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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173765
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】金属有機構造体から成る吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086235
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】宮井 智弘
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AB24B
4G066AB26A
4G066AC13C
4G066AC22C
4G066AC23C
4G066AC24C
4G066AC25C
4G066AC26C
4G066BA03
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA51
4G066DA01
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】金属有機構造体を用いた吸着剤において、特にシクロヘキサン系の単環式化合物の吸着性に優れた吸着剤、及びこの吸着剤を樹脂中に含有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも単環式化合物を吸着可能な吸着剤であって、前記吸着剤が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体を含有し、前記有機配位子が環状有機化合物であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも単環式化合物を吸着可能な吸着剤であって、
前記吸着剤が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体を含有し、前記有機配位子が環状有機化合物であることを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
前記金属イオンが、アルカリ金属イオンである請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
前記アルカリ金属が、カリウムである請求項2記載の吸着剤。
【請求項4】
前記環状有機化合物が、シクロデキストリン系化合物である請求項1記載の吸着剤。
【請求項5】
前記シクロデキストリン系化合物が、α-シクロデキストリン又はγーシクロデキストリンである請求項4記載の吸着剤。
【請求項6】
前記金属有機構造体が、前記有機配位子がシクロデキストリンであり、前記金属イオンがカリウムイオンであり、前記カリウムイオン1モルに対し、シクロデキストリンが0.05~0.8モルの範囲で結合する金属有機構造体である請求項1記載の吸着剤。
【請求項7】
前記金属有機構造体が、二次元シート状の層状構造を有する請求項1記載の吸着剤。
【請求項8】
前記単環式化合物が、シクロペンタン誘導体である請求項1記載の吸着剤。
【請求項9】
樹脂中に、請求項1記載の吸着剤を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体から成る吸着剤に関するものであり、より詳細には、少なくとも単環式化合物を効率よく吸着可能な吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中心金属とこれに配位する多座有機配位子からなる金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Framework)は、中心金属と有機配位子とからなる金属錯体が集積されて形成された多孔性の三次元構造体である。金属有機構造体が有する細孔は、ゼオライトや活性炭等の他の多孔性材料に比べて、細孔径や細孔内空間を容易に設計でき、均一な細孔径の細孔を有することから、金属有機構造体は吸着体として使用することが提案されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、熱可塑性樹脂と、ガス吸収剤とを含有し、該ガス吸収剤は、ガス物理吸収剤および/またはガス化学吸収剤を含有し、該ガス物理吸収剤のBET比表面積は、50m/g以上、4000m/g以下であり、ガス吸収剤の含有量が、該ガス吸収剤を含有する層中に、0.5質量%以上、30質量%以下である、ガス吸収フィルムが提案されており、このガス吸収フィルムにおいては、ガス物理吸収剤の一つとして金属有機構造体が使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-54490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、2-メチルイミダゾール亜鉛等の特定の金属有機構造体を使用して、ブタン、二酸化炭素、アルデヒド、酢酸等の有機ガスが吸着できたことが記載されている。
金属有機構造体は、構成する金属イオン及び有機配位子の種類や組合せ、或いはその合成に際しての配合割合により、細孔のサイズや構造体の形状が異なり、吸着可能な物質も異なることから、上記有機ガス以外の他の物質を吸着可能な金属有機構造体を用いた新たな吸着剤が期待されている。
従って本発明の目的は、金属有機構造体を用いた吸着剤において、特にシクロヘキサン系の単環式化合物の吸着性に優れた吸着剤、及びこの吸着剤を樹脂中に含有する樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、少なくとも単環式化合物を吸着可能な吸着剤であって、前記吸着剤が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体を含有し、前記有機配位子が環状有機化合物であることを特徴とする吸着剤が提供される。
【0007】
本発明の吸着剤においては、
(1)前記金属イオンが、アルカリ金属イオンであること、
(2)前記アルカリ金属が、カリウムであること、
(3)前記環状有機化合物が、シクロデキストリン系化合物であること、
(4)前記シクロデキストリン系化合物が、α-シクロデキストリン又はγーシクロデキストリンであること、
(5)前記金属有機構造体が、前記有機配位子がシクロデキストリンであり、前記金属イオンがカリウムイオンであり、前記カリウムイオン1モルに対し、シクロデキストリンが0.05~0.8モルの範囲で結合する金属有機構造体であること、
(6)前記金属有機構造体が、二次元シート状の層状構造を有すること、
(7)前記単環式化合物が、シクロペンタン誘導体であること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、樹脂中に、上記吸着剤を含有することを特徴とする樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着剤においては、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成り、該有機配位子が環状有機化合物である、環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体を含有して成ることにより、優れた吸着性能を有する吸着剤を提供することが可能になる。
本発明の吸着剤は、単環式化合物、特にシクロペンタン誘導体を効率よく吸着することができる。
また本発明の吸着剤は、樹脂中に配合された場合でも、優れた吸着性能を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の吸着剤を構成する金属有機構造体は、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状又はケージ状の多孔結晶構造を有しており、この結晶内部の空間構造が均一であることからゲスト分子を効率よく内包することができ、吸着剤として優れた性能を発現することが可能となる。
尚、本明細書において、金属有機構造体の環状構造又はケージ状構造は、有機配位子に金属イオンをリンカーとした環状構造の金属有機構造体の結晶化が更に進むことにより得られるキュービック状の結晶構造をケージ状構造と定義する。
【0011】
また本発明に用いる金属有機構造体においては、環状有機化合物を有機配位子とする金属有機構造体であることも重要である。すなわち、本発明で用いる金属有機構造体においては、上記特許文献1で使用されていた金属有機構造体のように、芳香族系有機化合物や複素環式有機化合物等の環式有機化合物を有機配位子とするものではなく、シクロデキストリン系化合物等の環状構造を有する有機化合物を意味している。シクロデキストリン系化合物は、それ自体がゲスト分子を内包できる構造を有することから、吸着性能をより向上させ得ると共に、天然由来の化合物であることから環境性にも優れている。
【0012】
(金属有機構造体)
本発明の吸着剤に用いる金属有機構造体は、前述した通り、少なくとも1種の金属イオンと、この金属イオンに配位した少なくとも1種の環状有機化合物から成る多孔結晶構造を有する、環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体である。
金属イオンとしては、有機配位子と配位結合を形成することができるものであればよく、これに限定されないが、Li,Na,K,Rb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Ti,Ar,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Hg,Al,Ga,In,Tl,Si,Ge,Sn,Pb,As,Sb,Bi等の金属イオンを例示することができ、これらの中から少なくとも1種を選択することができる。これらの中でもアルカリ金属イオンが好適であり、特にカリウムイオンを好適に使用することができる。
【0013】
有機配位子としては、金属イオンと配位結合を形成可能な環状有機化合物であることが重要であり、具体的には、シクロデキストリン系化合物又はクラウンエーテル等を例示することができる。
シクロデキストリン系化合物としては、αーシクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを例示することができる。
またクラウンエーテルは、炭素、水素および酸素を含むエチレングリコールの環状オリゴマーであり、酸素原子がそれぞれ2個の炭素原子に結合して、クラウン状の環が形成される。
本発明においては、上記有機配位子の中でも、シクロデキストリン系化合物を好適に使用することができ、中でもα-シクロデキストリン又はγーシクロデキストリン、特にγ-シクロデキストリンを最も好適に使用することができる。
【0014】
本発明において用いる金属有機構造体は、有機配位子がシクロデキストリン系化合物であり、金属イオンがカリウムイオンであることが好適であり、特にカリウムイオン1モルに対し、シクロデキストリン系化合物が0.05~0.8モルの範囲で結合する金属有機構造体であることが、優れた吸着性能を発現する上で好適である。
すなわち、後述する実施例の結果からも明らかなように、カリウムイオン1モルに対してγ-シクロデキストリンを0.125モルの量で混合したγ-CD-MOFを用いた吸着剤(実施例1)と、γ-シクロデキストリンを用いた吸着剤(比較例1)では、実施例1の吸着剤の吸着性能が顕著に向上していることが明らかである。
【0015】
本発明においては、上述した通り、有機配位子としてシクロデキストリン系化合物、特にα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンを好適に使用できるが、特にα-シクロデキストリンを好適に使用できる。α-シクロデキストリンを有機配位子とする金属有機構造体は、二次元シート状の層状構造を有し、後述する実施例の結果からも明らかなように、γ-シクロデキストリンを有機配位子としたケージ状構造の金属有機構造体では吸着できなかった、単環式化合物以外のヘプタン、オクタン等に対する吸着性をも有している。
【0016】
上述した環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体は、700~1400m/g、好ましくは80~1300m/g、より好ましくは900~1200m/gの細孔比表面積を有し、0.300~0.600m/g、好ましくは0.350~0.500m/gの細孔容積を有し、1.300~1.600nm、好ましくは1.400~1.500nmの細孔径を有している。尚、細孔比表面積、細孔容積,及び細孔径の測定方法は後述する実施例に記載の方法である。
【0017】
(金属有機構造体の製造方法)
本発明の吸着剤を構成する金属有機構造体は、これに限定されないが、以下の方法により製造することができる。
すなわち、金属イオンと、金属イオンに配位し得る有機配位子である環状有機化合物とを含む第1の水溶液を調製した後、この第1の水溶液に、有機溶媒を含む第2の溶液を添加することにより、金属イオンに有機配位子が配位した金属有機構造体を生成する。
第1の水溶液において、金属イオンを供給する金属化合物は、これに限定されないが、金属水酸化物、塩化物塩等の無機ハロゲン化物塩、硝酸塩や酢酸塩等の無機酸塩等を例示できる。具体的には、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、アルカリ金属の水酸化物を用いることが好適であり、また金属イオンがZnイオンやFeイオンの場合には、無機酸塩を用いることが好ましい。
【0018】
上記第1の水溶液において、金属イオン1モルに対する有機配位子の量は、0.05~50モルの範囲にあることが好ましく、好適には0.1~40モルの範囲、より好適には0.125~30モルの範囲にあることが望ましい。
金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、金属イオン1モルに対する有機配位子の量は0.05~5モルの範囲にあることが好ましく、特に0.125~8モルの範囲にあることが好ましい。金属イオンがカリウムイオンで有機配位子がシクロデキストリン系化合物の場合には、上述した通り、0.05~0.8の範囲にあることが好ましく、特に有機配位子がα-シクロデキストリンの場合には0.125~0.375の範囲、γーシクロデキストリンの場合には0.125~0.750の範囲にあることが好適である。
【0019】
第1の水溶液における水の量は、金属イオン1モルに対して50~5000モルの範囲にあることが好ましく、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、水の量は金属イオン1モルに対して80~200モルの範囲にあることが好ましく、特に100~150モルの範囲にあることが好ましい。
有機配位子と水のモル比(有機配位子:水)は、1:50~1:2000の範囲にあることが好ましく、特に有機配位子がシクロデキストリン系化合物の場合には、1:100~1:1300の範囲にあることが望ましい。
【0020】
上記のようにして調製された第1の水溶液に添加する第2の溶液は、第1の水溶液のpHを下げることが可能な溶液であることが好ましく、有機配位子の配位結合部位の脱プロトン化が可能な有機溶媒を用いることが好ましい。有機配位子が脱プロトン化されて、金属イオンとの間に配位結合が形成されることにより、金属有機構造体が生成する。
このような有機溶媒としては、例えばメタノール,エタノール,1-プロパノール,1-ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、N-N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒を例示でき、中でもアルコール系溶媒が好ましく、特にメタノールを好適に使用することができる。
有機溶媒は、金属イオン1モルに対して3~1000モル、特に5~500モルの範囲で添加されることが好適である。特に金属イオンがカリウムイオンで、有機配位子がα-シクロデキストリンである場合には、有機溶媒はカリウムイオン1モルに対して10~400モル、好ましくは50~300モル、より好ましくは100~200モルの範囲の量で添加されることが好適であり、γ-シクロデキストリンである場合には、有機溶媒はカリウムイオン1モルに対して3~100モル、好ましくは5~50モル、より好ましくは10~30モルの範囲の量で添加されることが好適である。
【0021】
第1の水溶液への第2の溶液の添加は、第1の水溶液を攪拌しながら、1~20分、好ましくは10~15分かけて第2の溶液を添加することが好ましい。第2の溶液を一度にすべて添加すると、白濁化が生じて所望の金属有機構造体が得られないおそれがあるが、上記範囲の時間をかけて第2の溶液を添加することにより、核が形成されて、結晶構造を成長させることが可能になり、所望の金属有機構造体が得られやすくなる。添加の方法は、これに限定されないが、滴下ロートを用いて一定速度で添加する方法、一定間隔毎に一定量を添加する方法、傾斜的に添加量を変化させて添加する方法等を例示できる。
第2の溶液の添加終了後、混合溶液を5~50時間、好ましくは10~30時間、室温で攪拌することが好ましい。生成された金属有機構造体は濾過等により単離し、必要によりメタノール等の有機溶媒で洗浄した後、乾燥して有機溶媒や水を除去することにより、環状構造又はケージ状構造の金属有機構造体の粉末を得ることができる。
【0022】
(吸着剤)
本発明の吸着剤は、上述した環状構造又はケージ状構造の金属有機構造体を少なくとも含有するものであればよく、それ単独で吸着剤として使用することができるが、他の成分を含有することを除外するものではない。例えば、上記金属有機構造体と共に、必要に応じて、他の公知の金属有機構造体やゼオライト等の多孔性物質を含有してもよい。
吸着剤の形態は、上述した金属有機構造体の粉状、粒状、顆粒状等の他、後述するように樹脂組成物として、ペレット状、繊維状、膜状、フィルム状に成形されたものでもよい。
【0023】
本発明の吸着剤は、公知の方法で使用することが可能であり、そのまま対象物質中に添加して使用すること、粒状又はペレット状に成形されてカラム等に充填して使用すること、或いは膜状又はフィルム状に成形されてフィルターとして使用すること等ができる。
【0024】
本発明の吸着剤は、少なくとも単環式化合物を吸着することが可能である。このような単環式化合物としては、シクロペンタン誘導体、シクロヘキサン誘導体を例示することができる。
シクロペンタン誘導体としては、メチルシクロペンタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロペンタノール等を例示することができ、シクロヘキサン誘導体としては、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸やシクロヘキサンジメタノール等を例示することができる。
また金属イオンとしてカリウムイオン、有機配位子としてα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンから成る金属有機構造体(以下、それぞれ「α-CD-MOF」又は「γ-CD-MOF」ということがある)の場合には、上記単環式化合物以外に、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン及びその誘導体、ギ酸等に対して吸着性能を発現できる。更にα-CD-MOFでは、上記以外にオクタン及びその誘導体、オクテン及びその誘導体に対して吸着性能を発現でき、γ-CD-MOFでは、上記以外にヘプテン誘導体に吸着性能を発現することができる。
【0025】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、樹脂中に上記吸着剤が含有されて成るものである。
吸着剤を含有させる樹脂としては従来公知のものを使用することができ、これに限定されないが、低-,中-,高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、或いは光硬化型アクリル系樹脂等を例示することができる。
本発明の樹脂組成物において、樹脂組成物中の吸着剤が効率よく吸着性能を発現し得るためには、マトリックスとなる樹脂は気体透過性に優れた樹脂であることが好ましいことから、上記樹脂の中でも特に低密度ポリエチレンを好適に使用することができる。
【0026】
樹脂組成物中の吸着剤の含有量は、樹脂の種類や用途等によっても異なり一概に規定できないが、樹脂100質量部に対して0.01~50質量部、特に5~20質量部の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも吸着剤の量が少ない場合には、所望の吸着性が得られないおそれがあり、その一方上記範囲よりも吸着剤の量が多い場合には、樹脂組成物を所望の形態に成形する際の成形性が損なわれるおそれがある。
樹脂組成物には、上記吸着剤の他に、分散剤、酸化防止剤、充填剤、従来公知の樹脂用添加剤が含有されていてもよい。
【0027】
樹脂組成物の調製は、従来公知の方法により行うことができ、これに限定されないが、吸着剤と樹脂をドライブレンドする方法や、吸着剤を溶融状態にある樹脂に添加してブレンドする方法や、吸着剤を有機溶媒に分散させた分散液とし、この分散液を溶融状態にある樹脂に添加して溶融混練する方法等を挙げることができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、その用途に応じて種々の形態に成形することも可能であり、ペレット状、フィルム状、シート状等の他、例えばカップ、トレイ、ボトル、チューブ等の形態に成形することもできる。
【実施例0029】
以下、本発明をより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。
【0030】
(測定方法)
[比表面積・細孔容積・細孔直径・吸着量]
金属有機構造体の比表面積、細孔容積、細孔径、最大吸着量を、マイクロトラックベル社製BELSORP MAX II型を用い、多点法で液体窒素温度にて窒素ガスの吸着等温線を測定し、MP計算によりそれぞれ算出した。
【0031】
[結晶構造]
得られた金属有機構造体の結晶構造を、リガク社製SmartLabを用い、粉体X線回折法(PXRD)にて評価した。
【0032】
[粉体状態の吸着剤に於ける吸着試験]
各種臭気成分を捕集した捕集瓶内部に各吸着剤0.2gを充填して吸着サンプルを作成した。GC/MS(SHIMADZU社製、GC-2010)を用いて、保持時間12.5分~22.5分の間に検出された炭化水素系化合物、単環式化合物、アルコール系化合物のTIC(トータルイオンクロマトグラム)総面積値を用いて、減少率で比較評価した。
分析条件:カラム:DB-624(60m×0.25mm×1.4μm)、カラム温度:初期40℃で10分保持し10℃/分で昇温。到達温度250℃に達したら5分保持、カラム流量:1.88ml/分、キャリアガス:ヘリウム、イオン化法:EI、イオン源温度:200℃、検出:MSスキャン(m/z 26.0-550)
得られたスペクトルより、吸着ガスを特定した。
【0033】
[吸着剤含有樹脂組成物の吸着試験]
樹脂組成物2gを、ヘキサン480ppm、オクタン500ppm、又は酢酸2ppmを充満させたフラスコ内部に充填して吸着サンプルを作成した。吸着サンプル充填1時間後のガス成分濃度を下記検知管によって測定した。
ヘキサン濃度:検知管(ガステック社、No.105)
オクタン濃度:検知管(ガステック社、No.105)
酢酸濃度:検知管(ガステック社、No.81L)
【0034】
〈吸着剤の調製〉
(実施例1)
150ml容器(マヨネーズ瓶)に、純水を加えた後、該容器に、水酸化カリウムを加え、室温で溶解させた。更に、γ-シクロデキストリンを加え、室温で溶解させた。得られた溶液のpHは13.50であった。次に、この溶液を攪拌子を用いて攪拌しながら、15分程度をかけて、メタノールを滴下により添加した。添加後、溶液を24時間攪拌し、固体生成物を含む懸濁液を得た。メタノールの添加後の溶液のpHは、13.40であった。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、単離した固体生成物をメタノールで洗浄した。洗浄後、固体生成物を50℃で1晩乾燥させて、実施例1に係る金属有機構造体Aを得た。
なお、各成分のモル比は、カリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.125:137.5:20とした。
【0035】
得られた金属有機構造体Aの細孔比表面積は、1327.1m/gであった。細孔容積は、0.483cm/gであった。細孔径は、1.457nmであった。
各種臭気成分を捕集した捕集瓶内部に金属有機構造体A0.2gを充填して吸着サンプルを作成した。GC/MS(SHIMADZU社製、GC-2010)を用いて、保持時間10.0分~30.0分の間に検出された炭化水素系化合物、単環式化合物、アルコール系化合物のTIC(トータルイオンクロマトグラム)総面積値を用いて、減少率で比較評価した。TIC総面積値減少率は、86.3%であった。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0036】
(実施例2)
用いた各成分のモル比を、カリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.25:137.5:20とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Bを得た。
得られた金属有機構造体Bの体細孔比表面積は、1329.0m/gであった。細孔容積は、0.483cm/gであった。細孔径は、1.454nmであった。
TIC総面積値減少率は、90.3%であった。なお、実施例2のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0037】
(実施例3)
用いた各成分のモル比をカリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.75:137.5:20とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Cを得た。
得られた金属有機構造体Cの細孔比表面積は、1243.8m/gであった。細孔容積は、0.452cm/gであった。細孔径は、1.453nmであった。
TIC総面積値減少率は、94.6%であった。なお、実施例3のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0038】
(実施例4)
用いた各成分のモル比をカリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.5:137.5:20とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Dを得た。
得られた金属有機構造体Dの細孔比表面積は、1263.3m/gであった。細孔容積は、0.457cm/gであった。細孔径は、1.448nmであった。
TIC総面積値減少率は、92.5%であった。なお、実施例4のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0039】
(実施例5)
用いた各成分のモル比をカリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.625:137.5:20とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Eを得た。
得られた金属有機構造体Eの細孔比表面積は、1091.0m/gであった。細孔容積は、0.395cm/gであった。細孔径は、1.450nmであった。
TIC総面積値減少率は、87.6%であった。なお、実施例5のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0040】
(実施例6)
用いた各成分のモル比をカリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.75:137.5:20とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Fを得た。
得られた金属有機構造体Fの細孔比表面積は、651.4m/gであった。細孔容積は、0.236cm/gであった。細孔径は、1.449nmであった。
TIC総面積値減少率は、87.1%であった。なお、実施例6のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0041】
(実施例7)
有機配位子をα-シクロデキストリンとし、用いた各成分のモル比をカリウムイオン:α-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.125:137.5:184とした以外は実施例1と同様にして、金属有機構造体Gを得た。
得られた金属有機構造体Gについて、PXRDにより、結晶構造を有することを確認した。
TIC総面積値減少率は、97.9%であった。なお、実施例7のTIC総面積値減少率も実施例1の場合と同様に算出した。
GC/MS測定結果より、特に炭化水素、ブタナール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘキサン誘導体、ヘプタン、ヘプタン誘導体、シクロペンタン誘導体、ギ酸、オクタン、オクタン誘導体、オクテン、オクテン誘導体を吸着するものであった。
【0042】
(比較例1)
捕集瓶内部にγ―シクロデキストリンを充填する以外は実施例1と同様にGC/MS(SHIMADZU社製、GC-2010)を用いてTIC総面積値を用いて、減少率で比較評価した。TIC総面積値減少率は、5.6%であった。なお、比較例1のTIC総面積値減少率は、各種臭気成分を捕集した捕集瓶内部に吸着剤を分散させなかったこと以外は全て実施例1と同様に行った態様におけるTIC総面積値を基準として算出した。
【0043】
(比較例2)
捕集瓶内部にα―シクロデキストリンを充填する以外は実施例1と同様にGC/MS(SHIMADZU社製、GC-2010)を用いてTIC総面積値を用いて、減少率で比較評価した。TIC総面積値減少率は、18.4%であった。なお、比較例2のTIC総面積値減少率は、各種臭気成分を捕集した捕集瓶内部に吸着剤を分散させなかったこと以外は全て実施例1と同様に行った態様におけるTIC総面積値を基準として算出した。
【0044】
〈樹脂組成物の調製〉
(実施例8)
下記原料を混合して、吸着剤含有樹脂組成物を得た。
LDPE(ノバティックLC600A):90部
金属有機構造体A:10部
そして、上記で調製した樹脂組成物2gをプレス機を用いて、平均膜厚0.2mmのフィルムとした。
調製したフィルムを140℃で3時間乾燥させた後、該フィルム2gを、ヘキサン480ppm、オクタン500ppm、又は酢酸2ppmを充満させたフラスコ内部に充填して吸着サンプルを作成した。吸着サンプル充填1時間後のガス成分濃度を検知管によって測定した。吸着試験を行ったところ、ガス吸着剤含有樹脂組成物から成る該フィルムはヘキサン96ppm、オクタン150ppm、酢酸2ppmを吸着するものであった。
【0045】
(比較例3)
下記の材料を混合して、樹脂組成物を得た。
LDPE(ノバティックLC600A):100部
そして、上記で調製した樹脂組成物2gをプレス機を用いて、平均膜厚0.2mmのフィルムとした。
吸着測定試験は実施例3と同様に行い、該フィルムはヘキサン16ppm、オクタン100ppm、酢酸0.2ppmを吸着するものであった。