(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173604
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】褥瘡予防シーツ
(51)【国際特許分類】
A61G 7/057 20060101AFI20231130BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20231130BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20231130BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A61G7/057
A47G9/02 P
D04B21/16
D04B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085964
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】393018358
【氏名又は名称】福井経編興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【弁理士】
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【弁理士】
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】高木 義秀
(72)【発明者】
【氏名】坂井 香菜
(72)【発明者】
【氏名】四谷 淳子
【テーマコード(参考)】
3B102
4C040
4L002
【Fターム(参考)】
3B102BA11
4C040AA01
4C040GG01
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AB05
4L002AC00
4L002CA00
4L002CA01
4L002EA00
4L002EA03
4L002FA00
(57)【要約】
【課題】ハンモック現象が生じることを抑制すると共に、身体との擦れによる皮膚の炎症も抑制することができる褥瘡予防シーツを提供すること。
【解決手段】本発明は、体圧を分散可能なマットレス2に用いられる褥瘡予防シーツ1であって、経糸を用いて編目を作り、該編目同士を連綴させて編成した経編地であり、JIS L1096A法に準拠して測定した、たて方向及びよこ方向の伸び率が何れも25%以上であり、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した単位面積当たりの吸湿速度が200μg/cm
2・min以下であり、単位面積当たりの放湿速度が200μg/cm
2・min以下である褥瘡予防シーツ1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体圧を分散可能なマットレスに用いられる褥瘡予防シーツであって、
経糸を用いて編目を作り、該編目同士を連綴させて編成した経編地であり、
JIS L1096A法に準拠して測定した、たて方向及びよこ方向の伸び率が何れも25%以上であり、
ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した単位面積当たりの吸湿速度が200μg/cm2・min以下であり、単位面積当たりの放湿速度が200μg/cm2・min以下である褥瘡予防シーツ。
【請求項2】
ずれ力評価方法によるずれ力が、綿糸により織成されたシーツのずれ力より小さい請求項1記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項3】
摩擦力評価方法による摩擦力が、綿糸により織成されたシーツの摩擦力より小さい請求項1記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項4】
前記経編地のCPIが20~200本であり、
前記経糸の繊度が11~220Tであり、
前記経糸のフィラメント数が200本以下である請求項1記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項5】
前記経糸が、第1経糸及び第2経糸からなり、
前記第1経糸が、未加工糸であり、
前記第2経糸が、ウーリー糸である請求項1記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項6】
ニードルループ及びシンカーループを有し、
前記シンカーループ側が肌に触れる面であり、
前記シンカーループが前記第1経糸により編成されたものである請求項5記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項7】
前記経糸が、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを複合して形成されたものである請求項1記載の褥瘡予防シーツ。
【請求項8】
前記経糸が、リサイクルされたリサイクル糸である請求項1~7のいずれか1項に記載の褥瘡予防シーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡予防シーツに関し、更に詳しくは、所定のマットレスに用いられ、褥瘡となることを予防するための褥瘡予防シーツに関する。
【背景技術】
【0002】
ベッドでの生活を余儀なくされる入院患者に発生する褥瘡(床ずれ)を予防することは、看護ケアにおける長年の課題となっている。
ここで、日本褥瘡学会においては、褥瘡について「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」と定義してる。
【0003】
このような褥瘡を予防する方法の一つとして、身体が沈み込む際に、身体による荷重を分散させて、体圧を低減させる性能を有するマットレスが開発され、現在においては市販されている。
【0004】
ところで、マットレスには、通常、肌触りの向上、マットレスの汚れ防止等の観点から、マットレス用シーツ(以下単に「シーツ」という。)が取り付けられる。
かかるシーツの素材としては、綿、麻、絹等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維が挙げられるが、吸汗性の観点から、天然繊維の織地(織物)が主に採用されている。
【0005】
ところが、通常のシーツは、伸縮性が乏しいという欠点がある。特に天然繊維からなる織地のシーツは伸縮性が極めて乏しい。このため、シーツをマットレスに取り付けた状態で、これに身体を沈み込ませようとした場合、
図6に示すように、シーツ41がマットレス42の変形に十分に追従しないため、身体がシーツ41に吊られたような状態(以下「ハンモック現象」という。)となる。
その結果、身体とマットレス42との接触面積が減るため、体圧が十分に分散されず、むしろ局所的に体圧が高まってしまうという事態が生じ得る。すなわち、シーツ41によるハンモック現象が生じることにより、マットレス42による体圧分散効果が妨げられることになる。
【0006】
一方で、褥瘡予防という観点ではないが、伸縮性を有するシーツが開発されている。
例えば、伸縮性に乏しい織物布地により形成され、マットレスの上面の全体を覆う表面部を有するシーツ本体部と、伸縮材により形成され、シーツ本体部の長手方向の両端側の縁部に縫着された伸縮面部とを有するマットレス用シーツが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
また、長方形の寝具の上面を覆う織物生地からなる織物部と、寝具の端部下面を覆う伸縮部材からなる2つの伸縮部と、を備えるシーツが知られている(例えば、特許文献4参照)。
また、マットレス、布団等よりなる第1の寝具と、該第1の寝具上に敷かれる褥瘡防止のための第2の寝具とを包み込むとともに、上記第1及び第2の寝具を収容するための開口部を下面側に有する袋状に形成されてなり、上記開口部周縁に開口の大きさを縮小する方向の引張力を付与する引張手段が設けられてなる寝具カバーが知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】登録実用新案第3202979号公報
【特許文献2】特開2013-52072号公報
【特許文献3】特開2010-273828号公報
【特許文献4】登録実用新案第3226582号公報
【特許文献5】登録実用新案第3079706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1~5に記載のシーツは、全体としては伸縮性を有するため、ハンモック現象が生じることを一応抑制することができるものの、身体が直接接触する部分の生地は、伸縮性が劣るため、身体が沈み込む際のシーツと身体(衣服)との間の擦れにより、結果的に皮膚に炎症を引き起こす恐れがある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ハンモック現象が生じることを抑制すると共に、身体との擦れによる皮膚の炎症も抑制することにより褥瘡を予防することができる褥瘡予防シーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、生地として経編地を採用し、且つ、これの伸び率、吸湿速度及び放湿速度を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、体圧を分散可能なマットレスに用いれられる褥瘡予防シーツであって、経糸を用いて編目を作り、該編目同士を連綴させて編成した経編地であり、JIS L1096A法に準拠して測定した、たて方向及びよこ方向の伸び率が何れも25%以上であり、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した単位面積当たりの吸湿速度が200μg/cm2・min以下であり、単位面積当たりの放湿速度が200μg/cm2・min以下である褥瘡予防シーツである。
【0012】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、ずれ力評価方法によるずれ力が、綿糸により織成されたシーツのずれ力より小さいことが好ましい。
また、本発明の褥瘡予防シーツにおいては、摩擦力評価方法による摩擦力が、綿糸により織成されたシーツの摩擦力より小さいことが好ましい。
【0013】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経編地のCPIが20~200本であり、経糸の繊度が11~220Tであり、経糸のフィラメント数が200本以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経糸が、第1経糸及び第2経糸からなり、第1経糸が、未加工糸であり、第2経糸が、ウーリー糸であることが好ましい。
【0015】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、ニードルループ及びシンカーループを有し、シンカーループ側が肌に触れる面であり、シンカーループが第1経糸により編成されたものであることが好ましい。
【0016】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経糸が、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを複合して形成されたものであることが好ましい。
【0017】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、糸が、リサイクルされたリサイクル糸であることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の目的に沿ったものであれば、上述した事項を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、従来一般に用いられる織地よりも伸縮性に優れる経編地を生地として採用し、且つ、JIS L1096A法に準拠して測定した伸び率が上記範囲内となるように、材質、組織等を調整して編成することにより、ハンモック現象が生じることを抑制することが可能となる。すなわち、褥瘡予防シーツをマットレスに取り付けた状態で、これに身体を沈み込ませようとした場合、マットレスに沈み込む際の身体に、褥瘡予防シーツを極力追従させることができ、マットレスの復元時にもこれに追従させることができる。
ちなみに、仮に、シーツとして、経編地ではなく、丸編地又は緯編地を採用した場合は、伸びた後の復元力が弱いため、マットレスの復元に十分に追従せず、皴になり易いという欠点がある。また、丸編地又は緯編地は、スナッグが起きると、伝線し易いという欠点もある。
【0020】
また、上記褥瘡予防シーツにおいては、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した単位面積当たりの吸湿速度及び放湿速度が上記範囲内となるように、材質、組織等を調整して編成することにより、汗等の水分を速やかに吸湿し、且つ、速やかに当該水分を放湿することができる。その結果、身体との擦れによる皮膚の炎症を防止することができる。なお、皮膚を過度に蒸れた状態とすることは、褥瘡になり易くなる要因の一つであるため、蒸れの度合いが所定の範囲になるように調整することにより、褥瘡になることを抑制することができる。
したがって、たて方向及びよこ方向の伸び率並びに吸湿速度及び放湿速度が共に上記範囲内である褥瘡予防シーツによれば、体圧分散マットレスによる体圧分散の効果を阻害せず、身体との擦れによる皮膚の炎症が生じることも抑制できるため、褥瘡予防効果を十分に発揮することが可能となる。
【0021】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、そのずれ力を、綿織物のずれ力よりも小さくなるように、材質、組織等を調整して編成することにより、背上げ時や体を動かす際に、皮膚の表面と皮膚の内部とが互い違いになることで、いわゆる「ずれ」が生じることを抑制することができる。これにより、皮膚の炎症をより十分に抑制することが可能となる。
【0022】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、その摩擦力を、綿織物の摩擦力よりも小さくなるように、材質、組織等を調整して編成することにより、褥瘡予防シーツと身体表面との間で生じる擦れを軽減することができる。これにより、皮膚の炎症をより十分に抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経編地のCPI、経糸の繊度、及び、経糸のフィラメント数を上記範囲内とすることにより、上述した伸び率やずれ力を維持しつつ、いわゆるピリングやスナッグが発生し難くなる。その結果、シーツとしての耐久性が優れるものとなる。
【0024】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経糸を、第1経糸及び第2経糸からなるものとし、第1経糸として未加工糸、第2経糸としてウーリー糸を採用することにより、強度が向上すると共に、肌触りも優れるものとなる。
このとき、シンカーループ側が肌に触れる面とし、そのシンカーループが第1経糸となるように編成することにより、肌触りがより優れるものとなる。
【0025】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、経糸として、ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリトリメチレンテレフタレート樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを複合して形成したものを採用することにより、十分な伸縮性及び強度を発揮することができるだけでなく、洗濯による寸法安定性にも優れるものとなる。
【0026】
本発明の褥瘡予防シーツにおいては、糸として、リサイクル糸を採用することにより、環境負荷を持続的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る褥瘡予防シーツと、それが取り付けられる体圧分散マットレスとを示す斜視図である。
【
図2】
図2の(a)は、本実施形態に係る褥瘡予防シーツを表側から示す図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
【
図3】
図3は、ずれ力評価方法を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、摩擦力評価方法を説明するための説明図である。
【
図5】
図5の(a)~(c)は、本実施例のサンプルを作成するための組織図である。
【
図6】
図6は、ハンモック現象を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0029】
本発明に係る褥瘡予防シーツは、体圧を分散可能なマットレス(以下「体圧分散マットレス」という。)に敷設して用いられる。
ここで、体圧分散マットレスは、具体的には、JIS T9256-2に準拠して測定した過荷重時静止形体圧低減の評価値比率が100%以下であるマットレスが好適に用いられる。
【0030】
体圧分散マットレスのサイズは、シングルサイズ、セミダブルサイズ、ダブルサイズ等の何れであってもよい。
体圧分散マットレスは、ベッド用、電動ベッド(介護用ベッド)用、布団用の何れであってもよい。
なお、これらベッドの背部や脚部の調整可能な範囲(ギャッチアップ)は、背中側が0~75度、膝が0~45度であることが好ましい。
体圧分散マットレスの中材としては、綿(わた)、ウレタンフォーム、ビーズ、スポンジ、樹脂を用いた立体網状構造体、スプリング、パーム繊維、エアー、ウォーター等が挙げられる。これらは、単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。これらの中でも、体圧分散マットレスの中材は、綿(わた)、ウレタンフォーム、ビーズ、及び樹脂を用いた立体網状構造体からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
また、このとき、中材は、切込みを入れる、凹凸模様を設ける等の加工が施されていてもよい。
体圧分散マットレスは、体圧分散性能やベッド追従性を向上させるために、多層構造としてもよい。
【0031】
図1は、本実施形態に係る褥瘡予防シーツと、それが取り付けられる体圧分散マットレスとを示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る褥瘡予防シーツ1は、いわゆるフラットシーツであり、体圧分散マットレス2の上面に敷設されるようになっている。すなわち、褥瘡予防シーツ1は、身体と体圧分散マットレスと間に配置される。
褥瘡予防シーツ1のサイズは、特に限定されないが、体圧分散マットレスを十分に覆うことができるサイズであることが好ましい。
なお、かかる褥瘡予防シーツ1は、体圧分散マットレス2に取り付けるためのゴム、面ファスナー、ボタン等の取付具(図示しない)が適所に設けられていてもよい。
【0032】
褥瘡予防シーツ1としては、経糸を用いて編目を作り、該編目同士を連綴させて編成した経編地を採用している。
したがって、褥瘡予防シーツ1は、織地と比較すると、伸縮性が優れる。
一方で、丸編地又は緯編地と比較すると、伸縮性は劣るものの、伸びた後の復元力が優れる。また、スナッグが起きても伝線が生じ難い。
これらのことから、経編地である褥瘡予防シーツ1は、体圧分散マットレスに十分に追従することができ、ハンモック現象を抑制できる可能性がある。
【0033】
褥瘡予防シーツ1は、経編地のCPIが20~200本であることが好ましく、40~100本であることがより好ましく、60~85本であることが更に好ましい。なお、CPIとは、1インチ当たりのコース数である。
CPIが20本未満であると、CPIが上記範囲内にある場合と比較して、伸びた際の隙間が大きくなるため、汗等が褥瘡予防シーツ1を通過して体圧分散マットレスに浸透する恐れがあり、CPIが200本を超えると、CPIが上記範囲内にある場合と比較して、伸縮に対する抵抗が大きくなるため、体圧分散マットレスに十分に追従しない場合が生じ得る。
【0034】
褥瘡予防シーツ1は、経糸の繊度が11~220Tであることが好ましく、22~167Tであることがより好ましく、33~56Tであることが更に好ましい。なお、単位Tは、デシテックス(dtex)と同義である。
経糸の繊度が11T未満であると、繊度が上記範囲内にある場合と比較して、繰り返し伸縮した場合、疲労破壊が生じ、ピリングやスナッグが生じ易くなる恐れがあり、経糸の繊度が220Tを超えると、繊度が上記範囲内にある場合と比較して、重量が大きくなるため、取り扱い性が劣る欠点がある。
【0035】
褥瘡予防シーツ1は、経糸のフィラメント数が200本以下であることが好ましく、6~200本であることがより好ましく、6~144本であることがより一層好ましく、12~48本であることが更に好ましい。
経糸のフィラメント数が200本を超えると、フィラメント数が上記範囲内にある場合と比較して、風合いが柔らかくなり過ぎて、ピリングが生じ易くなる欠点がある。
なお、経糸のフィラメント数が12本未満であると、風合いが硬くなるため、肌触りが悪いと感じる場合がある。
【0036】
褥瘡予防シーツ1においては、上述した、CPI、繊度、フィラメント数が全て上記範囲内となるように調整することで、経編地であっても耐久性に優れたシーツとしての機能を十分に発揮することが可能となる。
特に、褥瘡予防シーツ1においては、経編地のCPIが60~85本である場合、繊度が33~84Tであり、フィラメント数が12~48本であることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る褥瘡予防シーツ1は、2枚の筬を用いて編成される。このため、褥瘡予防シーツ1は、各筬に、異なるタイプの経糸を用いて編成することが可能となっている。なお、異なるタイプの経糸を用いて編成することにより、褥瘡予防シーツ1は、各経糸に基づく特性を有するものとなる。
具体的には、褥瘡予防シーツ1においては、第1経糸として未加工糸を用い、第2経糸としてウーリー糸を用いている。
そして、これらは、それぞれが別の筬に投入され、経編が編成される。
【0038】
ここで、第1経糸における未加工糸とは、フィラメントを集束し、特別な加工を施さないで製造した糸を意味する。
一方、第2経糸におけるウーリー糸とは、フィラメントを集束し、仮撚り機等で仮撚りを施して製造した糸を意味する。
このように、褥瘡予防シーツ1においては、第1経糸として未加工糸を採用し、第2経糸としてウーリー糸を採用しているので、伸縮性と肌触りのバランスが優れるものとなる。
【0039】
図2の(a)は、本実施形態に係る褥瘡予防シーツを表側から示す図であり、(b)は、(a)の拡大図である。
図2の(a)及び(b)に示すように、褥瘡予防シーツ1は、一方の筬を用いて編成されたシンカーループ1aと、他方の筬を用いて編成されたニードルループ1bとを有している。なお、
図2の(a)及び(b)においては、便宜的に、シンカーループ1aは着色して示し、ニードルループ1bは白抜きで示している。
そして、褥瘡予防シーツ1においては、表側のシンカーループ1aが肌に触れる面側となり、裏側のニードルループ1bが体圧分散マットレスに触れる面側となるように配置される。
【0040】
褥瘡予防シーツ1は、シンカーループ1aが第1経糸となるように編成され、ニードルループ1bが第2経糸となるように編成される。
すなわち、褥瘡予防シーツ1においては、肌に触れる面側のシンカーループ1aを、未加工糸である第1経糸とすることにより、肌触りが優れるものとなる。
また、褥瘡予防シーツ1においては、身体が沈み込み際に褥瘡予防シーツ1は側面視でV字状となるので、より伸縮性を要する体圧分散マットレスに触れる面側のニードルループ1bを、ウーリー糸である第2経糸とすることにより、褥瘡予防シーツ1の伸縮性が担保されると共に、体圧分散マットレスへの追従性も優れるものとなる。
【0041】
褥瘡予防シーツ1において、経糸(第1経糸及び第2経糸)の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂で形成されたものが好適に用いられる。
これらの中でも、洗濯堅牢度の観点から、ポリエステル樹脂で形成されたものであることが好ましく、伸縮性、強度及び洗濯堅牢度の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)と、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)又はポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とを複合して形成されたものであることがより好ましい。
また、経糸が、リサイクルされたリサイクル糸であることが好ましい。この場合、環境負荷を持続的に低減することができる。
【0042】
褥瘡予防シーツ1は、JIS L1096A法に準拠して測定したたて方向及びよこ方向の伸び率が何れも25%以上であり、25~230%であることが好ましく、25~160%であることがより好ましく、60~140%であることが更に好ましい。なお、たて方向の伸び率とよこ方向の伸び率とは同じ値であっても異なる値であってもよい。
伸び率が25%未満であると、ハンモック現象が生じる恐れがある。なお、伸び率が230%を超えると、マットレスの復元に十分に追従できない場合がある。また、伸び率が160%を超えると、洗濯収縮し易くなるという欠点がある。
また、よこ方向の伸び率は、たて方向の伸び率よりも大きいことが好ましい。一般に、就寝時の動き(寝返り等)は横方向で行われるため、よこ方向の伸び率をたて方向の伸び率よりも大きくすることで、ハンモック現象が生じ難い伸び率の範囲の中で、たてよこの伸び率をバランスがとれたものとすることができる。
【0043】
ここで、「ずれ力評価方法」について説明する。
図3は、ずれ力評価方法を説明するための説明図である。
本明細書において、いわゆる「ずれ」とは、例えば、
図3に示すように、背上げ時に、被験者11の体重(64kg)が下向きに付与されるのに対し、上体を起こす動作はシーツ等により上向きの力が付与されるため、皮膚の表面と皮膚の内部とで互い違いのずれの力が付与されることを意味する。
そして、「ずれ力評価方法」においては、被験者11の背中の肩甲骨に、多軸力覚センサ(図示しない)を貼付して、評価対象のシーツ12上に仰臥させ、電動ベッド13を用いて被験者11を仰臥位(θ=0度)からθ=75度の位置まで一定の速度で約23秒かけて背上げした条件において、多軸力覚センサが出力する圧力値の変化量が「ずれ力」の値となる。
すなわち、ずれ力評価方法により、評価対象のシーツ12のずれ力の値が測定される。
【0044】
なお、多軸力覚センサとしては、例えば、3軸タイプのショッカクチップT40(タッチエンス株式会社製)を採用することができる。
また、電動ベッド13は、背上げの機能を有していれば市販のものを適宜使用すればよく、膝上げ、高さ調整等の機能の有無は問わない。例えば、電動ベッド13としては、メーティス(登録商標)(パラマウントベッド株式会社製)を採用することができる。
また、電動ベッド13のマットレスとしては、上述した体圧分散マットレスが用いられる。
また、圧力値の変化量とは、出力される圧力値の最大値と最小値との差である。
【0045】
褥瘡予防シーツ1は、そのずれ力が、綿糸により織成されたシーツのずれ力よりも小さくなるように、材質、組織等を調整して編成される。これにより、皮膚の炎症を十分に抑制することが可能となる。
また、綿糸により織成されたシーツのずれ力を1とした場合に、褥瘡予防シーツ1のずれ力は、相対比で、0.8以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。
より具体的には、褥瘡予防シーツ1のずれ力は、1.5N未満であることが好ましく、1.2N以下であることがより好ましく、0.825N以下であることが更に好ましい。
【0046】
褥瘡予防シーツ1においては、ずれ力を上記範囲内とすることにより、体圧分散マットレスによる体圧分散の効果を阻害せず、褥瘡予防効果を十分に発揮することができる。
また、その際に、身体との擦れによる皮膚の炎症が生じることも抑制することができる。
【0047】
褥瘡予防シーツ1は、JIS L1096A法に準拠して測定した、たて方向及びよこ方向の引張強さが何れも200N以上であることが好ましく、200~600Nであることがより好ましい。なお、たて方向の引張強さとよこ方向の引張強さとは同じ値であっても異なる値であってもよい。
引張強さが200N未満であると、引張強さが上記範囲内にある場合と比較して、伸縮疲労等により破損する恐れがある。
【0048】
ここで、「摩擦力評価方法」(静止摩擦)について説明する。
図4は、摩擦力評価方法を説明するための説明図である。
本明細書における「摩擦力」は、上述したずれ力とは異なり、皮膚の内部は考慮せず、表面的なものである。但し、より現実に近付けるため、衣服を着用した被検者を想定し、これとシーツとの間の摩擦で生じる力を「摩擦力」としている。
ここで、「摩擦力評価方法」は、
図4に示すように、少なくとも下面を綿糸により織成された布帛(衣服を想定)で被覆した重量1.65kgの加圧板14を、評価対象のシーツ12が敷かれたマットレス2上に載置し、当該加圧板14上に更に10kgの錘15を載置した後、加圧板14を、沈み込んだ位置から水平に引いたときのフォースゲージ(プッシュプルゲージ)16により、評価対象のシーツ12の摩擦力の値が測定される。
【0049】
なお、マットレス2としては、上述した体圧分散マットレスが用いられる。
また、フォースゲージ16としては、市販のものを適宜使用すればよい。例えば、フォースゲージとしては、RZ-50(アイコーエンジニアリング株式会社製)を採用することができる。
【0050】
褥瘡予防シーツ1は、その摩擦力が、綿糸により織成されたシーツの摩擦力よりも小さくなるように、材質、組織等を調整して編成される。これにより、衣服を着用した被検者がベッド上で寝た際の滑り性を適切なものとすることができる。すなわち、上記摩擦力を変化させることにより滑り性を調整することができる。その結果、皮膚の炎症をより十分に抑制することが可能となる。
また、綿糸により織成されたシーツの摩擦力を1とした場合に、褥瘡予防シーツ1の摩擦力は、相対比で、0.9以下であることが好ましく、0.6~0.9であることがより好ましい。
より具体的には、褥瘡予防シーツ1の摩擦力は、68.2N未満であることが好ましく、61.38N以下であることがより好ましく、40.92~61.38Nであることが更に好ましい。
【0051】
褥瘡予防シーツ1は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した25℃80%RHにおける吸湿量が20μg/cm2以上であることが好ましい。
吸湿量が20μg/cm2未満であると、吸湿量が上記範囲内にある場合と比較して、吸汗性が不十分となる恐れがある。
なお、ボーケン規格BQE A034は、試料片(10cm×10cm)を初期ボックス(25℃40%RH)内で調湿後、吸湿ボックス(25℃80%RH)に移動して吸湿に関する物性を測定し、平衡に達した後、初期ボックスに移動して放湿に関する物性を測定したものである。
【0052】
褥瘡予防シーツ1は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した1分経過時の単位面積当たりの吸湿速度が200μg/cm2・min以下であり、1~200μg/cm2・minであることが好ましく、1~30μg/cm2・minであることがより好ましく、10~30μg/cm2・minであることが更に好ましい。
吸湿速度が1μg/cm2・min未満であると、吸湿速度が上記範囲内にある場合と比較して、吸汗性が不十分となる恐れがあり、吸湿速度が200μg/cm2・minを超えると、吸湿速度が上記範囲内にある場合と比較して、シーツがべたつき易いという欠点がある。
【0053】
同様に、褥瘡予防シーツ1は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した1分経過時の単位面積当たりの放湿速度が200μg/cm2・min以下であり、1~200μg/cm2・minであることが好ましく、1~30μg/cm2・minであることがより好ましく、10~30μg/cm2・minであることが更に好ましい。
放湿速度が1μg/cm2・min未満であると、放湿速度が上記範囲内にある場合と比較して、シーツがべたつき易いという欠点があり、放湿速度が200μg/cm2・minを超えると、放湿速度が上記範囲内にある場合と比較して、放湿によりシーツと布団との間が蒸れ易くなるという欠点がある。
【0054】
褥瘡予防シーツ1においては、少なくとも、上述した、たて方向及びよこ方向の伸び率並びに吸湿速度及び放湿速度を上記範囲内とすることにより、体圧分散マットレスによる体圧分散の効果を阻害せず、身体との擦れによる皮膚の炎症が生じることも抑制できるため、褥瘡予防効果を十分に発揮することが可能となる。
また、褥瘡予防シーツ1においては、上述した、吸湿量、吸湿速度及び放湿速度を全て上記範囲内とすることにより、吸汗性及びシーツの肌触り感にも優れることとなり、褥瘡予防シーツ1をより快適なものとすることができる。
【0055】
褥瘡予防シーツ1は、形状記憶加工防水加工、防ダニ加工、抗菌加工、防臭加工、防しわ加工、難燃加工、撥水加工、防汚加工、抗ウイルス加工等が施されていてもよい。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0057】
本実施形態に係る褥瘡予防シーツ1は、フラットシーツであるが、これに限定されず、例えば、ボックスシーツであってもよい。
【0058】
本実施形態に係る褥瘡予防シーツ1は、体圧分散マットレスに対して用いているが、体圧分散効果を期待しないのであれば、体圧分散効果を有さないマットレスに用いることも可能である。
【0059】
本実施形態に係る褥瘡予防シーツ1は、2枚の筬を用いて編成されているが、筬の数は特に限定されない。例えば、複数枚の筬を用いて、複数種類の経糸で編成してもよい。
また、褥瘡予防シーツ1は、経糸が、未加工糸である第1経糸、及び、ウーリー糸である第2経糸からなっているが、経糸の種類及びその数は、これに限定されない。
例えば、第1経糸及び第2経糸が、共に未加工糸であってもよく、共にウーリー糸であってもよい。
また、第1経糸及び第2経糸においては、未加工糸又はウーリー糸の代わりに、紡績糸を用いてもよい。
また、未加工糸である第1経糸、及び、ウーリー糸である第2経糸の他にも、更に、他の経糸を有していてもよい。この場合の他の経糸は、未加工糸、ウーリー糸、紡績糸の何れであってもよい。
【実施例0060】
(実施例1~3)
表1に示す条件下、2枚の筬を用いて経編地のサンプルのシーツを作製した。なお、第1経糸としては未加工糸を用い、第2経糸としてはウーリー糸を用いた。
得られたサンプルのシーツ物性を表2及び表3に示す。
(比較例)
表1に示す条件下、綿糸100%を用いて織地のサンプルのシーツを作製した。
得られたサンプルのシーツ物性を表2及び表3に示す。
【0061】
【0062】
なお、表1中、「ポリエステル」は、PET50%、PTT50%の混合繊維であり、「綿」は、綿100%である。
また、「-」は、未測定を意味する。
【0063】
【0064】
表2中、伸び率は、JIS L1096A法に準拠して測定した値である。
引張強さは、JIS L1096A法に準拠して測定した値である。
吸湿量は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した25℃80%RHおける吸湿量である。
吸湿速度は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した1分経過時の単位面積当たりの吸湿速度である。
放湿速度は、ボーケン規格BQE A034に準拠して測定した1分経過時の単位面積当たりの放湿速度である。
また、「-」は、未測定を意味する。
【0065】
【0066】
表3中、ずれ力実測値は、
図3に示すように、被験者の背中の肩甲骨に、3軸タイプのショッカクチップT40(タッチエンス株式会社製)を貼付して、サンプルのシーツ上に仰臥させ、メーティス(登録商標)(パラマウントベッド株式会社製)を用いて被験者を仰臥位(θ=0度)からθ=75度の位置まで一定の速度で約23秒かけて背上げした条件において、ショッカクチップT40が出力する圧力値の変化量を示したものである。
ずれ力相対値は、比較例1のサンプルのずれ力実測値を1とした場合の相対値である。
摩擦力実測値は、
図4に示すように、少なくとも下面を綿糸により織成された布帛で被覆した重量1.65kgの加圧板14を、サンプルのシーツが敷かれた体圧分散マットレス上に載置し、当該加圧板上に更に10kgの錘を載置した後、加圧板を、沈み込んだ位置から水平に引いたときのRZ-50(アイコーエンジニアリング株式会社製)により測定した摩擦力の値である。
摩擦力相対値は、比較例1のサンプルの摩擦力実測値を1とした場合の相対値である。
また、「-」は、未測定を意味する。
【0067】
(評価)電動ベッドの上に体圧分散マットレスを敷き、サンプルのシーツをセットする。そこに被験者を臥床させ、電動ベッドの背をθ=75度の位置まで一定の速度で約23秒かけて背上げした。
1.背上げした後、5分程度経ってから、ハンモック現象についてシワの出方を以下の基準に基づいて、目視評価を行った。得られた結果を表4に示す。
〇:ハンモック現象が認められない。
△:ハンモック現象が僅かに認められるものの、その影響は限定的である。
×:ハンモック現象が顕著に認められる。
2.背上げした後、5分程度経ってから、滑り性について、被験者の姿勢を以下の基準に基づいて、目視評価を行った。得られた結果を表4に示す。
〇:適度に滑っている。
△:滑っている。
×:滑っていない。
3.触り心地について、以下のように評価を行った。
成人男性4名、成人女性5名を被験者とし、アイマスクを付けて、マットレスの小片に巻き付けたサンプルのシーツを触ってもらい、触ったときの触り心地を以下の基準に基づいて点数を付けてもらった。
6点:非常に触り心地が良い。
5点:触り心地が良い。
4点:やや触り心地が良い。
3点:やや触り心地が悪い。
2点:触り心地が悪い。
1点:非常に触り心地が悪い。
得られた点数の平均値を表4に示す。
なお、表4中、「-」は、評価を行っていないことを意味する。
【0068】
【0069】
表4より、本発明である実施例1~3のサンプルは、本発明ではない比較例1のサンプルと比較して、何れもハンモック現象が軽減でき、滑り性や触り心地にも優れることがわかった。特に、実施例1,2のサンプルは、ハンモック現象が軽減でき、且つ、滑り性にもより優れることがわかった。なお、実施例1,2のサンプルにおいては、被験者による触り心地の評価は行っていないが、実施例3のサンプルの触り心地と同等であった。
これらのことから、本発明に係る褥瘡予防シーツによれば、ハンモック現象が生じることを抑制できると共に、身体との擦れも軽減できることが確認された。