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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173597
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20231130BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085955
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹林 義友
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017EE05
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ13
5H029CJ16
5H029CJ22
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029EJ01
5H029EJ05
5H029HJ01
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA08
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA13
5H050GA18
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」を低減することができるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質粒子64と溶媒69を混合して正極ペースト63Pを作製する正極ペースト作製工程S1と、正極ペースト63Pを、正極集電箔61の表面61b,61cに塗布し乾燥させて、正極板60を作製する正極板作製工程S2と、正極板60と負極板70を有する電極体50を作製する電極体作製工程S3と、電極体50を電池ケース30の内部に収容する収容工程S4と、電極体50を収容した電池ケース30の内部に非水電解液90を注入して注液完了電池1Bを作製する注液工程S5と、注液完了電池1Bに初充電を行う初充電工程S6とを備える。正極ペースト作製工程S1では、さらに水酸化物粒子67を混合した正極ペースト63Pを作製する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に正極活物質層を有する正極板と、負極板と、LiPF6を含む非水電解液と、これらを収容する電池ケースと、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法において、
正極活物質粒子と溶媒とを混合して正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程と、
前記正極ペーストを前記正極集電箔の前記表面に塗布し、塗布した前記正極ペーストを乾燥させて、前記正極集電箔の前記表面に前記正極活物質層を有する前記正極板を作製する正極板作製工程と、
前記正極板と前記負極板とを有する電極体を作製する電極体作製工程と、
前記電極体を前記電池ケースの内部に収容する収容工程と、
前記電極体を収容した前記電池ケースの内部に前記非水電解液を注入して、注液完了電池を作製する注液工程と、
前記注液完了電池について初充電を行う初充電工程と、を備え、
前記正極ペースト作製工程では、さらに水酸化物粒子を混合した前記正極ペーストを作製する
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記水酸化物粒子は、LiOH粒子である
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記正極ペースト作製工程では、前記正極ペーストの固形分のうち前記水酸化物粒子を除いた固形分に対する前記水酸化物粒子の混合割合を、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内とする
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に正極活物質層を有する正極板と、負極板と、LiPF6を含む非水電解液と、を有するリチウムイオン二次電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-60689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に正極活物質層を有する正極板と、負極板と、LiPF6を含む非水電解液と、を有するリチウムイオン二次電池について、急速充電等の負荷の大きい通電を行ったとき、正極集電箔の局所において高電位となることがあった。そして、この高電位となった局所が腐食することで当該局所の表面からAl(アルミニウム)が溶出し、これが負極表面に堆積することで、内部短絡する虞があった。具体的には、使用初期のリチウムイオン二次電池において、正極集電箔の表面に高耐食性を有するAlF3の被膜が十分に形成されていないために、上述の腐食によってAlの溶出が発生することがあった。
【0005】
これに対し、特許文献1のリチウムイオン二次電池では、正極集電箔の表面においてAlF3の被膜形成を促進させる添加剤として、非水電解液中に、LiBF4とLiFOBを加えるようにしている。しかしながら、これらの添加剤はコストが高く、また、使用初期段階では、AlF3の被膜の形成が不十分であるために、急速充電等の高負荷通電を行った場合には、腐食によってAl溶出が発生する虞があった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」を低減することができるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に正極活物質層を有する正極板と、負極板と、LiPF6を含む非水電解液と、これらを収容する電池ケースと、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法において、正極活物質粒子と溶媒とを混合して正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程と、前記正極ペーストを前記正極集電箔の前記表面に塗布し、塗布した前記正極ペーストを乾燥させて、前記正極集電箔の前記表面に前記正極活物質層を有する前記正極板を作製する正極板作製工程と、前記正極板と前記負極板とを有する電極体を作製する電極体作製工程と、前記電極体を前記電池ケースの内部に収容する収容工程と、前記電極体を収容した前記電池ケースの内部に前記非水電解液を注入して、注液完了電池を作製する注液工程と、前記注液完了電池について初充電を行う初充電工程と、を備え、前記正極ペースト作製工程では、さらに水酸化物粒子を混合した前記正極ペーストを作製するリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0008】
上述のリチウムイオン二次電池の製造方法では、正極ペースト作製工程において、正極活物質粒子及び溶媒の他に、さらに水酸化物粒子を混合して、水酸化物粒子を含む正極ペーストを作製する。その後、正極板作製工程において、水酸化物粒子を含む正極ペーストを正極集電箔の表面に塗布し、塗布した正極ペーストを乾燥させて、正極集電箔の表面に、水酸化物粒子を含む正極活物質層を有する正極板を作製する。その後、この正極板を用いてリチウムイオン二次電池を製造する。
【0009】
このような正極板を用いてリチウムイオン二次電池を製造することで、従来に比べて、当該電池の製造過程において、正極集電箔の表面に高耐食性を有するAlF3の被膜が形成され易くなる。具体的には、正極板等を収容した電池ケース内に非水電解液を注入した後から、当該電池が完成して出荷できる状態になるまでの期間内において、従来よりも、正極集電箔の表面におけるAlF3の被膜生成反応が促進される。特に、初充電工程において、AlF3の被膜生成反応が促進される。従って、上述のように製造されるリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池に比べて、完成して出荷できる状態になった時点における正極集電箔の表面の耐食性が高くなる。このため、上述の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池では、従来のリチウムイオン二次電池に比べて、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」が低減される。
【0010】
なお、正極ペーストに加える水酸化物粒子としてLiOH粒子を使用した場合は、以下の(a)~(c)の一連の反応によって、正極集電箔(アルミニウム箔)の表面に高耐食性を有するAlF3の被膜が形成される。また、正極板作製工程に供される正極集電箔(アルミニウム箔)の表面は、酸化被膜であるAl23被膜によって被覆されている。
【0011】
(a)正極活物質層中のLiOHが分解することによって、H2Oが発生する。
2LiOH→Li2O+H2O (式1)
(b)発生したH2Oが非水電解液中のLiPF6と反応して、HFが生成される。
LiPF6+H2O→LiF+POF3+2HF (式2)
(c)生成されたHFが正極集電箔の表面のAl23被膜と反応して、正極集電箔の表面にAlF3の被膜が生成される。
Al23+6HF→2AlF3+3H2O (式3)
【0012】
また、正極ペーストに加える水酸化物粒子としてLiOH粒子以外の水酸化物粒子を使用した場合でも、正極活物質層内において当該水酸化物粒子が分解することによってH2Oが発生する。これにより、前記の式2及び式3の反応が起こり、正極集電箔の表面にAlF3の被膜が生成される。
【0013】
(2)さらに、前記(1)のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記水酸化物粒子は、LiOH粒子であるリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0014】
正極ペースト中に混合する水酸化物粒子としてLiOH粒子を使用することで、前述のように、当該電池の製造過程において正極集電箔の表面にAlF3の被膜が形成される。従って、当該電池の使用初期において高負荷通電を行った場合でも、正極集電箔の表面からのAl溶出の発生を低減することができる。また、正極活物質層中のLiOHが分解することによって、リチウムイオン二次電池に有用なLiが発生するので好ましい。
【0015】
(3)さらに、前記(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記正極ペースト作製工程では、前記正極ペーストの固形分のうち前記水酸化物粒子を除いた固形分に対する前記水酸化物粒子の混合割合を、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内とするリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0016】
正極ペーストの固形分のうち水酸化物粒子を除いた固形分に対する水酸化物粒子の混合割合を、0.5wt%以上とすることで、正極集電箔の表面においてAlF3の被膜がより一層形成され易くなり、正極集電箔の表面からのAl溶出の発生を防止することができる。但し、水酸化物粒子の前記混合割合を5.0wt%以上にすると、電池の放電容量の低下が大きくなる。従って、正極ペーストの固形分のうち水酸化物粒子を除いた固形分に対する水酸化物粒子の混合割合は、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内にするのが好ましい。なお、正極ペーストの固形分は、正極ペーストの成分のうち溶媒以外の成分である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の平面図(上面図)である。
図2】同リチウムイオン二次電池の正面図である。
図3】同リチウムイオン二次電池の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】同リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する図である。
図5】同リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する他の図である。
図6】同リチウムイオン二次電池の正極板の断面図である。
図7】同リチウムイオン二次電池の負極板の断面図である。
図8】同リチウムイオン二次電池の電極体の斜視図である。
図9】同リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、電池ケース30と、電池ケース30の内部に収容された電極体50と、正極端子部材41と、負極端子部材45とを備える(図1及び図2参照)。電池ケース30は、金属からなるハードケースであり、直方体箱状をなしている。この電池ケース30は、角形有底筒状をなす金属製のケース本体21と、ケース本体21の開口を閉塞する矩形平板状をなす金属製の蓋体11とを備える(図1及び図2参照)。
【0019】
蓋体11には、2つの矩形筒状の貫通孔(第1貫通孔と第2貫通孔、図示省略)が形成されている。第1貫通孔には正極端子部材41が挿通されており、第2貫通孔には負極端子部材45が挿通されている(図1及び図2参照)。なお、蓋体11の第1貫通孔の内周面と正極端子部材41の外周面との間、及び、蓋体11の第2貫通孔の内周面と負極端子部材45の外周面との間には、筒状の絶縁部材(図示省略)が介在している。
【0020】
電極体50は、正極板60と、負極板70と、正極板60と負極板70との間に介在するセパレータ80と、を有する。より具体的には、電極体50は、帯状の正極板60と帯状の負極板70と帯状のセパレータ80とを備え、正極板60と負極板70とがセパレータ80を間に介在させる態様で捲回された捲回電極体である(図8参照)。なお、電極体50の内部には、非水電解液90が含まれている(図2参照)。電池ケース30の内部の底面側にも、非水電解液90が収容されている。電極体50のうち正極板60は、電池ケース30の内部において、正極端子部材41に接続されている。また、負極板70は、電池ケース30の内部において、負極端子部材45に接続されている。
【0021】
正極板60は、アルミニウム箔からなる正極集電箔61と、正極集電箔61の表面(第1表面61b及び第2表面61c)に積層された正極活物質層63とを有する(図6参照)。正極活物質層63は、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66と水酸化物粒子67とを含有する。なお、本実施形態では、正極活物質粒子64として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的には、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2の粒子を用いている。また、バインダ65として、PVDFを用いている。また、導電材66として、アセチレンブラックを用いている。また、水酸化物粒子67として、LiOH粒子を用いている。
【0022】
負極板70は、銅箔からなる負極集電箔71と、負極集電箔71の表面(第1表面71b及び第2表面71c)に積層された負極活物質層73とを有する(図7参照)。負極活物質層73は、負極活物質粒子74とバインダ75とを含有する。なお、本実施形態では、負極活物質粒子74として、黒鉛粒子を用いている。また、バインダ75として、CMC(カルボキシメチルセルロース)とSBR(スチレンブタジエンゴム)とを用いている。
【0023】
セパレータ80は、ポリオレフィンからなる多孔質樹脂シートと、この多孔質樹脂シートの表面に形成された耐熱性粒子からなる耐熱層とを有する。なお、本実施形態では、多孔質樹脂シートとして、2つの多孔質ポリプロピレン層の間に多孔質ポリエチレン層が介在する3層構造の多孔質樹脂シートを用いている。また、非水電解液90は、有機溶媒(具体的には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネート)と、LiPF6とを有する。
【0024】
次に、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。図3は、リチウムイオン二次電池1の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1(正極ペースト作製工程)において、正極ペースト63Pを作製する。具体的には、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66と水酸化物粒子67と溶媒69とを混合して、正極ペースト63Pを作製する(図4参照)。なお、正極ペースト63Pの成分のうち、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66と水酸化物粒子67とが固形分である。
【0025】
なお、本実施形態の正極ペースト作製工程では、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分(具体的には、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66)に対する水酸化物粒子67の混合割合を、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内としている。すなわち、本実施形態の正極ペースト63Pでは、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分(具体的には、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66)に対する水酸化物粒子67の重量比を、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内としている。換言すれば、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分(具体的には、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66)と、水酸化物粒子67との重量比を、100:xとしたとき、0.5≦x<5.0の関係を満たすようにしている。なお、正極ペースト63Pの固形分は、正極ペースト63Pの成分のうち溶媒69を除いた成分である。
【0026】
なお、本実施形態では、正極活物質粒子64として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的には、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2の粒子を用いている。また、バインダ65として、PVDFを用いている。また、導電材66として、アセチレンブラックを用いている。また、水酸化物粒子67として、LiOH粒子を用いている。
【0027】
次に、ステップS2(正極板作製工程)において、まず、正極ペースト63Pを、帯状の正極集電箔61の第1表面61bに塗布する。これにより、正極集電箔61の第1表面61bに、正極ペースト63Pからなる正極ペースト層が形成される。次いで、正極集電箔61の第1表面61bに塗布した正極ペースト63P(具体的には、正極ペースト63Pからなる正極ペースト層)を乾燥させる。これにより、正極ペースト63Pからなる正極ペースト層から溶媒69が蒸発して、正極集電箔61の第1表面61bに正極活物質層63が形成される(図5参照)。これと同様にして、正極集電箔61の第2表面61cにも正極活物質層63を形成して、帯状の正極板60を作製する(図6参照)。なお、ステップS2(正極板作製工程)に供される正極集電箔61(アルミニウム箔)の第1表面61b及び第2表面61cは、酸化被膜であるAl23被膜によって被覆されている。
【0028】
その後、ステップS3(電極体作製工程)において、帯状の正極板60と、帯状の負極板70と、正極板60と負極板70との間に介在する帯状のセパレータ80と、を有する電極体50を作製する。具体的には、正極板60と負極板70との間にセパレータ80を介在させる態様で、正極板60と負極板70とセパレータ80とを捲回して、捲回電極体である電極体50を作製する(図8参照)。
【0029】
次に、ステップS4(収容工程)において、電極体50を電池ケース30の内部に収容する。具体的には、まず、蓋体11を用意し、この蓋体11に、正極端子部材41と負極端子部材45を組み付ける。その後、蓋体11に組み付けられた正極端子部材41と電極体50に含まれる正極板60とを接続する。具体的には、正極端子部材41と電極体50に含まれる正極板60とを溶接する。さらに、蓋体11に組み付けられた負極端子部材45と電極体50に含まれる負極板70とを接続する。具体的には、負極端子部材45と電極体50に含まれる負極板70とを溶接する。これにより、蓋体11と電極体50とが、正極端子部材41及び負極端子部材45を介して一体になる。
【0030】
次いで、蓋体11と一体にされた電極体50を、ケース本体21の内部に収容すると共に、蓋体11によってケース本体21の開口を閉塞する。この状態で、蓋体11とケース本体21とを全周溶接する。これにより、ケース本体21と蓋体11とが接合されて、電池ケース30になると共に、組み付け完了電池1Aが作製される(図9参照)。組み付け完了電池1Aは、電池ケース30と電極体50と正極端子部材41と負極端子部材45とが組み付けられた構造体である。具体的には、組み付け完了電池1Aは、電池ケース30と、電池ケース30の内部に収容された電極体50と、電極体50に接続された正極端子部材41及び負極端子部材45とを備える。
【0031】
次に、ステップS5(注液工程)において、電極体50を収容した電池ケース30の内部に非水電解液90を注入して、注液完了電池1Bを作製する(図9参照)。具体的には、組み付け完了電池1Aを構成する電池ケース30の蓋体11には、図示しない注液孔が形成されている。この注液孔を通じて、組み付け完了電池1Aを構成する電池ケース30の内部に非水電解液90を注入する。これにより、電極体50の内部に非水電解液90を含浸させると共に、電池ケース30の内部の底面側に非水電解液90を収容させる。その後、注液孔を封止することで、注液完了電池1Bが作製される。
【0032】
次いで、ステップS6(初充電工程)において、注液完了電池1Bについて初充電を行う。これにより、注液完了電池1Bが活性化されて、リチウムイオン二次電池1となる。なお、本実施形態の初充電工程では、0.2Cの一定電流値で、注液完了電池1Bの電池電圧値が4.1Vになるまで、注液完了電池1BについてCC充電を行っている。その後、初充電を終えたリチウムイオン二次電池1について検査を行うことで、リチウムイオン二次電池1が完成して出荷できる状態になる。
【0033】
ところで、従来、アルミニウム箔からなる正極集電箔の表面に正極活物質層を有する正極板と、負極板と、LiPF6を含む非水電解液と、を有するリチウムイオン二次電池について、急速充電等の高負荷通電を行ったとき、正極集電箔の局所において高電位となることがあった。そして、この高電位となった局所が腐食することで当該局所の表面からAl(アルミニウム)が溶出し、これが負極表面に堆積することで、内部短絡する虞があった。具体的には、使用初期のリチウムイオン二次電池において、正極集電箔の表面に高耐食性を有するAlF3の被膜が十分に形成されていないために、上述の腐食によってAlの溶出が発生することがあった。
【0034】
これに対し、本実施形態では、前述のように、正極ペースト作製工程(ステップS1)において、水酸化物粒子67(具体的には、LiOH粒子)を含む正極ペースト63Pを作製する。その後、正極板作製工程(ステップS2)において、水酸化物粒子67を含む正極ペースト63Pを正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに塗布して、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに、水酸化物粒子67を含む正極活物質層63を有する正極板60を作製する。その後、この正極板60を用いてリチウムイオン二次電池1を製造する。
【0035】
このような正極板60を用いてリチウムイオン二次電池1を製造することで、当該電池1の製造過程において、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに、高耐食性を有するAlF3の被膜が形成され易くなる。具体的には、正極板60等を収容した電池ケース30内に非水電解液90を注入した後から、当該電池1が出荷できる状態になるまでの間に、下記の一連の反応(a)~(c)が起こることによって、従来に比べて、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cにおいて、AlF3の被膜の形成が促進される。特に、初充電工程において、下記の一連の反応(a)~(c)が促進されることで、AlF3の被膜の形成が促進される。なお、正極板作製工程(ステップS2)に供される正極集電箔61(アルミニウム箔)の第1表面61b及び第2表面61cは、酸化被膜であるAl23被膜によって形成されている。
【0036】
(a)正極活物質層63に含まれるLiOHが分解することによって、H2Oが発生する。
2LiOH→Li2O+H2O (式1)
(b)発生したH2Oが、非水電解液90に含まれるLiPF6と反応して、HFが生成される。
LiPF6+H2O→LiF+POF3+2HF (式2)
(c)生成されたHFが、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cをなすAl23被膜と反応して、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに、AlF3の被膜が生成される。
Al23+6HF→2AlF3+3H2O (式3)
【0037】
従って、上述のように製造されるリチウムイオン二次電池1は、従来のリチウムイオン二次電池に比べて、完成して出荷できる状態になった時点における正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cの耐食性が高くなる。従って、本実施形態の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池1では、従来のリチウムイオン二次電池に比べて、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出」が低減される。
【0038】
<実施例1~5>
実施例1~5では、ステップS1(正極ペースト作製工程)において、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分(具体的には、正極活物質粒子64とバインダ65と導電材66)に対する水酸化物粒子67の混合割合(wt%)を異ならせて、正極ペースト63Pを作製した。すなわち、実施例1~5では、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分と水酸化物粒子67との重量比を異ならせて、正極ペースト63Pを作製した。それ以外は同様にして、実施例1~5のリチウムイオン二次電池1を作製した。
【0039】
具体的には、実施例1では、正極ペースト作製工程において、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分に対する水酸化物粒子67の混合割合(以下、これを単に、水酸化物粒子67の混合割合ともいう)を、0.1wt%とした。実施例2では、水酸化物粒子67の混合割合を0.5wt%とした。実施例3では、水酸化物粒子67の混合割合を1.0wt%とした。実施例4は、水酸化物粒子67の混合割合を3.0wt%とした。実施例5では、水酸化物粒子67の混合割合を5.0wt%とした。
【0040】
<比較例1>
比較例1では、正極ペースト作製工程において、正極ペースト63Pの固形分のうち水酸化物粒子67を除いた固形分に対する水酸化物粒子67の混合割合を、0wt%とした。すなわち、比較例1では、水酸化物粒子67を含まない正極ペーストを作製した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0041】
<正極集電箔のAlF3の被膜の調査>
次に、実施例1~5及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、正極集電箔の表面におけるAlF3の被膜を調査した。なお、調査対象としたリチウムイオン二次電池は、いずれも、完成して出荷できる状態になった時点のリチウムイオン二次電池であり、未使用品(すなわち、新品)である。
【0042】
具体的には、各リチウムイオン二次電池を解体して正極板を取り出す。そして、取り出した正極板を、エチルメチルカーボネート中に10分間浸漬させ、その後乾燥させて、正極板に付着している非水電解液90の成分を除去する。その後、この正極板の正極集電箔61から正極活物質層を剥離して、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cを露出させる。そして、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)によって、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cの分析を行って、Al元素に対するF元素の割合(F/Al)を算出した。この結果を表1に示す。なお、表1に示すF/Alの値は、第1表面61bにおけるF/Alの値と第2表面61cにおけるF/Alの値との平均値である。F/Alの値が大きいほど、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに、AlF3の被膜が多く存在しているといえる。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1~5のリチウムイオン二次電池では、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、F/Alの値が大きくなった。この結果より、水酸化物粒子67を含む正極ペースト63Pを用いて正極板60を作製し、この正極板60を用いてリチウムイオン二次電池1を製造することで、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cにおいてAlF3の被膜の形成が促進され、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cの耐食性を向上させることができるといえる。
【0045】
<高負荷通電試験>
次に、実施例1~5及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、高負荷通電試験を行った。なお、本試験に供されるリチウムイオン二次電池は、いずれも、完成して出荷できる状態になった時点のリチウムイオン二次電池であり、未使用品(すなわち、新品)である。従って、本試験に供されるリチウムイオン二次電池は、いずれも、本試験による高負荷通電が、使用初期における高負荷通電となる。
【0046】
本試験では、各リチウムイオン二次電池について、25℃の温度環境下で、下記の充放電サイクルを1サイクルとして、20サイクルの充放電を行った。具体的には、充放電サイクルは、以下の通りである。まず、0.2Cの電流値で、電池電圧値が3.5Vになるまで放電する。その後、10分間休止する。その後、1Cの電流値で、電池電圧値が4.0Vになるまで充電する。その後、10分間休止する。この充放電サイクルを1サイクルとして、20サイクルの充放電を行った。
【0047】
各リチウムイオン二次電池について、上述の充放電サイクルを20サイクル行った後、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出の有無を調査した。具体的には、充放電サイクルを20サイクル行った後、各リチウムイオン二次電池を解体して正極板を取り出す。そして、取り出した正極板を、エチルメチルカーボネート中に10分間浸漬させ、その後乾燥させて、正極板に付着している非水電解液90の成分を除去する。その後、この正極板の正極集電箔61から正極活物質層を剥離して、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cを露出させる。そして、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cをマイクロスコープで観察して、孔食の有無を確認した。なお、孔食は、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出に因るものである。従って、孔食の有無によって、Al溶出の有無を判断することができる。この結果を表1に示す。なお、表1では、「Al孔食」と記載し、○△×の三段階で評価している。
【0048】
表1に示すように、実施例2~5では、Al孔食の評価は○であり、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに孔食は存在していなかった。この結果から、実施例2~5のリチウムイオン二次電池1では、使用初期において高負荷通電を行ったときに、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出を防止することができたといえる。従って、実施例2~5のリチウムイオン二次電池1は、使用初期において高負荷通電を行ったときに、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出が発生し難いリチウムイオン二次電池であるといえる。
【0049】
一方、比較例1では、Al孔食の評価は×であり、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに孔食が多数存在していた。従って、比較例1のリチウムイオン二次電池は、使用初期において高負荷通電を行ったときに、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出が発生し易いリチウムイオン二次電池であるといえる。
【0050】
また、実施例1では、Al孔食の評価は△であり、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cに孔食が存在していたが、比較例1に比べて、孔食の数は少なく、その大きさも小さかった。この結果から、実施例1のリチウムイオン二次電池1では、使用初期において高負荷通電を行ったときに、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出を低減することができたといえる。従って、実施例1のリチウムイオン二次電池1は、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、使用初期において高負荷通電を行ったときに、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cからのAl溶出が発生し難いリチウムイオン二次電池であるといえる。
【0051】
以上の結果より、水酸化物粒子67を含む正極ペースト63Pを用いて正極板60を作製し、この正極板60を用いてリチウムイオン二次電池1を製造することで、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」を低減することができるリチウムイオン二次電池を製造することができるといえる。従って、本実施形態の製造方法は、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」を低減することができるリチウムイオン二次電池の製造方法であるといえる。
【0052】
<放電容量測定試験>
また、実施例1~5及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、放電容量を測定した。具体的には、まず、各リチウムイオン二次電池について、0.2Cの電流値で、電池電圧値が4.2Vになるまで充電する。その後、電池電圧値を4.2Vに維持しつつ充電を行って、SOC100%にする。その後、0.2Cの電流値で、電池電圧値が3.0Vになるまで放電する。その後、電池電圧値を3.0Vに維持しつつ放電を行って、SOC0%にする。このとき、SOC100%からSOC0%になるまでの放電電気量を、各リチウムイオン二次電池の放電容量として測定した。そして、各リチウムイオン二次電池の放電容量の大きさを評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
表1に○印で示すように、実施例1~4及び比較例1のリチウムイオン二次電池では、十分な放電容量を得ることができた。具体的には、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量が一番大きく、水酸化物粒子67(具体的には、LiOH)の混合割合(wt%)を高くして製造したリチウムイオン二次電池ほど、放電容量が小さくなった。詳細には、実施例1~4のリチウムイオン二次電池の放電容量は、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量よりも小さくなったが、その低下量は僅かであった。
【0054】
一方、実施例5のリチウムイオン二次電池では、表1に△印で示すように、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量よりも小さくなり、その低下量は、実施例1~4のリチウムイオン二次電池に比べて大きくなった。この結果から、水酸化物粒子67(具体的には、LiOH)の混合割合を5.0wt%以上にすると、リチウムイオン二次電池の放電容量の低下が大きくなることが判った。
【0055】
前述の高負荷通電試験の結果と放電容量測定試験の結果から、正極ペースト作製工程では、水酸化物粒子67の混合割合を、0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内とするのがより好ましいといえる。具体的には、高負荷通電試験の結果より、正極ペースト63Pに水酸化物粒子67を含有させることで、正極集電箔61からのAl溶出を低減する効果を得ることができるといえるが、水酸化物粒子67の混合割合を0.5wt%以上とすることで、正極集電箔61からのAl溶出を確実に防止できるからである。但し、放電容量測定試験の結果から、水酸化物粒子67の混合割合を5.0wt%以上にすると、リチウムイオン二次電池の放電容量の低下が大きくなることが判った。従って、正極ペースト作製工程では、水酸化物粒子67の混合割合を0.5wt%以上5.0wt%未満の範囲内とするのが、より好ましいといえる。
【0056】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0057】
例えば、実施形態では、水酸化物粒子67としてLiOH粒子を用いた例を示した。しかしながら、他の水酸化物粒子を用いても、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cにおいてAlF3の被膜の形成が促進され、正極集電箔61の第1表面61b及び第2表面61cの耐食性を向上させることができる。これにより、「使用初期において高負荷通電を行ったときの正極集電箔の表面からのAl溶出」を低減することができる。具体的には、LiOH粒子とは異なる他の水酸化物粒子を使用した場合でも、正極活物質層内において当該水酸化物粒子が分解することによってH2Oが発生する。これにより、前記の式2及び式3の反応が起こり、正極集電箔の表面にAlF3の被膜が生成される。
【符号の説明】
【0058】
1 リチウムイオン二次電池
1B 注液完了電池
30 電池ケース
50 電極体
60 正極板
61 正極集電箔
63 正極活物質層
63P 正極ペースト
64 正極活物質粒子
65 バインダ
66 導電材
67 水酸化物粒子
69 溶媒
70 負極板
90 非水電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9