(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173363
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/14 20160101AFI20231130BHJP
【FI】
H02P6/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085558
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 秀
(72)【発明者】
【氏名】浅見 隆弘
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA13
5H560DB02
5H560DC01
5H560DC12
5H560DC13
5H560EC01
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA12
5H560XA15
(57)【要約】
【課題】モータの駆動効率を向上させる。
【解決手段】モータ駆動制御装置1は、モータ5のU相のコイルLuの誘起電圧に同期し、且つモータ5のロータの回転位置に対応する位置検出信号Shuに基づいて、U相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pを決定する目標点決定部12と、U相のコイルLuの駆動電圧Vuがハイレベルになるタイミングと、U相に対応するハイサイドスイッチQuHをオン・オフさせるPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングとの順番が入れ替わったことに基づいて、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する電流ゼロクロス点推定部14と、目標点Pとゼロクロス点Qとの位相差Δφに基づいて、U相のコイル電流Iuの位相調整の要否を判定する位相調整判定部15と、位相調整判定部15による判定結果S2に基づいて、駆動制御信号Sdを生成する駆動制御信号生成部16とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するためのPWM信号である駆動制御信号を生成する制御回路と、
前記モータの各相のコイルに対応して設けられた互いに直列に接続されたハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチを含み、前記駆動制御信号に応じて前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチを交互にオン・オフさせて、対応する相のコイルの通電方向を切り替える駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記モータの所定の相のコイルの誘起電圧に同期し、且つ前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号に基づいて、前記所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点を決定する目標点決定部と、
前記PWM信号の1周期毎に、前記所定の相のコイルの駆動電圧がハイレベルになるタイミングと前記所定の相に対応する前記ハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号がハイレベルになるタイミングとの順番が入れ替わったことに基づいて前記所定の相のコイル電流のゼロクロス点を推定する電流ゼロクロス点推定部と、
前記目標点決定部によって決定された前記目標点と前記電流ゼロクロス点推定部によって推定された前記ゼロクロス点との位相差に基づいて、前記コイル電流の位相調整の要否を判定する位相調整判定部と、
前記位相調整判定部による判定結果に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を有する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
前記駆動電圧の立ち上がりエッジと前記スイッチ信号の立ち上がりエッジとをそれぞれ検出する立ち上がりエッジ検出部と、
前記立ち上がりエッジ検出部で検出した前記駆動電圧の立ち上がりエッジと前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングを比較することにより前記順番を判定するタイミング比較部と、を有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
前記駆動電圧の立ち上がりエッジの検出タイミングが前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングより後である場合に、前記所定の相のコイル電流は正極性であると判定し、前記駆動電圧の立ち上がりエッジの検出タイミングが前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングより前である場合に、前記所定の相のコイル電流は負極性であると判定する電流方向判定部をさらに有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
前記所定の相のコイル電流が正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間の前記駆動電圧のオフ期間に前記ゼロクロス点が存在すると推定するゼロクロス点検出部をさらに有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
前記駆動電圧の大きさと前記スイッチ信号の電圧の大きさとを比較することによって前記順番を判定するコンパレータを有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ駆動制御装置において、
前記コンパレータは、前記スイッチ信号の電圧の大きさが前記駆動電圧の大きさよりも大きい場合に、パルスを出力し、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
一定時間以内に前記パルスの出力を検出した場合に、前記所定の相のコイル電流は正極性であると判定し、一定時間以内に前記パルスの出力を検出しなかった場合に、前記所定の相のコイル電流は負極性であると判定する電流方向判定部をさらに有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電流ゼロクロス点推定部は、
前記所定の相のコイル電流が正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間の前記駆動電圧のオフ期間に前記ゼロクロス点が存在すると推定するゼロクロス点検出部をさらに有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記位相調整判定部は、前記目標点と前記ゼロクロス点との前記位相差を算出し、前記駆動制御信号の出力タイミングを前記位相差に応じた時間だけずらすように前記駆動制御信号生成部に指示する
モータ駆動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータと、を備える
モータユニット。
【請求項10】
少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するためのPWM信号である駆動制御信号を生成する制御回路と、前記モータの各相のコイルに対応して設けられた互いに直列に接続されたハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチを含み、前記駆動制御信号に応じて前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチを交互にオン・オフさせて、対応する相のコイルの通電方向を切り替える駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置によるモータ駆動制御方法であって、
前記制御回路が、前記モータの所定の相のコイルの誘起電圧に同期し、且つ前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号に基づいて、前記所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点を決定する第1ステップと、
前記制御回路が、前記PWM信号の1周期毎に、前記所定の相のコイルの駆動電圧がハイレベルになるタイミングと前記所定の相に対応する前記ハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号がハイレベルになるタイミングとの順番が入れ替わったことに基づいて前記所定の相のコイル電流のゼロクロス点を推定する第2ステップと、
前記制御回路が、前記第1ステップによって決定された前記目標点と前記第2ステップによって推定された前記ゼロクロス点との位相差に基づいて、前記コイル電流の位相調整の要否を判定する第3ステップと、
前記制御回路が、前記第3ステップにおける判定結果に基づいて、前記駆動制御信号を生成する第4ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多相のコイルを有するモータを正弦波駆動する場合、モータの各相について、コイルの誘起電圧の位相とコイル電流(相電流)の位相とを合わせることで、モータを効率良く駆動させることができることが知られている。
【0003】
しかしながら、モータの回転速度、モータの負荷、および温度によるモータ特性の変化等により、誘起電圧の位相とコイル電流(相電流)の位相との間にずれが生じ、モータの駆動効率が悪化する場合がある。
【0004】
このような問題を解決するための技術として、モータのコイル電流の位相に対してコイルの駆動電圧の位相を調整する方法が特許文献1に開示されている。具体的に、特許文献1に開示されたモータ駆動制御装置は、当該コイルの駆動電圧を停止することにより、モータの所定の相のコイルに生ずる誘起電圧がゼロとなる点(電圧ゼロクロス点)の前後に、誘起電圧を検出するための検出区間を設ける。そして、モータ駆動制御装置は、その検出区間においてコイルの端子電圧と閾値電圧との大小比較を行うことにより、コイルの誘起電圧の位相を検出し、駆動電圧の位相を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、検出期間においてコイルの駆動を停止させる必要がある。そのため、コイルの駆動を停止させる期間(検出期間)の長さを適切に設定しなければ、モータの駆動波形が乱れ、モータの回転が不安定になる虞がある。
【0007】
そこで、本願発明者らは、モータの駆動効率を向上させるための新たなモータ駆動制御技術が必要であると考えた。
【0008】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、モータの駆動効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するためのPWM信号である駆動制御信号を生成する制御回路と、前記モータの各相のコイルに対応して設けられた互いに直列に接続されたハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチを含み、前記駆動制御信号に応じて前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチを交互にオン・オフさせて、対応する相のコイルの通電方向を切り替える駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記モータの所定の相のコイルの誘起電圧に同期し、且つ前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号に基づいて、前記所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点を決定する目標点決定部と、前記PWM信号の1周期毎に、前記所定の相のコイルの駆動電圧がハイレベルになるタイミングと前記所定の相に対応する前記ハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号がハイレベルになるタイミングとの順番が入れ替わったことに基づいて前記所定の相のコイル電流のゼロクロス点を推定する電流ゼロクロス点推定部と、前記目標点決定部によって決定された前記目標点と前記電流ゼロクロス点推定部によって推定された前記ゼロクロス点との位相差に基づいて、前記コイル電流の位相調整の要否を判定する位相調整判定部と、前記位相調整判定部による判定結果に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、モータの駆動効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えたモータユニット100の構成を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1による位相調整機能を説明するための図である。
【
図3A】U相のコイルLuに正(+)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLがオフしたときの状態を説明するための図である。
【
図3B】U相のコイルLuに負(-)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLがオフしたときの状態を説明するための図である。
【
図4】U相のコイルLuの駆動状態を示す図である。
【
図5A】
図4の符号Aで示された領域を拡大して示す図である。
【
図5B】
図4の符号Bで示された領域を拡大して示す図である。
【
図6】第1の実施の形態における電流ゼロクロス点推定部14の構成例を示す図である。
【
図7】第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によるモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図7におけるU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する処理(ステップS4)の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図7におけるモータ5の通電タイミングの調整処理(ステップS5)の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第2の実施の形態における電流ゼロクロス点推定部14Aの構成例を示す図である。
【
図11】第2の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14Aにおける極性判定を説明するための図である。
【
図12】第2の実施の形態におけるU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する処理(ステップS4)の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(1,1A)は、少なくとも1相のコイルを有するモータ(5)を駆動するためのPWM信号である駆動制御信号(Sd,Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swl)を生成する制御回路(2)と、前記モータの各相のコイル(Lu,Lv,Lw)に対応して設けられた互いに直列に接続されたハイサイドスイッチ(QuH,QvH,QwH)およびローサイドスイッチ(QuL,QvL,QwL)を含み、前記駆動制御信号に応じて前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチを交互にオン・オフさせて、対応する相のコイルの通電方向を切り替える駆動回路(3)と、を備え、前記制御回路は、前記モータの所定の相(例えば、U相)のコイルの誘起電圧に同期し、且つ前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号(Shu)に基づいて、前記所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点(P)を決定する目標点決定部(12)と、前記PWM信号の1周期毎に、前記所定の相のコイルの駆動電圧(Vu)がハイレベルになるタイミング(第1のタイミング)と前記所定の相に対応する前記ハイサイドスイッチ(QuH)をオン・オフさせるスイッチ信号(Suu)がハイレベルになるタイミング(第2のタイミング)との順番が入れ替わったことに基づいて前記所定の相のコイル電流のゼロクロス点(Q)を推定する電流ゼロクロス点推定部(14、14A)と、前記目標点決定部によって決定された前記目標点と前記電流ゼロクロス点推定部によって推定された前記ゼロクロス点との位相差(Δφ)に基づいて、前記コイル電流の位相調整の要否を判定する位相調整判定部(15)と、前記位相調整判定部による判定結果に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部(16)と、を有する。
【0014】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電流ゼロクロス点推定部は、前記駆動電圧の立ち上がりエッジと前記スイッチ信号の立ち上がりエッジとをそれぞれ検出する立ち上がりエッジ検出部と、前記立ち上がりエッジ検出部で検出した前記駆動電圧の立ち上がりエッジと前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングを比較することにより前記順番を判定するタイミング比較部と、を有することとしてもよい。
【0015】
〔3〕上記〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電流ゼロクロス点推定部は、前記駆動電圧の立ち上がりエッジの検出タイミングが前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングより後である場合に、前記所定の相のコイル電流は正極性であると判定し、前記駆動電圧の立ち上がりエッジの検出タイミングが前記スイッチ信号の立ち上がりエッジの検出タイミングより前である場合に、前記所定の相のコイル電流は負極性であると判定する電流方向判定部をさらに有することとしてもよい。
【0016】
〔4〕上記〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電流ゼロクロス点推定部は、前記所定の相のコイル電流が正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間の前記駆動電圧のオフ期間に前記ゼロクロス点が存在すると推定するゼロクロス点検出部をさらに有することとしてもよい。
【0017】
〔5〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電流ゼロクロス点推定部は、前記駆動電圧の大きさと前記スイッチ信号の電圧の大きさとを比較することによって前記順番を判定するコンパレータを有することとしてもよい。
【0018】
〔6〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記コンパレータは、前記スイッチ信号の電圧の大きさが前記駆動電圧の大きさよりも大きい場合に、パルスを出力し、前記電流ゼロクロス点推定部は、一定時間以内に前記パルスの出力を検出した場合に、前記所定の相のコイル電流は正極性であると判定し、一定時間以内に前記パルスの出力を検出しなかった場合に、前記所定の相のコイル電流は負極性であると判定する電流方向判定部をさらに有することとしてもよい。
【0019】
〔7〕上記〔6〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電流ゼロクロス点推定部は、前記所定の相のコイル電流が正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間の前記駆動電圧のオフ期間に前記ゼロクロス点が存在すると推定するゼロクロス点検出部をさらに有することとしてもよい。
【0020】
〔8〕上記〔7〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記位相調整判定部は、前記目標点と前記ゼロクロス点との前記位相差を算出し、前記駆動制御信号の出力タイミングを前記位相差に応じた時間だけずらすように前記駆動制御信号生成部に指示することとしてもよい。
【0021】
〔9〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータユニット(100)は、上記〔1〕乃至〔8〕のいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置(1,1A)と、前記モータ(5)と、を備えることを特徴とする。
【0022】
〔10〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御方法は、少なくとも1相のコイルを有するモータを駆動するためのPWM信号である駆動制御信号を生成する制御回路と、前記モータの各相のコイルに対応して設けられた互いに直列に接続されたハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチを含み、前記駆動制御信号に応じて前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチを交互にオン・オフさせて、対応する相のコイルの通電方向を切り替える駆動回路と、を備えるモータ駆動制御装置によるモータ駆動制御方法であって、前記制御回路が、前記モータの所定の相のコイルの誘起電圧に同期し、且つ前記モータのロータの回転位置に対応する位置検出信号に基づいて、前記所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点を決定する第1ステップ(S3)と、前記制御回路が、前記PWM信号の1周期毎に、前記所定の相のコイルの駆動電圧と、前記所定の相に対応する前記ハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号とにおける立ち上がりの順番が入れ替わったことに基づいて前記所定の相のコイル電流のゼロクロス点を推定する第2ステップ(S4)と、前記制御回路が、前記第1ステップによって決定された前記目標点と前記第2ステップによって推定された前記ゼロクロス点との位相差に基づいて、前記コイル電流の位相調整の要否を判定する第3ステップ(S52,S53)と、前記制御回路が、前記第3ステップにおける判定結果に基づいて、前記駆動制御信号を生成する第4ステップ(S54~S56)と、を含む。
【0023】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0024】
≪第1の実施の形態≫
図1は、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えたモータユニット100の構成を示す図である。
【0025】
図1に示されるモータユニット100は、モータ5と、位置検出装置6と、モータ駆動制御装置1とを備えている。
【0026】
モータ5は、少なくとも1つのコイルを有するモータである。例えば、モータ5は、3相(U相、V相、およびW相)のコイル(巻線)Lu,Lv,Lwを有するブラシレスDCモータである。
【0027】
位置検出装置6は、モータ5の回転子(ロータ)の回転に応じた位置検出信号Shuを生成する装置である。位置検出装置6は、例えば、ホール(HALL)素子である。ホール素子は、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化するホール信号を出力する。ホール信号は、例えば、パルス信号であり、位置検出信号Shuとしてモータ駆動制御装置1に入力される。
【0028】
モータユニット100において、位置検出装置6としての一つのホール素子が、モータ5のU相、V相、およびW相のコイルLu,Lv,Lwの何れか一つに対応する位置に配置されている。このため、位置検出装置6から出力されるホール信号は、モータ5のU相、V相、およびW相のコイルLu,Lv,Lwの何れか一つの誘起電圧に同期する信号となる。
【0029】
第1の実施の形態では、位置検出装置6としての一つのホール素子は、例えば、U相のコイルLuに対応する位置に配置されている。これにより、位置検出信号(ホール信号)Shuは、モータ5のU相のコイルLuの誘起電圧に同期し、且つモータ5のロータの回転位置に対応する信号となる。
【0030】
なお、詳細は後述するが、第1の実施の形態では、具体例として、位置検出装置6は、位置検出装置6から出力される位置検出信号(ホール信号)Shuの立ち上がりエッジがU相のコイルLuの誘起電圧のゼロクロス点から電気角30度遅れたタイミングで検出できる位置に配置されている。
【0031】
モータ駆動制御装置1は、モータ5の駆動を制御する装置である。モータ駆動制御装置1は、例えば、U相のコイルLuに対応する位置に設けられた1つの位置検出装置6(ホール素子)からの位置検出信号Shuに基づく1センサ駆動方式により、モータ5の正弦波駆動を行う。
【0032】
具体的には、モータ駆動制御装置1は、制御回路2と、駆動回路3と、相電圧検出回路4とを備えている。モータ駆動制御装置1は、外部の直流電源(不図示)から直流電圧Vdd(不図示)の供給を受ける。直流電圧Vddは、例えば、保護回路等を介してモータ駆動制御装置1内の電源ライン(不図示)に供給され、電源ラインを介して制御回路2および駆動回路3に電源電圧Vdd1、Vdd2としてそれぞれ入力される。
【0033】
制御回路2には、直流電圧Vddが直接供給されるのではなく、例えば、レギュレータ回路によって直流電圧Vddを降圧した電圧が、電源電圧Vdd1として制御回路2に供給される。例えば、制御回路2に入力される電源電圧Vdd1は5Vであり、駆動回路3に入力される電源電圧Vdd2は12Vなどに設定される。
【0034】
駆動回路3は、後述する制御回路2から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ5を駆動する回路である。駆動制御信号Sdは、モータ5の駆動を制御するための信号である。例えば、駆動制御信号Sdは、モータ5を正弦波駆動するためのPWM信号である。
【0035】
駆動回路3は、駆動制御信号Sdに基づいて電源電圧Vdd2とグラウンド電位GNDとの間でモータ5のコイルの接続先を切り替えることにより、コイル電流の向きを切り替えてモータ5を回転させる。具体的に、駆動回路3は、モータ5の各相のコイルLu,Lu,Lwに対応して設けられ、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチQuH,QvH,QwHおよびローサイドスイッチQuL,QvL,QwLを含む。駆動回路3は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号(スイッチ信号の一例)Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlに応じて、ハイサイドスイッチQuH,QvH,QwHとローサイドスイッチQuL,QvL,QwLをオン・オフさせて、各コイルLu,Lv,Lwの通電方向を切り替える。
【0036】
PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlは、ハイサイドスイッチQuH,QvH,QwHおよびローサイドスイッチQuL,QvL,QwLの6つのスイッチ毎に対応して入力され、対応するスイッチのオン・オフを切り替える。
【0037】
例えば、ハイサイドスイッチQuH,QvH,QwHは、Pチャネル型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)であり、ローサイドスイッチQuL,QvL,QwLは、Nチャネル型のMOSFETである。
【0038】
なお、ハイサイドスイッチQuH,QvH,QwH、およびローサイドスイッチQuL,QvL,QwLは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他の種類のパワートランジスタであってもよい。
【0039】
図1に示すように、U相のハイサイドスイッチQuHとローサイドスイッチQuLとは、電源電圧Vdd2とグラウンド電位GNDとの間に直列に接続されて、一つのスイッチングレグ(アーム)を構成している。ハイサイドスイッチQuHとローサイドスイッチQuLとの接続点は、コイルLuの一端に接続されている。ハイサイドスイッチQuHのオン・オフは、PWM信号Suuによって切り替えられる。ローサイドスイッチQuLのオン・オフは、PWM信号Sulによって切り替えられる。
【0040】
V相のハイサイドスイッチQvHとローサイドスイッチQvLとは、直流電圧Vddとグラウンド電位GNDとの間に直列に接続されて、一つのスイッチングレグを構成している。ハイサイドスイッチQvHとローサイドスイッチQvLとの接続点は、コイルLvの一端に接続されている。ハイサイドスイッチQvHのオン・オフは、PWM信号Svuによって切り替えられる。ローサイドスイッチQvLのオン・オフは、PWM信号Svlによって切り替えられる。
【0041】
W相のハイサイドスイッチQwHとローサイドスイッチQwLとは、電源電圧Vdd2とグラウンド電位GNDとの間に直列に接続されて、一つのスイッチングレグを構成している。ハイサイドスイッチQwHとローサイドスイッチQwLとの接続点は、コイルLwの一端に接続されている。ハイサイドスイッチQwHのオン・オフは、PWM信号Swuによって切り替えられる。ローサイドスイッチQwLのオン・オフは、PWM信号Swlによって切り替えられる。
【0042】
なお、ハイサイドスイッチQuH,QvH,QwHおよびローサイドスイッチQuL,QvL,QwLとしての各トランジスタには寄生ダイオードが形成されており、これらのダイオードは、コイル電流を電源電圧Vdd2またはグラウンド電位GNDに戻す還流ダイオードとして機能する。
【0043】
なお、駆動回路3は、駆動制御信号Sdに基づいて各相のハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチを駆動するためのプリドライブ回路を有していてもよい。また、
図1に示すように、駆動回路3のグラウンド電位GND側には、モータ5の電流を検出するためのセンス抵抗が接続されていてもよい。
【0044】
相電圧検出回路4は、モータ5の所定の相のコイルの駆動電圧を検出するための回路である。第1の実施の形態において、相電圧検出回路4は、例えば、U相のコイルLuの駆動電圧Vuを検出して、制御回路2に入力する。相電圧検出回路4は、例えば、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLが接続されるコイルLuの一端とグラウンド電位GNDとの間に接続された抵抗分圧回路である。
【0045】
なお、
図1には、相電圧検出回路4としての抵抗分圧回路によってコイルLuの駆動電圧Vuを分圧して制御回路2に入力する構成を一例として示しているが、相電圧検出回路4を設けることなく、制御回路2にコイルLuの駆動電圧Vuを直接入力してもよい。
【0046】
制御回路2は、モータ駆動制御装置1の動作を統括的に制御するための回路である。第1の実施の形態において、制御回路2は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM、フラッシュメモリ等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマー)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とがバスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置である。例えば、制御回路2は、マイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit)である。
【0047】
なお、制御回路2と駆動回路3とは、一つの半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)としてパッケージ化された構成であってもよいし、個別の集積回路として夫々パッケージ化されて回路基板に実装され、回路基板上で互いに電気的に接続された構成であってもよい。
【0048】
制御回路2は、駆動制御信号Sdを生成して駆動回路3に与えることにより、モータ5の通電制御を行う基本機能を有している。具体的に、制御回路2は、外部(例えば、上位装置)から入力された、モータ5の駆動に関する目標値を指示する駆動指令信号Scと、位置検出装置6から入力された位置検出信号Shuとに基づいて、モータ5が駆動指令信号Scで指定された駆動状態となるように駆動制御信号Sdを生成して駆動回路3に与える。
【0049】
また、制御回路2は、上記基本機能に加えて、モータ5の駆動効率を向上させるために、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧の位相とコイル電流の位相とが一致するようにモータ5の通電タイミングを調整する機能(以下、「位相調整機能」とも称する。)を有する。
【0050】
図1に示すように、制御回路2は、上述した各機能を実現するための機能部として、例えば、駆動指令解析部11、目標点決定部12、相電圧入力部13、電流ゼロクロス点推定部14、位相調整判定部15、および駆動制御信号生成部16を有している。
【0051】
制御回路2の上述した各機能部は、例えば、制御回路2としてのMCUのプログラム処理によって実現される。具体的には、制御回路2としてのMCUを構成するプロセッサが、メモリに格納されたプログラムにしたがって各種の演算を行ってMCUを構成する各種周辺回路を制御することにより、上述した各機能部が実現される。
【0052】
駆動指令解析部11は、例えば、上位装置(不図示)から出力された駆動指令信号Scを受信する。駆動指令信号Scは、モータ5の駆動に関する目標値を指示する信号であって、例えば、モータ5の目標回転速度を指示する速度指令信号である。
【0053】
駆動指令解析部11は、駆動指令信号Scによって指定された目標回転速度を解析する。例えば、駆動指令信号Scが目標回転速度に対応するデューティ比を有するPWM信号である場合、駆動指令解析部11は、駆動指令信号Scのデューティ比を解析し、そのデューティ比に対応する回転速度の情報を目標回転速度S1として出力する。
【0054】
駆動制御信号生成部16は、モータ5の回転速度が目標回転速度S1に一致するようにモータ5の操作量S3を算出し、算出した操作量S3に基づいて駆動制御信号Sdを生成する。なお、駆動制御信号生成部16の機能のうち位相調整に関する機能については、後述する。
【0055】
駆動制御信号生成部16は、例えば、PWM指令部17およびPWM信号生成部18を有する。PWM指令部17は、駆動指令解析部11から出力された目標回転速度S1と、後述する位相調整判定部15からの判定結果S2とに基づいて、モータ5の操作量S3を算出する。
【0056】
操作量S3は、モータ5を目標回転速度S1で回転させるために必要なモータ5の駆動量を指定する情報を含む。例えば、第1の実施の形態のようにモータ5をPWM駆動する場合には、操作量S3は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号の周期(PWM周期)を指定する値と、PWM信号のオン期間を指定する値と、PWM信号の出力タイミングを指定する値とを含んでいる。なお、PWM信号の出力タイミングを指定する値の詳細については、後述する。
【0057】
例えば、PWM指令部17は、駆動指令解析部11から出力された目標回転速度S1に基づいて、駆動制御信号SdのPWM周期を指定する値と、PWM信号のオン期間を指定する値とを算出し、操作量S3として出力する。
【0058】
なお、モータ駆動制御装置1がフィードバック制御機能を有している場合には、例えば、PWM指令部17は、位置検出信号Shuに基づいてモータ5の実回転速度を算出し、算出した実回転速度が目標回転速度S1に一致するようにPID(Proportional-Integral-Differential)制御演算を行って、モータ5の操作量S3(PWM周期およびオン期間)を算出してもよい。
【0059】
PWM信号生成部18は、PWM指令部17によって算出された操作量S3に基づいて、駆動制御信号Sdを生成する。具体的には、PWM信号生成部18は、操作量S3によって指定されたPWM周期およびオン期間を有する6種類のPWM信号(スイッチ信号の一例)Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlをそれぞれ生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。PWM信号Suuは、U相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替える信号である。PWM信号Sulは、U相のローサイドスイッチQuLのオン・オフを切り替える信号である。PWM信号Svuは、V相のハイサイドスイッチQvHのオン・オフを切り替える信号である。PWM信号Svlは、V相のローサイドスイッチQvLのオン・オフを切り替える信号である。PWM信号Swuは、W相のハイサイドスイッチQwHのオン・オフを切り替える信号である。PWM信号Swlは、W相のローサイドスイッチQwLのオン・オフを切り替える信号である。
【0060】
第1の実施の形態において、U相、V相、およびW相の各スイッチレグを構成するハイサイドスイッチとローサイドスイッチとが同時にオンしないようにするために、デッドタイム期間が設けられている。すなわち、PWM信号生成部18は、U相、V相、およびW相の各スイッチレグを構成するハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチのオン/オフ状態が切り替わるとき、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチとが同時にオフするデッドタイム期間が形成されるように、駆動制御信号Sd(上記6種類のPWM信号)を生成する。
【0061】
目標点決定部12、相電圧入力部13、電流ゼロクロス点推定部14、および位相調整判定部15は、上述したモータ5の位相調整機能を実現するための機能部である。各機能部について詳細に説明する前に、第1の実施の形態に係る位相調整機能の概要について説明する。
【0062】
図2は、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1による位相調整機能を説明するための図である。
【0063】
図2の上段には、位置検出装置6から出力される位置検出信号(ホール信号)Shuの波形200が示され、中段には、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの波形201とU相のコイルLuの誘起電圧の波形202が示され、下段には、U相のコイル電流Iuの波形203が示されている。
【0064】
上述したように、一般に、モータの回転速度、モータの負荷、および温度によるモータ特性の変化等により、モータの誘起電圧の位相とコイル電流の位相との間にずれが生じる場合がある。例えば、
図2には、U相のコイル電流Iuの位相が、U相のコイルLuの誘起電圧の位相に対して遅れている場合が示されている。
【0065】
図2に示すように、U相のコイル電流Iuと誘起電圧の間に位相のずれが生じた場合、モータ5の駆動効率が低下する。そこで、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、U相のコイル電流Iuと誘起電圧の間のずれ(位相差)を検出し、その位相差が小さくなるように、モータ5の通電タイミングを調整する。
【0066】
具体的には、先ず、モータ駆動制御装置1は、U相のコイルLuに対応して設けられた位置検出装置6(ホール素子)から出力される位置検出信号(ホール信号)ShuがU相のコイルLuの誘起電圧と同期することを利用して、誘起電圧のゼロクロス点を検出し、U相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pとする。
【0067】
第1の実施の形態では、例えば、
図2に示すように、位置検出装置6の位置検出信号Shuの立ち上がりエッジがU相のコイルLuの誘起電圧のゼロクロス点から電気角30度遅れたタイミングで検出できる位置に位置検出装置6を予め配置しておく。これにより、モータ駆動制御装置1は、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを検出することにより、コイルLuの誘起電圧のゼロクロス点を検出(推定)することができる。
【0068】
なお、位置検出装置6の設置場所は、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジが検出されるタイミングとU相のコイルLuの誘起電圧のゼロクロス点との位相差が分かっている位置であればよく、上述の例に限定されない。
【0069】
モータ駆動制御装置1は、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを検出し、検出した少なくとも一方のエッジから誘起電圧のゼロクロス点を推定する。モータ駆動制御装置1は、推定した誘起電圧のゼロクロス点をU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pとして決定する。
【0070】
次に、モータ駆動制御装置1は、所定の相(第1の実施の形態では、U相)のコイルの駆動電圧(相電圧)がハイレベルになるタイミングと、所定の相に対応するハイサイドスイッチをオン・オフするためのPWM信号(スイッチ信号の一例)がハイレベルになるタイミングとを比較し、その比較結果に基づいて、モータ5の所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qを推定する。なお、コイル電流のゼロクロス点Qの推定方法の詳細は後述する。
【0071】
そして、モータ駆動制御装置1は、推定したU相のコイル電流Iuのゼロクロス点QがU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点P(誘起電圧のゼロクロス点)に一致するように、U相のコイル電流Iuの位相を調整する。例えば、
図2に示すように、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが目標点Pに一致するように、U相のコイルLuの駆動電圧Vuを印加するタイミングを調整する(進角制御または遅角制御を行う)ことにより、U相のコイル電流Iuの位相を調整する。これにより、モータ駆動制御装置1は、モータ5の駆動効率を向上させることが可能となる。
【0072】
以下、上述した位相調整機能を実現するための各機能部について、詳細に説明する。
【0073】
目標点決定部12は、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧に同期し、且つモータ5のロータの回転位置に対応する位置検出信号Shuに基づいて、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定する。
【0074】
第1の実施の形態では、目標点決定部12は、U相のコイルLuの誘起電圧に同期する位置検出信号Shuの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを検出し、検出したエッジに基づいて、U相のコイルLuの誘起電圧のゼロクロス点、すなわちU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pを決定する。例えば、
図2において、目標点決定部12が時刻t1において位置検出信号Shuの立ち上がりエッジを検出した場合、目標点決定部12は、時刻t1よりも電気角30度だけ進んだ時刻(タイミング)t0をU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pと決定する。なお、位置検出信号Shuの立ち下がりエッジを検出する場合も同様の方法でU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pを決定する。目標点決定部12は、決定したU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pの位相の情報を目標点決定信号Stとして位相調整判定部15に出力する。
【0075】
相電圧入力部13は、モータ5の所定の相の電圧の値を取得する。例えば、相電圧入力部13は、相電圧検出回路4によって検出されたU相のコイルLuの駆動電圧Vuを取得し、デジタル値に変換して電流ゼロクロス点推定部14に与える。
【0076】
電流ゼロクロス点推定部14は、PWM信号である駆動制御信号Sdの1周期毎に、所定の相のコイルの駆動電圧(相電圧)がハイレベルになるタイミングと所定の相に対応するハイサイドスイッチをオン・オフさせるPWM信号がハイレベルになるタイミングとの順番が入れ替わったことに基づいて、所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qを推定する機能部である。以下、電流ゼロクロス点推定部14によるコイル電流のゼロクロス点Qの推定方法について、図を用いて詳細に説明する。
【0077】
図3Aは、U相のコイルLuに正(+)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLがオフしたときの状態を説明するための図である。
図3Bは、U相のコイルLuに負(-)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLがオフしたときの状態を説明するための図である。
【0078】
例えば、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLにおいて、PWM信号Suuがハイレベルであり、PWM信号Sulがローレベルであるとき、U相のハイサイドスイッチQuHがオンし、且つU相のローサイドスイッチQuLがオフする。このとき、電源電圧Vdd2からU相のハイサイドスイッチQuHを経由してU相のコイルLuに電流が流れ込むため、U相のコイル電流Iuは正(+)極性となる。
【0079】
この状態、すなわちU相のコイルLuに正(+)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLを共にオフしたとき、コイルLuは電流を流し続けようとする。そのため、
図3Aに示すように、グラウンド電位GNDからローサイドスイッチQuLの寄生ダイオードを経由して、正極性のU相のコイル電流Iuが流れる。その結果、U相のコイルLuの駆動電圧Vuがグラウンド電位GND付近まで低下する。
【0080】
その後、再び、U相のハイサイドスイッチQuHがオンし、且つU相のローサイドスイッチQuLがオフする状態にすべく、PWM信号Suuがハイレベルであり、PWM信号Sulがローレベルである状態へと制御される。このとき、U相のコイルLuの駆動電圧Vuは、グラウンド電位GND付近まで低下していたので、ハイサイドスイッチQuHをオン・オフさせるPWM信号Suuがハイレベルに変化した後に上昇する。
【0081】
その結果、U相のコイル電流Iuが正(+)極性となる期間では、PWM信号Suuの1周期において、U相のコイルLuの駆動電圧Vuがハイレベルとなるタイミング(第1のタイミング)は、U相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルとなるタイミング(第2のタイミング)よりも後となる。
【0082】
一方、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLにおいて、PWM信号Suuがローレベルであり、PWM信号Sulがハイレベルであるとき、U相のハイサイドスイッチQuHがオフし、U相のローサイドスイッチQuLがオンする。このとき、U相のコイルLuからU相のローサイドスイッチQuLを経由してグラウンド電位GND側に電流が流れ込むため、U相のコイル電流Iuは負(-)極性となる。
【0083】
この状態、すなわちU相のコイルLuに負(-)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態において、U相のハイサイドスイッチQuHおよびローサイドスイッチQuLを共にオフしたとき、コイルLuは電流を流し続けようとする。そのため、
図3Bに示すように、U相のコイルLuから、ハイサイドスイッチQuHの寄生ダイオードを経由して、電源電圧Vdd2側に負極性のU相のコイル電流Iuが流れる。その結果、U相のコイルLuの駆動電圧Vuが直流電圧Vdd付近まで上昇する。
【0084】
その後、再び、U相のハイサイドスイッチQuHがオフであり、且つU相のローサイドスイッチQuLがオンする状態にすべく、PWM信号Suuがローレベルであり、PWM信号Sulがハイレベルである状態へと制御される。このとき、U相のコイルLuの駆動電圧Vuは、直流電圧Vdd付近まで上昇していたので、ハイサイドスイッチQuHをオン・オフさせるPWM信号Suuがハイレベルに変化する前に上昇する。
【0085】
その結果、U相のコイル電流Iuが負(-)極性となる期間では、PWM信号Suuの1周期において、U相のコイルLuの駆動電圧Vuがハイレベルとなるタイミング(第1のタイミング)よりも、U相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルとなるタイミング(第2のタイミング)の方が後となる。
【0086】
したがって、第1のタイミングが第2のタイミングよりも後となる場合にU相のコイル電流Iuが正(+)極性であると判定し、第1のタイミングが第2のタイミングよりも前となる場合にU相のコイル電流Iuが負(-)極性であると判定することができるといえる。
【0087】
第1の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14では、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも後にある場合は、U相のコイル電流Iuの極性を正(+)極性であると判定し、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも先にある場合は、U相のコイル電流Iuの極性を負(-)極性であると判定する。
【0088】
また、以上で説明したように、モータをPWM駆動するとき、PWM信号Suuの1周期において、U相のコイル電流Iuが正極性となる期間では、第1のタイミングが第2のタイミングよりも後となり、U相のコイル電流Iuが負極性となる期間では、第1のタイミングよりも第2のタイミングの方が後となる。したがって、第1のタイミングと第2のタイミングとの順番が入れ替わったことを検出すれば、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定することが可能となる。
【0089】
そこで、第1の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14では、上述したように、U相のコイル電流Iuの極性を判定し、さらに、極性が変化したとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。
【0090】
図4は、U相のコイルLuの駆動状態を示す図である。
図5Aは、
図4の符号Aで示される領域を拡大して示す図である。
図5Bは、
図4の符号Bで示される領域を拡大して示す図である。
【0091】
図5Aでは、U相のコイルLuに負(-)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態からU相のコイルLuに正(+)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態に変化する前後の駆動状態が示されている。
図5Bでは、U相のコイルLuに正(+)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態からU相のコイルLuに負(-)極性のU相のコイル電流Iuが流れている状態に変化する前後の駆動状態が示されている。
【0092】
図4において、上段から下段に向かって、U相のコイルLuの駆動電圧Vu、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suu、U相のコイル電流Iuの順にそれぞれの波形が示されている。
図5Aおよび
図5Bにおいては、上段から下段に向かって、
図4と同様の波形に加えて、電流の傾きが示されている。なお、
図4、
図5Aおよび
図5Bにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は電流または電圧をそれぞれ表している。
【0093】
ここで、第1の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14における、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qの存在を推定することについて、
図4に示すようにU相のコイル電流Iuが駆動されている場合について考える。
【0094】
図4に示す例では、U相のコイル電流Iuの極性は、負(-)極性と正(+)極性とを交互に繰り返すように変化している。
【0095】
図4の符号Aで示される領域では、U相のコイル電流Iuの極性が負(-)極性から正(+)極性へと変化している。この領域を拡大した
図5Aに示すように、ゼロクロス点存在範囲よりも前では、U相のコイルLuの駆動電圧VuがU相のハイサイドのPWM信号Suuよりも先にハイレベルに変化する。すなわち、U相のコイル電流Iuの極性が負(-)極性である状態では、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも先にある。
【0096】
一方で、
図5Aに示すように、ゼロクロス点存在範囲よりも後では、U相のコイルLuの駆動電圧VuがU相のハイサイドのPWM信号Suuよりも後にハイレベルに変化する。すなわち、U相のコイル電流Iuが極性を正(+)極性である状態では、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも後にある。
【0097】
したがって、
図4の符号Aで示される領域および
図5Aでは、ゼロクロス点存在範囲の前後で、U相のコイル電流Iuの極性についての判定が、負(-)極性であるとの判定から正(+)極性であるとの判定に変化すると考えられる。
【0098】
図4の符号Bで示される領域では、U相のコイル電流Iuの正(+)極性が極性から負(-)極性へと変化している。この領域を拡大した
図5Bに示すように、ゼロクロス点存在範囲よりも前では、U相のコイルLuの駆動電圧VuがU相のハイサイドのPWM信号Suuよりも後にハイレベルに変化する。すなわち、U相のコイル電流Iuが極性を正(+)極性である状態では、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも後にある。
【0099】
一方で、
図5Bに示すように、ゼロクロス点存在範囲よりも後では、U相のコイルLuの駆動電圧VuがU相のハイサイドのPWM信号Suuよりも先にハイレベルに変化する。すなわち、U相のコイル電流Iuの極性が負(-)極性である状態では、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジがU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジよりも先にある。
【0100】
したがって、
図4の符号Bで示される領域および
図5Bでは、ゼロクロス点存在範囲の前後で、U相のコイル電流Iuの極性についての判定が、正(+)極性であるとの判定から負(-)極性であるとの判定に変化すると考えられる。
【0101】
図5Aおよび
図5Bに示すように、U相のコイル電流Iuの極性が変化したとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在することが判る。
【0102】
したがって、第1の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14では、U相のコイルLuの駆動電圧VuがハイレベルになるタイミングとU相のハイサイドのPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングとの順番の入れ替わりがあった場合に、U相のコイル電流Iuの極性が変化したと判定し、U相のコイル電流Iuの極性が変化した間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にゼロクロス点存在範囲があったと判定すればよいことがわかる。
【0103】
第1の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14についてさらに説明する。
図6は第1の実施の形態における電流ゼロクロス点推定部14の構成例を示す図である。
【0104】
第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1では、
図6に示すように、電流ゼロクロス点推定部14は、立ち上がりエッジ検出部141と、タイミング比較部142と、電流方向判定部143と、ゼロクロス点検出部144とを有している。電流ゼロクロス点推定部14は、マイコンやロジック回路によって構成することができる。
【0105】
立ち上がりエッジ検出部141には、
図6に示すように、相電圧入力部13によって取得した相電圧信号SpvとU相のハイサイドのPWM信号Suuとが入力されている。相電圧信号Spvは、上述したU相のコイルLuの駆動電圧Vuに相当する。立ち上がりエッジ検出部141は、相電圧信号SpvにおいてU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジと、U相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジとをそれぞれ検出する。
【0106】
タイミング比較部142は、立ち上がりエッジ検出部141で検出した検出タイミングを比較することにより立ち上がりの順番を判定する。すなわち、タイミング比較部142は、立ち上がりエッジ検出部141で検出したU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジの検出タイミングとU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジの検出タイミングとを比較することにより立ち上がりの順番、すなわち、U相のコイルLuの駆動電圧VuがハイレベルになるタイミングとU相のハイサイドのPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングとの順番を判定する。
【0107】
電流方向判定部143は、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジの検出がU相のハイサイドスイッチQuHをオン・オフさせるPWM信号Suuの立ち上がりエッジの検出より後である場合に、U相のコイル電流Iuは正極性であると判定し、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジの検出がU相のハイサイドスイッチQuHの立ち上がりエッジの検出より前である場合に、U相のコイル電流Iuは負極性であると判定する。さらに、電流方向判定部143は、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suuのデューティ比が0%である場合に、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する。
【0108】
ゼロクロス点検出部144は、U相のコイル電流Iuが正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。
【0109】
このように、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1では、電流ゼロクロス点推定部14は、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在することを検出することができる。電流ゼロクロス点推定部14のゼロクロス点検出部144は、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在することを検出すると、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qの位相の情報をゼロクロス点検出信号Sctとして位相調整判定部15に出力する。
【0110】
図1に戻って、位相調整判定部15は、ゼロクロス点検出信号Sctに基づいて、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qの位相を特定し、目標点決定信号Stに基づいてU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pとして決定された位相を特定する。位相調整判定部15は、目標点決定部12によって決定されたU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pと電流ゼロクロス点推定部14によって推定されたU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qとの位相差Δφに基づいて、U相のコイル電流Iuの位相調整の要否を判定する。
【0111】
例えば、
図2に示すように、位相調整判定部15は、目標点決定部12によって決定されたU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点P(U相のコイルLuの誘起電圧のゼロクロス点)の位相(時刻tp)から、電流ゼロクロス点推定部14によって推定されたU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qの位相(時刻tq)を減算した位相差Δφ(=時刻tpにおける位相-時刻tqにおける位相)を算出する。
【0112】
位相調整判定部15は、駆動制御信号Sdの出力タイミングを、位相差Δφ(=時刻tpにおける位相-時刻tqにおける位相)に応じた時間だけずらすように、駆動制御信号生成部16に指示する。
具体的には、位相調整判定部15は、位相差Δφが正(+)の値である場合、例えば、位相差Δφが+φth以上である場合には、U相のコイル電流Iuの位相がU相のコイルLuの誘起電圧の位相より進んでいると判定し、U相のコイル電流Iuの位相を遅らせる進角制御を駆動制御信号生成部16に指示する。例えば、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuを位相差Δφだけ遅角させる進角制御の実行を指示する判定結果S2を出力する。
【0113】
位相差Δφが負(-)の値である場合、例えば、位相差Δφが-φth以下である場合には、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuの位相がU相のコイルLuの誘起電圧の位相より遅れていると判定し、U相のコイル電流Iuの位相を進める進角制御の実行を駆動制御信号生成部16に指示する。例えば、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuを位相差Δφだけ進角させる進角制御の実行を指示する判定結果S2を出力する。
【0114】
また、位相調整判定部15は、例えば、位相差Δφが-φthより大きく、且つ+φthより小さい(-φth<Δφ<+φth)場合には、U相のコイル電流Iuの位相がU相のコイルLuの誘起電圧の位相と略一致していると判定し、進角制御および遅角制御のいずれも実行しないことを指示する判定結果S2を出力する。
【0115】
駆動制御信号生成部16は、位相調整判定部15の判定結果S2に基づいて、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点QとU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pと差が小さくなるように駆動制御信号Sdを生成する。具体的には、PWM指令部17が、位相調整判定部15の判定結果S2に基づいて、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値を生成し、PWM周期およびPWM信号のオン期間の値とともに操作量S3として出力する。
【0116】
ここで、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値とは、駆動制御信号SdとしてのPWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlを出力するための基準時刻に対する時間的なずれ幅(オフセット時間)を指定する値である。
【0117】
例えば、位相差Δφだけ進角させる進角制御の実行を指示する判定結果S2が位相調整判定部15から出力された場合には、PWM指令部17は、基準時刻よりも位相差Δφに相当する時間Δtφだけ早くPWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlを出力させることを指示する値“-Δtφ”を算出し、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値とする。
【0118】
また、例えば、位相差Δφだけ遅角させる進角制御の実行を指示する判定結果S2が位相調整判定部15から出力された場合には、PWM指令部17は、基準時刻よりも位相差Δφに相当する時間Δtφだけ遅くPWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlを出力させることを指示する値“+Δtφ”を算出し、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値とする。
【0119】
また、例えば、位相調整判定部15からの判定結果S2により、進角制御および遅角制御のいずれの実行も指示しない判定結果S2が出力された場合には、PWM指令部17は、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値を“0(ゼロ)”とする。
【0120】
PWM信号生成部18は、駆動制御信号Sdを出力するとき、操作量S3に含まれるPWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値に基づいて、駆動制御信号Sdを出力するタイミングを変化させる。例えば、駆動制御信号Sdを出力するための基準時刻が予め設定されており、PWM信号生成部18は、基準時刻から、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値によって指定された時間だけずらしたタイミングで、駆動制御信号Sdを出力する。
【0121】
例えば、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値が“+Δtφ”である場合、PWM信号生成部18は、操作量S3に含まれるPWM周期およびオン期間の情報に基づいて生成した駆動制御信号Sdを、基準時刻よりもΔtφだけ遅らせて出力する。
【0122】
例えば、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値が“-Δtφ”である場合、PWM信号生成部18は、操作量S3に含まれるPWM周期およびオン期間の情報に基づいて生成した駆動制御信号Sdを、基準時刻よりもΔtφだけ早く出力する。
【0123】
また、例えば、PWM信号Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swlの出力タイミングを指定する値が“0(ゼロ)”である場合、PWM信号生成部18は、操作量S3に含まれるPWM周期およびオン期間の情報に基づいて生成した駆動制御信号Sdを、出力タイミングをずらすことなく、基準時刻に出力する。なお、出力タイミングをずらさないということは、その時点で位相調整(進角、遅角制御)が行われていれば、その位相調整を維持することを意味する。
【0124】
次に、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によるモータ5の駆動制御の流れについて説明する。
【0125】
図7は、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によるモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0126】
例えば、直流電圧Vddがモータ駆動制御装置1に投入され、モータ駆動制御装置1が起動したとき、先ず、モータ駆動制御装置1は、駆動指令信号Scが入力されているか否かを判定する(ステップS1)。駆動指令信号Scが入力されていない場合(ステップS1:NO)には、モータ駆動制御装置1は駆動指令信号Scが入力されるまで待機する。
【0127】
駆動指令信号Scが入力された場合(ステップS1:YES)、モータ駆動制御装置1は、モータ5の駆動制御を開始する(ステップS2)。具体的には、駆動制御信号生成部16が、駆動指令解析部11によって解析されたモータ5の目標回転速度S1に基づいてPWM周期とオン期間とを決定し、決定したPWM周期およびオン期間を有する6種類のPWM信号Suu等を生成し、駆動制御信号Sdとして駆動回路3に入力する。これにより、駆動回路3がモータ5のコイルLu,Lv,Lwの通電方向を切り替えて、モータ5を回転させる。
【0128】
次に、モータ駆動制御装置1は、U相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pを決定する(ステップS3)。例えば、上述したように、目標点決定部12が、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジから電気角30度だけ進んだタイミングをU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pと決定する(
図2参照)。
【0129】
次に、モータ駆動制御装置1は、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する(ステップS4)。
【0130】
図8は、
図7におけるU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する処理(ステップS4)の流れを示すフローチャートである。
【0131】
ステップS4において、先ず、電流ゼロクロス点推定部14は、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suuのデューティ比が0%であるか否かを判定する(ステップS41)。
【0132】
PWM信号Suuのデューティ比が0%である場合(ステップS41:YES)、電流ゼロクロス点推定部14において、電流方向判定部143は、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する(ステップS44)。PWM信号Suuのデューティ比が0%でない場合(ステップS41:NO)、電流ゼロクロス点推定部14は、U相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりタイミングの後にU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がったか否かを判定する(ステップS42)。具体的には、電流ゼロクロス点推定部14において、立ち上がりエッジ検出部141がU相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりエッジとU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジとをそれぞれ検出し、タイミング比較部142が、検出タイミングを比較することにより立ち上がりの順番を判定する。
【0133】
U相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりタイミングの後にU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がった場合には(ステップS42:YES)、電流ゼロクロス点推定部14において電流方向判定部143は、U相のコイル電流Iuが正極性であると判定する(ステップS43)。
【0134】
一方、U相のハイサイドのPWM信号Suuの立ち上がりタイミングの前にU相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がった場合には(ステップS42:NO)、電流ゼロクロス点推定部14において電流方向判定部143は、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する(ステップS44)。
【0135】
ステップS43またはステップS44の後、電流ゼロクロス点推定部14においてゼロクロス点検出部144は、U相のコイル電流Iuの極性が切り替わったか否かを判定する(ステップS45)。例えば、電流ゼロクロス点推定部14は、ステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが相違するか否かを判定する。
【0136】
U相のコイル電流Iuの極性が切り替わっていない場合(ステップS45:NO)、すなわち、ステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが一致する場合、電流ゼロクロス点推定部14は、ステップS41に戻り、ステップS41~S45までの処理を再度実行する。
【0137】
一方、U相のコイル電流Iuの極性が切り替わっている場合(ステップS45:YES)、すなわち、ステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS43またはステップS44で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが一致しない場合、電流ゼロクロス点推定部14は、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する(ステップS46)。例えば、電流ゼロクロス点推定部14は、ステップS43またはステップS44が実行された時刻とその直前のステップS43またはステップS44が実行された時刻との間の期間(ゼロクロス点存在範囲)内の一点をU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qと推定する(
図5Aまたは
図5B参照)。これにより、ステップS4の処理が終了する。
【0138】
図7に示すように、ステップS4の終了後、モータ駆動制御装置1は、モータ5の通電タイミングの調整を行う(ステップS5)。
【0139】
図9は、
図7におけるモータ5の通電タイミングの調整処理(ステップS5)の流れを示すフローチャートである。
【0140】
ステップS5において、先ず、位相調整判定部15は、ステップS3で決定したU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点PとステップS4で推定したU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qとの位相差Δφ(=時刻tpにおける位相-時刻tqにおける位相)を算出する(ステップS51)。
【0141】
次に、位相調整判定部15は、ステップS51で算出した位相差Δφが+φth以上であるか否かを判定する(ステップS52)。位相差Δφが+φth以上である場合には(ステップS52:YES)、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuの位相がU相のコイルLuの誘起電圧の位相より進んでいると判定し、U相のコイル電流Iuの位相を遅らせる遅角制御の実行を駆動制御信号生成部16に指示する(ステップS54)。これにより、上述したように、駆動制御信号生成部16が、位相差Δφに相当する時間Δtφだけ基準時刻よりも遅らせたタイミングで駆動制御信号Sdを出力する。
【0142】
一方、ステップS52において、位相差Δφが+φth未満の場合には(ステップS52:NO)、位相調整判定部15は、位相差Δφが-φth以下であるか否かを判定する(ステップS53)。位相差Δφが-φth以下である場合(ステップS53:YES)、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuの位相がU相のコイルLuの誘起電圧の位相より遅れていると判定し、U相のコイル電流Iuの位相を進ませる進角制御の実行を駆動制御信号生成部16に指示する(ステップS55)。これにより、上述したように、駆動制御信号生成部16が、位相差Δφに相当する時間Δtφだけ基準時刻よりも早いタイミングで駆動制御信号Sdを出力する。
【0143】
一方、ステップS53において、位相差Δφが-φthより大きい場合(ステップS53:NO)、位相調整判定部15は、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点QがU相のコイル電流Iuのゼロクロスの目標点Pの目標範囲内にあると判定し、U相のコイル電流Iuの位相調整を駆動制御信号生成部16に指示しない(ステップS56)。これにより、上述したように、駆動制御信号生成部16が、出力タイミングをずらすことなく、基準時刻において駆動制御信号Sdを出力する。
以上により、ステップS5の処理が終了する。
【0144】
図7に示すように、ステップS5の終了後、モータ駆動制御装置1は、ステップS2に戻り、ステップS2~S5の処理を繰り返し実行する。これにより、駆動効率が低下することなく、モータ5の回転が継続する。
【0145】
以上のように、第1の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧に同期する位置検出信号Shuに基づいて、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定するとともに、所定の相のコイルの駆動電圧の立ち上がりエッジの検出と、所定の相のコイルを駆動するハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号の立ち上がりエッジの検出との検出タイミングを比較して、その比較結果に基づいて所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qを推定する。モータ駆動制御装置1は、推定した所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qとゼロクロスの目標点Pとの位相差Δφ(=時刻tpにおける位相-時刻tqにおける位相)に基づいて、コイル電流の位相調整の要否を判定し、判定結果S2に基づいて、モータ5を駆動するための駆動制御信号Sd(PWM信号)を生成する。
【0146】
上述したように、モータ5の所定の相のコイルに対応する位置に位置検出装置6(ホール素子)を配置することにより、所定の相のコイルの誘起電圧に同期した位置検出信号Shuを得ることができる。そして、位置検出信号Shuと誘起電圧との間の位相差が分かっていれば、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに基づいて、誘起電圧のゼロクロス点、すなわち、モータ5の所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定することが可能となる。
【0147】
≪第2の実施の形態≫
次に、第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1A(不図示)について説明する。
第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1Aは、電流ゼロクロス点推定部14に代えて、電流ゼロクロス点推定部14Aを用いる以外の点は、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1と同じ構成であるので、その説明は省略する。
【0148】
図10は、第2の実施の形態における電流ゼロクロス点推定部14Aの構成例を示す図である。
【0149】
第1の実施の形態では、電流ゼロクロス点推定部14が、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジとU相のハイサイドのPWM信号Suuとにおける立ち上がりエッジの検出タイミングの順番に基づいてU相のコイル電流Iuの極性を判定していたが、第2の実施の形態では、電流ゼロクロス点推定部14Aが、U相のコイル電流Iuの極性を判定する手法が第1の実施の形態とは異なる。電流ゼロクロス点推定部14Aは、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの大きさとU相のハイサイドのPWM信号(スイッチ信号の一例)Suuの電圧の大きさとを比較して、U相のハイサイドのPWM信号Suuの電圧の大きさがU相のコイルLuの駆動電圧Vuの大きさより大きい場合に比較結果信号を出力する構成を有し、さらに、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出した場合にU相のコイル電流Iuの極性を正(+)極性であると判定する。
【0150】
図10は、第2の実施の形態における電流ゼロクロス点推定部14Aの構成例を示す図である。
【0151】
第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1Aでは、
図10に示すように、電流ゼロクロス点推定部14Aは、コンパレータ141Aと、電流方向判定部143Aと、ゼロクロス点検出部144Aとを有している。電流ゼロクロス点推定部14Aは、マイコンやロジック回路によって構成することができる。
【0152】
図10に示すように、コンパレータ141Aには、相電圧入力部13によって取得した相電圧信号SpvとU相のハイサイドのPWM信号Suuとが入力される。相電圧信号Spvは、U相のコイルLuの駆動電圧Vuに相当する。コンパレータ141Aは、相電圧信号Spvの電圧とU相のハイサイドのPWM信号Suuの電圧とを比較して、U相のハイサイドのPWM信号Suuの電圧が相電圧信号Spvの電圧よりも大きい場合に比較結果信号を出力する。
【0153】
U相のコイルLuの駆動電圧Vuは、駆動回路3に入力される電源電圧Vdd2に対応する電圧であるので、例えば12Vであり、U相のハイサイドのPWM信号Suuは、制御回路2に入力される電源電圧Vdd1に対応する電圧であるので、例えば5Vである。このように、通常は、U相のコイルLuの駆動電圧VuがU相のハイサイドのPWM信号Suuよりも大きい電圧が設定される。したがって、コンパレータ141Aは、U相のハイサイドのPWM信号Suuの方がU相のコイルLuの駆動電圧Vuよりも大きい場合にハイレベルとなる比較結果信号を出力するように構成される。このように構成されることで、コンパレータ141Aは、U相のハイサイドのPWM信号SuuがU相のコイルLuの駆動電圧Vuよりも先にハイレベルになるときのみパルス状の信号である比較結果信号を出力することができる。
【0154】
電流方向判定部143Aは、コンパレータ141Aにおいて一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出した場合に、U相のコイル電流Iuは正極性であると判定し、コンパレータ141Aにおいて一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出した場合に、U相のコイル電流Iuは負極性であると判定する。さらに、電流方向判定部143Aは、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suuのデューティ比が0%である場合に、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する。
【0155】
ここで、電流方向判定部143AにおけるU相のコイル電流Iuの極性判定について説明する。
図11は、第2の実施の形態の電流ゼロクロス点推定部14Aにおける極性判定を説明するための図である。
【0156】
図11において、上段から下段に向かって、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suu、U相のコイルLuの駆動電圧Vu、コンパレータ141Aの比較結果信号、タイマーのカウント、ゼロクロス点検出信号Sct、U相のコイル電流Iuの順にそれぞれの波形が示されている。
図11において、横軸は時間を表し、縦軸は電流、電圧、またはカウント値をそれぞれ表している。
【0157】
電流方向判定部143Aは、PWM信号Suuの1周期毎にカウント値をカウントアップし、コンパレータ141Aから比較結果信号が出力されるとカウント値がリセットされるタイマー機能を有している。電流方向判定部143Aは、PWM信号Suuの1周期毎に、カウント値が所定の閾値を超えているか否かを確認し、カウント値が所定の閾値を超えてない場合に、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出したと判定し、カウント値が所定の閾値を超えた場合に、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出しなかったと判定する。
【0158】
電流方向判定部143Aは、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出したと判定した場合に、U相のコイル電流Iuの極性を正(+)極性であると判定し、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出しなかったと判定した場合に、U相のコイル電流Iuの極性を負(-)極性であると判定する。
【0159】
図11に示すように、U相のコイル電流Iuの極性は、タイマー機能によるカウント値に対応しているので、PWM信号Suuの1周期毎に、カウント値を確認することによってU相のコイル電流Iuの極性を判定することができる。
ゼロクロス点検出部144Aは、第1の実施の形態におけるゼロクロス点検出部144と同様に、U相のコイル電流Iuが正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。例えば、U相のコイル電流Iuの極性が変化した場合に、比較結果信号の出力状態が変化したと判定し、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。
【0160】
このように、第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1Aでは、電流ゼロクロス点推定部14Aは、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在することを検出することができる。電流ゼロクロス点推定部14Aのゼロクロス点検出部144Aは、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在することを検出すると、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qの位相の情報をゼロクロス点検出信号Sctとして位相調整判定部15に出力する。ゼロクロス点検出信号Sctは、例えば、
図11に示すように、立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジがU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qであることを示すパルス信号である。
【0161】
次に、第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1Aによるモータ5の駆動制御の流れについて説明する。
【0162】
第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1Aにおいても、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1と同様に、
図7に示すモータ駆動制御処理の流れに沿ってステップS1からステップS3の処理を実行する。
【0163】
第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1では、
図7におけるU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する処理(ステップS4)については、
図8に示す処理(ステップS4)の流れによって処理が実行されていた。第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1Aでは、
図8に示す処理(ステップS4)の流れに代えて、
図12に示す処理(ステップS4)の流れによって、
図7のステップS4の処理を実行する。第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1AにおけるステップS4の処理について説明する。
【0164】
図12は、第2の実施の形態におけるU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する処理(ステップS4)の流れを示すフローチャートである。
【0165】
ステップS4において、先ず、電流ゼロクロス点推定部14Aは、U相のハイサイドスイッチQuHを駆動するためのPWM信号Suuのデューティ比が0%であるか否かを判定する(ステップS411)。
【0166】
PWM信号Suuのデューティ比が0%である場合(ステップS411:YES)、電流ゼロクロス点推定部14Aにおいて、電流方向判定部143Aは、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する(ステップS414)。PWM信号Suuのデューティ比が0%でない場合(ステップS411:NO)、電流ゼロクロス点推定部14Aは、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出したかを判定する(ステップS412)。具体的には、電流ゼロクロス点推定部14Aにおいて、コンパレータ141Aが、U相のコイルLuの駆動電圧Vuに相当する相電圧信号SpvとU相のハイサイドのPWM信号Suuとを比較して、U相のハイサイドのPWM信号Suuが大きい場合に比較結果信号を出力するので、電流方向判定部143Aは、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出したかを判定する。
【0167】
一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出した場合には(ステップS412:YES)、電流ゼロクロス点推定部14Aにおいて電流方向判定部143Aは、U相のコイル電流Iuが正極性であると判定する(ステップS413)。
【0168】
一方、一定時間内に比較結果信号の立ち上がりエッジを検出しなかった場合には(ステップS412:NO)、電流ゼロクロス点推定部14Aにおいて電流方向判定部143Aは、U相のコイル電流Iuが負極性であると判定する(ステップS414)。
【0169】
ステップS413またはステップS414の後、電流ゼロクロス点推定部14Aにおけるゼロクロス点検出部144Aは、比較結果信号の出力状態が変化したか否かを判定する(ステップS415)。例えば、電流ゼロクロス点推定部14Aにおいて、ゼロクロス点検出部144Aは、ステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが相違する場合に、比較結果信号の出力状態が変化したと判定する。
【0170】
比較結果信号の出力状態が変化していない場合(ステップS415:NO)、すなわち、ステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが一致する場合、電流ゼロクロス点推定部14Aは、ステップS411に戻り、ステップS411~S415までの処理を再度実行する。
【0171】
一方、比較結果信号の出力状態が変化している場合(ステップS415:YES)、すなわち、ステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性と、その前のステップS413またはステップS414で判定したU相のコイル電流Iuの極性とが一致しない場合、電流ゼロクロス点推定部14Aは、U相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを推定する(ステップS416)。例えば、電流ゼロクロス点推定部14Aは、ステップS413またはステップS414が実行された時刻とその直前のステップS413またはステップS414が実行された時刻との間の期間(ゼロクロス点存在範囲)内の一点をU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qと推定する。これにより、ステップS4の処理が終了する。
【0172】
図7に示すように、ステップS4の終了後、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1と同様に
図9に示すステップS5を実行し、さらにその後、モータ駆動制御装置1Aは、ステップS2に戻り、ステップS2~S5の処理を繰り返し実行する。これにより、駆動効率が低下することなく、モータ5の回転が継続する。
以上のように、第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1Aは、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧に同期する位置検出信号Shuに基づいて、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定するとともに、所定の相のコイルの駆動電圧の大きさと所定の相のコイルを駆動するハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号の大きさとを比較して、その比較結果に基づいて所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qを推定する。モータ駆動制御装置1Aは、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1と同様に、推定した所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qとゼロクロスの目標点Pとの位相差Δφに基づいて、コイル電流の位相調整の要否を判定し、判定結果S2に基づいて、モータ5を駆動するための駆動制御信号Sd(PWM信号)を生成する。
【0173】
以上で説明したように、第1,第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1,1Aは、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧に同期する位置検出信号Shuに基づいて、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定するとともに、所定の相のコイルの駆動電圧がハイレベルになるタイミング(第1のタイミング)と、所定の相のコイルを駆動するハイサイドスイッチをオン・オフさせるスイッチ信号がハイレベルになるタイミング(第2のタイミング)との順番が入れ替わったことに基づいて所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qを推定する。モータ駆動制御装置1,1Aは、推定した所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qとゼロクロスの目標点Pとの位相差Δφに基づいて、コイル電流の位相調整の要否を判定し、判定結果S2に基づいて、モータ5を駆動するための駆動制御信号Sd(PWM信号)を生成する。
【0174】
上述したように、モータ5の所定の相のコイルに対応する位置に位置検出装置6(ホール素子)を配置することにより、所定の相のコイルの誘起電圧に同期した位置検出信号Shuを得ることができる。そして、位置検出信号Shuと誘起電圧との間の位相差が分かっていれば、位置検出信号Shuの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジに基づいて、誘起電圧のゼロクロス点、すなわち、モータ5の所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pを決定することが可能となる。
【0175】
更に、上述したように、モータ5の所定の相(例えば、U相)のコイル電流が正(+)極性である期間ではU相のコイルLuの駆動電圧VuがハイレベルになるタイミングがU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングよりも後であり、コイル電流が負(-)極性である期間ではU相のコイルLuの駆動電圧VuがハイレベルになるタイミングがU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングよりも前となるので、U相のコイルLuの駆動電圧VuがハイレベルになるタイミングとU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルになるタイミングを比較することにより、コイル電流が正極性から負極性に切り替わるゼロクロス点Qまたはコイル電流が負極性から正極性に切り替わるゼロクロス点Qを検出することが可能となる。
【0176】
具体的には、第1の実施の形態のモータ駆動制御装置1は、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの立ち上がりエッジとU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuの立ち上がりエッジとをそれぞれ検出するとともに検出した検出タイミングを比較してU相のコイル電流Iuの極性を判定し、U相のコイル電流Iuが正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。
これによれば、モータ5のコイル電流を直接モニタしなくても、コイル電流のゼロクロス点Qを容易に推定することが可能となる。
【0177】
そして、モータ駆動制御装置1は、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pと所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qとの位相差Δφに応じて位相調整を行うことにより、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧の位相とコイル電流の位相との位相差を小さくすることができる。
【0178】
また、第2の実施の形態のモータ駆動制御装置1Aは、U相のコイルLuの駆動電圧Vuの大きさとU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuの電圧の大きさとを比較してU相のコイル電流Iuの極性を判定し、U相のコイル電流Iuが正極性から負極性に、または、負極性から正極性に変化するとき、その間のU相のコイルLuの駆動電圧Vuのオフ期間にU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qが存在すると推定する。
【0179】
これによれば、モータ5のコイル電流を直接モニタしなくても、コイル電流のゼロクロス点Qを容易に推定することが可能となる。
【0180】
そして、モータ駆動制御装置1Aは、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pと所定の相のコイル電流のゼロクロス点Qとの位相差Δφに応じて位相調整を行うことにより、モータ5の所定の相のコイルの誘起電圧の位相とコイル電流の位相との位相差を小さくすることができる。
【0181】
以上のように、第1,第2の実施の形態に係るモータ駆動制御装置1,1Aによれば、モータ5の駆動効率を向上させることが可能となる。
【0182】
また、モータ駆動制御装置1,1Aは、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pとコイル電流のゼロクロス点Qとの位相差Δφ(=時刻tpにおける位相-時刻tqにおける位相)を算出し、駆動制御信号Sdの出力タイミングを、その位相差Δφに応じた時間Δtφ(=tp-tq)だけずらす。
【0183】
これによれば、所定の相のコイル電流のゼロクロスの目標点Pとコイル電流のゼロクロス点Qとの位相差Δφ、すなわち誘起電圧の位相とコイル電流の位相とのずれ幅に応じた分だけコイル電流(コイルの駆動電圧)の位相を調整するので、コイル電流の位相を誘起電圧の位相により確実に近づけることが可能となる。すなわち、上述した特許文献1のようにコイルの駆動を停止させる期間(検出期間)を設けてコイル電流のゼロクロス点を検出する従来技術に比べて、モータ5の駆動効率をより向上させることが可能となる。
【0184】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0185】
例えば、上記の実施の形態では、モータ5の3相(U相、V相、およびW相)のうちU相のコイルに対して位置検出装置6を配置するとともに、U相のコイルLuの駆動電圧VuおよびU相のコイル電流Iuのゼロクロス点Qを検出する場合を例示したが、これに限られず、V相のコイルLvに対して位置検出装置6を配置して、V相のコイルLvの駆動電圧VvおよびV相のコイル電流Ivのゼロクロス点Qを検出してV相のコイル電流Ivの位相調整を行ってもよいし、W相のコイルLwに対して位置検出装置6を配置して、W相のコイルLwの駆動電圧VwおよびW相のコイル電流Iwのゼロクロス点Qを検出してW相のコイル電流Iwの位相調整を行ってもよい。また、U相、V相、W相のうちの2つの相あるいは全ての相に対して位置検出装置6を配置し、いずれかの相の駆動電圧およびコイル電流のゼロクロス点Qを検出し、検出した相のコイル電流の位相調整を行ってもよい。
【0186】
また上記実施の形態では、電流ゼロクロス点推定部14,14Aが、U相のコイルLuの駆動電圧Vuがハイレベルとなる第1のタイミングとU相のハイサイドスイッチQuHのオン・オフを切り替えるPWM信号Suuがハイレベルとなる第2のタイミングとが一致する状態から一致しない状態に切り替わるタイミング(U相のコイル電流Iuが正から負に切り替わるゼロクロス点Q)と、第1のタイミングと第2のタイミングとが一致しない状態から一致する状態に切り替わるタイミング(U相のコイル電流Iuが負から正に切り替わるゼロクロス点Q)の両方を検出する場合を例示したが、何れか一方のゼロクロス点Qを検出するようにしてもよい。例えば、電流ゼロクロス点推定部14,14Aは、U相のコイル電流Iuが負から正に切り替わるゼロクロス点Qのみを検出してもよい。
【0187】
上記実施の形態において、モータ5の種類は、ブラシレスDCモータに限定されない。また、モータ5は、3相に限られず、例えば単相のブラシレスDCモータであってもよい。
【0188】
上記実施の形態において、位置検出装置6としてホール素子を用いる場合を例示したが、これに限られない。例えば、位置検出装置6として、ホールIC、エンコーダ、レゾルバなどを設け、それらの検出信号を位置検出信号Shuとしてモータ駆動制御装置1,1Aに入力してもよい。
【0189】
また、上述のフローチャートは一例であって、これらに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【符号の説明】
【0190】
1,1A…モータ駆動制御装置、2…制御回路、3…駆動回路、4…相電圧検出回路、5…モータ、6…位置検出装置、11…駆動指令解析部、12…目標点決定部、13…相電圧入力部、14,14A…電流ゼロクロス点推定部、15…位相調整判定部、16…駆動制御信号生成部、17…PWM指令部、18…PWM信号生成部、100…モータユニット、200…位置検出信号Shuの波形、201…U相のコイルLuの駆動電圧Vuの波形、202…U相のコイルLuの誘起電圧の波形、203…U相のコイル電流Iuの波形、141…立ち上がりエッジ検出部、141A…コンパレータ、142…タイミング比較部、143,143A…電流方向判定部、144,144A…ゼロクロス点検出部、Lu,Lv,Lw…コイル、Iu…U相のコイル電流、S1…目標回転速度、S2…判定結果、S3…操作量、Sc…駆動指令信号、Sct…ゼロクロス点検出信号、Shu…位置検出信号、St…目標点決定信号、Sd…駆動制御信号、Suu,Sul,Svu,Svl,Swu,Swl…PWM信号(スイッチ信号の一例)、QuH,QvH,QwH…ハイサイドスイッチ、QuL,QvL,QwL…ローサイドスイッチ、Δφ,+φth,-φth…位相差、Vu…コイルLuの駆動電圧、Vv…コイルLvの駆動電圧、Vw…コイルLwの駆動電圧、Vdd…直流電圧、Vdd1,Vdd2…電源電圧、P…コイル電流のゼロクロスの目標点、Q…コイル電流のゼロクロス点。