(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017398
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】水処理システムおよび水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230131BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20230131BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20230131BHJP
B01D 65/08 20060101ALI20230131BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230131BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20230131BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20230131BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20230131BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
C02F1/44 F
C02F3/12 S
B01D61/14 500
B01D65/08
B01D69/00
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F3/00 G
C12N1/21
C12N9/00
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121649
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】胡 錦陽
(72)【発明者】
【氏名】川田 滋久
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 建至
(72)【発明者】
【氏名】高松 誠昇
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4D006
4D028
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050EE05
4B050LL05
4B065AA15X
4B065AB01
4B065AC14
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4D006KE06P
4D006KE30Q
4D006MA22
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4D006PC62
4D028AB00
4D028AB03
4D028AC06
4D028BC17
4D028BD17
(57)【要約】
【課題】 運転コストの低減、稼働率の向上、および処理水の水質安定化を実現するファウリング対策を備えた水処理システムを提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、水処理システムは、処理槽と、分離膜と、培養槽と、供給部とを備える。処理槽は、原水を活性汚泥により処理する。分離膜は、処理槽に設けられ、原水が活性汚泥によって処理されてなる処理水と、活性汚泥とを分離する。培養槽は、分離膜に付着する付着物質を分解する酵素を分泌する酵素分泌物質を培養する。供給部は、培養槽で培養された酵素分泌物質から分泌された酵素を、処理槽へ供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を活性汚泥により処理する処理槽と、
前記処理槽に設けられ、前記原水が前記活性汚泥によって処理されてなる処理水と、前記活性汚泥とを分離する第1の分離膜と、
前記第1の分離膜に付着する付着物質を分解する酵素を分泌する酵素分泌物質を培養する培養槽と、
前記培養槽で培養された前記酵素分泌物質から分泌された酵素を、前記処理槽へ供給する供給部とを備える、水処理システム。
【請求項2】
前記付着物質と共存された酵素分泌菌から分泌された酵素の遺伝子情報を、予め定められた宿主微生物に導入することによって、前記培養槽へ提供される前記酵素分泌物質を生成する生成部をさらに備える、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記酵素分泌菌は、バチルス属菌である、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記培養槽に設けられ、前記酵素分泌物質が前記供給部によって前記処理槽へ供給されないように、前記酵素分泌物質と、前記酵素分泌物質から分泌された酵素とを分離する第2の分離膜をさらに備える、請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記酵素分泌物質は大きさが0.4μm以上であり、前記第2の分離膜は、0.4μm以上の大きさの物質の通過を阻止する、請求項4に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記酵素分泌物質を培養するための基質に、前記原水の一部を使用する、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記第1の分離膜の膜間差圧を測定する差圧センサと、
前記差圧センサによって測定された膜間差圧に基づいて、前記供給部による前記酵素の供給量を制御するコントローラとをさらに備える、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の水処理システム。
【請求項8】
処理槽において、原水を活性汚泥により処理することと、
前記処理槽に設けられた分離膜によって、前記処理槽において、前記原水が前記活性汚泥によって処理されてなる処理水と、前記活性汚泥とを分離することと、
培養槽において、前記分離膜に付着する付着物質を分解する酵素を分泌する酵素分泌物質を培養することと、
前記培養槽で培養された前記酵素分泌物質から分泌された酵素を、前記処理槽へ供給することとを備える、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機性排水を処理する水処理システムおよび水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、都市下水や食品工場等から排出される有機性排水を処理する水処理システムには、活性汚泥と呼ばれる微生物の集合体が利用される膜分離活性汚泥法(以下、「MBR」とも称する)が適用されているものがある。
【0003】
MBRでは、有機性排水を含む原水が、活性汚泥と呼ばれる微生物の集合体によって処理されることによって、有機物が分解される。さらには、有機物が分解された処理水が、分離膜によって、活性汚泥と分離され、分離液として排出される。
【0004】
分離液には、固形分である活性汚泥は含まれず、また、有機物が分解されているため、非常に良好な処理水として排出される。
【0005】
分離膜で分離された固形分は、ポンプによりMBRの前段に返送され、活性汚泥として再利用されるとともに、一部が余剰汚泥として排出され、処分される。
【0006】
このように、MBRでは、分離膜による固液分離によって、より清澄な分離液が得られること、運転管理が容易であること、省スペースでの実現が可能であること、といったメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-144165号公報
【特許文献2】特開2018-153788号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】バイオポリマー分解Bacillus sp.の生理特性、第55回下水道研究発表会、p.218-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、分離膜には、運転経過とともに、ファウリングと称される目詰まりが生じる。分離膜にファウリングが生じると、分離膜における分離効率が低下し、水処理システム全体の処理能力も低下するのみならず、処理水の水質悪化をもたらす恐れがある。
【0010】
このため、分離膜が利用されているMBRでは、分離膜のために種々のファウリング対策が講じられている。例えば、洗浄ブロアから供給される空気によって発生した気泡を、分離膜の下方から上昇させ、この気泡の上昇に伴う剪断力によって、分離膜面を洗浄している。
【0011】
このファウリング対策は、分離膜を運転しながら実施できるが、この対策のみではファウリングの発生を緩和できるものの効果は十分とは言えず、運転中常時実施したとしても、分離膜のファウリングは進行し、時間経過とともに結局は、膜分離ができない状態になってしまう。また、分離膜を運転しながら常時洗浄ブロアを動作させるためのコストが、水処理システム全体の運転コストのほとんどを占めるなど、コスト的なインパクトも大きい。
【0012】
このように、洗浄ブロアを動作させながら運転しても、ファウリングを十分に除去できないことから、分離膜の状態を回復させるために、おおよそ2週間から1か月の頻度で、分離膜の運転を停止し、分離膜に対して、次亜塩素酸ナトリウムなどによる薬液洗浄が行われている。
【0013】
しかしながら、薬液洗浄は、分離膜の運転の停止を伴うので、水処理システムの稼働率の低下をもたらす。
【0014】
分離膜によって固液分離する系統を複数備えている水処理システムであれば、ある系統の分離膜の薬液洗浄中であっても、他の系統の分離膜によって原水を処理できるので、水処理システム全体を停止する必要は無い。しかしながら、この場合は、少ない系統数で運転することになるので、処理量は低下する。また、薬液洗浄中の系統の分離膜の運転を停止することで、運転中の分離膜の数が減ることから、運転中の系統の分離膜は、処理負荷が通常時よりも大きくなり、ファウリングの発生が加速されるとともに処理水の悪化を伴う場合がある。
【0015】
また、薬液洗浄が終了し、運転を停止されていた系統の分離膜の運転が再開された直後は、使用されていた薬液が処理水に混入するので、薬液がすべて排出されるまでは、処理水を処理槽の前段部に返送させるなどの対策を取る必要があり、系外に処理水を排出できない。
【0016】
このように、薬液洗浄は、処理量低下および処理水の水質悪化の観点からも好ましいものではなく、頻度も、使用する薬液の量も、可能な限り低く抑えることが好ましい。
【0017】
以上のように、分離膜を利用する水処理システムでは、相応の費用および手間をかけて、分離膜のファウリング対策を実施しているものの、必ずしも十分とは言えない。
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、運転コストの低減、稼働率の向上、および処理水の水質安定化を実現するファウリング対策を備えた水処理システムおよび水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
実施形態の水処理システムは、処理槽と、分離膜と、培養槽と、供給部とを備える。処理槽は、原水を活性汚泥により処理する。分離膜は、処理槽に設けられ、原水が活性汚泥によって処理されてなる処理水と、活性汚泥とを分離する。培養槽は、分離膜に付着する付着物質を分解する酵素を分泌する酵素分泌物質を培養する。供給部は、培養槽で培養された酵素分泌物質から分泌された酵素を、処理槽へ供給する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、酵素分泌物質生成部における酵素分泌物質の生成メカニズムを説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、酵素の遺伝子情報を同定する手順を説明する図である。
【
図4A】
図4Aは、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例を示すフローチャート(1/2)である。
【
図4B】
図4Bは、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例を示すフローチャート(2/2)である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの構成例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、コントローラによる注入ポンプの吐出量制御を説明するための入出力図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の各実施形態の水処理方法が適用された水処理システムを、図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの構成例を示す概略図である。
【0023】
水処理システム10は、例えば下水処理のために好適に利用され、酵素分泌物質生成部20と、酵素分泌物質培養槽30と、処理槽40とを備えている。
【0024】
処理槽40は内部に活性汚泥bを貯えており、下水等の有機性排水を含む原水aを受け入れる。処理槽40の底部には、補助散気ブロワ42に接続された散気管43が設けられており、補助散気ブロワ42から送られた空気が、散気管43によって気泡gとなって活性汚泥bへ供給される。これによって活性汚泥bの活性が維持され、原水aに含まれる有機物の、活性汚泥bによる分解処理が促進される。
【0025】
処理槽40の底部にはさらに、散気管43よりも下流側に分離膜41が設けられており、分離膜41は、原水a中の有機物が分解処理されてなる処理水cと、活性汚泥bとを分離する。
【0026】
これによって、処理槽40からは、固形分である活性汚泥bは含まれず、また、有機物が分解された非常に良好な処理水cが排出される。
【0027】
一方、分離膜41で分離された固形分iの一部は、返送汚泥ポンプ46により処理槽40の前段に返送され、処理槽40において活性汚泥bとして再利用されるとともに、残りの固形分iは、余剰汚泥として系外へ排出され、処分される。
【0028】
分離膜41には、運転経過とともにファウリングが生じる。そこで、水処理システム10は、ファウリング対策として、処理槽40内の分離膜41の下に、膜洗浄ブロワ44に接続された散気管45を設け、分離膜41の運転中、この散気管45に、膜洗浄ブロワ44から空気を送る。膜洗浄ブロワ44から送られた空気は、散気管45によって気泡Gとなって、分離膜41に向かって上昇する。この気泡Gの上昇による剪断力によって分離膜41を洗浄することで、分離膜41のファウリングを緩和する。
【0029】
水処理システム10は、分離槽41の運転中に適用できるさらなるファウリング対策として、分離膜41に付着する付着物質dを分解する酵素hを、処理槽40に供給する。このため、この酵素hを分泌する酵素分泌物質qを、酵素分泌物質培養槽30において培養する。そして、酵素分泌物質qから分泌された酵素hを含む培養液fを、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40に供給する。これによって、処理槽40へ酵素hが供給される。処理槽40内では、酵素hが、分離膜41に付着する付着物質dを分解することで、ファウリングを緩和する。このファウリング対策は、前述した気泡Gによる洗浄によるファウリング対策と併用して適用することができる。
【0030】
酵素分泌物質培養槽30から処理槽40への培養液fの供給は、酵素分泌物質培養槽30と処理槽40との間に設けられた注入ポンプ32によって行う。
【0031】
酵素分泌物質培養槽30において培養される酵素分泌物質qは、酵素分泌物質生成部20において生成され、酵素分泌物質培養槽30へ供給される。
【0032】
酵素分泌物質生成部20では、以下のように、遺伝子組み換え技術によって酵素分泌物質qが生成される。
【0033】
図2は、酵素分泌物質生成部20における酵素分泌物質qの生成メカニズムを説明するための概念図である。
【0034】
酵素分泌物質生成部20では、ファウリングをもたらす付着物質dと共存された、例えばバチルス属菌のような酵素分泌菌から分泌された酵素hの遺伝子情報kが、宿主微生物mに導入されることによって、酵素分泌物質qが生成される。
【0035】
付着物質dとしては、EPS(Extracellular polymeric substances)と呼ばれる微生物が放出する細胞外代謝産物の寄与が大きいと考えられている。EPSは、多糖類とタンパク質、核酸などの成分によって、複雑に構成されることが知られており、EPSの分解に寄与する酵素は、バチルス族菌が生産するタンパク質を分解するプロテアーゼ、核酸を分解するヌクレアーゼ、多糖類を分解するグルカナーゼ、例えばアミラーゼ、セルラーゼ、リアーゼ、キシラナーゼ等の酵素が有効である。またEPSを合成する微生物を死滅させることも有効であるため、微生物の細胞壁を破壊するリゾチームも有効である。
【0036】
図3は、酵素hの遺伝子情報kを同定する手順を説明する図である。
【0037】
先ず、
図3(1)に示すように、ファウリングの進行した分離膜41から付着物質dを取得する。分離膜41からの付着物質dの取得方法としては、分離膜41の表面を掻きとることで実施できる。また、分離膜41を水酸化ナトリウム、しゅう酸、クエン酸、EDTAなどの薬液に浸漬させ、付着物質dを抽出することでも実施できる。
【0038】
次に、
図3(2)に示すように、取得した付着物質dを、酵素分泌菌であるバチルス属菌jと共にビーカ(図示せず)に入れて培養する。
【0039】
バチルス属菌jが優占化した汚泥は、ファウリング抑制に寄与することが知られている(非特許文献1参照)。これは、バチルス属菌jが放出する酵素によるものと考えられる。したがって、
図3(2)に示すように、付着物質dとバチルス属菌jとが共存する環境下において、バチルス属菌jは、例えばプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼのような酵素を分泌する。これらは、付着物質dを分解する酵素hである。
【0040】
これによって、
図3(3)に示すように、酵素hによる付着物質dの分解が進行する。そして、分解がある程度進んだ段階で、固液分離することによって、
図3(4)に示すように、酵素hを含有する含有液wを取得することができる。
【0041】
次に、
図3(5)に示すように、含有液wから酵素hを抽出し、例えばプロテオーム解析によって、酵素hの配列情報を読み取る。さらに
図3(6)に示すように、バチルス属菌jの遺伝子情報(DNA情報)と、酵素hのアミノ酸配列情報とを照合し、バチルス属菌jから分泌された酵素hの遺伝子情報(DNA情報)kを同定する。
【0042】
図2に示される遺伝子情報kは、このようにして同定されたものである。
【0043】
一般に、生物は、所有している遺伝子情報(DNA情報)kを基に、酵素の合成を行っている。したがって、
図2に示すように、特定の生物である宿主微生物mに、酵素hの情報をコードしている遺伝子情報kを人為的に導入(すなわち、遺伝子組み換え)することで、宿主微生物mを、酵素hを発現する酵素分泌物質qにすることが可能である。
【0044】
そこで酵素分泌物質生成部20において、例えばPCR法または人工合成によって、酵素hの遺伝子配列断片を取得し、分泌型ベクターに組み込み、この分泌型ベクターを宿主微生物mに導入することで酵素分泌物質qを作成する。
【0045】
宿主微生物mには、増殖が所定速度よりも速く、また酵素分泌物質qとの固液分離が容易な大きさ(例えば、0.4μm以上)を有するものを用いる。したがって、例えば、Pseudomonas alcaligenes、P. putida、P. dacunhae等のPseudomonas属のグラム陰性細菌、Gluconobacter melanogenes、G. oxydans等のGluconobacter属のグラム陰性細菌、Alcaligenes eutrophus等のAlcaligenes属のグラム陰性細菌、Acetobacter suboxydans等の酢酸菌、Escherichia coli、E. freundii、Enterobacter aerogenes等の大腸菌群細菌、Erwinia carotovora、Serratia marcescens、Protaminobacter rubrum、Proteus mirabilis等のその他のグラム陰性細菌などを、宿主微生物mとして適用することができる。
【0046】
また、Streptococcus faecalis、Leuconostoc mensenteroides、Lactobacillus delbruckii等の乳酸菌、Bacillus subtilis、B. megaterium等のBacillus属のグラム陽性細菌、Clostridium acetobutylicum、C. beijerinckii等のClostridium 属のグラム陽性細菌、Arthrobacter simplex等のArthrobacter属のグラム陽性細菌、Corynebacterium glutamicum、Brevibacterium ammoniagenes、B. flavum、Propionibacterium sp. 等のその他のグラム陽性細菌などを、宿主微生物mとして適用することもできる。
【0047】
さらには、Nocardia rhodocrous、Streptomyces phaeochromogenes、S. rimosus、S. roseochromogenes、S. tendae、S. rimosus等の放線菌、Saccharomyces sp.、Hansenula jadinii、Candida tropicalis、Rhodotorula minuta等の酵母、Rhizopus nigricans、R. stolonofer、Curvularia lunata、Aspergillusochraceus、A. niger、Penicillium chrysogenum等の糸状菌なども、宿主微生物mとして適用することができる。
【0048】
このようにして酵素分泌物質生成部20において作成された酵素分泌物質qを、酵素分泌物質培養槽30へ供給する。
【0049】
図1に戻って示すように、酵素分泌物質培養槽30には、酵素分泌物質qを培養するための基質rである炭素源、窒素源、無機塩類も供給される。供給された基質rは、酵素分泌物質培養槽30において、酵素分泌物質qのための培養液fとして使用される。
【0050】
炭素源の例としては、グルコース、フルクトース、シュークロース等の糖類や、デンプンまたはデンプン加水分解物等の炭水化物が挙げられる。
【0051】
窒素源の例としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機酸、または有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティーブリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種発酵菌体消化物等が挙げられる。
【0052】
無機塩類の例としては、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0053】
なお、水処理システム10の利用用途では、後述するように酵素hの純度を高める必要がないため、基質rとして、上記の代わりに、食品工場の有機性の廃棄物や食品工場から排出される廃液や、原水a自体を適用することもできる。これによって、基質rのコストを低減することができる。ただし、廃液や原水aを基質rとして適用する場合、酵素分泌物質培養槽30内でのコンタミネーションを避けるために、滅菌してから、酵素分泌物質培養槽30内に供給する。
【0054】
酵素分泌物質培養槽30に供給された酵素分泌物質qは、基質rを含む培養液fにおいて培養され、増殖する。酵素分泌物質qの増殖に応じて、酵素分泌物質qから培養液f内に酵素hが分泌される。
【0055】
このように酵素hを含む培養液fは、前述したように、注入ポンプ32によって、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40へ供給される。ただし、酵素分泌物質培養槽30において、培養液fには、酵素分泌物質qも含まれている。酵素分泌物質qは、酵素hの生成のために、繰り返し使用されるものであること、また、前述したように遺伝子組み換え技術が適用されており、水処理システム10の系外へ排出されることは好ましくないことから、処理槽40へ供給されることなく、酵素分泌物質培養槽30内に留めておく必要がある。
【0056】
このため、酵素分泌物質培養槽30には、酵素分泌物質qが注入ポンプ32によって処理槽40へ供給されないように、培養液fから酵素分泌物質qを分離する分離膜31が設けている。
【0057】
酵素分泌物質qは、
図2に示すように、宿主微生物mに酵素hの遺伝子情報kが導入されたものである。したがって、酵素分泌物質qと宿主微生物mとの大きさは同じである。宿主微生物mの大きさは0.4μm以上であるので、酵素分泌物質qの大きさも0.4μm以上である。
【0058】
分離膜31は、0.4μm以上の大きさの物質の通過を阻止する。したがって、酵素分泌物質qは、分離膜31を通過できない。よって、注入ポンプ32は、酵素分泌物質qが除去された培養液fを処理槽40へ供給することができる。
【0059】
なお、酵素分泌物質培養槽30は、酵素hを含む培養液fを含んでいるので、分離膜31には、ファウリングはほとんど生じない。このため、分離膜41のために設けられている膜洗浄ブロワ44および散気管45のようなファウリング対策のためのブロワ設備は、分離槽31には不要である。
【0060】
処理槽40へ培養液fが供給されると、処理槽40内では、培養液fに含まれている酵素hが、分離膜41に付着する付着物質dを分解する。これによってファウリングの抑制効果が高まるので、併用する膜洗浄ブロワ44の負荷を低減でき、膜洗浄ブロア44の運転コストを、酵素hを処理槽40へ供給しない場合の1/3程度とすることができる。
【0061】
また、水処理システム10でも、従来技術で説明したような薬液洗浄を実施できるが、酵素hの供給により運転中にすでにファウリングの生成は抑制されているので、薬液洗浄の実施頻度のみならず使用される薬液の量も、酵素hを処理槽40へ供給しない場合よりも少なくて済む。
【0062】
次に、以上のように構成した第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例について説明する。
【0063】
図4Aおよび
図4Bは、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの動作例を示すフローチャートである。
【0064】
水処理システム10では、酵素分泌物質生成部20において、遺伝子組み換え技術によって酵素分泌物質qが生成される。このために、
図3(1)に示すように、ファウリングの進行した分離膜41から付着物質dを取得する(S1)。
【0065】
次に、
図3(2)に示すように、取得した付着物質dを、酵素分泌菌であるバチルス属菌jと共にビーカ(図示せず)に入れ、ビーカの中で培養する(S2)。
【0066】
これによって、
図3(3)に示すように、酵素hによる付着物質dの分解が進行する。そして、分解がある程度進んだ段階で、固液分離することによって、
図3(4)に示すように、酵素hを含有する含有液wを取得する(S3)。
【0067】
次に、
図3(5)に示すように、含有液wから酵素hを抽出し、例えばプロテオーム解析によって、その配列情報を読み取る(S4)。
【0068】
さらに
図3(6)に示すように、バチルス属菌jの遺伝子情報(DNA情報)と、酵素hのアミノ酸配列情報とを照合し、バチルス属菌jから分泌された酵素hの遺伝子情報(DNA情報)kを同定する(S5)。そして、酵素分泌物質生成部20において、PCR法または人工合成によって、酵素hの遺伝子配列断片が取得され、分泌型ベクターに組み込まれ、この分泌型ベクターが宿主微生物mに導入されることで酵素分泌物質qが作成される(S6)。
【0069】
作成された酵素分泌物質qは、酵素分泌物質生成部20から、酵素分泌物質培養槽30へ供給され、基質rを含む酵素分泌物質培養槽30内で培養され、増殖する(S7)。酵素分泌物質qの増殖に応じて、酵素分泌物質qから培養液f内に酵素hが分泌される(S8)。
【0070】
酵素分泌物質培養槽30には、0.4μm以上の大きさの物質の通過を阻止する分離膜31が設けられている。したがって、0.4μm以上の大きさを有する酵素分泌物質qは、分離膜31によって分離される(S9)。
【0071】
これによって、酵素分泌物質qは、注入ポンプ32によって処理槽40へ供給されることなく、酵素分泌物質培養槽30内でクローズされる。このようにして、遺伝子組み換え物質である酵素分泌物質qの系外への排出は阻止され、放流先の水環境に悪影響を与えることはない。
【0072】
一方、分離膜31を通過した酵素hを含む培養液fは、注入ポンプ32によって処理槽40へ供給される。これによって、処理槽40へ酵素hが供給される(S10)。
【0073】
処理槽40には、下水等の有機性排水を含む原水aが連続的に導入されている。処理槽40には活性汚泥bが貯えられており、この活性汚泥bによって、原水aに含まれる有機物が分解処理され、処理水cが得られる。
【0074】
処理槽40には分離膜41が設けられており、分離膜41によって、処理水cと、活性汚泥bとが分離される。分離膜41には、運転経過とともにファウリングが生じる。このファウリングの緩和のために、膜洗浄ブロワ44から散気管45に空気を送り、散気管45において生じた気泡Gの上昇による剪断力によって分離膜41が洗浄されている。
【0075】
それに加えて、処理槽40に酵素hが供給される。これによって、分離膜41に付着する付着物質dは、酵素hによって分解されるので、ファウリングがさらに緩和される(S11)。このファウリング緩和効果によって、膜洗浄ブロワ44の負荷を、酵素hを供給しない場合の約1/3に低減することができる。
【0076】
その後は、分離膜41に付着する付着物質dが、所定量に達するまで(S12:Nos)、処理槽40における原水aの処理を継続することができる(S13)。
【0077】
一方、分離膜41に付着する付着物質dが、所定量に達した場合(S12:Yes)には、ステップS10に戻って、処理槽40へ酵素hが供給される。なお、付着物質dの付着量は、付着物質の付着量が増加すると膜間差圧が増大するという関係を用い、差圧計の情報により推定することできる。また、酵素hは付着物質dの量にかかわらず常に供給するようにしても良い。
【0078】
このように、分離膜41のファウリングを効率良く緩和できるので、処理槽40における原水aの処理をより長時間連続して実施することが可能となる。
【0079】
上述したように、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム10によれば、分離膜41のファウリングをもたらす付着物質dを分解する酵素hを分泌する酵素分泌物質qを、酵素分泌物質培養槽30で培養する。そして、酵素分泌物質qによって分泌された酵素hを、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40へ供給する。これによって、分離膜41におけるファウリングの抑制効果を高めることができる。
【0080】
また、処理槽40内のファウリングを抑制するための酵素hを、処理槽40で生成するのではなく、酵素分泌物質培養槽30で培養してから処理槽40に供給することで、以下のような効果を得ることができる。
【0081】
すなわち、処理槽40内で酵素hを生成するためには、処理槽40内を、例えばバチルス属菌のような酵素分泌物質qを選択的かつ安定的に優占化させる必要がある。しかしながら、処理槽40には、原水aが導入されるので、多種多様な微生物が存在し、また特に下水処理では原水aの性状が時々刻々と変化する。このため、処理槽40内を、バチルス属菌のような特定の酵素分泌物質qで、選択的かつ安定的に優占化させることは容易ではない。したがって、処理槽40内で十分な量の酵素hを生成することは極めて困難である。
【0082】
そこで、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム10では、酵素分泌物質培養槽30において、処理槽40内の環境変化に影響されることなく酵素hを安定的に生成し、処理槽40へ供給することができる。
【0083】
なお、酵素hは、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40へ供給される場合、培養液fに含まれた状態で供給される。したがって、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40へは、培養液fに含まれる酵素h以外の不純物も同伴して供給されることになる。しかしながら、培養液f中の不純物は、処理槽40内の活性汚泥bの働きにより分解される。このため、不純物を含んだ状態で培養液fを処理槽40へ供給しても何ら問題はなく、純度が低くても所定量の酵素hが処理槽40に供給されれば、ファウリングの抑制が可能である。したがって、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40へ培養液fを供給する際に、予め酵素hの純度を高める精製処理のような付加的な処理のための設備対応も不要である。
【0084】
第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム10は、このようにしてファウリングの抑制効果を高めることができることから、併用する膜洗浄ブロワ44の負荷を低減することができる。
【0085】
従来の水処理システムでは、膜洗浄ブロワ44の運転コストは、水処理システム全体の運転コストの半分以上を占めていた。本実施形態の水処理システム10によれば、酵素hのファウリング抑制効果によって、膜洗浄ブロワ44の負荷を低減でき、酵素hを処理槽40へ供給しない場合に比べて、膜洗浄ブロワ44の運転コストを、従来の約1/3程度とすることができるので、水処理システム10の運転コストを大幅に低減することが可能となる。
【0086】
また、水処理システム10は、薬液洗浄の頻度および使用する薬液の量も低減できるので、水処理システム10全体の稼働率の向上と、運転再開時の処理水cの水質の悪化を回避することも可能となる。
【0087】
さらには、水処理システム10によれば、遺伝子組み換え技術によって生成された酵素分泌物質qを、酵素分泌物質培養槽30内でクローズし、処理槽40へ排出させないので、放流先の水環境に悪影響を与えることはない。
【0088】
以上のように、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムによれば、処理槽40に酵素hを供給することによって、分離膜41のファウリングを効率的に抑制することができる。このような優れたファウリング対策によって、膜洗浄ブロワ44の負荷低減による運転コストの低減、薬液洗浄の頻度低下による稼働率の向上、薬液洗浄時に使用される薬液量の減少による水質安定化を実現することが可能となる。
【0089】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システムの構成例を示す概略図である。
【0090】
図5では、
図1と同一部分には、同一符号を用いて示している。これら同一部分については、本実施形態では、重複説明を避ける。
【0091】
図5に示す水処理システム11は、
図1に示す水処理システム10に、差圧計51と、コントローラ52とを付加した構成をしている。
【0092】
差圧計51は、分離膜41の膜間差圧を測定し、測定結果である膜間差圧を、コントローラ52へ出力する。
【0093】
コントローラ52は、差圧計51から出力された膜間差圧に基づいて、例えば以下のようにPID制御を適用して、注入ポンプ32の吐出量を制御する。
【0094】
図6は、コントローラ52による注入ポンプ32の吐出量制御を説明するための入出力図である。
【0095】
コントローラ52には、差圧計51から、膜間差圧pdifが入力される。
【0096】
また、コントローラ52には、膜間差圧目標値または膜間差圧上昇率目標値ptargetが予め入力されている。
【0097】
コントローラ52は、これらパラメータを使って、例えば以下の式(1)に示すような一般的なPID演算を行い、得られる操作信号MVに応じて注入ポンプ32の吐出量を決定する。
【0098】
MV=Kp(e+1/TI・∫edt)・・・式(1)
e:偏差(ここでは、pdif:膜間差圧-ptarget:膜間差圧目標値または膜間差圧上昇率)
MV:操作信号(ここでは、注入ポンプ32の吐出量に相当)
Kp:比例ゲイン
TI:積分時間
式(1)に示すPID演算によれば、膜間差圧pdifが増加した場合には、操作信号MVの値が増加するので、コントローラ52は、注入ポンプ32に対して、吐出量を増加させ、逆に、膜間差圧pdifが減少した場合には、操作信号MVの値が減少するので、注入ポンプ32の吐出量を減少させる。
【0099】
注入ポンプ32の吐出量の増減に応じて、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40への酵素hの供給量も増減するので、コントローラ52は、膜間差圧pdifの増減に応じて、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40への酵素hの供給量も増減するように注入ポンプ32を制御することができる。
【0100】
なお、コントローラ52によって適用される演算式は式(1)に限定されず、膜間差圧pdifの増減に応じて、操作信号MVの値が増減する任意の演算式を適用することができる。
【0101】
以上説明したように、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム11によれば、第1の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム10で奏される効果に加えて以下のような効果を奏することができる。
【0102】
すなわち、第2の実施形態の水処理方法が適用された水処理システム11は、分離膜41の膜間差圧pdifが高い時には、酵素分泌物質培養槽30から処理槽40への酵素hの供給量を増加させ、逆に、膜間差圧pdifが低い場合には、酵素hの供給量を減少させるように注入ポンプ32を制御することができるので、酵素hの供給量を適正化でき、分離膜41の付着物質dの分解を、きめ細かく実施することが可能となる。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0104】
例えば、上記では付着物質dを分解するために酵素を用いた例を示しているが、酵素に限らず、シクロデキストリンやアシラーゼ、ラクトナーゼなどの物質であって、これによりアシル化ホモセリンラクトンによる微生物間の伝達コミュニケーションを阻害することで、バイオフィルム成長を阻害するものであってもよい。
【符号の説明】
【0105】
10、11・・水処理システム、20・・酵素分泌物質生成部、30・・酵素分泌物質培養槽、31・・分離膜、32・・注入ポンプ、40・・処理槽、41・・分離膜、42・・補助散気ブロワ、43・・散気管、44・・膜洗浄ブロワ、45・・散気管、46・・返送汚泥ポンプ、51・・差圧計、52・・コントローラ、
a・・原水、b・・活性汚泥、c・・処理水、d・・付着物質、f・・培養液、G、g・・気泡、h・・酵素、i・・固形分、j・・バチルス属菌、k・・遺伝子情報、m・・宿主微生物、q・・酵素分泌物質、r・・基質、w・・含有液