(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173338
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231130BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20231130BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20231130BHJP
H10N 30/85 20230101ALI20231130BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 613
H01L41/08 J
H01L41/18 101B
H01L41/18 101C
H01L41/18 101D
H01L41/18 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085518
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF03
2C057AF68
2C057AG44
2C057AG47
2C057AG52
2C057AG55
2C057AN01
2C057AQ06
2C057BA04
2C057BA14
2C057DB03
(57)【要約】
【課題】振動板の腕部において、振動板の信頼性を維持しつつ、振動効率の低下を抑制することが難しい。
【解決手段】振動板50が、構成元素としてケイ素を含む第1層51と、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層52と、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53と、を含み、振動板50のうち、第1方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重なる領域を能動領域A1とし、振動板50のうち、第1方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60と、圧電体層70及び第2電極80と重ならない領域を非能動領域A2としたとき、振動板50が、能動領域A1において、第1層51と第2層52と第3層53とを有し、非能動領域A2の少なくとも一部において、第1層51と第2層52とを有し、かつ、第3層53を有さない構成とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向で積層された第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、
を有し、
前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電素子が、前記第1方向においてこの順で積層されており、
前記振動板は、
構成元素としてケイ素を含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を含み、
前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記圧力室と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重なる領域を能動領域とし、
前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記圧力室と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重ならない領域を非能動領域としたとき、
前記振動板は、
前記能動領域において、前記第1層と前記第2層と前記第3層とを有し、
前記非能動領域の少なくとも一部において、前記第1層と前記第2層とを有し、かつ、前記第3層を有さない
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第2層は、前記能動領域と前記非能動領域との間で連続して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2層の材料のヤング率は、前記第1層の材料のヤング率よりも高い
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第2層は、構成元素としてチタン、アルミニウム、クロム、タンタルのうちのいずれかの金属元素を含む
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第2層は、構成元素としてジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記非能動領域の少なくとも一部において、前記振動板の前記第2層は、前記第1電極又は前記第2電極の一方の電極に隣接して積層される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記振動板の前記第2層と隣接して積層される前記一方の電極の構成元素は、前記第2層に含まれる前記金属元素を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記振動板の前記第2層と隣接して積層される前記一方の電極は、前記金属元素の単体を含み、
前記第2層は、前記金属元素の酸化物または窒化物を含む、
ことを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記非能動領域のうち、前記第1方向にみて前記圧力室と重なり、かつ、前記第3層を有さない領域は、
前記第1方向にみて前記圧電体層と重ならない
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記第1方向の断面視において、前記能動領域は、2つの前記非能動領域の間に位置する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記第1方向において、前記圧力室基板、前記振動板、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極が、この順で積層されており、
前記第2電極は、前記能動領域から前記非能動領域にかけて連続して設けられる
ことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記第1方向において、前記圧力室基板、前記振動板、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極が、この順で積層されており、
前記第1電極は、前記能動領域から前記非能動領域にかけて連続して設けられる
ことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記第1方向の断面視において、前記非能動領域は、2つの前記能動領域の間に位置する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドを具備する
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項15】
凹部を有する基板と、
第1方向で積層された第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、を有し、
前記基板、前記振動板および前記圧電素子が、前記第1方向においてこの順で積層されており、
前記振動板は、
構成元素としてケイ素を含む第1層と、
前記第1層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層と、
前記第2層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を含み、
前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記凹部と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重なる領域を能動領域とし、
前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記凹部と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重ならない領域を非能動領域としたとき、
前記振動板は、
前記能動領域において、前記第1層と前記第2層と前記第3層とを有し、
前記非能動領域の少なくとも一部において、前記第1層と前記第2層とを有し、かつ、前記第3層を有さない
ことを特徴とする圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、圧電素子の駆動により振動する振動板と、振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、を有する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子と、振動板と、を有する圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの一つである液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドが知られている。インクジェット式記録ヘッドは、ノズルに連通する圧力室が設けられた圧力室基板と、圧力室基板の一方面側に設けられた振動板と、振動板上に設けられた圧電素子とを備え、圧電素子の駆動によって圧力室内のインクに圧力変化を生じさせてノズルからインク滴を噴射させる。
【0003】
ここで、振動板の構成としては様々なものがあるが、例えば、構成元素としてケイ素を含む弾性膜と、構成元素としてジルコニウムを含む絶縁膜と、を含むものがある。例えば、振動板が、酸化ケイ素(SiO2)で形成された第1振動層(弾性膜)と、酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成された第2振動層(絶縁膜)との積層で構成されるものがある(特許文献1参照)。
【0004】
さらに、この特許文献1には、第2振動層の第2部分を除去した構成、すなわち振動板の腕部において第1振動層を残しつつ第2振動層を除去した構成が開示されている。このように振動板の腕部において第2振動層を除去することで、振動板の強度を維持しつつ振動板の変位量を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように振動板の腕部において弾性膜を残しつつ絶縁膜を除去する構成とする場合、例えば次のような問題が生じる虞がある。
【0007】
振動板の腕部において絶縁膜を完全に除去する場合、オーバーエッチングによって弾性膜の一部まで除去されてしまい振動板の信頼性を低下させる虞がある。一方で、絶縁膜を完全に除去せずに所定の厚さで残す場合、振動板の信頼性の低下は抑えられるものの振動板の十分な変位量が得られず、振動効率が低下する虞がある。以上のように、振動板の腕部における構成については、信頼性や振動効率などの観点で種々の問題が存在する。
【0008】
なおこのような問題は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、その他の圧電デバイスにおいても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一つの態様は、第1方向で積層された第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、を有し、前記圧力室基板、前記振動板および前記圧電素子が、前記第1方向においてこの順で積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を含み、前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記圧力室と重なり、かつ前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重なる領域を能動領域とし、前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記圧力室と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重ならない領域を非能動領域としたとき、前記振動板は、前記能動領域において、前記第1層と前記第2層と前記第3層とを有し、前記非能動領域の少なくとも一部において、前記第1層と前記第2層とを有し、かつ、前記第3層を有さないことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0010】
また本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0011】
また本発明の他の態様は、凹部を有する基板と、第1方向で積層された第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、を有し、前記基板、前記振動板および前記圧電素子が、前記第1方向においてこの順で積層されており、前記振動板は、構成元素としてケイ素を含む第1層と、前記第1層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層と、前記第2層と前記圧電体層との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層と、を含み、前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記凹部と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重なる領域を能動領域とし、前記振動板のうち、前記第1方向にみて前記凹部と重なり、かつ、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極と重ならない領域を非能動領域としたとき、前記振動板は、前記能動領域において、前記第1層と前記第2層と前記第3層とを有し、前記非能動領域の少なくとも一部において、前記第1層と前記第2層とを有し、かつ、前記第3層を有さないことを特徴とする圧電デバイスにある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係るインクジェット式記録装置の模式図である。
【
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【
図4】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図5】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図6】実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図7】実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様についての説明であり、本発明の構成は、発明の範囲内で任意に変更可能である。
【0014】
また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。またZ方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置1の概略構成を示す図である。
まずは、本実施形態に係るインクジェット式記録装置1の全体構成について説明する。
【0016】
図1に示すインクジェット式記録装置(以下、単に「記録装置」と称する)1は、液体噴射装置の一例であり、液体の一種であるインクをインク滴として印刷用紙等の媒体Sに噴射・着弾させて、当該媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行う印刷装置である。なお、媒体Sとしては、記録用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質を用いることができる。
【0017】
図1に示すように、記録装置1は、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」とも称する)2と、液体容器3と、制御部である制御ユニット4と、媒体Sを送り出す搬送機構5と、移動機構6と、を具備する。
【0018】
記録ヘッド2については詳しく後述するが、記録ヘッド2は、液体容器3から供給されるインクを複数のノズルから媒体Sに噴射する。
【0019】
液体容器3は、記録ヘッド2から噴射される複数種類(例えば、複数色)のインクを個別に貯留する。液体容器3としては、例えば、記録装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。なお液体容器3には、例えば、色や成分等が異なる複数種類のインクが貯留されている。
【0020】
制御ユニット4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と、半導体メモリー等の記憶装置と、を備えている。制御ユニット4は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することで記録装置1の各要素、すなわち、記録ヘッド2、搬送機構5、移動機構6等を統括的に制御する。
【0021】
搬送機構5は、媒体SをX軸方向に搬送するものであり、搬送ローラー7を有する。すなわち搬送機構5は、搬送ローラー7が回転することで媒体SをX軸方向に搬送する。なお媒体Sを搬送する搬送機構5は、搬送ローラー7を備えるものに限られず、例えば、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0022】
移動機構6は、記録ヘッド2をY軸方向に沿って往復させるための機構であり、搬送体8と搬送ベルト9とを具備する。搬送体8は、記録ヘッド2を収容する略箱形の構造体、いわゆるキャリッジであり、搬送ベルト9に固定される。搬送ベルト9は、Y軸に沿って架設された無端ベルトである。制御ユニット4による制御のもとで搬送ベルト9が回転することで記録ヘッド2が搬送体8と共にY軸方向で往復移動する。なお搬送体8は、記録ヘッド2と共に液体容器3を搭載する構成であってもよい。
【0023】
記録ヘッド2は、制御ユニット4による制御のもとで、液体容器3から供給されたインクを複数のノズルのそれぞれからインク滴として+Z方向に媒体Sに噴射する噴射動作を実行する。この記録ヘッド2による噴射動作が、搬送機構5による媒体Sの搬送や移動機構6による記録ヘッド2の往復移動と並行して行われることにより、媒体Sの表面にインクによる画像が形成される、いわゆる印刷が行われる。
【0024】
図2は、本実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図であり、
図3は、記録ヘッドの平面図であり、圧電素子の概略構成を説明する図である。
図4は記録ヘッドの断面図であり、
図3のA-A線に対応する図である。
図5は、振動板及び圧電素子の構成を説明する断面図であり、
図3のB-B線に対応する図である。
【0025】
図示するように、本実施形態に係る記録ヘッド2は、圧力室基板10を具備する。圧力室基板10は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板等からなる。
【0026】
圧力室基板10には、凹部である圧力室12がX軸方向に沿って並んで配置されている。複数の圧力室12は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように、X軸方向に沿った直線上に配置されている。X軸方向で互いに隣り合う圧力室12は、隔壁11によって区画されている。もちろん、圧力室12の配置は特に限定されるものではない。例えば、X軸方向に並ぶ複数の圧力室12の配置は、各圧力室12を1つ置きにY軸方向にずれた位置とする、いわゆる千鳥配置となっていてもよい。
【0027】
また本実施形態の圧力室12は、+Z方向からの平面視においてY軸方向の長さがX軸方向の長さよりも長い、例えば、長方形に形成されている。もちろん、+Z方向からの平面視における圧力室12の形状は、特に限定されず、平行四辺形状、多角形状、円形状、オーバル形状等であってもよい。なお、ここでいうオーバル形状とは、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円状とした形状をいい、角丸長方形状、楕円形状、卵形状などが含まれるものとする。
【0028】
圧力室基板10の+Z方向側には、連通板15とノズルプレート20及びコンプライアンス基板45とが順次積層されている。
【0029】
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。また連通板15には、複数の圧力室12が連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0030】
さらに連通板15には、圧力室12のY軸方向の一方の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と各圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを各圧力室12に供給する。
【0031】
連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板等を用いることができる。
【0032】
ノズルプレート20は、連通板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。
【0033】
本実施形態では、複数のノズル21は、各圧力室12に対応して設けられて、X軸方向に沿って一列となるように並んで配置されている。そしてノズルプレート20には、これら複数のノズル21が列設されたノズル列がY軸方向に2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように配置されている。なおノズル21の配置は特に限定されるものではない。例えば、X軸方向に並んで配置されるノズル21は、1つ置きにY軸方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0034】
ノズルプレート20の材料としては、特に限定されず、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板を用いることができる。金属板としては、例えば、ステンレス基板等が挙げられる。さらにノズルプレート20の材料としては、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることもできる。
【0035】
コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20と共に、連通板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。このコンプライアンス基板45は、ノズルプレート20の周囲に設けられ、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18の開口を封止する。コンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっている。このため、マニホールド100の一方面は、可撓性を有する封止膜46のみで封止されたコンプライアンス部49となっている。
【0036】
一方、圧力室基板10のノズルプレート20等とは反対側、すなわち-Z方向側の面には、詳しくは後述するが、振動板50と、この振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧電素子300とが設けられている。
【0037】
圧力室基板10の-Z方向側の面には、さらに、圧力室基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、X軸方向に並んで配置された圧電素子300の列毎に独立して設けられたものであり、Y軸方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、Y軸方向に並んで配置された2つの保持部31の間にZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。
【0038】
また、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を圧力室基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。
【0039】
このようなケース部材40は、圧力室基板10及び保護基板30を収容可能な深さの空間である収容部41を保護基板30側に有する。この収容部41は、保護基板30の圧力室基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、収容部41に圧力室基板10及び保護基板30が収容された状態で収容部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。
【0040】
またケース部材40には、Y軸方向における収容部41の両外側に、第3マニホールド部42がそれぞれ画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、第3マニホールド部42と、によってマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、X軸方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、X軸方向に並んで配置されている。
【0041】
また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。さらにケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられている。
【0042】
このような本実施形態の記録ヘッド2では、図示しない外部インク供給手段と接続した導入口44からインクを取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路121からの記録信号に従い、圧力室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加する。これにより圧電素子300と共に振動板50がたわみ変形して各圧力室12内の圧力が高まり、各ノズル21からインク滴が噴射される。
【0043】
以下、本実施形態に係る振動板50及び圧電素子300の構成について説明する。上述のように振動板50及び圧電素子300は、圧力室基板10の-Z方向側の面に設けられている。すなわち圧力室基板10、振動板50及び圧電素子300は、第1方向であるZ軸方向においてこの順で積層されている。
【0044】
圧電素子300は、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段であり圧電アクチュエーターとも称される。この圧電素子300は、振動板50側である+Z方向側から-Z方向側に向かって順次積層された第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを具備する。
【0045】
圧電素子300のうち、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部と称する。すなわち、圧電素子300のうち、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分が活性部310となり、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれていない部分が非活性部となる。
【0046】
一般的には、第1電極60又は第2電極80の一方を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。
【0047】
具体的には、第1電極60は、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、X軸方向において圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、X軸方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。
【0048】
またY軸方向において、第1電極60のノズル21側の端部は、圧力室12に対向する領域から圧力室12の外側に配置されている。一方、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は、圧力室12に対向する領域に配置されている。
【0049】
このような第1電極60の材料は、特に限定されないが、導電性を有する材料、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ニッケルクロム(NiCr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiOX)、チタンタングステン(TiW)等を用いることができる。
【0050】
圧電体層70は、Y軸方向の長さを所定長さとして、X軸方向に沿って連続して設けられている。すなわち圧電体層70は、所定の厚さで圧力室12の並設方向に沿って連続して設けられている。圧電体層70の厚さは特に限定されないが、1~4μm程度の厚さで形成される。また圧電体層70のY軸方向の長さは、圧力室12の長手方向であるY軸方向の長さよりも長く、圧電体層70は、Y軸方向において圧力室12の両外側まで延在している。
【0051】
本実施形態では、圧電体層70のノズル21とは反対側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側に位置しており、第1電極60のノズル21側の端部は、圧電体層70で覆われることなく露出されている。
【0052】
また、圧電体層70には、各隔壁11に対応する位置に溝部71が形成されている。溝部71は、圧電体層70を厚さ方向であるZ軸方向に貫通して設けられている。ただし溝部71は、圧電体層70をZ軸方向に貫通することなく、圧電体層70の厚さ方向の途中まで設けられていてもよい。すなわち、溝部71の底面には、圧電体層70の一部が残留していてもよい。
【0053】
また溝部71のX軸方向の幅は、隔壁11の幅と同一、もしくは、それより広くなっている。本実施形態では、溝部71のX軸方向の幅は、隔壁11の幅よりも広くなっている。したがって、溝部71によって規定されるX軸方向における圧電体層70の端部は、圧力室12の内側に位置している。これにより、振動板50の圧力室12のX軸方向の両端部に対向する部分、いわゆる振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電素子300を変位させ易くなる。
【0054】
なお第1電極60のX軸方向の端部は、圧電体層70によって覆われている。つまり溝部71によって規定されるX軸方向における圧電体層70の端部は、圧力室12の内側で、且つ第1電極60の端部よりも外側に位置している。
【0055】
このような圧電体層70は、一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電材料を用いて構成されている。本実施形態では、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT;Pb(Zr,Ti)O3)を用いている。PZTを圧電材料に用いることで、圧電定数d31が比較的大きな圧電体層70が得られる。
【0056】
一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造の複合酸化物では、Aサイトには酸素が12配位しており、Bサイトには酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)を作っている。本実施形態では、Aサイトに鉛(Pb)が位置し、Bサイトにジルコニウム(Zr)およびチタン(Ti)が位置している。
【0057】
圧電材料は、上記のPZTに限定されない。AサイトやBサイトに他の元素が含まれていてもよい。例えば、圧電材料は、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)、シリコンを含むニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)等のペロブスカイト材料であってもよい。
【0058】
その他、圧電材料は、Pbの含有量を抑えた材料、いわゆる低鉛系材料、またはPbを使用しない材料、いわゆる非鉛系材料であってもよい。圧電材料として低鉛系材料を使用すればPbの使用量を低減することができる。また、圧電材料として非鉛系材料を使用すれば、Pbを使用せずに済む。よって、圧電材料として低鉛系材料や非鉛系材料の使用により、環境負荷を低減することができる。非鉛系圧電材料として、例えば、鉄酸ビスマス(BFO;BiFeO3)を含むBFO系材料やニオブ酸カリウムナトリウム(KNN;KNaNbO3)を含むKNN系材料が挙げられる。
【0059】
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に連続して設けられており、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、Y軸方向の長さを所定長さとして、X軸方向に沿って連続して設けられている。また、第2電極80は、溝部71の内面、すなわち、圧電体層70の溝部71の側面上および溝部71の底面である振動板50上にも設けられている。もちろん、第2電極80は溝部71の内面の一部のみに設けるようにしてもよく、溝部71の内面の全面に亘って設けないようにしてもよい。
【0060】
第2電極80の材料は、特に限定されないが、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の貴金属材料、およびランタンニッケル酸化物(LNO)に代表される導電性酸化物などが用いられるまた、第2電極80は、複数材料が積層されたものであってもよく、その場合、第2電極80の材料として、イリジウム(Ir)とチタン(Ti)とを含むものを用いるのが好ましい。
【0061】
また、第1電極60からは、引き出し配線である個別リード電極91が引き出され、第2電極80からは引き出し配線である共通リード電極92が引き出されている。これら個別リード電極91および共通リード電極92には、圧電素子300とは反対側の端部において、可撓性を有する配線基板120が接続されている。本実施形態では、個別リード電極91及び共通リード電極92は、保護基板30に形成された貫通孔32内に露出するように延設され、この貫通孔32内で配線基板120と電気的に接続されている。配線基板120には、圧電素子300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0062】
振動板50は、
図5等に示すように、第1層51と第2層52と第3層53とを含み、これらがこの順で-Z方向に積層される。すなわち第1層51は、振動板50のうち最も+Z方向側に配置されて圧力室基板10に接する層であり、第3層53は、振動板50のうち最も-Z方向側に配置されて圧電素子300に接する層であり、第2層52は、これら第1層51と第3層53との間に配される層である。
【0063】
なお、
図5等において、振動板50を構成する層同士の界面が明確に図示されているが、当該界面は明確でなくともよく、例えば、互いに隣り合う2つの層の界面付近において当該2つの層の構成材料同士が混在してもよい。
【0064】
第1層51は、圧力室基板10の全面に設けられ、構成元素としてケイ素(Si)を含む。具体的には、第1層51は、例えば、酸化シリコン(SiO2)で構成される弾性膜である。第1層51の形成方法は、特に限定されないが、第1層51は、例えば、圧力室基板10の表面を熱酸化することによって形成される。第1層51中のケイ素は、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。
【0065】
第3層53は、詳しくは後述するが、圧力室基板10の全面には設けられておらず、所定の領域に設けられ、構成元素としてジルコニウム(Zr)を含む。具体的には、第3層53は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成される絶縁膜である。第3層53の形成方法は、特に限定されないが、第3層53は、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム単体の層を形成した後に、当該層を熱酸化することによって形成される。第3層53中のジルコニウムは、酸化物の状態で存在するほか、単体、窒化物または酸窒化物等の状態で存在してもよい。
【0066】
酸化ジルコニウムは、優れた電気絶縁性、機械的強度および靱性を有する。このため、第3層53が酸化ジルコニウムを含むことにより、振動板50の特性を高めることができる。また、例えば、圧電体層70がチタン酸ジルコン酸鉛で構成される場合、第3層53が酸化ジルコニウムを含むことにより、圧電体層70を形成する際、高い配向率で(100)面に優先配向した圧電体層70を得やすいという利点もある。
【0067】
第2層52は、構成元素としてジルコニウム以外を含み、第1層51と第3層53との間に設けられる層であり、圧力室基板10の全面に設けられている。この第2層52によって第1層51と第3層53との接触が防止されるため、第1層51中のシリコン酸化物が第3層53中のジルコニウムにより還元されることが低減される。
【0068】
ここで、第2層52は、第3層53の構成元素であるジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含む層であることが好ましく、さらに、当該金属元素の酸化物で構成されるのが好適である。言い換えると、第2層52は、ジルコニウムよりも酸化物生成自由エネルギーの大きい金属元素を含むのが好ましい。なお、酸化物生成自由エネルギーの大小関係は、例えば、公知のエリンガムダイアグラムに基づいて評価することが可能である。
【0069】
具体的には、第2層52は、例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)のうちの何れかの金属元素を構成元素として含んで構成されることが好ましい。なお、第2層52は、金属元素を1つだけ含むものであってもよく、2以上の複数の金属元素を含むものであってもよい。
【0070】
第2層52がジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含むことで、第2層52がジルコニウムよりも酸化されやすい金属元素を含む場合に比べて、つまり第2層52に含まれる金属元素の酸化物生成自由エネルギーがジルコニウムの酸化物生成自由エネルギーよりも小さい構成に比べて、第1層51に含まれるシリコン酸化物の還元を低減することができる。この結果、第2層52を用いない構成に比べて、第1層51と第3層53との密着力を高めることができる。
【0071】
また第2層52を設けることで、第3層53の界面に隙間が形成されるのを抑制できる。つまり第3層53と第2層52との界面に水分が侵入するのを抑制することができる。したがって、第3層53のジルコニウムが水分によって脆化するのを抑制することができ、第3層53の剥離やクラック等の破損を抑制することができる。
【0072】
また第2層52の材料は、第1層51の材料のヤング率よりも高いことが好ましい。上述のように、第2層52は、構成元素として、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)のうちの何れかの金属元素を含むことが好ましい。これにより、後述するように第3層53をエッチングする際、オーバーエッチングを抑制することができる。
【0073】
第2層52の材料は、さらに第3層53の材料のヤング率よりも高いことが好ましい。例えば、チタン(Ti)やアルミニウム(Al)は、第3層53の材料であるジルコニウム(Zr)のヤング率よりも高い。したがって、第2層52の材料として、これらを用いることで、第2層52の厚さを比較的薄くしてもエッチングストップ層として機能の確保できる。また第2層52の厚さを薄くすることで、振動板50の変位を向上することもできる。さらに、第2層52を用いることで、これらの材料を用いることで原子拡散が抑えられる。結果としてリーク電流の発生を抑制することができる。
【0074】
一方で、例えば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)は、第3層53の材料であるジルコニウム(Zr)よりもヤング率が低い。このため、第2層52の材料としてこれらの材料を用いることで、振動板50の変位量を向上させ易くなる。また、これらの材料を用いた場合でも、第2層52の厚さを増加させることで、エッチングストップ層としても機能させることができる。
【0075】
ところで、本発明に係る記録ヘッド2では、振動板50を構成する第3層53は、振動板50の全面には設けられておらず、所定の領域に設けられている。
【0076】
具体的には、
図5に示すように、第3層53は、個別リード電極91の引き出し方向とは直交する方向であるX軸方向において、各圧力室12に対応する領域に設けられている。本実施形態では、第3層53は、圧電体層70と略同一幅で形成されている。つまりX軸方向における第3層53の両端部は、圧力室12の内側で、且つ第1電極60の端部よりも外側に位置している。したがって、圧力室12のX軸方向の両端部に対向する部分、いわゆる振動板50の腕部には第3層53が形成されていない部分が存在する。これにより、圧電素子300の駆動に伴う振動板50の変位量を向上することができる。なおY軸方向における第3層53の両端部の位置は、本実施形態では、それぞれ圧力室12の外側に位置している。
【0077】
このように第3層53は、X軸方向においては、各圧力室12に対応する領域にそれぞれ離間して設けられている。言い換えれば、振動板50は、次のような構成となっている。例えば、
図5において、振動板50のうち、第1方向であるZ軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重なる領域を能動領域A1と称する。すなわち、圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重なる領域を能動領域A1と称する。
【0078】
また振動板50のうち、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重ならない領域を非能動領域A2と称する。すなわち、圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重ならない領域を非能動領域A2と称する。本実施形態では、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60と重ならない領域が非能動領域A2となる。つまり、圧力室12に対向する振動板50のうち、能動領域A1とは異なる領域が非能動領域A2となる。この非能動領域A2には、いわゆる振動板50の腕部に相当する領域が含まれ、本実施形態では、Z軸方向の断面視において、2つの非能動領域A2の間に能動領域A1が位置する構成となっている。
【0079】
また本実施形態では、Z軸方向において、圧力室基板10、振動板50、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が、この順で積層されており、共通電極である第2電極80は、能動領域A1から非能動領域A2にかけて連続して設けられている。
【0080】
そしてX軸方向において、能動領域A1の振動板50は、第1層51と第2層52と第3層53とを有している。一方、X軸方向において、非能動領域A2の一部の振動板50は、第1層51と第2層52とを有するが、第3層53を有していない。すなわち、振動板50を構成する第1層51及び第2層52は、能動領域A1と非能動領域A2との間で連続して全域に亘って形成されているが、第3層53は、非能動領域A2の一部において除去されている。本実施形態では、非能動領域A2の隔壁11側の一部の領域で第3層53が除去されている。このように、振動板50のうち、第1方向であるZ軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第3層53と重ならない領域を除去領域A3と称する。なお、除去領域A3は非能動領域A2の一部である。この除去領域A3における振動板50は、第1層51と第2層52とで構成されている。なお、X軸方向における第3層53の端部の位置、つまり除去領域A3の境界は、本実施形態では、溝部71で規定される圧電体層70の端面の延長線上に位置している。
【0081】
また本実施形態では、X軸方向においては、第3層53は、非能動領域A2だけでなく圧力室12の外側の領域も除去されている。つまりX軸方向において、圧力室12の外側の領域においても、振動板50は、第1層51と第2層52とで構成されている。ただし、圧力室12の外側の領域の第3層53は、必ずしも除去しなくてもよい。
【0082】
以上のように本実施形態に係る記録ヘッド2は、第1方向であるZ軸方向で積層された第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む圧電素子300と、圧電素子300の駆動により振動する振動板50と、振動板50の振動により液体であるインクに圧力を付与する圧力室12を区画する圧力室基板10と、を有し、圧力室基板10、振動板50および圧電素子300が、Z軸方向においてこの順で積層されており、振動板50は、構成元素としてケイ素を含む第1層51と、第1層51と第1電極60との間に配置され、構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層52と、第2層52と第1電極60との間に配置され、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53と、を含み、振動板50のうち、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重なる領域を能動領域A1とし、振動板50のうち、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重ならない領域を非能動領域A2としたとき、振動板50は、能動領域A1において、第1層51と第2層52と第3層53とを有し、非能動領域A2の少なくとも一部において、第1層51と第2層52とを有し、かつ、第3層53を有さない。
【0083】
このような構成とすることで、圧電素子300の駆動に伴う振動板50の変位量を向上しつつ、振動板50に対するクラックの発生を抑制することができる。また能動領域A1及び非能動領域A2において振動板50が第2層52を備えていることで、非能動領域A2の一部、つまり振動板の腕部において第3層53を、例えば、ドライエッチングにより除去する際、構成元素としてケイ素を含む第1層51までオーバーエッチングにより除去されることはない。したがって、振動板50の信頼性の低下を防止することができる。
【0084】
ここで、振動板50の非能動領域A2の少なくとも一部、本実施形態では除去領域A3において、構成元素としてジルコニウムを含む第3層53が除去されているため、非能動領域A2には第3層53の端部が存在することになる。このため、第3層53の端部から第3層53とその下地層との界面に水分が侵入し、第3層53の剥離やクラック等の破損が生じる虞がある。
【0085】
しかしながら、本発明では、振動板50が構成元素としてジルコニウム以外の金属元素を含む第2層52を備えることで、つまり第3層53の下地層として第2層52が設けられることで、第3層53の密着性が向上する。このため、非能動領域A2に存在する第3層53の端部から第3層53と第2層52との界面に水分が侵入するのを抑制することができる。したがって、第3層53のジルコニウムが水分によって脆化するのを抑制することができ、第3層53の剥離やクラック等の破損を抑制することができる。
【0086】
また、非能動領域A2内の振動板50の第3層53が除去された除去領域A3においては、振動板50の厚さが薄くなり応力も集中し易くなるため、この除去領域A3に設けられる第2電極80のクラックや剥離が生じる虞がある。
【0087】
しかしながら、本発明では、振動板50の除去領域A3において第2電極80を第2層52上に直接的に積層する構成とし、これら第2電極80と第2層52とを、互いに親和性の高い材料で形成している。例えば、第2電極80の材料として、チタン(Ti)やイリジウム(Ir)等の金属材料を用いる場合、第2層52の材料として、これら金属材料の酸化物や窒化物を用いる。すなわち、第2電極80は、金属元素の単体を含み、第2層52は、当該金属元素の酸化物または窒化物を含むようにしている。
【0088】
これにより振動板50の第2層52と圧電素子300を構成する第2電極80との密着性が向上し、腕部における振動板50や第2電極80の破損を抑制することができる。
【0089】
また、第2層52は、振動板50の能動領域A1と非能動領域A2との間で連続して形成されていることが好ましい。すなわち第2層52は、能動領域A1及び非能動領域A2内の全領域に亘って形成されていることが好ましい。これにより、振動板50に対するクラックの発生を抑制し易くなる。
【0090】
なお第2層52は、必ずしも振動板50の能動領域A1と非能動領域A2との間で連続して形成されていなくてもよい。例えば、振動板50の第3層53が形成されている領域の中央部の一部に、第2層52が形成されていない領域が存在していてもよい。
【0091】
また、第2層52の材料のヤング率は、第1層51の材料のヤング率よりも高いことが好ましい。これにより、振動板50の第3層53をエッチングする際にオーバーエッチングを抑制し易くなる。
【0092】
第2層52は、構成元素として第3層53の構成元素であるジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含むことが好ましい。第2層52は、構成元素として、チタン、アルミニウム、クロム、タンタルの何れかの金属元素を含むことが好ましい。
【0093】
第1層51と第3層53との関係において、第3層に含まれるジルコニウム(Zr)は、相対的に酸化され易く、第1層51に含まれるシリコン酸化物(SIO2)は還元され易い。このため、第3層53と第1層51とを直接的に積層した場合、第1層のシリコン酸化物が還元される。当該還元により生成されたケイ素単体が第1層51から第3層53に拡散されることで、第3層53の界面に空隙が発生する虞がある。
【0094】
しかしながら、第1層51と第3層53との間に第2層52を設け、この第2層52を第3層53の構成元素であるジルコニウムよりも酸化され難い金属元素を含むようにすることで、上記拡散に起因する空隙の発生を抑えることができる。したがって、第3層53の密着力を向上して、第3層53の剥離やクラック等の破損を抑制することができる。
【0095】
また非能動領域A2の少なくとも一部において、振動板50の第2層52は、第1電極60又は第2電極80の一方の電極に隣接して積層されることが好ましい。例えば、本実施形態では、非能動領域A2の少なくとも一部、つまり除去領域A3において、振動板50の第2層52は、第2電極80に隣接して積層されている。
【0096】
また振動板50の第2層52と隣接して積層される第2電極80の構成元素は、第2層52に含まれる金属元素を含むことが好ましい。さらに、振動板50の第2層52と隣接して積層される第2電極80は、当該金属元素の単体を含み、第2層52は、当該金属元素の酸化物または窒化物を含むことが好ましい。
【0097】
これにより、振動板50の第2層52と圧電素子300を構成する第2電極80との密着性が向上し、腕部における振動板50や第2電極80の破損を抑制することができる。
【0098】
非能動領域A2のうち、第1方向であるZ軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第3層53を有さない除去領域A3は、第1方向にみて圧電体層70と重ならないことが好ましい。振動板50の第3層53が形成された領域と、第3層53が形成されていない領域との両方に連続して圧電体層70が形成されている場合に比べて、圧電体層70の結晶性が均質となり易いからである。
【0099】
なお本実施形態では、X軸方向における振動板50の第3層53の端部の位置は、圧電体層70の端面の延長線上に位置しているが、第3層53の端部の位置は、必ずしも圧電体層70の端面の延長線上に位置していなくてもよい。X軸方向における第3層53の端部の位置は、圧電体層70の端面の延長線よりも外側であってもよい。またX軸方向における第3層53の端部の位置は、圧電体層70の端面の延長線よりも内側であってもよい。
【0100】
また本実施形態では、非能動領域A2内の一部の除去領域A3において第3層53が除去された構成を例示したが、非能動領域A2内の除去領域A3の範囲は特に限定されるものではなく、例えば、非能動領域A2と除去領域A3とが一致していてもよい。すなわち非能動領域A2の全域において第3層53が形成されていなくてもよい。
【0101】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
本実施形態は、記録ヘッド2が備える振動板50及び圧電素子300の変形例であり、それ以外の構成は実施形態1と同様である。なお実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また本実施形態に係る記録ヘッド2の特徴も、振動板50の構成にあり、圧電素子300の基本的構成は既存のものである。
【0102】
図6に示すように、本実施形態に係る記録ヘッド2は、振動板50の-Z側に設けられる圧電素子300を備え、この圧電素子300の第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成している。
【0103】
振動板50は、実施形態1と同様に、第1層51と第2層52と第3層53とを有し、これらがこの順で-Z方向に積層され、第3層53は、振動板50の全面には設けられておらず、所定の領域に設けられている。すなわちX軸方向において、第3層53は、圧力室12の幅よりも狭く形成されている。
【0104】
本実施形態に係る圧電素子300を構成する第1電極60は、このような第1層51、第2層52及び第3層53を有する振動板50上に複数の圧力室12に対応する領域に亘って連続して設けられ、複数の活性部310に共通する共通電極となっている。すなわち第1電極60は、X軸方向において、振動板50の第2層52及び第3層53上に連続的に形成されている。
【0105】
第2電極80は、第1電極60の-Z方向側に圧電体層70を介して積層され、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第2電極80は、X軸方向において圧力室12よりも狭い幅で形成されている。すなわち、X軸方向において、第2電極80の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。本実施形態では、X軸方向における第2電極80の端部は、圧電体層70の端部の位置とほぼ一致している。
【0106】
また圧電素子300上には、絶縁材料からなる保護膜150が設けられている。図示は省略するが、第1電極60に接続される共通リード電極と、各第2電極80に接続される個別リード電極とは、この保護膜150上に設けられる。
【0107】
そして、このような本実施形態の記録ヘッド2においても、振動板50は、実施形態1と同様、次のような構成となっている。例えば、
図6において、振動板50のうち、第1方向であるZ軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重なる領域を能動領域A1と称する。すなわち、圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重なる領域を能動領域A1と称する。また振動板50のうち、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80のそれぞれと重ならない領域を非能動領域A2と称する。すなわち圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重ならない領域を非能動領域A2と称する。この非能動領域A2には、いわゆる振動板50の腕部に相当する領域が含まれ、本実施形態では、Z軸方向の断面視において、2つの非能動領域A2の間に能動領域A1が位置する構成となっている。
【0108】
またZ軸方向において、圧力室基板10、振動板50、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が、この順で積層されており、共通電極である第1電極60は、X軸方向において能動領域A1から非能動領域A2にかけて連続して設けられている。
【0109】
そしてX軸方向における能動領域A1の振動板50は、第1層51と第2層52と第3層53とを有している。一方、X軸方向における非能動領域A2の一部の振動板50は、第1層51と第2層52とを有するが、第3層53を有していない。すなわち、振動板50を構成する第1層51及び第2層52は、能動領域A1と非能動領域A2との間で連続して全域に亘って形成されているが、第3層53は、非能動領域A2の一部において除去されている。すなわち非能動領域A2の隔壁11側の除去領域A3で第3層53が除去されており、この除去領域A3における振動板50は、第1層51と第2層52とで構成されている。
【0110】
この本実施形態の構成においても、実施形態1と同様の作用効果が得られる。例えば、圧電素子300の駆動に伴う振動板50の変位量を向上しつつ、振動板50に対するクラックの発生を抑制することができる。また能動領域A1及び非能動領域A2において振動板50が第2層52を備えていることで、振動板50の腕部において第3層53をエッチングする際のオーバーエッチングを抑制することができ、振動板50の信頼性の低下を防止することができる。
【0111】
(実施形態3)
図7は、実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
本実施形態は、記録ヘッド2が備える振動板50及び圧電素子300の変形例であり、それ以外の構成は上述の実施形態と同様である。なお実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また本実施形態に係る記録ヘッド2の特徴も、振動板50の構成にあり、圧電素子300の基本的構成は既存のものである。
【0112】
図7に示すように、圧電素子300は、圧力室基板10の-Z方向側に、第1層51、第2層52及び第3層53を有する振動板50を介して設けられ、Z軸方向に積層された第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを具備する。
【0113】
この圧電素子300の活性部310は、図示は省略するが、Z軸方向にみた平面視において各圧力室12の開口縁部に沿って環状に設けられ、圧力室12の中央部には設けられていない。
【0114】
このため、
図7に示すX軸方向の断面において、圧電素子300の活性部310は、圧力室12の両端部に対応して設けられ、圧力室12の中央部には設けられていない。なおY軸方向の断面においても、圧電素子300の活性部310は、同様の構成となる。つまり活性部310は、圧力室12の開口縁部のどの位置においても、圧力室12の内側から圧力室12の外側まで延在している。
【0115】
このような圧電素子300を構成する第1電極60は、複数の活性部310に共通する共通電極であり、振動板50の-Z方向側に複数の圧力室12に対応する領域に亘って連続して設けられている。圧電体層70は、圧力室12毎、すなわち、活性部310毎に独立して設けられている。圧電体層70は、圧力室12の開口縁部に沿って所定幅で環状に設けられ、圧力室12の中央部に対応する部分には設けられていない。なお本実施形態では、圧電体層70は、活性部310毎に切り分けられて独立して設けられているが、複数の活性部310に亘って連続して設けられていてもよい。
【0116】
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対面側に設けられ、活性部310毎に独立する個別電極を構成する。本実施形態では、第2電極80は、各活性部310を構成する圧電体層70上に亘って連続して設けられている。すなわち第2電極80は、圧電体層70と同一幅で圧力室12の開口縁部に沿って環状に設けられ、圧力室12の中央部に対応する部分には設けられていない。そして、この第2電極80が設けられた部分が、圧電素子300の活性部310となる。
【0117】
また圧電素子300上には、絶縁材料からなる保護膜150が設けられる。図示は省略するが、第1電極60に接続される共通リード電極と、各第の電極80に接続される個別リード電極とは、この保護膜150上に設けられる。
【0118】
ここで、本実施形態に係る記録ヘッド2においても、振動板50を構成する第3層53は、振動板50の全面には設けられておらず、所定の領域に設けられている。
【0119】
具体的には、振動板50を構成する第3層53は、各圧力室12に対向する領域において活性部310に対応して設けられている。すなわち、第3層53は、圧力室12に対向する領域内において圧力室12の周縁部に対向する位置には設けられているが、圧力室12の中央部に対向する位置には設けられていない。
【0120】
このため、
図7に示す圧力室12の並設方向であるX軸方向の断面において、第3層53は、圧力室12の両端部に対応する位置に設けられ、圧力室12の中央部には設けられない。圧力室12に対向する領域における第3層53の端部の位置は、圧電体層70の端面の延長線上に位置している。ただし、第3層53の端部の位置は、必ずしも圧電体層70の端面の延長線上でなくてもよく、非能動領域A2内であれば、圧電体層70の端面の延長線よりも内側であっても外側であってもよい。なおY軸方向の断面においても、第3層53を含む振動板50は、同様の構成となる。
【0121】
本実施形態の構成では、振動板50の圧力室12の中央部に対応する部分が、いわゆる腕部に相当する。つまり本実施形態の構成においても、いわゆる振動板50の腕部には、第3層53が形成されていない部分が存在する。これにより、圧電素子300の駆動に伴う振動板50の変位量を向上することができる。
【0122】
なお第3層53は、圧力室12の外側の領域では連続的に形成されている。勿論、第3層53は、圧力室12の外側の領域で連続している必要はない。例えば、圧力室12の外側で圧電体層70が形成されていない領域の第3層53は、除去するようにしてもよい。
【0123】
そして、このような第3層53を含む振動板50は、本実施形態においても、言い換えれば次のような構成となっている。例えば、
図7において、振動板50のうち、第1方向であるZ軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重なる領域を能動領域A1と称する。すなわち、圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重なる領域を能動領域A1と称する。また振動板50のうち、Z軸方向にみて圧力室12と重なり、かつ、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と重ならない領域を非能動領域A2と称する。すなわち圧力室12に対向する振動板50のうち、圧電素子300の活性部310と重ならない領域を非能動領域A2と称する。つまり本実施形態では、圧力室12に対向する振動板50のうち、圧力室12の中央部に対向する領域が非能動領域A2となり、Z軸方向の断面視においては、非能動領域A2は、2つの能動領域A1の間に位置する。
【0124】
また本実施形態では、Z軸方向において、圧力室基板10、振動板50、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が、この順で積層されており、共通電極である第1電極60が、能動領域A1から非能動領域A2にかけて連続して設けられている。
【0125】
そして、能動領域A1の振動板50は、第1層51と第2層52と第3層53とを有している。一方、非能動領域A2の振動板50は、第1層51と第2層52とを有するが、第3層53を有していない。すなわち、振動板50を構成する第1層51及び第2層52は、能動領域A1と非能動領域A2との間で連続して全域に亘って形成されているが、第3層53は、非能動領域A2の少なくとも一部において除去されている。すなわち非能動領域A2の外周部を除く中央部分の除去領域A3で第3層53が除去されており、除去領域A3における振動板50は、第1層51と第2層52とで構成されている。
【0126】
この本実施形態の構成においても、上述の実施形態と同様の作用効果が得られる。例えば、圧電素子300の駆動に伴う振動板50の変位量を向上しつつ、振動板50に対するクラックの発生を抑制することができる。また能動領域A1及び非能動領域A2において振動板50が第2層52を備えることで、振動板50の圧力室12の中央部に対応する部分、つまり振動板50の腕部において第3層53をエッチングする際、オーバーエッチングを抑制することができ、振動板50の信頼性の低下を防止することができる。
【0127】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0128】
例えば、上述の実施形態では、振動板50として、第1層51、第2層52及び第3層53を備える構成を例示したが、振動板50の構成はこれに限定されるものではない。振動板50は、第1層51、第2層52及び第3層53以外の層を含んで構成されていてもよい。例えば、振動板50は、第1層51と第2層52との間に応力制御層としての第4層を備えていてもよい。
【0129】
また上述の実施形態では、圧力室12の短手方向における振動板50の構成を例示して本発明を説明したが、勿論、本発明は、圧力室12の長手方向における振動板50の構成にも適用することができる。
【0130】
また、上述の実施形態では、記録装置1として、記録ヘッド2が搬送体8に搭載されて主走査方向であるY軸に沿って往復移動するものを例示したが、記録装置1の構成はこれに限定されるものではない。記録装置1は、例えば、記録ヘッド2が固定されて、紙等の媒体Sを副走査方向であるX軸に沿って移動させるだけで印刷を行う、いわゆるライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0131】
なお、上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げ、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて本発明を説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。本発明は、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。また本発明は、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0132】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、超音波デバイス、モーター、圧力センサー、焦電素子、強誘電体素子などの圧電デバイスにも適用することができる。また本発明は、これらの圧電デバイスを利用した完成体、例えば、上記液体等噴射ヘッドを利用した液体等噴射装置の他、上記超音波デバイスを利用した超音波センサー、上記モーターを駆動源として利用したロボット、上記焦電素子を利用したIRセンサー、強誘電体素子を利用した強誘電体メモリー等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
1…インクジェット式記録装置(記録装置)、2…記録ヘッド、3…液体容器、4…制御ユニット、5…搬送機構、6…移動機構、7…搬送ローラー、8…搬送体、9…搬送ベルト、10…圧力室基板、11…隔壁、12…圧力室、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…収容部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…第1層、52…第2層、53…第3層、60…第1電極、70…圧電体層、71…溝部、80…第2電極、91…個別リード電極、92…共通リード電極、100…マニホールド、120…配線基板、121…駆動回路、150…保護膜、300…圧電素子、310…活性部、S…媒体、A1…能動領域、A2…非能動領域、A3…除去領域