(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173610
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】超音波診断装置、駆動信号生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085974
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修平
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE04
4C601HH05
4C601HH07
4C601HH11
4C601HH22
4C601HH25
4C601KK12
4C601KK15
4C601KK24
(57)【要約】
【課題】超音波探触子の周波数応答特性を維持しつつ、送信電圧を変化させることができる超音波診断装置、駆動信号生成方法、およびプログラムを提供する。
【解決手段】超音波振動子を駆動する駆動パルス信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定する波形決定部と、決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する駆動信号生成部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子を駆動する駆動信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定する波形決定部と、
決定された前記波形に基づいて前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備える、超音波診断装置。
【請求項2】
前記波形決定部は、前記半波において、複数の前記送信区間と複数の前記中断区間とを設けた波形に決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記波形決定部は、前記複数の送信区間のそれぞれの長さ、および、前記複数の中断区間のそれぞれの長さが、均等になるように前記波形を決定する、
請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記波形決定部は、超音波画像の複数の表示モードのうち、選択されている表示モードに対応するPWM(Pulse Width Modulation)比を有するPWM波形に決定した上で、前記PWM波形が有する複数の波数のうちの前記半波を分割する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記波形決定部は、前記半波における前記送信区間と前記中断区間との割合を、前記表示モード毎に定められた割合に制御する、
請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記波形決定部は、複数の表示モードの複合モードが選択されたとき、前記複数の表示モードのうち、適した送信電圧がより低い表示モードの駆動信号の波形を前記PWM波形とする、
請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記波形決定部は、適した送信電圧がより低い表示モードの駆動信号の波形を、前記半波において、複数の送信区間のそれぞれの長さ、および、複数の中断区間のそれぞれの長さが、均等になるように決定する、
請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記波形決定部は、前記複数の表示モードの送信電圧を、前記複数の表示モードのうち、適した送信電圧がより高い表示モードに適した第1送信電圧と、適した送信電圧がより低い表示モードに適した第2送信電圧との間の電圧に設定する、
請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記波形決定部は、前記超音波振動子の送信特性に基づいて、前記波形の中心周波数を決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記波形決定部は、一部の前記半波においてのみ、前記送信区間および前記中断区間を設けた波形に決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記波形決定部は、前記超音波振動子のそれぞれに対して、振動子配列内の位置に応じて、複数の波数を有する前記パルス信号の少なくとも一部の半波において前記送信区間および前記中断区間を設けた波形と、前記送信区間および前記中断区間を設けない波形と、のいずれかの波形を割り当てる、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記波形決定部は、前記駆動信号の一波形のうち、前記半波の時間的な位置に応じて、前記送信区間と前記中断区間との割合を変更する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記駆動信号生成部は、超音波画像の複数の表示モードのうち、選択された表示モードに応じて、前記駆動信号の立ち上がり時間および立ち下がり時間の少なくとも一方を制御する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
超音波診断装置のコンピュータが実行する方法であって、
超音波振動子を駆動する駆動パルス信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定し、
決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する、
駆動信号生成方法。
【請求項15】
超音波画像のコンピュータが実行するプログラムであって、
超音波振動子を駆動する駆動パルス信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定する手順と、
決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する手順と、
を前記コンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置、駆動信号生成方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波探触子から被検体内部に超音波を照射させ、その反射波を受信して解析することにより被検体内部の検査を行う超音波診断装置が普及している。超音波診断装置は、被検体を非破壊、非侵襲で調べることができるので、医療診断において広く用いられている。
【0003】
一般に、画質のよい超音波画像を生成するためには、超音波探触子へ供給する送信電圧をできるだけ高くすることが望ましい。しかしながら、送信電圧を高くしすぎると、超音波を送信する超音波探触子の超音波振動子が高温となったり、送信超音波が被検体に与える影響が大きくなったりするため、送信電圧にはあらかじめ制限が設けられている。
【0004】
超音波診断装置には、複数の表示モード(例えば、B(輝度)モード、カラードプラモード、など)を同時に表示することができるものがある。表示モード毎に高画質の画像を生成するための条件(超音波特性、送信電圧など)は異なるため、モード毎の切り替えが必要である。特許文献1には、Bモードとカラーフローとの組み合わせ表示において、PWM制御を用いて出力パルスをシェーピングすることにより、速い応答時間を有する電力出力を制御する超音波診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示モードに合わせて波形変更を行った場合、超音波探触子の周波数応答特性が変化してしまうことがある。周波数応答特性が変化すると、超音波探触子からの出力音圧にバラツキが生じ、超音波画像の画質が低下してしまう。
【0007】
本開示は、超音波探触子から送信される波の周波数応答特性を維持しつつ、出力波形の振幅を変化させることができる超音波診断装置、駆動信号生成方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る超音波診断装置は、超音波振動子を駆動する駆動信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定する波形決定部と、決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する駆動信号生成部と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る駆動信号生成方法は、超音波診断装置のコンピュータが実行する方法であって、超音波振動子を駆動する駆動パルス信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定し、決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、超音波画像のコンピュータが実行するプログラムであって、超音波振動子を駆動する駆動パルス信号の波形を、複数の波数を有するパルス信号の少なくとも一部の半波において、送信区間および中断区間を設けた波形に決定する手順と、決定された前記波形に基づいて前記駆動パルス信号を生成する手順と、を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、超音波探触子から送信される波の周波数応答特性を維持しつつ、出力波形の振幅を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】超音波診断装置の主要な機能構成を示すブロック図
【
図4】
図3に示すPWM駆動信号に基づいて、超音波探触子から出力される超音波の出力音圧を示す図
【
図7】一波形のPWM駆動信号のうち、一部のみ半波に分割した場合を示す図
【
図8】振動子配列内の位置によって異なる波形の駆動信号を生成する例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本開示は実施の形態にて説明した例に限定されない。なお、以下の説明において、同一の機能および構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0014】
[超音波診断装置の構成]
図1は、本開示の実施の形態に係る超音波診断装置100の概略構成を示す図である。
図2は、超音波診断装置100の主要な機能構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、超音波診断装置100は、画像生成装置10と、ケーブル40を介して画像生成装置10に接続された超音波探触子30とを備える。画像生成装置10には、操作入力部18と、表示部19とが設けられている。
【0016】
画像生成装置10は、操作入力部18に対する操作者の入力操作に基づき、超音波探触子30に対し超音波を送信させるための駆動信号を出力する。また、画像生成装置10は、超音波探触子30から反射超音波の受信に係る受信信号を取得して各種処理を行い、超音波画像を生成して表示部19に表示させる。
【0017】
画像生成装置10は、
図2に示すように、波形決定部11と、駆動信号生成部12と、受信信号処理部13と、送受信切替部14と、制御部15と、画像処理部16と、記憶部17と、操作入力部18と、表示部19などを備えている。
【0018】
波形決定部11は、超音波探触子30を駆動するための駆動信号(パルス信号)の波形を決定する。波形決定部11は、超音波探触子30の送信特性に合わせた駆動波形を決定する。波形決定部11は、表示モードに対応した駆動波形を、波形情報記憶部111に予め記憶された波形情報を用いて決定する。波形情報記憶部111には、表示モード毎の送信電圧の候補と、その送信電圧に対応した送信波形とがあらかじめ関連付けられた波形情報が記憶されている。
【0019】
駆動信号生成部12は、波形決定部11が決定した波形、および送信条件に基づいて、駆動信号を生成する。送信条件は、例えば記憶部17に記憶されている、または操作入力部18を介した操作者の操作により入力される。送信条件には、例えば、送信開口、焦点位置、送信間隔、および送信電圧などが含まれる。駆動信号生成部12の動作の詳細については、後述する。
【0020】
駆動信号生成部12は、例えば、クロック発生回路、パルス発生回路、パルス幅設定部、および、遅延回路を備えている。クロック発生回路は、パルス信号の送信タイミングや送信周波数を決定するクロック信号を発生させる回路である。パルス発生回路は、送信条件に基づく送信電圧の矩形波パルスを発生させる回路である。パルス幅設定部は、送信条件に含まれる送信波形に基づいてパルス発生回路から出力されるパルスのパルス幅を設定する。パルス発生回路で生成された矩形波パルスは、パルス幅設定部への入力前または入力後に、超音波探触子30の個々の振動子31毎に異なる配線経路に分離される。遅延回路は、生成された矩形波パルスを各振動子31に送信するタイミングに応じて、これらの配線経路毎に設定された遅延時間それぞれ遅延させて出力させる回路である。
【0021】
パルス発生回路は、複数波数を有し、3値(+V、0、-V)、または5値(+V1、+V2、0、-V2、-V1)を有する矩形波パルスを発生させることができる。
【0022】
また、パルス発生回路は、発生させるパルスの立ち上がり時間および立ち下がり時間の少なくとも一方を任意に変更することができるものであることが望ましい。パルス発生回路は、表示モードに合わせて立上がり時間および立ち下がり時間の少なくとも一方を任意に変更することが望ましい。
【0023】
具体例を挙げて説明する。表示モードがBモードの場合、立ち上がり時間、立ち下がり時間を比較的短くして細かくコントロールすることが好ましい。一方、表示モードがカラードプラモードの場合、Bモードと異なり、低周波の限られた範囲の周波数が使用される。この場合、高周波域の周波数成分は、不要な発熱や電磁波規制の要因となるため、立ち上がり時間、立ち下がり時間を比較的長くして高調波の発生を抑えることが好ましい。
【0024】
受信信号処理部13は、制御部15の制御に従って超音波探触子30から入力された受信信号を取得する回路である。受信信号処理部13は、例えば、増幅器、A/D変換回路、整相加算回路を備えている。増幅器は、超音波探触子30の各振動子31により受信された超音波に応じた受信信号をあらかじめ設定された所定の増幅率でそれぞれ増幅する回路である。A/D変換回路は、増幅された受信信号を所定のサンプリング周波数でデジタルデータに変換する回路である。整相加算回路は、A/D変換された受信信号に対して、振動子31毎に対応した配線経路毎に遅延時間を与えて時相を整え、これらを加算(整相加算)して音線データを生成する回路である。
【0025】
送受信切替部14は、制御部15の制御に基づいて、振動子31から超音波を発振する場合に駆動信号を駆動信号生成部12から振動子31に送信させる一方、振動子31が射出した超音波に係る信号を取得する場合に受信信号を受信信号処理部13に出力させるための切り替え動作を行う。
【0026】
制御部15は、CPU151(Central Processing Unit)、HDD152(Hard Disk Drive)、およびRAM153(Random Access Memory)などを備えている。CPU151は、HDD152に記憶されている各種プログラムを読み出してRAM153に展開し、展開したプログラムに従って超音波診断装置100の各部の動作を統括制御する。HDD152は、超音波診断装置100を動作させる制御プログラムおよび各種処理プログラム、各種設定データ、超音波診断装置100で生成された画像ファイルなどを記憶する。これらのプログラムや設定データは、HDD152の他、例えば、フラッシュメモリーなどの不揮発性メモリーを用いた補助記憶装置に読み書き更新可能に記憶させることとしてもよい。RAM153は、SRAMやDRAMなどの揮発性メモリーであり、CPU151に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。制御部15を有する超音波診断装置100は、一種のコンピュータであると言える。
【0027】
画像処理部16は、超音波の受信データに基づく超音波画像を生成するための演算処理を行う。この超音波画像には、表示部19に実時間で表示させる画像データやその一連の動画データ、スナップショットの静止画データなどが含まれる。なお、この演算処理はCPU151により行われる構成であってもよい。
【0028】
記憶部17は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリーである。あるいは、高速書き換えが可能な各種不揮発性メモリーであってもよい。記憶部17には、超音波診断装置100の動作に必要な種々のデータ、プログラムなどが記憶されている。
【0029】
また、記憶部17は、画像処理部16で処理されたリアルタイム表示用の超音波画像の画像データをフレーム単位で記憶する。記憶部17に記憶された画像データは、制御部15の制御に従って読み出され、表示部19に送信されたり、通信部(図示略)を介して超音波診断装置100の外部に出力されたりする。このとき、表示部19の表示方式がテレビジョン方式の場合には、記憶部17と表示部19との間にDSC(Digital Signal Converter:図示略)が設けられて、走査フォーマットが変換された後に出力されればよい。
【0030】
操作入力部18は、押しボタンスイッチ、キーボード、マウス、タッチパッド、もしくはトラックボール、または、これらの組み合わせを備えており、操作者の入力操作を操作信号に変換して制御部15に出力する。操作入力部18としてのタッチパッドは、表示部19に重ね合わされてタッチパネルを構成してもよい。
【0031】
表示部19は、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイといった種々の表示方式のうち、いずれかを用いた表示画面とその駆動部を備える。表示部19は、CPU151から出力された制御信号や、画像処理部16で生成された画像データに従って表示画面(各表示画素)の駆動信号を生成し、表示画面上に超音波診断に係るメニュー、ステータスや、受信された超音波に基づく超音波画像などの計測データの表示を行う。
【0032】
これらの操作入力部18や表示部19は、画像生成装置10の筐体に一体となって設けられたものであってもよいし、USBケーブルなどを介して外部に取り付けられるものであってもよい。また、画像生成装置10に操作入力端子や表示出力端子が設けられていれば、これらの端子に従来の操作用および表示用の周辺機器を接続して利用するものであってもよい。
【0033】
超音波探触子30は、超音波(例えば1~30MHz程度)を発振して生体などの被検体に対して送信(射出)するとともに、送信した超音波のうち被検体で反射された反射波(エコー)を受信して電気信号に変換する音響センサーとして機能する。この超音波探触子30は、超音波を送受信する複数の振動子31の配列である振動子配列310を備えている。
【0034】
振動子配列310は、圧電体と、当該圧電体の変形(伸縮)により電荷が現れる圧電体の両端に設けられた電極とを有する圧電素子を備えた複数の振動子31の配列である。振動子31に電圧パルス(パルス信号)が供給されることで各圧電体に生じる電界に応じて圧電体が変形し、超音波が発信される。また、振動子31に所定の周波数帯の超音波が入射すると、その音圧により圧電体の厚さが変動(振動)することで当該変動量に応じた電荷が圧電体の厚さ変動方向両端に現れ、圧電素子両端の電極には、当該電荷に応じた量の電荷が誘起される。
【0035】
超音波探触子30の振動子配列310には、例えば、所定の振動子配列方向に1次元配列された百個前後から数百個の振動子31が含まれる。あるいは、振動子31は、振動子配列方向と直交する方向にも配列されて2次元配列されていてもよい。また、振動子31の個数を任意に設定してもよい。
【0036】
超音波探触子30は、駆動信号生成部12からのパルス信号に基づきこれらの振動子31のうちの連続する一組の振動子31から超音波を送信する。そして、超音波を発生させる毎に超音波を送信する振動子31の組を振動子配列方向に所定数の振動子31の分だけずらすことで、振動子配列方向に平行な走査方向SD(
図2参照)に走査(スキャン)を行う。また、超音波探触子30としては、異なるタイミングで送信される超音波の送信方向が互いに平行となるリニア電子走査方式、セクター電子走査方式、コンベックス電子走査方式などの各種電子走査方式や、リニア走査方式、セクター走査方式、アーク走査方式、ラジアル走査方式などのいずれの方式が採用されてもよい。
【0037】
本実施の形態において、超音波探触子30における周波数の帯域幅は、超音波画像の画質を向上させるため、広帯域のものが採用される。具体的には、帯域BW20で比帯域が120%以上である超音波探触子30が採用されることが望ましい。
【0038】
また、この超音波診断装置100は、診断対象に応じて異なる複数の超音波探触子30のいずれかを画像生成装置10に接続して利用可能な構成としてもよい。
【0039】
ケーブル40は、その一端に画像生成装置10とのコネクター(図示略)を有し、超音波探触子30は、このケーブル40により画像生成装置10に対して着脱可能に構成されている。
【0040】
[超音波診断装置の動作]
次に、超音波診断装置100の動作について説明する。本実施の形態において、超音波診断装置100は、単一の表示モードの画像のみを生成して表示することができるとともに、複数の異なる表示モードの画像を重畳して複合モードの超音波画像を生成し、表示することができる。複合モードの画像を生成するためのモード毎の波形情報は、あらかじめ波形情報記憶部111に記憶されている。
【0041】
複合モードの例として、Bcモード、すなわちBモードとカラードプラモードとが重畳されたモードが挙げられる。Bcモードでは、Bモード送信サイクルと、カラードプラ送信サイクルとを短時間で交互に切り替えることで、Bモード画像とカラードプラ画像とを合成してリアルタイム表示を行う。
【0042】
ここで、表示モードによらず、高画質の超音波画像を生成するため、すなわち受信信号のS/N比を良くするためには、駆動信号の電圧(送信電圧)を高くして圧電振動子に印加するパルスの振幅を大きくすることが望ましい。
【0043】
しかしながら、高出力の超音波エネルギーによる生体への影響を軽減するため、超音波プローブから発される送信超音波の出力(超音波出力)にはモードに対応した規制値が設けられている。できるだけ高画質かつ応答性がよい超音波画像を生成するため、各表示モード毎に、超音波出力が規制値を超えないような送信電圧が予め設定されている。以下の説明において、表示モード毎に予め設定されている、超音波出力が規制値を超えないような送信電圧の最大値を基準電圧と記載する。
【0044】
送信超音波のエネルギーは駆動信号の電圧振幅および振動数(パルスの長さ)に応じて決まるため、長パルス波の駆動信号を使用するカラードプラモードやパルスドプラモードでは、Bモードと比較して基準電圧を低くする必要がある。異なるモードの画像をサイクルの切り替えにより同時に表示する複合モードでは、高画質の超音波画像を生成するため、サイクル毎にモード毎の基準電圧に合わせて送信電圧を高速で変化させる必要がある。
【0045】
例えば超音波診断装置が複数の電源系統を備えている場合、例えばスイッチング制御によりBモードサイクルとそれ以外のモードのサイクルとでモード毎にあらかじめ対応した電源に切り替えることで、サイクル毎に送信電圧を変化させることができる。しかしながら、この場合、複数の電源系統を用意する分、超音波診断装置の製造コストが向上してしまう。製造コストを低減するためには、例えば、複数の電源系統を用意せず、1系統の電源のみで複数モード毎の送信電圧に対応すればよい。
【0046】
電源1系統でサイクル毎に送信電圧を変化させる方法としては、例えばパルス発生回路が発生する送信電圧を、各モードの基準電圧に合わせてサイクル毎に上下させることにより、各モードに対応した送信電圧を生成する方法がある。
【0047】
しかしながら、このような方法を採用すると、パルス生成を高速で行うことにより熱が発生し、超音波探触子30の表面温度が上昇したり、パルス生成の時間応答が間に合わず、実時間でサイクル毎の送信電圧の切り替えが困難となったりする問題が生じうる。本開示の超音波診断装置は、複合モードにおいて、モード毎に基準電圧に合わせて送信電圧を変化させずに、共通の送信電圧(以下、共通電圧と記載する)を設定することで、このような問題を解決することができる。
【0048】
ただし、上記したように、規制によりカラードプラモードの基準電圧はBモードの基準電圧と比較して低いため、Bモードとカラードプラモードとで同じ共通電圧を使用しようとした場合、共通電圧は、より低いカラードプラモードの基準電圧に合わせる必要がある。しかしながら、カラードプラモードの基準電圧でBモード画像を生成すると、本来Bモードの画像生成に必要な送信電圧よりも低いため、S/N比が低下してBモード画像の画質が劣化してしまう。
【0049】
このような事態を回避するためには、BcモードにおいてBモードサイクルとカラードプラモードサイクルの両方で使用される共通電圧を、カラードプラモードの基準電圧よりも高く、かつBモードの基準電圧よりも低くなるように、設定すればよい。ただし、このような方法では、共通電圧はカラードプラモードの基準電圧より高くなるため、カラードプラモードにおける超音波出力がカラードプラモードにおける規制値を超過しないようにする必要がある。
【0050】
以上の経緯から、本開示の超音波診断装置では、Bcモード表示が選択された場合に、カラードプラモードに対してパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御を適用することにより、超音波の出力音圧を増大させずに送信電圧をカラードプラモードの基準電圧よりも高くする制御を行う。
【0051】
これにより、Bcモードのいずれのモードにおいても、超音波出力が規制値を超えることなく、いずれのモードにおいてもできるだけ高画質な超音波画像を得ることができる。
【0052】
以下、本開示の実施の形態に係る超音波診断装置100の各構成が、このような制御を実現するための動作について説明する。
【0053】
波形決定部11(
図2参照)は、例えば操作入力部18を介して操作者がBcモード表示を行うように操作した場合、(
図2参照)は、Bモードとカラードプラモードのそれぞれの波形を決定する。具体的には、波形決定部11は、波形情報記憶部111から波形情報を読み出し、波形情報に基づいてBcモードに対応する駆動波形を決定する。上述したように、波形情報には、表示モード毎の駆動波形が含まれており、例えば、Bcモードに対応する波形情報には、BcモードにおけるBモードの駆動波形、およびカラードプラモードの駆動波形が含まれる。また、上述したように、波形決定部11は、カラードプラモードの波形を決定する際、PWM制御を行って波形を決定し、Bモードの波形を決定する際にはPWM制御を行わない。
【0054】
以下の説明において、PWM制御が適用された駆動信号をPWM駆動信号と記載し、PWM制御が適用されない駆動信号と区別する。
【0055】
波形決定部11がBcモードにおけるBモードおよびカラードプラモードの波形を決定する際、共通電圧およびカラードプラモードのPWM比を以下のようにして決定する。なお、PWM比とは、メインパルスに対して0レベルでない区間がどの程度の割合で含まれるかを表す数値である。以下の説明において、PWM比をn/Nを記載する。Nは正の整数であり固定値である。nは1からNまでの整数であり、変数である。
【0056】
また、共通電圧をVcommon、Bモードの基準電圧をVB、PWM比n/Nに対応する電圧をV(n)と記載する。波形決定部11は、PWM比n/Nを、以下の式(1)を満たすように設定する。
V(n)≦VB<V(n-1) (1)
【0057】
そして、共通電圧Vcommonを、V(n)に設定する。このような制御により、Bcモードにおける両モードの送信電圧を、Bモードの基準電圧とカラードプラモードの基準電圧との間の共通電圧とすることができる。なお、Bモードの基準電圧VBよりカラードプラモードの基準電圧Vcの方が高かった場合、波形決定部11は、共通電圧をVcに設定すればよい。
【0058】
図3は、上記の制御により生成されたPWM駆動信号の例を示す図である。
図3において、横軸は時間、縦軸は電圧である。
図3A~
図3Dに示す駆動信号は、それぞれPWM比が異なっている。
【0059】
図4は、
図3に示すPWM駆動信号に基づいて、超音波探触子30から出力される超音波の出力音圧を示す図である。
図4Aに示す出力音圧は、
図3Aに示す駆動信号に基づき出力される。同様に、
図4Bに示す出力音圧は、
図3Bに示す駆動信号に基づき出力される。
図4Cに示す出力音圧は、
図3Cに示す駆動信号に基づき出力される。
図4Dに示す出力音圧は、
図3Dに示す駆動信号に基づき出力される。
【0060】
【0061】
図5A、
図5Bに示すように、PWM比が異なると、周波数によっては、超音波出力(出力音圧)に大きな差が生じる(
図5A、
図5Bの矢印部分)。広帯域の超音波探触子30を採用している超音波診断装置100では、出力超音波に含まれる高調波成分がPWM比によって異なり、高調波成分が熱に変わることで結果的に出力音圧が下がってしまうことにより、このような差が生じると考えられる。このように、
図5A,
図5Bに示すように、PWM比による超音波出力のバラツキが生じると、超音波画像の画質が低下してしまう。
【0062】
なお、このようなバラツキは、広帯域の超音波探触子30を使用する超音波診断装置100において生じやすい。その理由は、超音波探触子30が送信する超音波の周波数帯域が、広域側の周波数の1/3以下である場合に、使用周波数の3倍高調波が超音波探触子の使用帯域に含まれてしまうためである。具体的には、超音波探触子30の帯域がBW20で比帯域が120%以上である場合、中心周波数が-20dB帯域の広域側の周波数の1/3以下である場合にこのようなバラツキが生じやすい。
【0063】
このようなPWM比によるバラツキを低減するために、波形決定部11は、駆動信号の複数波数を有する波形のうち、1周期の波の半分(半波)において送信区間と中断区間とを設けることで、半波を分割した波形を決定する。
【0064】
図6は、波形決定部11により、半波を分割した波形の例を示す図である。
図6Aは、半波が分割されていないPWM駆動信号の波形を例示しており、
図6Bは、
図6Aに示すPWM駆動信号の半波を分割した駆動信号の波形を例示している。
図6Bに示す例では、PWM駆動信号の矩形波のうち半波が、2つの中断区間により、3つの送信区間に分割されている。
図6Cは、分割されていない1周期分の波形と分割された1周期分の波形とを比較した図である。
【0065】
図6Bに示す例では、半波を3つに分割しているが、これは一例であり、分割する数は任意に変更することができる。また、
図6Bに示す例では、中断区間を等間隔に配置することにより、半波を均等に分割しているが、中断区間を配置するタイミングは任意に変更することができる。このように、半波において、送信区間と中断区間との比率を変更することで、出力音圧の周波数応答を維持しつつ、送信電圧を制御することができる。半波における送信区間と中断区間との割合は、表示モードによって予め設定されていてもよい(波形情報として波形情報記憶部111に記憶されていてもよい)し、波形決定部11が、所望の送信電圧に基づいて適宜決定してもよい。半波における送信区間と中断区間との割合は、例えば表示モード毎にいくつかの候補があらかじめ設定され、波形情報として波形情報記憶部111に記憶されており、波形決定部11が波形を決定する際に波形情報に基づいて候補の中から適宜の割合の波形を選択してもよい。
【0066】
また、
図6Bに示す例では、PWM駆動信号の全ての半波に中断区間を設けて分割しているが、一部の半波のみ分割するようにしてもよい。
図7は、一波形のPWM駆動信号のうち、一部のみ半波に分割した場合を示す図である。
【0067】
図7Aは、分割しない場合のPWM駆動信号を示しており、
図7Bは、最初と最後の半波のみ分割した場合のPWM駆動信号を示している。
図7Cは
図7AのPWM駆動信号に対応する出力音圧を、
図7Dは
図7BのPWM駆動信号に対応する出力音圧を示している。
図7Eは
図7AのPWM駆動信号に対応する出力音圧の周波数応答を、
図7Fは
図7BのPWM駆動信号に対応する出力音圧の周波数応答を示している。
【0068】
このように分割する半波を任意に設定することにより、より精度よく送信電圧を変化させることができるだけでなく、周波数帯域内の不要な周波数成分を低減することができるので、発熱を抑え、送信出力を向上させることができる。一波形のPWM駆動信号のうち、どの半波を分割するかは、例えば波形情報において予め設定されていればよい。
【0069】
また、例えば一波形のうち、半波の時間的な位置によって送信区間と中断区間との割合を変更するようにしてもよい。例えば、前後の両端部に近い半波よりも、中央部付近の半波において、送信区間の割合をより高く(中断区間の割合をより低く)するようにしてもよい。
【0070】
以上、Bモードとカラードプラモードの画像を重畳するBcモードにおいて、カラードプラモードの駆動信号を生成する際の制御について詳細に説明した。なお、本開示は、Bcモードに限定されず、他の複合モードにも適用することができる。
【0071】
なお、以上のようにして生成された駆動信号に基づき超音波探触子30から出力された超音波により得られた超音波信号に基づき、画像処理部16が超音波画像を生成する際に、PWM制御が適用されていないBモードのゲインに対して補償を行うようにしてもよい。具体的には、Bモードのゲインを(VB)/(Vcommon)倍することにより、共通電圧を採用することで低下していたBモードのゲインを補償することができる。これにより、Bモードの画質劣化をより軽減することができる。
【0072】
さらに、本開示は、単一の表示モード(例えば、Bモードのみなど)の場合にも適用することができる。
【0073】
単一の表示モードの例として、Bモード、カラードプラモード、パルスドプラモード(ドプラモード)、M(Motion)モード、E(Elastography)モードなどが挙げられる。複合モードとしては、2つの表示モードを複合させたDuplexモードと、3つの表示モードを複合させたTriplexモードがある。Duplexモードの例としては、上述したBcモードの他、Bモード画像とパルスドプラモード画像とを同時に表示するBDモード、Bモード画像とMモード画像とを同時に表示するBMモード、Bモード画像とEモード画像とを同時に表示するBeモードなどが挙げられる。Triplexモードの例としては、Bモード画像にカラードプラモード画像を重畳し、さらにパルスドプラモード画像を同時に表示するBcDモードや、Bモード画像にカラードプラモード画像を重畳し、さらにMcモード画像を同時に表示するBcMcモードがある。
【0074】
Duplexモード、またはTriplexモードの場合、波形決定部11は、複合される2つまたは3つのモードのうち、それぞれに適した送信電圧が他よりも低いモードに対しては、上述したように、PWM駆動信号の半波を分割した波形を決定する。これにより、複数の表示モードにおいて共通の送信電圧を適切に設定しつつ、出力音圧が各モードの基準値を超えないような駆動信号波形を決定することができる。従って、超音波診断装置100が1系統の電源しか有していなくても、複合モードにおいて、各モードの基準値を超えない範囲でできる限り高出力の超音波を出力させることができるので、超音波画像の高画質化を図ることができる。ただし、本開示は、複数系統の電源を有する超音波診断装置にも適用可能である。
【0075】
また、波形決定部11は、超音波探触子30が有する複数の振動子31のそれぞれに対し、振動子配列内の位置によって異なる波形となるようにしてもよい。
図8は、振動子配列内の位置によって異なる波形となる例を説明するための図である。
図8には、振動子配列のうち、中央付近の振動子31に対しては、
図6Aに示すような、半波を分割しない波形とし、両端部付近の振動子に対しては、
図6Bに示すような、半波を分割した波形とする例が示されている。なお、
図8に示す例は一例であり、振動子配列内の位置によって、より多くの波形を割り当てるようにしてもよい。具体的には、
図7Bに示すような、一部の半波のみ分割した波形と、全ての半波を分割した波形と、半波を分割しない波形と、を振動子配列内の位置によって適宜割り当てるようにしてもよい。
【0076】
このような制御により、アポダイゼーション(中心素子に対し周辺素子の放射する超音波のエネルギーを減衰させること)効果を得ることができ、音響ノイズ、サイドローブを低減させることができる。ひいては、高画質な超音波画像を得ることができる。
【0077】
なお、本実施の形態では、駆動信号生成部12が生成するパルス信号を矩形波パルスとして説明するが、本開示はこれに限定されず、駆動信号生成部は、矩形波以外のパルス信号(例えば正弦波、三角波など)を生成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示は、複合モードの表示を行う超音波診断装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 超音波診断装置
10 画像生成装置
11 波形決定部
111 波形情報記憶部
12 駆動信号生成部
13 受信信号処理部
14 送受信切替部
15 制御部
16 画像処理部
17 記憶部
18 操作入力部
19 表示部
30 超音波探触子
31 振動子
40 ケーブル