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特開2023-173992非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法
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  • 特開-非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173992
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20231130BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20231130BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231130BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/587
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086579
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 直利
(72)【発明者】
【氏名】森川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】小島 ゆりか
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA15
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050EA23
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA10
5H050HA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】負極活物質の分散性に優れ、充放電に伴う電極の膨張を抑制でき、優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池が得られる負極合剤スラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池用負極合剤スラリーの製造方法において、第1混練体を得る第1工程は、炭素系及びSi系活物質を含む負極活物質、CMC、ポリアクリル酸及び水を混練する工程を含む。第1混練体を用いて負極合剤スラリーを得る第2工程は、第1混練体、CMC及び水を混練する工程を含む。第1混練体に含まれる負極活物質、CMC及びポリアクリル酸の合計重量と、第1混練体に負極活物質の70%トルク吸油量に相当するトルクが発生するときに第1混練体に含まれる水の重量から算出される固形分率をa[%]とするとき、第1混練体の固形分率は(a-3)%以上a%以下であり、負極合剤スラリーの固形分率は(a-15)%以上(a-10)%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法であって、
第1混練体を得る第1工程と、前記第1混練体を用いて前記負極合剤スラリーを得る第2工程と、を含み、
前記第1工程は、炭素系活物質及びSi系活物質を含む負極活物質、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、及び水を混練する工程を含み、
前記第2工程は、前記第1混練体、カルボキシメチルセルロース、及び水を混練する工程(x1)を含み、
前記第1混練体に含まれる前記負極活物質、前記カルボキシメチルセルロース、及び前記ポリアクリル酸の合計重量と、前記第1混練体に前記負極活物質の70%トルク吸油量に相当するトルクが発生するときに前記第1混練体に含まれる水の重量とに基づいて算出される固形分率をa[%]とするとき、
前記第1混練体の固形分率は、(a-3)%以上a%以下であり、
前記負極合剤スラリーの固形分率は、(a-15)%以上(a-10)%以下である、負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記炭素系活物質は、黒鉛を含む、請求項1に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程は、さらに、前記工程(x1)によって得られた第2混練体に、カルボキシメチルセルロース以外の結着材を添加して混練する工程(x2)を含む、請求項1又は2に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記工程(x1)は、
カルボキシメチルセルロース及び水を混合して混合物を得る工程と、
前記第1混練体と前記混合物とを混練する工程と、を含む、請求項1又は2に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程での混練時間は、60分以上である、請求項1又は2に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程での混練時間は、10分以上である、請求項1又は2に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記第1工程で用いるカルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液の粘度は、前記第2工程で前記第1混練体に混合するカルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液の粘度よりも小さい、請求項1又は2に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池(以下、「電池」ともいう。)では、電池容量を向上するために、負極に含まれる負極活物質として、炭素系活物質とSi系活物質とを併用することがある。Si系活物質を含む負極は、電池の充放電に伴う膨張収縮が大きいため、電池のサイクル特性が低下しやすいことが知られている。例えば特許文献1は、結着材としてポリアクリル酸を用いてSi系活物質の膨張収縮を抑制することにより、電池のサイクル特性を向上し、かつ、結着材としてカルボキシメチルセルロースも用いることにより、負極を形成するためのスラリー組成物の保存安定性を向上させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/098050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、負極活物質として炭素系活物質とSi系活物質とを用い、結着材としてポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロースとを用いた場合であっても、電池の充放電に伴うサイクル特性の低下及び電極の膨張を充分に抑制できないことがあった。
【0005】
本開示は、炭素系活物質とSi系活物質とを含む負極活物質の分散性に優れた負極合剤スラリーであって、充放電に伴う電極の膨張を抑制でき、優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池が得られる負極合剤スラリーの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法を提供する。
〔1〕 非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法であって、
第1混練体を得る第1工程と、前記第1混練体を用いて前記負極合剤スラリーを得る第2工程と、を含み、
前記第1工程は、炭素系活物質及びSi系活物質を含む負極活物質、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、及び水を混練する工程を含み、
前記第2工程は、前記第1混練体、カルボキシメチルセルロース、及び水を混練する工程(x1)を含み、
前記第1混練体に含まれる前記負極活物質、前記カルボキシメチルセルロース、及び前記ポリアクリル酸の合計重量と、前記第1混練体に前記負極活物質の70%トルク吸油量に相当するトルクが発生するときに前記第1混練体に含まれる水の重量とに基づいて算出される固形分率をa[%]とするとき、
前記第1混練体の固形分率は、(a-3)%以上a%以下であり、
前記負極合剤スラリーの固形分率は、(a-15)%以上(a-10)%以下である、負極合剤スラリーの製造方法。
〔2〕 前記炭素系活物質は、黒鉛を含む、〔1〕に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
〔3〕 前記第2工程は、さらに、前記工程(x1)によって得られた第2混練体に、カルボキシメチルセルロース以外の結着材を添加して混練する工程(x2)を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の負極合剤スラリーの製造方法。
〔4〕 前記工程(x1)は、
カルボキシメチルセルロース及び水を混合して混合物を得る工程と、
前記第1混練体と前記混合物とを混練する工程と、を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の負極合剤スラリーの製造方法。
〔5〕 前記第1工程での混練時間は、60分以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の負極合剤スラリーの製造方法。
〔6〕 前記第2工程での混練時間は、10分以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の負極合剤スラリーの製造方法。
〔7〕 前記第1工程で用いるカルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液の粘度は、前記第2工程で前記第1混練体に混合するカルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液の粘度よりも小さい、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の負極合剤スラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、炭素系活物質とSi系活物質とを含む負極活物質の分散性に優れた負極合剤スラリーであって、充放電に伴う電極の膨張を抑制でき、優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池が得られる負極合剤スラリーの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の負極合剤スラリーの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(非水電解質二次電池用の負極合剤スラリーの製造方法)
図1は、実施形態の負極合剤スラリーの製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の負極合剤スラリーの製造方法は、非水電解質二次電池(以下、「本電池」ともいう。)用の負極合剤スラリーを製造する方法である。負極合剤スラリーは、本電池の負極の負極活物質層を形成するために用いられる。
【0010】
負極合剤スラリーは、負極活物質と、結着材と、水とを含む。負極合剤スラリーは、さらに繊維状炭素を含んでいてもよい。
【0011】
負極活物質は、炭素系活物質及びSi系活物質を含む。負極活物質が炭素系活物質及びSi系活物質を含むことにより、負極活物質として炭素系活物質のみを用いた場合よりも、電池の高容量化を図ることができる。炭素系活物質としては、黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボン、及び非晶質コート黒鉛等の炭素(C)等が挙げられる。Si系活物質としては、ケイ素単体、SiとCとの複合体(多孔質炭素粒子内にケイ素のナノ粒子が分散されたもの等)、SiOx、及びLixSiyOz等が挙げられる。
【0012】
結着材は、水に溶解又は分散する水系結着材であることが好ましい。結着材としては、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)、ポリアクリル酸(以下、「PAA」ともいう。)、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」ともいう。)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。CMC及びPAAは、酸の形態であってもよく、塩の形態であってもよい。負極合剤スラリーは、結着材として少なくともCMC及びPAAを含み、さらにSBRを含んでいてもよい。
【0013】
繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0014】
負極合剤スラリーの製造方法は、第1混練体を得る第1工程と、第1混練体を用いて負極合剤スラリーを得る第2工程と、を含む。第1工程は、負極活物質、CMC、PAA、及び水を混練する工程を含む。第2工程は、第1混練体、CMC、及び水を混合して混練する工程(x1)を含む。第2工程は、さらに、工程(x1)によって得られた第2混練体に、CMC以外の結着材を添加して混練する工程(x2)を含んでいてもよい。
【0015】
第1工程で得られる第1混練体の固形分率は、後述する条件における固形分率をa[%]とするとき、(a-3)%以上a%以下である。第1工程で行う負極活物質、CMC、PAA、及び水を混練する工程は、高粘度の状態で混練する固練りを行う工程である。上記の第1混練体の固形分率は、(a-2)%以上a%以下であってもよく、(a-1)%以上a%以下であってもよく、(a-1)%以上a%未満であってもよい。第1混練体の固形分率は、第1混練体の重量(全重量)に対する固形分(水以外の成分)の重量割合[%]として算出する。
【0016】
第2工程で得られる負極合剤スラリーの固形分率は、後述する条件における固形分率をa[%]とするとき、(a-15)%以上(a-10)%以下である。第2工程は、負極合剤スラリーの固形分濃度を調整するために行われる。上記の負極合剤スラリーの固形分率は、(a-14)%以上(a-10)%以下であってもよく、(a-14)%以上(a-11)%以下であってもよく、(a-13)%以上(a-11)%以下であってもよい。負極合剤スラリーの固形分率は、負極合剤スラリーの重量(全重量)に対する固形分(水以外の成分)の重量割合[%]として算出する。固形分率a[%]は、例えば60%以上75%以下である。
【0017】
固形分率a[%]は、第1混練体に含まれる負極活物質、CMC、及びPAAの合計重量M1と、第1混練体に負極活物質の70%トルク吸油量に相当するトルクが発生するときに当該第1混練体に含まれる水の重量M2とに基づいて算出する(下式)。
a[%]={M1/(M1+M2)}×100
【0018】
負極活物質の70%トルク吸油量は、第1混練体に含まれる負極活物質(炭素系活物質及びSi系活物質)の70%トルク吸油量である。負極活物質の70%トルク吸油量は、第1混練体に含まれる負極活物質に対して一定速度で亜麻仁油を滴定し、その際の粘度特性の変化をトルク検出器で測定及び記録したときに発生した最大トルク(100%トルク)を基準として、70%のトルクを発生したときの負極活物質の吸油量である。
【0019】
Si系活物質は、電池の充放電に伴う膨張収縮が大きいため、周囲の負極活物質(炭素系活物質又はSi系活物質)との間に形成される導電パスが切断されやすい。第1工程において、第1混練体の固形分率が上記の範囲内となるように負極活物質、CMC、PAA、及び水を混練することにより、本電池の充放電に伴うSi系活物質の導電パスの切断が抑制できるように良好にPAAを機能させることができる。また、第1工程を行うことにより、本電池の充放電の繰返しに伴うセルの膨張を抑制できるため、セルの低反力化を実現でき、本電池のパックコストを低減することができる。
【0020】
Si系活物質は、炭素系活物質に比較すると、電池の充放電によりその表面に形成されるSEI(Solid Electrolyte Interphase)の生成量が大きく、充放電に伴う電池容量(電池のサイクル特性)の低下が生じやすい。第1工程において、第1混練体の固形分率が上記の範囲内となるように負極活物質、CMC、PAA、及び水を混練することにより、負極活物質の表面にCMCを付着させて、負極活物質の電気化学的に活性な表面(以下、「活性表面」ともいう。)を適度に低減することができる。これにより、本電池の充放電に伴って生成されるSEIの量を適度な範囲に調整できるため、本電池のサイクル特性の低下を抑制できると考えられる。
【0021】
一方、第1工程で添加したCMCが、負極活物質の活性表面を低減するために用いられると、負極合剤スラリー中の負極活物質の沈降を抑制するために機能するCMCが少なくなる。そこで、第2工程では、第1混練体にCMC及び水を添加して混練している(工程(x1))。これにより、第2工程の工程(x1)では負極活物質が沈降することを抑制でき、負極活物質の分散性に優れた負極合剤スラリーを得ることができる。また、第2工程で得られる負極合剤スラリーの固形分率を上記の範囲内とすることにより、負極を製造する際に、負極集電体に塗布しやすい粘度の負極合剤スラリーを得ることができる。
【0022】
上記のように、負極合剤スラリーの製造方法では、第1工程及び第2工程においてCMCを分割して添加して混練している。そのため、第1工程では、負極活物質の活性表面を調整するためにCMCを用い、第2工程では、負極合剤スラリーにおける負極活物質の分散性を調整するためにCMCを用いることができる。これに対し、第1工程でCMCを添加し第2工程でCMCを添加しない場合、負極活物質の活性表面を調整できるため、電池のサイクル特性の低下を抑制しやすいが、負極合剤スラリーにおいて負極活物質が沈降することを抑制しにくくなる。第1工程でCMCを添加せず第2工程でCMCを添加する場合、負極合剤スラリー中の負極活物質が沈降することを抑制しやすいが、負極活物質の活性表面を調整できず、電池のサイクル特性の低下を抑制しにくくなる。
【0023】
第1工程は、負極活物質、CMC、PAA、及び水を混合して混練することにより、第1混練体を得てもよい。あるいは、第1工程は、負極活物質、CMC、及びPAAを混合して混合物(例えば、混合粉体)を得、この混合物に水を添加して混練することにより、第1混練体を得てもよい。
【0024】
第1工程での混練時間は、60分以上であることが好ましく、90分以上であってもよく、120分以上であってもよく、好ましくは180分以上である。第1工程での混練時間は、通常300分以下であり、240分以下であってもよい。第1工程での混練時間が上記の範囲内であることにより、負極活物質の活性表面を適度に低減できるため、本電池の充放電の伴う電池容量の低下をより一層抑制しやすくなる。また、第1工程での混練時間が上記の範囲内であることにより、本電池の充放電に伴い、Si系活物質の導電パスが切断されることをより一層抑制しやすくなる。
【0025】
第2工程は、工程(x1)を含んでいれば、工程(x2)を含んでいなくてもよいが、工程(x1)及び工程(x2)を含むことが好ましい。工程(x1)は、第1混練体、CMC、及び水を混合して混練することによって第2混練体を得てもよいが、CMC及び水を混合して混合物(例えば、CMC水溶液)を得、この混合物を第1混練体に混合して混練することにより、第2混練体を得ることが好ましい。第2工程では、上記のようにして得た第2混練体をそのまま負極合剤スラリーとしてもよいが、工程(x1)で得られた第2混練体にCMC以外の結着材を添加して混練する工程(x2)を行うことにより、負極合剤スラリーを得てもよい。
【0026】
工程(x2)で添加するCMC以外の結着材は、好ましくはCMC及びPAA以外の結着材であり、より好ましくはSBRである。
【0027】
第2工程での混練時間は、10分以上であることが好ましく、15分以上であってもよく、20分以上であってもよい。第2工程での混練時間は特に制限されないが、生産性の観点から、通常120分以下であり、60分以下であってもよい。第2工程が工程(x1)及び工程(x2)を含む場合、第2工程の混練時間は、工程(x1)及び工程(x2)の合計の混練時間である。第2工程での混練時間が上記の範囲内であることにより、負極活物質の分散性に優れた負極合剤スラリーが得られやすくなる。
【0028】
第1工程で用いるCMCの1重量%水溶液の粘度V1は、第2工程で第1混練体に混合するCMCの1重量%水溶液の粘度V2よりも小さいことが好ましい。粘度V1及び粘度V2は、温度25℃における粘度である。粘度V1は、温度25℃において、例えば1000mPa・s以上5000mPa・s以下であってもよく、1500mPa・s以上4000mPa・s以下であってもよく、1500mPa・s以上2000mPa・s以下であってもよく、2000mPa・s以上3000mPa・s以下であってもよい。粘度V2は、温度25℃において、例えば2000mPa・s以上9000mPa・s以下であってもよく、3000mPa・s以上8000mPa・s以下であってもよく、300mPa・s以上4000mPa・s以下であってもよく、6000mPa・s以上8000mPa・s以下であってもよい。CMCの1重量%水溶液の粘度V1及びV2は、後述する実施例に記載の手順によって測定できる。
【0029】
負極合剤スラリーが含んでいてもよい繊維状炭素は、第1工程で第1混練体を得る際に添加してもよく、第2工程で負極合剤スラリーを得る際に添加してもよく、この両方であってもよい。第2工程で繊維状炭素を添加する場合、工程(x1)で添加してもよく、工程(x2)で添加してもよく、この両方であってもよい。
【0030】
負極合剤スラリーの温度25℃における粘度は、50Pa・s以上270Pa・s以下であってもよく、100Pa・s以上250Pa・s以下であってもよく、120Pa・s以上200Pa・s以下であってもよい。負極合剤スラリーの粘度は、後述する実施例に記載の手順によって測定できる。
【0031】
(非水電解質二次電池)
本電池は、負極の負極活物質層と正極の正極活物質層とがセパレータ及び電解質を介して対向している。負極、正極、及びセパレータは、本電池の電極を構成する。本電池は、電極及び電解質を収容する外装体等を含むことができる。
【0032】
負極は通常、負極集電体と負極活物質層とを有する。負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、上記した負極合剤スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥して圧縮することにより得ることができる。
【0033】
正極は通常、正極集電体と正極活物質層とを有し、正極集電体は例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて構成された金属箔である。正極活物質層は、本電池の分野で公知の材料を用いることができる。
【0034】
セパレータ及び電解質は、本電池の分野で公知の材料を用いることができる。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
[CMCの準備]
次のCMCを準備した。
・BSH-3;
温度25℃における1重量%水溶液の粘度:1500~2000mPa・s
エーテル化度:0.65~0.75
・BSH-6;
温度25℃における1重量%水溶液の粘度:3000~4000mPa・s
エーテル化度:0.65~0.75
・BSH-12;
温度25℃における1重量%水溶液の粘度:6000~8000mPa・s
エーテル化度:0.65~0.75
【0036】
〔比較例1〕
炭素系活物質としての黒鉛87重量部と、Si系活物質としてのSiとCとの複合体10重量部と、結着材としてのCMC(BSH-6、粉体)1重量部と、結着材としてのPAA(粉体)1重量部との混合物に、水53重量部(負極活物質(炭素系活物質及びSi系活物質)100重量部に対する量)を加えて、プラネタリーミキサーで30分間混練し、第1混練体を得た(第1工程)。次に、第1混練体に水34重量部(負極活物質100重量部に対する量)を少量ずつ加えながら、20分間混練し、第2混練体を得た(第2工程)。第2混練体に、結着材としてのSBRを1重量部加えて5分間混練し、負極合剤スラリーを得た(第2工程)。固形分率a、並びに、第1混練体及び負極合剤スラリーの固形分率を表1に示す。
【0037】
〔比較例2〕
第1混練体を得るときの混練時間を180分に変更したこと以外は、比較例1の手順で負極合剤スラリーを得た。固形分率a、並びに、第1混練体及び負極合剤スラリーの固形分率を表1に示す。
【0038】
〔実施例1〕
第1混練体を得るときに用いたCMCの量を0.5重量部に変更し、第2混練体を得るときに用いた水34重量部(負極活物質100重量部に対する量)を、CMC(BSH-6、粉体)の1.5重量%水溶液34重量部に変更したこと以外は、比較例2の手順で負極合剤スラリーを得た。固形分率a、並びに、第1混練体及び負極合剤スラリーの固形分率を表1に示す。
【0039】
〔実施例2〕
第1混練体を得るときに用いたCMC0.5重量部を、CMC(BSH-3、粉体)0.7重量部に変更し、第2混練体を得るときに用いたCMCの1.5重量%水溶液34重量部を、CMC(BSH-12、粉体)の0.9重量%水溶液34重量部(負極活物質100重量部に対する量)に変更したこと以外は、実施例1の手順で負極合剤スラリーを得た。固形分率a、並びに、第1混練体及び負極合剤スラリーの固形分率を表1に示す。
【0040】
〔比較例3〕
炭素系活物質としての黒鉛87重量部と、Si系活物質としてのSiとCとの複合体10重量部と、結着材としてのCMC(BSH-6、粉体)1重量部と、結着材としてのPAA(粉体)1重量部、及び水76重量部(負極活物質100重量部に対する量)を、プラネタリーミキサーで180分間混練し、第1混練体を得た(第1工程)。次に、第1混練体に、結着材としてのSBRを1重量部加えて10分間混練し、負極合剤スラリーを得た(第2工程)。固形分率a、並びに、第1混練体及び負極合剤スラリーの固形分率を表1に示す。
【0041】
[固形分率の算出]
(固形分率aの算出)
第1混練体に含まれる負極活物質(炭素系活物質及びSi系活物質)に対して、一定速度で亜麻仁油を滴定した。この際、亜麻仁油を滴定した負極活物質の粘度特性の変化を、トルク検出器(S-500、株式会社あさひ総研製)で測定及び記録したときに発生した最大トルクを100%トルクとした。100%トルクを基準として、70%トルクを発生するときの吸油量を、70%トルク吸油量として決定した。なお、上記と同様の手順で、炭素系活物質である黒鉛及びSi系活物質であるSiとCとの複合体の70%トルク吸油量を測定したところ、黒鉛の70%トルク吸油量は48ml/100gであり、SiとCとの複合体の70%トルク吸油量は77ml/100gであった。
【0042】
第1混練体に上記で決定した70%トルク吸油量に相当するトルクが発生するときに、当該第1混練体に含まれる水の重量M2を決定した。第1混練体に含まれる負極活物質及び結着材(CMC及びPAA)の合計重量M1と、上記で決定した水の重量M2とに基づいて、固形分率aを算出した。
【0043】
[粘度の測定]
(負極合剤スラリーの粘度)
負極合剤スラリーの粘度は、下記測定装置を用い、下記に示す条件で、温度25℃におけるせん断速度0.01sec-1での粘度[Pa・s]として測定した。
測定装置:MCR102(Anton Paar社製)
条件:コーンプレート、フローカーブ測定
【0044】
(CMC水溶液の粘度)
CMC水溶液の粘度(温度25℃における1重量%水溶液の粘度)は、BM型粘度計を用いて測定した。
【0045】
(第1混練体の固形分率の算出)
第1混練体の重量(負極活物質、結着材、及び水の合計量)に対する、固形分(水以外の負極活物質及び結着材)の重量割合[%]として算出した。
【0046】
(負極合剤スラリーの固形分率の算出)
負極合剤スラリーの重量(負極活物質、結着材、及び水の合計量)に対する、固形分(水以外の負極活物質及び結着材)の重量割合[%]として算出した。
【0047】
[容量維持率及びセル厚みの増加率の評価]
(電池の作製)
実施例及び比較例で得た負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥して圧縮することにより負極活物質を形成して負極を得、これを用いて非水電解質二次電池を作製した。セルの仕様は、外装体をラミネートとし、電極を積層型とし、容量を700mAhとした。
【0048】
(容量維持率の算出)
作製した電池を用いて、充放電を50サイクル繰り返すサイクル試験を行った。1サイクル後の容量及び50サイクル後の容量を測定し、下記式に基づいて容量維持率を算出した。結果を表1に示す。
容量維持率[%]=(50サイクル後の容量/1サイクル後の容量)×100
【0049】
(セル厚みの増加率の算出)
作製した電池を用いて、充放電を300サイクル繰り返すサイクル試験を行った。1サイクル後のセルの厚み及び300サイクル後のセルの厚みを測定し、下記式に基づいてセル厚みの増加率を算出した。結果を表1に示す。
セル厚みの増加率[%]
={(300サイクル後のセルの厚み/1サイクル後のセルの厚み)-1}×100
【0050】
【表1】
【0051】
比較例1では、第1工程の混練時間が短く、第2工程でCMCを添加していないため、実施例1及び2に比較すると電池の容量維持率が小さく、電池のサイクル特性の低下を充分に抑制できないことがわかる。比較例2では、第2工程でCMCを添加していないため、実施例1及び2に比較すると負極合剤スラリーの粘度が小さく、負極合剤スラリー中の負極活物質が沈降していると考えられる。比較例3では、第1混練体の固形分率が小さく第1工程で固練りを行っていないこと、また、第2工程でCMCを添加して混練する工程を行っていないことから、実施例1及び2に比較すると電池の容量維持率が小さく、セル厚みの増加率が大きい。そのため、比較例3の電池では、電池のサイクル特性の低下を充分に抑制できず、セルの反力が大きく、本電池のパックコストの低減を実現しにくいと考えられる。
【0052】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1