(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173737
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20231130BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20231130BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20231130BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G01T1/161 C
A61B6/03 360G
A61B6/03 377
A61B5/055 380
A61B6/03 360T
A61B6/00 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086191
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
4C188
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093FF42
4C096AA18
4C096AB41
4C096AD14
4C096DC21
4C096DC36
4C096DC40
4C188EE02
4C188KK15
4C188KK24
4C188KK33
(57)【要約】
【課題】CNN出力画像から計算サイノグラムへの3次元順投影計算を可能として、計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差の評価結果に基づいてCNNを学習させて被検体の3次元断層画像を容易に作成することができる画像処理装置を提供する。
【解決手段】放射線断層撮影システム1は、放射線断層撮影装置2および画像処理装置10を備える。画像処理装置10は、サイノグラム作成部11、CNN処理部12、畳み込み積分部13、順投影計算部14およびCNN学習部15を備える。順投影計算部14は、3次元出力画像23を順投影計算して、K個のブロックに分割された計算サイノグラム24
1~24
Kを作成する。CNN学習部15は、K個のブロックそれぞれについて実測サイノグラム21
kと計算サイノグラム24
kとの間の誤差を評価し、K個のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有する放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、前記被検体の3次元断層画像を作成する画像処理装置であって、
前記放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成するサイノグラム作成部と、
畳み込みニューラルネットワークに3次元入力画像を入力させて前記畳み込みニューラルネットワークにより3次元出力画像を作成するCNN処理部と、
前記3次元出力画像を順投影計算して、前記複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成する順投影計算部と、
前記複数のブロックそれぞれについて前記サイノグラム作成部により作成されたサイノグラムと前記順投影計算部により作成されたサイノグラムとの間の誤差を評価し、前記複数のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいて前記畳み込みニューラルネットワークを学習させるCNN学習部と、
を備え、
前記CNN処理部、前記順投影計算部および前記CNN学習部それぞれの処理を複数回繰り返し行った後の前記3次元出力画像を前記被検体の3次元断層画像とする、
画像処理装置。
【請求項2】
前記3次元出力画像に対し点像分布関数の畳み込み積分を行う畳み込み積分部を更に備え、
前記順投影計算部は、前記畳み込み積分部による処理の後の3次元出力画像を順投影計算する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記CNN学習部は、前記放射線断層撮影装置による同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において前記誤差を評価する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記CNN処理部は、前記被検体の形態情報を表す画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記CNN処理部は、前記被検体のMRI画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記CNN処理部は、前記被検体のCT画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記CNN処理部は、前記被検体の静的PET画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記CNN処理部は、ランダムノイズ画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有し同時計数情報を収集する放射線断層撮影装置と、
前記放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて前記被検体の3次元断層画像を作成する請求項1~8の何れか1項に画像処理装置と、
を備える放射線断層撮影システム。
【請求項10】
RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有する放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、前記被検体の3次元断層画像を作成する画像処理方法であって、
前記放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成するサイノグラム作成ステップと、
畳み込みニューラルネットワークに3次元入力画像を入力させて前記畳み込みニューラルネットワークにより3次元出力画像を作成するCNN処理ステップと、
前記3次元出力画像を順投影計算して、前記複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成する順投影計算ステップと、
前記複数のブロックそれぞれについて前記サイノグラム作成ステップで作成されたサイノグラムと前記順投影計算ステップで作成されたサイノグラムとの間の誤差を評価し、前記複数のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいて前記畳み込みニューラルネットワークを学習させるCNN学習ステップと、
を備え、
前記CNN処理ステップ、前記順投影計算ステップおよび前記CNN学習ステップそれぞれの処理を複数回繰り返し行った後の前記3次元出力画像を前記被検体の3次元断層画像とする、
画像処理方法。
【請求項11】
前記3次元出力画像に対し点像分布関数の畳み込み積分を行う畳み込み積分ステップを更に備え、
前記順投影計算ステップにおいて、前記畳み込み積分ステップによる処理の後の3次元出力画像を順投影計算する、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項12】
前記CNN学習ステップにおいて、前記放射線断層撮影装置による同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において前記誤差を評価する、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項13】
前記CNN処理ステップにおいて、前記被検体の形態情報を表す画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項14】
前記CNN処理ステップにおいて、前記被検体のMRI画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項15】
前記CNN処理ステップにおいて、前記被検体のCT画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項16】
前記CNN処理ステップにおいて、前記被検体の静的PET画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項17】
前記CNN処理ステップにおいて、ランダムノイズ画像を前記3次元入力画像として前記畳み込みニューラルネットワークに入力させる、
請求項10に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて被検体の3次元断層画像を作成する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検体(生体)の断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置として、PET(Positron Emission Tomography)装置およびSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置が挙げられる。
【0003】
PET装置は、被検体が置かれる測定空間の周囲に配列された多数の小型の放射線検出器を有する検出部を備えている。PET装置は、陽電子放出アイソトープ(RI線源)が投与された被検体内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生するエネルギ511keVの光子対を検出部により同時計数法で検出し、この同時計数情報を収集する。そして、この収集した多数の同時計数情報に基づいて、測定空間における光子対の発生頻度の空間分布(すなわち、RI線源の空間分布)を表す断層画像を再構成することができる。このPET装置は核医学分野等で重要な役割を果たしており、これを用いて例えば生体機能や脳の高次機能の研究を行うことができる。
【0004】
収集した多数の同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を再構成する手法として種々の方法が知られている。非特許文献1に記載された断層画像再構成の為の画像処理方法は、深層ニューラルネットワークの一種である畳み込みニューラルネットワークを用いたDeep Image Prior技術により断層画像を再構成する。以下では、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)を「CNN」といい、Deep Image Prior技術を「DIP技術」という。DIP技術は、画像中の意味のある構造の方がランダムなノイズより早く学習される(すなわち、ランダムなノイズは学習されにくい)というCNNの性質を利用する。DIP技術により、ノイズが低減された断層画像を取得することができる。
【0005】
非特許文献1に記載された画像処理方法は、具体的には次のようなものである。被検体について収集した多数の同時計数情報に基づいてサイノグラム(以下「実測サイノグラム」という。)を作成する。また、入力画像(例えばMRI画像)をCNNに入力させたときにCNNから出力される画像を順投影計算(ラドン変換)してサイノグラム(以下「計算サイノグラム」という。)を作成する。そして、この計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差を評価して、この誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。DIP技術により、CNNからの画像出力、順投影計算による計算サイノグラムの作成、誤差の評価およびCNNの学習を繰り返すと、次第に計算サイノグラムは実測サイノグラムに近づいていき、CNNからの出力画像は被検体の断層画像に近づいていく。
【0006】
この画像処理方法は、CNN出力画像から計算サイノグラムへ順投影する処理を含む一方で、実測サイノグラムから断層画像へ逆投影する処理を含まないことから、よりノイズが低減された断層画像を取得することができる。
【0007】
サイノグラムは、4つの変数r,θ,z,δで表される空間(サイノグラム空間)において、同時計数情報を取得した頻度(同時計数事象の発生頻度)を表すヒストグラムとして表現したものである。変数rは、中心軸から同時計数ライン(光子対を同時計数した2個の検出器を互いに結ぶライン)までの距離を表す。変数θは、同時計数ラインの方位角を表す。変数zは、同時計数ラインの中点の中心軸方向位置を表す。また、変数δは、光子対を同時計数した2個の検出器の間の中心軸方向距離を表す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F. Hashimoto, K. Ote and Y. Onishi,"PET Image Reconstruction Incorporating Deep Image Prior and a ForwardProjection Model," IEEE Transactions on Radiation and Plasma MedicalSciences, doi: 10.1109/TRPMS.2022.3161569.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、CNNを用いた処理ではGPU(Graphics Processing Unit)が用いられる。GPUは、画像処理に特化した演算処理装置であり、1つの半導体チップ上に集積化された演算部およびRAM(Random Access Memory)を有している。GPUの演算部による演算処理の際に用いる各種のデータは、該GPUのRAMに記憶しておくことが要求される。
【0010】
非特許文献1に記載された画像処理方法では、GPUのRAMに記憶しておくべきデータは、例えば、CNN入力画像、CNN出力画像、CNNの学習状態を表す重み係数、特徴マップ、実測サイノグラム、計算サイノグラム、順投影計算に必要なパラメータ等であり、膨大な記憶容量を必要とする。
【0011】
しかし、GPUのRAMの容量には限界があることから、非特許文献1に記載された画像処理方法では、2次元の順投影計算を行うことはできるものの、3次元の順投影計算を行うことはできない。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、CNN出力画像から計算サイノグラムへの3次元順投影計算を可能として、計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差の評価結果に基づいてCNNを学習させて被検体の3次元断層画像を容易に作成することができる画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の画像処理装置の第1態様は、RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有する放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、被検体の3次元断層画像を作成する画像処理装置であって、(1) 放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成するサイノグラム作成部と、(2) 畳み込みニューラルネットワークに3次元入力画像を入力させて畳み込みニューラルネットワークにより3次元出力画像を作成するCNN処理部と、(3) 3次元出力画像を順投影計算して、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成する順投影計算部と、(4) 複数のブロックそれぞれについてサイノグラム作成部により作成されたサイノグラムと順投影計算部により作成されたサイノグラムとの間の誤差を評価し、複数のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいて畳み込みニューラルネットワークを学習させるCNN学習部と、を備える。そして、CNN処理部、順投影計算部およびCNN学習部それぞれの処理を複数回繰り返し行った後の3次元出力画像を被検体の3次元断層画像とする。
【0014】
本発明の画像処理装置は、次のような態様としてもよい。
第2態様では、第1態様に加えて、画像処理装置は、3次元出力画像に対し点像分布関数の畳み込み積分を行う畳み込み積分部を更に備え、順投影計算部は、畳み込み積分部による処理の後の3次元出力画像を順投影計算するのが好適である。
第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、CNN学習部は、放射線断層撮影装置による同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において誤差を評価するのが好適である。
第4態様では、第1態様~第3態様の何れかに加えて、CNN処理部は、被検体の形態情報を表す画像、被検体のMRI画像、被検体のCT画像、被検体の静的PET画像またはランダムノイズ画像を、3次元入力画像として畳み込みニューラルネットワークに入力させてもよい。
【0015】
本発明の放射線断層撮影システムは、RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有し同時計数情報を収集する放射線断層撮影装置と、放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて被検体の3次元断層画像を作成する上記の本発明の画像処理装置と、を備える。
【0016】
本発明の画像処理方法の第1態様は、RI線源が投与された被検体が置かれる測定空間を囲んで配置された複数の検出器を有する放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、被検体の3次元断層画像を作成する画像処理方法であって、(1) 放射線断層撮影装置により収集された同時計数情報に基づいて、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成するサイノグラム作成ステップと、(2) 畳み込みニューラルネットワークに3次元入力画像を入力させて畳み込みニューラルネットワークにより3次元出力画像を作成するCNN処理ステップと、(3) 3次元出力画像を順投影計算して、複数のブロックに分割されたサイノグラムを作成する順投影計算ステップと、(4) 複数のブロックそれぞれについてサイノグラム作成ステップで作成されたサイノグラムと順投影計算ステップで作成されたサイノグラムとの間の誤差を評価し、複数のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいて畳み込みニューラルネットワークを学習させるCNN学習ステップと、を備える。そして、CNN処理ステップ、順投影計算ステップおよびCNN学習ステップそれぞれの処理を複数回繰り返し行った後の3次元出力画像を被検体の3次元断層画像とする。
【0017】
本発明の画像処理方法は、次のような態様としてもよい。
第2態様では、第1態様に加えて、画像処理方法は、3次元出力画像に対し点像分布関数の畳み込み積分を行う畳み込み積分ステップを更に備え、順投影計算ステップにおいて、畳み込み積分ステップによる処理の後の3次元出力画像を順投影計算するのが好適である。
第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、CNN学習ステップにおいて、放射線断層撮影装置による同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において誤差を評価するのが好適である。
第4態様では、第1態様~第3態様の何れかに加えて、CNN処理ステップにおいて、被検体の形態情報を表す画像、被検体のMRI画像、被検体のCT画像、被検体の静的PET画像またはランダムノイズ画像を、3次元入力画像として畳み込みニューラルネットワークに入力させてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、CNN出力画像から計算サイノグラムへの3次元順投影計算を可能として、計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差の評価結果に基づいてCNNを学習させて被検体の3次元断層画像を容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、放射線断層撮影システム1の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、画像処理方法のフローチャートである。
【
図4】
図4は、比較例の場合の計算サイノグラム24および本実施形態の場合の計算サイノグラム24
1~24
16それぞれの例を比較して示す図である。
図4(a)は、比較例の場合の計算サイノグラム24を模式的に示す。
図4(b)は、本実施形態の場合の計算サイノグラム24
1~24
16を模式的に示す。
【
図5】
図5は、シミュレーションで得られた脳の断層画像を示す図である。
【
図6】
図6は、シミュレーションで得られた脳の断層画像を示す図である。
【
図7】
図7は、シミュレーションで得られた脳の断層画像を示す図である。
【
図8】
図8は、シミュレーションで得られた脳の断層画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1は、放射線断層撮影システム1の構成を示す図である。放射線断層撮影システム1は、放射線断層撮影装置2および画像処理装置10を備える。画像処理装置10は、サイノグラム作成部11、CNN処理部12、畳み込み積分部13、順投影計算部14およびCNN学習部15を備える。
【0022】
放射線断層撮影装置2は、被検体の断層画像を再構成するための同時計数情報を収集する装置である。放射線断層撮影装置2として、PET装置およびSPECT装置が挙げられる。以下では、放射線断層撮影装置2がPET装置であるとして説明をする。
【0023】
放射線断層撮影装置2は、被検体が置かれる測定空間の周囲に配列された多数の小型の放射線検出器を有する検出部を備えている。放射線断層撮影装置2は、RI線源が投与された被検体内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生するエネルギ511keVの光子対を検出部により同時計数法で検出し、この同時計数情報を収集する。そして、放射線断層撮影装置2は、この収集した同時計数情報を画像処理装置10へ出力する。
【0024】
画像処理装置10は、CNNを用いた処理を行うGPU、操作者の入力を受け付ける入力部(例えばキーボードやマウス)、画像等を表示する表示部(例えば液晶ディスプレイ)、および、様々な処理を実行する為のプログラムやデータを記憶する記憶部を備える。画像処理装置10として、CPU、RAM、ROMおよびハードディスクドライブ等を有するコンピュータが用いられる。
【0025】
サイノグラム作成部11は、放射線断層撮影装置2により収集された同時計数情報に基づいて実測サイノグラム21を作成する。このとき、サイノグラム作成部11は、複数(K個)のブロックに分割された実測サイノグラム211~21Kを作成する。実測サイノグラム21kは、K個のブロックのうちの第kブロックの実測サイノグラムである。Kは2以上の整数であり、kは1以上K以下の整数である。分割された実測サイノグラム211~21Kを結合したものが全体の実測サイノグラム21である。
【0026】
CNN処理部12は、CNNに3次元入力画像20を入力させて、そのCNNにより3次元出力画像22を作成する。3次元入力画像20は、被検体の形態情報を表す画像であってもよいし、被検体のMRI画像、CT画像または静的PET画像であってもよいし、ランダムノイズ画像であってもよい。
【0027】
畳み込み積分部13は、CNN処理部12により作成された3次元出力画像22に対し点像分布関数の畳み込み積分を行って、新たな3次元出力画像23を作成する。点像分布関数(Point Spread Function、PSF)は、点線源に対する放射線断層撮影装置の応答(インパルス応答)を表す関数であり、一般に、ガウシアン関数、または、点線源の実測データからモデル化された視野内の位置によってボケ方の異なる非対称なガウシアン関数などで表される。畳み込み積分部13が設けられていることにより、より画質が優れた断層画像を得ることができ、また、CNNの学習の安定化を図ることができる。
【0028】
順投影計算部14は、3次元出力画像23を順投影計算して計算サイノグラム24を作成する。このとき、順投影計算部14は、K個のブロックに分割された計算サイノグラム241~24Kを作成する。計算サイノグラム24kは、K個のブロックのうちの第kブロックの計算サイノグラムである。分割された計算サイノグラム241~24Kを結合したものが全体の計算サイノグラム24である。
【0029】
計算サイノグラム24のブロック分割は、実測サイノグラム21のブロック分割と同様に行われる。第kブロックの計算サイノグラム24kと第kブロックの実測サイノグラム21kとは、全体のサイノグラム空間のうちの共通の領域のサイノグラムである。ブロック分割の態様は任意であり、サイノグラム空間を表現する4つの変数のうちの何れかの1または2以上の変数についてブロック分割してもよい。K個のブロックそれぞれのサイズは、異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0030】
CNN学習部15は、K個のブロックそれぞれについて実測サイノグラム21kと計算サイノグラム24kとの間の誤差を評価し、K個のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。
【0031】
CNN処理部12、畳み込み積分部13、順投影計算部14およびCNN学習部15それぞれの処理を複数回繰り返し行った後にCNN処理部12により作成される3次元出力画像22を被検体の3次元断層画像とする。畳み込み積分部13により作成される3次元出力画像23を被検体の3次元断層画像としてもよい。実測サイノグラム21が放射線断層撮影装置の応答関数を反映したものであることから、畳み込み積分部13による点像分布関数の畳み込み積分の前の3次元出力画像22を被検体の3次元断層画像とするのが好ましい。
【0032】
なお、畳み込み積分部13は、CNNの最終層として設けられてもよいし、CNNとは別に設けられてもよい。畳み込み積分部13がCNNの最終層として設けられる場合、CNNの学習時に畳み込み積分部13の重み係数は一定に維持される。また、畳み込み積分部13は設けられていなくてもよい。畳み込み積分部13が設けられない場合、順投影計算部14は、CNN処理部12から出力された3次元出力画像22を順投影計算して計算サイノグラム24を作成する。
【0033】
図2は、CNNの構成例を示す図である。この図に示されるCNNは、エンコーダとデコーダとを含む3次元U-net構造のものである。この図には、CNNに入力される3次元入力画像20の画素数をN×N×64として、CNNの各層のサイズが示されている。
【0034】
図3は、画像処理方法のフローチャートである。画像処理方法は、サイノグラム作成部11により行われるサイノグラム作成ステップS1、CNN処理部12により行われるCNN処理ステップS2、畳み込み積分部13により行われる畳み込み積分ステップS3、順投影計算部14により行われる順投影計算ステップS4、および、CNN学習部15により行われるCNN学習ステップS5を備える。
【0035】
サイノグラム作成ステップS1において、放射線断層撮影装置2により収集された同時計数情報に基づいて、K個のブロックに分割された実測サイノグラム211~21Kを作成する。CNN処理ステップS2において、CNNに3次元入力画像20を入力させて、そのCNNにより3次元出力画像22を作成する。畳み込み積分ステップS3において、CNN処理ステップS2で作成された3次元出力画像22に対し点像分布関数の畳み込み積分を行って、新たな3次元出力画像23を作成する。
【0036】
順投影計算ステップS4において、3次元出力画像23を順投影計算して、K個のブロックに分割された計算サイノグラム241~24Kを作成する。CNN学習ステップS5において、K個のブロックそれぞれについて実測サイノグラム21kと計算サイノグラム24kとの間の誤差を評価し、K個のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。
【0037】
CNN処理ステップS2、畳み込み積分ステップS3、順投影計算ステップS4およびCNN学習ステップS5それぞれの処理を複数回繰り返し行った後にCNN処理ステップS2において作成される3次元出力画像22を被検体の3次元断層画像とする。畳み込み積分ステップS3において作成される3次元出力画像23を被検体の3次元断層画像としてもよい。なお、畳み込み積分ステップS3は設けられていなくてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の画像処理方法の各ステップの処理内容の詳細な説明に先だって、比較例の画像処理方法の各ステップの処理内容について説明する。比較例の画像処理方法では、実測サイノグラムおよび計算サイノグラムそれぞれを複数のブロックに分割しない。
【0039】
以下では、CNNによる処理をfとし、CNNに入力される3次元入力画像20をzとし、CNNの学習状態を表す重み係数パラメータをθとする。CNNの学習の進展に従ってθは変化していく。重み係数がθであるCNNに3次元入力画像zが入力されたときにCNNから出力される3次元出力画像22をxとする。3次元出力画像xは下記(1)で表わされる。CNN処理ステップにおいて、この式で表される処理を行って3次元出力画像xを作成する。
【0040】
【0041】
畳み込み積分ステップにおいて、CNN処理ステップで作成された3次元出力画像xに対し点像分布関数の畳み込み積分を行って、新たな3次元出力画像xを作成する。なお、
図1では、畳み込み積分を行った後の3次元出力画像xをPSF(f(θ|z))と記している。
【0042】
順投影計算ステップにおいて、3次元出力画像xを順投影計算して計算サイノグラム24を作成する。計算サイノグラム24をyとし、3次元出力画像xから計算サイノグラムyへの順投影計算(ラドン変換)を行う為の投影行列をPとする。投影行列はシステム行列または検出確率とも呼ばれる。順投影計算ステップにおいて行う処理は下記(2)式で表される。
【0043】
【0044】
CNN学習ステップにおいて、実測サイノグラム21をy0として、実測サイノグラムy0と計算サイノグラムy(上記(2)式)との間の誤差を評価し、当該誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。CNN学習ステップで行う処理は下記(3)式で表される。この式の制約付き最適化問題は、CNNにより作成される3次元出力画像xが被検体の断層画像になっているという制約の下で、誤差評価関数E(y;y0)の値が小さくなるようCNNパラメータθを最適化する問題となっている。
【0045】
【0046】
この(3)式の制約付き最適化問題は、下記(4)式の制約なし最適化問題に変形することができる。誤差評価関数Eは、任意でよいが、例えば、L1ノルム、L2ノルム、ポアソン分布における負の対数尤度などを用いることができる。誤差評価関数としてL2ノルムを用いると、(4)式は下記(5)式に変形することができる。
【0047】
【0048】
【0049】
放射線断層撮影装置における複数の検出器の配置を考慮すると、サイノグラム空間において同時計数情報収集が不可能な領域が存在する場合がある。このことから、上記(5)式の最適化問題に替えて、下記(6)式の最適化問題としてもよい。この(6)式中のmは、バイナリマスク関数であって、サイノグラム空間において同時計数情報収集が可能な領域では値1であり、同時計数情報収集が不可能な領域では値0である。(6)式は、誤差(y-y0)とバイナリマスク関数mとのアダマール積をとることで、同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において選択的に誤差を評価するものである。
【0050】
【0051】
CNN処理ステップ、畳み込み積分ステップ、順投影計算ステップおよびCNN学習ステップそれぞれの処理を複数回繰り返し行って、この最適化問題をCNNパラメータθについて解くことにより、計算サイノグラムyは実測サイノグラムy0に近づいていき、CNNにより作成される3次元出力画像xは被検体の断層画像に近づいていく。
【0052】
次に、本実施形態の画像処理方法の各ステップの処理内容について詳細に説明する。本実施形態では、順投影計算ステップにおいて、3次元出力画像xを順投影計算して、K個のブロックに分割された計算サイノグラム241~24Kを作成する。第kブロックの計算サイノグラム24kをykとし、3次元出力画像xから計算サイノグラムykへの順投影計算(ラドン変換)を行う為の投影行列をPkとする。順投影計算ステップにおいて行う処理は下記(7)式で表される。
【0053】
【0054】
CNN学習ステップにおいて、第kブロックの実測サイノグラム21kをy0kとして、K個のブロックそれぞれについて実測サイノグラムy0kと計算サイノグラムykとの間の誤差を評価し、K個のブロックそれぞれについての当該誤差評価結果に基づいてCNNを学習させる。CNN学習ステップで行う処理は、下記(8)式の制約なし最適化問題で表される。誤差評価関数としてL2ノルムを用いると、(8)式は下記(9)式に変形することができる。また、同時計数情報収集が可能なサイノグラム空間中の領域において選択的に誤差を評価する場合には、下記(10)式の制約なし最適化問題で表される。mkは、第kブロックにおけるバイナリマスク関数である。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
CNN処理ステップ、畳み込み積分ステップ、順投影計算ステップおよびCNN学習ステップそれぞれの処理を複数回繰り返し行って、この最適化問題をCNNパラメータθについて解くことにより、K個のブロックそれぞれについて計算サイノグラムykは実測サイノグラムy0kに近づいていき、CNNにより作成される3次元出力画像xは被検体の断層画像に近づいていく。
【0059】
次に、GPUのRAMにデータを記憶するのに必要な記憶容量に関する比較例と本実施形態との比較について説明する。ここでは、CNNにより作成される3次元出力画像の画素数を128×128×64とし、サイノグラム空間の画素数を128×128×64×19とする。本実施形態の画像処理方法では、K=16として、3次元出力画像を順投影計算して、16個のブロックに等分割された計算サイノグラム24
1~24
16を作成するものとする。
図4は、比較例の場合の計算サイノグラム24および本実施形態の場合の計算サイノグラム24
1~24
16それぞれの例を比較して示す図である。
図4(a)は、比較例の場合の計算サイノグラム24を模式的に示す。
図4(b)は、本実施形態の場合の計算サイノグラム24
1~24
16を模式的に示す。
【0060】
本実施形態の場合の各ブロックの計算サイノグラム24kの画素数は、128×8×64×19となり、比較例の場合の計算サイノグラム24の画素数の1/16となる。また、本実施形態の場合に3次元出力画像から第kブロックの計算サイノグラム24kへの順投影計算を行う為の投影行列Pkの要素数は、比較例の場合に3次元出力画像から計算サイノグラム24への順投影計算を行う為の投影行列Pの要素数の1/16となる。
【0061】
本実施形態では、順投影計算の際に用いるデータを記憶するのに必要な記憶容量を比較例と比べて少なくすることができ、これらのデータをGPUのRAMに記憶しておくことができる。したがって、本実施形態では、CNN出力画像から計算サイノグラムへの3次元順投影計算を可能として、計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差の評価結果に基づいてCNNを学習させて被検体の3次元断層画像を容易に作成することができる。
【0062】
次に、デジタル脳ファントム画像を用いて頭部用PET装置のモンテカルロ・シミュレーションによりシミュレーションデータを作成し、これを用いて本実施形態の画像処理方法およびML-EM法それぞれにより断層画像を求めた結果について説明する。ファントム画像は、BrainWeb(https://brainweb.bic.mni.mcgill.ca/brainweb/)から入手したものである。ML-EM(Maximum Likelihood Expectation Maximization)法は、一般的な画像再構成法である。
【0063】
本実施形態の画像処理方法では、CNNに入力される3次元入力画像をランダムノイズ画像とし、その入力画像の画素数を128×128×64とし、CNNにより作成される3次元出力画像の画素数を128×128×64とし、サイノグラム空間の画素数を128×128×64×19とし、サイノグラム空間を16個のブロックに等分割し、誤差評価関数をポアソン分布における負の対数尤度とした。本実施形態の画像処理方法では繰り返し回数を2000とし、ML-EM法では繰り返し回数を50とした。
【0064】
図5~
図8は、シミュレーションで得られた脳の断層画像を示す図である。これらの図は、3次元断層画像のうち体軸方向の互いに異なる4つの位置それぞれにおける横断面の断層画像を示している。これらの図において、(a)はファントム画像(正解画像)を示し、(b)はML-EM法により得られた断層画像を示し、(c)は本実施形態の画像処理方法により得られた断層画像を示す。本実施形態の画像処理方法は、ML-EM法により得られる断層画像と比べて、大幅に画質が優れた断層画像を得ることができた。また、本シミュレーションにより、本実施形態では、GPUによりCNN出力画像から計算サイノグラムへの3次元順投影計算が可能であり、計算サイノグラムと実測サイノグラムとの間の誤差の評価結果に基づいてCNNを学習させて被検体の3次元断層画像を作成することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
1…放射線断層撮影システム、2…放射線断層撮影装置、10…画像処理装置、11…サイノグラム作成部、12…CNN処理部、13…畳み込み積分部、14…順投影計算部、15…CNN学習部。