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2023-173752モルタル充填式鉄筋継手の排出口用の栓体
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  • -モルタル充填式鉄筋継手の排出口用の栓体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173752
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モルタル充填式鉄筋継手の排出口用の栓体
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20231130BHJP
   E04C 5/18 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
E04G21/12 105E
E04C5/18 102
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086210
(22)【出願日】2022-05-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390005186
【氏名又は名称】日本スプライススリーブ株式会社
(74)【代理人】
【氏名又は名称】熊田 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】佐久田 朝男
(72)【発明者】
【氏名】緒方 努
(72)【発明者】
【氏名】今井 譲司
(72)【発明者】
【氏名】瑞慶覧 長順
(72)【発明者】
【氏名】魚住 亮太
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164BA25
(57)【要約】
【課題】
モルタル充填式鉄筋継手の排出口に挿入する栓体1であって、継手内に注入充填されたモルタルが排出口に到達したことを確認するために設けてあった貫通穴を設けることなくモルタル注入完了を検知可能とする。
【解決手段】
注入モルタルが排出口に到達したことを確認するために設けてあった栓体の中央の貫通穴を設けず、中実な円錐台の栓体の斜面に適宜の断面形状(例えば三角形)の溝を斜面の全長に複数設け、この溝を通じてモルタルに先行する空気と水と泥水を外部に排出するようにし、栓体から漏れ出る水分を確認することによってモルタルの充填を確認してモルタル注入を停止する。従来の栓体が有していた受圧板、ストッパー等を不要とした。モルタルが詰まることをなくし、栓体の清掃作業を不要として栓体再利用を容易にし、モルタル充填式鉄筋継手のモルタル注入作業時間の短縮、施工効率の向上及びコスト削減を達成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実の円錐台状の栓体の上面から下面までの側面の斜面に連続する溝が形成してあり、この溝を通じてモルタルに含まれる空気と余剰水を外部に排出可能としたモルタル充填式鉄筋継手用の栓体。
【請求項2】
請求項1において、溝の断面は三角形、多角形、半円形、もしくは一部切欠円形のいずれかであるモルタル充填式鉄筋継手用の栓体。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかにおいて、中実の円錐台状の栓体の表面に上面から下面までの斜面全長に連続する溝が、栓体の上面から見て、偶数本の溝が上面の中心点に関して点対称に配列されているモルタル充填式鉄筋継手用の栓体。
【請求項4】
請求項1~2のいずれかにおいて、中実の円錐台状の栓体の表面に上面から下面までの斜面全長に連続する溝が、栓体の上面から見て、奇数本の溝が上面の中心点に関して非対称に配列されているモルタル充填式鉄筋継手用の栓体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかのモルタル充填式鉄筋継手を使用するモルタル充填方法であって、モルタル充填式鉄筋継手の栓体に形成された溝に検知棒を挿入し、モルタル充填式鉄筋継手に散水した後にモルタルを注入し、注入されたモルタルによって栓体の溝から空気や余剰水が排出されたところでモルタル充填を中止するモルタル充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモルタル充填式鉄筋継手のモルタル排出口にモルタルを充填する際に装着してモルタルの漏れ出しを防止し、建造物の表面の汚れを防ぐことを目的とする栓体及びその栓体を使用したモルタル充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モルタル充填式鉄筋継手はプレキャスト鉄筋コンクリート部材等の内部に配設されるコンクリート部材の補強材の鉄筋継手として開発されたものであって、その適用対象はプレキャスト鉄筋コンクリートに限らず、場所打ちコンクリートにも広く適用されるようになってきている。
【0003】
従来のモルタル充填式鉄筋継手の排出口を塞ぐ栓体10は、特許文献1(特許第3277482号公報)に開示された図4(1)に示す上面が大径で下面が小径である円錐台状のゴム製の栓体10であって、この栓体10には上下に貫通する貫通穴60が形成されており、貫通穴60には棒体30が上下動可能に挿通してある。棒体30の上端には貫通穴60を通過できない大きさのストッパー50が取り付けてあって棒体30が貫通穴を通って落下しないようにしてある。棒体30の下端には注入モルタルの注入圧力を受けて棒体30を押し上げてストッパー50を栓体10の上表面から持ち上げることによってモルタルが排出口まで充填されてきたことを検知することができるようにしたゴム製の栓体10が知られている。
【0004】
更に改良を加えたゴム製の栓体10として図4(2)に示す特許文献2(特許第4870624号公報)のゴム製の栓体10が提案されている。
このゴム製の栓体10の外観形状はコルク栓と同様であって、上面が大径で下面が小径の円錐台であり、モルタルをモルタル充填式鉄筋継手に注入する際に充填式鉄筋継手のモルタル排出口に挿入されて排出口を塞ぎ、注入したモルタルが排出口から溢れ出して建造物の表面を汚すのを防止するものである。
【0005】
従来のゴム製の栓体10は、図4(1)に示すように、その中心部に上下方向の貫通穴60が設けてあり、この貫通穴60には棒状体30が遊嵌してあってゴム製の栓体10の上下方向に移動可能であり、棒状体の長さは栓体10より長く、上下端共に栓体10の外側に突出させてある。棒状体30の下端部にはモルタル充填式鉄筋継手に注入されたモルタルの注入圧力を受ける受圧板40が設けてあり、上端には棒状体30が栓10から抜け落ちないようにする貫通口60より大きなストッパー50が設けてある。
【0006】
図4(2)のゴム製の栓体10は、図4(1)の貫通穴60を通り抜けることができない大きな面積を有するストッパー50に代えて棒体30の上部端をクランク状に折り曲げたクランク先端部51として貫通口60を通過できないようにしたものであり、クランク状としたことにより、棒体30を斜めにしてクランク先端部51を変形させることによって貫通口60を通り抜けられるようにして抜き出し可能としたものである。
【0007】
この栓体10をモルタル充填式鉄筋継手の排出口に挿入固定してモルタル充填式鉄筋継手の注入口からモルタルを注入充填すると、排出口に挿入された栓体10のストッパー50、若しくはクランク先端部51は注入されたモルタルの注入圧が受圧板40に作用して押し上げる。注入されたモルタルが充填式継手の排出口より漏出してくるのを確認できた時点でモルタル充填完了として注入を停止するものであるが、モルタル排出パイプと受圧板40の隙間からモルタルが漏れてその結果貫通口60の穴とクランク部の隙間よりモルタルが漏れ出て建造物が汚れることがあった。
【0008】
また、従来型の図4(1)のストッパー50が設けてあるゴム製の栓体10は、抜け止めのストッパー50と受圧板40が棒状体30で連結されて一体となっており、モルタル充填式鉄筋継手内部に注入されたモルタルが受圧板40を押し上げて栓体10の外側に漏出するまでモルタル注入が継続されることがあり、モルタルがストッパー50等に付着することが避けられなかった。
付着したモルタルは鉄筋を強固に接続するためのものであって短時間で高強度を発現するものであることからストッパー50に固着したモルタルの除去が容易でなくなり、栓体10の取り外し除去に手間がかかるのでこれを防止するためモルタルが完全に固化する前にストッパー50と栓体10(ゴム栓)を抜き出す必要があり、短時間に作業を完了させなければならず、多数の鉄筋継手のある現場では多くの人手を必要としていた。
更に、栓体10の貫通穴60に注入したモルタルが硬化すると、取り外した栓体10を再使用する場合にはこの硬化したモルタルを除去する清掃作業が必要であり、手間がかかることから施工効率を下げるものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3277482号公報
【特許文献2】特許第4870624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上に述べた従来技術における解決すべき問題を解消することを目的としており、栓体の中央部に貫通穴を設けることなくモルタルの注入完了を検知可能とすることを課題とするものであり、従来、モルタルが鉄筋継手の排出口に到達したことを確認するために設けた貫通穴及び受圧板を用いることなく注入したモルタルが排出口に到達したことを検知確認できるようにすることによって栓体の清掃作業を容易にすると共に、栓体の再利用を可能とすることを課題とするものである。
更に、モルタルの注入作業時間の短縮を図り、モルタル充填式鉄筋継手の施工効率を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
中実の円錐台状の栓体の上面から下面までの側面の斜面に連続する種々の断面形状(半円、長方形、又は多角形)の溝が形成してあり、この溝を通じてモルタルに含まれる空気と水を外部に排出可能としたモルタル充填式鉄筋継手用の栓体である。溝断面は斜面全長に渡って同一断面とするのが製造上容易であるが、先端にいくに従って溝の断面を小さくしてもよい。
また、中実の円錐台状の栓体の上面から下面までの斜面全長に連続する偶数個の溝が、栓体の上面の中心点に関して点対称に配列されているモルタル充填式鉄筋継手用の栓体である。溝の数は、偶数に限定されず、奇数であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
注入されたモルタルが排出される貫通穴を栓体の中央部に設けることなくモルタルの注入完了を検知可能としたものであり、従来、モルタルが排出口に到達したことを確認するために栓体に設けてあった貫通穴を省略してあることから、注入されたモルタルが外部に漏れだすことはほぼなくすることができるようになった。
また、モルタルを充填する過程において、モルタル中に含まれる空気及び水分は、栓体の斜面表面に形成された種々の断面形状の溝を通じて排出される。
従って、継手の端部はモルタルに対して完全に閉塞されているといってよく、固結用の注入モルタルが外部に溢れ出ることはなく、従って、従来必要とされていた溢れ出たモルタルを除去する清掃作業をほぼ省略できるので作業を円滑に進めることができ、工期の短縮にもつながるものであり、モルタル充填式鉄筋継手の施工効率を格段に向上させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の充填式鉄筋継手のモルタル排出口に挿入する栓体の実施例の正面図及び上下端面の平面図。
図2】本発明の充填式鉄筋継手のモルタル排出口に挿入する栓体の他の実施例の正面図及び上下端面の平面図。
図3】本発明の充填式鉄筋継手のモルタル排出口に検知棒を挿した状態を示す正面図及び上部端面の平面図。
図4】従来の充填式鉄筋継手のモルタル排出口に挿入する栓体の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の充填式鉄筋継手のモルタル排出口に挿入する栓体の材質は特に限定されないが、製造コスト等を考慮するとゴム製とすることが好ましいものであるが、その他の材料で栓体を構成することを排除するものではない。
図1に示すように、栓体1は円錐台状であり、上面の円の直径がΦ1であり、下面の円の直径がΦ2、高さHである。上面から下面に向かって連続した断面三角形の溝5が斜面の表面に上下端面の中心点に関して点対称に配列して形成してある。
円錐台の栓体1の上面2から下面3に向かって開口幅W、深さdの断面正三角形の連続した溝5、5が栓体1の斜面に等間隔に形成してあり、栓体1の上面及び下面においては、中心点に関して点対称に配列されている。溝5の配列は点対称に限定されるものでなく、配列は非対称であってもよい。
【0015】
断面三角形の溝5を設けた栓体1の具体的諸元の一例を挙げると、Φ1=26mm、Φ2=21mm、H=36mm、d=3mm、W=3mmである。
モルタル継手の排出口に装着される排出管のサイズは一般に20~25mm程度である。
図2は、溝5の数を4個、6個及び8個とした変形例を示したものである。図3は、溝5に軸体からなる検知棒6を挿入しておき、注入したモルタルの圧力により検知棒6が栓体1の端面から突出したことをもってモルタルが充填式鉄筋継手に充填されたことを検知するものである。
【0016】
日本スプライス株式会社製のグラウト材3種類(商品名SSモルタル、SSモルタル120N、及びSSモルタル150N)を使用してモルタルを充填するときに含まれる空気と余剰水の排出について試験したところ、空気と余剰水の排出状況及び施工後の出来形は、従来のゴム製の栓体とかわるところは認められず、問題は認められなかった。
また、栓体1に付着残留したモルタルは容易に清掃除去できるものであり、本発明の栓体1は再利用が可能であった。
【0017】
円錐台状の栓体1の頂部から底部までの斜面全長に連続する一辺約3mmの断面三角形の溝5が6~8本が等間隔に設けてあり、この栓体1の表面に形成した溝5を通じてモルタルを充填する際に含まれる空気と余剰水を外部に排出するようにしたモルタル充填式鉄筋継手のモルタル排出口の栓体である。
また、円錐台状の栓体1の頂部から底部までの斜面全長に連続する3mm程度の断面三角形の溝5が少なくとも4本設けてある栓体1であり、この栓体1の表面に形成した溝5を通じてモルタルを充填する際に含まれる空気と余剰水を外部に排出するようにしたモルタル充填式鉄筋継手のモルタル排出口の栓体である。
【0018】
グラウト材には細骨材が含まれていることから、種々の断面形状の溝5の内部においてモルタルの細骨材が相互に絡み合って充填されているので細骨材は、溝5の内部で固定されて移動することはなく、外部に流出することなく溝内部に固定されるが、空気と余剰水は絡み合った細骨材の間隙を通って外部に排出される。
【0019】
また、モルタル注入施工の翌日以降において、モルタルが硬化した状態においても栓体1は容易に設置位置から取り外して回収することが可能であった。
また、栓体1の表面に形成した溝5の内部に入り込んだモルタルの残渣をブラシ等でこすると容易に除去できるので栓体1の再利用が容易であり、コスト低減に資するものであった。
【0020】
以上のように、本発明の栓体1は、従来必須であった栓体中央に形成した貫通穴が省略されており、また、貫通穴に棒状体を通して両端部に受圧体とストッパーを取付ける組立作業を必要なくしたものであるので、栓体1の製造過程において部品の組立工程がなくなり、成型した栓体1の斜壁面に三角形などの溝5を形成することによって最終製品の栓体1が得られるので製造コストを低減することが可能である。
【0021】
また、本発明の栓体1は、モルタル注入施工の翌日以降であって、モルタルが完全に固化した状態でも固化モルタルを容易に除去することが可能である。
更に、栓体1にモルタルが接触する箇所は、栓体1の下面と側斜面4の溝5であって栓体1の外側面側であることから、付着したモルタルの清掃は従来の貫通穴を有する栓体1に比較して格段に容易であり、使用済みの栓体1を回収して再利用することが可能であり、鉄筋継手施工に使用する部品のコストをトータルで低減することができる。
【0022】
次に本発明の栓体1を使用したモルタル充填方法を説明する。
モルタル充填式鉄筋継手の排出口に栓体1を挿入し、モルタル充填式鉄筋継手に散水して湿らせた後、モルタルを注入する。これによって、乾いたコンクリート部材に注入モルタル中の水分が吸収され、グラウトの流動性が著しく低下し、閉塞してしまうのを防止している。余剰に水を注入した場合でも、余剰水はゴム栓孔と棒の隙間、または、栓体に形成した溝5を通じて外部に排出されるのでグラウト強度の低下が起きることはない。
【0023】
注入されたモルタルによって栓体1の溝5から空気や余剰水が排出され、溝5に細い棒(検知棒6)を差し込んでモルタル充填式鉄筋継手にモルタルが充填されたことを検知することが可能である。検知棒6が注入されたモルタルによって栓体1の外側に押し出されてきたら、継手内にモルタルが充填されたものであると了解できるので、そこでモルタル充填を終了することによってモルタルが外部に溢れだして周辺を汚すのを防止することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 栓体(円錐台)
2 上面
3 下面
4 斜面
5 溝
6 検知棒
10 栓体(円錐台)
30 棒状体
40 受圧体
50 ストッパー
51 クランク部
60 貫通穴
Φ1 上面直径(栓体)
Φ2 下面直径(栓体)
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル充填式鉄筋継手のモルタル排出口用の円錐台形の栓体であって、中実の円錐台状の栓体の上面から下面までの栓体の側面の斜面に一辺約3mmの断面三角形の複数の溝が形成してあり、モルタル充填時において、これらの断面三角形の溝内においてモルタルの細骨材同志が絡み合って形成された間隙を通じて充填されたモルタルに含まれる空気と水分を外部に排出する流路が形成されるようにしたモルタル充填式鉄筋継手の排出口用の栓体。
【請求項2】
請求項1において、中実の円錐台状の栓体の側面に形成された断面三角形の溝は、栓体の上面から見て、上下面の中心点に関して点対称に配列されているモルタル充填式鉄筋継手の排出口用の栓体。