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特開2023-173780レーザ加工装置およびレーザ加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173780
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】レーザ加工装置およびレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/073 20060101AFI20231130BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20231130BHJP
   B23K 26/042 20140101ALI20231130BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/046
B23K26/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086260
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168BA87
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB12
4E168CB19
4E168DA02
4E168DA13
4E168DA24
4E168DA28
4E168DA42
4E168DA43
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA08
4E168EA17
4E168EA24
4E168JA03
4E168JA04
(57)【要約】
【課題】レーザ加工においてコストの上昇を抑えながらスパッタの発生を抑制する。
【解決手段】レーザ加工装置1は、CWレーザ発振器10およびパルスレーザ発振器12が接続され、CWレーザ発振器10から伝送されるCWレーザ光L1のワークWの表面における照射点の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器12から伝送されるパルスレーザ光L2のワークWの表面における照射点の少なくとも一部とが互いに重なるように、CWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2をワークWに向けて出射する出射ヘッド6を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークにレーザ光を照射してワークを加工するレーザ加工装置であって、
CWレーザ発振器およびパルスレーザ発振器が接続され、前記CWレーザ発振器から伝送されるCWレーザ光の前記ワークの表面における照射点の少なくとも一部と、前記パルスレーザ発振器から伝送されるパルスレーザ光の前記ワークの表面における照射点の少なくとも一部とが互いに重なるように、前記CWレーザ光および前記パルスレーザ光を前記ワークに向けて出射する出射ヘッドを備える、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記パルスレーザ光は、ナノ秒パルスレーザ光である、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記出射ヘッドは、前記CWレーザ光の焦点および前記パルスレーザ光の焦点の少なくとも一方の位置を前記ワークの表面と交わる方向に変位させる焦点調整機構を有する、
請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記出射ヘッドは、前記CWレーザ光の前記照射点および前記パルスレーザ光の前記照射点を相対的に変位させる照射点移動機構を有する、
請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記出射ヘッドは、前記CWレーザ光を集光するとともに前記パルスレーザ光を集光する共通の集光レンズを有する、
請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記出射ヘッドは、前記CWレーザ光を前記集光レンズに入射させる第1光学部材と、前記パルスレーザ光を前記集光レンズに入射させる第2光学部材と、有し、
前記第1光学部材および前記第2光学部材は、前記CWレーザ光の光軸と前記パルスレーザ光の光軸とが互いにずれるように配置される、
請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記出射ヘッドは、前記CWレーザ光を前記集光レンズに入射させる第1光学部材と、前記パルスレーザ光を前記集光レンズに入射させる第2光学部材と、有し、
前記第1光学部材および前記第2光学部材は、前記CWレーザ光の光軸と前記パルスレーザ光の光軸とが互いに重なるように配置される、
請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
ワークにレーザ光を照射してワークを加工するレーザ加工方法であって、
CWレーザ発振器から伝送されるCWレーザ光の前記ワークの表面における照射点の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器から伝送されるパルスレーザ光の前記ワークの表面における照射点の少なくとも一部とが互いに重なるように、前記CWレーザ光および前記パルスレーザ光を前記ワークに向けて出射することを含む、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置およびレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している。特に、コストに優れるIR(赤外)レーザを用いたレーザ加工装置の普及が進んでいる。一般にレーザ加工ではスパッタが発生し得る。スパッタとは、飛散する溶融金属の微粒子である。スパッタがワーク(被加工物)に付着すると、ワークの品質低下等につながり得る。
【0003】
例えば、電気配線部材に用いられることが多い銅系やアルミ系の材料は、鉄材に比べてIRレーザ光の吸収率が低い、熱伝導性が高い、融点が低いといった理由で、加工性が低い。また、銅系やアルミ系の材料は、溶融が始まると急激にレーザ光の吸収率が上昇しやすい。このため、沸点に達しやすくスパッタが発生しやすい。電気配線部材の周辺には電気部品が存在することが多い。このため、スパッタが発生すると電気部品のショート等の不具合が起こりやすい。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1には、主ビームと副ビームとをワークに照射して、ワークを溶接する技術が開示されている。主ビームは、赤外領域の波長のレーザ光で形成される。副ビームは、赤外領域以外の波長のレーザ光で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-112774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のレーザ加工技術では、IR以外の波長のレーザ光を使用している。IR以外の波長のレーザ光を発振する発振器は、一般的に高価である。このため、レーザ加工にかかるコストの上昇を招き得る。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、レーザ加工においてコストの上昇を抑えながらスパッタの発生を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、ワークにレーザ光を照射してワークを加工するレーザ加工装置である。このレーザ加工装置は、CWレーザ発振器およびパルスレーザ発振器が接続され、CWレーザ発振器から伝送されるCWレーザ光のワークの表面における照射点の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器から伝送されるパルスレーザ光のワークの表面における照射点の少なくとも一部とが互いに重なるように、CWレーザ光およびパルスレーザ光をワークに向けて出射する出射ヘッドを備える。
【0009】
本発明の別の態様は、ワークにレーザ光を照射してワークを加工するレーザ加工方法である。このレーザ加工方法は、CWレーザ発振器から伝送されるCWレーザ光のワークの表面における照射点の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器から伝送されるパルスレーザ光のワークの表面における照射点の少なくとも一部とが互いに重なるように、CWレーザ光およびパルスレーザ光をワークに向けて出射することを含む。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ加工においてコストの上昇を抑えながらスパッタの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係るレーザ加工装置の模式図である。
図2】出射ヘッド側から見たワークの模式図である。
図3】実施の形態2に係るレーザ加工装置の一部分の模式図である。
図4図4(A)は、焦点調整機構の模式図である。図4(B)は、出射ヘッド側から見たワークの模式図である。
図5】実施の形態3に係るレーザ加工装置の一部分の模式図である。
図6図6(A)および図6(B)は、照射点移動機構の模式図である。図6(C)は、出射ヘッド側から見たワークの模式図である。
図7】実施の形態4に係るレーザ加工装置の一部分の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るレーザ加工装置1の模式図である。図1では、制御部8を機能ブロックとして描いている。この機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0015】
レーザ加工装置1は、金属製の被加工物であるワークWにレーザ光を照射してワークWを加工する装置である。本実施の形態におけるワークWの加工は、ワークWの溶接である。なお、ワークWの加工は、穴あけや切断、表面処理等であってもよい。レーザ加工装置1は、第1伝送ファイバ2と、第2伝送ファイバ4と、出射ヘッド6と、制御部8とを備える。
【0016】
第1伝送ファイバ2は、外部のCWレーザ発振器10と出射ヘッド6とを接続する。第1伝送ファイバ2は、CWレーザ発振器10が連続発振するCWレーザ光L1を出射ヘッド6に伝送する。CWレーザ発振器10としては、YAGレーザ発振器やファイバレーザ発振器等の公知のレーザ発振器を用いることができる。CWレーザ光L1の波長範囲は、一例として赤外領域、例えば780nm~1600nmである。
【0017】
第2伝送ファイバ4は、外部のパルスレーザ発振器12と出射ヘッド6とを接続する。第2伝送ファイバ4は、パルスレーザ発振器12がパルス発振するパルスレーザ光L2を出射ヘッド6に伝送する。パルスレーザ発振器12としては、YAGレーザ発振器やファイバレーザ発振器等の公知のレーザ発振器を用いることができる。パルスレーザ光L2の波長範囲は、一例として赤外領域、例えば780nm~1600nmである。CWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2の波長範囲をともに赤外領域とすることで、レーザ加工装置1のコストの上昇を抑えることができる。また、各レーザ光の焦点位置の調整が容易になる。
【0018】
パルスレーザ光L2のパルス幅(時間幅)は、例えばナノ秒オーダー、ピコ秒オーダー、またはフェムト秒オーダーである。好ましくは、パルスレーザ光L2はナノ秒パルスレーザ光であり、パルス幅は半値幅で例えば10ns~100nsである。パルスレーザ発振器12の繰り返し周波数は、例えば10kHz~300kHzである。パルスレーザ光L2をナノ秒パルスレーザ光とすることで、ピコ秒パルスレーザ光やフェムト秒パルスレーザ光とする場合に比べて、レーザ加工装置1のコストの上昇を抑えることができる。
【0019】
出射ヘッド6は、CWレーザ発振器10から伝送されるCWレーザ光L1およびパルスレーザ発振器12から伝送されるパルスレーザ光L2をワークWに向けて出射する。出射ヘッド6は、筐体14と、第1コリメートレンズ16と、第2コリメートレンズ18と、第1光学部材としての第1折り曲げミラー20と、第2光学部材としての第2折り曲げミラー22と、集光レンズ24と、第1接続部26と、第2接続部28とを有する。
【0020】
筐体14は、一端側に開口を有する有底筒状であり、開口がワークW側を向くように配置される。筐体14の開口には、保護ガラス(図示せず)が取り付けられる。筐体14の側面には、第1接続部26および第2接続部28が連結される。第1接続部26には、第1伝送ファイバ2が接続される。第2接続部28には、第2伝送ファイバ4が接続される。第1接続部26の内部には、第1コリメートレンズ16が収容される。第2接続部28の内部には、第2コリメートレンズ18が収容される。
【0021】
筐体14の内部には、第1折り曲げミラー20、第2折り曲げミラー22および集光レンズ24が収容される。筐体14が延びる方向に対し直交する方向から見て、第1折り曲げミラー20は第1接続部26と重なるように配置され、第2折り曲げミラー22は第2接続部28と重なるように配置される。また、筐体14が延びる方向から見て、第1折り曲げミラー20および集光レンズ24は、互いに重なるように配置される。また、第2折り曲げミラー22および集光レンズ24は、互いに重なるように配置される。第1折り曲げミラー20と第2折り曲げミラー22とは、互いにずれるように配置される。一例として、第2折り曲げミラー22は、第1折り曲げミラー20よりも集光レンズ24側に配置される。
【0022】
第1伝送ファイバ2から出射ヘッド6に伝送されるCWレーザ光L1は、第1コリメートレンズ16に入射する。第1コリメートレンズ16は、入射したCWレーザ光L1を平行光に変換して、第1折り曲げミラー20に向けて出射する。第1折り曲げミラー20は、自身に照射されるCWレーザ光L1を集光レンズ24に向けて反射する。一例として、第1折り曲げミラー20は、CWレーザ光L1の光路を90°折り曲げる。
【0023】
第2伝送ファイバ4から出射ヘッド6に伝送されるパルスレーザ光L2は、第2コリメートレンズ18に入射する。第2コリメートレンズ18は、入射したパルスレーザ光L2を平行光に変換して、第2折り曲げミラー22に向けて出射する。第2折り曲げミラー22は、自身に照射されるパルスレーザ光L2を集光レンズ24に向けて反射する。一例として、第2折り曲げミラー22は、パルスレーザ光L2の光路を90°折り曲げる。
【0024】
第1折り曲げミラー20によって反射されたCWレーザ光L1と、第2折り曲げミラー22によって反射されたパルスレーザ光L2とは、集光レンズ24に入射する。第1光学部材としての第1折り曲げミラー20および第2光学部材としての第2折り曲げミラー22は、折り曲げ後のCWレーザ光L1の光軸O1と折り曲げ後のパルスレーザ光L2の光軸O2とが平行に延び、且つ互いにずれるように配置されている。本実施の形態では、光軸O1,O2が延びる方向から見て、第1折り曲げミラー20と第2折り曲げミラー22とは互いにずれて重なっていない。
【0025】
したがって、少なくとも一部のCWレーザ光L1は、第2折り曲げミラー22を透過することなく直に集光レンズ24に入射することができる。この結果、CWレーザ光L1が第2折り曲げミラー22を透過することによるエネルギーのロスを抑制することができる。なお、第1折り曲げミラー20が第2折り曲げミラー22よりも集光レンズ24側に配置されてもよい。この場合は、パルスレーザ光L2の少なくとも一部が第1折り曲げミラー20を透過することなく直に集光レンズ24に入射することができる。
【0026】
集光レンズ24は、入射したCWレーザ光L1を集光してワークWに向けて出射するとともに、パルスレーザ光L2を集光してワークWに向けて出射する。つまり、CWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2は、共通の集光レンズ24で集光される。このように、複数のレーザ光で1つの集光レンズ24を共用することで、出射ヘッド6の小型化を図ることができる。また、部品点数の削減により出射ヘッド6ひいてはレーザ加工装置1のコストの削減を図ることができる。
【0027】
集光レンズ24から出射されるCWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2は、保護ガラスを通過してワークWに照射される。図2は、出射ヘッド6側から見たワークWの模式図である。図2に示すように、出射ヘッド6は、ワークWの表面におけるCWレーザ光L1の照射点P1の少なくとも一部と、ワークWの表面におけるパルスレーザ光L2の照射点P2の少なくとも一部とが互いに重なるように、各レーザ光をワークWに照射する。つまり、CWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2は、ワークW上の同じ位置あるいは互いに近傍の位置に照射される。
【0028】
IRレーザ光にとって加工性の低い銅系やアルミ系の材料で構成されるワークWにIRレーザ光を照射する場合であっても、レーザ光のピーク出力を上げればワークWを溶融させることができる。また、銅系やアルミ系の材料は、溶融させればレーザ光の吸収率を高めることができる。またレーザ光の特性について、パルスレーザ光L2は、CWレーザ光L1に比べて各パルスが材料に与えるエネルギーは小さいもののCWレーザ光L1より高いピーク出力を有する。一方、CWレーザ光L1は、パルスレーザ光L2に比べてピーク出力は小さいものの材料に大きなエネルギーを与えることができる。
【0029】
したがって、ワークWの表面におけるCWレーザ光L1の照射点P1とパルスレーザ光L2の照射点P2とを重ねることで、以下の加工機序を実現することができる。つまり、高ピーク出力且つ低エネルギーのパルスレーザ光L2をワークWに照射することで、ワークWが溶融し、レーザ光の吸収率が高い部分が局所的に形成される。そして、当該部分に低ピーク出力且つ高エネルギーのCWレーザ光L1を照射することで、加工に必要なエネルギーが効率よくワークWに供給される。この結果、ワークWを加工することができる。
【0030】
このように、パルスレーザ光L2によってワークWがレーザ光を吸収しやすい状態を作り出し、CWレーザ光L1によってワークWの加工に必要なエネルギーを供給することで、いずれか一方のレーザ光のみを用いてワークWを加工する場合に比べて、ワークWが急に沸点に達してスパッタが発生することを抑制することができる。したがって、CWレーザ光L1およびパルスレーザ光L2をともにIRレーザ光としながら、ワークWの加工およびスパッタの発生抑制を実現できる。このため、従来技術のようにIR以外の波長のレーザ光を使用する場合に比べて、コストの上昇を抑えることができる。
【0031】
一例として、出射ヘッド6は図2に示すように、パルスレーザ光L2の照射点P2がCWレーザ光L1の照射点P1よりも小さく、且つ照射点P2の全体が照射点P1と重なるように、各レーザ光を出射する。これにより、パルスレーザ光L2がワークWに与えるエネルギーを局所に集中させて、ワークWを溶融させやすくすることができる。
【0032】
図1に示すように、レーザ加工装置1は、ワークWおよび出射ヘッド6を相対的に変位させる変位機構30を備える。本実施の形態の変位機構30は、ワークWが載置されるとともに、このワークWを移動させる加工テーブルの態様をとる。しかしながら、変位機構30の態様はこれに限定されず、出射ヘッド6を移動させる態様であってもよいし、ワークWおよび出射ヘッド6の両方を移動させる態様であってもよい。変位機構30によってワークWおよび出射ヘッド6が相対的に変位することで、各レーザ光の照射点P1,P2がワークWの表面上を移動する。これにより、移動前の照射点P1,P2において溶融した金属が冷却して固化する。この結果、ワークWが溶接される。
【0033】
制御部8は、CWレーザ発振器10、パルスレーザ発振器12および変位機構30の駆動を制御することができる。また、後述する他の実施の形態のように出射ヘッド6がコリメートレンズや折り曲げミラーの変位機構を備える場合、制御部8は、当該機構も制御することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーザ加工装置1は、CWレーザ光L1の照射点P1とパルスレーザ光L2の照射点P2とが重なるように各レーザ光をワークWに向けて出射する出射ヘッド6を備える。これにより、IRレーザ光のみを用いて、スパッタの発生を抑制しながらワークWを加工することができる。よって、レーザ加工においてコストの上昇を抑えながらスパッタの発生を抑制することができる。また、エネルギー効率のよいレーザ加工が可能となる。また、銅系やアルミ系の材料もIRレーザ光で容易に加工できるようになるため、レーザ加工の自由度を高めることができる。
【0035】
(実施の形態2)
本実施の形態は、出射ヘッド6が焦点位置の調整機能を備える点を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については説明を適宜省略する。図3は、実施の形態2に係るレーザ加工装置1の一部分の模式図である。図4(A)は、焦点調整機構32の模式図である。図4(B)は、出射ヘッド6側から見たワークWの模式図である。
【0036】
本実施の形態の出射ヘッド6は、焦点調整機構32を有する。焦点調整機構32は、CWレーザ光L1の焦点F1およびパルスレーザ光L2の焦点F2の少なくとも一方の位置をワークWの表面と交わる方向に変位させる。本実施の形態の焦点調整機構32は、CWレーザ光L1の焦点F1をワークWの表面と直交する方向、言い換えれば光軸O1の延びる方向に変位させる。
【0037】
一例としての焦点調整機構32は、モータ34と、スクリュー36と、支持腕38とを有する。モータ34の出力軸にスクリュー36の一端が接続される。スクリュー36は、CWレーザ光L1の光路に対し平行に延びる。スクリュー36には、支持腕38の一端が螺合される。支持腕38は、CWレーザ光L1の光路と交わる方向に突出して第1コリメートレンズ16を支持する。第1コリメートレンズ16は、CWレーザ光L1の光路上に配置される。焦点調整機構32は、制御部8によって制御される。
【0038】
焦点調整機構32は、いわゆる送りネジ機構により第1コリメートレンズ16を第1折り曲げミラー20に接近-離間する方向に移動させる。つまり、モータ34の駆動により、スクリュー36が回転する。スクリュー36が回転すると支持腕38が直線移動する。これにより、支持腕38に支持された第1コリメートレンズ16がCWレーザ光L1の光路に対し平行に移動する。
【0039】
第1コリメートレンズ16が移動することで、第1コリメートレンズ16を通過した平行光が拡大または集光される。そして、拡大または集光した平行光が集光レンズ24に入射することで、CWレーザ光L1の焦点F1がワークWの表面に対してずれる。この結果、図4(B)に示すように、ワークWの表面におけるCWレーザ光L1の照射点P1を拡大することができる。CWレーザ光L1の照射点P1を拡大することで、CWレーザ光L1によってワークWが局所的に加熱されることを抑制でき、スパッタの発生をより抑制することができる。また、パルスレーザ光L2の焦点F2とワークWの表面との位置関係は維持される。よって、パルスレーザ光L2の照射点P2の大きさは維持できる。
【0040】
焦点調整機構32は、第2コリメートレンズ18に対して設けられてもよいし、第1コリメートレンズ16および第2コリメートレンズ18の両方に対して設けられてもよい。第2コリメートレンズ18に焦点調整機構32を設け、且つパルスレーザ光L2の照射点P2の大きさを維持しつつCWレーザ光L1の照射点P1を拡大したい場合は、焦点調整機構32の駆動と変位機構30の駆動とを連動させることで上記要望を満たすことができる。つまり、第2コリメートレンズ18の移動に合わせてワークWを出射ヘッド6に接近-離間する方向に移動させる。これにより、パルスレーザ光L2の焦点F2とワークWの表面との位置関係を維持したまま、CWレーザ光L1の焦点F1をワークWの表面に対してずらすことができる。この結果、パルスレーザ光L2の照射点P2の大きさが維持されたままCWレーザ光L1の照射点P1が拡大される。
【0041】
CWレーザ光L1の照射点P1が相対的に大きく、パルスレーザ光L2の照射点P2が相対的に小さくなるように、焦点F1および焦点F2の位置を初期設定することは可能である。しかしながら、熱による各光学部材の変形やワークWの材質等を含むレーザ加工装置1の使用状況に応じて、焦点の位置、換言すれば照射点の大きさの調整が必要となる場合がある。これに対し、焦点調整機構32を設けることで、レーザ加工装置1の使用状況に応じた焦点調整を実現できる。なお、必要に応じてパルスレーザ光L2の焦点F2をワークWの表面に対してずらしてもよい。
【0042】
(実施の形態3)
本実施の形態は、出射ヘッド6が照射点の移動機能を備える点を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については説明を適宜省略する。図5は、実施の形態3に係るレーザ加工装置1の一部分の模式図である。図6(A)および図6(B)は、照射点移動機構40の模式図である。図6(C)は、出射ヘッド6側から見たワークWの模式図である。
【0043】
本実施の形態の出射ヘッド6は、照射点移動機構40を備える。照射点移動機構40は、CWレーザ光L1の照射点P1およびパルスレーザ光L2の照射点P2を相対的に変位させる。本実施の形態の照射点移動機構40は、パルスレーザ光L2の照射点P2を移動させることで、2つの照射点を相対的に変位させる。
【0044】
一例としての照射点移動機構40は、モータ42と、支持軸44とを有する。モータ42の出力軸に支持軸44の一端が接続される。支持軸44は、パルスレーザ光L2の光路に対し直交する方向に突出して第2折り曲げミラー22を支持する。第2折り曲げミラー22は、パルスレーザ光L2の光路上に配置される。照射点移動機構40は、制御部8によって制御される。
【0045】
モータ42の駆動により、支持軸44が回動する。これにより、支持軸44に支持された第2折り曲げミラー22の傾きが変化し、集光レンズ24へのパルスレーザ光L2の入射角度が変化する。この結果、図6(C)に示すように、ワークWの表面における照射点P2の位置をCWレーザ光L1の照射点P1に対して変位させることができる。なお、照射点移動機構40は、互いに交わる2軸で第2折り曲げミラー22を支持し、照射点P2をワークWの表面が広がる面内方向(図6(C)におけるA方向およびC方向)に移動可能であってもよい。
【0046】
一例として、照射点移動機構40は、ワークWの移動に対して、パルスレーザ光L2の照射点P2の少なくとも一部がCWレーザ光L1の照射点P1よりも先行するように照射点P2を移動させる。これにより、出射ヘッド6の直下に進入してくるワークWに対して、CWレーザ光L1より先にパルスレーザ光L2を照射することができる。よって、CWレーザ光L1の照射に先立ってワークWを溶融させることができ、CWレーザ光L1のエネルギーをより効率よくワークWに与えることができる。したがって、ワークWの加工効率の向上を図ることができる。
【0047】
また、照射点移動機構40は、ワークWの移動に対して、CWレーザ光L1の照射点P1の一部がパルスレーザ光L2の照射点P2よりも先行するように照射点P2を移動させてもよい。この場合は、CWレーザ光L1により予め加熱された部分にパルスレーザ光L2が照射されることになるため、ワークWをより確実に溶融させることができる。よって、スパッタの発生をより抑制することができる。
【0048】
なお、CWレーザ光L1の照射点P1の一部は、パルスレーザ光L2の照射点P2よりも後行させることが好ましい。CWレーザ光L1の照射点P1を相対的に大きく、パルスレーザ光L2の照射点P2を相対的に小さく設定することで、CWレーザ光L1の照射点P1の一部がパルスレーザ光L2の照射点P2より先行し、且つCWレーザ光L1の照射点P1の他の一部がパルスレーザ光L2の照射点P2よりも後行するレーザ光の照射態様を実現することは可能である。しかしながら、ワークWの材質等を含むレーザ加工装置1の使用状況に応じて、照射点の位置調整が必要となる場合がある。これに対し、照射点移動機構40を設けることで、レーザ加工装置1の使用状況に応じた照射点調整を実現できる。
【0049】
また、照射点移動機構40は、パルスレーザ光L2の照射点P2を揺動させてもよい。これにより、ワークWの表面に形成される溶融池の幅を大きくすることができる。また、溶融池内の溶融金属を掻き混ぜることができ、エネルギーが局所的に集中することを抑制できる。よって、スパッタの発生をより抑制することができる。なお、照射点移動機構40は、第1折り曲げミラー20に対して設けられてもよいし、第1折り曲げミラー20および第2折り曲げミラー22の両方に設けられてもよい。
【0050】
(実施の形態4)
本実施の形態は、第1折り曲げミラー20および第2折り曲げミラー22の配置を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については説明を適宜省略する。図7は、実施の形態4に係るレーザ加工装置1の一部分の模式図である。
【0051】
実施の形態1では、CWレーザ光L1の光軸O1とパルスレーザ光L2の光軸O2とが互いにずれるように、第1折り曲げミラー20および第2折り曲げミラー22が配置されている。これに対し、本実施の形態では、折り曲げ後のCWレーザ光L1の光軸O1と折り曲げ後のパルスレーザ光L2の光軸O2とが平行に延び且つ互いに重なるように、第1折り曲げミラー20および第2折り曲げミラー22が配置される。具体的には、光軸O1,O2が延びる方向から見て、第1折り曲げミラー20と第2折り曲げミラー22とは互いに重なっている。したがって、第1折り曲げミラー20で折り曲げられるCWレーザ光L1の光路が第2折り曲げミラー22と交わる。
【0052】
第2折り曲げミラー22は、パルスレーザ光L2を反射し、CWレーザ光L1を透過する部材で構成される。よって、第1折り曲げミラー20で反射されたCWレーザ光L1は、第2折り曲げミラー22を透過して集光レンズ24に向けて進行することができる。一例として、第2折り曲げミラー22は、CWレーザ光L1が属する波長領域の光を透過し、パルスレーザ光L2が属する波長領域の光を反射するダイクロイックミラーで構成される。なお、第1折り曲げミラー20が第2折り曲げミラー22よりも集光レンズ24側に配置される場合は、第1折り曲げミラー20がCWレーザ光L1を反射しパルスレーザ光L2を透過する部材で構成される。本実施の形態の構成によれば、ワークWの表面上における各レーザ光の照射点P1,P2を重ねやすくすることができる。また、第1折り曲げミラー20と第2折り曲げミラー22とが互いに重なることで、出射ヘッド6の小型化を図ることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0054】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[第1項目]
ワーク(W)にレーザ光(L1,L2)を照射してワーク(W)を加工するレーザ加工装置(1)であって、
CWレーザ発振器(10)およびパルスレーザ発振器(12)が接続され、CWレーザ発振器(10)から伝送されるCWレーザ光(L1)のワーク(W)の表面における照射点(P1)の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器(12)から伝送されるパルスレーザ光(L2)のワーク(W)の表面における照射点(P2)の少なくとも一部とが互いに重なるように、CWレーザ光(L1)およびパルスレーザ光(L2)をワーク(W)に向けて出射する出射ヘッド(6)を備える、
レーザ加工装置(1)。
[第2項目]
パルスレーザ光(L2)は、ナノ秒パルスレーザ光である、
第1項目に記載のレーザ加工装置(1)。
[第3項目]
出射ヘッド(6)は、CWレーザ光(L1)の焦点(F1)およびパルスレーザ光(L2)の焦点(F2)の少なくとも一方の位置をワーク(W)の表面と交わる方向に変位させる焦点調整機構(32)を有する、
第1項目または第2項目に記載のレーザ加工装置(1)。
[第4項目]
出射ヘッド(6)は、CWレーザ光(L1)の照射点(P1)およびパルスレーザ光(L2)の照射点(P2)を相対的に変位させる照射点移動機構(40)を有する、
第1項目乃至第3項目のいずれかに記載のレーザ加工装置(1)。
[第5項目]
出射ヘッド(6)は、CWレーザ光(L1)を集光するとともにパルスレーザ光(L2)を集光する共通の集光レンズ(24)を有する、
第1項目乃至第4項目のいずれかに記載のレーザ加工装置(1)。
[第6項目]
出射ヘッド(6)は、CWレーザ光(L1)を集光レンズ(24)に入射させる第1光学部材(20)と、パルスレーザ光(L2)を集光レンズ(24)に入射させる第2光学部材(22)と、有し、
第1光学部材(20)および第2光学部材(22)は、CWレーザ光(L1)の光軸(O1)とパルスレーザ光(L2)の光軸(O2)とが互いにずれるように配置される、
第5項目に記載のレーザ加工装置(1)。
[第7項目]
出射ヘッド(6)は、CWレーザ光(L1)を集光レンズ(24)に入射させる第1光学部材(20)と、パルスレーザ光(L2)を集光レンズ(24)に入射させる第2光学部材(22)と、有し、
第1光学部材(20)および第2光学部材(22)は、CWレーザ光(L1)の光軸(O1)とパルスレーザ光(L2)の光軸(O2)とが互いに重なるように配置される、
第5項目に記載のレーザ加工装置(1)。
[第8項目]
ワーク(W)にレーザ光(L1,L2)を照射してワーク(W)を加工するレーザ加工方法であって、
CWレーザ発振器(10)から伝送されるCWレーザ光(L1)のワーク(W)の表面における照射点(P1)の少なくとも一部と、パルスレーザ発振器(12)から伝送されるパルスレーザ光(L2)のワーク(W)の表面における照射点(P1)の少なくとも一部とが互いに重なるように、CWレーザ光(L1)およびパルスレーザ光(L2)をワーク(W)に向けて出射することを含む、
レーザ加工方法。
【符号の説明】
【0055】
1 レーザ加工装置、 6 出射ヘッド、 10 CWレーザ発振器、 12 パルスレーザ発振器、 20 第1折り曲げミラー、 22 第2折り曲げミラー、 24 集光レンズ、 32 焦点調整機構、 40 照射点移動機構、 F1,F2 焦点、 L1 CWレーザ光、 L2 パルスレーザ光、 O1,O2 光軸、 P1,P2 照射点、 W ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7