(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173667
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】炉内異物検知装置および炉内異物検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20231130BHJP
G01N 21/954 20060101ALI20231130BHJP
F27D 21/02 20060101ALI20231130BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
G01N21/954 Z
F27D21/02
F27D21/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086091
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木全 謙太
(72)【発明者】
【氏名】森山 稔
【テーマコード(参考)】
2G051
4K056
【Fターム(参考)】
2G051AB01
2G051BA10
2G051CA04
4K056AA05
4K056AA08
4K056AA09
4K056FA19
4K056FA23
(57)【要約】
【課題】加熱炉において、炉体からの熱による負荷を受けにくく、所定の大きさを有する異物を選択的に検知することができる炉内異物検知装置、およびそれを用いた炉内異物検知方法を提供する。
【解決手段】対象物が収容される炉内空間Sの外に、加熱炉5の壁面から離れてそれぞれ配置された光源部11と、検出部12とを有する炉内異物検知装置1とする。光源部から出射されて、加熱炉5の壁面52にて反射される基準光路を通ったプローブ光を、検出部が検出する。炉底53からの基準光路の高さを基準高さとし、プローブ光が光源部から出射されてから、基準光路を通って、検出部に検出されるまでの時間を基準時間として、プローブ光が、光源部から出射されてから基準時間が経過した時点で、検出部で検出される基準状態から、基準状態を満たさない状態に遷移すると、炉底53からの高さが基準高さである異物が、炉内空間Sに存在すると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加熱する加熱炉に設けられる炉内異物検知装置であって、
前記対象物が収容される炉内空間の外に、前記加熱炉の壁面から離れてそれぞれ配置された光源部と、検出部とを有し、
前記光源部は、前記加熱炉の炉内空間に向かってパルス状のプローブ光を出射し、
前記検出部は、前記光源部から出射されて、前記加熱炉の壁面にて反射される基準光路を通った、前記プローブ光を検出することができ、
前記炉底からの前記基準光路の高さを基準高さとし、
前記プローブ光が前記光源部から出射されてから、前記基準光路を通って、前記検出部に検出されるまでの時間を、基準時間として、
前記プローブ光が、前記光源部から出射されてから前記基準時間が経過した時点で、前記検出部で検出される基準状態から、前記基準状態を満たさない状態に遷移すると、前記炉底からの高さが前記基準高さ以上である異物が、前記炉内空間に存在すると判定する、炉内異物検知装置。
【請求項2】
前記光源部と前記検出部は、前記炉底からの高さ位置が同じになっているか、前記炉底からの高さ位置の差異が、両者を高さ方向に隣接させて並べた時の距離以下になっている、請求項1に記載の炉内異物検知装置。
【請求項3】
前記加熱炉には、前記プローブ光が通過可能な窓部が設けられ、
前記光源部および前記検出部は、共通の前記窓部を臨んで配置され、
前記光源部から出射された前記プローブ光は、前記窓部を通過して前記炉内空間に入り、前記壁面にて反射された後、前記窓部を通過して、前記検出部に検出される、請求項1に記載の炉内異物検知装置。
【請求項4】
前記加熱炉は、
中心軸を中心として同心状に外壁と内壁を有し、前記外壁と前記内壁の間の空間が前記炉内空間となっており、
前記光源部および前記検出部はともに、前記外壁の外側に設置されており、
前記光源部から出射された前記プローブ光は、前記内壁によって反射されて、前記検出部にて検出される、請求項1に記載の炉内異物検知装置。
【請求項5】
前記加熱炉は、前記炉底が前記中心軸の周りに軸回転する回転炉として構成されており、
前記外壁と前記内壁の間をつなぎ、かつ前記炉底との間に空隙を残して、隔壁が設けられており、
前記光源部および前記検出部は、前記炉底と前記隔壁の下端の間の高さ位置に設置されている、請求項4に記載の炉内異物検知装置。
【請求項6】
前記加熱炉にはさらに、前記外壁に、前記軸回転の回転方向に沿って前記隔壁を間に挟んで、未加熱の前記対象物を前記炉内空間に装入するための装入口と、加熱された前記対象物を抽出するための抽出口と、が設けられており、
前記光源部および前記検出部は、前記回転方向に沿って、前記隔壁と、前記装入口または前記抽出口との間の回転位置に設置されている、請求項5に記載の炉内異物検知装置。
【請求項7】
前記プローブ光はレーザ光である、請求項1に記載の炉内異物検知装置。
【請求項8】
前記プローブ光は、緑色である、請求項1に記載の炉内異物検知装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の炉内異物検知装置を加熱炉に設置し、前記加熱炉の炉内空間において、前記炉底からの高さが前記基準高さ以上である異物の有無を監視する、炉内異物検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内異物検知装置および炉内異物検知方法に関し、さらに詳しくは、加熱炉の炉内を監視する炉内異物検知装置および炉内異物検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材や金属材料等の加熱、あるいはさらに溶解を行う加熱炉において、炉内に異物が落下や堆積を起こす場合がある。その種の異物としては、加熱炉の天井や壁面を構成する耐火物の破片などが考えられる。炉内に異物が存在すると、加熱炉が回転炉である場合の回転等、加熱炉の操業に支障が生じる可能性や、加熱炉内の部材の損傷を引き起こす可能性があるため、加熱炉に炉内を監視する装置を設け、異物の存在を早期に発見することが望まれる。また、異物が、天井や壁面等、加熱炉の構成材料に由来する場合、異物の落下や堆積は、それらの構成材料の劣化の指標となるため、適時に加熱炉のメンテナンスを行う意味でも、異物の早期発見は重要となる。
【0003】
加熱炉の炉内を監視する装置として、炉体にカメラを取り付ける形態のものが用いられている。例えば特許文献1に、カメラと、レンズ部と、レンズ部の外周面を覆うように配設され、内部に冷却媒体が流通する冷却部とを備えた炉内監視装置が開示されている。この炉内監視装置は、レンズ部を炉内に向けた状態で、炉壁の耐火物に設けられた取付孔に取り付けられる。冷却部の外周面と取付孔の内周面の間には、取付孔が設けられた耐火物よりも熱伝導度の低い耐火物が、冷却部の外周面を覆うように配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱炉において、炉内の状態を監視するために、カメラ等の監視装置を炉壁に取り付けるとすれば、加熱に伴って炉体が高温になることで、カメラ等の監視装置も高温環境に曝され、大きな負荷を受けるため、長期にわたり、また安定した条件で、監視を続けることは難しい。特許文献1に開示される形態のように、監視装置に冷却機構を設ければ、その負荷を軽減することはできるが、冷却機構としては、冷却装置(チラー)のみならず、配管や支持装置を設ける必要があり、設置および維持のために費用を要する。また、冷却機構の維持には、定期的な冷媒の交換や、配管に詰まった異物の除去等のメンテナンスが必要であり、冷却機構の管理と維持に、管理者の負荷を要する。
【0006】
また、炉壁に取り付けたカメラで炉内を撮影して、得られた撮影像において異物を認識することで、炉内の異物を検知しようとすれば、同じ大きさの異物であっても、カメラからの距離により、撮影像上での大きさが変化してしまう。すると、異物の正しい大きさを把握するのが難しくなる。炉内に存在しても加熱炉の操業に影響を与えないような小さな異物であるのか、除去等の対策を早期に取らなければ加熱炉の操業に支障をきたしうる大きな異物であるのかを判別できないとすれば、加熱炉の円滑な運転に影響が生じる可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、加熱炉において、炉体からの熱による負荷を受けにくく、所定の大きさを有する異物を選択的に検知することができる炉内異物検知装置、およびそれを用いた炉内異物検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる炉内異物検知装置は、以下の構成を有している。
(1)本発明にかかる炉内異物検知装置は、対象物を加熱する加熱炉に設けられる炉内異物検知装置であって、前記対象物が収容される炉内空間の外に、前記加熱炉の壁面から離れてそれぞれ配置された光源部と、検出部とを有し、前記光源部は、前記加熱炉の炉内空間に向かってパルス状のプローブ光を出射し、前記検出部は、前記光源部から出射されて、前記加熱炉の壁面にて反射される基準光路を通った、前記プローブ光を検出することができ、前記炉底からの前記基準光路の高さを基準高さとし、前記プローブ光が前記光源部から出射されてから、前記基準光路を通って、前記検出部に検出されるまでの時間を、基準時間として、前記プローブ光が、前記光源部から出射されてから前記基準時間が経過した時点で、前記検出部で検出される基準状態から、前記基準状態を満たさない状態に遷移すると、前記炉底からの高さが前記基準高さ以上である異物が、前記炉内空間に存在すると判定する。
【0009】
(2)前記(1)の態様において、前記光源部と前記検出部は、前記炉底からの高さ位置が同じになっているか、前記炉底からの高さ位置の差異が、両者を高さ方向に隣接させて並べた時の距離以下になっているとよい。
(3)前記(1)または(2)の態様において、前記加熱炉には、前記プローブ光が通過可能な窓部が設けられ、前記光源部および前記検出部は、共通の前記窓部を臨んで配置され、前記光源部から出射された前記プローブ光は、前記窓部を通過して前記炉内空間に入り、前記壁面にて反射された後、前記窓部を通過して、前記検出部に検出されるとよい。
【0010】
(4)前記(1)から(3)のいずれか1つの態様において、前記加熱炉は、中心軸を中心として同心状に外壁と内壁を有し、前記外壁と前記内壁の間の空間が前記炉内空間となっており、前記光源部および前記検出部はともに、前記外壁の外側に設置されており、前記光源部から出射された前記プローブ光は、前記内壁によって反射されて、前記検出部にて検出されるとよい。
(5)前記(4)の態様において、前記加熱炉は、前記炉底が前記中心軸の周りに軸回転する回転炉として構成されており、前記外壁と前記内壁の間をつなぎ、かつ前記炉底との間に空隙を残して、隔壁が設けられており、前記光源部および前記検出部は、前記炉底と前記隔壁の下端の間の高さ位置に設置されているとよい。
(6)前記(5)の態様において、前記加熱炉にはさらに、前記外壁に、前記軸回転の回転方向に沿って前記隔壁を間に挟んで、未加熱の前記対象物を前記炉内空間に装入するための装入口と、加熱された前記対象物を抽出するための抽出口と、が設けられており、前記光源部および前記検出部は、前記回転方向に沿って、前記隔壁と、前記装入口または前記抽出口との間の回転位置に設置されているとよい。
【0011】
(7)前記(1)から(6)のいずれか1つの態様において、前記プローブ光はレーザ光であるとよい。
(8)前記(1)から(7)のいずれか1つの態様において、前記プローブ光は、緑色であるとよい。
【0012】
(9)本発明にかかる炉内異物検知方法においては、前記(1)から(8)のいずれか1つの態様の炉内異物検知装置を加熱炉に設置し、前記加熱炉の炉内空間において、前記炉底からの高さが前記基準高さ以上である異物の有無を監視する。
【発明の効果】
【0013】
上記(1)の発明にかかる炉内異物検知装置においては、プローブ光が光源部から出射されて、加熱炉の壁面で反射され、検出部に至る基準光路上に、異物が存在していなければ、光源からパルス状のプローブ光が出射されてから、基準時間が経過した時点で、プローブ光が検出部で検出される基準状態が満たされる。しかし、基準光路上に、炉底からの高さが基準高さ以上である異物が存在していれば、プローブ光が異物に遮られる事態や、プローブ光が炉体の壁面で反射される前に、異物によって反射されて、反射光が検出部から外れた位置に到達したり、基準時間よりも早く検出部に到達したりする事態が、発生しうる。すると、上記の基準状態が満たされなくなる。そこで、基準高さを、検知すべき異物の高さに合わせて設定しておけば、基準状態から、基準状態を満たさない状態への遷移をもって、炉底からの高さがその基準高さ以上となっている異物を、選択的に検知することができる。また、基準光路上で異物が存在する位置によらず、炉底からの高さが基準高さ以上の異物が存在すれば、同様に検知することができる。さらに、光源部および検出部が、加熱炉の壁面から離れて配置されていることで、加熱炉の熱による負荷を受けにくくなっている。そのため、長期にわたって、安定に、炉内異物の監視を行うことが可能となる。また、光源部や検出部に冷却機構を設ける必要性を省くことができる。
【0014】
ここで、上記(2)の態様においては、光源部と検出部が、同じ高さ位置、あるいは同じとみなすことができる高さ位置に設置されている。つまり、基準光路が光源部および検出部が配置された高さ位置に略水平に設定され、その高さ位置が基準高さとなる。よって、検出すべき異物の高さに合わせて基準高さを明快に設定し、その基準高さに達する異物の存在を、基準光路上の位置によらず、同程度の精度で検知することができる。
【0015】
上記(3)の態様においては、光源部と検出部が共通の窓部を臨んで配置され、光源部からのプローブ光の出射、および検出部でのプローブ光の検出が、その共通の窓部を介して行われる。よって、加熱炉に窓部を1つ設けるだけで、異物の検知を行うことができる。また、光源部と検出部が近接した位置に配置されるため、炉内異物検知装置が占める空間を小さく抑えることができる。それらにより、加熱炉および炉内異物検知装置の構成を簡素なものとできる。
【0016】
上記(4)の態様においては、外壁と内壁を有する加熱炉において、外壁の外側に光源部および検出部が設置され、プローブ光が内壁によって反射される。この場合には、炉内空間において、外壁の光源部の箇所と内壁、さらに外壁の検知部の箇所を直線的に結ぶ基準光路のいずれかの位置に基準高さ以上の異物が存在していれば、その異物の存在を検知することができる。また、外壁の外側においては、内壁の内側の空間と異なり、大きなスペースを利用しやすいため、光源部および検出部を加熱炉から離れた位置に設置しやすい。すると、光源部および検出部への炉内の熱や粉塵の影響を効果的に抑えることができる。
【0017】
前記(5)の態様においては、加熱炉が回転炉として構成されており、外壁と内壁の間をつなぎ、かつ炉底との間に空隙を残して、隔壁が設けられている。そして、光源部および検出部が、炉底とその隔壁の下端の間の高さ位置に設置されている。すると、隔壁と炉底の間の空隙の高さ以上に達する異物を、炉内異物検知装置にて検知することができる。そのような異物が検知された際に、加熱炉の回転の停止や、異物の除去等の対策をとることで、異物が隔壁と炉底の間に挟まれて、加熱炉の回転を妨げる事態や、隔壁をはじめとする加熱炉の構成部材に損傷を与える事態を回避できる。
【0018】
前記(6)の態様においては、加熱炉に装入口と抽出口が設けられており、光源部および検出部が、加熱炉の回転方向に沿って、その隔壁と装入口または抽出口との間の回転位置に設置されている。すると、装入口と抽出口の間に設けられた隔壁の近傍に存在する異物を、効果的に検知することができる。回転炉において、装入口と抽出口の間の箇所は、加熱を受ける対象物が通過しないため、その箇所に設けられる隔壁においては、炉底との間の空隙が小さく設定されることも多い。その小さな空隙を通過できない大きさの異物が存在する場合に、異物検知装置によって検知し、加熱炉の回転の停止や、異物の除去等の対策を施せば、異物が加熱炉の回転を妨げることや、その隔壁に損傷を与えることを回避できる。
【0019】
前記(7)の態様においては、プローブ光がレーザ光である。すると、レーザ光の指向性および直進性により、設定した基準高さ以上の異物を、高い選択性をもって、また基準光路上の位置による影響を低く抑えて、検知することができる。また、レーザを用いることで、パルス状のプローブ光を簡便に利用できる。また、そのパルス状のプローブ光が光源部から出射されてから検出部で検出されるまでの時間を、簡便に、また精度良く計測することができるため、基準状態が満たされているか否かによる異物検知の有無の判定を、正確に行いやすい。
【0020】
前記(8)の態様においては、プローブ光が緑色である。この場合には、対象物の加熱に伴う輻射により、炉内空間や加熱される対象物が赤色を帯びている場合でも、低ノイズで、プローブ光の検出を行うことができる。すると、異物検知の安定性が向上し、また、プローブ光の出力を低くしても、異物の検知を正確に行うことが可能となる。
【0021】
上記(9)の態様にかかる炉内異物検知方法においては、上記の炉内異物検知装置を加熱炉に設置し、加熱炉の炉内空間を監視することにより、炉底からの高さが基準高さ以上である異物の存在を、選択的に検知することができる。既存の加熱炉に、適宜プローブ光が通過可能な窓部を設けるとともに、光源部と検出部を設置することで、異物の監視を実行することができるうえ、光源部および検出部への熱負荷も、低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる炉内異物検知装置を設置した加熱炉の概略を示す横断面図である。
【
図2】上記加熱炉を、光源部および検出部が設置された位置にて、内壁と外壁を結ぶ面(
図1中のA-A断面)で切断した概略縦断面図である。
【
図3】プローブ光の経路(左)、および出射光と検出光の時間関係を示す図(右)である。(a)は炉内に異物が存在しない場合を示し、(b)~(d)は炉内に異物が存在する場合を示している。(b)は異物でプローブ光が遮られる場合、(c)はプローブ光の検知時間が異物によって変化を受ける場合、(d)はプローブ光の反射経路が異物によって変化を受ける場合である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態にかかる炉内異物検知装置および炉内異物検知方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。本明細書において、「同心」、「同じ」、「平行」等、部材の形状や大きさ、配置を表す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、加熱炉およびそこに設けられる検知装置において一般的に許容される程度の誤差も含むものとする。
【0024】
[加熱炉および炉内異物検知装置の概略]
まず、本発明の一実施形態にかかる炉内異物検知装置について、取り付け対象の加熱炉とともに、概略を説明する。
図1に、本開示の一実施形態にかかる炉内異物検知装置1を設置した加熱炉5の概略を示す。ここでは、炉底53に平行に切断した横断面図にて、加熱炉5を表示している。
【0025】
以下では、加熱炉5が回転炉として構成されている場合を例として説明を行う。しかし、加熱炉5の形式はそのような回転炉に限られず、炉内空間Sに対象物を収容して加熱する加熱炉であれば、種々の加熱炉を適用可能である。ここで、対象物の加熱とは、対象物の形状を保ったまま対象物の温度を上げる形態のほか、対象物を溶解(融解)させる形態も含む。
【0026】
加熱炉5は、炉壁として、外壁51と内壁52を有している。外壁51と内壁52は、それぞれ略円筒形状を有し、中心軸Oを中心として、同心状に配置されている。外壁51に囲まれた空間の中に内壁52が設けられ、外壁51と内壁52の間の空間が、対象物(ワーク)を収容する炉内空間Sとなっている。外壁51および内壁52を含め、加熱炉5の壁面および天井54の炉内空間Sに面する面は、金属酸化物やガラスウール等の耐火物より構成されている。
【0027】
加熱炉5の底面は、炉底53となっており、炉内空間Sの下方が炉底53によって閉塞されている。炉底53は、中心軸Oの周りに軸回転可能となっている。外壁51および内壁52は、炉底53と結合されておらず、炉底53が回転する際にも、外壁51および内壁52は所定の位置に固定されたまま、回転しない。外壁51には、それぞれ開閉可能な開口構造として、加熱炉5に未加熱のワークを装入するための装入口55と、加熱炉5で加熱されたワークを抽出するための抽出口56が設けられている。装入口55から炉内空間Sに装入されたワークが、炉底53の回転によって、炉内空間Sを回転移動し、その回転移動の間、ワークが加熱を受ける。回転によってワークが抽出口56の位置に達すると、加熱を終えたワークが抽出口56から取り出される。
【0028】
加熱炉5の炉内空間Sには、複数のバッフル(隔壁)6a~6fが設けられている。各バッフル6a~6fは、外壁51と内壁52の間をつなぎ、中心軸Oを中心として略放射状に配置された板状の壁である。これらのバッフル6a~6fは、炉内空間Sを、複数の領域に区画している。各バッフル6a~6fは、外壁51と内壁52に固定されている。各バッフル6a~6fは炉底53には固定されておらず、各バッフル6a~6fの下端と炉底53との間に空隙が残されている。それら複数のバッフル6a~6fのうち1つである装入口55と抽出口56の間のバッフルが、出入口間バッフル6aとなっている。つまり、炉底53の回転方向に沿って出入口間バッフル6aを挟んで、下流側に装入口55が設けられ、上流側に抽出口56が設けられていることになる。
【0029】
図2に、出入口間バッフル6aのすぐ近傍に相当する位置における加熱炉5の断面を、外壁51と内壁52の間の箇所にて表示している。バッフル6a~6fの下端と炉底53との間の空隙は、出入口間バッフル6aを除く各バッフル6b~6fについては、炉内空間Sを回転移動するワークが余裕をもって通過可能なように、大きく設けられている。しかし、出入口間バッフル6aは、抽出口56でワークが抽出され、次のワークが装入口55から装入される間の位置に存在し、出入口間バッフル6aの位置をワークが通過することがないため、出入口間バッフル6aと炉底53の間の空隙Vは、小さく設定されている。つまり、出入口間バッフル6aの下端6a1の高さ位置は、他のバッフル6b~6fの下端の高さ位置よりも低くなっている。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる炉内異物検知装置1は、プローブ光Lを出射する光源部11と、そのプローブ光Lを検出可能な検出部12とを有する。
図2は、光源部11および検出部12の位置を通る加熱炉5の断面(A-A断面)を、外壁51と内壁52の間の箇所にて表示している。ここで、光源部11および検出部12が、炉内異物検知装置1を構成している。さらに、炉内異物検知装置1は、光源部11および検出部12に加えて、光源部11からのプローブ光Lの出射の制御を行う制御装置や、検出部12からの信号を処理するための処理装置を適宜備えることができる(いずれも図略)。
【0031】
[炉内異物検知装置の構成]
次に、炉内異物検知装置(以下単に、異物検知装置と称する場合がある)1の構成について、詳細に説明する。加熱炉5において、異物検知装置1を構成する光源部11および検出部12はいずれも、炉内空間Sの外に、炉壁から離れて配置される。
【0032】
光源部11は、炉内空間Sにプローブ光Lを出射できる位置に配置され、検出部12は、炉内空間Sに設定された基準光路P1を通ったプローブ光Lを検出できる位置に配置される。ここで、基準光路P1は、光源部11から出射されたプローブ光Lが、加熱炉5の壁面にて反射される光路を指す。図示した形態においては、光源部11および検出部12は、ともに加熱炉5の外壁51の外側に設置されている。
【0033】
また、図示した形態では、光源部11および検出部12は、同等の高さ位置に配置されている。ここで、同等の高さ位置とは、炉底53からの高さ位置が誤差の範囲内で同じになっている形態のみならず、光源部11と検出部12の間の高さ位置の差が、光源部11と検出部12を高さ方向に隣接させて並べた時の距離以下になっている形態も含むものとする。図示した形態では、光源部11と検出部12が高さ方向に隣接して配置されている。なお、光源部11および検出部12の高さ位置は、厳密には、光源部11においてプローブ光Lが出射される出射位置、また検出部12においてプローブ光Lが検出される検出位置を基準とする。
【0034】
本実施形態において、炉底53からの基準光路P1の高さを、基準高さh2とする。異物検知装置1は、基準高さh2以上の高さに達する異物を検知するものとなる。光源部11と検出部12の高さ位置が同じであるとみなせる場合には、それら光源部11および検出部12の高さ位置が基準高さh2となる。光源部11と検出部12の高さ位置が異なる場合には、基準光路P1は、それらのうち高い位置に配置されている方よりも低い位置を通ることになるので、光源部11および検出部12の炉底53からの高さ位置のうち、高い方を、基準高さh2とみなしてもよい。
【0035】
さらに詳細には、光源部11および検出部12は、炉底53の回転方向に沿って、出入口間バッフル6aと抽出口56の間の回転位置に設けられている。プローブ光Lの基準光路P1は、炉底53の面に平行(水平)で、かつ出入口間バッフル6aの面に平行、あるいはそれに近い方向に向くように設定されている。つまり、基準光路P1においては、プローブ光Lが光源部11から出射されて出入口間バッフル6aに沿って水平に直進し、内壁52の面でほぼ垂直に正反射されて、再び出入口間バッフル6aに沿って水平に直進し、検出部12に至る。光源部11および検出部12の高さ位置、およびそれらによって定まる基準高さh2は、炉底53と出入口間バッフル6aの下端6a1(高さh1)との間の高さ位置に設定されている。つまり、光源部11および検出部12は、炉底53と出入口間バッフル6aの間の空隙Vの途中に相当する高さ位置に設置されている。
【0036】
加熱炉5の外壁51には、プローブ光Lが通過可能な窓部57が設けられている。光源部11と検出部12は、共通の窓部57を臨んで設けられている。つまり、光源部11から出射されたプローブ光Lは、窓部57を通過して炉内空間Sに入り、内壁52の面にて反射された後、同じ窓部57を通過して、検出部12に検出されることになる。図示した形態では、窓部57は、外壁51の構成材料を除去した開口として設けられている。しかし、適宜、プローブ光Lが透過でき、かつ加熱炉5の炉体の熱に耐えられる耐熱性の材料で、開口が閉塞されていてもよい。
【0037】
光源部11は、炉内空間Sを通過可能なパルス状のプローブ光Lを出射できるものであれば、種類や波長域を特に限定されるものではない。好ましくは、光源部11は、プローブ光Lとしてレーザ光を出射可能なレーザ光源であるとよい。また、光源部11から出射されるプローブ光Lは、可視光、特に緑色の光であるとよい。つまり波長にしておおむね490nm以上550nm以下の範囲にあるとよい。
【0038】
検出部12も、光源部11から出射されたプローブ光Lを検出できるものであれば、その種類を特に限定されるものではなく、フォトダイオード等の受光素子を備えた光検出器、カメラ等を例示することができる。ただし、検出部12は、所定の時間におけるプローブ光Lの到達の有無のみを検出できればよく、二次元的にプローブ光Lを検出する必要はないので、構成の簡略化や小型化の観点から、受光素子を備えたもの等、空間分解能のない簡素な光検出器を用いればよい。
【0039】
[炉内異物検知装置による異物の検知]
次に、本開示の実施形態にかかる炉内異物検知方法として、上で説明した構成を有する異物検知装置1によって、加熱炉5の内部の異物を検知する方法について説明する。
【0040】
上記のように、加熱炉5の炉内空間Sにおいて、光源部11から出射されて内壁52に反射され、検出部12に至る、プローブ光Lの基準光路P1上に、異物が存在しなければ、検出部12がプローブ光Lを検出する状態となる。より詳細には、
図3(a)の右側のタイムチャートに示すように、パルス状のプローブ光Lが光源部11から出射されると、所定の時間ΔTを経過した時点で、検出部12にて検出される。この時間ΔTは、プローブ光Lが、加熱炉5の外壁51と内壁52の間を往復する基準光路P1を進むのに要する時間に対応する。装置構成によってはさらに、光源部11や検出部12、またそれらを制御する制御装置、信号を処理する処理装置の動作等に要する遅延時間が、時間ΔTに重畳されることになる。ここで、光源部11からプローブ光Lが出射されてから、基準光路P1を通り、検出部12に検出されるまでの時間ΔTを、基準時間とする。また、プローブ光Lが、光源部11から出射されてから基準時間ΔTが経過した時点で、検出部12で検出される状態を、基準状態とする。つまり、基準光路P1上に異物が存在していない場合には、基準状態が満たされる。
【0041】
一方、基準光路P1上に異物が存在していれば、基準状態は満たされない。基準状態が満たされない状態としては、検出部12にてプローブ光Lが検出されない状態や、プローブ光Lが、光源部11から出射されてから基準時間ΔTを経過した以外の時点で、検出部12に検出される状態が想定される。
図3(b)~(d)に、基準光路P1に異物が存在する場合の具体例について、加熱炉5の内部およびプローブ光Lの状態を示すとともに(左図)、光源部11から出射される出射光および検出部12で検出される検出光の関係をタイムチャートにて示す(右図)。なお、各左図では、光源部11と検出部12を異物検出装置1として簡略化して表示している。
【0042】
基準状態が満たされない状態の例として、
図3(b)に示すように、基準光路P1上に異物Fが存在しており、プローブ光Lがその異物Fによって遮られて、つまり吸収や乱反射を受けて、検出可能な強度で、検出部12に到達できない形態が考えられる。この場合には、検出部12にてプローブ光Lが検出されない。一方、
図3(b)に示すように、基準光路P1上に、反射性の高い異物Fが存在している場合には、異物Fの表面でプローブ光Lが反射され、検出可能な強度で、検出部12に到達する可能性もある。この場合には、検出部12でプローブ光Lが検出されるが、光源部11からプローブ光Lが出射されてから、検出部12で検出されるまでの経過時間ΔT’が、異物Fが存在しない場合の基準時間ΔTよりも短くなる。プローブ光Lが光源部11から出て検出部12に至るまでの光路が、基準光路P1よりも短くなるからである。さらに、
図3(d)に示す形態においては、異物Fの表面でプローブ光Lの反射が起こるが、その反射の方向が、検出部12が存在する方向と異なることにより、検出部12には、検出可能な強度の反射光が届かない状態となっている。この場合にも、
図3(b)の場合と同様に、検出部12にてプローブ光Lが検出されない。
【0043】
図3(b)~(d)に示したように、異物の種類や位置等により、プローブ光Lの挙動が異なる可能性はある。しかし、いずれの場合であっても、光源部11から出射されたプローブ光Lが所定の基準時間ΔTを経過した時点で検出部12にて検出される基準状態は満たされなくなる。よって、基準状態から、基準状態を満たさない状態に遷移すると、炉底53からの高さが基準高さh2以上である異物が、炉内空間S、特に基準光路P1の途中に存在すると判定することができる。
【0044】
判定は、異物検知装置1に設けたコンピュータ等の処理装置によって、検出部12による検出結果を監視することで行えばよい。光源部11を制御する制御装置からのモニター信号等、光源部11からパルス状のプローブ光Lが出射されたタイミングを示す信号と、検出部12によってパルス状のプローブ光Lが検出されたことを示す信号との間の経過時間を、処理装置にて解析すればよい。そして、プローブ光Lが検出されなかった場合、あるいは所定の基準時間ΔTとは異なる経過時間で検出された場合には、基準状態が満たされなくなったと判定し、処理装置から警報音を発すること等により、加熱炉5の管理者に異物の存在を報知し、加熱炉5の回転の停止や異物の除去等の処置を促すとよい。なお、判定に際して、基準時間ΔTには、各装置の動作時間のばらつき等によって生じうる時間幅を設けておくとよい。また、
図3(c)に示した形態のように、光源部11からプローブ光Lが出射されてから、基準時間ΔTよりも短い遅延時間ΔT’で、検知部12でプローブ光Lが検知された場合に、遅延時間ΔT’の値から、基準光路P1上で異物が存在する位置を推定するようにしてもよい。
【0045】
ここで、炉底53からの高さが基準高さh2以上である異物が炉内空間Sに存在する状態とは、基準高さh2以上の寸法を有する異物が、落下等によって炉内空間Sに出現した状態や、基準高さh2よりも寸法が小さい異物が炉底53に複数堆積し、堆積物の総和として、基準高さh2以上の水準にまで達した状態等、異物が炉底53から基準高さh2以上に達している状態が安定に存在していることを意味する。基準高さh2よりも寸法が小さい異物が、落下の過程で、一時的にプローブ光Lの基準光路P1を横切るような形態は含まない。そのような形態や、炉内空間Sの正常な粉塵等による一時的なプローブ光Lの遮断は、プローブ光Lのパルスを複数含むように、検出部12での検出信号を積算して、基準状態が満たされているかの判定を行うことで、区別して検知対象から除くことができる。この際、信号の積算は、光源部11からのプローブ光Lのパルスの出射をトリガーとして、1パルスごとの周期で時間分解して行えばよい。
【0046】
加熱炉5において、炉内空間Sに出現する異物としては、加熱炉5の壁面51,52や天井54を構成する耐火物の破片を代表的に挙げることができる。耐火物は、経年劣化等によって、剥落して破片を生じる場合がある。この種の耐火物の破片が加熱炉5の炉内空間Sに存在すると、加熱炉5の操業に影響を与える場合や、加熱炉5の構成部材の損傷を引き起こす場合がある。図示した形態の場合に、上記で説明したように、出入口間バッフル6aと炉底53との間の空隙Vは、他のバッフル6b~6fと炉底53との間の空隙よりも狭くなっているが、この狭い空隙Vの近傍に、空隙Vの高さ(炉底53と出入口間バッフル6aの間の距離)h1以上の高さ位置にまで達する異物が存在すると、その異物が空隙Vを通過することができない。すると、その異物が出入口間バッフル6aに接触することで、加熱炉5の回転を正常に行えなくなる可能性や、出入口間バッフル6aが破損する可能性がある。そこで、炉底53と出入口間バッフル6aの下端6a1の間の高さ位置に、異物検知装置1の光源部11および検出部12を配置して、基準高さh2を設け、光源部11からのパルス状のプローブ光Lの出射と検出部12による検出、および基準状態が満たされているかどうかの判定を継続的に行うことで、加熱炉5の炉内空間Sにおいて、炉底53からの高さが基準高さh2以上である異物の有無を監視することができる。
【0047】
異物検知装置1によって、炉底53からの高さが基準高さh2以上である異物の存在を検知した際に、加熱炉5の回転の停止や、検知した異物の除去等の処置を行うことで、異物が加熱炉5の操業に与える影響や加熱炉5の構成部材の損傷を、未然に防止すること、あるいは軽度なものに抑えることが可能となる。一方、炉内空間Sに異物が存在していても、その異物が基準高さh2に達していない小さいもの、また少量のものであれば、異物検知装置1によって検知されず、加熱炉5の回転の停止や異物の除去等の処置を挟むことなく、加熱炉5の操業が継続される。このように、本実施形態にかかる異物検知装置1を用いることで、炉底53からの高さが基準高さh2以上となっている異物を選択的に検知することができる。基準高さh2を、加熱炉5の操業への影響や加熱炉5の構成部材の損傷を引き起こしうる異物の高さに合わせて設定しておけば、その基準高さh2以上の異物を選択的に検知し、処置を行うことで、加熱炉5をその種の影響や損傷から効果的に保護するともに、無視しうる程度の小さいあるいは少量の異物については検出しないようにして、円滑に加熱炉5の操業を継続することができる。
【0048】
上記で説明した実施形態においては、出入口間バッフル6aと炉底53の間の空隙Vの途中に基準高さh2を設定しておくことで、その空隙Vを通過できない異物を選択的に検知することができる。また、光源部11および検出部12を、装入口55または抽出口56と出入口間バッフル6aとの間の位置、特に抽出口56と出入口間バッフル6aとの間の位置に設けておくことで、出入口間バッフル6aに接触する可能性のある異物を効果的に検知することができる。このように、加熱炉5の構成や特性等に応じて、影響を生じうる異物の高さに合わせて基準高さh2を設定するとともに、異物の影響が発生しやすい箇所の近傍、好ましくは加熱炉5の回転方向に沿って、異物の影響が発生しやすい箇所のすぐ手前の位置に、プローブ光Lの基準光路P1を設定しておくとよい。加熱炉5において、異物の検知を行うべき箇所が複数存在する場合には、光源部11と検出部12の組を複数設け、それぞれの箇所を横切るように、プローブ光Lの基準光路P1を設定すればよい。また、異なる基準高さに複数の光源部11と検出部12の組を設けておけば、異物の高さを複数の段階に区別して、異物検出を行うことができる。
【0049】
本実施形態にかかる異物検知装置1においては、光源部11および検出部12を設置した基準高さh2を通るプローブ光Lの異物による遮断や反射を、異物検知の原理としている。そのため、プローブ光Lの基準光路P1上であれば、位置を問わず、炉底53からの高さが基準高さh2以上である異物が存在すれば、その異物を検知することができ、異物検知における高さの選択性が発揮される。これは、炉内空間Sを直接カメラで撮影する場合に、カメラから異物までの距離によって、撮影像における異物の大きさが変化し、異物の大きさを正確に判定しづらいのとは相違する。さらに、本実施形態における異物検知は、カメラを用いた画像解析を伴わないことにより、カメラの焦点位置等、異物の検知にかかる条件を厳密に調整し、維持なくても、基準光路P1を通ったプローブ光Lが検出部12に入射されるようにさえしておけば、安定して異物の検知を行うことができる。よって、加熱炉5が設置された工場のように、振動が生じやすい環境でも、異物の検知において、振動の影響を受けにくい。特に、加熱炉5が回転炉である場合に、加熱炉5の回転に伴って振動が発生しやすいが、その振動の影響も生じにくい。
【0050】
本実施形態にかかる異物検知装置1においては、光源部11および検出部12が、炉内空間Sの外に設置され、しかも外壁51から離して設置されている。よって、加熱炉5の熱による負荷や、加熱炉5の内部の粉塵による汚れ等の影響が、光源部11および検出部12に及びにくい。そのため、熱や汚れによる光源部11や検出部12の劣化の影響を抑制して、また汚れの除去や光学調整等のメンテナンスの頻度を抑えて、異物検知装置1による異物の検知を、長期にわたって、安定に継続することができる。また、光源部11や検出部12に冷却機構を設ける必要がないため、冷却機構の設置や維持に要する費用、および冷却機構の維持のために管理者が負う作業負荷を省略できる。冷却機構を設けるとしても、簡素なもので済むため、それらの費用や作業負荷を低く抑えることができる。
【0051】
特に、本実施形態においては、光源部11と検出部12をともに、大きな空間を利用可能な外壁51の外側に配置しているため、加熱炉5から光源部11および検出部12を十分離して設置することができ、加熱炉5からの熱および粉塵の影響を効果的に低減することができる。加熱炉5の外壁51に加えて内壁52にも窓部57を設ければ、検出部12を内壁52の内側の空間に配置して、反射型でなく透過型で、異物の検知を行うことも考えられる。つまり、外壁51から内壁52に向かってプローブ光Lを直進させ、そのプローブ光Lの遮断をもって異物の存在を検知することも考えられる。しかし、本実施形態のように、反射型の検知法を利用することで、光源部11と検出部12をともに、内壁52の内側よりも空間的な制約の少ない外壁51の外側に設けることができるため、それらを十分に加熱炉5から離れた位置に設置して、熱や粉塵の影響を、透過型の検知法を用いる場合よりも、低減しやすい。
【0052】
上記で説明した形態においては、光源部11と検出部12を、同等の高さ位置に設置し、さらに、共通の窓部57を介してプローブ光Lの出入射を行うように配置している。つまり、基準光路P1が、内壁52の面で垂直に反射を受ける水平な往復光路として設定される。これにより、異物検知を行う基準高さh2を明快に設定でき、またその基準高さh2に設けた基準光路P1上に異物が存在していれば、その異物の具体的な位置によらず、同程度の精度で検知することができる。しかし、光源部11と検出部12の具体的な配置はこれに限定されるものではなく、両者の高さ位置が異なっていても、また光源部11から出射されるプローブ光Lの進行方向と、加熱炉5の壁面で反射されて検出部12に向かう光の進行方向の間に角度が設けられてもよい。それらの場合にも、炉底53からの基準光路P1の高さとして設定される基準高さh2以上の高さを有する異物が、光源部11を出て内壁52に反射され、検出部12に向かう基準光路P1の上に出現すれば、基準状態から基準状態を満たさない状態への遷移をもって、それを検知することができる。
【0053】
上記のように、光源部11および検出部12の具体的な種類は、特に限定されるものではないが、光源部11としてレーザ光源を用いることで、プローブ光Lをパルス光として発生させる際の利便性に加え、レーザ光の直進性および指向性を利用して、所定の基準高さh2以上の異物の検知を、高い選択性をもって、また基準光路P1に沿った異物の位置に対する依存性を低く抑えて、実施することができる。また、光源部11から出射されるプローブ光Lの色が緑色であることで、輻射(赤熱)によって、炉内空間Sやワークが赤色を帯びている場合でも、輻射によるノイズの寄与を低減して、異物の検知を、高精度、また高感度に実施することができる。また、プローブ光Lの強度を低く抑えても、異物検知において高い感度および精度が得られるため、高出力レーザ等、高強度の光源部11を用いる必要がなく、異物検知装置1の構成が簡素になる。光源部11に対する安全対策も簡素なもので済む。
【0054】
光源部11としてレーザ光源を用いる場合に、特に、パルスのデューティ比を小さくして、つまりパルスの時間幅を小さくして、プローブ光Lを発生させることが好ましい。レーザ発振装置においては、デユーティ比を小さくするほど、パルスのピーク出力強度を高めることができるからである。すると、検出部12でのプローブ光Lの検出感度を高めることができ、加熱炉5の炉内空間Sにおける粉塵や輻射の影響を抑えて、高精度に異物の検知を行うことが可能となる。例えば、パルスの時間幅が発振周期に占める比率として定義されるデューティ比の値を、1/5以下とすればよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 (炉内)異物検知装置
11 光源部
12 検出部
5 加熱炉
51 外壁
52 内壁
53 炉底
54 天井
55 装入口
56 抽出口
57 窓部
6a 出入口間バッフル(隔壁)
6a1 出入口間バッフルの下端
6b~6f 他のバッフル
h1 空隙の高さ
h2 基準高さ
F 異物
L プローブ光
O 中心軸
P1 基準光路
S 炉内空間
V 空隙
ΔT 基準時間