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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173380
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/54 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G01N30/54 F
G01N30/54 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085591
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】蔵谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】増田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】小櫻 優
(72)【発明者】
【氏名】小島 雅弘
(57)【要約】
【課題】異なる電源電圧において使用可能であり、高パワーを出力可能なオーブンを備えたガスクロマトグラフを提供することを課題とする。
【解決手段】ガスクロマトグラフ1は、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32を有するオーブン3を備える。ヒーター素子31,32は、電源5が第1電圧のとき直列接続され、電源5が第1電圧よりも小さい第2電圧のとき並列接続される。電力制御部4は、直列接続されたヒーター素子31,32への電力供給のON/OFF、または、並列接続された第1ヒーター素子31への電力供給のON/OFFを制御する第1制御素子41と、並列接続された第2ヒーター素子32への電力供給のON/OFFを制御する第2制御素子42とを含む。制御部2は、電源5が第2電圧のとき、制御素子41,42を制御することで、並列接続されたヒーター素子31,32への電力供給のデューティー比を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ヒーター素子および第2ヒーター素子を有し、カラムが収容されるオーブンと、
電源から前記オーブンへ供給される電力を制御する電力制御部と、
ガスクロマトグラフの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、前記電源が第1電圧であるとき直列接続され、または、前記電源が前記第1電圧よりも小さい第2電圧であるとき並列接続され、
前記電力制御部は、
直列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御し、または、並列接続された前記第1ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第1制御素子と、
並列接続された前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第2制御素子と、
を含み、
前記制御部は、
前記電源が前記第2電圧であるとき、前記第1制御素子および前記第2制御素子を制御することにより、並列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を調整する、ガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記電源が前記第1電圧であるとき、前記第1制御素子を制御することにより、直列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を調整する、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子の抵抗値は同じであり、前記第1電圧は、前記第2電圧の2倍である、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを、前記電源から供給される電流の半波単位で制御する、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給を交互にONする、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を所定値に制限するハードウェア論理素子を含む、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項7】
前記電源の一端に前記第1制御素子の一端および前記第2制御素子の一端が並列接続され、前記第1ヒーター素子の一端が前記第1制御素子の他端に接続され、前記第1ヒーター素子の他端が前記第2ヒーター素子の一端および第1端子に接続され、前記第2ヒーター素子の他端が第2端子に接続され、前記電源が前記第1電圧であるとき、前記第2端子が前記電源の他端に接続され、前記電源が前記第2電圧であるとき、前記第1端子が前記電源の他端に接続されるとともに前記第2端子が前記第2制御素子の他端に接続されるよう切り替えられる、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項8】
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、略半円形状を有し、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子が接続されることで、略円形状のヒーター素子として構成される、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項9】
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、略円形状を有し、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子が接続されることで、二重円形状のヒーター素子として構成される、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムを収容するオーブンを備えたガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフは、一般に、試料気化室、カラムおよび検出器を備える。試料気化室では、液体試料が加熱されることで気化する。カラムでは、試料気化室で気化された気体が各化合物に分離される。検出器では、カラムにおいて分離された各化合物の濃度が電気信号として検出される。カラムは、ヒーター素子を備えるオーブンに収容され、分析中には分析条件に適した温度に維持される。
【0003】
ガスクロマトグラフは、多くの国、地域によって使用される。日本の電源電圧は、100Vまたは200Vであり、米国では115Vまたは230V、欧州では220V~240V等である。ガスクロマトグラフが接続される場所によって供給される電圧が異なるため、ある特定のパワーを有するオーブンを構成するためには、電源電圧に応じたヒーター素子が必要となる。
【0004】
そのような電源電圧の違いに対応するために、異なる電源電圧に対しても共通のパワーを出力可能なカラムオーブンを備えるガスクロマトグラフが提案されている。このカラムオーブンは、同じ抵抗値を有する2つのヒーター素子を有しており、この2つのヒーター素子が直列接続と並列接続のいずれかの接続形態で構成される。例えば、200Vの電源電圧に接続されたときには、ヒーター素子が直列接続され、100Vの電源電圧に接続されたときには、ヒーター素子が並列接続される。このような構成とすることで、このカラムオーブンは、100Vと200Vのいずれの電源電圧から電力供給を受けた場合でも、同じパワーを出力可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-211225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、2つのヒーター素子を直列接続および並列接続のいずれかで接続可能な構成とすることで、ユーザは、電源電圧が100Vまたは200Vのいずれの場合であっても、共通のパワーを有するオーブンを備えたガスクロマトグラフを利用できる。しかし、そのような構成のガスクロマトグラフが100Vの電源電圧に接続されたときは、200Vの場合と比べて2倍の電流が流れることになる。
【0007】
電流値が大きくなると、装置内のケーブル等の電気設備に大きな電流が流れるため、それら設備に特別の仕様が要求される。このため、上記のような共通のパワーを有するカラムオーブンを構成する場合、100Vでの使用環境で大きな電流が流れないようにするためには、ヒーター素子の抵抗値をあまり小さくすることはできない。その結果、出力パワーについて共通化はできるものの、200Vの使用環境でも大きなパワーを出力可能な装置として構成することは困難であった。
【0008】
本発明の目的は、異なる電源電圧においても使用可能としながら、高パワーを出力可能なオーブンを備えたガスクロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に従うガスクロマトグラフは、第1ヒーター素子および第2ヒーター素子を有し、カラムが収容されるオーブンと、電源からオーブンへ供給される電力を制御する電力制御部と、ガスクロマトグラフの動作を制御する制御部とを備え、第1ヒーター素子および第2ヒーター素子は、電源が第1電圧であるとき直列接続され、または、電源が第1電圧よりも小さい第2電圧であるとき並列接続され、電力制御部は、直列接続された第1ヒーター素子および第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御し、または、並列接続された第1ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第1制御素子と、並列接続された第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第2制御素子とを含み、制御部は、電源が第2電圧であるとき、第1制御素子および第2制御素子を制御することにより、並列接続された第1ヒーター素子および第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる電源電圧においても使用可能としながら、高パワーを出力可能なオーブンを備えたガスクロマトグラフを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係るガスクロマトグラフを示す図である。
図2】200Vの電源を利用する第1の接続形態のオーブンおよび電力制御部を示す図である。
図3】100Vの電源を利用する第2の接続形態のオーブンおよび電力制御部を示す図である。
図4】200Vの電源を利用する第1の接続形態における制御方法の一例を示す図である。
図5】100Vの電源を利用する第2の接続形態における制御方法の一例を示す図である。
図6】100Vの電源を利用する第2の接続形態における制御方法の別の例を示す図である。
図7】第2の接続態様におけるオーブンの目標出力に向けた制御方法を示す図である。
図8】200Vの電源を利用する第1の接続形態のオーブンおよび電力制御部を示す変形例を示す図である。
図9】100Vの電源を利用する第2の接続形態のオーブンおよび電力制御部を示す変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るガスクロマトグラフ1について説明する。
【0013】
(1)ガスクロマトグラフ1の全体構成
図1は、本実施の形態に係るガスクロマトグラフ1の全体図である。ガスクロマトグラフ1は、制御部2、オーブン3および電力制御部4を備える。図1においては、試料気化室、試料を分離するカラム、および、カラムにおいて分離された各化合物の濃度を電気信号として検出する検出器等の他の構成は図示省略している。
【0014】
制御部2は、CPU(中央演算処理装置)21およびPLD(プログラマブルロジックデバイス)22を備える。CPU21は、ガスクロマトグラフ1による分析処理を含む全体制御を行う。PLD22は、ハードウェア論理素子であり、電力制御部4における電力制御にハードウェア制御による制限を与える。
【0015】
オーブン3は、抵抗発熱体である第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32を備える。第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32は、図に示すように略半円形状をしており、ヒーター素子31,32全体で略円形形状となっている。ここでは、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の抵抗値は同じである場合を例に説明する。オーブン3は、また、カラム(図示省略)を備える。オーブン3は、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のジュール熱によりオーブン3内の温度を上昇させ、オーブン3内の温度を例えば数十度~450度程度の一定温度に維持する。これにより、カラムは分析処理に適した温度に加熱される。オーブン3は、また、温度センサ33を備える。温度センサ33において検出された温度情報は、CPU21に通知される。CPU21は、温度センサ33から取得したオーブン3の温度情報に基づき、オーブン3の温度管理を行う。
【0016】
電力制御部4は、商用電源である電源5によるオーブン3への電力の供給を制御する。電力制御部4は、第1制御素子41、第2制御素子42および端子43a~43eを備える。第1制御素子41および第2制御素子42は、例えば、サイリスタやトライアックで構成される。電力制御部4は、端子43a,43bを介して電源5に接続される。電力制御部4は、端子43c~43eを介してオーブン3に接続される。
【0017】
第1制御素子41および第2制御素子42は、端子43aを介して電源5に並列接続される。第1制御素子41は、端子43eを介して第1ヒーター素子31の一端に設けられた端子31aに接続される。端子43cは、第1ヒーター素子31の他端に設けられた端子31b、および、第2ヒーター素子32の一端に設けられた端子32aに接続される。また、端子43dは、第2ヒーター素子32の他端に設けられた端子32bに接続される。この実施の形態において、端子43cが本発明に係る第1端子の例であり、端子43dが本発明に係る第2端子の例である。
【0018】
端子43dは、ガスクロマトグラフ1の設定に応じて、第2制御素子42および端子43bのいずれかに接続される。具体的には、電源5の電圧に応じて、端子43dの接続先が設定される。図1においては、端子43dが第2制御素子42に接続されている状態を示している。端子43bは、ガスクロマトグラフ1の設定に応じて、端子43cおよび端子43dのいずれかに接続される。具体的には、電源5の電圧に応じて、端子43bの接続先が設定される。図1においては、端子43bが端子43cに接続されている状態を示している。このような構成を有することにより、電力制御部4は電源5の電圧に応じて2通りの接続形態に変更可能である。
【0019】
(2)電力制御部4の接続形態
次に、電力制御部4の2通りの接続形態について説明する。図2は、第1の接続形態を示す。第1の接続形態は、オーブン3において第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32が直列接続される形態である。本実施の形態においては、電源5が200Vであるときに、第1の接続形態が利用される。図3は、第2の接続形態を示す。第2の接続形態は、オーブン3において第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32が並列接続される形態である。本実施の形態においては、電源5が100Vであるときに、第2の接続形態が利用される。この実施の形態において、200Vが本発明に係る第1電圧の例であり、100Vが本発明に係る第2電圧の例である。
【0020】
(2-1)第1の接続形態(電源200V:ヒーター素子直列接続)
図2に示すように、第1の接続形態においては、端子43dは端子43bに接続される。第1の接続形態においては、端子43dは第2制御素子42と接続されないため、第2制御素子42は使用されない。また、第1の接続形態においては、端子43cと電源5との間は接続されない。これにより、端子43a,43b間で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32が直列接続される。電源5から第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に供給される電力は、第1制御素子41によりON/OFFされる。
【0021】
オーブン3の温度は、CPU21の制御により調整される。CPU21は、分析条件で設定されたオーブン3の目標温度に基づいて第1制御素子41を制御し、電源5から供給される電力を制御する。CPU21は、温度センサ33(図2においては図示省略)により検出した温度情報をモニタしつつ、目標温度へ向けた制御を行う。CPU21による第1制御素子41に対する制御命令は、PLD22を経由して実行される。PLD22は、第1制御素子41に対する制御をハードウェアにより制限する。
【0022】
図4は、200Vの電源を利用する第1の接続形態における制御方法の一例を示す図である。図4の上段は、電源5から供給される電流の交流波形を示しており、横軸は時間、縦軸は電流値である。図4の下段は、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32への電力供給タイミングを示しており、上段の交流波形と時間軸を合わせて描かれている。本実施の形態においては、CPU21は、第1制御素子41を交流波形の半波単位で制御する。
【0023】
図4において、交流波形で黒塗りされている時間帯は、第1制御素子41をONにし、オーブン3に電流を供給する時間帯である。下段の円のうち上側の半円は第1ヒーター素子31を、下側の半円は第2ヒーター素子32を模式的に表している。上側の半円で黒塗りされている時間帯は第1ヒーター素子31に電力が供給されている時間帯、下側の半円で黒塗りされている時間帯は第2ヒーター素子32に電力が供給されている時間帯を示す。第1の接続形態では第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32は直列接続されているため、ヒーター素子31,32の両方に電力が供給されるか、あるいはヒーター素子31,32のいずれにも電力が供給されないかのいずれかの制御が行われる。
【0024】
図4において、期間T11は、オーブン3を100%のパワー(フルパワー)で加熱する期間である。したがって、期間T11においては、全ての時間において第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T11においては全ての時間で第1制御素子41がONとなるよう制御指示を与える。図4において、期間T12は、オーブン3を66%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T12においては、半波単位で3回に2回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T12においては半波単位で3回に2回の割合で第1制御素子41がONとなるよう制御指示を与える。図4において、期間T13は、オーブン3を33%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T13においては、半波単位で3回に1回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T13においては半波単位で3回に1回の割合で第1制御素子41がONとなるよう制御指示を与える。
【0025】
このように、第1の接続形態においては、CPU21は、第1制御素子41を制御することで、任意のデューティー比でオーブン3を加熱制御する。CPU21は、分析条件で与えられた目標温度と温度センサ33から取得した温度情報に基づいて、オーブン3を加熱するためのデューティー比を決定する。
【0026】
(2-2)第2の接続形態(電源100V:ヒーター素子並列接続)
図3に示すように、第2の接続形態においては、端子43dは第2制御素子42に接続される。第2の接続形態においては、第1制御素子41および第2制御素子42の両方を使用し、オーブン3の出力を制御する。また、第2の接続形態においては、端子43bは端子43cに接続される。これにより、端子31bおよび端子32aは、端子43cを介して電源5と接続される。これにより、端子43a,43b間で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32が並列接続される。電源5から第1ヒーター素子31に供給される電力は、第1制御素子41によりON/OFFされ、電源5から第2ヒーター素子32に供給される電力は、第2制御素子42によりON/OFFされる。
【0027】
CPU21は、分析条件で設定されたオーブン3の目標温度に基づいて第1制御素子41および第2制御素子42を制御し、電源5からの電力供給を制御する。CPU21は、温度センサ33(図3では図示省略)により検出した温度情報をモニタしつつ、目標温度へ向けた制御を行う。CPU21による第1制御素子41および第2制御素子42に対する制御命令は、PLD22を経由して実行される。
【0028】
図5は、100Vの電源を利用する第2の接続形態における制御方法の一例を示す図である。図5の上段は、図4の上段の図と同様、電源5から供給される電流の交流波形を示しており、横軸は時間、縦軸は電流値である。図5の下段は、図4の下段の図と同様、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32への電力供給タイミングを示しており、上段の交流波形と時間軸を合わせて描かれている。このように、本実施の形態においては、CPU21は、第1制御素子41および第2制御素子42を交流波形の半波単位で制御する。
【0029】
図5において、交流波形で黒塗りされている時間帯は、第1制御素子41および/または第2制御素子42をONにし、オーブン3に電流を供給する時間帯である。図5で示す交流波形は、電流値の極大値がI1とI2の2値を取る。極大値がI1となるのは、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の両方に電力が供給されるときである。極大値がI2となるのは、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給されるときである。第2の接続形態では第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32は並列接続されているため、ヒーター素子31,32の両方に電力が供給される場合、ヒーター素子31,32のいずれかに電力が供給される場合、ヒーター素子31,32のいずれにも電力が供給されない場合がある。ヒーター素子31,32の両方に電力が供給される場合、電流の極大値がI1である。ヒーター素子31,32のいずれかに電力が供給される場合、電流の極大値がI2である。
【0030】
図5において、期間T21は、オーブン3を66%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T21においては、半波単位で3回に1回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の両方に電力が供給される。期間T21においては、半波単位で3回に2回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T21においては半波単位で3回に1回の割合で第1制御素子41および第2制御素子42の両方がONとなるよう制御指示を与える。CPU21は、期間T21においては半波単位で3回に2回の割合で第1制御素子41および第2制御素子42のいずれかがONとなるよう制御指示を与える。
【0031】
図5において、期間T22は、オーブン3を50%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T22においては、全期間において第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T22においては全期間において第1制御素子41および第2制御素子42のいずれかがONとなるよう制御指示を与える。
【0032】
図5において、期間T23は、オーブン3を33%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T23においては、半波単位で3回に1回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれにも電力が供給されない。期間T23においては、半波単位で3回に2回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給される。つまり、CPU21は、期間T23においては半波単位で3回に1回の割合で第1制御素子41および第2制御素子42の両方がOFFとなるよう制御指示を与える。CPU21は、期間T23においては半波単位で3回に2回の割合で第1制御素子41および第2制御素子42のいずれかがONとなるよう制御指示を与える。
【0033】
(2-3)第2の接続態様におけるオーブンの目標出力に向けた制御方法
図6および図7は、100V電源に対応する第2の接続形態の別の制御方法の一例を示す図である。図6においても、図4等と同様、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32は、交流波形の半波単位で制御される。図6において、期間T31は、オーブン3を60%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T31においては、半波単位で5回に1回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の両方に電力が供給される。期間T31においては、半波単位で5回に4回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給される。
【0034】
図6において、期間T32は、オーブン3を30%のパワーで加熱する期間である。したがって、期間T32においては、半波単位で5回に2回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれにも電力が供給されない。期間T32においては、半波単位で5回に3回の割合で第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給される。
【0035】
そして、期間T31,T32のいずれの場合でも、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれかに電力が供給されるとき、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32には、交互に電力が供給される。これにより、オーブン3内における温度むらが生じることを防止している。
【0036】
このように、CPU21は、第1制御素子41および第2制御素子42を個別に制御することで、任意のデューティー比でオーブン3を加熱制御する。CPU21は、分析条件で与えられた目標温度と温度センサ33から取得した温度情報に基づいて、オーブン3を加熱するためのデューティー比を決定する。
【0037】
図7は、図6で示す第2の接続態様において、オーブン3の目標出力に向けた制御方法を示す図である。図において、1~24の数字は、半波単位での時間を示す連続番号である。「積算」の欄には、オーブン3の目標出力の積算値が示されている。期間T31において目標出力は60%であるので、半波単位ごとに60の値が加算される。期間T32において目標出力は30%であるので、半波単位ごとに30の値が加算される。「出力」の欄において、“上”が第1ヒーター素子31に対して、“下”が第2ヒーター素子32に対して、“両方”がヒーター素子31,32の両方に対して電力が供給されることを意味する。“無”は、ヒーター素子31,32のいずれにも電力が供給されないことを意味する。ヒーター素子31,32のいずれかに電力が供給されたときの出力は50であり、両方に電力が供給されたときの出力は100である。「余り」の欄は、目標出力との差を示す。
【0038】
時間1では、目標出力として60が加算され、第1ヒーター素子31に電力が供給されるため50が減算され、「余り」は10となる。時間2では、時間1の「余り」10に目標出力60が加算され、第2ヒーター素子32に電力が供給されるため50が減算され、「余り」は20となる。時間5では、時間4の「余り」40に目標出力として60が加算され、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に電力が供給されるため100が減算され、「余り」は0となる。つまり、「積算」が50を超えない場合は、ヒーター素子31,32のいずれかにも電力は供給されない。「積算」が50を超えて、かつ、100を超えない場合は、ヒーター素子31,32のいずれかに電力が供給される。「積算」が100を超える場合は、ヒーター素子31,32の両方に電力が供給される。
【0039】
期間T32においても同様に、時間13では、時間12の「余り」20に目標出力30が加算され、第1ヒーター素子31に電力が供給されるため50が減算され、「余り」は0となる。時間14では、時間13の「余り」0に目標出力30が加算されるが、「積算」が30であり、50に満たないので、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32のいずれにも電力が供給されず、「余り」は30となる。
【0040】
(3)実施の形態の効果
以上説明したように、本実施の形態のガスクロマトグラフ1は、オーブン3を電源5の電圧に応じて第1の接続形態と第2の接続形態のいずれかの設定により使用可能である。例えば、電源5が200Vであるとき、ガスクロマトグラフ1を第1の接続形態とすることで、オーブン3を高出力の装置として使用できる。つまり、第1の接続形態において、オーブン3が高いパワーを出力できるように、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32として、抵抗値が充分に小さいものを使用可能である。
【0041】
第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の抵抗値が小さくなると、例えば、電源5が100Vである場合であって第2の接続形態で使用されるとき、回路の構成上、大きな電流が流れることになる。電力制御部4に大きな電流が流れる場合、ケーブル等の電気設備に特別の仕様が求められるという問題がある。しかし、本実施の形態のガスクロマトグラフ1は、第2の接続形態においては、第1制御素子41および第2制御素子42のON/OFFを制御することで、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に供給する電力のデューティー比を100より小さくすることができる。供給電力のデューティー比を調整することにより、第2の接続形態においても電流値が高くなることを抑制できる。これにより、例えば100Vと200Vなど、異なる電圧の電源5に接続可能なユニバーサル電源対応のガスクロマトグラフ1を提供することができる。このガスクロマトグラフ1は、200Vなど高電圧の環境ではオーブン3が高出力の装置として機能し、100Vなど標準電圧の環境では、オーブン3が標準出力の装置として機能する。
【0042】
従来、2つのヒーター素子を直列接続と並列接続の2つの接続形態で使用可能することで、電源が100Vと200Vのいずれの場合であってもオーブンが同じパワーを出力可能とする試みはされている。例えば、電源電圧がVと2Vの2系統であるとし、2つのヒーター素子の抵抗をいずれもRとする。そして、電源電圧が2Vの場合にヒーター素子を直列、電源電圧がVの場合にヒーター素子を並列に接続する。この場合、ヒーター素子が直列接続および並列接続の場合で、いずれも電力は2V^2/Rである。しかし、直列接続の場合の電流がV/Rであるのに対して、並列接続の場合の電流が2倍の2V/Rとなる。このため、100V使用時の電流が大きくならないようにするため、Rの値をあまり小さくすることはできず、200V使用時に求められるパワーが得られないという問題があった。しかし、ガスクロマトグラフのオーブンのパワーは、オーブン性能の指標の一つであり、ユーザは200Vの電源使用時にはオーブンを高出力で使用したいというニーズがある。このため、本実施の形態のガスクロマトグラフ1では、電力供給のデューティー比を調整することで、100V使用時のパワーを抑えることとした。これにより、ヒーター素子の抵抗値を小さくして200V使用時にオーブン3を高出力としながら、100V使用時に流れる電流の値が大きくなり過ぎないようにすることができた。
【0043】
以上のような目標出力に向けた第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32への電力供給制御は、CPU21による第1制御素子41および第2制御素子42のON/OFF制御により実現する。さらに、本実施の形態においては、CPU21の制御命令を、PLD22を介して第1制御素子41および第2制御素子42に与えるようにしている。これにより、第1制御素子41および第2制御素子42のON/OFF制御をハードウェアによって制限することができる。
【0044】
例えば、PLD22において、第1制御素子41および第2制御素子42のいずれか一方のみだけONとする制限を掛けておけば、オーブン3の出力が50%を超えないよう制限させることができる。上記の図5で説明した第2の接続形態の例では、PLD22によって、ヒーター素子31,32の両方がONとされた後は、半波単位で2回はヒーター素子31,32の両方が同時にONされないよう制限される。これにより、100Vの電源使用時に最大パワーを66%に制限することができる。また、図5の例では66%のパワー制御時に瞬間的には大きな電流が流れる。しかし、PLD22によってデューティー比を50%に制限することで、瞬間的な電流の最大値も抑制することができる。つまり、PLD22によって、第1制御素子41および第2制御素子42に対する電力供給のデューティー比を所定値に制限することができる。CPU21が何等かの理由で誤った命令を出した場合であっても、ハードウェア制御によりオーブン3の出力に制限を掛けることが可能である。
【0045】
(4)変形例
次に、本実施の形態のガスクロマトグラフ1の変形例を説明する。図8および図9は、変形例に係るガスクロマトグラフ1が備えるオーブン3Aおよび電力制御部4を示す図である。電力制御部4の構成は上記の実施の形態と同様である。オーブン3Aが備える第1ヒーター素子31Aおよび第2ヒーター素子32Aは略円形状をしている。そして、第1ヒーター素子31Aおよび第2ヒーター素子32Aは、円の中心を合わせるように配置され、ヒーター素子全体として二重円形状の構成となっている。このような構成とすることで、オーブン3における温度のむらが発生することを抑制できる。上記の実施の形態では、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32に交互に電力を供給することにより温度のむらの発生を抑制しているが、この変形例ではそのような制御を行うことなくオーブン3内の温度を均一に維持することができる。
【0046】
上記実施の形態においては、第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の抵抗値が同じである場合を例に説明したが、これは一例である。第1ヒーター素子31および第2ヒーター素子32の抵抗値は異なってもよい。上記実施の形態では、電源電圧が200Vのときにガスクロマトグラフ1が第1の接続形態で使用され、電源電圧が100Vのときにガスクロマトグラフ1が第2の接続形態で使用される場合を例に説明したが、これは一例である。第2の接続形態で接続される電源の電圧が、第1の接続形態で接続される電源の電圧よりも低い場合に使用するメリットがある。例えば、電源電圧が230Vのときに第1の接続形態を、115Vのときに第2の接続形態を使用するようにしてもよい。
【0047】
上記の実施の形態においては、本実施の形態の制御部2、オーブン3および電力制御部4を備えるガスクロマトグラフ1を例に説明したが、本実施の形態は、ガスクロマトグラフ質量分析計にも適用可能である。
【0048】
(5)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0049】
(第1項)
一態様に係るガスクロマトグラフは、
第1ヒーター素子および第2ヒーター素子を有し、カラムが収容されるオーブンと、
電源から前記オーブンへ供給される電力を制御する電力制御部と、
ガスクロマトグラフの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、前記電源が第1電圧であるとき直列接続され、または、前記電源が前記第1電圧よりも小さい第2電圧であるとき並列接続され、
前記電力制御部は、
直列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御し、または、並列接続された前記第1ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第1制御素子と、
並列接続された前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを制御する第2制御素子と、
を含み、
前記制御部は、
前記電源が前記第2電圧であるとき、前記第1制御素子および前記第2制御素子を制御することにより、並列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を調整する。
【0050】
第2電圧使用時の電流値を抑えることができる。これにより、ヒーター素子の抵抗値を小さくすることが可能であり、第1電圧使用時にオーブンを高出力な構成とすることができる。異なる電源電圧においても使用可能としながら、高パワーを出力可能なオーブンを備えたガスクロマトグラフを提供することができる。
【0051】
(第2項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記制御部は、
前記電源が前記第1電圧であるとき、前記第1制御素子を制御することにより、直列接続された前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を調整してもよい。
【0052】
第1電圧使用時のオーブンの出力を調整可能である。
【0053】
(第3項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子の抵抗値は同じであり、前記第1電圧は、前記第2電圧の2倍であってもよい。
【0054】
ユニバーサル電源に対応したガスクロマトグラフを提供可能である。
【0055】
(第4項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記制御部は、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のON/OFFを、前記電源から供給される電流の半波単位で制御してもよい。
【0056】
オーブンの出力を所望のデューティー比で調整可能である。
【0057】
(第5項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記制御部は、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給を交互にONしてもよい。
【0058】
オーブン内の温度むらを抑制することができる。
【0059】
(第6項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記制御部は、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子への電力供給のデューティー比を所定値に制限するハードウェア論理素子を含んでもよい。
【0060】
オーブンのデューティー比をハードウェアにより制限することで、オーブンのパワーに制限を掛けることが可能である。
【0061】
(第7項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記電源の一端に前記第1制御素子の一端および前記第2制御素子の一端が並列接続され、前記第1ヒーター素子の一端が前記第1制御素子の他端に接続され、前記第1ヒーター素子の他端が前記第2ヒーター素子の一端および第1端子に接続され、前記第2ヒーター素子の他端が第2端子に接続され、前記電源が前記第1電圧であるとき、前記第2端子が前記電源の他端に接続され、前記電源が前記第2電圧であるとき、前記第1端子が前記電源の他端に接続されるとともに前記第2端子が前記第2制御素子の他端に接続されるよう切り替えられてもよい。
【0062】
端子間の接続を変更することで、第1電圧および第2電圧に対応可能である。
【0063】
(第8項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、略半円形状を有し、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子が接続されることで、略円形状のヒーター素子として構成されてもよい。
【0064】
第1ヒーター素子および第2ヒーター素子を合わせることにより、オーブン内を加熱する円形のヒーター素子として利用される。
【0065】
(第9項)
第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子は、略円形状を有し、前記第1ヒーター素子および前記第2ヒーター素子が接続されることで、二重円形状のヒーター素子として構成されてもよい。
【0066】
第1ヒーター素子および第2ヒーター素子のいずれかに電力が供給された場合にも、オーブン内の温度むらを抑制することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ガスクロマトグラフ、2…制御部、21…CPU、22…PLD、3…オーブン、31…第1ヒーター素子、32…第2ヒーター素子、33…温度センサ、4…電力制御部、41…第1制御素子、42…第2制御素子、5…電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9