(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173546
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】設計支援装置及び設計支援方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20231130BHJP
G06F 111/04 20200101ALN20231130BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F111:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085876
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】王 宇
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇喜
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA03
5B146AA07
5B146DC05
5B146DJ01
5B146DJ14
5B146DJ15
5B146DL08
5B146EA08
5B146EC10
(57)【要約】
【課題】設計ルールの違反、製品の使用時等における形状の変化等に伴う不具合に設計段階でユーザが気づくようにし、設計の効率を向上することにある。
【解決手段】設計物の形状情報及び可変範囲情報を取得する情報取得部と、設計物を実際に使用した場合に起こる現象から設計物の形状変化を算出する形状変化算出部と、形状変化算出部の算出結果を用いて、設計物の違反の有無を特定する違反特定部と、違反特定部が特定した違反箇所を出力する出力部と、を備える設計支援装置を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計物の形状情報及び可変範囲情報を取得する情報取得部と、
前記設計物を実際に使用した場合に起こる現象から前記設計物の形状変化を算出する形状変化算出部と、
前記形状変化算出部の算出結果を用いて、前記設計物の違反の有無を特定する違反特定部と、
前記違反特定部が特定した違反箇所を出力する出力部と、を備える、設計支援装置。
【請求項2】
前記情報取得部は、前記設計物の公差に関する情報を取得する、請求項1記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記形状変化算出部は、前記情報取得部が取得した前記設計物の前記形状情報を用いて、前記設計物を複数の部分に分割し、前記複数の部分についての形状変化を算出する、請求項1記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記形状変化算出部は、前記現象の解析、又は過去に行い蓄積されている解析データ若しくは実験データを用いて前記設計物の前記形状変化を算出する、請求項1記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記違反箇所に対応する前記算出結果の精度を出力する、請求項1記載の設計支援装置。
【請求項6】
情報取得部が、設計物の形状情報及び可変範囲情報を取得し、
形状変化算出部が、前記設計物を実際に使用した場合に起こる現象から前記設計物の形状変化を算出し、
違反特定部が、前記形状変化算出部の算出結果を用いて、前記設計物の違反の有無を特定し、
出力部が、前記違反特定部が特定した違反箇所を出力する、設計支援方法。
【請求項7】
前記情報取得部は、前記設計物の公差に関する情報を取得する、請求項6記載の設計支援方法。
【請求項8】
前記形状変化算出部は、前記情報取得部が取得した前記設計物の前記形状情報を用いて、前記設計物を複数の部分に分割し、前記複数の部分についての形状変化を算出する、請求項6記載の設計支援方法。
【請求項9】
前記形状変化算出部は、前記現象の解析、又は過去に行い蓄積されている解析データ若しくは実験データを用いて前記設計物の前記形状変化を算出する、請求項6記載の設計支援方法。
【請求項10】
前記出力部は、前記違反箇所に対応する前記算出結果の精度を出力する、請求項6記載の設計支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、設計支援装置及び設計支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ上でCAD(Computer-Aided Design)を用いた製品設計が主流となっている。そして、単にCADモデルを作成するだけでなく、実際の製品として成立し得るかどうか等について設計者が確認できる設計支援装置の開発も進んできている。
【0003】
特許文献1には、移動対象部品と残余の部品との各位置データを相互に比較して、各部品間の干渉の有無を判定し、判定結果に基づいて、干渉した部品の干渉箇所数および干渉領域の大きさの少なくとも一方を算出し、算出結果を出力する設計支援装置であって、利用者が、出力された干渉量を参照して、干渉回避を行うことができるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CADを用いて製品の設計やCADモデルの作成を行う際には、特許文献1に記載の設計支援装置のような部品の配置における干渉回避だけでなく、CADモデルに基いて製造した製品の使用時等における熱膨張等の物理現象を考慮したCADモデルの作成が必要となる。製品の構造が複雑である場合、設計時において製品の使用時等における物理現象等を総合的に判断するためには、設計者の知識や経験が必要となる。そのように設計者の能力に依存する設計では、信頼性の高い製品を安定して製造することに限界が生じてしまう。検討漏れが発生した場合、手戻りが生じ、ロスコストにつながる。
【0006】
本開示の目的は、設計ルールの違反、製品の使用時等における形状の変化等に伴う不具合に設計段階でユーザが気づくようにし、設計の効率を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の設計支援装置は、設計物の形状情報及び可変範囲情報を取得する情報取得部と、設計物を実際に使用した場合に起こる現象から設計物の形状変化を算出する形状変化算出部と、形状変化算出部の算出結果を用いて、設計物の違反の有無を特定する違反特定部と、違反特定部が特定した違反箇所を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、設計ルールの違反、製品の使用時等における形状の変化等に伴う不具合に設計段階でユーザが気づくようにし、設計の効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示に係る設計支援装置の例を示す構成図である。
【
図2】設計支援装置における処理の対象の一例であるスプール弁を示す模式断面図である。
【
図3】実施例1の設計支援方法を示すフロー図である。
【
図4】実施例1で対象にしているスプール弁の形状が変化した状態を示す模式断面図である。
【
図5】実施例1の設計支援装置の出力結果を表示する画面の一例を示す図である。
【
図6】実施例3の設計支援方法を示すフロー図である。
【
図7A】
図2のスプール31の中央部に位置する大径部を分けて示す模式断面図である。
【
図7B】
図2のスプール31の小径部を分けて示す模式断面図である。
【
図7C】
図2のスプール31の端部に位置する大径部を分けて示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例0011】
【0012】
図1に示す設計支援装置1は、CADモデル作成や設計等で使用する端末2(コンピュータ等)と、評価内容選択部11と、形状情報取得部12と、可変範囲情報取得部13と、形状モジュール定義部14と、演算部15と、形状/寸法情報変更部16と、関数モジュール定義部17と、ルールチェック部18と、結果表示部19と、解析/実験データベース21と、形状認識関数モジュールデータベース22と、形状モジュールデータベース23と、を備えている。なお、データベースは、「DB」と略称する場合がある。
【0013】
評価内容選択部11は、どの分野の現象に対して評価を行うかを選択するものである。ここでいう現象には、熱、電磁場、流体等に関するものがあるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
形状情報取得部12は、CADにおいて作成した設計物のモデル(CADモデル)の寸法や材料物性値、その他のCADにおいて必要な情報を取得するものである。
【0015】
可変範囲情報取得部13は、CADによって生成したモデルを実際に製造する際、又は使用する際に、形状、強度等の面から許容し得る変化に関する情報を取得するものである。ここで、当該情報は、例えば、設計物の公差、熱膨張/収縮量、密度等、設計物を構成する部品の可動範囲、製品の稼働条件等に関するものである。強度については、設計物における応力集中等を含む。ただし、当該情報は、これらに限定されるものではない。なお、可変範囲情報は、設計者が入力してもよい。
【0016】
なお、形状情報取得部12及び可変範囲情報取得部13は、まとめて「情報取得部」とも呼ぶ。
【0017】
形状モジュール定義部14は、形状モジュールデータベース23を用いて形状モジュールの定義を行う。
【0018】
演算部15は、物理現象の解析を行い、物理現象により変化した形状等を推定する。このため、演算部15は、「形状変化算出部」とも呼ぶ。
【0019】
形状/寸法情報変更部16は、初期の形状情報を更新する。
【0020】
関数モジュール定義部17は、形状認識関数モジュールデータベース22を用いて、形状を関数化する。
【0021】
ルールチェック部18は、CADモデルに基いて、ルール違反の有無を判定する。なお、ルールチェック部18は、「違反特定部」とも呼ぶ。
【0022】
結果表示部19は、端末2にルール違反等の結果を示す。
【0023】
解析/実験データベース21は、過去に解析又は実験を行うことにより得られたデータを蓄積している。
【0024】
形状認識関数モジュールデータベース22は、CADモデルの各位置における特定の特徴量を算出する関数が格納されているデータベースである。
【0025】
形状モジュールデータベース23は、CADモデルの形状情報を基に、形状の細分化を行う際に参照する形状情報が格納されているデータベースである。
【0026】
図2は、設計支援装置における処理の対象の一例であるスプール弁を示す模式断面図である。
【0027】
図2に示すスプール弁30は、油圧機器等で使用されるものである。スプール弁30は、スプール31が流路34内を移動するように構成されたものであり、油やガソリン等の流体38の流れ方向を制御する。しかし、スプール弁30が高圧の条件下等で動作した際には、領域Aの狭隘部で流体38の流速が速くなり、流体38の流体摩擦によりスプール弁30が高温になる。その結果、スプール弁30が熱膨張を起こし、流路34の壁面と接触し、スタック現象が生じる場合がある。このようなスタック現象が生じる原因は、設計時にスプール弁30の熱膨張によって生じる形状変化を考慮せずに流路34とスプール31の寸法、形状等を設定したことが考えられる。
【0028】
図3は、スプール弁のスタック現象を対象とする設計支援方法を示すフロー図である。
【0029】
設計者は、端末2(
図1)を用いて操作を開始し(工程S101)、評価内容選択部11で評価したい現象(実施例1では熱膨張を対象)を選択する。
【0030】
工程S101 による設計者の指示に従って、形状情報取得部12が、対象とするCADモデルを読み込む(工程S102)。そして、可変範囲情報取得部13が、スプール弁30や流路34の形状情報、可変範囲情報等を取得する(工程S103)。
【0031】
次に、演算部15が、工程S103で取得した形状情報及び可変範囲情報を基に、解析プロセスで解析を行い、スプール31が熱膨張した際の新しい寸法情報を算出する(工程S104)。
【0032】
図4は、スプール弁の形状変化を示す模式断面図である。
【0033】
図4においては、スプール弁30や流路34の形状情報として、使用前におけるスプール31の大径部の直径d1及び流路34の寸法L、並びに使用時においてスプール31が熱膨張した場合の大径部の直径d1’を示している。
【0034】
つぎに、形状/寸法情報変更部16が、工程S104で得られた新しい形状情報を基に、工程S103で取得した初期の形状情報を更新する(工程S105)。
【0035】
関数モジュール定義部17が、形状認識関数モジュールデータベース22を用いて、形状を関数化する(工程S106)。工程S106で定義された関数を基に、ルールチェック部18が、CADモデル上でルール違反の有無(例えばd1≧Lの場所の有無等)の確認を実行し(工程S107)、結果表示部19が端末2にその結果を示す(工程S108)。以上により、一連の工程を完了する(工程S120)。
【0036】
【0037】
図5においては、スプールが熱膨張により、破線で示す寸法となり、流路に収まらなくなることを示している。この場合、正常なスプール弁の機能が失われるため、「ルール違反」が発生すると予測され、その判定結果が表示されている。
【0038】
なお、本実施例においては、スプール弁の熱膨張について説明しているが、本開示の内容は、これに限定されるものではなく、他の現象によるルール違反の場合にも適用することができる。