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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173675
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】会議支援方法および会議支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/10 20230101AFI20231130BHJP
【FI】
G06Q10/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086101
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000233538
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ東日本
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清藤 駿成
(72)【発明者】
【氏名】塚原 朋哉
(72)【発明者】
【氏名】宗形 聡
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA11
(57)【要約】
【課題】会議の特徴に応じて適切なファシリテーション支援を行うことができる、会議支援方法および会議支援装置を提供する。
【解決手段】コンピュータは、会議支援方法を実行する。会議支援方法は、会議における発言データを取得するステップと、前記発言データに基づき、前記会議の複数の個別スコアを計算する、個別スコア計算ステップと、学習済みニューラルネットワークを用いて、各前記個別スコアに基づき、前記会議の総合スコアを計算する、総合スコア計算ステップと、前記学習済みニューラルネットワークを用いて、前記総合スコアに対する各前記個別スコアの寄与度を計算する、寄与度計算ステップと、各前記寄与度に基づき、前記複数の個別スコアのうち1つ以上について、前記会議に対する評価または助言を表す情報を出力する、出力ステップと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する会議支援方法であって、
会議における発言データを取得するステップと、
前記発言データに基づき、前記会議の複数の個別スコアを計算する、個別スコア計算ステップと、
学習済みニューラルネットワークを用いて、各前記個別スコアに基づき、前記会議の総合スコアを計算する、総合スコア計算ステップと、
前記学習済みニューラルネットワークを用いて、前記総合スコアに対する各前記個別スコアの寄与度を計算する、寄与度計算ステップと、
各前記寄与度に基づき、前記複数の個別スコアのうち1つ以上について、前記会議に対する評価または助言を表す情報を出力する、出力ステップと、
を備える、会議支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記発言データは、発言者を識別する情報と、発言の内容を表すテキストデータと、発言の開始時刻および終了時刻を表す情報とを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記寄与度計算ステップにおいて、前記学習済みニューラルネットワークを近似する線形モデルが用いられる、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記出力ステップにおいて、
前記総合スコアと、
少なくとも1つの前記個別スコアと、
前記評価または前記助言を表すテキストデータと、
が表示される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記総合スコアおよび少なくとも1つの前記個別スコアについて、前記会議における時間的変化が表示される、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を実行するコンピュータを備える会議支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は会議支援方法および会議支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
会議では短時間で活発な議論を行い、効率的に成果を出すことが望まれている。そのためには、会議の質を適切に把握し、質を改善するような会議の進行(ファシリテーション)が重要である。
【0003】
しかし、ファシリテーションは、目に見えない会議の雰囲気や流れを把握する必要のある難しいタスクである。特に近年は、オンライン会議が主流となっており、参加者の表情や仕草が見えない中で適切なファシリテーションを行うことが難しくなってきている。
【0004】
ファシリテーションを含む会議を支援するための技術として、特許文献1では、会議の質を構成するいくつかのスコア(発言時間、ポジティブ度合い、ネガティブ度合い、相槌回数、など)を設定し、それらの和で会議の質を評価している。また、各スコアに対して閾値を設定し、それを超えた場合にスコア項目に対応したアラートを表示することでファシリテーションを支援している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-163405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、会議の特徴に応じて適切なファシリテーション支援を行うことが困難であるという課題があった。
【0007】
会議にはさまざまな種類があり、会議ごとに質の適切な評価方法や適切なファシリテーションの方法は異なってくる。特許文献1では、会議の質の評価方法や閾値の設定は固定であり、会議の種類ごとに最適な値を調整する必要がある。したがって、会議の質の向上のために適切なファシリテーションを提案することが難しい。
【0008】
例えば、会議の質を判断する一つの要素に発言者の偏り度合いがある。アイデア出しを目的とした会議では、発言者の偏り度合いの閾値を低く設定し、多くの参加者の発言を促すことが好ましい。一方で、報告を目的とした会議では、報告者の意見を中心に議論するため、発言者の偏り度合いはアイデア出しを目的とした会議よりも高く設定することが好ましい。このように、適切なファシリテーションのためには会議の特徴を把握することが好適である。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、会議の特徴に応じて適切なファシリテーション支援を行うことができる、会議支援方法および会議支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る会議支援方法の一例は、
コンピュータが実行する会議支援方法であって、
会議における発言データを取得するステップと、
前記発言データに基づき、前記会議の複数の個別スコアを計算する、個別スコア計算ステップと、
学習済みニューラルネットワークを用いて、各前記個別スコアに基づき、前記会議の総合スコアを計算する、総合スコア計算ステップと、
前記学習済みニューラルネットワークを用いて、前記総合スコアに対する各前記個別スコアの寄与度を計算する、寄与度計算ステップと、
各前記寄与度に基づき、前記複数の個別スコアのうち1つ以上について、前記会議に対する評価または助言を表す情報を出力する、出力ステップと、
を備える。
【0011】
一例において、前記発言データは、発言者を識別する情報と、発言の内容を表すテキストデータと、発言の開始時刻および終了時刻を表す情報とを含む。
一例において、前記寄与度計算ステップにおいて、前記学習済みニューラルネットワークを近似する線形モデルが用いられる。
一例において、前記出力ステップにおいて、
前記総合スコアと、
少なくとも1つの前記個別スコアと、
前記評価または前記助言を表すテキストデータと、
が表示される。
一例において、前記総合スコアおよび少なくとも1つの前記個別スコアについて、前記会議における時間的変化が表示される。
【0012】
本発明に係る会議支援装置の一例は、上述の方法を実行するコンピュータを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、会議の特徴に応じて適切なファシリテーション支援を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態1を応用した一例の概要。
図2】実施形態1に係る会議支援装置のハードウェア構成例。
図3図2の会議支援装置の動作を表すフローチャート。
図4図2の発言データの形式例。
図5】実施形態1に係るDNNの構成例。
図6】具体的なアラート内容の例。
図7】オンライン会議を想定した場合の画面表示例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
<1.実施形態の概要>
図1は、本発明の実施形態1を応用した一例の概要を示す。実施形態1に係る会議支援装置は、会議の質の判定機能と、ファシリテーション支援機能との二つの機能を備える。会議の質の判定機能はDNN(深層ニューラルネットワーク)を用いて実現することができ、ファシリテーション支援機能はXAI(Explainable AI:説明可能なAI)技術を用いて実現することができる。
【0016】
DNNは、入力データと正解出力データとの組から入力データの隠れた特徴を抽出して学習し、その特徴に基づいて出力データを予測する機械学習モデルとして構成することができる。本実施形態では、会議の発言データから計算される会議の個別スコアを入力とし、会議の質を意味する総合スコア(たとえば「60点」)を出力するDNNを用いる。会議の個別スコアから会議の種類などを含む隠れた特徴を抽出し、その特徴に基づいて会議ごとに適切な方法で会議の質を判定できる。
【0017】
ファシリテーション支援機能にはXAI技術を用いる。XAI技術は機械学習モデルの判断根拠を理解するための技術である。さまざまな種類の技術があるが、本実施形態に適用した技術では、総合スコアに対する各個別スコアの寄与度を判断根拠として提示する。本実施形態では、会議の質の低下に寄与している個別スコアに対して、その値を改善するためのアラートを提示することで、会議のファシリテーションを支援する。例えば、「発言の偏り度合い」の寄与度が総合スコアを低下させる方向に高い場合には、発言の偏りを減らすために、発言頻度が低い参加者に対して発言を促すアクションを提示する。
【0018】
<2.実施形態の全体像>
本実施形態に係る会議支援装置は、会議の主催者(または進行役)のファシリテーションを支援する。なお、本実施形態は対面会議とオンライン会議のどちらにも適用できる。動作の詳細は<4.フローチャート>において後述する。
【0019】
<3.ハードウェア構成>
図2は、本実施形態に係る会議支援装置10のハードウェア構成例である。会議支援装置10は、入力装置20、出力装置30、演算装置40、記憶装置50を備える。
【0020】
入力装置20は、会議の発言データ(たとえば後述の発言データ56)を取得する。出力装置30は、分析結果を出力する。演算装置40は、記憶装置50に格納されたプログラムを実行する。記憶装置50は、プログラムおよび他の情報を格納する。
【0021】
会議支援装置10は、公知のコンピュータを備える。入力装置20は、たとえば、キーボード、マウス、カメラ、マイク等の入力機器と、ネットワークインタフェース等の通信装置とを含む。出力装置30は、たとえば、ディスプレイおよびプリンタ等の出力機器と、ネットワークインタフェース等の通信装置とを含む。演算装置40はたとえばプロセッサを含む。記憶装置50はたとえば半導体メモリ装置および磁気ディスク装置等の記憶媒体を含む。
【0022】
記憶装置50には、プログラムとして分析手順51が格納されている。分析手順51は、個別スコア計算手順52、総合スコア計算手順53、ファシリテーション決定手順54、分析結果表示手順55を含む。各手順の詳細は後述する。また、記憶装置50は発言データ56を格納する。
【0023】
演算装置40が、記憶装置50に格納された分析手順51を実行することにより、コンピュータが会議支援装置10として機能し、本実施形態において説明される会議支援方法を実行するように構成することができる。とくに、演算装置40は、個別スコア計算手順52、総合スコア計算手順53、ファシリテーション決定手順54、分析結果表示手順55をそれぞれ実行することにより、個別スコア計算手段、総合スコア計算手段、ファシリテーション決定手段、分析結果表示手段として機能する。このように、会議支援装置10は、本実施形態に係る会議支援方法を実行するコンピュータを備える。
【0024】
<4.フローチャート>
図3は、本実施形態に係る会議支援装置10の動作を表すフローチャートである。このフローチャートは、会議支援方法を表す。コンピュータとしての会議支援装置10は、図3に示す処理を実行することにより、本実施形態に係る会議支援方法を実行する。
【0025】
図3の処理は、会議の任意の時点で開始することができ、その時点までの会議の進行に対して使用者のファシリテーションを支援することができる。使用者は、会議が終わるまでこの処理を繰り返し用いてもよい。
【0026】
ステップS1で、会議支援装置10は図3の処理を開始する。
【0027】
ステップS2で、会議支援装置10は、会議における発言データ(たとえば記憶装置50に格納された会議の発言データ56)を取得する。なお、会議支援装置10は、発言データ56を、図3の処理とは独立して生成することができる。たとえば、入力装置20は発言データ56をリアルタイムで取得することができる。また、発言データ56は、会議の進行に応じて更新することができ、たとえば発言があるたびに更新すると好適である。
【0028】
発言データ56の取得方法は会議の形態に合わせて適宜設計可能である。たとえば、対面会議の場合には、入力装置20は、会議室に設置されたマイクなどの音声入力装置から音声データを取得し、これをテキストデータに変換して発言データ56とすることができる。また、オンライン会議の場合には、入力装置20は、各参加者のクライアントPCによって取得された音声データを、通信ネットワークを介して受信し、これをテキストデータに変換して発言データ56とすることができる。なお、音声データからテキストデータへの変換方法は当業者が公知技術等に基づいて適宜設計可能であり、たとえばいわゆる音声認識手法を用いてもよい。
【0029】
図4に、発言データ56の形式例を示す。発言データ56は、発言ID(発言を識別する情報)をキーとし、発言者ID(発言者を識別する情報)と、発言の内容を表すテキストデータと、発言の開始時刻および終了時刻を表す情報と含む。開始時刻および終了時刻は、たとえば会議が開始された時刻を00:00:00とした相対時刻とすることができる。同一時刻に複数の発言者が発言する場合も考えられ、その場合にはそれらの発言の時間範囲が少なくとも一部で重複することになる。
【0030】
各発言について発言者IDを特定する方法(すなわち、誰が喋っているかを判別する方法)は、当業者が適宜設計可能である。たとえば、各参加者に1つずつマイクを与えておき、マイクごとにその参加者を発言者として関連付けてもよい。また、指向性マイクを用い、発言者の位置または方向に基づいて発言者を特定してもよい。さらに、音声認識技術を用い、音声の内容(声紋またはその他の特徴)に基づいて発言者を特定してもよい。
【0031】
ステップS2において発言データ56を取得する際には、その会議に係る発言データ56の全体を取得してもよいし、発言データ56のうち直近一定期間のデータだけを取得してもよい。直近のデータだけを用いることで、直近の会議の状態に合わせた適切なファシリテーションを提案できる。
【0032】
ステップS3で、会議支援装置10は、発言データ56に基づき、会議の複数の個別スコアを計算する(個別スコア計算手順または個別スコア計算ステップ)。個別スコアは、たとえば会議の雰囲気や流れに関して計算される値であるが、詳細は<5.個別スコア計算手順>で後述する。
【0033】
ステップS4で、会議支援装置10は、学習済みニューラルネットワークを用いて、ステップS3で計算された各個別スコアに基づき、会議の総合スコアを計算する(総合スコア計算手順または総合スコア計算ステップ)。総合スコアは、たとえば会議の質を表すものとして計算されるものであるが、詳細は<6.総合スコア計算手順>で後述する。
【0034】
ステップS5で、会議支援装置10は、会議の質を改善するためのファシリテーションの内容を決定する(ファシリテーション決定手順またはファシリテーション決定ステップ)。詳細は<7.ファシリテーション決定手順>で後述する。
【0035】
ステップS6で、会議支援装置10は、上記ステップS2~S5の処理結果(分析結果)を出力装置30から出力する(分析結果表示手順または分析結果表示ステップ)。出力はたとえば表示によって行われる。詳細は<8.分析結果表示手順>で後述する。
【0036】
ステップS7で、会議支援装置10は図3の処理を終了する。
【0037】
<5.個別スコア計算手順>
個別スコア計算手順では、会議データから会議の雰囲気や流れに関する個別スコアを計算する。個別スコアは、複数の項目(個別スコア項目)のそれぞれについて計算され、計算された値が個別スコアとなる。
【0038】
本実施形態では、個別スコア項目として、ハラスメント度合い、ポジティブ度合い、ネガティブ度合い、偏り度合い、定期発言度合い、無言度合い、重複度合い、を用いる。以下にこれらの詳細を説明するが、個別スコア項目の定義および個別スコアの計算方法は当業者が適宜変更することができる。
【0039】
個別スコア項目「ハラスメント度合い」は、ハラスメント(いやがらせやいじめ)に相当する発言がどれくらいあったかを示す度合いである。各発言に対してハラスメント度合いを計算し、すべての発言のハラスメント度合いのうち最大値を、その会議のハラスメント度合いとする。変形例として、各発言のハラスメント度合いの平均値を、その会議のハラスメント度合いとしてもよい。また、各発言のハラスメント度合いをヒストグラムとして表し、そのヒストグラムに基づいて会議のハラスメント度合いを決定してもよい。
【0040】
一例として、各発言のハラスメント度合いは0~1の範囲の値であり、0がハラスメント度合いが低いことを意味し、1がハラスメント度合いが高いことを意味する。
【0041】
各発言のハラスメント度合いの決定方法については、たとえば特定の単語についてハラスメントに相当する度合いを定義し、発言に含まれるそのような単語に基づいて計算することができる。しかしながら、そのような定義は困難な場合があるので、機械学習モデルを用いて判定することが好ましい。
【0042】
例えば、近年テキスト分析の主流となっているBERTを使ってもよい。BERTは、テキストを文頭と文末の両方向から分析することで、文脈を読むことを可能とした機械学習モデルである。BERT自体は、テキスト中の単語をベクトル化する処理で構成され、ベクトル化された単語を用いて各種予測を行う。本実施の形態では、ベクトル化された単語からハラスメントの判定方法を学習する。BERTには、大量のテキストデータを用いて学習した公知の学習済みモデルを用いることができる。このため、少量の教師データでハラスメントの判定方法を学習できる。モデルの詳細や学習方法は、公知の技術であるため、説明を省略する。
【0043】
個別スコア項目「ポジティブ度合い」は、ポジティブ(肯定的)な発言がどれくらいあったかを示す度合いである。各発言のテキストデータを形態素分析し、全単語のうちポジティブなものと定義される単語の割合を、ポジティブ度合いとすることができる。形態素分析は公知の技術であるため、説明は省略する。ポジティブなものと定義される単語の一覧は、公知のデータベースを使用することができる。
【0044】
個別スコア項目「ネガティブ度合い」は、ネガティブ(否定的)な発言がどれくらいあったかを示す度合いである。各発言のテキストデータを形態素分析し、全単語のうちネガティブなものと定義される単語の割合を、ネガティブ度合いとすることができる。形態素分析は公知の技術であるため、説明は省略する。ネガティブなものと定義される単語の一覧は、公知のデータベースを使用することができる。
【0045】
個別スコア項目「偏り度合い」は、参加者がどれくらい偏りなく発言しているかを示す度合いである。発言時間ベクトルと重心ベクトルとの距離(たとえばユークリッド距離)を使用して計算される。発言時間ベクトルとは、全参加者の発言時間の合計に対する、各参加者の発言時間の割合を並べたベクトルである。たとえば会議の参加者が3人であり、第1の参加者の発言時間の合計がT分間であり、第2の参加者の発言時間の合計がT分間であり、第3の参加者の発言時間の合計がT分間であった場合には、T=T+T+Tとして発言時間ベクトルは(T/T,T/T,T/T)となる。また、重心ベクトルとは、各参加者が均等に発言した場合の発言時間の割合を並べたベクトルである。たとえば会議の参加者が3人である場合には、重心ベクトルは(1/3,1/3,1/3)となる。
【0046】
個別スコア項目「定期発言度合い」は、参加者がどれくらい定期的に発言しているかを示す度合いである。各参加者について、その参加者の隣接する2つの発言からなるすべての組を特定し、すべての組についてそれらの発言の時間間隔を計算する。そして、すべての参加者のすべての時間間隔のうち最大値を、その会議の定期発言度合いとする。または、会議の実施時間全体に対するその最大値の割合を、その会議の定期発言度合いとしてもよい。なお、ステップS2において発言データ56の全量でなく直近一定期間のデータだけを取得していた場合には、会議の実施時間に代えて、取得された発言データ56の時間範囲の長さを用いてもよい(以下同じである)。
【0047】
個別スコア項目「無言度合い」は、無言であった時間がどれくらいあったかを示す度合いである。たとえば、会議の実施時間全体のうち、発言者が0人であった時間の割合を、その会議の無言度合いとする。
【0048】
個別スコア項目「重複度合い」は、発言が重複していた時間(複数の発言者が同時に話していた時間)がどれくらいあったかを示す度合いである。会議の実施時間全体のうち、発言者が2人以上であった時間の割合を、その会議の重複度合いとする。
【0049】
<6.総合スコア計算手順>
総合スコア計算手順では、DNNを用いて、各個別スコアから、会議の質を意味する総合スコアを計算する。本実施形態ではDNNとして全結合モデルを適用したが、DNNの構成は当業者が自由に変更することができる。
【0050】
図5に、本実施形態に係るDNNの構成例を示す。図5において、Nは個別スコア項目の数、MはDNNにおける特徴量の数、TはDNNの層数、tはDNNの層番号(ただし1≦t≦T)、xは個別スコアを並べたベクトル、yおよびyは特徴量を並べたベクトル、zは総合スコア、A,A,AT+1はDNNの重みパラメータ、a,a,aT+1はDNNのバイアスパラメータ、LeakyReLUは漏洩正規化線形ユニット、tanhは双曲線関数である。
【0051】
式(1)で、個別スコアからなる属性ベクトルを、任意の要素数の特徴量ベクトルに変換する。式(2)を各tについて繰り返し適用することで、個別スコアから会議の特徴を抽出する。抽出した特徴量ベクトルから、式(3)で総合スコアを意味する値(たとえば0~1の範囲のスカラ値)を計算する。ここで、たとえば0は総合スコアが低いこと、1は総合スコアが高いことを意味する。
【0052】
DNNを用いることで、会議の個別スコアから会議の種類などを含む隠れた特徴を抽出し、その特徴に基づいて、会議ごとに適切な方法で会議の質を判定できる。DNNのパラメータの学習方法は、公知の技術であるため、説明を省略する。
【0053】
機械学習に用いる教師データの生成方法も、当業者が適宜設計することができる。たとえば、様々な会議において総合スコアを人為的に決定しておき、各会議の発言データから複数の個別スコアを計算し、計算された複数の個別スコアからなる組に、その会議の総合スコアを関連付けたものを、教師データとして用いることができる。
【0054】
DNNの入出力データの形式は上記のものに限らない。変形例として、入力データに発言の具体的内容(たとえば単語を表すベクトルの要素)を含めてもよい。
【0055】
<7.ファシリテーション決定手順>
ファシリテーション決定手順では、XAI技術を用いて、会議の質を改善するためのファシリテーションを決定する。XAI技術にはさまざまな種類があるが、本実施形態ではLIMEを用いた。ANCHORやGrad-CAMなどの他のXAI技術を適用してもよい。
【0056】
LIMEは、判断根拠を知りたいデータに対して、そのデータの近傍において学習済みニューラルネットワークを近似する線形モデルを作成し、各入力項目iの予測への寄与度を判断根拠として理解する技術である。線形モデルはたとえばf(x)=Σ(w)である。ここで、f(x)は、学習済みニューラルネットワークが出力する総合スコアの近似値を表し、図5の式(3)のzに対応する。xは個別スコアを表すベクトル(ただしiは個別スコア項目の番号を表すインデックス)であり、図5のxに対応する。wは重みパラメータを表すベクトル(xと同次元)である。
【0057】
他のXAI技術(たとえばANCHORやGrad-CAMなど)も、LIMEと同様に、wを決定することができる。なお、wのような具体的な重みの値を決定するためのXAI技術に限らず、他の形式で総合スコアに対する各個別スコアの寄与度を決定するXAI技術も利用可能である。たとえば寄与度は順位によって表現されてもよい。
【0058】
このようにして、会議支援装置10は、ファシリテーション決定手順において、学習済みニューラルネットワークを用いて、総合スコアに対する各個別スコアの寄与度を計算する。このため、ファシリテーション決定手順は、寄与度計算ステップを含むということができる。
【0059】
ここで、各個別スコアiに対する重みパラメータwの値を、その個別スコアの寄与度とすることができる。とくに、重みパラメータ(wの要素)のうち、絶対値が最も大きいものに対応する個別スコア項目が、総合スコアに最も寄与した個別スコア項目であるということができる。また、重みパラメータの符号は、その個別スコアが変化した場合の総合スコアの予測値への影響方向を意味している。例えば、符号が正(負)である場合、その項目を大きくすることで、総合スコアの予測値は大きく(小さく)なる。近似線形モデルの作成方法は、公知の技術であるため、説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、前述の近似線形モデルの重みパラメータを用いて、会議の質の向上につながるファシリテーションを決定する。まず、分析対象となる個別スコアの組に対して、その組の近傍で学習済みモデルを近似する線形モデルを構築する。次に、総合スコアの予測に最も寄与している個別スコア項目を特定する。そして、その個別スコア項目に関して、総合スコアが大きくなる方向に、個別スコアを誘導するアラート内容を決定する。具体的例として、重みが正(+)である場合には値を大きくするためのアラートを、重みが負(-)である場合には値を小さくするためのアラートを、それぞれ提案する。
【0061】
図6に、具体的なアラート内容の例を示す。たとえば、総合スコアに最も寄与した個別スコア項目が「ハラスメント度合い」であり、ハラスメント度合いに対応する重みパラメータの符号が負である場合には、アラート内容は「過激な発言は控えてください。」となる。このアラート内容は、会議に対する助言を表す情報であるということができる。この情報を認識した使用者は、各参加者に、過激な発言を控えるよう促すことができる。また、この情報を認識した参加者は、それ以降、過激な発言を控えるように努力することができる。これによってハラスメント度合いが下がり、会議の質が向上する。
【0062】
なお、本実施形態における「ハラスメント度合い」という個別スコア項目は、許容できないハラスメントがあったということを直ちに意味するわけではないので、必ずしもその個別スコアが低いほうが会議の質が高くなるとは限らない。たとえば、ハラスメントを恐れるあまり発言が消極的になると、会議の質が却って低くなることも考えられる。そのような場合には、アラート内容は「自信をもって発言しましょう。」となる。
【0063】
このように、本実施形態は、各個別スコア項目を常に高くまたは常に低く維持しようとするものではなく、各個別スコア項目に対して適切な値に近づけることを可能にするものである。なお変形例として、各個別スコア項目を常に高くまたは常に低く維持するように構成することも可能である。
【0064】
<8.分析結果表示手順>
分析結果表示手順では、ステップS2~S5で行ったデータ分析の結果を、会議支援装置10の出力装置30において出力する。出力は、会議支援装置10の画面に表示することによって行われてもよく、他のコンピュータに対する送信により行われてもよく、記憶装置50に格納することによって行われてもよい。他のコンピュータに送信する場合には、たとえば各参加者が操作するクライアントPCに対して送信することができ、送信されたデータは、各クライアントPCの画面に表示されてもよい。
【0065】
図7に、オンライン会議を想定した場合の画面表示例を示す。表示画面は、参加者の顔(たとえばカメラによって撮影されたもの)や会議の資料を主に表示するメインスペース101と、分析内容を表示する分析スペース102とを含む。
【0066】
総合スコア103およびアラート内容104は、メインスペース101の上部に表示される。なおこの例では、総合スコア103は表示に適した値に換算されている(たとえば図5のZを100倍した値が表示されている)が、実質的に総合スコアそのものを表示するのと等価である。
【0067】
このように、会議支援装置10は、分析結果表示手順において、各個別スコアの寄与度に基づき、個別スコアのうち1つについて、アラート内容を出力する。すなわち、分析結果表示手順は出力ステップを含むということができる。なお、図7の例ではただ1つの個別スコア項目についてのみアラート内容が出力されているが、複数の個別スコア項目についてアラート内容が出力されてもよい。
【0068】
他の分析結果は分析スペース102に表示される。分析スペース102は、たとえば総合スコアを表示する総合スコア表示エリア105と、個別スコアを表示する個別スコア表示エリア106と、個別スコアの寄与度を表示する寄与度表示エリア107と、参加者ごとの個別スコアの集計結果を表示する集計エリア108とを含む。
【0069】
分析スペース102は会議の妨げとならないように、操作に応じて非表示に変更できるようにしてもよい。
【0070】
これらの分析結果は、図7の例における総合スコア表示エリア105、個別スコア表示エリア106および寄与度表示エリア107のように時系列データとして表示されてもよい。とくに図7の例では、総合スコアおよび少なくとも1つの個別スコア(ハラスメント度合い)について、会議における時間的変化が表示されている。
【0071】
一方、図7の例における総合スコア103、アラート内容104、集計エリア108のように最新の結果のみをリアルタイムで更新しつつ表示してもよい。総合スコア103とアラート内容104は、新しい分析結果が得られるたびに(たとえばステップS2~S5が実行されるたびに)更新されてもよい。
【0072】
当然ながら、総合スコア103、アラート内容104、集計エリア108のいずれかにおいて時系列データを表示してもよく、総合スコア表示エリア105、個別スコア表示エリア106および寄与度表示エリア107のいずれかにおいて最新の結果のみを表示してもよい。
【0073】
個別スコア表示エリア106は、図7の例のように最も寄与度の絶対値が大きい1つの個別スコアのみ表示してもよいし、寄与度の絶対値が大きい順に複数の個別スコアを表示してもよい。例えば、図7では、寄与度の絶対値が最も大きいハラスメント度合いが表示されている。図7では、スペースの都合上、ハラスメント度合いのみを表示しているが、すべての個別スコアを表示してもよい。
【0074】
個別スコア表示エリア106に複数の個別スコアを表示する場合には、寄与度の絶対値が小さい個別スコアは小さく表示するなど、寄与度に応じて表示のサイズを変更してもよい。
【0075】
分析の結果は、参加者個人ごとに、または参加者が属する部門ごとに、集計して表示してもよい。例えば、図7の集計エリア108では、ハラスメント度合いと偏り度合いに関して、参加者ごとに集計した円グラフを表示している。これらの集計方法は当業者が適宜設計可能である。たとえばハラスメント度合いについては、会議全体ではなく参加者ごとにハラスメント度合いを計算し、各参加者のハラスメント度合いの割合を円グラフとして表示してもよい。また、偏り度合いについては、会議の偏り度合いの計算に用いた発言時間ベクトルの各要素の割合を円グラフとして表示してもよい。
【0076】
アラートについて、複数の表示装置が存在する場合(たとえば各参加者のクライアントPCに表示可能である場合)には、アラート内容104を表示するか否かを表示装置ごとに制御してもよい。例えば、ハラスメント度合いに関してアラートが出た場合に、ハラスメント度合いの最も高い発言をした参加者のみにアラートを表示してもよい。
【0077】
図7の例のように、総合スコアと、少なくとも1つの個別スコアと、アラート内容とが表示されていれば、アラート内容に基づき、問題となっている個別スコア項目と、その問題の程度とを容易に把握することができる。しかしながら、図7は表示内容の組み合わせの単なる一例であり、表示内容の組み合わせは当業者が適宜変更することができる。
【0078】
本実施形態では、アラート内容は会議に対する助言を表すものであるが、単に会議に対する評価を表すものとしてもよい。たとえば、ハラスメント度合いが大きい場合には、「過激な発言が多くなっています」のようなテキストデータを出力することができる。
【0079】
<9.利用例>
以下に、本実施形態に係る会議支援装置10の応用例を説明する。会議の主催者は会議支援装置10を用いて会議中のファシリテーションを検討する。例えば、主催者は、会議中、任意のタイミングにおいて、その時点での会議の総合スコア103と、総合スコア表示エリア105における時系列表示とを参考に、会議の質が下がっているということを認識し、会議の質を改善するためのファシリテーションが必要であることを理解する。
【0080】
主催者は、ファシリテーションを検討するにあたり、個別スコア表示エリア106に表示される個別スコアと、寄与度表示エリア107に表示されるその寄与度とを参考に、会議の質に影響を与えている要素(個別スコア項目)を特定する。図7の例では、ハラスメント度合いの寄与度の絶対値が最も大きく、符号は負であることから、ハラスメント度合いを下げるファシリテーションが好ましいことが分かる。
【0081】
さらに、主催者は、集計エリア108に表示される個人ごとのハラスメント度合いから、具体的にどの参加者に注意を促せばいいかを検討する。最後に、表示されたアラート内容104をもとに主催者は参加者に対して具体的な注意を促す。
【0082】
以上説明したように、実施形態1に係る会議支援方法および会議支援装置10によれば、会議の特徴に応じて適切なファシリテーション支援を行うことができる。
【符号の説明】
【0083】
10…会議支援装置
20…入力装置
30…出力装置
40…演算装置
50…記憶装置
51…分析手順
52…個別スコア計算手順(個別スコア計算ステップ)
53…総合スコア計算手順(総合スコア計算ステップ)
54…ファシリテーション決定手順(寄与度計算ステップ)
55…分析結果表示手順(出力ステップ)
56…発言データ
101…メインスペース
102…分析スペース
103…総合スコア
104…アラート内容(評価または助言を表す情報)
105…総合スコア表示エリア
106…個別スコア表示エリア
107…寄与度表示エリア
108…集計エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する会議支援方法であって、
会議における発言データを取得するステップと、
前記発言データに基づき、前記会議の雰囲気や流れに関する複数の個別スコアを計算する、個別スコア計算ステップと、
学習済みニューラルネットワークを用いて、各前記個別スコアに基づき、前記会議の総合スコアを計算する、総合スコア計算ステップと、
前記学習済みニューラルネットワークを用いて、前記総合スコアに対する各前記個別スコアの寄与度を計算する、寄与度計算ステップと、
各前記寄与度に基づき、前記複数の個別スコアのうち1つ以上の個別スコアについて、前記総合スコアが大きくなる方向に、該個別スコアを誘導する評価または助言を表す情報を出力する、出力ステップと、
を備える、会議支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記発言データは、発言者を識別する情報と、発言の内容を表すテキストデータと、発言の開始時刻および終了時刻を表す情報とを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記寄与度計算ステップにおいて、前記学習済みニューラルネットワークを近似する線形モデルが用いられる、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記出力ステップにおいて、
前記総合スコアと、
少なくとも1つの前記個別スコアと、
前記評価または前記助言を表すテキストデータと、
が表示される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記総合スコアおよび少なくとも1つの前記個別スコアについて、前記会議における時間的変化が表示される、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を実行するコンピュータを備える会議支援装置。