(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173983
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20231130BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20231130BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086566
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】八木 祥貴
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG02
4G077PD02
4G077PD05
(57)【要約】
【課題】単結晶の引き上げの際、ルツボ内表面を結晶化(失透化)させ、ルツボ内表面からシリコン融液への微細な遊離物の発生を防止するとともに、シリコン融液の汚染やクラック発生を抑制することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボ1において、内層4と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層3とを有し、前記内層中には、ルツボ形状に沿って、アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層2が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有し、シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボであって、
内層と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層とを有し、
前記内層中には、ルツボ形状に沿って、アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層が形成されていることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、石英ガラス0.45cm3(ガラス密度2.2g/cm3)中のアルミニウム(Al)量が、4.7×10-8g以上6.6×10-3g以下であることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項3】
前記内層中において、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、少なくとも前記側部と底部コーナーとにルツボ形状に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項4】
前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、単結晶を引き上げる際に前記内層の中に結晶化層を形成する結晶化促進層であることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された石英ガラスルツボの製造方法であって、
成形型に天然石英粉を含む原料粉を供給して、少なくとも1層の外層を形成する工程と、
前記外層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、第1の内層を形成する工程と、
第1の内層の内側に、アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉を供給し、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層を形成する工程と、
前記アルミニウムを含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、第2の内層を形成して、ルツボ成形体を得る工程と、
前記ルツボ成形体の内層、及び外層を溶融して、石英ガラスルツボを形成する工程と、
を備えることを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項6】
前記第1の内層の内側に、アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉を供給し、前記アルミニウムを含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層を形成する工程において、
前記アルミニウム(Al)を含有する粉体は、混合する合成石英粉よりも粒径が小さく、アルミニウム(Al)濃度が、50ppm以上1%以下であることを特徴とする請求項5に記載された石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の育成は、チャンバ内に設置した石英ガラスルツボに原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ガラスルツボの周囲に設けられたヒータによってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液とする。その後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)を当該シリコン融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ガラスルツボを同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
シリコン単結晶の引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、シリコン融液を収容する石英部材であり、融液が接触するルツボ内表面(ルツボ内層)は、高純度な透明層とする必要がある。一方、ルツボ外表面側は、通常、コストの低減、及び高温機械特性向上の目的のため、一般にSi以外の金属元素を多く含む不透明外層(ルツボ外層)が形成されている。
具体的には、ルツボ内層には、透明層を形成するために合成石英粉を原料として配置し、ルツボ外層には、不透明層を形成するために天然石英粉を原料として2層以上に配置し、形成した成型体をアーク溶融により溶融することによって石英ガラスルツボを製造している。
【0004】
ところで、石英ガラスルツボはシリコン単結晶の引上げ時に使用されているが、引上げ中にシリコン融液と接触しているルツボ内表面にはブラウンマーク等の面荒れが発生することが知られている。このルツボ内表面における面荒れによって、シリコン融液にはルツボ内表面から微細な遊離物が発生しやすくなる。シリコン融液中における微細な遊離物が、引上げ中のシリコンインゴットに付着すると有転位する虞がある。
【0005】
このような課題に対し、従来からルツボ内面を結晶化促進剤でコートし、使用中にルツボ内面を結晶化させる方法が知られている。ルツボ内面を結晶化させることにより、耐変形性を強化し、ルツボ内面の面荒れ発生を抑制するものである。
しかしながら、ルツボ内面を結晶化促進剤でコートすると、シリコン融液が結晶化促進剤により汚染されるという別の課題があった。
【0006】
この別の課題を解決するものとして、特許文献1には、石英ガラスルツボにおいて、底部を除く内層と外層の中間に結晶化促進剤含有層が挟み込まれた構造が開示されている。このような構造とすることで、石英ガラスルツボの使用中に内層、外層を結晶化させて耐変形性を強化し、シリコン融液の結晶化促進剤による汚染を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された、石英ガラスルツボの内層と外層の中間に結晶化促進剤含有層を挟み込む構造にあっては、石英ガラスルツボの使用中に結晶化層が厚くなりすぎ、クラックが発生する虞があった。
【0009】
本発明は、前記事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボにおいて、単結晶の引き上げの際、ルツボ内表面を結晶化(失透化)させ、ルツボ内表面からシリコン融液への微細な遊離物の発生を防止するとともに、シリコン融液の汚染やクラック発生を抑制することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有し、シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボであって、内層と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層とを有し、前記内層中には、ルツボ形状に沿って、アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層が形成されていることに特徴を有する。
【0011】
尚、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、石英ガラス0.45cm3(ガラス密度2.2g/cm3)中のアルミニウム(Al)量が、4.7×10-8g以上6.6×10-3g以下であることが望ましい。
また、前記内層中において、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、少なくとも前記側部と底部コーナーとにルツボ形状に沿って形成されていることが望ましい。
また、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体を含む層は、単結晶を引き上げる際に前記内層の中に結晶化層を形成する結晶化促進層であることが望ましい。
【0012】
このようにアルミニウム(Al)を含有する粉体を含むAl含有粉体層を内層中に形成することにより、シリコン単結晶引き上げ中にアルミニウム(Al)を含有する粉体に含まれるアルミニウム(Al)が結晶核として内層の肉中で結晶化し、ルツボ内表面まで到達する。これにより、シリコン融液が接するルツボ内表面の面荒れを抑制することができる。
また、アルミニウム(Al)は、石英ガラス中を移動しにくいことから、充填した位置から移動することが無いため、シリコン融液への汚染を防ぐことができる。更に、内層中に結晶化促進剤としてのAl含有粉層を形成することで外層側の結晶化を抑制し、過剰な結晶化によるクラックの発生を防止することができる。
【0013】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、前記した石英ガラスルツボの製造方法であって、成形型に天然石英粉を含む原料粉を供給して、少なくとも1層の外層を形成する工程と、前記外層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、第1の内層を形成する工程と、第1の内層の内側に、アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉を供給し、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層を形成する工程と、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、第2の内層を形成して、ルツボ成形体を得る工程と、前記ルツボ成形体の内層、及び外層を溶融して、石英ガラスルツボを形成する工程と、を備えることに特徴を有する。
尚、前記第1の内層の内側に、アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉を供給し、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体と合成石英粉との混合粉の層を形成する工程において、前記アルミニウム(Al)を含有する粉体は、混合する合成石英粉よりも粒径が小さく、アルミニウム(Al)濃度が、50ppm以上1%以下であることが望ましい。
【0014】
このような方法によれば、アルミニウム(Al)を含有する粉体を含むAl含有粉層を内層中に形成することができる。その結果、シリコン単結晶引き上げ中にAl含有粉に含まれるアルミニウム(Al)が結晶核として内層の肉中で結晶化し、ルツボ内表面まで到達する。これにより、シリコン融液が接するルツボ内表面の面荒れを抑制することができる。
また、アルミニウム(Al)は、石英ガラス中を移動しにくいことから、充填した位置から移動することが無いため、シリコン融液への汚染を防ぐことができる。更に、内層中に結晶化促進剤としてのAl含有粉層を形成することで外層側の結晶化を抑制し、過剰な結晶化によるクラックの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボにおいて、単結晶の引き上げの際、ルツボ内表面を結晶化(失透化)させ、ルツボ内表面からシリコン融液への微細な遊離物の発生を防止するとともに、シリコン融液の汚染やクラック発生を抑制することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の石英ガラスルツボの一部拡大断面図の一部をさらに拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図1の石英ガラスルツボを製造するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法の実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は本発明に係る石英ガラスルツボ1の断面図である。
図2は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
この石英ガラスルツボ1は、例えば単結晶引上装置(図示せず)において用いられ、装置内でカーボンサセプタ(図示せず)によって抱持された状態で使用される。即ち、単結晶引上装置では、石英ガラスルツボ1内に原料シリコンが溶融され、溶融液からシリコン単結晶が引上げられる。
【0018】
石英ガラスルツボ1は、例えば直径(口径)32インチ、高さ500mmに形成され、所定の曲率(第一の曲率)を有する底部9と、前記底部9の周りに形成され、所定の曲率(第二の曲率)を有する底部コーナー8と、前記底部コーナー8から上方に延びる側部(直胴部)7とを有する。
図1に示すように、側部7において外側には、天然原料石英ガラスからなる不透明の外層3が形成されている。また、この外層3より内側には、シリコン単結晶引上げ時にシリコン融液と接する高純度の合成原料石英ガラスからなる透明の内層4が形成されている。
【0019】
ここで不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然石英層とは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味し、合成石英層とは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味する。
【0020】
また、図示するように石英ガラスルツボ1の底部コーナー8及び底部9においても、側部7の外層3から連続して形成された天然原料石英ガラスからなる外層3と、合成原料石英ガラスからなる内層4とで形成された2層構造となされている。
【0021】
図2に示すように、天然原料石英ガラスからなる外層3は、石英ガラスルツボ1の側部7における厚さ寸法ot1が6mm以上となされる。また、外層3から連続して形成された底部コーナー8の外層3における厚さ寸法ot2、及び底部9の外層3における厚さ寸法ot3も6mm以上に形成される。
これは、側部7における外層3の厚さot1、底部コーナー8における外層3の厚さ寸法ot2、及び底部9における外層3の厚さ寸法ot3が6mmより小さいと、充分な耐久性が得られ難いためである。
【0022】
また、内層4は、合成原料石英ガラスを溶融して形成した実質的に気泡の存在しない透明層である。内層4において、側部7における厚さ寸法it1は、1.5mm以上4mm以下、好ましくは2mm以上3mm以下に形成されている。
このような範囲に側部7における厚さ寸法it1を形成することにより、ルツボ開口部の変形(倒れこみなど)やルツボ外層露出を防止することができる。
また、内層4において、底部コーナー8における厚さ寸法it2は、1.5mm以上6mm以下、好ましくは2mm以上4mm以下に形成されている。また、内層4において、底部9における厚さ寸法it3は、側部7と同様に、1.5mm以上4mm以下、好ましくは2mm以上3mm以下に形成されている。
【0023】
また、内層4中には、結晶核としてアルミニウム(Al)を含有する粉体(Al含有粉)を含む層(Al含有粉層と呼ぶ)2が形成されている。このAl含有粉層2は、石英ガラス層中に前記Al含有粉を含む層であり、
図3に示すように、ルツボ内表面(内層4の表面)から寸法Lの位置、具体的には1.25mm以上1.75mm以下の位置にあり、厚さWは0.1mm以上0.5mm以下に形成されている。
これにより、シリコン融液によるルツボ内面へのエッチングに対してもAl含有粉層2が露出することを防止し、且つ失透させることができる。Al含有粉層2がルツボ内表面から1.25mmよりも浅いと、シリコン融液によるルツボのエッチングによりAl含有粉層2が露出する虞がある。一方、Al含有粉層2がルツボ内表面から1.75mmよりも深い場合、ルツボ内表面の全体が失透しない虞がある。
【0024】
Al含有粉層2における石英ガラス0.45cm3中のAl量は、4.7×10-8g以上6.6×10-3g以下に形成されている。
また、Al含有粉層2中のAlを含有する粉体におけるAl濃度は、5.0×10-5%(50ppm)以上1%(104ppm)以下に形成されている。Al含有粉層2中のAlを含有する粉体におけるAl濃度が50ppmよりも薄いと、失透までに時間が掛かり、1%(104ppm)よりも濃いと過剰に失透し、クラックの発生率が上昇する虞がある。
【0025】
このようにアルミニウム(Al)を含有する粉体を含むAl含有粉層2を内層4中に形成することにより、シリコン単結晶引き上げ中にAl含有粉中のアルミニウム(Al)が結晶核として内層4の肉中で結晶化し(即ち、Al含有粉層2は、結晶化層を形成するための結晶化促進層として機能する)、結晶化がルツボ内表面まで到達することで、シリコン融液が接するルツボ内表面の面荒れを抑制することができる。
また、アルミニウム(Al)は、石英ガラス中を移動しにくいことから、充填した位置から移動することが無いため、シリコン融液への汚染を防ぐことができる。更に、内層4中に結晶化促進剤としてのアルミニウム(Al)を含有する粉体を含むAl含有粉層2を形成することで外層3側の結晶化を抑制し、過剰な結晶化によるクラックの発生を防止することができる。
【0026】
次に、前記構造を有する石英ガラスルツボ1の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る石英ガラスルツボ1は、例えば、
図4に示すような石英ガラスルツボ製造装置10を用いて製造する。
石英ガラスルツボ製造装置10のルツボ成形用型11は、例えば複数の貫通孔が穿設された金型、もしくは高純化処理した多孔質カーボン型などのガス透過性部材で構成された内側部材12と、その外周に通気部13を設けて、前記内側部材12を保持する保持体14とから構成されている。
【0027】
また、保持体14の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸15が固着されていて、ルツボ成形用型11を回転可能に支持している。通気部13は、保持体14の下部に設けられた開口部16を介して、回転軸15の中央に設けられた排気路17と連結されており、この排気路17は、減圧機構18と連結されている。
内側部材12に対向する上部にはアーク放電用のアーク電極19と、天然石英粉供給ノズル20と、Al含有粉供給ノズル21と、合成石英粉供給ノズル22とが設けられている。
【0028】
石英ガラスルツボ製造装置10により石英ガラスルツボの製造を行う場合、図示しない回転駆動源を稼働させて回転軸18を矢印の方向に回転させ、これによりルツボ成形用型11を高速で回転させる。
次いで、ルツボ成形用型11内に天然石英粉供給ノズル20から天然石英粉(原料粉)を供給する。供給された天然石英粉は、遠心力によって内側部材12の内面側に押圧され、側部、底部コーナー、及び底部における厚さ6mm以上の外層30として形成される。
【0029】
続いて、先ず、外層30の内面側に、例えば厚さ1.5mmの合成石英粉の層40a(第1の内層)が形成されるように合成石英粉(原料粉)を合成石英粉供給ノズル23から供給する。
供給された合成石英粉は、遠心力によって外層30の内面側に押圧されて、合成石英粉の層40aとして成形される。
【0030】
次いで、合成石英粉の層40aの内面側に、厚さ0.1mm以上1.0mm以下のAl含有粉混合石英粉(Alを含有する粉体と合成石英粉との混合粉)の層25が形成されるように、ルツボ重量の5%以上30%以下のAl含有粉混合石英粉をAl含有粉供給ノズル21から供給する。
供給されたAl含有粉混合石英粉は、遠心力によって合成石英粉の層40aの内面側に押圧されて、Al含有粉混合石英粉の層25として成形される。
【0031】
尚、前記Al含有粉供給ノズル21から供給するAl含有粉混合石英粉は、予め次のようにして形成する。
即ち、Al化合物を溶解させた溶液と石英粉とを混ぜ、乾燥させてAl含有粉を精製する。その後、Al含有粉と合成石英粉を混合したAl含有粉混合石英粉を作製する。Al含有粉のサイズは、混合する合成石英粉よりも粒子径が小さく、270メッシュ(目開き53μm)以上18メッシュ(目開き1000μm)以下であることが好ましく、230メッシュ(目開き63μm)以上45メッシュ(目開き354μm)以下とすることがさらに好ましい。粒子径が1.0mmよりも大きい場合、Al含有層2に気泡が発生する可能性がある。一方、粒子径が0.1mmよりも小さい場合、石英原料と混合させた場合に偏りが発生する。また、Alを含有する粉体におけるAl濃度は、5.0×10-5%(50ppm)以上1%(104ppm)以下に形成する。前記Al含有粉混合石英粉は石英粉を含むことから、石英ガラスルツボを形成した時点での、石英ガラス0.45cm3中のAl量は、4.7×10-8g以上6.6×10-3g以下となされる。
【0032】
Al含有粉混合石英粉の層25の形成後、このAl含有粉混合石英粉の層25の内面側に、厚さ1.25mm以上1.75mm以下の合成石英粉の層40b(第2の内層)が形成されるように合成石英粉(原料粉)を合成石英粉供給ノズル23から供給する。
供給された合成石英粉は、遠心力によってAl含有粉混合石英粉の層25の内面側に押圧されて、合成石英粉の層40bとして成形される。
ここで、合成石英粉の層40aの外面と合成石英粉の層40bの内面との間の厚さ寸法(内層40の厚さ)は、例えば2mmに形成される。
【0033】
このようにして外層30、および内層40(Al含有粉混合石英粉の層25を含む)からなるルツボ成形体が得られる。
さらに、減圧機構18の作動により内側部材12内を減圧し、アーク電極19に通電してルツボ成形体の内側から加熱し、ルツボ成形体の内層40、Al含有粉混合石英粉の層25及び外層30を溶融して、内層4及び外層3を備える石英ガラスルツボ1を製造する。
【0034】
以上のように本実施の形態によれば、アルミニウム(Al)を含有する粉体を含むAl含有粉層2を内層4中に形成することにより、シリコン単結晶引き上げ中にアルミニウム(Al)を含有する粉体に含まれるアルミニウム(Al)が結晶核として内層4の肉中で結晶化し、ルツボ内表面まで到達する。これにより、シリコン融液が接するルツボ内表面の面荒れを抑制することができる。
また、アルミニウム(Al)は、石英ガラス中を移動しにくいことから、充填した位置から移動することが無いため、シリコン融液への汚染を防ぐことができる。更に、内層4中に結晶化促進剤としてのAl含有粉層2を形成することで外層3側の結晶化を抑制し、過剰な結晶化によるクラックの発生を防止することができる。
【0035】
尚、前記実施の形態においては、Al含有粉層2を石英ガラスルツボ1の内層4中の全体(側部7、底部コーナー8、底部9)にわたり形成するものとしたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではない。但し、Al含有粉層2は、石英ガラスルツボ1の内層4中の少なくとも側部7と底部コーナー8に形成するのが好ましい。
また、石英ガラスルツボ1を外層3と、内層4との2層構造としたが、本発明にあっては、この構成に限定されるものではなく、外層を2層以上に形成してもよい。
【実施例0036】
続いて、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に示した構成の石英ガラスルツボを製造し、本発明の効果を検証した。
尚、以下の実施例及び比較例におけるAl濃度の測定は、JIS M8852(1998)に従い、ルツボの対象領域から数グラムのサンプリングを採取し、これをフッ化水素酸(HF)を主成分とする混合溶液で溶解し、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plazma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)により測定した。
【0037】
(実施例1)
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0038】
実施例1では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、ルツボ内面は全面が失透し、ルツボ内面の面荒れ、シリコン融液中への浮遊物、シリコン融液の汚染はいずれも認められなかった。また、単結晶引き上げへの悪影響は認められなかった。
【0039】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成しなかった。
【0040】
比較例1では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められなかったが、ルツボ内面の失透は確認できなかった。
【0041】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、35メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0042】
比較例2では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、ルツボ内層の肉中に微泡が発生し、好ましくない状態となった。
【0043】
(比較例3)
比較例3では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.20mmの深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0044】
比較例3では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、ルツボ内層の表面にAl含有粉層が露出した状態となった。
【0045】
(比較例4)
比較例4では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.80mmの深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0046】
比較例4では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められなかったが、ルツボ内面は部分的に失透した。
【0047】
(比較例5)
比較例5では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25~1.75mmの深さ位置に、0.08mmの厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0048】
比較例5では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められなかったが、ルツボ内面は部分的に失透した。
【0049】
(比較例6)
比較例6では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.75mmの深さ位置に、0.6mmの厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0050】
比較例6では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められなかったが、外層に失透が到達した(過剰な失透による液漏れの虞が生じる)。
【0051】
(比較例7)
比較例7では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、45ppmとした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0052】
比較例7では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められなかったが、ルツボ内面は部分的に失透した。
【0053】
(比較例8)
比較例8では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、1.1%とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下とした。
【0054】
比較例8では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、シリコン単結晶の引き上げに異常は認められず、ルツボ内面は全面失透したが、過剰に失透し、僅かにクラックが発生した。
【0055】
(比較例9)
比較例9では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の4%とした。
【0056】
比較例9では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、ルツボ内表面まで失透せず、本発明の効果は得られなかった。
【0057】
(比較例10)
比較例10では、実施例1と同様に、
図4に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。内層中には、Al含有粉層を形成した。
Al含有粉層に含まれる粉体のサイズは、45~230メッシュとした。Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の深さ位置に、0.1mm以上0.5mm以下の厚さで形成した。
また、Al含有粉層に含まれる粉体中のアルミニウム(Al)濃度は、50ppm以上10
4ppm(1%)以下とした。
また、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の31%とした。
【0058】
比較例9では、製造した石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、ルツボ内面の失透状態の観察を行った。
その結果、ルツボ内表面は全面が失透したが、過剰に失透し、僅かにクラックが発生した。
【0059】
上記実施例1、及び比較例1~10の条件及び失透状態の結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
表1に示す結果より、実施例1では本発明の効果を得ることができた。よって、実施例1のように、粉体のサイズは、45メッシュ~230メッシュが好ましく、Al含有粉層は、ルツボ内表面から1.25mm以上1.75mm以下の位置にあり、厚さは0.1mm以上0.5mm以下が好ましいことを確認した。
また、Al含有粉層が含む粉体中におけるAl濃度は、50ppm以上1%以下が好ましく、ルツボ全体に対するAl含有粉層の重量割合は、ルツボ重量の5%以上30%以下であることが好ましいと確認した。