(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174020
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電磁石電源装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/18 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
H01F7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086625
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 健介
(57)【要約】
【課題】出力電流の安定性をより向上できる電磁石電源装置を提供する。
【解決手段】電磁石と接続され、ステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を電磁石に供給する主回路部と、電磁石に流れる電流を検出する電流検出器と、電流パターンと電流検出器の検出結果とを基に、主回路部の動作を制御する制御部と、を備え、主回路部は、フォーシング回路とフラット維持回路とを有し、制御部は、電圧を出力する出力動作と、電圧の出力を停止する停止動作と、をフォーシング回路に行わせ、フォーシング回路に出力動作を行わせた後、電流パターンの表す目標電流値と電流検出器によって検出された現在の出力電流値との差分を表す電流偏差が、所定の閾値に到達するタイミングで、フォーシング回路を出力動作から停止動作に切り替える電磁石電源装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石と接続され、ステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を前記電磁石に供給する主回路部と、
前記電磁石に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流パターンの入力を受け、入力された前記電流パターンと、前記電流検出器の検出結果と、を基に、前記主回路部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記主回路部は、
前記電流パターンがステップ状に変化する期間に動作するフォーシング回路と、
前記フォーシング回路と直列に接続され、前記電流パターンが一定の期間に動作するフラット維持回路と、
を有し、
前記制御部は、前記電流パターンがステップ状に変化する期間の時に、電圧を出力する出力動作を前記フォーシング回路に行わせるとともに、前記電流パターンが一定の期間の時に、出力側を導通させて前記電圧の出力を停止する停止動作を前記フォーシング回路に行わせ、前記フォーシング回路に前記出力動作を行わせた後、前記電流パターンの表す目標電流値と前記電流検出器によって検出された現在の出力電流値との差分を表す電流偏差が、所定の閾値に到達するタイミングで、前記フォーシング回路を前記出力動作から前記停止動作に切り替える電磁石電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、所定のサンプリング周期で前記電流偏差の現在値を取得し、前記電流偏差の現在値を取得する毎に、前記電流偏差の現在値と、前記所定の閾値と、前記電流偏差の変化率と、を基に、前記電流偏差の前記所定の閾値への到達時間を計算し、前記フォーシング回路に前記出力動作を行わせた後、次の前記電流偏差の現在値の取得までに前記電流偏差が前記所定の閾値に到達する場合に、前記電流偏差の現在値の取得のタイミングから計算した前記到達時間の経過したタイミングにおいて、前記フォーシング回路を前記出力動作から前記停止動作に切り替える請求項1記載の電磁石電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記主回路部から前記電磁石に出力する出力電圧と、前記主回路部から前記電磁石に出力する出力電流と、前記電磁石のインダクタンス成分と、前記電磁石の抵抗成分と、に基づいて予め計算された前記電流偏差の変化率を記憶し、記憶した前記電流偏差の変化率を基に、前記到達時間の計算を行う請求項2記載の電磁石電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電磁石電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を電磁石に供給する電圧形電力変換装置の電磁石電源装置が知られている。こうした電磁石電源装置において、2つのチョッパ回路を直列に接続することが行われている。一方のチョッパ回路は、電流指令値がステップ状に変化する期間に動作する。このチョッパ回路は、例えば、フォーシング回路などと呼ばれる。他方のチョッパ回路は、電流指令値が一定の期間に動作する。このチョッパ回路は、例えば、フラット維持回路などと呼ばれる。
【0003】
このように、直列に接続された2つのチョッパ回路を設けることにより、電流指令値の変化に対する負荷電流の高い応答性を得ることができるとともに、一定の電流指令値に対して負荷電流を高精度に制御することができる。こうした電磁石電源装置は、例えば、医療用のスキャニング電磁石などに用いられる。
【0004】
フォーシング回路は、電流指令値がステップ状に変化する期間の時に、電圧を出力する出力動作を行い、電流指令値が一定の期間の時に、出力側を導通(バイパス)させて電圧の出力を停止する停止動作を行う。
【0005】
フォーシング回路は、目標電流値と現在の出力電流値との差分を表す電流偏差が、閾値以下となった際に、出力動作から停止動作に切り替える。この際、電流偏差のサンプリング時間に起因するジッターなどにより、フォーシング回路の出力動作から停止動作への切り替えのタイミングが安定せず、電磁石に供給する出力電流の安定性が低下してしまう可能性がある。
【0006】
このため、電磁石電源装置では、出力電流の安定性をより向上できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、出力電流の安定性をより向上できる電磁石電源装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によれば、電磁石と接続され、ステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を前記電磁石に供給する主回路部と、前記電磁石に流れる電流を検出する電流検出器と、前記電流パターンの入力を受け、入力された前記電流パターンと、前記電流検出器の検出結果と、を基に、前記主回路部の動作を制御する制御部と、を備え、前記主回路部は、前記電流パターンがステップ状に変化する期間に動作するフォーシング回路と、前記フォーシング回路と直列に接続され、前記電流パターンが一定の期間に動作するフラット維持回路と、を有し、前記制御部は、前記電流パターンがステップ状に変化する期間の時に、電圧を出力する出力動作を前記フォーシング回路に行わせるとともに、前記電流パターンが一定の期間の時に、出力側を導通させて前記電圧の出力を停止する停止動作を前記フォーシング回路に行わせ、前記フォーシング回路に前記出力動作を行わせた後、前記電流パターンの表す目標電流値と前記電流検出器によって検出された現在の出力電流値との差分を表す電流偏差が、所定の閾値に到達するタイミングで、前記フォーシング回路を前記出力動作から前記停止動作に切り替える電磁石電源装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、出力電流の安定性をより向上できる電磁石電源装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る電磁石電源装置を模式的に表す回路図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【
図4】制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【
図5】制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【
図6】制御部の参考の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【0012】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る電磁石電源装置を模式的に表す回路図である。
図1に表したように、電磁石電源装置10は、主回路部12と、制御部14と、を備える。主回路部12は、負荷である電磁石2と接続され、ステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を電磁石2に供給する。主回路部12は、電流の供給により、電磁石2を動作させる。主回路部12は、例えば、電圧形の電力変換装置である。制御部14は、主回路部12の動作を制御する。制御部14は、より詳しくは、主回路部12による電磁石2への電流の供給の動作を制御する。
【0014】
主回路部12は、フォーシング回路16と、フラット維持回路18と、を有する。フラット維持回路18は、フォーシング回路16と直列に接続されている。フォーシング回路16は、電流パターン(電流指令値)がステップ状に変化する期間に動作する。フラット維持回路18は、電流パターン(電流指令値)が一定の期間に動作する。
【0015】
フォーシング回路16の出力側には、例えば、リアクトル21、22が設けられる。フラット維持回路18の出力側には、例えば、リアクトル23、24が設けられる。リアクトル21~24は、例えば、リプル平滑用のリアクトルである。フラット維持回路18は、例えば、リアクトル22、23を介してフォーシング回路16と直列に接続される。フォーシング回路16及びフラット維持回路18(主回路部12)は、リアクトル21、24を介して電磁石2と接続される。
【0016】
電磁石電源装置10は、例えば、直流電源30と、直流電源40と、をさらに備える。フォーシング回路16は、負荷である電磁石2と接続されるとともに、直流電源30と接続されている。フォーシング回路16は、直流電源30から供給された直流電圧の電磁石2への供給、及び供給の停止を切り替えることにより、電磁石2に供給する電流をステップ状に変化させる動作を行う。主回路部12から電磁石2に供給する電流は、フォーシング回路16が直流電圧を出力している状態の時に、ステップ状に変化する。
【0017】
直流電源30は、例えば、変圧器31と、整流器32と、リアクトル33と、コンデンサ34と、を有する。整流器32は、変圧器31を介して交流電源4と接続されている。整流器32は、交流電源4から供給された交流電力を整流し、整流電力に変換する。リアクトル33及びコンデンサ34は、整流器32によって変換された整流電力を平滑化し、直流電力に変換する。これにより、直流電源30は、直流電力をフォーシング回路16に供給する。
【0018】
フラット維持回路18は、負荷である電磁石2と接続されるとともに、直流電源40と接続されている。フラット維持回路18は、直流電源40から供給された直流電圧の電磁石2への供給、及び供給の停止を切り替えることにより、電磁石2に供給する電流を電流パターンの表す電流指令値に応じた一定の電流となるように制御する。
【0019】
直流電源40は、例えば、変圧器41と、整流器42と、リアクトル43と、コンデンサ44と、を有する。直流電源40の構成は、直流電源30の構成と同様であるから、詳細な説明は省略する。これにより、直流電源40は、直流電力をフラット維持回路18に供給する。
【0020】
なお、直流電源30、40の構成は、上記に限ることなく、フォーシング回路16及びフラット維持回路18に直流電力を供給可能な任意の構成でよい。また、電磁石電源装置10は、必ずしも直流電源30、40を備えなくてもよい。フォーシング回路16及びフラット維持回路18は、外部の直流電源から直流電力の供給を受けてもよい。
【0021】
図2は、主回路部を模式的に表す回路図である。
図2に表したように、フォーシング回路16は、フルブリッジ接続された4つのスイッチング素子50a~50dと、4つのスイッチング素子50a~50dのそれぞれに逆並列に接続された4つの整流素子52a~52dと、を有する。
【0022】
同様に、フラット維持回路18は、フルブリッジ接続された4つのスイッチング素子54a~54dと、4つのスイッチング素子54a~54dのそれぞれに逆並列に接続された4つの整流素子56a~56dと、を有する。
【0023】
フォーシング回路16及びフラット維持回路18は、換言すれば、チョッパ回路である。フォーシング回路16は、換言すれば、第1チョッパ回路であり、フラット維持回路18は、換言すれば、第2チョッパ回路である。
【0024】
フォーシング回路16では、上側(ハイサイド側)のスイッチング素子50aと、下側(ローサイド側)のスイッチング素子50cと、の接続点、及び上側のスイッチング素子50bと、下側のスイッチング素子50dと、の接続点が、それぞれ一対の出力点16a、16bとなる。同様に、フラット維持回路18では、上側のスイッチング素子54aと、下側のスイッチング素子54cと、の接続点、及び上側のスイッチング素子54bと、下側のスイッチング素子54dと、の接続点が、それぞれ一対の出力点18a、18bとなる。
【0025】
フラット維持回路18の出力点18aは、リアクトル22、23を介してフォーシング回路16の出力点16bと接続される。これにより、フラット維持回路18の出力側が、フォーシング回路16の出力側と直列に接続される。フォーシング回路16の出力点16aは、リアクトル21を介して電磁石2の一端と接続される。フラット維持回路18の出力点18bは、リアクトル24を介して電磁石2の他端と接続される。これにより、直列に接続されたフォーシング回路16及びフラット維持回路18の出力側が、電磁石2と接続され、フォーシング回路16及びフラット維持回路18から出力された電力が、電磁石2に供給される。
【0026】
各スイッチング素子50a~50d、54a~54dは、一対の主端子と、制御端子と、を有する。各スイッチング素子50a~50d、54a~54dは、制御端子に入力された電圧に応じて、一対の主端子間に電流を流すオン状態と、一対の主端子間に流れる電流を遮断するオフ状態と、を切り替える。なお、オフ状態は、主端子間に流れる電流を完全に遮断する状態に限ることなく、主回路部12の動作に影響が無い範囲の微弱な電流が主端子間に流れる状態でもよい。オン状態は、換言すれば、主端子間に電流が流れる第1状態であり、オフ状態は、換言すれば、主端子間に電流が流れる第1状態よりも小さい第2状態である。
【0027】
各スイッチング素子50a~50d、54a~54dには、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの自励式の半導体スイッチング素子が用いられる。但し、各スイッチング素子50a~50d、54a~54dは、これに限ることなく、オン状態及びオフ状態の切り替えを制御可能な任意のスイッチング素子でよい。
【0028】
フルブリッジ回路のフォーシング回路16及びフラット維持回路18では、各スイッチング素子50a~50d、54a~54dのスイッチングにより、電磁石2に供給する電流の向きを制御することができる。但し、フォーシング回路16及びフラット維持回路18の構成は、上記に限ることなく、電磁石2に対してステップ状に変化する電流パターンに応じた電流を適切に供給することが可能な任意の構成でよい。
【0029】
制御部14は、各スイッチング素子50a~50d、54a~54dのそれぞれの制御端子と接続され、各スイッチング素子50a~50d、54a~54dのそれぞれのオン状態及びオフ状態の切り替えを制御することにより、フォーシング回路16及びフラット維持回路18の動作を制御する。
【0030】
制御部14は、フォーシング回路16の各スイッチング素子50a~50dのそれぞれのオン状態及びオフ状態の切り替えを制御することにより、電磁石2に供給する電流をステップ状に変化させる動作を制御する。
【0031】
また、制御部14は、電流パターンがステップ状に変化する期間の時に、電圧を出力する出力動作をフォーシング回路16に行わせるとともに、電流パターンが一定の期間の時に、出力側を導通(バイパス)させて電圧の出力を停止する停止動作をフォーシング回路16に行わせる。出力動作は、換言すれば、フォーシング動作である。
【0032】
この例では、上側のスイッチング素子50a、50bをオン状態とし、下側のスイッチング素子50c、50dをオフ状態とするか、反対に、上側のスイッチング素子50a、50bをオフ状態とし、下側のスイッチング素子50c、50dをオン状態とすることにより、一対の出力点16a、16bの間を導通させた状態とすることができる。
【0033】
制御部14は、フラット維持回路18の各スイッチング素子54a~54dのそれぞれのオン状態及びオフ状態の切り替えを制御することにより、電流パターンが一定の期間の時に、電磁石2に供給する電流を電流パターンに応じた一定の電流となるように制御する。制御部14は、例えば、各スイッチング素子54a~54dのそれぞれのオン状態及びオフ状態を高速に切り替えることにより、電磁石2に供給する電流を電流パターンに応じた一定の電流となるように制御する。制御部14は、例えば、フラット維持回路18に対してACR(Auto Current Regulator)制御を行うことにより、電磁石2に供給する電流を電流パターンに応じた一定の電流となるように制御する。
【0034】
図1に表したように、電磁石電源装置10は、電流検出器60をさらに備える。電流検出器60は、電磁石2に流れる電流を検出し、検出結果を制御部14に入力する。
【0035】
図3(a)及び
図3(b)は、制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図3(a)は、制御部14に入力される電流パターンの一例、及び主回路部12から電磁石2に供給される出力電流の一例を模式的に表している。
図3(b)は、
図3(a)の破線で囲んだ部分を拡大して表している。
【0036】
図3(a)及び
図3(b)に表したように、制御部14には、ステップ状に変化する電流パターンが入力される。電流パターンは、例えば、上位のコントローラなどから通信を介して制御部14に随時入力される。換言すれば、制御部14は、上位のコントローラなどの外部機器と通信を行うことにより、外部機器から電流パターンの入力を受ける。電流パターンは、換言すれば、電磁石2に供給する電流の大きさを表す電流指令値である。制御部14は、換言すれば、外部機器と通信を行うことにより、外部機器から電流指令値の入力を受ける。
【0037】
電流パターン(電流指令値)は、例えば、制御部14に予め入力しておき、制御部14の記憶部や、制御部14に接続された別の記憶部などに記憶させておいてもよい。制御部14への電流パターンの入力方法は、上記に限ることなく、制御部14に対して電流パターンを適切に入力可能な任意の方法でよい。
【0038】
制御部14は、入力された電流パターンと、電流検出器60の検出結果と、を基に、主回路部12(フォーシング回路16及びフラット維持回路18)の動作を制御する。
【0039】
制御部14は、電流パターンが一定の期間においては、出力側を導通させる停止動作をフォーシング回路16に行わせるとともに、電流検出器60の検出結果を基に、電磁石2に供給する電流が電流パターンに応じた一定の電流となるように、フラット維持回路18の動作を制御する。
【0040】
図3(a)に表したように、電磁石2に供給する電流の極性を変化させる場合、制御部14は、電磁石2に対して正の極性の電流を供給する場合と、電磁石2に対して負の極性の電流を供給する場合と、で、フラット維持回路18から出力する電圧の極性を変化させる。
【0041】
図4は、制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図3(a)、
図3(b)、及び
図4に表したように、制御部14は、電流パターンがステップ状に変化した際に、電圧を出力する出力動作をフォーシング回路16に行わせる。制御部14は、電磁石2に供給する電流が電流パターンよりも低い場合と、電磁石2に供給する電流が電流パターンよりも高い場合と、で、フォーシング回路16から出力する電圧の極性を変化させる。制御部14は、例えば、電磁石2に対して供給している電流が電流パターンよりも低く、電磁石2に供給する電流を目標電流値に向けて上昇させる場合に、フォーシング回路16から正の極性の電圧を出力させる。そして、制御部14は、例えば、電磁石2に対して供給している電流が電流パターンよりも高く、電磁石2に供給する電流を目標電流値に向けて低下させる場合に、フォーシング回路16から負の極性の電圧を出力させる。
【0042】
なお、フォーシング回路16に出力動作を行わせる場合、フラット維持回路18は、電磁石2に供給する電流を一定に制御する動作を継続させてもよいし、出力側を導通させる停止動作を行わせてもよい。
【0043】
図3(b)及び
図4では、フォーシング回路16に出力動作を行わせるフォーシングオン期間を矢線の(1)の期間、フラット維持回路18に電流を一定に制御する動作を行わせるフラット動作期間を矢線の(2)の期間で表している。なお、
図3(b)では、電流パターンの変化のタイミングからフォーシング回路16を動作させるタイミングまでの応答遅れを考慮し、フォーシングオン期間の開始のタイミングを電流パターンの変化のタイミングよりも少し遅らせた状態で図示している。
【0044】
制御部14は、フォーシング回路16に出力動作を行わせた後、電流パターンの表す目標電流値と電流検出器60によって検出された現在の出力電流値との差分を表す電流偏差が、所定の閾値に到達するタイミングで、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替える。換言すれば、制御部14は、電流偏差が所定の閾値に到達するタイミングで、フォーシングオン期間からフラット動作期間に切り替える。制御部14は、換言すれば、電磁石2に供給される電流が目標電流値に到達するタイミングで、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替える。
【0045】
閾値は、目標電流値に応じて偏差0に設定してもよいし、フォーシング回路16の動作の遅れなどにともなう電流偏差のオーバーシュート(アンダーシュート)などを考慮し、早めに停止動作に切り替えるように設定してもよい。例えば、
図4に表したように、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替える際に、電流偏差を所定の範囲内に収めることが求められる場合がある。所定の範囲は、例えば、定格電流値の±0.1%以内の範囲である。定格電流値とは、フォーシング回路16が出力動作を行った時に電磁石2に供給される電流である。このような場合には、電流偏差のオーバーシュートなどを考慮し、電流偏差が所定の範囲内に収まるように、閾値を適宜設定すればよい。
【0046】
図5は、制御部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図5に表したように、制御部14は、所定のサンプリング周期で電流偏差の現在値を取得する。換言すれば、制御部14は、所定のサンプリング周期で電磁石2に流れる電流の検出値を電流検出器60から取得する。制御部14は、例えば、所定のサンプリング周期で電磁石2に流れる電流の検出値を電流検出器60から取得し、電流検出器60から電流の検出値を取得する毎に、電流の検出値と目標電流値との差分を計算することにより、所定のサンプリング周期で電流偏差の現在値を取得する。制御部14は、例えば、次の式により、電流偏差の現在値を計算する。
電流偏差の現在値=目標電流値-電流検出値
【0047】
制御部14は、電流偏差の現在値を取得する毎に、電流偏差の現在値と、閾値と、電流偏差の変化率と、を基に、電流偏差の閾値への到達時間を計算する。制御部14は、例えば、次の式により、閾値到達時間を計算する。
閾値到達時間=(電流偏差の現在値-閾値)÷電流偏差の変化率
【0048】
例えば、電流偏差の現在値が2Aで、閾値が1Aで、電流偏差の変化率が1A/μsであったとする。この場合、(2A-1A)÷1A/μs=1μsと閾値への到達時間を計算することができる。
【0049】
なお、電流偏差の現在値は、電流パターンが増加する場合か減少する場合か、及び電磁石2に電流を供給する向き(電流の極性)に応じて符号が変化する可能性がある。このため、電流偏差の現在値は、より詳しくは、電流偏差の絶対値である。同様に、電流偏差の変化率も、電流パターンが増加する場合か減少する場合かによって、符号が変化する可能性がある。電流偏差の変化率は、より詳しくは、電流偏差の変化の傾きの絶対値である。
【0050】
制御部14は、
図5に表したように、フォーシング回路16に出力動作を行わせた後、次の電流偏差の現在値の取得までに電流偏差が所定の閾値に到達する場合に、電流偏差の現在値の取得のタイミングから計算した到達時間の経過したタイミングにおいて、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替える。
【0051】
主回路部12から電磁石2に出力する出力電圧をV、主回路部12から電磁石2に出力する出力電流をi、電磁石2のインダクタンス成分をL、電磁石2の抵抗成分をR、電磁石2に出力する出力電流iの変化率をdi/dtとする時、出力電圧Vは、次の式で表すことができる。なお、フォーシング回路16が出力動作を行っている場合、出力電圧Vは、換言すれば、フォーシング回路16の出力電圧である。
V=L・di/dt+R・i
上記の式を変形させると、変化率di/dtは、次の式で表すことができる。すなわち、電流偏差の変化率は、次の式で求めることができる。
di/dt=(V-R・i)/L
【0052】
出力電圧V、出力電流i、インダクタンス成分L、及び抵抗成分Rは、電磁石電源装置10の設計値として取得可能である。従って、電流偏差の変化率は、上記の式によって予め計算した所定の値とすることができる。制御部14は、例えば、内部の記憶部、あるいは配線などを介して接続された外部の記憶部に、予め計算された電流偏差の変化率を記憶し、記憶した電流偏差の変化率を基に、閾値到達時間の計算を行う。
【0053】
このように、電流偏差の変化率は、フォーシング回路16の出力電圧に依存する。換言すれば、電流偏差の変化率は、直流電源30の出力電圧に依存する。電磁石電源装置10においては、フォーシングオン期間の時間(出力電流をステップ状に変化させる時間)が予め決められている場合がある。この場合、電流偏差の変化率は、予め決められたフォーシングオン期間の時間に応じて決定される。換言すれば、フォーシング回路16の出力電圧、及び直流電源30の出力電圧は、予め決められたフォーシングオン期間の時間に応じて決定される。フォーシングオン期間の時間は、例えば、励磁速度などと呼ばれる場合もある。
【0054】
なお、電流偏差の変化率は、例えば、前回の電流偏差の現在値、今回の電流偏差の現在値、及びサンプリング周期を基に、電流偏差の現在値を取得する毎に、計算によって求めてもよい。すなわち、電流偏差の変化率は、電流偏差の現在値を取得する毎に、次の式によって求めてもよい。
電流偏差の変化率=(前回の電流偏差の現在値-今回の電流偏差の現在値)/サンプリング周期
【0055】
但し、電流検出器60によって検出する電流偏差の現在値には、計測誤差などにともなうノイズが重畳する可能性がある。このため、電流偏差の変化率は、出力電圧V、出力電流i、インダクタンス成分L、及び抵抗成分Rを基に予め計算した所定値とすることが好適である。これにより、例えば、計測誤差などの影響を抑制し、電流偏差の閾値への到達時間をより適切に計算することができる。さらには、制御部14の演算負荷を軽減させることもできる。
【0056】
図6は、制御部の参考の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図6に表した例では、制御部14が、フォーシング回路16に出力動作を行わせた後、電流偏差の現在値を取得する毎に、取得した電流偏差の現在値が閾値に到達したか否かを判定し、閾値に到達したと判定したことに応じて、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えている。
【0057】
図6に表した参考の動作では、
図6に表したように、電流偏差のサンプリング周期に起因するジッターにより、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えるタイミングが、電流偏差の現在値が閾値に到達した停止動作に切り替えるべきタイミング(オフすべき点)よりも遅れてしまう可能性がある。換言すれば、参考の動作では、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えるタイミングが、電流偏差のサンプリングのタイミングから次の電流偏差のサンプリングのタイミングまでの間の範囲においてバラついてしまう可能性がある。
【0058】
このように、参考の動作では、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えるタイミング(フォーシングオフのタイミング)が安定せず、これにともなって、出力動作から停止動作に切り替える際の電流偏差のオーバーシュートの挙動が安定しない可能性がある。例えば、フォーシング回路16の出力動作から停止動作への切り替えの際に、電流偏差が、例えば、定格電流値の±0.1%以内の範囲などに設定される所定の範囲内に収まらなくなってしまう可能性がある。
【0059】
例えば、
図3(a)に表したように、電流パターンの変化の周期(フォーシングオン期間から次のフォーシングオン期間までの周期)が、数十kHz以上の比較的高い周期となり、フォーシングオン期間の時間も、数μs程度と短い時間とすることが求められる場合がある。このような場合に、電流偏差の現在値を取得するサンプリング周期が、1μs程度に設定されていると、電流偏差の変化に対してサンプリング周期が長くなってしまい、上記のフォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えるタイミングのバラつきの問題が顕著になってしまう。参考の動作では、電流パターンの変化の周期が高い場合に、電流偏差がフォーシングオフの際に所定の範囲内に収まらなくなる可能性が高くなってしまう。
【0060】
対策として、電流偏差の現在値を取得するサンプリング周期を高くすることも考えられる。しかしながら、制御部14において、電流偏差の現在値の高い分解能を維持しつつ、サンプリング周期を高くしようとすると、制御部14の構成が複雑になってしまう。例えば、ADコンバータなどの部品を新規に開発しなければならず、制御部14の製造コストの増加などを招いてしまう。
【0061】
これに対し、本実施形態に係る電磁石電源装置10では、制御部14が、電流偏差の現在値を取得する毎に、電流偏差の現在値と、閾値と、電流偏差の変化率と、を基に、電流偏差の閾値への到達時間を計算し、フォーシング回路16に出力動作を行わせた後、次の電流偏差の現在値の取得までに電流偏差が所定の閾値に到達する場合に、電流偏差の現在値の取得のタイミングから計算した到達時間の経過したタイミングにおいて、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替える。
【0062】
これにより、フォーシング回路16を出力動作から停止動作に切り替えるタイミングを安定させ、出力動作から停止動作に切り替える際の電流偏差のオーバーシュートの挙動も安定させることができる。例えば、フォーシング回路16の出力動作から停止動作への切り替えの際に、電流偏差を所定の範囲内に適切に収めることができる。
【0063】
従って、電磁石2に供給する出力電流の安定性をより向上できる電磁石電源装置10を提供することができる。例えば、電流パターンの変化の周期が高い場合においても、サンプリング周期を高くする必要を抑制し、比較的簡単な構成で出力電流の安定性を向上させることができる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
2…電磁石、 4…交流電源、 10…電磁石電源装置、 12…主回路部、 14…制御部、 16…フォーシング回路、 18…フラット維持回路、 21~24…リアクトル、 30、40…直流電源、 31、41…変圧器、 32、42…整流器、 33、43…リアクトル、 34、44…コンデンサ、 50a~50d、54a~54d…スイッチング素子、 52a~52d、56a~56d…整流素子、 60…電流検出器