(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173547
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】レーザアークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/348 20140101AFI20231130BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20231130BHJP
B23K 9/173 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K9/173 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085877
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅山 智也
【テーマコード(参考)】
4E001
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001BB09
4E001CA01
4E001CB01
4E001CB04
4E001CB05
4E001CC02
4E001DC02
4E001DD02
4E001DD04
4E001DG03
4E168BA42
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA88
4E168DA13
4E168DA39
4E168EA05
4E168EA11
4E168KA07
(57)【要約】
【課題】溶接ワイヤを効率的に予熱することができ、装置の構成の複雑化を抑制することができるレーザアークハイブリッド溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザアークハイブリッド溶接装置1は、母材2と溶接ワイヤ20との間にアーク25を発生させて母材2を溶接する溶接トーチ10と、母材2において溶接トーチ10がアーク25を発生させる領域よりも溶接の進行方向に離隔した領域に向けて第1レーザ51を照射し、溶接ワイヤ20に向けて第2レーザ52を照射するレーザトーチ40とを備え、レーザトーチ40により第1レーザ51が照射された領域を溶接トーチ10により溶接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と溶接ワイヤとの間にアークを発生させて前記母材を溶接する溶接トーチと、
前記母材において前記溶接トーチがアークを発生させる領域よりも溶接の進行方向に離隔した領域に向けて第1レーザを照射し、前記溶接ワイヤに向けて第2レーザを照射するレーザトーチとを備え、
前記レーザトーチにより第1レーザが照射された領域を前記溶接トーチにより溶接する、レーザアークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
前記レーザトーチは、前記第1レーザの照射範囲よりも前記第2レーザの照射範囲を拡大する、請求項1に記載のレーザアークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
前記レーザトーチは、前記溶接トーチを平面視した場合において、前記第2レーザの照射範囲を少なくとも前記溶接ワイヤの延在方向に拡大する、請求項2に記載のレーザアークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
前記レーザトーチは、レーザ光を前記第1レーザと前記第2レーザとに分岐し、前記第1レーザと前記第2レーザとを照射する光学回折素子を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザアークハイブリッド溶接装置。
【請求項5】
前記レーザトーチは、前記第1レーザを照射する第1レーザトーチと前記第2レーザを照射する第2レーザトーチとを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザアークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザアークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶接装置としては、溶接対象となる母材の溶接領域に対して、溶接速度に応じた供給速度で溶接ワイヤを供給し、その溶接ワイヤを溶融させることにより溶接を行なう溶接装置がある。
【0003】
溶接ワイヤを供給するワイヤ供給装置を備えた従来の溶接装置としては、レーザ照射装置と非消耗電極による電気アーク溶接機とを用いて溶接を行なう場合に、レーザと電気アークとで得られた共通溶融池内に予熱された溶接ワイヤを供給するハイブリッド溶接システムがあった(特許文献1)。
【0004】
このようなハイブリッド溶接システムでは、高速溶接に対応して高速で溶接ワイヤを溶融させることなどの目的で、溶接ワイヤを予熱して供給することが行なわれる。溶接ワイヤの予熱は、溶接ワイヤの金属の電気抵抗値を利用した抵抗加熱で加熱しているものと考えられる。
【0005】
なお、レーザ照射を溶接に用いる従来の溶接装置としては、例えば、フィラー金属レーザビームおよび溶接レーザビームの2つのレーザビームを用いる溶接装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2015-526295号公報
【特許文献2】特表2018-537288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたような従来の溶接装置においては、溶接ワイヤが抵抗発熱により予熱される構成であるので、次のような問題があった。
【0008】
特許文献1の溶接装置では、例えばアルミニウムなど電気抵抗値が低い金属を用いる溶接ワイヤについては十分に予熱することができないという問題があった。また、特許文献1の溶接装置では、電源装置として、溶接をするための溶接電源装置に加え、予熱をするための予熱電源装置を備える必要があり、溶接装置の構成が複雑化するという問題があった。
【0009】
本開示は、溶接ワイヤを効率的に予熱することができ、装置の構成の複雑化を抑制することができるレーザアークハイブリッド溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、レーザアークハイブリッド溶接装置に関する。レーザアークハイブリッド溶接装置は、母材と溶接ワイヤとの間にアークを発生させて母材を溶接する溶接トーチと、母材において溶接トーチがアークを発生させる領域よりも溶接の進行方向に離隔した領域に向けて第1レーザを照射し、溶接ワイヤに向けて第2レーザを照射するレーザトーチとを備え、レーザトーチにより第1レーザが照射された領域を溶接トーチにより溶接する。
【発明の効果】
【0011】
本開示のレーザアークハイブリッド溶接装置によれば、溶接トーチがアークを発生させる領域よりも溶接の進行方向に離隔した領域に向けて第1レーザを照射し、溶接ワイヤに向けて第2レーザを照射するので、溶接ワイヤに直接的に照射される第2レーザによって溶接ワイヤを効率的に予熱することができ、装置の構成の複雑化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置におけるレーザの照射部分の構成を示す概略図である。
【
図3】実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置によって母材が溶接されている状態を示す平面図である。
【
図4】実施の形態2に係るレーザアークハイブリッド溶接装置におけるレーザの照射部分の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置1の構成を示す概略図である。
【0015】
図1に示すように、実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置1は、溶接トーチ10と、溶接電源装置30と、レーザトーチ40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0016】
レーザアークハイブリッド溶接装置1は、金属同士の接合に使用される。レーザアークハイブリッド溶接装置1によって、接合される母材2の一方と他方とが、突き合わせ溶接継手または重ね隅肉溶接継手などにより被接合部3において接合される。
【0017】
母材2は、例えば、亜鉛めっき鋼板により構成されている。なお、母材2は、亜鉛めっき鋼板に限定されず、アルミニウム、マグネシウムもしくはチタン、またはこれらの合金などの金属によって構成されてもよい。
【0018】
溶接トーチ10および溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための機器である。溶接トーチ10は、母材2に向けて、消耗電極である溶接ワイヤ20、および、図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接時に消耗する溶接ワイヤ20を補うために、溶接速度に応じた速度で溶接ワイヤ20を送り出すワイヤ供給部と、シールドガスを供給するガス供給部とを含む。
【0019】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧および溶接電流を生成し、生成された溶接電圧および溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送り速度を制御する。
【0020】
溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電圧および溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端部と母材2における被接合部3との間にアーク25を発生させて被接合部3を溶接する。
【0021】
溶接トーチ10による溶接中においては、溶接ワイヤ20が消耗するので、ワイヤ供給部から溶接ワイヤ20が送り出され、送り出された溶接ワイヤ20の先端と母材2との間にアーク25が発生する。さらに、溶接トーチ10による溶接中においては、ガス供給部から供給されるアルゴンガスまたは炭酸ガスなどのシールドガスが母材2に向けて供給される。このように、溶接トーチ10による溶接では、シールドガスがアーク25の周辺に供給されることにより、母材2の溶融金属が空気と反応することが防がれる。
【0022】
レーザトーチ40は、レーザアークハイブリッド溶接装置1に少なくとも1つ設けられている。実施の形態1において、レーザトーチ40は、レーザアークハイブリッド溶接装置1に1つ設けられている。
【0023】
レーザトーチ40およびレーザ発振装置60は、第1レーザ51および第2レーザ52を照射するための機器である。レーザトーチ40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、母材2の被接合部3に向けて第1レーザ51を照射し、溶接トーチ10の溶接ワイヤ20に向けて第2レーザ52を照射する。
【0024】
このように、レーザトーチ40は、母材2において溶接トーチ10がアーク25を発生させる領域よりも溶接の進行方向(DR1)に離隔した領域に向けて第1レーザ51を照射し、溶接ワイヤ20に向けて第2レーザ52を照射する。
【0025】
レーザトーチ40は、母材2の被接合部3に向けて第1レーザ51を照射することにより、被接合部3を加熱して溶融させる。レーザトーチ40は、溶接ワイヤ20に向けて第2レーザ52を照射することに応じて溶接ワイヤ20を加熱することにより溶接ワイヤ20を予熱する。
【0026】
レーザアークハイブリッド溶接装置1では、第1レーザ51を第1母材4と第2母材5との被接合部3に照射して第1母材4および第2母材5を溶融させつつ、第2レーザ52の照射により予熱された溶接ワイヤ20と、被接合部3との間にアーク25を発生させることにより、第1母材4と第2母材5とを接合する溶接が行なわれる。このように、レーザアークハイブリッド溶接装置1では、レーザトーチ40により第1レーザ51が照射されて溶融した領域を溶接トーチ10により溶接する。
【0027】
図2は、実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置1におけるレーザの照射部分の構成を示す概略図である。
図2においては、発明の理解を容易にするために、アーク溶接に係る構成については図示していない。
【0028】
図2に示すように、実施の形態1に係るレーザトーチ40は、レーザを所望のビームパターンに加工する回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)41を含む。回折光学素子41は、レーザの分岐、レーザが照射される照射領域の形状の調整、および、レーザの照射範囲の広さの調整などをする機能を有する。レーザトーチ40には、レーザの照射範囲の広さの調整などをするレンズが設けられてもよい。
【0029】
回折光学素子41は、レーザ発振装置60から出力されたレーザ光が通過するようにレーザトーチ40に配置される。回折光学素子41を通過したレーザ光は、第1レーザ51および第2レーザ52の2つのレーザ光に分岐される。
【0030】
第1レーザ51は、レーザトーチ40から、母材2を構成する第1母材4と第2母材5との被接合部3に向けて照射され、被接合部3の表面において円形状の第1照射領域71を形成する。第1レーザ51は、円形状の第1照射領域71が縮小されるように母材2に向かってフォーカスされる。第1レーザ51のフォーカスは、回折光学素子41により行なってもよく、レンズを用いて行なってもよい。
【0031】
なお、第1レーザ51は、母材2に向かってフォーカスされるものであればよく、第1照射領域71は、円形状に限らず、状楕円形状または矩形状などのその他の形状であってもよい。
【0032】
第2レーザ52は、レーザトーチ40から、母材2の上方に位置する溶接ワイヤ20に向けて照射され、矩形状の第2照射領域72を形成する。第2レーザ52は、
図1に示す溶接トーチ10を平面視した場合に少なくとも溶接ワイヤ20の延在方向に照射範囲が拡大されるように溶接ワイヤ20に向かってデフォーカスされる。第2レーザ52のデフォーカスは、回折光学素子41により行なってもよく、レンズを用いて行なってもよい。
【0033】
第1レーザ51はフォーカスされ、第2レーザ52はデフォーカスされるので、第2レーザ52の方が、第2レーザ52の方が、第1レーザ51よりも照射範囲が拡大される。
【0034】
なお、第2レーザ52は、溶接ワイヤ20を照射できるものであり、溶接ワイヤ20に向かってデフォーカスされるものであればよく、第1照射領域71は、矩形状に限らず、円形状または楕円形状などのその他の形状であってもよい。また、第2レーザ52の照射範囲の拡大方向は、溶接ワイヤ20の延在方向と溶接ワイヤ20の幅方向との両方向であってもよい。つまり、第2レーザ52の照射範囲の拡大方向は、少なくとも溶接ワイヤ20の延在方向であればよい。
【0035】
第1レーザ51および第2レーザ52の出力は、回折光学素子41によって任意に設定することができる。例えば、第1レーザ51の出力と、第2レーザ52の出力とは、同じであってもよく、異なってもよい。第2レーザ52の出力は、溶接ワイヤ20の材質により異なるようにしてもよい。
【0036】
図3は、実施の形態1に係るレーザアークハイブリッド溶接装置1によって母材2が溶接されている状態を示す平面図である。
【0037】
図3に示すように、アーク25が発生させられる溶接ワイヤ20は、第2レーザ52が照射されることにより予熱される。第2レーザ52は、
図1に示す溶接トーチ10を平面視した場合に溶接ワイヤ20の延在方向に照射範囲が拡大されるようにデフォーカスされる。これにより、溶接ワイヤ20は、第2レーザ52が直接的に照射されるとともに、溶接ワイヤ20の長さ方向の広範囲にわたって第2レーザ52が照射されるので、効率良く加熱されて予熱される。このように予熱された溶接ワイヤ20からアーク25が発生することにより、溶接ワイヤ20が溶融しやすくなる。
【0038】
図3に示すように、第1母材4および第2母材5では、被接合部3に対して、溶接進行方向(DR1方向)に沿って第2レーザ52の照射による溶融、および、アーク25による溶接が行なわれる。これにより、被接合部3では、溶接進行方向(DR1方向)に沿って溶融池90が形成されつつ、第1母材4と第2母材5とが接合される。溶融池90は、溶接の進行方向に直交する方向(DR2方向)に略一定の幅で形成される。
【0039】
母材2を溶接する際に、第1レーザ51の照射位置である第1照射領域71、アーク25の発生位置、および、第2レーザ52の照射位置である第2照射領域72は、溶接進行方向(DR1方向)においてこの順に並んでいる。アーク溶接に先行して第1レーザ51で第1母材4および第2母材5を溶融させることによって、アーク溶接を安定化させることができる。なお、溶接進行方向(DR1方向)における第1レーザ51の第1照射領域71とアーク25との距離は、例えば、2mm以上3mm以下である。
【0040】
レーザアークハイブリッド溶接装置1では、レーザトーチ40が、第1レーザ51を第1母材4および第2母材5の被接合部3に照射して第1母材4および第2母材5を溶融させることに加えて、第2レーザ52を溶接ワイヤ20に照射して溶接ワイヤ20を予熱するので、溶接ワイヤ20を予熱するための予熱電源装置を備える必要がない。
【0041】
以上に説明した構成のレーザアークハイブリッド溶接装置1では、レーザトーチ40から第2レーザ52を溶接ワイヤ20に照射して溶接ワイヤ20を予熱するので、溶接ワイヤ20に直接的に照射される第2レーザによって溶接ワイヤ20を効率的に予熱することができ、さらに、予熱電源装置を新たに備える場合と比べて、装置の構成の複雑化を抑制することができる。また、レーザアークハイブリッド溶接装置1では、第2レーザによって溶接ワイヤを効率的に予熱することができるので、例えば高速溶接をする場合に、溶接速度に対応して溶接ワイヤ20を容易に溶融させることができ、溶接速度に対応した速度で溶接ワイヤ20を供給することができる。そして、このように溶接速度に対応した速度で溶接ワイヤ20を供給することができるので、溶接トーチ10を用いたアーク溶接を安定して実行することができる。また、このように安定した溶接が実行できることにより、高速溶接におけるロバスト性を向上させることができる。
【0042】
実施の形態1のレーザアークハイブリッド溶接装置1では、以下のような溶接条件で母材2を溶接した場合に、以下のような溶接結果が得られた。
【0043】
レーザトーチ40による第1レーザ51の照射形状を直径0.2mmのスポット径として第1レーザ51を母材2の表面に照射可能とした。また、レーザトーチ40による第2レーザ52の照射形状を直径2mmのスポット径として第2レーザ52を溶接ワイヤ20に照射可能とした。溶接トーチ10による溶接は、溶接ワイヤ20として直径1.6mmのA4043ワイヤを送り出す制御をする短絡移行溶接法で行なった。このような溶接条件において、第2レーザ52を溶接ワイヤ20に照射しないことにより溶接ワイヤ20を予熱せずに溶接をした場合は、150Aの溶接電流に対して5m/minのワイヤ送給速度で溶接を行なうことができた。これに対し、第2レーザ52を2KWのレーザ出力で溶接ワイヤ20に照射して溶接ワイヤ20を予熱しながら溶接をした場合は、150Aの溶接電流に対して13m/minのワイヤ送給速度で溶接を行なうことができた。これにより、第2レーザ52で溶接ワイヤ20を予熱した場合には、第2レーザ52で溶接ワイヤ20を予熱しない場合と比べて、ワイヤ送給速度を8m/min向上させることができた。
【0044】
[実施の形態2]
実施の形態2では、実施の形態1で説明したレーザトーチ40の代わりに、第1レーザ51を照射する第1レーザトーチ421と、第2レーザ52を照射する第2レーザトーチ422とを含むレーザトーチ42を備えるレーザアークハイブリッド溶接装置1Aについて説明する。
【0045】
図4は、実施の形態2に係るレーザアークハイブリッド溶接装置1Aにおけるレーザの照射部分の構成を示す概略図である。なお、
図4においては、発明の理解を容易にするため、アーク溶接に係る構成については図示していない。
【0046】
図4に示すように、レーザアークハイブリッド溶接装置1Aは、第1レーザ発振装置61と、第2レーザ発振装置62と、レーザトーチ42とを備える。レーザトーチ42は、第1レーザトーチ421と、第2レーザトーチ422との2つのレーザトーチを含む。
【0047】
第1レーザ発振装置61からレーザ光が出力され、第1レーザトーチ421を通過することにより、第1レーザ51が母材2に照射される。また、第2レーザ発振装置62からレーザ光が出力され、第2レーザトーチ422を通過することにより、第2レーザ52が溶接ワイヤ20に照射される。
【0048】
第1レーザトーチ421は、第1回折光学素子43を含む。第1回折光学素子43は、第1レーザ発振装置61から出力されたレーザ光が通過して、第1レーザ51として出力されるように第1レーザトーチ421に配置される。第1レーザ51は、第1回折光学素子43から母材2に向かって、実施の形態1と同様にフォーカスされる態様で照射される。なお、第1レーザトーチ421は、第1回折光学素子43の代わりに、第1レーザ51をフォーカスすることが可能なレンズを備えてもよい。
【0049】
第2レーザトーチ422は、第2回折光学素子44を含む。第2回折光学素子44は、第2レーザ発振装置62から出力されたレーザ光が通過して、第2レーザ52として出力されるように第2レーザトーチ422に配置される。第2レーザ52は、第2回折光学素子44から溶接ワイヤ20に向かって、実施の形態1と同様にデフォーカスされる態様で照射される。なお、第2レーザトーチ422は、第2回折光学素子44の代わりに、第1レーザ51をデフォーカスすることが可能なレンズを備えてもよい。
【0050】
このような実施の形態2のレーザアークハイブリッド溶接装置1Aにおいては、実施の形態1のレーザアークハイブリッド溶接装置1で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0051】
次に、以上に説明した実施の形態1,2のレーザアークハイブリッド溶接装置1,1Aにより得られる主な効果をまとめて説明する。
【0052】
以上に説明した実施の形態1,2のレーザアークハイブリッド溶接装置1,1Aによれば、
図1および
図4に示すように、レーザトーチ40,42から第2レーザ52を溶接ワイヤ20に照射して溶接ワイヤ20を予熱することにより、溶接ワイヤに直接的に照射される第2レーザによって溶接ワイヤ20を効率的に予熱することができ、さらに、装置の構成の複雑化を抑制することができる。
【0053】
さらに、実施の形態1,2のレーザアークハイブリッド溶接装置1,1Aによれば、レーザトーチ40,42において、
図3に示すように、第1レーザ51の照射範囲よりも第2レーザ52の照射範囲を拡大したことにより、溶接ワイヤ20をより効率的に予熱することができる。
【0054】
さらに、実施の形態1,2のレーザアークハイブリッド溶接装置1,1Aによれば、
図3に示すように、レーザトーチ40,42は、溶接トーチ10を平面視した場合において、第2レーザ52の照射範囲を少なくとも溶接ワイヤの延在方向に拡大するので、溶接ワイヤ20をより一層効率的に予熱することができる。
【0055】
さらに、実施の形態1のレーザアークハイブリッド溶接装置1によれば、
図2に示すように、レーザトーチ40は、レーザ光を第1レーザ51と第2レーザ52とに分岐し、第1レーザと第2レーザとを照射する光学回折素子を含むので、1つのレーザ発振装置60から出力されるレーザに基づき、第1レーザ51と第2レーザ52という2種類のレーザを照射することができる。
【0056】
さらに、実施の形態2のレーザアークハイブリッド溶接装置1Aによれば、
図4に示すように、レーザトーチ42は、第1レーザ51を照射する第1レーザトーチ421と、第2レーザ52を照射する第2レーザトーチ422とを含むので、第1レーザトーチ421と第2レーザトーチ422という2つのレーザ発振装置から2種類のレーザを照射することができる。
【0057】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
10 溶接トーチ、40,42 レーザトーチ、20 溶接ワイヤ、41 回折光学素子、1,1A レーザアークハイブリッド溶接装置、421 第1レーザトーチ、422 第2レーザトーチ。