(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173650
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】制御装置、制御システム、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B21B 37/18 20060101AFI20231130BHJP
B21B 37/54 20060101ALI20231130BHJP
B21C 47/00 20060101ALI20231130BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B21B37/18 110A
B21B37/54
B21C47/00 E
B21B37/00 261C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086058
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 哲
(72)【発明者】
【氏名】高田 敬規
(72)【発明者】
【氏名】田内 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大輝
(72)【発明者】
【氏名】綿島 正剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆
【テーマコード(参考)】
4E026
4E124
【Fターム(参考)】
4E026AA03
4E026AA12
4E026AA18
4E124AA07
4E124BB03
4E124BB06
4E124EE02
4E124EE11
4E124FF01
(57)【要約】
【課題】制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができる制御装置、制御システム、制御方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】予め定められた制御対象の状態量を取得する制御対象状態把握装置601と、登録制御系615B~615Zへ入力する入力データと、登録制御系615B~615Zの何れかから制御対象500へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量およびこの関係を基に制御対象500を制御する登録制御系を選択する制御系切替装置602と、を備える制御装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた制御対象の状態量を取得する取得手段と、
制御系へ入力する入力データと、制御系から前記制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した前記状態量および前記関係を基に前記制御対象を制御する制御系を選択する選択手段と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記入力データおよび前記出力データは、それぞれ複数存在し、
前記関係は、複数の前記入力データの少なくとも1つと、複数の前記出力データの少なくとも1つとを関連付ける請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記選択手段は、関連付けられた、前記入力データと前記出力データとの組み合わせを基に、前記制御対象を制御する制御系を選択する請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記選択手段は、前記制御対象が製造する製品に関する情報をさらに入力データについての情報に加え、前記制御系を選択する請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記製品に関する情報は、製品の生産スケジュールの情報を含む請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記選択手段は、前記製品に関する情報を基に、製品の種類を定義する情報である製品情報、および前記制御対象の状態量に与える要因として状態変動要因と、状態変動要因に対する前記制御対象の状態量が変化する変動量の大小に関する情報とを含む製品特性を基に、前記制御系を選択する請求項4に記載の制御装置。
【請求項7】
前記選択手段は、通常使用される制御系である汎用制御系と、予め定められた目的を有する制御系である登録制御系の中から選択する請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記入力データと前記出力データとを基に、予め定められた調整方法により当該登録制御系による制御方法の調整をする請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記選択手段は、前記登録制御系により前記制御対象の調整を行っているときに、制御に異常を検出したときは、前記汎用制御系に切り替える請求項7に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御対象を制御する制御方法は、複数の制御方法からなり、
前記選択手段は、前記複数の制御方法のそれぞれで、前記汎用制御系および前記登録制御系の中から選ばれる制御系を選択する請求項7に記載の制御装置。
【請求項11】
前記制御対象は、圧延機より圧延される被圧延材の板厚であり、
前記制御系は、ミル速度と入側テンションリールの速度との比率、および前記ミル速度の少なくとも一方を制御することで、前記板厚を制御する請求項1に記載の制御装置。
【請求項12】
予め定められた制御対象と、
前記制御対象に適用する制御系を選択する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記制御対象の状態量を取得する取得手段と、
制御系へ入力する入力データについての情報と、前記制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した前記状態量および前記関係を基に前記制御対象を制御する制御系を選択する選択手段と、
を備える制御システム。
【請求項13】
予め定められた制御対象の状態量を取得し、
制御系へ入力する入力データについての情報と、前記制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した前記状態量および前記関係を基に前記制御対象を制御する制御系を選択する、
制御方法。
【請求項14】
コンピュータに、
予め定められた制御対象の状態量を取得する取得機能と、
制御系へ入力する入力データについての情報と、前記制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した前記状態量および前記関係を基に前記制御対象を制御する制御系を選択する選択機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御システム、制御方法およびプログラムに関する。特に、種々の制御系を適用することができる制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用プラント等の制御対象に対し、製品品質の高度化、操業効率の向上等のため、種々の制御方法による制御が行われている。ある制御方法は、制御対象となる産業用プラントの全ての状態に対して常に最良という訳ではなく、特定の状態下で最良である場合がほとんどである。産業用プラントの状態は常に変化するため、同じ制御目的であっても、複数の制御方法を準備し、産業用プラントの状態に応じて制御方法を変更することが必要である。また、制御性能の向上のため新たな制御方法を開発し適用していくことで、さらなる製品品質の高度化、操業効率の向上が期待できる。
【0003】
一般に、産業用プラントにおける、一つの制御対象に対する制御は、単一メーカが担っているため、他メーカが新制御方式を開発した場合、それを適用するのは困難である。そのため産業用プラントにおける制御はその時点で最高の状態とすることはできないことが多い。
産業用プラントとして、例えば、被圧延材である金属板を圧延する圧延機が知られている。圧延機は、被圧延材を送出し、巻取るためにテンションリールを用い、巻出した被圧延材を一対のロール間に通すことで圧延する。このような圧延機には、例えば、ロール対の間隔を制御する板厚制御とテンションリールの速度(実際には電動機の電流)を制御する張力制御が、従来より適用されている。しかし、ある圧延条件下では、テンションリールから被圧延材を送り出す速度を調整する板厚制御とロール対の間隔を制御する張力制御等の制御系のほうが制御効果が高いことから、両者を切換えて使用することで制御効果を最大限にすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、箔の様な極薄材を圧延する場合は、圧延速度によるロールの熱膨張も用いた制御を行うことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-113629号公報
【特許文献2】特開2020-104165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧延機等の制御対象に対する制御方法としては、多数のメーカが各々特徴を持つ制御用計算機を用いて種々の制御対象に対して提供しており、この制御方法を他社製の機器に適用しにくい。即ち、知財財産権の問題や、他社製の制御用計算機に容易に適用できないという問題がある。
また、新たな制御方法を適用する場合、その制御方法の目的(制御対象がある状態の場合に効果的である等)に応じて、制御対象の状態を見ながら試験的に適用し、効果を見極めながら制御方法の調整を実施していく必要がある。現状は、人が制御対象の状態を確認しながら、実施しており、人手がかかる作業となっている。
本発明は、制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができる制御装置、制御システム、制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため本発明は、予め定められた制御対象の状態量を取得する取得手段と、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量および関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する選択手段と、を備える制御装置を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、予め定められた制御対象と、制御対象に適用する制御系を選択する制御装置と、を有し、制御装置は、制御対象の状態量を取得する取得手段と、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量および関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する選択手段とを備える制御システムを提供するものである。
【0008】
さらに、本発明は、予め定められた制御対象の状態量を取得し、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量および関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する、制御方法を提供するものである。
【0009】
またさらに、本発明は、コンピュータに、予め定められた制御対象の状態量を取得する取得機能と、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量および関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する選択機能と、を実現させるためのプログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができる制御装置を提供できる。
請求項2に記載の発明によれば、制御系の変更が、より容易になる。
請求項3に記載の発明によれば、制御系の選択が、より容易になる。
請求項4に記載の発明によれば、より適した制御系を選択することができる。
請求項5に記載の発明によれば、製品に関する情報を、より容易に取得することができる。
請求項6に記載の発明によれば、より適した制御系を選択することができる。
請求項7に記載の発明によれば、通常使用される制御系である汎用制御系を使用しつつ、さらに製品の改善が期待される登録制御系を併せて使用できる。
請求項8に記載の発明によれば、登録制御系の制御の精度を向上させることができる。
請求項9に記載の発明によれば、登録制御系を使用しているときに、異常が生じたときでも、汎用制御系に切り替えることで製品の品質を維持できる。
請求項10に記載の発明によれば、それぞれの制御方法に適した制御系を選択できる。
請求項11に記載の発明によれば、圧延機の板厚の制御の精度が向上する。
請求項12に記載の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができる制御システムを提供することができる。
請求項13に記載の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができる制御方法を提供することができる。
請求項14に記載の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、制御対象に対し、種々の制御系を、より適用しやすくすることができるプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態における制御システムの全体構成を示す概念図である。
【
図2】制御システムの全体構成をさらに詳しく示した概念図である。
【
図3】本実施の形態の制御システムの機能構成について示したブロック図である。
【
図4】登録制御系DBに登録されるデータの内容を示した図である。
【
図5】制御系選択DBに登録されるデータの内容を示した図である。
【
図6】制御システムの動作フローを示した図である。
【
図7】登録制御系実行装置で行う処理の概要を示した図である。
【
図8】各登録制御系のそれぞれについて、登録制御系DBに登録される入力データおよび出力データを示した図である。
【
図9】第2の実施形態における制御システムについて示した概略図である。
【
図10】登録制御系DBの中で、登録されるデータの内容を示した図である。
【
図11】登録制御系DBの中で、登録されるデータの内容を示した図である。
【
図12】制御系選択DBに登録される内容を示した図である。
【
図13】制御系切替装置が登録制御系の使用可否を判断するフローを示した図である。
【
図14】登録制御系を適用した場合の制御系調整装置の動作を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態について、第1の実施形態~第2の実施形態により、詳細に説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
ここではまず、本実施の形態が適用される制御システムSの第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、制御システムSは、一般的な産業用プラントである制御対象プラント510を制御対象500とする。そして、制御システムSに備えられる制御装置511が、この制御対象プラント510に適用する制御系501を、汎用制御系614および登録制御系615B~615Zの中から選択する場合について説明する。なお、以下、登録制御系615B~615Zのそれぞれを区別しない場合は、単に、登録制御系615と言うことがある。
【0014】
<制御システムSの全体構成の説明>
図1は、第1の実施形態における制御システムSの全体構成を示す概念図である。
一般的にプラント制御は、制御対象500の状態量と指令値の偏差を用いて制御系501により制御演算を行い、制御指令を制御対象500に与えることで実施される。制御対象500は、複数の種類からなる状態量および制御操作端を持ち、制御系501はそれらを組み合わせて制御を実施する。
ここで、「状態」とは、制御対象500自身の状態や制御対象500により製造される製品の状態を表す。制御対象500自身の状態は、例えば、操業速度、操業温度などが該当する。また、制御対象500により製造される製品の状態とは、例えば、製品の温度、寸法などの状態である。製品の状態は、制御対象500が圧延機で、圧延鋼板を製造する場合、圧延鋼板の板厚などが該当する。「制御対象500の状態量」は、この状態を数値化したものである。「制御対象500の制御操作端」とは、制御対象500の中で制御指令を受け付ける部分である。
【0015】
制御対象500は、例えば、後述する制御対象プラント510であり、種々の製品を製造可能な産業用プラントである。制御対象500では、製造する製品や操業条件により、上記状態が変化する。「操業条件」は、例えば、製造速度や製造温度といった産業用プラントの機械的条件である。そして、制御対象500の状態が変化した場合、それに応じて制御系501はそれに応じて制御方法を変更する。制御方法の変更としては、制御方法そのものの変更の他、制御ゲインの変更がある。制御方法そのものの変更としては、例えば、比例制御、積分制御、微分制御等の組合せや、状態量と制御操作端の組合せを変更する場合などが該当する。
制御対象500の状態に応じて、制御方法を変更することで、制御対象500で製造される製品の価値向上や製造効率の向上が可能となる。そのため、メーカは、常に新たな制御方法となる制御系501を開発している。
【0016】
図2は、制御システムSの全体構成をさらに詳しく示した概念図である。
図示するように、制御システムSは、予め定められた制御対象500の一例である制御対象プラント510と、制御系501を選択・実行する制御装置511と、制御対象プラント510を操作する操作端作動装置512と、制御対象プラント510の状態量を検出する状態量検出装置513とを備える。
この場合、状態量検出装置513は、制御対象プラント510の状態量を検出する。そして、制御装置511の制御系501が制御演算を行い、制御指令を操作端作動装置512に出力する。さらに、操作端作動装置512が、制御対象プラント510の制御操作端に対し制御指令を送り、制御対象プラント510を操作する。この制御システムSでは、制御系501は、制御系-1~制御系-nのn通りあり、検出された制御対象プラント510の状態に応じて、制御装置511が何れかの制御系501を選択し、実行する。
【0017】
以下、まず、従来の制御システムSの運用について説明を行う。
一般的に、ある制御対象プラント510に対しては、制御装置511は、1つのメーカのものが使用される。また、制御目的に応じて、制御系501で必要となる制御対象プラント510の状態量および制御指令が異なる。そのため、複数の制御目的に応じて、制御装置511として、異なるメーカのものが使用される場合もあるが、通常は、1つの制御目的に対応する制御装置511は、1つのメーカのものが使用される。また、制御装置511は、制御対象プラント510の納入時に制御系501を組み込んだ形で納入され、その後は、制御装置511のメーカが、制御系501の更新等を行うことになる。
【0018】
制御系501は、前述したように常に開発が行われており、新しい制御系501が作成される。例えば、新しい制御系501-Nが作成された場合、それを利用することで製品価値向上や製造効率向上が期待される。ただし、制御装置511内に納められている制御系501を新しい制御系501-Nに変更する作業が必要となる。またその場合、制御系501-Nの有効性の検証や最良の制御ゲインの調整、使用可能な制御対象プラント510の状態量の範囲等を検証する必要がある。
【0019】
制御対象プラント510は、通常は製品製造のため操業しており、新しい制御系501-Nを検証するには、この検証の実施による製品への影響をなるべく回避する必要がある。そのため、制御対象プラント510の操業状態、製品製造計画等から、新しい制御系501-Nの検証が可能な期間を見つけ、その期間に従来の制御系501を、新しい制御系501-Nに入れ替え、その効果や制御ゲイン、使用可能範囲等の検証を実施する必要がある。そして、現状として、新しい制御系501-Nを検証するのは、熟練した操業技術者や制御技術者等の技術者が行っている。制御対象プラント510は、24時間365日稼働している場合が多いため、新しい制御系501-Nの検証が夜間休日等となる場合もあり、技術者への負担が大きい。
【0020】
ある制御対象プラント510の制御装置511を製造できるメーカは、通常は複数存在する。しかし、現状使用している制御装置511のメーカと異なるメーカが開発した新しい制御系501-Nを、この制御装置511に入れ替えるのは、制御装置511の内部構造等の把握が必要なことから、困難であるという問題がある。そのため、従来は、制御対象プラント510に対し、最新の制御系501として制御系501-Nが開発されても、これを導入することが困難であった。
【0021】
そこで、本実施の形態の制御装置511では、以下に説明する方法を用いて、この問題の解決を図る。
即ち、本実施の形態の制御装置511では、他メーカの開発した新しい制御系501-Nも含め、他の制御系501を容易に導入可能である。また、本実施の形態の制御装置511では、新しい制御系501-Nを含む他の制御系501の導入や調整を、技術者等の負担を低減しつつ実施可能である。
【0022】
図3は、本実施の形態の制御システムSの機能構成について示したブロック図である。
図示する制御システムSは、制御対象500と、制御装置511と、制御対象状態把握装置601と、制御系切替装置602と、制御系調整装置603と、制御系選択DB(データベース)604と、登録制御系DB605と、異常判定装置606と、生産計画装置609と、調整結果DB621と、を備える。
制御対象500および制御装置511は、上述した場合と同様である。即ち、制御対象500は、一般的な制御対象プラント510である。また、制御装置511は、制御系501を選択・実行する装置である。
制御対象状態把握装置601は、制御対象500の状態量を取得し、制御対象500の状態を把握する。
制御系切替装置602は、制御系501を切り替える。詳しくは後述するが、ここでは、制御系501として、汎用制御系614および登録制御系615B~615Zが用意され、制御系切替装置602は、制御系501をこの中から選択し、切り替える。
制御系調整装置603は、制御系501の調整を行う。即ち、制御ゲインの調整などを行う。この場合、制御系調整装置603は、主に登録制御系615B~615Zの調整を行う。
制御系選択DB604は、制御対象500の状態を定義するための情報を登録する。
登録制御系DB605は、登録制御系615B~615Zのそれぞれが必要とする、入力データおよび出力データを登録する。
異常判定装置606は、制御対象500や制御対象500により製造される製品に異常が生じたか否かを判定する。
生産計画装置609は、制御対象500により製造される製品の生産スケジュールを格納する。
調整結果DB621は、制御系調整装置603が行った制御系501の調整の結果を格納する。
【0023】
また、制御装置511は、入力データ接続装置611と、制御出力切替装置612と、出力データ接続装置613と、汎用制御系614と、登録制御系615B~615Zと、を備える。
【0024】
入力データ接続装置611は、制御系501に対し、入力データを提供する。この場合、汎用制御系614および登録制御系615B~615Zの中から選択された1つ以上の制御系501に対し、入力データを提供する。
制御出力切替装置612は、制御対象500に適用する制御系501を切り替える。この際に、制御出力切替装置612は、制御対象500に対し、その制御指令を出力する。
出力データ接続装置613は、制御系501から、出力データを受け付ける。
汎用制御系614は、通常使用する制御系501である。汎用制御系614は、制御対象500に対し、実績のある制御系(比例積分制御等)とし、制御装置511は、通常は汎用制御系614にて制御対象500の制御を実施する。
登録制御系615は、汎用制御系614の制御機能を改善することを目的として予め登録された制御系である。登録制御系615には、複数の制御系501を予め登録しておくことが可能である。ここでは、各々の登録制御系615を識別するため、登録制御系615x(xには、適当な記号を割り当てる。ここでは、B~Zを割り当てるものとする)と図示している。なお、入力データ接続装置611と、出力データ接続装置613と、登録制御系615とを、登録制御系615を実行する装置として、登録制御系実行装置620と言うことがある。そして、制御系切替装置602にて、汎用制御系614の替わりに登録制御系615B~615Zの何れかを使用することが決定された場合には、汎用制御系614は制御を停止し、登録制御系実行装置620が、選択された登録制御系615にて制御対象500の制御を実施する。
【0025】
<制御システムSで使用されるデータの詳細説明>
図2で説明したように、状態量検出装置513は、制御対象プラント510の状態量を検出する。そして、制御装置511の制御系501が制御演算を行い、制御指令を操作端作動装置512に出力する。さらに、操作端作動装置512が制御対象プラント510を操作する。この場合、入力データを、状態量検出装置513の出力とし、出力データを、操作端作動装置512の入力とし、制御対象プラント510が制御される。
【0026】
これらの入力データおよび出力データは、制御系501の目的に応じて決まる。入力データは、例えば、状態量検出装置513から出力されるデータである。また、出力データは、操作端作動装置512へ入力するデータである。従って、必要な入力データおよび出力データを制御装置511に接続するようにすることで、制御系501を入れ替えることが可能となる。
【0027】
そこで、本実施の形態では、登録制御系615B~615Zのそれぞれが必要とする入力データおよび出力データを、予めデータベースである登録制御系DB605に登録しておく。そして、登録制御系DB605と入力データ接続装置611とを接続する。これにより、入力データ接続装置611に出力する入力データを設定する。
また、登録制御系DB605と、出力データ接続装置613とを接続する。これにより、出力データ接続装置613から出力される出力データを設定する。
【0028】
さらに、制御対象500の制御を実施する上で、制御ゲイン計算や制御タイミング決定等に必要となる情報もあるので、登録制御系DB605は、これらの情報もともに登録する。これらの情報は、例えば、制御対象500の機械特性や検出器、制御操作端の仕様、インターロック条件、製造製品仕様等である。なお、以下、これらの情報を、「プラント情報」と言うことがある。そして、このプラント情報も入力データとする。また、制御系501の動作確認のためには、制御操作端に対する出力の他に、制御系501の内部状態量が必要となる。そのため、登録制御系DB605には、制御操作端への制御出力(制御指令)の他、制御系501の内部状態量を登録できるようにしておく。なお、これらのデータは、制御系501の解析に必要なデータとして、制御系調整装置603でも見ることができるようにしてもよい。
【0029】
制御対象500の制御においては、定常偏差除去特性(制御モデルの定常誤差を除去、外乱がステップ状やランプ状に変化する場合に対応)、周波数特性(制御対象および検出器、制御操作端の周波数特性を改善)、外乱除去特性(制御系の対する外乱を打ち消す)等が性能評価にとって必要である。これらを全て改善するような特性を制御系501に持たせるのは困難であるため、通常は1つまたは複数の特性を改善するように制御系501の開発を実施する。
【0030】
制御対象500に対する外乱の発生状況や、状態量の変動要因および周波数特性等は、調査可能であり概略が判明している場合が多い。そこで、制御対象500の状態量や生産スケジュールから、必要とされる制御特性を定義しておき、制御対象状態把握装置601にて、把握、認識できるようにする。また、制御対象状態把握装置601には、制御対象500の状態量、および生産計画装置609からの生産スケジュールが入力される。生産計画装置609は、制御対象500にて製造される製品の生産状況を管理する装置であり、どのような製品をどのような順番、時間で生産するかを制御対象状態把握装置601に出力する。
【0031】
新たに制御系501を開発した場合、その性能確認および制御ゲイン等の調整作業が必要となる。この場合、制御系501によっては、発振したり発散したりする可能性がある。そのため、最初は製品品質が多少悪化しても問題ない製品や、場合によっては製品品質を問わないテスト用の製品を用いてテストを実施する。そして、制御動作に問題無いことが確認出来たら、徐々に製品材でテストを実施する必要がある。
【0032】
よって、登録制御系615には、予め登録制御系615への入力データ、出力データおよび制御特性を登録しておく。そして、それらの情報を基に、入力データ接続装置611が適切な制御対象500の状態量のデータを登録制御系615に提供する。さらに、適切な制御出力を制御対象500に出力するため、出力データ接続装置613が適切な出力データを受け付ける。
【0033】
また、制御特性として、登録制御系615には、制御系501としての特徴を示す設計仕様(周波数特性、対象とする状態量変動要因等制御系の特性に関する情報)、制御系501の調整仕様(制御ゲインや位相遅れ補正等の制御パラメータの初期設定および調整範囲)もともに登録する。
【0034】
これらの登録制御系615に関する情報は、登録制御系DB605にも登録される。
図4は、登録制御系DB605に登録されるデータの内容を示した図である。
登録制御系DB605には、登録制御系615B~615Zのそれぞれについて、図示するような内容のデータが登録される。ここでは、そのうち1つの登録制御系615の場合について例に取り説明を行う。なお、この内容は、登録制御系DB605のデータ構造であると言うこともできる。
登録制御系DB605には、例えば、入力データとして、どの検出器のデータを使用するかを表す検出器データが登録される。ここでは、検出器として、検出器1、検出器2、…があり、これらの検出器で検出される検出器データとして、登録制御系615に必要なものについては1を、不要なものについては0を設定する。また、登録制御系DB605には、例えば、入力データとしてプラント情報が登録される。プラント情報としては、情報1、情報2、…があり、登録制御系615に必要なプラント情報については1を、不要なものについては0を設定する。
【0035】
そして、登録制御系DB605には、例えば、出力データとして、どの操作端を使用するかを表す操作端データが登録される。ここでは、操作端として、操作端1、操作端2、…があり、登録制御系615が使用する操作端については1を、使用しない操作端については0を設定する。また、登録制御系DB605には、例えば、出力データとして、制御系501の内部情報のうちどの内部情報を使用するかを表す内部情報データが登録される。ここでは、内部情報として、状態量1、状態量2、…があり、登登録制御系615が使用する内部情報については1を、使用しない内部状態については0を設定する。
【0036】
登録制御系DB605は、各登録制御系615のそれぞれに対し入力する入力データ(この場合、検出器1、検出器2、…、情報1、情報2、…)と、登録制御系615から制御対象500へ制御指令を出力する出力先(この場合、操作端1、操作端2、…、状態量1、状態量2、…)の情報を含む出力データとの関係を登録する、と言うことができる。これらの関係は、各登録制御系615のそれぞれに対し、複数通りが予め用意される。なお、図示するように、登録制御系DB605では、入力データおよび出力データはそれぞれ複数存在し、上記関係は、複数の入力データの少なくとも1つと、複数の出力データの少なくとも1つとを関連付ける。そして、制御出力切替装置612は、関連つけられた、入力データと出力データとの組み合わせを基に、制御対象500を制御する登録制御系615を選択する。
【0037】
また、登録制御系DB605には、制御系501の特徴を示す設計仕様として、状態量変動要因、周波数特性、制御系構成等を登録する。状態量変動要因は、どのような状態量変動を制御対象にするのかを定義する。周波数特性は、周波数に対し状態量の減衰効果が得られる制御方式(FF(フィードフォワード)制御、PID制御、オフセット除去機能の有無等)を登録する。
加えて、登録制御系DB605には、制御系501の調整を実施するための調整仕様を登録する。ここでは、制御ゲインや遅れ時間設定等の制御パラメータの調整可能範囲を、状態量の振幅低減やオフセット除去といった調整目的に応じて登録する。
また、登録制御系DB605には、制御系501の調整を実施した結果として、調整状態を登録する。調整状態は、例えば、動作確認済、粗調整済、密調整済の段階である。
【0038】
一方、制御系選択DB604には、制御対象500の状態を定義するための情報を登録する。これにより、制御対象状態把握装置601にて把握された制御対象500の状態に応じて、登録制御系615より、適当な制御系501を選択して使用することができる。
【0039】
図5は、制御系選択DB604に登録されるデータの内容を示した図である。
ここでは、制御系選択DB604として、製品情報、製品特性、設備状態が登録される。なお、この内容は、制御系選択DB604のデータ構造であると言うこともできる。
製品情報は、製品の種類を定義する情報である。ここでは、製品情報として、テスト材、通常材、厳格材の3つのそれぞれに対し、製品条件(製品条件A~C)および許容精度が登録される。登録制御系615を適用して制御系501の調整を実施する場合、製品精度を悪化させる場合がある。そのため、生産する製品の種類を定義しておく必要がある。生産する製品の種類としては、例えば、製品精度が悪化しスクラップとなってもよいようなテスト材なのか、製品精度の許容範囲の広い通常材なのか、許容範囲の狭い厳格材なのかを登録する。また、製品精度の他、制御対象500にダメージを与えるような製品品質とならないような許容精度も予め定義しておく必要がある。
【0040】
また、製品特性は、制御対象500の状態量に与える要因として状態変動要因と、これに対する制御対象500の状態量が変化する変動量の大小に関する情報である。製品により、制御対象500の状態量に与える外乱要因の影響が異なる。よって、制御対象500の状態量に与える要因として、これらの情報を製品特性として登録する。ここで挙げた例としては、要因1による変動大となるような条件を設定する。条件としては、例えば、制御対象設備で生産する製品条件の他、速度等生産状況に関する状態量条件を設定する。また、制御対象となっている状態量の振幅が大きな場合や、オフセット誤差が大きい場合等の条件も同様に登録する。
【0041】
設備状態は、制御対象の運転の状態である。ここでは、設備状態として、修理作業中、停止中、生産運転中の3つがあることが登録される。
【0042】
<制御システムSの動作の詳細説明>
図6は、制御システムSの動作フローを示した図である。
登録制御系実行装置620は、予め登録された複数の登録制御系615B~615Zを実行可能な状態としておくため、入力データ接続装置611および出力データ接続装置613を接続する。各登録制御系615B~615Zの入力データおよび出力データは、登録制御系DB620に予め登録されている。そして、入力データとして、制御対象500の状態量の検出値を入力できるように、接続装置611が、各登録制御系615B~615Zに接続する。さらに、制御対象500の制御操作端に出力する出力データを出力できるように、出力データ接続装置613が、各登録制御系615B~615Zに接続する。
【0043】
制御対象状態把握装置601は、生産計画装置609から、制御対象500で製造する製品に関する情報を取得する。「製品に関する情報」は、例えば、制御対象500で製造する製品の生産スケジュールである。そして、制御対象状態把握装置601は、この製品に関する情報および制御対象500の状態量を用いて、製品条件および状態量条件を作成する(ステップS101)。「製品条件」は、製品の材質、製品精度の許容範囲、出荷先などの条件である。「状態量条件」は、状態量の種類、状態量の許容範囲などの条件である。制御対象状態把握装置601は、予め定められた制御対象500の状態量を取得する取得手段として機能する。
【0044】
次に、制御系切替装置602は、制御対象状態把握装置601にて作成した製品条件および状態量条件より、制御系選択DB604の情報を用いて、
図5で説明した製品情報および製品特性を求める。さらに、制御系切替装置602は、登録制御系DB605に登録されている情報を用いて、各登録制御系615B~615Zの中から、製品情報および製品特性に合致するような登録制御系615を選択する(ステップS102)。具体的には、制御系切替装置602は、例えば、製品情報の製品条件(
図5の例では、製品条件A~C)に合致するような登録制御系615を選択する。また、制御系切替装置602は、例えば、製品情報の許容精度に合致するような登録制御系615を選択する。さらに、制御系切替装置602は、例えば、製品の種類により生じやすい製品特性を抑制できる登録制御系615を選択する。即ち、製品の種類により振幅が生じやすい場合は、これを抑制できる登録制御系615を選択する。さらに、製品の種類によりオフセットが生じやすい場合は、これを抑制できる登録制御系615を選択する。なお、製品情報および製品特性の中の複数条件の組合せや、優先順位等を用いて登録制御系615を選択するようにしてもよい。
制御系切替装置602は、制御対象状態把握装置601が取得した制御対象500の状態量および制御対象500を制御する制御系501を選択する選択手段として機能する。
そして、制御系切替装置602は、適用可能と判断した登録制御系615からの出力を、制御出力切替装置612に出力するように出力データ接続装置613に指示する。
【0045】
次に、出力データ接続装置613は、選択された登録制御系615の出力を、制御出力切替装置612に出力する(ステップS103)。
【0046】
また、登録制御系615B~615Zは、動作確認および調整を実施するときに、動作不良が生じ、制御対象500の制御対象となっている状態量を含む状態量が異常となる場合がある。例えば、制御系選択DB604で、製品情報として設定した許容精度より制御対象500の状態量が悪化した場合等である。その場合は、異常判定装置606が異常を検出し、制御対象500に対する制御出力を、登録制御系実行装置620の出力から、汎用制御系614の出力に切り替える。即ち、選択されていた登録制御系615の出力から、汎用制御系614の出力に切り替える。これにより、制御対象500の操業状態が異常にすることが回避しつつ、登録制御系615の動作確認および調整を実施することが可能となる。
そこで、制御対象状態把握装置601は、異常判定装置606が異常を検出しているか否かを判断する(ステップS104)。
その結果、異常判定装置606が異常を検出しておらず、制御対象状態把握装置601が正常であると判断した場合、制御出力切替装置612は、選択された登録制御系615の出力を制御対象500に出力する(ステップS105)。
【0047】
制御系調整装置603が、選択された登録制御系615の調整が完了しているか否かを判断する(ステップS106)。
その結果、制御系調整装置603が、登録制御系615の調整がまだ完了していない(未完了)と判断した場合、制御系調整装置603は、登録制御系615の調整作業を実施する(ステップS107)。調整作業は、選択された登録制御系615に対し、登録制御系DB605に登録してある調整仕様に基づき行う。例えば、制御系調整装置603は、制御対象500の状態量の振幅が大きい場合は、登録してある制御パラメータ1、制御パラメータ2を調整する。また、例えば、制御系調整装置603は、オフセット誤差の修正に時間を要する場合に、制御パラメータ3、制御パラメータ4を調整する。
【0048】
そして、調整過程の情報(制御パラメータの設定値および制御対象500の状態量の実績値等)は、制御系調整装置603にて収集され、調整結果DB621に保存される。登録制御系615の製作者は、後日、調整結果DB621に保存された調整結果を検討することで、登録制御系615のさらなる性能向上を図ることができる。
【0049】
一方、ステップ104で、異常判定装置606が異常を検出し、制御対象状態把握装置601が異常であると判断した場合、登録制御系実行装置620は、選択された登録制御系615の制御を停止し、汎用制御系614にて制御対象500の制御を実施する(ステップS108)。
【0050】
なお、制御対象500に出力される登録制御系615は1つに限らず、複数の登録制御系615を組み合わせて使用することができる。例えば、FF制御(フィードフォワード制御)、オフセット除去の制御に対し別々の登録制御系615を適用させることができる。そして、別々の制御に適用される各々の登録制御系615の調整を、それぞれ実施することも可能である。この場合、制御対象500を制御する制御方法は、複数の制御方法からなり、制御出力切替装置612は、これら複数の制御方法のそれぞれで、汎用制御系614および登録制御系615の中から選ばれる制御系を選択する、と言うことができる。
制御対象500で生産する製品が変更になり、製品条件、状態量条件が変化した場合は、制御系切替装置602からの指示により、制御系501の切り替えが行われる。このとき、汎用制御系614および登録制御系615B~615Zの中から制御系501が選択される。
【0051】
制御系調整装置603は、登録制御系615の動作確認および調整作業の状態に応じて、登録制御系DB605の調整状態を登録する。調整状態は、例えば、「動作確認済」、「粗調整済」、「密調整済」のそれぞれ意味するフラグで表すことができる。動作確認済は、登録制御系615の出力を制御対象500に出力した結果、制御効果が得られた場合にON(1)にする。また、粗調整済は、ある程度の制御効果が確認できた場合にONにする。そして、密調整済は、汎用制御系614よりも制御効果が大となった場合にONにする。またこれらのフラグは、何れか1つがONになり、他はOFF(0)となる。
【0052】
制御系調整装置603は、登録制御系DB605に登録された調整状態を参照する。そして、制御系調整装置603は、密調整済のフラグがONである場合、調整済みであると判断し、制御系調整装置603による制御系調整作業を中止して、通常の制御系501として使用する。
制御系調整装置603は、登録制御系615の動作状態を監視し、制御効果が減少した場合は、調整状態のフラグを設定しなおす。例えば、制御対象500の状態量として、減衰効果が悪化し、密調整済のフラグをOFFとした場合は、再度、登録制御系615の調整作業が実施されるようになる。一方、制御系調整装置603は、密調整済のフラグがONになっている場合は、制御対象500の状態に応じて、登録制御系615を引き続き使用する。これにより、制御対象500の状態に応じて最適な制御系501を選択することが可能となる。
【0053】
<登録制御系実行装置620の詳細説明>
図7は、登録制御系実行装置620で行う処理の概要を示した図である。また、
図8は、各登録制御系615のそれぞれについて、登録制御系DB605に登録される入力データおよび出力データを示した図である。
図8で示すように、登録制御系DB605には、汎用制御系614および各登録制御系615B~615Zについて、使用する入力データと出力データを登録する。ここでは、制御対象500には、状態量を検出するための検出器1~nとして、検出器550-1~550-nが設置されるとする。また、制御対象500を操作するための操作端1~mとして、551-1~551-mが設置されるとする。また、制御対象500からは、検出器550-1~550-nでの検出値以外の情報1~kとして、情報553-1~553-kがあるとする。情報1~kは、各種設定値の情報などである。
【0054】
ここでは例として、検出器550-1で検出した状態量1を使用する場合を考える。この場合、制御の目標値である状態量1として目標値552-1が予め設定される。そして汎用制御系614や登録制御系615B~615Zには、必須の情報として、制御偏差が算出される。制御偏差は、検出器550-1での検出値と目標値552-1との偏差である。そして、制御偏差は、汎用制御系614や登録制御系615B~615Zに対し、必須の情報であり、無条件にこれら各制御系に入力される。その他の情報は、これら各制御系で使用有無は任意であるため、登録制御系DB605の入力データの欄で使用有無をフラグ(0または1)で定義する。即ち、使用しない場合は、入力データの欄で0として定義し、使用する場合は1として定義する。
図8の例では、登録制御系615B(登録制御系B)は、入力データとして、検出器550-nの出力のみを用いるので、入力データの欄では、検出器nの入力データの欄は1になっている。一方、それ以外の入力データの欄は、0になっている。また、登録制御系615C(登録制御系C)は、入力データとして、検出器550-1および検出器550-2の出力のみを用いる。よって、入力データの欄では、検出器1、2の入力データの欄は1になっているが、他の入力データ欄は0になっている。
さらに、登録制御系615Z(登録制御系Z)では、入力データとして、情報553-1のみを用いる。よって、入力データの欄では、情報1の入力データの欄は1になっているが、他の入力データ欄は0になっている。
【0055】
このように、登録制御系DB605では、汎用制御系614および各登録制御系615B~615Zが、上記情報を入力データとして使用しない場合は、0が設定される。対して、上記情報を入力データとして使用する場合は、1が設定される。
【0056】
登録制御系DB605の情報を基に、入力データ接続装置611では、各検出器550-1~550-nの検出値や情報553-1~553-kの中から選択される入力データを、対応する登録制御系615に入力する。一般的に制御装置511で行う処理は、計算機で実施され、ソフトウェア処理されていることから、この処理を行うソフトウェアを自動的に作成することが可能である。
【0057】
制御対象500は、状態量を変化させるための制御操作端551を複数持つ。
図7では、複数の操作端551として、m個の操作端551-1~551-mを図示している。制御操作端551と状態量との関係は一般に複雑であり、制御操作端551を変化させた影響は複数の状態量に及ぶ。そのため、制御対象500の状態量を制御する場合、制御対象500が操作する制御操作端551が複数となる場合や、制御系により異なる操作端551に対して制御出力を出力する場合がある。そのため、登録制御系DB605には、出力データとして制御操作端551を登録する。登録制御系615は、制御特性に応じて制御出力先の制御操作端551を定義しておく。
【0058】
制御操作端551に対する制御出力として、汎用制御系614および登録制御系615からの出力を切り換えて出力する必要がある。そのため、これらの各制御系の制御出力の差分(1サンプリング前の制御出力との差)を作成し、各制御系の出力の差分を加算し、操作端551に出力する前に積分する必要がある。
これを実現するため、出力データ接続装置613では、以下の処理を実施する。各制御系の出力は、前回出力値との差分を取り、それにゲインをかけて、各操作端551に対する出力を加算する。各登録制御系615が、どの制御操作端551に対して出力するかは、登録制御系DB605の出力データ、出力有無のフラグ(0または1)により決定する。そして、各制御系の出力を差分した後に出力ゲインGXMをかける。ここで、添え字Xはどの制御系であるか(0は汎用制御系614、B~Zは、登録制御系615B~615Zを表す)を表し、添え字Mは、制御操作端551-1~551-mの何れかであるか(例えば、Mが1のときは、制御操作端551-1を表す)を示す。
【0059】
制御出力切替装置612では、汎用制御系614の制御出力と、出力データ接続装置613からの制御出力の切替処理を実施する。汎用制御系614が、制御出力を制御操作端551-1に出力する場合を考えると、
図7に示すように、汎用制御系614からの出力の差分をとり、ゲインG
01を掛けた信号と、出力データ接続装置613からの制御操作端551-1に対する出力にゲインG
R1を掛けた信号とを加算して積分し、制御操作端551-1への制御出力とする。また、
図7に示すように、操作端551-2への出力データ接続装置613からの出力に、ゲインG
R2を掛けて積分したものを、操作端551-2への制御出力とする。
以上により、ゲインG
01およびゲインG
R1、G
R2の設定により、汎用制御系614と登録制御系615の切り替えが実現できる。
【0060】
なお、汎用制御系614を使用する場合、ゲインG01およびゲインGR1、GR2の設定は、以下のようになる。
G01=1.0、ゲインGR1=0.0、GR2=0.0
【0061】
さらに、登録制御系615を使用する場合のゲインG01およびゲインGR1、GR2の設定は、以下のようになる。
G01=0.0、GR1=1.0、GR2=1.0
【0062】
また、登録制御系615B~615Zを使用する場合、これらの何れかに切り替える場合は、ゲインGB1、GC1、GC2、GZ2の設定は、以下のようになる。ここでは、登録制御系615B、登録制御系615C、登録制御系615Zのそれぞれに切り替える場合を例示して説明する。
【0063】
登録制御系615Bを使用する場合、
GB1=1.0、GC1=0.0、GC2=0.0、GZ2=0.0
【0064】
登録制御系615Cを使用する場合、
GB1=0.0、GC1=1.0、GC2=1.0、GZ2=0.0
【0065】
登録制御系615Zを使用する場合、
GB1=0.0、GC1=0.0、GC2=0.0、GZ2=1.0
【0066】
出力データ接続装置613、制御出力切替装置612についても、一般的にソフトウェア処理されていることから、上記のソフトウェアを自動的に作成することが可能である。
異常判定装置606が、制御対象の異常(状態量が予め定めた値を超えた場合等)を判定した場合、上記汎用制御系614を使用する場合に従って制御ゲインを変更することで、登録制御系615から汎用制御系614による制御に切り替えることが可能となり、異常を回避する。
【0067】
[第2の実施形態]
次に、本実施の形態が適用される制御システムSの第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、制御システムSは、シングルスタンド圧延機を制御対象500とする。この場合、シングルスタンド圧延機で製造される製品は、鋼板等の被圧延材である。
【0068】
制御対象プラント510の一つである、シングルスタンド圧延機においても、各々特徴を持つ制御系を適時選択し、組み合わせることがある。この場合、シングルスタンド圧延機の圧延状態(圧延機の状態、被圧延材の状態等)に応じて、圧延によって得られる最終製品の板厚精度が最もよくなるように実施する必要がある。これを実施しない場合、所定の板厚精度が得られず、顧客が要求する製品とならない場合が発生する。
そのため、板厚精度を維持するために適用される板厚制御においても、圧延状態に応じて複数の制御系が適用され、最適な制御系が適時選択されて使用されている。
【0069】
シングルスタンド圧延機において、製品となる薄板等の被圧延材についての、特に板厚精度は製品品質に直結する重要な制御対象であり、種々の方法が開発され適用されている。新たに開発した制御方法を適用する場合においては、既存の制御との切り替えや、ゲイン変更等が圧延状態に応じて必要であり、これらの条件を決定する必要がある。条件の決定には、製品品質上重要な板厚変動を大きくするような場合も必要であり、そのために、テスト材や要求される板厚精度が緩い被圧延材を用いる必要がある。
【0070】
従来技術においては、制御系の選択条件を、圧延中にあえてロールギャップに外乱を与え、板厚および張力変動を発生させ、その応答から決定することが行われている。また、これらの応答測定結果から、被圧延材の種類や圧延速度に応じて選択条件を予め設定しておき、それに従って制御系を選択して使用することが行われている。ただし、応答測定を実施することによって、板厚変動、張力変動が発生することから、この方法による制御系の選択条件の決定を頻繁に実施するのは、製品品質確保の観点から困難である。よって、前述したように製品品質上問題ない被圧延材に限って実施することが必要となる。また、制御系によっては、特定の製品品種や板厚範囲に効果があるものも存在するため、それらを圧延時にテストを実施する必要がある。現状は、それらを実施するために、制御系の設計者やシングルスタンド圧延機の操業技術者がテスト可能な条件を検討し、被圧延材を選択して調整作業を実施するため、効率的に作業することが困難である。
【0071】
また、シングルスタンド圧延機の制御装置の製造者(メーカ)以外の製造者が新たに効果的な板厚制御を開発しても、それを導入するためには、両者が検出器信号や操作端への出力信号等の受け渡しや制御インターロック等のすり合わせを行ってソフト改造を実施する必要があり、これも容易に実施できない。
そこで、本実施の形態では、以下に説明する制御システムSを使用し、この問題の解決を図る。
【0072】
図9は、第2の実施形態における制御システムSについて示した概略図である。
図示するように、制御システムSは、圧延機Aと、入側テンションリール2(以下、「入側TR2」ともいう)と、出側テンションリール3(以下、「出側TR3」ともいう)と、を備える。これらの、圧延機A、入側TR2、出側TR3は、制御システムSの制御対象500である。
なお、本実施の形態において、「入側」とは被圧延材mが圧延機Aに向かって送り出される側(圧延機Aの上流側)を意味し、「出側」とは被圧延材mが圧延機Aから送り出される側(圧延機Aの下流側)を意味する。また、「偏差」とは、設定値や予測値と、実測値(実績値)との差分を意味する。
【0073】
また図示する制御システムSは、制御装置411と、制御対象状態把握装置401と、制御系切替装置402と、制御系調整装置403と、制御系選択DB404と、登録制御系DB405と、異常判定装置406と、生産計画装置409と、を備える。これらは、それぞれ
図3の制御装置511、制御対象状態把握装置601、制御系切替装置602、制御系調整装置603、制御系選択DB604と、登録制御系DB605、異常判定装置606に対応し、同様の機能を有する。
また、図示する制御システムSは、制御系として、汎用制御系である圧下板厚制御414と、登録制御系である速度比板厚制御415Bおよびミル速度板厚制御415Cとの3つを用いる。
【0074】
圧延機Aは、シングルスタンド圧延機の一例である。圧延機Aは、上作業ロールR1(以下、単に「ロールR1」ともいう)と下作業ロールR2(以下、単に「ロールR2」ともいう)とからなるロール対を有している。圧延機Aは、圧延制御装置11における、詳しくは後述するロールギャップ制御部21およびミル速度制御部31からの信号を受信する。なお、ミル速度は、ミル速度設定部81にて設定される。そして、圧延機Aは、この信号に従い、所定の周速度で回転するロール対におけるロール(上作業ロールR1および下作業ロールR2)間の間隔(以下、「ロールギャップ」ともいう)を調整することで、ロール対間を通過する被圧延材mを圧延する。
【0075】
入側TR2および出側TR3は、それぞれ圧延制御装置11における、詳しくは後述する入側TR制御部42、出側TR制御部52からの信号をそれぞれ受信する。そして、入側TR2および出側TR3に設けられた電動機(不図示)を用いて、入側TR2では被圧延材mを圧延機Aに送り出し、出側TR3では圧延機Aにて圧延された被圧延材mを巻き取る。
【0076】
ここで、ロール対を用いた圧延機Aにおける被圧延材mの板厚変動に関する圧延現象について説明する。圧延された被圧延材mの板厚は製品品質上重要であるため、板厚制御が実施される。この板厚制御では、出側板厚計a2にて検出された被圧延材mの板厚の実績値を用い、例えば、ロールギャップ制御部21により、ロールR1とロールR2と間のロールギャップを操作することで、出側の被圧延材mの板厚が調整される。
【0077】
従来より、シングルスタンド圧延機の板厚制御は、圧延機Aの入側板厚計a1、出側板厚計a2で検出した板厚偏差を用いてロールギャップを変更する、FF制御(フィードフォワード制御)やFB制御(フィードバック制御)を行い、ロールギャップ制御部21に制御出力を出力するものが用いられてきた。しかしながら、ロールギャップを用いて出側板厚を制御する方法は、設定板厚や圧延速度によっては十分な効果が得られない場合があることがある。そのため、新たな制御方法の追加が必要となるが、多様な材料を圧延するシングルスタンド圧延機においては、それぞれの場合に応じて適切に新制御方法の確認及び実適用を実施することは困難である。そのため、新しい制御系を登録しておけば、自動的に動作確認~制御系の調整~実適用を実施するシステムが望まれる。この場合、圧延状態に応じて最適な制御を、操業技術者や制御技術者の負担を低減しつつ提供することが可能となる。
【0078】
ここでは、ロールギャップを用いた板厚制御では、下記の問題が存在するとし、この問題を解決するための新たな制御系を、シングルスタンド圧延機である圧延機Aに実適用する場合につき説明する。
【0079】
即ち、従来のロールギャップを用いた板厚制御の問題点として、下記2つが挙げられる。
・問題点1 薄板を高速で圧延した場合、出側板厚の振動が大きい。
・問題点2 極薄材(箔材)圧延した場合、オフセット誤差の除去に時間を要する。
【0080】
これらに対する解決策として、下記に説明する新しい制御系である速度比板厚制御415Bおよびミル速度板厚制御415Cを開発し、シングルスタンド圧延機での動作確認~調整~実適用を、本実施の形態の制御システムSで実施するものとする。
【0081】
なお、このとき使用する検出器および操作端は下記とする。
・検出器1 入側板厚計a1
・検出器2 出側板厚計a2
・操作端1 ロールギャップ制御部21
・操作端2 速度比(ミル速度と入側TR速度の比率)
・操作端3 ミル速度
【0082】
以下、速度比板厚制御415Bとして、操作端2である速度比を操作する板厚制御系、およびミル速度板厚制御415Cとして、ミル速度を操作する板厚制御系の2つを登録し、これら各制御系の調整を実施する場合について説明する。
上述したように、本実施の形態の制御システムSでは、圧下板厚制御414、速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cを用いる。圧下板厚制御414は、従来から用いられている制御系であり、ロールギャップを用いて板厚を制御する。また、速度比板厚制御415Bは、速度比を操作することで板厚を制御する新しい制御系である。さらに、ミル速度板厚制御415Cは、ミル速度を操作することで板厚を制御する新しい制御系である。
【0083】
図10は、登録制御系DB405の中で、速度比板厚制御415Bについて登録されるデータの内容を示した図である。また、
図11は、登録制御系DB405の中で、ミル速度板厚制御415Cについて登録されるデータの内容を示した図である。
登録制御系DB405に登録している入力データの登録内容から、入力データ接続装置411は、速度比板厚制御415Bに対しては、入側板厚計a1(検出器1)および出側板厚計a2(検出器2)のデータを接続する。また、入力データ接続装置411は、ミル速度板厚制御415Cに対しては、出側板厚計a2(検出器2)のデータを接続する。
【0084】
登録制御系DB405の出力データの登録内容から、出力データ接続装置413は、速度比板厚制御415Bについては、速度比に制御出力を出力するように差分系への変換及び制御ゲインをかけて接続する。また、出力データ接続装置413は、ミル速度板厚制御415Cについては、ミル速度に制御出力を出力するように差分系への変換及び制御ゲインをかけて接続する。
【0085】
登録制御系DB405には、速度比板厚制御415Bやミル速度板厚制御415Cの設計作業を行った内容を予め登録する。
【0086】
制御出力切替装置412は、圧下板厚制御414の出力と、速度比板厚制御415Bおよびミル速度板厚制御415Cとを切り換えられるように接続する。
登録制御系DB405には、速度比板厚制御415Bやミル速度板厚制御415Cの設計作業を行った内容を予め登録する。また、制御系選択DB404には、これらの制御系を選択するための情報を登録しておく。
入力データ接続装置411、出力データ接続装置413および制御出力切替装置412は、制御用計算機のソフト処理にて実現するので、プログラムの書き換えにより、所定の処理を実施する。
【0087】
制御対象状態把握装置401は、生産計画装置409からの生産計画情報、および圧延機Aの状態量を用いて、圧延機Aの状態を把握する。状態の把握が必要とされる項目としては、制御系選択DB404に登録した内容である。また、制御系選択DB404には、これらの制御系を選択するための情報を登録しておく。
【0088】
図12は、制御系選択DB404に登録される内容を示した図である。
図示するように、制御系選択DB404には、
図5に示した制御系選択DB604と同様に、製品情報、製品特性、設備状態が登録される。
製品情報としては、条件に従って、テスト材、通常材、厳格材を区分する。圧延機Aで生産する被圧延材は、製品条件(仕向け先や鋼種、板厚等)が定められており、それに応じて出側板厚の許容精度が異なる。
新しい制御系として速度比板厚制御415Bおよびミル速度板厚制御415Cの調整を実施するにあたり、制御結果が不明である動作確認は、製品の板厚許容精度が大きいテスト材で実施する。また、粗調整は通常材、密調整は通常材と厳格材で実施することで、圧延機Aの製品精度への影響を最小とする必要がある。製品条件は、生産計画装置409にて各被圧延材に対して設定されるので、その情報から製品情報を得ることができる。
【0089】
また、製品特性は、被圧延材の板厚設定値より(極薄材)、(薄物材)の情報を得ることができ、製品条件から圧延速度(被圧延材を圧延するときの圧延機の速度)が決まるので求めることができる。
さらに、設備状態は、圧延機側より修理作業中、停止中、生産運転中等の情報を得ることができる。例えば、圧延機の作業員に操作盤上のスイッチを操作することで、それらの情報を設定することが可能である。修理作業中は、圧延機Aの周辺で作業員によるメンテナンス作業が実施されるため、圧延機Aが動作しない状態であり、前述のプログラムの書き換え等が可能である。そのため入力データ接続装置411、出力データ接続装置413および制御出力切替装置412の設定、変更作業が可能である。生産運転中は、被圧延材を生産している状況のため、速度比板厚制御415Bやミル速度板厚制御415Cを実際に動作させて、確認、調整することが可能である。
【0090】
制御系切替装置402においては、制御系選択DB404と登録制御系DB405に登録されている情報を基に、速度比板厚制御415Bおよびミル速度板厚制御415Cの適用可否を判断し、切り替えを実施する。
【0091】
図13は、制御系切替装置402が登録制御系415の使用可否を判断するフローを示した図である。
まず、制御系切替装置402は、設備状態が生産運転中であるか否かを判断する(ステップS201)。
そして、設制御系切替装置402は、設備状態が「生産運転中」でない場合、今回の処理は実施しない。
一方、制御系切替装置402は、設備状態が「生産運転中」の場合、製品状態を判断する(ステップS202)。
その結果、製品情報が、「テスト材」の場合は、速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cの調整状態が動作確認済でなくても選択可であり、動作確認済のフラグを0(OFF)とする(ステップS203)。
また、製品情報が、「通常材」であれば動作確認済の場合のみ選択可であり、動作確認済のフラグを1(ON)とする(ステップS204)。
さらに、製品情報が、「厳格材」の場合は、密調整済の場合に選択可であり、密調整済のフラグを1(ON)とする(ステップS205)。
【0092】
次に、制御系切替装置402は、「設定板厚」が薄物材か極薄材かを判定する(ステップS206)。
その結果、設定板厚が、極薄材であればミル速度板厚制御415Cを選択する(ステップS207)。
そして、薄物材でかつ「圧延速度」が高速であれば速度比板厚制御415Bを選択する(ステップS208、S209)。
その他の場合については、圧下板厚制御414を選択する。つまり、ステップS203、ステップS204、ステップS205でNo、およびステップS206、ステップS208でその他の場合、圧下板厚制御414を選択する。
【0093】
そして、速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cの選択結果に応じて、出力ゲインGXMを設定する。
【0094】
速度比板厚制御415Bを選択した場合、以下のように出力ゲインGXMを設定する。
G01=0.0、ゲインGB2=1.0、GR2=1.0、ゲインGC3=0.0、
ゲインGR3=0.0
【0095】
ミル速度板厚制御415Cを選択した場合、以下のように出力ゲインGXMを設定する。
G01=0.0、ゲインGB2=0.0、GR2=0.0、ゲインGC3=1.0、
ゲインGR3=1.0
【0096】
また、速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cの何れも選択されなかった場合は、以下のように出力ゲインGXMを設定する。
G01=1.0、ゲインGB2=0.0、GR2=0.0、ゲインGC3=0.0、
ゲインGR3=0.0
【0097】
速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cを選択した場合、密調整済=1でなければ、圧延中は制御系調整装置403にて調整作業を実施する。
図14は、速度比板厚制御415Bを適用した場合の制御系調整装置403の動作を示した図である。
速度比板厚制御415Bを適用した場合、登録制御系DB405に登録されている情報から、FF制御とI(積分制御)によるFB制御が適用されていることが判る。実際の制御系は、
図14に示すように、入側板厚計a1の検出値を入側板厚計a1~圧延機Aまでの板移送時間を考慮して遅らせ(e
-TSのブロック)、差分にゲインG
B2FFを掛けて積分する(1/Sのブロック)ことでFF制御を実現している。また、出側板厚計a2の検出値にゲインG
B2FBを掛けて積分する(1/Sのブロック)ことで、FB制御を実現している。ここで、入側板厚計a1および出側板厚計a2の出力は設定値からの偏差信号である。
【0098】
登録制御系DB405には、調整仕様として出側板厚の振動振幅に関してはFFゲインGB2FFを調整し、オフセット誤差の修正に関してはFBゲインGB2FBを調整するように登録されている。制御系調整装置403は、出側板厚計a2からの出側板厚偏差信号をFFT処理して振幅を求め、振幅の大小に応じてFFゲイン調整を実施し、速度比板厚制御415BのFFゲインGB2FFを操作する。同様に、制御系調整装置403は、出側板厚偏差信号から制定時間を求め、時間の大小に応じてFBゲイン調整を実施し、速度比板厚制御415BのFBゲインGB2FBを操作する。そして、調整結果である振幅および制定時間の良否を制御系調整装置403が判断し、登録制御系DB405の調整状態のフラグを更新する。また、制御系調整装置403が、圧下板厚制御414を使用した場合よりも、板厚偏差が減少していると判断した場合は、密調整済のフラグを、ONにする。密調整済のフラグが、ONの場合は、調整を実施しない。
【0099】
制御系の調整方法は種々提案されているので、上記に限らず、状況に応じた最適な調整方法を実施する。
速度比板厚制御415B、ミル速度板厚制御415Cは、調整中の機能であるため過制御となったり、制御効果が十分でない等の理由で、出側板厚偏差が許容精度を超えて悪化してしまう可能性がある。そこで、異常判定装置406は、出側板厚偏差の大小を判定し、許容精度を超える様な場合は速度比板厚制御415Bによる制御を停止し、圧下板厚制御414による制御に切り換える。切替処理は、制御出力切替装置412のゲインを変更することで実施する。
【0100】
以上、本特許の制御システムを用いることで、従来制御である圧下板厚制御414よりも、圧延状態(出側板厚設定、圧延速度)によっては効果が大きい速度比板厚制御415Bやミル速度板厚制御415Cを自動で調整し、調整完了後は自動で選択することが可能となる。
【0101】
一般に、圧延制御装置は、計算機を納入したメーカの制御方法を取り入れたソフトにより構成され、必ずしも圧延機Aの操業状態に対して最適化された制御とはならず、他メーカの制御方法の方が優れている場合もある。本実施の形態の制御システムSを用いることで、他メーカの制御方法も容易に計算機に登録し、調整することができるので、圧延機Aのユーザーにとっては、常に最適な制御方法を使用できる利点がある。
【0102】
<制御方法の説明>
ここで、
図6のフローチャート等で説明を行った制御システムSが行う処理は、予め定められた制御対象の状態量を取得し、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量およびこの関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する、制御方法であると捉えることができる。
【0103】
<プログラムの説明>
また、以上説明を行った本実施の形態における制御システムSが行う処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される。即ち、制御システムSに設けられたCPU等のプロセッサが、制御システムSの各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0104】
よって、本実施の形態で、制御システムSが行う処理は、コンピュータに、予め定められた制御対象の状態量を取得する取得機能と、制御系へ入力する入力データと、制御系から制御対象へ制御指令を出力する出力先の情報を含む出力データとの関係として複数通りが予め用意され、取得した状態量およびこの関係を基に制御対象を制御する制御系を選択する選択機能と、を実現させるためのプログラムとして捉えることもできる。
【0105】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD-ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。
【0106】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、種々の変更または改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、産業用プラント、またはその一つである圧延機Aの制御方法及び装置に関するものであり、実適用に当たっての問題点は特にない。
【符号の説明】
【0108】
500…制御対象、501…制御系、511…制御装置、401,601…制御対象状態把握装置、402,602…制御系切替装置、403,603…制御系調整装置、404,604…制御系選択DB、405,605…登録制御系DB、406,606…異常判定装置、409,609…生産計画装置、411,611…入力データ接続装置、412,612…制御出力切替装置、413,613…出力データ接続装置、414…圧下板厚制御、415B…速度比板厚制御、415C…ミル速度板厚制御、614…汎用制御系、615,615B~615Z…登録制御系、621…調整結果DB、S…制御システム