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特開2023-173893電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173893
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/291 20210101AFI20231130BHJP
【FI】
H01M50/291
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086422
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA14
5H040AS07
5H040AT02
5H040AY05
5H040AY06
5H040CC23
5H040NN00
5H040NN01
(57)【要約】
【課題】組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときの荷重の急激な増大を防止すること。
【解決手段】
互いに対面する二つの電池セル11(11A、11B)の間に配置される電池用スペーサ51は、一方の電池セル11Aに面接触する板状の基部52を備え、別の一方の電池セル11Bに接触する板状の緩衝部53を基部52に固定している。緩衝部53は、基部52に固定される一対の固定部101の間に設けられ、電池セル11Bに第1のラインL1上で接触して加圧される頂部111と、一対の固定部101の側で立ち上がる一対の規制部131とを有し、規制部131と頂部111との間の領域に一対の弾性変形部151を設けている。弾性変形部151は、頂部111の加圧時に内向きに弾性変形し、第1のラインL1と平行な第2のライン上で基部52に突き当たり、基部52に対して摺動する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対面する二つの電池セルの間に配置される電池用スペーサであって、
一方の前記電池セルに面接触する板状の基部と、
前記基部に固定されて別の一方の前記電池セルに接触する板状の緩衝部と、
を備え、
前記緩衝部は、
前記基部に固定される一対の固定部と、
前記一対の固定部の間に設けられ、前記別の一方の電池セルに第1のライン上で接触して加圧される頂部と、
前記一対の固定部の側で立ち上がる一対の規制部と、
前記一対の規制部のそれぞれと前記頂部との間の領域にそれぞれ設けられ、前記頂部の加圧時に内向きに弾性変形して前記第1のラインと平行な第2のライン上で前記基部に突き当たり、前記基部に対して摺動する一対の弾性変形部と、
を最小単位の緩衝要素として備える、
電池セル用スペーサ。
【請求項2】
前記緩衝部は、それぞれの前記第1及び第2のラインが平行に配列されるように、前記最小単位の緩衝要素を複数備えている、
請求項1に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項3】
前記最小単位の緩衝要素は、前記第1及び第2のラインに沿う方向から見たとき、左右対称の形状を有している、
請求項1に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項4】
前記基部は、前記弾性変形部が摺動する領域にその周辺領域よりも摩擦係数の低い低摩擦領域を備えている、
請求項1に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項5】
前記低摩擦領域は、前記基部よりも摩擦係数の小さな材料によって設けられている、
請求項4に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項6】
前記低摩擦領域は、前記周辺領域よりも表面粗さの値を低くすることによって設けられている、
請求項4に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項7】
前記頂部は、前記第1及び第2のラインに沿う方向から見たとき、円弧形状を有している、
請求項1に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項8】
前記規制部の高さは、前記頂部の全高の半分よりも低い、
請求項7に記載の電池セル用スペーサ。
【請求項9】
前記弾性変形部は、
前記基部に沿って延びて前記規制部に連絡する支持領域と、
斜めに延びて前記頂部に連絡する作用領域と、
内向きに屈曲した形状で前記支持領域と前記作用領域とを連絡し、前記頂部の加圧時に屈曲部分を弾性変形させて前記基部に突き当てる接触領域と、
を備える請求項8に記載の電池セル用スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池セル用スペーサ及びこれを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料で動作する内燃機関を使わない電動車両(EV)のうち、ハイブリッド自動車(HV)、バッテリー電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)は、リチウムイオン電池などの二次電池をモータの電力源として利用している。リチウムイオン電池は、他の二次電池と比較して高いエネルギー密度を有することから、電動車両のモータを駆動する電力源に適している。
【0003】
特許文献1に示すように、電動車両に搭載される二次電池は、電池としての一単位をなす電池セルを積層したいわば組電池の形態をとるのが一般的である。特許文献1では、電池セル(セル3)を積層してケーシングC内に保持している(段落[0035]参照)。
【0004】
リチウムイオン電池は、積層された個々の電池セルを加圧することによって充電率を高めることができる。また電池セルは発熱することによって膨張するので、二つの電池セルの間のクリアランス管理が必要になる。そこで特許文献1に記載されているように、積層された個々の電池セル(セル3)の間に弾性変形可能なスペーサ5を介在させ、積層方向に圧縮力を与えた状態で個々のセル3をケーシングC内に保持するということが行なわれている(段落[0012][0035]-[0037][0040]参照)。
【0005】
特許文献1が開示するスペーサ5は、ジクザグ状に屈曲した可撓性をもつ金属材料からなり、加圧板6を介してセル3に取り付けられている(段落[0036][0038]、図4(a)-(d)、図5(a)参照)。特許文献1には、「スペーサ5が加圧板6から加圧され弾性変形する際に発生する個々の弾性力がセル3に個々に加えられ、それらの個々の弾性力が集合することで、セル3に押圧力を加える」と述べられている(段落[0036]参照)。
【0006】
特許文献2には、別の形態のスペーサ41が開示されている。このスペーサ41は、絶縁性材料である樹脂によって形成されたもので、波形の断面形状を有している(段落[0021][0023]、図2参照)。スペーサ41は、積層される電池セル21A、21Bに向けて突出して接触する突部(第1突部51と第3突部53、第2突部52と第4突部54)を有している。
【0007】
また第3突部53と第4突部54との間には、電池セル21A、21Bに向けて突出はするものの、通常時には非接触状態を保つ突部(第5突部55、第6突部56)が設けられている(段落[0028]-[0038]、図3参照)。これらの第5突部55及び第6突部56は、電池セル21の膨張時、電池セル21A、21B同士の間隔が狭まることに追従してスペーサ41が変形すると、電池セル21A、21Bにそれぞれ接触する(段落[0047]、図4参照)。
【0008】
特許文献1、2に記載されているようなリチウムイオン電池は、正負の電極間に電解液を満たしている。これに対して電解液の代わりに個体電解質を用いるようにした全固体電池(バルク型)の開発が進められている。全固体電池は、電解質が液体であるリチウムイオン電池よりも取り扱い性が良好で、電池としての性能にも優れている。電動車両に用いた場合には航続距離を延ばすことができるし、充電時間も短縮することができる。
【0009】
全固体電池を用いた組電池は、例えば特許文献3に記載されている。
【0010】
特許文献3に記載された組電池は、スペーサ(放熱部材20)を介して複数個の電池セル(電池ユニット10)を積層し、これらの電池ユニット10及び放熱部材20からなる積層物をケース40内に収納している(段落[0025]参照)。スペーサ(放熱部材20)は、ゴムやエラストマーなどの弾性材料を母材とする一対の弾性体層22で基層21を挟み込んでいる(段落[0030][0033]参照)。基層21の一例として、一対の平板状の金属薄板21a1の間に、波状の金属薄板21a2を設けた構造のものが示されている(段落[0048]、図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-124033号公報
【特許文献2】特開2017-183071号公報
【特許文献3】特開2015-053261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リチウムイオン電池や全固体電池を電池セルとする組電池に用いるスペーサには、
(1)電池セルに一定以上の面圧を付与する機能
(2)電池セル同士の間の隙間を適度に調整する機能
(3)外部からの振動を低減する機能
(4)耐久性
が求められる。これらの(1)~(4)の項目は、この種のスペーサに求められる基本性能である。
【0013】
特許文献1に記載された発明では、スペーサ(スペーサ5)がある程度まで撓んだときに荷重が急激に増大するという現象が発生する。
【0014】
特許文献1の図4(b)を参照すると、スペーサ5は、この状態からさらに撓むことができそうである。ところが屈曲部分同士が接触するまでスペーサ5が撓んだとすると、その後は急激に荷重を増大させるはずである。そうするとセル3に過大な力が及んでしまうため、実際にはそこまでスペーサ5を撓ませて使用することはできない。
【0015】
このため特許文献1のスペーサ5はストロークが小さく、上記(2)を満足しがたい。上記(3)についても、図4(b)に示される状態以上にスペーサ5が撓んだ場合にはばね力の低下が予想され、良好な制振作用を期待することができない。改善が求められる。
【0016】
特許文献2に記載された発明でも、スペーサ(スペーサ41)がある程度まで撓んだときに荷重が急激に増大するという現象が発生する。
【0017】
特許文献2の図4に示されているように、電池セル21の膨張時、電池セル21A、21B同士の間隔が狭まることに追従してスペーサ41が変形すると、いままで非接触であった第5突部55及び第6突部56も電池セル21A、21Bに接触する。ところがこの状態からさらに電池セル21A、21B同士の間隔が狭まると、スペーサ41は急激に荷重を増大させ、電池セル21A、21Bに過大な力を及ぼしてしまう。このため実際にはそこまでスペーサ41を撓ませて使用することはできない。
【0018】
したがって特許文献2のスペーサ41もストロークが小さく、上記(2)を満足しがたい。上記(3)についても、図4に示される状態以上にスペーサ41が撓んだ場合にはばね力の低下が予想され、良好な制振作用を期待することができない。改善が求められる。
【0019】
特許文献3に開示されているスペーサ(放熱部材20)は、上記(2)についてはストロークが小さく(特許文献3の段落[0049]参照)、上記(1)(3)(4)については弾性体層22に依存性する。改善が求められる。
【0020】
本開示の課題は、組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときの荷重の急激な増大を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
互いに対面する二つの電池セルの間に配置される電池用スペーサの一態様は、一方の前記電池セルに面接触する板状の基部と、前記基部に固定されて別の一方の前記電池セルに接触する板状の緩衝部と、を備え、前記緩衝部は、前記基部に固定される一対の固定部と、前記一対の固定部の間に設けられ、前記別の一方の電池セルに第1のライン上で接触して加圧される頂部と、前記一対の固定部の側で立ち上がる一対の規制部と、前記一対の規制部のそれぞれと前記頂部との間の領域にそれぞれ設けられ、前記頂部の加圧時に内向きに弾性変形して前記第1のラインと平行な第2のライン上で前記基部に突き当たり、前記基部に対して摺動する一対の弾性変形部と、を最小単位の緩衝要素として備える。
【発明の効果】
【0022】
組電池に用いるスペーサにおいて、スペーサがある程度まで撓んだときの荷重の急激な増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態の全固体電池の概略構成を平面視した模式図。
図2】全固体電池の組み立て工程を示す分解斜視図。
図3】同一パターンを繰り返すスペーサの一部を抜き出して示す斜視図。
図4】スペーサの一部を拡大して示す正面図。
図5】二つの電池セルの間に組み込まれたスペーサの一部を拡大して示す正面図。
図6】スペーサが加圧されたときの緩衝部の変形状態を示す正面図。
図7図5中、一点鎖線の丸で囲った領域を拡大して示す模式図。
図8】緩衝部の変位量と荷重との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、全固体電池による電池セルを採用した組電池への適用例である。つぎの項目に沿って説明する。
1.構成
(1)全体の概要
(2)スペーサ
2.作用効果
(1)基本的な作用
(2)面圧付与機能
(3)隙間調整機能
(4)制振機能
(5)耐久性
(6)その他
3.変形例
【0025】
1.構成
(1)全体の概要
図1及び図2に示すように、組電池1は、複数個の電池セル11を筐体形状のホルダ31に収納している。電池セル11は、隣接する二つの電池セル11の間の隙間Cにスペーサ51(電池用スペーサ)を介在させて積層され、積層状態のままホルダ31に収納されている。このときスペーサ51はその厚み方向に弾性変形可能であることから、積層された電池セル11はホルダ31内で積層方向に加圧された状態になっている。
【0026】
電池セル11は、正電極層と負電極層とによって固体電解質層を挟み込んだ構造の電池本体(すべて図示せず)を平べったい矩形形状をした収納容器12に収納した全固体電池である。収納容器12からは、正電極層及び負電極層に接続された電線13が引き出されている。
【0027】
(2)スペーサ
図3は、同一パターンを繰り返すスペーサ51(図2参照)の一部を抜き出して示している。説明の便宜上、図3中の矢印D1の方向から見た面をスペーサ51の正面、矢印D2の方向から見た面をスペーサ51の側面とする。したがって図4ないし図6は、スペーサ51を正面側から見た正面図である。もっとも図4ないし図6は、スペーサ51の全体を示しているわけではなく、後述する最小単位の緩衝要素MEのみを示している。
【0028】
図3ないし図5に示すように、スペーサ51は、互いに対面する二つの電池セル11のうち、一方に接触する基部52と、別の一方に接触する緩衝部53とによって構成されている。説明の便宜上、基部52が接触する一方の電池セル11を符号11A、緩衝部53が接触する別の一方の電池セル11を符号11Bでそれぞれ示す。
【0029】
基部52は、電池セル11Aに面接触する矩形形状をした板状の部材である。電池セル11Aに面接触するという機能上、基部52は平板状をしている。もっとも基部52は完全な平板である必要はなく、スペーサ51としての役割を果たし得る限り、同一平面内から飛び出たような部分を有していてもよい。
【0030】
緩衝部53は、基部52に固定され、電池セル11Bに接触する板状の部材である。もっとも緩衝部53の板状という形状は、基部52とは異なり、波打つような形状をしている。
【0031】
スペーサ51を構成する二つの要素である基部52と緩衝部53とは、一例として金属を材料として生成されている。例えば鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、及びこれらを含む合金などから基部52及び緩衝部53を製造することが可能である。
【0032】
緩衝部53において重要なことは、前述の最小単位の緩衝要素MEという概念である。図3を参照すると、一枚の基部52に対して、緩衝部53は四つの細長い山形形状の部分を連ならせていることがわかる。このような山形形状の部分がより多く設けられていることは、図2を参照すれば容易に理解することができよう。このような山形形状のそれぞれが最小単位の緩衝要素MEをなす。最小単位の緩衝要素MEは、緩衝部53が緩衝作用を果たし得る最小限の構成要素を意味している。
【0033】
最小単位の緩衝要素MEを構成するのは、一対の固定部101、頂部111、一対の規制部131、及び一対の弾性変形部151である。
【0034】
一対の固定部101は、最小単位の緩衝要素MEの両端に当たる領域に設けられた基部52に固定される部分である。基部52に対する固定部101の固定は、例えば溶接や接着剤による接着などのあらゆる手法によって実現可能である。
【0035】
頂部111は、一対の固定部101の間に設けられた最も高さの高い部分である。図5に示すように、頂部111は電池セル11Bに接触する。このとき頂部111は、第1のラインL1上で電池セル11Bに接触して加圧される。第1のラインL1というのは、スペーサ51の正面と背面とをつなぐ方向に延び、電池セル11Bに対して頂部111が接触することになる仮想のラインである。第1のラインL1に沿う方向、つまり正面側又は背面側から見たとき、頂部111は円弧形状をしている。
【0036】
一対の規制部131は、一対の固定部101の側で基部52から垂直に立ち上がり、直角に屈曲している。これらの規制部131は、頂部111が加圧された際、緩衝部53を固定部101の側に倒れ込ませないようにその変形を規制する役割を果たす。規制部131は、頂部111の全高の半分よりも低い高さに設定され、頂部111が加圧されたときの倒れ込みを防止できるだけの剛性を持たされている。
【0037】
一対の弾性変形部151は、一対の規制部131のそれぞれと頂部111との間の領域にそれぞれ設けられ、頂部111の加圧時に内向きに弾性変形する。ここでいう内向きというのは、基部52と緩衝部53とによって囲まれた空間Sの方向という意味である。本明細書では、緩衝部53から見て空間Sの方向を内向き、空間Sとは反対側の方向を外向きと呼ぶ。
【0038】
図6に示すように、弾性変形部151は、頂部111の加圧時に内向きに弾性変形して第1のラインL1と平行な第2のラインL2上で基部52に突き当たり、基部52に対して摺動する。第2のラインL2というのは、第1のラインL1と平行な方向に延び、基部52に対して弾性変形部151が突き当たって摺動することになる仮想のラインである。基部52に突き当たって摺動するという動作を実現するための構成として、弾性変形部151は支持領域152、作用領域153、及び接触領域154を有している。
【0039】
図4ないし図6に示すように、支持領域152は、基部52に沿って基部52と平行に延び、規制部131に連絡する領域である。
【0040】
作用領域153は、斜めに延びて頂部111に連絡する領域である。
【0041】
接触領域154は、内向きに屈曲した形状で支持領域152と作用領域153とを連絡し、頂部111の加圧時に屈曲部分を弾性変形させて基部52に突き当てる領域である。
【0042】
図2及び図3に示すように、基部52に接合される緩衝部53は、最小単位の緩衝要素MEを複数配列している。このとき緩衝部53は、個々の最小単位の緩衝要素MEにおける第1のライン(図5参照)及び第2のライン(図6参照)が平行になるように最小単位の緩衝要素MEを配列している。
【0043】
また最小単位の緩衝要素MEは、第1のライン(図5参照)及び第2のライン(図6参照)に沿う方向、つまり正面側又は背面側から見たとき、頂部111を中央に配置した左右対称の形状を有している。
【0044】
前述したように、弾性変形部151は、頂部111の加圧時に弾性変形して基部52に突き当たり、基部52上を摺動する。そこで基部52は、弾性変形部151の接触領域154が摺動する領域に低摩擦領域LFを設けている。低摩擦領域LFは、その周辺領域を含む基部52の表面よりも摩擦係数の低い領域である。
【0045】
低摩擦領域LFは、一例として基部52の表面よりも摩擦係数の小さな材料からなる低摩擦部材54を基部52に固定することによって設けられている。低摩擦部材54として金属製のものを用いるとしたら、例えば炭素(摩擦係数0.15)、アンチモン(摩擦係数0.26)、スズ(摩擦係数0.29)、銀(摩擦係数0.32)、インジウム(摩擦係数0.32)、マグネシウム(摩擦係数0.34)テルル(摩擦係数0.35)などを用いることができる。各種のPTFEやポリエチレンなど、非金属製のものはより一層摩擦係数が小さく、材料の選択範囲をひろげることができる。
【0046】
低摩擦領域LFは、別の一例として表面粗さの値を低くすることによっても実現可能である。例えば弾性変形部151の接触領域154が摺動する基部52の領域に研磨処理を施すことで、低摩擦領域LFを得ることができる。
【0047】
2.作用効果
(1)基本的な作用
図5に示すように、スペーサ51は、二つの電池セル11(11A、11B)の間に介在している。図6に示すように、この状態から隣接する二つの電池セル11の間の隙間Cを狭めるように電池セル11が変形すると、緩衝部53の頂部111が加圧され(図6中の矢印a参照)、緩衝部53が押し潰されるように変形する。頂部111への加圧力が増すと一対の接触領域154が基部52に接触し、さらに頂部111への加圧力が増すと、接触領域154が基部52上を摺動し、一対の接触領域154が基部52に接触するポイント間の距離が拡大する(図6中の矢印b参照)。
【0048】
図7は、図6中の丸で囲った部分を拡大して示す模式図である。緩衝部53の接触領域154が基部52の上を摺動する際、基部52はその摺動領域に低摩擦領域LFを設けていることから、基部52に対する接触領域154の静止摩擦力及び動摩擦力がともに低減される。これによって緩衝部53の接触領域154は、基部52に対する接触ポイント間の距離を拡大する方向に移動しやすくなり(図6中の矢印b参照)、緩衝部53は円滑に押し潰される。
【0049】
図8は、緩衝部53の変位量に対するスペーサ51の荷重を示すグラフである。図8のグラフ中、Pは一対の接触領域154が基部52に接触するときの緩衝部53の変位量である。このとき例えば特許文献1、2に記載された発明のように、基部52に対する接触領域154の接触位置が動かずに不動であるとすると、図8中に点線で示すように、Pをすぎると荷重は急激に増大する。これに対して本実施の形態では、緩衝部53の変位量がPに達した後、基部52に対して接触領域154は摺動し(図6中の矢印b参照)、しかも低摩擦領域LFによって円滑な摺動が促される。これによって図8中に実線で示すように、スペーサ51の荷重は緩やかに増大する。
【0050】
したがって本実施の形態によれば、組電池1に用いるスペーサ51において、スペーサ51がある程度まで撓んだときの荷重の急激な増大を防止することができる。
(2)面圧付与機能
図4図5とを比較するとわかるように、スペーサ51は、初期状態において、緩衝部53がやや押し潰されたような形態で二つの電池セル11(11A、11B)の間に介在している。このようなスペーサ51は、緩衝部53が基部52に近づき又は離れる方向に弾性を持ち、復元力を発揮する。その結果電池セル11を積層方向に加圧し、電池セル11に面圧を付与する。
【0051】
したがって本実施の形態によれば、電池セル11の充電率を高めてその効率を向上させることができる。
【0052】
(3)隙間調整機能
電池セル11は、発熱することによって膨張し、隣接する二つの電池セル11の間の隙間Cを狭めるように変形する。
【0053】
すると図6に示すように、緩衝部53の頂部111が加圧され(図6中矢印a参照)、弾性変形部151が弾性変形する。このとき前述したように、弾性変形部151が大きく変形すると、その接触領域154が基部52に接触し、さらに頂部111への加圧力が増大すると、接触領域154が基部52上を摺動し、一対の接触領域154による基部52への接触ポイント間の距離が拡大する(図6中の矢印b参照)。
【0054】
したがって本実施の形態によれば、良好な隙間調整機能を実現することができる。
【0055】
(4)制振機能
組電池1は、例えば電動車両(EV)に搭載され、図示しないモータの電力源になる。このため組電池1は、車両の走行に伴い、絶えず振動に晒される環境に置かれる。
【0056】
本実施の形態の組電池1は、緩衝部53の変位量が増加してもスペーサ51の弾性が確保されて十分な制振作用が得られるため(図8参照)、組電池1にもたらされる振動を制振することができる。その結果外部から振動が与え続けられることによって生ずる各部の損傷を防止し、騒音の発生などの不都合を抑制することができる。
【0057】
(5)耐久性
本実施の形態のスペーサ51は、緩衝部53が制振作用を発揮することによって耐久性が向上するのみならず、金属製の基部52及び緩衝部53によって構成されていることから、本来的に高い耐久性を有している。
【0058】
したがって本実施の形態のスペーサ51及びこれを用いた組電池1は、耐久性を高めることができるという効果を有している。
【0059】
(6)その他
最小単位の緩衝要素MEは、頂部111を中央に配した左右対称の形状を有している。したがって左右がバランスよく撓み、安定した面圧付与機能、隙間調整機能、及び制振機能を果たすことが可能である。
【0060】
緩衝部53の頂部111は、円弧形状を有している。したがって加圧された際、弾性変形部151の接触領域154を内側に撓みやすくすることができる。
【0061】
規制部131の高さは、頂部111の全高の半分よりも低い。したがって規制部131の剛性を高めることができ、頂部111が加圧された際、弾性変形部151に弾性復元力を集中させることが可能になる。
【0062】
弾性変形部151は、基部52に沿って平行に延びる支持領域152と斜めに延びる作用領域153とを内向きに屈曲した接触領域154で連絡した形状を有している。したがって頂部111が加圧された際、接触領域154を内側に撓みやすくすることができる。
【0063】
3.変形例
実施に際しては、各種の変更や変形が可能である。
【0064】
例えばスペーサ51を構成する基部52及び基体53の形状や大きさ、縦横比などは一例を示したにすぎず、実施に際しては各種の変形や変更が可能である。緩衝部53が有する頂部111や弾性変形部151などの形状や大きさ、高さと幅との比率、曲率なども同様である。
【0065】
本実施の形態では、スペーサ51の材料として金属を例示したが、実施に際しては金属に限らず、例えば樹脂やゴムによってスペーサ51を形成するようにしてもよい。このときスペーサ51を構成する基部52と緩衝部53とは必ずしも同一の材料で製造する必要はなく、例えば樹脂製の基部52に金属製の緩衝部53という組み合わせや、金属製の基部52にゴム製の緩衝部53という組み合わせなど、様々な材料の組み合わせが可能である。
【0066】
本実施の形態は、電池セル用のスペーサ51を介在させる電池セルとして全固体電池への適用例を示したが、実施に際してはこれに限定する必要はなく、電解液を封入するリチウムイオン電池へ適用するようにしてもよい。
【0067】
その他実施に際しては、あらゆる変形や変更が許容される。
【符号の説明】
【0068】
1 組電池
11、11A、11B 電池セル
12 収納容器
13 電線
31 ホルダ
51 スペーサ
52 基部
53 緩衝部
54 低摩擦部材
101 固定部
111 頂部
131 規制部
151 弾性変形部
152 支持領域
153 作用領域
154 接触領域
C 隙間
S 空間
L1 第1のライン
L2 第2のライン
LF 低摩擦領域
ME 最小単位の緩衝要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8