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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173434
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】全方向移動車輪および全方向移動体
(51)【国際特許分類】
   B60B 19/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B60B19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085688
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一樹
(72)【発明者】
【氏名】多田隈 建二郎
(57)【要約】
【課題】軟弱地盤での走破性を高めることができる全方向移動車輪および全方向移動体を提供する。
【解決手段】3つ以上の回転ローラ12が、それぞれ円環状を成し、互いの内側を通ると共に、内側に回転シャフト11を通して、回転シャフト11の中心軸周りに並び、内側面で回転シャフト11に接するよう配置され、回転シャフト11の回転により周方向に沿って回転可能に設けられている。各回転ローラ12は、回転シャフト11に接する位置から伸びる直径に対して、左右の同じ側が回転シャフト11の一方の端部側に傾くよう設けられている。支持部材13が、各回転ローラ12を回転可能に支持している。第1回転駆動手段が、回転シャフト11を中心軸周りに回転可能に設けられている。第2回転駆動手段が、支持部材13を回転シャフト11の中心軸周りに回転可能に設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸周りに回転可能に設けられた回転シャフトと、
3つ以上から成り、それぞれ円環状を成し、互いの内側を通ると共に、内側に前記回転シャフトを通して、前記回転シャフトの前記中心軸周りに並び、内側面で前記回転シャフトに接するよう配置され、前記回転シャフトの回転により周方向に沿って回転可能に設けられた回転ローラと、
各回転ローラを回転可能に支持する支持部材と、
前記回転シャフトを前記中心軸周りに回転可能に設けられた第1回転駆動手段と、
前記支持部材を前記回転シャフトの前記中心軸周りに、前記回転シャフトに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転駆動手段とを有し、
各回転ローラは、前記回転シャフトに接する位置から、前記回転シャフトとは反対側に向かって伸びる直径に対して、左右の同じ側が前記回転シャフトの一方の端部側に傾くよう設けられており、隣り合う回転ローラの前記直径の成す角度が0度より大きく180度より小さいことを
特徴とする全方向移動車輪。
【請求項2】
各回転ローラは、同じ形状および同じ大きさを成していることを特徴とする請求項1記載の全方向移動車輪。
【請求項3】
各回転ローラは、前記直径が前記回転シャフトの前記中心軸に対して垂直を成し、前記直径に対する左右の傾きが同じ角度を成していることを特徴とする請求項1または2記載の全方向移動車輪。
【請求項4】
各回転ローラは、その個数をnとしたとき、前記回転シャフトの前記中心軸を中心としてn回対称形を成すよう設けられていることを特徴とする請求項1記載の全方向移動車輪。
【請求項5】
各回転ローラは、前記回転シャフトの前記中心軸が回転対称軸を成す所定の大きさのトーラスを、その中心点を通るそれぞれ異なる平面で切断したときに形成される1対のヴィラルソー円のうちの一方のヴィラルソー円に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または4記載の全方向移動車輪。
【請求項6】
前記回転シャフトは、前記中心軸周りに回転可能に設けられたはすば歯車を有し、
各回転ローラは、前記回転シャフトの回転により周方向に沿って回転可能に、内側面に前記はすば歯車に噛み合うよう設けられた複数の歯を有することを
特徴とする請求項1記載の全方向移動車輪。
【請求項7】
前記支持部材は、各回転ローラの内側のうち、他の回転ローラおよび前記回転シャフトを通す部分以外の大部分を面状に覆うよう形成されていることを特徴とする請求項1記載の全方向移動車輪。
【請求項8】
1または複数の請求項1記載の全方向移動車輪を有し、
前記全方向移動車輪の第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を、それぞれ独立に操作可能に構成されていることを
特徴とする全方向移動体。
【請求項9】
移動体本体を有し、
前記全方向移動車輪は4つから成り、前記移動体本体を支持可能かつ移動可能に、前記移動体本体の側部にそれぞれ取り付けられていることを
特徴とする請求項8記載の全方向移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動車輪および全方向移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の全方向移動車輪として、主車輪の外周に複数の副車輪を並べ、主車輪の回転軸線に対して傾斜した軸を中心として副車輪を回転可能に設けた、いわゆるメカナムホイールが知られている(例えば、特許文献1または2参照)。メカナムホイールは、平地での移動を想定しており、副車輪の径が小さいため、段差を乗り越えるのが困難であるという問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決するために、複数のローラが、弓形金具に、各ローラの回転方向が弓形金具の長手方向となるよう、弓形金具の弓形の曲線に沿って取り付けられた複数の弓形ユニットを有し、各弓形ユニットが、それぞれ車輪基部の周方向に相互にずらして車輪基部に取り付けられて車輪を構成しており、さらに各弓形ユニットが、弓形金具の長手方向が車輪の回転方向に対して傾斜するよう取り付けられた全方向移動車輪機構が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この全方向移動車輪機構は、弓形ユニットの径を大きくすることにより、段差を容易に乗り越えることができるが、不整地やぬかるみ等の接地面のトラクションが不均一な場所では、車輪同士の合力が安定せず、移動時の安定性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、トラクションが不均一な場所であっても安定して移動できるものとして、メカナムホイールとは異なり、主車輪の回転軸線に対して垂直の軸を中心として副車輪を回転可能に設けると共に、副車輪を能動的に回転させるものが、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
なお、車輪が設置面と接する面に、車輪の回転方向に対応したらせん状のスクリューを形成することにより、軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などでも全方向に移動可能に構成された移動装置が開発されている(例えば、特許文献5、6または非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3876255号明細書
【特許文献2】特開2018-134917号公報
【特許文献3】特許第6448437号公報
【特許文献4】国際公開WO2017/212754号
【特許文献5】特開平2-310101号公報
【特許文献6】特開2014-223851号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jesus H. Lugo, Vishal Ramadoss, Matteo Zoppi, Rezia Molfino, “Conceptual Design Of Tetrad-Screw Propelled Omnidirectional All-Terrain Mobile Robot”, [online], 2017, 2017 2nd International Conference on Control and Robotics Engineering, [令和4年5月13日検索], インターネット〈DOI: 10.1109/ICCRE.2017.7935033〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載の全方向移動車輪機構は、副車輪を能動的に回転させることにより、トラクションが不均一な場所であっても安定して移動することができるが、副車輪の径が比較的小さいため、軟弱地盤では副車輪が沈み込み、推進力が得にくくなり、走破性が低下してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、軟弱地盤での走破性を高めることができる全方向移動車輪および全方向移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る全方向移動車輪は、中心軸周りに回転可能に設けられた回転シャフトと、3つ以上から成り、それぞれ円環状を成し、互いの内側を通ると共に、内側に前記回転シャフトを通して、前記回転シャフトの前記中心軸周りに並び、内側面で前記回転シャフトに接するよう配置され、前記回転シャフトの回転により周方向に沿って回転可能に設けられた回転ローラと、各回転ローラを回転可能に支持する支持部材と、前記回転シャフトを前記中心軸周りに回転可能に設けられた第1回転駆動手段と、前記支持部材を前記回転シャフトの前記中心軸周りに、前記回転シャフトに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転駆動手段とを有し、各回転ローラは、前記回転シャフトに接する位置から、前記回転シャフトとは反対側に向かって伸びる直径に対して、左右の同じ側が前記回転シャフトの一方の端部側に傾くよう設けられており、隣り合う回転ローラの前記直径の成す角度が0度より大きく180度より小さいことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る全方向移動車輪は、第1回転駆動手段により回転シャフトを中心軸周りに回転させることにより、円環状を成し、回転シャフトの中心軸周りに並ぶよう配置された3つ以上の回転ローラを、周方向に沿って回転させることができる。また、各回転ローラのうち、隣り合う回転ローラの、回転シャフトに接する位置から回転シャフトとは反対側に向かって伸びる直径の成す角度が、0度より大きく180度より小さいため、接地面に対して常に1つまたは2つの回転ローラを接地させることができる。このとき、各回転ローラが、その直径に対して、左右の同じ側が回転シャフトの一方の端部側に傾くよう設けられているため、接地した1つまたは2つの回転ローラの回転により、接地面上を、回転シャフトの回転方向に応じて、回転シャフトの中心軸に対して傾斜した方向に沿って一方の側または他方の側に向かって移動することができる。
【0012】
また、本発明に係る全方向移動車輪は、第2回転駆動手段により、各回転ローラを支持する支持部材を、回転シャフトの中心軸周りに、回転シャフトに対して相対的に回転させることにより、接地面上を、支持部材の回転方向に応じて、回転シャフトの中心軸に対して垂直方向の一方または他方に向かって移動することができる。このように、本発明に係る全方向移動車輪は、第1回転駆動手段による回転シャフトの中心軸に対して傾斜した方向への移動と、第2回転駆動手段による回転シャフトの中心軸に対して垂直方向への移動とを組み合わせることにより、接地面上を全方向に移動することができる。
【0013】
本発明に係る全方向移動車輪は、各回転ローラの径を大きくすることができるため、各回転ローラの径を大きくすることにより、軟弱地盤での各回転ローラの沈み込みを防ぎ、軟弱地盤での走破性を高めることができる。また、各回転ローラの径を大きくすることにより、段差を容易に乗り越えることもできる。また、各回転ローラを能動的に回転させることにより、トラクションが不均一な場所であっても安定して移動することができる。
【0014】
本発明に係る全方向移動車輪で、各回転ローラは、回転シャフトの中心軸方向の同じ位置で、回転シャフトに接していることが好ましい。また、回転シャフトは、一方の端部に各回転ローラが接していてもよく、中心軸方向に沿った中心部に各回転ローラが接していてもよい。また、第2回転駆動手段は、回転シャフトの中心軸に対して垂直方向にバランス良く移動するよう、回転シャフトの中心軸を中心として支持部材を回転可能であることが好ましい。第1回転駆動手段および第2回転駆動手段は、回転シャフトの中心軸方向に沿って、各回転ローラの接触位置に対して回転シャフトの同じ側に配置されていてもよく、反対側に配置されていてもよい。
【0015】
本発明に係る全方向移動車輪で、各回転ローラは、同じ形状および同じ大きさを成していることが好ましい。また、各回転ローラは、真円に沿って形成されていることが好ましい。これらの場合、スムーズかつバランス良く全方向に移動することができる。
【0016】
本発明に係る全方向移動車輪で、各回転ローラは、前記直径が前記回転シャフトの前記中心軸に対して垂直を成し、前記直径に対する左右の傾きが同じ角度を成していることが好ましい。特に、各回転ローラは、その個数をnとしたとき、前記回転シャフトの前記中心軸を中心としてn回対称形を成すよう設けられていることが好ましい。これらの場合にも、スムーズかつバランス良く全方向に移動することができる。
【0017】
本発明に係る全方向移動車輪で、各回転ローラは、前記回転シャフトの前記中心軸が回転対称軸を成す所定の大きさのトーラスを、その中心点を通るそれぞれ異なる平面で切断したときに形成される1対のヴィラルソー円のうちの一方のヴィラルソー円に沿って形成されていることが好ましい。また、各回転ローラは、トーラスに限らず、円環体(トロイド)を、その中心点を通るそれぞれ異なる平面で切断したときに形成される1対の円(真円ではない円)のうちの一方の円に沿って形成されていてもよい。
【0018】
ここで、トーラスの外径dと内径dとの比k=d/dが、1.2、2.0、8.0、100の各場合について、ヴィラルソー円の数nが2~50のときの各ヴィラルソー円の配置を求め、図1に示す。このとき、各ヴィラルソー円は、トーラスの回転対称軸に対して、それぞれn回対称形を成すよう配置している。図1から、各回転ローラをヴィラルソー円に沿って形成した場合、3≦n≦8および2.0≦k≦8.0であることが好ましい。n=2のときには、2つの回転ローラが接地した状態で回転シャフトを回転させると、回転シャフトの中心軸に対して垂直方向に沿って移動するため、全方向に移動することができない。また、nを大きくすると、各回転ローラが密に配置されるため、例えば、nが8より大きいときには、隣り合う回転ローラが接触しないよう配置することや、各回転ローラを十分な剛性で形成することなどが困難である。また、kを小さくすると、各回転ローラを薄くする必要があるため、例えば、kが2.0より小さいときには、各回転ローラを十分な剛性で形成することや、回転シャフトから各回転ローラに動力を伝達することが困難である。また、kを大きくすると、各回転ローラが回転シャフトに接触する範囲が狭くなるため、例えば、kが8.0より大きいときには、隣り合う回転ローラが接触しないよう配置することや、回転シャフトから各回転ローラに動力を伝達することなどが困難である。
【0019】
本発明に係る全方向移動車輪で、各回転ローラは、回転シャフトの回転により周方向に沿って回転可能であれば、いかなる構成で回転シャフトに接触していてもよく、例えば、はすば歯車や摩擦歯車、磁力などを利用して、回転シャフトに接触していてもよい。はすば歯車で接触する場合には、前記回転シャフトは、前記中心軸周りに回転可能に設けられたはすば歯車を有し、各回転ローラは、前記回転シャフトの回転により周方向に沿って回転可能に、内側面に前記はすば歯車に噛み合うよう設けられた複数の歯を有していることが好ましい。
【0020】
本発明に係る全方向移動車輪で、前記支持部材は、各回転ローラの内側のうち、他の回転ローラおよび前記回転シャフトを通す部分以外の大部分を面状に覆うよう形成されていてもよい。この場合、各回転ローラおよび支持部材により、スクリューを構成することができる。これにより、例えば、各回転ローラ全体が沈み込んでしまうような極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などで、第2回転駆動手段により支持部材を回転させることにより、回転シャフトの回転軸方向に沿って移動することができる。この移動と、第1回転駆動手段による回転シャフトの中心軸に対して傾斜した方向への移動とを組み合わせることにより、極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などであっても、全方向に移動することができる。特に、各回転ローラのトレッドパターンを、水かき可能な形状にすることにより、極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などで、各回転ローラの回転方向に移動しやすくすることができ、全方向に効率よく移動することができる。
【0021】
本発明に係る全方向移動体は、1または複数の本発明に係る全方向移動車輪を有し、前記全方向移動車輪の第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を、それぞれ独立に操作可能に構成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る全方向移動体は、本発明に係る全方向移動車輪を有しているため、全方向に移動することができる。また、第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を、それぞれ独立に操作可能であるため、移動方向や姿勢を細かく制御することができる。
【0023】
本発明に係る全方向移動体は、移動体本体を有し、前記全方向移動車輪は4つから成り、前記移動体本体を支持可能かつ移動可能に、前記移動体本体の側部にそれぞれ取り付けられていることが好ましい。この場合、4輪駆動で全方向に移動することができる。また、特に、各回転ローラおよび支持部材によりスクリューを構成して水上で移動する際に、4つの全方向移動車輪により全方向に容易に移動することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、軟弱地盤での走破性を高めることができる全方向移動車輪および全方向移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る全方向移動車輪の回転ローラの配置に関し、トーラスの外径dと内径dとの比k=d/dが1.0~100の範囲で、ヴィラルソー円の数nが2~50のときの、各ヴィラルソー円の配置を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態の全方向移動車輪の、回転ローラが3個のときの(a)平面図、(b)斜視図、(c)正面図、(d)右側面図である。
図3図2に示す全方向移動車輪の、支持部材の支持部および先端側回転部を省略した斜視図である。
図4図2に示す全方向移動車輪の、1つの回転ローラ以外の回転ローラを省略した斜視図である。
図5】本発明の実施の形態の全方向移動車輪の、回転ローラが6個のときの斜視図である。
図6】本発明の実施の形態の全方向移動体の斜視図である。
図7】本発明の実施の形態の全方向移動体の、水上での使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図7は、本発明の実施の形態の全方向移動車輪および全方向移動体を示している。
図2乃至図4に示すように、全方向移動車輪10は、回転シャフト11と3つ以上の回転ローラ12と支持部材13と第1回転駆動手段(図示せず)と第2回転駆動手段(図示せず)とを有している。
【0027】
回転シャフト11は、細長い円筒状を成し、中心軸を中心として中心軸周りに回転可能に設けられている。図3および図4に示すように、回転シャフト11は、一方の端部に、その端面から所定の長さだけ中央部寄りに、はすば歯車21が固定されている。はすば歯車21は、回転シャフト11と共に、回転シャフト11の中心軸周りに回転するよう設けられている。
【0028】
図2乃至図4に示すように、各回転ローラ12は、真円に沿って形成され、それぞれ同じ形状および同じ大きさの円環状を成している。各回転ローラ12は、互いの内側を通ると共に、内側に回転シャフト11を通して、回転シャフト11の中心軸周りに並ぶよう配置されている。なお、各回転ローラ12は、外側面に、トレッドパターンやグローサが形成されていてもよい。
【0029】
各回転ローラ12は、内歯車を有し、内側面に、回転シャフト11のはすば歯車21に噛み合うよう設けられた複数の歯22を有している。各歯22は、各回転ローラ12の円周方向に沿って並び、各回転ローラ12の幅方向に沿って伸びるよう形成されている。各回転ローラ12は、各歯22を回転シャフト11のはすば歯車21に噛み合わせて、回転シャフト11に接するよう配置されている。なお、各回転ローラ12は、回転シャフト11の回転により周方向に沿って回転可能であれば、はすば歯車21に限らず、摩擦歯車や磁力などを利用して、回転シャフト11に接触していてもよい。
【0030】
また、各回転ローラ12は、その回転シャフト11に接する位置から、回転シャフト11とは反対側に向かって伸びる直径(以下、「基準直径」と呼ぶ)に対して、左右の同じ側が回転シャフト11の一方の端部側に傾くよう配置されている。各回転ローラ12は、基準直径が回転シャフト11の中心軸に対して垂直を成し、基準直径に対する左右の傾きが同じ角度を成すよう配置されている。こうして、各回転ローラ12は、回転シャフト11の回転により周方向に沿って回転可能になっている。
【0031】
より具体的には、各回転ローラ12は、その個数をnとしたとき、回転シャフト11の中心軸を中心としてn回対称形を成すよう設けられている。これにより、各回転ローラ12は、隣り合う回転ローラ12の基準直径のベクトル(向きは、回転シャフト11に接する位置から、回転シャフト11とは反対側に向かって伸びる方向)の成す角度が0度より大きく180度より小さくなっている。
【0032】
また、各回転ローラ12は、回転シャフト11の中心軸が回転対称軸を成す所定の大きさのトーラスを、その中心点を通るそれぞれ異なる平面で切断したときに形成される1対のヴィラルソー円のうちの一方のヴィラルソー円に沿って形成されている。特に、各回転ローラ12は、3≦n≦8であり、図1に示すヴィラルソー円の配置のうち、トーラスの外径dと内径dとの比k=d/dが、2.0≦k≦8.0のときの配置に従って配置されていることが好ましい。また、各回転ローラ12は、車輪として使用可能であれば真円でなくともよく、その場合、各回転ローラ12は、トーラスに限らず、円環体(トロイド)を、その中心点を通るそれぞれ異なる平面で切断したときに形成される1対の円(真円ではない円)のうちの一方の円に沿って形成されていてもよい。図2乃至図4に示す具体的な一例では、回転ローラ12の個数は3つであり、kは約3.9である。また、回転ローラ12の個数が6つの場合の一例を、図5に示す。
【0033】
図2および図4に示すように、支持部材13は、複数の支持部23と先端側回転部24と駆動シャフト25とを有している。各支持部23は、各回転ローラ12に対応して設けられ、対応する回転ローラ12を回転可能に支持するよう、対応する回転ローラ12の内周に沿って設けられている。各支持部23は、対応する回転ローラ12に対してホイール状に設けられているが、少なくとも他の回転ローラ12および回転シャフト11を通す部分を塞がずに、穴を開けた形状を成している。各支持部23は、対応する回転ローラ12の内周の複数箇所で、ベアリング26を介して対応する回転ローラ12を回転可能に支持している。
【0034】
先端側回転部24は、回転シャフト11の一方の端部の、はすば歯車21よりも端面寄りの位置に、回転シャフト11の外側面を覆うよう設けられている。先端側回転部24は、回転シャフト11の中心軸を中心として、回転シャフト11とは独立して回転可能に設けられている。先端側回転部24は、外周部に各支持部23が固定されている。駆動シャフト25は、回転シャフト11の一方の端部の、はすば歯車21よりも中央部寄りの位置に、回転シャフト11の外側面を覆うよう設けられている。駆動シャフト25は、回転シャフト11の中心軸を中心として、回転シャフト11とは独立して回転可能に設けられている。駆動シャフト25は、外周部に各支持部23が固定されている。
【0035】
第1回転駆動手段は、回転モータを有し、回転シャフト11の他方の端部に取り付けられている。第1回転駆動手段は、回転モータにより、回転シャフト11を中心軸周りに回転可能に設けられている。これにより、第1回転駆動手段は、回転シャフト11と共に、各回転ローラ12を回転可能になっている。
【0036】
第2回転駆動手段は、回転モータを有し、駆動シャフト25に取り付けられている。第2回転駆動手段は、回転モータにより、回転シャフト11の中心軸周りに、駆動シャフト25を回転可能に設けられている。これにより、第2回転駆動手段は、支持部材13と共に車輪全体を、回転シャフト11の中心軸周りに、回転シャフト11に対して相対的に回転可能になっている。
【0037】
次に、作用について説明する。
全方向移動車輪10は、第1回転駆動手段により回転シャフト11を中心軸周りに回転させることにより、各回転ローラ12を周方向に沿って回転させることができる。また、各回転ローラ12のうち、隣り合う回転ローラ12の基準直径のベクトルの成す角度が、0度より大きく180度より小さいため、接地面に対して常に1つまたは2つの回転ローラ12を接地させることができる。このとき、各回転ローラ12が、その基準直径に対して、左右の同じ側が回転シャフト11の一方の端部側に傾くよう設けられているため、接地した1つまたは2つの回転ローラ12の回転により、接地面上を、回転シャフト11の回転方向に応じて、回転シャフト11の中心軸に対して傾斜した方向に沿って一方の側または他方の側に向かって移動することができる。
【0038】
また、全方向移動車輪10は、第2回転駆動手段により、各回転ローラ12を支持する支持部材13を、回転シャフト11の中心軸周りに、回転シャフト11に対して相対的に回転させることにより、接地面上を、支持部材13の回転方向に応じて、回転シャフト11の中心軸に対して垂直方向の一方または他方に向かって移動することができる。このように、全方向移動車輪10は、第1回転駆動手段による回転シャフト11の中心軸に対して傾斜した方向への移動と、第2回転駆動手段による回転シャフト11の中心軸に対して垂直方向への移動とを組み合わせることにより、接地面上を全方向に移動することができる。
【0039】
全方向移動車輪10は、各回転ローラ12の径を大きくすることができるため、各回転ローラ12の径を大きくすることにより、軟弱地盤での各回転ローラ12の沈み込みを防ぎ、軟弱地盤での走破性を高めることができる。また、各回転ローラ12の径を大きくすることにより、段差を容易に乗り越えることもできる。また、各回転ローラ12を能動的に回転させることにより、トラクションが不均一な不整地であっても、比較的安定して移動することができる。
【0040】
図6に示すように、全方向移動体30は、移動体本体31と4つの全方向移動車輪10とを有している。
【0041】
移動体本体31は、薄い板状を成し、前部、後部、および中央部が、両側方に張り出した形状を成している。移動体本体31は、前部および後部の中央下部に、それぞれシャフトボックス32が設けられている。
【0042】
各全方向移動車輪10は、それぞれ第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を収納する収納ボックス33を有している。各全方向移動車輪10は、回転シャフト11の他方の端部が、収納ボックス33から突出するよう設けられている。各全方向移動車輪10は、第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を、それぞれ独立に操作可能に構成されている。また、各全方向移動車輪10の支持部材13は、各支持部23の側面のうち、他の回転ローラ12および回転シャフト11を通す部分以外の大部分を面状に覆うカバー34を有している。
【0043】
各全方向移動車輪10は、それぞれ移動体本体31の前部および後部の両側部に取り付けられている。各全方向移動車輪10は、それぞれの回転シャフト11の他方の端部が、互いに独立に回転可能に前部および後部のシャフトボックス32に収納され、回転シャフト11の一方の端部が移動体本体31から外側方に向かって伸びるよう取り付けられている。各全方向移動車輪10は、各回転ローラ12が、移動体本体31の側縁から外側に突出するよう設けられている。
【0044】
次に、作用について説明する。
全方向移動体30は、4つの全方向移動車輪10を有しているため、4輪駆動で全方向に移動することができる。また、第1回転駆動手段および第2回転駆動手段を、それぞれ独立に操作可能であるため、移動方向や姿勢を細かく制御することができる。
【0045】
全方向移動体30は、各全方向移動車輪10の支持部材13のカバー34により、各回転ローラ12および支持部材13がスクリューを構成することができる。これにより、例えば、各回転ローラ12の全体が沈み込んでしまうような極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などで、第2回転駆動手段により支持部材13を回転させることにより、回転シャフト11の回転軸方向に沿って移動することができる。この移動と、第1回転駆動手段による回転シャフト11の中心軸に対して傾斜した方向への移動とを組み合わせることにより、極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などであっても、全方向に移動することができる。特に、各回転ローラ12のトレッドパターンを、水かき可能な形状にすることにより、極めて軟弱な地面や、雪上、氷上、水上などで、各回転ローラ12の回転方向に移動しやすくすることができ、全方向に効率よく移動することができる。
【0046】
全方向移動体30は、例えば、図7に示すように、水上で移動する際、第2回転駆動手段により支持部材13を回転させることにより、回転シャフト11の回転軸方向に沿って移動することができる。この移動と、第1回転駆動手段による回転シャフト11の中心軸に対して傾斜した方向への移動とを組み合わせることにより、水上でも全方向に移動することができる。このように、全方向移動体30は、陸上だけでなく、水上でも全方向に移動可能な水陸両用の移動体として構成することができる。なお、図7には、移動体本体31が直方体形状を成し、各全方向移動車輪10の回転ローラ12の個数が6個の場合を示している。
【実施例0047】
全方向移動車輪10を試作し、その動作確認を行った。試作した全方向移動車輪10の設計パラメータを、表1に示す。試作した全方向移動車輪10は、各回転ローラ12および支持部材13がナイロン製、はすば歯車21がアクリル系光造形樹脂製、先端側回転部24および駆動シャフト25がアクリル系光硬化性樹脂製、カバー34がPPライク光硬化性樹脂製であり、これらを3Dプリンタにより製造している。また、回転シャフト11がSUS304製である。
【0048】
【表1】
【0049】
試作した全方向移動車輪10について、まず、駆動シャフト25を固定して、回転シャフト11を回転させたところ、3つの回転ローラ12を任意に回転させることができた。また、回転シャフト11および駆動シャフト25を同じ角度だけ回転させたところ、各回転ローラ12を静止させたまま、車輪全体を回転させることができた。また、駆動シャフト25および回転シャフト11を逆方向に回転させた場合にも、同様の動作をすることが確認された。このように、試作した全方向移動車輪10により、1つの車輪で2つの方向に同時に力を与えることができることが確認された。このことから、全方向移動車輪10は、全方向への移動が可能であるといえる。
【0050】
次に、試作した全方向移動車輪10について、各回転ローラ12のスクリューとしての能力を確認する実験を行った。実験では、アルミフレームで、1軸直動方向にスライド可能な枠を組み、このスライド部分に、試作した全方向移動車輪10を、受動回転が可能なように設置した。これを雪原の上に設置し、試作した全方向移動車輪10の下半分を埋没させて、雪原に対して回転シャフト11の軸方向にスライドさせた。その結果、車輪全体が回転シャフト11の回転軸周りに、受動的に回転することが確認された。このことから、駆動シャフト25と共に車輪全体を回転させて、各回転ローラ12をスクリューのように能動的に駆動することにより、その反作用として、回転シャフト11の軸方向への推進力が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0051】
10 全方向移動車輪
11 回転シャフト
21 はすば歯車
12 回転ローラ
22 歯
13 支持部材
23 支持部
24 先端側回転部
25 駆動シャフト
26 ベアリング

30 全方向移動体
31 移動体本体
32 シャフトボックス
33 収納ボックス
34 カバー


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7