(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173524
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/40 20160101AFI20231130BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231130BHJP
B62D 7/22 20060101ALI20231130BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231130BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
H02P29/40
B62D6/00
B62D7/22
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085838
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】星 譲
【テーマコード(参考)】
3D034
3D232
5H501
【Fターム(参考)】
3D034BA05
3D034BA08
3D034BD06
3D232CC04
3D232CC09
3D232CC22
3D232CC27
3D232CC44
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DA65
3D232DC02
3D232DC12
3D232DC18
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD07
3D232DD10
3D232DD17
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
5H501AA20
5H501BB05
5H501GG05
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ23
5H501JJ24
5H501JJ26
5H501LL22
5H501LL32
5H501LL35
(57)【要約】
【課題】適合要素の無い簡素な構成で逆起電圧による外乱を抑制する。
【解決手段】電流指令値と実電流値との差分値に基づいたPID制御により電圧指令値を算出するPID制御部と、上記電圧指令値に基づいた出力電圧値を出力する電圧出力部と、上記PID制御部と上記電圧出力部との間で上記電圧指令値を、外部入力無しで、遅延を伴って正帰還させることで逆起電圧による外乱を抑制する外乱抑制部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値と実電流値との差分値に基づいたPID制御により電圧指令値を算出するPID制御部と、
前記電圧指令値に基づいた出力電圧値を出力する電圧出力部と、
前記PID制御部と前記電圧出力部との間で前記電圧指令値を、外部入力無しで、遅延を伴って正帰還させることでモータの逆起電圧による外乱を抑制する外乱抑制部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
前記PID制御部と前記電圧出力部との間で前記電圧指令値に作用するローパスフィルタを更に備え、
前記外乱抑制部は、前記電圧指令値を前記ローパスフィルタの出力側から入力側にフィードバックさせる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記PID制御部は、前記差分値に対し、
GPID={ωcL+(R/2)}[1+{ωc/(2s)}+{s/(2ωc)}]
但し、
s:ラプラス演算子
ωc[rad/s]:外乱抑制帯域
L[H]:前記モータのインダクタンス
R[Ω]:前記モータの抵抗
で表されるゲインGPIDを作用させて前記電圧指令値を算出する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
を備えた電動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、
を備えた電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータが回転すると逆起電圧を発生し、逆起電圧が外乱として、電流制御のフィードバックループ内に混入する。モータ制御装置が有するPID(Proportional Integral Differential)制御器は、電流指令値通りに実電流をモータに流すという役割を有するが、逆起電圧の外乱によってPID制御器の役割が阻害されて電流偏差(電流指令値と実電流との差)が大きくなる。
このため、例えば特許文献1および特許文献2には、逆起電圧による外乱の影響を抑制する機能を有したモータ制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-219870号公報
【特許文献2】特開2021-141691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術ではモータのコイルLと抵抗Rをモデル化したLRモデルが用いられるため、製造時のばらつきや使用時の温度変化などに伴って変化するコイルLと抵抗Rの値が適合要素となり、外乱抑制の精度低下の要因となる。
また、特許文献2の技術では、フィードフォワード型の制御が行われているため適合要素が存在し、外乱抑制の精度低下の要因となる。
そこで、本発明は、適合要素の無い簡素な構成で逆起電圧による外乱を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータ制御装置の一態様は、電流指令値と実電流値との差分値に基づいたPID制御により電圧指令値を算出するPID制御部と、上記電圧指令値に基づいた出力電圧値を出力する電圧出力部と、上記PID制御部と上記電圧出力部との間で上記電圧指令値を、外部入力無しで、遅延を伴って正帰還させることで逆起電圧による外乱を抑制する外乱抑制部と、を備える。
このようなモータ制御装置によれば、適合要素の無い簡素な外乱抑制部によって逆起電圧による外乱を抑制することができる。
【0006】
また、上記のモータ制御装置において、上記PID制御部と上記電圧出力部との間で上記電圧指令値に作用するローパスフィルタを更に備え、上記外乱抑制部は、上記電圧指令値を上記ローパスフィルタの出力側から入力側にフィードバックさせることが好ましい。ローパスフィルタが備えられることにより、実電流値の検出に伴う電流検出ノイズに対する感度が低下する。また、ローパスフィルタが上記PID制御部と上記電圧出力部との間に位置することで電圧ノイズの感度が近似的にゼロとなる。
【0007】
また、上記のモータ制御装置において、上記PID制御部は、上記差分値に対し、
GPID={ωcL+(R/2)}[1+{ωc/(2s)}+{s/(2ωc)}]
但し、
s:ラプラス演算子
ωc[rad/s]:外乱抑制帯域
L[H]:前記モータのインダクタンス
R[Ω]:前記モータの抵抗
で表されるゲインGPIDを作用させて上記電圧指令値を算出することが好ましい。上記ゲインGPIDを上記差分値に作用させる簡素なPID制御部と上記外乱抑制部との組み合わせによって精度の高い外乱抑制が実現される。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動アクチュエータの一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、を備える。
このような電動アクチュエータによれば、モータ制御装置による制御で逆起電圧による外乱が抑制されるので電流指令値通りの実電流がモータに流れて所望の出力が得られる。
上記課題を解決するために、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、上記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備える。
このような電動パワーステアリング装置によれば、電流指令値通りの実電流がモータに流れて所望の出力が得られるので、ステアリングに対するアシスト精度が高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適合要素の無い簡素な構成で逆起電圧による外乱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
【
図2】コントロールユニットの機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】電圧指令値演算部の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】電流指令値の入力に対するq軸実電流の周波数応答を示すグラフである。
【
図5】ステップ応答の例を示すモータの回転数のグラフである。
【
図6】ステップ応答の例を示すq軸電流のグラフである。
【
図7】ランプ応答の例を示すq軸電流のグラフである。
【
図8】ランプ応答の例を示すd軸電流のグラフである。
【
図9】操舵時におけるフィードフォワード型の制御の応答例を示すグラフである。
【
図10】操舵時における本実施形態の応答例を示すグラフである。
【
図11】電圧指令値演算部の機能構成の他の一例を示す機能ブロック図である。
【
図12】
図11に示す構成例における周波数応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0012】
本明細書において、電源からの電力を、三相(A相、B相、C相)の巻線を有する三相モータに供給する電動アクチュエータを例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電動アクチュエータも本開示の範疇である。
【0013】
図1は、電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
本実施形態の電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル1と、コラム軸2と、減速ギア3と、ユニバーサルジョイント4A、4Bと、ピニオンラック機構5と、操向車輪のタイロッド6とを有したステアリング機構を備えている。また、電動パワーステアリング装置100は、トルクセンサ10と、モータ20と、コントロールユニット30と、イグニションキー11と、車速センサ12と、バッテリ14を備えている。モータ20とコントロールユニット30とを併せたものが、本発明の電動アクチュエータの一実施形態に相当し、コントロールユニット30は、本発明のモータ制御装置の一実施形態に相当する。上記ステアリング機構はモータ20によって駆動される。
【0014】
操向ハンドル1のコラム軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。
トルクセンサ10は、操向ハンドル1から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThを検出する。
【0015】
パワーステアリング装置100を制御するコントロールユニット(ECU)30には、電源であるバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニションキー11からイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いて操舵の補助トルクを算出する。
そして、コントロールユニット30は、算出した補助トルクを発生するように、モータ20に供給する電流Iを制御する。モータ20には、コントロールユニット30によって制御された電圧が印加され、その制御された電圧によって電流Iが制御される。モータ20の駆動によって発生する補助トルクが運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与され、運転手は軽い力でハンドル操作を行うことができる。
【0016】
ハンドル操作によって出力された操舵トルクThと車速Vhからどの程度の補助トルクが生じるかによって、ハンドル操作におけるフィーリングの善し悪しが決まる。また、補助トルクを得るために必要な電流Iをモータ20に流す精度により、電動パワーステアリング装置の性能が大きく左右される。
【0017】
コントロールユニット30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む
コンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置および光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
【0018】
コントロールユニット30は、各情報処理を実行するための以下に説明する専用のハードウエアにより構成されてもよい。
例えば、コントロールユニット30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントロールユニット30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0019】
図2は、コントロールユニット30の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
コントロールユニット30は、電流指令値演算部40と、電圧指令値演算部45と、2相/3相変換部46と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部47と、インバータ48と、3相/2相変換部49とを備え、モータ20をベクトル制御で駆動する。モータ20は一例として3相モータである。
電流指令値演算部40、電圧指令値演算部45、2相/3相変換部46、PWM制御部47および3相/2相変換部49の機能は、例えばコントロールユニット30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0020】
電流指令値演算部40は、操舵トルクThや車速Vhに基づいてモータ20に流すべきdq2軸の電流それぞれを示した電流指令値Iq0、Id0を算出する。
一方で、モータ20の各相に流れる電流ia、ib、icは、各層に備えられた電流センサ60、61、62で検出され、検出された電流ia、ib、icは3相/2相変換部49でdq2軸の実電流値id、iqに変換されてフィードバックされる。
【0021】
電圧指令値演算部45には電流指令値Iq0、Id0が入力され、フィードバックされた実電流値id、iqも入力される。電圧指令値演算部45は、電流指令値Iq0、Id0と実電流値id、iqとの差分値が0となるような電圧指令値vq、vdを算出する。2相/3相変換部46は、電圧指令値vd、vqを3相の電圧指令値va、vb、vcに変換する。
【0022】
PWM制御部47は、3相の電圧指令値va、vb、vcに基づいてPWM制御されたゲート信号を生成する。インバータ48は、PWM制御部47で生成されたゲート信号によって駆動され、3相の電圧指令値va、vb、vcが示す電圧をモータ20の各相に印加する。その結果、モータ20には、電流指令値Iq0、Id0の示す電流が供給される。
【0023】
レゾルバ63は、モータ20のモータ角度(回転角)θを検出し、検出されたモータ角度θは電流指令値演算部40にフィードバックされてベクトル制御に使用される。レゾルバ63に替えてモータ回転角センサが用いられてもよい。なお、電流指令値演算部40には、モータ角度θの変化に基づいて算出されたモータ20の回転角速度ωが、モータ角度θと共に、あるいはモータ角度θに替えて、入力されてもよい。
【0024】
図3は、電圧指令値演算部45の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図3には、モータ20のモデルも示されている。
図3には、dq軸の制御機能が示されているが、以下の説明では代表としてq軸の制御について説明する。d軸の制御器はq軸の制御器と同様に設計される。
モータ20の機能は、電気特性21と、トルク定数K
Tと、機械特性23と、積分要素24と、EMF(逆起電圧)係数K
Eとを有するモデルで表される。
【0025】
モータ20の電気特性21に対して電圧が入力されることで実電流が発生する。電気特性21に対して入力される電圧値には電圧ノイズが含まれる。電気特性21のゲインは、インダクタンスL[H]および抵抗R[Ω]により1/(Ls+R)と表される。実電流は電流センサ60、61、62で検出され、検出値には電流検出ノイズが含まれる。
実電流にトルク定数KT[Nm/A]が作用することでモータトルクが発生する。
【0026】
モータトルクが機械特性23に入力されることでモータ20の角速度が発生する。機械特性23のゲインは、慣性J[kgm2]および粘性D[Nm/(rad/s)]により1/(Js+D)と表される。
モータ20の角速度は積分要素24を経てモータ角度θとなる。モータ角度θはレゾルバ63(またはモータ回転角センサ)によって検出され、検出値には角度検出ノイズが含まれる。
【0027】
角速度にEMF係数KE[V/(rad/s)]が作用することで逆起電圧が発生し、逆起電圧は電気特性21の入力に反映される。
電圧指令値演算部45は、制御帯域設定部70と、PID(Proportional Integral Differential)制御部71と、ローパスフィルタ72と、第1の遅延要素73を含んだEMF抑制部80と、第2の遅延要素75とを備えている。
【0028】
制御帯域設定部70は、上記電流指令値Iq0が入力されて電流指令値にゲインGrefを作用させることで、コントロールユニット30によるモータ20の電流制御における制御帯域を設定する。制御帯域設定部70のゲインGrefは、
Gref=ωref/(s+ωref)
但し、
s:ラプラス演算子
ωref[rad/s]:電流制御帯域
と表される。
【0029】
PID制御部71は、電流指令値Iq0とq軸実電流値iqとの差分値Eqが入力され、当該差分値Eqに基づいてPID制御によって電圧指令値vqを算出する。PID制御部71におけるゲインGPIDは、
GPID={ωcL+(R/2)}[1+{ωc/(2s)}+{s/(2ωc)}]
但し、
s:ラプラス演算子
ωc[rad/s]:外乱抑制帯域
L[H]:前記モータのインダクタンス
R[Ω]:前記モータの抵抗
と表される。
【0030】
第1の遅延要素73は、遅延を伴う正帰還によってEMF抑制部80として機能してEMF外乱を抑制する。つまり、EMF抑制部80は電圧指令値vqを、外部入力無しで、遅延を伴って正帰還させることでモータの逆起電圧による外乱を抑制する。第1の遅延要素73におけるゲインGdlyは、
Gdly=e-Tdly・s
但し、
Tdly[μs]:電流制御周期
と表される。
【0031】
第2の遅延要素75は、q軸実電流値iqのフィードバックループにおける遅延を意味する。第2の遅延要素75は、PID制御部71で算出された電圧指令値に基づいた出力電圧値を出力する。第2の遅延要素75におけるゲインGDLYは、
GDLY=e-TDLY・s
但し、
TDLY[μs]:電流センサ60、61、62による電流検出からインバータ48の出力におけるデューティー反映までの演算時間
と表される。
【0032】
図3に示す機能ブロック図における伝達関数の近似式は、下記の式(1)となる。
【数1】
但し、
Iq0:電流指令値
Δv:電圧ノイズ
Δi:電流検出ノイズ
Δτ:トルク外乱
Δθ:角度検出ノイズ。
式(1)において転置記号Tが付いている行列は感度関数であり、電圧ノイズΔvに対応した感度関数は近似的にゼロとなっている。つまり、第1の遅延要素73を含んだ簡便な構成のEMF抑制部80が電圧ノイズΔvを効果的に抑制できることを式(1)は示している。
【0033】
図4は、電流指令値Iq0の入力に対するq軸実電流iqの周波数応答を示すグラフである。
図4の横軸は周波数を示す対数軸であり、
図4の縦軸は、上段では振幅、下段では位相を示している。
図4には、EMF抑制の機能を有さない場合の周波数応答が細い実線で示されている。また、上記特許文献2に示されるようなフィードフォワード型のEMF補償を有する場合の周波数応答が点線で示されている。細い点線は、11Hzのローパスフィルタをフィードフォワード経路に有する場合の周波数応答を示し、太い点線は、159Hzのローパスフィルタをフィードフォワード経路に有する場合の周波数応答を示す。
【0034】
フィードフォワード型の制御における周波数応答は、周波数帯域が異なると応答性も変化し、EMF外乱の影響が大きいことを示している。
これに対し、太い実線が表す本実施形態の周波数応答は、周波数の広い帯域においてフラットな応答となっている。従って本実施形態ではEMF外乱が抑制されて応答精度の高い制御が実現されることが示されている。なお、400Hz以上の帯域で応答が低下しているのは、制御帯域設定のカットオフ周波数が400Hzとなっているためである。
次に、各種の電流指令値Iq0の入力に対するq軸実電流iqの具体的な応答例について説明する。
【0035】
図5および
図6は、ステップ応答の例を示すグラフである。
図5には、モータの回転数の時間変移が示され、
図6には、q軸電流の時間変移が示されている。
図5および
図6の横軸は、いずれも時間を示すが、
図6の横軸は、
図5の横軸よりも大きく拡大されている。
【0036】
図5および
図6には、
図4と同様に、本実施形態における時間変移の例が太い実線で示され、フィードフォワード型のEMF補償を有する場合の周波数応答が点線で示されている。細い点線は、11Hzのローパスフィルタを有する場合を示し、太い点線は、159Hzのローパスフィルタを有する場合を示す。
図5および
図6には、回転数として3000[rpm]を狙った場合のステップ応答が示され、
図5に示すように、各グラフは3秒近辺から急上昇する。
【0037】
図6には、グラフの線種ごとに、ステップ型の電流指令値とそれに追随する実電流値とが示されている。
図6に示すように、点線で示されたフィードフォワード型の制御では、ステップ型の指令値に対する収束に時間が掛かっていて電流偏差が大きい。これに対し、本実施形態における実電流値は、ステップ型の指令値に対して約10msという短時間で収束しており、電流偏差が小さいことが確認できた。
【0038】
図7および
図8は、ランプ応答の例を示すグラフである。
図7には、q軸電流の時間変移が示され、
図8には、d軸電流の時間変移が示されている。
図7および
図8の横軸は時間を示し、
図7および
図8の縦軸は電流値を示す。
図7(A)および
図8(A)には、159Hzのローパスフィルタをフィードフォワード経路に有する場合の応答例が示されている。
図7(B)および
図8(B)には、11Hzのローパスフィルタをフィードフォワード経路に有する場合の応答例が示されている。
図7(C)および
図8(C)には、本実施形態における応答例が示されている。
【0039】
図7では、q軸の電流指令値が斜めの直線グラフで示されており、
図7(A)および
図7(B)では電流指令値に対して実電流値のずれが生じている。これに対し、
図7(C)では、実電流値のグラフが電流指令値のグラフと常に重なっていて、応答性の高さが確認された。
図8では、d軸の電流指令値が横軸に平行な点線グラフで示されており、
図8(A)および
図8(B)では電流指令値に対して実電流値のずれが生じている。これに対し、
図8(C)では、実電流値のグラフが電流指令値のグラフと常に重なっていて、d軸についても応答性の高さが確認された。
図5~
図8で確認されたように、本実施形態では電流指令値通りの実電流がモータ20に流れるため、モータ20とコントロールユニット30とを備えた電動アクチュエータでは、所望の出力が得られる。
【0040】
図9および
図10は、操舵時における応答例を示すグラフである。
図9および
図10の横軸は時間を示し、
図9および
図10の縦軸は電流値を示す。
図9および
図10の上段にはq軸電流の時間変移が示され、
図9および
図10の下段にはd軸電流の時間変移が示されている。
図9および
図10には、細い実線で電流指令値が示され、太い実線で実電流値が示されている。
図9には、フィードフォワード型の制御における応答が示され、
図10には、本実施形態における応答が示されている。
【0041】
図9に示すように、フィードフォワード型の制御の場合には、電流指令値のグラフに対して実電流値のグラフがずれている。これに対し、
図10に示すように、本実施形態では、電流指令値のグラフに実電流値のグラフが重なって両者の区別がつかないほど応答性が高いことが確認された。電流指令値通りの実電流がモータ20に流れることによってモータ20で所望の出力が得られるため、
図1に示す電動パワーステアリング装置100では、ステアリングに対するアシスト精度が高い。
【0042】
図5~
図10では、
図3に示す電圧指令値演算部45における高い応答性が確認されたが、上記式(1)において電流検出ノイズΔiに対する感度関数が1となっている。このため、電流検出ノイズΔiの対策を有することが望ましい。
図11は、電流検出ノイズΔiの対策が施された電圧指令値演算部45の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図11に示す構成例では、EMF外乱抑制部80に、電圧指令値に作用するローパスフィルタ72が含まれる。第1の遅延要素73は、ローパスフィルタ72の出力側から入力側へと電圧指令値をフィードバックさせる。
【0043】
ローパスフィルタ72は、q軸実電流値iqに含まれる電流検出ノイズΔiをカットする。ローパスフィルタ72におけるゲインGLPFは、
GLPF=ωLPF/(s+ωLPF)
但し、
s:ラプラス演算子
ωLPF[rad/s]:カットオフ周波数
と表される。
【0044】
図11に示す機能ブロック図における伝達関数の近似式は、下記の式(2)となる。
【数2】
【0045】
図12は、
図11に示す構成例における周波数応答を示すグラフである。
図12には、
図4と同様に、電流指令値Iq0の入力に対するq軸実電流iqの周波数応答が示されている。
図12の細い実線のグラフは、
図3の構成例における周波数応答を示し、
図12の太い実線のグラフは、
図11の構成例における周波数応答を示す。
図12に示す例では、EMF外乱抑制部80のローパスフィルタ72におけるカットオフ周波数は1kHzとなっている。
【0046】
図3の構成例における周波数応答に較べて
図11の構成例における周波数応答は、高周波帯域での応答性が低下しており、1kHz以上の周波数では-3[dB]以上の減少となっている。電流検出ノイズΔiは高い周波数のノイズであるため、高周波帯域での応答性低下により、電流検出ノイズΔiに対する実電流の感度が低下して、電流検出ノイズΔiの影響が抑制される。
【0047】
なお、上記説明では、パワーステアリング装置への応用例が示されているが、本発明の電動アクチュエータやモータ制御装置は、車両の駆動系やロボットなど幅広い分野への応用が可能である。即ち、本発明の実施形態や適用範囲は、パワーステアリング装置のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0048】
100…電動パワーステアリング装置、1…操向ハンドル、2…コラム軸、
3…減速ギア、4A、4B…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、
6…操向車輪のタイロッド、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、
12…車速センサ、14…バッテリ、20…モータ、30…コントロールユニット、
40…電流指令値演算部、45…電圧指令値演算部、46…2相/3相変換部、
47…PWM制御部、48…インバータ、49…3相/2相変換部、
60、61、62…電流センサ、63…レゾルバ、70…制御帯域設定部、
71…PID制御部、72…ローパスフィルタ、73…第1の遅延要素、
75…第2の遅延要素、80…EMF外乱抑制部