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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173718
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
H02M7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086164
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 晃
(72)【発明者】
【氏名】森島 洋一
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006AA05
5H006CC01
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC05
(57)【要約】

【課題】 安価で信頼性の高い電力変換装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による電力変換装置は、交流電源10から供給された交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ4と、交流電源10とコンバータ4との間に設けられたフィルタ回路2と、交流電源10の出力電圧を検出する電圧検出器12と、コンバータ4の入力電流を検出する電流検出器14と、電圧検出器12と電流検出器14との少なくとも一方で得られた検出値をデジタル信号として検出する検出回路16、18と、交流電源10の出力電圧値と、コンバータ4の入力電流値と、コンバータ4の電圧指令値とを用いて、検出回路16、18およびフィルタ回路2の要素を含む状態方程式に基づいてフィルタ回路2の状態量の推定値を算出する状態推定回路20と、状態推定回路20で算出された推定値を用いてコンバータ4の電圧指令を補償する制御回路22、24と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から供給された交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータと、
前記交流電源と前記コンバータとの間に設けられたフィルタ回路と、
前記交流電源の出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記コンバータの入力電流を検出する電流検出器と、
前記電圧検出器と前記電流検出器との少なくとも一方で得られた検出値をデジタル信号として検出する検出回路と、
前記交流電源の出力電圧値と、前記コンバータの入力電流値と、前記コンバータの電圧指令値とを用いて、前記検出回路および前記フィルタ回路の要素を含む状態方程式に基づいて前記フィルタ回路の状態量の推定値を算出する状態推定回路と、
前記状態推定回路で算出された推定値を用いて前記コンバータの電圧指令を補償する制御回路と、を備えた、電力変換装置。
【請求項2】
前記状態推定回路は、前記コンバータの入力電流値に替えて前記交流電源の出力電流値を用いて、前記検出回路および前記フィルタ回路の要素を含む状態方程式に基づいて前記フィルタ回路の状態を推定する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記状態方程式は、前記検出回路における遅れ要素と、前記コンバータの電圧指令値が前記コンバータの出力電圧に反映されるまでの遅れ要素と、を含む、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記状態推定回路で算出された推定値と所定のゲインとの積を用いて、前記コンバータの電圧指令の補償量を算出し、前記コンバータの電圧指令値から前記補償量を引いた値を用いて、前記コンバータを制御する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PWMコンバータなどの電力変換装置において、高調波を抑制するためにフィルタを設置することが多い。例えば、素子のスイッチングに起因する高調波の影響を低減させるために、LCLフィルタがよく用いられる。LCLフィルタを採用すると、Lフィルタを用いたときと比べ、素子のスイッチングによる高調波を大きく低減することができる。しかしながら、LCL回路における共振現象によって、電源高調波が規制値を超過するだけでなく、制御が不安定化することにより保護停止に至り、電力変換装置の信頼性が低下する可能性があった。
【0003】
共振の影響を低減する手段として、フィルタ回路に抵抗器(ダンピング抵抗器)を追加することにより受動的に共振を抑制する手法や、フィルタ回路におけるコンデンサ電流もしくは電圧を測定し、制御によって能動的に共振を抑制する手法が知られている。能動的な共振抑制手法では測定した信号を用いて電圧指令値を補償するようフィードバックを行うことにより、LCLフィルタに抵抗器を設ける場合と同様に共振の影響を減衰させることができる。
【0004】
上記のように、LCLフィルタに抵抗器やセンサなどの用品を追加することによって共振抑制を行うことが可能となるが、抵抗器追加による受動的共振抑制を行うことにより、装置の大型化や回路損失の増加、コスト増加につながり、センサ追加による能動的共振抑制についてもコスト増加につながってしまう。
【0005】
例えば、能動的共振抑制に用いるコンデンサ電流やコンデンサ電圧の推定値を得ることができれば、用品の追加を行わずに共振の抑制を行うことが可能となる。しかしながら、上記推定値を得る手段として、LCLフィルタを含む電圧電流方程式を逆算する場合には、微分式を解くことにより測定値に含まれるノイズの影響を増大してしまう。ノイズの影響が大きい推定値を電力変換装置の制御に用いると、制御性能の低下や制御系の不安定化につながる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-106843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、安価で信頼性の高い電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による電力変換装置は、交流電源から供給された交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータと、前記交流電源と前記コンバータとの間に設けられたフィルタ回路と、前記交流電源の出力電圧を検出する電圧検出器と、前記コンバータの入力電流を検出する電流検出器と、前記電圧検出器と前記電流検出器との少なくとも一方で得られた検出値をデジタル信号として検出する検出回路と、前記交流電源の出力電圧値と、前記コンバータの入力電流値と、前記コンバータの電圧指令値とを用いて、前記検出回路および前記フィルタ回路の要素を含む状態方程式に基づいて前記フィルタ回路の状態量の推定値を算出する状態推定回路と、前記状態推定回路で算出された推定値を用いて前記コンバータの電圧指令を補償する制御回路と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態の電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、第1実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
図3図3は、第1実施形態の電力変換装置のオブザーバの一構成例を説明するためのブロック図である。
図4図4は、第2実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
図5図5は、第3実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
図6図6は、第4実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、一実施形態の電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
【0011】
本実施形態の電力変換装置は、交流電源(系統電源)10と直流負荷8との間に接続され、交流電源10から供給された交流電圧を直流電圧に変換して直流負荷8に供給する。
【0012】
本実施形態の電力変換装置は、LCLフィルタ(フィルタ回路)2と、コンバータ4と、電圧検出器12と、電流検出器14と、コントローラと、を備えている。コントローラは、電流検出回路16と、電圧検出回路18と、オブザーバ(状態推定回路)20と、制御回路と、を備えている。制御回路は、ダンピング制御器22と、PWM制御回路24と、減算器26と、を備えている。
【0013】
コントローラは、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記憶されたメモリと、を備え、ソフトウェアにより、又は、ソフトウェアとハードウエアとの組み合わせにより種々の機能を実現することができる。
【0014】
コンバータ4は、LCLフィルタ2を介して交流電源から供給される交流電圧を、直流電圧に変換して出力する。コンバータ4は、PWM(Pulse Width Modulation)コンバータであって、高電位側の直流端と低電位側の直流端との間に挿入されたコンデンサ6を備えている。コンバータ4のスイッチング素子は、コントローラから供給されるゲート信号により動作を制御される。
【0015】
電圧検出器12は、交流電源10の出力電圧(交流電圧)の値を検出する。電圧検出器12で検出された値は、コントローラに供給される。
【0016】
電流検出器14は、コンバータ4に入力される交流電流の値を検出する。電流検出器14で検出された値は、コントローラに供給される。
【0017】
LCLフィルタ2は、交流電源10とコンバータ4との間に設けられている。LCLフィルタ2は、コイル2L1、2L2と、コンデンサ2Cと、を備えたフィルタ回路である。コイル2L1とコイル2L2とは、交流電源10とコンバータ4の交流端との間に直列に接続されている。コンデンサ2Cの一端はコイル2L1とコイル2L2との間に電気的に接続されている。コンデンサ2Cの他端は接地されている。
【0018】
電流検出回路16は、電流検出器14で検出された電流値のアナログ信号をデジタル信号に変換して、デジタル値として検出する。電流検出回路16で検出されたデジタル信号の電流検出値は、オブザーバ20に供給される。
【0019】
電圧検出回路18は、電圧検出器12で検出された電圧値のアナログ信号をデジタル信号に変換して、デジタル値として検出する。電圧検出回路18で検出されたデジタル信号の電流検出値は、オブザーバ20に供給される。
【0020】
オブザーバ20は、電圧指令値と、電流検出回路16の出力値と、電圧検出回路18の出力値とから、LCLフィルタ2の状態量の推定値を算出する状態推定回路である。電圧指令値は、例えば電力変換装置の上位制御装置からコントローラに入力された値であり、コンバータ4の所望の出力電圧値に相当する。
【0021】
本実施形態では、オブザーバ20は、以下のようにLCLフィルタ2の拡大系モデルを用いて、LCLフィルタ2のコンデンサ2Cの電圧推定値、電流推定値、若しくはこれらの両方を、LCLフィルタ2の状態量の推定値として出力する。
【0022】
ここで、LCLフィルタ2の連続時間状態空間モデルは式(1)で表すことができる。
【0023】
【数1】
ここで、x(t)(=[icov(t) vc(t) ig(t)]T)は状態ベクトル、u(t)(=[vcov(t) vg(t)]T)は入力ベクトル、y(t)(=icov(t))は出力ベクトル、Aは状態行列、B(=[B1 B2])は入力行列、Cは出力行列である。
【0024】
また、vcov(t)はコンバータ4の入力電圧、icov(t)はコンバータ4の出力電流、vc(t)はコンデンサ2Cの電圧、ic(t)(=icov(t)-ig(t))はコンデンサ2Cの電流、vg(t)は交流電源10の出力電圧、ig(t)は交流電源10の出力電流である。
【0025】
なお式(1)は三相交流系(固定座標系)もしくはdq座標系(回転座標系)であることとし、各種行列及びベクトルは座標系に応じて変換されていることとする。
【0026】
一般的なオブザーバは式(1)を対象として設計することができる。しかし、A/D変換を行う電流検出回路16や電圧検出回路18では、高周波数のノイズ除去やエイリアシングの防止を目的としてローパスフィルタなどのフィルタが設けられることが多く、フィルタによりコントローラ内で認識する信号は高周波成分が減衰され、遅れが生じることになる。
【0027】
例えばLCLフィルタ2の共振周波数が低ければ、LCLフィルタ2による遅れの影響を受けずにオブザーバによりフィルタ回路の状態推定及び共振抑制を行うことが可能であるが、LCLフィルタ2の大きさやコスト、高調波が制限される周波数帯を考慮すると、遅れの影響を受けないほどに共振周波数を低くすることは困難である。オブザーバに用いる信号に大きな遅れが生じると、オブザーバにより正確な推定値が得られなくなり、制御性能の低下や制御系の不安定化につながる。
【0028】
図2は、第1実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
ここで、icov´(t)をコンバータ電流認識値、vg´(t)を交流電源電圧認識値、vcovREF(t)をコンバータ電圧指令とする。
【0029】
LCLフィルタ2の出力であるコンバータ電流値icov(t)は、電流検出回路16を介し、コントローラでコンバータ電流認識値icov´(t)として認識される。電流検出回路16がローパスフィルタの特性を有するとした場合、コンバータ電流認識値icov´(t)はコンバータ電流値icov(t)と比べ位相に遅れが生じる。
【0030】
また、交流電源電圧値vgについても同様に、電圧検出回路18を介し、コントローラで交流電源電圧認識値vg´(t)として認識される。交流電源電圧値vg(t)は、LCLフィルタ2にとって入力であるため、図2に示すブロック線図上は交流電源電圧認識値vg´(t)が電圧検出回路18の逆システムを通ることで交流電源電圧値vg(t)として入力されることになる。
【0031】
また、コンバータ電圧値vcov(t)の測定用のセンサが設けられている場合は、電圧検出回路18を介して、コントローラで認識されることになるが、多くの場合、センサを設けての測定を行うことはない。そこで、図2のブロック線図上では指令値であるコンバータ電圧指令値vcovREF(t)が、電圧反映までの遅れを介して、コンバータ電圧値vcov(t)が生成されLCLフィルタ2に入力されることとしている。
【0032】
以上から、オブザーバの設計対象となる式(1)で示すLCLフィルタ2の入出信号と、ソフトウェア演算部で認識している入出信号とは完全には一致せず、基となる信号に対する遅れが大きいほど式(1)に基づいて設計されたオブザーバの推定性能が低下することとなる。
【0033】
そこで、本実施形態の電力変換装置では、オブザーバ20は、式(1)を対象としたオブザーバではなく、検出回路の遅れ要素や指令値から電圧反映までの遅れ要素を含んだLCLフィルタ2の拡大系モデルを対象としてオブザーバ20を設計することで遅れの影響を考慮して、LCLフィルタ2の状態量の推定値を算出する。
【0034】
式(1)に示したLCLフィルタ2の状態空間モデルを(A,B,C,0)と表現し、電圧検出回路逆システムの状態空間モデルを(Af1,Bf1,Cf1,Df1)、電流検出回路16の状態空間モデルを(Af2,Bf2,Cf2,0)とすると、遅れ要素を含んだLCLフィルタ2の拡大系を式(2)で示すことができる。
【0035】
【数2】
ここで、xc(t)は状態ベクトル、uc(t)(=[vcovREF(t) vg´(t)]T)は入力ベクトル、yc(t)(=icov’(t))は出力ベクトルを示す。また、式(2)における各行列を、下記式(3)、式(4)、式(5)に示す。
【0036】
【数3】
【0037】
ただし、電圧検出回路逆システムの状態空間モデル(Af1,Bf1,Cf1,Df1)について、もともとの電圧検出回路18が高周波ノイズ除去などを目的としたローパスフィルタで構成されるとすると、逆システムによりインプロパーなシステムとなることが考えられ、微分によってノイズの影響を増大させることになりえる。そのため、不完全微分などによって過大な微分動作を抑え、プロパーなシステムにすることが望ましい。
【0038】
また、式(2)においてxc(t)はLCLフィルタ2の拡大系における状態ベクトル、yc(t)はLCLフィルタ2の拡大系における出力ベクトルとする。ここで、コンバータ電圧指令vcovREF(t)が実際のコンバータ出力電圧vcov(t)に反映されるまでの遅れは、式(2)に含まず、後述する。オブザーバ20は、上記式(2)で示す遅れ要素を含んだLCLフィルタ2の拡大系(Ac,Bc,Cc,0)を対象として設計される。
【0039】
なお、オブザーバ20は、ソフトウェアにより実行されるデジタル制御を行うため、離散時間で検討する。式(2)の状態空間モデル(Ac,Bc,Cc,0)は連続時間系であるため、離散化を行い、離散時間状態空間モデル(Ad,Bd,Cd,0)を得る。ここでコンバータ電圧指令vcovREF(k)とコンバータ電圧vcov(k)との離散時間における関係として、コンバータ電圧指令vcovREF(k)が演算されてから次ステップで実際のコンバータ電圧vcov(k)に反映されるとすると下記式(6)が成立する。
vcov(k+1) = vcovREF(k) (6)
上記式(6)は、コンバータ電圧指令vcovREF(k)からコンバータ電圧vcov(k)に反映されるまでの遅れとして考えることもでき、離散時間状態空間モデル(Ad,Bd,Cd,0)と式(6)との拡大系とすることによって、図2で示した遅れを含んだ全体の拡大系を表現することができる。
【0040】
遅れを含んだ全体の拡大系を離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)とすると、各行列は式(7)、式(8)、式(9)で表せる。
【数4】
【0041】
ここで行列Bd1、Bd2は、離散時間状態空間モデル(Ad,Bd,Cd,0)の入力行列を入力信号ごとに分割した式(10)の行列とする。
Bd = [Bd1 Bd2] (10)
以上より、遅れ要素を含んだ全体の拡大系である離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)を対象としてオブザーバを設計することによって、遅れの影響を考慮してLCLフィルタ2の状態を推定することができる。
【0042】
また式(1)に示すコンバータ電流フィードバックを行うLCLフィルタ2の連続時間状態モデルは可観測となり、遅れ要素を含んだ全体の拡大系である離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)でも可観測性は失われないため、オブザーバ20を設計することができる。
【0043】
オブザーバゲイン行列をKとすると、オブザーバ20の状態方程式は、下記式(11)で表せる。
【数5】
ここで、xe (k)はオブザーバ20の状態ベクトルである。ye(k)(=icov’(k))は、離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)の出力ベクトルであり、出力誤差をe(k)(=ye(k)-ye (k)=ye(k)-Cexe (k))としたとき、オブザーバゲイン行列Kが適切に設計されれば出力誤差e(k)を0とすることができ、状態ベクトルxe (k)を離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)の状態ベクトルの推定量として扱える。
オブザーバゲイン行列Kは、所望の推定性能を得るために決定され、極配置法や最適問題としてRiccati方程式を解く手法などを利用することにより得ることができる。
【0044】
図3は、第1実施形態の最適制御装置のオブザーバの一構成例を説明するためのブロック図である。
オブザーバ20は、コンデンサ電圧の推定値vc *(k)、もしくは、コンデンサ電流の推定値ic *(k)をダンピング制御器22に出力する。図3には、オブザーバ20がコンデンサ電流の推定値ic *(k)を出力する例を示している。
【0045】
オブザーバ20は、式(11)に基づいて得られた状態ベクトルxe (k)から、出力行列Chにより抽出したコンデンサ電流の推定値ic *(k)を出力する。なお、出力行列Chは、状態ベクトルxe *(k)に含まれるコンバータ電流の推定値icov *(k)、コンデンサ電圧の推定値vc *(k)、電源電流の推定値ig *(k)の要素を用いて、コンデンサ電流の推定値ic *(k)(=icov *(k)-ig *(k))を抽出する行列である。
【0046】
ダンピング制御器22は、コンデンサ電圧の推定値vc *(k)、もしくは、コンデンサ電流の推定値ic *(k)を用いて補償量を計算して、補償量を減算器26へ出力する。ダンピング制御器22は、所望の減衰性能が得られるように設定され、定数や特定の周波数特性を持ったフィルタであり得る。例えば、オブザーバ20からダンピング制御器22にコンデンサ電流の推定値ic *(k)の値を入力し、ダンピング制御器22は、定数ゲインを推定値ic *(k)に乗じた値を補償量としてフィードバックする。
【0047】
減算器26は、コンバータの電圧指令vcovREF(k)の値から、ダンピング制御器22から出力された補償量を引いた値を、補償後の電圧指令vcovREF’(k)としてPWM制御回路24へ出力する出力する。
PWM制御回路24は、補償後の電圧指令vcovREF’(k)から生成した変調波と搬送波(キャリア)とを比較することにより、コンバータ4のゲート信号を生成して、コンバータ4へ出力する。
【0048】
上記のように、検出回路16、18における遅れ要素と、電圧指令値からコンバータ4の出力電圧値までの遅れ要素とを含む拡大系モデルに基づくオブザーバ20を用いて、遅れ要素を考慮したLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出することができる。本実施形態の電力変換装置では、上記のように算出された推定値をもとに所定の制御器を通して得られる補償値をフィードバックして、閉ループに減衰項を加えることが可能であり、LCLフィルタ2における共振抑制が可能となる。
【0049】
また、本実施形態の電力変換装置では、既設のセンサにより測定されるコンバータの入力電流値や交流電源の出力電圧値などの測定値を用いて、LCLフィルタ2における共振抑制を行うことができ、新たに用品を追加する必要がない。
すなわち、本実施形態によれば、安価で信頼性の高い電力変換装置を提供することができる。
【0050】
次に、第2実施形態の電力変換装置について図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態の電力変換装置は、オブザーバ20の構成が上述の第1実施形態と異なっている。本実施形態では、電圧検出回路18がローパスフィルタの特性を含まない、又は、遅れを無視できる構成となっている点において、上述の第1実施形態と相違している。
【0051】
図4は、第2実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
LCLフィルタ2の出力であるコンバータ電流値icov(t)は、電流検出回路16を介し、コントローラでコンバータ電流認識値icov´(t)として認識される。電流検出回路16がローパスフィルタの特性を有するとした場合、コンバータ電流認識値icov´(t)はコンバータ電流値icov(t)と比べ位相に遅れが生じる。
【0052】
本実施形態では、電圧検出回路18における遅れは無視できるものであり、交流電源電圧値vgは、電圧検出回路18を介し、コントローラで交流電源電圧vg(t)として認識され得る。
また、コンバータ電圧指令値vcovREF(t)は、電圧反映までの遅れを介して、コンバータ電圧値vcov(t)が生成され、LCLフィルタ2に入力される。
【0053】
以上より、本実施形態の電力変換装置では、オブザーバ20は、電流検出回路16の遅れ要素と指令値から電圧反映までの遅れ要素とを含んだLCLフィルタ2の拡大系モデルを対象として設計され、上記遅れの影響を考慮したLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出する。
【0054】
本実施形態では、電圧検出回路逆システムを含まないLCLフィルタ2の拡大系モデルを対象とするため、式(2)で示した状態空間モデルの各行列は、式(12)、式(13)、式(14)で表すことができる。
【数6】
【0055】
上記式(12)、式(13)、式(14)で表される拡大系モデルに対して、第1実施形態と同様に離散化を行い、コンバータ電圧指令遅れを考慮することにより、遅れ要素を含んだ全体の拡大系である離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)を得ることができる。本実施形態のオブザーバ20は、この離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)に基づいて設計することができ、オブザーバの状態方程式は式(11)で表すことができる。
【0056】
上記のように設計されたオブザーバ20によれば、遅れ要素を考慮してLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出し、算出された推定値に所定のゲインを乗じた積(若しくは所定の伝達関数を通した値)をフィードバックして、閉ループに減衰項を加えることが可能であり、LCLフィルタ2における共振抑制が可能となる。また、本実施形態では、第1実施形態よりもオブザーバ20を低次元化することができ、ソフトウェアでの演算負荷を低減することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の電力変換装置では、既設のセンサにより測定されるコンバータの入力電流値や交流電源の出力電圧値などの測定値を用いて、LCLフィルタ2における共振抑制を行うことができ、新たに用品を追加する必要がない。
すなわち、本実施形態によれば、安価で信頼性の高い電力変換装置を提供することができる。
【0058】
次に、第3実施形態の電力変換装置について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態の電力変換装置は、オブザーバ20の構成が上述の第1実施形態と異なっている。本実施形態では、電流検出回路16がローパスフィルタの特性を含まない、又は、遅れを無視できる構成となっている点において、上述の第1実施形態と相違している。
【0059】
図5は、第3実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
本実施形態では、電流検出回路16における遅れは無視できるものであり、LCLフィルタ2の出力であるコンバータ電流値icov(t)は、電流検出回路16を介し、コントローラでコンバータ電流値icov(t)として認識される。
【0060】
また、交流電源電圧値vgは、電圧検出回路18を介し、コントローラで交流電源電圧認識値vg´(t)として認識される。交流電源電圧値vg(t)は、LCLフィルタ2にとって入力であるため、図5に示すブロック線図上は交流電源電圧認識値vg´(t)が電圧検出回路18の逆システムを通ることで交流電源電圧値vg(t)として入力されることになる。
また、コンバータ電圧指令値vcovREF(t)は、電圧反映までの遅れを介して、コンバータ電圧値vcov(t)が生成され、LCLフィルタ2に入力される。
【0061】
以上より、本実施形態の電力変換装置では、オブザーバ20は、電圧検出回路18の遅れ要素と指令値から電圧反映までの遅れ要素とを含んだLCLフィルタ2の拡大系モデルを対象として設計され、上記遅れの影響を考慮したLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出する。
【0062】
本実施形態では、電流検出回路における遅れを含まないLCLフィルタ2の拡大系モデルを対象とするため、式(2)で示した状態空間モデルの各行列は、式(15)、式(16)、式(17)で表すことができる。
【数7】
【0063】
上記式(15)、式(16)、式(17)で表される拡大系モデルに対して、第1実施形態と同様に離散化を行い、コンバータ電圧指令遅れを考慮することにより、遅れ要素を含んだ全体の拡大系である離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)を得ることができる。本実施形態のオブザーバ20は、この離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)に基づいて設計することができ、オブザーバの状態方程式は式(11)で表すことができる。
【0064】
上記のように設計されたオブザーバ20によれば、遅れ要素を考慮してLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出し、算出された推定値に所定のゲインを乗じた積(若しくは所定の伝達関数を通した値)をフィードバックして、閉ループに減衰項を加えることが可能であり、LCLフィルタ2における共振抑制が可能となる。また、本実施形態では、第1実施形態よりもオブザーバ20を低次元化することができ、ソフトウェアでの演算負荷を低減することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の電力変換装置では、既設のセンサにより測定されるコンバータの入力電流値や交流電源の出力電圧値などの測定値を用いて、LCLフィルタ2における共振抑制を行うことができ、新たに用品を追加する必要がない。
すなわち、本実施形態によれば、安価で信頼性の高い電力変換装置を提供することができる。
【0066】
次に、第4実施形態の電力変換装置について図面を参照して詳細に説明する。
上述の第1乃至第3実施形態の電力変換装置では、コントローラは、LCLフィルタ2のコンバータ4側に流れる電流(コンバータ4の入力電流)であるコンバータ電流ic(t)の値を用いて、電流制御を行う制御系である。これに対し、本実施形態の電力変換装置では、コントローラは、LCLフィルタ2の交流電源10側に流れる電流(交流電源10の出力電流)である系統電流ig(t)の値を用いる制御系であり、系の安定化を行っている。
【0067】
オブザーバ20は、上記構成の電力変換装置において、検出回路の遅れと、電圧指令値がコンバータ電圧値に反映されるまでの遅れとを考慮して、LCLフィルタ2の状態量の推定値を算出することができる。
【0068】
図6は、第4実施形態の電力変換装置において、LCLフィルタの入出力値とコントローラで認識される値との関係の一例を示した図である。
本実施形態の電力変換装置について、LCLフィルタ2の連続時間状態空間モデルを式(1)と同様に表すと、状態行列A、入力行列B、状態ベクトルx(t)、および入力ベクトルu(t)は同様である。一方で、LCLフィルタ2の出力信号が系統電流ig(t)となるため、出力行列Cが変わることとなる。例として、式(1)で三相交流系の全相を表現すると状態行列Aは9次元の正方行列であり、本実施形態の電力変換装置では、出力行列Cは式(18)で表すことができる。
【0069】
【数8】
ここで、03×6は3行6列の零行列、I3×3は3行3列の単位行列を示す。
式(1)において出力行列Cを上記式(18)としたLCLフィルタ2の連続時間状態モデルは、第1実施形態と同様に可観測となり、遅れ要素を含んだ全体の拡大系である離散時間状態空間モデル(Ae,Be,Ce,0)でも可観測性は失われない。したがって、本実施形態の電力変換装置についても、オブザーバ20を設計することができる。
【0070】
すなわち、本実施形態の電力変換装置では、式(1)の出力行列Cを上記式(18)の行列に変更するのみで、上述の第1実施形態の電力変換装置と同様に遅れを考慮したオブザーバ20を設計し、LCLフィルタ2の状態量の推定値を算出することが可能となる。
【0071】
上記のように設計されたオブザーバ20によれば、遅れ要素を考慮してLCLフィルタ2の状態量の推定値を算出し、算出された推定値に所定のゲインを乗じた積(若しくは所定の伝達関数を通した値)をフィードバックして、閉ループに減衰項を加えることが可能であり、LCLフィルタ2における共振抑制が可能となる。
【0072】
また、本実施形態においても、電圧検出回路18における遅れ、および電流検出回路16における遅れは双方を必ず考慮する必要はなく、式(12)、または式(17)における出力行列Cに上記式(18)を適用することにより、第2実施形態および第3実施形態と同様にオブザーバ20を設計することが可能となり、ソフトウェアでの演算負荷を低減することができる。
【0073】
さらに、本実施形態の電力変換装置では、既設のセンサにより測定されるコンバータの入力電流値や交流電源の出力電圧値などの測定値を用いて、LCLフィルタ2における共振抑制を行うことができ、新たに用品を追加する必要がない。
すなわち、本実施形態によれば、安価で信頼性の高い電力変換装置を提供することができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
2…LCLフィルタ、2C…コンデンサ、2L1、2L2…コイル、4…コンバータ、6…コンデンサ、8…直流負荷、10…交流電源(系統電源)、12…電圧検出器、14…電流検出器、16…電流検出回路、18…電圧検出回路、20…オブザーバ、22…ダンピング制御器、24…PWM制御回路、26…減算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6