(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173870
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20231130BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F16J15/10 C
F16J15/10 L
F16J15/10 Z
C09K3/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086389
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】390001487
【氏名又は名称】サンアロー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 豊
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 暁史
【テーマコード(参考)】
3J040
4H017
【Fターム(参考)】
3J040AA02
3J040AA17
3J040BA02
3J040BA04
3J040EA01
3J040EA15
3J040FA06
4H017AA03
4H017AB15
4H017AC16
4H017AD03
4H017AE04
(57)【要約】
【課題】 着脱時の不快音を低減できるシール部材を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、第1部材と第2部材との間に介在させて使用するシール部材10である。シール部材10は、シリコーン樹脂により形成される。シール部材10に関し、前記第1部材及び前記第2部材との当接箇所の少なくとも一部について、XPS深さ方向分析で検出された元素のうち、ケイ素、酸素及び炭素を選択し、これらの各原子濃度の合計を100原子%としたプロファイルにおいて、最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値を100%としたときの、酸素原子濃度の比率が80%以上となる改質層の厚さが500nm以上であり、かつ、前記最大値と、最表面から深さ1000nmの地点における酸素原子濃度との差が、5原子%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材との間に介在させて使用するシール部材であって、
シリコーン樹脂により形成され、
前記第1部材及び前記第2部材との当接箇所の少なくとも一部について、XPS深さ方向分析で検出された元素のうち、ケイ素、酸素及び炭素を選択し、これらの各原子濃度の合計を100原子%としたプロファイルにおいて、
最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値を100%としたときの、酸素原子濃度の比率が80%以上となる改質層の厚さが500nm以上であり、かつ、
前記最大値と、最表面から深さ1000nmの地点における酸素原子濃度との差が、5原子%以上である、シール部材。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂のタイプAデュロメータにより測定されるショア硬度が、30~80である、請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
リング状である、請求項1に記載のシール部材。
【請求項4】
前記第1部材及び前記第2部材のうち、一方に設けられた溝に取り付けて使用される、請求項1に記載のシール部材。
【請求項5】
前記第1部材が蓋体であり、かつ、前記第2部材が有底筒体である、請求項1に記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
機械や装置、容器、配管等において、液体や気体の外部への漏れを防ぐため、又は外部からの異物の侵入を防ぐために、シール部材が用いられている。シール部材は、通常、接続したい2つの部材間に介在させて使用し、これにより、その接続部がシールされる。
【0003】
可動部分に使用されるシール部材では、接続部の着脱時に不快音が発生する場合がある。特許文献1には、回転機構の工夫により、蓋開閉時の不快音を解消できる飲食物用容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1は、特定の構造によって不快音の解消を図るものであるため、汎用性に乏しい。そこで、本発明の課題は、着脱時の不快音を低減できるシール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シール部材を特定の表面層を有するシリコーン樹脂とすることで、着脱時の不快音を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様によれば、
第1部材と第2部材との間に介在させて使用するシール部材であって、
シリコーン樹脂により形成され、
前記第1部材及び前記第2部材との当接箇所の少なくとも一部について、XPS深さ方向分析で検出された元素のうち、ケイ素、酸素及び炭素を選択し、これらの各原子濃度の合計を100原子%としたプロファイルにおいて、
最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値を100%としたときの、酸素原子濃度の比率が80%以上となる改質層の厚さが500nm以上であり、かつ、
前記最大値と、最表面から深さ1000nmの地点における酸素原子濃度との差が、5原子%以上である、シール部材が提供される。
【0008】
前記第一の態様において、シリコーン樹脂は、タイプAデュロメータにより測定されるショア硬度が、30~80であってもよい。
【0009】
前記第一の態様において、シール部材は、リング状であってもよい。
【0010】
前記第一の態様において、シール部材は、第1部材及び第2部材のうち、一方に設けられた溝に取り付けて使用されてもよい。
【0011】
前記第一の態様において、第1部材が蓋体であり、かつ、第2部材が有底筒体であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着脱時の不快音を低減できるシール部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、それぞれ、実施形態1に係るシール部材の概略を示す平面図、及び
図1(a)に示したシール部材のA-A’線に沿った断面図である。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、それぞれ、実施形態1に係る密閉容器の概略を示す、蓋体側から見た分解斜視図、及び蓋体の概略を示す、開口方向から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る密閉容器の断面図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、それぞれ、実施形態2に係るシール部材の概略を示す平面図、及び
図4(a)に示したシール部材のB-B’線に沿った断面図である。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、それぞれ、実施形態2に係る接続管体の概略を示す分解斜視図及び断面図である。
【
図6】
図6は、各サンプルにおける、XPS深さ方向分析のプロファイルの結果を示す図である。
【
図7】
図7は、各サンプルにおける、接続部の着脱操作時の、最大音量の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
以下、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(例えば25℃)として実施されたものとする。
【0016】
以下、本発明について図面を参照しながら詳述する。以下で参照する図面において、実質的に同じ機能を有する構成要素を同一の符号で示し、その説明を省略することがある。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、以下の実施形態で引用する図面は、説明の都合上、構成の簡略化又は模式化して示したり、一部の構成要素を省略したりしている。
【0017】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るシール部材を示す。
図1(a)は、シール部材の概略を示す平面図である。
図1(b)は、
図1(a)に示したシール部材のA-A’線に沿った断面図である。また、
図2は、実施形態1に係る密閉容器を示す。
図2(a)は、密閉容器の概略を示す、蓋体側から見た分解斜視図である。
図2(b)は、蓋体の概略を示す、開口方向から見た斜視図である。さらに、
図3は、実施形態1に係る密閉容器の断面図である。
【0018】
本実施形態に係るシール部材10は、
図1(a)に示すように、断面が矩形のリング状の部材である。ここで、当接箇所12は、シール部材10を介して第1部材及び第2部材を接続した際の、各部材との当接箇所を指す。また、当接箇所12は、当接箇所12a及び当接箇所12bから構成される。当接箇所12aは、第1部材(本実施形態に係る蓋体20)との当接箇所を指し、当接箇所12bは、第2部材(本実施形態に係る有底筒体30)との当接箇所を指す。
【0019】
シール部材10の形状は、
図1(a)に示すように、典型的にはリング状であるが、接続すべき2つの部材間に介在することができれば、特に限定されない。シール部材10の形状としては、リング状の他に、例えば、円盤状、円柱状等があり得る。シール部材10がリング状である場合、
図2(b)及び
図3に示されるように、接続する一方の部材の溝(本実施形態においては、蓋体20の溝部28)等に固定され得るため、部材同士の着脱操作がしやすい。したがって、本実施形態に係るシール部材10は、第1部材又は第2部材に設けられた溝に取り付けて使用されることが好ましい。また、反対に、シール部材10の一部に溝を設けて、第1部材又は第2部材に設けた凸部をはめ込むことで固定することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0020】
本実施形態に係るシール部材10は、負荷時(接続部の接続完了時)における圧縮率(つぶし率;JIS B 2401-2)が、0.1%以上30%以下であることが好ましい。このような圧縮率を有するシール部材10を用いることで、接続部のシールが可能となる一方、接続部の着脱時に不快音が生じ得る。本実施形態に係るシール部材10は、負荷時における圧縮率が、好適には1%以上、5%以上又は8%以上であり得る。また、本実施形態に係るシール部材10は、負荷時における圧縮率が、好適には25%以下、20%以下、15%以下又は10%以下であり得る。このような圧縮率を有するシール部材10を用いることで、接続部を確実にシールすることができる。
【0021】
本実施形態に係る密閉容器40は、
図2に示すように、シール部材10、蓋体20及び有底筒体30を備える。本実施形態において、蓋体20は有蓋筒体の形状であって下方に開口し、蓋上面部22と蓋上面部22に繋がる蓋側面部24とから構成される。蓋側面部24の内周には雌螺子部26が設けられている。さらに、蓋側面部24の蓋上面部22付近の内周上に、溝部28が設けられている。また、有底筒体30は、上方が大径となる円錐台状の有底筒体であって上方に開口し、筒底面部32と筒底面部32に繋がる筒側面部34とから構成される。筒側面部34の開口部付近には、筒状の口部36を有する。口部36は、外周面に雄螺子部38を備える。
【0022】
本実施形態において、シール部材10は、
図2(a)及び
図3に示すように、密閉容器40に使用される。すなわち、本実施形態において、シール部材10は、蓋体20(第1部材)と有底筒体30(第2部材)との間に介在させて使用するシール部材である。
【0023】
本実施形態において、
図3に示すように、蓋体20及び有底筒体30は、蓋体20の雌螺子部26と、有底筒体30の雄螺子部38との螺合によって着脱可能に接続している。さらに、本実施形態において、
図3に示すように、蓋体20が有底筒体30にしっかり接続された状態では、蓋体20の溝部28に当接箇所12aが密着し、且つ、有底筒体30の口部36の上面に当接箇所12bが密着している。これにより、接続部がシールされ、有底筒体30の内部空間が密閉されている。なお、部材同士の接続方式は、本実施形態では螺合であるが、接続時に、蓋体20及び有底筒体30がシール部材10と当接していれば、特に限定されない。本実施形態に係るシール部材10は、着脱操作時の不快音を低減することから、可動部分に使用されることが好ましく、繰り返し着脱される接続部に使用されることが特に好ましい。したがって、本実施形態に係るシール部材10は、パッキン部材であってもよい。
【0024】
本実施形態に係るシール部材10は、シリコーン樹脂製である。本実施形態に係るシリコーン樹脂は、特に限定されず、目的に合わせて任意のシリコーン樹脂を選択することができる。シリコーン樹脂の原料として、例えば、過酸化物架橋型ミラブルシリコーンゴム、付加架橋型ミラブルシリコーンゴム、付加型液状シリコーンゴム及び縮合架橋型液状シリコーンゴム等が挙げられる。さらに、シリコーン樹脂の原料として、2液型のものを用いても、1液型のものを用いてもよい。シール部材10を形成可能であれば、原料の硬化方法は特に限定されない。硬化方法は、例えば、室温硬化及び加温硬化のいずれかであってもよい。
【0025】
本実施形態に係るシリコーン樹脂のタイプAデュロメータにより測定されるショア硬度は、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、50以上がさらに好ましく、60以上が特に好ましい。また、本実施形態に係るシリコーン樹脂のタイプAデュロメータにより測定されるショア硬度は、80以下が好ましく、70以下がさらに好ましい。ショア硬度がこのような範囲であると、シール部材10は優れた密閉性を有するとともに、第1部材と第2部材との着脱時の不快音の低減効果を奏しやすくなる。ショア硬度は、試験片を本実施形態に係るシール部材10として、JIS K 6253-3に準じた方法により測定できる。
【0026】
本実施形態に係るシール部材10は、表面層に改質層を有する。具体的には、シール部材10は、第1部材及び第2部材との当接箇所12の少なくとも一部についてX線光電子分光法(XPS)深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値を100%としたときの、酸素原子濃度の比率が80%以上となる改質層の厚さが500nm以上であることが好ましい。ここで、本明細書における「XPS深さ方向分析で得られるプロファイル」とは、XPS深さ方向分析において検出された元素のうち、ケイ素(Si2p)、酸素(O1s)及び炭素(C1s)を選択し、これらの各原子濃度の合計を100原子%としたプロファイルを指す。各元素は、バックグラウンドをShirley法やTougaard法等で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量することができる。また、本実施形態に係る改質層の厚さは、700nm以上がより好ましく、1000nm以上が特に好ましい。なお、最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値は特に限定されないが、例えば、40原子%以上であり、好ましくは50原子%以上である。このような改質層を有するシール部材10を用いることで、第1部材と第2部材との着脱時の不快音を低減できる。着脱時の不快音を低減できる理由としては、表面層にこのような改質層を有するシール部材10は、着脱操作により、シール部材10に負荷がかかった際、改質層が圧縮変形しにくいためであると推察される。着脱時の不快音は、特に、シール部材10に大きな負荷がかかる際に生じやすい。したがって、シール部材10の圧縮率が高いときに生じやすく、例えば、接続部の接続完了直前や、接続部の取り外し開始直後に生じやすい。
【0027】
また、本実施形態において、当接箇所12のうち、当接箇所12bの一部又は全部が、上述の改質層を有することが好ましく、当接箇所12bの全部が上述の改質層を有することが特に好ましい。なお、当接箇所の全部が改質層を有する場合には、XPS深さ方向分析を任意の箇所で実施したときに、上述の指標で定義される改質層が確認され得る。本実施形態において、シール部材10は溝部28により固定されているため、当接箇所12aには着脱操作による負荷がかかりにくい。一方、固定されていない当接箇所12bには、着脱操作による負荷がかかりやすい。上述の通り、着脱時の不快音は、着脱操作による負荷がかかる際に生じやすいため、着脱操作時に負荷がかかりやすい箇所に上述の改質層を有することが好ましい。したがって、換言すると、本実施形態に係るシール部材10は、第1部材及び第2部材との当接箇所12のうち、固定されていない箇所に上述の改質層を有することが好ましい。ここで、「当接箇所のうち、固定されていない箇所」とは、「当接箇所のうち、着脱操作時に第1部材又は第2部材と摺動する箇所」と言うこともできる。
【0028】
本実施形態に係るシール部材10は、さらに、第1部材及び第2部材との当接箇所12の少なくとも一部についてXPS深さ方向分析で得られるプロファイルにおいて、最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値と、最表面から深さ1000nmの地点における酸素原子濃度との差が、5原子%以上であることが好ましい。また、当該最大値と、最表面から深さ2000nm地点における酸素原子濃度との差が、7原子%以上であることが好ましい。表面層がこのような酸素原子濃度であるシール部材10を用いることで、着脱時の不快音を低減できる。着脱時の不快音を低減できる理由としては、上述した圧縮変形しにくい改質層を有しつつ、表面層に酸素原子濃度の勾配があることにより、シール部材10全体としては着脱動作に伴うひずみを最低限に維持しつつ摺動できるためであると推察される。したがって、本実施形態におけるシール部材10の動摩擦係数は、小さいことが好ましい。動摩擦係数は、例えば、JIS K 7125に準じた方法により測定できる。本実施形態に係るシール部材10の動摩擦係数は、0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。
【0029】
XPS分析は、試料表面にX線を照射することによって、固体内の準位に対応したエネルギーの電子を励起し、真空中に放出された光電子の運動エネルギーを測定する分析手法である。各元素の各軌道準位は固有の結合エネルギー値を有するため、試料表面の元素分析をすることができる。また、イオンスパッタリング法により、試料表面を削り取りながらXPS分析を行うことで、最表面から所定深さの地点の元素分析をすることができる。イオンスパッタリング法は、例えば、アルゴンイオンビームの照射により行うことができる。XPS深さ方向分析の分析単位深さは、任意に設定できる。XPS深さ方向分析は、例えば、10nm刻み、100nm刻み等で行うことができる。XPS深さ方向分析装置として、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のK-Alpha等を使用することができる。
【0030】
本実施形態に係る蓋体20及び有底筒体30の材質は、特に限定されず、任意の材料から作製できる。蓋体20及び有底筒体30の材質として、例えば、プラスチック、金属等が挙げられる。また、
図3に示す蓋体20及び有底筒体30は単一の材料から一体成型された単一部材であるが、複数の材料を組み合わせたものであってもよい。また、シール部材10と当接する部分の表面は、不快音が生じやすい、鏡面加工された表面であってもよい。特に、シール部材10と当接する部分の表面が金属鏡面であると不快音を生じやすい。本実施形態に係るシール部材10を用いることで、このような表面を有する場合であっても、不快音を低減することができる。
【0031】
なお、本実施形態に係るシール部材10は密閉容器40に使用されるが、蓋上面部22等に開口部を有する非密閉容器等に使用されてもよい。本実施形態に係るシール部材10は、部材間の接続部をシールするものであり、容器自体が密閉性を有するか否かは、使用する用途によって任意に選択できる。
【0032】
本実施形態に係る密閉容器40の用途は、特に限定されない。着脱時の不快音は、当接箇所14に水などの液体が付着している場合に大きくなるため、液体が付着し得る状況で使用する場合に、本実施形態による効果をより享受できる。したがって、本実施形態に係る密閉容器40は、飲食料品保管容器等であり得る。飲食料品保管容器等に収容される物の温度は、容器自体の性能範囲であれば、特に限定されず、10℃以下の低温、常温及び80℃以上の高温であってもよい。このような温度の収容物に含まれる液体(高温の収容物から発生する水蒸気等も含む)が当接箇所12に付着しても、本実施形態に係るシール部材10を用いることで、着脱時の不快音を低減できる。
【0033】
本実施形態に係るシール部材10は、例えば、成形したシリコーン樹脂を、UV照射することにより、作製することができる。シリコーン樹脂の成形方法は、特に限定されないが、例えば、溶融したシリコーンと金型を用いた射出成型等が挙げられる。UV照射の条件は、シリコーン樹脂の種類によって適宜変更できる。照射する光の波長及び積算光量を高度に最適化することで、上述したXPS深さ方向分析で得られるプロファイルを有するシール部材を得ることができる。本実施形態に係るシール部材は、例えば、成形したシリコーン樹脂を、波長210nm以下の紫外線光を30分以上照射することにより作製することができる。紫外線光の波長は、200nm以下が好ましく、190nm以下がさらに好ましい。紫外線光の波長の下限値は、特に限定されないが、例えば、10nm、100nm、150nmとしてもよい。また、照射波長における積算光量は、例えば、5000mJ/cm2以上が好ましく、10000mJ/cm2以上であることがさらに好ましい。照射波長における積算光量の上限値は、特に限定されないが、例えば、100000mJ/cm2、50000mJ/cm2としてもよい。このような積算光量であると、シール部材自体の損傷(例えば、圧縮永久ひずみの増加や、表面の亀裂)がほとんど発生せず、且つ、高い消音効果を有するシール部材を取得できる。ここで、圧縮永久ひずみは、例えば、試験温度を180℃、試験時間を168時間、圧縮率を25%とし、JIS K 6262に準じた方法により測定できる値である。UV照射によって得られる、本実施形態に係るシール部材の圧縮永久ひずみは、照射前のシール部材を基準として、120%以下であることが好ましく、115%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態に係るシール部材による、不快音の低減は、従来公知の方法により検出することができる。具体的には、蓋体20と有底筒体30との間にシール部材10を設置し、当接箇所12に液体が付着した状態で、着脱動作時の音量を測定することにより、検出することができる。音量の測定には、任意の音量測定器を使用することができ、例えば、精密騒音計(NL-31;リオン社製)を使用することができる。音量の測定時には、測定環境下の雑音を排除するために、防風スクリーン等を使用することが好ましい。
【0035】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係るシール部材を示す。
図4(a)は、シール部材の概略を示す平面図である。
図4(b)は、
図4(a)に示したシール部材のB-B’線に沿った断面図である。
図5は、実施形態2に係る接続管体を示す。
図5(a)は、接続管体の概略を示す、分解斜視図である。
図5(b)は、接続管体の断面図である。本実施形態の基本的な構成は実施形態1と同様である。以下では、実施形態1と異なる構成について説明する。
【0036】
本実施形態に係るシール部材10の断面形状は、
図4(a)に示すように、実施形態1と異なり、円形である。このように、シール部材10の断面形状は、シール部材として機能することができれば、特に限定されない。
【0037】
本実施形態に係る接続管体70は、
図5に示すように、シール部材10、第1管体50(本実施形態における第1部材)及び第2管体60(本実施形態における第2部材)を備える。本実施形態において、第2管体60は、管本体部61と、第1管体50が挿入される受口部62とを備える。受口部62の内周面に溝部64が設けられている。実施形態1では、第1部材である蓋体20にシール部材10を固定するための溝部28が設けられていたが、実施形態2では第2部材である第2管体60にシール部材10を固定するための溝部64が設けられている。シール部材10を固定するための溝部は、本実施形態の必須構成ではないが、上述の通り、第1部材及び第2部材のどちらか一方の部材に設けられていることが好ましい。また、本実施形態では、第2部材に溝部64が設けられているため、当接箇所12のうち、固定されていない当接箇所12aの一部又は全部が、上述の改質層を有することが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るシール部材10は、
図5に示すように、管体同士の接続に使用される。すなわち、本実施形態において、シール部材10は、第1管体50(第1部材)と第2管体60(第2部材)との間に介在させて使用するシール部材である。
【0039】
本実施形態に示すように、第1部材及び第2部材は管体であってもよい。本実施形態に係る接続管体70は、例えば、配管等であり得る。
【0040】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0041】
本実施形態に係るシール部材は、第1部材又は第2部材と一体成型されたものであってもよい。例えば、蓋体構造も備えるシール部材が、有底筒体に接続された密閉容器も、本発明の範囲に含まれる。
【0042】
本実施形態に係るシール部材は、第1部材(有底筒体)と第2部材(管体)との間、第2部材と第3部材(蓋体)との間のいずれか一方又は両方に、介在してもよい。このような第1部材、第2部材及び第3部材を備える密閉容器も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0043】
(サンプルの作製)
付加架橋型ミラブルシリコーンゴムを用いて成型した未改質のシール部材を、UV照射器(岩崎電気社製)内のトレイ上に設置し、所定処理時間、以下の条件で照射を行った。なお、本条件において、照射波長の平均照度は、3.3mW/cm2であり、照射波長の積算光量は、照射10分あたり1980mJ/cm2であることを、光量計(浜松ホトニクス社製)で確認した。
照射波長:185nm
照射距離:6mm
【0044】
(表面層の分析)
各サンプルについて、XPS深さ方向分析を行った。具体的には、まず、サンプルをシール部材として使用したとき、溝等に固定されてない当接箇所の一部(幅10mm、厚さ1mm)を切り出し、XPS深さ方向分析用試験片とした。続いて、各XPS深さ方向分析用試験片について、XPS深さ方向分析装置(K-Alpha;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、以下の条件でXPS深さ方向分析を行った。
励起X線:単色Al Kα線 照射径400μm 中和銃使用
パスエネルギー:200eV
エネルギーステップ:1eV
エッチング:アルゴンイオン銃、3kV
エッチングエリア:2mm×2mm
分析深さ:最表面から4000nmまで(100nm刻み)
【0045】
各サンプルにおける、XPS深さ方向分析のプロファイルの結果を、
図6に示す。
図6より、未処理サンプルの表面層に比べて、処理時間に応じて最表面付近の酸素原子濃度が増加することが分かった。また、各サンプルにおける、(1)改質層(最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値を100%としたときの、酸素原子濃度の比率が80%以上となる地点から最表面まで)の厚さ、及び(2)最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値と、最表面から所定深さ地点における酸素原子濃度との差を、表1に示す。
【0046】
【0047】
なお、表1において、未処理サンプル及び20分処理サンプルで、改質層の厚さが分析深さ(4000nm)以上となったが、これは、定義された算出方法による見かけ上の値である。改質されていない又は改質が不十分であると、
図6に示すように、最表面から深さ200nm地点までにおける酸素原子濃度の最大値が低く、未改質層の酸素原子濃度との差が20%未満であるためである。すなわち、当該算出方法だけでは、改質の有無を判断できない。したがって、本実施形態に係るシール部材は、表面層に酸素原子濃度の勾配があることを示す(2)の指標も合わせて満たす必要がある。
【0048】
(ショア硬度)
未処理サンプル及び70分処理サンプルについて、タイプAデュロメータ(デジテスト;H.バーレイス社製)を用いてショア硬度を測定した。測定は、1サンプルあたり5回行い、その平均値を算出した。各サンプルのショア硬度の結果を、表2に示す。
【0049】
【0050】
(音量測定)
各サンプルに係るシール部材を介して接続される、
図1に記載の構成に準じる密閉容器を用意した。当該密閉容器は、螺合により接続される蓋体及び有底筒体からなり、蓋体はシール部材を固定する溝部を有する。また、蓋体及び有底筒体におけるシール部材との当接箇所の材質は、それぞれ、プラスチック及びステンレス鋼である。
【0051】
まず、各サンプルを蓋体の溝部に固定した。続いて、有底筒体に半容量程度の常温の水又は約90℃の湯を入れた後、蓋体を接続して密閉容器を密閉した。このとき、サンプルの圧縮率は、9%であった。さらに、密閉容器を振って接続部が濡れた状態とした。
【0052】
接続部の着脱操作を5回繰り返し、このときの最大音量を、防風スクリーン(WS-10;リオン社製)を装着した精密騒音計(NL-31;リオン社製)により測定した(n=2)。さらに、このときの音の不快感を以下の基準に従い評価した。
A:音の不快感がほとんどない
B:音の不快感はあるが気にならない程度
C:音の不快感がある
【0053】
図7に、接続部の着脱操作時における、最大音量の平均値を示す。また、表3に音の不快感の評価結果を示す。なお、音の不快感は、2回の試験間で同じであったため、単一の評価として示す。
【0054】
【0055】
図7より、処理時間が30分以上のサンプルは、未処理サンプルに比べて、着脱操作時の音量が減少することが分かった。また、表3より、処理時間が30分以上のサンプルは音の不快感が低減した。さらに、処理時間が60分以上のサンプルは、音の不快感がほとんどないことが分かった。
【0056】
(圧縮永久ひずみ)
付加架橋型ミラブルシリコーンゴムから成型した圧縮永久ひずみ測定用試験片(直径13mm、厚さ6.3mm)を、UV照射器(岩崎電気社製)内のトレイ上に設置し、上記と同様の条件で照射を行った。
【0057】
未処理サンプル、15分処理サンプル、30分処理サンプル、45分処理サンプル及び60分処理サンプルについて、圧縮永久ひずみを測定した。圧縮永久ひずみは、試験温度を180℃、試験時間を168時間、圧縮率を25%とし、JIS K 6262に準じた方法により測定した。恒温槽として、ギヤー式老化試験機(安田精機製作所製)を用いた。また、厚さの測定は、定圧厚さ測定器(テクロック社製)を用いて、A法(JIS K 6250)により測定した。測定は、各サンプルについてn=3とし、その中央値を当該サンプルの圧縮永久ひずみとした。各サンプルの圧縮永久ひずみの測定結果を、表4に示す。
【0058】
【0059】
(動摩擦係数)
付加架橋型ミラブルシリコーンゴムを用いて成型した板状シリコーン樹脂(8cm×2cm、厚さ0.2cm)を、UV照射器(岩崎電気社製)内のトレイ上に設置し、上記と同様の条件で照射を行った。
【0060】
未処理サンプル、30分処理サンプル及び60分処理サンプルについて、動摩擦係数を測定した。具体的には、まず、サンプルを水平な試験テーブル上に設置した。次に、おもり荷重62.98gを載せたポリエチレンフィルム(SPV-C-100;日東電工社製)を滑り片とし、上記サンプルの上に設置した。フォースゲージ(日本電産社製)を滑り片に接続し、50mm/秒の速度で5秒間、当該滑り片を滑らせることにより、動摩擦係数を測定した。測定は、各サンプルについてn=5とし、その平均値を算出した。各サンプルにおける動摩擦係数の測定結果を、表5に示す。
【0061】