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特開2023-173527モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173527
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/40 20160101AFI20231130BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231130BHJP
   B62D 7/22 20060101ALI20231130BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231130BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
H02P29/40
B62D6/00
B62D7/22
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085841
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】星 譲
【テーマコード(参考)】
3D034
3D232
5H501
【Fターム(参考)】
3D034BA05
3D034BA08
3D034BD06
3D232CC04
3D232CC09
3D232CC22
3D232CC27
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC12
3D232DC13
3D232DC17
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD07
3D232DD17
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
5H501AA20
5H501BB05
5H501GG05
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ23
5H501JJ24
5H501JJ26
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL32
5H501LL35
(57)【要約】
【課題】構成の複雑化を避けながら各種外乱を精度よく抑制する。
【解決手段】電流指令値と実電流値との差分値に基づいて電圧指令値を算出する指令値算出部と、上記実電流値とモータの回転角度とに基づいて当該モータの回転数を推定する回転数推定部と、上記実電流値と上記モータの回転数推定値とに基づいてトルク外乱を推定するトルク外乱推定部と、推定された上記トルク外乱を抑制するための、上記電流指令値に加算される抑制値を算出するトルク外乱抑制部と、を備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値と実電流値との差分値に基づいて電圧指令値を算出する指令値算出部と、
前記実電流値とモータの回転角度とに基づいて当該モータの回転数を推定する回転数推定部と、
前記実電流値と前記モータの回転数推定値とに基づいてトルク外乱を推定するトルク外乱推定部と、
推定された前記トルク外乱を抑制するための、前記電流指令値に加算される抑制値を算出するトルク外乱抑制部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
前記電流指令値に加算される前の前記抑制値に作用するハイパスフィルタを更に備える請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記抑制値が加算される前の前記電流指令値に作用して制御帯域を設定する帯域設定部を更に備える請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記指令値算出部は、前記差分値に基づいたPID制御で前記電圧指令値を算出するPID制御部を有する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記指令値算出部は、前記PID制御部の出力に作用するローパスフィルタと、前記電圧指令値を前記ローパスフィルタの出力側から入力側に遅延を伴って正帰還させる遅延要素と、を更に有する請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
を備えた電動アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、
前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、
を備えた電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ制御においては様々な外乱(ノイズ)に対する対策が求められている。
外乱としては、例えば、電圧ノイズ、電流検出ノイズ、角度検出ノイズ、トルク外乱などが知られている。トルク外乱については、モータ自身が持っているトルク外乱と、外部から伝達されるトルク外乱について対策が求められている。
モータ自身が持っているトルク外乱としては、例えばコギングトルクや、電気子反作用によるトルクリップルや、クーロン摩擦などが知られている。外部から伝達されるトルク外乱としては、例えばモータ軸に接続された装置・システムからの逆入力トルクや、機械共振や、セルフアライニングトルクなどが知られている。
例えば特許文献1には、トルク外乱のみを抑制する外乱オブザーバを備えたモータ制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-163370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各種の外乱それぞれに対応した各種の抑制機能をすべて搭載すると構成が複雑化し、抑制機能同士が互いに干渉する虞もある。
そこで、本発明は、構成の複雑化を避けながら各種外乱を精度よく抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータ制御装置の一態様は、電流指令値と実電流値との差分値に基づいて電圧指令値を算出する指令値算出部と、上記実電流値とモータの回転角度とに基づいて当該モータの回転数を推定する回転数推定部と、上記実電流値と上記モータの回転数推定値とに基づいてトルク外乱を推定するトルク外乱推定部と、推定された上記トルク外乱を抑制するための、上記電流指令値に加算される抑制値を算出するトルク外乱抑制部と、を備える。
【0006】
このようなモータ制御装置によれば、回転数推定部で滑らかな推定信号の取得が可能であるため、精度の高いトルク外乱の推定および抑制が可能となる。また、回転数推定部、トルク外乱推定部およびトルク外乱抑制部を経るフィードバック型の制御により、上述した各種の外乱も同時に抑制されることが確認された。
上記のモータ制御装置において、上記電流指令値に加算される前の上記抑制値に作用するハイパスフィルタを更に備えることが好ましい。ハイパスフィルタによってトルク外乱の直流成分が除去されるため、特定周波数の外乱を抑制するノッチフィルタのような機能が実現される。
【0007】
また、上記のモータ制御装置において、上記抑制値が加算される前の上記電流指令値に作用して制御帯域を設定する帯域設定部を更に備えることも好ましい。帯域設定部により、電流指令値に含まれるノイズが抑制されるとともに、電流追従性の向上が図られる。
また、上記のモータ制御装置において、上記指令値算出部は、上記差分値に基づいたPID制御で上記電圧指令値を算出するPID制御部を有することが好ましい。PID制御により、電流指令値通りの実電流をモータに流すための精度の高い電圧指令値が得られる。
【0008】
また、PID制御部を有する上記指令値算出部は、上記PID制御部の出力に作用するローパスフィルタと、上記電圧指令値を上記ローパスフィルタの出力側から入力側に遅延を伴って正帰還させる遅延要素と、を更に有することが好ましい。実電流値に含まれた電流検出ノイズがローパスフィルタによってカットされるので、ノイズ抑制の精度が更に向上する。
上記課題を解決するために、本発明に係る電動アクチュエータの一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、を備える。
【0009】
このような電動アクチュエータによれば、モータ制御装置による制御で各種の外乱が抑制されるので電流指令値通りの実電流がモータに流れて所望の出力が得られる。
上記課題を解決するために、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一態様は、上記いずれかのモータ制御装置と、上記モータ制御装置によって制御された電圧が印加されるモータと、上記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備える。
このような電動パワーステアリング装置によれば、電流指令値通りの実電流がモータに流れて所望の出力が得られるので、ステアリングに対するアシスト精度が高い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構成の複雑化を避けながら各種外乱を精度よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
図2】コントロールユニットの機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図3】電圧指令値演算部の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4】回転数推定部の具体的な機能構成を示すブロック図である。
図5図3に示す制御系における伝達関数の近似式を示す図である。
図6】カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合の1Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図7】カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合の10Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図8】カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合の100Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図9】カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合のトルク外乱の周波数と抑制効果との対応関係を示すグラフである。
図10】カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合の1Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図11】カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合の10Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図12】カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合の100Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図13】カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合のトルク外乱の周波数と抑制効果との対応関係を示すグラフである。
図14】電圧ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
図15】電流検出ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
図16】角度検出ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0013】
本明細書において、電源からの電力を、三相(A相、B相、C相)の巻線を有する三相モータに供給する電動アクチュエータを例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電動アクチュエータも本開示の範疇である。
【0014】
図1は、電動パワーステアリング装置の実施形態を模式的に示す構成図である。
本実施形態の電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル1と、コラム軸2と、減速ギア3と、ユニバーサルジョイント4A、4Bと、ピニオンラック機構5と、操向車輪のタイロッド6とを有したステアリング機構を備えている。また、電動パワーステアリング装置100は、トルクセンサ10と、モータ20と、コントロールユニット30と、イグニションキー11と、車速センサ12と、バッテリ14を備えている。モータ20とコントロールユニット30とを併せたものが、本発明の電動アクチュエータの一実施形態に相当し、コントロールユニット30は、本発明のモータ制御装置の一実施形態に相当する。上記ステアリング機構はモータ20によって駆動される。
【0015】
操向ハンドル1のコラム軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。
トルクセンサ10は、操向ハンドル1から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThを検出する。
【0016】
パワーステアリング装置100を制御するコントロールユニット(ECU)30には、電源であるバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニションキー11からイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いて操舵の補助トルクを算出する。
そして、コントロールユニット30は、算出した補助トルクを発生するように、モータ20に供給する電流Iを制御する。モータ20には、コントロールユニット30によって制御された電圧が印加され、その制御された電圧によって電流Iが制御される。モータ20の駆動によって発生する補助トルクが運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与され、運転手は軽い力でハンドル操作を行うことができる。
【0017】
ハンドル操作によって出力された操舵トルクThと車速Vhからどの程度の補助トルクが生じるかによって、ハンドル操作におけるフィーリングの善し悪しが決まる。また、補助トルクを得るために必要な電流Iをモータ20に流す精度により、電動パワーステアリング装置の性能が大きく左右される。
【0018】
コントロールユニット30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む
コンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置および光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
【0019】
コントロールユニット30は、各情報処理を実行するための以下に説明する専用のハードウエアにより構成されてもよい。
例えば、コントロールユニット30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントロールユニット30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0020】
図2は、コントロールユニット30の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
コントロールユニット30は、電流指令値演算部40と、電圧指令値演算部45と、2相/3相変換部46と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部47と、インバータ48と、3相/2相変換部49とを備え、モータ20をベクトル制御で駆動する。モータ20は一例として3相モータである。
電流指令値演算部40、電圧指令値演算部45、2相/3相変換部46、PWM制御部47および3相/2相変換部49の機能は、例えばコントロールユニット30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0021】
電流指令値演算部40は、操舵トルクThや車速Vhに基づいてモータ20に流すべきdq2軸の電流それぞれを示した電流指令値Iq0、Id0を算出する。
一方で、モータ20の各相に流れる電流ia、ib、icは、各層に備えられた電流センサ60、61、62で検出され、検出された電流ia、ib、icは3相/2相変換部49でdq2軸の実電流値id、iqに変換されてフィードバックされる。
【0022】
電圧指令値演算部45には電流指令値Iq0、Id0が入力され、フィードバックされた実電流値id、iqも入力される。電圧指令値演算部45は、電流指令値Iq0、Id0と実電流値id、iqとの差分値が0となるような電圧指令値vq、vdを算出する。2相/3相変換部46は、電圧指令値vd、vqを3相の電圧指令値va、vb、vcに変換する。
【0023】
PWM制御部47は、3相の電圧指令値va、vb、vcに基づいてPWM制御されたゲート信号を生成する。インバータ48は、PWM制御部47で生成されたゲート信号によって駆動され、3相の電圧指令値va、vb、vcが示す電圧をモータ20の各相に印加する。その結果、モータ20には、電流指令値Iq0、Id0の示す電流が供給される。
【0024】
レゾルバ63は、モータ20のモータ角度(回転角)θを検出し、検出されたモータ角度θは電流指令値演算部40にフィードバックされてベクトル制御に使用される。レゾルバ63に替えてモータ回転角センサが用いられてもよい。なお、電流指令値演算部40には、モータ角度θの変化に基づいて算出されたモータ20の回転角速度ωが、モータ角度θと共に、あるいはモータ角度θに替えて、入力されてもよい。
【0025】
図3は、電圧指令値演算部45の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。図3には、モータ20のモデルも示されている。図3には、代表としてq軸の制御機能が示されているが、電圧指令値演算部45はd軸についても同様の制御機能を有している。
モータ20の機能は、電気特性21と、トルク定数Kと、機械特性23と、積分要素24と、EMF(逆起電圧)係数Kとを有するモデルで表される。
【0026】
モータ20の電気特性21に対して電圧が入力されることで実電流が発生する。電気特性21に対して入力される電圧値には電圧ノイズが含まれる。電気特性21のゲインは、インダクタンスL[H]および抵抗R[Ω]により1/(Ls+R)と表される。実電流は電流センサ60、61、62で検出され、検出値には電流検出ノイズが含まれる。
実電流にトルク定数K[Nm/A]が作用することでモータトルクが発生する。
【0027】
モータトルクが機械特性23に入力されることでモータ20の角速度が発生する。機械特性23のゲインは、慣性J[kgm]および粘性D[Nm/(rad/s)]により1/(Js+D)と表される。
モータ20の角速度は積分要素24を経てモータ角度θとなる。モータ角度θはレゾルバ63(またはモータ回転角センサ)によって検出され、検出値には角度検出ノイズが含まれる。
【0028】
角速度にEMF係数K[V/(rad/s)]が作用することで逆起電圧が発生し、逆起電圧は電気特性21の入力に反映される。
電圧指令値演算部45は、制御帯域設定部70と、PID(Proportional Integral Differential)制御部71と、ローパスフィルタ72と、第1の遅延要素73と、第2の遅延要素75と、外乱抑制部76とを備えている。
【0029】
制御帯域設定部70は、上記電流指令値Iq0が入力されて電流指令値にゲインGrefを作用させることで、コントロールユニット30によるモータ20の電流制御における制御帯域を設定する。制御帯域設定部70は、後述する抑制値が加算される前の電流指令値Iq0に作用する。制御帯域設定部70のゲインGrefは、
ref=ωref/(s+ωref
但し、
s:ラプラス演算子
ωref[rad/s]:電流制御帯域
と表される。
【0030】
PID制御部71は、電流指令値Iq0とq軸実電流値iqとの差分値Δqが入力され、当該差分値Δqに基づいてPID制御によって電圧指令値vqを算出する。PID制御部71におけるゲインGPIDは、
PID={ωL+(R/2)}[1+{ω/(2s)}+{s/(2ω)}]
但し、
s:ラプラス演算子
ω[rad/s]:外乱抑制帯域
L[H]:前記モータのインダクタンス
R[Ω]:前記モータの抵抗
と表される。
【0031】
ローパスフィルタ72は、PID制御部71の出力である電圧指令値vqに作用して、q軸実電流値iqに含まれる電流検出ノイズをカットする。ローパスフィルタ72におけるゲインGLPFは、
LPF=ωLPF/(s+ωLPF
但し、
s:ラプラス演算子
ωLPF[rad/s]:カットオフ周波数
と表される。
【0032】
第1の遅延要素73は、遅延を伴うフィードバックによって逆起電圧抑制器として機能する。第1の遅延要素73におけるゲインGdlyは、
dly=e-Tdly・s
但し、
Tdly[μs]:電流制御周期
と表される。
【0033】
第2の遅延要素75は、フィードバックループにおける遅延を意味する。第2の遅延要素75におけるゲインGDLYは、
DLY=e-TDLY・s
但し、
TDLY[μs]:電流センサ60、61、62による電流検出からインバータ48の出力におけるデューティー反映までの演算時間
と表される。
【0034】
外乱抑制部76は、制御の外乱を抑制するための、電流指令値Iq0に対して加算される抑制値を、q軸実電流値iqとモータ角度θとに基づいて算出する。外乱抑制部76は、回転数推定部80と、トルク外乱推定部81と、トルク外乱抑制部82と、ハイパスフィルタ83とを備えている。
回転数推定部80は、q軸実電流値iqとモータ角度θからモータ20の回転数を推定する。回転数推定部80によって滑らかな回転数推定値が得られる。
【0035】
図4は、回転数推定部80の具体的な機能構成を示すブロック図である。
図4に示す機能ブロックは、下記式(1)、式(2)に相当している。
【数1】
【数2】
但し、
z=Ceλs
λ:特性根
j[kgm]:制御上のモータの慣性
d[Nm/(rad/s)]:制御上のモータの粘性
[Nm/A] :制御上のモータのトルク定数
k:制御上のモータの剛性
i:q軸実電流値
:モータ角度。
即ち、回転数推定部80にはq軸実電流値iとモータ角度xが入力され、回転数推定部80から回転数推定値x(^付)が出力される。回転数推定部80の第1ブロック51、第2ブロック52および第3ブロック53は、式(1)の第1項、第2項および第3項にそれぞれ対応する。回転数推定部80の第4ブロック54は、式(2)の第2項に対応する。第1ブロック51には回転数推定値x(^付)が入力され、第2ブロック52および第4ブロック54にはモータ角度xが入力され、第3ブロック53にはq軸実電流値iが入力される。第1ブロック51、第2ブロック52および第3ブロック53の出力は、互いに加算されて積分要素55に入力される。積分要素55および第4ブロック54の出力が互いに加算されて回転数推定値x(^付)となる。
【0036】
図3に戻って説明を続ける。
回転数推定部80における伝達関数Gωは、下記式(3)中の行列Tで表される。
【数3】
但し、
ωest[rad/s]:回転数推定値
ωobs[rad/s]:回転数推定におけるカットオフ角周波数
【0037】
トルク外乱推定部81は、q軸実電流値iqと回転数推定値とに基づいてトルク外乱を推定する。トルク外乱推定部81における伝達関数GTRQは、下記式(4)中の行列Tで表される。
【数4】
但し、Δτestはトルク外乱推定値である。
【0038】
トルク外乱抑制部82は、推定されたトルク外乱を抑制するための、電流指令値iqに加算される抑制値を算出する。トルク外乱抑制部82におけるゲインGcmpは、下記式(5)で表される。
【数5】
但し、ωは外乱抑制帯域である。
【0039】
ハイパスフィルタ83は、電流指令値Iq0に加算される前の抑制値に作用して、トルク外乱の直流成分を除去する。ハイパスフィルタ83の作用により、特定周波数の外乱を抑制するノッチフィルタのような機能が実現される。ハイパスフィルタ83のゲインGHPFは、カットオフ周波数ωHPFにより、GHPF=s/(s+ωHPF)と表される。
外乱抑制部76は、トルク外乱の推定によって精度よくトルク外乱を抑制するとともに、電圧ノイズ、電流検出ノイズおよび角度検出ノイズについても抑制することができる。
【0040】
図5は、図3に示す制御系における伝達関数の近似式を示す図である。
制御系における伝達関数は、外乱抑制部76の特性補償の部分と、電流制御系の一巡伝達関数の部分と、感度関数の部分とに大別される。外乱抑制部76の特性補償の部分は、外乱抑制部76における機械系の特性補償を表しており、実機側の機械系に相当する部分と制御側の機械系に相当する部分とを含む。実機側の機械系とは、モータ20における実際の機械特性であり、制御側の機械系とは、制御のために制御側に設定された機械特性である。
【0041】
電流制御系の一巡伝達関数の部分は、モータ20の実機部分と、PID制御部71から第2の遅延要素75に至る制御のメイン部分とを含む。
感度関数の部分は、電圧ノイズΔvについて近似的にゼロであり、電流検出ノイズΔiおよびトルク外乱Δτについては1次のハイパスフィルタ特性となっていて、角度検出ノイズΔθについては2次のハイパスフィルタ特性となっている。従って、図3に示す制御系では、外乱抑制部76によって各種のノイズのいずれについてもノイズ抑制が実現されることが分かる。
【0042】
図6図8は、カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合の外乱抑制部76のシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図6には、1Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示され、図7には、10Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示され、図8には、100Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示されている。
図6図8に示された各グラフの横軸はいずれも時間を示している。
【0043】
図6に示すシミュレーション検証では、図6(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられ、トルク外乱として、図6(D)に細い実線で示されている1Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図6(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じるとともに、図6(B)に太い実線で示された回転数[rpm]が生じる。
【0044】
外乱抑制部76の回転数推定部80では、図6(B)に細い実線で示されているように回転推定値[rpm]が算出され、太い実線で示された回転数に近い推定値が得られている。トルク外乱推定部81では、図6(E)に示されるようにトルク外乱推定値[Nm]が算出され、図6(D)に細い実線で示されているトルク外乱に近い推定値が得られている。トルク外乱抑制部82では、図6(C)に示されるようにトルク外乱の抑制値[A]が算出される。カットオフ周波数ωHPFが0Hzであるため、算出された抑制値[A]が、図6(F)に示されるようにそのまま外乱抑制部76から出力される。その結果、図6(D)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.01[Nm]となり、-27[dB]という大きな抑制効果が確認された。
【0045】
図7に示すシミュレーション検証でも、図7(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられた。また、トルク外乱としては、図7(B)に細い実線で示されている10Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図7(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じる。図7に示すシミュレーション検証では、図7(B)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.075[Nm]となり、-8[dB]の抑制効果が確認された。
【0046】
図8に示すシミュレーション検証でも、図8(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられた。また、トルク外乱としては、図8(B)に細い実線で示されている100Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図8(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じる。図8に示すシミュレーション検証では、図8(B)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.25[Nm]となり、1.5[dB]の増大となった。
【0047】
図9は、カットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合のトルク外乱の周波数と抑制効果との対応関係を示すグラフである。
図9の横軸はトルク外乱の周波数を示す対数軸であり、図9の縦軸は、上段のグラフでは抑制後のモータトルクの振幅を示し、下段のグラフでは位相を示している。グラフに示されている丸印の箇所は、図6図8に示すシミュレーション検証結果に相応している。
図9の上段に示された振幅のグラフから、グラフカットオフ周波数ωHPFが0Hzである場合は、抑制後のモータトルクの振幅が約40Hz以下の帯域で0[dB]を下回るため、約40Hz以下の帯域でトルク外乱が抑制されることが確認された。
【0048】
図10図12は、カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合の外乱抑制部76のシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図10には、1Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示され、図11には、10Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示され、図12には、100Hzのトルク外乱におけるシミュレーション検証結果が示されている。
図10図12に示された各グラフの横軸はいずれも時間を示している。
【0049】
図10に示すシミュレーション検証では、図10(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられ、トルク外乱として、図10(B)に細い実線で示されている1Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図10(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じる。図10(B)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.21[Nm]となり、0[dB]で増減なしであった。
【0050】
図11に示すシミュレーション検証でも、図11(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられた。また、トルク外乱としては、図11(B)に細い実線で示されている10Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図11(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じる。図11に示すシミュレーション検証では、図11(B)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.03[Nm]となり、-17[dB]の抑制効果が確認された。
【0051】
図12に示すシミュレーション検証でも、図12(A)に細い実線で示されているように、0[A]に固定されたq軸電流指令値が用いられた。また、トルク外乱としては、図12(B)に細い実線で示されている100Hzのトルク外乱[Nm]が付与された。トルク外乱の振幅は±0.21[Nm]である。このトルク外乱により、図12(A)に太い実線で示された実電流[A]が生じる。図12に示すシミュレーション検証では、図12(B)に太い実線で示されように、抑制後のモータトルクは±0.25[Nm]となり、1.5[dB]の増大となった。
【0052】
図13は、カットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合のトルク外乱の周波数と抑制効果との対応関係を示すグラフである。
図13の横軸はトルク外乱の周波数を示す対数軸であり、図13の縦軸は、上段のグラフでは抑制後のモータトルクの振幅を示し、下段のグラフでは位相を示している。グラフに示されている丸印の箇所は、図10図12に示すシミュレーション検証結果に相応している。
図13の上段に示された振幅のグラフから、グラフカットオフ周波数ωHPFが5Hzである場合は、抑制後のモータトルクの振幅が約50Hz以下の帯域で0[dB]を下回り、特に10Hzの近傍で振幅が最小値となる。即ち、10Hz前後の特定帯域でトルク外乱が抑制されることが確認された。
【0053】
図14は、電圧ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
図14の横軸は電圧ノイズの周波数を示す対数軸である。図14の縦軸は、上段のグラフでは電圧ノイズの振幅を示し、下段のグラフでは位相を示している。
図14のグラフには、外乱抑制部76を備えない場合の伝達特性が実線で示され、外乱抑制部76を備えた場合の伝達特性が点線で示されている。電圧ノイズに対する伝達関数は、電圧ノイズの周波数の全範囲で感度が低減されることが確認された。従って、電圧ノイズは外乱抑制部76によって周波数の全範囲で抑制される。
【0054】
図15は、電流検出ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
図15の横軸は電流検出ノイズの周波数を示す対数軸である。図15の縦軸は、上段のグラフでは電流検出ノイズの振幅を示し、下段のグラフでは位相を示している。
図15には、外乱抑制部76を備えない場合の伝達特性が細い実線で示されている。また、外乱抑制帯域ωが1[Hz]である場合の伝達特性が太い実線で示され、外乱抑制帯域ωが10[Hz]である場合の伝達特性が細い点線で示されている。また、外乱抑制帯域ωが100[Hz]である場合の伝達特性が太い点線で示され、外乱抑制帯域ωが1000[Hz]である場合の伝達特性が一点鎖線で示されている。
図15に示す検証結果から、電流検出ノイズに対する伝達特性は、外乱抑制帯域ω以下の領域について、ゲインがハイパスフィルタ特性のように低減していることが確認された。従って、電流検出ノイズは外乱抑制部76によってハイパスフィルタのように低減される。
【0055】
図16は、角度検出ノイズに対する伝達特性を示すグラフである。
図16の横軸は角度検出ノイズの周波数を示す対数軸である。図16の縦軸は、上段のグラフでは角度検出ノイズの振幅を示し、下段のグラフでは位相を示している。
図16には、外乱抑制部76を備えない場合の伝達特性が細い実線で示されている。また、外乱抑制帯域ωが1[Hz]である場合の伝達特性が太い実線で示され、外乱抑制帯域ωが10[Hz]である場合の伝達特性が細い点線で示されている。また、外乱抑制帯域ωが100[Hz]である場合の伝達特性が太い点線で示され、外乱抑制帯域ωが1000[Hz]である場合の伝達特性が一点鎖線で示されている。
図16に示す検証結果から、角度検出ノイズに対する伝達特性も、外乱抑制帯域ω以下の領域について、ゲインがハイパスフィルタ特性のように低減していることが確認された。従って、角度検出ノイズも外乱抑制部76によってハイパスフィルタのように低減される。
【0056】
各種のノイズが精度よく抑制されることにより、モータ20とコントロールユニット30とを備えた電動アクチュエータでは、電流指令値通りの実電流がモータ20に流れて所望の出力が得られる。また、図1に示す電動パワーステアリング装置100では、モータ20で所望の出力が得られるため、ステアリングに対するアシスト精度が高い。
【0057】
なお、上記説明では、パワーステアリング装置への応用例が示されているが、本発明の電動アクチュエータやモータ制御装置は、車両の駆動系やロボットなど幅広い分野への応用が可能である。即ち、本発明の実施形態や適用範囲は、パワーステアリング装置のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
100…電動パワーステアリング装置、1…操向ハンドル、2…コラム軸、
3…減速ギア、4A、4B…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、
6…操向車輪のタイロッド、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、
12…車速センサ、14…バッテリ、20…モータ、30…コントロールユニット、
40…電流指令値演算部、45…電圧指令値演算部、46…2相/3相変換部、
47…PWM制御部、48…インバータ、49…3相/2相変換部、
60、61、62…電流センサ、63…レゾルバ、70…制御帯域設定部、
71…PID制御部、72…ローパスフィルタ、73…第1の遅延要素、
75…第2の遅延要素、76…外乱抑制部、80…回転数推定部、
81…トルク外乱推定部、82…トルク外乱抑制部、83…ハイパスフィルタ
図1
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