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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173502
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】抗癌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/02 20150101AFI20231130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 36/064 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A61K35/02
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K36/064
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085798
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000248233
【氏名又は名称】有限会社桂鉱社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】北川 隆徳
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BA02
4C087BC12
4C087CA09
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】癌の治療のために用いることができる新規な技術を提供する。
【解決手段】珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む抗癌組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む抗癌組成物。
【請求項2】
乳癌、子宮頸癌、急性白血病、悪性黒色腫、胃癌、慢性骨髄性白血病、膵臓がん、子宮膜がん、甲状腺がん、または肝臓がんの治療のために用いられる請求項1に記載の抗癌組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗癌組成物を含む癌治療用製剤または癌治療用器具。
【請求項4】
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞の接着抑制剤。
【請求項5】
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞の細胞骨格形成抑制剤。
【請求項6】
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞のアポトーシス誘導剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌の治療のために用いることができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療にあたっては有機化合物を有効成分とした治療用製剤を用いての治療や放射線照射による治療などが広く行われている。
また、超音波を用いての癌治療(例えば特許文献1)や活性水素を用いての癌治療(例えば特許文献2)も提案されている。
【0003】
一方、これまでに出願人は、還元能を有する組成物を提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-275284号公報
【特許文献2】特開2009-196968号公報
【特許文献3】特開2022-040826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、癌の治療のために用いることができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
癌の治療にあたってはより多くの選択肢が存在することが好ましい。
本発明者は、鋭意研究の結果、珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と酵母細胞壁の水熱反応処理物とを含む組成物の作用により癌細胞を死滅またはその増殖を阻害できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0007】
[1]
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む抗癌組成物。
[2]
乳癌、子宮頸癌、急性白血病、悪性黒色腫、胃癌、慢性骨髄性白血病、膵臓がん、子宮膜がん、甲状腺がん、または肝臓がんの治療のために用いられる[1]の抗癌組成物。
[3]
[1]または[2]に記載の抗癌組成物を含む癌治療用製剤または癌治療用器具。
[4]
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞の接着抑制剤。
[5]
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞の細胞骨格形成抑制剤。
[6]
珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、
酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む癌細胞のアポトーシス誘導剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、癌の治療のために用いることができる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したMCF-7細胞(ヒト乳癌細胞)への影響を示す写真である。
図2】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したHela細胞(ヒト子宮頸癌細胞)への影響を示す写真である。
図3】参考として示す写真であり、実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したNHDF細胞(ヒト繊維芽正常細胞)の写真である。
図4】皮膚腫瘍3Dモデルにおける試験での、実施例の抗癌組成物によるMCF-7細胞(ヒト乳癌細胞)への影響を示す写真である。
図5】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したときの、BALL-1細胞(ヒト急性白血病由来細胞)への影響を示す写真である。
図6】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したときの、BALL-1細胞(ヒト急性白血病由来細胞)への影響を示すグラフである。
図7】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したときの、K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病)への影響を示すグラフである。
図8】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したときの、Molt-4細胞(ヒト急性白血病T細胞)への影響を示すグラフである。
図9】実施例の抗癌組成物をウェルの周囲に入れて培養したときの、PBMC(ヒト末梢血単核球)への影響を示すグラフである(参考)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の1つの実施形態について詳述する。
本実施形態は、珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を湿式ボールミルにより処理することにより得られるゲル状体と、酵母細胞壁の水熱反応処理物と、を含む抗癌組成物に関する。本明細書において、抗癌組成物とは、癌治療用組成物ともいい、癌細胞の死滅を促進する、および/または癌細胞の増殖を妨げる作用を有する組成物を意味する。
なお、以下の説明においては上記のゲル状体について、単にゲル状石英斑岩ともいう。
【0011】
ゲル状石英斑岩は、例えば特許第4986315号に記載の方法により得ることができる。
石英斑岩とは、石英および正長石の斑晶を有する酸性の斑岩(火成岩)をいう。ゲル状石英斑岩は、石英斑岩のうち、珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有する石英斑岩を用いて調製できる。このような組成を有する石英斑岩を、ボールミル処理後にゲル状の態様を有するようになる量で水に分散させ懸濁液とした後、懸濁液を湿式ボールミルを用いての処理に供し、石英斑岩を粉砕、ゲル化することで得ることができる。
なお、石英斑岩の組成は蛍光X線分析法による分析で確認できる。
【0012】
酵母細胞壁の水熱反応処理物は、例えば、国際公開第2010/104197号や国際公開第2013/094235号などに開示されており、国際公開第2010/104197号や国際公開第2013/094235号に開示される方法に従って調製することができる。
水熱反応処理の原料として用いられる酵母細胞壁は、特に限定されないが、例えば乾燥酵母細胞壁や酵母細胞壁懸濁液とすることができる。
【0013】
本明細書において水熱反応処理(過熱水蒸気処理)とは、加温、および加圧により過熱水蒸気を発生させ、発生した過熱水蒸気の影響により対象物の物性を変化させる方法を意味する。
過熱水蒸気を発生させる温度は、好ましくは120℃以上220℃以下であり、より好ましくは150℃以上210℃以下である。また、過熱水蒸気を発生させる圧力は、好ましくは0.9MPa以上1.9MPa以下であり、より好ましくは1.2MPa以上1.8MPa以下である。特に、圧力が0.9MPa以上1.9MPa以下であり、且つ、温度が120℃以上220℃以下で行われる水熱反応処理が好ましく、圧力が0.9MPa以上1.9MPa以下であり、且つ、温度が150℃以上210℃以下で行われる水熱反応処理がより好ましく、圧力が1.2MPa以上1.8MPa以下であり、且つ、温度が150℃以上210℃以下で行われる水熱反応処理がさらにより好ましい。
【0014】
本実施形態の抗癌組成物は、ゲル状石英斑岩と酵母細胞壁の水熱反応処理物とを含有させて組成物を構成するなどして調製することができる。具体的には、ゲル状石英斑岩と酵母細胞壁の水熱反応処理物とを混合するなどすればよい。混合の方法や組成物の製造過程におけるゲル状石英斑岩と酵母細胞壁の水熱反応処理物との混合を行うタイミングなどは特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
例えば、上記組成を有する石英斑岩に対する湿式ボールミルによる処理と酵母細胞壁に対する水熱反応処理とをそれぞれ行った後に、得られたゲル状石英斑岩と酵母細胞壁の水熱反応処理物とを混合するなどすればよい。
ゲル状石英斑岩と酵母細胞壁の水熱反応処理物との混合割合は特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、ゲル状石英斑岩:100重量部に対し、酵母細胞壁の水熱反応処理物:1重量部以上900重量部以下とすることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態の抗癌組成物は、ゲル状石英斑岩、酵母細胞壁の水熱反応処理物に加えて本発明の目的を達成できる範囲で他の成分を含むようにしてもよく、特に限定されない。例えば上記の成分に加えて水等を含むようにすることもできる。
【0016】
本実施形態の抗癌組成物は、癌細胞の死滅を促進する、および/または癌細胞の増殖を妨げることができる限り、その使用態様についても特に限定されない。
例えば、癌細胞を含む患部に直接的に接触させて癌細胞を死滅またはその増殖を抑制することができる。また、癌細胞の死滅を促進する、および/または癌細胞の増殖を妨げることが可能である限り、患部との間に物体を介していてもよい。なお、該物体として、例えば、ポリエチレン、ポチスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどを素材として形成されている物体を挙げることができる。
本実施形態の抗癌組成物の作用により、癌細胞の接着の抑制、細胞骨格形成の抑制、および癌細胞のアポトーシスの誘導が可能である。
本実施形態の抗癌組成物の量は治療の態様などに応じて適宜設定でき、特に限定されないが、局部に接触させる場合の患者への負担や利便性の観点から、例えば、1~1000g程度での使用が好ましい。
【0017】
例えば本発明の一つの態様として、本実施形態の抗癌組成物を含む癌治療用製剤または癌治療用器具を提供することができる。
癌治療用製剤である場合の剤形は特に限定されず、例えば貼付剤などの外用剤とすることができる。治療用器具についてもその具体的な形態は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0018】
また、本発明の一つの態様として、抗癌組成物と、その内部において抗癌組成物を収容する収容部とを有する癌治療用製剤または癌治療用器具を提供することができる。癌の治療にあたっては、例えば収容部の外部を対象の癌細胞群を含む患部に接触させるなどすればよい。収容部を構成する素材は収容部内の抗癌組成物の作用により癌細胞の死滅を促進する、および/または癌細胞の増殖を妨げることが可能である限り特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポチスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどの素材などを挙げることができる。
【0019】
以上、本実施形態によれば、癌を治療できる新規な組成物を提供することができる。
本実施形態の抗癌組成物により治療可能な癌としては特に限定されないが、例えば、乳癌、子宮頸癌、悪性黒色腫、胃癌、膵臓がん、子宮膜がん、甲状腺がん、または肝臓がんなどの固形癌や急性白血病、慢性骨髄性白血病などの血液癌を挙げることができる。
【実施例0020】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。[酵母細胞壁の水熱反応処理物]
磁力撹拌型水熱反応釜に蒸留水143.6gを投入後、酵母細胞壁(アサヒグループ食品株式会社)25.4gを投入した。蓋を閉めて撹拌して混合した後、昇温を開始した。圧力1.6MPa以上及び温度180℃の条件下で10分間処理して酵母細胞壁の水熱反応処理物を得た。
【0021】
[石英斑岩の組成分析]
使用した石英斑岩については、蛍光X線分析により珪酸(SiO2)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、およびりん(P)を含有することを確認した。蛍光X線分析の条件を以下に示す。
蛍光X線分析装置:(株)リガク製ZSX PrimusII
X線管球:Rh、測定スペクトル:RhLα、管電圧:50kV、管電流:60mA、スリット:S2、分光結晶:Ge、検出器:PC、分析面積:30mmφ、ピーク位置(2θ):89.510deg.、バックグランド(2θ):87.000deg.及び92.000deg.、積算時間:60秒/sample
【0022】
[実施例および比較例の組成物の調製]
石英斑岩粉末に蒸留水を加え(石英斑岩粉末と蒸留水の重量比 40:60)、湿式ボールミル(有限会社桂鉱社製)でゲル化した。
得られたゲル状石英斑岩に酵母細胞壁の水熱反応処理物を混合し(石英斑岩:酵母細胞壁水熱反応物=90:10(重量比))、実施例の抗癌組成物を得た。
【0023】
[試験に用いたMCF-7細胞(ヒト乳癌細胞)、NHDF細胞(ヒト繊維芽正常細胞)、Hela細胞(ヒト子宮頸癌細胞)の維持・継代]
増殖培地は以下の組成とした。
450 mL ダルベッコ変法イーグルMEM (D-MEM)
5 mL 100 × MEM用非必須アミノ酸
5 mL 100 × ペニシリン-ストレプトマイシン溶液
10 mL 1M HEPES/PBS溶液
50 mL FBS
【0024】
維持・継代は以下の操作を繰り返すことで行った。
・MCF-7細胞、NHDF細胞、Hela細胞をF75フラスコでセミコンフルエントまで増殖させる。
・増殖培地を除去し、3 mLの0.02 % EDTA-Na/PBS溶液(以下、EDTA-PBS)で細胞をリンスして、その後EDTA-PBSを完全に除去する。
・1 mLの0.25 %トリプシン/EDTA-PBS(以下、トリプシン溶液)を加え、細胞全面に行き渡るようにして、37℃、CO2インキュベーター内で細胞が分散するのを待つ。
・14 mLの増殖培地を新しいF75フラスコに入れておく。
・トリプシン溶液で細胞を分散中のフラスコに4 mLの増殖培地を加え、そのままピペッティングして完全に細胞を分散させる。
・細胞浮遊液から1 mLを分取し、増殖培地を入れた新しいF75フラスコに加え、引き続き培養を行う。
【0025】
[試験1:癌細胞の増殖抑制試験]
F75フラスコで維持・継代中のMCF-7細胞、NHDF細胞、Hela細胞の増殖培地をそれぞれ除去した。3 mLのEDTA-PBSで細胞をリンスして、その後EDTA-PBSを完全に除去した。1 mLのトリプシン溶液を加え、細胞全面に行き渡るようにして、37℃、CO2インキュベーター内で細胞が分散するのを待った。
14 mLの増殖培地を新しいF75フラスコに入れておき、また、トリプシン溶液で細胞を分散中のフラスコに4 mLの増殖培地を加え、そのままピペッティングして完全に細胞を分散させた。細胞懸濁液を1 mL採取し、14 mLの増殖培地を入れた上記の新しいF75フラスコに加え、引き続き継代した。
残りの4 mLの細胞浮遊液を15 mL遠心チューブに入れ、1,000 rpm、5分間で遠心分離した。遠心上清液を捨て、タップして細胞ペレットをほぐした後、5 mLの増殖培地に再懸濁した。細胞浮遊液の一部を取り、細胞数を算定した。
増殖培地にて2 mLの1 × 104 cells/mL、5 × 104 cells/mLの細胞浮遊液を調整した。
100 μLの細胞浮遊液をトリプルウェルに入れるとともに、ウェルの隙間に2 mLの実施例の抗癌組成物あるいはPBSを加え、37℃、CO2インキュベーターで3日間培養した。
各ウェルの培地を除去し、100 μLのPBSを加え細胞を洗浄した。
更にPBSを除去し100 μLの新しいPBSを加えた。
各ウェルのPBSを除去し、50 μLの0.5 %クリスタルバイオレット/20 %メタノールを各ウェルに加えた。
5分間染色し、流水下で余分な色素を洗浄後、ウェルを乾燥させた。
【0026】
MCF-7細胞、Hela細胞の結果を図1図2に示す。また、参考としてNHDF細胞の結果を図3に示す。
図1から理解できるとおり、試験終了後においてMCF-7細胞は死滅していた。同様にHela細胞についても試験終了後、細胞数の大きな減少が確認された。
一方、NHDF細胞については細胞数の大きな減少は確認されなかった。
【0027】
[試験2:皮膚腫瘍3Dモデルにおける試験]
拡大培養したNHDF細胞をトリプシンで分散し、増殖培地にて5 × 104 cells/mLに調整し、TCインサート(24ウェルタイプ、0.3 cm2/well)に100 μL、播種し、NHDF細胞がコンフルエントになるまで培養した。
1 × 105 cells/mLのNHDF細胞と1 × 103 cells/mLのMCF-7細胞を等量混合し、混合液を得た。24ウェル側のウェルの培地を交換し、100 μLの混合液を播種し、顕微鏡下でMCF-7細胞の塊が形成されるまで培養した。
24ウェル側のウェルの培地を除去し、約1 mLの実施例の抗癌組成物を入れ、その中にインサートを埋没させ3日間培養した。
4 %パラホルムアルデヒドで細胞を固定後、水道水で洗浄し、ギムザ染色を行い観察した。
結果を図4に示す。
【0028】
試験の結果、NHDF細胞には影響が認められない一方、MCF-7細胞については死滅またはコロニーの縮小が確認された。
【0029】
[試験3:遺伝子解析試験]
1. 細胞(MCF-7)の維持・継代
以下の操作により維持、継代を行った。
1.維持・継代中のMCF-7細胞をトリプシン溶液により分散した。
2.それぞれの細胞の細胞浮遊液を15 mL遠心チューブに入れ、遠心した。
3.遠心上清液を捨て、増殖培地に再浮遊した。
4.それぞれの浮遊液の一部を取り、細胞数を算定した。
5.増殖培地にて、1.5 × 104cells/mLの細胞浮遊液を調製し、35 mmディッシュに3 mL入れた。
6.37℃、CO2インキュベーターで2-3日間培養した。
【0030】
培養していた35 mmディッシュを実施例の抗癌組成物が入った10 cmディッシュに入れ、37℃、CO2インキュベーターで6時間培養した。
培養した細胞からPureLink(登録商標) RNA Mini Kit (Thermo Fisher Scientific, 12183018A)を用いてRNA抽出した。次いで、SuperScript(登録商標) IV VILO(登録商標) Master Mix with ezDNase(登録商標) Enzyme (Thermo Fisher Scientific, 11766050)を用いてcDNAを合成した。
得られたcDNA について、Taqman Array Cards (Applied Biosystems, Design ID:RT322AP)及びTaqMan Fast Advanced Master Mix (Applied Biosystems, 4444557)を用いて、遺伝子発現を調べた。GAPDH遺伝子を内在性コントロールとして補正に使用した後、コントロールに対する各mRNAの相対比を求めた。
結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から理解できるとおり、アポトーシスの阻害に係るBCL2遺伝子について発現が阻害されているとともに、細胞の接着に係るTHBS1遺伝子、細胞骨格形成に係るKRT18遺伝子についても発現が阻害されていた。
【0033】
[試験4:BALL-1細胞(ヒト急性白血病B細胞)の増殖抑制試験]
以下の条件に基づきBALL-1細胞に対する増殖抑制について試験を行った。
・増殖形態 浮遊培養
・培地 RPMI1640
・添加物 10%牛胎児血清(非動化)、非必須アミノ酸、20mM HEPES
・試験方法
維持継代中のBALL-1細胞を培地にて5 x 105cells/mLに調整し、ガラスベーストリプルウェルディッシュの各ウェルに200μLの細胞浮遊液を播種した。
コントロール群として2mLのPBS、実施例の抗癌組成物群として2mLの実施例の抗癌組成物をそれぞれのディッシュの間隙に入れ、CO2インキュベーターにて3日間、培養した。
ルミネックス社guava ViaCount試薬により、細胞を染色し、総細胞濃度、生細胞数濃度、生細胞率、アポトーシス細胞率、死細胞率を解析した。
結果を図5図6に示す。
【0034】
図5図6から理解できるとおり、実施例の抗癌組成物群においてBALL-1細胞の増殖の抑制が確認された。
【0035】
[試験5:K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病)などの増殖抑制試験]
試験4と同様の方法でK562細胞、Molt-4細胞(ヒト急性白血病T細胞)について試験を行った。また、参考として、PBMC(ヒト末梢血単核球)についても同様に試験を行った。
結果を図7~9に示す。
【0036】
図7~8から理解できるとおり、実施例の抗癌組成物群において各細胞の増殖の抑制が確認された。
【0037】
[試験6:癌細胞の増殖抑制試験]
以下の操作により増殖抑制試験を行った。
1.維持・継代中の付着細胞をトリプシンで分散し細胞数を算定した。
2.各細胞をそれぞれの増殖培地にて1.5 x 105cells/mLに調製し、200μLの細胞浮遊液をトリプルウェルガラスベースディッシュの各ウェルに播種し、培養した。
3.3日後、ディッシュの間隙に2mLのPBS(コントロール群)あるいは2mLの実施例の抗癌組成物(実施例の抗癌剤群)を入れた。
4.PBSあるいはスラリーを入れてから5日後に、コントロール群、スラリー群それぞれ1枚のディッシュの各ウェルの培養上清液を除去し、200μLのPBSでリンスしてから100μLの4%パラホルムアルデヒド緩衝液を加え1時間固定した。
5.固定後、300μLの水でウェルをリンスして乾燥させた。
6.100μLの0.5%クリスタルバイオレットPBS溶液を各ウェルに入れ5分間染色した。染色後は、300μLの水で2回洗浄して乾燥させた。
7.200μLの50%エタノールPBS溶液を各ウェルに入れ、染色されたクリスタルバイオレットを抽出した(クリスタルバイオレットdye uptake)。
8.各ウェルから100μLのクリスタルバイオレット抽出液を96ウェルマイクロプレートのウェルに移し570nmにて吸光度を測定した。この吸光度を細胞数とした。
9.抽出の終わった、ディッシュのウェルを水でリンスし、100μLのギムザ染色原液を水道水で10倍に希釈したギムザ染色液を各ウェルに入れ15分間染色した。染色後は、300μLの水で2回洗浄して乾燥させた。
10.顕微鏡で観察した(顕微鏡写真)。
【0038】
該試験は、MCF-7細胞(ヒト乳がん由来細胞)、Hela細胞(ヒト子宮頸部がん由来細胞)、Mewo細胞(ヒトメラノーマ由来細胞)、VMRC-RCZ細胞(ヒト胃がん由来細胞)、MIA Paca-2細胞(ヒト膵臓がん由来細胞)、SNG-M細胞(ヒト子宮内膜がん由来細胞)、MKN-45細胞(ヒト胃がん由来細胞)、HSC-1細胞(ヒト皮膚がん由来細胞)、HTC/C3細胞(ヒト甲状腺がん由来細胞)、HLE細胞(ヒト肝臓がん由来細胞)、HepG2細胞(ヒト肝臓がん由来細胞)について行った。また、参考として、NHDF細胞(ヒト正常皮膚繊維芽細胞)についても同様に試験を行った。
結果を表2、3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2、3から理解できるとおり、実施例の抗癌組成物群において各細胞の増殖の抑制が確認された。
図1
図2
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図9