(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173811
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】全固体電池用正極並びに初放電処理済全固体電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231130BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20231130BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231130BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231130BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231130BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231130BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231130BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231130BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231130BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231130BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231130BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231130BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/131
H01M10/0562
H01M10/058
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/44
H01M10/48 P
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086308
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荻原 航
(72)【発明者】
【氏名】藤本 美咲
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ16
5H029EJ03
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ18
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF43
5H030FF44
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】全固体電池の抵抗増加をより抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する、正極活物質層を有する、全固体電池用正極が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、
硫化物固体電解質と、
フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する、正極活物質層を有する、全固体電池用正極。
【請求項2】
前記フッ化黒鉛のフッ化度が10%~70%である、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項3】
前記フッ化黒鉛の含有量が、前記正極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質が、硫黄を含む正極活物質及びNMC複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項5】
正極活物質層を有する正極と、
負極と、
前記正極および前記負極の間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、
を有する発電要素を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有し、
前記フッ化黒鉛の表面に、フッ化リチウムを含む被膜が存在する部分と、当該被膜が存在しない部分とが存在し、
前記被膜の少なくとも一部は、リチウムイオン伝導体と接触している、初放電処理済全固体電池。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体電池用正極を含む全固体電池に対して初放電処理を行う工程を含む、初放電処理済全固体電池の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の初放電処理済全固体電池を、リチウムの酸化還元電位を基準にして、2.5Vよりも高い電位又は2.0Vよりも低い電位で充電もしくは放電することを有する、初放電処理済全固体電池の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池用正極並びに初放電処理済全固体電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度及びエネルギー密度の大幅な向上が図れる。
【0006】
しかしながら、硫化物系の固体電解質を用いた全固体二次電池は、充放電を繰り返すと、固体電解質が分解されることにより、性能が著しく低下することが知られている。これに対し、例えば、特許文献1には、所定の作動電位を有する負極活物質を用いて負極活物質層を構成し、負極活物質層の電位が硫化物固体電解質材料の還元分解が生じる電位以下とならないように制御する技術が開示されている。これにより、負極活物質と接する硫化物固体電解質の還元分解を防止することで、充放電効率を維持できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載された技術によっても、充放電を繰り返すことによる電池の内部抵抗の上昇を十分に抑制することができず、さらなる改良が望まれていた。
【0009】
そこで本発明は、全固体電池の電気抵抗の上昇を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、全固体電池用正極に含まれる導電助剤としてフッ化黒鉛を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一形態に係る全固体電池用正極は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する、正極活物質層を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全固体電池において、電気抵抗の上昇を抑制しうる手段を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。
【
図3】
図3は、フッ化黒鉛の表面と、隣接する硫化物固体電解質の表面と、その間に配置されたフッ化リチウムと、を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する、正極活物質層を有する、全固体電池用正極である。
【0015】
また、本発明の他の一形態は、正極活物質層を有する正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、を有する発電要素を備え、前記正極活物質層は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有し、前記フッ化黒鉛の表面に、フッ化リチウムを含む被膜が存在する部分と、当該被膜が存在しない部分とが存在し、前記被膜の少なくとも一部は、リチウムイオン伝導体と接触している、初放電処理済全固体電池である。また、本発明の他の一形態は、前述の全固体電池用正極を含む全固体電池に対して初放電処理を行う工程を含む、初放電処理済全固体電池の製造方法である。
【0016】
以下、図面を参照しながら、上述した一形態に係る全固体電池用正極、及びこれを用いてなる全固体電池の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。なお、本明細書において全固体電池用正極は、正極活物質層に加えて、正極集電体を有していてもよい。
【0017】
図1は、本発明に係る全固体電池用正極を用いてなる全固体電池の一実施形態である扁平積層型の全固体電池の外観を表した斜視図である。
図2は、
図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、
図1及び
図2に示す扁平積層型の双極型でない全固体電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る全固体電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池及び双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0018】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25及び正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0019】
なお、本実施形態に係る全固体電池用正極を用いてなる全固体電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型の全固体電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0020】
また、
図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、
図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型の全固体電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の全固体電池用正極(以下、単に正極ともいう)を用いてなる積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層及び負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層及び負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図2に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、積層型電池10aには、拘束部材(加圧部材)によって発電要素21の積層方向に拘束圧力が付与されている(図示せず)。そのため、発電要素21の体積は、一定に保たれている。
【0022】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13及び正極活物質層15をそれぞれ負極及び正極として用いてもよい。
【0023】
負極集電体11’及び正極集電体11”は、各電極(正極及び負極)と導通される負極集電板(タブ)25及び正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27及び負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リード及び負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”及び負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0024】
以下、本発明に係る全固体電池用正極、及びこれを用いてなる全固体電池の主要な構成部材について説明する。
【0025】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0026】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0027】
また、導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0028】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0029】
[正極活物質層]
本形態に係る全固体電池用正極の正極活物質層は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する。本発明は、このような構成とすることにより、全固体電池の抵抗増加を抑制することができる。本発明が上記効果を奏する詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明の技術的範囲は下記メカニズムに何ら制限されない。
【0030】
本発明者らが検討したところ、従来技術では、全固体電池の放電の際に、全固体電池用正極の正極活物質層にて、導電助剤から、隣接する硫化物固体電解質へ電子が供給され、硫化物固体電解質の表層部が還元分解されることが判明した。これによって、生じた高抵抗物質が全固体電池の電気抵抗上昇の原因となる。一方、本発明の一形態の全固体電池用正極に係る正極活物質層では、初放電処理を施した際に、導電助剤であるフッ化黒鉛と、硫化物固体電解質とが接する箇所にて、フッ化黒鉛とリチウムイオンとが反応し、フッ化リチウムが生成する。生成したフッ化リチウムは、
図3に示すように、フッ化黒鉛12と、それに隣接する硫化物固体電解質16との間に被膜14を形成する。当該被膜14がフッ化黒鉛12と、それに隣接する硫化物固体電解質16との間に存在することにより、フッ化黒鉛12から硫化物固体電解質16への電子の供与が抑制され、硫化物固体電解質16の還元分解も抑制される。これにより、高抵抗物質の発生が抑制されるため、全固体電池の電気抵抗の上昇を防止できると考えられる。よって、本発明の他の一形態によると、後述する、初放電処理済全固体電池が提供される。なお、フッ化リチウムを生じる反応は、リチウムイオンが存在することにより起こるものであり、フッ化黒鉛の表面と、硫化物固体電解質以外のリチウムイオン伝導体の表面と、が接する箇所でも起こり得る。よって、例えば、当該反応はフッ化黒鉛と、リチウムイオン伝導体である正極活物質とが接している箇所でも起こり得、当該反応により生成したフッ化リチウムは、
図3に示すように、フッ化黒鉛12と、それに隣接する正極活物質18との間に被膜14を形成する。一方で、リチウムイオンが存在しない箇所、例えば、フッ化黒鉛の表面とリチウムイオン伝導体の表面とが接しない箇所では、フッ化リチウムを生じる反応がほとんど起こらない(あるいは、起こらない)。よって、フッ化黒鉛の表面は、フッ化リチウムを含む被膜が存在する箇所と、当該被膜が存在しない箇所と、の双方が存在し得る状態(換言すると、フッ化黒鉛の表面の一部のみにフッ化リチウムを含む被膜が存在する状態)であると考えられる。
【0031】
ここで、リチウムイオン伝導体とは、リチウムイオン(Li+)のイオン伝導性を有し、リチウムイオン伝導度が常温(25℃)で1×10-10S/cm以上である物質を意味する。より具体的には、リチウムイオン伝導体には後述する硫化物固体電解質及び正極活物質が該当し得る。
【0032】
(正極活物質)
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄を含む正極活物質及びNMC複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの正極活物質は高容量であるため、全固体電池の容量を向上させることができる。
【0033】
硫黄を含む正極活物質としては、有機硫黄化合物又は無機硫黄化合物の粒子又は薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物及び硫黄変性ポリアクリロニトリル、及びルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、又はチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄(S)、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、Li2S、MoS2、MoS3等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、FeS2及びMoS2が好ましく、S-カーボンコンポジット、TiS2及びFeS2がより好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理又は機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、又は、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0034】
NMC複合酸化物は、Li(Ni-Mn-Co)O2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたものである。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、Ni及びCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0035】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
【0036】
正極活物質は、場合によっては、2種以上が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。ただし、正極活物質の全量100質量%に占める硫黄を含む正極活物質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0037】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0038】
(硫化物固体電解質)
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」の記載は、Li2S及びP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0039】
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S-P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、ハロゲンを含有する硫化物固体電解質としては、アルジロダイト型固体電解質(Li6PS5X(Xは、Cl、Br又はIである))が挙げられ、これもまた好ましく用いられうる材料である。
【0040】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0041】
正極活物質層は、硫化物固体電解質に加えて、これ以外の固体電解質をさらに含んでもよい。硫化物固体電解質以外の固体電解質としては、例えば、酸化物固体電解質が挙げられる。酸化物固体電解質の具体例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等のNASICON型構造を有する化合物が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の具体例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
【0042】
場合によっては、2種以上の固体電解質が併用されてもよい。なお、上記以外の固体電解質が用いられてもよいことは勿論である。ただし、正極活物質層中に含まれる固体電解質の全量100質量%に占める硫化物固体電解質の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0043】
正極活物質層における硫化物固体電解質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、5~50質量%の範囲内であることがより好ましく、10~40質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
(フッ化黒鉛からなる導電助剤)
全固体電池用正極の正極活物質層は、フッ化黒鉛からなる導電助剤を含む。
【0045】
フッ化黒鉛は、市販のものを使用してもよいし、例えば、米国特許第6358649号明細書に記載の方法に従い自ら調製したものを使用しても構わない。例えば、フッ化黒鉛は、出発材料である炭素材料を、300℃~400℃の高温でフッ素ガスなどのフッ素材料と反応させることによって得られる。すなわち、炭素材料とフッ素材料とを、炭素原子(C)とフッ素原子(F)とをモル比1:zで反応させることにより、CとFとが1:zの割合で結合したフッ化炭素(CFz)の集合体を得ることができる。出発材料の炭素材料としては、特に限定されないが、石油コークス、黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0046】
フッ化黒鉛のフッ化度は、特に限定されるものではないが、70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。フッ化度が上記の範囲にあることにより、正極活物質層内でフッ化黒鉛が安定的に存在することができる。また、フッ化度は、特に限定されるものではないが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、55%以上であることが特に好ましい。フッ化度が上記の範囲にあることにより、全固体電池の電気抵抗の上昇をより効果的に抑制することができる。すなわち、フッ化黒鉛のフッ化度は、10%以上70%以下であることが好ましく、20%以上70%以下であることがより好ましく、40%以上65%以下であることがさらに好ましく、55%以上65%以下であることが特に好ましい。
【0047】
ここで、フッ化黒鉛のフッ化度は、フッ化黒鉛中のFのモル数/(Cのモル数+Fのモル数)×100(%)と定義される。また、フッ化度は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
正極活物質層におけるフッ化黒鉛の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、正極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上19質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上18質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以上17質量%以下であることが特に好ましく、15質量%以上16質量%以下であることが最も好ましい。正極活物質層におけるフッ化黒鉛の含有量の下限値を上記の値とすることにより、全固体電池の電気抵抗の上昇をより効果的に防止することができる。また、当該フッ化黒鉛の含有量の上限値を上記の値とすることにより、正極活物質層の容量を十分なものとすることができる。
【0049】
正極活物質層は、フッ化黒鉛からなる導電助剤以外の導電助剤(以下、その他の導電助剤と呼ぶ)を含み得る。その他の導電助剤としては、特に制限されないが、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金又は金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものもその他の導電助剤として使用できる。これらのその他の導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、及びカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、及びカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。その他の導電助剤は、フッ化黒鉛と併用する限りにおいては、1種を単独で使用しても、2種以上を併用しても構わない。
【0050】
ただし、全固体電池の電気抵抗の上昇をより効果的に防止する観点から、導電助剤の総質量100質量%に占めるフッ化黒鉛の質量割合は大きい方が好ましい。具体的には、当該質量割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%である(上限値:100質量%)。
【0051】
フッ化黒鉛からなる導電助剤及びその他の導電助剤の形状は、粒子状又は繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0052】
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0053】
正極活物質層の厚さは、目的とする積層型電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
[固体電解質層]
固体電解質層は、上述した正極活物質層と後述する負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。固体電解質層に含有される固体電解質としては、正極活物質層の欄において説明した硫化物固体電解質及び酸化物固体電解質を適宜採用することができる。中でも、固体電解質層は硫化物固体電解質を含有することが好ましい。なお、固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれる各成分の配合量について特に制限はないが、固体電解質層の全量100質量%に対して、バインダの配合量は好ましくは2~8質量%である。
【0055】
固体電解質層の厚みは、目的とする積層型電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。
【0056】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物及び金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb2O5、Li4Ti5O12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素及びスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵及び放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.4P0.6O3.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiO3が例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、リチウム金属のほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、特に制限されないが、例えば、Liと、In、Al、Si、Sn、Mg、Au、Ag及びZnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、リチウム金属、リチウム含有合金、ケイ素系負極活物質又はスズ系負極活物質を含むことが好ましく、リチウム金属又はリチウム含有合金を含むことが特に好ましい。このように、負極活物質がリチウム金属又はリチウム含有合金を含む場合、本形態に係る二次電池は、充電過程において負極集電体上にリチウム金属又はリチウム含有合金を析出させる、いわゆるリチウム析出型のものでありうる。この場合、充電過程において負極集電体上に析出するリチウム金属又はリチウム含有合金からなる層が、本形態に係る積層型電池の負極活物質層となる。したがって、充電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは大きくなり、放電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは小さくなる。完全放電時には負極活物質層は存在していなくともよいが、場合によってはある程度のリチウム金属又はリチウム含有合金からなる負極活物質層を完全放電時において配置しておいてもよい。
【0057】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。
【0058】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、負極活物質層に含まれる負極活物質が粒子状である場合、負極活物質層は、固体電解質や、導電助剤(被覆導電助剤である場合を含む)及び/又はバインダをさらに含んでもよく、これらの具体的な形態及び好ましい形態については、上述した正極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。
【0059】
負極活物質層の厚さ(リチウム析出型の二次電池においては、完全充電時の厚さ)は、目的とする積層型電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
[正極集電板及び負極集電板]
集電板を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0061】
[正極リード及び負極リード]
また、集電体と集電板との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極及び負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0062】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0063】
[初放電処理済全固体電池]
本発明の一形態は、正極活物質層を有する正極と、負極と、正極および負極の間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、を有する発電要素を備え、正極活物質層は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有し、フッ化黒鉛の表面に、フッ化リチウムを含む被膜が存在する部分と、当該被膜が存在しない部分とが存在し、被膜の少なくとも一部は、リチウムイオン伝導体と接触している、初放電処理済全固体電池である。初放電処理については後述するが、当該放電処理済全固体電池では、フッ化黒鉛の表面の一部にフッ化リチウムを含む被膜が存在し、当該被膜の少なくとも一部がリチウムイオン伝導体(硫化物固体電解質や正極活物質)と接触していることにより、正極活物質層内での硫化物固体電解質の分解を抑制し、全固体電池の電気抵抗の上昇を防止することができる。全固体電池の電気抵抗の上昇を防止するメカニズムの詳細は、正極活物質層の欄で述べた通りである。
【0064】
また、初放電処理済全固体電池では、前述のフッ化リチウムを含む被膜が存在する部分と、当該被膜が存在しない部分とが存在する。これは、初放電処理前の全固体電池において、フッ化黒鉛の表面の、リチウムイオン伝導体(硫化物固体電解質や正極活物質)と接触していない部分は、リチウムイオンが供給されず、フッ化リチウムが生じ得ないためである。例えば、フッ化黒鉛の粒子同士が接触している部分は、リチウムイオンが供給されないため、フッ化リチウムを生じる反応がほとんど起こらない(あるいは、起こらない)。フッ化黒鉛の粒子同士が接触している部分は被膜で覆われず、導電パスが良好に維持されるため、全固体電池の電気抵抗の上昇を十分に抑制することができる。
【0065】
初放電処理済全固体電池中のフッ化黒鉛の表面積の合計100%に占める、フッ化リチウムを含む被膜が存在しない表面の面積の割合(面積比率)は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。被膜で覆われない表面の面積の割合が上記の範囲であることで、フッ化黒鉛の導電助剤としての機能を十分に維持することができる。一方、上記面積の割合(面積比率)は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。被膜で覆われない箇所が上記の範囲であることで、全固体電池の電気抵抗の上昇をより十分に抑制することができる。
【0066】
なお、フッ化黒鉛の表面におけるフッ化リチウムを含む被膜が存在する部分及び当該被膜が存在しない部分は、実施例に記載の方法に基づき観察することで確認できる。当該方法と同等の観察結果が得られるのであれば、X線光電子分光法(XPS)や飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)などを用いることができる。
【0067】
[初放電処理済全固体電池の製造方法]
本発明のさらに他の一形態によると、上記の全固体電池用正極を含む全固体電池に対して初放電処理を行う工程を含む処方電処理済全固体電池の製造方法が提供される。当該製造方法により、初放電処理済全固体電池の欄で述べた、「フッ化黒鉛の表面に、フッ化リチウムを含む被膜が存在する部分と、当該被膜が存在しない部分とが存在し、被膜の少なくとも一部は、リチウムイオン伝導体と接触している」という状態を具現化することができる。
【0068】
一形態に係る初放電処理済全固体電池の製造方法は、上記の全固体電池用正極を含む全固体電池に対して初放電処理を行う工程(以下、工程2とも称する)の前工程として、本発明の一形態に係る全固体電池用正極を用いて全固体電池を組み立てる工程(以下、工程1とも称する)を含み得る。以下、各工程について順に説明する。
【0069】
(工程1)
工程1では、上述した本発明の一形態に係る全固体電池用正極を有する全固体電池を製造する。本発明の一形態に係る全固体電池は、正極活物質層を有する全固体電池用正極、固体電解質層、及び負極活物質層を有する負極が順次積層されてなるものであるが、各層は当業者が公知の知見を適宜参照することにより容易に製造することができるため、ここでは詳細な説明は省略する。ここで、正極活物質層は、正極活物質と、硫化物固体電解質と、フッ化黒鉛からなる導電助剤と、を含有する。
【0070】
(工程2)
工程2では、工程1で組み立てた全固体電池(初放電を行う前の全固体電池)に初放電処理を行う。初放電処理の方法は、特に制限されないが、セルに加圧部材を用いて積層方向に好ましくは5~100MPaの範囲内、より好ましくは5~50MPaの範囲内の拘束圧力を付与した状態で、好ましくは10~60℃の範囲内、より好ましくは20~40℃の範囲内の温度で一定電流にて放電を行うことが好ましい。また、Cレートは1/5[C]以下であることが好ましく、1/10[C]以下であることがより好ましい。Cレートの下限値は特に制限されないが、1/100[C]以上であることが好ましく、1/50[C]以上であることがより好ましい。なお、1Cとは、その電流値で1時間充電又は放電すると、ちょうどその電池が満充電又は満放電の状態になる電流値である。
【0071】
一実施形態に係る初放電処理済全固体電池の製造方法では、工程2の初放電処理の前に、初充電処理を含んでもよい。例えば、正極活物質層に含まれる正極活物質が硫黄を含む正極活物質である場合は、工程1の後に、工程2の初放電処理を施すことが可能である。しかしながら、正極活物質がNMC複合酸化物などの酸化物活物質である場合は、工程2の前に初充電処理を行うことが好ましい。初充電処理の条件は、初放電処理と同様の条件を採用することができる。
【0072】
一実施形態に係る放電処理済全固体電池は、初放電以降の充放電における正極の電位を、リチウムの酸化還元電位を基準にして、2.5Vよりも高い又は2.0Vよりも低い電位で充電もしくは放電することを有する使用方法に適している。当該正極の電位が上記の範囲に該当する場合に、正極活物質層内で硫化物固体電解質が分解され、全固体電池の電気抵抗上昇の原因となる高抵抗物質が発生しやすい。本発明は、硫化物固体電解質の分解を抑制することで高抵抗物質の発生を防ぎ、これにより全固体電池の電気抵抗上昇を防ぐものであるため、高抵抗物質が発生し得る上記の電位範囲での使用に適している。
【0073】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下において、グローブボックス内で用いた器具及び装置等は、事前に十分に乾燥処理を行った。
【0075】
(フッ化黒鉛の作製)
フッ化度が50%及び60%のフッ化黒鉛を、それぞれ米国特許第6358649号明細書に記載の方法に従い作製した。より具体的には、フッ素ガスと、黒鉛粉末とを、フッ化黒鉛のフッ化度が50%及び60%になるようにそれぞれ混合し、300℃で熱することにより、フッ化度が50%及び60%のフッ化黒鉛を得た。作製したフッ化黒鉛のフッ化度は、SEM-EDX(日本電子社製)を用いて半定量することにより確認した。
【0076】
<試験用セルの作製例>
[比較例1]
(正極材料の調製)
露点-70℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、0.500gの硫化物固体電解質(Ampcera社製、Li6PS5Cl)を100mlの超脱水エタノール(富士フイルム和光純薬社製)に加え、硫化物固体電解質が全て溶解するまで攪拌した。得られた硫化物固体電解質エタノール溶液に、1.00gのカーボン(関西熱化学社製、MSC-30)を加え、よく攪拌して溶液中にカーボンを十分に分散させた。このカーボン分散液が入った容器を真空装置に接続し、マグネティックスターラーにより当該分散液を撹拌しながら油回転ポンプにより1Pa以下に減圧した。減圧下でエタノールを揮発させることで得られた残存物を、さらに減圧下で180℃に加熱し、3時間熱処理を行うことにより、固体電解質含浸カーボンを得た。その後、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、0.750gの固体電解質含浸カーボンに2.50gの硫黄(Aldrich社製)を加え、メノウ製乳鉢で十分に混合した後、混合粉末を密閉耐圧オートクレーブ容器に入れて170℃で3時間加熱することより硫黄を溶融させて、硫黄を固体電解質含浸カーボンに含浸させた。これにより、硫黄/固体電解質/カーボン複合材(硫黄正極活物質)を得た。
【0077】
続いて、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、上記で得られた硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質(Ampcera社製、Li6PS5Cl)と、導電助剤(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、ケッチェンブラック(登録商標)EC600JD、一次粒子径34.0nm、KB)とを、48:15:2の質量比となり、かつ総質量が1.0gとなるように容量45mLのジルコニア製容器に入れ、さらに5mm径のジルコニアボール40gを当該容器に加え、遊星ボールミル(フリッチュ社製、Premium line P-7)により370rpmで6時間処理することにより、粉末状の正極材料(硫黄正極材料)を得た。
【0078】
(試験用セル(全固体電池)の作製)
電池の作製は、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。マコール製の円筒チューブ治具(管内径10mm、外径23mm、高さ20mm)の片側にSUS製の円筒凸型パンチ(10mm径)を挿し入れ、円筒チューブ治具の上側から硫化物固体電解質(Ampcera社製、Li6PS5Cl)80mgを入れた。その後、もう1つのSUS製円筒凸型パンチを挿し入れて固体電解質を挟み込み、油圧プレスを用いて75MPaの圧力で3分間プレスすることにより直径10mm、厚さ約0.6mmの固体電解質層を円筒チューブ治具中に形成した。次に、上側から挿し入れた円筒凸型パンチを一旦抜き取り、円筒チューブ内の固体電解質層の片側面に上記で調製した正極材料7.5mgを入れ、再び上側から円筒凸型パンチ(正極集電体を兼ねる)を挿し入れ、300MPaの圧力で3分間プレスすることで、直径10mm、厚さ約0.06mmの正極活物質層を固体電解質層の片側面に形成した。次に、下側の円筒凸型パンチ(負極集電体を兼ねる)を抜き取り、負極として直径8mmに打ち抜いたリチウム箔(ニラコ社製、厚さ0.20mm)と直径9mmに打ち抜いたインジウム箔(ニラコ社製、厚さ0.30mm)を重ねて、インジウム箔が固体電解質層の側に位置するように円筒チューブ治具の下側から入れて、再び円筒凸型パンチを挿し入れ、金属の筐体で75MPaの圧力で3分間拘束することでリチウム-インジウム負極を形成した。以上のようにして、負極集電体(パンチ)、リチウム-インジウム負極、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体(パンチ)がこの順に積層された比較例1の試験用セル(全固体電池)を作製した。
【0079】
[比較例2]
硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、導電助剤と、の質量比を45:15:5とした以外は比較例1と同様にして比較例2の試験用セルを作製した。
【0080】
[比較例3]
(正極材料の調製)
露点-70℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、NMC複合酸化物(NMC811、MTI Corporation製)と、硫化物固体電解質(Ampcera社製、Li6PS5Cl)と、導電助剤(VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製)とを、83:15:2の質量比となり、かつ総質量が1.0gとなるようにメノウ製乳鉢に加えて混合し、粉末状の正極材料(NMC正極材料)を得た。
【0081】
(試験用セル(全固体電池)の作製)
比較例1で調製した硫黄正極材料7.5mgの代わりに、上記で調製したNMC正極材料を10mg加えた以外は、比較例1と同様の方法で比較例3の試験用セルを作製した。
【0082】
[比較例4]
導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を用いた以外は比較例1と同様の方法で、比較例4の試験用セルを作製した。
【0083】
[実施例1]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度60%のフッ化黒鉛を用いた以外は比較例1と同様の方法で、実施例1の試験用セルを作製した。
【0084】
[実施例2]
硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、導電助剤(フッ化度60%のフッ化黒鉛)と、の質量比を45:15:5とした以外は実施例1と同様にして実施例2の試験用セルを作製した。
【0085】
[実施例3]
硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、導電助剤(フッ化度60%のフッ化黒鉛)と、の質量比を40:15:10とした以外は実施例1と同様にして実施例3の試験用セルを作製した。
【0086】
[実施例4]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度50%のフッ化黒鉛を用いた以外は実施例1と同様の方法で、実施例4の試験用セルを作製した。
【0087】
[実施例5]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度50%のフッ化黒鉛を用いた以外は実施例2と同様の方法で、実施例5の試験用セルを作製した。
【0088】
[実施例6]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度50%のフッ化黒鉛を用いた以外は実施例3と同様の方法で、実施例6の試験用セルを作製した。
【0089】
[実施例7]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度60%のフッ化黒鉛及びケッチェンブラック(登録商標)(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、EC600JD)を用い、硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、ケッチェンブラックと、フッ化度60%のフッ化黒鉛と、の質量比を48:15:1:1とした以外は比較例1と同様の方法で、実施例7の試験用セルを作製した。
【0090】
[実施例8]
硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、ケッチェンブラックと、フッ化度60%のフッ化黒鉛と、の質量比を45:15:1:4とした以外は実施例7と同様の方法で、実施例8の試験用セルを作製した。
【0091】
[実施例9]
硫黄正極活物質と、硫化物固体電解質と、ケッチェンブラックと、フッ化度60%のフッ化黒鉛と、の質量比を40:15:1:9とした以外は実施例7と同様の方法で、実施例9の試験用セルを作製した。
【0092】
[実施例10]
導電助剤として、上記で作製したフッ化度60%のフッ化黒鉛を用いた以外は比較例3と同様の方法で、実施例10の試験用セルを作製した。
【0093】
<直流抵抗値(DCR)の測定>
上記の各実施例及び各比較例で作製した試験用セルについて、下記の手法により直流抵抗値(DCR)を測定した。測定には、充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ-SD8)を用い、25℃に設定した定温恒温槽中で行った。
【0094】
(比較例1、2、4及び実施例1~9の直流抵抗値(DCR)の測定)
恒温槽内に上記で作製した各試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、0.2mA/cm2の電流密度で、セル電圧0.5Vまで定電流放電を行い、続いて0.2mA/cm2の電流密度で2.5V定電流定電圧(CCCV)充電を電流密度0.01mA/cm2の電流カットにて行った。上記の充放電サイクルを10回繰り返した後に得られた充放電容量の値と、正極に含まれる硫黄の質量とから硫黄質量あたりの容量値(mAh/g)を算出した。直流抵抗値は、算出した硫黄質量あたりの容量値100%に対して50%容量時の抵抗値として評価した。結果を表1に示す。なお、表1に示す直流抵抗値(DCR)は、比較例1における値を100としたときの相対値である。
【0095】
(比較例3及び実施例10の直流抵抗値(DCR)の測定)
恒温槽内に上記で作製した各試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、0.16mA/cm2の電流密度で、セル電圧4.2Vまで定電流充電を行った後、電流密度が0.016mA/cm2になるまで定電圧充電を行った。続いて0.16mA/cm2の電流密度で2.5Vまで定電流放電を行った。上記の充放電サイクルを2回繰り返した後に得られた充放電容量の値と、正極に含まれるNMCの質量とからNMC質量あたりの容量値(mAh/g)を算出した。直流抵抗値は、算出したNMC質量あたりの容量値100%に対して50%容量時の抵抗値として評価した。結果を表1に示す。なお、表1に示す直流抵抗値(DCR)は、比較例1における値を100としたときの相対値である。
【0096】
なお、表1では、硫黄正極活物質をS-CAM、NMC複合酸化物をNMC、硫化物固体電解質(Li6PS5Cl)をSE、フッ化度が60%のフッ化黒鉛をF-Gr(60%)、フッ化度が50%のフッ化黒鉛をF-Gr(50%)、ケッチェンブラックをKB、アセチレンブラックをABと表す。
【0097】
【0098】
表1に示す結果から、本発明によると、全固体電池の電気抵抗の増加を抑制できることがわかる。特に、フッ化黒鉛のフッ化率が60%である実施例では、よりいっそう抵抗を低く維持できる傾向がみられた。さらに、正極材料におけるフッ化黒鉛の含有率が高いほうが、より効果的に抵抗を低く維持できる傾向もみられた。
【0099】
<初放電処理済みの正極活物質層におけるフッ化リチウムの観察>
放電処理後の全固体電池用正極の正極活物質層におけるフッ化リチウムの配置について、下記の方法にて観察を行った。放電処理は、充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ-SD8)を用い、25℃に設定した定温恒温槽中で行った。
【0100】
(比較例1、2、4及び実施例1~9の初放電処理)
恒温槽内に比較例1、2、4及び実施例1~9で作製した各試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、0.2mA/cm2の電流密度で、セル電圧0.5Vまで定電流放電を行った。
【0101】
(比較例3及び実施例10の初放電処理)
恒温槽内に比較例3及び実施例10で作製した各試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、0.16mA/cm2の電流密度で、セル電圧4.2Vまで定電流充電を行った後、電流密度が0.016mA/cm2になるまで定電圧充電を行った。続いて0.16mA/cm2の電流密度でセル電圧2.5Vまで定電流放電を行った。
【0102】
(正極活物質層の断面観察)
初放電処理済みの各試験用セルを分解し、正極活物質層を取り出し、イオンミリング装置にてイオンミリング処理を施すことで正極活物質層の断面を調製した。続いて、各断面について走査型電子顕微鏡(日立製作所製社、SU6600)を用いて観察し、さらに当該観察結果についてエネルギー分散型元素分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ社製、INCA Energy)を用いて面分析を行った。面分析では、被膜(フッ化リチウム)の存在をフッ化黒鉛粒子表面と粒子内部のフッ素濃度差異で判断し、フッ化リチウムが存在する位置をマッピング処理した画像を観察することで、正極活物質層における被膜(フッ化リチウム)の配置情報を得た。
【0103】
上記の観察の結果、各実施例では、フッ化黒鉛の表面の一部にフッ化リチウムを含む被膜が存在する一方で、当該被膜が存在しない部分も存在した。さらに当該被膜の一部は、フッ化黒鉛の表面と、硫化物固体電解質の表面と、の双方と接するように配置されていた。一方、各比較例では導電助剤の表面にフッ化リチウムを含む被膜が観察されなかった。