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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173705
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】画像生成装置および画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/67 20060101AFI20231130BHJP
   G01B 11/24 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
G01N21/67 Z
G01B11/24 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086145
(22)【出願日】2022-05-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型 拠点都市環境整備型」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 祥揮
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏彦
【テーマコード(参考)】
2F065
2G043
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD04
2F065FF01
2F065FF04
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065LL04
2F065LL14
2F065LL62
2F065MM26
2F065QQ21
2F065QQ24
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065UU05
2G043AA03
2G043CA02
2G043EA08
2G043FA01
2G043HA02
2G043KA02
2G043LA03
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】3次元画像を生成することが可能な画像生成装置および画像生成方法を提供すること。
【解決手段】画像生成装置は、互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能な光変換素子を備える。光変換素子は、光源から入力された観測光を複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力することが可能に構成されている。画像生成装置は、複数の変換光が入力されるイメージセンサを備える。イメージセンサは、複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得可能に構成されている。画像生成装置は、複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって光源の3次元画像を生成する演算部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能な光変換素子であって、光源から入力された観測光を前記複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力することが可能に構成されている前記光変換素子と、
前記複数の変換光が入力されるイメージセンサであって、前記複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得可能に構成されている前記イメージセンサと、
前記複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって前記光源の3次元画像を生成する演算部と、
を備える画像生成装置。
【請求項2】
前記光変換素子は、角度可変の微小ミラーが格子状に配列されている反射型素子であり、
前記光変換素子は、前記イメージセンサと対向して配置されており、
前記複数のマスクパターンには、光を前記イメージセンサへ出力する出力領域、および、光を前記イメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されており、
前記出力領域の前記微小ミラーに入力された光は、前記イメージセンサの領域内に反射され、
前記遮光領域の前記微小ミラーに入力された光は、前記イメージセンサの領域外に反射される、請求項1に記載の画像生成装置。
【請求項3】
前記光変換素子は、光の透過率を可変に制御可能な画素が格子状に配列されている透過型素子であり、
前記光源から入力された前記観測光が、前記光変換素子を通過して前記イメージセンサに到達するように、前記光変換素子が配置されており、
前記複数のマスクパターンには、光を前記イメージセンサへ出力する出力領域、および、光を前記イメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されており、
前記出力領域に対応する前記画素は、入力された光を透過し、
前記遮光領域に対応する前記画素は、入力された光を遮光する、請求項1に記載の画像生成装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記光源の3次元の発光分布と前記マスクパターンを経由して前記イメージセンサに入力される光との幾何学的関係を、光線追跡によって演算し、
前記演算部は、前記複数のマスクパターンの各々に対応して演算された複数の前記幾何学的関係に基づいて、前記光源の3次元画像を生成する、請求項1に記載の画像生成装置。
【請求項5】
前記光変換素子の前記光源側に配置されているレンズをさらに備える、請求項1に記載の画像生成装置。
【請求項6】
前記光変換素子と対向して配置されているとともに、前記イメージセンサと対向して配置されている反射板をさらに備え、
前記光変換素子から出力された前記変換光は、前記反射板で反射して前記イメージセンサに入力される、請求項2に記載の画像生成装置。
【請求項7】
互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成する工程であって、光源から入力された観測光を前記複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力する工程と、
前記複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得する工程と、
取得した前記複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって前記光源の3次元画像を生成する工程と、
を備える画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、画像生成装置および画像生成方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
3次元トモグラフィ映像復元技術が知られている。特許文献1では、複数のピンホールがアレイ状に配置されたピンホールアレイを透過させて、1枚の2次元画像を取得する。複数のピンホールのそれぞれに対応する、複数の部分画像を用いて、物体の3次元形状を復元する。対象物を複数の視線から観測できるため、1つのカメラのみで3次元的な空間構造の再構成計算が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-192203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、カメラのイメージセンサの受光領域を、複数のピンホールのそれぞれに対応した部分に空間分割する必要がある。部分画像の1つあたりの受光量が減少するため、信号対雑音(SN)比が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する画像生成装置の一態様は、互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能な光変換素子を備える。光変換素子は、光源から入力された観測光を複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力することが可能に構成されている。画像生成装置は、複数の変換光が入力されるイメージセンサを備える。イメージセンサは、複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得可能に構成されている。画像生成装置は、複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって光源の3次元画像を生成する演算部を備える。
【0006】
光源の態様は様々であってよい。光源は自発光に限られない。光が照射されている物体も光源となる。
【0007】
上記の構成によると、複数のマスクパターンを形成することで、光源を複数の視線のパターンの各々を用いて観測し、複数の2次元画像を取得することができる。複数の2次元画像を用いてトモグラフィ法を実行することで、光源の3次元画像を生成することが可能となる。そして、複数のマスクパターンを動的に形成することでイメージセンサを時分割して使用できるため、イメージセンサの受光面を空間分割する必要がない。2次元画像の受光量を十分に確保できるため、信号対雑音(SN)比を向上させることが可能となる。
【0008】
光変換素子は、角度可変の微小ミラーが格子状に配列されている反射型素子であってもよい。光変換素子は、イメージセンサと対向して配置されていてもよい。複数のマスクパターンには、光をイメージセンサへ出力する出力領域、および、光をイメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されていてもよい。出力領域の微小ミラーに入力された光は、イメージセンサの領域内に反射されてもよい。遮光領域の微小ミラーに入力された光は、イメージセンサの領域外に反射されてもよい。
【0009】
光変換素子は、光の透過率を可変に制御可能な画素が格子状に配列されている透過型素子であってもよい。光源から入力された観測光が、光変換素子を通過してイメージセンサに到達するように、光変換素子が配置されていてもよい。複数のマスクパターンには、光をイメージセンサへ出力する出力領域、および、光をイメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されていてもよい。出力領域に対応する画素は、入力された光を透過してもよい。遮光領域に対応する画素は、入力された光を遮光してもよい。
【0010】
演算部は、光源の3次元の発光分布とマスクパターンを経由してイメージセンサに入力される光との幾何学的関係を、光線追跡によって演算してもよい。演算部は、複数のマスクパターンの各々に対応して演算された複数の幾何学的関係に基づいて、光源の3次元画像を生成してもよい。
【0011】
光変換素子の光源側に配置されているレンズをさらに備えていてもよい。
【0012】
光変換素子と対向して配置されているとともに、イメージセンサと対向して配置されている反射板をさらに備えていてもよい。光変換素子から出力された変換光は、反射板で反射してイメージセンサに入力されてもよい。
【0013】
本明細書に開示する画像生成方法の一態様は、互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成する工程を備える。当該工程は、光源から入力された観測光を複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力する。画像生成方法は、複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得する工程を備える。画像生成方法は、取得した複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって光源の3次元画像を生成する工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】画像生成システム1の上面断面図である。
図2】画像生成システム1の側面断面図である。
図3】マスクパターンの一例を示す図である。
図4】視線パターン1における幾何学的関係hを説明する図である。
図5】視線パターン1における行列式の一例である。
図6】視線パターン2における幾何学的関係hを説明する図である。
図7】視線パターン2における行列式の一例である。
図8】実施例2の画像生成装置10aの概略斜視図である。
図9】変形例における幾何学的関係hを説明する図である。
図10】変形例に係る画像生成装置10bの上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0015】
(画像生成システム1の構成)
図1および図2に、画像生成システム1の上面断面図および側面断面図を示す。図2は、図1のII-II線における断面図である。図1は、図2のI-I線における断面図である。画像生成システム1は、画像生成装置10および半導体製造装置20を備える。
【0016】
半導体製造装置20は、真空容器21、窓部22、ステージ23、ウエハ24、上部電極25、を備える。真空容器21の内部には、ステージ23および上部電極25が互いに対向して配置されている。ステージ23上にはウエハ24が配置される。各種プロセス(例:成膜、ドライエッチング)の実行時には、ステージ23と上部電極25との間に、プラズマ26を発生させる。プラズマ26は発光体であり、xy平面方向(ウエハ24の表面と平行な方向)の直径がD1である。真空容器21の一部には、可視光を透過する窓部22が配置されている。プラズマ26による発光を、窓部22を介して真空容器21の外部から観測することができる。
【0017】
画像生成装置10は、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)11、イメージセンサ12、演算部13、を備える。DMD11は窓部22と対向して配置されている。イメージセンサ12は、DMD11と対向して配置されている。本実施例では、イメージセンサ12は、DMD11の下方側(-z方向側)に配置されている。また図1では、断面図に現れないイメージセンサ12を点線で示している。光源であるプラズマ26からは、観測光OLが放出される。観測光OLは、窓部22を介してDMD11に入力される。観測光OLは、DMD11によって変換光CLに変換され、イメージセンサ12へ出力される。イメージセンサ12は、入射された変換光CLに対応した2次元画像を取得する。また、プラズマ26の直径D1がDMD11の画角AVの範囲内となるように、DMD11のサイズおよびプラズマ26との距離が調整されている。これにより、プラズマ26の全体をイメージセンサ12で撮影することが可能とされている。
【0018】
DMD11は、角度可変の微小ミラーが格子状に配列されている反射型素子である。DMD11の微小ミラーの各々の角度を適宜設定することで、イメージセンサ12へ反射させる光の経路を選択できる。すなわちDMD11は、互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能な光変換素子として機能する。DMD11によって、視線のパターンや光量を動的に変化させる(すなわち時分割する)ことが可能である。
【0019】
イメージセンサ12は、受光素子が格子状に配列されているセンサである。イメージセンサ12には、CCDセンサやCMOSセンサなど、各種の方式を使用可能である。イメージセンサ12には、DMD11から変換光CLが入力される。従って、変換光CLに対応した2次元画像をイメージセンサ12によって取得可能である。
【0020】
図3に、DMD11とイメージセンサ12との対応の一例を示す。図3では、例として、DMD11が5×5の格子状に配列されている微小ミラーを備えており、イメージセンサ12が12×12の格子状に配列されている受光素子を備えている場合を説明する。DMD11に形成されているマスクパターンには、光をイメージセンサ12へ出力する出力領域A1、および、光をイメージセンサ12へ出力しない遮光領域A2が、2次元形状で配置されている。図3では、出力領域A1を白抜きで示し、遮光領域A2をハッチングで示している。出力領域A1の微小ミラーに入力された光は、イメージセンサ12の領域内に反射される。そして出力領域A1に対応した入力領域B1が形成される。一方、遮光領域A2の微小ミラーに入力された光は、イメージセンサ12の領域外に反射される。すなわち、遮光領域A2の光はイメージセンサ12に取り込まれない。これにより、マスクパターンに対応した変換光をイメージセンサ12で検知することができる。
【0021】
なお図3の例に示すように、マスクパターンのあるパターンを形成しているDMD11の微小ミラーの数と、イメージセンサ12の受光素子の数は、1対1に対応していなくてもよい。またDMD11のマスクパターンの形状と、イメージセンサ12に反射されるマスクパターンの反射像の形状とは、完全な相似形でなくてもよく、形状が変化していてもよい。例えば図3の例に示すように、入力領域B1の一部が重複するように、反射像の形状が変形するような状況においても、本明細書の技術は適用可能である。また実際には、DMD11は、非常に多数の微小ミラーを備えている(例:800×480配列)。またイメージセンサ12は、非常に多数の受光素子を備えている(例:1920×1080配列)。また、マスクパターンの最小ピクセルサイズは自由に設定可能である。例えば、数十×数十配列のミラーでマスクパターンの最小ピクセルを構成してもよい。
【0022】
演算部13は、プラズマ26の3次元画像を生成する装置である。具体的には、イメージセンサ12で取得された複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって3次元画像を生成する。複数のマスクパターンの各々に対応して演算された複数の幾何学的関係に基づいて、光源の3次元画像を生成する、演算部13は、例えばPCであってよい。演算部13は、操作部31と、表示部32と、制御部33と、を備える。操作部31は、キーボードやマウス等を備えていてもよい。表示部32は、様々な情報や画像を表示するためのディスプレイである。制御部33は、CPU34と、メモリ35と、GPU37と、を備える。メモリ35には、プログラム36が記憶されている。CPU34およびGPU37は、プログラム36に従って、後述する様々な処理を実行する。
【0023】
(3次元画像の生成方法)
演算部13では、トモグラフィ解析により、プラズマ26の3次元画像が生成される。トモグラフィ解析について説明する。プラズマ26の3次元の発光分布fが視線のパターンによってイメージセンサ12に到達する光gは、幾何学的関係hに決定される。その関係は、行列計算(g=hf)で得られる。なお幾何学的関係hについては後述する。イメージセンサ12に到達する光gによって2次元画像が取得できる。そして、逆問題(MIN|hf-g|)を解くことで、2次元画像からプラズマ26の3次元の発光分布fを推定することができる。しかし、発光分布fの未知数の数が観測数より多いため、悪条件である。
【0024】
そこで本実施例の技術では、視線のパターンを変化させて得た複数の2次元画像を結合することで、観測数を増加させることができる。良条件に近づけることができるため、より安定的に逆問題の方程式を解くことが可能となる。よって、プラズマ26の3次元の発光分布fを、より精度良く推定することが可能となる。具体的に説明する。DMD11によってマスクパターンを変更してから、イメージセンサ12によって2次元画像を取得する。この処理をn回繰り返す(nは2以上の自然数)。これにより、視線のパターンを、パターン1からパターンnまでn個に時分割することができる。よって、イメージセンサ12に到達するn個の光g~gが得られる。また、n個のパターンの各々に、n個の幾何学的関係h~hが存在する。n個のパターンの各々についてブロック化すると、以下の行列式が得られる。
【数1】

行列式を大きくすることができるため、より安定的に逆問題の方程式を解くことが可能となる。
【0025】
(幾何学的関係h)
図4を用いて、幾何学的関係hの具体例を説明する。図4はプラズマ26、DMD11、イメージセンサ12の断面模式図である。イメージセンサ12の受光面をXY平面とし、光の入射方向をZと定義する。図4は、YZ平面での断面図である。なお実際には、プラズマ26の発光分布fは3次元であり、DMD11およびイメージセンサ12の配列は2次元である。
【0026】
プラズマ26は、YZ断面に沿って発光点P11~P33の9点を備えているとモデル化した。イメージセンサ12は、Y方向に沿って測定点Sk,mが並んでいるとモデル化した。ここで、添え字kは視線のパターンkを示し、添え字mは測定点のY方向の位置を示している。図4の例では、1つ目の視線のパターン1の場合において、Y方向に測定点が5つ存在する場合を説明する。よってイメージセンサ12は、測定点S1,1~S1,5を備えている。またDMD11は、測定点Sk,mの各々に対応して、光の透過と遮光を制御している。図4では、透過部を白抜きで示し、遮光部をハッチングで示している。また図4の例では、測定点S1,1およびS1,4が遮光され、測定点S1,2、S1,2およびS1,4に光が入射する場合を説明する。
【0027】
視線のパターン1において、測定点S1,1~S1,5に到達する光は、幾何学的関係hで決定される。幾何学的関係hの一例としては、距離、障害物の有無、反射状態、などである。幾何学的関係hは、トモグラフィ解析のために必要である。本実施例では、演算部13が、光線追跡によって幾何学的関係hを演算する。
【0028】
光線追跡の具体例を説明する。発光点P11~P33の何れか1点に発光体を配置した場合に、測定点S1,1~S1,5に到達する光をシミュレーションする。シミュレーションは、以下の観点で行われる。発光点P11との距離が遠いほど、光のパワーが弱くなる。真空容器21の内壁に近いほど、光の反射が強くなる。反射状態は、光の波長に応じて変化する。発光点P11からの光路上に障害物がある場合には、光が遮光される。このシミュレーションを、発光点P11~P33の各々に発光体を配置した場合について実行する。また、視線のパターン(DMD11のマスクパターン)がn個存在する場合には、n個のパターンの各々について、上記のシミュレーションを実行する。
【0029】
(トモグラフィ解析の具体例)
第1に、1つ目の視線パターン1における光gおよび幾何学的関係hが取得される。図4に、視線パターン1における幾何学的関係hを示す。図5に、視線パターン1における、光g、幾何学的関係h、発光分布fの関係を示す行列式を示す。図5の例では、視線のパターン1において測定点S1,1~S1,5に到達した光gの強度が、[0, 1.5, 2.1, 0, 1.8]である。測定点S1,1はDMD11で遮光されているため、測定点S1,1における光gの強度は0である。測定点S1,2には、光路OP12aおよびOP12b図4、実線)で線積分された、強度1.5の光gが入射する(図5、領域R1参照)。この線積分の値は、図5の幾何学的関係hの行列で示される寄与率に基づいて表すことができる。すなわち光路OP12aでは、発光点P21、P22、P23、P33が線積分され、それぞれの発光点の寄与率は、0.1、0.3、0.1、0.1である(領域R2参照)。また光路OP12bでは、発光点P31が線積分され、発光点P31の寄与率は0.1である(領域R3参照)。なお寄与率は、前述した光線追跡により予め取得することができる。
【0030】
同様にして、測定点S1,3には、光路OP13aおよびOP13b図4、点線)で線積分された、強度2.1の光gが入射する(図5、領域R4参照)。光路OP13aでは、発光点P21、P22、P23が線積分され、それぞれの発光点の寄与率は、0.3、0.3、0.3である(領域R5参照)。また光路OP13bでは、発光点P11、P12が線積分され、それぞれの発光点の寄与率は、0.2、0.1である(領域R6参照)。測定点S1,4はDMD11で遮光されているため、測定点S1,4における光gの強度は0である。なお、測定点S1,5については、前述の内容と同様であるため、説明を省略する。
【0031】
第2に、2つ目の視線パターン2における光gおよび幾何学的関係hが取得される。図6に、視線パターン2における幾何学的関係hを示す。視線パターン2では、測定点S2,2およびS2,3が遮光され、測定点S2,1、S2,4およびS2,5に光が入射する場合を説明する。また図7に、視線パターン2における行列式を示す。視線パターン2の行列式(図7)は、視線パターン1の行列式(図5)に対して、測定点S2,m、光gおよび幾何学的関係hが追加されている。
【0032】
図7の例では、視線のパターン2において測定点S2,1~S2,5に到達した光gの強度が、[1.2, 0, 0, 2.4, 2.0]である。測定点S2,1には、光路OP21aおよびOP21b図6、実線)で線積分された、強度1.2の光gが入射する。測定点S2,4には、光路OP24aおよびOP24b図6、点線)で線積分された、強度2.4の光gが入射する。測定点S2,5には、光路OP25aおよびOP25b図6、一点鎖線)で線積分された、強度2.0の光gが入射する。なお、寄与率の内容については前述の内容と同様であるため、説明を省略する。
【0033】
以後、第n個目の視線パターンnまで、上記の処理が実行される。これにより、n個の光g~g、および、n個の幾何学的関係h~hを備えた行列式を生成することができる。そして前述した逆問題の方程式を解くことにより、トモグラフィ解析が実行され、発光分布fを求めることができる。行列式を大きくすることができるため、より安定してトモグラフィ解析を行うことが可能となる。
【0034】
(効果)
DMD11を用いて複数のマスクパターンを形成することで、プラズマ26を複数の視線のパターンの各々を用いて観測し、複数の2次元画像を取得することができる。そして複数の2次元画像を用いて演算部13でトモグラフィ法を実行することで、安定的に方程式を解くことができるため、プラズマ26の3次元画像を精度良く生成することが可能となる。
【0035】
DMD11を用いて複数のマスクパターンを動的に形成することで、イメージセンサ12を時分割して使用することができる。イメージセンサ12の受光面の全面を用いて、複数の2次元画像の各々を取得することができるため、受光面を空間分割する場合に比して受光量を十分に確保できる。3次元画像の信号対雑音(SN)比を向上させることが可能となる。
【0036】
3次元画像の取得対象物を観測するための観測点が限定される場合がある。例えば、真空容器内でプラズマを発生させる装置(例:半導体製造装置、核融合装置など)では、真空容器内を外部から観測可能な窓部の数や大きさは最小限とされる。この場合、対象物を多数点から観測できないため、3次元画像の生成が困難である。一方、本実施例の技術では、限定された1つの観測点において、視線のパターンを複数生成することができる。視線の異なる複数の2次元画像を取得できるため、観測点が限定される場合においても、対象物の3次元画像を精度良く生成することが可能となる。半導体製造分野や核融合分野において、プラズマ発光分布を正確に知ることが可能となる。
【0037】
3次元画像の取得対象物の形状が経時変化する場合がある。例えば半導体製造装置で用いられるプラズマは、加工プロセスの進行に応じて発光分布や発光波長が変化する。本実施例の技術では、応答時間が10マイクロセカンドオーダーと非常に短いDMD11を用いて、マスクパターンを動的に変化させることができる。対象物の形状変化の速度に比して、視線のパターン変化の周期を十分に小さくすることができる。よって、対象物の形状の経時変化を、3次元の連続画像で取得することが可能となる。
【実施例0038】
図8に、実施例2の画像生成装置10aの概略斜視図を示す。なお、実施例1の構成(図1および図2)と同様の部位には、同一符号を付すことで説明を省略する。画像生成装置10aは、実施例1の反射型素子(DMD11)に代えて、透過型素子(液晶素子11a)を備えている。窓部22、液晶素子11aおよびイメージセンサ12は、プラズマ26に対して一直線上に並んで配置されている。プラズマ26から入力された観測光OLは、窓部22を介して液晶素子11aに入力される。液晶素子11aに入力された観測光OLは、液晶素子11aを通過することで変換光CLに変換される。変換光CLはイメージセンサ12に到達する。
【0039】
液晶素子11aは、光の透過率を可変に制御可能な画素が格子状に配列されている透過型素子である。液晶素子11aの画素の各々の透過率を適宜設定することで、互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能である。マスクパターンには、出力領域A1および遮光領域A2が、2次元形状で配置されている。出力領域A1は、透過率が高い領域であり、光をイメージセンサ12へ透過する領域である。遮光領域A2は、透過率が低い領域であり、光を遮光することでイメージセンサ12へ到達させない領域である。図8の液晶素子11aの例では、出力領域A1を白抜きで示し、遮光領域A2を黒塗りで示している。
【0040】
(効果)
透過型素子(液晶素子11a)を用いる場合においても、複数のマスクパターンを動的に形成することができる。プラズマ26を複数の視線のパターンの各々を用いて観測することで、プラズマ26の3次元画像を生成することが可能となる。
【0041】
反射型素子(DMD11)を用いる場合に比して、透過型素子(液晶素子11a)を用いる場合には、透過型素子とイメージセンサ12との距離を縮めることができる。また光の入射方向に対して、透過型素子とイメージセンサ12とを直線上に配置することができる。透過型素子およびイメージセンサ12のレイアウトの自由度を高めることができるため、画像生成装置10aの小型化や構成の簡略化が可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0043】
(幾何学的関係hの変形例)
幾何学的関係hを求める方法は、図4で説明したように、視線パターンごとに算出する方法に限られない。例えば、マスクパターンを構成する複数の要素(例:DMD11の微小ミラー、液晶素子11aの画素)ごとに寄与率を計算しておくことで、幾何学的関係hを求めてもよい。図9を用いて、変形例の幾何学的関係hを説明する。図9は、DMD11が5×5の格子状に配列されている微小ミラーを備えている例である。DMD11の受光面(XY平面)に、微小ミラーMi,jが並んでいる。ここで、添え字iはX座標を示し、添え字jはy座標を示している。また、光をイメージセンサ12へ出力する微小ミラーを白抜きで示し、出力しないミラーをハッチングで示している。
【0044】
微小ミラーMi,jの各々について、寄与行列Ci,jを予め計算する。寄与行列Ci,jは、微小ミラーMi,jの光をイメージセンサ12に入力し、その他の微小ミラー全ての光を遮光状態にしたときの寄与率を示す行列である。すなわち、微小ミラーM1,1の反射光のみをイメージセンサ12に入力し、その他すべての微小ミラーを遮光状態にすることで、寄与行列C1,1が算出できる。以後、寄与行列C1,2~C5,5まで順番に、合計25個の寄与行列Cを算出する。そして、任意のマスクパターンに対し、光をイメージセンサ12へ出力する微小ミラーに対応する寄与行列Cを全て合計する。幾何学的関係hおよび寄与行列Cはサイズの等しい行列であるため、合算が可能である。これにより、幾何学的関係hを算出することができる。図9のマスクパターン例では、幾何学的関係hは、下式で求められる。
h=C1,2+C1,4+C1,5+C2,1+C2,4+C2,5+C3,2+C3,3+C4,1+C5,4
以上より、寄与行列Ci,jを予め計算しておき、マスクパターンごとに対応する寄与行列Cを抽出して全て合計することで、任意のマスクパターンに対して幾何学的関係hを即座に計算することが可能となる。なお、寄与行列Cを求める本方法は、反射型素子(DMD11)に限られず、透過型素子(液晶素子11a)にも適用可能である。
【0045】
(その他の変形例)
図10に、変形例に係る画像生成装置10bを示す。画像生成装置10bは、本実施例の画像生成装置10(図1)に比して、レンズ14および反射板15をさらに備えている。レンズ14は、DMD11のプラズマ26側に配置されている。反射板15は、DMD11と対向して配置されているとともに、イメージセンサ12と対向して配置されている。観測光OLは、レンズ14を介してDMD11に入力される。DMD11から出力された変換光CLは、反射板15で反射してイメージセンサ12に入力される。レンズ14を用いることにより、画角AVやプラズマ26とDMD11との距離DDを任意に設定することが可能となる。また反射板15を用いることにより、イメージセンサ12の配置位置を任意に設定することが可能となる。画像生成装置10bの設計の自由度を高めることが可能となる。
【0046】
3次元画像の取得対象物は、自発光する物体に限られない。自発光していない様々な物体に対しても、外部から照明することで、本明細書の技術を利用可能である。例えば、流体中に混入したトレーサ粒子の挙動を追う粒子画像流速測定法に、本明細書の技術を適用すると、1台のカメラによって、流体の動きを3次元空間的に求めることが可能となる。
【0047】
1つのイメージセンサ12に対して、互いに位置の異なるDMD11を複数備えてもよい。複数のDMD11の各々から変換光CLを出力し、1つのイメージセンサ12に入力してもよい。複数の観測点を備えることができるため、3次元画像をより精度よく生成することが可能となる。
【0048】
光線追跡の方法は、様々であってよい。本実施例では、光源からの光線がカメラに入射する光量を計算する手法(forward-raytracing)を説明したが、この手法に限られない。例えば、カメラから光線を飛ばして、光源に到達した光路からカメラに入射する光量を計算する手法(backward-raytracing)を用いてもよい。
【0049】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0050】
以下に、本技術の態様を列挙する。
[態様1]
互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成することが可能な光変換素子であって、光源から入力された観測光を前記複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力することが可能に構成されている前記光変換素子と、
前記複数の変換光が入力されるイメージセンサであって、前記複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得可能に構成されている前記イメージセンサと、
前記複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって前記光源の3次元画像を生成する演算部と、
を備える画像生成装置。
[態様2]
前記光変換素子は、角度可変の微小ミラーが格子状に配列されている反射型素子であり、
前記光変換素子は、前記イメージセンサと対向して配置されており、
前記複数のマスクパターンには、光を前記イメージセンサへ出力する出力領域、および、光を前記イメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されており、
前記出力領域の前記微小ミラーに入力された光は、前記イメージセンサの領域内に反射され、
前記遮光領域の前記微小ミラーに入力された光は、前記イメージセンサの領域外に反射される、態様1に記載の画像生成装置。
[態様3]
前記光変換素子は、光の透過率を可変に制御可能な画素が格子状に配列されている透過型素子であり、
前記光源から入力された前記観測光が、前記光変換素子を通過して前記イメージセンサに到達するように、前記光変換素子が配置されており、
前記複数のマスクパターンには、光を前記イメージセンサへ出力する出力領域、および、光を前記イメージセンサへ出力しない遮光領域が2次元形状で配置されており、
前記出力領域に対応する前記画素は、入力された光を透過し、
前記遮光領域に対応する前記画素は、入力された光を遮光する、態様1に記載の画像生成装置。
[態様4]
前記演算部は、前記光源の3次元の発光分布と前記マスクパターンを経由して前記イメージセンサに入力される光との幾何学的関係を、光線追跡によって演算し、
前記演算部は、前記複数のマスクパターンの各々に対応して演算された複数の前記幾何学的関係に基づいて、前記光源の3次元画像を生成する、態様1~3の何れか1項に記載の画像生成装置。
[態様5]
前記光変換素子の前記光源側に配置されているレンズをさらに備える、態様1~4の何れか1項に記載の画像生成装置。
[態様6]
前記光変換素子と対向して配置されているとともに、前記イメージセンサと対向して配置されている反射板をさらに備え、
前記光変換素子から出力された前記変換光は、前記反射板で反射して前記イメージセンサに入力される、態様2に記載の画像生成装置。
[態様7]
互いに異なる2次元形状を有する複数のマスクパターンを形成する工程であって、光源から入力された観測光を前記複数のマスクパターンの各々に対応した複数の変換光に変換して出力する工程と、
前記複数の変換光に対応した複数の2次元画像を取得する工程と、
取得した前記複数の2次元画像を用いて、トモグラフィ法によって前記光源の3次元画像を生成する工程と、
を備える画像生成方法。
【符号の説明】
【0051】
1:画像生成システム 10:画像生成装置 11:DMD 12:イメージセンサ 13:演算部 20:半導体製造装置 21:真空容器 22:窓部 26:プラズマ OL:観測光 CL:変換光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10