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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173869
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】内燃機関およびピストン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/00 20060101AFI20231130BHJP
   F02F 3/10 20060101ALI20231130BHJP
   F02F 3/12 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F02B23/00 D
F02F3/10 B
F02F3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086387
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅昭
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA04
3G023AB01
3G023AC04
3G023AE06
(57)【要約】
【課題】ピストン外周側面とシリンダの内周面との間の燃焼室に繋がる隙間(クレビス)に入り込んだ燃料がシリンダ内において未燃燃料になることを抑制することが可能な内燃機関およびピストンを提供する。
【解決手段】この内燃機関100は、シリンダ1と、シリンダ1内で往復移動して燃焼室4を拡大縮小するピストン2と、を備え、ピストン2は、燃焼室4を区画する壁面であるピストン頂面20と、ピストン2の移動方向に延びるとともに、ピストン頂面20に接続されるピストン外周側面21とを含み、ピストン外周側面21には、燃焼室4内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室4内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部3が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内で往復移動して燃焼室を拡大縮小するピストンと、を備え、
前記ピストンは、前記燃焼室を区画する壁面であるピストン頂面と、前記ピストンの移動方向に延びるとともに、前記ピストン頂面に接続されるピストン外周側面とを含み、
前記ピストン外周側面には、前記燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、前記燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、前記移動方向に延びる酸素吸蔵部が設けられている、内燃機関。
【請求項2】
前記ピストン外周側面は、ピストンリングが取り付けられるピストンリング溝を有し、
前記酸素吸蔵部は、前記ピストンリングよりも前記燃焼室側の前記ピストン外周側面に設けられている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記ピストンリングは、前記移動方向に並ぶように前記燃焼室側から順番に配置される複数のピストンリングを含み、
前記酸素吸蔵部は、前記複数のピストンリングのうちの最も前記燃焼室側に配置されるトップリングよりも前記燃焼室側の前記ピストン外周側面に設けられている、請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記酸素吸蔵部は、前記ピストン外周側面の前記ピストンリング溝内にも設けられている、請求項2に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記酸素吸蔵部は、酸素吸蔵膜により形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
内燃機関の燃焼室を区画する壁面であるピストン頂面と、
ピストン本体の移動方向に延びるとともに、前記ピストン頂面に接続されるピストン外周側面と、を備え、
前記ピストン外周側面には、前記燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、前記燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、前記移動方向に延びる酸素吸蔵部が設けられている、ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関およびピストンの吸気装置に関し、特に、ピストンに酸素吸蔵部が設けられた内燃機関およびピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンに酸素吸蔵部が設けられた内燃機関が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、燃焼室側の面である頂面に酸素吸蔵材が設けられたピストンを備える内燃機関が開示されている。この酸素吸蔵材は、酸素の吸蔵機能および放出機能を有している。酸素吸蔵材は、吸気行程においてピストンの頂面に付着した燃料(HC)に対して酸素を放出することにより供給して、二酸化炭素および水蒸気に変化させている。その結果、排気行程において未燃燃料が燃焼室から排出されることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-108237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、一般的な内燃機関では、吸気行程において、ピストンの頂面だけではなく、ピストンの外周側面とシリンダの内周面との間の燃焼室に繋がる隙間(クレビス)にも燃料が入り込み付着する。このような場合、上記特許文献1に記載の内燃機関では、酸素吸蔵材が設けられたピストンの頂面側ではなく外周側面側にクレビスがあるため、クレビスに入り込んだ燃料に対して十分に酸素を供給することができず、シリンダ内において未燃燃料になりやすい(爆発行程後にHCが残りやすい)という問題点がある。なお、一般的に、クレビスは、ピストンの外周側面とシリンダの内周面とに近接する空間であるため、燃焼室内よりも低い温度になりやすく、爆発行程において特に火炎が伝播しにくい箇所である。このため、クレビスは、シリンダ内において特に未燃燃料が発生しやすい箇所である。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ピストン外周側面とシリンダの内周面との間の燃焼室に繋がる隙間(クレビス)に入り込んだ燃料がシリンダ内において未燃燃料になることを抑制することが可能な内燃機関およびピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面における内燃機関は、シリンダと、シリンダ内で往復移動して燃焼室を拡大縮小するピストンと、を備え、ピストンは、燃焼室を区画する壁面であるピストン頂面と、ピストンの移動方向に延びるとともに、ピストン頂面に接続されるピストン外周側面とを含み、ピストン外周側面には、燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部が設けられている。
【0008】
この発明の第1の局面による内燃機関では、上記のように、ピストンの移動方向に延びるとともにピストン頂面に接続されるピストン外周側面に、燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部を設ける。これによって、クレビス(ピストン外周側面とシリンダの内周面との間の燃焼室に繋がる隙間)に沿って延びるピストン外周側面に、酸素吸蔵部を配置することができる。このため、従来のピストン頂面の酸素吸蔵部と比較して、クレビスに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面の酸素吸蔵部から効果的に酸素を供給することができる。その結果、爆発行程において特に火炎が伝播しにくい箇所であるクレビスに入り込んだ燃料が、シリンダ内において未燃燃料になることを抑制することができる。したがって、排気行程において未燃燃料が燃焼室から排出されることをより効果的に抑制できるため、エミッションの改善を図ることができる。
【0009】
上記一の局面による内燃機関において、好ましくは、ピストン外周側面は、ピストンリングが取り付けられるピストンリング溝を有し、酸素吸蔵部は、ピストンリングよりも燃焼室側のピストン外周側面に設けられている。
【0010】
このように構成すれば、酸素吸蔵部を、ピストン外周側面の中でも特に燃料が付着しやすい箇所であるピストンリングよりも燃焼室側のピストン外周側面に設けることができる。このため、クレビスに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面の酸素吸蔵部からより効果的に酸素を供給することができる。その結果、クレビスに入り込んだ燃料がシリンダ内において未燃燃料になることをより抑制することができる。
【0011】
この場合、好ましくは、ピストンリングは、移動方向に並ぶように燃焼室側から順番に配置される複数のピストンリングを含み、酸素吸蔵部は、複数のピストンリングのうちの最も燃焼室側に配置されるトップリングよりも燃焼室側のピストン外周側面に設けられている。
【0012】
このように構成すれば、酸素吸蔵部を、クレビスの底面を形成するトップリングよりも燃焼室側のピストン外周側面に設けることができる。このため、クレビスに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面の酸素吸蔵部から一層効果的に酸素を供給することができる。その結果、クレビスに入り込んだ燃料がシリンダ内において未燃燃料になることを一層抑制することができる。
【0013】
上記ピストン外周側面がピストンリング溝を有する構成において、好ましくは、酸素吸蔵部は、ピストン外周側面のピストンリング溝内にも設けられている。
【0014】
このように構成すれば、クレビスの奥深くであるピストンリング溝側に燃料が入り込んだとしても、ピストンリング溝内に設けられた酸素吸蔵部から、酸素を供給することができる。その結果、ピストンリング溝側に入り込んだ燃料がシリンダ内において未燃燃料になることを抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による内燃機関において、好ましくは、酸素吸蔵部は、酸素吸蔵膜により形成されている。
【0016】
このように構成すれば、酸素吸蔵部が板状などの部材である場合と比較して、酸素吸蔵部が酸素吸蔵膜であることによって、ピストンリング溝などのピストン外周側面の凹凸部分に対して、容易に酸素吸蔵膜を形成することができる。
【0017】
この発明の第2の局面におけるピストンは、内燃機関の燃焼室を区画する壁面であるピストン頂面と、ピストン本体の移動方向に延びるとともに、ピストン頂面に接続されるピストン外周側面と、を備え、ピストン外周側面には、燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部が設けられている。
【0018】
この発明の第2の局面によるピストンでは、上記のように、ピストンの移動方向に延びるとともにピストン頂面に接続されるピストン外周側面に、燃焼室内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部を設ける。これによって、クレビス(ピストン外周側面とシリンダの内周面との間の燃焼室に繋がる隙間)に沿って延びるピストン外周側面に、酸素吸蔵部を配置することができる。このため、従来のピストン頂面の酸素吸蔵部と比較して、クレビスに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面の酸素吸蔵部から効果的に酸素を供給することができる。その結果、爆発行程において特に火炎が伝播しにくい箇所であるクレビスに入り込んだ燃料が、シリンダ内において未燃燃料になることを抑制することが可能なピストンを提供することができる。したがって、排気行程において未燃燃料が燃焼室から排出されることをより効果的に抑制できるため、エミッションの改善を図ることができる。
【0019】
上記第1の局面による内燃機関および上記第2の局面によるピストンにおいて、以下のような構成も考えられる。
【0020】
(付記項1)
酸素吸蔵部は、ピストン外周側面の全周に形成されている。
【0021】
このように構成すれば、ピストン外周側面の全周において、クレビスに入り込んだ燃料に対して、酸素吸蔵部から酸素を供給することができる。
【0022】
(付記項2)
また、酸素吸蔵部は、ピストン外周側面に加えて、ピストン頂面にも設けられており、ピストン外周側面の酸素吸蔵部の厚みは、ピストン頂面の酸素吸蔵部の厚みよりも大きい。
【0023】
このように構成すれば、ピストン頂面側よりも特に消炎(爆発行程において点火装置側から拡がる火炎が伝播することなく消えること)が発生しやすいピストン外周側面側の酸素吸蔵部の厚みを大きくすることができる。したがって、ピストン頂面側よりも未燃燃料が発生しやすいピストン外周側面側(クレビス側)に、酸素吸蔵部から酸素を効果的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態による酸素吸蔵部が設けられたピストンを備える内燃機関の概略的な構成を示した断面図である。
図2図1のA部の拡大図である。
図3】実施形態による酸素吸蔵部の酸素吸蔵能について説明するための図であり、内燃機関の吸気行程を示した図である。
図4】実施形態による酸素吸蔵部の酸素吸蔵能について説明するための図であり、内燃機関の圧縮行程を示した図である。
図5】実施形態による酸素吸蔵部の酸素吸蔵能について説明するための図であり、内燃機関の爆発行程の点火時の状態を示した図である。
図6】実施形態による酸素吸蔵部の酸素吸蔵能について説明するための図であり、内燃機関の爆発行程の膨張時の状態を示した図である。
図7】実施形態による酸素吸蔵部の酸素吸蔵能について説明するための図であり、内燃機関の排気行程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
[実施形態]
図1図7を参照して、実施形態によるピストン2を備える内燃機関100について説明する。
【0027】
(内燃機関の構成)
図1および図2に示す内燃機関100は、吸気行程、圧縮行程、爆発行程(点火・膨張)および排気行程を順に繰り返す4サイクルの内燃機関である。内燃機関100は、シリンダブロック1aおよびシリンダヘッド1bを含むシリンダ1と、ピストン2とを備えている。ピストン2の外表面には、酸素吸蔵部3が設けられている。
【0028】
酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有している。すなわち、酸素吸蔵部3は、燃焼室4内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室4内に酸素を放出する機能を有している。酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気(周囲)において酸素が比較的多い場合に、酸素を吸蔵する。酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が比較的少ない場合に、酸素を放出する。酸素吸蔵部3の詳細については後述する。
【0029】
シリンダ1には、燃料噴射装置10と、点火装置11と、吸気バルブ12aと、排気バルブ12bとが設けられている。燃料噴射装置10、点火装置11、吸気バルブ12aおよび排気バルブ12bは、図示しないECU(Engine Control Unit)によって駆動タイミングが調整される。
【0030】
燃料噴射装置10は、燃焼室4内に燃料を直接噴射するように構成されている。すなわち、内燃機関100は、筒内噴射式(直噴式)の内燃機関である。燃料噴射装置10は、吸気行程において、燃焼室4に吸入される空気に対し、燃料を噴射する。これにより、燃焼室4で混合気が生成される。
【0031】
吸気バルブ12aは、開閉可能に構成されており、吸気行程において空気を吸気通路13aから燃焼室4に吸入する間において開状態で保持される。排気バルブ12bは、開閉可能に構成されており、排気行程において排気ガスを燃焼室4から排気通路13bに排出する間において開状態で保持される。
【0032】
ここで、各図では、ピストン2の移動方向をZ方向により示す。Z方向のうちピストン2から燃焼室4を向く方向をZ1方向により示し、その反対方向をZ2方向により示す。Z方向は、ピストン2の中心軸線αが延びる方向でもある。
【0033】
また、図1では、中心軸線αを中心とするピストン2の周方向をR方向により示す。
【0034】
(ピストンの構成)
ピストン2は、シリンダ1内でZ方向に往復移動して燃焼室4を拡大縮小するように構成されている。ピストン2は、円柱形状に形成されている。一例ではあるが、ピストン2は、アルミニウム合金により形成されている。
【0035】
ピストン2は、ピストン頂面20と、ピストン外周側面21と、ピストンリング22とを含んでいる。
【0036】
ピストン頂面20は、燃焼室4を区画する壁面である。すなわち、ピストン頂面20は、ピストン2のZ1方向の端面であり、概ね、Z方向に交差する方向に延びている。ピストン頂面20は、平面視で(Z1方向側から見て)、円形状に形成されている。
【0037】
ピストン外周側面21は、ピストン2(ピストン本体)の移動方向(Z方向)に延びるとともに、ピストン頂面20に接続されている。ピストン外周側面21のZ1方向の端部とピストン頂面20の外縁部とが接続されている。ピストン外周側面21は、ピストンリング22が取り付けられるピストンリング溝23(231、232および233)を有している。
【0038】
ピストンリング22は、移動方向(Z方向)に並ぶように燃焼室4側から順番に配置される複数のピストンリング22を含んでいる。詳細には、ピストンリング22は、トップリング221と、セカンドリング222と、オイルリング223とを含んでいる。
【0039】
トップリング221は、複数のピストンリング22のうちの最も燃焼室4側に配置されたピストンリング22である。セカンドリング222は、トップリング221よりもZ2方向側に配置されている。オイルリング223は、セカンドリング222よりもZ2方向側に配置されている。オイルリング223は、一対のリング部材と、一対のリング部材の間に配置されるスペーサ部材とにより構成されている。
【0040】
ピストンリング溝23は、ピストン2の周方向(R方向)に延びる円環状の凹状溝である。ピストンリング溝23は、トップリング221が取り付けられるピストンリング溝231と、セカンドリング222が取り付けられるピストンリング溝232と、オイルリング223が取り付けられるピストンリング溝233とを含んでいる。
【0041】
ピストンリング溝231の溝幅(Z方向の大きさ)は、トップリング221のZ方向の大きさよりも大きい。したがって、ピストンリング溝231は、トップリング221が取り付けられた状態でピストン2の周方向(R方向)に延びる円環状の底面231aの一部分のみがトップリング221により覆われるとともに、トップリング221に覆われない底面231aの一部分が露出するように構成されている。
【0042】
(酸素吸蔵部の構成)
一例ではあるが、酸素吸蔵部3は、CeO2-ZrO2(セリアジルコニア)により形成されている。酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵膜により形成されている。すなわち、酸素吸蔵部3は、ピストン2の外表面に膜状に形成されている。
【0043】
酸素吸蔵部を、CeO2-ZrO2とは異なる材料により形成してもよい。一例ではあるが、酸素吸蔵部は、希土類オキシ硫酸塩や、セシウムとアルミニウムの化合物、セシウムとチタンの化合物、セシウムとシリコンの化合物など、酸素吸蔵能(OSC)を有する材料であればいかなる材料からも形成することが可能である。また、酸素吸蔵部は、プラチナや、ロジウム、パラジウムなどの貴金属を含んでいてもよい。
【0044】
酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が比較的多い場合には、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気から酸素を吸蔵するように構成されている。酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が比較的多い場合とは、空気を燃焼室4に吸い込む吸気行程や、吸気バルブ12aおよび排気バルブ12bが閉じられた状態で燃焼室4が縮小して燃焼室4内の酸素濃度が上がる圧縮行程などである。
【0045】
一方、酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が比較的少ない場合には、周辺雰囲気に酸素を放出するように構成されている。酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が比較的少ない場合とは、吸気バルブ12aおよび排気バルブ12bが閉じられた状態での燃焼により酸素を消費するとともに、燃焼室4が拡大して燃焼室4内の酸素濃度が下がる爆発行程などである。酸素吸蔵部3は、酸素との化学反応の結果により、酸素の吸蔵および放出を行う。
【0046】
ピストン外周側面21には、移動方向(Z方向)に延びる酸素吸蔵部3が設けられている。詳細には、酸素吸蔵部3は、ピストンリング22よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けられている。より詳細には、酸素吸蔵部3は、複数のピストンリング22のうちの最も燃焼室4側に配置されるトップリング221よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けられている。酸素吸蔵部3は、ピストン外周側面21の全周に形成されている。すなわち、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3は、ピストン2の周方向(R方向)に延びる円環状に形成されている。
【0047】
酸素吸蔵部3が形成されるピストン外周側面21は、いわゆるクレビス4aに向かい合う面でもある。クレビス4aとは、シリンダ1の内周面1cと、ピストン外周側面21との間の環状の隙間である。詳細には、クレビス4aとは、シリンダ1の内周面1cと、ピストン外周側面21と、トップリング221の上面221aと、トップリング221が取り付けられるピストンリング溝231とにより囲われる(覆われる)シリンダ1内の一部の空間である。クレビス4aのZ1方向の端部は燃焼室4に繋がっている。
【0048】
ここで、一般的に、クレビスは、シリンダの内周面およびピストン外周側面に近接する空間部分であるため、燃焼室内と比較して、温度が低くなりやすい。このため、一般的に、クレビスでは、爆発行程において、点火装置側から拡がる火炎が消炎(クエンチ)しやすく、火炎が伝わりにくい。したがって、一般的に、酸素吸蔵部を備えない内燃機関のクレビスには、爆発行程後において、未燃燃料(未燃ガス)が残りやすい。クレビスに未燃燃料(未燃ガス)が残った場合、排気行程において、排気通路に未燃燃料(未燃ガス)が排出されて排気性能(エミッション)が悪化することになり好ましくない。一例ではあるが、未燃燃料は、主として炭化水素(HC)を含んでいる。
【0049】
また、一般的に、酸素吸蔵部を備えない内燃機関のピストン頂面付近においても、温度が低くなりやすいため、排気行程において、未燃燃料が残ることがあるが、クレビスに残る未燃燃料の量と比較して十分に小さい。一例ではあるが、酸素吸蔵部を備えない内燃機関のクレビスに残る未燃燃料の量は、酸素吸蔵部を備えない内燃機関のピストン頂面付近に残る未燃燃料の量の約10倍である。
【0050】
酸素吸蔵部3は、トップリング221が取り付けられるピストンリング溝231内にも設けられている。酸素吸蔵部3は、ピストンリング溝231の全周に形成されている。また、酸素吸蔵部3は、ピストン外周側面21に加えて、ピストン頂面20にも設けられている。酸素吸蔵部3は、ピストン頂面20の(略)全面に形成されている。
【0051】
ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3、ピストンリング溝231の酸素吸蔵部3、および、ピストン頂面20の酸素吸蔵部3は、互いに離間しておらず、互いに接続されており、一体的に形成されている。
【0052】
酸素吸蔵部3の製造方法について簡単に説明する。まず、金属製のピストン2の外表面にCeO2-ZrO2が塗布される。詳細には、ピストン2のピストン外周側面21とピストンリング溝231とピストン頂面20とに、CeO2-ZrO2が塗布される。そして、CeO2-ZrO2が塗布されたピストン2が炉内で加熱されることにより、ピストン2の外表面に塗布されたCeO2-ZrO2が焼き付けられて定着する。
【0053】
図2に示すように、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3の厚みT1は、ピストン頂面20の酸素吸蔵部3の厚みT2よりも大きい。したがって、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3の単位面積あたりの酸素吸蔵能は、ピストン頂面20の酸素吸蔵部3の単位面積あたりの酸素吸蔵能よりも高い。一例ではあるが、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3の厚みT1は、100μm以上200μm以下であるのに対して、ピストン頂面20の酸素吸蔵部3の厚みT2は、20μm以上80μm以下である。
【0054】
(酸素吸蔵部による酸素の吸蔵および放出)
図3図7を参照して、酸素吸蔵部3による酸素の吸蔵および放出について説明する。
【0055】
まず、図3に示すように、吸気行程において、吸気バルブ12aが開かれるとともに、排気バルブ12bが閉じられた状態で、ピストン2がZ2方向に移動して、吸気通路13aを介して、燃焼室4内に空気が吸い込まれる。同時に、燃料噴射装置10から燃焼室4内に燃料が直接噴射されて、燃焼室4で混合気が生成される。この際、クレビス4aを形成する壁面やピストン2(酸素吸蔵部3)に燃料が付着する。なお、吸気行程では、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が多くなるため、酸素吸蔵部3によって、酸素が吸蔵される。すなわち、酸素吸蔵部3に酸素が蓄えられる。
【0056】
次に、図4に示すように、圧縮行程において、燃料噴射前では、酸素が多い状態なので、酸素は引き続き吸蔵される。燃料噴射後では、空気と燃料が混合するため、余剰酸素・燃料が少なく吸気行程で吸蔵した酸素は保持される。なお、エンジン始動前のようにまだ1度も燃焼していない時には、燃料噴射前後に関わらず、燃焼室4内に酸素が十分あるため(新たに吸蔵せず)吸蔵済みの酸素が維持される。その後、爆発行程を経て酸素を放出した分を、次の吸気行程にて吸蔵する。
【0057】
次に、図5に示すように、爆発行程において、吸気バルブ12aおよび排気バルブ12bが閉じられた状態で、点火装置11による点火の結果、点火装置11の周囲に火炎が広がっていく。この際、燃焼により燃焼室4内の酸素が消費されて、酸素吸蔵部3の周辺雰囲気において酸素が少なくなるため、酸素吸蔵部3から酸素が放出される。
【0058】
さらに、図6に示すように、爆発行程において、吸気バルブ12aおよび排気バルブ12bが閉じられた状態で、ピストン2がZ2方向に移動して、燃焼室4を拡大することにより、燃焼室4内の空気(混合気)が膨張される。その結果、燃焼室4内は、酸素が希薄な状態になるため、酸素吸蔵部3からより効果的に酸素が放出される。
【0059】
ここで、爆発行程において、クレビス4aで消炎が発生することに起因してクレビス4aの未燃燃料(HC)が燃焼しなかったとしても、酸素吸蔵部3から放出される酸素(O2)との化学反応により、クレビス4aの未燃燃料(HC)が二酸化炭素(CO2)および水蒸気(H2O)に変化する。また、不完全燃焼の結果発生した一酸化炭素(CO)に対しても、酸素吸蔵部3から酸素(O2)が放出される。その結果、酸素との化学反応により、COは、二酸化炭素(CO2)に変化する。
【0060】
次に、図7に示すように、排気行程において、ピストン2がZ1方向に移動して、燃焼室4内およびクレビス4a内の気体(二酸化炭素、水蒸気および窒素など)が排気通路13bに排出される。
【0061】
なお、排気行程において、未燃燃料(HC)や、NOx、COなどの有害物質が僅かながらに排気通路13bに排出されることがあるが、排気通路13bに設けられた図示しない触媒により浄化される。
【0062】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0063】
本実施形態では、上記のように、ピストン2の移動方向(Z方向)に延びるとともにピストン頂面20に接続されるピストン外周側面21に、燃焼室4内の吸気に含まれる酸素を吸蔵する機能、および、燃焼室4内に酸素を放出する機能を有するとともに、移動方向に延びる酸素吸蔵部3を設ける。これによって、クレビス4a(ピストン外周側面21とシリンダ1の内周面1cとの間の燃焼室4に繋がる隙間)に沿って延びるピストン外周側面21に、酸素吸蔵部3を配置することができる。このため、従来のピストン頂面20の酸素吸蔵部3と比較して、クレビス4aに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3から効果的に酸素を供給することができる。その結果、爆発行程において特に火炎が伝播しにくい箇所であるクレビス4aに入り込んだ燃料が、シリンダ1内において未燃燃料になることを抑制することができる。したがって、排気行程において未燃燃料が燃焼室4から排出されることをより効果的に抑制できるため、エミッションの改善を図ることができる。
【0064】
本実施形態では、上記のように、ピストン外周側面21は、ピストンリング22が取り付けられるピストンリング溝23(231)を有し、酸素吸蔵部3は、ピストンリング22よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けられている。これによって、酸素吸蔵部3を、ピストン外周側面21の中でも特に燃料が付着しやすい箇所であるピストンリング22よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けることができる。このため、クレビス4aに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3からより効果的に酸素を供給することができる。その結果、クレビス4aに入り込んだ燃料がシリンダ1内において未燃燃料になることをより抑制することができる。
【0065】
本実施形態では、上記のように、ピストンリング22は、移動方向に並ぶように燃焼室4側から順番に配置される複数のピストンリング22(221、222、223)を含み、酸素吸蔵部3は、複数のピストンリング22のうちの最も燃焼室4側に配置されるトップリング221よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けられている。これによって、酸素吸蔵部3を、クレビス4aの底面を形成するトップリング221よりも燃焼室4側のピストン外周側面21に設けることができる。このため、クレビス4aに入り込んだ燃料に対して、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3から一層効果的に酸素を供給することができる。その結果、クレビス4aに入り込んだ燃料がシリンダ1内において未燃燃料になることを一層抑制することができる。
【0066】
本実施形態では、上記のように、酸素吸蔵部3は、ピストン外周側面21のピストンリング溝231内にも設けられている。これによって、クレビス4aの奥深くであるピストンリング溝231側に燃料が入り込んだとしても、ピストンリング溝231内に設けられた酸素吸蔵部3から、酸素を供給することができる。その結果、ピストンリング溝231側に入り込んだ燃料がシリンダ1内において未燃燃料になることを抑制することができる。
【0067】
本実施形態では、上記のように、酸素吸蔵部3は、酸素吸蔵膜により形成されている。これによって、酸素吸蔵部3が板状などの部材である場合と比較して、酸素吸蔵部3が酸素吸蔵膜であることによって、ピストンリング溝23(231)などのピストン外周側面21の凹凸部分に対して、容易に酸素吸蔵膜を形成することができる。
【0068】
本実施形態では、上記のように、酸素吸蔵部3は、ピストン外周側面21の全周に形成されている。これによって、ピストン外周側面21の全周において、クレビス4aに入り込んだ燃料に対して、酸素吸蔵部3から酸素を供給することができる。
【0069】
本実施形態では、上記のように、酸素吸蔵部3は、ピストン外周側面21に加えて、ピストン頂面20にも設けられており、ピストン外周側面21の酸素吸蔵部3の厚みT1は、ピストン頂面20の酸素吸蔵部3の厚みT2よりも大きい。これによって、ピストン頂面20側よりも特に消炎(爆発行程において点火装置11側から拡がる火炎が伝播することなく消えること)が発生しやすいピストン外周側面21側の酸素吸蔵部3の厚みT1を大きくすることができる。したがって、ピストン頂面20側よりも未燃燃料が発生しやすいピストン外周側面21側(クレビス4a側)に、酸素吸蔵部3から酸素を効果的に供給することができる。
【0070】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0071】
たとえば、上記実施形態では、ピストンリング溝に酸素吸蔵部を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ピストンリング溝に酸素吸蔵部を設けなくてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、酸素吸蔵部を酸素吸蔵膜により形成(酸素吸蔵部を膜状に形成)した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、酸素吸蔵部を板部材などにより形成してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部の厚みを、ピストン頂面の酸素吸蔵部の厚みよりも大きくした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部の厚みを、ピストン頂面の酸素吸蔵部の厚み以下にしてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部の厚みを、100μm以上200μm以下とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部の厚みを、100μm未満または200μmよりも大きくしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、ピストン頂面に酸素吸蔵部を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ピストン頂面に酸素吸蔵部を設けなくてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部を、ピストン外周側面の全周に形成(円環状に形成)した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ピストン外周側面の酸素吸蔵部を、ピストン外周側面の一部に形成してもよい。たとえば、ピストン外周側面の酸素吸蔵部を、C字状に形成してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、内燃機関を、燃料噴射装置から燃焼室内に燃料を直接噴射する方式とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、内燃機関を、燃料噴射装置から吸気通路に燃料を直接噴射する方式としてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 シリンダ
2 ピストン
3 酸素吸蔵部
4 燃焼室
20 ピストン頂面
21 ピストン外周側面
22 ピストンリング
23、231 ピストンリング溝
100 内燃機関
221 トップリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7