることを特徴とする電磁サスペンション。
【請求項10】
請求項8に記載の電磁サスペンションにおいて、
前記電機子の巻線に交流電流を供給するインバータと、
前記電機子の巻線に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器によって検出される電流に基づいて前記インバータを制御して前記リニアモータの推力を調整する推力調整部と、を備えることを特徴とする電磁サスペンション。
【請求項11】
請求項8に記載の電磁サスペンションと、
衣類を収容する洗濯槽と、
前記洗濯槽を内包する外槽と、
前記洗濯槽を回転させる駆動機構と、を備え、
前記電磁サスペンションは、前記外槽の振動を抑制することを特徴とする洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
直線運動する電動機としてリニアモータやリニアアクチュエータ(以下、総称してリニアモータと称する)が知られている。リニアモータは、回転機を直線状に切り開いた構造を有しており、固定子と可動子の各々に構成された磁極の間に働く磁力によって、可動子に推力を発生させる。また、リニアモータを電磁サスペンションとして活用する検討も進められている。例えば、特許文献1は洗濯機用のサスペンションとして、リニアモータを有する電磁サスペンションを適用する技術が記載されている。特許文献1には、電機子鉄心と電機子巻線とを有する固定子と、固定子に対向する第1の面と第2の面とを有する磁石または磁性体を有し、固定子に対し相対的に移動する可動子を有するリニアモータが記されており、磁石または磁性体に対向する電機子鉄心と電機子巻線は対称な構造をしている。一方、特許文献2では、磁石に対向する電機子鉄心は対称な構造をしているが、隣接する電機子巻線の配置位置を相違させるために、対向する一方の電機子巻線が基端部に、他方の電機子巻線が先端部に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-85442号公報
【特許文献2】特開2005-287185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2のリニアモータでは、磁石に対向する電機子鉄心が対称な構造をしているため、可動子は固定子の中心に配置されている。その場合、
図9に示すように、電磁サスペンション1000の固定子110の一部が洗濯機カバーの側板32aと干渉する場合がある。特に、洗濯容量の増大に伴って洗濯槽(外槽37)の直径が大きくなると、洗濯機W100内部のスペースが狭くなり、電磁サスペンション1000の取付部24をできるだけ側板32a近傍に設ける必要が生じてくる。取付位置を側板32a近傍に配置すると、固定子110の側板32a近傍部分が側板32aと干渉するおそれがある。
【0005】
上記のように、磁石に対向する電機子が対称な構造のリニアモータは、設置スペースの制約を受けるために設置の自由度が低下し、システムの性能(洗濯機の制振性能)を十分に引き出せないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、設置自由度を向上し、かつシステムの性能を向上するリニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明のリニアモータは、鉄心と巻線からなる電機子を有する固定子と、前記固定子に対向する第1の面と第2の面とを具備する永久磁石を有し、前記固定子に対し相対的に移動する可動子と、を備え、前記固定子と前記可動子との間に複数のギャップが形成され、前記可動子の前記第1の面に対向する電機子が前記第2の面に対向する電機子よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リニアモータの設置自由度を向上し、かつシステムの性能を向上するすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のリニアモータを備えた電磁サスペンションの斜視図である。
【
図2】第1実施形態のリニアモータの斜視断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る可動子の分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態と比較例との推力の比較である。
【
図6】比較例と第1実施形態および第2実施形態の通電時の巻線温度の比較である。
【
図7】第3実施形態のリニアモータのx0軸方向に垂直な断面図である。
【
図8】比較例と第1実施形態と第3実施形態において、通電時に可動子にかかる磁気吸引力の比較である。
【
図9】洗濯機に従来の電磁サスペンションを配置した場合の正面図である。
【
図10】洗濯機に本実施形態の電磁サスペンションを配置した場合の正面図である。
【
図11】第4実施形態の電磁サスペンションの斜視図である。
【
図12】第5実施形態に係る洗濯機の斜視図である。
【
図13】第5実施形態に係る洗濯機の縦断面図である。
【
図14】第5実施形態に適用される制振装置の構成図である。
【
図16】粘性減衰係数が一定であるオイルダンパを用いた比較例1において、洗濯槽の回転速度と洗濯機の変位(振動)の変化を示す実験結果である。
【
図17】従来の電磁サスペンションを洗濯機に適用した比較例2において、洗濯槽の回転速度と洗濯機の変位(振動)の変化を示す実験結果である。
【
図18】第6実施形態に係る洗濯機に適用した状態において、洗濯槽の回転速度と洗濯機の変位(振動)の変化を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。複数の実施形態及び各実施形態の変更例において、同様の構成要素には同様の符号を付し、説明を省略する。
<第1実施形態>
図1乃至
図6を参照して、本発明の第1実施形態に係るリニアモータについて説明する。
図1は第1実施形態に係るリニアモータを備えた電磁サスペンションの斜視図である。なお、リニアモータ10は、例えば後述する他の実施形態の電磁サスペンション100(
図11参照)に適用され、電磁サスペンション100は、例えば洗濯機W(
図12参照)の振動を抑制するために適用される。
【0011】
図1において符号x0、y0、z0に示すように、x0軸、y0軸、z0軸を定める(y0軸の正方向を上側、y0軸の負方向を下側、z0軸をリニアモータの推進方向とする)。
図1は、電磁サスペンション100の外観を図示している。電磁サスペンション100は、リニアモータ10を内包している。
【0012】
〔電磁サスペンション100の構成〕
図1に示すように、電磁サスペンション100は、シャフト固定金具23(固定金具)間を繋ぐ対向する一対のシャフト21と、電機子鉄心(鉄心)と電機子巻線(巻線)とを有する固定子11と、シャフト固定金具23間に固定され、固定子11に対向する第1の面(例えば、
図3の表面124f)と第2の面(例えば、
図3の裏面124r)とを有する永久磁石124a、124b(磁石または磁性体)を有し、固定子11に対し相対的に移動する可動子12と、を有するリニアモータ10と、シャフト21に装着され、シャフト固定金具23の一方と固定子11の腕部111とで縮接されている弾性体20と、を備える。また、可動子12は、シャフト固定金具23間に固定されている。
【0013】
リニアモータ10の可動子12と、推進方向(図中z0軸方向)に対して平行な位置に、2本のシャフト21と、2個の弾性体20がある。2本のシャフト21は、X0方向に離間して配置されている。また、シャフト21は弾性体20の内側に挿通されている。また、シャフト21は、リニアモータ10の固定子11と軸受(図示せず)を介して可動子12の移動方向に摺動する。本実施形態では軸受として、樹脂表面に潤滑加工したすべり軸受を用いている。
【0014】
〔リニアモータ10の構成〕
図2は、第1実施形態に係るリニアモータ10の斜視断面図である。
図2は、リニアモータ10の外観を俯瞰するとともに、その1/2をカットした内部構造を図示している。リニアモータ10は、電機子である固定子11と、z0軸方向に延在する板状の可動子12と、を備えている。
【0015】
固定子11は、z0軸方向に沿って略角柱に形成され、その中空部分に矩形平板状の可動子12が遊挿されている。そして、リニアモータ10は、固定子11と可動子12との間に働く磁気的な吸引力・反発力、すなわち推力によって、固定子11と可動子12との相対位置をz0軸方向に変化させる。リニアモータ10を電磁サスペンション100に適用する場合には、固定子11または可動子12が、制振対象物Dt(
図11参照)に結合される。
図1に示す例においては、洗濯機Wの外槽37(
図13参照)が制振対象物Dtであり、固定子11または可動子12が外槽37に結合されている。ここでは、洗濯機Wの外槽37が制振対象物Dtと記しているが、洗濯機の構造が変われば接続先は変更される。つまり洗濯機Wの制振効果を高めるように、洗濯機Wの構成部品と任意に接続すればよい。
【0016】
固定子11は、コア11a(電機子の鉄心)と、上側巻線11c1と下側巻線11c2(電機子の巻線)と、を備えている。つまり、固定子11は、鉄心と巻線からなる電機子を有している。コア11aは、電磁鋼板をz0軸方向に積層したものであり、カシメや溶接で一体化している。また、コア11aは、可動子12に向かって突出する上側ティース部11b1と下側ティース部11b2を備えている。上側巻線11c1は上側ティース部11b1に巻回され、下側巻線11c2は下側ティース部11b2に巻回されている。上側巻線11c1と上側ティース部11b1の間には上側ボビン11d1が、下側巻線11c2と下側ティース部11b2の間には下側ボビン11d2が配置され、絶縁処理がなされている(または絶縁樹脂・絶縁紙などを配置してもよい)。ここで、上側ティース部11b1のy0軸方向長さをA、下側ティース部11b2のy0軸方向長さをB、上側巻線11c1のy0軸方向長さをC、下側巻線11c2のy0軸方向長さをD、とした場合、以下の式(1)、(2)とする。なお、長さA,Cは、可動子12の第1の面(表面124f)に対向する電機子の第1の面に垂直な方向の長さである。また、長さB,Dは、可動子12の第2の面(裏面124r)に対向する電機子の第2の面に垂直な方向の長さである。
【数1】
【数2】
【0017】
このように、可動子12の表面124f(第1の面)に対向する電機子(上側ティース部11b1および上側巻線11c1を備えた固定子11の一部)は、可動子12の裏面124r(第2の面)に対向する電機子(下側ティース部11b2および下側巻線11c2を備えた固定子11の他の一部)よりも大きくなるように形成されている。なお、以下では、可動子12の第1の面側に位置する固定子11を大きい方の電機子11Aと呼び、可動子12の第2の面側に位置する固定子11を他方の電機子11Bと呼ぶことがある。また、大きいとは、第1の面に対向する電機子の外形寸法(サイズ)が、第2の面に対向する電機子の外形寸法(サイズ)よりも大きいことを意味している。
【0018】
また、本実施形態の上側巻線11c1と下側巻線11c2は、直列接続され、いずれも同じ線径の導線が巻回されている。また、大きい方の電機子11Aの上側巻線11c1(巻線)の巻数が他方の電機子11Bの下側巻線11c2(巻線)の巻数よりも大きく(多く)、上側巻線11c1の電気抵抗が下側巻線11c2の電気抵抗よりも大きくなっている。
【0019】
〔可動子12の構成〕
図3は、第1実施形態に係る可動子12の分解斜視図である。可動子12は、非磁性材料のフレーム部121と、同じく非磁性材料のバー部122,122と、互いに極性の異なる永久磁石124aおよび124bと、を備えている。永久磁石124aは、扁平な四角板状に形成され、上側の面がN極に着磁され、下側の面がS極に着磁されている。また、永久磁石124bは、扁平な四角板状に形成され、永久磁石124aとは逆に、上側の面がS極に着磁され、下側の面がN極に着磁されている。永久磁石124aの表面124f(図示上側の面)は、第1の面であり、固定子11の上側ティース部11b1および上側巻線11c1に対向している。また、永久磁石124aの裏面124r(図示下側の面)は、第2の面であり、固定子11の下側ティース部11b2および下側巻線11c2に対向している。また、永久磁石124bの表面124f(図示上側の面)は、第1の面であり、固定子11の上側ティース部11b1および上側巻線11c1に対向している。また、永久磁石124bの裏面124r(図示下側の面)は、第2の面であり、固定子11の下側ティース部11b2および下側巻線11c2に対向している。
【0020】
また、永久磁石124a,124bのz0軸方向の長さは、上側ティース部11b1(下側ティース部11b2)と略同じ長さになるように形成されているが、このような長さに限定されるものではない。可動子12のストロークを長くする場合には、永久磁石124の長さを長くし、可動子12のストロークを短くする場合には、永久磁石124の長さを短くする。バー部122は、四角柱状に形成され、永久磁石124a,124bと略同じ幅に形成されている。
【0021】
フレーム部121は、z0軸方向に一対のフレーム腕部121aが延伸され、フレーム腕部121aの互いに対向する面にはz0軸方向に沿って溝部121bが形成されている。また、フレーム部121は、軸方向(z0軸方向)の一方が閉じた形状であり、他方が解放した形状である。また、フレーム部121には、永久磁石124a、バー部122、永久磁石124b、バー部122の順序で、これらのパーツが溝部121bに嵌めて挿入されている。なお、バー部122は、長手方向(x0軸方向)の両端部にフレーム部121に接触する接触面122c(接触部)を有する。接触面122cは、フレーム部121の所定部分と面接触する部分であってもよく、接触面122cの大半でフレーム部121に非接触になっていてもよい。
【0022】
図2に戻って、固定子11と可動子12との間には、複数のギャップg1,g2が形成されている。すなわち、固定子11の上側ティース部11b1と可動子12の永久磁石124a,124bとの間には、ギャップg1が形成されている。また、固定子11の下側ティース部11b2と可動子12の永久磁石124a,124bとの間には、ギャップg2が形成されている。
【0023】
〔比較例の構成〕
図4は、比較例のリニアモータの斜視断面図である。比較例のリニアモータ500のティース部110b1,110b2、巻線110c1,110c2、ボビン110d1,110d2は、上下で対称に構成されており、ティース部110b1,110b2のy0軸方向長さをE、巻線110c1、110c2のy0軸方向長さをF、とした場合、以下の式(3)、(4)とする。なお、可動子120は、
図3に示す可動子12と同じとする。また、式(3)に示すA,B、式(4)に示すC,Dは、
図2において説明した寸法とする。
【数3】
【数4】
【0024】
〔第1実施形態と比較例との比較〕
図5は、第1実施形態と比較例との推力の比較である。なお、縦軸にリニアモータの推力、横軸にリニアモータに通電する電流を示し、実線が第1実施形態、破線が比較例である。このように、第1実施形態の推力は、比較例の推力とほぼ同等であり、第1実施形態による推力低下の影響は僅少である。
【0025】
このように第1実施形態に係るリニアモータ10を電磁サスペンション100に適用することで、リニアモータ10の設置自由度を向上できる。その結果、
図10に示すように、電磁サスペンション100の固定子11の一部が洗濯機Wの筐体を構成する側板32aと干渉するのを回避することができる。また、電磁サスペンション100を洗濯機Wに適用することで、システムの性能(洗濯機Wの制振性能)を向上することが可能になる。
【0026】
なお、洗濯機Wは、外槽37の左右の下部を電磁サスペンション100で弾性支持する構成であってもよいが、左右の一方を電磁サスペンション100とし、他方をオイルダンパ(不図示)として外槽37を弾性支持してもよい。オイルダンパとしては、従来から採用されている一般的なものである。また、オイルダンパに替えて、摩擦ダンパであってもよい。
【0027】
また、第1実施形態のリニアモータ10では、可動子12は、2つの永久磁石124a,124bを備え、永久磁石124aは、第1の面がN極、第2の面がS極に着磁され、永久磁石124bは、第1の面がS極、第2の面がN極に着磁されている。これにより、単一の永久磁石で可動子を構成する場合よりも推力を大きくすることが可能になる。
【0028】
また、第1実施形態のリニアモータ10では、可動子12は、永久磁石124が取り付けられる非磁性材料によって形成されたフレーム部121を備え、フレーム部121には、一対のフレーム腕部121aが形成され、フレーム腕部121aの互いに対向する面には溝部121bが形成され、永久磁石124a,124bは、溝部121bに嵌めて挿入されている。複数の永久磁石を備える可動子12であっても、フレーム部121に永久磁石124a、124bを容易に取り付けることが可能になる。
【0029】
図6は、比較例と第1実施形態と第2実施形態の通電時の巻線温度の比較である。縦軸に巻線最高温度(℃)を示し、比較例の黒い棒が巻線110c1(
図4参照)の温度、第1実施形態の黒い棒が上側巻線11c1(
図2参照)の温度、比較例の白い棒が巻線110c2(
図4参照)の温度、第1実施形態の白い棒が下側巻線11c2(
図2参照)の温度である。比較例は、上下の電機子が対称な構造であるため、巻線110c1の温度と巻線110c2の温度が等しい。一方、第1実施形態は、上側巻線11c1の温度が下側巻線11c2の温度よりも高くなっている。また、第1実施形態では、上側巻線11c1と下側巻線11c2に同じ線径の導線が巻回され、上側巻線11c1の巻数が下側巻線11c2の巻数よりも大きい(多い)ため、上側巻線11c1の電気抵抗が下側巻線11c2の電気抵抗よりも大きい。また、上側巻線11c1と下側巻線11c2は直列接続されているため、両巻線に同じ大きさの電流が通電され、上側巻線11c1の温度が下側巻線11c2の温度よりも高くなった。一般に、巻線の絶縁種別によって最大温度が制約されるため、上側巻線11c1の絶縁等級を下側巻線11c2の絶縁等級よりも高くすることで、上下の巻線の温度差を許容することができる。
【0030】
<第2実施形態>
図6を参照して、第2実施形態に係るリニアモータについて説明する。第1実施形態と異なる点は、上側巻線11c1の線径と下側巻線11c2の線径が異なり、電機子11Aの上側巻線11c1(巻線)の線径が、電機子11Bの下側巻線11c2(巻線)の線径よりも大きい(太い)点である。その結果、上側巻線11c1の電気抵抗が下側巻線11c2の電気抵抗と同等またはそれ以下となっている。上側巻線11c1と下側巻線11c2は直列接続されているため、両巻線に同じ大きさの電流が通電され、上側巻線11c1の温度と下側巻線11c2の温度が概ね等しくなった。なお、第2実施形態の巻線最高温度は、第1実施形態の巻線最高温度よりも低く抑えられ、上側巻線11c1の絶縁等級と下側巻線11c2の絶縁等級を同一とし、かつグレードの低い巻線を用いることができる。
【0031】
<第3実施形態>
図7乃至
図8を参照して、第3実施形態に係るリニアモータについて説明する。
図7は第3実施形態に係るリニアモータのx0軸方向に垂直な断面図である。上側ティース部11b1と永久磁石124a,124bとの間のギャップg1の寸法をG1、下側ティース部11b2と永久磁石124a,124bとの間のギャップg2の寸法をG2、とした場合、以下の式(5)とする。つまり、電機子11Aに面するギャップg1(寸法G1)が、電機子11Bに面するギャップg2(寸法G2)よりも大きい(広い)。なお、
図7では、上側ティース部11b1と永久磁石124aの表面124fとのギャップg1の寸法G1、下側ティース部11b2と永久磁石124aの裏面124rとのギャップg2の寸法G2を矢印で図示しているが、上側ティース部11b1と永久磁石124bの表面124fとのギャップg1の寸法についても前記と同様の寸法G1であり、下側ティース部11b2と永久磁石124bの裏面124rとのギャップg2の寸法についても前記と同様の寸法G2である。
【数5】
【0032】
なお、前述の第1実施形態並びに比較例においては、以下の式(6)であった。
【数6】
【0033】
図8は、比較例と第1実施形態および第3実施形態において、通電時に可動子(主に永久磁石124aおよび124b)にかかる磁気吸引力の比較である。可動子にかかる磁気吸引力の極性は、
図7のy軸の正方向(上向き)を正、
図7のy軸の負方向(下向き)を負とする。縦軸に可動子にかかる磁気吸引力を示し、横軸に通電した電流値を示している。
【0034】
上下の電機子が対称な大きさである比較例においては、可動子120(
図4参照)にかかる磁気吸引力が上下方向(y軸方向)で互いに相殺され、通電した電流値の大小にかかわらず、ゼロ近傍の値を示す。一方、上下の電機子が非対称な第1実施形態(
図2参照)では、可動子12にかかる磁気吸引力が上下方向で相殺されず、通電した電流が大きくなるにつれて、大きい電機子の方向(y軸正方向)への磁気吸引力が増大する。
【0035】
ところで、可動子12にかかる磁気吸引力は、軸受摩擦を増加させ、軸受寿命を低下させるおそれがある。そこで、第3実施形態では、電機子11Aに面するギャップg1の寸法G1を、電機子11Bに面するギャップg2の寸法G2よりも大きく(広く)した。このように可動子12を小さい電機子側(下側ティース部11b2と下側巻線11c2で構成される側)にわずか(例えば0.1mm、0.2mm)に近づけることで、小さい電機子の方向(y0軸負方向)への磁気吸引力を働かせ、通電時の磁気吸引力を緩和することができる。その結果、軸受摩擦を低下させ、軸受寿命を向上できる。
【0036】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態に係る電磁サスペンション100の斜視図である。なお、以下の説明において、前述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0037】
電磁サスペンション100は、第1実施形態によるリニアモータ10と、弾性体20と、を備えている。そして、リニアモータ10の可動子12の一端は、制振対象物Dtに結合される。ここで、制振対象物Dtとは、電磁サスペンション100によって振動を抑制しようとする対象物であり、図示の例において制振対象物Dtは、洗濯機W(
図12参照)の外槽37である。
【0038】
また、リニアモータ10の固定子11は、取付部(ブラケット)24によって洗濯機Wのベース31に固定され、固定子11の移動が規制されている。従って、洗濯機Wの外槽37がz0軸方向に振動すると、それに伴って可動子12がz0軸方向に沿って往復し、可動子12と固定子11との相対的な位置関係が変化する。
【0039】
また、第4実施形態においては、弾性体20として金属製の巻バネ(コイルバネ)を適用した。ここで、弾性体20は、固定子11に弾性力を付与するものであり、固定子11とシャフト固定金具23との間に介在している。
図11に示すように、可動子12は、固定子11を貫通するように配置される。また、弾性体20は、可動子12を付勢するように配置されている。
【0040】
弾性体20は、リニアモータ10の非通電状態においても、外槽37を洗濯機W内の所定の位置に保持できるバネ力を備えている。これにより、万が一、制御ミスにより可動子12がz0軸上方(外槽37側)に突き抜けかけた場合においても、外槽37の自重と、弾性体20のバネ力により、可動子12を押し戻す力が働く。同様に可動子12がz0軸下方に突き抜けかけた場合は、弾性体20のバネ力により、押し戻される。すなわち、弾性体20が制御のフェールセーフ性を確保し、可動子12の両端にストッパーのような部材を配置することなく、ロバスト性を高めることができる。
【0041】
以上のように、第4実施形態の電磁サスペンション100は、シャフト固定金具23間を繋ぐ対向する一対のシャフト21と、第1実施形態によるリニアモータ10と、固定子11または可動子12を移動方向(z0軸方向)に付勢する弾性体20と、を有する。また、可動子12は、シャフト固定金具23間に固定されている。これにより、リニアモータ10の非通電状態においても、リニアモータ10を所定の位置に保持でき、リニアモータ10の動作時においても、可動子12の突き抜けを防止することができる。
【0042】
特に、弾性体20は、金属製の巻バネ(コイルバネ)によって構成されている。このように、弾性体20として、金属製の巻バネを用いて、巻バネの内側の空間にシャフト21を挿通する。このように、巻バネの中の空間にシャフト21を通すことで、空間利用率を高めることができる。なお、弾性体20は、巻バネに限定されるものではなく、板バネであってもよい。また、弾性体20は、金属製に限定されるものではなく、合成樹脂製であってもよい。合成樹脂製にすることで電磁サスペンション100を軽量化することができ、洗濯機Wの軽量化につなげることができる。
【0043】
<第5実施形態>
(全体構成)
図12は、第5実施形態に係る洗濯機Wの斜視図である。なお、
図12において、洗濯機Wの左右方向をx1方向、前後方向(奥行方向)をy1方向、高さ方向をz1方向とする。
図12に示すように、洗濯機Wは、ドラム式の洗濯機であり、また、衣類を乾燥する機能も有している。洗濯機Wは、ベース31と、筐体32と、ドア33と、操作・表示パネル34と、外槽37と、一対の電磁サスペンション100L、100Rと、排水ホースHと、を備えている。ここで、電磁サスペンション100L、100Rは、それぞれ第4実施形態における電磁サスペンション100と同様に構成されている。
【0044】
筐体32は、左右の側板32a、32aと、前面カバー32bと、背面カバー32c(
図13参照)と、上面カバー32dと、を備えている。ベース31は、筐体32を支持するものである。前面カバー32bの中央付近には、衣類の出し入れを行うための円形の投入口h1(
図13参照)が形成されている。ドア33は、この投入口h1に設けられる開閉可能な蓋である。
【0045】
図13は、第5実施形態に係る洗濯機Wの縦断面図である。洗濯機Wは、前述した構成の他に、衣類を収容する洗濯槽35と、リフタ36と、駆動機構38と、送風ユニット39と、を備えている。洗濯槽35は、衣類を収容するものであり、有底円筒状を呈している。洗濯槽35は、外槽37に内包され、この外槽37と同軸上で回転自在に軸支されている。洗濯槽35の周壁および底壁には、通水・通風のための貫通孔(図示せず)が多数設けられている。また、洗濯槽35の開口h2は、外槽37の開口h3とともに、閉状態のドア33に臨んでいる。
【0046】
なお、
図13に示す例において洗濯槽35の回転中心軸は、開口側が高くなるように傾斜しているが、本発明はこれに限定されるわけではない。すなわち、洗濯槽35の回転中心軸は、水平方向または鉛直方向であってもよい。リフタ36は、洗濯中・乾燥中に衣類を持ち上げて落下させるものであり、洗濯槽35の内周壁に設置されている。外槽37は、洗濯水の貯留等を行うものであり、有底円筒状を呈している。
【0047】
また、
図12に示したように、外槽37の底側の左右には、電磁サスペンション100L、100Rが配置されているが、
図13においては、左側の電磁サスペンション100Lのみを示している。また、外槽37の底壁の最下部には排水孔(図示せず)が設けられ、この排水孔に排水ホースHが接続されている。そして、排水ホースHに設けられた排水弁(図示せず)が閉弁された状態で外槽37に洗濯水が貯留され、また、排水弁が開弁されることで洗濯水が排出されるようになっている。
【0048】
駆動機構38は、洗濯槽35を回転させる機構であり、外槽37の底壁の外側に設置されている。駆動機構38が備えるモータの回転軸は、外槽37の底壁を貫通して、洗濯槽35の底壁に連結されている。送風ユニット39は、洗濯槽35に温風を送り込むものであり、洗濯槽35の上側に配置されている。送風ユニット39は、ヒータ(図示せず)およびファン(図示せず)を備えている。そして、ヒータで熱せられた空気が、ファンによって洗濯槽35に送り込まれる。これによって、水を含んだ衣類が、洗濯槽35内で徐々に乾燥する。
【0049】
ここで、外槽37の振動、すなわち洗濯機Wの振動について簡単に説明する。洗い・すすぎ・乾燥時には、
図13に示す駆動機構38によって洗濯槽35が低速回転し、洗濯槽35の底に溜まった衣類をリフタ36によって持ち上げて落下させるタンブリング動作が繰り返される。また、脱水時には洗濯槽35が高速回転し、回転による遠心力で衣類の水分を外に押し出す遠心脱水が行われる。
【0050】
なお、従来の洗濯機では、洗い・すすぎ・乾燥時において、落下する衣類の反力で洗濯槽35の振動の振幅が大きくなることが多かった。また、従来の洗濯機では、脱水時において、衣類の位置の偏りに起因して、洗濯機で振動・騒音が発生することが多かった。このように、洗濯槽35における衣類の量や位置の偏り、含水率の他、洗い・すすぎ・乾燥・脱水等の諸条件によって、洗濯機の振動の仕方は時々刻々と変化する。その振動は外槽37に伝播する。
【0051】
(制振装置200の構成)
図14は、第5実施形態に適用される制振装置200の構成図である。
図14において制振装置200は、インバータ40と、電流検出器50と、推力調整部60と、整流回路70と、左右の電磁サスペンション100L、100Rと、を備えている。制振装置200は、制振対象物Dtの振動を抑制するものである。なお、第5実施形態においては、制振対象物Dtは、洗濯機Wの外槽37(
図12、
図13参照)である。
【0052】
図14においては、左右の電磁サスペンション100L、100Rを一つの枠で表している。また、電磁サスペンション100L、100Rに含まれるリニアモータ10を、それぞれリニアモータ10L、10Rと呼ぶ。同様に、電磁サスペンション100L、100Rに含まれる弾性体20を、弾性体20L、20Rと呼ぶ。
【0053】
整流回路70は、交流電源Eによって印加された交流電圧を整流し、インバータ40に直流電圧を印加する。なお、交流電源Eと整流回路70とを合わせて直流電源であると考えてもよい。インバータ40は、整流回路70から印加される直流電圧を、推力調整部60からの電圧指令V
*に基づいて単相交流電圧に変換し、この単相交流電圧をリニアモータ10L、10Rの上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に印加する。換言すれば、インバータ40は、電圧指令V
*に基づいて、リニアモータ10L、10Rを駆動する機能を有している。
【0054】
図15は、制振装置200の要部を示す構成図である。整流回路70は、交流電源Eから印加される交流電圧を直流電圧に変換する周知の倍電圧整流回路である。
図15に示すように、整流回路70は、ダイオードD1~D4をブリッジ接続してなるダイオードブリッジ回路72と、直列接続された2つの平滑コンデンサ74、76と、を備えている。また、
図13に示した駆動機構38は、
図15に示すように、インバータ38aと、モータ38bと、を備えている。
【0055】
そして、ダイオードブリッジ回路72によって生成される電圧(脈流を含む直流電圧)が、平滑コンデンサ74、76によって平滑化され、交流電源Eの電圧の略2倍に相当する直流電圧が生成される。整流回路70は、正側の配線k1と、負側の配線k2を介してインバータ40に接続されるとともに、洗濯槽35(
図13参照)を回転させる駆動機構38のインバータ38aにも接続されている。
【0056】
インバータ40は、整流回路70から印加される直流電圧を二系統の単相交流電圧に変換し、これら二系統の単相交流電圧を各々リニアモータ10L、10Rの上側巻線11c1と下側巻線11c2(
図2参照)に印加するインバータである。
【0057】
図15に示すように、インバータ40は、スイッチング素子SW1、SW2を備える第1のレグと、スイッチング素子SW3、SW4を備える第2のレグと、スイッチング素子SW5、SW6を備える第3のレグと、が並列接続された構成になっている。これらのスイッチング素子SW1~SW6として、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。スイッチング素子SW1~SW6には、それぞれ、還流ダイオードDが逆並列に接続されている。
【0058】
また、スイッチング素子SW1、SW2の接続点は、配線k3を介して、リニアモータ10Lの上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に接続されている。すなわち、三相のインバータ40の一相分に対応するレグが、左側のリニアモータ10Lに接続されている。また、スイッチング素子SW5、SW6の接続点は、配線k5を介して、リニアモータ10Rの上側巻線11c1および下側巻線n11c2(
図2参照)に接続されている。すなわち、三相のインバータ40の一相分に対応する別のレグが、右側のリニアモータ10Lに接続されている。
【0059】
また、スイッチング素子SW3、SW4の接続点は、配線k4を介してリニアモータ10Lの上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に接続されるとともに、この配線k4を介してリニアモータ10Rの上側巻線11c1および下側巻線11c2にも接続されている。すなわち、3相のインバータ40の残りのレグが、左右のリニアモータ10L、10Rに接続されている。
【0060】
このように、左右のリニアモータ10L、10Rに対応して別々にインバータを設けるのではなく、左右を一つのインバータ40として共通化することで、インバータ40のコストを削減できる。そして、PWM(Pulse Width Modulation)制御に基づいてスイッチング素子SW1~SW6のオン・オフが制御されることで、リニアモータ10L、10Rの上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に単相交流電圧が印加されるようになっている。
【0061】
電流検出器50は、リニアモータ10L、10Rに通電される電流を検出するものであり、配線k4に挿入されている。すなわち、電流検出器50によって、リニアモータ10L、10Rの上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に流れる電流が検出される。
【0062】
(推力調整部60)
図14に示す推力調整部60は、図示は省略するが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。
【0063】
図14において、推力調整部60は、電流検出器50によって検出される電流iに基づき、インバータ40を駆動することによって、リニアモータ10L、10Rの推力を調整する機能を有している。すなわち、推力調整部60は、インバータ40のデッドタイム中に電流検出器50を流れる電流iの極性を検出する。電流iの極性は、リニアモータ10L、10Rの移動方向を示している。
【0064】
そこで、推力調整部60は、リニアモータ10L、10Rの移動を抑制する方向の電圧指令V
*を生成し、この電圧指令V
*に基づいてスイッチング素子SW1~SW6のオン・オフを切り替える。これにより、推力調整部60は、外槽37(
図13参照)の振動に伴って可動子12と固定子11との相対位置が変化すると、この変化を打ち消すようにリニアモータ10L、10Rの推力を調整する機能を有している。
【0065】
〔第5実施形態の効果〕
以上のように、第5実施形態の洗濯機Wは、第4実施形態による電磁サスペンション100L、100Rと、電機子巻線(上側巻線11c1および下側巻線11c2)に交流電流を供給するインバータ40と、電機子巻線に流れる電流を検出する電流検出器50と、電流検出器50によって検出される電流に基づいてインバータ40を制御することによってリニアモータ10の推力を調整する推力調整部60と、をさらに備える。
【0066】
これにより、電流検出器50によって電機子巻線に流れる電流を検出することができ、固定子11および可動子12の相対運動を抑制するように、リニアモータ10の推力を調整することができる。
【0067】
さらに、第5実施形態の洗濯機Wは、衣類を収容する洗濯槽35と、洗濯槽35を内包する外槽37と、洗濯槽35を回転させる駆動機構38と、を備え、電磁サスペンション100L、100Rは外槽37の振動を抑制する。
【0068】
これにより、第5実施形態によれば、比較的簡素な構成で外槽37の振動を抑制することができる。つまり、可動子12の位置を検出する位置センサを設ける必要がないため、洗濯機Wの低コスト化を図ることができる。また、リニアモータ10L、10Rの構成要素である固定子11および可動子12は、損傷や摩耗がほとんど発生しないため、電磁サスペンション100L、100Rの耐久性を高めることができる。
【0069】
また、第5実施形態によれば、左右のリニアモータ10L、10Rに印加される単相交流電圧を、6個のスイッチング素子を有する1台のインバータ40によって生成することができる。仮に、左右のリニアモータ10L、10Rに対応して個別にインバータを設けると、8個のスイッチング素子が必要になる。従って、第5実施形態によれば、左右のリニアモータ10L、10Rに対応して個別にインバータを設ける構成と比較して、洗濯機Wの低コスト化を図ることができる。
【0070】
なお、第5実施形態では電磁サスペンション100を2本を適用した事例を示したが、本数は何本でも構わない。また、電磁サスペンション100のみで支持する事例に限定されず、油圧サスペンションを1本と、電磁サスペンション100を1本の組み合わせとしても構わない。さらには、電磁サスペンション100と、油圧ダンパ以外の減衰力を有するアクチュエータと組み合わせても構わない。このように1本の電磁サスペンション100と、1本の油圧サスペンションとの組み合わせにすることで、製造コストを低減できる。
【0071】
<第6実施形態>
次に、第6実施形態に係る洗濯機について説明する。第6実施形態の洗濯機の構成および動作は、第5実施形態のもの(
図12~
図15参照)と同様である。但し、第6実施形態において、推力調整部60(
図14参照)は、電流検出器50の出力信号に基づいて左右のリニアモータ10L、10Rの振動周波数を検出し、振動周波数に応じてインバータ40の出力電流を変化させる点が異なる。
【0072】
まず、前述した第5実施形態においては、リニアモータ10L、10Rの振動周波数に基づいて、インバータ40の出力電流を変化させるものではなかった。すなわち、リニアモータ10L、10Rを「ダンパ」と考えた場合、第5実施形態においてダンパの粘性減衰係数C[Ns/m]は、振動周波数に関わらず一定になる。一方、第6実施形態においては、リニアモータ10L、10Rの振動周波数に応じて粘性減衰係数C[Ns/m]を変化させる。その詳細について、以下説明する。
【0073】
電磁サスペンション100の運動方程式は、式(7)で表される。なお、式(7)に示すF
D[N]は、電磁サスペンション100で発生する力(すなわち、リニアモータ10の推力)である。また、x[m]は、可動子12の位置である。
【数7】
【0074】
また、リニアモータ10の推力の運動方程式は、式(8)で表される。なお、F
L[N]はリニアモータ10の推力であり、Ke[N/A]はリニアモータ10のモータ定数である。また、I[A]は上側巻線11c1および下側巻線11c2(
図2参照)に流れる電流であり、V[V]は上側巻線11c1および下側巻線11c2に印加される電圧である。また、R[Ω]は上側巻線11c1および下側巻線11c2の抵抗であり、φ[T]は上側巻線11c1および下側巻線11c2で発生する磁束である。
【数8】
【0075】
ここで、式(7)の力F
Dと、式(8)の推力F
Lと、は等価であるため、以下の式(9)が導かれる。なお、C[N・m/s]は、リニアモータ10の粘性減衰係数である。
【数9】
【0076】
ここで、制振対象物Dtの重力エネルギ(電磁サスペンションから見た外力)について概算する。製品カタログ(日立グローバルライフソリューションズ株式会社の洗濯機・衣類乾燥機 総合カタログ2019-夏)によれば、最大洗濯量12kgのドラム洗濯機の質量は82kgとなっている。概算すると外槽37、洗濯槽35、駆動機構38など機構部品の質量は約70kgである。また、洗濯物12kgに対し約40Lが注水されたと仮定すると、合計122kgの質量が存在し、重力エネルギは1.2kNとなる。つまり、電磁サスペンション2本を適用した場合は、洗濯開始時に約600N/本の荷重がかかった状態で、電磁サスペンションは
図11のz0軸方向だけでなく、x0軸方向、y0軸方向に外力を受ける。さらに、これら外力を相殺するだけの力を電磁サスペンションは時々刻々と発生し続けている。
【0077】
また脱水時は、残存した水分を含んだ洗濯物が洗濯槽35内で偏ることで発生する回転アンバランス起因の遠心力を制振する必要がある。この間も電磁サスペンションは
図11のz0軸方向だけでなく、x0軸方向、y0軸方向に外力を受ける。
【0078】
図16は、粘性減衰係数Cが一定であるオイルダンパを用いた比較例1において、洗濯槽35の回転速度と洗濯機Wの変位(振動)の変化を示す実験結果である。
図16のx軸(横軸)は洗濯機Wの回転速度ゼロから最高回転速度までの範囲をパーセント表示としている。
図16のy軸(縦軸)は洗濯機Wの変位(振動)を回転速度ゼロの値を0とした場合の相対値で示している。なお、
図16に係る実験では、洗濯槽35内の偏った所定位置に1kgの衣類を置いた状態で、洗濯槽35を回転させた(後述する
図17も同様)。
【0079】
図16に示すように、比較例1では、洗濯槽35の回転速度が大きくなるにつれて、洗濯機W100の振幅が変化している。具体的には、洗濯槽35の回転速度をゼロから増加させると、約5[%]の回転速度において外槽37の振幅が一旦減少し、約10[%]の回転速度において洗濯機Wの振幅(変位)が急激に大きくなって最大振幅になっている。また、10~17[%]の回転速度において洗濯機Wの振幅が増加し、20[%]以上の領域では、洗濯槽35の回転速度が大きくなるにつれて、洗濯機Wの振幅は小さくなっている。
【0080】
図17は、従来の電磁サスペンションを第6実施形態に適用した比較例2において、洗濯槽35の回転速度と洗濯機Wの変位(振動)の変化を示す実験結果である。
図17における実験では、洗濯槽35の回転速度が高いほど(すなわち、外槽37の振動周波数fが高いほど)、リニアモータ10の粘性減衰係数Cが小さくなるように、インバータ40のデューティ比を制御した。
【0081】
図17に示すように、洗濯槽35の回転速度が約10[%]のときの洗濯機Wの最大振幅は約5[PU]であり、
図16に示す比較例1の最大振幅(約10[PU])の半分程度になっている。また、洗濯槽35の回転速度が50[%]以上の領域では、洗濯機Wの振幅が1[PU]程度になっている。このように、第6実施形態によれば、粘性減衰係数Cを可変制御することによって、粘性減衰係数Cが一定であるオイルダンパを用いた比較例1よりも洗濯機Wの振動を効果的に抑制できる。
【0082】
図18は、第4実施形態における電磁サスペンション100を第6実施形態に適用した状態における洗濯槽35の回転速度と洗濯機Wの変位(振動)の変化を示す実験結果である。
図18における実験では、洗濯槽35の回転速度が高いほど(すなわち、外槽37の振動周波数fが高いほど)、リニアモータ10の粘性減衰係数Cが小さくなるように、インバータ40のデューティ比を制御した。
【0083】
図18の波形は、明らかに
図16の比較例1や
図17の比較例2よりも洗濯機Wの変位量が小さい。また、全ての回転速度において効果を発揮している。以上のように第6実施形態の電磁サスペンション100を適用した洗濯機Wによれば、制振性の高い洗濯機を提供できる。
【0084】
[変形例]
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。前述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0085】
(1)前記各実施形態においては、
図3に示したように、1個のフレーム部121に、2個の矩形板状の永久磁石124a,124b、を嵌め込んで可動子12を構成した。このような構成に限定されるものではなく、1個のフレーム部121に、1個の磁石を装着してもよい。例えば、複数の永久磁石として3枚の永久磁石124を備えた可動子を用いてもよい。この場合、永久磁石124は、z0軸方向に3枚並べられる。そして、固定子11をz0軸方向に2つ並べる。つまり、2つの固定子11と、3枚の永久磁石とによってリニアモータを構成する。これにより、リニアモータの推力を永久磁石が2枚以下の場合よりも推力を増加させることが可能になる。
【0086】
また、複数のフレームの各々に磁石(または複数の磁石)を装着してもよい。つまり、リニアモータ10の上下のいずれかに電機子を1個追加して、上下に3つの電機子とし、上段の電機子と中段の電機子との間に第1の可動子(フレーム部+永久磁石)を配置し、中段の電機子と下段の電機子との間に第2の可動子(フレーム部+永久磁石)を配置したものでもよい。
【0087】
また、フレーム部121および永久磁石124の形状は矩形板状に限られるものではなく、様々な形状のものを採用することができる。
【0088】
(2)また、上記第5実施形態および第6実施形態においては、電磁サスペンション100を洗濯機Wの制振に適用した例を説明したが、電磁サスペンション100は(他の実施形態を含め)、空気調和機、冷蔵庫等の家電製品や、鉄道車両、自動車等のほか、各種産業用機械や各種用途の制振装置(免振装置)やその他にも適用することができる。
【0089】
(3)また、上記各実施形態においては、単相交流電流でリニアモータ10を駆動する構成について説明したが、例えば、3相交流電流でリニアモータ10を駆動してもよい。
【0090】
(4)永久磁石の材質としては、例えば希土類系焼結磁石を想定しているが、サマリウム鉄窒素磁石やネオジム磁石などの希土類系磁性粉末と有機バインダーとを混合して作られる希土類系ボンド磁石やフェライト磁石など、他の永久磁石を用いてもよい。また、永久磁石を用いないリラクタンスモータなどを用いてもよい。
【0091】
(5)電機子の数も1に限らず、他の数でもよい。
【0092】
本発明によれば、リニアモータまたは電磁サスペンションの設置自由度を向上し、狭小スペースへの配置を実現する。またそれによって、リニアモータまたは電磁サスペンションを搭載したシステムの性能を向上させる。
【符号の説明】
【0093】
10 リニアモータ
11 固定子
11A 電機子(第1の面に対向する電機子、大きい方の電機子)
11B 電機子(第2の面に対向する電機子、他方の電機子)
11a コア(電機子の鉄心)
11b1 上側ティース部
11b2 下側ティース部
11c1 上側巻線(大きい方の電機子の巻線)
11c2 下側巻線(他方の電機子の巻線)
12 可動子
20,20L,20R 弾性体
21 シャフト
22 軸受
23 シャフト固定金具(固定金具)
24 取付部
31 ベース
32 筐体
32a 側板
32b 前面カバー
32c 背面カバー
32d 上面カバー
33 ドア
34 操作・表示パネル
35 洗濯槽
36 リフタ
37 外槽
38 駆動機構
38a インバータ
38b モータ
39 送風ユニット
40 インバータ
50 電流検出器
60 推力調整部
70 整流回路
72 ダイオードブリッジ回路
74,76 平滑コンデンサ
100,100L,100R 電磁サスペンション
111 腕部
121 フレーム部
121a フレーム腕部
121b 溝部
122 バー部
122c 接触面
124,124a,124b 永久磁石
124f 表面(第1の面)
124r 裏面(第2の面)
200 制振装置
g1,g2 ギャップ
W 洗濯機