(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173900
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】水素燃焼バーナ
(51)【国際特許分類】
F23D 14/16 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
F23D14/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086443
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】朝原 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 武志
(72)【発明者】
【氏名】安里 勝雄
【テーマコード(参考)】
3K017
【Fターム(参考)】
3K017BA05
3K017BB01
3K017BC01
3K017BF03
3K017BG01
(57)【要約】
【課題】燃料ガスを水素ガスとし、水素ガスと一次空気との混合気が供給される混合気室11を有するバーナボディ1と、混合気室に面するバーナボディの開放面12を覆う燃焼板部2とを備え、混合気が燃焼板部から噴出して燃焼する水素燃焼バーナにて逆火を効果的に抑制することができるように構成する。
【解決手段】燃焼板部として、金属繊維を織成したり、編成したりすることなく積層した積層体を焼結した焼結体シートを有するものを用いる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスを水素ガスとし、当該水素ガスと一次空気との混合気が供給される混合気室を有するバーナボディと、前記混合気室に面する前記バーナボディの開放面を覆う燃焼板部とを備え、前記混合気が前記燃焼板部から噴出して燃焼する水素燃焼バーナにおいて、
前記燃焼板部が、金属繊維を織成したり、編成したりすることなく積層した積層体を焼結した焼結体シートを有することを特徴とする水素燃焼バーナ。
【請求項2】
前記金属繊維が、Feと、Al、Cr、Mn及びSiから選択される少なくとも1種またはこれらの炭化物とで構成され、前記焼結体シートの焼結時の目付量が1200g/m2~1800g/m2の範囲に設定されることを特徴とする請求項1記載の水素燃焼バーナ。
【請求項3】
前記金属繊維として、その線径が50μm~100μmの範囲のものを用いることを特徴とする請求項2記載の水素燃焼バーナ。
【請求項4】
前記焼結体シートが60%~80%の範囲の空隙率を持つことを特徴とする請求項1記載の水素燃焼バーナ。
【請求項5】
前記焼結体シートが前記混合気の流れ方向下流側に向けて凸の湾曲形状に成形されることを特徴とする請求項1記載の水素燃焼バーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスと空気との混合気を燃焼ガスとして用いる水素燃焼バーナに関する。
【背景技術】
【0002】
上記種の水素(表面)燃焼バーナは、例えば特許文献1で知られている。このものは、水素ガスと一次空気との混合気が供給される混合気室を有するバーナボディと、混合気室に面するバーナボディの開放面を覆う燃焼板部とを備える。そして、混合気が燃焼板部から噴出して燃焼する。燃焼板部としては、耐高温性材料である金属繊維を織成或いは編組して布帛状に形成したシート材が用いられる。
【0003】
然しながら、上記従来例のようなシート材では、繊維同士の接触箇所が多く、それらの接触箇所の面積も大きい。このため、燃焼速度が非常に速い水素ガスと一次空気との混合気を燃焼させることで、燃焼板部の表面近くで混合気が燃焼して燃焼板部の表面側が高温になったときに、その熱が混合気室に面するシート材の裏面側へと伝わり易くなる。このようにシート材の裏面側まで高温になると、火炎が混合気室内に伝播する逆火を生じ易くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、逆火を効果的に抑制することができる水素燃焼バーナを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、燃料ガスを水素ガスとし、当該水素ガスと一次空気との混合気が供給される混合気室を有するバーナボディと、前記混合気室に面する前記バーナボディの開放面を覆う燃焼板部とを備え、前記混合気が前記燃焼板部から噴出して燃焼する水素燃焼バーナにおいて、前記燃焼板部が、金属繊維を織成したり、編成したりすることなく積層した積層体を焼結した焼結体シートを有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、焼結体シートは、その焼結時に金属繊維がランダムに絡み合って結合(溶着)することで複雑で且つ所謂逆火限界の孔径より小さい無数の微小隙間が形成されたものとなり、しかも、上記従来例のものと比較して金属繊維同士の接触箇所が少なく、また、接触箇所の面積も小さくなる。このため、燃焼板部の表面近くで混合気が燃焼して燃焼板部の表面(燃焼面)側が高温になったとしても、その熱が混合気室に面する焼結体シートの裏面側へと伝わり難くすることができる。しかも、無数の微小隙間を通って常温の混合気が噴出される際に、当該混合気との接触面積が大きくなることで、焼結体シート自体の温度上昇も抑制される。このように本発明では、燃焼板部の焼結体シートには微小隙間しかないことと、焼結体シートの裏面側が高温になり難いこととが相俟って、逆火を効果的に抑制することができる。なお、本発明における金属繊維は、構成材料として半金属を含んでいる。
【0008】
本発明において、前記金属繊維がFeと、Al、Cr、Mn及びSiから選択される少なくとも1種またはこれらの炭化物とで構成され、前記焼結体シートの焼結時の目付量が1200g/m2~1800g/m2の範囲に設定されることが好ましい。この場合、目付量が1200g/m2より少ないと、各微小隙間が大きくなり過ぎて逆火を抑制できない虞がある一方で、1800g/m2より多くなると、混合気の通過抵抗が大きくなる。
【0009】
また、本発明において、前記金属繊維として、その線径が50μm~100μmの範囲のものを用いることが好ましい。線径が50μmより小さいと、焼結時に金属繊維同士が絡み合う(接触する)面積が増加して焼結体シートの裏面側へ熱が伝わり易くなる一方で、その線径が100μmより大きくなると、各微小隙間が大きくなり過ぎて逆火を抑制できない虞がある。
【0010】
更に、本発明において、前記焼結体シートが60%~80%の範囲の空隙率を持つことが好ましい。これにより、混合気が焼結体シートを通過するときの圧力損失を抑制することができる。
【0011】
また、本発明において、前記焼結体シートが前記混合気の流れ方向下流側に向けて凸の湾曲形状に成形されることが好ましい。これにより、焼結体シートの表面側が加熱されたときに、焼結体シート自体が歪み難くでき、焼結体シートが局所的に高温になって逆火することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の水素燃焼バーナを燃焼筐への設置状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、燃料ガスとして水素ガスを用いる本発明の水素燃焼バーナCBの実施形態を説明する。なお、本発明にいう「水素」は、純水素に限定されるものではなく、例えば、臭い付けのための腐臭剤を少量で添加するような場合も含む。
【0014】
図1及び
図2に示すように、水素燃焼バーナCBは、全一次燃焼式のものであり、燃料ガスと一次空気との混合気が供給される混合気室11を有するバーナボディ1と、混合気室11に面するバーナボディ1の開放面12を覆う燃焼板部2とを備える。そして、水素燃焼バーナCBは、バーナボディ1の開放面の12の周縁部、即ち、下面周縁部13にて図外の給湯用の熱交換器が収納される燃焼筐Fbのフランジ部Fb1にネジ(図示せず)により締結され、熱交換器を加熱するために使用される。バーナボディ1にはまた、図外のファンによって混合気が供給される流入口14が開設されている。
【0015】
図3も参照して、燃焼板部2は、一方向に長手の額縁状で板金製のバーナ枠21と、バーナ枠21で囲われる矩形の第1開口22をバーナボディ1側(上方)から覆うように設けられる第1の焼結体シート23と、第1の焼結体シート23の混合気の流れ方向上流側の面である裏面(上面)に重ねて配置される、多数の分布孔24aが形成された分布板24とで構成される。バーナ枠21は、第1開口22と同一面上に位置する開口周縁部21aと、開口周縁部21aからバーナボディ1側(上方)に屈曲した側板部21bと、側板部21bの上端から外方に張出す枠フランジ部21cとを有する。そして、第1の焼結体シート23の裏面に分布板24を重ねた状態でこれらの周縁部をバーナ枠21の開口周縁部21aに一定間隔でスポット溶接することで組み立てられている。この状態で、枠フランジ部21cを介してバーナボディ1の下面周縁部13に取り付けられる。なお、第1開口22は、前後方向に沿う断面形状が円弧状に湾曲している。同様に、第1の焼結体シート23及び分布板24も前後方向に沿う断面形状が円弧状に湾曲、言い換えると、混合気の流れ方向下流側に向けて凸の湾曲形状に成形されている。
【0016】
第1の焼結体シート23は、金属繊維23aを織成したり、編成したりすることなく積層した積層体を焼結したものである。金属繊維23aとしては、Feと、Al、Cr、Mn及びSiから選択される少なくとも1種またはこれらの炭化物とで構成されるもの、例えば、Feを主成分とするステンレス系のものが用いられ、その線径が50μm~100μmの範囲のものが用いられる。第1の焼結体シート23の製作には、例えば、加圧成形と焼結とを同時に実施するホットプレス(熱間加工法)や、HIP(Hot Isostatic Pressing)といった公知の方法を利用することができる。例えば、ホットプレスにより製作する場合には、特に図示して説明しないが、金型のキャビティ内に、金属繊維23aを織成したり、編成したりすることなく積層して積層体とする。このとき、目付量が1200g/m2~1800g/m2の範囲に設定される。次に、パンチによって積層体に対して一軸方向から圧力を加え、この状態で金型を介して積層体を所定温度に加熱保持する。このとき、第1の焼結体シート23は混合気の流れ方向下流側に向けて凸の湾曲形状に成形される。
【0017】
以上のように製作される第1の焼結体シート23は、
図3中に一部拡大して示すように、焼結時に金属繊維23aがランダムに絡み合って結合(溶着)することで、複雑で且つ逆火限界の孔径より小さい無数の微小隙間23bが形成されたものとなり、上記従来例のものと比較して金属繊維23a同士の接触箇所が少なく、また、接触箇所の面積も小さくなる。この場合、第1の焼結体シート23が60%~80%の範囲の空隙率を持つと共に0.5mm~3.0mmの板厚を持つ。なお、金属繊維の線径が50μmより小さいと、焼結時に金属繊維同士が絡み合う(接触する)面積が増加して第1の焼結体シート23の裏面側へ熱が伝わり易くなる一方で、その線径が100μmより大きくなると、各微小隙間23bが大きくなり過ぎて逆火を抑制できない虞がある。また、目付量が1200g/m
2より少ないと、各微小隙間23bが大きくなり過ぎて逆火を抑制できない虞がある一方で、1800g/m
2より多くなると、上記範囲内の空隙率が得られず、混合気の通過抵抗が大きくなる。また、空隙率が上記範囲から外れると、混合気が第1の焼結体シート23を通過するときの圧力損失が大きくなってしまう。
【0018】
図4も参照して、混合気室11内には、逆火抑制板部3が配置されている。逆火抑制板部3は、一方向に長手の額縁状で板金製の支持枠31と、支持枠31で囲われる、第1開口22と同等の輪郭を持つ第2開口32を燃焼板部2と反対側(上方)から覆うように設けられる第2の焼結体シート33とを備える。第2の焼結体シート33としては、第1の焼結体シート23と同様に製作したものを利用することができる。そして、支持枠31を介して、混合気室11内に形成される額縁状の座面15にネジ(図示せず)により締結される。逆火抑制板部3の締結状態では、第2の焼結体シート33が第1の焼結体シート23に対し隙間Gpを存して対向するようになる。第1及び第2の両焼結体シート23、33相互の間の隙間Gpは5mm~30mmの範囲に設定される。上記間隔が5mmより短いと、燃焼板部2が火炎で加熱されたときに燃焼板部2からの輻射熱が優勢となって逆火抑制板部3が過熱される虞がある一方で、30mmより長くなると、燃焼板部2と逆火抑制板部3との間の隙間Gpに留まる混合気の量が多くなり、当該隙間Gpに火炎が伝播したときに大きな音が発生してしまう。
【0019】
上記水素燃焼バーナCBでは、バーナボディ1の流入口14から混合気室11内に供給された混合気が、第2の焼結体シート33の無数の微小隙間33bを通って燃焼板部2へと供給される。そして、逆火抑制板部3の第2の焼結体シート33を通過した混合気が燃焼板部2と逆火抑制板部3との隙間Gpを通って燃焼板部2の第1の焼結体シート23の各微小隙間23bから噴出して全一次燃焼(二次空気が不要な燃焼)する。これにより、燃焼板部2の表面近くで混合気が燃焼することで第1の焼結体シート23の表面側が高温になったとしても、その熱が混合気室11に面する第1の焼結体シート23の裏面側へと伝わり難くすることができる。しかも、無数の微小隙間23bを通って常温の混合気が噴出される際に、当該混合気との接触面積が大きくなることで、第1の焼結体シート23自体の温度上昇も抑制される。結果として、第1の焼結体シート23には微小隙間しかないことと、第1の焼結体シート23の裏面側が高温になり難いこととが相俟って、逆火を効果的に抑制することができる。また、第1の焼結体シート23を混合気の流れ方向下流側に向けて凸の湾曲形状に成形しておけば、第1の焼結体シート23の燃焼面側が加熱されたときに、焼結体シート23自体が歪み難くでき、焼結体シート23が局所的に高温になって逆火することも抑制できる。
【0020】
また、常温の混合気が第2の焼結体シート33を通過する際には、同様に、混合気との接触面積が大きくなることで、第2の焼結体シート33、即ち、逆火抑制板部3自体の温度上昇が抑制される。しかも、微小隙間33bが無数に形成されていることで、圧力損失も抑制される。このため、仮に燃焼板部2と逆火抑制板部3との間の隙間Gpに火炎が伝播したとしても、逆火抑制板部3の温度上昇が抑制されているため、逆火抑制板部3で消炎させることができる。更に、隙間Gpに伝播した火炎が消炎されないで残る場合でも、逆火抑制板部3には微小隙間33bしかないことで、その上流側への伝播が抑制される。結果として、逆火抑制板部3を更に配置しておけば、逆火を確実に抑制することができる。
【0021】
更に、水素燃焼バーナCBでは、燃焼板部2と逆火抑制板部3との間に位置する混合気室11の部分に温度センサ4が配置されている。温度センサ4としては、熱電対やバイメタルスイッチといった公知のものを利用することができる。これにより、仮に上記隙間Gpに伝播した火炎が消炎されず、隙間Gpに面する第2の焼結体シート33表面(下面)で燃焼する場合に、これに伴う温度上昇を温度センサ4によって検知し、例えば、混合気の供給を停止することで、水素燃焼バーナCBの破損を招く燃焼を速やかに停止することができる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、逆火抑制板部3やセンサ4を更に配置したものを例に説明したが、例えば、混合気に少量の還元剤を添加して火炎温度を低下させるような場合には、逆火抑制板部3やセンサ4といった部品は省略することができる。
【符号の説明】
【0023】
CB…水素燃焼バーナ、1…バーナボディ、11…混合気室、12…開放面、2…燃焼板部、23…焼結体シート、23a…金属繊維。