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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174030
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ボロメータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20231130BHJP
   H10N 15/00 20230101ALI20231130BHJP
【FI】
C01B32/168
H01L37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086637
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB07
4G146AD22
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB17
4G146CB29
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的の一つは、TCRが改善されたボロメータを提供することである。
【解決手段】 本発明は、基板上に設けられた2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、前記ボロメータ膜は、p型半導体カーボンナノチューブを含み、前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、p型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ。
【請求項2】
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、n型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ。
【請求項3】
前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金が、金、白金、銅、コバルト、ニッケル、カーボン、及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のボロメータ。
【請求項4】
前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金が、チタン、鉄、アルミニウム、銀、タングステン、亜鉛、クロム、スズ、鉛、マグネシウム、マンガン、イットリウム、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、ランタン、タンタル、ハフニウム、ビスマス、ルテニウム、及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載のボロメータ。
【請求項5】
線形の電流電圧特性を有する、請求項1又は2に記載のボロメータ。
【請求項6】
前記ボロメータ膜が、半導体型のカーボンナノチューブを、ボロメータ膜中のカーボンナノチューブの90質量%以上の比率で含む、請求項1又は2に記載のボロメータ。
【請求項7】
前記2つの電極が同一である、請求項1又は2に記載のボロメータ。
【請求項8】
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
基板上に2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、p型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法。
【請求項9】
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
カーボンナノチューブをn型半導体にする工程と、
2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、n型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法。
【請求項10】
カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含む分散液を無担体電気泳動に供して、半導体カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液を調製する工程、
半導体カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液を用いてボロメータ膜を作製する工程、及び
形成されたボロメータ膜から界面活性剤を除去する工程
を含む、請求項8又は9に記載のボロメータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータ及びその製造方法に関し、より詳細には、カーボンナノチューブを使用したボロメータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサーは、セキュリティ用の監視カメラだけでなく、人体のサーモグラフィー、車載用カメラ、及び構造物、食品等の検査など非常に広い範囲の応用性があることから、近年、産業応用が活発になっている。特に、IoT(Internet of Things)との連携による生体情報の取得可能な安価で且つ、高性能な非冷却型赤外線センサーの開発が期待されている。従来の非冷却型の赤外線センサーは、主にボロメータ部分にVO(酸化バナジウム)が使用されているが、真空下での熱処理が必要であるため、プロセスが高コストになる点と抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)が小さい点(約-2.0%/K)が課題である。
【0003】
TCR向上には、温度変化に対して抵抗変化が大きく、且つ、導電性が大きい材料が必要であるため、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体性単層カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用することが期待されている。また、カーボンナノチューブは、化学的に安定なため印刷技術など安価なデバイス作製プロセスが適用でき、低コスト・高性能な赤外線センサーが実現できる可能性がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、通常の単層カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用し、且つ、単層カーボンナノチューブの化学的安定性を利用して、有機溶媒に混ぜた分散液を作製し、電極上に塗布する安価な薄膜プロセスでのボロメータの作製が提案されている。その際、単層カーボンナノチューブを空気中でアニール処理をすることで、TCRを約-1.8%/Kまで向上させることに成功している。
【0005】
単層カーボンナノチューブには通常、半導体型の性質のカーボンナノチューブと金属型の性質のカーボンナノチューブが2:1で含まれるため、分離が必要であるという課題がある。そこで、特許文献2では、単層カーボンナノチューブには、金属的・半導体的成分が混在しているため、イオン性の界面活性剤によりカイラリティの揃った半導体型単層カーボンナノチューブを抽出し、ボロメータ部分に適用することで、-2.6%/KのTCRの実現に成功している。ここで、特許文献2には、互いに異なる仕事関数を有する金属の別々の電極として構成する例として、第1電極を金、第2電極をチタンとすることなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/049801号
【特許文献2】特開2015-49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の電極構造の場合、電極とカーボンナノチューブ膜の間にはショットキー接合が形成される。このような電極をボロメータに用いた場合には、素子はショットキー型のIV特性を示す(図8)。薄膜トランジスタなどの場合はショットキー接合が形成されることは問題とはならないが、ボロメータの場合、ショットキー接合では、ショットキー障壁やカーボンナノチューブの移動度の温度特性などの影響で、正の高電圧では低温の方が電流が多く流れやすく、一方、半導体の抵抗は温度が低い方が高抵抗であるが、正の高電圧領域では、温度による抵抗差が相殺され、TCRが低くなるという課題があった(図9)。
したがって、本発明は、TCRが改善されたボロメータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カーボンナノチューブ膜と電極の間にオーミック接合が形成されるように電極を構成することで、上記の課題を解決するものである。
【0009】
本発明の一態様は、
基板上に設けられた2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、p型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ
に関する。
【0010】
本発明の別の一態様は、
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、n型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ
に関する。
【0011】
本発明の別の一態様は、
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
基板上に2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、p型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法
に関する。
【0012】
本発明の別の一態様は、
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
カーボンナノチューブをn型半導体にする工程と、
2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、n型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、TCRが改善されたボロメータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態のボロメータの構造を表す模式図(上面図)である。
図2】本発明のボロメータの電極構造例を表す模式図(縦断面図)である。
図3】本発明のボロメータの電極構造例を表す模式図(縦断面図)である。
図4】本発明のボロメータの電極構造例を表す模式図(縦断面図)である。
図5】本発明のボロメータの電極構造例を表す模式図(縦断面図)である。
図6】本発明のボロメータの電極構造例を表す模式図(縦断面図)である。
図7】本発明のボロメータの素子構造例を表す模式図((a)平面図、(b)x-x’断面図)である。
図8】実施例の比較例のIV特性を示すグラフである。
図9】実施例の比較例のTCRを示すグラフである。
図10】実施例の実施例のIV特性を示すグラフである。
図11】実施例の実施例のTCRを示すグラフである。
図12】実施例の実施例のIV特性を示すグラフである。
図13】実施例の実施例のTCRを示すグラフである。
図14】実施例の実施例のIV特性を示すグラフである。
図15】実施例の実施例のTCRを示すグラフである。
図16】実施例の実施例のIV特性を示すグラフである。
図17】実施例の実施例のTCRを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、2つの電極と、これらの電極を接続するカーボンナノチューブを含むボロメータ膜とを備えるボロメータにおいて、p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜に、該カーボンナノチューブよりも大きな仕事関数を有する単金属又は合金のみが接触するように2つの電極を設けることで、ボロメータ膜と電極との間にオーミック接合が形成され、素子のIV特性として、線形のIV特性が得られること(図10図12)、そしてそのようなオーミック型のIV特性を有する素子では、正電圧や高電圧を含む広い電圧領域において高いTCRを得られることを見出した(図11図13)。
また、カーボンナノチューブは自然状態ではp型半導体であるが、後述するようにn型半導体に変化させることができる。この場合、n型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜に、該カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみが接触するように2つの電極を設けることで、ボロメータ膜と電極との間にオーミック接合を形成し、p型半導体カーボンナノチューブを用いた場合と同様に、広い電圧領域において高いTCRを実現することができる。
また、p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜に、該カーボンナノチューブよりも小さな仕事関数を有する単金属又は合金を用いる場合には、仕事関数が小さい単金属又は合金を低比率で用いること、具体的には、電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であること、あるいは、カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下であること、によって、オーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なり(図14図16)、広い電圧領域で特に高いTCRを得られることを見出した(図15図17)。
また、n型半導体カーボンナノチューブを用いた場合は、該n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きな単金属又は合金を同様に低比率で用いることで、同様に、広い電圧領域で特に高いTCRを得ることができる。
【0016】
〔ボロメータの構造〕
図1は、本実施形態のボロメータの一例の模式図である。本実施形態のボロメータは、基板1上に、第1電極2及び第2電極4、第1電極2と第2電極4を接続するカーボンナノチューブを含むボロメータ膜3を有する。
【0017】
本明細書において、p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜とは、ボロメータ膜の半導体型カーボンナノチューブが主にp型半導体カーボンナノチューブから構成されるボロメータ膜を意味する。ボロメータ膜の半導体型カーボンナノチューブ中のp型半導体カーボンナノチューブの比率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
ただし、後述の実施形態3のように、オーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なったIV特性を得る目的で、p型半導体カーボンナノチューブの一部をn型半導体カーボンナノチューブに置き換える場合は、p型半導体カーボンナノチューブの比率として、上記数値範囲よりも低い数値を採用することもできる。
また、n型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜とは、ボロメータ膜の半導体型カーボンナノチューブが主にn型半導体カーボンナノチューブから構成されるボロメータ膜を意味する。ボロメータ膜の半導体型カーボンナノチューブ中のn型半導体カーボンナノチューブの比率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上(100質量%を含む)である。ただし、後述の実施形態3のように、オーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なったIV特性を得る目的で、n型半導体カーボンナノチューブの一部をp型半導体カーボンナノチューブに置き換える場合は、n型半導体カーボンナノチューブの比率として、上記数値範囲よりも低い数値を採用することもできる。
【0018】
本明細書では、p型又はn型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜を、「カーボンナノチューブ膜」又は「カーボンナノチューブ層」と記載する場合がある。
【0019】
(電極)
本実施形態のボロメータの電極に用いる金属及び電極の構造について説明する。
【0020】
以下の説明では、p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜に用いるための、カーボンナノチューブの仕事関数(4.6~4.8eV)よりも仕事関数が大きい単金属又は合金を含む電極を例に説明するが、n型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜を用いる場合は、「仕事関数が大きい単金属又は合金」を「仕事関数が小さい単金属又は合金」と読み替え、「仕事関数が小さい単金属又は合金」を「仕事関数が大きい単金属又は合金」と読み替える。p型半導体カーボンナノチューブとn型半導体カーボンナノチューブでは、電極として組み合わせ得る金属が異なる。したがって、p型半導体カーボンナノチューブに代えてn型半導体カーボンナノチューブ膜を用いることで、金属の選択肢が増え、電極に求められる物性にあわせて金属を選択することが可能となる場合がある。
また、カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金を、単に「仕事関数が大きい単金属又は合金」と記載することがある。また、単金属及び合金の総称として「金属」の用語を用いる場合がある。また、以下の説明において、電極に2種以上の金属を用いる場合、所定の仕事関数を有するものであれば、単金属と単金属の組み合わせ、単金属と合金の組み合わせ、合金と合金の組み合わせのいずれでもよい。
【0021】
・電極を構成する金属
本実施形態の電極において、p型半導体カーボンナノチューブ膜と接触する部位に用いる、p型半導体カーボンナノチューブよりも大きい仕事関数を有する単金属としては、例えば、金、白金、銅、コバルト、ニッケル、カーボン、パラジウム等が挙げられる。
また、p型半導体カーボンナノチューブ膜と接触する部位に合金を用いることもでき、この場合、合金としての仕事関数がp型半導体カーボンナノチューブよりも大きければよい。このような合金としては、上述のp型半導体カーボンナノチューブよりも大きい仕事関数を有する金属から選択される2種以上の金属の合金の他、これらの金属に一部他の金属を含む合金等が挙げられる。
【0022】
n型半導体カーボンナノチューブ膜と接続される電極に用いる、n型半導体カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を有する単金属としては、例えば、チタン、鉄、アルミニウム、銀、タングステン、亜鉛、クロム、スズ、鉛、マグネシウム、マンガン、イットリウム、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、ランタン、タンタル、ハフニウム、ビスマス、ルテニウム、ロジウム等が挙げられる。
また、n型半導体カーボンナノチューブ膜と接続される電極には合金を用いることもでき、この場合、合金としての仕事関数がn型半導体カーボンナノチューブよりも小さければよい。このような合金としては、上述のn型半導体カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を有する金属から選択される2種以上の金属の合金の他、これらの金属に一部他の金属を含む合金等が挙げられる。
【0023】
・電極の構造
<実施形態1:p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜に、該カーボンナノチューブよりも大きな仕事関数を有する単金属又は合金のみが接触するように2つの電極を設ける実施形態>
本実施形態のボロメータは、2つの電極と、該2つの電極に接触するように設けられたカーボンナノチューブ膜を有するが、2つの電極の両方を、カーボンナノチューブ膜と接触する部位がカーボンナノチューブよりも大きい仕事関数の単金属又は合金のみからなるように構成する。
【0024】
電極の構造は、カーボンナノチューブ膜が、電極を構成する金属のうち、カーボンナノチューブよりも仕事関数の大きい金属のみに接触する構造であれば特に限定されない。
【0025】
1-1.両方の電極をカーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属のみから構成する。
一実施形態では、両方の電極を、カーボンナノチューブよりも大きい仕事関数の金属のみから構成することができる。
この場合、2つの電極に同じ金属を用いてもよいし(図2(a))、2つの電極をカーボンナノチューブよりも仕事関数の大きい異なる金属を用いて形成してもよい(図2(b))。また、各々の電極を1種のみの仕事関数の大きい金属から構成してもよいし、それぞれがカーボンナノチューブよりも仕事関数の大きい金属からなる2つ以上の部分を組み合わせて各々の電極を構成してもよい(図2(c)、(d))。
一実施形態では、基板と接触する部位に、基板への接着性が高い金属(例えば、図2(c)のa’)を用いた部分を設けることが好ましい。基板との接着性が高く、かつ、カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属としてはCu等の他、上述の仕事関数が大きい金属と、Ti、Cr等の基板との接着性が高く、かつ、仕事関数が小さい金属との合金であって、合金としての仕事関数がカーボンナノチューブよりも大きい合金が挙げられる。
【0026】
本実施形態において、カーボンナノチューブ膜は、2つの電極の側壁(すなわち、カーボンナノチューブと接触する側の電極壁)と接触していてもよいし(図2(a)の破線部)、側壁に加えて2つの電極の上面に接していてもよいし(図2(d)の破線部)、あるいは2つの電極の上面のみに接していてもよい(図示せず)。
【0027】
1-2.少なくとも一方の電極を、カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属及びカーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい金属から構成する。
また一実施形態では、電極のカーボンナノチューブと接触する部位をカーボンナノチューブよりも大きい仕事関数の金属から構成し、カーボンナノチューブと接触しない部分の少なくとも一部をカーボンナノチューブよりも小さい仕事関数の金属から構成してもよい。
【0028】
(1-2-1)
一実施形態では、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数の金属からなる部分とカーボンナノチューブ膜との間に、カーボンナノチューブよりも大きい仕事関数の金属からなる部分を設けることができる。
【0029】
例えば、電極の一部をカーボンナノチューブよりも仕事関数の小さい金属で構成し、当該仕事関数の小さい金属部分のうち、カーボンナノチューブと接触する部分を、カーボンナノチューブよりも仕事関数の大きい金属で被覆する。仕事関数が大きい金属による被覆は、カーボンナノチューブと接触する部分のみでもよいし、カーボンナノチューブと接触する側の電極壁(側壁)全体でもよいし(図3(h)、(i))、あるいは、仕事関数が小さい金属の部分の全体を仕事関数が大きい金属で被覆してもよい(図3(e)、(f)、(g))。
仕事関数が大きい金属の被覆の厚みは、カーボンナノチューブと当該仕事関数が大きい金属との間でオーミック接合が形成されるのに十分な厚みであればよいが、例えば、100nm以上、好ましくは1μm以上である。
このような電極の製造方法は限定されるものではないが、その一例を図3(f)を参照して説明する。まず、基板上に仕事関数が小さい金属bからなる部分Bを形成する。次に、マスクなどを用いて、該部分Bよりも一回り(例えば100nm以上)大きく電極を作成するための電極パターニングを行い、カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属aを蒸着して部分Aを形成する。最後にマスクを除去する。これにより、仕事関数が小さい金属bからなる部分Bが仕事関数が大きい金属aからなる部分Aで被覆された電極を形成することができる。マスクの形成方法としては、後述の(1-2-4)の実施形態に記載の材料及び方法を適宜用いることができる。
【0030】
(1-2-2)
別の例としては、電極の一部をカーボンナノチューブよりも仕事関数の小さい金属で構成した場合に、当該仕事関数の小さい金属とカーボンナノチューブ膜とが接触する部分に、カーボンナノチューブとの接触を妨げる材料からなる部分を設けることで、カーボンナノチューブが仕事関数の大きい金属のみと接触するようにしてもよい。図4を参照して説明する。本実施形態では、2つの電極の第1層(基板上の層)Bとしてカーボンナノチューブより仕事関数の小さい金属bを用い、その上に設けた第2層A以降には仕事関数の大きな金属aを用いているため、オーミック接合を形成するには、第1層Bとカーボンナノチューブ3とが接触しない構造とする必要がある。そこで、電極間の基板上に、電極の第1層の厚み以上の厚みで、カーボンナノチューブ膜との接触を妨げる部分5を設け、その上にカーボンナノチューブ層3を設ける。これにより、カーボンナノチューブ膜3は、第2層A以降の仕事関数の大きな金属のみと接触する。
カーボンナノチューブ膜との接触を妨げる部分5は、電極間の範囲全体に形成してもよいし(図4(j)、(k))、第1層Bとカーボンナノチューブが接触する部分のみに形成してもよい(図4(l))。
カーボンナノチューブとの接触を妨げる部分の材料としては、二酸化チタン層、SiO、SiN、ポリイミド等の絶縁層や、カーボン、カーボンナノホーン、グラファイト等のカーボンナノチューブよりも仕事関数の大きい導電性物質の層が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
また、本実施形態のボロメータでは、ボロメータ膜として、後述のとおり、界面活性剤を実質的に含まないカーボンナノチューブ膜を使用することができるが、当該ボロメータ膜と比較して高い濃度で界面活性剤を含むカーボンナノチューブ層も、本実施形態に係るカーボンナノチューブとの接触を妨げる部分5の絶縁層として用いることができる。絶縁層として用いる場合のカーボンナノチューブ層の界面活性剤濃度は、ボロメータ膜の総質量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましい。このような界面活性剤濃度の高いカーボンナノチューブ層は、後述のカーボンナノチューブ分散液における界面活性剤濃度を調整することで、ボロメータ膜と同じ手順で作製することができる。
【0031】
(1-2-3)
カーボンナノチューブとの接触を妨げる別の例としては、図4(m)に示すように、第1層Bの金属とカーボンナノチューブとの接触部位を離間させた構造が挙げられる。このような電極構造の製造方法としては、基板1上に電極及びカーボンナノチューブ層3を形成した後に、カーボンナノチューブ層に対して振動や応力を与えることにより、基板に近い部分のカーボンナノチューブつまり第1層の電極に接続しているカーボンナノチューブと、電極との接触を弱める方法が挙げられる。この場合も、カーボンナノチューブ層3は第2層A以降の仕事関数の大きな金属のみと接触することとなる。
【0032】
(1-2-4)
別の例としては、基板上に設けられた2つの電極に仕事関数が大きな金属からなる2つの電極がそれぞれ接続している電極の構成において、カーボンナノチューブが仕事関数の大きな金属にのみ接触するようにしてもよい。例えば、図4(n)に示すように、基板上に設けられた電極B(下側の電極)の少なくとも一部に仕事関数が小さい金属bを用い、該電極Bに接続する電極A(上側の電極)に、仕事関数が大きい金属aを用いた電極構造において、下側の電極Bの電極壁とカーボンナノチューブ膜3とが接触しないように電極を作製することで、カーボンナノチューブ膜を上側の電極Aのみに接触させることができる。
このような電極構造の製造方法の一例を図7(a)を参照して説明する。本実施形態では、基板上に電極パッドのような測定もしくは検出器に接続される電極6(下側の電極、以下、「検出用電極」とも記載する)を作製し、図7(a)のカプトンテープ7のように電極パッド部6を含み素子のチャネル部10を除く範囲をマスク保護してから、図7(a)のチャネル部を含む領域8に、必要によりAPTESを塗布し、その後カーボンナノチューブ分散液を塗布する。マスク保護を除去してから、上側の電極(コンタクト電極)9を、図7(a)黒点線のように、電極パッド7に接続し、かつカーボンナノチューブ膜8の上部に接触するように作製する。図7(a)の1つの電極対のx-x’断面を図7(b)に示す。電極パッド6などの検出用電極は、仕事関数が小さい金属を一部に含んでも良く、TiやCr等の基板との接着性が良い金属で作製してもよい。一方、黒点線部のコンタクト電極9は、仕事関数が大きな金属あるいは合金から構成されることで、カーボンナノチューブが仕事関数の大きな金属にのみ接触する構成となる。
電極パッド部6をマスクする材料は特に限定されないが、後で完全に除去できるものが望ましく、例えばカプトンテープ等の粘着テープ類やパターニングしたレジストなどを使用することができる。また、マスクを除去するタイミングは、カーボンナノチューブ分散液がAPTESがない基板部分でははじかれてAPTES塗布部にのみカーボンナノチューブ膜が形成されるため、APTES塗布後でカーボンナノチューブ上に電極を作製する前であればいつでも良いが、カーボンナノチューブが下側の電極(検出用電極)に全く接続しないようにカーボンナノチューブ膜を作製後が望ましい。
【0033】
上記(1-2-1)~(1-2-4)の電極の一部をカーボンナノチューブよりも仕事関数の小さい金属で構成する態様において、基板と接触する部分には、基板との接着性がよい金属を用いることが好ましい。このような金属としては、Ti、Cr、Cu、又はこれらを含む合金等が挙げられる。
【0034】
なお、上述の(1-2-1)~(1-2-4)において、本明細書の図2~4及び図7では、電極の基板に接する部分Bと、その上に形成される部分Aは、それぞれ単一の層から構成されているが、部分A及び部分Bのそれぞれを2以上の層から形成してもよい。例えば、図7(a)において、下側の検出用電極6(部分B)自体を2以上の層から構成し、その1層め(基板に接する層)には接着性の良い金属を用いて、1層め(基板に接する層)上に形成する2層めには、図7(a)の上側のコンタクト電極9(部分A)に用いる金属や、該電極Aに用いる金属と接合の良い別の金属を用いても良い。
【0035】
<実施形態2:仕事関数が小さい単金属又は合金を低比率で含む電極を用いる実施形態>
p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜を用いたボロメータにおいて、該p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金を低比率で含む電極を用いることもできる。この場合も、仕事関数が小さい単金属又は合金の量が僅かであり、線形又は線形に近いIV特性が得られていれば、正の高電圧ではショットキー成分の影響をわずかに受けるものの、ほぼ広い電圧領域で高いTCRを得ることができる。また、ショットキー成分の含まれる形態では、特に負の電圧領域や低電圧領域で特に高いTCRを得ることができる。
【0036】
2-1.電極のボロメータ膜との接触部位に、仕事関数が小さい単金属又は合金を低比率で含む金属を用いる。
本実施形態では、電極のボロメータ膜と接触する部分を構成する金属として、カーボンナノチューブより仕事関数が小さな金属を10質量%以下の比率で含む金属を用いる。本実施形態における電極のボロメータ膜と接触する部分とは、例えば、上述の実施形態1で例示した各構造において、仕事関数が大きい金属からなる部分、例えば部分Aと示された部分であり得る。仕事関数が小さい金属を低比率で含む金属を片方の電極に用いてもよいし、両方の電極に用いてもよい。
仕事関数が小さな金属の比率は、当該部分を構成する金属の10質量%以下であり、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。下限は特に限定されるものではないが、0質量%超であり、特に負の電圧領域や低電圧領域でのTCR改善の観点では、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。なお、この数値は用いる金属によって変更してもよい。
このように、低比率(不純物レベル)で混在する仕事関数が小さい金属の形態は特に限定されず、例えば、当該部分を、カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属中に、仕事関数が小さい金属が低比率(例えば不純物レベル)で混在、例えば分散した金属で構成することができる(図5(о)、図5(p))。
なお、合金は、異なる仕事関数を持つ2種以上の金属が合金化して1種類の仕事関数を持つようになった金属のことであるが、本実施形態のように、2種以上の金属が混在している金属は、異なる2種以上の仕事関数を有することとなる。
低比率で混在する仕事関数が小さい金属の形態は特に限定されないが、例えば、図5に示すように、粒子状が挙げられる。仕事関数が小さい金属は、ボロメータ膜に接触していてもよいし、接触していなくてもよいが、少なくとも一部が接触していることが好ましい。このような電極の製造方法としては、所定の比率で不純物金属を含む蒸着源を用いた蒸着やスパッタ法、多元蒸着法、コンビナトリアルスパッタ法、多元スパッタ法等の方法が挙げられる。
【0037】
2-2.仕事関数が小さい単金属又は合金との接触面積を低比率とする。
本実施形態では、仕事関数が小さな金属とボロメータ膜とが接触する面積が、電極とボロメータ膜とが接触する面積全体の10%以下となるように、電極を構成する。仕事関数が小さな金属は、片方の電極に用いても、両方の電極に用いてもよい。仕事関数が小さな金属がボロメータ膜と接触する比率は、10%以下であり、5%以下であることが好ましく、1%以下であることが好ましい。下限は特に限定されるものではないが、0%超であり、特に負の電圧領域や低電圧領域でのTCR改善の観点では、0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましい。なお、この数値は用いる金属によって変更してもよい。
【0038】
このように、仕事関数が小さい金属の接触面積を低比率とする形態は特に限定されないが、図6(q)のように、仕事関数が小さい金属bからなる部分Bと仕事関数が大きい金属aからなる部分Aを積層した電極構造において、ボロメータ膜と接触する仕事関数が小さい金属bからなる部分Bの厚みを調整することで、仕事関数が小さい金属の接触面積を低比率とすることができる。また、実施形態1の(1-2-2)のように、電極の一部をカーボンナノチューブよりも仕事関数の小さい金属で構成した場合に、当該仕事関数の小さい金属とカーボンナノチューブ膜とが接触する部分に、カーボンナノチューブとの接触を妨げる材料からなる部分を設けることで、仕事関数が小さい金属の接触面積を低比率とすることができる(図6(r))。また、図6(s)のように、ボロメータ膜の膜厚を厚くすることによって、仕事関数の小さい金属の接触面積を低比率とすることができる。
【0039】
<実施形態3:p型半導体カーボンナノチューブに加えて、n型半導体カーボンナノチューブを用いる実施形態>
上記実施形態2のように、オーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なったIV特性を達成するための別法としては、p型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜において、p型半導体カーボンナノチューブに加えて、n型半導体カーボンナノチューブを用いる方法が挙げられる。上述のとおり、p型半導体カーボンナノチューブとn型半導体カーボンナノチューブとでは、電極に用いる金属の仕事関数との関係が逆になる。このため、p型半導体カーボンナノチューブの一部をn型半導体カーボンナノチューブに置き換えることで、オーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なったIV特性が得られ、ほぼ広い電圧領域で高いTCRを得ることができ、特に負の電圧領域で特に高いTCRを得ることができる。
n型半導体カーボンナノチューブの比率は特に限定されないが、p型半導体カーボンナノチューブとn型半導体カーボンナノチューブの合計に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また下限は特に限定されないが、0質量%超であり、負の電圧領域で特に高いTCRを得る観点では、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。
【0040】
n型半導体カーボンナノチューブを用いたボロメータ膜を用いたボロメータにおいても、n型半導体カーボンナノチューブの一部をp型半導体カーボンナノチューブに同様に置き換えることで、同様にオーミック型の線形IVにショットキー型IVの成分が重なったIV特性を得ることができる。
【0041】
本実施形態のボロメータの電極の構造例を図2図7に示したが、電極の構造はこれらに限定されるものではない。
【0042】
一実施形態において、ボロメータは、基板上に設けられた2つの電極を備えることが好ましい。
本実施形態のボロメータは、上記図2図6に示したように、基板上に設けられた2つの電極の間をボロメータ膜が接続する構造を含むことが好ましい。この場合、2つの電極は、図2(a)の破線に示すように、電極のカーボンナノチューブ膜側の側壁でカーボンナノチューブ膜と接触している。このような構造とすることで、カーボンナノチューブ膜を均一に作製しやすく電極に密着させやすいという利点がある。なお、図2(d)に示すように、カーボンナノチューブが電極の側壁と接触し、かつ、電極の上面の一部とも接触する構造としてもよい。
また、別の実施形態では、カーボンナノチューブが電極の側壁と接触せず、図4(n)に示すように電極の下側と接する構造としてもよいし、あるいは、カーボンナノチューブ膜が、基板上に設けられた2つの電極上をつなぐ構造とすることもできる(図示せず)。
電極とカーボンナノチューブが接触する接触面は、垂直でもよいし、凹凸状でもよいし、なだらかな曲面であってもよい。
【0043】
一実施形態では、2つの電極が同じ構造であることが好ましい。同じ構造であれば、2つの電極を同じプロセスで同時に作製できるため、製造プロセスを簡略化することができる。
【0044】
2つの電極間の距離は、1μm~500μmが好ましく、小型化のためには、5~200μmがより好ましい。5μm以上であると、例えば金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、500μm以下であると、二次元アレイ化による画像センサーの適用に有利である。
【0045】
なお、素子のチャネル方向に関して、図2~6には、主に、図面上左右に示した2つの電極の間を電流が流れる構造例を示したが、これらの図面は、カーボンナノチューブ膜と電極を構成する金属との接触関係を模式的に示したものであって、高さと幅の比率や2つの電極とチャネルの向きの関係はこれらの構造例に限定される訳ではなく、ボロメータの用途やスケールに応じて、電極の構造を変えてもよい。例えば、図7のように下側の電極(検出用電極)と上側の電極(コンタクト電極)を組み合わせた場合は、これらの電極の構造を変えることによって、チャネルの向きを所望の向きに変更することができる。
【0046】
電極の製造方法は特に限定されないが、蒸着、スパッタリング、印刷法、プレス法等で形成してもよい。この場合、フォトマスク、メタルマスク等を用いて所望の形状に形成してもよい。また、予め形成した金属薄膜又は合金膜等を用いてもよい。
【0047】
(ボロメータ膜)
本実施形態のボロメータでは、ボロメータ膜にカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜を用いる。
【0048】
ボロメータ膜としてのカーボンナノチューブ膜(CNT膜)は、2つの電極を電気的に接続する導電パスを形成する複数のカーボンナノチューブから構成される薄膜である。カーボンナノチューブは、例えば、ネットワーク状の構造であることが好ましく、凝集し難く、均一な導電パスが得られる三次元的ネットワーク状の構造を形成していることが好ましい。
また、カーボンナノチューブのネットワークにおいて、カーボンナノチューブの少なくとも一部が配向していてもよい。
【0049】
カーボンナノチューブは、単層、二層、多層カーボンナノチューブを使用することができるが、半導体型を分離する場合は、単層又は数層(例えば、2層又は3層)のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)含むことがより好ましい。
【0050】
また、カーボンナノチューブは自然状態ではp型半導体であるが、上述のとおり、n型半導体に変化させて用いてもよい。p型半導体をn型半導体に変化させる処理方法としては、当技術分野で用いられる方法を特に制限なく用いることができるが、例えば、V. Derycke et al., Nano Letters, 1, 453 (2001)に記載の真空中で加熱する方法や、D.Suzuki et al., ACS Appl. Nano Mater, 1, 2469 (2018)に記載の化学的ドーピングを用いた方法等が挙げられる。
【0051】
カーボンナノチューブの直径は、バンドギャップを大きくしてTCRを向上する観点で、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.4nmがより好ましく、0.7~1.2nmがさらに好ましい。また、一実施形態では、特に1nm以下が好ましい場合もある。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易である。1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0052】
本明細書において、カーボンナノチューブの直径は、カーボンナノチューブ膜を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて観察して100箇所程度の直径を計測し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.5nmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.4nmの範囲内、さらに好ましくは0.7~1.2nmの範囲内にある。また、一実施形態では、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1nmの範囲内にある。
【0053】
また、カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの間が、分散しやすく、塗布性も優れているためより好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば成膜時の凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは300nm~3μm、さらに好ましくは500nm~1.5μmである。
【0054】
本明細書において、カーボンナノチューブの長さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて少なくとも100本を観察し、数え上げることでカーボンナノチューブの長さの分布を測定し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が100nm~5μmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が300nm~3μmの範囲内にある。より好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が500nm~1.5μmの範囲内にある。
【0055】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体性の影響が大きくなり、且つ、大きな電流値を得られるため、ボロメータ膜として用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0056】
また、カーボンナノチューブの長さが長過ぎると、カーボンナノチューブ膜が2つの電極をまたぐように形成され、カーボンナノチューブが2つの電極の電極壁(側壁)に十分に接触せず、特に電極の基部の側壁に接触しない場合があるが、カーボンナノチューブの長さが上記範囲内であると、カーボンナノチューブ膜中のカーボンナノチューブの電極壁への接着性を向上させることができる。したがって、上記範囲内の長さのカーボンナノチューブを用いた場合は、2つの電極の内側(カーボンナノチューブ膜側)の側壁、特に、カーボンナノチューブ膜と接触する電極の基部の側壁を、カーボンナノチューブよりも仕事関数の大きな金属で構成することが好ましい。
【0057】
ボロメータ膜には、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体型カーボンナノチューブを用いることが好ましい。カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブ、好ましくは半導体型単層カーボンナノチューブの含有率は、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上(100質量%を含む)がさらに好ましい。
【0058】
ボロメータ膜の厚みは特に限定されないが、例えば1nm以上、例えば数nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは15nm~1μm、さらに好ましくは20nm~500nm、特に好ましくは20nm~200nmの範囲である。
ボロメータ膜の厚みが1nm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが10nm以上、好ましくは30nm以上であると、光反射層や光吸収材層を設けなくても十分な光吸収率が得られるため、素子構造を簡略にすることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが1μm以下、好ましくは500nm以下であると、製造方法の簡便化の観点で好ましい。また、ボロメータ膜が厚過ぎると、上から蒸着等により形成されたコンタクト電極が、ボロメータ膜の下の方のカーボンナノチューブと十分にコンタクトせず、実効的な抵抗値が高くなる場合があるが、上記範囲内であれば、抵抗値の上昇を抑制することができる。
また、ボロメータ膜の厚みが上記のとおり10nm~1μmの範囲内であると、ボロメータ膜の製造方法として、印刷技術を好適に適用することができるという点でも好ましい。
なお、光反射層や光吸収材層を設ける場合は、ボロメータ膜の厚みを上記範囲よりも薄くして、製造プロセスの更なる簡便化及び抵抗値の改善を図ってもよい。
【0059】
ボロメータ膜の厚みは、ボロメータ膜の任意の10点で測定した厚みの平均値として求めることができる。
【0060】
また、ボロメータ膜の密度は、例えば0.3g/cm以上、好ましくは0.8g/cm以上、より好ましくは1.1g/cm以上である。上限は特に限定されないが、用いたカーボンナノチューブの真密度の上限値(例えば約1.4g/cm)とすることができる。
ボロメータ膜の密度が0.3g/cm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の密度が0.5g/cm以上であると、光反射層や光吸収材層を設けなくても十分な光吸収率が得られ、素子構造を簡略にすることができると言う点で好ましい。
なお、光反射層や光吸収材層を設ける場合は、ボロメータ膜の密度として、上記より低い密度を適宜選択してもよい。
【0061】
ボロメータ膜の密度は、ボロメータ膜の重量、面積、及び上で求めた厚みから算出することができる。
【0062】
また、ボロメータ膜において、上述の成分以外に、例えば、イオン導電剤(界面活性剤、アンモニウム塩、無機塩)、樹脂、有機結着剤等を適宜用いてもよい。
【0063】
ボロメータ膜中のカーボンナノチューブの含有量は適宜選択できるが、好ましくは、ボロメータ膜の総質量を基準として0.1質量%以上が効果的で、より好ましくは、1質量%以上が効果的であり、例えば30質量%、さらには50質量%以上とすることが好ましく、場合により60質量%以上が好ましい場合もある。
【0064】
以下、ボロメータ膜として用いるカーボンナノチューブ膜の製造方法の一例を詳述する。
【0065】
カーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去したものを用いてもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800-2000℃が好ましく、800-1200℃がより好ましい。
【0066】
カーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液を用いて製造することができる。
界面活性剤は、容易に除去できるという観点から、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤など、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類若しくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。
【0067】
2n+1(OCHCHOH (1)
(式中、n=好ましくは12~18、m=10~100、好ましくは20~100である)
【0068】
特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルなどポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(nが20以上100以下、アルキル鎖長がC12以上C18以下)で規定される非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0069】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C1740(CHCH2040H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0070】
非イオン性界面活性剤を用いることで、カーボンナノチューブの分散性を向上できる。
【0071】
また、非イオン性界面活性剤は、後述する熱処理等により容易に除去することができるため、カーボンナノチューブ膜中の残留量を低減することができ、これにより、電極とカーボンナノチューブ膜との間に良好な接合を形成することができる。したがって、一実施形態では、後述するように、ボロメータ膜中の界面活性剤を除去して、界面活性剤の残存量を低減することが好ましく、一実施形態では、ボロメータ膜が界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。ボロメータ膜が界面活性剤を実質的に含まないとは、界面活性剤の残存濃度が、ボロメータ膜の総質量を基準として、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下(0質量%を含む)であることを意味する。
トランジスタ等に用いられるようなTi/Au電極、すなわち、Au電極と基板との間に、接着層としてのTi層が用いられているような構造をボロメータに用いた場合、従来のボロメータ膜では、界面活性剤等の残留により、ボロメータ膜とTi層が接合せず、そのため、ショットキー接合は形成されなかった。一方、本実施形態のボロメータでは、除去が容易な非イオン性界面活性剤を用いたことにより、ボロメータ膜中の不純物の残留が低減され、Ti/Au電極との間にショットキー接合が形成され得るが、この場合、温度変化に伴う抵抗変化を検出するボロメータでは、ショットキー型のIV特性により特に高電圧領域でTCRが低減される場合がある。しかし、本実施形態のボロメータでは、所定の電極を用いたことで、上述のとおり、電極とボロメータ膜との間にオーミック接合を形成させることができる。これにより、TCRの低減を抑制することができ、広い電圧範囲で高いTCRを得ることができる。
【0072】
カーボンナノチューブの分散液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。分散媒としては、分離工程の間、カーボンナノチューブを分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができるが、水及び重水が好ましい。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することができる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。本実施形態は、非イオン性界面活性剤を用いたことにより切断の調整が容易であるという利点も有し得る。また、除去が困難なイオン性界面活性剤を含有しないという利点もある。
【0073】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等が生成される。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相であれば、カルボニル基が生成される。
【0074】
また、前記重水又は水、及び非イオン性界面活性剤を含む液体における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~10質量%が好ましく、臨界ミセル濃度~3質量%がより好ましい。臨界ミセル濃度以下であると分散できないため好ましくない。また、10質量%以下であれば、分離後、界面活性剤の量を低減しながら十分な密度のカーボンナノチューブを塗布することができる。本明細書において、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration(CMC))とは、例えば一定温度下、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。本明細書において「臨界ミセル濃度」は、大気圧下、25℃での値とする。
【0075】
上記切断及び分散工程におけるカーボンナノチューブの濃度(カーボンナノチューブの重量/(カーボンナノチューブと分散媒と界面活性剤との合計重量)×100)は、特に限定されないが、例えば0.0003~10質量%、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.003~0.3質量%とすることができる。
【0076】
上述の切断・分散工程を経て得られた分散液を、後述する分離工程にそのまま用いてもよいし、分離工程の前に、濃縮、希釈等の工程を行ってもよい。
【0077】
カーボンナノチューブの分離は、例えば、電界誘起層形成法(ELF法:例えば、K.Ihara et al. J.Phys.Chem.C.2011,115,22827~22832、日本特許第5717233号明細書を参照、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。ELF法を用いた分離方法の一例を説明する。カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散し、その分散液を縦型の分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する。分離のメカニズムは例えば以下のように推定できる。カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散した場合、半導体型カーボンナノチューブのミセルは負のゼータ電位を有し、一方金属型カーボンナノチューブのミセルは逆符号(正)のゼータ電位(近年では、僅かに負のゼータ電位を有するかほとんど帯電していないとも考えられている)を持つ。そのため、カーボンナノチューブ分散液に電界を印加すると、ゼータ電位の差などにより、導体型カーボンナノチューブミセルは陽極(+)方向へ、金属型カーボンナノチューブミセルは陰極(-)方向へ電気泳動する。最終的には陽極付近に半導体型カーボンナノチューブが濃縮された層が、陰極付近に金属型カーボンナノチューブが濃縮された層が分離槽内に形成される。分離の電圧は、分散媒の組成及びカーボンナノチューブの電荷量等を考慮して適宜設定できるが、1V以上200V以下が好ましく、10V以上200V以下がより好ましい。分離工程の時間短縮の観点では100V以上が好ましい。また、分離中の泡の発生を抑制して分離効率を維持する観点では200V以下が好ましい。分離は、繰り返すことで純度が向上する。分離後の分散液を初期濃度に再設定して同様の分離操作を行ってもよい。それにより、さらに高純度化することができる。
【0078】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程及び分離工程により、所望の直径・長さを有する半導体型カーボンナノチューブが濃縮された分散液を得ることができる。なお、本明細書において、半導体型カーボンナノチューブが濃縮されているカーボンナノチューブ分散液を「半導体型カーボンナノチューブ分散液」と呼ぶ場合がある。分離工程により得られる半導体型カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの総量中、半導体型カーボンナノチューブを、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(上限は100質量%であってもよい)含む分散液を意味する。金属型及び半導体型のカーボンナノチューブの分離傾向については、顕微Ramanスペクトル分析法と紫外可視近赤外吸光光度分析法により分析することができる。
【0079】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程後、且つ、分離工程前のカーボンナノチューブ分散液のバンドル、アモルファスカーボン、金属不純物等を除去するため遠心分離処理を行ってもよい。遠心加速度は適宜調整できるが、10000×g~500000×gが好ましく、50000×g~300000×gがより好ましく、場合により100000×g~300000×gであってもよい。遠心分離時間は0.5時間~12時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。遠心分離温度は、適宜調整できるが、4℃~室温が好ましく、10℃~室温がより好ましい。
【0080】
分離後のカーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は適宜制御することができる。カーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。
また、カーボンナノチューブ膜中の界面活性剤の残留を低減して、カーボンナノチューブ膜と電極との間に良好な接合を形成する観点では、カーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0081】
上述の工程により得られた半導体型カーボンナノチューブ分散液を所定の基材上に塗布して乾燥させ、場合により熱処理を行うことにより、ボロメータ膜を形成することができる。
【0082】
半導体型カーボンナノチューブ分散液を所定の基材に塗布する方法としては、特に限定されず、滴下法、スピンコート、印刷、インクジェット、スプレー塗布、ディップコート等が挙げられる。製造コストの低減の観点では、印刷法が好ましい。印刷法としては、塗布(ディスペンサー、インクジェット等)、転写(マイクロコンタクトプリント、グラビア印刷等)等が挙げられる。
【0083】
所定の基材に塗布した半導体型カーボンナノチューブ分散液は、熱処理により界面活性剤や溶媒を除去することができる。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~500℃が好ましく、160~500℃、例えば180~400℃がより好ましい。180℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制し易いためより好ましい。また、500℃以下、例えば400℃以下であれば、基板や他の構成要素の変質を抑制することができるため好ましい。また、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制することができる。
【0084】
(基板)
基板は、フレキシブル基板及びリジッド基板のいずれであっても良く、適宜選択できるが、少なくとも素子形成表面が絶縁性のもの、半導体性のものが好ましい。例えば、Si、SiOを被膜したSi、SiO、SiN、ガラス等の無機材料、及び、ポリマー、樹脂、プラスチック等の有機材料、例えばパリレン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が使用できるが、これらに限定されない。
基板の表面を、APTES(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)等のカーボンナノチューブの接着性を高める材料で処理してもよい。
【0085】
なお、本明細書において、用語「基板」は、その上にボロメータ膜及び本実施形態の電極が形成され、ボロメータ膜及び電極を支持する任意の基材を意味する。「基板」は例えばガラス板又はシリコンウェハーのような平板状の基材に限られず、構造物を有していたり、多層構造を有していてもよい。したがって、本実施形態のボロメータは、図1のような形態に限られず、ダイヤフラム構造を有するボロメータや、ボロメータ膜の下層に断熱層等の任意の層を有するボロメータにも適用される。例えば、ダイヤフラム構造を有するボロメータの場合、断熱構造としての間隙を有するダイヤフラムが設けられ、その上に、本実施形態のボロメータ膜及び電極が設けられることとなるが、この場合はダイヤフラムを含めた基材全体を「基板」とみなすことができる。また、ボロメータ膜の下層に断熱層を有するボロメータの場合、断熱層、およびその上に必要により形成されてよい他の層を含めて「基板」とみなすことができ、その上に本実施形態のボロメータ膜及び電極が設けられることとなる。
【0086】
(その他の構成要素)
本実施形態のボロメータは、上記の他、ボロメータに用いられる任意の構成要素を備えていてもよい。
例えば、ボロメータ膜の表面に、必要により保護膜を設けることができる。保護膜は、検知したい光波長域において透明性の高い材料が好ましい。保護膜の材料としては、例えば、PMMA、PMMAアニソール等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)、窒化シリコン、酸化シリコン(SiO)等が挙げられる。
また、ボロメータ膜の上側(光が入射する側)に、必要により光吸収層を設けてもよい。上記の保護層の上に設ける光吸収層としては、例えば窒化チタンの薄膜等が、ボロメータ膜上に設ける光吸収層としては、例えばポリイミドの塗布膜等が例示されるがこれらに限定されない。
【0087】
〔ボロメータの製造方法〕
本実施形態のボロメータは、例えば以下のようにして製造することができる。基板1上に、本実施形態の2つの電極(第1電極2及び第2電極4)を蒸着、スパッタ法、塗布等により形成する。2つの電極を形成した基板1上に半導体型カーボンナノチューブを含む分散液を塗布、乾燥させることにより、2つの電極間を接続するボロメータ膜3を形成する。必要により、熱処理等を用いて余分な溶媒、界面活性剤等の不純物等を除去する。必要により、形成されたボロメータ膜層上の電極間の領域にアクリル樹脂(PMMA)溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。この後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、ボロメータ膜層以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0088】
得られた図1のボロメータは、光照射による電気抵抗の温度依存性を利用して温度を検出する。そのため、赤外線以外の周波数領域においても、光照射により温度が変化すれば同様に使用できる。カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を用いた本実施形態のボロメータは、0.7μm~1mmの波長を有する電磁波の検知に特に好適に用いることができる。当該波長範囲に含まれる電磁波としては、赤外線の他、テラヘルツ波が挙げられる。本実施形態のボロメータは、好ましくはボロメータ型赤外線検出器である。
また、温度変化による電気抵抗の変化の検出は、図1の構造だけでなく、ゲート電極を備えることで電界効果トランジスタにすることで抵抗値変化を増幅することによって行うこともできる。
また、本実施形態のボロメータは、図1に示した構造だけでなく、ダイヤフラム構造を有する素子、ダイヤフラム構造に代えて所望の断熱構造を有する素子など、通常ボロメータに用いられる素子構造に特に制限なく適用することができる。
【0089】
以上、本実施形態のボロメータの基本的な構成を示したが、本実施形態のボロメータには、赤外線検出器に用いることができる素子構造及びアレイ構造を特に制限なく適用することができる。例えば、本実施形態のボロメータは、単素子であってもよく、イメージセンサに用いられるような複数の素子を二次元に配列したアレイでもよい。
【0090】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
【0091】
(付記1)
基板上に設けられた2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、p型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ。
(付記2)
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータであって、
前記ボロメータ膜は、n型半導体カーボンナノチューブを含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータ。
(付記3)
前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金が、金、白金、銅、コバルト、ニッケル、カーボン、及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のボロメータ。
(付記4)
前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金が、チタン、鉄、アルミニウム、銀、タングステン、亜鉛、クロム、スズ、鉛、マグネシウム、マンガン、イットリウム、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、ランタン、タンタル、ハフニウム、ビスマス、ルテニウム、及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載のボロメータ。
(付記5)
前記ボロメータ膜の少なくとも一部が、前記基板上に設けられた2つの電極と、各々の電極の側壁で接している、付記1~4のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記6)
基板上に設けられた2つの電極は、それぞれ、基板に接する下側の電極と、該下側の電極に接続し、仕事関数の大きな単金属又は合金からなる上側の電極から構成され、前記ボロメータ膜が、該上側の電極のみと接触している、付記1又は3に記載のボロメータ。
(付記7)
線形の電流電圧特性を有する、付記1~6のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記8)
線形の電流電圧特性にショットキー型の電流電圧特性が重なった電流電圧特性を有する、付記1~6のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記9)
前記ボロメータ膜が、半導体型の単層カーボンナノチューブを、ボロメータ膜中のカーボンナノチューブの90質量%以上の比率で含む、付記1~8のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記10)
前記2つの電極が同一である、付記1~7のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記11)
前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金が、付記3に記載の金属から選択される2種以上の合金である、付記1又は3に記載のボロメータ。
(付記12)
前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金が、付記4に記載の金属から選択される2種以上の合金である、付記2又は4に記載のボロメータ。
(付記13)
前記カーボンナノチューブの長さが100nm~5μmの範囲内である、付記1~12のいずれか1項に記載のボロメータ。
(付記14)
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
基板上に2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、p型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法。
(付記15)
2つの電極と、該2つの電極間を接続するボロメータ膜と、を備えるボロメータの製造方法であって、
カーボンナノチューブをn型半導体にする工程と、
2つの電極を形成する工程と、
前記2つの電極を接続するように、n型半導体カーボンナノチューブを含むボロメータ膜を作製する工程
を含み、
前記2つの電極のボロメータ膜との接触部位は、前記n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が小さい単金属又は合金のみからなるか、又は、
前記2つの電極とボロメータ膜との接触部位を構成する金属中、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金の比率が10質量%以下であるか、もしくは、n型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい単金属又は合金のボロメータ膜との接触面積が、電極とボロメータ膜との接触面積全体の10%以下である、ボロメータの製造方法。
(付記16)
前記2つの電極が、それぞれ、基板に接する下側の電極と、該下側の電極に接続し、かつカーボンナノチューブより仕事関数の大きい単金属又は合金からなる上側の電極とから構成され、
基板上に前記下側の電極を形成する工程と、
前記下側の電極より一回り大きい領域をマスクで保護する工程と、
ボロメータ膜を形成する工程と、
前記マスクを除去する工程と、
前記上側の電極を、前記下側の電極と、前記形成したボロメータ膜とに接続するように形成する工程と
を含み、
これにより、前記ボロメータ膜が、前記p型半導体カーボンナノチューブより仕事関数の大きい単金属又は合金からなる上側の電極のみに接触する、付記14に記載のボロメータの製造方法。
(付記17)
前記下側の電極が、前記p型半導体カーボンナノチューブよりも仕事関数の小さい単金属又は合金からなる部分を含む、付記16に記載のボロメータの製造方法。
(付記18)
カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含む分散液を無担体電気泳動に供して、半導体カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液を調製する工程、
半導体カーボンナノチューブ及び界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液を用いてボロメータ膜を作製する工程、及び
形成されたボロメータ膜から界面活性剤を除去する工程
を含む、付記14~17のいずれか1項に記載のボロメータの製造方法。
(付記19)
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、付記18に記載のボロメータの製造方法。
(付記20)
前記形成されたボロメータ膜から界面活性剤を除去する工程が、大気中で160℃以上で焼成する工程を含む、付記18又は19に記載のボロメータの製造方法。
【実施例0092】
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度、平均直径1.2nm)100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気下で電気炉を使った熱処理を行った。熱処理は、温度は900℃で、時間は2時間で行った。熱処理後の重さは、80mgに減少し、表面官能基や不純物が除去されていることが分かった。得られた単層カーボンナノチューブをピンセットで破砕後、12mgを1wt%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCED-DIGITAL SONIFIER装置、出力50W)を3時間行った。これにより、溶液内にカーボンナノチューブの凝集物がなくなった。この操作により、バンドルや残留触媒等を除去し、カーボンナノチューブ分散液を得た。カーボンナノチューブの長さ及び直径を観察するために、この分散液をSiO基板上に塗布し、100℃で乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。その結果、単層カーボンナノチューブは、その70%が長さ500nm~1.5μmの範囲にあり、その平均の長さがおよそ800nmであることが分かった。
【0093】
上記により得られたカーボンナノチューブ分散液を、二重管構造の分離装置に導入した。二重管の外側管に水約15ml、カーボンナノチューブ分散液約70ml、2wt%界面活性剤水溶液約10mlを入れ、内側管にも2wt%界面活性剤水溶液約20mlを入れた。その後、内側管の下側のふたを開けることで界面活性剤の濃度が異なる3層構造ができた。内側管の下側を陽極、外側管の上側を陰極として、200Vの電圧をかけることで、半導体型カーボンナノチューブが陽極側に移動した。一方、金属型カーボンナノチューブは陰極側に移動した。半導体型および金属型カーボンナノチューブの分離は、分離開始から約80時間後にきれいに分離した。分離工程は室温(約25℃)で実施した。陽極側に移動した半導体型カーボンナノチューブ分散液を回収し、光吸収スペクトルで分析したところ、金属型カーボンナノチューブの成分が除去されていることが分かった。また、ラマンスペクトルから、陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの99wt%が半導体カーボンナノチューブであった。単層カーボンナノチューブの直径は、約1.2nmが最も多く(70%以上)、平均直径は1.2nmであった。
【0094】
上記半導体型カーボンナノチューブを99wt%含むカーボンナノチューブ分散液(陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液)から界面活性剤を一部除去し、界面活性剤の濃度を0.05wt%にした。その後、分散液中のカーボンナノチューブの濃度が0.01wt%になるようにカーボンナノチューブ分散液A(分散液Aと記載)を調整した。この分散液Aをカーボンナノチューブ層の形成に用いた。
【0095】
表面にSiOが形成されたSi基板を酸素プラズマ処理してから、図7に示すように、フォトレジストを塗布し、測定用の電極パッドのパターニングを行った。電極パッドはE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを10nm厚、Auを50nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。電極パッド付きSi基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。その後、電極パッド部を含み素子のチャネル部を除く範囲をカプトンテープでマスク保護してから、基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0096】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、カプトンテープを除去し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、APTES塗布部にカーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。
上記カーボンナノチューブ膜上に、図7の黒点線のように、電極パッド部が重なるように第1電極及び第2電極としてAuを、厚み100nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。(電極構造:図4(n))
【0097】
(比較例1)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを200nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0098】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0099】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。
【0100】
(実施例2)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様にSi基板にTiを10nm厚、Ptを50nm厚で蒸着した電極パットを形成し、アセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。その後、電極パット部をカプトンテープで保護し、基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、カプトンテープを除去し、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。
上記カーボンナノチューブ膜上に、図7黒点線のように電極パッド部が重なるように第1電極及び第2電極としてPtを、厚み200nm、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。(電極構造:図4(n))
【0101】
(実施例3)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様にSi基板にTiを10nm厚、Auを50nm厚で蒸着した電極パットを形成し、アセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。その後、電極パット部をカプトンテープで保護し、基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
カプトンテープを除去し、APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。
上記カーボンナノチューブ膜上に、図7黒点線のように電極パッド部が重なるように第1電極及び第2電極としてAuとPtを、厚みPt10nm、Au20nm、Pt170nmの順に(全体の厚み約200nm)、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。(電極構造:図4(n))
【0102】
(実施例4)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にNiを20nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0103】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0104】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図2(c))
【0105】
(実施例5)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にCuを20nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0106】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0107】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図2(c))
【0108】
(実施例6)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が120μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを20nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。その後、再度フォトレジストを塗布し、Ti電極上にTi電極よりも10μm幅ずつ一回り大きく、電極間が100μmになる電極のパターニングを行った。このパターンを用いてE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTi上にAuを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0109】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0110】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図3(g))
【0111】
(実施例7)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。また、半導体カーボンナノチューブの界面活性剤濃度が0.5wt%のカーボンナノチューブ分散液B(分散液Bと記載)を調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを200nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0112】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0113】
APTES付着基板上に、CNT分散液B約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置し、エタノールで洗浄後乾燥した。その上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約50nmであった。(電極構造:図4(j))
【0114】
(実施例8)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。また、二酸化チタンナノ粒子(濃度0.1質量%)を水に分散させた分散液Cを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを200nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0115】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0116】
APTES付着基板上に、二酸化チタン分散液C約30μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、水で洗浄後、乾燥した。その上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、電極付近に二酸化チタン粒子が凝集して付着し、基板上にはカーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図4(l))
【0117】
(実施例9)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。また、グラファイト粉末を水に分散させた分散液Dを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを200nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0118】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板上に、グラファイト分散液D約30μLを基板に滴下し、水で洗浄後、乾燥した。その後基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0119】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、電極付近にグラファイトが凝集して付着し、基板上にはカーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図4(l))
【0120】
(実施例10)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0121】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0122】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。その後、基板の電極付近をピンセットで叩いたり、基板の端を折り取ったりして、応力を与えた。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。また、応力を与えたことで、カーボンナノチューブ層の下側(基板側)が浮き、電極のTi層と接触しない状態となった。(電極構造:図4(m))
【0123】
(実施例11)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様にSi基板にTiを10nm厚、Auを50nm厚で蒸着した電極パットを形成し、アセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。その後、電極パット部をカプトンテープで保護し、基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0124】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、カプトンテープを除去し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。
【0125】
上記カーボンナノチューブ膜上に、図7黒点線のように電極パッド部が重なるように第1電極及び第2電極としてAuを、厚み200nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製したが、実施例1と異なり、不純物としてAl金属が0.2質量%の比率で混在する条件で蒸着を行った。(電極構造:図5(p))
【0126】
(実施例12)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを1nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0127】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0128】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図6(q))
【0129】
(実施例13)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0130】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、2体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、乾燥した。
【0131】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、30分静置した。水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥し、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約30nmであった。(電極構造:図6(r))
【0132】
(実施例14)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調整した。実施例1と同様のSi基板を酸素プラズマ処理してから、フォトレジストを塗布し、電極間が100μmになるように電極のパターニングを行った。電極はE-gun蒸着により、第1電極及び第2電極共にTiを5nm厚、Auを100nm厚で蒸着形成し、レジストのリフトオフを行った。
【0133】
この電極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.5体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0134】
APTES付着基板上に、CNT分散液A約100μLを基板に滴下し、基板全面に分散液を広げ、2時間静置し、水とイソプロピルアルコールで洗浄後、乾燥した。その上にCNT分散液Aを再度滴下・静置・洗浄・乾燥の工程を10回繰り返した。その後、大気中において180℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムなネットワーク状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、SEM観察から見積もった結果、平均約110nmであった。(電極構造:図6(s))
【0135】
(実施例1~14と比較例1の比較)
図8と9に比較例1、図10と11に実施例1、図12と13に実施例2、図14と15に実施例11、図16と17に実施例13の、それぞれの電極とカーボンナノチューブ膜から作製されたボロメータの、25℃における電流電圧特性とTCRの電圧依存性を示す。比較例1ではショットキー型の電流電圧特性が得られ(図8)、実施例1~9では線形の電流電圧特性が得られた(図10図12)。実施例11~13では線形の電流電圧特性にショットキー型の電流電圧特性が僅かに重なった電流電圧特性が得られた(図14図16)。表1に、実施例1~14と比較例1の25℃~35℃の、電圧-3V~+3VのTCR平均値測定結果を示す。比較例1では、p型半導体である単層カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を持つ金属(Ti)に部分的に接触することでショットキー型の電流電圧特性を示し、正電圧では高電圧になるに従って負のTCRが低下又は正の低いTCRを示し、正の低電圧から負電圧では大きなTCRのばらつきがあり、-5%/K以上の高いTCRを示す電圧領域は僅かである。それに対して実施例1~6では、上記カーボンナノチューブがカーボンナノチューブよりも大きな仕事関数を持つ金属(Au、Ni、Cu)にのみ接触し、オーミックに接着しているため、線形の電流電圧特性を示し、-3V~+3Vのほぼ全電圧領域に渡って高いTCRを示した。実施例7~10では、電極の下部であるTi部分が界面活性剤濃度が高いCNTや、絶縁体の二酸化チタン粒子、金属性のグラファイト(カーボンは仕事関数がカーボンナノチューブよりも大きい)で覆われたり、Ti部分からCNTが離れたりしており、カーボンナノチューブが仕事関数の小さなTiと接触していない構造であるため、実施例1~6と同様の線形の電流電圧特性を示し、-3V~+3Vのほぼ全電圧領域に渡って高いTCRを示した。また、実施例11のように上記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を持つ金属(Al)が不純物として混在している状態の電極に接触した場合には、線形の電流電圧特性にショットキー型の電流電圧特性が重なった電流電圧曲線を示した。この試料では不純物の量が少なく、ショットキー成分よりもオーミック成分が多いため、ショットキーの影響が大きい正の電圧ではTCRが若干低めになるものの、広い電圧領域に渡って高いTCRを示し、特に負の電圧領域や低電圧領域では特に高いTCRを示した。不純物が混在する場合でも不純物量が少ない場合には実施例11のように、広い電圧領域で高いTCRを得られる可能性が高い。更に、実施例12のように上記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を持つ金属(Ti)に不純物レベル程度にしか接触しない場合も、線形の電流電圧特性にショットキー型の電流電圧特性が重なった電流電圧曲線を示し、広い電圧領域に渡って高いTCRを示した。実施例13では、電極の下部であるTi部分がAPTESによってほぼ覆われているが完全ではないため、上記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を持つ金属(Ti)に僅かに接触している場合も、線形の電流電圧特性とショットキー型の電流電圧特性が重なった電流電圧曲線を示し、特に負の広い電圧領域で特に高いTCRを示した。実施例14のように上記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブよりも小さい仕事関数を持つ金属(Ti)に低比率でしか接触しない場合も、線形の電流電圧特性にショットキー型の電流電圧特性が重なった電流電圧曲線を示し、広い電圧領域に渡って高いTCRを示した。これらの結果、上記カーボンナノチューブを用いたボロメータでは、カーボンナノチューブがカーボンナノチューブよりも仕事関数が大きい金属や合金にのみに、又は低比率で接触することにより、広い電圧領域で高いTCRを得るセンサを作製することができ、高感度化した。
【0136】
【表1】
【符号の説明】
【0137】
1 基板
2 第1の電極
3 ボロメータ膜
4 第2の電極
5 ボロメータ膜と電極の接触を妨げる材料からなる部分
6 電極パッド(検出用電極)
7 カプトンテープ
8 APTES塗布部、CNT塗布部
9 第1電極および第2電極(コンタクト電極)
10 チャネル部
A 部分Bに接続している電極の部分
B 基板に接触している電極の部分
a カーボンナノチューブより大きい仕事関数を有する金属
a’ カーボンナノチューブより大きい仕事関数を有する金属
b カーボンナノチューブより小さい仕事関数を有する金属
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17