(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173980
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】透析装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20231130BHJP
A61M 60/113 20210101ALI20231130BHJP
A61M 60/37 20210101ALI20231130BHJP
【FI】
A61M1/16 171
A61M60/113
A61M60/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086562
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】591083299
【氏名又は名称】東レ・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健一
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077DD01
4C077EE01
4C077EE03
4C077HH03
4C077HH14
4C077JJ02
4C077JJ15
(57)【要約】
【課題】透析液温度の設定に関する医療従事者の判断および操作の労力を軽減する。
【解決手段】体外循環血液流路と、透析液流路と、体外循環血液流路の一部と透析液流路の一部を隔てるように設けられた透析膜と、体外循環血液流路を流れる血液温度を測定する血液温度測定手段と、透析液流路を流れる透析液温度を所定の透析液設定温度に調整する透析液温度調整手段とを有し、血液温度に基づいて透析液設定温度を変更する透析装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外循環血液流路と、透析液流路と、前記体外循環血液流路の一部と前記透析液流路の一部を隔てるように設けられた透析膜と、前記体外循環血液流路を流れる血液温度を測定する血液温度測定手段と、前記透析液流路を流れる透析液温度を所定の透析液設定温度に調整する透析液温度調整手段とを有し、
前記血液温度に基づいて前記透析液設定温度を変更することを特徴とする透析装置。
【請求項2】
前記血液温度が所定の基準温度範囲内にあるときは前記透析液設定温度を保持し、前記血液温度が所定の基準温度範囲を上回るときは前記透析液設定温度を下降させ、前記血液温度が所定の基準温度範囲を下回るときは前記透析液設定温度を上昇させる、請求項1に記載の透析装置。
【請求項3】
前記透析液設定温度を、所定の幅で段階的に上昇または下降させる、請求項2に記載の透析装置。
【請求項4】
前記透析液設定温度を、所定の上限および下限の範囲内で変更する、請求項3に記載の透析装置。
【請求項5】
前記透析液設定温度の変更を、所定の時間間隔をおいて実施する、請求項1~4のいずれかに記載の透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析治療に用いられる透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析治療は、透析患者の血液を体外循環路に取出して血液浄化器に導き入れ、血液浄化器内で半透膜を介して透析液と接触させ、限外濾過と拡散の原理によって、血液中の老廃物や余剰水分を除去するとともに、透析液中に含まれる薬剤成分によって血液中の電解質の調整等を行った後、浄化された血液を患者の体内に戻す治療である。
【0003】
治療中の体外循環回路における血液温度は、治療の経過とともに上昇する傾向が確認されている。非特許文献1に記載される循環環動態仮説によれば、体外循環回路上の血液温度が上昇する理由としては、除水すると血圧を維持するために、血管が交感神経を解して収縮する結果、血圧は維持できるが、血管が収縮したために熱の体外への放散が減少し、患者の体温上昇を招くことによるものと推測される。このような患者の体温上昇は血管拡張による透析低血圧症を起こしやすくするリスクがあるので、極力避けるべきである。
【0004】
特許文献1には、患者の体温と相関関係にある血液温度の測定結果に応じて透析液の温度を調整することにより、体外血液循環処理を受ける患者のエネルギ収支を改善し、患者の負担を軽減する血液温度制御装置が開示されている。このように血液温度を体外循環の動脈血液通路の血液温度の測定に基づき血液透析過程又は血液濾過の際の放熱を調節して、体温を適切な範囲に保つことは血液透析治療において重要な課題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】低温透析の実際.臨床透析 Vol.19 No.2:59-66、2003
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の透析装置では、患者の血液温度の上昇を防止するために透析液温度の設定を医療従事者の判断および操作により変更する必要があった。このような医療従事者の労力を軽減することは有用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る透析装置は、体外循環血液流路と、透析液流路と、前記体外循環血液流路の一部と前記透析液流路の一部を隔てるように設けられた透析膜と、前記体外循環血液流路を流れる血液温度を測定する血液温度測定手段と、前記透析液流路を流れる透析液温度を所定の透析液設定温度に調整する透析液温度調整手段とを有し、前記血液温度に基づいて前記透析液設定温度を変更することを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明の透析装置によれば、透析液設定温度を適宜変更しつつ透析液温度を適切に調整し、透析治療中に患者の血液温度の上昇を抑制することができる。
【0010】
本発明の透析装置において、前記血液温度が所定の基準温度範囲内にあるときは前記透析液設定温度を保持し、前記血液温度が所定の基準温度範囲を上回るときは前記透析液設定温度を下降させ、前記血液温度が所定の基準温度範囲を下回るときは前記透析液設定温度を上昇させることが好ましい。このように、血液温度が基準温度範囲内に入っているか否かを随時監視し、範囲を外れたときのみ透析液設定温度を適宜変更することにより、温度制御を簡便かつ安定的に実施することができる。
【0011】
本発明の透析装置において、透析液設定温度を、所定の幅で段階的に上昇または下降させることが好ましい。透析液設定温度を連続的に上昇または下降させると、治療時点の患者数や各患者の体質・体調などに応じて血液温度が変動する血液透析治療においてはオーバーシュートやハンチングなどが発生する恐れがある。そこで、透析液設定温度を段階的に変更することにより、温度制御を簡便かつ安定的に実施することができる。
【0012】
本発明の透析装置において、前記透析液設定温度を、所定の上限および下限の範囲内で変更することが好ましい。透析液設定温度を段階的に変更しても血液温度の下降や上昇が抑制されない場合には、透析液設定温度が上昇または下降を繰り返すことになるが、計器類や温度調整手段の故障、あるいは水漏れなどのトラブルが原因で血液温度が基準温度範囲になかなか入らないケースもあり得ることから、透析液設定温度の変更は所定の上限および下限の範囲内で実施するようにあらかじめ設定しておくとよい。
【0013】
本発明の透析装置において、前記透析液設定温度の変更を、所定の時間間隔をおいて実施することが好ましい。透析液設定温度の設定を変更した直後には未だ透析液温度や血液温度の実測値に変化はないことから、透析液温度および血液温度が安定するまでは透析液設定温度の変更を強制的に休止し、前回の設定変更から所定の時間間隔をおいて次の設定変更を受け付けるようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る透析装置によれば、患者の血液温度の過度な上昇や下降を防止して体温の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の透析装置の基本的構成を説明する概略フロー図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係る透析装置の運転方法を示す時間-温度チャートである。
【
図3】本発明の他の実施態様に係る透析装置の運転方法を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の透析装置の基本的構成を説明する概略フロー図である。透析装置1は、血液モニタなどの各種モニタリングデバイスを有しており、患者2から様々な生体情報を得ることが可能である。
【0017】
患者2と透析膜モジュール3は、患者2の動脈と透析膜モジュール3の入口側とを結ぶ動脈側血液回路4と、患者2の静脈と透析膜モジュール3の出口側とを結ぶ静脈側血液回路5とで結ばれている。動脈側血液回路4には、患者2から抜き出した血液を透析膜モジュール3へ送る血液ポンプ6と、血液ポンプ6の上流側を閉止可能なクランプ7と、血液ポンプ6の下流側で動脈側血液回路4に薬液を注入可能なシリンジ8と、エアトラップ用のチャンバ9が設けられている。また、静脈側血液回路5には、エアトラップ用のチャンバ19と、チャンバ19の下流側を閉止可能なクランプ17が設けられている。透析膜モジュール3には透析液供給装置10から透析液が供給され、透析膜を介して血液透析操作が行われ、使用済み透析液(透析液排液)が透析液供給装置10に返送されている。また、患者2および透析装置1の各所には血液モニタなどの各種モニタリングデバイスが設置されており、患者2および患者2から抜き出した血液から様々な生体情報を取得することができる。
【0018】
図2は、本発明の一実施態様に係る透析装置の運転方法を示す時間-温度チャートである。運転準備が完了し、運転が開始されてから所定時間(5分)が経過した時点で透析装置入口の血液温度を取得し、これを基準温度に設定する。基準温度は、血液温度の測定結果の所定時間内の移動平均から求めることにより高い精度で取得することができる。
【0019】
図2において、基準温度が取得された後も引き続き、透析装置入口の血液温度が所定の時間間隔(1分)ごとにサンプリングされる。サンプリングされた血液温度が基準温度(35.0℃)を中心とした所定の上下幅(0.5℃ずつ)で規定される基準温度範囲を外れると、血液温度を調整するために透析液温度の設定値が再設定される。
図2では、10分経過時点で血液温度の基準温度範囲(34.5℃~35.5℃)から外れた血液温度(35.6℃)がサンプリングされたため、透析液温度の設定値が初期値(36.0℃)から所定の下降幅(0.8℃)だけ下げられて35.2℃に再設定されている。透析液温度の設定値が変更されたタイミングで血圧測定を実施することもできる。
【0020】
なお
図2では、透析液温度が再設定されてから所定の時間間隔(8分)を経過するまでは、サンプリングされた血液温度が基準温度範囲を外れていてもさらなる再設定は行われない。透析液温度が再設定されても、瞬時に透析液温度および血液温度に変化が生じるわけではないことから、このような所定の時間間隔が設けられている。
【0021】
図2において、18分経過後には透析液温度の二度目の再設定が行われて34.4℃となっている。26分経過後でも依然として血液温度が基準温度範囲(34.5℃~35.5℃)を超えているので透析液温度の三度目の再設定により33.6℃となるはずであるところ、別途に設定されている透析液温度の再設定下限値(34.0℃)を下回るため、透析液温度の再設定を行わない。
【0022】
図3は、本発明の他の実施態様に係る透析装置の運転方法を示すタイミングチャートである。運転準備が完了し、運転が開始されてから所定時間(5分)が経過した時点で透析装置入口の血液温度を取得し、これを基準温度に設定する。基準温度は、血液温度の測定結果の所定時間内の移動平均から求めることにより高い精度で取得することができる。
【0023】
図3において、基準温度が取得された後も引き続き、透析装置入口の血液温度が所定の時間間隔(1分)ごとにサンプリングされる。サンプリングされた血液温度が基準温度(35.0℃)を中心とした所定の上下幅(0.5℃ずつ)で規定される基準温度範囲を外れると、血液温度を調整するために透析液温度の設定値が再設定される。
図3では、10分経過時点で血液温度の基準温度範囲(34.5℃~35.5℃)から外れた血液温度(35.6℃)がサンプリングされたため、透析液温度の設定値が初期値(36.0℃)から所定の下降幅(0.1℃)だけ下げられて35.9℃に再設定されている。
【0024】
なお
図3では、透析液温度が再設定されてから所定の時間間隔(8分)を経過するまでは、サンプリングされた血液温度が基準温度範囲を外れていてもさらなる再設定は行われない。透析液温度が再設定されても、瞬時に透析液温度および血液温度に変化が生じるわけではないことから、このような所定の時間間隔が設けられている。
【0025】
図2および
図3に示した実施態様において、単に血液温度が一定になるようにするためには、よく知られたフィードバック制御(例えばPID制御)を実施して透析液温度を変化させながら血液温度を制御することも可能であるが、血液透析治療を実施する時点の患者数や各患者の体質・体調などに応じて変動する血液温度を適切に管理するために、透析液温度を所定の時間間隔で段階的に変化させることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る透析装置は、血液透析治療において広く利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 透析装置
2 患者
3 透析膜モジュール
4 動脈側血液回路
5 静脈側血液回路
6 血液ポンプ
7、17 クランプ
8 シリンジ
9、19 チャンバ
10 透析液供給装置