(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000174
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】ディンプルが形成されたシリカガラス円板
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20221222BHJP
B23K 26/384 20140101ALI20221222BHJP
【FI】
C03C23/00 D
B23K26/384
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100836
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】稲木 恭一
(72)【発明者】
【氏名】土田 昭禎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紀和
【テーマコード(参考)】
4E168
4G059
【Fターム(参考)】
4E168AD14
4E168CB04
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA15
4E168JA14
4G059AA01
4G059AC01
4G059AC16
4G059AC19
(57)【要約】
【課題】熱処理におけるシリカガラス円板の変形量を最小限に抑え、シリカガラス表面の表面積を大きくすることが可能であるシリカガラス円板を提供する。
【解決手段】シリカガラス体の少なくとも表面又は少なくとも裏面に多数のディンプルが形成されたディンプル形成エリアを有するシリカガラス円板であり、前記ディンプル形成エリアのディンプルが規則正しく形成されてなる、シリカガラス円板とした。前記ディンプルがレーザによって形成されてなることが好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラス体の少なくとも表面又は少なくとも裏面に多数のディンプルが形成されたディンプル形成エリアを有するシリカガラス円板であり、前記ディンプル形成エリアのディンプルが規則正しく形成されてなる、シリカガラス円板。
【請求項2】
前記ディンプルがレーザによって形成されてなる、請求項1記載のシリカガラス円板。
【請求項3】
前記ディンプルが前記シリカガラス体の表面及び裏面に形成されてなる、請求項1又は2記載のシリカガラス円板。
【請求項4】
前記シリカガラス円板の中央部と周縁部とでディンプルの密度が異なる、請求項1~3いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【請求項5】
前記ディンプルの形状が、逆円錐状もしくは逆円錐台状形状、又はディンプル底部の端とディンプル側壁とが直角ではない屈曲形状とされてなる、請求項1~4いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【請求項6】
前記シリカガラス体が、透明シリカガラス、白色シリカガラス、又は黒色シリカガラスである、請求項1~5いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【請求項7】
前記シリカガラス体の裏面の前記ディンプル形成エリアが、前記シリカガラス円板の端部から10mm以上離れて形成されている、請求項1~6いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【請求項8】
前記レーザが、CO2レーザ、ピコ秒レーザ及びフェムト秒レーザから選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載のシリカガラス円板。
【請求項9】
前記ディンプルが、レーザ光をガルバノスキャナでXY軸の任意の点に走査させて形成されてなる、請求項2又は8記載のシリカガラス円板。
【請求項10】
前記シリカガラス円板を縦型熱処理装置での熱処理工程で使用した場合、前記シリカガラス円板の周縁部の先端に生じる変形量が1mm以下である、請求項1~9いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【請求項11】
前記熱処理工程が、ALD法で成膜処理が行われる際の熱処理工程である、請求項10記載のシリカガラス円板。
【請求項12】
前記シリカガラス円板が、Si製ダミーウェーハの代わりとして使用される、請求項1~11いずれか1項記載のシリカガラス円板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラス表面にディンプルが規則正しく形成されたシリカガラス円板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、石英ガラスを使用した熱処理装置でSiウェーハを加熱して、Siウェーハ表面に薄膜処理を行うことが半導体製造プロセスでは行われている。最近では、薄膜処理の方法がCVD(Chemical Vapor Deposition)法からALD(Atomic Layer Deposition)法に切り替わりつつある。これは、Siウェーハ上に形成する薄膜の膜厚が数100Åと薄くなり、Siウェーハ上の膜厚の中心部と周縁部でのバラツキを10Å以下、厳しい場合には数Å以下に制御する必要があるためである。このため、製品として使用するSiウェーハ上段側及び下段側に配置するダミーウェーハにも製品と同じような表面積を求められている。
【0003】
半導体での微細化が進み、表面に凹凸を形成したSiウェーハやシリカガラス円板がダミーウェーハとして使用されてきている。しかしながら、Siウェーハは、クリーニングの際に必ず取り出しをしなくてはいけないなどの問題点があり、最近はシリカガラスの円板が、ダミーウェーハの代わりに積極的に用いられ始めている。
【0004】
特許文献1では、石英によるガス分布調整部材が提案されている。石英部材表面には、製品ウェーハと略等しい表面積を持つことや表面積が0.8倍以上必要であることが提案されている。
【0005】
しかしながら実際には、Siウェーハとシリカガラスでは機械的特性のヤング率やポアソン比の違いにより、棚状にSiウェーハとシリカガラス円板を保持する保持具にセットした場合に、円板先端部分での変形量に差ができてしまうことが分かっている。こうした、変形量を考慮して、シリカガラス円板に凹凸を形成しないと変形量を加速してしまう可能性があり、変形量が大きくなるとSiウェーハとシリカガラス円板との隙間に中央と先端で差が発生してしまい、ガスが流れる量にわずかな違いが生じてしまう。こうした隙間のわずかな差は、実際のSiウェーハ上の膜厚にも微妙な差を発生させてしまい、Siウェーハ表面内での薄膜の膜厚のばらつきが大きくなってしまい問題であった。
【0006】
また、該石英によるガス分布調整部材を示した断面図では、垂直に形成された凹凸が示されているが、垂直な凹凸では膜が付着したときに剥離しやすいとか、また直角な角部が形成されていては、この部分から破損が起きやすいなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱処理におけるシリカガラス円板の変形量を最小限に抑え、シリカガラス表面の表面積を大きくすることが可能であるシリカガラス円板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意薄膜のバラツキに関して研究した結果、シリカガラス円板に規則正しいディンプルを形成することで、熱処理におけるシリカガラス円板の変形量を最小限に抑えることが可能となり、さらにディンプル形状の凹凸面を形成することで、シリカガラス表面の表面積を大きくすることが可能であることを見出したのである。
【0010】
即ち、本発明のシリカガラス円板は、シリカガラス体の少なくとも表面又は少なくとも裏面に多数のディンプルが形成されたディンプル形成エリアを有するシリカガラス円板であり、前記ディンプル形成エリアのディンプルが規則正しく形成されてなる、シリカガラス円板である。
【0011】
前記ディンプルがレーザによって形成されてなることが好適である。
前記レーザが、CO2レーザ、ピコ秒レーザ及びフェムト秒レーザから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記ディンプルが、レーザ光をガルバノスキャナでXY軸の任意の点に走査させて形成されてなることが好適である。
【0012】
前記ディンプルが前記シリカガラス体の表面及び裏面に形成されてなることが好適である。
【0013】
前記ディンプル形成エリアの中心部と周縁部とでディンプルの密度が異なっていてもよい。
【0014】
前記ディンプルの形状が、逆円錐状もしくは逆円錐台状形状、又はディンプル底部の端とディンプル側壁とが直角ではない屈曲形状とされてなることが好適である。
【0015】
前記シリカガラス体が、透明シリカガラス、白色シリカガラス、又は黒色シリカガラスであることが好ましい。
【0016】
前記シリカガラス体の裏面にディンプルが形成されている場合は、前記シリカガラス体の裏面の前記ディンプル形成エリアが、前記シリカガラス円板の端部から10mm以上離れて形成されていることが好適である。
【0017】
前記シリカガラス円板を縦型熱処理装置での熱処理工程で使用した場合、前記シリカガラス円板の周縁部の先端に生じる変形量を1mm以下とすることができる。
前記熱処理工程が、ALD法で成膜処理が行われる際の熱処理工程であることが好適である。
【0018】
前記シリカガラス円板は、Si製ダミーウェーハの代わりとして好適に使用される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱処理におけるシリカガラス円板の変形量を最小限に抑え、シリカガラス表面の表面積を大きくすることが可能であるシリカガラス円板を提供することができる。
また、本発明によれば、指向性のないディンプルを規則正しくシリカガラス円板に形成することで、このシリカガラス円板を縦型熱処理炉用のダミーウェーハの代わりとして使用した場合に、シリカガラス円板の先端での変形量を抑えることができる。
さらに、シリカガラス表面にディンプルを規則正しく形成することで、このシリカガラス円板をガス分布調整部材として、所定の表面積を得ることも可能であり、Siウェーハ表面に形成される薄膜の膜厚分布を更に均一にすることを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のシリカガラス円板の一つの実施の形態を示し、(a)がディンプルを仮想四角形の頂点に配置した態様の要部概略模式図、(b)が(a)の一部拡大図である。
【
図2】本発明のシリカガラス円板の別の実施の形態を示し、(a)がディンプルを仮想三角形の頂点に配置した態様の要部概略模式図、(b)が(a)の一部拡大図である。
【
図3】実施例1のシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真の結果を示す。
【
図4】実施例1のシリカガラス円板の変形量分布図のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図5】実施例2のシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真の結果を示す。
【
図6】比較例1のシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真の結果を示す。
【
図7】
図1の本発明のシリカガラス円板の一つの実施の形態の一部横断面図である。
【
図8】
図1の本発明のシリカガラス円板の他の実施の形態の一部横断面図である。
【
図9】
図1の本発明のシリカガラス円板の他の実施の形態の一部横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0022】
本発明のシリカガラス円板は、シリカガラス体の少なくとも表面又は少なくとも裏面に多数のディンプルが形成されたディンプル形成エリアを有するシリカガラス円板であり、前記ディンプル形成エリアのディンプルが規則正しく形成されてなる、シリカガラス円板である。本発明において、ディンプルとは、シリカガラス円板の表面及び/又は裏面に形成されたディンプル形状の凹部を意味する。そして、本発明において、ディンプル形状とは、シリカガラス円板の平面に形成され、前記平面と接する部分が凡そ円状で、隣接する凹部とは接しない、独立した凹部の事を示す。
シリカガラス円板に規則正しいディンプルを形成することで、シリカガラス円板の変形量を最小限に抑えることが可能となり、さらにディンプル形状の凹凸面を形成することで、シリカガラス表面の表面積大きくすることが可能となる。
【0023】
本発明のシリカガラス円板は、Si製ダミーウェーハの代わりとして好適に使用される。特に、縦型熱処理装置での熱処理工程におけるダミーウェーハの代わりとして好ましく、ALD法で成膜処理が行われる際の熱処理工程におけるダミーウェーハの代わりとしてより好適に用いられる。
前記シリカガラス円板を縦型熱処理装置、例えば、棚状の保持具にセットし、熱処理工程(300℃~700℃)で使用した場合、前記シリカガラス円板の周縁部の先端での変形量を1mm以下とすることができる。前記シリカガラス円板の周縁部の先端での変形量は1mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。変形量が1mmを超える場合は、Siウェーハ表面の薄膜のバラツキが大きく、影響が問題となる。
【0024】
尚、シリカガラス円板とSiウェーハは、石英ガラス円板の表面に何もディンプルを形成していなくても棚状の保持具にセットした場合には変形量に差が発生することが分かっている。Siウェーハはシリカガラス円板よりもヤング率やポアソン比が大きいために、変形しにくいことが分かっている。変形量を抑えるためには、ディンプルを規則正しく、指向性が無い状態にすることが重要である。例えば、特許文献1に記載されている溝のような直線形状で指向性がある形状をシリカガラス円板表面に形成した場合には、シリカガラス円板の先端の変形が加速しないように変形の方向と溝が形成された方向を直交させることが重要であるが、もし溝の方向と変形の方向が重なってしまうと変形が加速されて変形量が2mm以上となってしまう場合がある。こうした、リスクを抑えるためにも、ディンプルのような指向性を持たない形状をシリカガラス表面に形成することが必要である。
【0025】
ディンプルの形成方法は特に制限はないが、レーザによって形成されることが好適である。特に、表面積を増やすためには、多くのディンプルをシリカガラス表面に形成することが必要であり、またディンプルの形状も安定させることが必要なため、何万個~何十万個のディンプル形成にはレーザ光を使用することが好ましい。
【0026】
レーザ光の種類に関しては特に限定はしないが、CO2レーザやYAGレーザの第二高調波、第三高調波を使用したピコ秒レーザやフェムト秒レーザでもかまわない。
レーザ光照射の際には、多軸(例えば、XY軸の2次元、又はXYZの3次元)制御が可能であるガルバノスキャナ等の制御装置を用いて、レーザ光の照射位置を制御することが好適である。2軸ガルバノスキャナは、レーザ光をX及びY方向の2次元で偏向・集光し、2次元エリアの任意の位置にレーザ走査するXY偏向ユニットである。ガルバノスキャナを使用してレーザ光をXY軸の任意の点に走査することで、シリカガラス表面全体にディンプル加工をすることが可能となる。
【0027】
使用するシリカガラス体の材質はシリカガラスであれば特に制限はなく、天然シリカガラス及び合成シリカガラスのいずれも使用可能であるが、高純度の合成シリカガラスがより好適に使用される。特に、SiO2組成量が99.99質量%~100質量%であるシリカガラスがより好適である。
該シリカガラス体の色や透明性も特に制限はなく、例えば、透明シリカガラス、白色シリカガラス、又は黒色シリカガラス等が好適に用いられ、使用用途を考えて、適宜選択すればよい。これらいずれのシリカガラスでも、ディンプル形成の作業性は変わらないので、同様の手段でディンプルを形成することができる。
例えば、白色のシリカガラス円板はシリカ微粒子に溶媒を添加してスラリー状にしたのち、これを型枠に流し込み、スリップキャスト法で作成することができる。また、黒色シリカガラスの場合にも、該スラリーに黒色の添加物、例えばC、SiC、Si、SiOなどの粉末を添加して、スラリーを着色すればかまわない。
【0028】
本発明のシリカガラス円板は、表面及び裏面が円形状のシリカガラス体である。
前記シリカガラス円板は、ダミーウェーハの代わりとして使用される場合は、Siウェーハと同じ形状であることが望ましいが、重量を合わせるために肉厚は少し厚くなる。また、表面のディンプルの密度によってもシリカガラス体の重量は変化するので、重量を合わせるために肉厚をSiウェーハより厚くすることも可能である。
【0029】
図1は、本発明のシリカガラス円板10の一つの実施の形態を示し、ディンプル12を仮想四角形14の頂点に配置した態様の要部概略模式図である。
図2は、本発明のシリカガラス円板10の別の実施の形態を示し、ディンプル12を仮想三角形16の頂点に配置した態様の要部概略模式図である。
【0030】
本発明において、規則正しいディンプルの形成とは、ディンプルが所定の規則に則って、規則的な配置で形成されることを意味する。ディンプルの配置は、規則正しく形成されていれば特に規定はないが、
図1に示した如く、前記ディンプル形成エリアが、ディンプルが規則正しく形成されたディンプル構造単位の繰り返しから構成され、前記ディンプル構造単位が、仮想四角形14の頂点に配置されたディンプルから構成されてなることが好適である。また、従来の溝形状のような指向性があるデザイン(比較例1参照)をなるべく避けることが好ましい。
【0031】
単純な比較では、ディンプル12を仮想四角形(□)の状態に配置した場合[
図1]と、ディンプル12を仮想三角形(△)の状態に配置した場合[
図2]では、ガスの付着特性を厳しく求められない条件では気にならない微妙な差ではある。しかしながら、ガスの付着特性を厳しく求められる条件では、
図2のように仮想三角形(△)の状態にディンプルを配置した場合にはシリカガラス円板の向きによってディンプル同士の距離が部分的に長くなる方向などが存在してしまい、シリカガラス円板の向きを一定に固定しなければならないなどのわずらわしさが発生する場合がある。
【0032】
図1(b)に示すように、ディンプル12を仮想正四角形(□)の状態に配置した場合では、周辺のディンプル同士の距離は最短距離に対する比率が最大で√2である。しかしながら、
図2(b)に示すように、ディンプル12を仮想正三角形(△)の状態に配置した場合には、周辺のディンプル同士の距離は最短距離に対する比率が最大で√3となる。従って、シリカガラス円板の向きによってディンプル同士の距離が部分的に長くなる方向が存在するので、若干指向性が出てきてしまう。そのため、ガスの付着特性を厳しく求められる条件では、シリカガラス円板の向きを一定に固定しなければならないなどの必要が出てくる。それでも、ディンプル12を仮想三角形(△)の状態に配置した場合には、従来の溝形状のような、明らかな指向性があるデザインではないため、ガスの付着特性を厳しく求められない条件ではそれほど問題とならない。
【0033】
四角形(□)の状態にディンプルを配置した場合でも、方向によってはディンプル同士の距離が部分的に長くなるが、三角形(△)の場合ほど距離が長くなることはなく、シリカガラス円板の向きに関しては方向性の自由度が大きい。よって、
図1に示す如く、ディンプルを仮想四角形の頂点に配置することが好適であり、仮想正四角形の頂点に配置することがより好適である。
【0034】
前記シリカガラス円板において、ディンプル形成エリアは、シリカガラス体の表面又は裏面のいずれに形成されていてもよく、また表面及び裏面の両面に形成されていてもよい。ディンプルの形成は、基本的に表面積を増加させる一つの方法であるが、機械的に両面に凹凸を形成すると、この凹凸を形成するための加工時に割れてしまう危険性がある。ただし、今回のディンプルのようにレーザを使用して形成する場合には、機械的な加工が不必要であるために両面に凹凸面を形成させるのには好都合である。
【0035】
図7に、
図1の本発明のシリカガラス円板の一つの実施の形態の一部横断面図を示す。
図7では、ディンプル12としては、ディンプル底部の端とディンプル側壁とが屈曲形状とした例で、シリカガラス円板10は、シリカガラス体18の表面のみにディンプル12が規則正しく形成されている。
図7(b)では、シリカガラス円板10は、シリカガラス体18の表面と裏面の両方にディンプル12が規則正しく形成されている。
【0036】
また、前記シリカガラス円板中にディンプル形成エリアが形成される配置は特に制限はないが、ダミーウェーハの代わりに使用する場合は、少なくとも該シリカガラス円板の中央部にディンプル形成エリアを設けることが好ましい。前記シリカガラス円板の中央部とは、シリカガラス円板の中心部または中心部付近を含む領域であり、前記中央部としては、シリカガラス円板の80%以上の範囲が好ましく、90%以上の範囲がより好ましい。
【0037】
また、ダミーウェーハの代わりに使用する場合は、シリカガラス円板の裏面の周縁部にはディンプル形成エリアを設けないか、又はディンプルの密度をシリカガラス円板の中央部よりも減少せしめることが好ましい。前記シリカガラス円板の周縁部とは、円板の端部又は端部を含む領域であり、例えば、直径300mmの円板の場合、前記シリカガラス円板の裏面の周縁部としては、円板の端から少なくとも15mmの範囲が好ましく、円板の端から少なくとも10mmの範囲がより好ましい。
【0038】
シリカガラス円板を縦型熱処理装置での熱処理工程においてダミーウェーハの代わりとして使用した場合に、変形は棚状のシリカガラス円板の先端で発生するが、この変形量を抑制するためには、シリカガラス円板の裏面の周縁部の幅10mmにはディンプルを形成させないことが重要である。この部分にディンプルを形成した場合には、先端部での変形が加速されてしまう。変形が加速される理由は明確ではないが、ディンプルを形成することで、部分的にシリカガラス円板の肉厚が薄くなり、変形のモードが加速されてしまうのではないかと思われる。ディンプル形状が中心から先端まで配列されているので、各ディンプル1個1個の変形モードが先端まで影響してしまうが、少なくとも周縁部10mmの幅にディンプルを形成しない領域を形成する場合には、ディンプルの変形モードの影響を一度遮断して変形量を抑えることが可能となる。
【0039】
前記ディンプル形成エリア中のディンプルの密度も特に制限はなく、均一にディンプルが存在していてもよく、前記シリカガラス円板の部位によってディンプルの密度を異ならせてもよい。前記シリカガラス円板の部位によってディンプルの密度を異ならせる場合にも、ディンプルの形状には特に規定はない。
【0040】
前記シリカガラス円板中のディンプルの数は特に制限はないが、シリカガラス円板の中央部のディンプルの数は10万~200万個が好ましく、50~100万個がより好ましい。また、周縁部のディンプル数に関しても、上記範囲と同じとするが、条件によっては、中心部のディンプルが周縁部より多い場合や、少ない場合もある。ただし、シリカガラス円板の裏面周縁部のディンプルの数(密度)は0が好ましい。
【0041】
ディンプルのサイズに関しては特に制限はないが、穴径50~500μmが好ましく、200~400μmがより好ましい。また、ディンプルの深さは10~1000μmが好ましく、200~600μがより好ましい。ディンプルの具体例としては、例えば、穴径数100μ、深さ数100μmに調整されたディンプルが好適である。
【0042】
ディンプルの形状は特に制限はないが、逆円錐状形状もしくは逆円錐台状形状、又はディンプル底部の端とディンプル側壁とが直角ではない屈曲形状とされてなることが好適である。
【0043】
図8及び
図9に、本発明のシリカガラス円板の他の実施の形態の一部横断面図を示す。
図8の例では、シリカガラス円板20は、シリカガラス体26に形成されたディンプル22として、逆円錐状形状の例を示した。また、
図9では、ディンプル22の形状が逆円錐台状形状とされた例を示した。
図8(a)及び
図9(a)では、シリカガラス円板20は、シリカガラス体26の表面のみにディンプル22が規則正しく形成されている。
図8(b)及び
図9(b)では、シリカガラス円板20は、シリカガラス体26の表面と裏面の両方にディンプル22が規則正しく形成されている。
なお、本明細書において、シリカガラス表面という記載は、シリカガラスの面自体のことを指しており、シリカガラス体の表面と裏面の両方を含みうる概念である。本発明のシリカガラス円板は、棚状の保持具等に乗せて使用することが好適であり、本願明細書において、シリカガラス円板の表面及び裏面とは、棚状の保持具等への載置時に上面側になる側を表面、下面側になる側を裏面と称する。
【0044】
本発明者らは、鋭意レーザの照射条件などを精査した結果、幸運にもレーザで形成したディンプルはレーザのパワーが深さ方向で分布を持つために、開口部側でパワーが大きく、底面側ではパワーが徐々に小さくなる傾向が認められることが分かった。このため、レーザで形成されたディンプルは、自ずと円錐状態となり、更に底面の角部は丸い形状とすることが可能となる。このため、このディンプルでガスを吸着させる効果は持続させながら、今までのような溝形状やサンドブラストによる凹凸形状とは違い、ガスがシリカガラス表面に付着しても剥離しにくく、また鋭い角部が形成されていないので、クラックの発生や破損のリスクを低減することが可能となる。更に、ガスでデポした膜を洗浄するときにも、ディンプル内に均一にガスが供給され、デポした膜をきれいに除去することが可能である。
【実施例0045】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0046】
(実施例1)
透明な合成シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)のシリカガラス体の表面の全面に、CO2ガスレーザを使用して、穴径200~250μm、深さ200μmのディンプルを、仮想四角形の頂点に規則正しく配置されるように、均一に80万個作成した。レーザ光の照射の際に、レーザービームを2次元で偏向・集光するXY偏向ユニットである2軸ガルバノスキャナ(Raylase社製)を制御装置として使用した。CO2ガスレーザはガルバノスキャナを使用して、シリカガラス体の表面に走査したので、表面にディンプルを形成するのに約1時間半の時間が必要であった。
シリカガラス体の裏面に関しては、該合成シリカガラス円板の端部から10mmの範囲(周縁部)には、ディンプルを形成しない条件で、表面と同等の条件でディンプルを作成し、合成シリカガラス円板の裏面の中央部(周縁部以外)に穴径200~250μm、深さ200μmのディンプルを均一に70万個形成した。
【0047】
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真を
図3に示す。
図3に示した如く、シリカガラス円板のシリカガラス体の表面及び裏面には、仮想四角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが形成されていた。また、形成されたディンプルの形状は逆円錐状であった。
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板を棚状の保持具に乗せ、加熱処理(550℃)を行った後、先端部の変形量について測定を行った。測定には、ハイトゲージを使用した。実測結果を表1に示し、変形量分布のシミュレーション結果を
図4に示す。
【0048】
(実施例2)
天然シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)のシリカガラス体の表面の全面に、CO2ガスレーザを使用して、穴径200~250μmで深さ400μmのディンプルを均一に50万個作成した。尚、CO2ガスレーザはガルバノスキャナ―を使用して、シリカガラス体の表面に走査したので、表面にディンプルを形成するのに約1時間の時間が必要であった。
シリカガラス体の裏面に関しては、天然シリカガラス円板の端部から20mmの範囲(周縁部)には、ディンプルを形成しない条件で、表面と同等の条件でディンプルを作成し、天然シリカガラス円板の裏面の中央部(周縁部以外)に穴径200~250μm、深さ400μmのディンプルを均一に35万個形成した。
【0049】
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真を
図5に示す。
図5に示した如く、シリカガラス円板のシリカガラス体の表面及び裏面には、仮想四角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが形成されていた。また、形成されたディンプルの形状は逆円錐台状であった。
また、前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板に対して、実施例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
白色シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)のシリカガラス体の表面の全面に、YAGレーザの2倍高調波のピコ秒レーザを使用して、穴径50~60μmで深さ100μmのディンプルを均一に100万個作成した。尚、YAGレーザの2倍高調波はガルバノスキャナ―を使用して、シリカガラス体の表面に走査したので、表面にディンプルを形成するのに3時間ほどの時間が必要であった。
シリカガラス体の裏面に関しては、白色シリカガラス円板の端部から15mmの範囲(周縁部)には、ディンプルを形成しない条件で、表面と同等の条件でディンプルを作成し、白色シリカガラス円板の裏面の中央部(周縁部以外)に穴径50~60μm、深さ100μmのディンプルを均一に80万個形成した。
【0051】
前記得られた白色シリカガラス円板のシリカガラス体の表面及び裏面には、仮想四角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが形成されていた。また、形成されたディンプルの形状は逆円錐台状であった。
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板に対して、実施例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例4)
透明な合成シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)のシリカガラス体の表面に、CO2ガスレーザを使用して、穴径200~250μmで深さ500μmのディンプルを100万個作成した。ただし、φ200mmの中心部(中央部)には30万個、φ200mm以外の部分(周縁部)には70万個のディンプルをそれぞれ均一に形成し、円板の中央部と周縁部でディンプルの密度が異なるデザインとした。尚、CO2ガスレーザはガルバノスキャナ―を使用して、シリカガラス体の表面に走査したので、表面にディンプルを形成するのに約1時間半の時間が必要であった。
シリカガラス体の裏面に関しては、合成シリカガラス円板の端部から10mmの範囲(周縁部)には、ディンプルを形成しない条件で、表面と同等の条件でディンプルを作成し、合成シリカガラス円板の裏面の中央部(周縁部以外)に穴径200~250μm、深さ500μmのディンプルを均一に60万個形成した。
【0053】
前記得られた合成シリカガラス円板のシリカガラス体の表面及び裏面には、仮想四角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが形成されていた。また、形成されたディンプルの形状は逆円錐状であった。
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板に対して、実施例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例5)
透明な合成シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)のシリカガラス体の表面に、CO2ガスレーザを使用して、穴径200~250μmで深さ500μmのディンプルを70万個作成した。ただし、φ200mmの中心部(中央部)には30万個、φ200mm以外の部分(周縁部)には40万個のディンプルをそれぞれ均一に形成し、円板の中央部と周縁部でディンプルの密度が異なるデザインとした。尚、CO2ガスレーザはガルバノスキャナ―を使用して、シリカガラス表面に走査したので、表面にディンプルを形成するのに約1時間半の時間が必要であった。
シリカガラス体の裏面に関しては、合成シリカガラス円板の端部から10mmの範囲(周縁部)には、ディンプルを形成しない条件で、表面と同等の条件でディンプルを作成し、合成シリカガラス円板の裏面の中央部(周縁部以外)に穴径200~250μm、深さ500μmのディンプルを均一に40万個形成した。
【0055】
前記得られた合成シリカガラス円板のシリカガラス体の表面周縁部及び裏面には、仮想三角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが、表面中心部には、仮想四角形の頂点に規則正しく配置された多数のディンプルが形成されていた。また、形成されたディンプルの形状は逆円錐状であった。
前記得られた両面にディンプルが形成されたシリカガラス円板に対して、実施例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
天然シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)に、幅200~250μm、深さ400μmの溝を400本形成した。溝は、溝切加工機で形成したので、10時間必要であった。尚、溝はシリカガラス体の表面及び裏面の全面に形成し、周縁部にも形成した。溝切加工には、非常に時間がかかってしまうことも、生産性が悪くなるということで問題でもある。
前記得られた両面に溝が形成されたシリカガラス円板のシリカガラス体の表面の顕微鏡写真を
図6に示す。
前記得られた両面に溝が形成されたシリカガラス円板に対して、実施例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行った。但し、比較例1では、溝の形成した方向と保持具との位置関係によって変形量が変わったため、溝の方向によって(水平と垂直)の測定結果も併せて測定を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
合成シリカガラス円板(直径300mm、厚さ1.5mm)に、溝切加工機を用いて、幅200~250μm、深さ400μmの溝を600本、この溝に直交するように同じ溝幅、溝深さの溝を同じように300本形成した。尚、溝はシリカガラス体の表面のみに形成し、周縁部にも同じように溝を形成した。
前記得られたシリカガラス体の表面に溝が形成されたシリカガラス円板に対して、比較例1と同様の方法により加熱処理後の先端部の変形量について測定を行ったが、溝切を行うときに、溝の多くが脱落してしまい、変形量の測定が困難であった。
【0058】
【0059】
表1に示した如く、実施例1~4のディンプルが規則正しく形成されたシリカガラス円板は、シリカガラス円板の先端部の変形量を著しく減少させることができた。