(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173526
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20231130BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231130BHJP
B62D 7/22 20060101ALI20231130BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231130BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
H02P21/05
B62D6/00
B62D7/22
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085840
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】星 譲
【テーマコード(参考)】
3D034
3D232
5H505
【Fターム(参考)】
3D034BA05
3D034BA08
3D034BD06
3D232CC09
3D232CC22
3D232CC27
3D232CC30
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC10
3D232DC12
3D232DC17
3D232DD02
3D232DD10
3D232DD17
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL38
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】角度検出ノイズを抑制しながら制御電圧の出力を高周波数化する。
【解決手段】dq2軸それぞれの電圧指令値を算出する指令値算出部と、dq2軸それぞれの上記電圧指令値を、n相モータの各相の電圧指令値に、演算時間間隔毎に変換する変換部と、上記変換部に対して進角補償を施し、上記演算時間間隔が複数に分割された複数の補間間隔それぞれにおける複数の進角量を当該変換部に対して上記演算時間間隔毎に与えることで、当該複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の上記電圧指令値を当該変換部によって上記演算時間間隔毎に算出させる進角補償部と、上記演算時間間隔毎に、上記複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の上記電圧指令値を記憶し、当該補間間隔毎に当該電圧指令値を出力する記憶部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
dq2軸それぞれの電圧指令値を算出する指令値算出部と、
dq2軸それぞれの前記電圧指令値を、n相モータの各相の電圧指令値に、演算時間間隔毎に変換する変換部と、
前記変換部に対して進角補償を施し、前記演算時間間隔が複数に分割された複数の補間間隔それぞれにおける複数の進角量を当該変換部に対して前記演算時間間隔毎に与えることで、当該複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の前記電圧指令値を当該変換部によって前記演算時間間隔毎に算出させる進角補償部と、
前記演算時間間隔毎に、前記複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の前記電圧指令値を記憶し、当該補間間隔毎に当該電圧指令値を出力する記憶部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
前記進角補償部は、前記n相モータの回転状態を推定する状態推定部を有し、推定された回転状態に基づいて前記進角補償を施す請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
を備えた電動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、
を備えた電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電流制御の演算周波数が、人の可聴領域内(20kHz以下)の例えば4kHzである場合、電流制御器の最終出力である制御電圧の出力タイミングに合わせて4kHzの音が発生する。この音は人によっては不快と感じる音である。
演算周波数を20kHz以上に上げることが出来れば可聴領域外となり問題は低減されるが、現在のマイクロコンピュータにおける演算処理速度では、20kHz以上で電流制御のための演算を実行するのは困難である。
【0003】
一方、電流制御における演算周波数が4kHz(250μs周期)のままで、電流制御器の最終出力である制御電圧の出力タイミングだけを20kHzに変更することは技術的に可能である。例えばDMA(ダイレクトメモリアクセス)を使用すれば、事前に演算した制御電圧値をメモリにセットして、希望の時間にほぼ処理負荷なく出力することができる。
例えば特許文献1には、モータ電気角の現在値および過去の値から、演算時間間隔よりも短い間隔の各未来時点における各モータ電気角を外挿で算出し、各モータ電気角に基づいてdq軸のDutyを3相のDutyに変換する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータ電気角の外挿によるゲイン特性は、高周波数領域で高ゲインとなるので角度検出ノイズを増幅してしまう。この結果、角度検出ノイズが電流制御のフィードバックループ内に混入して、音・振動が発生する。
そこで、本発明は、角度検出ノイズを抑制しながら制御電圧の出力を高周波数化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータ制御装置の一態様は、dq2軸それぞれの電圧指令値を算出する指令値算出部と、dq2軸それぞれの上記電圧指令値を、n相モータの各相の電圧指令値に、演算時間間隔毎に変換する変換部と、上記変換部に対して進角補償を施し、上記演算時間間隔が複数に分割された複数の補間間隔それぞれにおける複数の進角量を当該変換部に対して上記演算時間間隔毎に与えることで、当該複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の上記電圧指令値を当該変換部によって上記演算時間間隔毎に算出させる進角補償部と、上記演算時間間隔毎に、上記複数の補間間隔それぞれにおけるn相モータの各相の上記電圧指令値を記憶し、当該補間間隔毎に当該電圧指令値を出力する記憶部と、を備える。
このようなモータ制御装置によれば、進角補償における進角量が複数の補間間隔それぞれで算出されて変換部に与えられるため、高周波数領域でもゲイン上昇が抑制され、角度検出ノイズが抑制されながら制御電圧の出力が高周波数化される。
【0007】
上記のモータ制御装置において、上記進角補償部は、上記n相モータの回転状態を推定する状態推定部を有し、推定された回転状態に基づいて上記進角補償を施すことが好ましい。状態推定部はn相モータの回転状態を示した滑らかな状態信号を得ることができるため、状態信号に基づいた滑らかな進角補償が可能となる。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動アクチュエータの一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、を備える。
このような電動アクチュエータによれば、制御電圧の出力が高周波数化されてモータが駆動されるため駆動音が可聴域外へシフト可能である。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、上記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備える。
このような電動パワーステアリング装置によれば、駆動音が可聴域外へシフト可能であるのでアシスト時の異音が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、角度検出ノイズを抑制しながら制御電圧の出力を高周波数化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
【
図2】コントロールユニットの機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】進角補償部の回転数推定部の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】回転数推定部以外の進角補償部の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】電流制御系のゲイン特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0013】
本明細書において、電源からの電力を、三相(A相、B相、C相)の巻線を有する三相モータに供給する電動アクチュエータを例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電動アクチュエータも本開示の範疇である。
【0014】
図1は、電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
本実施形態の電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル1と、コラム軸2と、減速ギア3と、ユニバーサルジョイント4A、4Bと、ピニオンラック機構5と、操向車輪のタイロッド6とを有したステアリング機構を備えている。また、電動パワーステアリング装置100は、トルクセンサ10と、モータ20と、コントロールユニット30と、イグニションキー11と、車速センサ12と、バッテリ14を備えている。モータ20とコントロールユニット30とを併せたものが、本発明の電動アクチュエータの一実施形態に相当し、コントロールユニット30は、本発明のモータ制御装置の一実施形態に相当する。上記ステアリング機構はモータ20によって駆動される。
【0015】
操向ハンドル1のコラム軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。
トルクセンサ10は、操向ハンドル1から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThを検出する。
【0016】
パワーステアリング装置100を制御するコントロールユニット(ECU)30には、電源であるバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニションキー11からイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いて操舵の補助トルクを算出する。
そして、コントロールユニット30は、算出した補助トルクを発生するように、モータ20に供給する電流Iを制御する。モータ20には、コントロールユニット30によって制御された電圧が印加され、その制御された電圧によって電流Iが制御される。モータ20の駆動によって発生する補助トルクが運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与され、運転手は軽い力でハンドル操作を行うことができる。
【0017】
ハンドル操作によって出力された操舵トルクThと車速Vhからどの程度の補助トルクが生じるかによって、ハンドル操作におけるフィーリングの善し悪しが決まる。また、補助トルクを得るために必要な電流Iをモータ20に流す精度により、電動パワーステアリング装置の性能が大きく左右される。
【0018】
コントロールユニット30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む
コンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置および光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
【0019】
コントロールユニット30は、各情報処理を実行するための以下に説明する専用のハードウエアにより構成されてもよい。
例えば、コントロールユニット30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントロールユニット30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0020】
図2は、コントロールユニット30の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
コントロールユニット30は、電流指令値演算部40と、進角補償部44と、電圧指令値演算部45と、2相/3相変換部46と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部47と、インバータ48と、3相/2相変換部49とを備え、モータ20をベクトル制御で駆動する。更に、コントロールユニット30は、2相/3相変換部46とPWM制御部47との間にメモリ43を備える。モータ20は一例として3相モータである。
【0021】
電流指令値演算部40、進角補償部44、電圧指令値演算部45、2相/3相変換部46、PWM制御部47および3相/2相変換部49の機能は、例えばコントロールユニット30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
電流指令値演算部40、進角補償部44、電圧指令値演算部45、2相/3相変換部46、PWM制御部47および3相/2相変換部49は、所定の演算時間間隔毎に演算を実行する。
【0022】
電流指令値演算部40は、操舵トルクThや車速Vhに基づいてモータ20に流すべきdq2軸の電流それぞれを示した電流指令値Iq0、Id0を算出する。
一方で、モータ20の各相に流れる電流ia、ib、icは、各層に備えられた電流センサ60、61、62で検出され、検出された電流ia、ib、icは3相/2相変換部49でdq2軸の実電流値id、iqに変換されてフィードバックされる。
【0023】
電圧指令値演算部45には電流指令値Iq0、Id0が入力され、フィードバックされた実電流値id、iqも入力される。電圧指令値演算部45は電流指令値Iq0、Id0と実電流値id、iqとの差分値が0となるようなdq2軸それぞれの電圧指令値Vrefq、Vrefdを算出する。電圧指令値演算部45は、電圧指令値Vrefq、Vrefdを例えばPID(Proportional Integral Differential)制御によって算出する。
【0024】
2相/3相変換部46は、dq2軸の電圧指令値Vrefq、Vrefdを3相の電圧指令値VrefA、VrefB、VrefCに変換する。但し、2相/3相変換部46は、演算時間間隔毎に算出されるdq2軸の電圧指令値Vrefq、Vrefdに基づいて、3相の電圧指令値VrefA、VrefB、VrefCを演算時間間隔毎に複数セット算出する。電圧指令値VrefA、VrefB、VrefCの各セットは、演算時間間隔を複数に分割した複数の補間間隔それぞれに対応している。つまり、2相/3相変換部46は、複数の補間間隔それぞれにおける3相の電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCを算出する。複数セットの電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCは演算時間間隔毎に算出されてメモリ43に記憶される。
【0025】
進角補償部44は、2相/3相変換部46に対し、3相電流の位相遅れを補う進角補償を施す。即ち、モータ20へ印加される3相電圧の位相に対して3相電流の位相が遅れる分に相当する進角値を、3相の電圧指令値VrefA、VrefB、VrefCが算出される際の電気角θEに対して加算することで3相電流の位相を進める。進角補償部44は2相/3相変換部46に対し、複数の補間間隔それぞれにおける進角値Δθnを与えることで、複数の補間間隔それぞれにおける電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCを算出させる。進角補償の具体的な内容については後で詳述する。
【0026】
メモリ43は、PWM制御部47に対し、メモリ43に記憶されている電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCを補間間隔毎に1セットずつ出力する。
PWM制御部47は、3相の電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCに基づいてPWM制御されたゲート信号を生成する。インバータ48は、PWM制御部47で生成されたゲート信号によって駆動され、3相の電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCが示す電圧をモータ20の各相に印加する。その結果、モータ20には、電流指令値Iq0、Id0の示す電流が供給される。PWM制御部47およびインバータ48の動作は補間間隔毎に実行されるため、演算時間間隔毎の動作に対して高帯域化されている。このため、PWM制御部47およびインバータ48の動作周期を人の可聴帯域から外して異音を抑制することができる。
【0027】
レゾルバ63は、モータ20の回転軸の角度(回転角)θを検出し、検出された回転軸の角度θは電流指令値演算部40にフィードバックされてベクトル制御に使用される。以下の説明では、検出された回転軸の角度のことを「モータ角度」と称する。レゾルバ63に替えてモータ回転角センサが用いられてもよい。なお、電流指令値演算部40には、モータ角度θの変化に基づいて算出されたモータ20の回転角速度ωが、モータ角度θと共に、あるいはモータ角度θに替えて、入力されてもよい。
【0028】
図3および
図4は、進角補償部44の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
進角補償部44は、
図3に示す回転数推定部80を有し、
図4には、回転数推定部80以外の進角補償部44の機能構成が示されている。進角補償部44は、回転数推定部80によってモータ20の回転数を推定する。回転数推定部80は、モータ20の回転状態を推定する状態推定部の一例であり、本実施形態では回転数を推定する。進角補償部44は、回転数推定部80に替えて、例えば角加速度を推定する状態推定部を備えてもよい。
【0029】
図3に示す機能ブロックは、下記式(1)、式(2)に相当している。
【数1】
【数2】
但し、
z:状態推定器の中間変数
λ:状態推定器の特性根
j[kgm
2]:制御上のモータの慣性
d[Nm/(rad/s)]:制御上のモータの粘性
k
T[Nm/A] :制御上のモータのトルク定数
k:制御上のモータの剛性
i:q軸実電流値
x
1:モータ角度(=θ)
x
2(^付):回転数推定値(=ωest)。
【0030】
即ち、回転数推定部80にはq軸実電流値iとモータ角度x1が入力され、回転数推定部80から回転数推定値x2(^付)が出力される。回転数推定部80の第1ブロック51、第2ブロック52および第3ブロック53は、式(1)の第1項、第2項および第3項にそれぞれ対応する。回転数推定部80の第4ブロック54は、式(2)の第2項に対応する。第1ブロック51には回転数推定値x2(^付)が入力され、第2ブロック52および第4ブロック54にはモータ角度x1が入力され、第3ブロック53にはq軸実電流値iが入力される。第1ブロック51、第2ブロック52および第3ブロック53の出力は、互いに加算されて積分要素55に入力される。積分要素55および第4ブロック54の出力が互いに加算されて回転数推定値x2(^付)となる。
【0031】
回転数推定部80には、レゾルバ63(またはモータ回転角センサ)によって検出されたモータ角度x
1(=θ)が入力される。モータ角度x
1(=θ)は角度検出ノイズを含んだ信号であるが、
図3に示す回転数推定部80によれば回転数推定値x
2(^付)(=ωest)が滑らかな信号として得られる。回転数推定部80で得られた回転数推定値x
2(^付)(=ωest)は、
図4に示す第2微分器83に入力される。
【0032】
進角補償部44では、
図4に示すように、モータ角度θが第1微分器81で一回差分処理されて角速度信号ωが算出される。角速度信号ωにローパスフィルタ82が作用して角度検出ノイズが抑制されることで機械角速度信号ω
Mが算出される。
一方、回転数推定値ωestは第2微分器83で一回差分処理されて角加速度信号dωest/dtが算出される。回転数推定値ωestが滑らかな信号として得られていることで一回差分処理後の角加速度信号dωest/dtでは角度検出ノイズが抑制されており、電流制御系における振動も抑制される。また、回転数推定部80で回転数推定値ωestが得られることにより、角加速度が一回差分処理で容易に算出されるので演算の負荷が小さい。
【0033】
角加速度信号dωest/dtには、乗算器84で遅延時間Δtsが乗算されて、遅延時間Δts後の角速度変化分Δωestが算出される。遅延時間Δtsは適合要素である。
機械角速度信号ωMと角速度変化分Δωestが加算されることで、遅延時間Δts後の角速度変化分が考慮された機械角速度信号ΔωMが算出される。機械角速度信号ΔωMにゲイン(2πNp)が乗算されることで機械角次元から電気角次元に変換され、電気角速度信号ΔωEが得られる。但し、Npは極対数である。
【0034】
電気角速度信号Δω
Eに対して電流制御における演算時間間隔Δtと補間間隔Δtn(n=0,1,2,3,4)との和Δt+Δtnが乗算されて、複数の補間間隔それぞれの進角量Δθn(n=0,1,2,3,4)が算出される。本実施形態では、一例として演算時間間隔Δtは、周波数4kHzに相当する250μsであり、補間間隔Δtnとしては、演算時間間隔Δtが例えば5分割された、周波数20kHzに相当する50μsが用いられる。
各進角量Δθn(n=0,1,2,3,4)は、モータ角度θに極対数Npが乗算されて得られるモータ電気角θ
Eと加算され、入力信号として2相/3相変換部46に入力される。2相/3相変換部46には、入力信号としてdq2軸の電圧指令値Vrefq、Vrefdも入力され、
図4に示す変換行列によって、複数の補間間隔それぞれについて2-3座標変換が行われる。この結果、進角補償された3相の電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCが得られる。
【0035】
本実施形態のコントロールユニット30では、電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnCの出力タイミングを演算タイミングよりも高周波数化するために、各演算タイミングにおける電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnC(n=0)と共に、未来時間における電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnC(n=1,2,3,4)も算出する。また、未来時間における電圧指令値VrefnA、VrefnB、VrefnC(n=1,2,3,4)の算出にあたり、未来時間における進角量Δθn(n=1,2,3,4)が用いられる。これにより、高周波数領域におけるゲイン上昇が抑制され、角度検出ノイズが抑制される。その結果、モータ20における音や振動が抑制される。
【0036】
未来時間における進角量Δθn(n=1,2,3,4)が用いられた出力の高帯域化における電流制御系の特性を確認したシミュレーション結果について以下説明する。
図5は、電流制御系のゲイン特性を示すグラフである。
図5の横軸は出力信号の周波数を示し、縦軸はゲインを示している。
本実施形態における電流制御系のゲインは、出力信号が1000Hzに達しても0dBに保たれている。従って、高周波領域でも角度検出ノイズは抑制されることが確認された。
【0037】
図6は、電流制御系の位相特性を示すグラフである。
図6の横軸は出力信号の周波数を示し、縦軸は位相を示している。
図6には、複数の補間間隔(n=0,1,2,3,4)それぞれにおける位相特性が異なる線種で示されている。演算時間(n=0)における位相特性は、出力信号の周波数が上昇するのに伴って位相が進むことを示しており、高周波領域でも適切な進角補償が施されることが確認された。また、未来時間(n=1,2,3,4)における各位相特性も、出力信号の周波数が上昇するのに伴って位相が進むことを示している。更に、未来時間(n=1,2,3,4)における各位相特性は、時間が未来に進むほど位相が進むことを示しており、未来時間でも適切な進角補償が施されることが確認された。
【0038】
モータ20とコントロールユニット30とを備えた電動アクチュエータでは、コントロールユニット30における制御電圧の出力が高周波数化されてモータ20が駆動されるため、駆動音が可聴域外へシフト可能である。また、
図1に示す電動パワーステアリング装置100では、駆動音が可聴域外へシフト可能であるのでアシスト時の異音が抑制される。
【0039】
なお、上記説明では、パワーステアリング装置への応用例が示されているが、本発明の電動アクチュエータやモータ制御装置は、車両の駆動系やロボットなど幅広い分野への応用が可能である。即ち、本発明の実施形態や適用範囲は、パワーステアリング装置のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
1…操向ハンドル、2…コラム軸、3…減速ギア、4A、4B…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、6…操向車輪のタイロッド、10…トルクセンサ、
11…イグニションキー、12…車速センサ、14…バッテリ、20…モータ、
30…コントロールユニット、40…電流指令値演算部、43…メモリ、
44…進角補償部、45…電圧指令値演算部、46…2相/3相変換部、
47…PWM制御部、48…インバータ、49…3相/2相変換部、
60、61、62…電流センサ、63…レゾルバ、80…回転数推定部、
100…電動パワーステアリング装置