(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173685
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】超音波センサ装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/521 20060101AFI20231130BHJP
G01S 15/89 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01S7/521 A
G01S15/89 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086116
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】518078142
【氏名又は名称】上海天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩史
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸
(72)【発明者】
【氏名】世良 賢二
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
(72)【発明者】
【氏名】ロ ホウ
(72)【発明者】
【氏名】ゲ ゴウチ
(72)【発明者】
【氏名】ヨウ キクン
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB20
5J083AC18
5J083AD04
5J083AE08
5J083AF01
5J083BA02
5J083BE11
5J083BE53
5J083CA01
5J083CA13
5J083CB16
5J083DC10
(57)【要約】
【課題】超音波センサ装置のSN比を改善する。
【解決手段】超音波センサ装置は、超音波トランスデューサをそれぞれ含む複数画素と、複数画素を制御する制御回路と、を含む。複数画素の各画素は、超音波トランスデューサの受信信号を保持して、制御回路に応答信号として送信する。制御回路は、超音波トランスデューサに励振を与えた後に画素から送信される応答信号である、励振応答信号を取得する。制御回路は、超音波トランスデューサに励振を与えることなく画素から送信される応答信号である、無励振応答信号を取得する。制御回路は、無励振応答信号に基づいて、励振応答信号を補正する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサ装置であって、
超音波トランスデューサをそれぞれ含む複数画素と、
前記複数画素を制御する、制御回路と、
を含み、
前記複数画素の各画素は、前記超音波トランスデューサの受信信号を保持して、前記制御回路に応答信号として送信し、
前記制御回路は、
前記超音波トランスデューサに励振を与えた後に前記画素から送信される応答信号である、励振応答信号を取得し、
前記超音波トランスデューサに励振を与えることなく前記画素から送信される応答信号である、無励振応答信号を取得し、
前記無励振応答信号に基づいて、前記励振応答信号を補正する、
超音波センサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波センサ装置であって、
前記制御回路は、
対象物が存在しない状態で、第1励振応答信号及び第1無励振応答信号を取得し、
前記第1無励振応答信号に基づき、前記第1励振応答信号を補正し、
前記対象物が存在する状態で、第2励振応答信号及び第2無励振応答信号を取得し、
前記第2無励振応答信号に基づき、前記第2励振応答信号を補正し、
補正された前記第1励振応答信号と補正された前記第2励振応答信号との比較結果に基づき、前記対象物による励振応答信号を決定する、
超音波センサ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波センサ装置であって、
前記制御回路は、
連続する複数フレームの各フレームにおいて、前記複数画素を制御して前記複数画素の各画素から応答信号を取得し、
連続する二つのフレームの一方において、前記励振応答信号を取得し、
前記連続する二つのフレームの他方において、前記無励振応答信号を取得する、
超音波センサ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波センサ装置であって、
前記複数画素の各画素は、前記超音波トランスデューサの出力ノードにカソードが接続されたダイオードを含み、
前記制御回路は、
前記超音波トランスデューサの励振後に、励前記ダイオードのカソードにバイアスパルスを与え、
対象物が存在しない状態で、第3励振応答信号及び第3無励振応答信号を取得し、
前記第3励振応答信号及び前記第3無励振応答信号の差に基づいて、前記バイアスパルスのパルス幅を調整する、
超音波センサ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波センサ装置であって、
前記制御回路は、
前記バイアスパルスの異なるパルス幅において、前記第3励振応答信号及び前記第3無励振応答信号の差を取得し、
前記バイアスパルスのパルス幅と前記第3励振応答信号及び前記第3無励振応答信号の差との間の関係を特定し、
前記関係における極値を決定し、
前記極値を含む予め設定された範囲内から前記バイアスパルスのパルス幅を選択する、
超音波センサ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波センサ装置であって、
前記複数画素は、複数画素グループで構成され、
前記複数画素グループは、それぞれ、1以上の画素で構成され、
前記超音波トランスデューサは、圧電材料層及び前記圧電材料層を挟む二つの電極を含む圧電素子であり、
前記複数画素グループの各画素グループの前記超音波トランスデューサの一方の電極は、各画素グループ内の一つの共通電極の一部であり、
異なる画素グループの共通電極は互いに分離されて個別制御される、
超音波センサ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波センサ装置であって、
前記複数画素の各画素は、前記超音波トランスデューサの出力ノードにカソードが接続されたダイオードを含み、
前記複数画素グループのそれぞれに、分離されたダイオードバイアス配線がレイアウトされている、
超音波センサ装置。
【請求項8】
超音波トランスデューサをそれぞれ含む複数画素を含む超音波センサ装置の制御方法であって、
前記超音波トランスデューサに励振を与えた後に前記画素から送信される応答信号である、励振応答信号を取得し、
前記超音波トランスデューサに励振を与えることなく前記画素から送信される応答信号である、無励振応答信号を取得し、
前記無励振応答信号に基づいて、前記励振応答信号を補正する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波センサ装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の非破壊検査や、物体検知、指紋の読み取りなど、超音波センサは様々な分野で利用されている。例えば、指紋センサとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を利用する集積化MEMS超音波指紋センサや、TFT(Thin Film Transistor)超音波指紋センサが開発されている。これらは、二次元配列された画素からなる画素アレイを含み、各画素は、超音波トランスデューサを含む。
【0003】
超音波トランスデューサは、例えば圧電素子である。画素内の超音波トランスデューサは、超音波の送信及び受信を行う一つの素子で構成されてもよく、超音波の送信を行うトランスミッタと超音波の受信を行うレシーバとで構成されてもよい。具体的には、超音波トランスデューサは、電気信号に応じて超音波を発し、対象物で反射された超音波を受信して電気信号に変換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0046836号
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0031686号
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0260602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らの研究によれば、超音波トランスデューサを含む画素からの信号のSN比は、小さくなりやすいことがわかった。例えば、大きい低周波ノイズや試行ごとの信号の大きいばらつきといった、不具合が発生し得ることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、超音波センサ装置であって、超音波トランスデューサをそれぞれ含む複数画素と、前記複数画素を制御する、制御回路と、を含み、前記複数画素の各画素は、前記超音波トランスデューサの受信信号を保持して、前記制御回路に応答信号として送信し、前記制御回路は、前記超音波トランスデューサに励振を与えた後に前記画素から送信される応答信号である、励振応答信号を取得し、前記超音波トランスデューサに励振を与えることなく前記画素から送信される応答信号である、無励振応答信号を取得し、前記無励振応答信号に基づいて、前記励振応答信号を補正する。
【0007】
本開示の一態様は、超音波トランスデューサをそれぞれ含む複数画素を含む超音波センサ装置の制御方法であって、前記超音波トランスデューサに励振を与えた後に前記画素から送信される応答信号である、励振応答信号を取得し、前記超音波トランスデューサに励振を与えることなく前記画素から送信される応答信号である、無励振応答信号を取得し、前記無励振応答信号に基づいて、前記励振応答信号を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、超音波センサ装置のSN比を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の超音波センサ装置の構成を示したブロック図である。
【
図2】実施形態の画素アレイ基板の画素の回路構成を示した回路図である。
【
図3】超音波センサ装置を含む端末の構成例を示す。
【
図5】本開示の超音波センサ装置で、1フレーム(1単位期間)における、センシング動作例を示すタイミングチャートである。
【
図6】センシング対象物が存在する場合の励振応答信号と、センシング対象物が存在しない場合の励振応答信号の測定結果を示す。
【
図7A】対象物が存在する場合の励振応答信号と対象物が存在しない励振応答信号との間の差の測定結果を示す。
【
図7B】対象物が存在する場合の励振応答信号と対象物が存在しない励振応答信号との間の差の測定結果を示す。
【
図8】無励振応答信号により励振応答信号を補正する動作を説明するための図である。
【
図10】二段階の補正処理を含む、指紋読み取のための、画素の応答信号の処理方法を説明する図である。
【
図11A】対象物を伴う励振応答信号Vout(with object)と対象物を伴わない励振応答信号Vout(w/o object)と差の複数回の測定結果を示す。
【
図11B】対象物を伴う補正励振応答信号^S(with object)と対象物を伴わない補正励振応答信号^S(w/o object)と差の複数回の測定結果を示す。
【
図12】バイアスパルス幅Tdbと、^S(w/o object)を含むいくつかの信号との関係の測定結果を示す。
【
図13】指紋センサ装置の制御方法の例を示すフローチャートである。
【
図14】
図13に示す処理フローに対応する表示画面の例を模式的に示す。
【
図15】画素領域12を二つの部分領域に分けた構成例を模式的に示す。
【
図16】分割された画素領域の駆動方法の一例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示の超音波センサ装置について図面を参照して詳細に説明する。各図面における各構成要素の大きさや縮尺は、図の視認性を確保するために適宜変更して記載している。また、各図面におけるハッチングは、各構成要素を区別するためのものであり、必ずしも切断面を意味するものではない。また、スイッチング素子あるいは増幅素子として用いられる非線形素子についてトランジスタという呼称を用いるが、トランジスタはThin Film Transistor(TFT)を含む。
【0011】
本開示の超音波センサ装置は、例えば、医療又は産業用の検査分野や、指紋や物体の検出のために利用可能である。本明細書の一実施形態の超音波センサ装置は、配列された複数画素からなる画素アレイを含む。画素アレイは、例えば、1位次元配列又は二次元配列の画素で構成される。
【0012】
各画素は、超音波トランスデューサを含む。超音波トランスデューサは、超音波を送信及び受信する。超音波トランスデューサは、超音波の送信及び受信を行う一つの素子で構成されてもよく、超音波の送信を行うトランスミッタと超音波の受信を行うレシーバとで構成されてもよい。超音波は、20kHz以上の可聴範囲外の周波数を有している。超音波の周波数は、利用分野及び利用状況に応じて適切に選択される。超音波の周波数は、例えば5MHzである。あるいは超音波の直進性を高めるためにさらに高い周波数、例えば20MHzとしてもよいし、1000MHzとすることもできる。
【0013】
本明細書の一実施形態において、超音波トランスデューサは圧電素子である。圧電素子の圧電材料は、無機材料でも、有機材料であってもよい。超音波トランスデューサは、制御回路からの電気信号に応じて超音波を生成し、受信した超音波を電気信号に変換する。画素は、超音波トランスデューサにより変換された電気信号を保持する。超音波トランスデューサにより変換された受信信号は、画素から、制御回路に応答信号として伝送される。
【0014】
発明者らの研究によれば、超音波を送受信する超音波トランスデューサを含む画素からの信号のSN比は、小さくなりやすいことがわかった。例えば、大きい低周波ノイズや試行ごとの信号の大きいばらつきといった、不具合が発生し得ることが分かった。
【0015】
本明細書の一実施形態は、超音波トランスデューサに励振を与えて応答信号を取得し、さらに、超音波トランスデューサに励振を与えずに応答信号を取得する。励振を伴う応答信号は、励振を伴わない応答信号により補正される。これにより、励振を伴う応答信号から効果的に雑音を除去し、対象のより正確なセンシングが可能となる。以下において、励振を伴う応答信号を励振応答信号、励振を伴わない応答信号を無励振応答信号と呼ぶことがある。
【0016】
[装置構成]
図1は本明細書の一実施形態に係る超音波センサ装置の構成例を示したブロック図である。超音波センサ装置10は、画素アレイ基板11と制御回路を含む。制御回路は、マルチプレクサ回路15、駆動回路14、信号検出回路16、主制御回路18を含む。なお、制御回路の一部が省略される又は他の回路が追加されてもよく、一つの回路の一部の機能が他の回路の含まれていてもよい。
【0017】
画素アレイ基板11は、絶縁性基板(たとえばガラス基板)と、絶縁性基板上に画素13が縦横のマトリクス状に配置された画素領域12を含む。本例の画素アレイは2次元配列された画素で構成されるが、1次元配列された画素で構成されてもよい。
【0018】
マルチプレクサ回路15は、画素アレイ基板11の絶縁性基板上に形成されており、
図1における縦方向に配列した画素列の各々の信号線Dmに接続され、マルチプレクサ回路で時系列に変換することにより、信号線の本数を削減したうえで、信号検出回路16で検出を行う。
【0019】
駆動回路14は、画素13による超音波の送信及び受信ため、画素13を駆動制御する。マルチプレクサ回路15は、信号線Dmが伝送する画素13からの超音波検出信号を受けて、信号検出回路16に対して出力する。信号検出回路16は、マルチプレクサ回路で時系列に変換された信号線それぞれからの信号を検出する。
【0020】
主制御回路18は、駆動回路14及びマルチプレクサ回路15、信号検出回路16を制御する。主制御回路18は、画素それぞれから出力される応答信号を取得して、必要な処理を行う。本明細書の一実施形態において、主制御回路18は、各画素からの励振応答信号を、無励振応答信号によって補正する。主制御回路18による、画素からの応答信号の処理の詳細は後述する。駆動回路14、信号検出回路16及び主制御回路18は、画素アレイ基板11上に、又は、画素アレイ基板11と別の部品として実装されてもよい。
【0021】
[画素構成]
図2は一つの画素13の回路構成を示す。画素13は、超音波トランスデューサである、圧電素子PEを含む。この圧電素子PEは超音波の発振と受信の両方の機能を有する。圧電素子PEの一方の電極が符号TXで指示されている。電極TXを送信電極、他方の電極を受信電極と呼ぶことがある。後述する素子構成例において、電極TXは上部電極であり他方電極は下部電極である。絶縁基板から遠い側が上であり、近い側が下である。
【0022】
圧電素子PEにおいて、受信した超音波振動に応じた電圧VRXが誘起される。本開示の超音波センサ装置10の一つの画素回路は、3つの薄膜トランジスタTR1、TR2、TR3、及びダイオードD1を含んでいる。薄膜トランジスタの半導体材料は、例えば、低温ポリシリコン、酸化物半導体、又はアモルファスシリコンである。
【0023】
ダイオードD1のカソード端子が、トランジスタTR1のゲート端子とトランジスタTR3のソース/ドレイン端子との間のノードN1に接続されている。アノード端子は、ダイオードバイアス線PAに接続されている。トランジスタTR1のソース/ドレイン端子の一方は電源線PPに接続され、ソース/ドレイン端子の他方は、トランジスタTR2のソース/ドレイン端子の一方に接続されている。
【0024】
トランジスタTR2のゲート端子は制御線Rnに接続されている。トランジスタTR2のソース/ドレイン端子の他法は、信号線Dmに接続されている。トランジスタTR3のゲート端子は制御線Rn+1に接続されている。制御線Rn+1が伝送する信号は、次の画素行の制御線Rnが伝送する信号と同一である。トランジスタTR3のソース/ドレイン端子は、ダイオードD1のアノード端子及びカソード端子にそれぞれ接続されている。
【0025】
トランジスタTR1(増幅トランジスタ)は、圧電素子PEの一端の電位を増幅する機能を実現する。トランジスタTR2は、スイッチ素子であって、画素回路からの出力を制御する機能を実現する。トランジスタTR3はスイッチ素子であって、圧電素子PEの一端及びトランジスタTR1のゲート電極(ノードN1)の電位をリセットする機能を実現する。
【0026】
図1に示した超音波センサ装置10では、縦方向に複数の画素13が配列した画素列1つに対して1本の信号線Dmが存在する。同一画素列の画素13は、すべて信号線Dmに接続されている。この信号線Dmは、画素アレイ基板11端部において、一つのマルチプレクサ回路15に接続されている。
【0027】
[素子構造]
図3は、本明細書の一実施形態の画素アレイ基板11を含む、端末の構成例を模式的に示す。端末は、積層された画素アレイ基板11、表示パネル31、及びタッチパネル32を含む。タッチパネル32は、静電容量タイプや抵抗膜タイプ等、任意のタイプのタッチ検出方式を採用できる。表示パネル31は、OLED(Organic light emitting diode)表示パネルや、他のタイプの表示パネルであってよい。表示パネル31及びタッチパネル32は、画素アレイ基板11と共に、主制御回路18によって制御され得る。
【0028】
画素アレイ基板11、表示パネル31、及びタッチパネル32の位置関係は、
図3の例に限定されず任意である。例えば、画素アレイ基板11及び表示パネル31は積層されず、タッチパネル32の一方側又は異なる側に、面内で(積層方向において見て)離れて配置されてもよい。表示パネルとタッチパネルの積層体と、超音波センサ装置の画素アレイと他のタッチパネルの積層体とが、別に実装されてもよい。画素アレイ基板11は、表示パネルやタッチパネル等の他の機能パネルと積層されていなくてもよい。
【0029】
図4は、一つの画素の一部の断面構造を模式的に示す。以下の説明において、上下は、図面における上下を示す。画素アレイ基板11は、絶縁基板151と、絶縁基板151と対向する媒体200とを含む。媒体200は、例えば、樹脂又はガラスの可撓性又は不撓性の絶縁基板である。
図3に示すように、媒体200上に又は媒体に代えて、超音波に影響をあたえない表示パネルやタッチパネルの積層体が配置されてよい。絶縁基板151と媒体200との間に複数の画素が配列される。
【0030】
圧電素子から発信された超音波は、媒体200の表面で反射され圧電素子に戻ってくる。媒体200の表面に例えば人体の皮膚などが存在すると、超音波の反射率が変化する。反射超音波の強弱で、皮膚の有無(凹凸)をセンシングすることができる。
【0031】
画素は、絶縁基板151上に、下部電極162と、上部電極166と、圧電材料層165とを含む。これらは、超音波トランスデューサである圧電素子を構成する。上部電極166と下部電極162との間に、圧電材料層165が配置されている。圧電材料は有機又は無機材料であってよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を使用できる。あるいはフッ化ビニリデン(CH2CF2)と三フッ化エチレン(CF2CFH)の共重合体P(VDF/TrFE)を使用できる。
【0032】
図4に示す構成例において、複数の画素の上部電極166は、それぞれ、一つの共通電極の異なる部分である。本明細書の一実施形態において、画素アレイの全ての画素の上部電極166は、画素領域の全面を完全に覆う形状を有する一つの共通電極の異なる部分である。圧電材料層165も同様である。な下部電極162は、画素間で分離されている。複数の下部電極162は、平坦化膜161の面上に配置されている。
【0033】
上部電極166は送信電極であり、下部電極162は受信電極である。上部電極166に励振信号を与えることで全ての画素の圧電素子から同時に超音波を発振し、下部電極162によって画素固有の受信信号が得られる。上部電極や圧電材料層は、画素毎に分離されていてもよい。
【0034】
画素は、複数のスイッチを含む回路を含む。回路は、圧電素子を駆動制御し、画素回路とも呼ぶ。画素回路は、絶縁基板151と下部電極162の層との間に形成されている。画素回路は、下部電極162の電位を制御すると共に、下部電極162の受信信号を保持する。
図4に示す構成例は、超音波を発し、反射波を受ける側(図面上側)に、上部電極166が配置される。なお、圧電素子と回路の積層位置関係が逆であってもよい。
【0035】
図4は、画素回路において、トランジスタTR3と、トランジスタTR1のゲート電極157Bとを示す。絶縁基板151は、例えばガラス又は樹脂で形成されており、不撓性又は可撓性基板である。絶縁体の下地絶縁層152が、絶縁基板151上に形成され、その上に、半導体活性層155が積層されている。半導体活性層155は、低抵抗のソース/ドレイン領域と、それらの間の高抵抗のチャネル領域とを含む。
【0036】
半導体活性層155は、ゲート絶縁層156で覆われている。ゲート絶縁層156を介して、半導体活性層155の上にゲート電極が形成されている。
図4は、トランジスタTR3のゲート電極157Aと、トランジスタTR1のゲート電極157Bとを示す。ゲート電極157A、157Bの層上に層間絶縁膜158が形成されている。
【0037】
画素領域12内において、層間絶縁膜158上にソース/ドレイン電極159、160が形成されている。ソース/ドレイン電極159、160は、例えば、Al系合金で形成される。ソース/ドレイン電極159、160は、層間絶縁膜158のコンタクトホールに形成されたコンタクト部168、169によって、半導体活性層155に接続されている。
【0038】
配線部171が、トランジスタTR3のソース/ドレイン電極160から延びており、層間絶縁膜158のコンタクトホールに形成されたコンタクト部172によって、トランジスタTR1のゲート電極157Bに接続されている。配線部171とソース/ドレイン電極160とは、同一金属層含まれ、連続している。
【0039】
ソース/ドレイン電極159、160及び配線部171の上に、絶縁性の平坦化膜161が形成される。絶縁性の平坦化膜161の上に、下部電極162が形成されている。下部電極162は、平坦化膜161のコンタクトホールに形成されたコンタクト部によってソース/ドレイン電極160に接続されている。画素回路は、下部電極162の下側に形成されている。
【0040】
下部電極162の上に、圧電材料層165が形成されている。圧電材料層165は、下部電極162の上面及び平坦化膜の上面に接触している。圧電材料層165の上に、接触して、上部電極166が形成されている。下部電極162、圧電材料層165及び上部電極166が、圧電素子を構成する。
【0041】
[励振応答信号の読み取り]
図5は、1フレーム(1単位期間)における、超音波センサ装置10によるセンシング動作例を示すタイミングチャートである。主制御回路18は、連続するフレームのフレーム毎に、各画素13を制御して、応答信号を読み出す。
図5を参照して説明する動作例において、超音波センサ装置10は、フレームの初期期間において超音波を発振し、発振を停止した後、反射超音波を受信する。
【0042】
1フレームは、画素アレイの少なくとも一部の画素から応答信号を読み出すための期間である。以下に説明する動作例は、1フレーム内で、全ての画素の圧電素子PEを同時に駆動して超音波を生成し、異なる画素行の応答信号を、データ線それぞれから順次読み出す。
【0043】
図5を参照して、時刻T1から時刻T2の期間は、超音波発振期間である。時刻T1において、駆動回路14は、制御線Rn及び制御線Rn+1の電位を、ローレベルからハイレベルに変化させる。これにより、トランジスタTR2及びトランジスタTR3はONとなる。駆動回路14は、ダイオードバイアス線PAの電位をローレベルに維持する。この結果、圧電素子の受信電極(ノードN1)の電位が固定される。
【0044】
トランジスタTR2及びトランジスタTR3をONした後、駆動回路14は、圧電素子PEの送信電極TXに励振信号を与える。これにより、圧電素子PEが振動して、超音波が発振される。ここでは、画素アレイ基板11上の全ての画素の圧電素子それぞれの送信電極TXは、一つの共通電極の一部である。そのため、全ての画素の圧電素子が同時に振動する。その後、駆動回路14は、送信電極TXへの信号を停止する。
【0045】
送信電極TXへの信号を停止した後、時刻T2において、駆動回路14は、制御線Rn及び制御線Rn+1の電位を、ハイレベルからローレベルに変化させる。これにより、トランジスタTR2及びトランジスタTR3はOFFとなる。
【0046】
時刻T2から、圧電素子PEは、反射超音波を受信する。トランジスタTR3がOFFの状態であるので、圧電素子の受信電極がフローティングになり、超音波の受信によって圧電素子PEに誘起電圧VRXが発生する。
図5において、圧電素子PEが超音波を受信していない場合、誘起電圧VRXは0であり、超音波を受信している場合、誘起電圧VRXは実効値が0より大きい交流の電圧である。ノードN1の電位は、誘起電圧VRXに応じて変化する。ノードN1はトランスデューサの出力ノードである。
【0047】
時刻T2の後の時刻T3において、駆動回路14は、ダイオードバイアス線PAの電位を、ローレベルからハイレベルに変化させる。ダイオードバイアスは、ノードN1の電位を、トランジスタTR1が信号線Dmに出力する最適なバイアス電圧に調整する。
【0048】
図5は、誘起電圧VRXが0でのノードN1の電位変化を実線で示し、誘起電圧VRXが発生している場合のノードN1の電位変化を破線で示す。
図5に示すように、ノードN1の電位は、誘起電圧VRXとダイオードバイアスに応じて変化する。ノードN1の電位は、ダイオードバイアスに応じて上昇する。また、ノードN1の電位は、誘起電圧VRXに応じてさらに上昇する。ダイオードバイアスを与える期間Tdbは、正確なセンシングのために重要な要素である。この点は後で詳述する。
【0049】
時刻T3から期間Tdb経過後の時刻T4において、駆動回路14は、ダイオードバイアス線PAの電位を、ハイレベルからローレベルに変化させる。これにより、ノードN1の電位はフローティングとなり、上昇した電位に維持される。つまり、画素は、ノードN1に、超音波トランスデューサである圧電素子の受信信号を保持する。
【0050】
その後の時刻T5からT6までのハイレベルのパルスを、制御線Rnに与える。これにより、トランジスタTR2がON状態になり、トランジスタTR1は、ノードN1に保持されている信号を増幅して、応答信号を信号線Dmに出力する。駆動回路14は、異なる画素行の制御線Rnに対して、順次パルスを出力し、それにより、信号線Dmに接続されている画素から、順次、応答信号が読み出される。
【0051】
信号検出回路16は、データ線から出力OUTを受信する。出力OUTは、順次選択された画素からの応答信号を示す。圧電素子の励振を伴う応答信号は、圧電素子の励振を伴わない応答信号よりΔVだけ高い電圧である。ΔVは、ダイオードバイアスの値、ダイオードバイアスの期間、誘起電圧VRX等に基づく値である。
【0052】
[励振応答信号の雑音]
ここで、励振応答信号における雑音について説明する。励振応答信号は、超音波トランスデューサの励振を伴う応答信号である。
図6は、センシング対象物が存在する場合の励振応答信号と、センシング対象物が存在しない場合の励振応答信号の測定結果を示す。グラフの横軸は時間を示し、縦軸は励振応答信号の電圧を示す。
【0053】
図6は、一つのデータ線から順次読み出された異なる画素行の励振応答信号を示す。測定は、対象物としてシリコーンキューブを使用した。この点は、以下に説明する他の測定結果に対して同様である。なお、指紋センサ装置の例において、指紋(指)がタッチ面に接触している部分の励振応答信号は、
図6においてセンシング対象物が存在する場合の励振応答信号と近い値を示す。また、指紋がタッチ面から離れている部分の励振応答信号は、
図6においてセンシング対象物が存在しない場合の励振応答信号と近い値を示す。
【0054】
図6において、各パルスペアが、各画素行の、対象物が存在する場合としない場合の励振応答信号のペアを示す。例えば、左端のパルスペアは、第1画素行R1の励振応答信号を示す。10番目及び12番目のパルスペアは、それぞれ、10行目及び12行目の画素行の励振応答信号のペアを示す。各ペアにおいて、対象物が存在する場合の励振応答信号が、対象物が存在しない場合の励振応答信号より小さい。
【0055】
図6に示すように、励振応答信号の大きさは、画素行間で大きくことなる。また、対象物が存在する場合の励振応答信号と対象物が存在しない励振応答信号との間の差は、励振応答信号の大きさに対してとても小さい。
【0056】
図7A及び7Bは、対象物が存在する場合の励振応答信号と対象物が存在しない励振応答信号との間の差の測定結果を示す。
図7A及び7Bは、2回の測定それぞれの結果を示す。各測定結果は、1000フレームの測定値の平均値を示す。各グラフは、一つのデータ線から順次読み出された異なる画素行の励振応答信号の差を示す。各グラフの横軸は時間を示し、縦軸は励振応答信号の差を示す。差は、対象物が存在する励振応答信号から対象物が存在しない励振応答信号を引いた値を示す。
【0057】
図7A及び7Bにおいて、パルスが、各画素行の、励振応答信号の差分を示す。例えば、左端のパルスは、第1画素行R1の励振応答信号の差分を示す。10番目及び12番目のパルスペアは、それぞれ、10行目及び12行目の画素行の励振応答信号の差を示す。上述のように、対象物が存在する励振応答信号は、対象物が存在しない励振応答信号より小さいため、各パルスの値は負である。
【0058】
図7A及び7Bに示すように、各画素行の励振応答信号の差が、測定毎に大きく変化する。また、各測定において、励振応答信号の差が、画素行間で大きく異なる。例えば、
図7Aの測定結果において、画素行R1の励振応答信号差の絶対値は、画素行R10やR12の励振応答信号差の絶対値よりずっと小さい。
【0059】
このように、励振応答信号は低周波の雑音が存在する。この雑音は、超音波センサ装置による正確なセンシングを阻害し得る。本明細書の一実施形態は、超音波トランスデューサの励振を伴わない応答信号である、無励振応答信号を取得し、それによって、励振応答信号を補正する。これにより、励振応答信号における雑音を効果的の除去することができる。
【0060】
[応答信号の補正]
図8は、無励振応答信号により励振応答信号を補正する動作を説明するための図である。
図8は、連続する二つのフレームにおけるいくつかの信号の時間変化を模式的に示す。具体的には、送信電極TXへに与えられる信号、データ線からの応答信号Vout(t)、一つ前のフレーム周期の応答信号Vout(t―τ)、そして、二つのフレームの応答信号の差(Vout(t―τ)-Vout(t))を示す。τはフレーム周期である。
【0061】
図8に示す例は、奇数フレームのおいてのみ送信電極TXに励振を与え、偶数フレームにおいて送信電極TXに励振を与えない。奇数フレームの処理と偶数フレームの処理が繰り返される。
【0062】
具体的には、主制御回路18は、奇数フレームにおいて、圧電素子に励振信号を与えて超音波を生成し、その後、各画素から応答信号Vout(t)を読み出す。これらは、励振応答信号である。
図8は、例として、三つの画素PX1、PX2、PX3からの励振応答信号の読み取りを示す。励振応答信号は、対象物に応じた(対象物が存在しない場合を含む)反射超音波による真の(本来の)信号Sと雑音Nとを含む。
【0063】
主制御回路18は、偶数フレームにおいて、圧電素子に励振信号を与えることなく、各画素から応答信号Voutを読み出す。これらは、無励振応答信号である。
図8は、例として、三つの画素PX1、PX2、PX3からの無励振応答信号の読み取りを示す。無励振応答信号は、対象物に応じた信号Sを含まず、雑音Nのみで構成される。
【0064】
主制御回路18は、奇数フレームの励振応答信号を、偶数フレームの無励振応答信号で補正して、真の信号Sの推定値^Sを得る。一例は、下記式のように、奇数フレームの励振応答信号から、偶数フレームの無励振応答信号を減算する。
^S=Vout(t-τ)-Vout(t)
【0065】
τはフレーム周期であり、Vout(t-τ)は、1フレーム周期前の応答信号を表す。上述のように、奇数フレームの励振応答信号Vout(t)は真の信号Sと雑音Nを含み,偶数フレームのVout(t)は雑音Nのみを含み、奇数フレームのVout(t)から偶数フレームのVout(t)を減算することで真の信号Sの推定値^Sを得ることができる。
【0066】
信号処理(^S=Vout(t-τ)-Vout(t))は、くし形フィルタ(Combfilter)で実現できる。
図9はくし型フィルタの構成を模式的に示す。くし形フィルタは、遅延素子401と演算子402を含む。遅延素子401は、入力信号を時間τだけ遅延させて出力する。演算子402は、遅延素子401の出力信号から入力信号を減算した信号を出力する。主制御回路18は、この信号処理をプログラムに従って動作するプロセッサにより実行してもよく、当該演算素子を実行するように構成された論理回路で実行してもよい。
【0067】
くし形フィルタは、信号成分を減衰させず低周波ノイズを減衰させることができる。励振応答信号の上記補正は、雑音の、DC成分及びフレーム周波数の整数倍の成分を実質的にゼロまで減衰させることができる。
【0068】
上記例は、奇数フレームの励振応答信号を、次の偶数フレームの無励振応答信号で補正する。他の例は、偶数フレームの励振信号を次の奇数フレームの無励振応答信号で補正してもよい。他の例は、奇数フレームの無励振応答信号で次の偶数フレームの無励振応答信号で補正してもよく、偶数フレームの無励振応答信号で次の奇数フレームの無励振応答信号で補正してもよい。他の例は、1フレームの無励振応答信号を、複数の励振応答信号の補正ために使用してもよく、励振応答信号のフレームと非連続のフレームの無励振応答信号によって補正を行ってもよい。
【0069】
本明細書の一実施形態において、主制御回路18は、対象物が存在しない状態における補正励振応答信号^S(w/o object)と、対象物が存在する状態における補正励振応答信号^S(with object)とを取得する。主制御回路18は、応答信号^S(with object)を、応答信号^S(w/o object)で補正する。例えば、応答信号^S(with object)から応答信号^S(w/o object)を減算する。
【0070】
超音波指紋センサ装置は他の用途において、^S(with object)は、固定パタンノイズ(FPN)を含む場合がある。応答信号^S(w/o object)により、^S(with object)から固定パタンノイズを効果的に除去することができる。
【0071】
図10は、上記二段階の補正処理を含む、指紋読み取のための、画素の応答信号の処理方法を説明する図である。主制御回路18は、フレームmにおいて、指が装置面に置かれている状態での励振応答信号を画素から読み出す(451)。主制御回路18は、次のフレームm+1において、指が装置面に置かれている状態での無励振応答信号を画素から読み出す(453)。さらに、主制御回路18は、励振応答信号から無励振応答信号を減算して、指が装置面に置かれている状態での補正励振応答信号^S(with object)を得る(455)。
【0072】
主制御回路18は、フレームnにおいて、指がタッチ面に置かれていない状態での励振応答信号を画素から読み出す(461)。主制御回路18は、次のフレームn+1において、指がタッチ面に置かれていない状態での無励振応答信号を画素から読み出す(463)。フレームn+1は、フレームmの前でもよく、フレームm+1は、フレームnの前でもよい。さらに、主制御回路18は、励振応答信号から無励振応答信号を減算して、指がタッチ面に置かれていない状態での補正励振応答信号^S(w/o object)を得る(465)。
【0073】
次に、主制御回路18は、指がタッチ面に置かれている状態での補正励振応答信号^S(with object)から、指がタッチ面に置かれていない状態での補正励振応答信号^S(w/o object)を減算する(471)。主制御回路18は、この値から得られる指紋像と予め保持している指紋像とを比較して、指紋認証を実行する。
【0074】
例えば、超音波指紋センサ装置において、指が無い状態の受信音圧は、指が有る状態の受信音圧より大きい。指が無い状態の受信音圧は、超音波トランスデューサの励振電圧や表面保護シールの有無等で変化する。そのため、^S(w/o object)を使用することで、より正確に^S(with object)を補正することができる。
【0075】
次に、無励振応答信号による励振応答信号の補正効果を説明する。
図11Aは、対象物を伴う励振応答信号Vout(with object)と対象物を伴わない励振応答信号Vout(w/o object)との差の複数回の測定結果を示す。各回の測定結果は、1000フレームの平均値である。グラフは、一つのデータ線から順次読み出された異なる画素行の励振応答信号の差を示す。グラフの横軸は時間を示し、縦軸は励振応答信号の差を示す。差は、対象物が存在する励振応答信号から対象物が存在しない励振応答信号を引いた値を示す。
【0076】
図11Aにおいて、異なるパルス群は、一つのデータ信号から読み出された異なる画素行(画素)の測定値を示す。各パルスは、一つの画素行からの1回の測定結果を示す。例として、二つのパルス群に矢印が付されている。矢印は、一つの画素行における測定結果のばらつきを示す。ばらつきは、低周波数の雑音に起因する。また、
図11Aに示すように、いくつかの画素行においては、Vout(with object)とVout(w/o object)の大小関係が、測定毎に異なっている。
【0077】
図11Bは、対象物を伴う補正励振応答信号^S(with object)と対象物を伴わない補正励振応答信号^S(w/o object)との差の複数回の測定結果を示す。各回の測定結果は、1000フレームの平均値である。グラフは、一つのデータ線から順次読み出された異なる画素行の補正励振応答信号の差を示す。グラフの横軸は時間を示し、縦軸は補正励振応答信号の差を示す。差は、対象物が存在する補正励振応答信号から対象物が存在しない補正励振応答信号を引いた値を示す。
【0078】
図11Bにおいて、異なるパルス群は、一つのデータ信号から読み出された異なる画素行(画素)の測定値を示す。各パルスは、一つの画素行からの1回の測定結果を示す。例として、二つのパルス群に矢印が付されている。矢印は、一つの画素行における測定結果のばらつきを示す。ばらつきは、低周波数の雑音に起因する。
【0079】
図11Aの測定結果と比較すると、ばらつき、つまり、低周波数のノイズは大きく減少している。具体的低周波数のノイズは、0.91mVRMSから0.2mVRMSに減少している。このように、励振応答信号を無励振応答信号で補正することで、効果的に低周波数のノイズを低減することができる。
【0080】
[ダイオードバイアス幅の調整]
次に、
図2に示す画素回路におけるダイオードD1に与えるバイアスのパルス幅Tdbの調整を説明する。例えば、指紋センサ装置のタッチ面に指が置かれている場合、指紋の凸部はタッチ面に接触し、凹部はタッチ面から離れている。発明者らの研究によれば、パルス幅Tdbによって、指紋(対象物)がタッチ面に触れている領域と指紋(対象物)がタッチ面から離れている領域との間において、信号の大小関係が変化し得ることが分かった。
【0081】
より具体的には、(^S(with object)-^S(w/o object))の値の大小関係が、対象物がタッチ面に触れている領域と対象物がタッチ面から離れている領域との間において、バイアスのパルス幅Tdbに依存して変化する。パルス幅Tdbが特定の値の場合、対象物がタッチ面に触れている領域の値がより大きく、パルス幅Tdbが他の特定の値の場合、対象物がタッチ面に触れている領域の値がより小さい。
【0082】
発明者らの研究により、(^S(with object)-^S(w/o object))の大小関係が変化する事象は、対象物を伴わない補正励振応答信号^S(w/o object)と強い相関があることが分かった。
【0083】
図12は、バイアスパルス幅Tdbと、^S(w/o object)を含むいくつかの信号との関係の測定結果を示す。グラフの横軸は、バイアスパルス幅Tdbを示す。左側の縦軸は、対象物を伴わない画素からの応答信号Vout(w/o object)を示し、右側の縦軸は対象物を伴わない補正励振応答信号^S(w/o object)を示す。
【0084】
図12のグラフにおいて、線501は対象物を伴わない励振応答信号を示し、線502は対象物を伴わない無励振応答信号を示す。線505は、対象物を伴わない補正励振応答信号^S(w/o object)を示す。
【0085】
信号^S(w/o object)は、バイアスパルス幅Tdbの増加と共に増減し、極大値及び極小値を示す。例えば、破線の円506は、極大値(@Tdb=0.98)を含む領域を示し、破線の円507は、極小値(@Tdb=1.08)を含む領域を示す。
【0086】
信号^S(w/o object)が極大値を示すTdb=0.98において、(^S(with object)-^S(w/o object))の値は,対象物がタッチ面に触れている領域の値の方が対象物がタッチ面から離れている領域の値より小さかった。信号^S(w/o object)が極小値を示すTdb=1.08において、(^S(with object)-^S(w/o object))の値は,対象物がタッチ面に触れている領域の値の方が、対象物がタッチ面から離れている領域の値より大きかった。
【0087】
発明者らの実験において、これら極値の近傍において、指紋画像を正確に取得することができた。一方、これら極値から離れた中間値、例えばTdb=1.03において、正確な指紋画像を取得することができなかった。つまり、信号^S(w/o object)の極値を特定し、予め設定された範囲内でTdbの値を設定することで、正確に対象物の画像を取得することができる。
【0088】
本明細書の一実施形態において、主制御回路18は、信号^S(w/o object)に基づき、バイアスパルス幅Tdbを設定する。主制御回路18は、信号^S(w/o object)とバイアスパルス幅Tdbとの関係を測定し、極値を特定する。主制御回路18は、極値から予め設定された範囲内からバイアスパルス幅Tdbの値を選択する。
【0089】
信号^S(w/o object)は、
図12に示すように、バイアスパルス幅Tdbの増加と共に増減し、ある周期で振動する。
図12に示される^S(w/o object)の振動の周期は0.2μsecである。発明者らは、^S(w/o object)の振動の周期が励振の周期と同じとなることを発見した。
図12は、実際に励振の周期が0.2μsec,周波数が5MHzの場合の結果である。したがって、信号^S(w/o object)とバイアスパルス幅Tdbとの関係を測定し、極大値と極小値を特定するためには、バイアスパルス幅Tdbを少なくとも励振の周期の二分の一の時間の範囲に渡って変化させ、信号^S(w/o object)を測定する必要がある。
【0090】
図13は、指紋センサ装置の制御方法の例を示すフローチャートである。指紋センサ装置は、
図3に示すように、タッチパネル32及び表示パネル31を含む端末に実装され得る。
図14は、
図13に示す処理フローに対応する表示画面の例を模式的に示す。
【0091】
図13に示すように、主制御回路18は、指紋取得開始のイベント(601)を検知すると、タッチ面が指等の対象物(以下、指とする)にタッチされているか判定する(602)。
図14において、画面651は、指紋認証の開始を示す情報をユーザに提示する。これは、指紋取得開始のイベントの例である。主制御回路18は、タッチパネル32からの信号により、指がタッチ面にタッチされているか判定できる。
【0092】
指がタッチ面にタッチしている場合(602:NO)、主制御回路18は、タッチ面から指を離すように、メッセージを表示パネル31において表示する(603)。
図14において、画面652は、このメッセージの例を表示している。
【0093】
指がタッチ面にタッチしていない場合(602:YES)、主制御回路18は、バイアスパルス幅Tdbと信号^S(w/o object)との関係を測定する(604)。主制御回路18は、例えば、バイアスパルス幅Tdbを変えながら信号^S(w/o object)を複数回取得し、各バイアスパルス幅Tdbにおける信号^S(w/o object)の平均値を計算してもよい。
【0094】
次に、主制御回路18は、信号^S(w/o object)が極値となるバイアスパルス幅Tdbを特定し、その値にバイアスパルス幅Tdbを設定する(605)。バイアスパルス幅Tdbは、極値の近傍領域内の極値と異なる値でもよい。
【0095】
次に、主制御回路18は、所定位置に指を置くようにメッセージを表示パネル31において表示する(606)。
図14において、画面653は、このメッセージの例を表示している。次に、主制御回路18は、設定したバイアスパルス幅Tdbにおいて画素を制御し、対象物(指)を伴う補正励振応答信号^S(with object)を取得する(607)。
【0096】
[分割駆動]
以下において、画素領域12の分割駆動を説明する。本明細書の一実施形態において、超音波センサ装置10は、画素領域12を複数の部分領域に分割し、部分領域毎に制御する。
図15は、画素領域12を二つの部分領域に分けた構成例を模式的に示す。各部分領域は、複数の画素で構成された画素グループである。なお、分割領域の数は任意である。本明細書の一実施形態において、部分領域に対応して圧電素子の共通電極及びダイオードバイアス配線が分離して形成され、個別に駆動される。上記構成例において、一つの画素グループに含まれる全ての画素の上部電極は、一つの共通電極の一部であり、ダイオード配線は全ての画素に共通である。
【0097】
図15は、例として、二つの部分領域それぞれの分離された共通電極701A、701B並びにダイオードバイアス配線703A、703Bを示す。一方の部分領域の各画素の上部電極166は、共通電極701Aの一部であり、他方の部分領域の各画素の上部電極166は、共通電極701Bの一部である。上述のように、共通電極701A、701Bには、個別に励振信号が与えられる。また、ダイオードバイアス配線703A、703Bは、個別にダイオードバイアスを伝送する。
【0098】
共通電極701A、701Bに励振信号を与える駆動回路が、個別に用意されてもよく、スイッチを使用して、一つの駆動回路からの出力を共通電極701A、701Bの間で切り替えてもよい。二つの部分領域のダイオードバイアス配線703A、703Bは分離され、個別に駆動される。この構成により、画素の共通電極(送信電極)及びダイオードバイアス線の静電容量を低減し、駆動負荷を低減する。これにより、装置の大型化が容易となる。なお、ダイオードバイアス配線と共通電極の一方のみが、部分領域毎に分離形成されていてもよい。
【0099】
図16は、分割された画素領域の駆動方法の一例を示すシーケンス図である。
図16は、二つの部分領域に分割された画素領域の、送信電極TXへの励振信号及び画素から読みだされる応答信号を模式的に示す。
【0100】
時刻T50からT51の期間(フレーム)において、主制御回路18は、第1の部分領域Aの送信電極TXに励振信号を与え、当該部分領域Aの画素それぞれの励振応答信号を順次読み出す。部分領域Bから応答信号は読み出されない。第1の部分領域Aについてのこのフレームでの処理は、
図2及び8を参照して説明した励振を伴うフレームと同様である。
【0101】
時刻T51からT52の次の期間(フレーム)において、主制御回路18は、第1の部分領域Aの送信電極TXに励振信号を与えることなく、当該部分領域Aの画素それぞれの無励振応答信号を順次読み出す。部分領域Bから応答信号は読み出されない。第1の部分領域Aについてのこのフレームでの処理は、
図8を参照して説明した励振を伴わないフレームと同様である。
【0102】
時刻T52からT53の期間(フレーム)において、主制御回路18は、第2の部分領域Bの送信電極TXに励振信号を与え、当該部分領域Bの画素それぞれの励振応答信号を順次読み出す。部分領域Aから応答信号は読み出されない。第2の部分領域Bについてのこのフレームでの処理は、
図2及び8を参照して説明した励振を伴うフレームと同様である。
【0103】
時刻T53からT54の次の期間(フレーム)において、主制御回路18は、第2の部分領域Bの送信電極TXに励振信号を与えることなく、当該部分領域Bの画素それぞれの無励振応答信号を順次読み出す。部分領域Aから応答信号は読み出されない。第2の部分領域Bについてのこのフレームでの処理は、
図8を参照して説明した励振を伴わないフレームと同様である。これら4つのフレームが、この後も、繰り返し実行される。
【0104】
上記例は、各部分領域の無励振応答信号及び励振応答信号を二つの連続するフレームによって取得する。他の例は、一つのフレームにおいて、一方部分領域の励振応答信号を読み出し、他方部分領域の無励振応答信号を読み出してもよい。この場合、各画素列のデータ線は、部分領域毎に形成される。
【0105】
例えば、最初のフレームにおいて、主制御回路18は、第1の部分領域Aの送信電極TXに励振信号を与え、第2の部分領域Bの送信電極TXに励振信号を与えない。その後、部分領域Aの画素それぞれの励振応答信号を順次読み出すと共に、部分領域Bの画素それぞれの無励振応答信号を順次読み出す。
【0106】
次にフレームにておいて、主制御回路18は、第1の部分領域Aの送信電極TXに励振信号を与えず、第2の部分領域Bの送信電極TXに励振信号を与える。その後、部分領域Aの画素それぞれの無励振応答信号を順次読み出すと共に、部分領域Bの画素それぞれの励振応答信号を順次読み出す。
【0107】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0108】
10 超音波センサ装置、11 画素アレイ基板、12 画素領域、13 画素、14 駆動回路、15 マルチプレクサ回路、16 信号検出回路、18 主制御回路、TR1、TR2、TR3 トランジスタ、D1 ダイオード、Rn、Rn+1 制御線、Dm 信号線、PE 圧電素子、TX 送信電極、PA ダイオードバイアス配線、PP 電源線、151 絶縁基板、152 下地絶縁層、155 半導体活性層、156 ゲート絶縁層、157A、157B ゲート電極、158 層間絶縁膜、159、160 ソース/ドレイン電極、162 下部電極、165 圧電材料層、166 上部電極、171 配線部、200 媒体、701A、701B 部分領域の共通電極