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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173437
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】キャニスタ
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
F02M25/08 311A
F02M25/08 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085694
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】永作 友一
【テーマコード(参考)】
3G144
【Fターム(参考)】
3G144BA20
3G144GA05
3G144GA07
3G144GA13
3G144GA20
(57)【要約】
【課題】キャニスタに関し、簡素な構成で燃料蒸気の吸着効率を改善する。
【解決手段】開示のキャニスタ1は、エンジンに付設されるキャニスタ1であって、主室2,副室3,正圧弁5,負圧弁6を備える。主室2は、第一多孔質体27を内蔵し、エンジンの吸気系及び燃料タンクに接続される。副室3は、第二多孔質体28を内蔵し、大気開放される。正圧弁5及び負圧弁6は、主室2と副室3との間に設けられる。正圧弁5は、副室3に対する主室2の差圧が正の第一閾値を超える場合に開放される逆止弁として機能し、負圧弁6は、副室3に対する主室2の差圧が負の第二閾値未満である場合に開放される逆止弁として機能する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに付設されるキャニスタであって、
第一多孔質体を内蔵し、前記エンジンの吸気系及び燃料タンクに接続される主室と、
第二多孔質体を内蔵し、大気開放される副室と、
前記主室と前記副室との間に設けられ、前記副室に対する前記主室の差圧が正の第一閾値を超える場合に開放される逆止弁として機能する正圧弁と、
前記主室と前記副室との間に設けられ、前記副室に対する前記主室の差圧が負の第二閾値未満である場合に開放される逆止弁として機能する負圧弁と
を備えることを特徴とする、キャニスタ。
【請求項2】
前記主室の内部で移動可能に設けられるプレートと、
前記プレートを前記第一多孔質体に向かって付勢するスプリングとを備え、
前記正圧弁及び前記負圧弁が、前記プレートに設けられる
ことを特徴とする、請求項1記載のキャニスタ。
【請求項3】
前記正圧弁及び前記負圧弁の各々が、複数設けられる
ことを特徴とする、請求項1記載のキャニスタ。
【請求項4】
前記正圧弁及び前記負圧弁の各々が、複数設けられる
ことを特徴とする、請求項2記載のキャニスタ。
【請求項5】
前記主室が、前記燃料タンクに連通するタンクポートと前記吸気系に連通するパージポートとを有し、
前記タンクポート及び前記パージポートが、前記第一多孔質体よりも下方に配置され、
前記正圧弁及び前記負圧弁が、前記第一多孔質体よりも上方に配置される
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のキャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、エンジンに付設されるキャニスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揮発性燃料を燃焼させて動力を得るエンジン(内燃機関)において、燃料タンクで蒸発した燃料蒸気(燃料ガス,炭化水素ベーパー)を回収するためのキャニスタ(チャコールキャニスタ,カーボンキャニスタ,ベーパーコレクタ)を備えたものが知られている。キャニスタの内部には、燃料蒸気を一時的に吸着させる活性炭やゼオライトなどの多孔質体が内蔵される。多孔質体に吸着した燃料蒸気は、エンジンの作動時に脱離して吸気系(吸気通路)に吸引され、燃焼室内へと導入されるようになっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-130084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のキャニスタにおいては、多孔質体の内部で燃料蒸気の流れに偏りが生じることがある。例えば、多孔質体の内部のうち、燃料蒸気が吸着しやすい部位は、燃料タンクに接続されるタンクポートの近くに偏りがちである。一方、燃料蒸気が脱離しやすい部位は、多孔質体の内部のうち、エンジンの吸気系に接続されるパージポートに近い部位である。したがって、良好な吸着脱離効率が得られるのは、タンクポートとパージポートとの両方に近い部位に限られてしまい、多孔質体の全体を有効に活用できないという課題がある。この課題は、多孔質体の充填量の増加やキャニスタ重量の増加に繋がる。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成で燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できるようにしたキャニスタを提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のキャニスタは、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示のキャニスタは、エンジンに付設されるキャニスタであって、第一多孔質体を内蔵し、前記エンジンの吸気系及び燃料タンクに接続される主室と、第二多孔質体を内蔵し、大気開放される副室と、前記主室と前記副室との間に設けられ、前記副室に対する前記主室の差圧が正の第一閾値を超える場合に開放される逆止弁として機能する正圧弁と、前記主室と前記副室との間に設けられ、前記副室に対する前記主室の差圧が負の第二閾値未満である場合に開放される逆止弁として機能する負圧弁と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
開示のキャニスタにおいて、副室に対する主室の差圧が第一閾値以下かつ第二閾値以上であるときには、主室を密閉することができ、主室の内部で燃料蒸気を循環させることができる。これにより、第一多孔質体の全体に燃料蒸気を吸着させることができ、かつ、第一多孔質体の全体から燃料蒸気を脱離させることができる。したがって、第一多孔質体への燃料吸着及び脱離の偏りを抑制でき、簡素な構成で燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できる。
【0008】
また、副室に対する主室の差圧が第一閾値を超えるときには、主室の燃料蒸気を副室へと流通させて、燃料蒸気を第二多孔質体で回収しつつ、主室の圧力を低下させることができる。一方、差圧が第二閾値未満のときには、燃料蒸気や外気を副室から主室へと流通させてエンジンの吸気系に燃料蒸気を導入しつつ、主室の圧力を上昇させることができる。したがって、主室が密閉された状態を維持しやすくなり、簡素な構成で燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例としてのキャニスタの構成を説明するための縦断面図である。
図2図1のキャニスタの要部を拡大して示す縦断面図である。
図3】(A)は従来構造(比較例)のキャニスタにおける燃料蒸気の流れを示す縦断面図であり、(B)は図1のキャニスタ(正圧弁,負圧弁の閉鎖時)における燃料蒸気の流れを示す縦断面図である。
図4】(A)は図1のキャニスタ(正圧弁の開放時)における燃料蒸気の流れを示す縦断面図であり、(B)は図1のキャニスタ(負圧弁の開放時)における燃料蒸気の流れを示す縦断面図である。
図5】(A)~(D)はキャニスタの構造を例示する水平断面図(第一プレート,第二プレートの上面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示のキャニスタは、以下の実施例によって実施されうる。開示のキャニスタは、エンジンに付設される。ここでいうエンジンには、揮発性燃料で作動する各種内燃機関が含まれ、例えばガソリンエンジンやジェットエンジンなどが含まれる。本実施例のキャニスタは、車両に搭載されるエンジンに付設される。実施例中の方向の定義に関して、キャニスタを構成する部品や部位についての方向は、特記しない限り、車両に取り付けられた状態での方向を意味する。
【実施例0011】
[1.構成]
図1は、実施例としてのキャニスタ1の構成を説明するための縦断面図である。このキャニスタ1は、ケーシング20の内部に主室2と副室3とを備える。ケーシング20は、上面が開放された容器状に形成されたケーシング本体と、その上面を閉塞した状態でケーシング本体に対して一体に固定される蓋部材とを有する。ケーシング20の素材は、例えば金属や合成樹脂材料である。また、ケーシング20の全体形状は、例えば筒状(内部が空洞の管状であって、中空円柱状や中空楕円柱状などを含む形状)や角柱状に形成される。
【0012】
図1に示すように、ケーシング20の内部には、隔壁21が立設される。隔壁21によって仕切られる一方の空間が主室2となり、他方の空間が副室3となる。隔壁21の高さは、主室2と副室3とが完全には区画されない程度の高さに設定される。言い換えれば、隔壁21の上端とケーシング20の内部における最上面(天井面)との間には、所定の隙間が形成される。隔壁21の水平方向の位置は、好ましくは主室2が副室3よりも広くなるように設定される。
【0013】
主室2は、第一多孔質体27を内蔵する室であり、エンジンの吸気系及び燃料タンクに接続される室である。第一多孔質体27とは、例えば連通気泡を有する固形の多孔質体であり、燃料蒸気を一時的に吸着させる活性炭やゼオライトなどを含む。第一多孔質体27は、主室2の内部形状に対応する形状に形成され、主室2の下部に隙間なく挿入される。主室2の下端には、燃料タンクに連通するタンクポート22と、エンジンの吸気系に連通するパージポート23とが設けられる。これらのタンクポート22及びパージポート23は、第一多孔質体27よりも下方に配置される。
【0014】
副室3は、第二多孔質体28を内蔵する室であり、大気開放される室である。第二多孔質体28は、第一多孔質体27と同じく、例えば連通気泡を有する固形の多孔質体である。第二多孔質体28は、第一多孔質体27と同種の多孔質体であってもよいし、異種の多孔質体であってもよい。第二多孔質体28は、副室3の内部形状に対応する形状に形成され、副室3の下部に隙間なく挿入される。副室3の下端には、大気開放される大気ポート24が設けられる。大気ポート24は、第二多孔質体28よりも下方に配置される。なお、第一多孔質体27,第二多孔質体28は、固形の多孔質体(成型品)であってもよいし、通気性を有する袋に封入された粉体材料や粒体材料であってもよい。
【0015】
第一多孔質体27の上方には、第一プレート7(プレート)と第一スプリング25(スプリング)とが設けられる。第一プレート7は、主室2の内部で上下方向に移動可能に設けられる板状の部材である。第一スプリング25は、第一プレート7を第一多孔質体27に向かって下方へ付勢する弾性部材(例えばコイルばねやゴムなど)である。第一スプリング25の付勢により、第一プレート7が第一多孔質体27の上端面に面接触した状態で第一多孔質体27を下方に押圧する。これにより、第一多孔質体27が主室2の内部に安定的に固定される。
【0016】
同様に、第二多孔質体28の上方には、第二プレート8と第二スプリング26とが設けられる。第二プレート8は、副室3の内部で上下方向に移動可能に設けられ、第二スプリング26によって下方へ付勢される板状の部材である。第二プレート8は、第二多孔質体28の上端面に面接触した状態で第二多孔質体28を下方に押圧する。これにより、第二多孔質体28が副室3の内部に安定的に固定される。
【0017】
主室2の内部のうち第一プレート7よりも上方の部分は、副室3の内部のうち第二プレート8よりも上方の部分と一体的に繋がっている。この一体的に繋がった空間(ケーシング20の内部空間のうち第一プレート7及び第二プレート8よりも上方の空間)のことをスプリング室4と呼ぶ。スプリング室4は、第一スプリング25や第二スプリング26が配置される空間である。第一スプリング25は、第一プレート7と主室2の天井面との間に押し縮められた状態で挿入され、第二スプリング26は、第二プレート8と副室3の天井面との間に押し縮められた状態で挿入される。
【0018】
第二プレート8には、その表裏を貫通する連通孔9が設けられる。連通孔9は、スプリング室4と副室3とを連通させる通路として機能する。これにより、副室3及びスプリング室4の内部圧力は等しく、かつ、周囲の大気圧とも等しい値になっている。なお、第一スプリング25の付勢力は、大気圧や主室2の内部圧力の変化によって押し戻されない程度の大きさに設定されている。
【0019】
第一プレート7には、正圧弁5と負圧弁6とが内蔵される。正圧弁5は、主室2の内部圧力が副室3やスプリング室4の内部圧力と比較して大きい場合にのみ開放される逆止弁である。本実施例の正圧弁5は、副室3に対する主室2の差圧(ゲージ圧,主室2の内部圧力から副室3の内部圧力を減じた値)が正の第一閾値を超える場合に開放される。つまり、主室2が副室3よりも高圧であって、圧力差の絶対値がある程度大きい場合に、主室2から副室3への燃料蒸気の流通が許容される。一方、差圧が第一閾値以下の場合には、正圧弁5の閉鎖状態が維持される。
【0020】
負圧弁6は、主室2の内部圧力が副室3やスプリング室4の内部圧力と比較して小さい場合にのみ開放される逆止弁である。本実施例の負圧弁6は、副室3に対する主室2の差圧(ゲージ圧,主室2の内部圧力から副室3の内部圧力を減じた値)が負の第二閾値未満である場合に開放される。つまり、主室2が副室3よりも低圧であって、圧力差の絶対値がある程度大きい場合に、副室3から主室2への外気(あるいは燃料蒸気)の流通が許容される。一方、差圧が第一閾値以下の場合には、正圧弁5の閉鎖状態が維持される。
【0021】
図2は、キャニスタ1の要部(正圧弁5及び負圧弁6の周囲)を拡大して示す縦断面図である。正圧弁5には、正圧制御室10,正圧入口孔11,正圧出口孔12,正圧板13,正圧ばね14が設けられる。また、負圧弁6には、負圧制御室15,負圧入口孔16,負圧出口孔17,負圧板18,負圧ばね19が設けられる。正圧弁5及び負圧弁6は、第一多孔質体27よりも上方に配置される。
【0022】
正圧制御室10は、第一プレート7の内部に設けられる中空の部位である。正圧制御室10の主室2側には、正圧制御室10と主室2とを連通させる正圧入口孔11が設けられる。また、正圧制御室10のスプリング室4側には、正圧制御室10とスプリング室4とを連通させる正圧出口孔12が設けられる。正圧出口孔12は、常に開放された状態である。一方、正圧入口孔11は、正圧板13及び正圧ばね14によって内側(正圧制御室10側)から閉塞された状態になっている。正圧ばね14は、正圧板13を正圧入口孔11に向かって下方へ付勢する弾性部材(例えばコイルばねやゴムなど)である。正圧ばね14の付勢により、正圧板13が正圧入口孔11に押し付けられ、正圧入口孔11の閉鎖状態が維持されている。
【0023】
正圧制御室10と同様に、負圧制御室15は、第一プレート7の内部に設けられる中空の部位である。負圧制御室15のスプリング室4側には、負圧制御室15とスプリング室4とを連通させる負圧入口孔16が設けられる。また、負圧制御室15の主室2側には、負圧制御室15と主室2とを連通させる負圧出口孔17が設けられる。負圧出口孔17は、常に開放された状態である。一方、負圧入口孔16は、負圧板18及び負圧ばね19によって内側(負圧制御室15側)から閉塞された状態になっている。負圧ばね19は、負圧板18を負圧入口孔16に向かって上方へ付勢する弾性部材である。負圧ばね19の付勢により、負圧板18が負圧入口孔16に押し付けられ、負圧入口孔16の閉鎖状態が維持されている。
【0024】
正圧弁5のスペックに関して、本実施例の正圧入口孔11の開弁圧(第一閾値)は、例えば10[kPa]に設定される。また、弁寸法(正圧入口孔11のサイズ,正圧板13の受圧面積)は、φ20[mm]に設定され、正圧ばね14に作用する荷重は、3[N]に設定される。また、開弁時における正圧ばね14の移動量は、5[mm]に設定され、正圧ばね14のばね定数は、0.6[N/mm]に設定される。
【0025】
負圧弁6のスペックに関して、本実施例の負圧入口孔16の開弁圧(第二閾値)は、例えば-10[kPa]に設定される。また、弁寸法(負圧入口孔16のサイズ,負圧板18の受圧面積)は、φ20[mm]に設定され、負圧ばね19に作用する荷重は、3[N]に設定される。また、開弁時における負圧ばね19の移動量は、5[mm]に設定され、負圧ばね19のばね定数は、0.6[N/mm]に設定される。なお、ここに示す正圧弁5及び負圧弁6の各種特性値は、設定されうる具体例の一つに過ぎない。
【0026】
[2.作用]
図3(A)は、従来構造(比較例)のキャニスタ50における燃料蒸気の流れを示す縦断面図である。このキャニスタ50は、正圧弁5や負圧弁6のない押圧プレート51を第一プレート7の代わりに内蔵したものである。押圧プレート51には、その表裏を貫通する複数の貫通孔52が設けられる。これにより、タンクポート22から主室2の内部へと流入した燃料蒸気は、図3(A)中に太矢印で示すように、各々の貫通孔52に向かって流れる。
【0027】
一方、図3(A)中で主室2の右下部分には燃料蒸気がほとんど流れない。したがって、燃料蒸気が吸着されるのは、第一多孔質体27のうち、図3(A)中で主室2の左上部分のみとなり、第一多孔質体27の全体を有効に活用できていない。なお、各貫通孔52を通過した燃料蒸気はスプリング室4の内部に滞留し、あるいは副室3に導入されて第二多孔質体28に吸着される。
【0028】
図3(B)は、本実施例のキャニスタ1における燃料蒸気の流れを示す縦断面図である。本実施例では、第一プレート7に正圧弁5及び負圧弁6が設けられる。正圧弁5は、副室3に対する主室2の差圧が正の第一閾値を超えない限り、閉鎖されたままとなる。また、負圧弁6は、主室2のゲージ圧が正圧である限り開放されない。これにより、タンクポート22から主室2の内部へと流入した燃料蒸気は、図3(B)中に太矢印で示すように、主室2の内部で循環し、第一多孔質体27の全体に吸着される。したがって、第一多孔質体27の全体が有効に活用される。
【0029】
また、正圧弁5及び負圧弁6が閉鎖されている限り、スプリング室4には燃料蒸気が漏出しないため、第一多孔質体27の全体に対する燃料蒸気の吸着効率が向上する。その後、主室2からパージポート23に燃料蒸気が流出する際には、第一多孔質体27の全体から脱離した成分がエンジンへと導入される。したがって、第一多孔質体27の全体からの燃料蒸気の脱離効率が向上する。
【0030】
図4(A)は、正圧弁5の開放時における燃料蒸気の流れを示すキャニスタ1の縦断面図である。副室3に対する主室2の差圧が正の第一閾値を超えると、正圧弁5が開放される。これにより、燃料蒸気が主室2から副室3側へと流出し、第二多孔質体28に吸着されるとともに、主室2の内部圧力が低下する。その後、副室3に対する主室2の差圧が第一閾値以下になると、正圧弁5が再び閉鎖され、図3(B)に示すような状態になる。
【0031】
図4(B)は、負圧弁6の開放時における燃料蒸気の流れを示すキャニスタ1の縦断面図である。副室3に対する主室2の差圧が負の第二閾値を下回ると、負圧弁6が開放される。これにより、外気(あるいは第二多孔質体28から脱離した燃料成分を含む燃料蒸気)が副室3から主室2側へと流入するとともに、主室2の内部圧力が上昇する。このとき、主室2の内部の燃料蒸気は、パージポート23を介してエンジンの吸気系に導入される。その後、副室3に対する主室2の差圧が第二閾値以上になると、負圧弁6が再び閉鎖され、図3(B)に示すような状態になる。
【0032】
[3.効果]
(1)本実施例のキャニスタ1は、エンジンに付設されるキャニスタ1であって、主室2,副室3,正圧弁5,負圧弁6を備える。主室2は、第一多孔質体27を内蔵し、エンジンの吸気系及び燃料タンクに接続される。副室3は、第二多孔質体28を内蔵し、大気開放される。正圧弁5及び負圧弁6は、主室2と副室3との間に設けられる。正圧弁5は、副室3に対する主室2の差圧が正の第一閾値を超える場合に開放される逆止弁として機能し、負圧弁6は、副室3に対する主室2の差圧が負の第二閾値未満である場合に開放される逆止弁として機能する。
【0033】
上記の構成により、副室3に対する主室2の差圧が第一閾値以下かつ第二閾値以上であるときには、主室2を密閉することができ、主室2の内部で燃料蒸気を循環させることができる。これにより、第一多孔質体27の全体に燃料蒸気を吸着させることができ、かつ、第一多孔質体27の全体から燃料蒸気を脱離させることができる。したがって、第一多孔質体27への燃料吸着及び脱離の偏りを抑制でき、簡素な構成で燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できる。ひいては、エンジンの燃費や環境性能を改善でき、このエンジンを搭載する車両の環境負荷やランニングコストを低減させることができる。
【0034】
また、副室3に対する主室2の差圧が第一閾値を超えるときには、主室2の燃料蒸気を副室3へと流通させて、燃料蒸気を第二多孔質体28に吸着させつつ、主室2の圧力を低下させることができる。一方、差圧が第二閾値未満のときには、燃料蒸気や外気を副室3から主室2へと流通させてエンジンの吸気系に燃料蒸気を導入しつつ、主室2の圧力を上昇させることができる。したがって、主室2が密閉された状態を維持しやすくなり、簡素な構成で燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できる。
【0035】
(2)本実施例のキャニスタ1は、主室2の内部で移動可能に設けられる第一プレート7(プレート)と、第一プレート7を第一多孔質体27に向かって付勢することで第一多孔質体27を固定する第一スプリング25(スプリング)とを備える。また、正圧弁5及び負圧弁6は、第一プレート7に設けられる。このような構成により、例えば図3(A)に示すような既存のキャニスタ50の押圧プレート51を変更するだけで、本実施例のキャニスタ1を製造でき、製品コストを削減できる。
【0036】
なお、正圧弁5及び負圧弁6を第一プレート7以外の位置に設けることを検討すると、例えば主室2と副室3とを隔壁21で完全に区画し、その隔壁21の上部に正圧弁5及び負圧弁6を配置することも考えられる。しかしこの場合、ケーシング20自体を新たに設計し直さなければならず、製品コストが上昇してしまう。これに対して、正圧弁5及び負圧弁6を第一プレート7に設ければ、ケーシング20や副室3の構造などを変更することなく、容易に本実施例のキャニスタ1を実現できる。
【0037】
(3)本実施例の主室2は、燃料タンクに連通するタンクポート22とエンジンの吸気系に連通するパージポート23とを有する。これらのタンクポート22及びパージポート23は、図1に示すように、第一多孔質体27よりも下方に配置される。一方、正圧弁5及び負圧弁6は、第一多孔質体27よりも上方に配置される。このような構成により、正圧弁5の閉鎖時における燃料蒸気の流れを主室2の内部全体に広がりやすくすることができ、燃料蒸気の吸着脱離効率を改善できる。また、重力の作用を利用して、燃料蒸気が下方のパージポート23へと流通しやすくなり、効率よく燃料蒸気をエンジンの吸気系に導入させることができる。
【0038】
[4.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。例えば、ケーシング20の形状や正圧弁5及び負圧弁6の各々の個数は任意に設定可能である。主室2や副室3についても、その形状は任意に設定可能である。
【0039】
図5(A)~(D)は、キャニスタ1の構造を例示する水平断面図(第一プレート7,第二プレート8の上面図)である。図5(A),(C)は、ケーシング20の全体形状が角柱状のキャニスタ1を示し、図5(B),(D)は、ケーシング20の全体形状が円柱状のキャニスタ1を示す。また、図5(A),(B)は、正圧弁5及び負圧弁6が一つずつ設けられたキャニスタ1を示し、図5(C),(D)は、正圧弁5及び負圧弁6の各々が複数設けられたキャニスタ1を示す。
【0040】
正圧弁5の数を増加させることで、正圧弁5の開放時における燃料蒸気の流れの偏りを小さくすることができる。同様に、負圧弁6の数を増加させることで、負圧弁6の開放時における燃料蒸気や外気の流れの偏りを小さくすることができる。したがって、正圧弁5及び負圧弁6の各々を複数設けることで、燃料蒸気を偏在しにくくすることができ、吸着脱離効率をさらに改善できる。なお、燃料蒸気の流れが偏りにくくなるように、正圧弁5及び負圧弁6の各々を分散させて配置してもよいし、上面視で対称(線対称,点対称,回転対称)になるように配置してもよい。
【0041】
また、上記の実施例では、第一プレート7(プレート)及び第一スプリング25を備えたキャニスタ1を例示したが、これらを省略してもよい。この場合、正圧弁5及び負圧弁6は、主室2と副室3との間に設けられる。少なくとも、正圧弁5及び負圧弁6を主室2と副室3との間に設けることで、上記の実施例と同様の作用効果を奏するキャニスタ1を実現可能である。
【0042】
なお、上記の実施例では、タンクポート22及びパージポート23が第一多孔質体27よりも下方に配置されたキャニスタ1を例示したが、タンクポート22及びパージポート23の接続位置は、このような構成に限定されない。また、上記の実施例では、正圧弁5及び負圧弁6が第一多孔質体27よりも上方に配置されたキャニスタ1を例示したが、正圧弁5及び負圧弁6の配設位置は、このような構成に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本件は、エンジンに付設されるキャニスタの製造産業に利用可能であり、エンジン及びキャニスタが搭載される車両の製造産業に利用可能である。また、エンジン及びキャニスタが搭載される産業用機械や発電装置などの製造産業にも利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 キャニスタ
2 主室
3 副室
4 スプリング室
5 正圧弁
6 負圧弁
7 第一プレート(プレート)
8 第二プレート
9 連通孔
10 正圧制御室
11 正圧入口孔
12 正圧出口孔
13 正圧板
14 正圧ばね
15 負圧制御室
16 負圧入口孔
17 負圧出口孔
18 負圧板
19 負圧ばね
20 ケーシング
21 隔壁
22 タンクポート
23 パージポート
24 大気ポート
25 第一スプリング(スプリング)
26 第二スプリング
27 第一多孔質体
28 第二多孔質体
図1
図2
図3
図4
図5