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特開2023-173766金属有機構造体を含有する樹脂組成物及び分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173766
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】金属有機構造体を含有する樹脂組成物及び分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231130BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20231130BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/00
C08L29/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086236
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】宮井 智弘
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB041
4J002BB121
4J002BB151
4J002BB171
4J002BE022
4J002CC031
4J002CC181
4J002CC211
4J002CD001
4J002CF011
4J002CF051
4J002CF081
4J002CF211
4J002CG001
4J002CK021
4J002CL011
4J002CL031
4J002CM012
4J002CP031
4J002DH027
4J002EF106
4J002EL086
4J002EL116
4J002EN047
4J002EN117
4J002EU116
4J002FD202
4J002FD207
4J002GF00
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】金属有機構造体を含有する樹脂組成物及び分散液において、金属有機構造体が樹脂中又は分散媒中に均一分散し、金属有機構造体が有する優れた吸着性能を発現可能な樹脂組成物及び分散液を提供する。
【解決手段】金属有機構造体及び分散剤を含有する樹脂組成物又は分散液であって、前記金属有機構造体が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に、金属有機構造体及び分散剤を含有する樹脂組成物であって、前記金属有機構造体が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、ポリビニルアルコール,アミノ酸,リン酸,ポリアリルアミンから選択される少なくとも1種である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属有機構造体と前記分散剤の含有比(質量比)が、1:1~1:10である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属イオンが亜鉛イオンであり、前記有機配位子が、イミダゾール骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記イミダゾール骨格を有する化合物が、2-メチルイミダゾールである、請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、前記有機配位子が、シクロデキストリン系化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオンである、請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記シクロデキストリン系化合物がα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記金属イオンが銅イオンであり、前記有機配位子が、単環式又は多環式骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項1の樹脂組成物。
【請求項10】
前記単環式又は多環式骨格を有する化合物が、トリメシン酸である、請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項11】
金属有機構造体及び分散剤を含有する分散液であって、前記金属有機構造体が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状又はケージ状の金属有機構造体であることを特徴とする分散液。
【請求項12】
前記分散剤が、ポリビニルアルコール,アミノ酸,リン酸,ポリアリルアミンから選択される少なくとも1種である請求項11記載の分散液。
【請求項13】
前記金属有機構造体と前記分散剤の含有比(質量比)が、1:1~1:30である請求項11記載の分散液。
【請求項14】
分散媒が、水及び/又はアルコール系溶媒である請求項11記載の分散液。
【請求項15】
前記金属イオンが亜鉛イオンであり、前記有機配位子が、イミダゾール骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項11記載の分散液。
【請求項16】
前記イミダゾール骨格を有する化合物が、2-メチルイミダゾールである、請求項15記載の分散液。
【請求項17】
前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、前記有機配位子が、シクロデキストリン系化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項11記載の分散液。
【請求項18】
前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオンである、請求項17記載の分散液。
【請求項19】
前記シクロデキストリン系化合物がα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、請求項17記載の分散液。
【請求項20】
前記金属イオンが銅イオンであり、前記有機配位子が、単環式又は多環式骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有する、請求項11記載の分散液。
【請求項21】
前記単環式又は多環式骨格を有する化合物が、トリメシン酸である、請求項20記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体を含有する樹脂組成物及び分散液に関するものであり、より詳細には、金属有機構造体が樹脂又は分散媒中に均一分散され、金属有機構造体が有する優れた吸着性能を発現可能な樹脂組成物及び分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
中心金属とこれに配位する多座有機配位子からなる金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Framework)は、中心金属と有機配位子とからなる金属錯体が集積されて形成された多孔性の三次元構造体である。金属有機構造体が有する細孔は、ゼオライトや活性炭等の他の多孔性材料に比べて、細孔径や細孔内空間を容易に設計でき、均一な細孔径の細孔を有することから、金属有機構造体は吸着体として使用することが提案されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、基材層と、シーラント層とを有する透明ガスバリア性吸水積層体であって、該基材層は、透明ガスバリア性フィルムを含み、該シーラント層は、吸水剤とヒートシール性樹脂とを含み、該吸水剤は、無機吸水剤および/または有機吸水剤を含有し、該吸水剤を含有する層中の、該吸水剤の含有量が、0.5質量%以上、70質量%以下である、透明ガスバリア性吸水積層体が提案されており、上記無機吸水剤の一つとして金属有機構造体が使用できることが記載されている。
【0004】
また下記特許文献2には、熱可塑性樹脂と、ガス吸収剤とを含有し、該ガス吸収剤は、ガス物理吸収剤および/またはガス化学吸収剤を含有し、該ガス物理吸収剤のBET比表面積は、50m/g以上、4000m/g以下であり、ガス吸収剤の含有量が、該ガス吸収剤を含有する層中に、0.5質量%以上、30質量%以下である、ガス吸収フィルムが提案されており、このガス吸収フィルムにおいては、ガス物理吸収剤の一つとして金属有機構造体が使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-53946号公報
【特許文献2】特開2021-54490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2では、トリメシン酸銅、トリメシン酸鉄、テレフタル酸アルミニウム、2-メチルイミダゾール亜鉛等の特定の金属有機構造体を、無機吸水剤又はガス物理吸収剤として熱可塑性樹脂に配合して使用している。
しかしながら、一般に粉末状の金属有機構造体を樹脂中に均一分散させることは容易でなく、金属有機構造体を含有する樹脂組成物から得られたフィルム等には凝集物が存在する場合があり、このような場合には金属有機構造体が有する優れた吸着性能を充分に発揮できないおそれがある。
【0007】
従って本発明の目的は、金属有機構造体を含有する樹脂組成物及び分散液において、金属有機構造体が樹脂中又は分散媒中に均一分散し、金属有機構造体が有する優れた吸着性能を発現可能な樹脂組成物及び分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、樹脂中に、金属有機構造体及び分散剤を含有する樹脂組成物であって、前記金属有機構造体が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体であることを特徴とする樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の樹脂組成物においては、
(1)前記分散剤が、ポリビニルアルコール,アミノ酸,リン酸,ポリアリルアミンから選択される少なくとも1種であること、
(2)前記金属有機構造体と前記分散剤の含有比(質量比)が、1:1~1:10であること、
(3)前記金属イオンが亜鉛イオンであり、前記有機配位子が、イミダゾール骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(4)前記イミダゾール骨格を有する化合物が、2-メチルイミダゾールであること、
(5)前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、前記有機配位子が、シクロデキストリン系化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(6)前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオンであること、
(7)前記シクロデキストリン系化合物がα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンであること、
(8)前記金属イオンが銅イオンであり、前記有機配位子が、単環式又は多環式骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(9)前記単環式又は多環式骨格を有する化合物が、トリメシン酸であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、金属有機構造体及び分散剤を含有する分散液であって、前記金属有機構造体が、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状又はケージ状の金属有機構造体であることを特徴とする分散液が提供される。
【0011】
本発明の分散液においては、
(1)前記分散剤が、ポリビニルアルコール,アミノ酸,リン酸,ポリアリルアミンから選択される少なくとも1種であること、
(2)前記金属有機構造体と前記分散剤の含有比(質量比)が、1:1~1:30であること、
(3)分散媒が、水及び/又はアルコール系溶媒であること、
(4)前記金属イオンが亜鉛イオンであり、前記有機配位子が、イミダゾール骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(5)前記イミダゾール骨格を有する化合物が、2-メチルイミダゾールであること、
(6)前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、前記有機配位子が、シクロデキストリン系化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(7)前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオンであること、
(8)前記シクロデキストリン系化合物がα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンであること、
(9)前記金属イオンが銅イオンであり、前記有機配位子が、単環式又は多環式骨格を有する化合物から成る前記金属有機構造体を少なくとも含有すること、
(10)前記単環式又は多環式骨格を有する化合物が、トリメシン酸であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物及び分散液においては、特定の分散剤を金属有機構造体と共に、樹脂又は分散媒中に含有させることにより、金属有機構造体を樹脂又は分散液中に凝集することなく均一分散させることが可能となり、金属有機構造体が有する優れた吸着性能を、樹脂組成物及び分散液に発現させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(金属有機構造体)
本発明の樹脂組成物及び分散液に含有される金属有機構造体は、少なくとも1種の金属イオンに少なくとも1種の有機配位子が配位して成る環状構造又はケージ状構造の多孔結晶構造を有しており、この結晶内部の空間構造が均一であることからゲスト分子を効率よく内包することができ、これにより優れた吸着性能を発現することが可能となる。
尚、本明細書において、金属有機構造体の環状構造又はケージ状構造は、有機配位子に金属イオンをリンカーとした環状構造の金属有機構造体の結晶化が更に進むことにより得られるキュービック状の結晶構造をケージ状構造と定義する。
【0014】
金属有機構造体の金属イオンとしては、有機配位子と配位結合を形成することができるものであればよく、これに限定されないが、Li,Na,K,Rb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Ti,Ar,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Hg,Al,Ga,In,Tl,Si,Ge,Sn,Pb,As,Sb,Bi等の金属イオンを例示することができ、これらの中から少なくとも1種を選択することができる。
【0015】
有機配位子としては、金属イオンと配位結合を形成可能な化合物であればよく、金属と配位結合する官能基を有する化合物を用いることができる。そのような官能基としては、水酸基、イミダゾール基、ピリジル基、カルボキシル基、スルホン酸基、及びアミド基等を挙げることができる。
具体的には、有機配位子として、それ自体がゲスト分子を内包し得る環状構造を有する有機化合物を用いることができる。このような有機配位子としては、シクロデキストリン系化合物を挙げることができる。シクロデキストリン系化合物としては、αーシクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを例示することができ、中でもαーシクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを好適に用いることができる。
また有機配位子として、イミダゾール,2-メチルイミダゾール,2-ホルミルイミダゾール等のイミダゾール骨格を有する化合物、テレフタル酸、トリメシン酸等の単環式又は多環式骨格を有する化合物等を用いることもできる。これらの化合物は、上記環状構造を有する有機化合物のようにそれ自体がゲスト分子を内包し得るものではないが、金属イオンと配位結合して、ゲスト分子を内包し得る環状構造又はケージ状構造を有する金属有機構造体を形成できる。
【0016】
本発明の樹脂組成物及び分散液に、好適に使用できる具体的な金属有機構造体としては、以下のものを例示できる。
金属イオンが亜鉛イオンであり、有機配位子が、イミダゾール骨格を有する化合物から成る金属有機構造体、特に有機配位子が2-メチルイミダゾールである金属有機構造体(ZIF-8)、金属イオンがアルカリ金属イオンであり、有機配位子が、シクロデキストリン系化合物から成る金属有機構造体、特に金属イオンがカリウムイオンであり、有機配位子がα-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである金属有機構造体(α-CDMOFまたはγ-CDMOF)、金属イオンが銅イオンであり、有機配位子が、単環式又は多環式骨格を有する化合物から成る金属有機構造体、特に有機配位子がトリメシン酸である金属有機構造体(C-300)を好適に使用することができる。本発明においては、上記金属有機構造体の中でも、CDMOFを好適に使用できる。
【0017】
本発明の樹脂組成物及び分散液に好適に使用できる、有機配位子がシクロデキストリンであり、金属イオンがカリウムイオンである金属有機構造体(CDMOF)においては、カリウムイオン1モルに対し、シクロデキストリンが0.05~0.8モルの範囲で結合する金属有機構造体であることが、優れた吸着性能を発現する上で好適である。
【0018】
(金属有機構造体の製造方法)
本発明に用いる金属有機構造体は、従来公知の市販の金属有機構造体を使用することもできるが、以下の方法により製造することができる。
すなわち、金属イオンと、金属イオンに配位し得る有機配位子とを含む第1の水溶液を調製した後、この第1の水溶液に、有機溶媒を含む第2の溶媒を添加することにより、金属イオンに有機配位子が配位した金属有機構造体を生成する。
第1の水溶液において、金属イオンを供給する金属化合物は、これに限定されないが、金属水酸化物、塩化物塩等の無機ハロゲン化物塩、硝酸塩や酢酸塩等の無機酸塩等を例示できる。具体的には、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、アルカリ金属の水酸化物を用いることが好適であり、また金属イオンがZnイオンやFeイオンの場合には、無機酸塩を用いることが好ましい。
【0019】
上記第1の水溶液において、金属イオン1モルに対する有機配位子の量は、0.05~50モルの範囲にあることが好ましく、好適には0.1~40モルの範囲、より好適には0.125~30モルの範囲にあることが望ましい。
金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、金属イオン1モルに対する有機配位子の量は0.05~5モルの範囲にあることが好ましく、特に0.125~0.8モルの範囲にあることが好ましく、特にカリウムイオンの場合には、上述した通り、0.05~0.8モルの範囲にあることが好ましい。
金属イオンがZnイオンの場合には、Znイオン1モルに対する有機配位子の量は0.5~50モルの範囲にあることが好ましく、特に15~40モルの範囲にあることが好ましい。
また金属イオンがFeイオンの場合には、Feイオン1モルに対する有機配位子の量は0.05~5モルの範囲にあることが好ましく、特に0.1~1モルの範囲にあることが好ましい。
【0020】
第1の水溶液における水の量は、金属イオン1モルに対して50~5000モルの範囲にあることが好ましく、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合には、水の量は金属イオン1モルに対して80~200モルの範囲にあることが好ましく、特に100~150モルの範囲にあることが好ましい。
有機配位子と水のモル比(有機配位子:水)は、1:50~1:2000の範囲にあることが好ましく、特に有機配位子がシクロデキストリン系化合物の場合には、1:100~1:1300の範囲にあることが望ましい。
【0021】
上記のようにして調製された第1の水溶液に添加する第2の溶液は、第1の水溶液のpHを下げることが可能な溶液であることが好ましく、有機配位子の配位結合部位の脱プロトン化が可能な有機溶媒を用いることが好ましい。有機配位子が脱プロトン化されて、金属イオンとの間に配位結合が形成されることにより、金属有機構造体が生成する。
このような有機溶媒としては、例えばメタノール,エタノール,1-プロパノール,1-ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、N-N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒を例示でき、中でもアルコール系溶媒が好ましく、特にメタノールを好適に使用することができる。
有機溶媒は、金属イオン1モルに対して3~1000モル、特に5~500モルの範囲で添加されることが好適である。特に金属イオンがカリウムイオンで、有機配位子がα-シクロデキストリンである場合には、有機溶媒はカリウムイオン1モルに対して10~400モル、好ましくは50~300モル、より好ましくは100~200モルの範囲の量で添加されることが好適であり、γ-シクロデキストリンである場合には、有機溶媒はカリウムイオン1モルに対して3~100モル、好ましくは5~50モル、より好ましくは10~30モルの範囲の量で添加されることが好適である。
【0022】
第1の水溶液への第2の溶液の添加は、第1の水溶液を攪拌しながら、1~20分、好ましくは10~15分かけて第2の溶液を添加することが好ましい。第2の溶液を一度にすべて添加すると、白濁化が生じて所望の金属有機構造体が得られないおそれがあるが、上記範囲の時間をかけて第2の溶液を添加することにより、核が形成されて、結晶構造を成長させることが可能になり、所望の金属有機構造体が得られやすくなる。添加の方法は、これに限定されないが、滴下ロートを用いて一定速度で添加する方法、一定間隔毎に一定量を添加する方法、傾斜的に添加量を変化させて添加する方法等を例示できる。
第2の溶液の添加終了後、混合溶液を5~50時間、好ましくは10~30時間、室温で攪拌することが好ましい。生成された金属有機構造体は濾過等により単離し、必要によりメタノール等の有機溶媒で洗浄した後、乾燥して有機溶媒や水を除去することにより、環状構造又はケージ状構造の金属有機構造体の粉末を得ることができる。
【0023】
(分散剤)
本発明の樹脂組成物及び分散液において、上述した金属有機構造体の樹脂中又は分散液中での分散性を向上するために添加される分散剤としては、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、グリシン、リシン、アスパラギン酸等のα-アミノ酸から成るアミノ酸化合物、オルトリン酸,メタリン酸,ポリリン酸等のリン酸化合物、ポリアリルアミン等のポリアミン化合物等から選択される少なくとも1種を使用することができる。中でも、ポリビニルアルコール、アミノ酸、リン酸、ポリアリルアミンを好適に使用することができる。
【0024】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、樹脂中に上述した金属有機構造体及び分散剤を含有するものである。
金属有機構造体を含有させる樹脂としては、従来公知のものを使用することができ、これに限定されないが、低-,中-,高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、或いは光硬化型アクリル系樹脂等を例示することができる。
本発明の樹脂組成物において、樹脂組成物中の金属有機構造体が効率よく吸着性能を発現し得るために、マトリックスとなる樹脂は気体透過性に優れた樹脂であることが好ましいことから、上記樹脂の中でも特に低密度ポリエチレンを好適に使用することができる。
【0025】
樹脂組成物において、金属有機構造体の含有量は、用いる金属有機構造体の種類や用途等によっても異なり一概に規定できないが、樹脂100質量部に対して0.01~50質量部、特に0.05~10質量部の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも金属有機構造体の量が少ない場合には、所望の吸着性が得られないおそれがあり、その一方上記範囲よりも金属有機構造体の量が多い場合には、樹脂組成物を所望の形態に成形する際の成形性が損なわれるおそれがある。
また樹脂組成物中の金属有機構造体と分散剤の含有比(質量比)は、1:1~1:10、特に1:3~1:8であることが好適である。上記範囲よりも分散剤の含有量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して金属有機構造体の分散性を充分に改善することが困難であり、その一方上記範囲よりも分散剤の含有量が多いと樹脂組成物を所望の形態に成形する際の成形性が損なわれるおそれがある。
樹脂組成物には、上記金属有機構造体及び分散剤の他に、酸化防止剤、充填剤等、従来公知の樹脂用添加剤が含有されていてもよい。
【0026】
樹脂組成物の調製は、従来公知の方法により行うことができ、これに限定されないが、金属有機構造体及び分散剤を樹脂とドライブレンドする方法や、金属有機構造体及び分散剤を溶融状態にある樹脂に添加してブレンドする方法等により調製することができるが、後述する本発明の金属有機構造体及び分散剤を含有する分散液を用い、この分散液を溶融状態にある樹脂に添加して溶融混練する方法により、樹脂中に金属有機構造体が均一分散した樹脂組成物を効率よく調製することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、その用途に応じて種々の形態に成形することも可能であり、ペレット状、フィルム状、シート状等の他、例えばカップ、トレイ、ボトル、チューブ等の形態に成形することもできる。
【0028】
(分散液)
本発明の分散液は、分散媒中に上述した金属有機構造体及び分散剤が均一分散したものである。
分散液に用いる分散媒は、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール系溶媒、2-ブタノン,アセトン等のケトン系溶媒、トルエン等の芳香族系溶媒などを例示できるが、特に水及び/又はアルコール系溶媒を好適に使用できる。
【0029】
分散液において、金属有機構造体の含有量は、用いる金属有機構造体及び分散媒の種類、分散剤の含有量等によっても異なり一概に規定できないが、0.01~30g/L、特に10~20g/Lの範囲で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも金属有機構造体の量が少ない場合には、所望の吸着性が得られないおそれがあると共に、上記範囲にある場合に比して樹脂に添加する場合の取扱い性に劣るおそれがあり、その一方上記範囲よりも金属有機構造体の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して金属有機構造体の均一分散が困難になるおそれがある。
また分散液中の金属有機構造体と分散剤の含有比(質量比)は、1:1~1:30、特に1:5~1:20であることが好適である。上記範囲よりも分散剤の含有量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して金属有機構造体の分散性を充分に改善することが困難であり、その一方上記範囲よりも分散剤の含有量が多くてもさらなる分散性の向上は望めず、かえって分散液の取扱い性が損なわれるおそれがある。
【0030】
分散液の調製は、これに限定されないが、以下の方法で行うことができる。すなわち、溶媒に分散剤を添加して攪拌混合することにより、予め分散剤含有溶液を調製し、この分散剤含有溶液中に金属有機構造体を添加して分散処理を行うことにより、金属有機構造体が均一分散された分散液が調製できる。
分散処理は、攪拌棒、攪拌石等を用いた攪拌方法により行うことが好ましいが、超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を用いて行うこともできる。
【0031】
本発明の分散液は、それ自体を吸着剤等として使用することもできるが、上述した金属有機構造体を含有する樹脂組成物の調製に好適に使用することができる。
【実施例0032】
以下、本発明をより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。
【0033】
(測定方法)
[吸着剤含有樹脂組成物の吸着試験]
樹脂組成物2gを、オクタン200ppmを充満させたフラスコ内部に充填して吸着サンプルを作成した。吸着サンプル充填1時間後のガス成分濃度を下記検知管によって測定した。
オクタン濃度:検知管(ガステック社、No.105)
[分散液に於ける経時安定性評価方法]
分散液作製30分後および3日後の状態を目視で確認した。3日後に沈殿物が無ければ○(経時安定性が高い)、30分後から3日経過までに沈殿物があれば△(経時安定性が中程度)、30分後に沈殿物があれば×(経時安定性が低い)とした。
【0034】
〈樹脂組成物の調製〉
(実施例1)
下記原料を混合して、吸着剤含有樹脂組成物を得た。
LDPE(ノバティックLC600A):93.3部
ポリアリルアミン(PAA:平均分子量 M.W. 5000):6.0部
ZIF-8(アルドリッチ社製):0.7部
そして、上記で調製した樹脂組成物1gをプレス機を用いて、平均膜厚0.2mmのフィルムとした。
調製したフィルムを140℃で3時間乾燥させた後、該フィルム1gをオクタン200ppmを充満させたフラスコ内部に充填して吸着サンプルを作成した。吸着サンプル充填1時間後のガス成分濃度を検知管によって測定した。吸着試験を行ったところ、ガス吸着剤含有樹脂組成物から成る該フィルムはオクタン200ppmを吸着するものであった。
【0035】
(比較例1)
下記の材料を混合して、樹脂組成物を得た。
LDPE(ノバティックLC600A):100部
そして、上記で調製した樹脂組成物1gをプレス機を用いて、平均膜厚0.2mmのフィルムとした。
吸着測定試験は実施例1と同様に行い、該フィルムはオクタン20ppmを吸着するものであった。
【0036】
(比較例2)
下記の材料を混合して、樹脂組成物を得た。
LDPE(ノバティックLC600A):94.0部
PAA:6.0部
そして、上記で調製した樹脂組成物1gをプレス機を用いて、平均膜厚0.2mmのフィルムとした。
吸着測定試験は実施例1と同様に行い、該フィルムはオクタン45ppmを吸着するものであった。
【0037】
〈分散液の調製〉
(実施例2)
純水88質量部に対して、分散剤としてPAA2質量部と、金属有機構造体としてZIF-8を1質量部加え、室温下にて10分間攪拌することにより、分散液Aを得た。
分散液Aの経時安定性評価は、○であった。
【0038】
(実施例3)
組成比(質量部)を純水:PAA:ZIF-8=88:5:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Bを得た。
分散液Bの経時安定性評価は、○であった。
【0039】
(実施例4)
組成比(質量部)を純水:PAA:ZIF-8=88:10:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Cを得た。
分散液Cの経時安定性評価は、○であった。
【0040】
(実施例5)
組成比(質量部)を純水:PAA:ZIF-8=88:20:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Dを得た。
分散液Dの経時安定性評価は、△であった。
【0041】
(実施例6)
分散剤をポリビニルアルコール(PVA:平均分子量M.W.900~1100)とし、組成比(質量部)を純水:PVA:ZIF-8=169:1.7:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Eを得た。
分散液Eの経時安定性評価は、△であった。
【0042】
(実施例7)
分散剤をグリシンとし、組成比(質量部)を純水:グリシン:ZIF-8=298:33:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Fを得た。
分散液Fの経時安定性評価は、○であった。
【0043】
(実施例8)
分散剤をリシンとし、組成比(質量部)を純水:リシン:ZIF-8=298:33:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Gを得た。
分散液Gの経時安定性評価は、△であった。
【0044】
(実施例9)
分散剤をアスパラギン酸マグネシウムとし、組成比(質量部)を純水:アスパラギン酸マグネシウム:ZIF-8=298:33:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Hを得た。
分散液Hの経時安定性評価は、△であった。
【0045】
(実施例10)
分散剤をリン酸とし、組成比(質量部)を純水:リン酸:ZIF-8=356:2.7:1としたこと以外は実施例2と同様にして、分散液Iを得た。
分散液Iの経時安定性評価は、○であった。
【0046】
(実施例11)
分散剤をPAAとし、金属有機構造体をαーCDMOFとしたこと以外は、実施例4と同様にして、分散液Jを得た。
分散液Jの経時安定性評価は、○であった。
なお、αーCDMOFの調製は、下記に従い行った。
150ml容器(マヨネーズ瓶)に、純水を加えた後、該容器に、水酸化カリウムを加え、室温で溶解させた。更に、α-シクロデキストリンを加え、室温で溶解させた。次に、この溶液を攪拌子を用いて攪拌しながら、15分程度をかけて、メタノールを滴下により添加した。添加後、溶液を24時間攪拌し、固体生成物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、単離した固体生成物をメタノールで洗浄した。洗浄後、固体生成物を50℃で1晩乾燥させて、実施例11に係るα-CDMOFを得た。用いた各成分のモル比をカリウムイオン:α-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.125:137.5:184とした。
【0047】
(実施例12)
分散剤をPVAとし、金属有機構造体を前記α-CDMOFとしたこと以外は、実施例6と同様にして、分散液Kを得た。
分散液Kの経時安定性評価は、○であった。
【0048】
(実施例13)
分散剤をリシンとし、金属有機構造体を前記α-CDMOFとしたこと以外は、実施例8と同様にして、分散液Lを得た。
分散液Lの経時安定性評価は、○であった。
【0049】
(実施例14)
分散剤をアルパラギン酸マグネシウムとし、金属有機構造体を前記α-CDMOFとしたこと以外は、実施例9と同様にして、分散液Mを得た。
分散液Mの経時安定性評価は、○であった。
【0050】
(実施例15)
分散剤をPAAとし、金属有機構造体をγ-CDMOFとしたこと以外は、実施例4と同様にして、分散液Nを得た。
分散液Nの経時安定性評価は、○であった。
なお、γ-CDMOFの調製は、下記に従い行った。
150ml容器(マヨネーズ瓶)に、純水を加えた後、該容器に、水酸化カリウムを加え、室温で溶解させた。更に、α-シクロデキストリンを加え、室温で溶解させた。次に、この溶液を攪拌子を用いて攪拌しながら、15分程度をかけて、メタノールを滴下により添加した。添加後、溶液を24時間攪拌し、固体生成物を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、単離した固体生成物をメタノールで洗浄した。洗浄後、固体生成物を50℃で1晩乾燥させて、実施例15に係るγ-CDMOFを得た。用いた各成分のモル比をカリウムイオン:γ-シクロデキストリン:水:メタノール=1:0.125:137.5:20とした。
【0051】
(実施例16)
分散剤をPVAとし、金属有機構造体を実前記γ-CDMOFとしたこと以外は、実施例6と同様にして、分散液Oを得た。
分散液Oの経時安定性評価は、○であった。
【0052】
(実施例17)
分散剤をグリシンとし、金属有機構造体を前記γ-CDMOFとしたこと以外は、実施例7と同様にして、分散液Pを得た。
分散液Pの経時安定性評価は、○であった。
【0053】
(実施例18)
分散剤をリシンとし、金属有機構造体を前記γ-CDMOFとしたこと以外は、実施例8と同様にして、分散液Qを得た。
分散液Qの経時安定性評価は、○であった。
【0054】
(実施例19)
分散剤をアスパラギン酸マグネシウムとし、金属有機構造体を前記γ-CDMOFとしたこと以外は、実施例9と同様にして、分散液Rを得た。
分散液Rの経時安定性評価は、○であった。
【0055】
(実施例20)
分散剤をグリシンとし、金属有機構造体をC300(アルドリッチ社製)としたこと以外は、実施例7と同様にして、分散液Sを得た。
分散液Sの経時安定性評価は、○であった。
【0056】
(実施例21)
分散剤をリシンとし、金属有機構造体をC300(アルドリッチ社製)としたこと以外は、実施例8と同様にして、分散液Tを得た。
分散液Tの経時安定性評価は、○であった。
【0057】
(実施例22)
分散剤をアルパラギン酸マグネシウムとし、金属有機構造体をC300(アルドリッチ社製)としたこと以外は、実施例9と同様にして、分散液Uを得た。
分散液Uの経時安定性評価は、○であった。