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特開2023-17360有機薄膜太陽電池の製造方法及び有機薄膜太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017360
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】有機薄膜太陽電池の製造方法及び有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230131BHJP
【FI】
H01L31/04 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121588
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤抜 享洋
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB24
5F151CB30
5F151EA20
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151FA10
5F151GA03
5F151GA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貼り合わせを用いた有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機薄膜太陽電池の製造方法は、基板1に第1電極2と有機活性層3とが順に積層された第1積層体10を準備する、第1積層工程と、被覆層8に第2電極7を積層した第2積層体20を準備する、第2積層工程と、第1積層体10の前記有機活性層3と第2積層体20の第2電極7とを、熱圧着で貼り合わせる、貼り合わせ工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に第1電極と有機活性層とが順に積層された第1積層体を準備する、第1積層工程と、
被覆層に第2電極を積層した第2積層体を準備する、第2積層工程と、
前記第1積層体の前記有機活性層と前記第2積層体の前記第2電極とを、熱圧着で貼り合わせる、貼り合わせ工程と、を備える、有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記被覆層は、前記有機活性層より融点又はガラス転移点が低いホットメルトシートである、請求項1に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第2電極の厚みは、20nm以上150nm以下である、請求項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記熱圧着の温度は、前記有機活性層の融点又はガラス転移点より低く、前記被覆層の融点又はガラス転移点より高い、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記熱圧着の圧力は、80g/cm以上650g/cm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記貼り合わせ工程の前に、前記第2電極をスルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する修飾材で、表面修飾する工程をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項7】
第1電極と、有機活性層と、第2電極と、被覆層と、を順に備え、
前記第2電極の前記被覆層側の第1面は、JIS Z 8741で規定された入射角60°の測定における光沢度が30以上35以下である、有機薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記第2電極の前記第1面と対向する第2面は、JIS Z 8741で規定された入射角60°の測定における光沢度が60以上65以下である、請求項7に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項9】
前記第2電極の前記第1面と反対側の第2面は、スルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する修飾材で修飾されている、請求項7又は8に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項10】
前記第1電極の前記有機活性層側の面は、シリルエーテル基、カルボン酸基又はホスホン酸基を有する修飾材で修飾されている、請求項7~9のいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池の製造方法及び有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、設置箇所への制限が少なく、素子の大型化が比較的簡単と言われており、注目されている。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、第1電極と有機活性層と第2電極とを順に積層して得られる。有機薄膜太陽電池の各層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法等のドライプロセス、分散液を用いて塗布するウェットプロセス等で形成される。
【0004】
例えば、特許文献1には、第2電極をウェットプロセスで作製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-236064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機薄膜太陽電池における有機活性層は熱や溶媒によるダメージを受けやすい。例えば、有機活性層上に電極を蒸着すると、蒸着時の熱によって有機活性層はダメージを受ける。また例えば、有機活性層上にウェットプロセスで電極を塗布すると、塗布液に含まれる溶媒によって有機活性層はダメージを受ける。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、貼り合わせを用いた有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法は、基板に第1電極と有機活性層とが順に積層された第1積層体を準備する、第1積層工程と、被覆層に第2電極を積層した第2積層体を準備する、第2積層工程と、前記第1積層体の前記有機活性層と前記第2積層体の前記第2電極とを、熱圧着で貼り合わせる、貼り合わせ工程と、を備える。
【0010】
(2)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法において、前記被覆層は、前記有機活性層より融点又はガラス転移点が低いホットメルトシートであってもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法において、前記第2電極の厚みは、20nm以上150nm以下であってもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法において、前記熱圧着の温度は、前記有機活性層の融点又はガラス転移点より低く、前記被覆層の融点又はガラス転移点より高くてもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法において、前記熱圧着の圧力は、80g/cm以上650g/cm以下であってもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法において、前記貼り合わせ工程の前に、前記第2電極をスルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する修飾材で、表面修飾する工程をさらに備えてもよい。
【0015】
(7)第2の態様にかかる有機薄膜太陽電池は、第1電極と、有機活性層と、第2電極と、被覆層と、を順に備え、前記第2電極の前記被覆層側の第1面は、JIS Z 8741で規定された入射角60°の測定における光沢度が30以上35以下である。
【0016】
(8)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池において、前記第2電極の前記第1面と対向する第2面は、JIS Z 8741で規定された入射角60°の測定における光沢度が60以上65以下であってもよい。
【0017】
(9)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池において、前記第2電極の前記第1面と反対側の第2面は、スルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する修飾材で修飾されていてもよい。
【0018】
(10)上記態様にかかる有機薄膜太陽電池において、前記第1電極の前記有機活性層側の面は、シリルエーテル基、カルボン酸基又はホスホン酸基を有する修飾材で修飾されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法は、有機活性層へのダメージを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池の斜視図である。
図2】第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法の第1積層工程を説明するための斜視図である。
図3】第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法の第2積層工程を説明するための斜視図である。
図4】第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法の貼り合わせ工程を説明するための斜視図である。
図5】第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池の斜視図及び特徴部分の拡大図である。
図6】第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池の斜視図及び特徴部分の拡大図である。
図7】実施例1、実施例2及び比較例1の有機薄膜太陽電池の電流-電圧曲線(J-V曲線)を示す。
図8】実施例1、実施例3及び実施例4の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の照射時間変化を示す。
図9】実施例1、実施例5及び実施例6の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の照射時間変化を示す。
図10】実施例1、実施例7及び実施例8の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の照射時間変化を示す。
図11】実施例9の有機薄膜太陽電池の電流-電圧曲線(J-V曲線)を示す。
図12】実施例9の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の照射時間変化を示す。
図13】実施例9及び実施例10の有機薄膜太陽電池の電流-電圧曲線(J-V曲線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池の斜視図である。有機薄膜太陽電池1000は、例えば、基板1と第1電極2と有機活性層3と第2電極7と被覆層8とを備える。基板1上には、第1電極2、有機活性層3、第2電極7、被覆層8がこの順に積層されている。
【0023】
基板1は、構造物を支持するものであれば特に限定されない。基板1は、光透過性に優れていることが好ましい。基板1は、例えば、可視光の透過率が90%以上である。また基板1は、フレキシブルであることが好ましい。基板1は、例えば、ガラス、プラスティックフィルム等である。プラスティックフィルムを構成する樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を用いることができる。
【0024】
第1電極2は、例えば、透明電極である。第1電極2は、基板1上にある。第1電極2は、公知のものを適用できる。第1電極2は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、グラフェン等である。
【0025】
有機活性層3は、有機半導体を含む層である。有機活性層3は、第1電極2と第2電極7とに挟まれる。有機活性層3は、例えば、電子捕集層4、発電層5、正孔捕集層6を有する。電子捕集層4と正孔捕集層6とは、発電層5を挟む。電子捕集層4は、例えば、発電層5の第1電極2側にある。正孔捕集層6は、例えば、発電層5の第2電極7側にある。電子捕集層4と正孔捕集層6との位置関係は、第1電極2と第2電極7とのエネルギー準位によって逆転してもよい。例えば、第2電極7が金の場合は、図1に示す関係を満たすが、第2電極7がアルミニウムの場合は、電子捕集層4と正孔捕集層6との位置関係は逆転する。電子捕集層4は電子輸送層、正孔捕集層6は正孔輸送層と呼ばれる場合もある。
【0026】
発電層5は、光を受けて発電する層である。発電層5は、ドナーとアクセプターとを含む。発電層5は、ドナーとアクセプターが混合された層(バルクヘテロ構造)でもよいし、ドナーの層とアクセプターの層とが積層されたもの(積層構造)でもよい。ドナーは光を吸収して励起する。励起した励起子は、ドナーとアクセプターの界面へ移動する。励起子がアクセプターに電子を受け渡すと、ドナーはカチオン(ホール)を生成し、アクセプターはアニオンを生成する。カチオンとアニオンとが異なる電極に向かって流れることで、外部回路に電流が流れる。
【0027】
ドナーは、例えば、p型有機半導体である。ドナーは、公知のものを用いることができる。ドナーは、例えば、共役系重合体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体等である。例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)は共役高分子であり、ドナーとして用いられる。
【0028】
アクセプターは、例えば、n型有機半導体である。アクセプターは、公知のものを用いることができ、非フラーレン系化合物でも、フラーレン系化合物でもよい。フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、[60]PCBM、bis-[60]PCBM、[70]PCBM、bis-[70]PCBM等である。この他、シリルメチル基を有するフラーレン誘導体(SIMEF)等もフラーレン系化合物のアクセプターの一例である。非フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、TTBT系化合物、ITIC系化合物、IDT系化合物、IDTT系化合物、TTCTT系化合物、PPhTQ等である。
【0029】
電子捕集層4は、発電層5で生じた電子を第1電極2に向かって効率的に輸送するために、電子を捕集する層である。電子捕集層4は、公知のものを用いることができる。電子捕集層4は、例えば、金属酸化物、金属窒化物である。電子捕集層4に用いられる酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化タングステン、酸化タンタル、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、ケイ酸ジルコニウムである。電子捕集層4に用いられる窒化物は、例えば、窒化ケイ素である。電子捕集層4は、この他、例えば、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、テルル化カドミウム等を用いることができる。
【0030】
正孔捕集層6は、発電層5で生じた電子を第2電極7に向かって効率的に輸送するために、正孔を捕集する層である。正孔捕集層6は、公知のものを用いることができる。正孔捕集層6は、例えば、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との複合物)である。
【0031】
第2電極7は、導電性を有する材料である。第2電極7は、有機活性層3上にある。第2電極7は、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属、PEDOT:PSSのような有機導電性インクである。
【0032】
第2電極7が金属の場合、第2電極7の第2面7Bは、第1面7Aより光沢がある。当該構成は、後述する製造方法に由来する。第1面7Aは第2電極7の被覆層8側の面であり、第2面7Bは第2電極7の有機活性層3側の面である。
【0033】
第2面7Bは、光沢面である。第2面7Bは、主として、(111)面が露出することで光沢を有する。「主として、(111)面が露出している」とは、異なる任意の10測定点で結晶面を測定した際に、第2面7Bの50%以上が(111)配向していることを意味する。第2面7Bの光沢度は、60以上65以下である。光沢度は、JIS Z 8741規定に準拠し、入射角60°で測定した値である。光沢度は、例えば、スガ試験機株式会社製の光沢測定器(GC-1、UGV-6P)等で測定できる。
【0034】
第1面7Aは、非光沢面であり、第2面7Bよりくすんで見える。第1面7Aは、主として、(111)面が露出していない。第1面7Aの光沢度は、30以上35以下である。
【0035】
第2電極7の厚みは、例えば、20nm以上150nm以下である。第2電極7の厚みは、100nm以下であることが好ましく、30nm以上60nm以下であることがより好ましい。第2電極7の厚みが十分薄いと、後述する貼り合わせ工程において、第2電極7の有機活性層3に対する追従性が高まる。
【0036】
被覆層8は、第2電極7上にある。被覆層8は、有機活性層3への水分等の侵入を防ぐとともに、有機活性層3の汚染を防ぐ。
【0037】
被覆層8は、樹脂シートである。被覆層8は、例えば、フッ素樹脂又はポリエステル系樹脂(例えば、PET)である。被覆層8、例えば、有機活性層3(特に発電層5)より融点又はガラス転移点が低いホットメルトシートである。後述する貼り合わせ工程において、被覆層8が熱圧着で溶融することで、第2電極7の有機活性層3に対する追従性が高まる。
【0038】
被覆層8は、ロックウェル硬度(D-785)がR115以下であることが好ましい。被覆層8が十分柔らかいことで、被覆層8及び第2電極7の有機活性層3に対する追従性が高まる。
【0039】
被覆層8の厚さは、例えば、100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。当該厚さは、熱圧着後の厚さである。被覆層8が十分柔軟性を有することで、第2電極7の有機活性層3に対する追従性が高まる。
【0040】
次いで、第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100の製造方法について説明する。第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100の製造方法は、第1積層工程と第2積層工程と貼り合わせ工程とを有する。
【0041】
図2は、第1積層工程を説明するための模式図である。第1積層工程では、第1積層体10を準備する。第1積層体10は、基板1上に、第1電極2、有機活性層3を順に積層することで作製される。第1電極2は、例えば、真空蒸着等で成膜できる。有機活性層3は、例えば、コーティングにより形成できる。第1電極2及び有機活性層3は、公知の方法で作製できる。
【0042】
図3は、第2積層工程を説明するための模式図である。第2積層工程では、第2積層体20を準備する。第2積層体20は、被覆層8上に、第2電極7を成膜して作成される。第2電極7は、例えば、真空蒸着、塗布で作製できる。例えば、被覆層8上に、金を真空蒸着することで、第2電極7を作製できる。また例えば、被覆層8上に、1,2-ジメトキシエタンで希釈した銀ペーストを塗布、焼成して、第2電極7を作製する。
【0043】
第2電極7を被覆層8上に成膜すると、第2電極7の第2面7Bが露出する。第2電極7は、(111)面が露出するように成長し、第2面7Bが光沢面となる。
【0044】
図4は、貼り合わせ工程を説明するための模式図である。貼り合わせ工程では、第1積層体10と第2積層体20とを貼り合わせる。第1積層体10と第2積層体20は、第1積層体10の有機活性層3と第2積層体20の第2電極7とが向き合うように貼り合わせる。貼り合わせは、熱圧着で行う。
【0045】
熱圧着は、例えば、有機活性層3(特に発電層5)の融点又はガラス転移点より低い温度で行う。また熱圧着は、被覆層8の融点又はガラス転移点より高い温度で行うことが好ましい。例えば、熱圧着の温度は、130℃以上180℃以下とすることが好ましく、140℃以上150℃以下とすることがより好ましい。当該温度域で熱圧着を行うことで、第1積層体10と第2積層体20との密着を確保する共に、有機活性層3へのダメージを抑制できる。
【0046】
熱圧着の圧力は、例えば、80g/cm以上650g/cm以下で行う。熱圧着の圧力は、例えば、80g/cm以上325g/cm以下がより好ましい。圧力が高すぎると、有機薄膜太陽電池100の性能が低下する傾向にある。圧力が低すぎると、第2電極7の有機活性層3への追従性が低下する。
【0047】
熱圧着の圧着時間は、例えば1分以上である。圧着時間は、3分以上10分以下が好ましく、4分以上6分以下がより好ましい。圧着時間が短いと有機薄膜太陽電池100の性能が低下する傾向にあり、圧着時間が長いと有機薄膜太陽電池100の安定性が低下する傾向にある。
【0048】
熱圧着を行うと、有機活性層3の表面に第2電極7が密着し、有機薄膜太陽電池100が得られる。
【0049】
第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100は、有機活性層3上に第2電極7を成膜しないため、有機活性層3へのダメージを低減できる。また第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100は、貼り合わせという簡便な方法で作製することができる。
【0050】
「第2実施形態」
図5は、第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101の斜視図及び特徴部分の拡大図である。第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101は、第2電極7の第2面7Bが修飾材で修飾されている点が、第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100と異なる。第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101において、第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100と同様の構成には同様の符号を付し、説明を省く。
【0051】
第2電極7の第2面7Bは、修飾材で修飾されている。修飾材は、スルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する。修飾材は、一端に結合性部位を有し、他端に機能性部位を有する。スルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基は、結合性部位として機能する。結合性部位は、例えば第2電極7の表面に化学吸着し、自己組織化単分子膜を形成する。第2電極7が金で、第2面7Bが(111)面であると、自己組織化単分子膜が特に均質に形成される。修飾材は、例えば、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)である。
【0052】
第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101は、貼り合わせ工程の前に第2電極7の表面を表面修飾する点を除き、第1実施形態に係る有機薄膜太陽電池100と同様の方法で行うことができる。第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101の製造方法は、貼り合わせ工程の前に、第2電極7をスルフィド基、ジスルフィド基又はチオール基を有する修飾剤で、表面修飾する工程をさらに備える。
【0053】
第2電極7の第2面7Bは、第2積層体20を積層後貼り合わせ工程の前に表面修飾される。第2電極7を有機活性層3上に真空製膜する場合は、当該面を修飾材で被覆することはできない。表面修飾は、例えば、修飾材を含む溶液を第2電極7の第2面7Bに塗布して行う。例えば、溶液の溶媒は、エタノールである。
【0054】
その後、貼り合わせ工程で、第2電極7と有機活性層3とが貼り合わされる。第2電極7の第2面7Bに露出した修飾材の機能性部位は、有機活性層3と結合する。例えば、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)は、正孔注入促進の効果を有する。
【0055】
第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101は、有機活性層3上に第2電極7を成膜しないため、有機活性層3へのダメージを低減できる。また第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101は、貼り合わせという簡便な方法で作製することができる。また第2電極7の第2面7Bを表面修飾することで、有機薄膜太陽電池101の短絡電流密度、エネルギー変換効率(PCE)が向上する。
【0056】
「第3実施形態」
図6は、第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102の斜視図及び特徴部分の拡大図である。第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102は、第1電極2の第1面2Aが修飾材で修飾されている点が、第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101と異なる。第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102において、第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101と同様の構成には同様の符号を付し、説明を省く。
【0057】
第1電極2の第1面2Aは、修飾材で修飾されている。第1面2Aは、第1電極2の有機活性層3側の面である。第2面2Bは、第1電極2の基板1側の面である。
【0058】
第1面2Aを修飾する修飾材は、シリルエーテル基、カルボン酸基又はホスホン酸基を有する。修飾材は、一端に結合性部位を有し、他端に機能性部位を有する。シリルエーテル基、カルボン酸基又はホスホン酸基は、結合性部位として機能する。結合性部位が第1電極2と結合すると、修飾材は自己組織化単分子膜となる。例えば、第1電極2がITOの場合、第1電極2のチタン元素と修飾材の機能性部位とが結合する。修飾材は、例えば、ポリエチレンイミン(PEIE)、トリフェニル(4-スルホナトブチル)ホスホニウム(TPPBS)である。
【0059】
第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102は、有機活性層3を成膜前に、第1電極2の表面を表面修飾する点を除き、第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池101と同様の方法で行うことができる。第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102の製造方法は、有機活性層3を成膜前に、第1電極2をシリルエーテル基、カルボン酸基又はホスホン酸基を有する修飾剤で、表面修飾する工程をさらに備える。表面修飾は、例えば、修飾材を含む溶液を第1電極2の第1面2Aに塗布して行う。
【0060】
第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102は、有機活性層3上に第2電極7を成膜しないため、有機活性層3へのダメージを低減できる。また第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池102は、貼り合わせという簡便な方法で作製することができる。また第1電極2の第1面2Aを表面修飾することで、有機薄膜太陽電池102の短絡電流密度、エネルギー変換効率(PCE)が向上する。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0062】
(実施例1)
まず第1積層体10を作製した。第1積層体10は、市販されている第1電極2が成膜された基板1上に、電子捕集層4、発電層5、正孔捕集層6を順に積層して作製した。基板1は、ガラスを用いた。第1電極2は、ITOを用いた。電子捕集層4は、酸化亜鉛を用いた。発電層5は、ドナーとしてポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)、アクセプターとして[60]PCBMを用いた。発電層5は、バルクヘテロ構造である。
【0063】
次いで、第2積層体20を作成した。第2積層体20は、被覆層8上に、第2電極7を積層して作製した。被覆層8は、セレール(登録商標)F1550H(クレハエクストロン株式会社製)を用いた。第2電極7は、5×10-3Paで金を蒸着させた。第2電極7の膜厚は、60nmとした。
【0064】
次いで、第1積層体10と第2積層体20とを150℃で熱圧着した。圧着時間は、5分、圧力は325/cmとした。第1積層体10と第2積層体20とを貼り合わせることで、有機薄膜太陽電池100を作製した。有機薄膜太陽電池100の受光面の面積は、0.1cmとした。
【0065】
作製した有機薄膜太陽電池100の電流-電圧曲線(J-V曲線)を測定した。電流-電圧曲線は、株式会社エーディーシー、4262multi-meterを用いて測定した。測定結果を図7に示す。
【0066】
また電流-電圧曲線からエネルギー変換効率(PCE)を求めた。実施例1のエネルギー変換効率は、2.6%であった。PCEは、最大出力点における電流密度をJmax、電圧をVmaxとし、照射光のエネルギーをPincとした際に、次式から求められる。
PCE(%)=(Jmax×Vmax)/Pinc×100
【0067】
(実施例2)
実施例2は、第2電極7を塗布で作製した銀とした点が実施例1と異なる。実施例2は、1,2-ジメトキシエタンで希釈した銀ペーストを、被覆層8上に塗布し、80℃で2分間焼成することで、第2電極7を作製した。
【0068】
実施例2についても、実施例1と同様に電流-電圧曲線を求め、エネルギー変換効率(PCE)を求めた。測定結果を図7に示す。実施例1のエネルギー変換効率は、2.5%であった。
【0069】
(比較例1)
比較例1は、基板1上に、第1電極2、電子捕集層4、発電層5、正孔捕集層6、第2電極7、被覆層8を順に積層した点が、実施例1と異なる。各層の材料は、実施例1と同様にした。第2電極7は、正孔捕集層6上に真空蒸着で金を成膜した。
【0070】
比較例1についても、実施例1と同様に電流-電圧曲線を求め、エネルギー変換効率(PCE)を求めた。測定結果を図7に示す。比較例1のエネルギー変換効率は、3.0%であった。
【0071】
貼り合わせで作製した実施例1及び2の係る有機薄膜太陽電池は、順次成膜して作製した比較例1と同等の性能を示していた。すなわち、貼り合わせという簡便な方法でも、順次成膜の場合と同等の性能を示した。
【0072】
(実施例3、4)
実施例3、4は、第2電極7の膜厚を変更した点が実施例1と異なる。実施例3は、第2電極7の膜厚を30nmとした。実施例4は、第2電極7の膜厚を120nmとした。
【0073】
そして、実施例1、実施例3及び実施例4の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の時間変化を測定した。エネルギー変換効率の時間変化は、有機薄膜太陽電池に基準状態(AM1.5全天放射スペクトル、100mWcm-2)の光を照射し続けた際のエネルギー変換効率の時間変化である。その結果を、図8に示す。
【0074】
第2電極7の膜厚が厚い実施例4は、実施例1及び実施例3と比較して、エネルギー変換効率が低下しやすい傾向にあった。これは貼り合わせ工程において、厚い第2電極7が有機活性層3の表面に十分追従せず、密着が不十分であったためと考えられる。
【0075】
(実施例5、6)
実施例5、6は、貼り合わせ工程の圧着時間を変更した点が実施例1と異なる。実施例5は、圧着時間を3分とした。実施例6は、圧着時間を10分とした。
【0076】
そして上記と同様に、実施例1、実施例5及び実施例6の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の時間変化を測定した。その結果を、図10に示す。
【0077】
圧着時間の短い実施例5は、実施例1と比較して、エネルギー変換効率が低下しやすい傾向にあった。これは貼り合わせ工程において、第2電極7と有機活性層3との密着が不十分であったためと考えられる。また圧着時間が長い実施例6も、実施例1と比較して、エネルギー変換効率の低下が早かった。
【0078】
(実施例7、8)
実施例7、8は、貼り合わせ工程の圧着圧力を変更した点が実施例1と異なる。実施例7は、圧着圧力を80/cmとした。実施例8は、圧着圧力を650/cmとした。
【0079】
そして上記と同様に、実施例1、実施例7及び実施例8の有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の時間変化を測定した。その結果を、図11に示す。
【0080】
実施例7は、実施例1と比較しても、初期のエネルギー変換効率が高く、エネルギー変換効率の低下率が小さかった。他方、圧着圧力の大きい実施例8は、エネルギー変換効率の時間変化が大きかった。
【0081】
(実施例9)
実施例9は、有機薄膜太陽電池の受光面の面積を1.0cmとし、実施例1の10倍とした点が実施例1と異なる。
【0082】
実施例9においても、上記と同様に、電流-電圧曲線及びエネルギー変換効率の時間変化を測定した。実施例9の電流-電圧曲線を図12に示し、実施例9のエネルギー変換効率の時間変化を示す。実施例9のエネルギー変換効率の時間変化は、100時間に亘って測定した。実施例9のエネルギー変換効率は2.3%であり、実施例1と同等であった。また実施例9の100時間経過後のエネルギー変換効率は、最大値の98%であり、エネルギー変換効率を維持していた。
【0083】
(実施例10)
実施例10は、第2電極7の第2面7Bを表面修飾した点が実施例9と異なる。表面修飾は、ペンタフルオロベンゼンチオールを含むエタノールを第2電極7の表面に塗布し、5分放置することで行った。
【0084】
実施例10においても、上記と同様に、電流-電圧曲線及びエネルギー変換効率を測定した。実施例10の電流-電圧曲線及びエネルギー変換効率を図13に示す。実施例10のエネルギー変換効率は2.5%であり、第2面7Bが表面修飾されていない実施例9と比較して向上していた。電極を修飾することで、短絡電流密度が向上し、結果的にエネルギー変換効率が向上したものと考えられる。
【符号の説明】
【0085】
1…基板、2…第1電極、3…有機活性層、4…電子捕集層、5…発電層、6…正孔捕集層、7…第2電極、8…被覆層、10…第1積層体、20…第2積層体、2A,7A…第1面、2B,7B…第2面、100,101,102…有機薄膜太陽電池
図1
図2
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