(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173627
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】スループット推定装置およびスループット推定方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/02 20090101AFI20231130BHJP
H04W 4/42 20180101ALI20231130BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20231130BHJP
H04W 72/54 20230101ALI20231130BHJP
H04W 88/18 20090101ALI20231130BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20231130BHJP
H04B 17/373 20150101ALI20231130BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20231130BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20231130BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H04W24/02
H04W4/42
H04W4/44
H04W72/08
H04W88/18
H04B17/309
H04B17/373
B61L3/12 Z
B61L23/14 Z
B60L15/40 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086013
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓
(72)【発明者】
【氏名】石野 正典
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 悠一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 亮介
(72)【発明者】
【氏名】近江 泰志
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
5K067
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CC04
5H161AA01
5H161BB20
5H161CC20
5H161DD23
5H161EE20
5H161FF07
5K067AA23
5K067DD20
5K067DD41
5K067DD57
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】鉄道無線システムに対し、伝搬路分類及び時間毎に無線端末の受信電力と割り当てリソース数からスループットの推定を行う。
【解決手段】スループット推定装置として、日時及び位置と共に、実測した過去の、受信電力、割り当てリソース数及びスループット夫々を関連する情報と共に記録したデータベースと、推定対象となる位置に対応する伝搬路分類を決定し、推定対象の日時及び伝搬路分類に基づきデータベースに対してスループットを推定するに必要な情報をデータの更新又は追加により記録する記録部と、推定対象の日時及び伝搬路分類に基づき、日時及び位置毎にデータベースに記録された過去の受信電力及び過去の割り当てリソース数夫々から受信電力及び割り当てリソース数夫々の推定値と、受信電力及び割り当てリソース数夫々の推定値並びにデータベースに記録された過去のスループットからスループットの推定値とを求める推定部とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旅客輸送に係る移動体に用いる無線通信のスループットを推定するスループット推定装置であって、
前記無線通信の伝搬路に対して当該伝搬路の環境を分類する伝搬路分類を設け、
日時および前記移動体の走行路の位置と共に、実測した過去の受信電力、実測した過去の割り当てリソース数および実測した過去のスループットそれぞれを、関連する情報と共に記録したデータベースと、
前記無線通信に関する状態情報と前記移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する前記伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づき、前記データベースに対して、スループットを推定するために必要な情報をデータ更新またはデータ追加により記録する記録部と、
前記無線通信に関する状態情報と前記移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する前記伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づいて、前記日時および前記移動体の走行路の位置毎に前記データベースに記録された前記過去の受信電力および前記過去の割り当てリソース数それぞれから受信電力および割り当てリソース数それぞれの推定値を求めると共に、当該受信電力および当該割り当てリソース数それぞれの推定値並びに前記データベースに記録された前記過去のスループットからスループットの推定値を求める推定部と
を備えるスループット推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスループット推定装置であって、
前記データベース、前記記録部および前記推定部それぞれを、前記受信電力、前記割り当てリソース数および前記スループットそれぞれに対して個別に設ける
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記データベースに記録した前記日時は、前記各推定値を求める際の目的に適合した粒度を有する情報である
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記データベースに記録した前記日時は、曜日情報または平日と休日とを識別する情報を含む
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記伝搬路分類は、粒度の異なる分類情報を有し、
前記推定部は、前記推定値を求める際に、決定した前記伝搬路分類に応じて前記粒度を変更して前記推定値を求める
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記データベースには、前記実測した過去の受信電力の前記関連する情報として、前記実測した過去の受信電力が外れ値か否かを示す判定フラグ、および、前記実測した過去の割り当てリソース数の前記関連する情報として、前記実測した過去の割り当てリソース数が外れ値か否かを示す判定フラグ、がさらに記録され、
前記記録部は、前記データベースに記録した前記受信電力のデータおよび前記割り当てリソース数のデータの内で、前記判定フラグが前記外れ値でないデータに対して前記データ更新を行う
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のスループット推定装置であって、
前記推定部は、前記受信電力、前記割り当てリソース数および前記スループットそれぞれの推定値を求める際に、前記データベースに記録した前記判定フラグが前記外れ値でない前記受信電力のデータおよび前記割り当てリソース数のデータを用いる
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項8】
請求項6に記載のスループット推定装置であって、
前記推定部は、推定対象となる前記移動体の乗車率と前記データベースに記録した前記実測した過去の割り当てリソース数の前記関連した情報に含まれる過去の乗車率とを比較して両者が異なる場合に、前記伝搬路分類と異なる他の伝搬路分類を用いて前記割り当てリソース数の推定値を求める
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項9】
請求項6に記載のスループット推定装置であって、
前記推定部は、前記受信電力の前記推定値を、前記推定対象の日時および前記推定対象となる位置の受信電力と前記データベースに記録した前記実測した過去の受信電力とを比較して求めた両者の誤差率を補正係数として用いて補正する
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記推定部は、前記データベースに記録した前記受信電力、前記割り当てリソース数および前記スループットそれぞれのデータの内で、前記推定対象の日時に近い日時のデータに対して重み付けをし、当該重み付けを考慮した統計処理を介して、前記受信電力、前記割り当てリソース数および前記スループットそれぞれの推定値を求める
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項11】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記記録部は、前記割り当てリソース数が実測により取得できない場合に、実測したスループットおよび前記無線通信に関する物理層の指標となる各種パラメータを用いて前記割り当てリソース数の計算値を求め、当該計算値を前記データベースに対する前記データ更新または前記データ追加の際に用いる
ことを特徴としたスループット推定装置。
【請求項12】
請求項1または2に記載のスループット推定装置であって、
前記した旅客輸送に係る移動体に用いる無線通信は、汎用無線を用いた鉄道システムの無線通信である
ことを特徴とするスループット推定装置。
【請求項13】
旅客輸送に係る移動体に用いる無線通信のスループットを推定するスループット推定方法であって、
前記無線通信の伝搬路に対して当該伝搬路の環境を分類する伝搬路分類を設け、
日時および前記移動体の走行路の位置と共に、実測した過去の受信電力、実測した過去の割り当てリソース数および実測した過去のスループットそれぞれを、関連する情報と共に記録したデータベースを設け、
前記無線通信に関する状態情報と前記移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する前記伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づき、前記データベースに対して、スループットを推定するために必要な情報をデータ更新またはデータ追加により記録する記録ステップと、
前記無線通信に関する状態情報と前記移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する前記伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づいて、前記日時および前記移動体の走行路の位置毎に前記データベースに記録された前記過去の受信電力および前記過去の割り当てリソース数それぞれから受信電力および割り当てリソース数それぞれの推定値を求めると共に、当該受信電力および当該割り当てリソース数それぞれの推定値並びに前記データベースに記録された前記過去のスループットからスループットの推定値を求める推定ステップと
を有するスループット推定方法。
【請求項14】
請求項13に記載のスループット推定方法であって、
前記データベースに、前記実測した過去の受信電力の前記関連する情報として、前記実測した過去の受信電力が外れ値か否かを示す判定フラグ、および、前記実測した過去の割り当てリソース数の前記関連する情報として、前記実測した過去の割り当てリソース数が外れ値か否かを示す判定フラグ、をさらに記録し、
前記記録ステップでは、前記データベースに記録した前記受信電力のデータおよび前記割り当てリソース数のデータの内で、前記判定フラグが前記外れ値でないデータに対して前記データ更新を行う、
ことを特徴とするスループット推定方法。
【請求項15】
請求項13に記載のスループット推定方法であって、
前記割り当てリソース数が実測により取得できない場合に、
前記記録ステップでは、実測したスループットおよび前記無線通信に関する物理層の指標となる各種パラメータを用いて前記割り当てリソース数の計算値を求め、当該計算値を前記データベースに対する前記データ更新または前記データ追加の際に用いる
ことを特徴とするスループット推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄道無線システムにおけるスループット推定装置およびスループット推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークの普及に伴い、ネットワークを介したアプリケーション(以降、単に「アプリ」と記す)やサービスが提供されている。これらアプリやサービスへアクセスするために、LTEや5Gといった汎用無線通信システムを利用したシステムが多く存在している。その一例として、安全で正確かつ快適な列車運行を目的とした鉄道システムへの活用が現在注目されている。
【0003】
現状の鉄道システムでは、安全で正確かつ快適な列車運行を実現するために、専用無線システムを活用することや、各鉄道アプリの異なる通信要件を満足するためにサイロな無線システムを構築することになる。そのため、現状の鉄道システムでは、導入コストや運用コストが高額となることや、各鉄道アプリ間の連携が困難であることが課題となる。そこで、汎用無線通信システムを活用した鉄道システムを構築することで、アセットレス、ゼロインフラ化による固定費削減が期待される。
【0004】
しかし、汎用無線システムを利用するためには、一般ユーザとの共用ネットワークであることおよび鉄道向けに無線カバレッジが整備されていないことなどの課題がある。このため、鉄道路線全体で鉄道アプリの通信要件を満たすことを担保できない。
【0005】
これに対して、鉄道アプリ毎に通信品質を保証する通信制御機能を有する通信プラットフォームが検討されている。この通信プラットフォームとして、複数通信路の活用や冗長のパケットを伝送するといった通信制御を実施することで、スループットが十分でないエリアでも鉄道アプリの通信要件を満たし、上記の鉄道システムを実現することができる。
【0006】
以上のように、汎用無線通信システムを活用したシステムの実現には、適切なアプリケーションやサービスを提供するためのシステム設計が、また、動的な通信制御の実現には将来の通信品質の推定が、必要不可欠である。
【0007】
特許文献1には、通信品質の1つであるスループットの推定方法に関する技術として、日時と、サーバ、ネットワークおよびユーザ端末の各識別情報といった過去の通信ログ情報を記録し、この記録された通信ログ情報に基づいて、時間帯別に、サーバ、ネットワークおよびユーザ端末各々のスループット実績情報を算出する通信速度推定装置、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
汎用無線システムにおいて、伝搬路に存在する遮蔽物の変化や推定対象外の無線端末による通信量の変化により、それぞれ独立にスループットは変化する。具体的に、伝搬路に存在する遮蔽物の変化に関しては、受信電力や信号対干渉プラス雑音電力比が変化し、それに伴い通信で用いる変調方式が変化することによりスループットは変化する。
【0010】
一方、推定対象外の無線端末による通信量の変化に関しては、通信エリアに存在する端末やトラヒック量が変化すると推定対象となる無線端末に割り当てられる無線リソースの大きさを意味するリソースブロックの数が変化し、スループットが変化する。
【0011】
そのため、伝搬路に存在する遮蔽物が存在せず推定対象外の無線端末による通信量が多い環境、推定対象外の無線端末による通信量が少なく伝搬路に存在する遮蔽物が多い環境、どちらの環境においてもスループットは小さくなる。
【0012】
すなわち、伝搬路に存在する遮蔽物の変化や推定対象外の無線端末による通信量の変化といった周辺環境が大きく変化する環境下においては、スループットの推定精度が大きく劣化してしまう。
【0013】
既存の手法では、推定対象外の無線端末による通信量の変化が時間帯別に変化するという特性に着目してスループットを推定している。しかし、受信電力の変化についてまで考慮されていないことから、先に述べたスループットの推定精度が劣化するという課題の解決には至らない。
【0014】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、伝搬路分類および時間毎に無線端末の受信電力と割り当てリソース数から、スループットの推定を行うことを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明のスループット推定装置の一つは、旅客輸送に係る移動体に用いる無線通信のスループットを推定するスループット推定装置として、無線通信の伝搬路に対して当該伝搬路の環境を分類する伝搬路分類を設け、日時および前記移動体の走行路の位置と共に、実測した過去の受信電力、実測した過去の割り当てリソース数および実測した過去のスループットそれぞれを、関連する情報と共に記録したデータベースと、無線通信に関する状態情報と移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づき、データベースに対して、スループットを推定するために必要な情報をデータ更新またはデータ追加により記録する記録部と、無線通信に関する状態情報と移動体の運行情報とから、推定対象となる位置に対応する伝搬路分類を決定し、推定対象の日時および決定した当該伝搬路分類に基づいて、日時および移動体の走行路の位置毎に前記データベースに記録された過去の受信電力および過去の割り当てリソース数それぞれから受信電力および割り当てリソース数それぞれの推定値を求めると共に、当該受信電力および当該割り当てリソース数それぞれの推定値並びにデータベースに記録された過去のスループットからスループットの推定値を求める推定部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、推定対象となる位置および日時に対して、受信電力と割り当てリソース数に基づくスループット推定が可能になるため、伝搬路における遮蔽物の変化や推定対象以外の無線端末による通信量の変化が大きい環境でも推定精度が劣化することなくスループットを推定することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明が対象とする通信プラットフォームを導入した鉄道システム全体の物理的構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係る鉄道アプリ伝送装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明に係る通信品質推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】出力インターフェースを介して表示される通信品質推定装置からの出力画面の一例を示す図である。
【
図5】通信品質推定装置が有するDB記録装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】実施例1における受信電力、割り当てリソース数およびスループットを推定するために必要な情報のデータ構成の一例を示す図である。
【
図7】実施例1の通信品質推定装置が有するスループット推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】実施例1のDB記録装置が有する、受信電力記録部、スループット記録部または割り当てリソース数記録部それぞれによる全体の処理手順をフローチャートで示す図である。
【
図9】
図8のステップS806で示すDB更新処理の手順をフローチャートで示す図である。
【
図10】実施例1のスループット推定装置が有する、受信電力推定部、スループット推定部または割り当てリソース数推定部それぞれによる全体の処理手順をフローチャートで示す図である。
【
図11】
図10のステップS1002で示す推定処理の手順をフローチャートで示す図である。
【
図12】実施例2における受信電力および割り当てリソース数を推定するために必要な情報のデータ構成の一例を示す図である。
【
図13】実施例2におけるDB更新処理の手順をフローチャートで示す図である。
【
図14】実施例2の受信電力推定部による受信電力の推定処理の手順をフローチャートで示す図である。
【
図15】実施例2の割り当てリソース数推定部による割り当てリソース数の推定処理の手順をフローチャートで示す図である。
【
図16】実施例3における通信品質推定装置が有するDB記録装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】実施例3の割り当てリソース数記録部の全体の処理手順をフローチャートで示す図である。
【
図18】
図17のステップS1701で示す割り当てリソース数の計算処理の手順をフローチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として実施例1から実施例3について説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例0019】
図1は、本発明が対象とする通信プラットフォームを導入した鉄道システム全体の物理的構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す鉄道システムは、移動する列車側と地上側との複数の鉄道アプリ装置間で、列車運行に関する通信やお客様サービスに関する通信について、汎用無線システムを介して行う構成を採用する。これにより、安全、正確かつ快適な鉄道運行を実現する無線通信システムを提供する。
【0020】
汎用無線システムでは、サービス提供が可能な通信エリアにおいて、地上側に1以上の鉄道アプリ伝送装置101および1以上の基地局103が設置され、ネットワーク102に接続されている。車上側に設置する無線端末104および鉄道アプリ伝送装置101は、ネットワーク102に接続された基地局103に接続される。なお、本発明において、汎用無線システムは、伝搬路の環境情報とリソースブロック数といった送信機会を割り当てられるシステムであればよいことから、LTEや5Gに限定されるものではない。
【0021】
図2は、本発明に係る鉄道アプリ伝送装置101の構成の一例を示すブロック図である。
鉄道アプリ伝送装置101は、鉄道アプリ管理装置201、通信プラットフォーム202および通信品質推定装置203を有する。
【0022】
鉄道アプリ管理装置201は、通信プラットフォーム202による通信制御を用いてデータの送受信を行い、列車運行やお客様サービスなどを実現する装置である。
【0023】
通信プラットフォーム202による通信制御は、例えば、スループットが十分にでないエリアにおいて、列車運行に重要な鉄道アプリに関する通信を優先する制御を行う。その結果、無線リソースを占有することができるため、スループットが十分にでないエリアでも、安全、正確かつ快適な鉄道運行を実現することが可能となる。
【0024】
通信品質推定装置203は、通信プラットフォーム202に対して鉄道アプリの通信品質の推定値を出力する装置である。本発明では、特に、通信品質推定装置としてスループットを推定する装置であり、通信品質推定装置203は、スループット推定装置204およびデータベース(DB)記録装置(以下、「DB記録装置」と記す)205を有する。
【0025】
スループット推定装置204は、記録された過去の無線通信情報を入力とし、スループット推定値を出力とする装置である。
【0026】
DB記録装置205は、無線通信情報を入力とし、スループット推定装置204でスループットの推定に必要な情報をデータベース(DB)に記録する装置である。
【0027】
図3は、本発明に係る通信品質推定装置203の構成の一例を示すブロック図である。
通信品質推定装置203は、プロセッサ(CPU)301、メモリ302、補助記憶装置304、通信インターフェース305、入力インターフェース303および出力インターフェース306を有する計算機によって構成される。なお、
図3では、「インターフェース」を「I/F」と簡略記載している。
【0028】
プロセッサ(CPU)301は、メモリ302に格納されたプログラムを実行する演算装置であり、各種プログラムを実行することによって、スループット推定装置204およびDB記録装置205の処理を実現する。なお、プロセッサ(CPU)301がプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、ASIC、FPGA等のハードウエアウェア)で実行してもよい。
【0029】
メモリ302は、不揮発性の記憶素子であるROMおよび揮発性の記憶素子であるRAMを含む。ROMには、不変のプログラム(例えば、BIOS)などを格納する。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような高速かつ揮発性の記憶素子であり、プロセッサ301が実行するプログラムおよびプログラムの実行時に使用されるデータを一時的に格納する。
【0030】
補助記憶装置304は、例えば、磁気記憶装置(HDD)、フラッシュメモリ(SSD)等の大容量かつ不揮発性の記憶装置であり、プロセッサ301がプログラムの実行時に使用するデータおよびプロセッサ301が実行するプログラムを格納する。すなわち、プログラムは、補助記憶装置304から読み出されて、メモリ302にロードされて、プロセッサ301によって実行されることによって、通信品質推定装置203の各機能を実現する。
【0031】
通信インターフェース305は、所定のプロトコルに従って、他の装置との通信を制御するネットワークインターフェース装置である。
入力インターフェース303は、キーボードやマウスなどの入力装置(図示せず)が接続され、オペレータからの入力を受けるためのインターフェースである。
【0032】
出力インターフェース306は、ディスプレイ装置などの出力装置(図示せず)が接続され、プログラムの実行結果をオペレータが視認可能な形式で出力するためのインターフェースである。
【0033】
プロセッサ301が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)を介して通信品質推定装置203に提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の補助記憶装置304に格納される。このため、通信品質推定装置203は、リムーバブルメディアからデータを読み込むためのインターフェースを有するとよい。
【0034】
図4は、出力インターフェース306を介して表示される通信品質推定装置203からの出力画面の一例を示す図である。
出力画面として、通信品質推定装置203における設定一覧402、推定に使用する過去の記録データ414および無線通信指標の推定結果415が、グラフィカルインターフェース401上に出力される。
【0035】
スループットの推定値を得るために、通信品質推定装置203における設定一覧402の各項目を設定し、推定開始ボタン413より処理を実行する。これにより、推定に使用した過去の記録データ414および推定結果415が、それぞれ表あるいはグラフとして表示される。結果として、推定結果415に表示された情報あるいは通信インターフェース305を介して出力した推定結果を基にして、通信プラットフォーム202側の通信制御のための設定が可能となる。
【0036】
通信品質推定装置203における設定一覧402では、推定対象となる推定時間の粒度403(例えば、
図4に示す、日、時、秒)、日時404、路線405、推定する位置間隔406、無線システム407、無線端末408、鉄道アプリケーション409を設定する。また、この設定一覧402には、通信品質推定装置203における処理方法を決定するために、鉄道システムにおいて取得可能な無線通信指標410、受信電力推定設定411および割り当てリソース数推定設定412を有する。
【0037】
推定に使用する過去の記録データ414は、日時と受信電力とで紐づけられた表、日時と割り当てリソース数とで紐づけられた表および日時とスループットとで紐づけられた表が出力される。
【0038】
無線通信指標の推定結果415は、キロ程方向(列車が走行する方向)における、列車(車上無線局)位置と推定した受信電力を示すグラフ、列車(車上無線局)位置と推定した割り当てリソース数を示すグラフおよび列車(車上無線局)位置と推定したスループットを示すグラフが表示される。
【0039】
図5は、通信品質推定装置203が有するDB記録装置205の構成の一例を示すブロック図である。
DB記録装置205は、受信電力記録部503、スループット記録部504、割り当てリソース数記録部505、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508から構成される。
【0040】
受信電力記録部503は、鉄道アプリ無線通信情報501と列車運行情報502を入力とし、受信電力DB506に対して、スループット推定装置204で受信電力を推定するために必要な情報を出力し記録する。
【0041】
図6は、実施例1における受信電力、割り当てリソース数およびスループットを推定するために必要な情報のデータ構成の一例601、602および603を示す図である。
【0042】
図6の上段には、受信電力を推定するために必要な情報として受信電力DB506のデータ構成の一例601を示す。受信電力DB506には、日時、路線、無線システム情報、無線端末および受信電力(実測値)が格納される。例えば、データ構成601の1行目は、日時「2022/1/1」において、路線「路線A」に存在する無線システム「LTE」を活用した「無線端末X」の受信電力が「-110(dBm)」であることを示す。
【0043】
割り当てリソース数記録部505は、鉄道アプリ無線通信情報501と列車運行情報502を入力とし、割り当てリソース数DB508に対して、スループット推定装置204で割り当てリソース数を推定するために必要な情報を出力し記録する。
【0044】
図6の中段には、割り当てリソース数を推定するために必要な情報として割り当てリソース数DB508のデータ構成の一例602を示す。割り当てリソース数DB508には、日時、路線、無線端末、無線システム情報、鉄道アプリの種類、伝送方向および割り当てリソース数(実測値)が格納される。例えば、データ構成602の1行目は、日時「2022/1/1」において、路線「路線A」に存在する無線システム「LTE」を活用した鉄道アプリ「列車制御」を、伝送方向として「下り(Down Link)」方向へ伝送する「無線端末X」に割り当てられたリソース数が「10」であることを示す。
【0045】
スループット記録部504は、鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502、受信電力記録部503から出力された日時に紐づけられた受信電力および割り当てリソース数記録部505から出力された日時に紐づけられた割り当てリソース数を入力とし、スループットDB507に対して、スループット推定装置204でスループットを推定するために必要な情報を出力し記録する。
【0046】
図6の下段には、スループットを推定するために必要な情報としてスループットDB507のデータ構成の一例603を示す。スループットDB507には、日時、路線、無線端末、無線システム情報、鉄道アプリの種類、伝送方向、受信電力、割り当てリソース数およびスループット(実測値)が格納される。例えば、データ構成603の1行目は、日時「2022/1/1」において、路線「路線A」に存在する無線システム「LTE」を活用した鉄道アプリ「列車制御」を伝送する「無線端末X」の受信電力が「-110(dBm)」、割り当てられたリソース数が「10」、スループットが「0.03M(bps)」であることを示す。
【0047】
ここで、鉄道アプリ無線通信情報501および列車運行情報502について説明する。
鉄道アプリ無線通信情報501は、規定された時間毎に、位置、日時、端末種類、伝送方向、無線システム情報、受信電力、割り当てリソース数およびスループットを収集した情報である。なお、日時、端末種類、伝送方向、無線システム情報、受信電力、割り当てリソース数およびスループットの発出元については、特には限定されない。例えば、鉄道アプリ伝送装置101から発出されてもよいし、無線端末104から発出されてもよい。また、位置の発出元についても、特には限定されない。例えば、GPS機器を用いる、レール上の物理的位置をセンサから読み取る、列車運行情報502である運行ダイヤ情報を用いる、のいずれでもよい。
【0048】
列車運行情報502は、鉄道路線の地理的情報、運行ダイヤ情報および乗車率を収集した情報である。なお、地理的情報と運行ダイヤ情報の取得元については、特には限定されない。例えば、鉄道運行を管理しているシステムでもよい。
【0049】
また、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508に記録する路線情報は、伝搬路を分類するための指標の一例である。そのため、他分類を用いてもよい。例えば、通信エリア、所属するセルIDまたは人口密度で分類した伝搬シナリオなどを用いてもよい。
【0050】
図7は、実施例1の通信品質推定装置203が有するスループット推定装置204の構成の一例を示すブロック図である。
スループット推定装置204は、受信電力推定部701、スループット推定部703、割り当てリソース数推定部702、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508を有する。
【0051】
受信電力推定部701は、鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502および受信電力DB506から出力された必要な日時に紐づけられた受信電力情報を入力とし、スループット推定部703に対して受信電力の推定値を出力する。
【0052】
割り当てリソース数推定部702は、鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502、割り当てリソース数DB508から出力された必要な日時に紐づけられた割り当てリソース数情報を入力とし、スループット推定部703に対して割り当てリソース数の推定値を出力する。
【0053】
スループット推定部703は、鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502、受信電力推定部701から出力された受信電力の推定値、割り当てリソース数推定部702から出力された割り当てリソース数の推定値およびスループットDB507から抽出した必要な日時に紐づけられたスループット情報を入力とし、スループットの推定値を出力する。
【0054】
図8は、実施例1のDB記録装置205が有する、受信電力記録部503、スループット記録部504または割り当てリソース数記録部505それぞれによる全体の処理手順をフローチャートで示す図ある。以下、各処理ステップの動作態様について説明するが、動作主体は、受信電力記録部503、スループット記録部504または割り当てリソース数記録部505のいずれかであるので、各処理ステップにおける動作主体の記載は省略する。
【0055】
ステップS801:鉄道アプリ伝送装置101または無線端末104より、推定対象となる日時および位置に紐づけられた鉄道アプリ無線通信情報を取得する。取得する情報の種類は、各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に格納するデータ構成に依存する。例えば、受信電力記録部503の場合には、本ステップの鉄道アプリ無線通信情報501として、日時、路線、無線システム情報、無線端末および受信電力を取得する。
【0056】
ステップS802:鉄道運行に関するシステムから、列車運行情報として、鉄道路線の地理的情報、列車の位置情報および伝搬路の環境情報を取得する。
【0057】
ステップS803:ステップS801とステップS802より、推定対象となる位置の伝搬路分類を決定する。
ここで、伝搬路分類とは、伝搬路の環境を分類するものである。例えば、路線名や田舎か都市か市街地かといった粒度で、推定対象の位置分類をするものである。結果として、スループットを推定する際に、過去に同一の伝搬路分類のデータが記録されていなくとも、伝搬路の環境に近い伝搬路分類のデータを用いてスループットの推定が可能となる。なお、伝搬路分類の決め方としては、あらかじめ鉄道路線ごとに設定してもよいし、列車ダイヤと取得したデータに紐づけられた時刻とを比較して決定してもよい。
【0058】
ステップS804:ステップS801より取得した情報を、各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に格納するために、データを加工する。
具体的には、小数点の桁数や単位をそろえる処理をする。例えば、受信電力記録部503では、ステップS801より取得したデータの受信電力の値が「-112.34」であるため、受信電力DB506では整数値で記録する規則となっていた場合、小数点以下を切り捨てて受信電力の値を「-112」とする。
【0059】
ステップS805:ステップS804で加工したデータの日時と伝搬路分類とに合致する、各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に記録された過去のデータが存在するか否かを検索する。合致するデータが有れば(yes)、ステップS806に移り、合致するデータが無ければ(no)、ステップS807に移る。
【0060】
ステップS806:各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に対して、ステップS804で加工したデータの日時と伝搬路分類に相当する情報を用いて更新処理を行う。
【0061】
ステップS807:各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に、ステップS804で加工したデータを記憶するための領域を確保する。
【0062】
ステップS808:ステップS804で加工したデータを、各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)対して追加する。
【0063】
図9は、
図8のステップS806で示すDB更新処理の手順をフローチャートで示す図である。以下、各処理ステップの動作態様について説明するが、動作主体は、受信電力記録部503、スループット記録部504または割り当てリソース数記録部505のいずれかであるので、各処理ステップにおける動作主体の記載は省略する。
【0064】
ステップS901:各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に記録されている更新対象の日時と伝搬路分類のデータを抽出し、推定対象となる受信電力、スループットおよび割り当てリソース数(以下、これらを「無線通信指標」として総称する)の最小値を取得する。
【0065】
ステップS902:ステップS901で取得した無線通信指標の最小値と
図8のステップS804で加工した無線通信指標の実測データとを比較する。このとき、最小値よりも加工したデータの方が、小さい場合には(yes)、ステップS903に移り、大きい場合には(no)、ステップS904に移る。
【0066】
ステップS903:各DB(受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508)に記録されているデータを
図8のステップS804で加工した実測データに更新する。
【0067】
ステップS904:ステップS804で加工した実測データにより更新することなくこの実測データを破棄する。
【0068】
図10は、実施例1のスループット推定装置204が有する受信電力推定部701、スループット推定部703または割り当てリソース数推定部702それぞれによる全体の処理手順をフローチャートで示す図ある。以下、各処理ステップの動作態様について説明するが、動作主体は、受信電力推定部701、スループット推定部703または割り当てリソース数推定部702のいずれかであるので、各処理ステップにおける動作主体の記載は省略する。また、始めの3つの処理ステップは、
図8に示すフローチャートの始めの3つの処理ステップ(S801からS803)と同様であるので、それらの説明も省略する。
【0069】
ステップS1001:データの日時と伝搬路分類とが合致する各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に記録された過去のデータが存在するか否かを検索する。合致するデータが有れば(yes)、ステップS1002に移り、合致するデータが無ければ(no)、ステップS1004に移る。
【0070】
ステップS1002:各DB(受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508)に記録された過去のデータを基にして、受信電力、割り当てリソース数またはスループットの推定値を取得する。この推定処理については、
図11を用いて後述する。
【0071】
ステップS1003:ステップS1002で取得した、受信電力、割り当てリソース数またはスループットの推定値を出力する。
【0072】
ステップS1004:ステップS803で決定した伝搬路分類の指定範囲をより広めることが可能かを判断する。伝搬路分類の指定範囲をより広めることが、可能であれば(yes)、ステップS1005に移り、不可能であれば(no)、ステップS1006に移る。
【0073】
ここで、伝搬路分類の指定範囲を広めることとは、例えば、ステップS803で伝搬路分類として「路線A」かつ「都会」という情報を持ち、ステップS1001で該当する情報が各DB上に存在しなかった場合に、「都会」という条件をなくし「路線A」のみの条件で、再びステップS1001の実行を試みることを意味する。
【0074】
この結果、推定精度が劣化する一方で、過去のデータが存在しない路線や環境でもスループットの推定を可能とする。伝搬路分類の指定範囲を広められる範囲は、各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に記録されたデータ構成に依存することになる。
【0075】
ステップS1005:指定対象の伝搬路分類の指定範囲を広める更新を行う。
ステップS1006:ステップS1006までの処理ステップによってもスループット推定が不可能であるため、推定不可能である結果を出力する。
【0076】
図11は、
図10のステップS1002で示す推定処理の手順をフローチャートで示す図ある。以下に、各処理ステップの動作態様について説明するが、動作主体は、受信電力推定部701、スループット推定部703または割り当てリソース数推定部702のいずれかであるので、各処理ステップにおける動作主体の記載は省略する。
【0077】
ステップS1101:各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)から、推定対象となる日時および伝搬路分類と合致する情報を取得する
【0078】
ステップS1102:ステップS1101より抽出したデータから、受信電力、スループットまたは割り当てリソース数の最小値を取得し、その値を推定値とする。
【0079】
以上、実施例1として、汎用無線システムを活用した鉄道システムの設計を目的とするスループットの推定対象の時間単位を日単位とした上で、次の3項目の推定を行う処理例について説明した。鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502および受信電力DB506を用いて、過去に記録した受信電力に関する情報から、受信電力を受信電力推定部701で推定する。また、鉄道アプリ無線通信情報501、列車運行情報502および割り当てリソース数DB508を用いて、過去に記録した割り当てリソース数に関する情報から、割り当てリソース数を割り当てリソース数推定部702で推定する。さらに、それら受信電力および割り当てリソース数の推定値、スループットDB507より過去に記録したスループットに関する情報、鉄道アプリ無線通信情報501および列車運行情報502から、スループットをスループット推定部703で推定する。
【0080】
実施例1では、スループットが影響を受ける周辺環境の要因である伝搬路環境と推定対象外の無線端末による通信量の変化とをそれぞれ受信電力および割り当てリソース数の変化を考慮することにより、スループットを推定することができる。
【0081】
これにより、伝搬路における遮蔽物の変化や推定対象以外の無線端末による通信量の変化が大きい環境でも、推定精度が劣化することなくスループットをできる。また、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508と時間変化する粒度の異なる各無線通信指標とを別々のDBとしてデータを記録し、推定に用いることによって、周辺環境の変化により追従したデータの更新が可能となる。
【0082】
なお、実施例1では、伝搬路の環境情報を示す指標として受信電力を用いたが、他の伝搬路の環境情報を示す指標を用いてもよい。例えば、信号対干渉プラス雑音電力比(SINR)、チャネル品質指標(CQI)またはMCS(Modulation and Coding Scheme)を用いる。
次に、本発明に係る実施例2について説明する。ただし、実施例2の説明に当たっては、実施例1と異なる点に絞る。実施例2において特に言及しない点については、実施例1と同様である。
実施例2も、汎用無線システムを活用した鉄道システムを運用することを目的としたスループットの推定を想定しているが、推定対象の時間単位が実施例1の日単位よりも細かい時間単位(一例として、秒単位)である例を示す。
なお、各DBへ格納するデータ構成として、上記した周辺環境の影響を考慮する時刻と伝搬路分類以外にも、周辺の環境情報を用いてもよい。また、伝搬路の天気情報、周辺施設のイベント情報および列車遅延の発生情報を記録してもよい。
ここで、外れ値判定フラグとは、過去T時間に記録したところの、実測した受信電力または割り当てリソース数の実測値から外れ値か否か示す値である。外れ値判定フラグが外れ値でない実測値のみを受信電力および割り当てリソース数の推定に用いることにより、推定対象となる伝搬環境の内、無線通信指標が最も悪いエリアによる影響や一時的な通信品質劣化の影響を除外することができる。また、併せて、スループットの推定にも、外れ値判定フラグが外れ値でない実測値のみである受信電力および割り当てリソース数を用いることから、同様の効果が得られるので、通信プラットフォーム202による通信制御の可用性を向上させることが可能となる。
なお、外れ値判定フラグとしては、過去T時間とするのではなく、平日か祝休日であるか否か、あるいは曜日といった単位としてもよい。この場合、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508へ記録する日時情報には、暦情報(例えば、曜日情報、平日か休日かの識別情報など)を追加で記録する。
ステップS1301:各DB(受信電力DB506、スループットDB507または割り当てリソース数DB508)に記録されている伝搬路分類の内、過去T時間の更新対象の日時となるデータを抽出し、無線通信指標(受信電力、スループットまたは割り当てリソース数)を取得する。
ステップS1302:ステップS1301で取得した無線通信指標の各値に対して、外れ値判定のための統計処理を行う。ここで、外れ値判定のための統計処理としては、例えば、四分位範囲やスミルノフ・グラブス検定などを用いた方法があるが、どの手法を用いてもよい。
ステップS1303:ステップS1301で取得した無線通信指標の各値の内、外れ値でない無線通信指標(受信電力、スループットまたは割り当てリソース数)の最小値を取得する。
ステップS1305:ステップS1303で取得した最小値とステップS804で加工したデータとを比較し、最小値よりも加工したデータの方が、小さい場合(yes)には、ステップS1306に移り、大きい場合(no)には、ステップS1307に移る。
ステップS1404:ステップS1401で取得した受信電力と、ステップS1402で取得した受信電力に関するデータの内からステップS1401で取得した受信電力の時刻に最も近い時刻の受信電力とを比較し、両者の誤差率を補正係数として取得する。
ステップS1405:ステップS1403より取得した受信電力の最小値に対して、ステップS1404で取得した補正係数(誤差率)を用いて補正した値を、推定値として取得する。
ステップS1502:割り当てリソース数DB508から、推定対象日時の過去T時間における推定対象となる伝搬路分類の割り当てリソース数に関するデータを取得する。
ステップS1504:割り当てリソース数DB508から、ステップS1502で取得したデータとは異なり、推定対象日時の過去T時間における推定対象となる他の伝搬路分類のデータを取得する。例えば、「路線A」の伝搬路環境の過去のデータと異なる場合には、「路線B」の伝搬路環境の過去のデータを取得すればよい。
以上、実施例2は、受信電力DB506、スループットDB507および割り当てリソース数DB508のDB更新処理(ステップS806)として、外れ値か否かを判定し記録することを特徴とする。これにより、推定対象となる日時の粒度を実施例1よりも細かくできるため、瞬時的に通信品質が劣化する影響を受ける鉄道アプリの可用性を向上させることができる。
また、実施例2では、受信電力推定部701において、過去の受信電力と推定対象となる日時および位置に紐づけられた受信電力とから得た補正係数を用いて受信電力を推定する。さらに、実施例2では、割り当てリソース数推定部702において、推定対象となる乗車率と過去の乗車率とを用いて割り当てリソース数を推定する。これらにより、推定対象となる位置および時刻のスループット推定に必要な情報が不十分であっても、高精度にスループット推定が可能となる。
さらに、DB更新処理(ステップS806)として、実施例2では外れ値を用いる方法を採用したが、この方法に限定されるものではない。受信電力、割り当てリソース数およびスループットの各データ特性が変化する影響を考慮するために、推定対象の日時(時刻)に近いデータに対して重みを指定し重み付けをする。この重み付けを考慮した統計処理を行い(例えば、直近の重みを大きくした形で移動平均をとるなど)、統計処理した値を推定値として取得する方法を用いることができる。