(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173428
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車室内の音制御方法および装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20231130BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20231130BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20231130BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G10K11/178
B60R11/02 S
G10K15/04 303A
G01M17/007 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085681
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 友希
(72)【発明者】
【氏名】高木 徹
【テーマコード(参考)】
3D020
5D061
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BA11
3D020BB01
3D020BC01
3D020BE04
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】故障/異常の兆候として異音が生じても、ノイズキャンセル装置により異音がマスキングされて気付きにくい、という問題を解決する。
【解決手段】車両の管理や修理に関与する管理修理関与者に関するユーザー情報をデータベースから取得する(S1)。車両データから故障/異常の予兆を検知した(S2)ときに、乗員を検出し(S3)、管理修理関与者が含まれているか否かを判定する(S4)。管理修理関与者が含まれいなければ、ノイズキャンセル装置による通常のノイズキャンセリング制御を行う(S5,S7)。管理修理関与者が含まれているときは、ノイズキャンセル装置の騒音低減作用を低下させる(S6,S7)。例えば、アンチノイズ音の音圧を低下する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の騒音を低減するためにアクティブ方式もしくは騒音低減作用を変更可能なパッシブ方式のノイズキャンセル装置を備えてなる車両において、
車両の管理ないし修理に関与する管理修理関与者が乗員に含まれているかどうかを判定し、
車両の運転中に車両の故障/異常もしくはその予兆を監視し、
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに上記管理修理関与者が乗車していれば、上記ノイズキャンセル装置の騒音低減作用を停止もしくは低下させる、
車室内の音制御方法。
【請求項2】
上記管理修理関与者の識別情報を記憶した記憶部を車両の内部もしくは車両の外部に有し、この記憶部の識別情報を参照して管理修理関与者が乗員に含まれているかどうかを判定する、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項3】
検知した故障/異常もしくはその予兆に関連した特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を停止もしくは低下させる、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項4】
車両の不具合情報を予め蓄積しておき、この不具合情報を参照して、対象とする周波数帯域を決定する、
請求項3に記載の車室内の音制御方法。
【請求項5】
検知した故障/異常もしくはその予兆に基づいて問題となる部品を特定し、上記不具合情報を参照して、この部品に対応した周波数帯域を決定する、
請求項4に記載の車室内の音制御方法。
【請求項6】
ノイズキャンセル装置としてアクティブ方式のノイズキャンセル装置を用い、
検知した故障/異常もしくはその予兆に関連した特定の周波数帯域を対象として、同周波数帯域の騒音を増大させる、
請求項3に記載の車室内の音制御方法。
【請求項7】
故障/異常の検知であれば、少なくとも特定の周波数帯域について騒音低減作用を停止させる、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項8】
車両の修理が可能な修理地点の位置情報を取得し、
故障/異常もしくはその予兆の検知に基づき騒音低減作用を低下させた後、車両が上記修理地点に近付いたら、騒音低減作用をさらに低下させる、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項9】
故障/異常の予兆の検知であれば、関連して生じる異音の発生時期を予測し、この異音発生時期に到達したときに騒音低減作用の停止もしくは低下を開始する、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項10】
故障/異常の予兆の検知であれば、関連して生じる異音の周波数帯域の遷移およびその時期を予測し、
遷移していく各々の周波数帯域を対象として騒音低減作用の停止もしくは低下を行う、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項11】
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに、検知した故障/異常もしくはその予兆の重大度を判定し、
この重大度が大きいほど騒音低減作用を小さくする、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項12】
管理修理関与者以外の者が乗員に含まれているかどうかを判定し、
管理修理関与者以外の者が乗員に含まれている場合には、騒音低減作用の停止もしくは低下を実行するかどうかを管理修理関与者に問い合わせる、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項13】
ノイズキャンセル装置としてアクティブ方式のノイズキャンセル装置を用い、
車室内での管理修理関与者の着座位置を特定し、
この管理修理関与者の着座位置付近での騒音低減作用を停止もしくは低下させる、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項14】
予め蓄積される不具合情報は、車両の車種、生産工場および生産時期を含み、
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに、車種、生産工場、生産時期の少なくとも1つが一致する不具合情報を参照して、異音を生じ得る部品の特定および対象とする周波数帯域の決定を行う、
請求項4に記載の車室内の音制御方法。
【請求項15】
修理地点に近付いたことで騒音低減作用をさらに低下させたときに、その旨の情報を車室内の管理修理関与者に表示する、
請求項8に記載の車室内の音制御方法。
【請求項16】
騒音低減作用を停止もしくは低下させたときに、その方法を車室内に表示する、
請求項1に記載の車室内の音制御方法。
【請求項17】
特定の周波数帯域を対象として、アンチノイズ音を通常レベルよりも小さくする第1の制御モードと、
同じく特定の周波数帯域を対象として、同周波数帯域の騒音を増大させる第2の制御モードと、
を有し、
管理修理関与者がいずれかの制御モードを選択可能である、
請求項6に記載の車室内の音制御方法。
【請求項18】
特定の周波数帯域を対象として、アンチノイズ音を通常レベルよりも小さくする第1の制御モードと、
特定の周波数帯域を対象として、同周波数帯域の騒音を増大させる第2の制御モードと、
を有し、
検知した故障/異常もしくはその予兆に基づいて問題となる部品を特定するとともに、この部品に関連した異音の周波数帯域を決定し、
この異音の周波数帯域が、車両の構造によって減衰されやすい帯域である否かを判別し、
減衰されやすい帯域であれば第2の制御モードを実行し、減衰されやすい帯域でなければ第1の制御モードを実行する、
請求項6に記載の車室内の音制御方法。
【請求項19】
車室内の騒音を低減する、アクティブ方式もしくは騒音低減作用を変更可能なパッシブ方式のノイズキャンセル装置と、
乗員を認識する乗員認識デバイスと、
車両の管理ないし修理に関与する管理修理関与者が乗員に含まれているかどうかを判定する乗員判断部と、
車両データを取得する車両データ取得部と、
この車両データに基づき故障/異常もしくはその予兆を検知する異常予知部と、
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに上記管理修理関与者が乗車していれば上記ノイズキャンセル装置の騒音低減作用を停止もしくは低下させる、ノイズキャンセリング制御部と、
を備えてなる車室内の音制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室内の騒音を低減するためのノイズキャンセル装置を備えた車両における車室内の音制御方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において車室内の騒音を低減して快適な空間とするために、ノイズキャンセル装置例えばアクティブ方式のノイズキャンセル装置を車両に設けることが知られている。アクティブ方式のノイズキャンセル装置は、車室内の騒音をマイクロフォンで集音し、逆位相の音いわゆるアンチノイズ音を生成してスピーカーを介して車室内に出力するものであり、互いに逆位相の騒音とアンチノイズ音とが音響的に合成されることで、乗員が知覚する騒音が低減する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ノイズキャンセル装置としては、吸音構造や遮音構造によって騒音を低減する、いわゆるパッシブ方式のものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の何らかの故障や異常(以下では両者をまとめて「故障/異常」と記す)の比較的多くは、通常時と異なる音つまり異音の発生を伴う。致命的な故障に至る前に僅かな異音によって故障/異常が発見されることがあり得ることも経験上知られている。
【0006】
しかし、ノイズキャンセル装置を具備する車両では、このような故障/異常に関連した異音がマスキングされてしまい、車両の所有者等が異音に気付きにくくなる。また修理工場の作業者等にとっては、実際に異音を聞いて異常の箇所の特定や修理の要否を判断したりするようなことが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車室内の音制御方法は、車室内の騒音を低減するためにアクティブ方式もしくは騒音低減作用を変更可能なパッシブ方式のノイズキャンセル装置を備えてなる車両において、
車両の管理ないし修理に関与する管理修理関与者が乗員に含まれているかどうかを判定し、
車両の運転中に車両の故障/異常もしくはその予兆を監視し、
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに上記管理修理関与者が乗車していれば、上記ノイズキャンセル装置の騒音低減作用を停止もしくは低下させる。
【0008】
ここで、車両の管理ないし修理に関与する管理修理関与者とは、車両の故障/異常に際して修理や点検の手配や依頼を行う権限ないし義務を有する者(これらを管理者ともいう)ならびに依頼を受けて修理や点検に携わる者(これらを修理者ともいう)であり、例えば、車両の所有者、車両の管理責任者、レンタカー会社や配車サービスにおける車両責任者、自動車販売会社における保守の担当者、修理工場における作業者、等が含まれる。換言すれば、故障/異常に関連した異音を早期にかつ正しく聞き取ることが望ましい者である。
【0009】
レンタカーの利用者、配車サービスの利用者、車両を一時的に借りた利用者、タクシーの乗客、単なる同乗者、等は、管理修理関与者以外の者となる。換言すれば、故障/異常を知っても修理や点検の手配や依頼を行う権限ないし義務を有しておらず、また、修理作業にも関与しない者である。
【0010】
故障/異常もしくはその予兆を検知したときに管理修理関与者が乗車していれば、ノイズキャンセル装置の騒音低減作用を停止もしくは低下させる。これにより、仮に何らかの異音が発生していた場合に、この異音の聴取が可能となる。
【0011】
ノイズキャンセル装置としては、アンチノイズ音を出力するアクティブ方式であってもよく、例えば吸音孔の開閉や遮音板の位置の変更、音の通路の切換、等によって騒音低減作用を変更可能なパッシブ方式であってもよい。アクティブ方式であれば、例えば、逆位相のアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減、バンドパスフィルタや適応フィルタのフィルタ特性の変更、アンチノイズ音の出力停止、アンチノイズ音を同位相として付加することでの騒音の増大、等によって騒音低減作用の停止もしくは低下が実現される。パッシブ方式であれば、上記の吸音孔の閉塞等によって騒音低減作用の低下が実現される。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、通常はノイズキャンセル装置によって騒音が低減された快適な車室空間を得ることができる一方で、故障/異常もしくはその予兆がありかつ管理修理関与者が乗車しているときに、故障/異常に関連した異音が聞き取りやすくなり、致命的な故障に至る前の早期の修理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第1実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】第2実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図6】第3実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図8】第4実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図10】第5実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図12】第6実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図13】第6実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図15】第7実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図16】第7実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図18】第8実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図19】第8実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図21】第9実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図22】第9実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図23】第10実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図24】第10実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図25】第11実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図26】第11実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図27】第12実施例の音制御装置の機能ブロック図。
【
図28】第12実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の一実施例を詳細に説明する。以下の実施例は、一例として、アクティブ方式のノイズキャンセル装置を具備した自動車に本発明を適用したものである。一実施例の音制御装置の全体は、車両自体に搭載されるコンピュータシステムのほかに、例えば自動車メーカ等が管理するクラウドサーバや管理修理関与者(図中では管理者・修理者と記す)が所有するスマートフォン等の携帯デバイス、等を含むクラウドシステムとして構成されている。これらの間で必要な情報の授受が可能なように、いわゆるコネクテッドカーとして車両は構成されている。
【0015】
図1は、第1実施例の音制御装置の機能ブロック図である。この音制御装置は、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、を含む。なお、図示していないが、この音制御装置は、必要な情報の表示を行うための表示部(車載のディスプレイ、スマートフォン等の携帯デバイス、外部のPC、等)を有し得る。
【0016】
管理者・修理者データベース10は、管理修理関与者の識別情報を記憶した記憶部である。識別情報としては、例えば、管理修理関与者の顔写真情報、指紋情報、ID番号、社員番号、等の個人に紐付けられた情報(生体情報を含む)である。識別をより確実にするために管理修理関与者以外の識別情報を併せて保有するようにしてもよい。この管理者・修理者データベース10は、多くの場合は車両の外部に設けられるが、車両のコンピュータシステムがこの管理者・修理者データベース10を含んでいてもよい。
【0017】
乗員検出部20は、車両に実際に乗車している乗員を検出してその識別情報を取得するものであり、ドライバモニタリングのような車載カメラや指紋認識装置、ID番号等を入力するためのタッチパネル、等の乗員認識デバイスを含んでいる。
【0018】
乗員判断部30は、乗員検出部20が取得した乗員の識別情報と、管理者・修理者データベース10に蓄積されている識別情報と、を用いて管理修理関与者が乗員に含まれているかどうかの判断を行う。例えば、管理者・修理者データベース10に記憶されている顔写真情報と車載カメラが取得した乗員の画像情報の一致度から乗員を識別したり、乗員が入力したID番号を管理者・修理者データベース10の情報と比較する、などの方法が可能である。顔認証技術は、例えば顔の目、鼻、口などの特徴点の位置や顔領域の大きさ等の類似度(相関)を導出することで照合を行う。類似度が所定の閾値以上であれば、管理修理関与者であると判断し、閾値未満であれば管理修理関与者ではないと判断する。管理者・修理者データべース10に登録された指紋と車載デバイスによって認証された指紋の一致度や、管理者・修理者データべース10に登録されたID番号やログインパスワードと車載デバイスに入力されたID番号やログインパスワードが一致するかどうか、等によって判定することも可能である。
【0019】
なお社有車などでは、車両予約時に入力した社員番号を管理者・修理者データベース10の情報と比較することで、現在乗車している乗員の推定が可能であり、このような場合は、予約に用いる車両外部のデバイスが乗員認識デバイスに相当し得る。
【0020】
管理者・修理者データベース10は、一つのデータベースであってもよく、複数のデータベースを含むものであってもよい。例えば、車両の管理者と車両の修理者とがそれぞれ異なるデータベースに蓄積されている形のリレーショナルデータベース等であってもよい。
【0021】
好ましい一実施例では、乗員検出部20および乗員判断部30は、車室内にいる全ての乗員について管理修理関与者であるか否かの識別を行い、さらには管理修理関与者が車室内のどの座席に座っているかの特定を行う。簡易的な一実施例では、乗員検出部20および乗員判断部30は、運転席に座っている乗員のみについて、あるいは運転席および助手席に座っている乗員のみについて、管理修理関与者であるかどうかの識別を行う構成であってもよい。
【0022】
車両データ取得部100は、車両の故障/異常もしくはその予兆を検知するために、車両の運転中(走行中および一時的な停車中を含む)に、車両データを取得するものであり、例えば、車両のパワートレイン、サスペンション、空調装置、各種機器類、電装品、等に設けられている既存のセンサの出力信号あるいはこれらを制御するコントロールユニットの内部信号等を車両データとして収集する。異常予知部40は、このように収集される車両データに基づき、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆の検知を行う。ここでは、予兆なく故障/異常が生じた場合も検知される。
【0023】
故障/異常の予知の手法は、対象とする箇所や機器等に応じて種々の方法が知られており、適当な既知の方法を利用することができる。例えば、エンジン回転数やエンジン温度を含んだ時系列データなどに対して、所定の条件やルールに倣って各信号の閾値からの外れ値を検出する手法、インバリアント分析つまり複数の信号の相関関係をみて、一部の相関関係が崩れたタイミングを検出する方法、機械学習を用いて車両の状態(正常か異常か)を判定する手法、などが挙げられる。これら以外にも、故障/異常を検知ないし予知する手法であれば、どのような手法であってもよい。異常予知部40は、故障/異常を予知した場合に、故障/異常が発生するまでに走行可能な走行距離ないし走行時間を併せて予測するようにしてもよい。また、故障/異常が発生する部品の特定を併せて行うようにしてもよい。
【0024】
ノイズキャンセル装置60は、一実施例においては、公知のアクティブ方式のノイズキャンセル装置であり、車室内の騒音をマイクロフォンで集音し、逆位相の音いわゆるアンチノイズ音を生成してスピーカーを介して車室内に出力する。互いに逆位相の騒音とアンチノイズ音とが合成されることで、車室内の乗員が聴取する騒音が低減する。なお、本発明において「騒音」ないし「音」とは、一般的な人の可聴域よりも低周波側の一種の振動として人が感知する範囲をも含み得る。
【0025】
ノイズキャンセリング制御部50は、異常予知部40によって故障/異常の予兆を検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を低下させる。例えば、逆位相のアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減、バンドパスフィルタや適応フィルタのフィルタ特性の変更、等によって騒音低減作用を低下させることができる。
【0026】
このようにノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の低下により、何らかの故障/異常の予兆に関連して異音が生じている場合に、管理修理関与者が異音を聞き取ることが容易となる。従って、故障/異常の予兆が見逃されてより深刻な故障/異常に至ることが回避される。修理工場における作業者等の修理者にとっては、異音をより的確に聞き取ることで、異音の原因や発生箇所の特定が容易となる。
【0027】
一方、異常予知部40によって何らかの故障/異常の予兆が検知されたとしても、管理修理関与者が乗車していない場合は、ノイズキャンセル装置60の作用・効果が維持される。従って、車両の管理や修理に関与しない例えばレンタカーの利用者等に対しては騒音が低減した快適な車室空間が提供される。
【0028】
なお、後述する実施例のように、異常予知部40によって故障/異常の予兆を検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、ノイズキャンセル装置60の動作を停止するようにしてもよい。さらには、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の低下の一態様として、マイクロフォンで集音した騒音と逆位相のアンチノイズ音に代えて、マイクロフォンで集音した騒音と同位相の音を生成し、これをスピーカーから車室内に出力するようにしてもよい。この場合は、異音が積極的に強調されることになる。
【0029】
上記実施例はアクティブ方式のノイズキャンセル装置60を用いているが、ノイズキャンセル装置60がパッシブ方式である場合は、例えば、何らかのアクチュエータを介した、吸音孔の開閉や遮音板の位置の変更、音の通路の切換、等によって騒音低減作用の低下が行われる。
【0030】
図2は、第1実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、車両に搭載されたコンピュータシステムにおいて繰り返し実行される。まずステップ1(図中では、S1等と略記する)でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ2では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ5へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ7においてノイズキャンセリングを実行する。
【0031】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ3へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ4において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ5へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ7においてノイズキャンセリングを実行する。
【0032】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ6へ進み、騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ7においてノイズキャンセリングを実行する。つまり、前述したように、逆位相のアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減、バンドパスフィルタや適応フィルタのフィルタ特性の変更、等を行う。あるいは、ノイズキャンセリングの停止、あるいは、同位相の音による騒音の増大、等を行ってもよい。
【0033】
なお、ノイズキャンセリング制御の設定変更を行う場合は、表示部となる車両のディスプレイや車室内の管理修理関与者のスマートフォン等の携帯デバイスにおいて、その旨の表示を行うことが望ましい。この表示により、管理修理関与者は、異音に集中して聞き取りを行うことができ、また、ノイズキャンセル装置60の故障ではないことを知ることができる。
【0034】
次に、
図3および
図4に基づいて本発明の第2実施例を説明する。
【0035】
図3に示すように、第2実施例の音制御装置は、第1実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、を有し、さらに、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、を有する。またノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。
【0036】
部品特定部70は、異常予知部40が故障/異常を予知したときに、故障/異常に関連して異音を生じる可能性がある部品を特定する。車両データ取得部100により収集された種々の車両信号や、例えば故障/異常が発生するまでに走行可能な走行距離ないし走行時間の予測に基づいて推定される故障/異常の重大度、等から、故障した部品、あるいは、故障/異常の前の症状として現れる異音に関わる部品、を特定する。なお、特定される部品には、その部品自体が故障していなくても、他の異常等に関連して、例えば共鳴ないし共振によって異音が生じる部品も含まれ得る。またオイルパンのドレンボルトを修理時に十分に締めていなかったような場合も含まれ得る。このような場合は、過去の修理履歴等から部品を特定することも可能である。
【0037】
部品特定方法の一例を説明すると、車両信号と、車両信号から導出可能な要素と、を用いて特定を行う。例えば、車両信号から導出可能な要素を、「異常種別」、「残り走行可能距離」の2要素とする。「異常種別」とは、このまま継続して走行を続けた場合にどんな故障もしくは異常が発生するかの内容を表し、どの車両信号から異常が予知されたかを確認することで推定可能である。「残り走行可能距離」は、故障/異常が発生するまでに走行可能な走行距離であり、このまま走行を続けた場合に故障/異常が発生すると予測されるときの累積走行距離と、故障/異常の予兆を検知したときの累積走行距離と、の差分となる。残り走行可能距離は、例えば、異常度や正常時の信号の振る舞いからの乖離度の大きさなど、故障/異常の予兆を検知したときの信号の振る舞いから推定可能である。
【0038】
ここで、一例として、異常種別が「エンジン失火」、残り走行可能距離が80km、であると想定する。異常種別であるエンジン失火の要因として考えられる故障部品は、スパークプラグ、インジェクタ、エアフロセンサ、等のいくつかの部品が考えられる。これらの複数の候補部品に関して、例えば、車両信号の中から異常の兆候が表れるタイミングを統計的に導出した値と、上記のように予測した残り走行可能距離と、を照らし合わせることで、候補部品の中から可能性の高い故障部品を特定する。
【0039】
例えば、上記の3つ部品について、今後エンジン失火が発生する場合に、失火の兆候が車両信号の挙動変化として表れるタイミングが、統計的にそれぞれ以下の通りであると想定する。
【0040】
スパークプラグ:故障/異常発生前の30km前
インジェクタ:故障/異常発生前の75km前
エアフロセンサ:故障/異常発生前の150km前
このような例では、エンジン失火を予知したタイミングでの残り走行可能距離が80kmであることから、この残り走行可能距離80kmに最も近い「インジェクタ」が故障/異常を生じる部品である、と特定される。
【0041】
また、他の例として、例えば、異常種別が「ウォータータンク締結用のボルトの緩み」、残り走行可能距離が1000km、であると想定したときに、部品特定の結果を「エンジンボルト3か所、および、緩みによって振動するウォータータンク」といったように、複数部品を含む形で特定してもよい。
【0042】
なお、故障/異常の予兆を検知したときにこれに関連した部品を特定する方法は、上記の例に限らず、いかなる方法であってもよい。
【0043】
不具合情報取得部80は、種々の車両の不具合情報を蓄積した不具合情報データベース90から問題となる部品に関連した不具合情報を取得するものである。不具合情報データベース90は、通常は車両の外部、例えば自動車メーカが管理するクラウドサーバに構築されるものであり、種々の車両の不具合症状(異音・振動など)と、不具合発生部品と、不具合に関連した異音の周波数帯域と、を含んだデータが蓄積されている。さらに、好ましい一実施例においては、これらの不具合情報は、車両の車種、生産工場、生産時期、の情報を含んでいる。これにより、不具合情報取得部80は、自車両に対応した不具合情報を参照して、部品特定部70が特定した問題となる部品について、異音が生じるであろう周波数帯域(ピンポイントの周波数であってもよい)を特定することができる。
【0044】
不具合症状とは、広くは、異音、振動、異臭、高温状態など、車両部品ないし車両構成要素の深刻な故障/異常が発生する前の兆候として表れる車両の正常状態とは異なる音、振動、匂い、温度等に関わる現象を表すが、本実施例では、異音(低周波振動を含む)に限って不具合症状を取り扱う。従って、異音の症状に関する周波数帯域が分かる故障/異常モードを対象にして、故障/異常発生前の段階における症状および故障/異常発生後の段階における症状に関する周波数帯域を不具合情報として不具合情報データベース90に蓄積していく。
【0045】
不具合発生部品とは、顧客からの不具合相談時、故障解析時、生産工程での検査時において、不具合ないし故障/異常が発生していた1つないし複数の部品または部品構成要素、あるいは、異音・振動の症状発生の原因として考えられる1つないし複数の部品または部品構成要素、を指す。また、それ自体が故障した部品とは別に、部品同士が共鳴・共振して異音・振動を生じる部品の情報を含んでもよい。
【0046】
不具合情報データベース90の構築のために、不具合が発生した車両の不具合症状(異音・振動など)と不具合発生部品と不具合に関連した異音の周波数帯域とを含んだデータを取得する手段として、例えば、以下のようなものが考えられる。
【0047】
・ユーザがディーラーや修理工場に持ち込んだときの報告書が蓄積されたデータベースの情報
・カスタマーサポートセンターに届いた問合せ内容と問い合わせ時に送信された音データ(不具合に関して報告・相談された時のレポート内容)
・不具合が発生した車両から遠隔でサーバに送信された情報
・開発部署での車両の不具合解析データ
・工場での生産・検査工程における解析結果(例えば、ホーンのねじが緩んでいたことで生じる異音に関わる情報)
・インターネットやSNS上に記載される口コミとアップロードされた動画データ
不具合情報のフォーマットは、例えば、サーバに蓄積されたテキストデータや会話内容を文字に起こしたテキストデータ等が考えられるが、不具合症状および車両情報が記載されたデータであれば任意のフォーマットのデータを用いることができる。周波数成分の情報は、例えば、不具合症状が報告された車両から車両信号や計測パラメータを用いて直接もしくは遠隔で取得してもよく、アップロードされた音データ・動画データの音成分をFFT解析などの手法で解析したりすることで取得してもよい。
【0048】
なお、不具合情報取得部80が不具合情報に基づいて特定する異音の周波数帯域としては、上述したようにピンポイントの周波数であってもよく、また、離散的な複数の周波数帯域(例えば、1000Hz~1100Hzの帯域と、1500Hz~1550Hzの帯域、など)を含むものであってもよい。
【0049】
ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を有し、上記のように異音が生じるであろうと特定される周波数帯域を対象として、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を低下させる。つまり異音に対応した周波数帯域についてのみ、例えばアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減を行い、それ以外の周波数帯域については十分なノイズキャンセリングを行う。ここで、騒音低減作用を低下させる周波数帯域は、不具合情報に基づいて問題となる部品が発生すると考えられる対象の周波数帯域を少なくとも含むように設定される。例えば、予想される異音の周波数帯域が1000Hz~1100Hzであれば、少なくともこの周波数帯域を含むように、例えば、1000Hz~1100Hz、あるいは、900Hz~1200Hz、などのように騒音低減作用を低下させる周波数帯域が設定される。なお、ロードノイズ等の他の騒音を低減するためには、予想される異音の周波数帯域にできるだけ限定することが望ましい。
【0050】
このような第2実施例においては、異常予知部40によって故障/異常の予兆を検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、故障/異常に関連して生じるであろう異音の周波数帯域でのみノイズキャンセル装置60の騒音低減作用が低下するので、ロードノイズやエンジン回転によって生ずるこもり音あるいは共鳴音など故障/異常に無関係な騒音を抑制しつつ、故障/異常に関連した異音を聞き取りやすくすることができる。
【0051】
図4は、第2実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、第1実施例と同様に、車両に搭載されたコンピュータシステムにおいて繰り返し実行される。まずステップ11でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ12では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ17へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ19においてノイズキャンセリングを実行する。
【0052】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ13へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ14へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。
【0053】
次にステップ15へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ16において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ17へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ19においてノイズキャンセリングを実行する。
【0054】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ18へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ19においてノイズキャンセリングを実行する。
【0055】
次に、
図5および
図6に基づいて本発明の第3実施例を説明する。
【0056】
図5に示すように、第3実施例の音制御装置は、第2実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第3実施例では、ノイズキャンセル装置60が音合成部61を含んでいる。
【0057】
故障/異常の予兆を検知したときの部品の特定および不具合情報の取得については第2実施例と同様である。
【0058】
この第3実施例は、故障/異常に関連して予想される異音の周波数帯域を対象として、同周波数帯域の騒音を増大させることで異音を聞き取りやすくするものである。これは、特に、故障/異常に関連して生じる異音が聞こえにくい故障モードや、車室における素材で遮音ないし吸音されやすい周波数帯域の音が生じる故障モードに対して有効である。
【0059】
ノイズキャンセル装置60に含まれる音合成部61は、マイクロフォンで集音した騒音の中で、不具合情報に基づく特定の周波数帯域の音に対して同位相の音を生成し、他の周波数帯域の騒音に対するアンチノイズ音と合成して、スピーカーから車室内へ出力する。
【0060】
ここで、同位相の音を付加して音を増大させる周波数帯域は、不具合情報に基づいて問題となる部品が発生すると考えられる対象の周波数帯域を少なくとも含むように設定される。例えば、予想される異音の周波数帯域が1000Hz~1100Hzであれば、少なくともこの周波数帯域を含むように、例えば、1000Hz~1100Hz、あるいは、900Hz~1200Hz、などのように騒音を増大させる周波数帯域が設定される。なお、ロードノイズ等の他の騒音を低減するためには、予想される異音の周波数帯域にできるだけ限定することが望ましい。
【0061】
このような第3実施例においては、異常予知部40によって故障/異常の予兆を検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、故障/異常に関連して生じるであろう異音の周波数帯域では音が増大され、他の周波数帯域ではノイズキャンセリングが行われるので、ロードノイズやエンジン回転によって生ずるこもり音あるいは共鳴音など故障/異常に無関係な騒音を抑制しつつ、故障/異常に関連した異音を聞き取りやすくすることができる。
【0062】
なお、同位相の音の音圧ないしエネルギをどの程度に設定するか、および、他の周波数帯域でのアンチノイズ音の音圧ないしエネルギをどの程度に設定するか、は任意である。また、同位相の音の付加により特定の周波数帯域での異音の強調のみを行い、他の周波数帯域でのノイズキャンセリングを行わないようにしてもよい。
【0063】
図6は、第3実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ21でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ22では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ27へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ29においてノイズキャンセリングを実行する。
【0064】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ23へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ24へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。
【0065】
次にステップ25へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ26において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ27へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ29においてノイズキャンセリングを実行する。
【0066】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ28へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、特定の周波数帯域を対象として同位相の音を生成してアンチノイズ音に付加するようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ29においてノイズキャンセリングを実行する。
【0067】
次に、
図7および
図8に基づいて本発明の第4実施例を説明する。
【0068】
図7に示すように、第4実施例の音制御装置は、第2実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第4実施例では、故障/異常が発生したことを検知する故障検出部110を有し、また、ノイズキャンセル装置60が機能停止部62を含んでいる。
【0069】
故障/異常の予兆を検知したときの部品の特定および不具合情報の取得については第2実施例と同様である。
【0070】
この第4実施例は、故障/異常の予兆を検知した後、実際に故障/異常が発生したときに、予想される異音の周波数帯域を対象としてノイズキャンセリングを停止することで、管理修理関与者が故障/異常に気付きやすくするものである。
【0071】
故障検出部110は、種々の車両データや、異常予知部40で求められる異常度の推移、などから、故障/異常の予兆を検知していた問題の部品が故障/異常に至ったことを検出する。例えば、何らかの部品の駆動・制御を行うハーネスの断線(故障)では、ハーネスの電圧信号を用いて、電圧値が規定値の範囲内の値にあれば正常であり、ハーネスの電圧値が規定値の範囲外の値にあれば、故障の予兆であると判断でき、さらに、電圧値が取得できなくなったときに、ハーネスが断線したと判断できる。
【0072】
ノイズキャンセル装置60に含まれる機能停止部62は、故障検出部110が故障/異常に至ったと判断したときに、異音が生じるであろうと特定される周波数帯域を対象として、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を停止する。つまり異音に対応した周波数帯域についてのみ、ノイズキャンセリングを停止し、それ以外の周波数帯域についてはノイズキャンセリングを行う。ここで、騒音低減作用を停止する周波数帯域は、不具合情報に基づいて問題となる部品が発生すると考えられる対象の周波数帯域を少なくとも含むように設定される。例えば、予想される異音の周波数帯域が1000Hz~1100Hzであれば、少なくともこの周波数帯域を含むように、例えば、1000Hz~1100Hz、あるいは、900Hz~1200Hz、などのように騒音低減作用を停止する周波数帯域が設定される。なお、ロードノイズ等の他の騒音を低減するためには、予想される異音の周波数帯域にできるだけ限定することが望ましい。
【0073】
このような第4実施例においては、故障検出部110によって故障/異常に至ったことを検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、故障/異常に関連して生じるであろう異音の周波数帯域でのみノイズキャンセル装置60の騒音低減作用が停止するので、ロードノイズやエンジン回転によって生ずるこもり音あるいは共鳴音など故障/異常に無関係な騒音を抑制しつつ、故障/異常に関連した異音を聞き取りやすくすることができる。
【0074】
なお、好ましい一実施例においては、故障/異常の予兆を検知した段階では、騒音低減作用の低下は行わないが、第1実施例のように予兆の検知から故障/異常に至るまでの間、異音の周波数帯域の騒音低減作用を通常時よりも低下させるようにしてもよい。
【0075】
また、故障/異常に至ったことを検知したときに、特定の周波数帯域ではなく全周波数帯域のノイズキャンセリングを停止するようにしてもよい。
【0076】
また、故障/異常の予知に関連して複数の部品が問題となっている場合に、故障/異常に至った部品の点数に基づいてノイズキャンセリングを停止するか否かを決定するようにしてもよい。
【0077】
図8は、第4実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ31でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ32では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ37へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ40においてノイズキャンセリングを実行する。
【0078】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ33へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ34へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。
【0079】
次にステップ35へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ36において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ37へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ40においてノイズキャンセリングを実行する。
【0080】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ38へ進み、特定ないし推定された部品が故障/異常に至ったか判定する。故障/異常に至っていなければ、ステップ37へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ40においてノイズキャンセリングを実行する。
【0081】
特定ないし推定された部品が故障/異常に至ったと判定した場合は、ステップ39へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を停止するようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ40においてノイズキャンセリングを実行する。この場合は、特定の周波数帯域以外の周波数帯域でのみノイズキャンセリングがなされる。
【0082】
次に、
図9~
図11に基づいて本発明の第5実施例を説明する。
【0083】
第5実施例は、故障/異常の予兆を検知した場合に、車両の修理が可能な修理地点の位置情報を取得し、車両が修理地点に近付いたら、騒音低減作用をさらに低下させることで、管理修理関与者が異音に気付いて車両の修理ないし点検へ向かうようにするものである。
【0084】
図9に示すように、第5実施例の音制御装置は、第2実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第5実施例では、位置情報取得部120を備えている。
【0085】
位置情報取得部120は、自車両の位置つまり現在地の緯度経度情報を例えばGPS(Global Positioning System)130等から取得する。GPS130に限らず、スマートフォン等の位置情報を取得可能な任意のデバイスから取得した現在位置を用いることも可能である。また位置情報取得部120は、周辺の修理地点の位置情報を修理地点位置情報データベース140から取得し、現在地との間の距離(あるいは所要時間)を求める。
【0086】
修理地点の位置情報とは、修理地点の地理的位置データ(例えば緯度経度や標高などの情報に、地名や名称などのラベルとなるテキスト情報を付加したもの)である。修理地点とは、例えば、メンテナンスサービスを実施するディーラーや修理工場、ガソリンスタンドなどを指す。また、自店舗を構える修理地点のみならず、店舗を構えていないが修理サービスを実施している場所の緯度経度と修理サービス提供者の情報とを修理地点として含めてもよい。なお、修理地点は、単一の箇所でも複数個所でも設定可能であり、修理地点の情報源は任意である。修理地点情報データベース140は、車両のナビゲーションシステム等が含んでいてもよく、車両外部にあってもよい。また、修理地点の設定は、ユーザがナビゲーションシステムなどに手動で登録するものであってもよい。
【0087】
車両と修理地点までの距離を演算する際は、最寄りの修理地点など1箇所に限定して距離を演算してもよいし、複数の修理地点までの距離を求めてもよい。また、単純な距離だけではなく、距離および道路状況から求めた各修理地点までの所要時間を基準に最も近い修理地点を決定し、その所要時間ないし距離を求めるようにしてもよい。
【0088】
周波数帯域設定部51を有するノイズキャンセリング制御部50は、異常予知部40によって故障/異常の予兆を検知し、かつ乗員判断部30によって管理修理関与者が車室内にいると判断したときに、故障/異常に関連して生じるであろう異音の周波数帯域を対象としてノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を低下させる。さらに、位置情報取得部120により求められる修理地点までの距離(あるいは所要時間)に応じて、修理地点に近いほど騒音低減作用をより低下させ、異音がより耳障りとなるようにする。
【0089】
例えば、車両と修理地点までの距離(あるいは所要時間)が所定の閾値以内であれば、閾値よりも大きい場合に比較して、騒音低減作用をより低下させ、対象の周波数帯域の音を聞こえやすくする。例えばアンチノイズ音の音圧を相対的に低くする。なお、騒音低減作用の程度を2段階ではなくさらに多くの複数段階に変化させるようにしてもよい、距離ないし所要時間に応じて騒音低減作用を連続的に変化させるようにしてもよい。
【0090】
図10は、第5実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ41でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ42では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ47へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ53においてノイズキャンセリングを実行する。
【0091】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ43へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ44へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。
【0092】
次にステップ45へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ46において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ47へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ53においてノイズキャンセリングを実行する。
【0093】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ48へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。
【0094】
次に、ステップ49において1つあるいは複数の修理地点の位置情報を取得し、ステップ50において車両の現在の位置情報を取得する。そして、ステップ51において、所定の距離閾値(あるいは所要時間閾値)の範囲内に最寄りの修理地点が存在するかを判定し、YESであれば、ステップ52において、特定の周波数帯域の騒音低減作用がさらに低下するようにノイズキャンセリング作用を補正する。そして、ステップ53においてノイズキャンセリングを実行する。修理地点が遠い場合は、特定の周波数帯域を対象とした騒音低減作用の低下が初期設定のレベルでなされる。
【0095】
なお、第5実施例は、第3実施例のように同位相の音を付加して異音の増大を図る構成と組み合わせることもできる。この場合は、修理地点に近いときに同位相の音の音圧ないしエネルギが大となるようにノイズキャンセル装置60が制御される。
【0096】
図11は、第5実施例の説明図であり、修理地点P0から遠い地点P2では、故障/異常の予兆が検知されたときに管理修理関与者が乗車していれば、特定の周波数帯域についてノイズキャンセル装置60の騒音低減作用が低くなる。これによって、乗車している管理修理関与者が異音に気付きやすくなる。そして、修理地点P0に近い地点P1になると、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用がさらに低くなる。これによって、乗車している管理修理関与者がより確実に異音に気付くようになり、また、異音を大きく感じることで、修理地点に立ち寄って修理ないし点検を行う動機付けとなる。
【0097】
次に、
図12~
図14に基づいて本発明の第6実施例を説明する。
【0098】
第6実施例は、故障/異常の予兆を検知した場合に、関連して生じる異音の発生時期を予測し、この異音発生時期に到達したときに騒音低減作用の停止もしくは低下を開始するようにしたものである。これは、故障/異常の予兆の検知が異音の発生よりも早期に可能である場合に有利である。また異音発生時期前に乗員が頻繁に交代するような場合に制御の煩雑さが生じない。
【0099】
図14は、第6実施例の説明図であり、横軸は故障/異常発生に至るまでの残り走行可能距離である。例えば、ある故障/異常の予兆が残り走行可能距離が100kmのタイミングで検知されたとし、この故障/異常に関連した異音は残り走行可能距離が30kmのタイミングで生じ始めるものとする。この場合、第6実施例では、症状や問題となる部品等に応じて異音発生時期(上記の例では残り走行可能距離が30kmのとき)を予測し、残り走行可能距離が30kmに至るまではノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の低下を行わない。そして、残り走行可能距離が30kmに達したときに、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の停止もしくは低下を開始する。
【0100】
このような制御により、例えば残り走行可能距離が30kmに達するまでの間は、ノイズキャンセリングにより快適な車室空間が維持されることとなる。
【0101】
図12に示すように、第6実施例の音制御装置は、前述の各実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第6実施例では、異音発生時期推定部210を備えている。なお、第2実施例等のように、不具合情報取得部80および不具合情報データベース90を含んでいてもよい。
【0102】
異音発生時期推定部210は、故障/異常の予兆の検知に利用される車両信号の挙動変化や正常な信号からの乖離度などに基づき、上述した例のように、異音発生時期を推定する。異音発生時期は、異音発生までの残り時間もしくは残り走行可能距離でもって示すことができる。
【0103】
また、不具合情報取得部80および不具合情報データベース90を具備する場合は、不具合情報データベース90に蓄積された不具合情報を参照して、異音発生時期を推定するようにしてもよい。
【0104】
図13は、第6実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ61でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ62では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ67へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ70においてノイズキャンセリングを実行する。
【0105】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ63へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ64へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に基づいて異音発生時期を推定する。
【0106】
次にステップ65へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ66において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ67へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ70においてノイズキャンセリングを実行する。
【0107】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ68へ進み、ステップ64で推定した異音発生時期に達したかを判定する。異音発生時期に達するまでは、通常のノイズキャンセリング制御を継続する。
【0108】
異音発生時期に達したらステップ69へ進み、特定ないし推定された部品に基づいて、特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ70においてノイズキャンセリングを実行する。
【0109】
なお、第6実施例を、前述したノイズキャンセリングの停止や同位相の音の付加を行う構成と組み合わせることもできる。
【0110】
次に、
図15~
図17に基づいて本発明の第7実施例を説明する。
【0111】
第7実施例は、故障/異常の予兆を検知した場合に、関連して生じる異音の周波数帯域の遷移およびその時期を予測し、遷移していく各々の周波数帯域を対象として騒音低減作用の停止もしくは低下を行うようにしたものである。これは、故障/異常の症状の推移として異音の周波数帯域が変化する場合に有利である。
【0112】
図17は、第7実施例の説明図であり、横軸は故障/異常発生に至るまでの残り走行可能距離である。例えば、ある故障/異常の予兆が残り走行可能距離が35kmのタイミングで検知されたとし、この故障/異常に関連した異音は残り走行可能距離が30kmのタイミングで生じ始めるものとする。そして、残り走行可能距離が20kmまでの区間の異音とその後の区間の異音とで周波数帯域が異なるものと仮定する。この場合、第7実施例では、症状や問題となる部品等に応じて最初の異音発生時期(上記の例では残り走行可能距離が30kmのとき)および異音の周波数帯域が変化する時期(上記の例では残り走行可能距離が20kmのとき)を予測し、残り走行可能距離が30kmから20kmまでの区間と、20km以降の区間と、でそれぞれの異音に対応した特定の周波数帯域を対象としてノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の停止もしくは低下を行う。
【0113】
このような制御により、症状の推移に伴って異音の周波数帯域が遷移していく場合でも、異音を聞き取りやすくすることができる。
【0114】
図15に示すように、第7実施例の音制御装置は、第2実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第7実施例では、第6実施例と同様の異音発生時期推定部210を有し、さらに、遷移情報取得部220を含んでいる。遷移情報取得部220は、前述した例のように異音の周波数帯域が遷移ないし変化する時期およびその周波数帯域を不具合情報等に基づいて推定するものである。
【0115】
図16は、第7実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ71でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ72では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ79へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ84においてノイズキャンセリングを実行する。
【0116】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ73へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ74へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に基づいて異音発生時期を推定する。さらに、ステップ75において、故障/異常の症状の進行(例えば段階的な進行)の情報を取得するとともに、ステップ76において、不具合情報データベース90に蓄積された不具合情報に基づき、各々の段階での周波数帯域の情報を取得する。
【0117】
次にステップ77へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ78において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ79へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ84においてノイズキャンセリングを実行する。
【0118】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ80へ進み、ステップ74で推定した異音発生時期に達したかを判定する。異音発生時期に達するまでは、通常のノイズキャンセリング制御を継続する。
【0119】
異音発生時期に達したらステップ81へ進み、特定ないし推定された部品に基づいて、初期段階での特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ84においてノイズキャンセリングを実行する。
【0120】
またステップ82において症状の段階が次の段階に遷移したか判定する。症状の段階が次の段階に遷移していたら、ステップ83へ進み、次の段階での特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ84においてノイズキャンセリングを実行する。
【0121】
なお、第7実施例を、前述したノイズキャンセリングの停止や同位相の音の付加を行う構成と組み合わせることもできる。
【0122】
次に、
図18~
図20に基づいて本発明の第8実施例を説明する。
【0123】
第8実施例は、第7実施例と同様に故障/異常の予兆としての症状(換言すれば重大度)が徐々に進行することを前提として、重大度が大きいほど騒音低減作用を小さくするようにしたものである。つまり、症状が進行するほど異音が聞き取りやすい状況とし、管理修理関与者が異音に気付きやすいものとなる。
【0124】
図20は、第8実施例の説明図であり、横軸は故障/異常発生に至るまでの残り走行可能距離である。例えば、ある故障/異常の予兆が残り走行可能距離が35kmのタイミングで検知されたとし、この故障/異常に関連した異音は残り走行可能距離が30kmのタイミングで生じ始めるものとする。そして、残り走行可能距離が20kmまでの区間とその後の区間とで故障/異常の予兆の重大度が異なるものと仮定する。なお、
図17の説明図と同様に、各々の区間では、異音の周波数帯域が異なる。この場合、第8実施例では、残り走行可能距離が30kmから20kmまでの区間と、20km以降の区間と、で、それぞれ異なるレベルで、各区間に対応した特定の周波数帯域を対象としてノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の低下を行う。詳しくは、20km以降の区間の騒音低減作用を相対的に小さくする。なお、
図20の線L1は、症状の進行度を示し、線L2は、症状の進行度に応じた騒音低減作用のレベル(例えばアンチノイズ音の音圧)を表している。線L2は、騒音低減作用が連続的に変化する例となっている。
【0125】
図18に示すように、第8実施例の音制御装置は、第7実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、異音発生時期推定部210と、遷移情報取得部220と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第8実施例では、ノイズキャンセリング制御部50は、特定の周波数帯域に対する例えばアンチノイズ音の音圧を可変制御する制御量調整部52を備えている。
【0126】
制御量調整部52は、故障/異常の予兆の重大度が大であるほどアンチノイズ音の音圧を小さくし、騒音低減作用を抑制する。
【0127】
図19は、第8実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ91でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ92では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ99へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ104においてノイズキャンセリングを実行する。
【0128】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ93へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ94へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に基づいて異音発生時期を推定する。さらに、ステップ95において、故障/異常の症状の進行(例えば段階的な進行)の情報を取得するとともに、ステップ96において、不具合情報データベース90に蓄積された不具合情報に基づき、各々の段階での周波数帯域の情報を取得する。
【0129】
次にステップ97へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ98において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ99へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ104においてノイズキャンセリングを実行する。
【0130】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ100へ進み、ステップ94で推定した異音発生時期に達したかを判定する。異音発生時期に達するまでは、通常のノイズキャンセリング制御を継続する。
【0131】
異音発生時期に達したらステップ101へ進み、特定ないし推定された部品に基づいて、初期段階での特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ104においてノイズキャンセリングを実行する。
【0132】
またステップ102において症状の段階が次の段階に遷移したか判定する。症状の段階が遷移していたら、ステップ103へ進み、次の段階での特定の周波数帯域を対象として、また騒音低減作用がより小さくなるようにノイズキャンセリングの制御量を小さく(例えばアンチノイズ音の音圧を抑制)して、ノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ104においてノイズキャンセリングを実行する。
【0133】
なお、ある段階で前述したノイズキャンセリングの停止や同位相の音の付加を行うようにしてもよい。
【0134】
次に、
図21および
図22に基づいて本発明の第9実施例を説明する。
【0135】
第9実施例は、故障/異常の予兆を検知したときに、管理修理関与者以外の者が乗員に含まれているかどうかを判定し、管理修理関与者以外の者が乗員に含まれている場合には、騒音低減作用の停止もしくは低下を実行するかどうかを管理修理関与者に問い合わせるようにしたものである。特定の周波数帯域であっても騒音低減作用を停止もしくは低下すると騒音が増加し、車室の快適性が損なわれるので、管理修理関与者以外の者が乗車している場合には、状況に応じて管理修理関与者が選択できるようにしているのである。
【0136】
図21に示すように、第9実施例の音制御装置は、第1実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、を有する。ここで、第9実施例では、乗員判断部30が選択画面送受信部31を含み、表示部となる管理修理関与者が所有するスマートフォン等の携帯デバイスとの間で問い合わせを行う。
【0137】
なお、この例は、第1実施例の構成に準じたものとなっているが、他の実施例と組み合わせることもできる。
【0138】
乗員判断部30は、乗員に管理修理関与者が含まれているかどうかを判断すると同時に、管理修理関与者以外の者が含まれているかどうかを判断する。管理修理関与者以外の者が乗車している場合には、故障/異常の予兆が検知されたときに、選択画面送受信部31を介して、例えば
図30に例示するような問い合わせ画面を管理修理関与者の携帯デバイスへ出力する。この問い合わせに管理修理関与者が応答することで、ノイズキャンセル装置60の騒音低減作用の停止もしくは低下を行うか否かが選択可能である。
【0139】
図30の図(a)に示す画面が初期の問い合わせ画面であり、「現在車両には、お客様も同乗しています。ノイズキャンセリングモードを選んでください。」旨の表示がなされるとともに、「通常のノイズキャンセリングモード」および「症状確認モード」の選択ボタンが表示される。「症状確認モード」とは、異音の確認のためにノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を小さくするモードである。管理修理関与者が「症状確認モード」を選択すると、さらに図(b)に示す画面表示に変化する。ここでは、「希望する制御方法を選んでください。」旨の表示がなされるとともに、「キャンセリング量低減モード」および「異音・振動強調モード」の選択ボタンが表示され、いずれかの選択が可能となる。「キャンセリング量低減モード」は例えばアンチノイズ音の音圧を低下させるモードであり、「異音・振動強調モード」は同位相の音を付加することで騒音を増大させるモードである。
【0140】
図22は、第9実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ111でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ112では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ116へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。
【0141】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ113へ進み、車室内の乗員を検出する。ここでは、車室内の全員の検出を行う。そしてステップ114において、乗員が複数人であるか否かを判別する。
【0142】
乗員が1人である場合はステップ114からステップ115へ進み、乗員が管理修理関与者であるか否かを判定する。管理修理関与者でなければ、ステップ116に進んでノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。
【0143】
管理修理関与者であれば、ステップ117へ進み、騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。つまり、前述したように、逆位相のアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減、バンドパスフィルタや適応フィルタのフィルタ特性の変更、等を行う。あるいは、ノイズキャンセリングの停止、あるいは、同位相の音による騒音の増大、等を行ってもよい。
【0144】
乗員が複数人である場合は、ステップ114からステップ119へ進み、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ116へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。
【0145】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ120へ進み、乗車している管理修理関与者の携帯デバイスへ
図30で例示したような問い合わせ画面を送信・表示する。次にステップ121において、問い合わせに対する管理修理関与者の回答、つまりノイズキャンセリング効果低減(
図30の「症状確認モード」)を選択したか否かを判定する。管理修理関与者がノイズキャンセリング効果低減を選択しなかった場合は、ステップ116へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。管理修理関与者がノイズキャンセリング効果低減を選択した場合は、ステップ117へ進み、騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ118においてノイズキャンセリングを実行する。
【0146】
次に、
図23および
図24に基づいて本発明の第10実施例を説明する。
【0147】
第10実施例は、故障/異常の予兆を検知したときに、車室内での管理修理関与者の着座位置を特定し、この管理修理関与者の着座位置付近での騒音低減作用を停止もしくは低下させるようにしたものである。仮に管理修理関与者以外の者が同乗していても、管理修理関与者以外の者が着座している空間付近では通常の騒音低減作用が維持されるので、車室内の快適性を損なう程度が小さくなる。
【0148】
図23に示すように、第10実施例の音制御装置は、第1実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、を有する。ここで、第10実施例では、乗員検出部20が位置検出部21を含んでおり、各乗員の着座位置が特定される。また、ノイズキャンセル装置60は、音出力方向制御部63を含んでいる。音出力方向制御部63は、複数のスピーカーの制御等によって、車室内でアンチノイズ音や合成音を出力する方向を制御する。
【0149】
なお、この例は、第1実施例の構成に準じたものとなっているが、他の実施例と組み合わせることもできる。
【0150】
図24は、第10実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ131でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ132では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ136へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ139においてノイズキャンセリングを実行する。
【0151】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ133へ進み、車室内の乗員を検出する。ここでは、車室内の全員の検出を行う。そしてステップ134において、各乗員の位置情報(つまり着座位置)を取得する。
【0152】
次にステップ135において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ136へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ139においてノイズキャンセリングを実行する。
【0153】
管理修理関与者が含まれていれば、ステップ137へ進み、騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。さらにステップ138において、通常のノイズキャンセリングのためのアンチノイズ音をスピーカーを介して出力する方向と、騒音低減作用が低くなるように設定変更したアンチノイズ音をスピーカーを介して出力する方向と、を管理修理関与者の着座位置に基づいて決定する。そして、ステップ139においてノイズキャンセリングを実行する。つまり、管理修理関与者が着座している車室内の特定の領域(音場)でのみ逆位相のアンチノイズ音の音圧ないしエネルギの低減やノイズキャンセリングの停止、あるいは、同位相の音による騒音の増大、等を行う。
【0154】
次に、
図25および
図26に基づいて本発明の第11実施例を説明する。
【0155】
第11実施例は、不具合情報データベース90に予め蓄積される不具合情報が、車両の車種、生産工場および生産時期を含むものとし、故障/異常の予兆を検知したときに、車種、生産工場、生産時期の少なくとも1つが一致する不具合情報を参照して、異音を生じ得る部品の特定および対象とする周波数帯域の決定を行うものである。
【0156】
図25に示すように、第11実施例の音制御装置は、第2実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有し、ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでいる。そして、第11実施例では、不具合情報取得部80が車両情報取得部81と不具合情報選択部82とを含んでいる。
【0157】
不具合情報取得部80は、車両情報取得部81が車両データ等から取得した車両情報(車種、生産工場、生産時期)に基づき、不具合情報データベース90に蓄積されている不具合情報の中から自車両に該当する範囲の不具合情報を選択的に取得する。これにより効率良く該当する不具合情報を収集することができる。車両情報としては、車種、生産工場、生産時期、のほか、エンジンタイプ、車両部品の仕様、などを含めることもできる。
【0158】
図26は、第11実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ141において、自車両の車両情報を取得する。なお、車両外部のデータベースに問い合わせて車両情報を取得するものであってもよい。次にステップ142でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ143では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ148へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ150においてノイズキャンセリングを実行する。
【0159】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ144へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ145へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。特に、車両情報を利用して該当する車両についての不具合情報を抽出する。
【0160】
次にステップ146へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ147において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ148へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ150においてノイズキャンセリングを実行する。
【0161】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ149へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、特定の周波数帯域を対象として騒音低減作用を低下させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ150においてノイズキャンセリングを実行する。
【0162】
なお、第11実施例の車両情報に関する構成を第2実施例以外の実施例と組み合わせることもできる。
【0163】
次に、
図27および
図28に基づいて本発明の第12実施例を説明する。
【0164】
第12実施例は、第2実施例で例示したような特定の周波数帯域を対象として、アンチノイズ音を通常レベルよりも小さくする第1の制御モードと、第3実施例で例示したような特定の周波数帯域を対象として、同周波数帯域の騒音を増大させる第2の制御モードと、を有し、問題となる部品に関連した異音の周波数帯域が、車両の構造によって減衰されやすい帯域であるか否かに基づいていずれかの制御モードを選択的に実行するようにしたものである。減衰されやすい帯域であれば第2の制御モードを実行することで異音が聞き取りやすくなり、他方、減衰されやすい帯域でなければ第1の制御モードを実行することで、騒音による快適性の悪化が最小限となる。
【0165】
図27に示すように、第12実施例の音制御装置は、第11実施例と同様に、管理者・修理者データベース10と、乗員検出部20と、乗員判断部30と、車両データ取得部100と、異常予知部40と、ノイズキャンセリング制御部50と、ノイズキャンセル装置60と、部品特定部70と、不具合情報取得部80と、不具合情報データベース90と、を有する。ノイズキャンセリング制御部50は、周波数帯域設定部51を含んでおり、不具合情報取得部80は車両情報取得部81と不具合情報選択部82とを含んでいる。これらは第11実施例と同様である。そして第12実施例では、ノイズキャンセリング制御部50が制御方法判定部53を含んでいる。
【0166】
制御方法判定部53は、周波数帯域設定部51が設定した対象とする特定の周波数帯域に基づき、第1の制御モード(アンチノイズ音を通常レベルよりも小さくする)を実行するべきか第2の制御モード(同位相の音を付加して騒音を増大させる)を実行するべきかを判定する。異音の周波数帯域が車両の構造(遮音材ないし吸音材や遮音構造、等を含む)によって減衰されやすい周波数帯域であれば、第2の制御モードとする。
【0167】
図28は、第12実施例の音制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まずステップ151において、自車両の車両情報を取得する。次にステップ152でユーザー情報を取得する。つまり外部の管理者・修理者データベース10から必要な範囲のデータを車両側のコンピュータシステムに読み込む。次のステップ153では、故障/異常の予知つまり故障/異常の予兆を検知したかどうかを判定する。予兆が無ければ、ステップ158へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とする。そして、ステップ163においてノイズキャンセリングを実行する。
【0168】
故障/異常の予兆を検知したら、ステップ154へ進み、故障/異常に関連した部品の特定ないし推定を行う。次いでステップ155へ進み、故障/異常の症状や特定した部品に関連した不具合情報を不具合情報データベース90から取得する。特に、車両情報を利用して該当する車両についての不具合情報を抽出する。
【0169】
次にステップ156へ進み、車室内の乗員を検出する。そしてステップ157において、乗員に管理修理関与者が含まれているか判定する。管理修理関与者が含まれていなければ、ステップ158へ進み、ノイズキャンセル装置60による通常のノイズキャンセリング制御とし、ステップ163においてノイズキャンセリングを実行する。
【0170】
乗員に管理修理関与者が含まれている場合は、ステップ159へ進み、特定ないし推定された部品とこの部品に関連した不具合情報に基づいて、騒音低減作用を低下させる特定の周波数帯域を決定する。なお、周波数帯域が複数であってもよい。
【0171】
次に、ステップ160において、この周波数帯域の異音を遮音・吸音するような車両部品や仕様(例えば遮音シートや各部の素材等)が存在するかどうかを車両情報に基づいて判定する。対象とする周波数帯域が車両部品等によって大きく減衰することがない場合には、ステップ161へ進み、第1の制御モードとして、対象とする周波数帯域についてアンチノイズ音を通常レベルよりも小さくするようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。対象とする周波数帯域が車両部品等によって大きく減衰する場合は、ステップ162へ進み、第2の制御モードとして、対象とする周波数帯域について同位相の音を付加して騒音を増大させるようにノイズキャンセリング制御の設定変更を行う。そして、ステップ163においてノイズキャンセリングを実行する。
【0172】
なお、第12実施例の制御モードの自動的な選択を前述した他の実施例と組み合わせることもできる。
【0173】
また、
図30に基づいて説明したように、管理修理関与者が、第1の制御モードつまり
図30における「キャンセリング量低減モード」と、第2の制御モードつまり
図30における「異音・振動強調モード」と、を手動で選択できるように構成することができる。例えば、管理修理関与者が積極的に異音を確認するために一時的に「異音・振動強調モード」とする、などが可能となる。
【0174】
次に、
図29は、故障/異常の兆候を検知してノイズキャンセル装置60の騒音低減作用を低下させているときに車両のディスプレイや管理修理関与者の携帯デバイス等の表示部に表示される画面表示の一例を示している。図示例では、画面の上段には「制御方法」として「ノイズキャンセリング制御量低減中」である旨が表示され、下段には「制御量変化イベント」として「修理地点が近いので、音をさらに聞こえやすくしています」旨の文字情報が表示されている。この表示例は、例えば第5実施例に対応している。他の実施例に関しても、対応した適当な表示を行うことが可能である。
【0175】
図29のようにノイズキャンセリング制御量が変化した変化要因を表示することで、例えば、現在地点から最寄りの修理地点へ修理依頼を行うなど適切な行動が促される。また、制御方法が表示されることで、管理修理関与者はどのような制御モードとなっているのかを認識できる。
【0176】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。また、各実施例の構成要素は他の実施例の構成要素と適当に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0177】
10…管理者・修理者データベース
20…乗員検出部
21…位置検出部
30…乗員判断部
31…選択画面送受信部
40…異常予知部
50…ノイズキャンセリング制御部
51…周波数帯域設定部
52…制御量調整部
53…制御方法判定部
60…ノイズキャンセル装置
61…音合成部
62…機能停止部
63…音出力方向制御部
70…部品特定部
80…不具合情報取得部
81…車両情報取得部
82…不具合情報選択部
90…不具合情報データベース
100…車両データ取得部
110…故障検出部
120…位置情報取得部
130…GPS
140…修理地点情報データベース
210…異音発生時期推定部
220…遷移情報取得部
230…携帯デバイス