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特開2023-173339モータシステム、ハイブリッドシステム、機電一体ユニット、電動車両システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173339
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータシステム、ハイブリッドシステム、機電一体ユニット、電動車両システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20231130BHJP
【FI】
H02P21/22 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085520
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】原 崇文
(72)【発明者】
【氏名】岩野 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF07
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505KK04
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL44
5H505LL45
(57)【要約】
【課題】液体冷媒に浸された回転子の回転により発生する流体摩擦損を適切に補償する。
【解決手段】モータシステム1は、固定子と回転子が液体冷媒に浸されたモータ2と、電源装置5からの直流電力を交流電力に変換してモータ2に供給するインバータ3と、インバータ3を制御することによりモータ2の駆動を制御する制御装置100と、を備える。制御装置100は、液体冷媒の温度、およびモータ2の回転速度を演算し、演算された液体冷媒の温度と、演算されたモータの回転速度とに基づき、モータ2のトルクを制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と回転子が液体冷媒に浸されたモータと、
電源装置からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータと、
前記インバータを制御することにより前記モータの駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記液体冷媒の温度、および前記モータの回転速度を演算し、
演算された前記液体冷媒の温度と、演算された前記モータの回転速度とに基づき、前記モータのトルクを制御する
モータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、
前記液体冷媒の温度が上昇するほど前記モータのトルクが小さくなるように、かつ、前記モータの回転速度が増加するほど前記モータのトルクが大きくなるように、前記インバータを制御する
モータシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、
前記液体冷媒の温度と前記モータの回転速度とに基づき、前記液体冷媒に浸されている前記回転子の回転により発生する流体摩擦損を演算し、
演算された前記流体摩擦損を補正値としてアクセル操作量に応じたトルク指令に加算する補正を行い、
補正後のトルク指令に基づき、前記インバータを制御する
モータシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記モータの内部に設けられるモータ内温度センサと、前記モータの外部に設けられるモータ外温度センサと、を備え、
前記制御装置は、
前記モータ内温度センサの検出結果と、前記モータ外温度センサの検出結果と、に基づき、前記液体冷媒の温度を演算する
モータシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記液体冷媒の温度が、予め定められた所定温度よりも低いときには、前記液体冷媒の温度が前記所定温度よりも高いときに比べて高い回転速度で前記モータを回転させる
モータシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、前記液体冷媒の温度が、予め定められた所定温度よりも低いときには、前記液体冷媒の温度が前記所定温度よりも高いときに比べて前記モータのd軸電流を増大させる
モータシステム。
【請求項7】
請求項3に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置には、前記液体冷媒の温度と、前記モータの回転速度と、前記流体摩擦損との関係を規定する規定データが記憶され、
前記制御装置は、
前記規定データを参照し、前記液体冷媒の温度と前記モータの回転速度とに基づき、前記流体摩擦損を演算する、
モータシステム。
【請求項8】
請求項3に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、
演算された前記液体冷媒の温度に基づいて動粘度を演算し、
演算された前記動粘度と、演算された前記モータの回転速度とに基づいて抵抗係数を演算し、
演算された前記抵抗係数と、演算された前記モータの回転速度とに基づいて、前記流体摩擦損を演算する
モータシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のモータシステムにおいて、
前記モータの固定子および回転子を冷却する前記液体冷媒は、前記インバータの冷却にも用いられる
モータシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のモータシステムにおいて、
前記モータの内部に設けられるモータ内温度センサと、前記インバータの内部に設けられるインバータ内温度センサと、前記モータおよび前記インバータの外部に設けられるモータ外温度センサと、を備え、
前記制御装置は、
前記モータ内温度センサの検出結果と、前記モータ外温度センサの検出結果と、前記インバータ内温度センサの検出結果と、に基づき、前記液体冷媒の温度を演算する
モータシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のモータシステムにおいて、
前記制御装置は、
前記液体冷媒の温度と前記モータの回転速度とに基づき、前記液体冷媒に浸されている前記回転子の回転により発生する流体摩擦損を演算し、演算された前記流体摩擦損を補正値としてアクセル操作量に応じたトルク指令に加算する補正を行い、
補正後のトルク指令に基づき、前記インバータを制御する
モータシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のモータシステムにおいて、
前記液体冷媒の温度を検出する複数の温度センサを備え、
前記複数の温度センサは、前記インバータの内部に設けられるインバータ内温度センサを含み、
前記制御装置は、
前記トルク指令が所定値よりも小さいときには、前記複数の温度センサのうち前記インバータ内温度センサの検出結果のみに基づいて、前記液体冷媒の温度を演算し、
前記トルク指令が前記所定値よりも大きいときには、前記複数の温度センサのうち前記インバータ内温度センサ以外の少なくとも一つの検出結果に基づいて、前記液体冷媒の温度を演算する
モータシステム。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のモータシステムと、
前記モータに接続されるエンジンを含むエンジンシステムと、を備える
ハイブリッドシステム。
【請求項14】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のモータシステムと、
前記モータの出力を伝達するギヤと、を備え、
前記モータ、前記インバータおよび前記ギヤが一体的に結合された機電一体ユニット。
【請求項15】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のモータシステムを備え、
前記モータの回転駆動力を車輪に伝達する電動車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータシステム、ハイブリッドシステム、機電一体ユニット、電動車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルへの貢献が期待されるxEV(電動車両)では、駆動源として、永久磁石同期モータや誘導モータなどの三相交流モータが使用される。モータは、高負荷時や高速回転時に鉄損、銅損等の損失が増加し、温度が上昇する。モータが高温になると、モータ内のコイルの絶縁被膜の劣化やモータ内の磁石の減磁が発生する懸念がある。モータの温度上昇を抑制するために、油でモータを冷却する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、モータの回転をギヤを介して車輪に伝達して走行する自動車であって、モータの冷却用の油とギヤの潤滑用の油とが共用された自動車が開示されている。外気温が極めて低温の場合には、モータ冷却用およびギヤ潤滑用の油の粘度が高くなるため、モータの回転抵抗が増加する。ここで、油などの液体冷媒によってモータにロストルクが発生すると、運転者のアクセル指令と、実際に出力されるトルクとの間に乖離が生じ、運転者に操作性の違和感を与えてしまうおそれがある。このため、特許文献1に記載の技術では、油が低温の場合におけるアクセル入力と実際に出力されるトルクとの関係を常温時と同様にするために、油が低温の場合、アクセル入力より求められた指令トルクに相当するモータ通電電流を常温時に比べて大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-96885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い冷却性能を目指して、モータの回転子と固定子を液体冷媒に浸す場合、液体冷媒に浸されている回転子の回転によって流体摩擦損(ロストルク)が発生する。特許文献1には、油の温度に応じて指令トルクを変更して流体摩擦損を補償する技術が開示されている。しかしながら、油の温度のみを考慮したトルク制御では、流体摩擦損を適切に補償できないおそれがある。
【0006】
本発明は、液体冷媒に浸された回転子の回転により発生する流体摩擦損を適切に補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるモータシステムは、固定子と回転子が液体冷媒に浸されたモータと、電源装置からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータと、前記インバータを制御することにより前記モータの駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記液体冷媒の温度、および前記モータの回転速度を演算し、演算された前記液体冷媒の温度と、演算された前記モータの回転速度とに基づき、前記モータのトルクを制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体冷媒に浸された回転子の回転により発生する流体摩擦損を適切に補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るモータシステムの全体構成図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るモータの側面断面模式図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の機能ブロック図である。
図4図4は、モータの回転速度と、ロストルクとの相関関係について示す図である。
図5図5は、液体冷媒の温度と、ロストルクとの相関関係について示す図である。
図6図6は、液体冷媒が第1温度To1、第2温度To2および第3温度To3であるときのモータの回転速度とロストルクとの相関関係を示す図である。
図7図7は、トルク指令補正部の詳細な機能ブロック図である。
図8図8は、本発明の第2実施形態に係るモータシステムのモータ制御装置により実行される温度上昇運転フラグの設定制御の内容の一例について示すフローチャートである。
図9図9は、温度上昇運転の内容の一例の説明図である。
図10図10は、本発明の第3実施形態に係る冷却システムの構成を示す図である。
図11図11は、所定のトルクおよび所定のモータ回転速度でのインバータ損失の値を基準(1.0)として、インバータ損失を規格化して示した表である。
図12図12は、所定のトルクおよび所定のモータ回転速度でのモータの電気的損失を基準(1.0)として、銅損および鉄損などのモータの電気的損失を規格化して示した表である。
図13図13は、本発明の第4実施形態に係るモータシステムの全体構成図である。
図14図14は、本発明の第5実施形態に係る機電一体ユニットの外観斜視図である。
図15図15は、本発明の第6実施形態に係る電動車両システムを備えた車両の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、電気自動車やハイブリッド自動車などの電動車両(以下、単に車両とも記す)に搭載されて使用されるモータシステムへの適用例について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータシステム1の全体構成図である。図1において、モータシステム1は、モータ制御装置100、永久磁石式の三相同期モータ(以下、単に「モータ」と称する)2、インバータ3、回転位置検出器8、および高圧バッテリ5を備える。
【0012】
モータ制御装置100は、インバータ3を制御することによりモータ2の駆動を制御する。モータ制御装置100は、モータ2に対して要求される目標トルクに応じたトルク指令T1*に基づいて、モータ2の駆動を制御するためのゲート信号を生成し、インバータ3に出力する。
【0013】
トルク指令T1*は、上位制御装置90からモータ制御装置100に入力される。上位制御装置90は、アクセルペダル(不図示)の操作量センサ(不図示)によって検出されるアクセル操作量に応じてモータ2のトルク指令T1*を演算する。モータ制御装置100の詳細については後で説明する。
【0014】
高圧バッテリ5は、インバータ3に直流電圧を供給する電源装置であり、その電圧は充電状態に応じて変動する。高圧バッテリ5のバッテリ電圧(電源電圧)Eは、インバータ3のインバータ回路31によって可変電圧、可変周波数のパルス状の三相交流電圧に変換され、線間電圧としてモータ2に印加される。
【0015】
インバータ3は、高圧バッテリ5からの直流電力を交流電力に変換してモータ2に供給する。インバータ3は、インバータ回路31、PWM信号駆動回路32および平滑キャパシタ33を有する。PWM信号駆動回路32は、モータ制御装置100から入力されるゲート信号に基づいて、インバータ回路31が有する各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路31に出力する。インバータ回路31は、U相、V相、W相の上アームおよび下アームにそれぞれ対応するスイッチング素子を有している。PWM信号駆動回路32から入力されたPWM信号に従ってこれらのスイッチング素子がそれぞれ制御されることで、高圧バッテリ5から供給される直流電力が交流電力に変換され、モータ2に出力される。平滑キャパシタ33は、高圧バッテリ5からインバータ回路31に供給される直流電力を平滑化する。
【0016】
モータ2は、インバータ3から供給される三相交流電力(線間電圧)により回転駆動される。図2を参照して、モータ2の構成について説明する。図2は、モータ2の側面断面模式図である。図2に示すように、モータ2は、ハウジング21に固定される固定子22と、固定子22の内周側に隙間をあけて回転可能に設けられる回転子24と、を備える。
【0017】
モータ2は、固定子鉄心22aに巻回される固定子コイル22bに三相交流電流が供給されることで、回転子24を回転させる電動機として作動する。なお、モータ2は、エンジン(不図示)によって駆動されることにより、発電機として作動して三相交流の発電電力を出力するものであってもよい。つまり、モータ(回転電機)2は、電気エネルギーに基づいて回転トルクを発生する電動機としての機能と、機械エネルギーに基づいて発電を行う発電機としての機能の両方を有していてもよい。
【0018】
固定子22および回転子24は、ハウジング21に収容されている。ハウジング21は、第1エンドブラケット21aと、第2エンドブラケット21bと、第1エンドブラケット21aおよび第2エンドブラケット21bによって軸方向に挟持される円筒状のセンターブラケット21cと、を有する。第1エンドブラケット21aには第1軸受25aが設けられ、第2エンドブラケット21bには第2軸受25bが設けられる。
【0019】
回転子24は、シャフト30に固定されている。シャフト30が第1軸受25aと第2軸受25bによって支承されることにより、回転子24が固定子鉄心22aの内側で回転可能に保持される。
【0020】
固定子22は、円筒状の固定子鉄心22aと、この固定子鉄心22aに装着される固定子コイル22bと、を備える。固定子鉄心22aは、例えば、円環形状の電磁鋼板を複数枚積層することにより形成される。固定子鉄心22aは、円筒状のセンターブラケット21cの内側に焼嵌め、圧入等により嵌合固定される。固定子コイル22bは、U相電機子コイルLu、V相電機子コイルLv、W相電機子コイルLw(図1参照)を構成する。
【0021】
回転子24は、回転子鉄心24aと、回転子鉄心24aに固定される複数の永久磁石24bと、を備える。回転子鉄心24aは、例えば、円環形状の電磁鋼板を複数枚積層することにより形成される。永久磁石24bは、回転子24の界磁極を形成する。回転子鉄心24aの外周部には、永久磁石24bが固定される凹部が、周方向に等間隔で形成される。
【0022】
本実施形態に係るモータ2は、ハウジング21の内部空間に液体冷媒23が満たされ、固定子22と回転子24が液体冷媒23に浸されているため、高い冷却性能が確保されている。これにより、モータ2の高負荷運転時、高速回転時に鉄損、銅損、磁石損の増加によるモータ内部の温度上昇を効果的に抑制することができる。その結果、固定子コイル22bの絶縁被膜の劣化や永久磁石24bの減磁の発生を防止することができる。液体冷媒23は、例えば、パームヤシ油等の植物油、鉱物油等の電気的絶縁油である。液体冷媒23は、図1に示すポンプ41、熱交換器(不図示)を含む冷却システム40内で循環する構成となっている。
【0023】
図2に示すように、ハウジング21には、モータ2内に液体冷媒23を取り入れるためのモータ冷媒入口26と、モータ2内から液体冷媒23を取り出すためのモータ冷媒出口27と、が設けられている。なお、図2では、モータ冷媒入口26およびモータ冷媒出口27の位置を模式的に示している。モータ冷媒入口26およびモータ冷媒出口27は、任意の位置に設定される。
【0024】
ポンプ41から吐出された液体冷媒23は、供給配管28aを通じてモータ冷媒入口26からハウジング21内に供給され、回転子鉄心24a、永久磁石24b、固定子鉄心22a、および固定子コイル22bに直接接触し、これらの部品を直接冷却し、モータ冷媒出口27から戻り配管28bに排出される。戻り配管28bに排出された液体冷媒23は、熱交換器によって冷却され、ポンプ41によって再び供給配管28aに供給される。
【0025】
図1に示すように、インバータ3から入力された交流電力が電機子コイルLu,Lv,Lwに印加されると、モータ2において三相交流電流(U相交流電流Iu、V相交流電流IvおよびW相交流電流Iw)が導通し、各電機子コイルLu,Lv,Lwに電機子磁束が発生する。この各電機子コイルLu,Lv,Lwの電機子磁束と、回転子24の永久磁石24bの磁石磁束との間で吸引力・反発力が発生することで、回転子24にトルクが発生し、回転子24が回転駆動される。
【0026】
モータ2には、回転子24の回転位置θを検出するための回転位置センサ81が取り付けられている。回転位置検出器8は、回転位置センサ81からの入力信号に基づき回転位置θを演算する。回転位置検出器8による回転位置θの演算結果はモータ制御装置100に入力され、モータ制御装置100がモータ2の誘起電圧の位相に合わせてゲート信号を生成することで行われる交流電力の位相制御において利用される。
【0027】
ここで、回転位置センサ81には、鉄心と巻線とから構成されるレゾルバが好適であるが、GMRセンサなどの磁気抵抗素子や、ホール素子を用いたセンサであっても問題ない。また、回転位置検出器8は、回転位置センサ81からの入力信号を用いず、モータ2に流れる三相交流電流Iu,Iv,Iwや、インバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu,Vv,Vwを用いて回転位置θを推定してもよい。
【0028】
インバータ3とモータ2の間には、電流検出装置7が配置されている。電流検出装置7は、モータ2を通電する三相交流電流Iu,Iv,Iwを検出する。電流検出装置7は、例えばホール素子を用いた電流センサにより構成される。電流検出装置7による三相交流電流Iu,Iv,Iwの検出結果はモータ制御装置100に入力され、モータ制御装置100が行うゲート信号の生成に利用される。なお、図1では電流検出装置7が3つの電流センサにより構成される例を示しているが、電流センサを2つとし、残る1相の交流電流は、三相交流電流Iu,Iv,Iwの和が零であることから算出してもよい。また、高圧バッテリ5からインバータ3に流入するパルス状の直流電流を、平滑キャパシタ33とインバータ3の間に挿入されたシャント抵抗等により検出し、この直流電流とインバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu,Vv,Vwに基づいて三相交流電流Iu,Iv,Iwを求めてもよい。
【0029】
インバータ3の内部において、U相、V相、W相の上下アームのスイッチング素子を収容する各相のパワーモジュールの近傍には、インバータ内温度センサ34が配置されている。インバータ内温度センサ34は、例えば、感温ダイオードにより構成される。インバータ内温度センサ34は、パワーモジュールの温度を検出し、検出結果を表す信号をモータ制御装置100に出力する。
【0030】
モータ2の内部には、モータ2内の液体冷媒23の温度を検出するモータ内温度センサ9が設けられている。モータ内温度センサ9は、例えば、磁石温度やコイル温度を検出するサーミスタや熱電対により構成される。モータ内温度センサ9は、検出結果を表す信号をモータ制御装置100に出力する。
【0031】
モータ2の外部であって、ポンプ41の吐出ラインを構成する供給配管28aには、供給配管28a内を流れる液体冷媒23の温度を検出するモータ外温度センサとしてのポンプ温度センサ42が設けられている。ポンプ温度センサ42は、検出結果を表す信号をモータ制御装置100に出力する。
【0032】
次に、モータ制御装置100の詳細について説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置100の機能ブロック図である。図3に示すように、モータ制御装置100は、電流指令生成部101、速度演算部102、三相/dq電流変換部103、電流制御部104、電圧指令変換部105、搬送波周波数決定部106、搬送波生成部107、ゲート信号生成部108、トルク指令補正部109、および温度演算部110としての機能を有する。
【0033】
モータ制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の処理装置、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ、入出力インタフェース、および、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。これらのハードウェアは、協働してソフトウェアを動作させ、複数の機能を実現する。モータ制御装置100は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。なお、モータ制御装置100の各機能の一部または全部をロジックICやFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路を用いて実現してもよい。
【0034】
不揮発性メモリには、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリは、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体(記憶装置)である。揮発性メモリは、処理装置による演算結果および入出力インタフェースから入力された信号を一時的に記憶する記憶媒体(記憶装置)である。処理装置は、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを揮発性メモリに展開して演算実行する装置であって、プログラムに従って入出力インタフェース、不揮発性メモリおよび揮発性メモリから取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0035】
電流指令生成部101は、後述するトルク指令補正部109で演算された補正後のトルク指令T2*とバッテリ電圧Eに基づき、d軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算する。なお、バッテリ電圧Eは、バッテリ5に設けられる電圧センサにより検出される。電流指令生成部101は、例えば予め不揮発性メモリに記憶されている電流指令マップや数式等を用いて、後述する補正後のトルク指令T2*に応じたd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算する。
【0036】
速度演算部102は、回転位置検出器8により演算された回転位置θの時間変化から、モータ2の回転速度(回転数)ωrを演算する。なお、モータ回転速度ωrは、回転数[rpm]または角速度[rad/s]のいずれで表される値であってもよい。また、これらの値を相互に変換して用いてもよい。
【0037】
三相/dq電流変換部103は、電流検出装置7により検出された三相交流電流Iu,Iv,Iwに対して、回転位置検出器8により演算された回転位置θに基づくdq変換を行い、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを演算する。
【0038】
電流制御部104は、電流指令生成部101により演算されたd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*と、三相/dq電流変換部103により演算されたd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqとの偏差に基づき、電流指令Id*,Iq*と電流値Id,Iqとがそれぞれ一致するように、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を演算する。電流制御部104は、例えばPI制御等の制御方式により、d軸電流指令Id*とd軸電流値Idの偏差に応じたd軸電圧指令Vd*と、q軸電流指令Iq*とq軸電流値Iqの偏差に応じたq軸電圧指令Vq*とを演算する。
【0039】
電圧指令変換部105は、電流制御部104により演算されたd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*に対して、回転位置検出器8により演算された回転位置θに基づく三相変換を行い、三相電圧指令(U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*およびW相電圧指令Vw*)を演算する。これにより、補正後のトルク指令T2*に応じた三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*が生成される。
【0040】
搬送波周波数決定部106は、速度演算部102により演算された回転速度ωr、トルク指令補正部109により演算された補正後のトルク指令T2*、およびバッテリ電圧Eに基づき、ゲート信号の生成に用いられる搬送波の周波数を表す搬送波周波数fcを演算する。
【0041】
搬送波生成部107は、搬送波周波数決定部106により演算された搬送波周波数fcに基づき、三角波や鋸波などの搬送波信号Trを生成する。
【0042】
ゲート信号生成部108は、搬送波生成部107により生成された搬送波信号Trを用いて、電圧指令変換部105から出力される三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれパルス幅変調し、インバータ3の動作を制御するためのゲート信号を生成する。具体的には、電圧指令変換部105により演算された三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と、搬送波生成部107により生成された搬送波信号Trとの比較結果に基づき、U相、V相、W相の各相に対してパルス状の電圧を生成する。そして、ゲート信号生成部108は、生成したパルス状の電圧に基づき、インバータ3の各相のスイッチング素子に対するゲート信号を生成する。ゲート信号生成部108は、各相の上アームのゲート信号Gup,Gvp,Gwpをそれぞれ論理反転させ、下アームのゲート信号Gun,Gvn,Gwnを生成する。ゲート信号生成部108が生成したゲート信号は、モータ制御装置100からインバータ3のPWM信号駆動回路32に出力され、PWM信号駆動回路32によってPWM信号に変換される。これにより、インバータ回路31の各スイッチング素子がオン/オフ制御され、インバータ3の出力電圧が調整され、モータ2の回転速度が制御される。
【0043】
温度演算部110は、モータ2の内部に設けられるモータ内温度センサ9の検出結果と、モータ2の外部に設けられるポンプ温度センサ42の検出結果と、に基づき、液体冷媒23の温度Toを演算する。温度演算部110は、モータ内温度センサ9からの検出信号Tmsに基づきモータ内冷媒温度Tmを演算し、ポンプ温度センサ42からの検出信号Tpsに基づきモータ外冷媒温度としてのポンプ冷媒温度Tpを演算する。
【0044】
温度演算部110は、運転者によりイグニッションスイッチがオンされ、車両が起動した際に、モータ内冷媒温度Tmおよびポンプ冷媒温度Tpが正常範囲内の値であるか否かを判定する。モータ内冷媒温度Tmおよびポンプ冷媒温度Tpの双方が正常範囲内の値である場合、温度演算部110は、モータ内冷媒温度Tmおよびポンプ冷媒温度Tpの平均値(単純平均値あるいは加重平均値)を、後述するトルク指令の補正に用いる冷媒温度Toとして演算する。モータ内冷媒温度Tmおよびポンプ冷媒温度Tpの一方が正常範囲外の値である場合、他方の正常範囲内の値である冷媒温度を、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toとして演算する。
【0045】
冷媒温度Tm,Tpの正常範囲は、予め定められた一定の範囲である。なお、冷媒温度Tm,Tpの正常範囲は、外気温センサ(不図示)により検出された外気温に基づいて設定されるようにしてもよい。車両の起動時は、外気温と液体冷媒23の温度は、ほぼ等しい温度である。したがって、温度演算部110は、運転者によりイグニッションスイッチがオンされ、車両が起動した際に、冷媒温度Tm,Tpが外気温に基づいて設定された正常範囲内の値であるか否かを判定することが好ましい。
【0046】
また、モータ内温度センサ9として、サーミスタおよび熱電対の双方が設けられている場合、温度演算部110は、モータ内温度センサ9としてのサーミスタの検出結果に基づいて第1モータ内冷媒温度Tm1を演算し、モータ内温度センサ9としての熱電対の検出結果に基づいて第2モータ内冷媒温度Tm2を演算する。温度演算部110は、運転者によりイグニッションスイッチがオンされ、車両が起動した際に、第1、第2冷媒温度Tm1,Tm2、およびポンプ冷媒温度Tpのうち、一の冷媒温度のみが他の二つの冷媒温度に対して大きく乖離している場合、その一の冷媒温度を検出した温度センサの校正を行ってもよい。
【0047】
液体冷媒23の精度は、後述するトルク指令補正部109によるロストルクTlossの演算に大きな影響を与えるため、非常に重要である。例えば、液体冷媒23の低温時には、液体冷媒23の冷媒温度Toの1[K]の誤差が、5[%]から10[%]程度のロストルクTlossの誤差を生む。このため、複数の温度センサ(モータ内温度センサ9およびポンプ温度センサ42)に基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toの精度を高めることにより、ロストルクTlossの演算精度を向上することが好ましい。
【0048】
トルク指令補正部109は、温度演算部110により演算された液体冷媒23の温度(冷媒温度)Toおよび速度演算部102により演算されたモータ2の回転速度ωrに基づき、上位制御装置90からのトルク指令T1*を補正することで、補正後のトルク指令T2*を生成する。補正後のトルク指令T2*によって、電流指令Id*,Iq*、電圧指令Vu*,Vv*,Vw*が演算され、インバータ3が制御される。つまり、本実施形態に係るモータ制御装置100は、演算された液体冷媒23の温度Toと、演算されたモータ2の回転速度ωrとに基づき、インバータ3を制御することによりモータ2のトルクを制御する。
【0049】
本実施形態に係るモータ2の回転速度と、流体摩擦損との相関関係について説明する。流体摩擦損は、流体である液体冷媒23と、回転体である回転子24との接触面により発生する。本願発明者らは、実験や解析によって回転子24と固定子22を液体冷媒23に全て浸すモータ2における流体摩擦損を分析した。その結果、流体摩擦損(ロストルク)Wは、回転二重円筒の攪拌損失の半実験式であるVrancikの式を用いて、以下の式(1)~式(3)で表されることが分かった。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
【数3】
【0053】
ここで、ρは液体冷媒23の密度、Rは回転子24の半径(図2参照)、ωは回転子24の回転角速度、Lは回転子24の軸長(図2参照)、Cdは抵抗係数、Reは回転レイノルズ数、tは回転子24と固定子22との間の隙間の長さであるギャップ長、νは液体冷媒23の温度により定まる動粘度である。流体摩擦損(ロストルク)Wは、式(1)より回転子24の回転角速度ωの3乗に比例することが分かる。
【0054】
図4は、モータ2の回転速度と、ロストルクとの相関関係について示す図である。図4において、横軸はモータ2の回転速度を示し、縦軸はロストルク(流体摩擦損)を示している。なお、図4では、所定の回転速度および上記所定の回転速度における所定のロストルクをそれぞれ基準(100%)として示している。図4に示す相関関係は、解析により取得したロストルクTlossを実測から補正することにより得られる。なお、モータ2の回転速度とロストルクの相関関係は、解析のみもしくは実測のみによって得ることもできる。図4に示すように、ロストルクは、モータ2の回転速度の上昇に伴って増加している。
【0055】
なお、ロストルクは、液体冷媒23の温度によっても変化する。図5は、液体冷媒23の温度と、ロストルクとの相関関係について示す図である。図5において、横軸は液体冷媒23の温度を示し、縦軸はロストルク(流体摩擦損)を示している。図5では、モータ2の回転速度が第1速度ωr1のときと、第1速度ωr1よりも大きい第2速度ωr2のときのロストルクの温度依存性について示している。なお、図5では、モータ2の回転速度が第1速度ωrであり、液体冷媒23の温度が0℃であるときのロストルクを基準(100%)として、ロストルクの温度依存性を示している。図5に示すように、ロストルクは、液体冷媒23の温度の上昇に伴って低下している。
【0056】
図6は、液体冷媒23が第1温度To1、第2温度To2および第3温度To3であるときのモータ2の回転速度とロストルクとの相関関係を示す図である。図6において、横軸はモータ2の回転速度を示し、縦軸はロストルク(流体摩擦損)を示している。第1温度To1は0℃、第2温度To2は30℃、第3温度To3は100℃である。図6に示すように、ロストルク(流体摩擦損)は、モータ2の回転速度の上昇、および液体冷媒23の温度の低下に伴って増加している。
【0057】
本実施形態では、図6に示す相関関係に基づき、ロストルクテーブル109a(図7参照)が予め定められ、モータ制御装置100の不揮発性メモリに予め記憶されている。ロストルクテーブル109aは、液体冷媒23の温度と、モータ2の回転速度と、ロストルク(流体摩擦損)Tlossとの関係を規定する規定データである。
【0058】
図7は、トルク指令補正部109の詳細な機能ブロック図である。ロストルクテーブル109aは、例えば、液体冷媒23の温度ごとに、モータ2の回転速度ωrとロストルクTlossとの関係を規定する複数のテーブルが含まれる。なお、ロストルクTlossは、式(1)により得られるロストルクWを単位換算することにより求められ、モータ2の回転速度は、式(1)の回転子24の回転角速度に相当する。
【0059】
図7に示すように、トルク指令補正部109は、ロストルクテーブル109aを参照し、温度演算部110により演算された液体冷媒23の温度Toと、速度演算部102により演算されたモータ2の回転速度ωrとに基づき、液体冷媒23に浸されている回転子24の回転により発生する流体摩擦損であるロストルクTlossを演算する。
【0060】
トルク指令補正部109は、演算されたロストルクTlossを補正値としてトルク指令T1*に加算する補正を行い、補正後のトルク指令T2*を演算する(T2*=T1*+Tloss)。上述したように、電流指令生成部101は、補正後のトルク指令T2*に基づいて電流指令を生成する。つまり、本実施形態によれば、運転者のアクセル操作量に応じたトルク指令にロストルクTlossが加味された補正後のトルク指令T2*に基づき電流指令が生成され、ロストルクTloss分が補償されたモータトルクが出力される。
【0061】
モータ制御装置100は、図7に示すロストルクテーブル109aを用いることにより、液体冷媒23の温度Toが上昇するほどモータ2のトルクが小さくなるように、かつ、モータ2の回転速度が増加するほどモータ2のトルクが大きくなるように、インバータ3を制御する。モータ2のトルクが液体冷媒23の温度Toとモータ2の回転速度ωrに応じて適切に制御されるため、液体冷媒23の温度とモータ2の回転速度に関わらず、運転者の操作性を良好なものとすることができる。
【0062】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0063】
(1)モータシステム1は、固定子22と回転子24が液体冷媒23に浸されたモータ2と、高圧バッテリ(電源装置)5からの直流電力を交流電力に変換してモータ2に供給するインバータ3と、インバータ3を制御することによりモータ2の駆動を制御するモータ制御装置(制御装置)100と、を備える。モータ制御装置100は、液体冷媒23の温度To、およびモータ2の回転速度ωrを演算し、演算された液体冷媒23の温度Toと、演算されたモータ2の回転速度ωrとに基づき、モータ2のトルクを制御する。
【0064】
この構成によれば、液体冷媒23に浸された回転子24の回転により発生する流体摩擦損を適切に補償することができる。
【0065】
(2)モータ制御装置100は、液体冷媒23の温度Toとモータ2の回転速度ωrとに基づき、液体冷媒23に浸されている回転子24の回転により発生するロストルク(流体摩擦損)Tlossを演算し、演算されたロストルク(流体摩擦損)Tlossを補正値としてアクセル操作量に応じたトルク指令T1*に加算する補正を行う。モータ制御装置100は、補正後のトルク指令T2*に基づき、インバータ3を制御する。
【0066】
ロストルク(流体摩擦損)Tlossは、例えば、実験や解析等により得られたロストルクテーブル(規定データ)109aを用いて演算されるため、ロストルク(流体摩擦損)を適切に補償したトルクが出力される。これにより、液体冷媒23の温度とモータ2の回転速度が変化した場合において、運転者の操作性に違和感が生じることを防止できる。つまり、本実施形態によれば、液体冷媒23の温度とモータ2の回転速度に関わらず、運転者の操作性を良好なものとすることができる。
【0067】
モータシステム1は、モータ2の内部に設けられるモータ内温度センサ9と、モータ2の外部に設けられるポンプ温度センサ(モータ外温度センサ)42と、を備える。モータ制御装置100は、モータ内温度センサ9の検出結果と、ポンプ温度センサ42の検出結果と、に基づき、液体冷媒の温度Toを演算する。
【0068】
この構成によれば、モータ内温度センサ9およびポンプ温度センサ42の一方のみの検出結果に基づき、トルク指令の補正に用いる液体冷媒23の温度Toを演算する構成に比べて、精度よくトルク指令を補正することができる。また、モータ内温度センサ9およびポンプ温度センサ42のうちの一方の温度センサにおいて故障等の異常が発生している場合、他方の温度センサの検出結果に基づきトルク指令の補正を行うことができる。
【0069】
<第2実施形態>
図8および図9を参照して、本発明の第2実施形態に係るモータシステム1について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0070】
液体冷媒23は、温度が低くなるほど粘度が高くなり、ロストルクが大きくなり、エネルギー効率が悪化する。そこで、本実施形態では、寒冷地で走行する車両や冬季に走行する車両において、走行開始前に液体冷媒23の温度を上昇させ、車両の走行時のロストルクの低減を図っている。以下、詳しく説明する。
【0071】
図8は、第2実施形態に係るモータシステム1のモータ制御装置100により実行される温度上昇運転フラグの設定制御の内容の一例について示すフローチャートである。図8のフローチャートに示す処理は、イグニッションスイッチ(不図示)がオンされることにより開始され、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0072】
ステップS100において、モータ制御装置100は、温度センサ9,42からの信号に基づき冷媒温度Toを演算し、回転位置検出器8からの信号に基づきモータ2の回転速度ωrを演算して、処理をステップS110に進める。
【0073】
ステップS110において、モータ制御装置100は、ステップS100で演算された冷媒温度Toが温度閾値Tot未満であるか否かを判定する。温度閾値Totは、予め定められ、モータ制御装置100の不揮発性メモリに記憶されている。ステップS110において、冷媒温度Toが温度閾値Tot未満であると判定されると、処理がステップS120に進む。ステップS110において、冷媒温度Toが温度閾値Tot以上であると判定されると、処理がステップS140に進む。
【0074】
ステップS120において、モータ制御装置100は、ステップS110で演算されたモータ2の回転速度ωrが速度閾値ωrt未満であるか否かを判定する。速度閾値ωrtは、予め定められ、モータ制御装置100の不揮発性メモリに記憶されている。ステップS120において、モータ2の回転速度ωrが速度閾値ωrt未満であると判定されると、処理がステップS130に進む。ステップS120において、モータ2の回転速度ωrが速度閾値ωrt以上であると判定されると、処理がステップS140に進む。
【0075】
ステップS130において、モータ制御装置100は、温度上昇運転フラグをオンにして、本制御周期における図8のフローチャートの処理を終了する。ステップS140において、モータ制御装置100は、温度上昇運転フラグをオフして、本制御周期における図8のフローチャートの処理を終了する。
【0076】
図9を参照して温度上昇運転の内容の一例を説明する。モータで発生する損失は大きく分けて銅損、鉄損、機械損がある。本実施形態では、同一トルク・同一回転速度の条件で、銅損を増やす方法として、d軸電流を制御する方法を採用する。
【0077】
温度上昇運転フラグがオフの場合、モータ制御装置100は、通常運転を行う。図9の左図は、通常運転において、電流指令生成部101により演算されるd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を示すベクトル図である。通常運転において、電流指令生成部101は、第1実施形態で説明したように、電流指令マップ等を用いて補正後のトルク指令T2*とバッテリ電圧Eに基づき、d軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算する。
【0078】
温度上昇運転フラグがオンの場合、モータ制御装置100は、温度上昇運転を行う。図9の右図は、温度上昇運転において、電流指令生成部101により演算されるd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を示すベクトル図である。電流指令生成部101は、通常運転の際と同様にd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算し、さらにd軸電流指令Id*を増加させる補正を行う。例えば、通常運転時と同様に演算されたd軸電流指令Id*に予め定められた1よりも大きい補正係数を乗じることにより、d軸電流指令Id*を補正する。なお、補正方法はこれに限らず、通常運転時と同様に演算されたd軸電流指令Id*に予め定められた補正値を加算することにより、d軸電流指令Id*を補正してもよい。
【0079】
したがって、温度上昇運転では、d軸電流値Idが負方向に増加し、電流振幅|I|が増加する。銅損は、電流に比例して増加するため、液体冷媒23の温度を上昇させることができる。例えば、寒冷地あるいは冬季において、車両を起動するためにイグニッションスイッチがオンされると、温度上昇運転が開始され、液体冷媒23の温度を上昇させることができる。冷媒温度Toが上昇し温度閾値Tot以上になると、温度上昇運転が停止し、通常運転が実行される。つまり、本実施形態では、車両の走行開始前に液体冷媒の温度を上昇させ、走行の際のロストルク(流体摩擦損)Tlossを低減することができる。
【0080】
このように、第2実施形態に係るモータ制御装置100は、液体冷媒23の温度Toが、予め定められた温度閾値(所定温度)Totよりも低いときには、液体冷媒23の温度Toが温度閾値(所定温度)Totよりも高いときに比べてモータ2のd軸電流をモータ2に定められた電流定格の範囲内で増大させる。
【0081】
このような第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果に加え、寒冷地あるいは冬季における車両の走行開始前に液体冷媒23の温度を上昇させ、車両の走行時のエネルギー損失を低減することができる。車両がハイブリッド車両の場合には、燃費消費を低減し、CO2の排出量を低減することができる。
【0082】
<第2実施形態の変形例>
液体冷媒23の温度を上昇させる方法は、d軸電流を増加させる方法に限定されない。例えば、モータ制御装置100は、液体冷媒23の温度Toが、予め定められた温度閾値(所定温度)Totよりも低いときには、液体冷媒23の温度Toが温度閾値(所定温度)Totよりも高いときに比べて高い回転速度でモータ2を回転させてもよい。
【0083】
温度上昇運転において、モータ2を通常運転時よりも高速で回転させ、鉄損、機械損および流体摩擦損を増加させることにより、液体冷媒23の温度を上昇させることができる。その結果、第2実施形態で説明した作用効果を得ることができる。なお、本変形例では、図8のステップS120の処理は省略される。
【0084】
また、モータ制御装置100は、本変形例で説明したモータ2の高速回転制御と、第2実施形態で説明したd軸電流指令の増加補正制御の双方を同時に実行してもよい。
【0085】
しかしながら、モータ2の高速回転制御と、d軸電流指令の増加補正制御の双方を同時に実行する場合、冷媒温度が急激に上昇して正常な温度範囲を逸脱してしまうおそれがある。このため、第2実施形態で説明したように、モータ2が低速で回転しているときに限り、d軸電流指令の増加補正制御を実行することが好ましい。これにより、冷媒温度の急激な上昇を防止することができる。
【0086】
<第3実施形態>
図10図12を参照して、本発明の第3実施形態に係るモータシステム1について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。第3実施形態では、モータ2とインバータ3とが単一の冷却システム40Cに組み込まれており、液体冷媒23がモータ2だけでなく、インバータ3にも供給される。
【0087】
図10は、第3実施形態に係る冷却システム40Cの構成を示す図である。インバータ3は、インバータ3内に液体冷媒23を取り入れるインバータ冷媒入口36と、液体冷媒23が流れるインバータ内流路(不図示)と、インバータ内流路を流れた液体冷媒23をインバータ3から取り出すインバータ冷媒出口37と、を有する。
【0088】
冷却システム40Cは、ポンプ41と、ポンプ41の吐出口とインバータ冷媒入口36とを接続する供給配管28a1と、インバータ冷媒出口37とモータ冷媒入口26とを接続する供給配管28a2と、モータ冷媒出口27とポンプ41の吸込み口とを接続する戻り配管28bと、液体冷媒23を冷却する熱交換器(不図示)と、を含む。熱交換器は、例えば、戻り配管28bに設けられる。
【0089】
液体冷媒23は、冷却システム40Cを循環する。ポンプ41から吐出された液体冷媒23は供給配管28a1を通じてインバータ内流路に供給される。インバータ冷媒入口36からインバータ内流路に供給された液体冷媒23は、パワーモジュール(不図示)を直接冷却し、インバータ冷媒出口37から排出される。これにより、インバータ3の出力増大を図ることができる。
【0090】
ポンプ41から吐出されインバータ内流路(不図示)に供給された液体冷媒23は、供給配管28a2を通じてモータ内流路に供給され、回転子24および固定子22を直接冷却し、モータ冷媒出口27から排出される。モータ冷媒出口27から排出された液体冷媒23は、熱交換器(不図示)で冷却され、ポンプ41によって吐出され、再び、インバータ3内に供給される。
【0091】
第1実施形態と同様、回転子24および固定子22は、液体冷媒23により直接冷却されるため、モータ2の出力増大を図ることが可能となる。なお、本実施形態では、インバータ3を冷却した液体冷媒23がモータ2に供給され、モータ2を冷却する構成である。つまり、モータ2の固定子22および回転子24を冷却する液体冷媒23は、インバータ3の冷却にも用いられる。
【0092】
本実施形態によれば、インバータ3およびモータ2の冷却系統を共通化できるため、インバータ3の冷却系統とモータ2の冷却系統がそれぞれ個別に設けられる場合に比べて、冷却系統の小型化が可能となり、モータシステム1を小型化できる。
【0093】
なお、図10に示す冷却システム40Cでは、ポンプ41から吐出された液体冷媒23がインバータ3、モータ2の順に流れる構成とされているが、冷却システム40Cの構成はこれに限定されない。冷却システム40Cは、ポンプ41から吐出された液体冷媒23がモータ2、インバータ3の順に流れる構成とされていてもよい。
【0094】
また、図10に示す冷却システム40Cでは、モータ2とインバータ3とを配管28a2,28bにより接続する例について説明したが、モータ内流路とインバータ内流路とを配管を介さずに連通させてもよい。例えば、モータ2のハウジング21とインバータ3のハウジングとは、ボルト、ナット等の締結部材によって締結されることにより一体化されていてもよい。モータ2とインバータ3のハウジングは、一体成型により形成されていてもよい。
【0095】
本第3実施形態では、モータ2とインバータ3の液体冷媒23が共通化されている。このため、モータ内温度センサ9およびポンプ温度センサ42の検出結果だけでなく、インバータ内温度センサ34の検出結果に基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toを演算することができる。インバータ内温度センサ34は、パワーモジュールが配置される液体冷媒23の流路上に設けられ、パワーモジュール近傍の液体冷媒23の温度を検出する。
【0096】
第1実施形態で説明したように、液体冷媒23の低温時には、液体冷媒23の冷媒温度Toの1[K]の誤差が、5[%]から10[%]程度のロストルクTlossの誤差を生む。このため、複数の温度センサに基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度の精度を高めることにより、ロストルクの演算精度を向上することが好ましい。
【0097】
本第3実施形態において、温度演算部110は、モータ内温度センサ9、ポンプ温度センサ42、およびインバータ内温度センサ34の検出結果に基づき、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toを演算する。
【0098】
温度演算部110は、モータ内温度センサ9からの検出信号Tmsに基づきモータ内冷媒温度Tmを演算し、ポンプ温度センサ42からの検出信号Tpsに基づきポンプ冷媒温度Tpを演算し、インバータ内温度センサ34からの検出信号に基づきインバータ内冷媒温度Tiを演算する。
【0099】
温度演算部110は、運転者によりイグニッションスイッチがオンされ、車両が起動した際に、冷媒温度Tm,Tp,Tiが正常範囲内の値であるか否かを判定する。モータ内冷媒温度Tm、ポンプ冷媒温度Tp、およびインバータ内冷媒温度Tiの全てが正常範囲内の値である場合、温度演算部110は、モータ内冷媒温度Tm、ポンプ冷媒温度Tp、およびインバータ内冷媒温度Tiの平均値(単純平均値あるいは加重平均値)を、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toとして演算する。モータ内冷媒温度Tm、ポンプ冷媒温度Tp、およびインバータ内冷媒温度Tiの一つが正常範囲外の値である場合、残りの正常範囲内の値である冷媒温度の平均値(単純平均値あるいは加重平均値)を、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toとして演算する。
【0100】
また、温度演算部110は、冷媒温度Tm,Tp,Tiのうち、一の冷媒温度のみが他の二つの冷媒温度に対して大きく乖離している場合、その一の冷媒温度を検出した温度センサの校正を行ってもよい。例えば、イグニッションスイッチがオンされたときの冷媒温度Tmが、Tp,Tiの平均値に対して所定値以上の差が生じている場合、冷媒温度Tmを冷媒温度Tp,Tiの平均値に基づき補正してもよい。これにより、経年劣化により温度センサの検出温度が実温度から乖離している場合に、経年劣化している温度センサにより検出された温度を正常な状態に復帰させ、その温度センサの検出結果に基づく各種制御の精度を回復することができる。
【0101】
このように、本第3実施形態に係るモータ制御装置100は、モータ内温度センサ9の検出結果と、インバータ内温度センサ34の検出結果と、モータ2およびインバータ3の外部に設けられるポンプ温度センサ(モータ外温度センサ)42の検出結果と、に基づき、液体冷媒23の温度Toを演算する。この構成によれば、ロストルクTlossの演算精度をより向上することができる。
【0102】
さらに、本第3実施形態に係るモータ制御装置100は、第1実施形態と同様、液体冷媒23の温度Toとモータ2の回転速度ωrとに基づき、液体冷媒23に浸されている回転子24の回転により発生するロストルク(流体摩擦損)Tlossを演算し、演算されたロストルクTlossを補正値としてアクセル操作量に応じたトルク指令T1*に加算する補正を行い、補正後のトルク指令T2*に基づき、インバータ3を制御する。この構成によれば、液体冷媒23に浸された回転子24の回転により発生する流体摩擦損をより適切に補償することができる。
【0103】
<第3実施形態の変形例1>
第3実施形態の構成において、第2実施形態および第2実施形態の変形例で説明した液体冷媒23の温度を上昇させる制御を実行してもよい。つまり、第3実施形態の構成において、モータ制御装置100は、車両の走行開始前に液体冷媒23の温度を上昇させ、車両の走行時のロストルクの低減を図ってもよい。例えば、第3実施形態に係るモータ制御装置100は、冷媒温度Toが温度閾値Tot未満であり、かつ、モータ2の回転速度ωrが速度閾値ωrt未満である場合に、d軸電流指令の増加補正制御を実行してもよい(図8図9参照)。また、第3実施形態に係るモータ制御装置100は、冷媒温度Toが温度閾値Tot未満であるときに、モータ2の高速回転制御、およびd軸電流指令の増加補正制御のうちの一方または双方を実行してもよい。
【0104】
さらに、第3実施形態では、モータ2とインバータ3の液体冷媒23が共通化されているため、インバータ3で意図的に損失を発生させることにより、液体冷媒23の温度を上昇させて、走行時の流体摩擦損(ロストルク)を低減させてもよい。
【0105】
モータ制御装置100は、イグニッションスイッチ(不図示)がオンされると、温度上昇運転フラグの設定制御を実行する。温度上昇運転フラグがオフの場合、モータ制御装置100は、通常運転を行う。温度上昇運転フラグがオンの場合、モータ制御装置100は、インバータ3のスイッチング周波数を通常運転時よりも上昇させる、あるいは、インバータ3のスイッチング周波数を通常運転時よりも減少させる。これにより、走行開始前に、歪電流増大による磁石渦電流損失を意図的に増加させて、液体冷媒23の温度を上昇させることができ、走行時の流体摩擦損(ロストルク)を低減することができる。
【0106】
<第3実施形態の変形例2>
モータ制御装置100は、モータ内温度センサ9およびインバータ内温度センサ34の双方の検出結果に基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toを演算してもよい。この場合、ポンプ温度センサ42を省略することができる。
【0107】
図11および図12を参照して、ポンプ温度センサ42が省略されている第3実施形態の変形例2に係るモータシステム1について説明する。本変形例に係るモータシステム1は、液体冷媒23の温度を検出する複数の温度センサとして、モータ内温度センサ9とインバータ内温度センサ34の双方を備えている。
【0108】
図11は、所定のトルクおよび所定のモータ回転速度でのインバータ損失の値を基準(1.0)として、インバータ損失を規格化して示した表である。図12は、所定のトルクおよび所定のモータ回転速度でのモータの電気的損失を基準(1.0)として、銅損および鉄損などのモータの電気的損失を規格化して示した表である。図11および図12では、横軸がトルクを示し、縦軸がモータ2の回転速度を示している。
【0109】
図11および図12に示すように、インバータ損失およびモータ2の電気的損失は、それぞれ電流依存性(トルク依存性)がある。一方、モータ2の回転速度は、インバータ損失への影響がほぼないのに対し(図11参照)、モータ2の電気的損失には大きな影響がある(図12参照)。例えば、図11に示すように、トルク指令が所定値未満のゼロトルク(=ゼロ電流)領域では、モータ2の回転速度に関わらず、インバータ損失がほぼゼロである。これに対して、図12に示すように、モータ2の電気的損失は、ゼロトルク(=ゼロ電流)領域でもモータ2の回転速度が上がるにつれ大きくなる。
【0110】
ゼロトルク(=ゼロ電流)領域では、モータ2の回転速度に関わらず、インバータ損失がほぼゼロであるため、インバータ内温度センサ(感温ダイオード)34の検出結果に基づき演算された冷媒温度Toを用いることで、トルク指令の補正を精度よく行うことができる。
【0111】
インバータ内温度センサ(感温ダイオード)34の熱時定数はmsオーダーである。ゼロトルク(=ゼロ電流)領域は、モード走行(例えば、JC08モード、WLTCモード)や惰行走行で多く存在する。
【0112】
モータ制御装置100は、トルク指令T1*がゼロトルク領域にあるか否かを判定する。モータ制御装置100は、トルク指令T1*がゼロトルク領域にあると判定されているとき、すなわちトルク指令T1*が所定値T1tよりも小さいときには、複数の温度センサのうちインバータ内温度センサ34の検出結果のみに基づいて、液体冷媒23の温度Toを演算する。モータ制御装置100は、トルク指令T1*がゼロトルク領域にないと判定されているとき、すなわちトルク指令T1*が上記所定値T1tよりも大きいときには、複数の温度センサのうちインバータ内温度センサ34以外の少なくとも一つの検出結果に基づいて、液体冷媒23の温度を演算する。例えば、モータ制御装置100は、トルク指令T1*がゼロトルク領域にないと判定されているときには、モータ内温度センサ9により検出された温度とインバータ内温度センサ34により検出された温度の平均値を、液体冷媒23の温度Toとして演算する。
【0113】
この構成によれば、モード走行や惰行走行において、トルク指令T1*がゼロトルク領域にある場合に、インバータ内温度センサ34の検出結果のみに基づいて液体冷媒23の温度Toが演算されるため、液体冷媒23の温度Toの演算精度を向上することができる。その結果、トルク指令がゼロトルク領域にあるときのロストルクTlossの補償をより適切に行うことができる。
【0114】
なお、インバータ内温度センサ34を用いずに、インバータ損失に基づき液体冷媒23の温度を推定してもよい。この場合、モータ制御装置100は、バッテリ電圧E、直流電圧を交流電圧に変換する割合である変調率、電流、およびスイッチング周波数に基づいて、インバータ損失を演算する。モータ制御装置100は、演算したインバータ損失に基づいて、液体冷媒23の温度を演算する。
【0115】
<第4実施形態>
図13を参照して、本発明の第4実施形態に係るハイブリッドシステム10Dについて説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。図13は、本発明の第4実施形態に係るハイブリッドシステム10Dの全体構成図である。
【0116】
図13に示すように、ハイブリッドシステム10Dは、モータシステム(第1のモータシステム)1Dと、発電システム(第2のモータシステム)1Daと、発電システム1Daのモータ2aに接続されるエンジンを含むエンジンシステム721と、を備えるシリーズハイブリッドシステムである。
【0117】
モータシステム1Dおよび発電システム1Daは、第1実施形態で説明したモータシステム1と同様の構成を有している。すなわち、モータシステム1Dは、モータ2と、インバータ3と、回転位置検出器8と、モータ制御装置100Dと、を含んで構成される。発電システム1Daは、モータ2aと、インバータ3aと、回転位置検出器8aと、モータ制御装置100Dと、を含んで構成される。モータ制御装置100Dは、モータシステム1Dおよび発電システム1Daにおいて共用される。
【0118】
発電システム1Daのインバータ3aは、モータシステム1Dのインバータ3と同様、高圧バッテリ5からの直流電力を交流電力に変換してモータ2aに供給する。インバータ3aは、モータシステム1Dのインバータ3と同様、インバータ回路31a、PWM信号駆動回路32aおよび平滑キャパシタ33aを有する。
【0119】
モータ2aには、モータ2aの回転子24の回転位置θを検出するための回転位置センサ81aが取り付けられている。回転位置検出器8aは、回転位置センサ81aからの入力信号に基づき回転位置θを演算し、演算結果をモータ制御装置100Dに出力する。
【0120】
エンジンシステム721は、モータ2aに機械的に接続されるエンジンを有している。エンジンシステム721のエンジンは、エンジン制御装置722により制御され、モータ2を回転駆動させる。モータ2aは、エンジンシステム721により回転駆動されることで発電機として動作し、交流電力を発生する。モータ2aが発生した交流電力は、インバータ3aにより直流電力に変換され、高圧バッテリ5に充電される。
【0121】
なお、図13には図示しないが、モータシステム1Dおよび発電システム1Daは、第1実施形態および第2実施形態と同様、それぞれ冷却システム40と、冷却システム40の供給配管28a内の液体冷媒23の温度を検出するポンプ温度センサ42と、モータ2の内部に設けられモータ2内の液体冷媒23の温度を検出するモータ内温度センサ9と、を有している(図1参照)。
【0122】
また、モータシステム1Dおよび発電システム1Daは、それぞれ第3実施形態で説明した冷却システム40Cを備えていてもよい(図10参照)。さらに、モータシステム1Dおよび発電システム1Daの冷却システムは、液体冷媒23を共通化し、ポンプと熱交換器を共用してもよい。モータ制御装置100Dは、第1~第3実施形態と同様、モータシステム1Dの液体冷媒23の温度と、モータ2の回転速度とに基づき、トルク指令T1*を補正し、補正後のトルク指令T2*に基づき、インバータ3を制御する。同様に、モータ制御装置100Dは、発電システム1Daの液体冷媒23の温度と、モータ2aの回転速度とに基づき、トルク指令T1a*を補正し、補正後のトルク指令T2a*に基づき、インバータ3aを制御する。
【0123】
この構成では、モータシステム1Dのモータ2の流体摩擦損が適切に補償され、運転者のアクセル操作量に応じたトルクがモータ2から出力されることになる。これにより、液体冷媒23の温度とモータ2の回転速度に関わらず、運転者の操作性を良好なものとすることができる。
【0124】
また、発電システム1Daのモータ2aの流体摩擦損が適切に補償され、上位制御装置90(図13において不図示、図1参照)から要求される電力を発電機としてのモータ2aによって適切に発生することができる。なお、液体冷媒23が低温であるときに、モータ制御装置100Dが発電機としてのモータ2aを高速で回転させることにより、電流指令を印加することなく流体摩擦損によって高効率に液体冷媒23の温度を上昇させることができる。例えば、走行前に、発電システム1Daの冷却システムの液体冷媒23の温度を上昇させることにより、走行中、発電システム1Daで発生する流体摩擦損(ロストルク)を低減することができる。その結果、発電システム1Daの発電効率を向上することができ、燃費を向上することができる。また、CO2の排出量を低減することができる。
【0125】
<第5実施形態>
図14を参照して、本発明の第5実施形態に係る機電一体ユニット71について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0126】
図14は、第5実施形態に係る機電一体ユニット71の外観斜視図である。図14では、ギヤ(ギヤユニット)711のハウジング714のみを図示し、ハウジング714内に収容される変速用の歯車群の図示は省略している。機電一体ユニット71は、第1実施形態で説明したモータシステム1を含んで構成される。図14に示すように、モータ2とインバータ3はバスバー712を介して結合部713で接続される。モータ2の出力は、ハウジング714内に収容される変速用の歯車群(不図示)を介しディファレンシャルギヤ(不図示)に伝達され、ディファレンシャルギヤから車軸に伝達される。なお、モータ制御装置100は、図14において図示は省略されているが、任意の位置に配置することができる。
【0127】
機電一体ユニット71は、モータ2、インバータ3、およびモータ2の出力を伝達するギヤ711が一体的に結合された一体構造体である。例えば、モータ2のハウジング21とインバータ3のハウジング39とギヤ711のハウジング714とは、締結部材により一体的に結合されている。なお、モータ2のハウジング21とインバータ3のハウジング39とは、一体成型により形成されていてもよい。
【0128】
これにより、モータ2、インバータ3およびギヤ711の車両への取付性が向上する。また、本実施形態では、モータ2のハウジング21の内部空間と、インバータ3のハウジング39の内部空間と、ギヤ711のハウジング714の内部空間とが連通されている。つまり、モータ2とインバータ3とギヤ711を冷却する液体冷媒23が共通化されている。モータ2、インバータ3およびギヤ711を一体的に結合することにより、冷却システム40の配管を短くすることができる。
【0129】
ギヤ711を構成する変速用の歯車群(不図示)は、液体冷媒23に浸されている。このため、本実施形態では、歯車群の回転(以下、ギヤ711の回転とも記す)に伴う流体摩擦損が発生する。モータ制御装置100は、第1実施形態と同様、液体冷媒23の温度と、モータ2の回転速度とに基づいて、モータ2の回転に伴う流体摩擦損(ロストルク)を第1補正値として演算する。さらに、モータ制御装置100は、液体冷媒23の温度に基づいて、ギヤの回転に伴う流体摩擦損(ロストルク)を第2補正値として演算する。なお、モータ制御装置100は、液体冷媒23の温度だけでなく、モータ2の回転速度を加味して第2補正値を演算してもよい。モータ制御装置100は、上位制御装置90からのトルク指令T1*に、第1補正値および第2補正値を加算し、補正後のトルク指令T2*を演算する。
【0130】
この構成によれば、変速用のギヤを備える車両において、液体冷媒23に浸されたモータ2の回転子24およびギヤの回転により発生する流体摩擦損を適切に補償することができる。これにより、機電一体ユニット71は、運転者のアクセル操作量に応じた適切なトルクを車軸に出力することができる。
【0131】
なお、第1実施形態で説明したモータシステム1を含む機電一体ユニット71について説明したが、本発明はこれに限定されない。機電一体ユニット71は、第2~第4実施形態で説明したモータシステム1,1Dを含む構成でもよい。
【0132】
<第6実施形態>
図15を参照して、本発明の第6実施形態に係る電動車両システム801について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0133】
図15は、本発明の第6実施形態に係る電動車両システム801を備えた車両800の構成図である。図15に示すように、車両800は、第1実施形態で説明したモータ2をモータ/ジェネレータとして適用したパワートレインを有している。車両800は、エンジン810およびモータ2の回転駆動力を用いて走行する。
【0134】
車両800のフロント部には、前輪車軸813が回転可能に軸支されており、前輪車軸813の両端には、前輪(車輪)802,803が設けられている。車両800のリア部には、後輪車軸804が回転可能に軸支されており、後輪車軸804の両端には後輪(車輪)805,806が設けられている。
【0135】
前輪車軸813の中央部には、動力分配機構であるディファレンシャルギヤ811が設けられている。ディファレンシャルギヤ811は、エンジン810から変速機812を介して伝達された回転駆動力を左右の前輪車軸813に分配する。
【0136】
エンジン810のクランクシャフトにはプーリーaが設けられ、モータ2の回転軸にはプーリーbが設けられ、プーリーaおよびプーリーbがベルトを介して機械的に連結されている。これにより、モータ2の回転駆動力がエンジン810に、エンジン810の回転駆動力がモータ2にそれぞれ伝達できるようになっている。モータ2の回転子24は、インバータ3によって制御された三相交流電力が電機子コイルに供給されることによって回転する。モータ2は、インバータ3によって制御された三相交流電力に応じた回転駆動力を発生する。
【0137】
すなわち、モータ2は、インバータ3によって制御されて電動機として動作する一方、エンジン810の回転駆動力を受けて回転子24が回転することによって、固定子コイル22bに起電力が誘起され、三相交流電力を発生する発電機として動作する。
【0138】
インバータ3は、高電圧(42Vあるいは300V)系電源である高圧バッテリ5から供給された直流電力を三相交流電力に変換する電力変換装置であり、運転指令値に従って回転子24の磁極位置に応じた三相交流電流を制御する。
【0139】
モータ2によって発電された三相交流電力は、インバータ3によって直流電力に変換されて高圧バッテリ5を充電する。高圧バッテリ5は、DC-DCコンバータ824を介して低圧バッテリ823に電気的に接続されている。低圧バッテリ823は、車両800の低電圧(14V)系電源を構成する。低圧バッテリ823は、エンジン810を初期始動(コールド始動)させるスタータ825、ラジオ、ライトなどの電源に用いられる。
【0140】
電動車両システム801は、モータシステム1Fと、上位制御装置90と、エンジン制御装置722と、を備え、モータ2の回転駆動力を前輪(車輪)802,803に伝達する。モータシステム1Fは、モータ2と、インバータ3と、モータ制御装置100と、を含む。上位制御装置90およびエンジン制御装置722は、アイドルストップモードが設定されている場合において、車両800が信号待ちなどの停車時にあるときには、エンジン810を停止させる(アイドリングストップ)。上位制御装置90およびモータ制御装置100は、エンジン810を再始動(ホット始動)させる時には、インバータ3でモータ2を駆動し、エンジン810を始動させる。
【0141】
なお、アイドルストップモードにおいて、高圧バッテリ5の充電量が不足している場合や、エンジン810が十分に温まっていない場合などにおいては、上位制御装置90およびエンジン制御装置722は、エンジン810を停止せず駆動を継続する。車両800は、エアコンのコンプレッサなど、エンジン810を駆動源としている補機類を備えている。アイドルストップ中においては、エンジン810が停止している。このため、上位制御装置90およびモータ制御装置100は、アイドリングストップ中においては、モータ2を駆動源として補機類を駆動する。
【0142】
モータ制御装置100は、加速モードや高負荷運転モードが設定されている場合、モータ2を駆動させてエンジン810の駆動をアシストし、車両800を走行させる。モータ制御装置100は、高圧バッテリ5の充電が必要な充電モードが設定されている場合、モータ2を発電させて高圧バッテリ5を充電する。すなわち、電動車両システム801は、制動時や減速時などに回生を行う。
【0143】
電動車両システム801のモータシステム1Fは、第1実施形態で説明したモータシステム1と同様の機能を備えている。このため、本第6実施形態によれば、第1実施形態で説明した作用効果を得ることができる。なお、モータシステム1Fは、第2~第5実施形態で説明したモータシステムとしてもよい。これにより、本第6実施形態によれば、第2~第5実施形態で説明した作用効果を得ることができる。
【0144】
本実施形態に係る電動車両システム801は、プーリーa,b、エンジン810、変速機812、ディファレンシャルギヤ811、および前輪車軸813を含んで構成される動力伝達機構820を介して、モータ2の回転駆動力を前輪(車輪)802に伝達する構成である例について説明したが、動力伝達機構820の構成はこれに限定されない。例えば、車両が、エンジン810を備えていない純粋な電気自動車である場合、動力伝達機構は、モータ2の出力軸に接続されるディファレンシャルギヤ811、および前輪車軸813を含んで構成される。
【0145】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0146】
<変形例1>
モータ制御装置は、上述したように、CPU等の処理装置と不揮発性メモリに記憶されているプログラムによって各構成の機能を実現してもよいし、ハードウェア回路によって実現してもよい。モータ制御装置の機能を処理装置とプログラムによって実現する場合、ハードウェアの個数が減るため低コスト化できるという利点がある。また,図8のフローチャートで示した処理は、コンピュータにより実行してもよいし、全部の処理、または一部の処理をハードロジック回路により実現してもよい。モータ制御装置の処理装置によって実行されるプログラムは、予めモータ制御装置の不揮発性メモリに格納されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。プログラムは、独立した記憶媒体に格納された状態でモータ制御装置に提供してもよいし、ネットワーク回線により提供してもよい。
【0147】
<変形例2>
上記実施形態では、モータ2の回転速度ωrとロストルクTlossとの関係を規定するテーブルが不揮発性メモリに記憶されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。テーブルに代えて、モータ2の回転速度ωrとロストルクTlossとの関係を規定するロストルク関数(数式データ)が不揮発性メモリに記憶されていてもよい。この場合、トルク指令補正部109は、ロストルク関数を用いて、液体冷媒23の温度Toとモータ2の回転速度ωrとに基づき、ロストルクTlossを算出する。
【0148】
なお、モータ制御装置100は、式(1)~式(3)を用いて、ロストルクTlossを算出してもよい。この場合、不揮発性メモリには、式(1)~(3)および液体冷媒23の温度と動粘度νの関係を規定する動粘度テーブル(不図示)が記憶されている。
【0149】
モータ制御装置100は、動粘度テーブルを参照し、演算された液体冷媒23の温度Toに基づいて動粘度νを演算する。モータ制御装置100は、演算された動粘度νと、演算されたモータ2の回転速度ωとに基づいて式(3)により回転レイノルズ数Reを演算する。モータ制御装置100は、演算された回転レイノルズ数Reに基づいて式(2)により抵抗係数Cdを演算する。モータ制御装置100は、演算された抵抗係数Cdと、演算されたモータ2の回転速度ωとに基づいて式(1)により流体摩擦損Wを演算し、さらに単位換算を行うことによりロストルクTlossを演算する。モータ制御装置100は、演算されたロストルクTlossを補正値としてアクセル操作量に応じたトルク指令T1*に加算する補正を行う。モータ制御装置100は、補正後のトルク指令T2*に基づき、インバータ3を制御する。
【0150】
なお、流体摩擦損Wの演算に用いられる液体冷媒23の密度ρ、回転子24の半径R、回転子24の軸長L、回転子24と固定子22との間の隙間の長さであるギャップ長tは、予め不揮発性メモリに記憶されている。液体冷媒23の密度ρは、液体冷媒23の温度に依存性のあるデータとしてテーブル形式、あるいは関数形式で不揮発性メモリに記憶しておいてもよい。
【0151】
本変形例によれば、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、上記実施形態では、液体冷媒23の温度と、モータ2の回転速度と、流体摩擦損との関係を規定する規定データとして、ロストルクテーブル109aが、モータ制御装置100の不揮発性メモリに記憶されている。ロストルクテーブル109aを用いて、流体摩擦損(ロストルク)を算出する方法では、本変形例に比べて演算負荷を低減することができる。しかしながらロストルクテーブル109aは、モータ2の回転速度とロストルクTlossとの関係を規定するデータテーブルが複数の液体冷媒23の温度ごとに定められているため、データ容量が大きい。これに対して、本変形例では、ロストルクテーブル109aに代えて、式(1)~(3)および動粘度テーブルが記憶されている構成であるため、データ容量を低減できる。
【0152】
<変形例3>
上記実施形態では、液体冷媒23の温度To、およびモータ2の回転速度ωrに基づき、トルク指令を補正する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。トルク指令を補正することに代えて、電流指令を補正してもよい。
【0153】
<変形例4>
上記実施形態では、モータ2のハウジング21の内部に液体冷媒23が満たされている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。回転子24の一部が液体冷媒23に浸されている場合に本発明を適用してもよい。
【0154】
<変形例5>
上記実施形態では、複数の温度センサの検出結果に基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toを演算する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。複数の温度センサのうちの一つの検出結果のみに基づいて、トルク指令の補正に用いる冷媒温度Toを演算してもよい。
【0155】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0156】
1,1D,1F…モータシステム、1Da…発電システム(モータシステム)、2,2a…モータ(回転電機)、3,3a…インバータ、5…高圧バッテリ(電源装置)、7…電流検出装置、8,8a…回転位置検出器、9…モータ内温度センサ(温度センサ)、10D…ハイブリッドシステム、21…ハウジング、22…固定子、23…液体冷媒、24…回転子、34…インバータ内温度センサ、39…ハウジング、40,40C…冷却システム、41…ポンプ、42…ポンプ温度センサ(モータ外温度センサ、温度センサ)、71…機電一体ユニット、81,81a…回転位置センサ、90…上位制御装置、100,100D…モータ制御装置(制御装置)、101…電流指令生成部、102…速度演算部、103…三相/dq電流変換部、104…電流制御部、105…電圧指令変換部、106…搬送波周波数決定部、107…搬送波生成部、108…ゲート信号生成部、109…トルク指令補正部、109a…ロストルクテーブル(規定データ)、110…温度演算部、711…ギヤ(ギヤユニット)、714…ハウジング、721…エンジンシステム、722…エンジン制御装置、800…車両、801…電動車両システム、802,803…前輪(車輪)、804…後輪車軸、805,806…後輪(車輪)、810…エンジン、811…ディファレンシャルギヤ、812…変速機、813…前輪車軸、820…動力伝達機構
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