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特開2023-173566濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173566
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G01N33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085902
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100224546
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 龍
(72)【発明者】
【氏名】福原 智
(72)【発明者】
【氏名】門脇 遥奈
(57)【要約】
【課題】水溶液中に溶解する複数の化学種の濃度を容易に求める。
【解決手段】濃度計算装置は、N個の式を含む連立方程式を解くことにより、N個の化学種の濃度を未知数として導出する濃度計算部と、N個の化学種の濃度を出力する出力部と、を備え、N個の式は、複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、電荷保存の式と、を含み、濃度計算部は、1個の化学種の濃度の候補値を設定する設定部と、候補値を代入してN-1個の式を解くことにより、残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出する計算部と、候補値及びN-1個の暫定値の下で電荷保存の式が成立するか否かを判定する判定部と、を含み、電荷保存の式が成立しないと判定部が判定した場合に、電荷保存の式が成立すると判定部が判定するまで、候補値の変更と、変更後の候補値に基づくN-1個の暫定値の導出と、が繰り返し実行される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算装置であって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出する濃度計算部と、
前記濃度計算部が導出した前記N個の化学種の濃度を出力する出力部と、を備え、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記濃度計算部は、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定する設定部と、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出する計算部と、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定する判定部と、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると前記判定部が判定した場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値がそれぞれ真値として前記出力部に提供され、
前記電荷保存の式が成立しないと前記判定部が判定した場合に、前記電荷保存の式が成立すると前記判定部が判定するまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、が繰り返し実行される、濃度計算装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記1個の化学種の濃度の下限値及び上限値を設定し、前記下限値及び前記上限値の中間値を前記候補値として設定し、
前記電荷保存の式が成立しないと前記判定部が判定した場合に、前記設定部は、現在の前記候補値を新たな前記下限値又は前記上限値として設定し、新たな前記下限値又は前記上限値を用いて新たな前記候補値を設定する、請求項1に記載の濃度計算装置。
【請求項3】
前記水溶液は、水を溶媒とし、互いに異なる種類の化学種A及び化学種B(A、Bは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、
前記N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、前記化学種Aの濃度である[A]と、前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH]と、前記化学種Bの濃度である[B]と、前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Bの濃度である[BH]と、を含み、
前記N-1個の式は、
平衡状態に達したときに第1平衡定数と前記[H]と前記[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、
平衡状態に達したときに第2平衡定数と前記[AH]と前記[A]と前記[H]との間に成立する第2化学平衡式と、
平衡状態に達したときに第3平衡定数と前記[BH]と前記[B]と前記[H]との間に成立する第3化学平衡式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Aの投入量が前記[AH]と前記[A]との総和に等しくなることを示す第1物質量保存の式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Bの投入量が前記[BH]と前記[B]との総和に等しくなることを示す第2物質量保存の式と、を含み、
前記電荷保存の式は、前記[H]と前記[AH]と前記[BH]との総和が前記[OH]に等しくなることを示している、請求項1に記載の濃度計算装置。
【請求項4】
前記水溶液は、水を溶媒とし、化学種A(Aは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、
前記N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、前記化学種Aの濃度である[A]と、一段目の電離の際に前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH]と、二段目の電離の際に前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH 2+]と、を含み、
前記N-1個の式は、
平衡状態に達したときに第1平衡定数と前記[H]と前記[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、
一段目の平衡状態に達したときに第2平衡定数と前記[AH]と前記[A]と前記[H]との間に成立する第2化学平衡式と、
二段目の平衡状態に達したときに第3平衡定数と前記[AH 2+]と前記[AH]と前記[H]との間に成立する第3化学平衡式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Aの投入量が前記[AH]と前記[A]との総和に等しくなることを示す物質量保存の式と、を含み、
前記電荷保存の式は、前記[H]と前記[AH]と前記[AH 2+]との総和が前記[OH]に等しくなることを示している、請求項1に記載の濃度計算装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記[H]又は前記[OH]の前記候補値を設定する、請求項3又は4に記載の濃度計算装置。
【請求項6】
水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算方法であって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、
導出した前記N個の化学種の濃度を出力することと、を備え、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記N個の化学種の濃度を導出することは、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると判定した場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力し、
前記電荷保存の式が成立しないと判定した場合に、前記電荷保存の式が成立すると判定するまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行する、濃度計算方法。
【請求項7】
水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算プログラムであって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、
導出した前記N個の化学種の濃度を出力することと、をコンピュータに実行させ、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記N個の化学種の濃度を導出することは、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると判定された場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力させ、
前記電荷保存の式が成立しないと判定された場合に、前記電荷保存の式が成立すると判定されるまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行させる、濃度計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1は、水溶液中に溶解する種々の化学種の濃度の間に成立する連立方程式を用いて各化学種の濃度を未知数として求める手法を開示する。この手法では、未知数である全ての化学種の濃度を同時に変化させながら、連立方程式を満たす各化学種の濃度を同時に求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. J. Wolery, “Calculation of chemical equilibrium between aqueoussolution and minerals: The EQ3/6 software package”, University of California, LawrenceLivermore Laboratory, 1979.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、水溶液の溶質として複数種類の化学種が含まれる場合、或いは、水溶液中において或る化学種が複数段階の化学反応を行う場合、連立方程式には、平衡状態に達したときに成立する複数の化学平衡式が含まれる。これらの化学平衡式は、それぞれ独立した式ではなく、共通した化学種の濃度の項を含んだ式となり、このような化学平衡式を含む連立方程式を解く場合、或る化学平衡式を満たす化学種の濃度が同時に他の化学平衡式も満たすとは限らない。従って、全ての化学種の濃度を同時に変化させながら各化学種の濃度を求める上記の手法では、連立方程式を満たす各化学種の濃度を求めることが難しいという問題がある。特に連立方程式の式構造が複雑になるほど、この問題は顕著となる。
【0005】
本開示は、水溶液中に溶解する複数の化学種の濃度を容易に求めることができる濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る濃度計算装置は、水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算装置であって、N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、N個の化学種の濃度を未知数として導出する濃度計算部と、濃度計算部が導出したN個の化学種の濃度を出力する出力部と、を備え、N個の式は、水溶液中においてN個の化学種が平衡状態に達したときにN個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、濃度計算部は、N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定する設定部と、候補値を代入してN-1個の式を解くことにより、N個の化学種の濃度のうち1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出する計算部と、候補値及びN-1個の暫定値の下で電荷保存の式が成立するか否かを判定する判定部と、を含み、電荷保存の式が成立すると判定部が判定した場合に、候補値及びN-1個の暫定値がそれぞれ真値として出力部に提供され、電荷保存の式が成立しないと判定部が判定した場合に、電荷保存の式が成立すると判定部が判定するまで、候補値の変更と、変更後の候補値に基づくN-1個の暫定値の導出と、が繰り返し実行される。
【0007】
本開示の一形態に係る濃度計算方法は、水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算方法であって、N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、導出したN個の化学種の濃度を出力することと、を備え、N個の式は、水溶液中においてN個の化学種が平衡状態に達したときにN個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、N個の化学種の濃度を導出することは、N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、候補値を代入してN-1個の式を解くことにより、N個の化学種の濃度のうち1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、候補値及びN-1個の暫定値の下で電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、電荷保存の式が成立すると判定した場合に、候補値及びN-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力し、電荷保存の式が成立しないと判定した場合に、電荷保存の式が成立すると判定するまで、候補値の変更と、変更後の候補値に基づくN-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行する。
【0008】
本開示の一形態に係る濃度計算プログラムは、水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算プログラムであって、N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、導出したN個の化学種の濃度を出力することと、をコンピュータに実行させ、N個の式は、水溶液中においてN個の化学種が平衡状態に達したときにN個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、N個の化学種の濃度を導出することは、N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、候補値を代入してN-1個の式を解くことにより、N個の化学種の濃度のうち1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、候補値及びN-1個の暫定値の下で電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、 電荷保存の式が成立すると判定された場合に、候補値及びN-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力させ、電荷保存の式が成立しないと判定された場合に、電荷保存の式が成立すると判定されるまで、候補値の変更と、変更後の候補値に基づくN-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行させる。
【0009】
上述した濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラムでは、N個の化学種の濃度を未知数とする連立方程式を解く際に、N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を暫定的に設定し、その候補値の下で残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を計算する。そして、暫定的に設定した候補値が連立方程式を満たす正しい値(真値)であるか否かを、電荷保存の式が成立するか否かの判定によって確認する。このように1個の化学種の濃度を暫定的に決めてしまえば、求めるべき未知数の数が1個減るので、N-1個の式を用いて残りのN-1個の化学種の濃度を容易に導出することが可能となる。そして、暫定的に決めた化学種の濃度が正しいか否かを電荷保存の式を用いて判定すれば、連立方程式を満たすN個の化学種の濃度を求めることができる。このように1個の化学種の濃度を暫定的に固定してN個の化学種の濃度を段階的に求める手法によれば、N個の化学種の濃度を同時に変化させながらN個の化学種の濃度を同時に求める手法と比べて、複数の化学平衡式を含む複雑な式構造を有する連立方程式を容易に解くことができ、連立方程式を満たすN個の化学種の濃度を容易に求めることができる。
【0010】
いくつかの態様において、設定部は、1個の化学種の濃度の下限値及び上限値を設定し、下限値及び上限値の中間値を候補値として設定し、電荷保存の式が成立しないと判定部が判定した場合に、設定部は、現在の候補値を新たな下限値又は上限値として設定し、新たな下限値又は上限値を用いて新たな候補値を設定してもよい。この場合、電荷保存の式が成立しないと判定される度に、下限値及び上限値の間の探索範囲を狭めることができるので、上記の判定が繰り返されることで、候補値を絞り込んで真値を確実に求めることができる。
【0011】
いくつかの態様において、水溶液は、水を溶媒とし、互いに異なる種類の化学種A及び化学種B(A、Bは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、化学種Aの濃度である[A]と、水素イオンによりイオン化された化学種Aの濃度である[AH]と、化学種Bの濃度である[B]と、水素イオンによりイオン化された化学種Bの濃度である[BH]と、を含み、N-1個の式は、平衡状態に達したときに第1平衡定数と[H]と[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、平衡状態に達したときに第2平衡定数と[AH]と[A]と[H]との間に成立する第2化学平衡式と、平衡状態に達したときに第3平衡定数と[BH]と[B]と[H]との間に成立する第3化学平衡式と、水溶液に投入した化学種Aの投入量が[AH]と[A]との総和に等しくなることを示す第1物質量保存の式と、水溶液に投入した化学種Bの投入量が[BH]と[B]との総和に等しくなることを示す第2物質量保存の式と、を含み、電荷保存の式は、[H]と[AH]と[BH]との総和が[OH]に等しくなることを示していてもよい。この場合、第2化学平衡式及び第3化学平衡式には、共通した[H]が含まれており、第2化学平衡式を満たす[H]が第3化学平衡式を同時に満たさないことがあるため、N個の化学種の濃度を同時に変化させながら同時に求めることは難しい。これに対し、1個の化学種の濃度を暫定的に固定してN個の式を満たすN個の化学種の濃度を段階的に求める手法によれば、上述したようにN個の化学種の濃度を容易に求めることが可能となる。
【0012】
いくつかの態様において、水溶液は、水を溶媒とし、化学種A(Aは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、化学種Aの濃度である[A]と、一段目の電離の際に水素イオンによりイオン化された化学種Aの濃度である[AH]と、二段目の電離の際に水素イオンによりイオン化された化学種Aの濃度である[AH 2+]と、を含み、N-1個の式は、平衡状態に達したときに第1平衡定数と[H]と[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、一段目の平衡状態に達したときに第2平衡定数と[AH]と[A]と[H]との間に成立する第2化学平衡式と、二段目の平衡状態に達したときに第3平衡定数と[AH 2+]と[AH]と[H]との間に成立する第3化学平衡式と、水溶液に投入した化学種Aの投入量が[AH]と[A]との総和に等しくなることを示す物質量保存の式と、を含み、電荷保存の式は、[H]と[AH]と[AH 2+]との総和が[OH]に等しくなることを示していてもよい。この場合、第2化学平衡式及び第3化学平衡式には、共通した[H]が含まれており、第2化学平衡式を満たす[H]が第3化学平衡式を同時に満たさないことがあるため、N個の化学種の濃度を同時に変化させながら同時に求めることは難しい。これに対し、1個の化学種の濃度を暫定的に固定してN個の式を満たすN個の化学種の濃度を段階的に求める手法によれば、上述したようにN個の化学種の濃度を容易に求めることが可能となる。
【0013】
いくつかの態様において、設定部は、[H]又は[OH]の候補値を設定してもよい。このように、[H]及び[OH]の一方に候補値を設定すれば、第1化学平衡式を用いて[H]及び[OH]の他方を容易に導出できるので、N-1個の式を用いたN-1個の化学種の濃度の導出がより容易となる。これにより、N個の化学種の濃度をより容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示のいくつかの態様によれば、水溶液中に溶解する複数の化学種の濃度を容易に求めることができる濃度計算装置、濃度計算方法、及び濃度計算プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、濃度計算装置の一例を示す構成図である。
図2図2は、[H]の真値の探索方法の一例を説明するための図である。
図3図3は、濃度計算方法の一例を示すフロー図である。
図4図4は、濃度計算装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5図5は、[H]の真値の探索方法の他の例を説明するための図である。
図6図6は、濃度計算方法の他の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0017】
[濃度計算装置]
まず、図1を参照して、一実施形態に係る濃度計算装置1の概略構成について説明する。図1に示す濃度計算装置1は、水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する。濃度計算装置1は、水溶液中のN個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、N個の化学種の濃度を導出する。なお、「化学種」とは、イオン、ラジカル、原子、原子団、元素、及び化合物などを包括して示すものである。従って、水溶液中に溶存する化学種は、例えば、イオンの状態で存在することもあるし、原子の状態で存在することもある。
【0018】
例えば、水を溶媒とし、2種類の化学種A、B(A、Bは任意の化学式を示す)を溶質とする水溶液中には、例えば、化学種A、Bのほか、水が電離して生じるH(水素イオン)及びOH(水酸化イオン)と、Hによりイオン化された化学種AH及びBHと、が存在する。但し、化学種A、Bは、水溶液中において電気化学的に活性な化学種、すなわち水溶液中でイオン化する化学種とする。この場合、水溶液中に存在する化学種の濃度の間に成立する連立方程式は、次の式(1)から式(6)を含んで構成される。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】
【0019】
式(1)から式(6)において、[H]は、水溶液中のHの濃度である。[OH]は、水溶液中のOHの濃度である。[A]は、水溶液中の化学種Aの濃度である。[AH]は、水溶液中の化学種AHの濃度である。[B]は、水溶液中の化学種Bの濃度である。[BH]は、水溶液中の化学種BHの濃度である。各化学種の濃度の単位は、(mоl/L)である。Tは、水溶液に投入される化学種Aの投入量を示している。Tは、水溶液に投入される化学種Bの投入量を示している。Kは、水溶液中の水の自己解離定数(第1平衡定数)である。Kは、水溶液中の化学種Aの平衡反応における平衡定数(第2平衡定数)である。Kは、水溶液中の化学種Bの平衡反応における平衡定数(第3平衡定数)である。
【0020】
式(1)は、水溶液中の水が電離して生じるH及びOHが電離平衡に達したときに成立する式(第1化学平衡式)である。式(1)は、平衡状態において[H]と[OH]との積が定数Kに等しくなることを示している。式(2)は、水溶液中の化学種Aが電離平衡に達したときに成立する式(第2化学平衡式)である。式(2)は、平衡状態において[A]と[H]との積が[AH]と定数Kとの積に等しくなることを示している。式(3)は、水溶液中において化学反応を起こした後の化学種Aの量と化学種AHの量との総和が、化学反応を起こす前の化学種Aの量(すなわち、水溶液中に投入される化学種Aの量)に等しくなることを示す式(第1物質量保存の式)である。つまり、式(3)は、水溶液中の[A]と[AH]との総和が投入量Tに等しくなることを示している。
【0021】
式(4)は、水溶液中の化学種Bの電離平衡に達したときに成立する式(第3化学平衡式)である。式(4)は、平衡状態において[B]と[H]との積が[BH]と定数Kとの積に等しくなることを示している。式(5)は、水溶液中において化学反応を起こした後の化学種Bの量と化学種BHの量との総和が、化学反応を起こす前の化学種Bの量(すなわち、水溶液中に投入される化学種Bの量)に等しくなることを示す式(第2物質量保存の式)である。つまり、式(5)は、水溶液中の[B]と[BH]との総和が投入量Tに等しくなることを示している。式(6)は、平衡状態において陽イオンが有する電荷の総和(すなわち、正の電荷量の総和)と陰イオンが有する電荷の総和(すなわち、負の電荷量の総和)とが等しくなることを示す式(電荷保存の式)である。式(6)は、水溶液中の[H]と[AH]と[BH]との総和が[OH]に等しくなることを示している。
【0022】
式(1)から式(6)において、定数K、K、Kは、例えば、予め実験等により求められる定数であり、投入量T、Tは、例えば、濃度計算装置1のユーザによりそれぞれ設定される任意の定数である。K、K、K、T、Tはそれぞれ独立に設定され、必要に応じて適宜変更される。一方、[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]は、求めるべき未知数であり、K、K、K、T、Tに応じて変動する。従って、式(1)から式(6)を含む連立方程式は、K、K、K、T、Tを独立変数とし、[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]を従属変数とする計算モデルと捉えることができる。
【0023】
そして、未知数である化学種の濃度の数が6個であるのに対し、上記の連立方程式には、式(1)から式(6)の6個の式が含まれている。そのため、濃度計算装置1は、これら6個の式を解くことによって、6個の化学種の濃度を求めることができる。なお、上記の式(1)から式(6)では、化学種A、Bは、Hを受け取る性質を有するものとして示されているが、OHを受け取る性質を有するものであってもよい。或いは、化学種AがOHを受け取る性質を有する一方、化学種BがHを受け取る性質を有してもよい。逆に、化学種AがHを受け取る性質を有する一方、化学種BがOHを受け取る性質を有してもよい。
【0024】
水溶液中の各化学種の濃度が分かれば、水溶液に溶解する化学種A、Bの溶解量を把握することができる。このような情報は、例えば、化学プラント及び火力発電所等から排出される排気ガスから特定のガスを回収する回収装置に関する分野において特に有用である。例えば、排気ガスからCO(二酸化炭素)を回収する回収装置では、RNH(アミン、Rは適当な炭化水素基を示す)が溶解した水溶液にCOを含むガスが接触することによってCOが吸収され、COが吸収された水溶液を加熱等することによりCOが気相に放出されて回収される。
【0025】
このような回収装置において、COが吸収された水溶液(CO吸収液)は、COの溶解量によって評価される。CO吸収液中のCOの溶解量(吸収量)が多いほど、最終的に回収されるCOの回収率が高くなるため、CO吸収液の性能は高いと言える。一方、CO吸収液中のCOの溶解量が少ないほど、COの回収率が低くなるため、CO吸収液の性能は低いと言える。従って、CO吸収液中に溶解する化学種の濃度は、CO吸収液の性能を予測する上で重要な指標となる。上述した式(1)から式(6)において、化学種AをCOとし化学種BをRNHとして捉えれば、水溶液中のCOの溶解量を求めることが可能となり、CO吸収液の性能を予測することが可能となる。
【0026】
濃度計算装置1は、式(1)から式(6)を含む連立方程式を解く際、求めるべき[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]のうちいずれか一つの化学種の濃度を単一の変数とする最適化問題と捉え、その濃度を少しずつ変化させながら連立方程式を満たす各化学種の濃度を探索する。具体的には、濃度計算装置1は、まず、いずれか一つの化学種の濃度の候補値を設定する。そして、濃度計算装置1は、設定した候補値を式(1)から式(5)に代入することにより、残りの化学種の濃度の暫定値を計算する。そして、濃度計算装置1は、これら候補値及び各暫定値の下で残りの式(6)を満たすか否かを判定することにより、候補値が正しい値(真値)であるか否かを確認する。
【0027】
濃度計算装置1は、候補値が真値でないと判定した場合には、候補値を変更して上記の計算及び判定を繰り返すことにより、候補値の真値を探索する。一方、濃度計算装置1は、候補値が真値であると判定した場合には、候補値及び各暫定値を真値として出力する。なお、本実施形態では、真値を探索するアルゴリズムとして二分探索法を例示する。この手法では、候補値を設定する化学種の濃度の上限値及び下限値を設定し、上限値と下限値との範囲を徐々に狭めることによって候補値の真値を探索する。
【0028】
図1を参照しながら、濃度計算装置1の各機能構成について説明する。図1に示すように、濃度計算装置1は、入力部10と、濃度計算部20と、出力部30とを含む。入力部10は、式(1)から式(6)を含む連立方程式を解くために必要な情報を取得する。具体的には、入力部10は、式(1)から式(6)に含まれるK、K、K、T、Tの入力値を取得する。入力部10への入力は、例えば、ユーザの操作によって行われる。或いは、予め取得されたK、K、K、T、Tの入力値が自動的に入力部10へ送られるように構成されてもよい。
【0029】
濃度計算部20は、入力部10が取得したK、K、K、T、Tの入力値を式(1)から式(6)に代入することにより、未知数である[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]を導出する。図1に示すように、濃度計算部20は、例えば、設定部21と、計算部22と、判定部23とを含む。
【0030】
設定部21は、[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の中からいずれか一つの化学種の濃度を選択する。本実施形態では、設定部21が[H]を選択する場合について説明する。設定部21は、[H]に限らず、他の化学種の濃度(すなわち、[OH]、[A]、[AH]、[B]、又は[BH])を選択してもよい。設定部21は、[H]を選択すると、[H]の真値XTを探索するための探索範囲を規定する上限値XU及び下限値XLを設定する(後述する図2参照)。設定部21は、例えば、下限値XLをゼロに設定し、上限値XUを十分に大きな任意の値に設定する。そして、設定部21は、上限値XU及び下限値XLの中間値XCを[H]の候補値に設定する。
【0031】
計算部22は、[H]の候補値を式(1)から式(5)に代入することにより、残りの[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値を導出する。このように[H]の候補値を暫定的に固定すれば、上記の連立方程式において求めるべき未知数の数が1個減り、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の5個となる。これら5個の未知数に対して、式(1)から式(5)の5個の式が連立方程式に含まれているので、これら5個の式を解くことによって、5個の未知数を求めることができる。
【0032】
判定部23は、[H]の候補値、並びに[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値の下で、連立方程式の残りの式(6)が成立するか否かを判定する。つまり、判定部23は、式(6)の左辺の[H]、[OH]、[AH]、及び[BH]に候補値及び暫定値を代入したときに、式(6)の左辺の計算値([H]+[AH]+[BH]-[OH])が、式(6)の右辺(ゼロ)に等しくなるか否かを判定する。
【0033】
本実施形態では、[H]の候補値を少しずつ変更しながら真値を探索し、残りの各化学種の暫定値は[H]の候補値に応じて決定されるため、式(6)の左辺の計算値は、[H]に応じて変化する関数と捉えることができる。式(6)の左辺の計算値を関数Qとすると、関数Qは、水溶液中において陽イオンが有する電荷の総和([H]+[AH]+[BH])と、陽イオンが有する電荷の総和([OH])との差を示す値となる。
【0034】
図2は、関数Qと[H]との関係を示すグラフGを示している。図2において、縦軸は関数Qを示し、横軸は[H]を示している。図2に示すように、関数Qは、[H]に対して単調増加する傾向を示している。つまり、[H]が大きくなるにつれて関数Qも徐々に大きくなっている。図2において、[H]の下限値XLはゼロに設定され、[H]の上限値XUは十分に大きな任意の値に設定され、[H]の候補値は下限値XLと上限値XUとの中間値XCに設定されている。図2に示すように、関数Qは、[H]に応じて様々な値をとり得るが、式(6)が成立するときにはゼロとなる。従って、関数Qがゼロになるときの[H]が真値XTとなる。
【0035】
よって、式(6)が成立するか否かは、[H]の候補値に対する関数Qがゼロであるか否かによって判定することができる。そこで、判定部23は、[H]の候補値に対する関数Qがゼロになると判定した場合に、式(6)が成立したと判定する。この場合、判定部23は、[H]の候補値が真値XTであると判定し、[H]の候補値及び残りの各化学種の暫定値を真値として出力部30に提供する。一方、[H]の候補値に対する関数Qがゼロではないと判定した場合には、式(6)が成立しないと判定する。この場合、判定部23は、[H]の候補値が真値XTでないと判定し、[H]の候補値の変更を指示する指示信号を設定部21に提供する。
【0036】
設定部21は、[H]の候補値の変更を指示する指示信号を受け取ると、[H]の候補値を変更する処理を行う。具体的には、[H]の候補値を代入したときの関数Qが負の値を示す場合には、[H]の候補値が真値XTよりも小さい値である(すなわち、図2において[H]の候補値が真値XTよりも左側に位置している)ことが分かるので、設定部21は、現在の[H]の候補値を新たな下限値として設定する。この場合、設定部21は、新たな下限値と上限値XUとの間の中間値を新たな[H]の候補値として設定する。一方、[H]の候補値を代入したときの関数Qが正の値を示す場合には、[H]の候補値が真値XTよりも大きい値である(すなわち、図2において[H]の候補値が真値XTよりも右側に位置している)ことが分かるので、設定部21は、現在の[H]の候補値を新たな上限値として設定する。この場合、設定部21は、新たな上限値と下限値XLとの間の中間値を新たな[H]の候補値として設定する。
【0037】
設定部21が[H]の候補値を変更すると、変更後の新たな[H]の候補値に基づいて、計算部22による残りの化学種の暫定値の計算と、判定部23による[H]の候補値の判定とが、[H]の候補値が真値XTであると判定されるまで繰り返される。このように、設定部21による候補値の設定と、計算部22による計算と、判定部23による判定とを含む一連の探索処理が繰り返されることによって、[H]の真値XTを探索する探索範囲(すなわち、上限値と下限値との間の範囲)を狭めることができ、[H]の真値XTを見つけることができる。
【0038】
本実施形態のように二分探索法を用いた場合、1回の探索処理によって[H]の探索範囲は1/2となり、50回の探索処理を繰り返せば、[H]の探索範囲は1/250(つまり、約15桁小さい範囲)に狭めることができる。このように[H]の探索範囲を狭めていくことによって[H]の真値XTを確実且つ高速に探索することができる。なお、判定部23が、[H]の候補値に対する関数Qがゼロになるか否かを判定する際には、関数Qが厳密にゼロである必要はなく、ゼロとみなせる範囲内であればよい。従って、判定部23は、関数Qが所定の閾値(例えば10-4)以下である場合に、関数Qがゼロであると判定してよく、関数Qが当該閾値より大きい場合に、関数Qがゼロでないと判定してよい。
【0039】
出力部30は、[H]の候補値及び残りの各化学種の暫定値を真値として判定部23から受け取ると、それら真値を表示装置等に出力する。出力部30による出力先及び出力方法は特に限定されないが、出力部30は、例えば、外部装置に対してデータとして出力してもよいし、パーソナルコンピュータ等の表示画面に出力してもよい。出力部30から出力された情報によって、ユーザは、水溶液中の化学種A、Bの溶解量を把握することができる。例えば、化学種AとしてCOを想定した場合には、COの溶解量を把握することができ、COが吸収された水溶液の性能を評価することが可能となる。
【0040】
[濃度計算方法]
続いて、図3を参照しながら、濃度計算装置1による濃度計算方法について説明する。
【0041】
まず、濃度計算装置1では、入力部10によって、式(1)から式(6)に含まれるK、K、K、T、Tの入力値が取得される(ステップS01)。この処理は、例えば、ユーザが濃度計算装置1を操作することによって行われてもよい。或いは、予め取得されたK、K、K、T、Tの入力値が濃度計算装置1へ送られることによって、濃度計算装置1においてK、K、K、T、Tの入力値が取得される構成としてもよい。
【0042】
次に、濃度計算部20の設定部21によって、式(1)から式(6)に未知数として含まれる[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の中から[H]が選択される(ステップS02)。この処理は、例えば、ユーザが濃度計算装置1を操作することによって行われてもよい。
【0043】
次に、設定部21によって、[H]の真値XTを探索するための探索範囲を規定する上限値XU及び下限値XLが設定される(ステップS03)。例えば、初期値として、[H]の下限値XLがゼロに設定され、[H]の上限値XUが十分に大きな任意の値に設定されてよい。
【0044】
次に、設定部21によって、[H]の候補値が設定される(ステップS03)。[H]の候補値は、例えば、上限値XU及び下限値XLの中間値XCに設定される。
【0045】
次に、濃度計算部20の計算部22によって、K、K、K、T、Tの入力値及び[H]の候補値が式(1)から式(5)に代入され、これにより、残りの[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値が計算される(ステップS04)。
【0046】
次に、濃度計算部20の判定部23によって、[H]の候補値、及び[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値の下で、式(6)が成立するか否かが判定される(ステップS05)。判定部23によって、式(6)が成立しないと判定された場合(ステップS05においてNo)、設定部21によって[H]の候補値が変更される(ステップS06)。具体的には、[H]の候補値を代入したときの関数Qが負の値を示す場合には、設定部21によって、現在の[H]の候補値が新たな[H]の下限値として設定される。一方、[H]の候補値を代入したときの関数Qが正の値を示す場合には、設定部21によって、現在の[H]の候補値が新たな[H]の上限値として設定される。その後、判定部23によって式(6)が成立しないと判定されるまで、ステップS04とステップS05とが繰り返される。
【0047】
一方、判定部23によって式(6)が成立すると判定された場合(ステップS05においてYes)、判定部23によって[H]の候補値、及び[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値が真値として出力部30に提供され、出力部30によってそれら真値が表示装置等に出力される(ステップS07)。
【0048】
[ハードウェア構成]
続いて、図4を参照して、濃度計算装置1のハードウェア構成について説明する。図4は、濃度計算装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。濃度計算装置1は、1つ又は複数のコンピュータ100を含む。コンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、通信制御部104と、入力装置105と、出力装置106とを有する。濃度計算装置1は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された一又は複数のコンピュータ100によって構成される。
【0049】
濃度計算装置1が複数のコンピュータ100によって構成される場合には、これらのコンピュータ100はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つの濃度計算装置1が構築される。
【0050】
CPU101は、オペレーティングシステム、及びアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶部103は、ハードディスク及びフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶部103は、一般的に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。濃度計算装置1を構成する各部の少なくとも一部は、補助記憶部103によって実現される。通信制御部104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。濃度計算装置1を構成する各部の少なくとも一部は、通信制御部104によって実現されてもよい。入力装置105は、キーボード、マウス、タッチパネル、及び、音声入力用マイクなどにより構成される。例えば、入力部10の少なくとも一部は、入力装置105によって実現される。出力装置106は、ディスプレイ及びプリンタなどを含んで構成される。出力部30の少なくとも一部は、出力装置106によって実現される。例えば、出力装置106は、出力部30によって出力されるデータをディスプレイ等に表示してもよい。
【0051】
補助記憶部103は、予め、プログラム110及び処理に必要なデータを格納している。プログラム110は、濃度計算装置1の各機能要素をコンピュータ100に実行させる。プログラム110によって、例えば、上述したステップS01からステップS07に係る処理がコンピュータ100において実行される。例えば、プログラム110は、CPU101又は主記憶部102によって読み込まれ、CPU101、主記憶部102、補助記憶部103、通信制御部104、入力装置105、及び出力装置106の少なくとも一つを動作させる。例えば、プログラム110は、主記憶部102及び補助記憶部103におけるデータの読み出し及び書き込みを行う。プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。プログラム110は、データ信号について通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0052】
[作用効果]
以上に説明した濃度計算装置1、濃度計算方法、及び濃度計算プログラムが奏する作用効果について説明する。
【0053】
複数の化学種の濃度を未知数として含む連立方程式を数値計算によって解く場合、各化学種の濃度を同時に少しずつ変化させながら、連立方程式を満たす各化学種の濃度を探索していくことが考えられる。しかしながら、本実施形態のように水溶液の溶質として化学種A、Bが含まれる場合には、連立方程式には、化学種Aに関する化学平衡式である式(2)と、化学種Bに関する化学平衡式である式(4)とが含まれる。この場合、これら式(2)及び式(4)には共通して[H]が存在しており、例えば、式(2)を満たす[H]が同時に式(4)を満たすことが保証されない。従って、全ての化学種の濃度を同時に変化させながら各化学種の濃度を求める手法では、式(1)から式(6)を含むような連立方程式を満たす各化学種の濃度を求めることは難しい。その結果、各化学種の濃度を求めるのに時間がかかるか、或いは条件によっては各化学種の濃度を求めることができないといった問題が生じ得る。
【0054】
これに対し、本実施形態では、式(1)から式(6)を含む連立方程式を解く際に、[H]の候補値を暫定的に設定し、その候補値の下で残りの化学種の濃度の暫定値を計算する。そして、暫定的に設定した候補値が連立方程式を満たす正しい値(真値)であるか否かを、式(6)が成立するか否かの判定によって確認する。このように1個の化学種の濃度を暫定的に決めてしまえば、求めるべき未知数の数が1個減るので、式(1)から式(5)を用いて残りの5個の化学種の濃度を容易に導出できる。そして、固定した化学種の濃度を変更しながら式(6)を満たす真値を探索することにより、連立方程式を満たす6個の化学種の濃度を求めることができる。このように1個の化学種の濃度を暫定的に固定してN個の化学種の濃度を段階的に求める手法によれば、連立方程式を満たすN個の化学種の濃度を容易に求めることができる。その結果、N個の化学種の濃度を同時に変化させながらN個の化学種の濃度を同時に求める手法と比べて、連立方程式を満たすN個の化学種の濃度を高速且つ確実に求めることが可能となる。
【0055】
本実施形態では、式(6)が成立しないと判定部23が判定した場合に、式(6)が成立すると判定部23が判定するまで、候補値の変更と、変更後の候補値に基づく残りの化学種の濃度の暫定値の導出と、が繰り返し実行される。この場合、連立方程式を満たす各化学種の濃度を確実に求めることができる。
【0056】
本実施形態では、設定部21は、[H]の下限値XL及び上限値XUを設定し、下限値XL及び上限値XUの中間値XCを候補値として設定し、式(6)が成立しないと判定部23が判定した場合に、設定部21は、現在の候補値を新たな下限値又は上限値として設定し、新たな下限値又は上限値を用いて新たな候補値を設定してもよい。この場合、式(6)が成立しないと判定される度に、下限値及び上限値の間の探索範囲を狭めることができるので、上記の判定が繰り返されることで、候補値を絞り込んで真値を確実に求めることができる。
【0057】
本実施形態では、平衡状態に達したときにKと[AH]と[A]と[H]との間に成立する式(2)と、平衡状態に達したときにKと[BH]と[B]と[H]との間に成立する式(3)とが連立方程式に含まれている。この場合、式(2)及び式(3)には、共通した[H]が含まれており、式(2)を満たす[H]が式(3)を同時に満たさないことがあるため、各化学種の濃度を同時に変化させながら同時に求めることは難しい。これに対し、[H]を暫定的に固定して各化学種の濃度を段階的に求める本実施形態の手法によれば、上述したように、各化学種の濃度を容易に求めることが可能となる。
【0058】
本実施形態では、設定部21は、[H]の候補値を設定している。この場合、式(1)を用いて[OH]の暫定値を容易に導出できるので、残りの[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値の導出が容易になる。これにより、各化学種の濃度をより容易に求めることができる。また、設定部21は、[OH]に候補値を設定してもよい。この場合、式(1)を用いて[H]の暫定値を容易に導出できるので、6個の化学種の濃度をより容易に求めることができる。式(1)から式(6)において[H]は多くの式に共通して現れているので、[H]又は[OH]の候補値を設定すれば、各化学種の濃度をより容易に求めることができる。
【0059】
なお、RNHが溶解した水溶液中にCOを含むガスを接触させて水溶液にCOを吸収させる状況を想定すると、式(1)から式(6)は、化学種AをCOとし化学種BをRNHとして、以下の式(7)から式(14)のように書き表される。
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

【数14】
【0060】
式(7)から式(14)において、[CO]は、水溶液中のCOの濃度である。[HCO ]は、水溶液中のHCO の濃度である。[CO 2-]は、水溶液中のCO 2-の濃度である。[RNH]は、水溶液中のRNHの濃度である。[RNH ]は、水溶液中のRNH の濃度である。[RNHCOO]は、水溶液中のRNHCOOの濃度である。Tは、水溶液に投入されるCOの投入量を示している。Tは、水溶液に投入されるRNHの投入量を示している。Kは、水溶液中のCOの一段目の平衡反応における平衡定数(第2平衡定数)である。Kは、水溶液中のCOの二段目の平衡反応における平衡定数である。Kは、水溶液中のRNHの平衡反応における平衡定数(第3平衡定数)である。Kは、水溶液中のCOとRNHとの間の平衡反応における平衡定数である。
【0061】
式(7)は、式(1)と同一の式である。式(8)は、式(2)に対応する式である。式(8)は、水溶液中のCOの化学反応が一段目の平衡状態に達したときに成立する化学平衡式である。式(8)は、平衡状態において[HCO ]と[H]との積が[CO]と定数Kとの積に等しくなることを示している。式(9)は、水溶液中のCOの化学反応が二段目の平衡状態に達したときに成立する化学平衡式である。式(9)は、平衡状態において[CO 2-]と[H]との積が[HCO ]と定数Kとの積に等しくなることを示している。式(10)は、式(4)に対応する式である。式(10)は、水溶液中のRNHの化学反応が平衡状態に達したときに成立する化学平衡式である。式(10)は、平衡状態において[RNH]と[H]との積が[RNH ]と定数Kとの積に等しくなることを示している。
【0062】
式(11)は、水溶液中のCOとRNHとの間の化学反応(塩形成反応)が平衡状態に達したときに成立する化学平衡式である。式(11)は、平衡状態において[RNH]と[HCO ]との積が[RNHCOO]と定数Kとの積に等しくなることを示している。式(12)は、式(3)に対応する式である。式(12)は、水溶液中のCOの数が、水溶液に投入される化学反応前のCOの数に等しくなることを示している。つまり、式(12)は、水溶液中の[CO]が投入量Tに等しくなることを示している。式(13)は、式(5)に対応する式である。式(13)は、水溶液中のRNHの数とRNH の数とRNHCOOの数との和が、水溶液に投入される化学反応前のRNHの数に等しくなることを示している。つまり、式(13)は、水溶液中の[RNH]と[RNH ]と[RNHCOO]との和が投入量Tに等しくなることを示している。式(14)は、式(6)に対応する式である。式(14)は、水溶液中の[H]と[RNH ]との和が[OH]と[HCO ]と[RNHCOO]と2×[CO 2-]との和が等しくなることを示している。
【0063】
以上の式(7)から式(14)を解く場合においても、上述した実施形態と同様の手法により、未知数である[H]、[OH]、[CO]、[HCO ]、[CO 2-]、[RNH]、[RNH ]、及び[RNHCOO]を求めることができる。具体的には、まず、K、K、K、K、T、Tの入力値が入力され、未知数である[H]、[OH]、[CO]、[HCO ]、[CO 2-]、[RNH]、[RNH ]、及び[RNHCOO]の中から例えば[H]の候補値が設定される。そして、設定された候補値の下で式(7)から式(13)を用いて残りの[OH]、[CO]、[HCO ]、[CO 2-]、[RNH]、[RNH ]、及び[RNHCOO]の暫定値が計算される。
【0064】
その後、式(14)が成立するか否かの判定により、[H]の候補値が真値であるか否かが判定される。このようにして上述した実施形態と同様の処理が行われることにより、[H]、[OH]、[CO]、[HCO ]、[CO 2-]、[RNH]、[RNH ]、及び[RNHCOO]を求めることができる。このように水溶液中の各化学種の濃度を求めることができれば、水溶液中に溶解したCOの溶解量を把握することができる。水溶液中に溶解している化学種のうち、[HCO ]、[CO 2-]、及び[RNHCOO]は、COが溶解している形で存在している量を示しているので、これらの濃度の値から水溶液中のCOの溶解量を得ることができる。
【0065】
[変形例]
以上、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0066】
例えば、水溶液中に化学種Aにのみが溶解し、その化学種Aが二段階の化学平衡反応を起こすこともある。この場合、水溶液中には、例えば、化学種Aのほか、水が電離して生じるH及びOHと、Hによりイオン化された化学種AH及びAH 2+と、が存在する。この場合、水溶液中に存在する化学種の濃度の間に成立する連立方程式は、次の式(15)から式(19)を含んで構成される。[AH 2+]は、水溶液中のAH 2+の濃度である。Kは、水溶液中の化学種Aの一段目の平衡反応における平衡定数(第2平衡定数)である。KAHは、水溶液中の化学種Aの二段目の平衡反応における平衡定数(第3平衡定数)である。
【数15】

【数16】

【数17】

【数18】

【数19】
【0067】
式(15)は、水溶液中の水が電離して生じるH及びOHが電離平衡に達したときに成立する式(第1化学平衡式)である。式(16)は、水溶液中の化学種Aの化学反応が一段目の平衡状態に達したときに成立する式(第2化学平衡式)である。式(17)は、水溶液中の化学種Aの化学反応が二段目の平衡状態に達したときに成立する式(第3化学平衡式)である。式(18)は、水溶液中において化学反応を起こした後の化学種Aの量と化学種AHの量と化学種AH 2+の量との総和が、化学反応を起こす前の化学種Aの量(すなわち、水溶液中に投入される化学種Aの量)に等しくなることを示す式(物質量保存の式)である。式(19)は、平衡状態において陽イオンが有する電荷の総和(すなわち、正の電荷量の総和)と陰イオンが有する電荷の総和(すなわち、負の電荷量の総和)とが等しくなることを示す式(電荷保存の式)である。
【0068】
以上の式(15)から式(19)を解く場合においても、上述した実施形態と同様の手法により、未知数である[H]、[OH]、[A]、[AH]、及び[AH 2+]を求めることができる。具体的には、まず、K、KAH、Tの入力値が入力され、未知数である[H]、[OH]、[A]、[AH]、及び[AH 2+]の中から例えば[H]の候補値が設定される。そして、設定された候補値の下で式(15)から式(18)を用いて残りの[OH]、[A]、[AH]、及び[AH 2+]の暫定値が計算される。その後、式(19)が成立するか否かの判定により、[H]の候補値が真値であるか否かが判定される。このようにして上述した実施形態と同様の処理が行われることにより、[H]、[OH]、[A]、[AH]、及び[AH 2+]を求めることができる。
【0069】
従って、このような式(15)から式(19)を含む連立方程式を解く場合であっても、上述した実施形態と同様に、未知数である[H]、[OH]、[A]、[AH]、及び[AH 2+]を容易に求めることができる。また、この連立方程式には、一段目の平衡状態に達したときにKと[AH]と[A]と[H]との間に成立する式(16)と、二段目の平衡状態に達したときにKと[AH 2+]と[AH]と[H]との間に成立する式(17)とが含まれている。この場合、式(16)及び式(17)には、共通した[H]が含まれており、式(16)を満たす[H]が式(17)を同時に満たさないことがあるため、各化学種の濃度を同時に変化させながら同時に求めることは難しい。これに対し、[H]を暫定的に固定して化学種の濃度を段階的に求める本手法によれば、上述したように、各化学種の濃度を容易に求めることが可能となる。
【0070】
また、上述した実施形態では、二分探索法を用いて[H]の真値が探索される場合について説明したが、ニュートン・ラフソン法(Newton-Raphson method)を用いて[H]の真値が探索されてもよい。ニュートン・ラフソン法では、図6に示すように、二分探索法と同様に、入力部10によって、式(1)から式(6)に含まれるK、K、K、T、Tの入力値が取得され(ステップS11)、濃度計算部20の設定部21によって、[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の中から[H]が選択される(ステップS12)。
【0071】
次に、設定部21によって、[H]の候補値が設定される(ステップS13)。また、設定部21によって、[H]の暫定値と微小量との和(すなわち、暫定値+微小量)が設定される(ステップS14)。[H]の候補値は、任意の値としてよい。微小量は、後述する図5の直線L(すなわち、関数Qの接線)を求めるために設定される。
【0072】
次に、濃度計算部20の計算部22によって、[H]の候補値が式(1)から式(5)に代入され、これにより、残りの[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値が計算される(ステップS15)。また、計算部22によって、[H]の暫定値+微小量が式(1)から式(5)に代入され、これにより、残りの[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値と微小量との和(すなわち、暫定値+微小量)が計算される(ステップS16)。なお、ステップS13、S15は、ステップS14、S16と同時に実施されてもよいし、ステップS14、S16と異なるタイミングで実施されてもよい。
【0073】
次に、濃度計算部20の判定部23によって、[H]の候補値、及び[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の各暫定値の下で、式(6)が成立するか否かが判定される(ステップS17)。式(6)が成立したか否かは、上述した実施形態での説明の通り、式(6)の左辺の計算値を示す関数Qがゼロになるか否かによって判定することができる。
【0074】
図5は、関数Qと[H]との関係を示すグラフGを示している。図5において、縦軸は関数Qを示し、横軸は[H]を示している。[H]の候補値をX1とし、[H]が候補値X1であるときの関数Qの値をY1とすると、点P1(X1、Y1)は、ステップS13、S15において得ることができる。[H]の候補値+微小量をX1+ΔXとし、[H]が候補値X1+ΔXであるときの関数Qの値をY1+ΔYとすると、点P2(X1+ΔX、Y1+ΔY)は、ステップS14、S16において得ることができる。
【0075】
これら2つの点P1、P2が分かれば、点P1、P2を結ぶ直線L(すなわち点P1における関数Qの接線)を得ることができる。そこで、判定部23によって、直線Lと図6の横軸との交点PL(X2、0)を求め、[H]がX1であるときの関数Qがゼロとなるか否かを判定することによって式(6)が成立するか否かを判定する。判定部23によって、式(6)が成立しないと判定された場合(ステップS17においてNo)、ステップS13及びステップS14に戻り、設定部21によって[H]の候補値が変更される。具体的には、設定部21によって、図5の横軸との交点PLを示すX2が新たな[H]の候補値として設定される。その後、判定部23によって式(6)が成立しないと判定されるまで、ステップS13からステップS17が繰り返される。
【0076】
一方、判定部23によって式(6)が成立すると判定された場合(ステップS17においてYes)、判定部23によって[H]の候補値、及び[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の暫定値が真値として出力部30に提供され、出力部30によってこれらの真値が表示装置等に出力される(ステップS18)。このように、ニュートン・ラフソン法を用いる場合であっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0077】
上述した実施形態では、設定部21が[H]、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]の中から、[H]を選択した場合について説明した。しかし、設定部21は、[H]に限らず、[OH]、[A]、[AH]、[B]、及び[BH]のいずれか一つを選択してもよい。上述した実施形態では、水溶液中に2種類の化学種A、Bが投入されて溶解している場合を説明した。しかし、水溶液中には、3種類以上の化学種が投入されてもよい。また、上述した実施形態では、化学種AとしてCOを例示し、化学種BとしてRNHを例示した。しかし、水溶液中に投入される化学種A、Bは、CO2、RNHに限られず、CHCOOH(酢酸)、HCL(塩酸)、NH(アンモニア)、及びNaOH(水酸化ナトリウム)等の他の化学種であってもよい。なお、CHCOOH、HCL、及びNHは、水に溶解してHを放出又は受け取る性質を有し、NaOHは、水に溶解してOHを放出する性質を有する。
【0078】
以下、本発明の要旨を示す。
[1] 水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算装置であって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出する濃度計算部と、
前記濃度計算部が導出した前記N個の化学種の濃度を出力する出力部と、を備え、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記濃度計算部は、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定する設定部と、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出する計算部と、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定する判定部と、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると前記判定部が判定した場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値がそれぞれ真値として前記出力部に提供され、
前記電荷保存の式が成立しないと前記判定部が判定した場合に、前記電荷保存の式が成立すると前記判定部が判定するまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、が繰り返し実行される、濃度計算装置。
[2] 前記設定部は、前記1個の化学種の濃度の下限値及び上限値を設定し、前記下限値及び前記上限値の中間値を前記候補値として設定し、
前記電荷保存の式が成立しないと前記判定部が判定した場合に、前記設定部は、前記候補値を新たな前記下限値又は前記上限値として設定し、新たな前記下限値又は前記上限値を用いて新たな前記候補値を設定する、[1]に記載の濃度計算装置。
[3] 前記水溶液は、水を溶媒とし、互いに異なる種類の化学種A及び化学種B(A、Bは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、
前記N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、前記化学種Aの濃度である[A]と、前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH]と、前記化学種Bの濃度である[B]と、前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Bの濃度である[BH]と、を含み、
前記N-1個の式は、
平衡状態に達したときに第1平衡定数と前記[H]と前記[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、
平衡状態に達したときに第2平衡定数と前記[AH]と前記[A]と前記[H]との間に成立する第2化学平衡式と、
平衡状態に達したときに第3平衡定数と前記[BH]と前記[B]と前記[H]との間に成立する第3化学平衡式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Aの投入量が前記[AH]と前記[A]との総和に等しくなることを示す第1物質量保存の式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Bの投入量が前記[BH]と前記[B]との総和に等しくなることを示す第2物質量保存の式と、を含み、
前記電荷保存の式は、前記[H]と前記[AH]と前記[BH]との総和が前記[OH]に等しくなることを示している、[1]又は[2]に記載の濃度計算装置。
[4] 前記水溶液は、水を溶媒とし、化学種A(Aは任意の化学式)を溶質とする水溶液であり、
前記N個の化学種の濃度は、水素イオンの濃度である[H]と、水酸化イオンの濃度である[OH]と、前記化学種Aの濃度である[A]と、一段目の電離の際に前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH]と、二段目の電離の際に前記水素イオンによりイオン化された前記化学種Aの濃度である[AH 2+]と、を含み、
前記N-1個の式は、
平衡状態に達したときに第1平衡定数と前記[H]と前記[OH]との間に成立する第1化学平衡式と、
一段目の平衡状態に達したときに第2平衡定数と前記[AH]と前記[A]と前記[H]との間に成立する第2化学平衡式と、
二段目の平衡状態に達したときに第3平衡定数と前記[AH 2+]と前記[AH]と前記[H]との間に成立する第3化学平衡式と、
前記水溶液に投入した前記化学種Aの投入量が前記[AH]と前記[A]との総和に等しくなることを示す物質量保存の式と、を含み、
前記電荷保存の式は、前記[H]と前記[AH]と前記[BH]との総和が前記[OH]に等しくなることを示している、[1]又は[2]に記載の濃度計算装置。
[5] 前記設定部は、前記[H]又は前記[OH]に前記候補値を設定する、[3]又は[4]に記載の濃度計算装置。
[6] 水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算方法であって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、
導出した前記N個の化学種の濃度を出力することと、を備え、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記N個の化学種の濃度を導出することは、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると判定した場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力し、
前記電荷保存の式が成立しないと判定した場合に、前記電荷保存の式が成立すると判定するまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行する、濃度計算方法。
[7] 水溶液中に溶解するN個(Nは3以上の整数)の化学種の濃度を計算する濃度計算プログラムであって、
前記N個の化学種の濃度の間に成立するN個の式を含む連立方程式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度を未知数として導出することと、
導出した前記N個の化学種の濃度を出力することと、をコンピュータに実行させ、
前記N個の式は、
前記水溶液中において前記N個の化学種が平衡状態に達したときに前記N個の化学種の濃度の間に成立する複数の化学平衡式を含むN-1個の式と、
前記水溶液中において陽イオンの電荷の総和と陰イオンの電荷の総和とが等しくなることを示す電荷保存の式と、を含み、
前記N個の化学種の濃度を導出することは、
前記N個の化学種の中からいずれか1個の化学種の濃度の候補値を設定することと、
前記候補値を代入して前記N-1個の式を解くことにより、前記N個の化学種の濃度のうち前記1個の化学種の濃度を除く残りのN-1個の化学種の濃度の暫定値を導出することと、
前記候補値及び前記N-1個の暫定値の下で前記電荷保存の式が成立するか否かを判定することと、を含み、
前記電荷保存の式が成立すると判定された場合に、前記候補値及び前記N-1個の暫定値をそれぞれ真値として出力させ、
前記電荷保存の式が成立しないと判定された場合に、前記電荷保存の式が成立すると判定されるまで、前記候補値の変更と、変更後の前記候補値に基づく前記N-1個の暫定値の導出と、を繰り返し実行させる、濃度計算プログラム。
【符号の説明】
【0079】
1 濃度計算装置
20 濃度計算部
21 設定部
22 計算部
23 判定部
30 出力部
100 コンピュータ
XC 中間値
XL 下限値
XT 真値
XU 上限値
図1
図2
図3
図4
図5
図6