(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173791
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】難燃性断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/498 20120101AFI20231130BHJP
F16L 59/04 20060101ALI20231130BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20231130BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20231130BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20231130BHJP
B32B 5/06 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
D04H1/498
F16L59/04
H01M10/658
H01M10/651
D04H1/4209
B32B5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086283
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 崇
【テーマコード(参考)】
3H036
4F100
4L047
5H031
【Fターム(参考)】
3H036AA09
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5H031HH06
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】効果的に熱を遮断できる高い断熱性と、発火を防止するための難燃性とを併せ持ち、かつ高強度で経済性に優れた難燃性断熱材とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の難燃性断熱材は、酸素指数が26以上を有するシート状基材と、このシート状基材の両面に酸素指数が26以上の短繊維を積層してなるウエブとを機械的結合により不織布としたことを特徴とする。また、本発明の難燃性断熱材の製造方法は、酸素指数が26以上の短繊維を用いてウエブを形成する工程と、このウエブを酸素指数が26以上を有するシート状基材の両面に積層する工程と、ウエブとシート状基材とを機械交絡法により結合して不織布を形成する工程とを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素指数が26以上を有するシート状基材と、前記シート状基材の両面に酸素指数が26以上の短繊維を積層してなるウエブとを機械的結合により不織布としたことを特徴とする難燃性断熱材。
【請求項2】
引張強度が0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の難燃性断熱材。
【請求項3】
前記シート状基材が、ガラス繊維または線条体から形成される布状体またはフィルム、または、ポリエステルで形成される不織布であることを特徴とする請求項1記載の難燃性断熱材。
【請求項4】
前記短繊維が、耐炎繊維、シリカファイバー又はアルミナファイバーであることを特徴とする請求項1記載の難燃性断熱材。
【請求項5】
酸素指数が26以上の短繊維を用いてウエブを形成する工程と、
前記ウエブを、酸素指数が26以上を有するシート状基材の両面に積層する工程と、
前記ウエブと前記シート状基材とを機械交絡法により結合して不織布を形成する工程とを有することを特徴とする難燃性断熱材の製造方法。
【請求項6】
前記機械交絡法が、ニードルパンチ加工又はウォータージェットパンチ加工であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性断熱材の製造方法。
【請求項7】
収納部と、
前記収納部内に固定された複数の電池セルと
前記複数の電池セル間に設けられた難燃性断熱シートとを備え、
前記難燃性断熱シートが、請求項1から4までのいずれか1項に記載の難燃性断熱材を用いたことを特徴とする二次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性と断熱性とが要求される種々の用途に適用でき、例えば二次電池セルの発火を防ぐ断熱素材などとして好適な難燃性断熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱材は、住宅、車両、航空機、あるいは梱包材など、社会の幅広い分野で使われている。さらに、断熱性に加えて難燃性を有する断熱材は、発熱して発火する可能性のある機器の周囲に配置して他の機器への波及を抑えるなどの目的で、幅広い分野で使用されている。例えば、車両用のマット、天井材、ダッシュボード、高温作業用の防護衣料、手袋などや、自動車の二次電池パックのセル間に配置して他のセルの加熱や発火を防ぐなどの目的でも使用されている。
【0003】
例えば、厚さ10~100mmであり、ガラス繊維および炭素繊維に少量の低融点有機繊維を均一に混綿し、嵩高い綿状素材に対して熱風を垂直方向に貫通させることによって全体をシート化した車両用断熱マットが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、繊維とシリカエアロゲルとを含む複合層と当該複合層中で厚み方向に配置された樹脂支柱とを含む断熱材が開示されている。この発明は、圧縮応力に対し、断熱材の構造を保持して熱伝導率の悪化を抑制した断熱材を得ることを目的としており、この断熱材を車載用電池の電池セル間に配置することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、分散された気泡を有する熱可塑性ポリマーマトリックス、2重量%又はそれ以上で5重量%又はそれ以下で上記マトリックス中に分散された赤外線減衰剤、2.5~3.5重量%で上記マトリックス中に分散された臭素化難燃剤、並びに少なくとも0.1重量%で上記マトリックス中に分散されたエポキシ安定剤を含んでなるポリマーフォームが開示されている。この発明は、建築および建設用途への適用を主な目的としている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、線条体からなる布状体の片面又は両面にフィルムを積層してなる基材シートを備え、該基材シートの少なくとも片面に、難燃層と粘着剤層とが順に設けられ、難燃層の23℃における貯蔵弾性率が2.0×105Pa以上であり、粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が5.0×104Pa以上であり、酸素指数が26以上である難燃性粘着テープが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
さらに、第1の被覆層と、第2の被覆層と、被覆層間に配置された圧縮性かつ/または可撓性の中間材で少なくとも1つの耐熱繊維層を有する中間材とを備え、電池を熱絶縁するための多層熱絶縁材であって、繊維層がニードル不織布から形成され、かつ/または被覆層が曲げに弱く、かつ熱絶縁要素が全体として圧縮性および可撓性がある構成が開示されている。この発明は、リチウムイオン電池などの二次電池の熱絶縁用として用いることを目的としている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-186857号公報
【特許文献2】特開2017-215014号公報
【特許文献3】特許第5785159号公報
【特許文献4】特開2021-66891号公報
【特許文献5】特表2021-507483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の発明の断熱マットは不燃性と断熱性とを兼ね備えているが、鉄道車両用を目的としており、例えばリチウムイオン電池などの二次電池パックのセル間の断熱材として用いることは厚みの点から難しいという課題を有する。さらにこの発明では、無機繊維の織布またはフェルトからなる表面シートを厚さ10~100mmのマット本体に不燃性樹脂で貼り合わせる方法も開示されている。しかし、不燃性樹脂での貼り合わせでは十分な接着強度を保持することができないため、表面シートが容易にはがれてしまうという課題も有する。
【0010】
特許文献2の発明では、複合層の繊維はポリエチレンテレフタレートを用いることができ、また樹脂支柱はポリスチレンやポリプロピレンなどを用いることができるとしているので、難燃性については特に考慮されておらず、発火時に燃焼してしまうという課題を有する。
【0011】
特許文献3の発明は、発泡性ポリマー中に分散された難燃剤として臭素化難燃剤を用いているが、これは燃焼時に表面が炭化し燃焼の進行を防止するというメカニズムに基づいている。しかし、この材料は使用上限温度が100℃前後であるため、100℃以上の高温域では使用できないという課題がある。
【0012】
特許文献4は、基材シートと難燃層との積層構成を有し、全体として酸素指数が26以上とすることで難燃性を付与した難燃性粘着テープに係る発明である。この発明においては、断熱性を付与することについては開示も示唆もない。
【0013】
特許文献5に記載の発明は、中間層の両面に繊維層を設け、これらの繊維層のそれぞれの面上に被覆層を設けた構成としている。そして、中間層は耐熱金属層が好ましいとしている。繊維層はニードル不織布から形成されており、被覆層は耐熱金属層、ポリイミド箔などを用いることが記載されている。このような構成により、電池の熱絶縁を可能とした断熱要素となっているが、構造が複雑であるためコスト的に課題がある。
【0014】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、二次電池である複数のリチウムイオン電池セルをモジュール構造とした電池パックが搭載されている。リチウムイオン電池は化学的に不安定であるため、劣化や何らかの原因でショート等が発生した場合、その二次電池セルが発熱して熱暴走することがある。そうすると隣接する二次電池セルにも熱が伝わり、次々に熱暴走して大きな事故になる場合がある。これを防ぐためには、断熱性だけでなく、難燃性も有する断熱材が要求されている。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するもので、効果的に熱を遮断できる高い断熱性と、発火を防止するための難燃性とを併せ持ち、かつ高強度で経済性に優れた難燃性断熱材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明の難燃性断熱材は、酸素指数が26以上を有するシート状基材と、このシート状基材の両面に酸素指数が26以上の短繊維を積層してなるウエブとを機械的結合をして不織布としたことを特徴とする。
このような構成とすることにより、難燃性と断熱性とを兼ね備えた不織布からなる難燃性断熱材を得ることができる。
【0017】
この場合において、引張強度が0.5MPa以上であるようにすることが好ましい。引張強度が0.5MPa以上あれば、例えばリチウムイオン電池などの二次電池セルの周囲に配置する場合に、破れることなく安定な作業を行うことができる。引張強度は1MPa以上が好ましく、3MPa以上がさらに好ましい。引張強度が0.5MPaよりも小さいと、破れやすくなり安定な作業を行うことができない。引張強度は、機械的結合で繊維同士を交絡させる密度により変化するが、本発明における引張強度の上限値は不織布として通常用いられる引張強度を上限値とすればよく、おおよそ10MPa以下でよい。
【0018】
上記構成において、シート状基材が、ガラス繊維または線条体から形成される布状体(布状物ともいう。)またはフィルム、または、ポリエステルで形成される不織布であってもよい。これらの素材から作製されるシート状基材は、酸素指数が26以上であり、かつ、断熱性と柔軟性に優れるので難燃性断熱材の基材として使用するのに適している。
【0019】
上記構成において、短繊維が、耐炎繊維、シリカファイバー又はアルミナファイバーであってもよい。このような素材からなる短繊維は酸素指数が26以上あり、かつ、断熱性に優れるので難燃性断熱材の両面に積層する繊維層として使用するのに適している。
【0020】
つぎに本発明の難燃性断熱材の製造方法は、酸素指数が26以上の短繊維を用いてウエブを形成する工程と、このウエブを酸素指数が26以上を有するシート状基材の両面に積層する工程と、ウエブとシート状基材とを機械交絡法により結合して不織布を形成する工程とを有することを特徴とする。
この場合において、機械交絡法がニードルパンチ加工又はウォータージェットパンチ加工であってもよい。
【0021】
このような製造方法とすることにより、不織布を製造するときに接着剤等を全く使用しないので難燃性や断熱性を低下させることがなく再現性の良い難燃性断熱材を製造することができる。
【0022】
また、本発明の二次電池パックは、収納部と、この収納部内に固定された複数の電池セルと、複数の電池セル間に設けられた難燃性断熱シートとを備え、難燃性断熱シートが上記記載の難燃性断熱材を用いたことを特徴とする。
【0023】
この二次電池パックは、複数の電池セルのいずれかが何らかの原因で発熱し発火した場合であっても、それらを取り囲んで設けられている難燃性断熱シートが他の電池セルへ熱が伝わるのを防ぎ、発火を防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸素指数が26以上のシート状基材の両面に酸素指数が26以上の短繊維を積層した不織布を難燃性断熱材としているため、軽量、かつ、耐熱性、難燃性に優れ、しかも必要とする引張強度を確保でき、層間強度も大きくできるので、難燃性と断熱性とが要求される分野に使用した場合に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】本発明の難燃性断熱材を二次電池パックの断熱シートとして用いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は本発明の難燃性断熱材の一例を示す断面図である。本発明の難燃性断熱材10は、シート状基材11の両面に短繊維12が積層されてウエブを形成した後、これらを機械交絡法により結合した不織布としている。以下、シート状基材、短繊維及び製造方法並びに難燃性断熱材について詳述する。
(シート状基材)
【0027】
シート状基材11の形状としては、紙状物、不織布状物、フィルム状物、板状物あるいは布状物など、色々な形状のものを用いることができる。その厚みは、0.005~5mmの範囲が好ましい。さらに好ましい厚みは、0.015~1mmであり、特に好ましい厚みは0.05~0.5mmである。厚みが0.005mmよりも薄いと、取り扱い作業性が悪くなるので好ましくない。また、0.015mm以上とすれば、作業性が大きく改善できるのでより好ましい。さらに、0.05mm以上とすれば、作業性は非常に改善できるので特に好ましい。また、厚みが5mmより厚くなると、不織布を形成するための機械交絡法の作業速度を高めることがむつかしくなり、生産性が低下するので好ましくない。厚みを1mm以下とすると生産性を高めることができるのでより好ましい。また、厚みを0.5mm以下とした場合には、断熱性を確保しながら生産性をさらに高めることができるので特に好ましい。
なお、シート状基材11は、2種以上の材料を積層した積層シートとすることも可能である。例えば、紙状物と布状物とを積層したものであってもよい。
【0028】
シート状基材11に用いられる素材としては、例えばセロファン、セルロイド、合成紙、アート紙、再帰反射シート、ガラス繊維布状物、ポリエチレン布状物、ポリプロピレン布状物などを用いることができる。さらに、シート状基材11の素材として、弾性樹脂あるいは熱可塑性樹脂等を用いることもできる。
【0029】
上記弾性樹脂としては、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、オレフィン系エラストマー樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、ウレタン系エラストマー樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、ポリアミド系またはアラミド系エラストマー樹脂を用いることができる。
【0030】
上記熱可塑性樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレン系重合体、ポリプロピレン、プロピレンを主成分とするプロピレン・α - オレフィン共重合体等のプロピレン系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドあるいはアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0031】
これらの熱可塑性樹脂によりシート状基材11を製造する場合には、Tダイ押出し成形、キャスト成形、カレンダー成形あるいはインフレーション成形法によって形成することができる。また、得られたシートを二軸延伸して用いてもよい。これにより、シート状基材11として、腰や引張強度等を大きくできるので好ましい。
【0032】
上記布状物の場合には、例えば延伸された熱可塑性樹脂のモノフィラメント、テープ、ヤーン、スプリットヤーン、マルチフィラメントあるいはステープルファイバー等の熱可塑性樹脂材料からなる線条体を用いて公知の織布方法にて製造することができる。また線条体とは、シート状体を形成し得る長尺状物を広く意味し、リボン状体、紐状体、モノフィラメント、マルチフィラメント等を含むものであり、これらは必要に応じて撚りがかけられる。線条体の構造はいかなるものであってもよく、熱可塑性樹脂フィルムを所定の幅にスリットして一軸延伸することによってテープ状として用いることができ、また、断面が丸型、長球状、方形、多角形、その他異型体とすることができ、さらに、異種樹脂の混合物を線条に押出し成形し、その樹脂間を分裂せしめてフィブリル化したダンラインを用いることによってしなやかさを上げることもできる。また、一本を単独で織糸として使用することも可能であり、また、数本を束ねて用いることも可能である。
【0033】
線条体は平織、綾織、斜文織、畦織、二重織、模紗織等に織製することによって布状体とする。さらに、タテ編み、ヨコ編み、ラッセル編み、トリコット編み等に編込むことによって布状体とすることも可能である。織成するための織機としては、サーキュラー織機、スルーザー型織機、ウォータージェット型織機など公知の織機を用いることができる。
【0034】
多数の熱可塑性樹脂材料からなる線条体を直交するように並設することによって面状とし、それらの交点を接合した交差結合布(ソフ)であってもよい。また、その他上記の熱可塑性樹脂材料からなる線条体を用いて形成した編物や組物でもよい。
【0035】
交差結合布を製造するときに用いる線条体は、熱圧着の温度よりも融点の高い高融点樹脂成分を主体として構成されるが、熱圧着の温度よりも融点の低い低融点樹脂成分を含んでいてもよい。得られた布状体は、布状体のままでシート状基材11として使用することができるが、熱可塑性樹脂のフィルム層を積層した積層樹脂シートとすることもできる。
【0036】
本発明においてシート状基材11は酸素指数が26以上である。したがって、用いられる素材の酸素指数が26未満の場合には、難燃剤を添加することで酸素指数を26以上とする。また、酸素指数が26以上であっても、さらに難燃性を向上させるために難燃剤を添加してもよい。
【0037】
酸素指数を26以上とするために使用する難燃剤は、粘着剤の難燃剤として公知のものを用いることができる。例えば、ハロゲン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンの併用、リン系難燃剤、金属水酸基系難燃剤、ホスフィン酸金属塩系難燃剤、メラミンシアヌレートやトリアジン化合物等の含窒素化合物、あるいは、ポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
上記ハロゲン系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロデカン、ジブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の臭素系難燃剤;塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン等の塩素系難燃剤;トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステル;大八化学工業社製の商品名「CR-504L」、「CR-570」、DAIGUARD-540」等の含ハロゲン縮合リン酸エステル;等が挙げられる。
【0039】
上記リン系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-ナフチルジフェニルホスフェート、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート等の非ハロゲン系リン酸エステル;大八化学工業社製商品名「CR-733S」、「CR-741」、「PX-200」等の芳香族縮合リン酸エステル;大八化学工業社製商品名「DAIGUARD-580」、「DAIGUARD-610」「DAIGUARD-880」等の非ハロゲン縮合リン酸エステル等が挙げられる。
上記金属水酸基系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0040】
上記ホスフィン酸金属塩系難燃剤としては、例えば、クラリアント社製、商品名「ExolitOP1230」、「ExolitOP930」等が挙げられる。難燃剤は、例えばコンパウンド品(複合物、複合材料)については、単独で使用するよりも、作用機構が異なる難燃剤を併用することにより相乗効果が得られる。上記に例示したリン系難燃剤が好ましく、また加水分解を抑制し耐湿熱性に優れることから、メラミン等で被覆されたポリリン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0041】
本発明におけるシート状基材11は、上記材料および構成に限定されず、難燃性と断熱性をさらに向上させるために無機バルーンやシリカナノ粒子を含有させてもよい。
【0042】
上記無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーンおよびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。上記無機バルーンの平均粒子径は1μm以上、100μm以下が好ましく、3μm以上、70μm以下であることがより好ましい。
【0043】
また、上記シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカおよびエアロゲル等を使用することができる。シリカナノ粒子とは、球形あるいは球形に近い、平均粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーのシリカの粒子である。シリカナノ粒子の平均粒子径を1nm以上、100nm以下とすると、特に常温での温度領域において、断熱性をより一層向上させることができる。シリカナノ粒子の平均粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。また、シリカナノ粒子の平均粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の難燃性断熱材10は、使用目的に応じてその形状や大きさを異ならせてもよいが、それに用いるシート状基材11の厚みの比率は、難燃性断熱材10としての厚みの3~50%の比率とすることが好ましく、より好ましくは5~40%である。シート状基材11の比率を3%以上とすることで、難燃性断熱材10に適度な強度と剛性を付与し、また所望の形状に容易に成形することができる。また、シート状基材12が最大50%混合されていれば、十分な断熱性と難燃性を付与することができる。シート状基材12の厚みの比率を全体の50%より大きくすると、短繊維12の割合が相対的に減少するため、断熱性能と難燃性能が低下するため好ましくない。
(短繊維)
【0045】
本発明において、短繊維12は酸素指数が26以上である。本発明において、短繊維12としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維および耐炎繊維から選ばれた1種または2種以上の無機繊維または有機繊維を用いることができる。これらの耐熱性繊維は、従来公知のものや、公知の方法またはそれに準ずる方法に従って製造したものを全て使用することができる。
【0046】
シリカ繊維は、例えばSiO2、Na2O、K2O、Al2O3、CaO、MgO、Fe2O3、B2O3、TiO2、ZrO2などの組成からなるガラス繊維を酸洗いにより、SiO2とAl2O3以外の成分を、必要量除くことにより得られる繊維であり、ガラス繊維よりも耐熱性に優れている。シリカ繊維の組成はSiO2成分が85~99重量%であり、Al2O3成分が1~10重量%であり、SiO2及びAl2O3以外の成分が0~10重量%である。また、シリカ繊維の組成が、SiO2成分が90~98重量%であり、Al2O3成分が2~5重量%であり、SiO2及びAl2O3以外の成分が0~5重量%である場合は、本発明の難燃性断熱材10の耐炎性がさらに優れるため好ましい。また、シリカ繊維の繊維長は10~100mmであり、20~75mmがより好ましい。またシリカ繊維の繊度は0.5~10dtexが好ましく、1~5dtexが更に好ましい。変性シリカ繊維の繊維長や繊度が、このような範囲にあると、例えば乾式法不織布の製法を用いた場合、均一な繊維ウエブを得ることができるので、均一な構造の耐炎フィルター材を得ることができる。例えばBelchem社製の商品名「BELCOTEX」などを挙げることができる。
【0047】
アルミナ繊維としては、通常、繊維径が1~50μm、繊維長が0.5~500mmのものが使用されるが、復元力および形状保持性の観点からは、繊維径が3~8μm、繊維長が0.5~300mmの繊維が特に好ましい。例えば、デンカ社製の商品名「アルセン」などを挙げることができる。
【0048】
ここで、耐炎繊維は、主としてアクリル繊維を空気などの活性雰囲気中で200~500℃で焼成して製造されるもので、炭素繊維の前駆体である。例えば、Zoltex社製のOX、旭化成社製の商品名「ラスタン」、東邦テナックス社製の商品名「パイロメックス」などを挙げることができる。上記難燃性短繊維の中でも、低収縮性で加工性が良い点から、高温で溶融しない、耐炎繊維が好ましい。
【0049】
短繊維12としては長繊維または所望の繊維長に切断した短繊維が用いられる。それらの繊度は0.1~10dtexが好ましい。本発明における短繊維12の繊維長は、上記のように特に限定されず、加工性や断熱特性により適宜決定することができる。ただし、1~20mmが好ましい範囲である。
(難燃性断熱材の製造方法)
【0050】
本発明の難燃性断熱材10の製造方法は、酸素指数が26以上の短繊維12を用いてウエブを形成する工程と、このウエブを酸素指数が26以上を有するシート状基材11の両面に積層する工程と、ウエブとシート状基材とを機械交絡法により結合して不織布を形成する工程とを有する。なお、ウエブは公知のウエブ形成装置を用いて、従来のウエブ形成方法に従って作製することができる。
【0051】
この場合において、機械交絡法はニードルパンチ加工又はウォータージェットパンチ加工であってもよい。機械的交絡を施すことにより、短繊維12を交絡させて難燃性断熱材10の耐摩耗性、層間強度を向上させることができる。
【0052】
機械的交絡の交絡密度は、少なすぎると難燃性断熱材10の引張強度や層間強度が不十分となり、多すぎると嵩密度が低下し、難燃性断熱材10中の空気体積率が低下するために断熱効果が損なわれる。このため、50~300回/cm2、好ましくは80~200回/cm2とすることが好ましい。
【0053】
本発明において、ニードルパンチは、公知のニードルパンチ装置を用いて公知の方法に従って行うことができる。ニードルパンチの後、従来と同様に乾燥することにより、本発明の難燃性断熱材10を得ることができる。
【0054】
また、ウォータージェットパンチは、例えば孔径が0.05~2.0mmの噴射孔を、孔間隔0.3~10mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置であって、噴射圧力を90~250kg/cm2Gとして高圧水流を噴射させるウォータージェットパンチ装置を用いて、従来のウォータージェットパンチ方法に従って行うことができる。噴射孔とウエブとの距離は、1~10cm程度とするのがよい。ウォータージェットパンチの後、従来と同様に乾燥することにより、本発明の難燃性断熱材10を得ることができる。
(難燃性断熱材)
【0055】
本発明において、難燃性断熱材10の厚みは特に限定されるものではなく、その目的や用途に応じて適宜決定することができる。ただし、難燃性断熱材10の厚みは、経済性や加工のし易さ等の観点から100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1~50mm、さらに好ましくは0.3~30mmである。
【0056】
シート状基材11と短繊維12の合計の割合(重量比)は、基材/短繊維の合計=10/90~99/1、好ましくは20/80~97/3、さらに好ましくは25/75~95/5、特に好ましくは30/70~90/10であってもよい。このような割合であると耐熱性、難燃性に優れた難燃性断熱材10を得ることができる。
【0057】
本発明の難燃性断熱材10は、難燃性、断熱性、引張強度、層間強度及び加工性等の観点から、嵩密度が0.01~0.2g/cm3の範囲内が好ましく、さらに0.01~0.1g/cm3の範囲内であることがより好ましく、さらに好ましくは0.01~0.08g/cm3、特に好ましくは0.02~0.05g/cm3の範囲内であることが望ましい。このように、難燃性断熱材10の嵩密度を制御することによって、難燃性断熱材10中の空気(酸素)の割合が一定範囲内に制御されて、優れた難燃性、断熱性及び引張強度が付与される。
【0058】
また、本発明の難燃性断熱材10は、必要に応じて染料や顔料で着色されていてもよい。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を短繊維12として使用してもよく、各種方法で着色した短繊維12を用いてもよい。あるいは、難燃性断熱材10そのものを染料や顔料で着色してもよい。
【0059】
本発明の難燃性断熱材10は、短繊維12中のウエブ同士を化学的に接着しないため、500℃以上の耐熱性を付与することもできる。また、使用後には、難燃性断熱材10を回収し、必要に応じて洗浄等をした後、交絡した短繊維12を解きほぐすだけで容易にリサイクル使用することができる。
【0060】
なお、本発明の難燃性断熱材10には、その難燃性、引張強度や層間強度を更に向上させるために必要に応じて、アクリル樹脂エマルジョン、リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン系難燃剤または水和金属化合物などの公知の難燃剤を配合したアクリル樹脂エマルジョンあるいはアクリル樹脂溶液等をコーティング又は含浸させてもよい。
【0061】
本発明の難燃性断熱材10には、目的に応じて各種の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、有機リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤;帯電防止剤;ビスアミド系、ワックス系、有機金属塩系等の分散剤;アミド系、有機金属塩系等の滑剤;含臭素系有機系、リン酸系、メラミンシアヌレート系、三酸化アンチモン等の難燃剤;低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等の延伸助剤;有機顔料;無機顔料;無機充填剤;有機充填剤;金属イオン系等の無機抗菌剤、有機抗菌剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の難燃性断熱材10は、熱伝導率が0.20W/m・K以下であり、好ましくは0.15W/m・K以下であり、より好ましくは0.10W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.08W/m・K以下であり、特に好ましくは0.05W/m・K以下、最も好ましくは0.03W/m・Kである。上記熱伝導率が上記範囲にあれば、本発明の難燃性断熱材10は、高い断熱性を発現し得る。
(二次電池パック)
【0063】
図2は、本発明の難燃性断熱材を二次電池パックの断熱シートとして用いた状態を示す断面図である。本発明の二次電池パック15は、収納部18と、この収納部18内に固定された複数の電池セル16と、複数の電池セル16間に設けられた難燃性断熱シート17とを備えており、難燃性断熱シート17が本発明の難燃性断熱材を用いている。
【0064】
複数の電池セルのいずれかが何らかの原因で発熱し発火した場合であっても、それらを取り囲んで設けられている難燃性断熱シート17が他の電池セル15への熱伝導を防ぎ、発火を防止することができる。
(実施例)
【0065】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各特性値の測定方法は次の通りである。
(1)厚み:JIS L-1096に準拠して荷重を0.3kPaとして測定した。
(2)酸素指数:JIS K-7201に準拠して23℃にて測定した。
【0066】
(3)引張強度:JIS L-1096に準拠して縦方向の引張強度を測定した。加工性、耐久性、及び耐摩耗性の観点から0.5MPa以上の必要があり、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がさらに好ましい。
【0067】
(4)高温層間強度:JIS K―6854―3に準拠して60℃での層間強度を測定した。加工性及び耐摩耗性の観点から0.5N/50mm以上の必要があり、1N/50mm以上が好ましく、2N/50mm以上がさらに好ましい。
(5)難燃試験:UL―94 5V平板状試験片垂直燃焼試験に準拠した。
(6)熱伝導度:JIS A-1412-2に準拠して測定した。
まず、以下に説明する2種類のシート状基材を作製した。
【0068】
第1のシート状基材(以下、「シート状基材A」とよぶ。)の作製は以下のようにして行った。基層用として、ポリアミドA(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ナイロン6、グレード名1020J、相対粘度:3.5、融点224℃)を90重量部とし、難燃剤(三菱ケミカル社製、シアヌル酸メラミン)を10重量部添加した難燃性ポリアミド樹脂を用いた。また表層用として、ポリアミドB(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ナイロン6、グレード名2420、相対粘度:3.5、融点195℃)を用いた。これらのそれぞれを、シリンダー設定温度250℃で溶融混練してペレット化し、これを120℃の減圧乾燥機で乾燥してそれぞれのポリアミド樹脂ペレットを得た。
【0069】
つぎに、それらのポリアミド樹脂ペレットを単層Tダイ成形機にてシリンダー設定温度250℃で溶融させ、30℃のキャスティングロールで冷却しながら引き取りを行い、ポリアミドA/ポリアミドB/ポリアミドA(厚み比:10:80:10)構造で、厚み100μmの三層構造ポリアミドフィルムを作製した。
【0070】
得られたポリアミドフィルムを所定幅にスリットした後、温度130~150℃の熱板上で4倍に延伸後、さらに、熱風循環オーブン方式によって温度130~150℃の熱風循環式オーブン内で1.25倍に延伸した。得られた延伸線条体の繊度は800dtex、糸幅は3mmであった。
【0071】
得られた一軸延伸糸を、スルーザー織機を用いて打込み本数タテ8本/25.4mm、ヨコ8本/25.4mmの平織りに織成し、熱ロールを用いて一軸延伸糸間を熱圧着した。このようにして得られたシート状基材Aの酸素指数は40、厚みは0.25mmであった。
【0072】
第2のシート状基材(以下、「シート状基材B」とよぶ。)の作製は以下のようにして行った。塩化ビニル系樹脂(カネカ社製カネビニールS1001N)を40重量部、アジピン酸系ポリエステル系可塑剤(ADEKA社製アデカサイザーPN-446)を8重量部、バリウム/亜鉛系安定剤(ADEKA社製アデカスタブAC-255)を1.0質量部、エステル系滑材(川研ファインケミカルブ社製チルステアレート)を1.0質量部、さらに、シリカナノ粒子(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製Enova IC3100)を35重量部、ガラスバルーン(ポッターズ・バロティーニ社製Spherical 25P45)を15重量部を加えてリボンブレンダーにて混合した。得られた混合物を加圧ニーダーにより150℃にて10分間予備混練した後、得られた予備混練物を2本ロールでロール温度160℃にて10分間溶融混練した。次いで、得られた溶融混練物を用いて、厚み約50μmのシート状基材Bを形成した。得られたシート状基材Bの酸素指数は33であった。
(実施例1)
本実施例においては、主にシート状基材の材質による影響を調べた。
【0073】
第1の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材A」とよぶ。)は、以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Aを得た。得られた断熱材Aの物性測定値を表1に示した。
【0074】
第2の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材B」と呼ぶ。)は、以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aやシート状基材Bを用いるのではなく、市販の難燃不織布(東洋紡社製ハイムVH3501A、酸素指数29)を用いた。短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブを難燃不織布上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Aを得た。得られた断熱材Aの物性測定値を表1に示した。
【0075】
第3の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材C」とよぶ。)は、以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材B上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Cを得た。得られた断熱材Cの物性測定値を表1に示した。
【0076】
第1の比較例の断熱材(以下、「比較例A」と呼ぶ。)は、以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aやシート状基材Bを用いるのではなく、市販の一般不織布(東洋紡社製エクーレ3501A、酸素指数21)を用いた。短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブを一般不織布上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して比較例Aを得た。得られた比較例Aの物性測定値を表1に示した。
【0077】
第2の比較例の断熱材(以下、「比較例B」と呼ぶ。)は、以下のようにして作製した。この比較例Bにおいては、シート状基材を用いなかった。短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブを常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して比較例Bを得た。得られた比較例Bの物性測定値を表1に示した。
【0078】
表1からわかるように、本発明に係る断熱材A、BおよびCは、引張強度が1MPa以上であり、層間強度は2N/50mm以上を有し、かつ、熱伝導率が0.03W/m・Kで、難燃試験においては5VAをクリアーした。
【0079】
一方、比較例Aは引張強度が1MPa以上で、層間強度も2N/50mmで、熱伝導率は0.03W/m・Kであったが、燃焼試験では燃焼が生じた。比較例Bは、燃焼試験では5VAであり、熱伝導率は0.03W/m・Kであったが、引張強度と層間強度とはそれぞれ0.3MPaと0.3N/50mmとなり強度を確保できなかった。
(実施例2)
本実施例では、短繊維の素材の影響を調べた。
【0080】
第4の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材D」とよぶ。)は以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aを用いた。短繊維としてシリカ繊維(Belchem社製BELCOTEX110、酸素指数62)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Dを得た。得られた断熱材Dの物性測定値を表1に示した。
【0081】
第5の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材E」と呼ぶ。)は以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aを用いた。短繊維としてアルミナ繊維(デンカ社製B97N1、酸素指数60)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Eを得た。得られた断熱材Eの物性測定値を表1に示した。
【0082】
第3の比較例の断熱材(以下、「比較例C」と呼ぶ。)は、以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aを用いた。短繊維として一般ポリエステル繊維糸(2.8dtex×51mm)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材Aに積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して比較例Cを得た。得られた比較例Cの物性測定値を表1に示した。
【0083】
表1からわかるように、本発明に係る断熱材DおよびEは、引張強度が3.5MPa以上であり、層間強度は5.3N/50mm以上を有し、かつ、熱伝導率が0.03W/m・Kで、難燃試験においては5VAをクリアーした。一方、比較例Cでは、引張強度は3.8MPaで、層間強度も3.0N/50mmで、熱伝導率は0.03W/m・Kであったが、燃焼試験では燃焼が生じた。
(実施例3)
本実施例においては、機械交絡法のニードルパンチ法に代わりウォータージェットパンチ法を使った効果を確認した。
【0084】
第6の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材F」と呼ぶ。)は以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量150g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でウォータージェットパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Fを得た。得られた断熱材Fの物性測定値を表1に示した。
【0085】
本実施例では、ニードルパンチ法とウォータージェットパンチ法との比較であるので、表1の断熱材Aとを比較すればよい。断熱材Aと断熱材Fとを比較すると、引張強度と層間強度はウォータージェットパンチ法のほうがやや大きくなった。一方、難燃試験では5VAが得られ、熱伝導率についても同じ値が得られた。この結果からすると、ニードルパンチ法よりもウォータージェットパンチ法のほうが若干良好な特性が得られることが分かった。
(実施例4)
本実施例では、耐炎繊維の目付量の影響と短繊維なしの影響とを調べた。
【0086】
第7の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材G」とよぶ。)は以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量50g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Gを得た。得られた断熱材Gの物性測定値を表1に示した。
【0087】
第8の条件に係る難燃性断熱材(以下、「断熱材H」とよぶ。)は以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量1200g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、常法に従って針密度70本/cm2、針深さ12.0mmの条件でニードルパンチにより交絡して固着を行った後、常法に従って乾燥して断熱材Hを得た。得られた断熱材Hの物性測定値を表1に示した。
【0088】
第4の比較例の断熱材(以下、「比較例D」と呼ぶ。)は、以下のようにして作製した。シート状基材としては、シート状基材Aを用いた。比較例Dにおいては、短繊維を用いず、したがって機械交絡もせず、シート状基材Aのみの構造とした。得られた比較例Dの物性測定値を表1に示す。
【0089】
第5の比較例の断熱材(以下、「比較例E」とよぶ。)は、以下のようにして作製した。まず、短繊維として耐炎繊維(Zoltex社製OX、酸素指数55)を用いて、目付量1200g/m2のウエブを作製した。このウエブをシート状基材A上に積層し、ニードルパンチにより交絡する代わりに不燃接着剤(アルプス社製不燃専用ボンドAB-1BU)を使用し固着した。その後、常法に従って乾燥して比較例Eを得た。得られた比較例Eの物性測定値を表1に示した。
【0090】
表1からわかるように、断熱材A、GとHとを比較すると、引張強度、層間強度、熱伝導率及び難燃試験結果は目付量にはあまり影響しないことが分かった。一方、同じ目付量の断熱材Hと比較例Eとを比較すると、比較例Eは層間強度が0.3N/50mmとなり大きく低下することが分かった。この結果から、不燃接着剤等を使用するよりも機械交絡法により固着させることが好ましいことが分かった。さらに、比較例Dはシート状基材Aの両面に短繊維を設けていない構成であり、層間強度は非常に大きいが熱伝導率も大きくなり、かつ燃焼することが分かった。この結果から、短繊維でシート状基材の両面を覆うことが難燃性と断熱性の向上に大きな効果を奏することが認められた。
【0091】
【0092】
本発明の難燃性断熱材はシート状であるので、その目的や用途に合せて公知の方法等を適用して適宜な大きさ、形状等に加工することが容易である。したがって、種々の用途に用いることができる。
【0093】
特に、自動車の二次電池パックに使用した場合、二次電池セル、二次電池パックや二次電池モジュールから何らかの原因で発火した際に、火炎が延焼するのを防止することができるだけでなく、二次電池モジュールから外部への延焼も防ぐことができる。
【0094】
本発明の難燃性断熱材は、難燃性と断熱性とが求められる用途の全てに用いることができる。例えば、自動車、貨車等の車輌、航空機や船舶等の輸送用機器の内装材、土木・建築用の壁用部材、床用部材や天井用部材等の土木・建築用資材、冷凍コンテナ等の梱包材、寝装品、あるいは、吸音部材等に好適に使用することができる。
【0095】
その他、自動車の天井材、リアパッケージ、ドアトリム用途、自動車、電車や航空機などのダッシュボードのインシュレータ用途、各種の保温材、遮熱材、断熱材用途、消防用や高温作業用などの防護衣料、防護手袋、防護帽子などの用途、溶接現場の防護シート用途、防草材用途、スピーカー用振動板用途、電気カーペットの積層材用途等、幅広い用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の難燃性断熱材は、シート状であるので、柔軟で、必要な形状に打抜き加工が容易であり、かつ、難燃性と断熱性とを有するので遮熱や断熱性が要求される幅広い分野に有用である。
【符号の説明】
【0097】
10 難燃性断熱材
11 基材
12 短繊維
15 二次電池パック
16 電池セル
17 難燃性断熱シート
18 収納部